説明

汚染土壌の処理方法

【課題】有害物質に汚染されている土壌を、原位置において、汚染土壌の土粒子を洗浄して汚染土壌を処理する汚染土壌の処理方法とその装置を提供する。
【解決手段】汚染土壌Gに、陽極と陰極の電極を兼ねた多数の通水孔2を穿設した金属製の複数本の中空管1を、汚染土壌の深さより深く、且つ陽極用と陰極用に対向して設置した後、前記汚染土壌G上面に洗浄用水を適宜散水して、洗浄用水を充分に汚染土壌G中に浸透させ、然る後、前記各電極に直流電流を通電して、直流電圧を負荷し、両電極間の汚染土壌G中に電気浸透現象を生ぜしめて、洗浄用水を陽極方向から陰極方向へ流速を速めて流して、土粒子間の汚染された間隙水、あるいは汚染物質を溶解した溶解水を連行して、陰極管の通水孔2を通して集水し、水質検査を行い、所定の水質基準値に達するまで洗浄を繰返して汚染土壌Gを洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、公害を引き起こす物質である精錬所やめっき工場等から排出される六価クロムやベンゼン、または、鉛、水銀等の重金属で汚染された土壌、あるいは、ドライクリーニングや金属の洗浄に用いられているテトラクロロエチレン等の有害物質に汚染されている土壌を、そのまま原位置において、汚染土壌の土粒子を洗浄して汚染土壌を処理する汚染土壌の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種産業の工場敷地内、または工場設備から漏洩した公害汚染物質が、工場周辺に流失、または地下に浸透して周辺地域の土壌を汚染した場合、あるいは産業廃棄物から浸出した有害物質によって土壌が汚染された場合、従来は、汚染土壌を取り除き、新しい土壌に置き換えるか、あるいは真空工法などで土中の汚染水を取る方法が施工されていた。
【0003】
一方、汚染土壌を原位置で処理する方法につき、過去の特許文献を遡及検索すると、下記の特許文献1に記載のものが公知である。
【0004】
【特許文献1】特公平7−87912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の汚染土処理方法としては、汚染地域の土壌を取り除き、新しい土壌に置き換えるか、あるいは真空工法などで土中の汚染水を取る方法が用いられていたが、前記置き換え工法では、大量の土砂の搬出、搬入のために周辺住民に二次的に公害を与えるという課題があると共に、搬出された汚染土壌を更に無害化処理しなければならないという課題があった。
【0006】
更に、例えば、細粒土で構成されている埋立地の工業地帯等では、その構成されている地盤は、極めて小さい土粒子の土壌から成っている地域であり、その土の透水係数は低く、前記真空工法の適用外の地盤が多いという課題があった。
【0007】
更に、前記特許文献1に記載された工法は、汚染土壌区域の周囲に遮水壁を構築する第1工程と、陽極と陰極の電極を兼ねた多数の通水孔を穿設した複数本の中空管を汚染土壌に陽極用と陰極用に対向して管列を形成すると共に、前記陽極と陰極の極性の転換ができるように設置し、前記汚染土壌区域内に適宜散水して土壌中に浸透させ、然る後、前記各電極に直流電流を通電して、両電極間の汚染土壌中に電気浸透現象を生ぜしめることにより、土壌中の汚染物質を液相の状態で陽極方向から陰極方向に流して、前記通水孔を介して、陰極管中に集水し、これを汲み上げて浄化する第2工程と、前記第2工程で汚染物質を汲み上げた後の陽極管中に洗浄用水を注入し、各電極に直流電流を通電して、両電極間の汚染土壌中に電気浸透現象を生ぜしめることにより、陽極管中の洗浄用水は、該管の通水孔から土壌中に浸透流通して、土粒子間の汚染された間隙水、あるいは汚染物質を溶解または連行して汚染土壌を洗浄して、陰極側管中に、前記通水孔を介して流入せしめ、これを汲み上げて水質検査を行い、規定の水質基準に達するまで洗浄を行って洗浄する第3工程とにより構成されている。
【0008】
しかしながら、前記特許文献に記載された工法において、第1工程の遮水壁を構築するには、該遮水壁構築用の機材が必要で手間がかかる上に、土壤の掘削により汚染土壤が粉塵となって拡散し、周囲の環境を悪化させ、且つ構築費用が嵩むと共に、第3工程では、各陽極管中に更に洗浄用水を注水しなければならず、面倒であり、然も陽極管の通水孔から陰極管の通水孔へ向けて直線状に洗浄用水が流れて、該陰極管の通水孔へ流入するため、前記洗浄用水の流路から外れた汚染土壤中には、該洗浄用水は流れず、そのため、洗浄できない汚染土壤が残るので、汚染土壤の処理が完全にできないという課題があった。
【0009】
本発明は、前記課題を解決すべくなされたものであって、汚染土壌を原位置で処理すると共に、遮水壁の構築を不要とすると共に、陽極管中にいちいち洗浄用水を注入することなく、単に汚染土壌上面に洗浄用水を散水して、該洗浄用水を汚染土壤中に浸透させ、然る後、電気浸透現象により汚染土壌を洗浄処理し、工期の短縮化と施工費用のコストダウンを図り、更に汚染土壌の処理も完全にできる汚染土壌の処理方法とその装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、汚染土壌の処理をする汚染土壤処理域の外周縁に沿うよう、多数の通水孔を穿設すると共に、下方に有底の貯水部を備えた陽極と陰極の電極を兼ねる金属製の中空管を、複数本所定間隔を有して汚染土壌の深さより深く、且つ陽極用と陰極用を直線状に交互に対向して設置して方形枠状の枠状管列を形成する一方、前記枠状管列に囲繞された汚染土壤処理域内に、前記と同一構成の中空管を陽極用と陰極用に平行に対向して直線状に設置して、1組、または複数組の直線状管列を形成し、更に、前記陽極と陰極の極性の転換ができるように設置する第1工程と、前記汚染土壌処理域上面に洗浄用水を適宜散水して、前記洗浄用水を充分に汚染土壌中に浸透させ、然る後、前記各電極に直流電流を通電して、該各電極に直流電圧を負荷し、両電極間の汚染土壌処理域中に電気浸透現象を生ぜしめて、前記枠状管列の両電極間の土壤中において、前記汚染土壤処理域に隣接する土壤との間に遮水層を形成すると共に、前記汚染土壤処理域全面において、前記洗浄用水により、土粒子間の汚染された間隙水、あるいは汚染物質を溶解した溶解水を連行して、汚染土壌を洗浄し、汚染物質を液相の状態で前記通水孔を介して、陰極管中の下方の貯水部内に集水・貯留し、これを汲み上げて水質検査を行い、規定の水質基準値に達するまで洗浄を行う第2工程とにより汚染土壌を処理するという方法、または、
汚染土壌の汚染をする汚染土壤処理域の外周縁に沿うよう、多数の通水孔を穿設すると共に、下方に有底の貯水部を備えた陽極と陰極の電極を兼ねる金属製の中空管を、複数本所定間隔を有して汚染土壌の深さより深く、且つ陽極用と陰極用を直線状に交互に対向して設置して方形枠状の枠状管列を形成する一方、前記枠状管列に囲繞された汚染土壤処理域内に、前記と同一構成の中空管を陽極用と陰極用を直線状に交互に対向して設置して複数の直線状管列を形成し、更に、前記陽極と陰極の極性の転換ができるように設置する第1工程と、前記汚染土壌処理域上面に洗浄用水を適宜散水して、前記洗浄用水を充分に汚染土壌中に浸透させ、然る後、前記各電極に直流電流を通電して、該各電極に直流電圧を負荷し、両電極間の汚染土壌処理域中に電気浸透現象を生ぜしめて、前記枠状管列の両電極間の土壤中において、前記汚染土壤処理域に隣接する土壤との間に遮水層を形成すると共に、前記汚染土壤処理域全面において、前記洗浄用水により、土粒子間の汚染された間隙水、あるいは汚染物質を溶解した溶解水を連行して、汚染土壌を洗浄し、汚染物質を液相の状態で前記通水孔を介して、陰極管中の下方の貯水部内に集水・貯留し、これを汲み上げて水質検査を行い、規定の水質基準値に達するまで洗浄を行う第2工程とにより汚染土壤を処理するという方法、
のいずれかを実現することにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0011】
本発明処理方法によれば、汚染土壌処理域に、その汚染の深度より深く、電極兼用の中空管を設置し、且つ、該汚染土壌処理域上面に洗浄用水を散水して、前記中空管より成る陽極用と陰極用の各電極に直流電流を通電して、該各電極に直流電圧を負荷すると、該陽極用と陰極用の各電極に囲まれた区域の範囲のみの汚染土壌処理域に電気通電現象が作用するので、この範囲以外の地域まで水に溶けた汚染物質が流動することがなく、粘土質土などの透水係数の低い微細土粒子に電気二重層的に吸着された汚染物質を含んだ水、または液相のものも、容易にその界面働電現象的作用によって陰極側管中に移動させて、集水して汚染土壌を洗浄することが可能であって、従来のように土を置き換えることなく、原位置のまま汚染土壌を洗浄して処理することができる。また、汚染土壤処理域の外周縁に沿うよう、方形枠状に陽極用と陰極用の中空管を対向して設置することにより、該方形枠状の管列の両電極間の土壤中に電気浸透現象を生ぜしめて、遮水層を形成することができるので、従来のように遮水壁を設置する必要がなく、工期の短縮とコストの低減を図ることができ、更に中空管の目詰まりをも防止することができるのである。
【実施例】
【0012】
汚染された土壌を、現位置において無害化処理する場合は、先ず、検査専門業者が汚染土壌の複数個所をボーリングして、複数の検査用の土壌を収集し、該土壌がどの程度の深さまで、且つ如何なる物質によって汚染されているかを検査する。そして、前記検査専門業者による検査結果を得て、本発明方法による汚染土壌の処理が開始される。
【0013】
前記検査専門業者により、汚染土壤の汚染深度および汚染物質が特定された後、本発明の汚染土壤の処理作業に着手するが、前記汚染土壤域の広さや敷地の形状によって、汚染土壤域の全体を汚染土壤処理域として一括して処理作業をするか、または分割して汚染土壤処理域とし、本発明汚染土壤の処理作業を行うことになる。前記汚染土壤域を分割して作業をする場合において、本発明汚染土壤の処理を前記分割した汚染土壤処理域に同時に実施することもできるが、実施例においては、分割した1区画の汚染土壤処理域に実施するものとして説明する。なお、汚染土壤域を分割することなく一括処理する場合は、本実施例における分割した1区画の汚染土壤処理域を処理する場合と、処理区域が広いか、狭いかの相違だけでその処理工法は全く同一であるので、説明を省略する。
【0014】
本発明汚染土壤の処理方法の第1工程は、分割した汚染土壤処理域への電極となる中空管設置工程である。第1工程の汚染土壤処理域への中空管設置工程は、汚染土壤処理域の四周の外周縁から内側全面に亘って陽極と陰極の電極を兼ねた多数の小孔、またはスリット、あるいは小孔とスリットとの組み合わせより成る通水孔を穿設すると共に、下方に有底の貯水部を備えた金属製の中空管を、前記汚染土壤処理域の汚染土壌の汚染深度より深く、且つ前記陽極と陰極とが平行に対向するよう、所定間隔を有して複数列に亘って設置する工程である。
【0015】
前記第1工程による中空管設置工程が完了すると、第2工程の汚染土壌洗浄工程に入る。第2工程の汚染土壌洗浄工程は、前記汚染土壤処理域の上面に、水道水や清水、あるいは汚染物質の溶媒を混合した水より成る洗浄用水を散水して、前記洗浄用水を汚染土壤処理域内の汚染土壌中に浸透させ、然る後、前記両電極に直流電流を通電して、該両電極に直流電圧を負荷すると、前記両電極間の地中に電磁場が形成されて、該両電極間の汚染土壌中に界面働電現象中の電気浸透現象が生じ、負に帯電している土壌粒子の周りの陽イオンと土壌間隙の自由水は、前記電気浸透現象によって陽極方向から陰極方向へ土壌中を迅速に移動する。
【0016】
このような土壌中の洗浄用水の電気化学的な流動を利用して、微細な土壌粒子間、または、土壌粒子の周囲に吸着している重金属や、その他の汚染物質を電気化学的に引き離し、土粒子間の汚染された間隙水、あるいは汚染物質を溶解した溶解水を、陽極方向から陰極方向へ連行して、汚染土壤処理域中の汚染土壌を洗浄した後の洗浄用水は、汚染物質を液相の状態で陰極管の下方に備えた貯水部内に、前記陰極管の通水孔を介して流入・貯水せしめ、然る後、これをポンプ等で汲み上げて水質検査を行い、規定の水質基準値に達したとき、第2工程の洗浄工程が完了し、汚染土壌処理作業が完了する。
【0017】
前記汚染物質を洗浄した後の洗浄用水を汲み上げて水質検査をした結果、未だに規定の水質基準値より高い場合は、再度、前記汚染土壌処理域に水道水や清水等の洗浄用水を散水し、前記第2工程を繰返す。なお、前記汲み上げた洗浄後の洗浄用水が、規定の水質基準値より低い場合は、そのまま排水処理することができる。しかしながら、洗浄後の洗浄用水が規定の水質基準値より高い場合は、該汲み上げた洗浄用水に溶剤を添加したり、あるいは濾過したりして、規定の水質基準値以下とした後、排水処理をする必要がある。
【0018】
以下、更に前記各汚染土壤処理方法につき、図面に基づいて詳細に説明する。第1工程の中空管設置工程は、陽極と陰極の電極を兼用する中空管1を分割した汚染土壤処理域×1の汚染土壌G中に設置する工程である。
【0019】
すなわち、汚染土壌Gの区域内の土壌の土質工学的な特性を調査して、その地盤を構成している土質の平均的透水係数を基準にして、陽極と陰極の電極を兼用する金属製の円形、または多角形をした複数本の中空管1を、汚染土壤処理域×1の外周縁に沿うよう、所定間隔を有して、汚染土壌Gの深さより深く、且つ前記陽極用と陰極用の各中空管1が直線状に交互に対向するように、方形枠状に設置して枠状管列Rを形成すると共に、該枠状管列Rで囲繞された汚染土壤処理域×1内に、前記と同様に、陽極用と陰極用の複数本の中空管1を、所定間隔を有して、汚染土壤Gの深さより深く、且つそれぞれが平行に対向するよう直線状に設置して1組、または複数組の陽極と陰極の直線状管列A・Bを形成する(図1・図2参照)。
【0020】
前記各中空管1には、後述する汚染土壤処理域×1に散水された洗浄用水を、地中において各中空管1内に集水することができるように、該各中空管1の外周壁面には、好ましくは3〜8mm程度の小孔2a(図3)、または巾5mm、長さ5cm程度のスリット2b(図4)、あるいは前記小孔2aとスリット2bとの組合せ(図5)より成る通水孔2を一定の開孔比をもって穿設すると共に、前記各中空管1の地表より突出した部分に電気の接続端子等の接続装置4を装着する。また、前記各中空管1の下方部には、該中空管1内に集水された洗浄用水を貯水することができる有底の貯水部3を備えている。
【0021】
前記汚染土壌Gの汚染土壤処理域×1中に、陽極用と陰極用の電極として設置された、前記枠状管列Rの陽極側中空管1、並びに陽極側の直線状管列Aの各中空管1の地表より突出した各接続装置4に、直流電源5の陽極側のコード6を接続すると共に、該枠状管列Rの陰極側中空管1、並びに陰極側の直線状管列Bの各接続装置4に前記直流電源5の陰極側のコード7を接続する。図2には、枠状管列Rが図示されていると共に、該枠状管列Rに囲繞された汚染土壤処理域×1には、4組の直線状管列A・Bが設置されているが、処理面積が大きい場合は、更に多くの直線状管列を設置する。
【0022】
第1工程による前記各中空管1の設置後、汚染土壌の洗浄工程の第2工程に入る。汚染土壌Gの汚染土壤処理域×1内に散水機等を用いて、水道水や清水等の洗浄用水を適宜散水し、該洗浄用水を汚染土壌G中に浸透させ、然る後、前記各中空管1の地表より突出した部分に装着された接続装置4を通じて直流電源Pより直流電流を通電して、前記それぞれに対向して設置され、陽極、陰極の電極管となっている各中空管1に直流電圧を負荷する。
【0023】
前記枠状管列Rおよび各直線状管列A・Bの各電極にそれぞれ直流電圧を負荷することによって、枠状管列Rの陽極と陰極間、および陽極側の直線状管列Aと陰極側の直線状管列Bの、陽極と陰極間の汚染土壌Gの内部には、界面働電現象中の電気浸透現象が生ずると共に、汚染土壌G中の汚染物質が液相の状態で、陽極方向から陰極方向へ一定の方向性をもって迅速に流れて移動する。
【0024】
この場合、前記散水した洗浄用水によって、土粒子間にある汚染物質を洗浄した後の洗浄用水も、また土粒子に吸着している汚染物質を洗浄して分離した後の洗浄水も、図中、矢印で示すように、陽極の方向から陰極の方向へ土粒子間を迅速に、且つ汚染土壌との接触面積を大として流れて移動する。そして、前記各電極として通水孔3を穿設した中空管1を用いているので、陰極側の各中空管1内に、容易にこれらの洗浄後の洗浄用水は通水孔2を経て流れ込んで、陰極側の各中空管1の最下位の通水孔2より下方部内に備えられ貯水部3に集水、貯水される。
【0025】
そして、前記陰極側の各中空管1の下方部の貯水部3内に集水、貯水された洗浄後の洗浄用水、すなわち汚染物質を含んだ洗浄用水は、陰極側の各中空管1の上端開口より、図示しないポンプあるいは真空装置によって汲み上げて、水質検査をした結果、規定の水質基準値より高い場合は、再度、前記汚染土壌処理域に水道水や清水等の洗浄用水を散水して、第2工程を規定の水質基準値以下となるまで繰返す。なお、前記汲み上げた洗浄後の洗浄用水が、規定の水質基準値より高い場合は、該洗浄用水に溶剤を添加したり、あるいは濾過したりして、水質基準値以下として排水処理することもできる。
【0026】
前記第2工程において、洗浄後の洗浄用水を集水するに当たり、電極の極性を同一のまま長時間経過すると、分極現象を起こして集水能力が低下するので、ある一定時間経過毎に、前記電極を兼ねた各中空管1の極性を転換して、今までの陽極側を陰極側に、また今までの陰極側を陽極側にそれぞれ転換する。この極性の転換は、地中の電気的挙動に刺激を与えて、新しい陰極側の集水能力が向上する。この極性の転換操作が数回になると、殆んど土中の含水比は低下し、汚染土壌Gの電気的抵抗は上昇し、陰極側に殆んど集水が見られなくなる。そして、この時点で界面働電現象の終了時に判定して、工事を完了する。
【0027】
なお、図1および図2において、汚染土壤処理域×1の四周の外周縁に沿うよう方形枠状に設置された枠状管列Rにより、該汚染土壤処理域×1中に散水された洗浄用水は、各陽極側の中空管1付近の洗浄用水を連行して、各陰極側の中空管1内に集水されるので、前記汚染土壤処理域×1中に散水された洗浄用水は、該汚染土壤処理域×1外へ流出したり、または汚染土壤処理域外から汚染水が汚染土壤処理×1内へ流入することはなく、前記外周縁に沿うよう、方形枠状に設置された枠状管列Rの陽極、陰極の各中空管1に挟まれた汚染土壤G中に、枠状の遮水層Wが形成され、特許文献1に記載された遮水壁の役目を果たすことができるのである。
【0028】
すなわち、前記図1および図2に示すように、枠状管列Rは、陽極と陰極とが交互に対向して方形枠状に設置されているため、陽極と、該陽極の両側に位置する陰極との間の土壤間に電気浸透現象が生じ、図中矢印で示すように、各陽極管より両側に位置する各陰極管側へ洗浄用水が移動することとなる。陽極管と陰極管とが交互に方形枠状に設置されているため、汚染土壤処理域×1の汚染土壤G中に電気浸透現象による方形枠状の遮水層Wが形成され、該汚染土壤処理域×1から洗浄用水が前記汚染土壤処理域×1外へ流出することもなく、また逆に該汚染土壤処理域×1外からの汚染水の流入もない。
【0029】
次に、汚染土壤処理域×1の汚染土処理が完了し、該処理済み汚染土壤域×1に隣接する他の汚染土壤処理域において、本発明処理方法を実施する場合について、図6を用いて説明する。先ず、最初の汚染土壤処理域×1の汚染土壤の処理を完了したときの、各中空管1の設置状態は、前記図1に示したままの状態である。
【0030】
そして、次の汚染土壤処理域×2の処理作業へ移行する前に、前記図1に示したような状態で設置された各中空管1のうち、前記汚染土壤処理域×1の外周縁に沿うよう、方形枠状に設置された枠状管列Rはそれぞれそのまま残すと共に、図6に示すように、前記枠状の管列R以外の直線状管列A・Bを構成する中空管1はすべて撤去し、前記枠状管列Rに直流電流を通電して、電気浸透現象が生ずるようにして、該枠状管列Rの各陽極と陰極間の土壤中に、電気浸透現象による遮水層Wを形成して、未処理区域より汚染水が前記処理済み汚染土壤域×1内へ流入するのを阻止する。
【0031】
前記汚染土壤処理域×1における遮水層Wを形成した後、該処理済み汚染土壤域×1に隣接する区画を汚染土壤処理域×2として汚染土壤の処理をする。この場合、前記処理済み汚染土壤域×1の枠状管列Rのうち、汚染土壤処理域×2に接する管列を、そのまま該汚染土壤処理域×2の枠状管列Rの一辺R1を構成するものとして利用する。そして、汚染土壤処理域×2へのその他の中空管1の設置は、前記汚染土壤処理域済み汚染土壤域×1と同様に設置し、且つ同様の方法により、汚染土壤の処理をする。
【0032】
以下、同様に、図7に示すように、汚染土壤処理域×3〜×6のように順番に汚染土処理をすることになるが、各汚染土壤処理域の外周縁に設置された枠状管列Rが、隣接する汚染土壤処理域の処理完了後、いずれの未処理区域にも面しなくなったとき、該枠状管列Rを撤去する。
【0033】
前記のようにして、小さな汚染土壤処理域を次々と処理して行うことにより、特許文献1に記載のような、処理前に遮水壁を設置する必要がない。そして、汚染土処理作業完了後、他人の隣接地よりの汚染水の流入を阻止するため、必要に応じて、鋼矢板等により境界壁を設けてもよい。
【0034】
そして、前記図1においては、汚染土壤処理域×1の外周縁に沿うように、陽極と陰極の中空管1を直線状に交互に対向して方形枠状の枠状管列Rを形成すると共に、該枠状管列Rに囲繞された汚染土壤処理域内に、陽極と陰極が対向して直線状に2組の管列A・Bが形成されているが、図8に示すように、汚染土壤処理域内にも、陽極と陰極を直線状に交互に対向して複数の管列Sを形成してもよい。この場合、図8において、矢印で示すように、汚染土壤処理域内に配設された陽極方向から複数の陰極方向へ洗浄用水が移動する。
【0035】
なお、陽極方向から陰極方向へ洗浄用水が流動し、陰極の通水孔2から該洗浄用水が集水されるが、この場合、洗浄用水が汚染土壤と共に通水孔2から集水され、該汚染土壤により前記通水孔2が目詰まりを起して集水できなくなる可能性がある。
【0036】
本発明においては、前記陰極側の中空管2の目詰まりを防止するため、陽極と陰極の極性を転換するときに、今迄陰極側であった中空管1に上端開口より洗浄用水を注水して、陽極および陰極に直流電圧を負荷すると、陽極側(今までは陰極側)の通水孔2から洗浄用水が汚染土壤G中に排出されて、陰極側(今までは陽極側)へ電気浸透現象により、今までとは逆方向に陽極管から排出して移動するので、前記通水孔2に目詰りしていた汚染土壤が通水孔2より離脱して、目詰まりを排除することができる。
【0037】
本発明者が、本発明汚染土壤の処理方法を使用して、数個所の汚染土壤の処理をした結果、各中空管1の設置間隔は、40〜80cm程度で、且つ各中空管1には15〜35V程度の低電圧の直流電流を通電して処理をすると、土壤中における洗浄用水の陽極側から陰極側への流動がスムーズであることを確認した。逆に、35V以上の高電圧の直流電流を、各中空管1に通電すると、洗浄用水の陽極側から陰極側への流動がスムーズに行かないことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明汚染土壤の処理方法に使用する電極の設置例を示す概略平面図である。
【図2】同縦断面図である。
【図3】本発明方法に使用する中空管の 一部を切欠した拡大正面図である。
【図4】本発明方法に使用する中空管の 他の実施例を示す一部を切欠した拡大正面図である。
【図5】本発明方法に使用する中空管の 更に他の実施例を示す一部を切欠した拡大正面図である。
【図6】本発明汚染土壤の処理方法における施工例を示す概略説明図である。
【図7】本発明汚染土壤の処理方法における施工例を示す概略説明図である。
【図8】本発明汚染土壤の処理方法に使用する電極の他の設置例を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 中空管
2 通水孔
2a 小孔
2b スリット
3 貯水部
4 接続装置
5 直流電源
6 陽極側のコード
7 陰極側のコード
A 陽極側の直線状管列
B 陰極側の直線状管列
G 汚染土壌
P 直流電源
R 枠状管列
S 直線状管列
W 遮水層
×1〜×6 汚染土壤処理域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染土壌の処理をする汚染土壤処理域の外周縁に沿うよう、多数の通水孔を穿設すると共に、下方に有底の貯水部を備えた陽極と陰極の電極を兼ねる金属製の中空管を、複数本所定間隔を有して汚染土壌の深さより深く、且つ陽極用と陰極用を直線状に交互に対向して設置して方形枠状の枠状管列を形成する一方、前記枠状管列に囲繞された汚染土壤処理域内に、前記と同一構成の中空管を陽極用と陰極用に平行に対向して直線状に設置して、1組、または複数組の直線状管列を形成し、更に、前記陽極と陰極の極性の転換ができるように設置する第1工程と、前記汚染土壌処理域上面に洗浄用水を適宜散水して、前記洗浄用水を充分に汚染土壌中に浸透させ、然る後、前記各電極に直流電流を通電して、該各電極に直流電圧を負荷し、両電極間の汚染土壌処理域中に電気浸透現象を生ぜしめて、前記枠状管列の両電極間の土壤中において、前記汚染土壤処理域に隣接する土壤との間に遮水層を形成すると共に、前記汚染土壤処理域全面において、前記洗浄用水により、土粒子間の汚染された間隙水、あるいは汚染物質を溶解した溶解水を連行して、汚染土壌を洗浄し、汚染物質を液相の状態で前記通水孔を介して、陰極管中の下方の貯水部内に集水・貯留し、これを汲み上げて水質検査を行い、規定の水質基準値に達するまで洗浄を行う第2工程とにより汚染土壤を処理することを特徴とする汚染土壌の処理方法。
【請求項2】
汚染土壌の汚染をする汚染土壤処理域の外周縁に沿うよう、多数の通水孔を穿設すると共に、下方に有底の貯水部を備えた陽極と陰極の電極を兼ねる金属製の中空管を、複数本所定間隔を有して汚染土壌の深さより深く、且つ陽極用と陰極用を直線状に交互に対向して設置して方形枠状の枠状管列を形成する一方、前記枠状管列に囲繞された汚染土壤処理域内に、前記と同一構成の中空管を陽極用と陰極用を直線状に交互に対向して設置して複数の直線状管列を形成し、更に、前記陽極と陰極の極性の転換ができるように設置する第1工程と、前記汚染土壌処理域上面に洗浄用水を適宜散水して、前記洗浄用水を充分に汚染土壌中に浸透させ、然る後、前記各電極に直流電流を通電して、該各電極に直流電圧を負荷し、両電極間の汚染土壌処理域中に電気浸透現象を生ぜしめて、前記枠状管列の両電極間の土壤中において、前記汚染土壤処理域に隣接する土壤との間に遮水層を形成すると共に、前記汚染土壤処理域全面において、前記洗浄用水により、土粒子間の汚染された間隙水、あるいは汚染物質を溶解した溶解水を連行して、汚染土壌を洗浄し、汚染物質を液相の状態で前記通水孔を介して、陰極管中の下方の貯水部内に集水・貯留し、これを汲み上げて水質検査を行い、規定の水質基準値に達するまで洗浄を行う第2工程とにより汚染土壤を処理することを特徴とする汚染土壌の処理方法。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載の汚染土壤の処理方法において、汚染土壤処理域内の汚染処理が完了した後、該汚染処理済の土壤域に隣接する次の汚染土壤処理域の汚染土処理をするに当って、前記処理済み土壤域の外周縁に沿うよう設置された枠状管列のうち、隣接する汚染土壤処理域に面する管列を、該隣接する汚染土壤処理域の枠状管列の一辺として使用し、前記処理済み土壤域の枠状管列に囲繞された汚染土壤処理域内に設置された管列を撤去する一方、前記処理済み土壤域の枠状管列が、未処理区域に面しているときは、該枠状管列に直流電流を通電して、該両電極に直流電圧を負荷することにより、前記枠状管列の両電極間の土壌中に電気浸透現象を生じせしめて、遮水層を形成するようにしたことを特徴とする汚染土壤の処理方法。
【請求項4】
請求項1〜2のいずれかに記載の汚染土壤の処理方法において、陽極と陰極の極性を転換するときに、転換後の陽極管内に上端開口より洗浄用水を通水して、両電極に直流電流を通電して、該両電極に直流電流を通電して、直流電圧を負荷し、両電極間の汚染土壤中に電気浸透現象を生じせしめて、前記陽極管から通水孔を介して陰極管方向へ洗浄用水を排出することにより、該陽極管の通水孔の目詰りを防止するようにしたことを特徴とする汚染土壤の処理方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate