説明

汚染土壌の改良方法および処理剤

【課題】土壌中に含まれる汚染物質を吸着・固定化させるために用いられる化合物は2次凝集体であり、2次凝集体の内側の吸着サイトを有効に利用していないため、化合物を多く必要とするという問題があった。
【解決手段】pHが7.5以上の汚染土壌に、アルミニウムイオンおよびマグネシウムイオンを溶解させた土壌中汚染物質の処理剤を添加し、土壌中で汚染物質吸着化合物を生成させることにより、凝集が起こる前に汚染物質吸着化合物の吸着サイトに土壌中の汚染物質を吸着させることで、処理剤の必要量を減らすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌に含有される汚染物質を効率よく吸着する汚染土壌の改良方法および土壌中汚染物質の処理剤に関し、特に、pHが7.5以上の汚染土壌に処理剤を添加して、土壌中で汚染物質吸着化合物を形成することで効率的に汚染物質を吸着する汚染土壌の改良方法および土壌中汚染物質の処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ素やヒ素等の汚染物質を含有した媒体(土壌、灰等)の処理方法としては、汚染した土壌を掘削・除去したり、汚染土壌に吸着剤等を添加、混合して固定化・不溶化する等の各種方法がある。
【0003】
例えば、特許文献1では、フッ素および硼素を吸着固定化するために、汚染土壌を掘り返し、ハイドロタルサイト様化合物を粒子として土壌と混合させ、元の状態に埋め戻す方法、或いは、ハイドロタルサイト様化合物の水性懸濁液を、汚染土壌中にポンプで圧入する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、鉛、ヒ素、六価クロム等の不溶化剤として、酸化マグネシウムと珪酸アルカリ金属塩を含有する不溶化剤が開示されており、特許文献3では、フッ素の処理剤および処理方法として、カルシウム化合物およびアルミニウム化合物からなる処理剤および、処理剤をフッ素含有汚染土壌に注入する処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−321887号公報
【特許文献2】特開2007−302885号公報
【特許文献3】特開2003−236521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3の技術においては、土壌中汚染物質の処理剤として用いられた化合物は、全てある程度の大きさを持つ結晶の2次凝集体であり、2次凝集体の内側にある吸着サイトを用いていないことから処理剤の能力を有効に活用できておらず、処理剤の投入量を多くしなければならないという問題があった。
【0007】
本発明者は、特許文献1〜3に開示された技術によると、土壌中汚染物質の処理剤として使用される化合物は、汚染物質と接触する土壌中では数十ミクロンの粒子径を有する2次凝集体であることを見出した。このような2次凝集体では、土壌中の汚染物質と接触して汚染物質を吸着するのは2次凝集体の表面部分に存在する吸着サイトのみであり、2次凝集体の内側に存在する吸着サイトは汚染物質の吸着・固定化にうまく寄与できていない。ここで2次凝集体とは、粒子径が数十ミクロン程度を有する凝集体をいい、1次凝集体とは、粒子径が数ミクロン程度を有する凝集体をいい、1次凝集体を構成する数十ナノ程度の粒子を微結晶と呼ぶ。
【0008】
そこで、本発明の目的は、pHが7.5以上の汚染土壌に処理剤を添加し、汚染土壌中で汚染物質吸着化合物を形成することで、2次凝集体に凝集する前に汚染物質吸着化合物を汚染物質に接触させ、汚染物質吸着化合物の吸着サイトを有効に利用することで、効率的に汚染物質を吸着することができる処理剤および汚染土壌の改良方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1記載の土壌中汚染物質の処理剤は、pH7.5以上の土壌に添加して土壌中の汚染物質を吸着する処理剤であって、アルミニウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する溶液であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2記載の土壌中汚染物質の処理剤は、請求項1において、さらにケイ素イオンを含有することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3記載の土壌中汚染物質の処理剤は、請求項1または2において、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンを、モル比で1:2から1:8の割合で含有する水溶液であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4記載の汚染土壌の改良方法は、pH7.5以上の土壌または、pH7.5以上に調整した土壌に、アルミニウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する処理液を添加し、混合することで、土壌中にアルミニウムおよびマグネシウムを主成分とする結晶を生成させることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項5記載の汚染土壌の改良方法は、請求項4において、処理液中にさらにケイ素イオンを含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項6記載の汚染土壌の改良方法は、請求項4または5において、土壌のpHが8以上12以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、pH7.5以上の汚染土壌またはpH7.5以上に調整した汚染土壌にアルミニウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する土壌中汚染物質の処理剤を添加して混合することで、汚染土壌中でアルミニウムおよびマグネシウムを主成分とする汚染物質吸着化合物を生成させる。このため、汚染物質吸着化合物を微結晶または1次凝集体の状態で汚染土壌中の汚染物質と接触させることができるため、汚染物質吸着化合物の吸着サイトを有効に利用することができ、少量の汚染物質吸着化合物で効率よく土壌中の汚染物質を吸着することができる。その結果、土壌中汚染物質の処理剤の添加量を少なくすることができる。また、汚染土壌に土壌中汚染物質の処理剤を溶液の状態で添加することができるため、汚染土壌中に満遍なく汚染物質吸着化合物をゆきわたらせることが容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の土壌中汚染物質の処理剤および該処理剤を用いた汚染土壌の改良方法について詳細に説明する。
本発明の土壌中汚染物質の処理剤は、アルミニウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する溶液であることを特徴とする。この溶液は、pHが7.5以上の土壌に添加されると土壌中で反応が起こり、土壌中で汚染物質吸着化合物が生成する。土壌中に溶液の状態で添加することができるため、土壌中に汚染物質吸着化合物を満遍なくゆきわたらせることが容易である。
【0017】
土壌中に添加された土壌中汚染物質の処理剤は土壌中で反応し、土壌中で汚染物質吸着化合物の微結晶が生成する。各微結晶の周囲には汚染物質が存在しているため、微結晶の表面に存在する吸着サイトにて汚染土壌中の汚染物質を吸着することができる。土壌の外で合成された汚染物質吸着化合物は土壌中の汚染物質に接触する際には2次凝集体であり、汚染物質の吸着は2次凝集体の表面部分でしか起こらない。そのため、2次凝集体の内側にある吸着サイトは汚染物質の吸着には用いられず、汚染物質吸着化合物を有効的に活用しているとはいえない。それに対し、本発明の土壌中汚染物質の処理剤から生成した汚染物質吸着化合物は凝集する前もしくは1次凝集体の状態で土壌中の汚染物質と接触することが可能である。そのため、汚染物質吸着化合物の吸着サイトを有効的に利用することができ、効率的な吸着ができる。また、必要な土壌中汚染物質の処理剤の量を削減することができる。ここで吸着サイトとは、汚染物質吸着化合物において汚染物質を吸着することができる機能を有する箇所のことを言う。
【0018】
本発明の土壌中汚染物質の処理剤から土壌中で生成する汚染物質吸着化合物は、アルミニウムおよびマグネシウムを主成分とする無機化合物である。生成する無機化合物としては、ハイドロタルサイト様化合物(Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O、Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O等)、Mg0.7Al0.31.15等が想定される。
【0019】
ここでハイドロタルサイト様化合物とは、Mg6Al2(OH)16CO3・nH2Oで表される天然鉱物であるハイドロタルサイトに類似な構造を有する化合物であり、層状構造をもつ。この層間に陰イオンを取り込む性質を有している。
【0020】
上記のアルミニウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する土壌中汚染物質の処理剤から生成する汚染物質吸着化合物は、陰イオンである汚染物質を吸着することができるが、カドミウムのような正イオンである汚染物質を吸着することはできない。そのため、本発明の土壌中汚染物質の処理剤にはケイ素イオンをさらに含有していることが望ましい。
【0021】
ケイ素イオンを含む本発明の土壌中汚染物質の処理剤から土壌中で生成する汚染物質吸着化合物としては、Al23・9SiO2・H2O、Al613Si2、Al23・2SiO2、2Al23・SiO2等が想定される。
【0022】
土壌中汚染物質の処理剤は、アルミニウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する溶液であるが、水溶液であることが望ましい。土壌に添加する際に更なる汚染物質とならないためである。水溶液中にアルミニウムイオンを含有させるために用いられる薬品としては、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、硝酸アルミニウムまたは硫酸アルミニウムアンモニウム等を用いることができる。
【0023】
また、水溶液中にマグネシウムイオンを含有させるために用いられる薬品としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムまたは炭酸マグネシウム等を用いることができる。ここで、土壌中にハイドロタルサイト様化合物を生成させる場合は、炭酸マグネシウムを用いることが望ましい。また別途、炭酸ナトリウム等を水溶液に添加して炭酸イオンを含有させてもよい。
【0024】
また、水溶液中にアルミニウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有させるためには、前記のようにそれぞれの薬品を用いる他に、所定の組成比を有する化合物(鉱物)を溶かして処理液としてもよい。特にハイドロタルサイト様化合物、Mg0.7Al0.31.15は酸性の水溶液に溶解させることが可能である。
【0025】
水溶液中に含有されるアルミニウムイオンとマグネシウムイオンのモル比は、1:2から1:8であることが望ましい。水溶液中のアルミニウムイオンに対するマグネシウムイオンのモル比が2倍未満であると、アルミニウムおよびマグネシウムを主成分とする汚染物質吸着化合物がほとんど生成しない。また、モル比が8倍超の場合は、汚染物質吸着化合物の生成に関与するマグネシウムイオンの率が低くなり、無駄が生じるため、水溶液中に含有されるアルミニウムイオンとマグネシウムイオンのモル比は、1:2から1:8であることが望ましく、1:2から1:4であることがさらに望ましい。
【0026】
さらに、水溶液中にケイ素イオンを含有させる場合に用いられる薬品としては、珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウムまたは珪酸カリウム等を用いることができる。
【0027】
水溶液中にケイ素イオンを含有させる場合は、水溶液中のケイ素イオンとアルミニウムイオンとのモル比が0.4:1から6:1であることが望ましい。
【0028】
アルミニウムおよびマグネシウムを主成分とする汚染物質吸着化合物を土壌中で生成させるために必要な土壌中のpHの条件を調べたのが表1である。土壌中での化合物生成の反応性を確認することが難しかったため、水溶液中での反応性で評価した。200重量部のイオン交換水に硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・16H2O)を11.9重量部、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)を32.6重量部溶解させた水溶液に塩酸および水酸化ナトリウムを適宜添加してpHを調整した。pHを調整した後、水溶液を1時間保持して水溶液中での結晶の析出状態を目視にて観察した。×は水溶液中に結晶が析出せずに透明のままであったもの、○は結晶が析出して白濁したもの、△は結晶が析出したが量が少なく、少し白くなった程度であったものを示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1より、pHが7以下では反応が全く進まないことがわかる。また、pH=7.5では結晶は生成しているが生成している量が少なく、収率が悪くなっていることがわかる。以上の結果より、土壌中汚染物質の処理剤を添加する土壌のpHは7.5以上であることが望ましい。pHが7.5未満であると土壌中で汚染物質吸着化合物の生成が行われないためである。また、pHが12超の場合は、結晶の生成は起こるが、その生成速度が速すぎる可能性ある。このような場合は、土壌中で微結晶および1次凝集体の状態である時間が短すぎ、汚染物質を有効的に吸着することができない。また、含有成分の水酸化アルミニウムが両性化合物であるため、アルミニウムが再溶解するため、結晶化する際のマグネシウムとアルミニウムの比率が変わる場合がある。そのため、汚染物質吸着化合物の土壌中での汚染物質の吸着効率の点から、土壌中のpHは8以上12以下であることがさらに望ましい。
【0031】
土壌中汚染物質の処理剤を添加する土壌のpHが7.5以上である場合は問題ないが、pHが7.5未満である場合は土壌中で汚染物質吸着化合物が効率よく生成しないため問題となる。その場合は、土壌に薬剤を添加してpHを調整することが望ましい。土壌のpH調整剤としては、ドロマイト(CaMg(CO3)2)、消石灰(Ca(OH)2)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、水酸化ナトリウム、石灰石(CaCO3)、硫酸カルシウム(CaSO4)、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等を用いることができる。
【0032】
本発明の土壌中汚染物質の処理剤は、土壌に水溶液として添加される。溶液として添加されるため、そのままでも土壌中の各部にゆきわたらせることは可能ではあるが、より確実に土壌中にゆきわたらせるためには、土壌と処理液を混合させることが望ましい。
【0033】
本発明の土壌中汚染物質の処理剤が土壌に添加されると、土壌中汚染物質の処理剤に含有されるアルミニウムイオン、マグネシウムイオン等が反応をし、汚染物質吸着化合物の微結晶が生成する。汚染物質吸着化合物の微結晶は非常に粒子径が小さいため、非常に大きな比表面積を有している。この広い表面上に存在する吸着サイトに、周囲の土壌中に存在する汚染物質が吸着される。
【0034】
土壌中の汚染物質吸着化合物の微結晶は、周囲の微結晶と凝集して1次凝集体を形成する。1次凝集体の外部に面している微結晶の吸着サイトのうち、まだ汚染物質を吸着していない吸着サイトは、さらに周囲の土壌中の汚染物質を吸着する。
【0035】
本発明の土壌中汚染物質の処理剤は、水溶液の状態で土壌に添加される。水溶液中のアルミニウムイオンおよびマグネシウムイオンの濃度は、土壌に含まれる汚染物質の濃度、或いは土壌より溶出してくる汚染物質の濃度に比して決められる。一般的に土壌中の汚染物質の濃度は低い為、土壌に添加されるアルミニウムイオンおよびマグネシウムイオンの濃度も低くなる。土壌中での各箇所でのマグネシウムおよびアルミニウム元素濃度はそれほど高くない。それゆえ、凝集が起こったとしても1次凝集体までしか進まないと推定される。土壌中の汚染物質の濃度が高く、添加した土壌中汚染物質の処理剤中の各イオン濃度が高い場合には、1次凝集体はさらに土壌中で凝集して市販の吸着剤のような2次凝集体となると推定する。しかしながら、以上説明したように、本発明の土壌中汚染物質の処理剤では、土壌中で汚染物質吸着化合物が生成し、凝集していくので、汚染物質吸着化合物の微結晶が凝集する前に土壌中の汚染物質と接触することが可能となり、小さな粒子径で非常に大きな比表面積を有している間にその汚染物質吸着化合物の吸着サイトを効率よく利用することができるため、汚染物質吸着化合物を有効に活用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
[汚染土壌]
まず土壌として以下の2種類の土壌を用意した。土壌中の成分の重量比は蛍光X線にて分析したもの、pHは環境省告示第46号溶出試験で溶出させた溶液の濾過後の液をpHメータにて測定したものである。
・モデル土壌1:
pH=11.1
成分(重量比):SiO2=60%、Al23=22%、Fe23=5%、その他=13%
・モデル土壌2
pH=5.7
成分(重量比):SiO2=59%、Al23=27%、Fe23=2%、その他=12%
【0037】
[汚染溶液の作成]
下記の試薬を使用して各1000mg/Lの濃度となる溶液を作成し、土壌に添加する汚染溶液とした。
ヒ素:ヒ酸水素二ナトリウム七水和物
セレン:酸化セレン(IV)・硝酸(0.5mol/L)溶液
フッ素:フッ化ナトリウム
ホウ素:メタホウ酸
カドミウム:カドミウム・硝酸(0.1mol/L)溶液
【0038】
[汚染土壌の作成]
作成した各汚染溶液を、各1kgのモデル土壌1およびモデル土壌2に各100mg添加した。その後均質になるよう混合し、14日間開放系にて放置して自然乾燥させ、汚染土壌1および汚染土壌2を作成した。
【0039】
[土壌からの汚染物質の溶出量測定]
汚染物質がどの程度溶出するかについて、環境省告示第46号に準じて溶出試験をおこなった。試験方法を以下に示す。
(1)汚染土壌50gに対して蒸留水450mlを添加する。
(2)6時間揺動処理する。
(3)汚染物質が溶出した溶出液中の各汚染物質の濃度を測定する。ヒ素、セレン、ホウ素およびカドミウムについては、ICP(高周波誘導プラズマ)発光分析にて、フッ素はイオンメータにて濃度を測定する。
【0040】
[比較例1、2;ブランク]
汚染土壌1および汚染土壌2からの汚染物質の溶出量を測定した。結果を表2に示す。表2に、土壌汚染対策法に規定されている溶出量基準値を併記する。
【0041】
【表2】

【0042】
[実施例1]
塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)3.26重量部、硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・16H2O)1.19重量部を0.1N−塩酸にてpH5に調整した20重量部のイオン交換水に溶解させて土壌中汚染物質の処理剤1を作成した。作成した土壌中汚染物質の処理剤1中のアルミニウムイオンとマグネシウムイオンとのモル比は、1:2.3であった。作成した土壌中汚染物質の処理剤1の24.45重量部を汚染土壌1の100重量部に添加し、均質になるよう混合した。
【0043】
[実施例2]
塩化マグネシウム(MgCl2・6HO)3.27重量部、硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・16H2O)0.91重量部および炭酸ナトリウム(Na2CO3)0.29重量部を0.1N−塩酸にてpH5に調整した20重量部のイオン交換水に溶解させて土壌中汚染物質の処理剤2を作成した。作成した土壌中汚染物質の処理剤2中のアルミニウムイオンとマグネシウムイオンとのモル比は、1:3であった。作成した土壌中汚染物質の処理剤2の24.47重量部を汚染土壌1の100重量部に添加し、均質になるよう混合した。
【0044】
[実施例3]
汚染土壌2の100重量部に対し、0.5重量部の水酸化マグネシウムおよび1重量部のドロマイトを添加して汚染土壌3を作成した。汚染土壌3の溶出液のpHは10.2であった。作成した汚染土壌3の101.5重量部に実施例1の土壌中汚染物質の処理剤1を24.45重量部添加し、均質になるよう混合した。
【0045】
[実施例4]
実施例1の土壌中汚染物質の処理剤1の代わりに、0.1Nの塩酸でpHを2から3に調整した蒸留水10重量部に対し、1重量部のMg0.7Al0.31.15の組成を有する化合物(キョワード2000、協和化学工業社製;アルミニウムとマグネシウムの組成比が土壌中汚染物質の処理剤1中の各イオンのモル比と同じ)を添加し、溶解させた土壌中汚染物質の処理剤3を使用した。作成した土壌中汚染物質の処理剤3の11重量部を汚染土壌1の100重量部に添加し、均質になるよう混合した。
【0046】
[実施例5]
実施例2の土壌中汚染物質の処理剤2の代わりに、0.1Nの塩酸でpHを2から3に調整した蒸留水10重量部に対し、1.62重量部のMg6Al2(OH)16CO3・4H2Oの組成を有する化合物(キョワード500、協和化学工業社製;アルミニウムとマグネシウムの組成比が土壌中汚染物質の処理剤2中の各イオンのモル比と同じ)を添加し、溶解させた土壌中汚染物質の処理剤4を使用した。作成した土壌中汚染物質の処理剤4の11.62重量部を汚染土壌1の100重量部に添加し、均質になるよう混合した。
【0047】
[実施例6]
0.52重量部の硫酸アルミニウムと1.7重量部の珪酸ナトリウム(Na2SiO3)を0.1N−塩酸にてpH5に調整した10重量部のイオン交換水に溶解させて土壌中汚染物質の処理剤5を作成した。作成した土壌中汚染物質の処理剤5中のアルミニウムイオンとケイ素イオンのモル比は1:4.5であった。実施例1と同じ24.45重量部の土壌中汚染物質の処理剤1に加えて12.22重量部の土壌中汚染物質の処理剤5を100重量部の汚染土壌1に添加し、均質になるよう混合した。
【0048】
[実施例7]
塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)3.27重量部、硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・16H2O)0.91重量部を0.1N−塩酸にてpH5に調整した20重量部のイオン交換水に溶解させて土壌中汚染物質の処理剤6を作成した。作成した土壌中汚染物質の処理剤6中のアルミニウムイオンとマグネシウムイオンとのモル比は、1:3であった。作成した土壌中汚染物質の処理剤6の24.18重量部を汚染土壌1の100重量部に添加し、均質になるよう混合した。
【0049】
[比較例3]
Mg0.7Al0.31.15の組成を有する化合物(キョワード2000、協和化学工業社製)1重量部を100重量部の汚染土壌1に添加し、均質になるよう混合した。添加したMg0.7Al0.31.15の組成を有する化合物の粒子径は45ミクロンであった。
【0050】
[比較例4]
Mg6Al2(OH)16CO3・4H2Oの組成を有する化合物(キョワード500、協和化学工業社製)1.62重量部を100重量部の汚染土壌1に添加し、均質になるよう混合した。添加したMg6Al2(OH)16CO3・4H2Oの組成を有する化合物の粒子径は37ミクロンであった。
【0051】
[比較例5]
土壌中汚染物質の処理剤1(実施例1と同じもの)の24.45重量部を、pHの調整をしていない汚染土壌2の100重量部に添加し、均質になるように混合した。
【0052】
[比較例6]
Mg0.7Al0.31.15の組成を有する化合物(キョワード2000、協和化学工業社製)1重量部とAl23・9SiO2・H2Oの組成を有する化合物(キョワード700、協和化学工業社製)1重量部を100重量部の汚染土壌1に添加し、均質になるよう混合した。
【0053】
[実施例1〜7および比較例3〜6の溶出量測定]
各実施例および比較例にて作成した土壌の溶出測定を行った。土壌に対して土壌中汚染物質の処理剤または2次凝集体の化合物を添加後、1日経過した後に溶出試験を実施した。各汚染物質の溶出量の測定は環境省告示第46号に準じて行った。測定結果を表3に示す。土壌中で陰イオンとして存在すると考えられる汚染物質(ヒ素、セレン、フッ素およびホウ素)の溶出量が汚染対策法に規定されている基準量以下となった場合を○、土壌中で陽イオンとして存在すると考えられる汚染物質(カドミウム)の溶出量も基準量以下となった場合を◎で示す。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例1の土壌中汚染物質の処理剤1は、比較例3で添加したMg0.7Al0.31.15の組成を有する化合物(キョワード2000、協和化学工業社製)と同じ添加量となる様に、実施例2の土壌中汚染物質の処理剤2は、比較例4で添加したMg6Al2(OH)16CO3・4H2Oの組成を有する化合物(キョワード500、協和化学工業社製)と同じ添加量となる様に、各イオンの濃度が設定されている。また、実施例1と実施例2および比較例3と比較例4とは、マグネシウムの添加量が同じになるように、各イオン濃度が設定されている。表3の結果より、2次凝集体として添加した比較例3および4では各汚染物質の溶出量は土壌汚染対策法の基準を満たさなかったのに対し、各イオンを含有する溶液として添加した実施例1および2では、陰イオンとして土壌中に存在していると考えられる汚染物質の溶出量を基準値以下とすることができた。このことから、本発明の土壌中汚染物質の処理剤は、一般に用いられている2次凝集体の吸着剤に対して、各化合物の吸着サイトを有効に活用することができ、そのため少ない添加量で汚染物質を効率よく吸着・固定化できることがわかった。また、土壌中汚染物質の処理剤中に炭酸イオンを添加した場合の実施例2の方がフッ素とホウ素の吸着能が高いが、これは炭酸イオンを添加した場合にはハイドロタルサイト様化合物が生成したためと推測される。
【0056】
実施例3の結果より、もともと酸性の土壌であるモデル土壌2であっても、土壌のpHを調整してアルカリ性とすることにより、本発明の土壌中汚染物質の処理剤は土壌中で反応が進行し、汚染物質吸着化合物を生成させることができることがわかった。実施例1と同じ添加量であるにもかかわらず、フッ素イオンとホウ素イオンの吸着能が高いのは、土壌のpHを調整する際に添加したドロマイトの中に炭酸イオンが含まれていたため、土壌中でより吸着能の高いハイドロタルサイト様化合物が形成されたものと推測される。
【0057】
実施例4および実施例5の結果より、本発明の土壌中汚染物質の処理剤は、含有する各イオンを薬品で(イオンとして)水溶液に添加しなくても、目的とする組成を有する化合物(鉱物)を溶解させることでも同様な効果を有するものにできることがわかった。
【0058】
実施例6より、実施例1の土壌中汚染物質の処理剤1にケイ素イオンをさらに溶解させることにより、陰イオンとして土壌中に存在していると考えられる汚染物質以外に、陽イオンとして土壌中に存在していると考えられる汚染物質も吸着・固定化できることがわかった。これは、陰イオンの吸着に適したアルミニウムおよびマグネシウムを主成分とする汚染物質吸着化合物のほかに、アルミニウムおよびケイ素を主成分とする汚染物質吸着化合物が土壌中で生成したためと推測される。
【0059】
実施例7より、土壌中汚染物質の処理剤中のアルミニウムイオンおよびマグネシウムイオンのモル比を変更しても、汚染物質吸着化合物の生成は可能であり、汚染物質吸着化合物による汚染物質の吸着および固定化の能力は維持できることがわかった。
【0060】
比較例5より、土壌のpHが酸性の場合、本発明の土壌中汚染物質の処理剤を汚染土壌に添加しても、汚染物質の吸着・固定化が起こらないことがわかる。これは、酸性域では汚染物質吸着化合物の生成が起こらなかったためと推測される。また、比較例6の結果を実施例6の結果と比較することにより、アルミニウムおよびマグネシウムを主成分とする汚染物質吸着化合物の場合と同様に、アルミニウムおよびケイ素を主成分とする汚染物質吸着化合物も、2次凝集体として添加するよりも、本発明の土壌中汚染物質の処理剤として添加した場合の方が汚染物質の吸着・固定化の性能が優れていることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH7.5以上の土壌に添加して土壌中の汚染物質を吸着する処理剤であって、アルミニウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する溶液であることを特徴とする土壌中汚染物質の処理剤。
【請求項2】
さらにケイ素イオンを含有することを特徴とする請求項1記載の土壌中汚染物質の処理剤。
【請求項3】
前記アルミニウムイオンと前記マグネシウムイオンを、モル比で1:2から1:8の割合で含有する水溶液であることを特徴とする請求項1または2記載の土壌中汚染物質の処理剤。
【請求項4】
pH7.5以上の土壌または、pH7.5以上に調整した土壌に、アルミニウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する処理液を添加し、混合することで、土壌中にアルミニウムおよびマグネシウムを主成分とする結晶を生成させることを特徴とする、汚染土壌中の汚染土壌の改良方法。
【請求項5】
前記処理液中にさらにケイ素イオンを含有することを特徴とする請求項4記載の汚染土壌中の汚染土壌の改良方法。
【請求項6】
前記土壌のpHが8以上12以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の汚染土壌中の汚染土壌の改良方法。

【公開番号】特開2011−231238(P2011−231238A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103578(P2010−103578)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】