説明

汚染源探索方法及びこれを用いた汚染物質除去システム

【課題】
汚染物質の発生源を同定し、室内空気中の汚染物質を効果的に除去する。
【解決手段】
測定手段2は室内空気中の汚染物質濃度を測定し、シミュレータ3は室内の汚染物質の発生位置、及び発生量をパラメータとして室内の汚染物質濃度分布を計算し、測定結果と計算結果との重み付き残差を評価関数として、汚染源探索手段1はこの評価関数を最小化させることで汚染物質の発生位置、及び発生量を計算する。また、制御装置80は、前記汚染源探索手段1の計算により得られた汚染物質の発生位置、及び発生量に基づいて空気調和機20、あるいは空気清浄機90の運転状態を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内空気の汚染物質であるホルムアルデヒド等の化学物質、及びウィルス等の生物系微粒子の発生位置や発生量を探索する方法、及び室内の汚染物質を除去するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年建築される住宅では、省エネルギーを背景として、住宅の高気密化や高断熱化が進んでいる。これは、高気密化により室内への外気の出入りを少なくし、高断熱化により熱伝導による熱侵入を小さくする、という二つの効果により冷暖房にかかるエネルギーを低減しようとするものである。
【0003】
一方、高気密化に伴って、所謂シックハウス症候群や化学物質過敏症と呼ばれる疾患の患者数が年々増えている。これは、高気密化によって換気量が減少するため、汚染物質(化学物質)が室内に長時間滞留し、なかなか室外に排出できないことによる。特に、化学物質過敏症は、重症化するとごく微量の化学物質にも反応するようになり、慢性的な中毒症状を起こす恐れがある。従って、化学物質過敏症の患者が快適な生活をおくるためには、化学物質の発生要因を極力排除すると共に、化学物質が室内で発生した場合には速やかにこれを除去する手段を講じる必要がある。
【0004】
ホルムアルデヒド等一部の化学物質については法令の改正等により使用が制限され、新築住宅については建築材料からの発生量は非常に少なくなってきているが、既存住宅や家具等の室内備品については対策が進んでいないのが実状である。
【0005】
さらに、重症急性呼吸器症候群(SARS)の爆発的な感染拡大等の影響を受け、細菌やウィルスといった生物系微粒子に対するクリーン化の要求も高まっている。生物系微粒子は通常は人間が発生源となり、人間の移動に伴って発生源も移動するため、効果的な除去が難しいといった問題点がある。
【0006】
このような問題点を解決する方法として、一般に各種の浄化方式を採用した空気清浄機を用いる方法が用いられているが、特許文献1に開示されているように、換気装置を備えた空気調和機においてガスセンサの信号出力に応じて送風ファンや換気装置を制御する方法や、特許文献2に開示されているようにシミュレータを用いて空気清浄度の時間変化特性を評価する方法といった技術が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−116808号公報
【0008】
【特許文献2】特開平11−14112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記の各従来技術には以下のような課題があった。
【0010】
そもそも、化学物質や生物系微粒子といった室内空気の汚染物質を効率よく除去するためには、汚染源で発生した汚染物質を周囲に拡散させることなく排気、もしくは浄化する必要がある。すなわち、汚染源で発生した汚染物質が排気、もしくは浄化されるまでの時間をなるべく短くすることが重要である。
【0011】
換気装置を備えた空気調和機においてガスセンサの信号出力に応じて送風ファンや換気装置を制御する方法では、送風ファンの風量や換気量を増やすと室内に強い循環流が発生する恐れがあり、汚染源が循環流の内部にある場合には汚染物質が室内に長時間滞留し、換気が十分に進まないといった問題が懸念される。
【0012】
また、シミュレータを用いて空気清浄度の時間変化特性を評価する方法は、高度の給排気手段を備えるクリーンルームを対象としており、クリーンルームの空気清浄度や、クリーンルームの空気清浄度が悪化した場合に、それがどのように回復するかといった空気清浄度回復能力は評価できるものの、空気清浄度が悪化した場合にそれを如何に回復させるかという方法については考慮されていない。
【0013】
既に述べたように、室内の汚染物質を効率よく除去するためには、汚染源で発生した汚染物質を周囲に拡散させることなく排気、もしくは浄化する必要がある。このためには、汚染源の位置、汚染源から発生する汚染物質量、汚染物質の室内での拡散性状を把握し、これらの情報に基づいて的確な汚染物質の除去手段を講じることが望ましい。
【0014】
本発明は、このような事情を鑑みなされたもので、室内における汚染物質の発生位置や発生量を探索する手段、及びこれを用いて効果的に汚染物質を除去する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、汚染物質の発生位置や発生量を探索するために、室内の汚染物質濃度分布を計算するシミュレータと、室内の汚染物質濃度を測定する測定手段と、汚染物質の発生位置及び発生量を探索する汚染源探索手段とを備え、測定手段は室内の汚染物質濃度を所定の周期で測定し、シミュレータは汚染物質の発生位置及び発生量をパラメータとして室内の汚染物質濃度分布を計算し、汚染源探索手段は測定手段による測定結果と測定手段の位置における前記シミュレータの計算結果との重み付き残差を評価関数として、この評価関数を用いて評価値が最小となるパラメータを計算することで汚染物質の発生位置及び発生量を探索することを最も主要な特徴とする。
【0016】
また、重み付き残差を計算するための重み関数は測定結果、又はパラメータに対する汚染物質濃度の変化率である感度係数で構成されることが望ましい。
【0017】
さらに、室内の汚染物質を効率よく除去するために、汚染源探索手段の探索結果に基づいて、空気調和装置の吹出し風量、吹出し方向、あるいは排気手段、給気手段、空気清浄手段を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の汚染源探索方法は、汚染物質の発生位置や発生量といったパラメータを計算する際に、単に計算結果と測定結果との差(残差)を評価関数とするのではなく、計算結果と測定結果との差に、測定結果又は感度係数で構成される重み関数を乗じた重み付き残差を評価関数とし、この評価関数を用いて求めた評価値を最小化させる方法であるので、汚染物質拡散性状の違いに起因する探索精度のばらつきを少なくすることができ、汚染源の探索精度が向上する。また、評価関数として重み付き残差を用いるので、例えば汚染物質の発生位置と発生量、といった物理的性質、単位の異なる異種データを同じ尺度で比較できるという利点がある。
【0019】
さらに、前記汚染源探索方法を用いて汚染物質の発生位置と発生量を求め、その情報に基づいて空気調和装置、排気手段、給気手段、空気清浄手段等を制御するため、室内の汚染物質を効果的に除去できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
室内における汚染物質の発生位置と発生量を精度よく探索する方法と、その結果に基づいて室内の汚染物質を効果的に除去するシステムを実現した。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明の第1の実施例を説明するためのブロック図である。また、図2は本発明の第1の実施例を説明するためのフローチャートである。図1に示す第1の実施例は、汚染物質の濃度を測定する測定装置2と、その結果等から汚染物質の発生位置や量を求める汚染源探索部1と、汚染物質の拡散等や空調による排出状態を求めるシミュレータ3と、シミュレータ3がシミュレーションに使用するパラメータ設定部4と、シミュレーションの条件を設定する計算条件設定部5から構成されている。
【0022】
さらに、汚染源探索部1は、測定結果入力部12と、計算結果入力部13と、重み関数計算部14と、評価関数計算部15と、探索誤差判定部16と、パラメータ修正部17とから構成されている。
【0023】
室内の所定の位置に設置された測定装置2は、所定の周期で室内の汚染物質濃度を測定する。汚染源探索部1は、測定結果入力部12を介して測定装置2の測定結果を取得する。一方、シミュレータ3は、計算条件設定部5で設定された計算条件、及びパラメータ設定部4で設定されたパラメータ(汚染物質の発生位置、発生量)を用いてシミュレーションを行い、室内の汚染物質濃度分布を求める。汚染源探索部1は、計算結果入力部13を介してシミュレータ3のシミュレーション結果を取得する。重み関数計算部14は取得した測定結果と、シミュレーション結果、又はどちらか1方の結果から重み関数を求める。次に、評価関数計算部15は、測定結果、シミュレーション結果、重み関数計算部14で求めた重み関数を用いて重み付き残差を計算し、これを評価関数とする。探索誤差判定部16は、評価関数計算部15が計算した評価値が最小値であるかどうかを判定し、最小値でないと判断した場合はパラメータ修正部17にてパラメータの値を修正する。シミュレータ3は修正されたパラメータを用いて再び汚染物質濃度分布を計算する。探索誤差判定部16が、評価関数計算部15で計算される評価値が最小値であると判定するまで上記の操作を反復して行う。評価値が最小値となれば、このときのパラメータの値が求める汚染物質の発生位置、発生量となる。
【0024】
シミュレータ3の計算方法として、例えばコンピュータを用いた数値シミュレーションを用いることができる。これは、室内を有限個の計算格子に分割し、汚染物質拡散性状を支配する輸送方程式を計算格子上で離散化し、離散化により得られた連立方程式を与えられた初期条件、境界条件のもとに計算する手法である。汚染物質が化学物質等のガス状物質である場合には、気流を支配する輸送方程式(連続の式、Navier−Stokes方程式、エネルギー方程式、流れが乱流の場合にはさらに乱流諸量に関する方程式)と、汚染物質濃度に関する輸送方程式を同時に計算することにより汚染物質濃度分布を計算することができる。また、汚染物質が粒子状である場合には、気流を支配する輸送方程式を予め計算し、求めた流れ場において汚染物質粒子に関する運動方程式を解くことにより汚染物質粒子の挙動を計算することができる。
【0025】
室内の気流分布を数値シミュレーションで計算するのは、コンピュータを用いるといえども膨大な演算量と計算時間を要する。従って、短い時間間隔で汚染源の探索を行う場合に、その都度気流分布を数値シミュレーションにより計算するのは効率的ではない。そこで、汚染源探索部1に、直前の探索と今回の探索における気流分布の変化を判定する気流分布判定部を設ける。そして、気流分布判定部で気流分布に変化がないと判断した場合には、気流分布の計算は省略して、直前の気流分布の計算結果を用いて汚染物質濃度に関する輸送方程式、あるいは汚染物質粒子の運動方程式だけを計算する。このようにすれば、汚染源探索部1の演算量が大幅に削減でき、パラメータ計算に要する時間を短縮することができる。
【0026】
または、想定し得る多数のパラメータ及び計算条件における気流分布、汚染物質濃度分布を、予めシミュレータ3により計算しておき、その結果を図示しない記憶装置に記録しておく。そして、汚染源探索部1は測定結果を最もよく再現する計算結果を記憶装置から取得するようにしても良い。この方法により、パラメータ計算に要する時間をさらに短縮することが可能となる。
【0027】
なお、シミュレータ3の計算方法については上記の方法に限定するものではなく、他の理論に基づいた計算方法でも良いことは云うまでもない。
【0028】
図1及び図2に示す第1の実施例における評価関数計算部15における評価関数の計算方法を、図3に示すシステム図に基づき説明する。図3において、送風機21、フィルタ22、熱交換器23を備えた空気調和機20は、外気、及び室内10からの環気を取り込み、フィルタ22で汚染物質を除去し、熱交換器23にて所定の温湿度に調整した後、給気ダクト30を介して複数の吹出口31a,31b,31cに送風する。各吹出口31a,31b,31cから吹出されて室内10を通過した空気は、複数の吸気口41a,41b,41cに吸い込まれ、吸い込まれた空気は吸気ダクト40を介して一部は排気口42から室外に排気され、残りは環気ダクト43を通して再び空気調和機20に導入される。また、室内10には汚染物質濃度を測定するために1つの測定装置2が所定の位置に設けられている。さらに、汚染源探索部1、シミュレータ3、パラメータ設定部4、計算条件設定部5で構成される汚染源探索装置70が設けられている。
【0029】
図3において、汚染源は単一であり、汚染源における汚染物質発生量は既知でると仮定する。また、汚染源50は図3に示す破線上にのみ存在するとする。すなわち、汚染源50の位置は図示の距離Xを求めればよいことになる。なお、汚染物質は化学物質であるとして説明する。
【0030】
汚染源50の壁からの距離Xが変化したときの測定装置2の位置における汚染物質濃度の計算結果は概略図4に示すような分布になる。図4に示すグラフにおいて、実線で示した条件1は空気調和機の送風量が比較的大きく、室内の気流流速が大きい場合、また、条件2は空気調和機の送風量が比較的小さく、室内の気流流速が小さい場合である。気流流速が大きい条件1の場合には、汚染物質の濃度拡散に比べて気流に乗って移動する移流が支配的となるため、距離Xが大きくなるにつれて測定装置2の位置における汚染物質濃度は急激に小さくなる。一方、気流流速が小さい条件2の場合には、移流に比べて濃度拡散が支配的となるため、距離Xが比較的大きい場合でも汚染物質濃度はそれほど減少しない。
【0031】
図4において、ある時刻における測定装置2の測定結果がY0のとき、条件1の場合はX1、条件2の場合はX2が距離Xの解、すなわちパラメータである汚染源の位置である。測定結果Y0から距離Xを解析的に求めることができる場合は、測定結果Y0から直ちに解X1、またはX2を計算できる。ところが、室内における汚染物質拡散は非線形現象であり、測定結果Y0から解析的に距離Xを計算することはできない。そこで、距離Xを仮定して汚染物質濃度分布をシミュレータ3により計算し、測定装置2の位置における計算結果と測定結果Y0とを比較し、その差が小さくなるまで距離Xを逐次修正するという反復解法が用いられる。
【0032】
図5に示すグラフは、計算結果と測定結果Y0との差、すなわち重みなし残差をeとし、eの二乗値を評価関数とした場合の距離Xと評価値の関係を概略的に示したものである。反復解法では、評価値が最小となる距離Xを逐次修正しながら計算することになる。
【0033】
反復解法では、評価値が完全に最小となるまで計算することはせず、逐次求められる評価値の変化量、あるいは変化率が予め定めた判定値以下になった時点で反復を打ち切ることが多い。図5には、判定値ηで反復を打ち切った時点での距離Xの解を白丸印で示してある。条件1の場合には反復解法により計算される解と真の解X1との誤差はδ1で、打切りによる推定誤差は比較的小さいが、条件2の場合には誤差δ2はδ1に比べて大きく、反復の打切りにより推定誤差が非常に大きい。これは、図4において、条件2の場合は距離Xに対する汚染物質濃度Yの変化率が小さいため、重みなし残差eの二乗値の距離Xに対する変化率も小さいことに起因する。このように、汚染物質の拡散性状の違い(例えば、図4の場合の条件1と条件2の違い)によって距離Xの推定精度にばらつきが大きい方法では、求められるパラメータの信頼度は低い。
【0034】
一方、図6に示すグラフは、評価関数として重み付き残差の二乗値を用いた場合を太線で示してある。ここで、重み付き残差とは、計算結果と測定結果との差に重み関数を乗じた値のことであり、図6に示すグラフでは、距離Xに対する汚染物質濃度Yの変化率(感度係数)∂Y/∂Xの逆数を重み関数としている。すなわち、重み付き残差はe/(∂Y/∂X)となる。このような重み関数を用いることにより、図4に示す条件1の場合には、距離Xが小さい領域では感度係数が大きいため重み関数の値は小さくなり、距離Xが大きい領域では感度係数が小さいため重み関数の値は大きくなる。一方、条件2の場合はほぼ全域に渡って感度係数が小さいため、重み関数の値は大きくなる。このような重み関数を用いた重み付き残差の二乗値を評価関数とすることにより、評価値の距離Xに対する変化率が条件によらずほぼ同等の傾向を示すようになる。
【0035】
図6に示すグラフには、図5と同じ判定値ηで反復を打ち切った時点での距離Xの解を黒丸印で示してある。評価関数として重み付き残差の二乗値を用いることで、条件1の場合の推定誤差はδ1からδ1’に増加するが、条件2の場合の推定誤差はδ2からδ2’に減少し、δ1’とδ2’の差が小さくなる。また、推定誤差を相対誤差の形で比較すると、δ1’/X1とδ2’/X2の値はほぼ同等の値となる。すなわち、条件による推定誤差のばらつきが小さくなる。
【0036】
以上、第1の実施例によれば、条件によるパラメータの推定誤差のばらつきを小さくすることができ、汚染物質の発生位置を精度よく計算することができる。なお、以上の説明では重み関数として感度係数の逆数を用いたが、例えば、汚染物質の発生位置と発生量を同時に求める場合には、重み関数として測定結果の逆数を用いて無次元化することにより重み付き残差が相対誤差となるため、単位の異なる物理量の残差を同じ尺度で評価関数に組み込むことができる。また、感度係数と測定結果を組み合わせたものを重み関数としてもよく、汚染物質の拡散性状に応じて重み関数を選択すればよい。
【0037】
以上のように、本実施例では、汚染物質の発生源の位置を求める(汚染部室の発生量は既知)て、空気調和機20の送風機21の送風量を制御することで、汚染源からの汚染物質の拡散を極力抑制して、汚染物質を早期に排出することが可能となる。
【実施例2】
【0038】
図7は本発明の第2の実施例を説明するためのシステム図である。図7に示す第2の実施例で、図3の実施例と異なる点は、複数の吹出口31a,31b,31cにそれぞれダンパ32a,32b,32cを設けると共に、複数の汚染物質濃度の測定装置2a,2b,2cを設けて、各測定装置2a,2b,2cの測定結果から、汚染源探索装置70で汚染物質発生源と発生量を求めて、制御装置80で各吹出口31a,31b,31cに設けてあるダンパ32a,32b,32cの開度を制御したり、空気調和機20の送風量(送風機21の回転数)を制御するようにした点である。即ち、実施例1では汚染物質発生源から発生する汚染物質の発生量が既知の値であるとしたが、本実施例では、汚染物質の発生量も不明な場合に有効なものである。
【0039】
図7において、例えば測定装置2aの汚染物質濃度の測定結果が大きな値で、その他の測定装置2b、2cの測定結果が小さい場合を考える。この場合、汚染源探索装置70は、測定結果の汚染物質濃度分布から、例えば、汚染源50が図示のA点にあり、その発生濃度も併せて計算する。この結果に基づいて、制御装置80はダンパ32a、32bの開度を大きくすると共に、ダンパ32cの開度を小さくする。このような調整により、吹出口31aから吸気口41aに至る気流流速が早くなるため、汚染物質の除去速度が増すと同時に、吹出口31bから吸気口41aに至る気流流速を早くすることでエアカーテンを形成し、室内10の測定装置2c側への汚染物質の拡散を防ぐことができる。
【0040】
また、例えば測定装置2a乃至測定装置2cの汚染物質濃度の測定結果が概略等しい場合について考えると、この場合、汚染源探索装置70は、例えば複数の汚染源が室内に均等に存在すると計算する。この計算結果に基づいて、制御装置80はダンパ32a乃至ダンパ32cの開度が同じになるように調整する。このような調整により、室内10にはほぼ均一な下降流が形成されるため、循環流による汚染物質の滞留を少なくして汚染物質を除去することができる。
【0041】
さらに、この場合に、ダンパ32a乃至ダンパ32cのダンパが全開になるように制御装置80が送風機21の回転数を小さくすることができれば、送風機21の消費動力が小さくなると共に、熱交換器23の交換熱量が小さくなるため図略の冷温熱源機器の消費動力も小さくなり、システム全体の省エネルギー化を図ることができる。
【0042】
なお、測定装置2、吹出口32、吸気口41等は図7に示す個数に限定するものではない。また、室内への吹出し方向を調整する手段、あるいは吸気口41の吸気風量を調整する手段等を組み合わせ、制御装置80にて吹出し方向や吸気風量も併せて制御することにより、さらにきめ細かく室内の気流を制御することが可能となり、汚染物質の除去効率が高まる。
【0043】
以上のように、本実施例のように室内の複数箇所の汚染濃度を測定することによって、汚染源の位置、および汚染源の発生濃度に加えて、汚染の分布を知ることができ、きめ細かい空調制御を実施できると共に、汚染除去効率も向上することが可能となる。
【実施例3】
【0044】
図8は本発明の第3の実施例を説明するためのシステム図である。この構成で図7と異なる点は、汚染物質濃度の測定装置2が自走可能な台車60に設けられ、台車60に設けた送信手段61は測定装置2の測定結果を無線で送信し、測定結果受信手段71は送信手段61が送信した測定結果を受信すると共に汚染源探索装置70に伝送する点で、それ以外は図7に示す実施例と同じである。
【0045】
測定装置2を自走可能な台車60に設け、室内10にて移動可能とすることにより、少ない測定装置で室内の複数の場所における測定が可能となる。このため、実施例2に比べて多数の測定装置を設置しなくても汚染源の探索精度が向上するという利点がある。また、測定結果を無線で送受信することにしたので、測定結果を汚染源探索装置70に伝送するための信号線が不要となり、例えば既存建築物への汚染源探索装置70の設置が容易に行えるといった利点がある。
【0046】
なお、図8では自走可能な台車60に設けた測定装置2は1つであるが、汚染物質の種類に応じて複数の測定装置を設けてもよいし、温度センサや湿度センサといった他の測定装置を併せて設けてもよい。また、図8では自走可能な台車60は1台であるが、複数台設けてもよいことは言うまでもない。さらに、測定装置2の床面からの高さを変更可能とすることにより、汚染物質濃度の三次元的な空間分布を測定できるため、測定結果を用いてシミュレータの詳細な計算精度検証を行うことができ、汚染源探索精度がさらに向上することが期待できる。
【実施例4】
【0047】
図9は本発明の第4の実施例を説明するためのシステム図である。図9に示す第4の実施例で図7の構成と異なる点は、送風機21、熱交換器23、吹出し風向調整手段24を備えた複数の空気調和機20a,20bと、複数の空気清浄機90a,90bを設けて、吸気ダクトや吹出口、環気ダクト、吸気ダクト等をなくした点である。その他の点は図7と同じである。
【0048】
それぞれの空気調和機20a,20bは、送風機21a,21bで取り込んだ室内10の空気を、熱交換器23a,23bで所定の温湿度に調整した後、吹出し風向調整手段24a,24bを通して室内10に再び吹出す。一方、それぞれの空気清浄機90a,90bは室内10の空気を取り込み、空気中の汚染物質を除去した後、再び室内10に給気する。また、室内10には汚染物質濃度を測定するために複数の測定装置2a,2b,2cが設けられており、これら複数の測定装置2a,2b,2cの測定結果は汚染源探索装置70に入力される。汚染源探索装置は、汚染源探索部、シミュレータ、パラメータ設定部、計算条件設定部から構成され、複数の測定装置2a,2b,2cの測定結果に基づいて汚染物質の発生位置、及び発生量を計算する。汚染源探索装置70で計算された汚染物質の発生位置、発生量に基づいて制御装置80は各空気調和機20a,20bの送風機21a,21bの回転数、あるいは吹出し風向調整手段24a,24b、あるいは空気清浄機90a,90bの運転状態を制御する。
【0049】
図9に示す第4の実施例は、室内への外気の給気がなく、空気の循環が室内で閉じている。このような場合、室内の汚染物質を効果的に除去するためには、汚染源で発生した汚染物質を速やかに各空気清浄機90a,90bへ輸送する必要がある。そこで、空気調和機20a,20bの送風量、室内への空気の吹出し方向、空気清浄機90a,90bの運転状態を、汚染源探査装置70が計算した汚染源に関する情報に基づいて制御し、室内の気流を細かく制御することで、汚染源から空気清浄機90a,90bに至る気流を形成し、汚染物質を効果的に空気清浄機90a,90bに輸送することができる。また、制御装置80が、汚染源から離れた場所にある空気清浄機90a,90bの運転は停止させるようにすれば、空気清浄度を悪化させることなく空気清浄機の消費動力を最小限に抑えることができ、省エネルギー化を図ることができる。
【0050】
なお、図9では測定装置2は室内に固定して図示しているが、測定装置は移動可能としてもよい。さらに、測定装置による汚染物質濃度の測定結果を汚染源探索装置70に無線で送信するようにしてもよい。
【0051】
以上のように、本実施例では、複数の空気調和機と複数の空気清浄機を配置することで、先の実施例に比べて、複数のダクトを配置する必要が無く、レイアウトを自由に変更することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】汚染源探索実施方法を説明するブロック図である。
【図2】汚染源探索実施方法を説明するフローチャートである。
【図3】評価関数計算方法を説明するシステム図である。
【図4】評価関数計算方法を説明するグラフである。
【図5】評価関数計算方法を説明するグラフである。
【図6】評価関数計算方法を説明するグラフである。
【図7】汚染物質除去システム実施方法を示した説明図である。
【図8】汚染物質除去システム実施方法を示した説明図である。
【図9】汚染物質除去システム実施方法を示した説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1…汚染源探索部、2…測定装置、3…シミュレータ、4…パラメータ設定部、5…計算条件設定部、20…空気調和機、70…汚染源探索装置、80…制御装置90…空気清浄機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内の汚染物質濃度分布を計算するシミュレータと、汚染物質濃度を測定する測定手段と、汚染物質の発生位置及び発生量を探索する汚染源探索手段とを備え、前記測定手段は室内の汚染物質濃度を所定の周期で測定し、前記シミュレータは汚染物質の発生位置及び発生量をパラメータとして室内の汚染物質濃度分布を計算し、前記汚染源探索手段は前記測定手段による測定結果と前記測定手段の位置における前記シミュレータの計算結果との重み付き残差を評価関数として、この評価関数が最小となるパラメータを計算することで汚染物質の発生位置及び発生量を探索することを特徴とする汚染源探索方法。
【請求項2】
重み付き残差を計算するための重み関数が測定結果、又はパラメータに対する汚染物質濃度の変化率である感度係数で構成されることを特徴とする請求項1に記載の汚染源探索方法。
【請求項3】
室内の空気を調整する空気調和装置と、室内の汚染物質濃度分布を計算するシミュレータと、汚染物質濃度を測定する測定手段と、汚染物質の発生位置及び発生量を探索する汚染源探索手段と、前記空気調和装置の運転を制御する制御手段を備えた汚染物質除去システムであって、前記測定手段は室内の所定箇所の汚染物質濃度を所定の周期で測定し、前記シミュレータは汚染物質の発生位置をパラメータとして前記測定手段による測定時点での室内の汚染物質濃度分布を計算し、前記汚染源探索手段は前記測定手段による測定結果と前記測定手段の位置における前記シミュレータの計算結果との重み付き残差を評価関数として、この評価関数用いて評価値が最小となるパラメータを計算することで汚染物質の発生位置を求め、前記制御手段は前記汚染源探索手段の探索結果に基づいて前記空気調和装置を制御することを特徴とする汚染物質除去システム。
【請求項4】
室内の空気を調整する空気調和装置と、室内の汚染物質濃度分布を計算するシミュレータと、汚染物質濃度を測定する測定手段と、汚染物質の発生位置及び発生量を探索する汚染源探索手段と、前記空気調和装置の運転を制御する制御手段を備えた汚染物質除去システムであって、前記空気調和装置は空気の吹出し風量を調整する風量調整手段と、空気の吹出し方向を調整する風向調整手段とを備え、前記測定手段を室内の複数箇所に設けてそれぞれの場所の汚染物質濃度を所定の周期で測定し、前記シミュレータは汚染物質の発生位置及び発生量をパラメータとして前記測定手段による測定時点での室内の汚染物質濃度分布を計算し、前記汚染源探索手段は前記測定手段による測定結果と前記測定手段の位置における前記シミュレータの計算結果との重み付き残差を評価関数として、前記評価関数を用いて評価値が最小となるパラメータを計算することで汚染物質の発生位置及び発生量を探索し、前記制御手段は前記汚染源探索手段の探索結果に基づいて前記風量調整手段や前記風向調整手段を制御することを特徴とする汚染物質除去システム。
【請求項5】
請求項4に記載の汚染物質除去システムにおいて、
前記複数の測定手段に代えて、移動可能な台上に測定手段を搭載し、前記移動台を移動して、室内の複数箇所の汚染濃度を測定し、その結果を前記汚染源探索手段に無線で送信することを特徴とする汚染物質除去システム。
【請求項6】
請求項4に記載の汚染物質除去システムにおいて、
室内の空気を室外に排出する排気手段、室外の空気を室内に取り入れる給気手段、室内の汚染物質を除去する空気清浄手段の少なくとも1つを具備し、前記制御手段は前記汚染源探索手段の探索結果に基づいて前記排気手段、前記給気手段、前記空気清浄手段の少なくとも1つの運転状態を制御することを特徴とする汚染物質除去システム。
【請求項7】
請求項4又は6に記載の汚染物質除去システムにおいて、
重み付き残差を計算するための重み関数が測定結果、又はパラメータに対する汚染物質濃度の変化率である感度係数で構成されることを特徴とする汚染物質除去システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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