説明

汚染物質の原位置拡散防止方法

【課題】低コストで、効率的に且つ確実に汚染物質の拡散を防止することが可能な汚染物質の原位置拡散防止方法を提供する。
【解決手段】汚染物質で汚染された土壌及び/又は地下水の汚染領域Aから汚染物質が予め定めた境界域Bの外側へ拡散することを原位置にて防止する方法であって、汚染物質を不溶化処理して汚染物質の地下水への溶出量を低減させる原位置不溶化処理工程と、汚染領域Aを通過するように注入井12から水Wを供給するとともに、汚染領域Aを通過した水Wを地下水とともに揚水井11から汲み上げ、揚水井11から汲み上げた揚水S1中の汚染物質を除去して揚水S1を浄化処理する残存汚染物質除去工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば重金属等の汚染物質で汚染された土壌及び/又は地下水の汚染領域から汚染物質が拡散することを原位置にて防止する汚染物質の原位置拡散防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば重金属等の汚染物質に汚染された土壌(及び/又は地下水)は、掘削除去などして完全にその場(原位置)から取り除くことが望ましい。しかしながら、特に汚染が広範に亘っているような場合、すなわち汚染領域が広大な場合には、汚染土壌(及び/又は汚染地下水)の掘削除去やその後の処理に莫大なコストがかかるという問題があった。また、近年、除去した汚染土壌を処分するための廃棄物最終処分場(管理型最終処分場や遮断型最終処分場)が不足しており、安易に汚染土壌を掘削して処分することが困難となっている。
【0003】
このため、従来、例えば薬剤などの不溶化処理剤を汚染土壌や汚染地下水に接触させて汚染物質を不溶化させたり、例えば図2に示すように、シートパイルやコンクリート壁などの遮水壁1を、汚染領域Aに対し地下水流Tの下流側に設置または汚染領域Aを囲んで汚染物質を封じ込めるように設置したり、例えば図3に示すように、バリア井戸2を汚染領域Aに対し地下水流Tの下流側に設置し、この井戸2から汚染地下水を揚水するなどして、境界域Bから外側への汚染物質の拡散を防止する対策が提案、実施されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−340447号公報
【特許文献2】特開平11−207314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、原位置で汚染物質を不溶化処理する場合には、不溶化処理剤を全ての汚染物質に接触させることが困難であり、不溶化されない汚染物質が残ってしまう。このため、地下水流によって不溶化されていない汚染物質が拡散するおそれがあった。
【0005】
また、遮水壁を構築して汚染物質を封じ込める場合には、汚染物質の深度方向下方への拡散を防止するために、不透水層が汚染領域よりも深部の好適な位置に存在している必要がある。また、このように好適な位置に不透水層が存在しない場合には、例えばカーテングラウトなどの地盤改良を施して人工的に不透水層を設ける必要が生じる。さらに、完全に汚染領域を囲むように遮水壁を構築した場合には、降水の浸透などによる遮水壁内の地下水位の上昇を防止するために地表面の舗装などの対策が別途必要になる。このため、汚染物質の封じ込めに多大なコストを要することになる。さらに、工場施設など立地条件によっては、好適な位置に遮水壁を構築できない場合もある。
【0006】
一方、バリア井戸の設置による対策においても、高濃度で汚染されている場合や地下水量が多い場合、汚染が深部に達している場合などでは、井戸の設置数が多くなったり、深度が大きくなり、このような井戸から継続的に汚染地下水を揚水することで莫大な汚染地下水を処理する必要が生じる。このため、揚水した汚染地下水の浄化処理を行なう浄化処理施設の建設コストや、汚染地下水の浄化処理コストが膨大になるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、低コストで、効率的に且つ確実に汚染物質の拡散を防止することが可能な汚染物質の原位置拡散防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明の汚染物質の原位置拡散防止方法は、汚染物質で汚染された土壌及び/又は地下水の汚染領域から前記汚染物質が予め定めた境界域の外側へ拡散することを原位置にて防止する方法であって、前記汚染物質を不溶化処理して前記汚染物質の地下水への溶出量を低減させる原位置不溶化処理工程と、前記汚染領域を通過するように注入井から水を供給するとともに、前記汚染領域を通過した前記水を前記地下水とともに揚水井から汲み上げ、該揚水井から汲み上げた揚水中の前記汚染物質を除去して該揚水を浄化処理する残存汚染物質除去工程とを備えることを特徴とする。
【0010】
この発明においては、原位置不溶化処理工程によって汚染物質の大部分が不溶化処理され、残存汚染物質除去工程によって、不溶化されずに残った汚染物質を汚染領域から除去することができる。これにより、汚染領域には、不溶化された汚染物質が残ることになるため、確実に汚染物質の拡散を防止することができる。
【0011】
また、残存汚染物質除去工程で地上に汲み上げた揚水には、原位置不溶化処理工程で不溶化されずに残った汚染物質が含まれることになるため、この揚水の汚染物質濃度を低濃度に抑えることができる。これにより、浄化処理の負荷を確実に軽減することができ、安定して効率的に浄化処理を行なうことが可能になる。
【0012】
また、本発明の汚染物質の原位置拡散防止方法においては、前記注水井から供給する前記水に、前記原位置不溶化処理工程で不溶化されずに残った前記汚染物質を不溶化させるための不溶化処理剤が間歇的あるいは連続的に添加されることが望ましい。
【0013】
この発明においては、不溶化処理剤を添加した水を供給し汚染領域を通過させることによって、不溶化されずに残った汚染物質を不溶化させることが可能になる。これにより、揚水の汚染物質濃度をさらに低減することができるため、浄化処理の負荷をさらに軽減することが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の汚染物質の原位置拡散防止方法によれば、遮水壁を設けることなく、浄化処理の負荷を軽減することができるため、低コストで、効率的に且つ確実に汚染物質の拡散を防止することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図1を参照し、本発明の一実施形態に係る汚染物質の原位置拡散防止方法について説明する。本実施形態は、例えば重金属等の不溶化可能な汚染物質で汚染された土壌及び/又は地下水の汚染領域から汚染物質が予め定めた境界域の外側へ拡散することを原位置にて防止する方法に関するものである。ここで、不溶化可能な汚染物質とは、例えば土壌環境基準や地下水環境基準に定められた重金属類など、人体に悪影響を及ぼしうる物質のうち、薬剤などの不溶化処理剤との接触によって溶解度の低い物質(化合物)に変化したり、吸着などして、地下水への溶出量を低減させることが可能な汚染物質を示す。なお、本発明は、土壌環境基準や地下水環境基準に定められた物質以外の物質で汚染されている場合においても、その物質を不溶化することができれば適用可能である。
【0016】
本実施形態の汚染物質の原位置拡散防止方法に用いる汚染物質拡散防止装置10は、図1に示すように、汚染物質で汚染された土壌及び/又は地下水の汚染領域Aに対し、地下水流Tの上流側T1と下流側T2にそれぞれ設けられた複数の井戸(揚水井11、注入井12)と、揚水井11で汲み上げた揚水S1に含まれる汚染物質を除去する浄化処理施設13とを備えて構成されている。
【0017】
また、本実施形態では、複数の井戸11、12が、汚染領域Aを含み、それより外側への汚染物質の拡散を阻止するように予め定めた境界域B内に設けられている。そして、これら複数の井戸11、12のうち、地下水流Tの上流側T1に設けられた井戸が、地下水(水、供給水)Wを汚染領域Aに供給する注入井12とされ、地下水流Tの下流側T2に設けられた井戸が、注入井12から供給され、汚染領域Aを通過するように流下した供給水Wとともに地下水を地上に汲み上げるための揚水井11とされている。
【0018】
また、本実施形態において、地下水流Tの下流側T2の境界域B側に設けられた第1揚水井11aは、地上にて配管14を介して注入井12に繋げられている。すなわち、この第1揚水井11aで汲み上げた揚水S2が配管14を介して注入井12に送られ、注入井12を通じて汚染領域Aの地下水流Tの上流側に供給水Wとして供給される。また、第1揚水井11aと注入井12を繋ぐ配管14には、揚水S2の一部をサンプリングするための図示せぬ抽出口が設けられており、この抽出口からサンプリングした揚水S2は、その汚染物質濃度が計測される。さらに、第1揚水井11aと注入井12を繋ぐ配管14には、抽出口からサンプリングした揚水S2の汚染物質濃度に応じて不溶化処理剤Rを配管14内に間歇的あるいは連続的に供給し、供給水Wに間歇的あるいは連続的に不溶化処理剤Rを添加する不溶化処理剤供給口14aが設けられている。
【0019】
一方、他の揚水井(第2揚水井11b)は、第1揚水井11aよりも地下水流Tの上流側T1に配置されており、地上にて配管15を介して浄化処理施設13に繋げられている。
【0020】
ついで、上記構成からなる汚染物質拡散防止装置10を用いて汚染物質の拡散を防止する方法について説明するとともに、本実施形態の汚染物質の原位置拡散防止方法の作用及び効果について説明する。
【0021】
本実施形態では、はじめに、第1揚水井11aから地下水を汲み上げるとともに、抽出口からサンプリングして揚水S2の汚染物質濃度を計測する。そして、この汚染物質濃度に応じた量の不溶化処理剤Rを不溶化処理剤供給口14aから揚水S2に供給する。これにより、不溶化処理剤Rを含む供給水Wが注入井12を通じて汚染領域Aに供給される。このように供給された供給水Wは、汚染領域Aを通過するように流下し、これとともに、不溶化処理剤Rと接触して汚染物質が不溶化処理され、汚染物質の地下水への溶出量が低減される。このように第1揚水井11aからの地下水の汲み上げ、不溶化処理剤Rを含む供給水Wの供給を、第1揚水井11aから汲み上げた揚水S2の汚染物質濃度が所定の値に低下するまで継続的に行なってゆく(原位置不溶化処理工程)。そして、揚水S2の汚染物質濃度が所定の値に低下した段階で、汚染領域Aの大部分の汚染物質は不溶化処理され、原位置不溶化処理工程が終了する。なお、供給水Wが供給されることによって一部の汚染物質は地下水流Tの下流側T2へ移動することになるが、第1揚水井11a付近に達した際には、この第1揚水井11aで地下水とともに汲み上げられ、汚染物質が境界域Bの外側へ拡散することはない。すなわち、第1揚水井11aを通過して地下水流Tが境界域Bの外側に流下することがない所定の揚水量で地下水を汲み上げることで、確実に境界域Bの外側への汚染物質の拡散が防止される。
【0022】
一方、原位置不溶化処理工程では、供給水Wが汚染領域A全体に行き渡らず、部分的に不溶化されていない汚染物質が残っている可能性が高い。特に、この種の土壌、地下水汚染では、汚染領域A内で汚染物質の濃度分布が生じて局所的に高濃度の汚染が認められる場合が多いため、1回の原位置不溶化処理工程で不溶化処理剤Rを全ての汚染物質に接触させて不溶化処理を施すことが難しい。
【0023】
このため、本実施形態では、原位置不溶化処理工程後に、継続して第1揚水井11aからの地下水の汲み上げ及び注入井12からの供給水Wの供給を行なう。また、これと同時に、第2揚水井11bから、汚染領域Aを通過した供給水W及び地下水の汲み上げを開始する。このように第2揚水井11bから汲み上げた揚水S1は、原位置不溶化処理工程で不溶化されずに残った汚染物質を洗い流すように汚染領域Aを通過することで、汚染物質が含まれる。このため、第2揚水井11bによる地下水の汲み上げを行なうことで、徐々に汚染領域Aに不溶化されずに残った汚染物質が除去されてゆく(残存汚染物質除去工程)。そして、このように第2揚水井11bで汲み上げた揚水S1は、浄化施設13に送られ、この浄化施設13によって汚染物質が除去され、下水道や公共用水域へ放流される。ここで、このように第2揚水井11bから汲み上げられた揚水S1は、予め原位置不溶化処理工程によって汚染領域Aの大部分の汚染物質が不溶化されているため、その汚染物質濃度が低く維持されることになる。これにより、浄化施設13に高濃度の揚水S1が送られることはなく、浄化施設13への負荷が軽減され、安定して効率的に浄化処理が行なわれる。
【0024】
また、第2揚水井11bから地下水を汲み上げると同時に、第1揚水井11aから汲み上げた揚水S1に対し、汚染物質濃度が計測されている。そして、この汚染物質濃度が上昇してきた場合には、不溶化処理剤供給口14aから不溶化処理剤Rを供給して、不溶化処理剤Rを添加した供給水Wを汚染領域Aに供給する。すなわち、揚水S1の汚染物質濃度に応じて間歇的に不溶化処理剤Rを供給水Wに添加する。これにより、第2揚水井11bによって不溶化されずに残った汚染物質を汚染領域Aから除去するとともに、この汚染領域Aに残った汚染物質が供給水Wに添加した不溶化処理剤Rによって不溶化される。そして、このように残存汚染物質除去工程中に、不溶化されずに残った汚染物質を不溶化処理することで、第2揚水井11bから汲み上げられた揚水S1の汚染物質濃度が確実に低く維持されることになり、確実に浄化施設13への負荷が軽減される。なお、残存汚染物質除去工程において、連続的に不溶化処理剤Rを供給水Wに添加して、不溶化されずに残った汚染物質を不溶化処理するようにしてもよく、このようにした場合には、より確実に浄化施設13への負荷が軽減される。
【0025】
したがって、本実施形態の汚染物質の原位置拡散防止方法においては、原位置不溶化処理工程によって予め汚染物質の大部分が不溶化処理され、この原位置不溶化処理工程後の残存汚染物質除去工程によって、不溶化されずに残った汚染物質を汚染領域Aから除去することができる。これにより、第1揚水井11aや第2揚水井11bからの揚水S1、S2中に汚染物質が含まれなくなった時点で、汚染領域Aには、不溶化された汚染物質が残ることになるため、確実に汚染物質の拡散を防止することができる。
【0026】
また、残存汚染物質除去工程で地上に汲み上げた揚水S1には、原位置不溶化処理工程で不溶化されずに残った汚染物質が含まれることになるため、この揚水S1の汚染物質濃度を低濃度に抑えることができる。これにより、浄化処理の負荷を確実に軽減することができ、安定して効率的に浄化処理を行なうことが可能になる。
【0027】
さらに、不溶化処理剤Rを添加した水を供給し汚染領域Aを通過させることによって、不溶化されずに残った汚染物質を不溶化させることが可能になる。これにより、揚水S1の汚染物質濃度をさらに低減することができるため、浄化処理の負荷をさらに軽減することが可能になる。
【0028】
よって、本実施形態の汚染物質の原位置拡散防止方法によれば、従来のように遮水壁を設けることなく、浄化処理の負荷を軽減することができるため、低コストで、効率的に且つ確実に汚染物質の拡散を防止することが可能になる。
【0029】
以上、本発明に係る汚染物質の原位置拡散防止方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、第2揚水井11bから汲み上げられた揚水S1が、浄化施設13に送られ、この浄化施設13で汚染物質を除去した後に下水道や公共水域に放流されるものとしたが、この浄化施設13で浄化した水を供給水Wに転用してもよい。
【0030】
また、本実施形態では、原位置不溶化処理工程時に第2揚水井11bによる地下水の汲み上げを行なわないものとして説明したが、浄化施設13への負荷が許容される場合には、原位置不溶化処理工程と残存汚染物質除去工程を並行して行なってもよい。このようにした場合には、工期の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る汚染物質の原位置拡散防止方法を示す図である。
【図2】従来の汚染物質の原位置拡散防止方法を示す図である。
【図3】従来の汚染物質の原位置拡散防止方法を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
10 汚染物質拡散防止装置
11 揚水井
11a 第1揚水井
11b 第2揚水井
12 注入井
13 浄化施設
14 配管
15 配管
A 汚染領域
B 境界域
R 不溶化処理剤
S1 揚水
S2 揚水
T 地下水流
T1 上流側
T2 下流側
W 供給水(水)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染物質で汚染された土壌及び/又は地下水の汚染領域から前記汚染物質が予め定めた境界域の外側へ拡散することを原位置にて防止する方法であって、
前記汚染物質を不溶化処理して前記汚染物質の地下水への溶出量を低減させる原位置不溶化処理工程と、前記汚染領域を通過するように注入井から水を供給するとともに、前記汚染領域を通過した前記水を前記地下水とともに揚水井から汲み上げ、該揚水井から汲み上げた揚水中の前記汚染物質を除去して該揚水を浄化処理する残存汚染物質除去工程とを備えることを特徴とする汚染物質の原位置拡散防止方法。
【請求項2】
請求項1記載の汚染物質の原位置拡散防止方法において、
前記注水井から供給する前記水に、前記原位置不溶化処理工程で不溶化されずに残った前記汚染物質を不溶化させるための不溶化処理剤が間歇的あるいは連続的に添加されることを特徴とする汚染物質の原位置拡散防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−279360(P2008−279360A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125588(P2007−125588)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】