説明

沈降性硫酸バリウムの製造法

【課題】 従来、沈降性硫酸バリウムは塩化バリウムなど可溶性バリウム化合物の水溶液に硫酸ナトリウムなどの硫酸化合物の水溶液を混合して共沈反応により製造されているが、反応条件として、Baが0.1mol/l以下の低濃度で、しかも、高価な可溶性バリウム化合物を原料として使用する必要があるなどの問題があったので、Baが0.1mol/l以上の高濃度で、しかも原料として安価なバリウム化合物を用いることができる沈降性硫酸バリウムの製造法の開発が求められていた。
【解決手段】 Ba原料として、可溶性バリウム化合物よりも安価な、難溶性炭酸バリウム粉をBa原料に用いて、これを硫酸塩水溶液に添加して撹拌混合することにより得られるBaが0.1mol/l以上の高濃度の炭酸バリウムの白色乳状液から、硫酸バリウムを析出させる沈降性硫酸バリウムの製造法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸塩水溶液に難溶性の炭酸バリウム粉を添加して撹拌混合することにより得られる炭酸バリウムの白色乳状液から硫酸バリウムを析出させる沈降性硫酸バリウムの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
沈降性硫酸バリウムは、X線造影剤など医療分野、隠蔽力が強い白色顔料や高分子製品の充填剤など顔料分野で広く使用されている。
【0003】
沈降性硫酸バリウムの従来の製造法は、塩化バリウムなどの可溶性バリウム化合物の水溶液と硫酸ナトリウムなどの硫酸化合物の水溶液を混合して共沈反応により硫酸バリウム沈殿を生成するものである。反応条件としてはBaイオン濃度が0.001〜0.1mol/lの低濃度であることが特許文献1〜3に示されている。例えば、特許文献1にはBa0.001〜0.1mol/lの低濃度の水溶液に、モル比で0.1〜5倍の硫酸化合物の水溶液を添加混合して共沈反応により硫酸バリウムを生成する方法である。また、特許文献4には、さらに低濃度のBaが0.001〜0.05mol/lで生成する方法が示されている。
【0004】
上述のように、従来の沈降性硫酸バリウムの製造法は、共沈反応により生成する方法であるから、バリウム原料として高価な水溶性バリウム化合物、例えば、塩化バリウムなどを使用する必要があった。
【0005】
また、共沈反応は反応速度が敏速であるから、均一反応を行わせるためには、反応は低濃度で行う必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−058624号公報
【特許文献2】特開平6−092630号公報
【特許文献3】特開平7−277729号公報
【特許文献4】特開平3−257016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の沈降性硫酸バリウムの製造法は、原料のバリウム化合物や硫酸化合物は共に水溶液であり、これらを混合して共沈反応させる方法であるから、原料のバリウム化合物は水溶性である必要があり、また、均一反応のために反応濃度は低濃度で行う必要があった。そのため、反応条件として、高価な水溶性Ba化合物を原料に使用し、低濃度の反応で生成することが避けられなかった。このような背景から、安価なバリウム化合物を用いて、高濃度の反応で生成できる沈降性硫酸バリウムの製造法の開発が求められていた。そこで、本発明は、安価なBa化合物として難溶性炭酸バリウム粉を原料に用い、Ba濃度が0.1mol/l以上の高濃度の反応で生成できる沈降性硫酸バリウムの製造法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0009】
即ち、本発明は、硫酸塩水溶液に炭酸バリウム粉を添加して撹拌混合することにより得られる炭酸バリウムの白色乳状液から硫酸バリウムを析出させることを特徴とする沈降性硫酸バリウムの製造法である(第1発明)。
【0010】
また、本発明は、炭酸バリウムの白色乳状液が、SOイオン濃度で0.1〜1.2mol/lの硫酸塩水溶液に、該水溶液のSOイオン濃度に対して、0.1〜1.05当量の炭酸バリウム粉を添加して撹拌混合することにより得られる炭酸バリウムの白色乳状液である沈降性硫酸バリウムの製造法である(第2発明)。
【0011】
また、本発明は、炭酸バリウムの白色乳状液から硫酸バリウムを析出させる温度が、20℃〜100℃である沈降性硫酸バリウムの製造法である(第3発明)。
【0012】
また、本発明は、沈降性硫酸バリウムが、第1発明〜第3発明のいずれかの製造法により得られた沈降性硫酸バリウムである(第4発明)。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安価な難溶性炭酸バリウム粉を原料に用い、簡易な装置で沈降性硫酸バリウムを製造ることができ、さらに、硫酸バリウムを高濃度(Ba:0.1mol/l以上)で生成することができる等、経済性および生産性の向上に優れた効果をもたらす。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を説明する。
【0015】
先ず、硫酸塩水溶液の濃度を調整する。
濃度調整装置には加熱設備と攪拌機を備えた溶解槽が用いられる。攪拌機としては通常の攪拌羽を備えた攪拌機が用いられる。
【0016】
硫酸塩水溶液としては、硫酸ナトリウム(別名:ボウ硝)の結晶や粉末を水に溶解した硫酸ナトリウム水溶液、硫酸水溶液等を用いることができ、好ましくは硫酸ナトリウムである。
【0017】
硫酸塩水溶液の濃度は、SOイオン濃度で0.1〜1.2mol/lに調整する。硫酸塩水溶液の濃度が0.1mol/l未満では、生成する硫酸バリウムの収率が低下するので好ましくなく、また、1.2mol/lを超える場合、溶解析出の反応速度が遅くなり、反応時間が長くなるので好ましくない。好ましい範囲は0.3〜1.2mol/lである。より好まし範囲は0.5〜1.2、最も好ましい範囲は0.8〜1.1mol/lである。
【0018】
次に、濃度調整を完了した硫酸塩水溶液に炭酸バリウム粉を添加して炭酸バリウムの白色乳状液を調製する。
白色乳状液の調製装置には、炭酸バリウム粉を十分に分散させる必要があるのでホモジナイザー、ホモミキサー、ラインミキサー、アトライターなどの高性能分散機を備えた分散槽が用いられる。好ましい装置としては循環型分散装置である。
【0019】
炭酸バリウム粉の添加量は、先に調整して準備した硫酸塩水溶液のSOイオン濃度に対して0.1〜1.05当量である。0.1当量未満では、生成する硫酸バリウムの収率が低下するので好ましくなく、1.05当量を超える場合では未反応の炭酸バリウムが多量に残存するので好ましくない。好ましい添加量の範囲は0.3〜1.05当量であり、より好ましい範囲は0.5〜1.05、最も好ましい範囲は0.8〜1.0当量である。
【0020】
次に、調製した炭酸バリウムの白色乳状液から溶解析出反応により硫酸バリウムを析出させる。この溶解析出反応槽には、温度調整機能を有する加熱装置と撹拌機を備えた反応槽が用いられる。
【0021】
溶解析出反応を促進するために加熱する加熱温度は20℃〜100℃である。20℃未満の温度では炭酸バリウムが溶解し難く溶解析出反応も生起し難い。また、100℃を超える温度でも可能であるが、実施するのに特殊な装置が必要となるので好ましくない。好ましい温度範囲は40℃〜90℃、より好ましくは50℃〜80℃、最も好ましい温度範囲は60℃〜70℃である。
【0022】
溶解析出反応の後、常法に従って、水洗、乾燥して、硫酸バリウム粉末を得ることができる。
【0023】
本発明に係る製造法によって得られる硫酸バリウム粉末は、平均粒子径が0.2〜2.0μmであり、BET比表面積が2.0〜8.0m/gである。
【0024】
本発明に係る製造法によって得られる硫酸バリウム粉末は、白色顔料、充填剤などに用いることができる。
【0025】
本発明に係る製造法によって得られる懸濁液について、原料の硫酸塩水溶液が硫酸ナトリウムである場合には、固形分をろ別した水溶液は炭酸ナトリウム水溶液であるので、各種化合物の原料として用いることができる。
【0026】
<作用>
本発明者らは、前述した課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、従来、炭酸バリウム粉は安価ではあるが難溶性であるために、沈降性硫酸バリウムの製造原料としては使用できないと敬遠されていたが、炭酸バリウム粉の僅かな溶解度(100gの水に対して、18℃で2.2mg、100℃で6.5mg)に注目した。即ち、炭酸バリウムの溶解度が小さくても、硫酸バリウムの溶解度(100gの水に対して、25℃で0.246mg、100℃で0.413mg)と比較すれば、炭酸バリウムの溶解度は10倍以上である。
【0027】
本発明の場合、硫酸塩水溶液中に炭酸バリウム粉を添加して撹拌混合することにより得られる炭酸バリウムの白色乳状液においては、炭酸バリウムは硫酸塩水溶液に溶解してBaイオンを生じながら分散するが、やがて、炭酸バリウムの溶解は、該溶液温度の各温度において飽和する筈である。しかしながら、炭酸バリウムが溶解して生じたBaイオンは水溶液中のSOイオンと反応して硫酸バリウムを生成し、前述した炭酸バリウムと硫酸バリウムの溶解度の差により、硫酸バリウムの過飽和Baイオンが硫酸バリウムを生成し、炭酸バリウムは僅かな溶解度であるが飽和することなく溶解しつづけるので、硫酸バリウムの析出反応が継続し、炭酸バリウムから硫酸バリウムへ転換する炭酸バリウムの溶解と硫酸バリウムの析出反応が生起するものと本発明者らは考えている。
【実施例】
【0028】
次に、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0029】
硫酸ナトリウムおよび炭酸バリウム粉は試薬一級を、用水にはイオン交換水を用いた。
分散反応装置には、温度調節装置を備えたウォーターバスに、容積500mlのガラスビーカーを設置し、ビーカー内にはpH電極と撹拌混合用小型ホモミキサーを設置した装置を用いた。
【0030】
生成物の分析には、炭酸ナトリウム水溶液はJIS規格(JIS K0102;2008−15、16)の分析法に従って行った。硫酸バリウム沈殿は、X線回折法で同定し、粒子形態は透過型電子顕微鏡を用いて観察し、比表面積はBET法により求めた。
【0031】
実施例1
500mlのガラスビーカーに、イオン交換水250mlと硫酸ナトリウム粉8.88グラムを投入し、ホモミキサーで撹拌溶解した。この溶液の温度は26℃で、pH値は6.60であった。次に、この硫酸ナトリウム水溶液に12.33グラムの炭酸バリウム粉を添加してホモミキサーで撹拌混合した。水溶液の温度は30℃に保持しながら撹拌混合をつづけた。30分後のpH値は10.85で、白色スラリーから白色乳状の高粘性液に変化した。この分散液は90分後にpH値が下がり始め120分後にはpH値は10.76に低下し、粘性も低下した白色スラリーとなった。
このスラリーを分析用ろ紙5Cを用いて、ロートで固液分離した。白色の固形物は水洗して80℃のオーブンで乾燥し14.5gを得た。この乾燥物は、電子顕微鏡観察の結果、原料の炭酸バリウム粉の粒子形態と異なり、粒度が0.95μmで微粒子化しており、粒子形状も長方形から粒状に変化していた。この粉体のX線分析の結果は硫酸バリウムであった。一方、ろ液を分析した結果は0.25mol/l濃度の炭酸ナトリウム水溶液であった。これらの結果は、炭酸バリウム粉が硫酸バリウム粉に100%転換したことを示すものであった。
【0032】
実施例2〜3
硫酸ナトリウム水溶液の濃度及び反応時間を変えた以外は、前記実施例1と同条件で行った。このときの製造条件を表1に、得られた生成物の分析結果を表2に各々示した。
【0033】
実施例4〜7
硫酸ナトリウム水溶液の濃度、炭酸バリウム粉の添加量、加熱温度及び反応時間を変えた以外は、前記実施例1と同条件で行った。このときの製造条件を表1に、得られた生成物の分析結果を表2に各々示した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、簡便な装置で、低単価な炭酸バリウム粉と硫酸塩水溶液とから、産業上有用で高価な白色顔料である沈降性硫酸バリウム粉の製造が可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸塩水溶液に炭酸バリウム粉を添加して撹拌混合することにより得られる炭酸バリウムの白色乳状液から硫酸バリウムを析出させることを特徴とする沈降性硫酸バリウムの製造法。
【請求項2】
炭酸バリウムの白色乳状液が、SOイオン濃度で0.1〜1.2mol/lの硫酸塩水溶液に、該水溶液のSOイオン濃度に対して、0.1〜1.05当量の炭酸バリウム粉を添加して撹拌混合することにより得られる炭酸バリウムの白色乳状液であることを特徴とする請求項1に記載の沈降性硫酸バリウムの製造法。
【請求項3】
炭酸バリウムの白色乳状液から硫酸バリウムを析出させる温度が、20℃〜100℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の沈降性硫酸バリウムの製造法。
【請求項4】
沈降性硫酸バリウムが、請求項1〜3のいずれかに記載の製造法により得られた硫酸バリウムであることを特徴とする沈降性硫酸バリウム。

【公開番号】特開2011−184228(P2011−184228A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50421(P2010−50421)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】