説明

油入変電機器の消火装置

【課題】設置スペース及びコストを抑えつつ、油入変電機器本体に大量のNガス又はCOガスを直接供給することができる油入変電機器の消火設備を提供する。
【解決手段】N又はCOガスが充填されたガス絶縁母線3bと、この一端と接続して油入変電機器12を収容する消火タンク2と、これらの接続部で、N又はCOガスと油入変電機器12の油の間及び、N又はCOガスと消火タンク2中の空気の間をシールするためのシール手段と、消火タンク2に設けられた火災感知器8と、噴射制御システム13とで油入変電機器の消火装置を構成する。噴射制御システム13は火災感知器8からの信号に基づいて、ガス噴射部6に対し噴射指令を出力し、ガス噴射部6はそれに基づいてガス絶縁母線内のN又はCOガスを消火タンク2内に噴射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油入変電機器の消火装置に係り、油入変電機器の火災の際または火災発生のおそれがあるときに、ガス絶縁母線内部に充填された不燃性ガスを油入変電機器に向けて放出することで火災の消火及び予防を促進することが可能な油入変電機器の消火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油入変電機器、例えば油入変圧器は、内部に絶縁油としての鉱油を多量に封入しており、地震等による破損で鉱油が漏れると火災が発生するおそれがある。よって、その設置に際しては、消火設備の設置が義務付けられている。大型の油入変圧器を設置した建屋等に消火設備を設ける場合には、噴出能力の大きなものが要求されるため、設置スペースとコストの問題がある。
【0003】
特許文献1には、油入変電機器と他の機器とを接続する箇所を、火災発生のおそれのある部位に特定し、この特定部のみに不活性ガスよりなる消火ガスを供給することで経済的に製作できる油入変電機器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−206220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この発明では、消火ガスが油入変電機器本体に直接供給されないため、油入変電機器本体が出火元である場合には油入変電機器本体が鎮火するまで消火ガスを特定部に供給し続けなければならず消火効率が悪いという問題がある。また、特定部位以外への延焼のおそれがある。
【0006】
このような問題にかんがみ、本発明は、設置スペース及びコストを抑えつつ、油入変電機器本体に大量の消火ガスを直接供給することができる油入変電機器の消火設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の油入変電機器の消火装置は、Nガス又はCOガスが充填されたガス絶縁母線と、前記ガス絶縁母線の一端と接続して油入変電機器を収容する消火タンクと、前記ガス絶縁母線と前記消火タンクの接続部で、前記ガス絶縁母線中のNガス又はCOガスと前記油入変電機器の油の間をシールすると同時に、前記ガス絶縁母線中のNガス又はCOガスと前記消火タンク中の空気の間をシールするためのシール手段と、前記ガス絶縁母線と前記消火タンクを開閉可能に連結するガス噴射部と、前記消火タンクに設けられた火災感知器と、前記火災感知器及び前記ガス噴射部と連絡する噴射制御システムとで構成され、前記噴射制御システムは前記火災感知器からの信号に基づいて、前記ガス噴射部に対し噴射指令を出力し、前記ガス噴射部は、前記噴射指令に基づいて前記ガス絶縁母線内のNガス又はCOガスを前記消火タンク内に噴射することを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記消火タンクは換気口を有することを特徴とする。
【0009】
ここで、本発明における「消火タンク」は、油入変電機器全体を取り囲んで覆い密封されている構成、又は、換気口を通して外気と連通し、その他の箇所は密封されている構成をとる。また、本発明における「換気口」は、消火タンク内のガスを消火タンク外に排出することができるものであれば特に限定されない。
【発明の効果】
【0010】
本発明の油入変電機器の消火装置によれば、常備するガスボンベ数を従来よりも減らしつつ、十分必要量のNガス又はCOガスを供給することが可能となり、コストの低減及び消火タンクの設置スペースの削減につながる。
【0011】
また、消火タンクに、例えばベンチレータ等の換気口を設けることで、ガス絶縁母線から消火タンク内へNガス又はCOガスが流入する際に、消火タンク内の高温の空気(酸素)を消火タンク外に排出しやすくし、消火効率を上げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の油入変電機器の消火装置を有するGISの概略図である。
【図2】本発明の油入変電機器の消火装置の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による油入変電機器の消火装置の構成を、以下図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0014】
図1に示すように、本発明に係る油入変電機器の消火装置は、SFガスが充填された開閉機構部1とそれに接続されるNガス又はCOガスが充填されたガス絶縁母線3bとで構成されるガス絶縁開閉装置において用いることができる。
【0015】
開閉機構部1は、遮断器1aと断路器1bを配置することで構成される。開閉機構部1は、その一端が中心導体5aを内部に有するガス絶縁母線3aを介して引込ブッシング4に接続される。また、開閉機構部1の他端は、中心導体5bを内部に有するガス絶縁母線3bを介して油入変電機器12に接続される。
【0016】
開閉機構部1には、絶縁性能及びアークに対する消弧性能を確保する為にSFガスを充填する。アークが発生しないガス絶縁母線3a及び3bには、NガスやCOガスを高圧力で充填し所望の絶縁性能を確保する。Nガス及びCOガスのガス圧は、大気圧よりも高ければよく、好ましくは5〜6気圧である。
【0017】
一方、図2に示すように、消火タンク2には換気口、例えばベンチレータ2aが設けられ、消火タンク2内の気圧を大気圧に維持している。このため、ガス絶縁母線3b内のNガス又はCOガスの圧力は、消火タンク2内の大気圧と比べて高くなるため、ガス噴射部6を開放することでガス絶縁母線3b内のNガス又はCOガスが消火タンク2内に流入する。
【0018】
図2に示すように、ガス絶縁母線3bと油入変電機器12の連結部分は、絶縁物9、シール10及び導体11で構成される油ガスブッシングのようなシール手段が配される。このシール手段によって、ガス絶縁母線3b内のNガス又はCOガスと油入変電機器12の絶縁油が混ざらないことに加え、ガス絶縁母線3b内のNガス又はCOガスと消火タンク2内の空気が混ざらないような構成をとる。
【0019】
導体11が絶縁物9を介して設けられ、その一端は絶縁母線3b内の中心導体5bに連結される。導体11の他端は油入変電機器12の巻線(不図示)に連結される。なお、上記の油ガスブッシングの代わりに同様のシール手段として絶縁スペーサを用いてもよい。
【0020】
ガス噴射部6は、ガス配管6a、バルブ6b、噴射ヘッド6cで構成される。ガス配管6aはその一端がガス絶縁母線3bに連結し、その他端がバルブ6bを介して噴射ヘッド6cに連結される。噴射ヘッド6cは消火タンク2内部に設けられる。
【0021】
消火タンク2は、その内部に油入変電機器12の火災を検知する消火システム用感知器8を有する。図1に点線で示すように、消火システム用感知器8は、消火タンク2の外に設けられた噴射制御システム13の制御ユニット13aに、例えば制御ケーブル7等で連結される。制御ユニット13aは起動ユニット13bに連結され、起動ユニット13bはバルブ6bに連結される。
【0022】
制御ユニット13aは、消火システム用感知器8からの信号を基にバルブ6bの開放が必要か否かを判定し、必要と判定した場合には起動ユニット13bに対し起動信号を出力する。起動ユニット13bは、制御ユニット13aからの起動信号に応じてバルブ開放の為の信号をバルブ6bに対して出力する。
【0023】
また、上記の構成に加えて、消火タンク2の外部近傍にNガス又はCOガスを充填したガスボンベ14を設けることが好ましい。ガスボンベ14と消火タンク2を連結するガス配管14aにバルブ14bを設け、このバルブ14bに起動ユニット13bを連結する。こうすることで、火災発生時にガスボンベ14からも消火タンク2に対してNガス又はCOガスを放出することが可能となる。
【0024】
タンク2内の空間の容積とガス絶縁母線3bの容積は設置スペースに応じて適宜決定される。消火効率を上げるためには十分な量のNガス又はCOガスをガス絶縁母線3bからタンク2内に供給することが必要である。
【0025】
このため、ガス絶縁母線3bの容積がタンク2内の空間の容積に比べ大きい構成であるのが好ましい。こうすることで、ガス絶縁母線3bとタンク2内の気圧差から、消火に十分な量のNガス又はCOガスをガス絶縁母線3bからタンク2内に供給することが可能となる。
【0026】
さらに消火タンク2には換気口、例えばベンチレータ2a、を設けることで、ガス絶縁母線から消火タンク内へNガス又はCOガスが流入する際に、消火タンク内の高温の空気(酸素)を消火タンク外に排出しやすくし、消火効率を上げることが可能となる。
【0027】
一方、ガス絶縁母線3bの容積がタンク2内の空間の容積と同程度、又はそれよりも小さい場合には、ガスボンベ14を必要に応じて増設し消火に必要な量のNガス又はCOガスを補うようにすればよい。
【0028】
次に、本発明の動作について説明する。消火タンク2内に設置された消火システム用感知器8が消火タンク2内の温度の異常を感知した場合には、消火システム用感知器8はその異常を知らせる信号を制御ユニット13aに出力する。制御ユニット13aは、この信号に基づいてガス噴射部6のバルブ6b及びガスボンベ14のバルブ14bの開放が必要か否かを判定する。
【0029】
制御ユニット13aがバルブ6b、14bの開放が必要と判定した場合には、制御ユニット13aは起動ユニット13bに対し起動信号を出力する。起動信号を受信した起動ユニット13bは、バルブ開放の為の信号をバルブ6b、14bに対して出力する。
【0030】
バルブ6b、14bが開放されると、内部の気圧差によりガス絶縁母線3b内及びガスボンベ14内のNガス又はCOガスが消火タンク2内に放出される。バルブ14bの開放とバルブ6bの開放は同時でもよく、バルブ14bの開放がバルブ6bの開放に優先してもよく、バルブ6bの開放がバルブ14bの開放に優先してもよい。
【0031】
バルブ6b、14bの開放は、消火システム用感知器8により異常が検知されなくなるまで維持される。制御ユニット13aが消火タンク2内部の異常な状態が終了したことを判定すると、制御ユニット13aから起動ユニット13bに対してバルブ閉の信号が出力される。起動ユニット13bに入力されたバルブ閉の信号は、バルブ6b、14bにそれぞれ出力される。この信号によりバルブ6b、14bは閉じられ、消火タンク内へのNガス又はCOガスの放出が停止する。
【0032】
消火タンク2内は大気雰囲気であり、平常時の酸素濃度約23%である。火災発生時には、上述のとおり、Nガス又はCOガスが噴射ヘッド6c、14cから消火タンク2内に噴射される。消火タンク2内のNガス又はCOガスの濃度が上昇し、消火タンク2内の酸素濃度が約13%以下になると概ね消火が完了する。
【0033】
消火タンク2にベンチレータ等の換気口を設けることで、消火タンク2内の空気がベンチレータ2aから排出されるため、より効率よく酸素濃度を低下させ消火効率を上げることが可能となる。
【0034】
以上のように、本発明によれば、火災時にNガス又はCOガスをガスボンベ14とガス絶縁母線3bの2系統から消火タンク2内に放出することができる。よって、常備するガスボンベ数を従来よりも減らしつつ十分必要量のNガス又はCOガスを供給することが可能となり、コストの低減及び消火タンクの設置スペースの削減につながる。
【0035】
また、ガス絶縁母線3bのバルブ6b又はガスボンベ14のバルブ14bの一方に不具合が生じても、他方のバルブの作動により消火装置を作動することができるので、信頼性の高い油入変電機器の消火装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 開閉機構部
2 消火タンク
2a ベンチレータ
3a、3b ガス絶縁母線
4 引込ブッシング
5a、5b 中心導体
6 ガス噴射部
6a ガス配管
6b バルブ
6c 噴射ヘッド
7 制御ケーブル
8 消火システム用感知器
9 絶縁物
10 シール
11 導体
12 油入変電機器
13 噴射制御システム
13a 制御ユニット
13b 起動ユニット
14 ガスボンベ
14a ガス配管
14b バルブ
14c 噴射ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス又はCOガスが充填されたガス絶縁母線と、
前記ガス絶縁母線の一端と接続して油入変電機器を収容する消火タンクと、
前記ガス絶縁母線と前記消火タンクの接続部で、前記ガス絶縁母線中のNガス又はCOガスと前記油入変電機器の油の間をシールすると同時に、前記ガス絶縁母線中のNガス又はCOガスと前記消火タンク中の空気の間をシールするためのシール手段と、
前記ガス絶縁母線と前記消火タンクを開閉可能に連結するガス噴射部と、
前記消火タンクに設けられた火災感知器と、
前記火災感知器及び前記ガス噴射部と連絡する噴射制御システムとで構成され、
前記噴射制御システムは前記火災感知器からの信号に基づいて、前記ガス噴射部に対し噴射指令を出力し、
前記ガス噴射部は、前記噴射指令に基づいて前記ガス絶縁母線内のNガス又はCOガスを前記消火タンク内に噴射することを特徴とする油入変電機器の消火装置。
【請求項2】
請求項1において、前記消火タンクは換気口を有することを特徴とする油入変電機器の消火装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−22111(P2013−22111A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157514(P2011−157514)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)