説明

油入電気機器の異常診断方法

【課題】変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油が隔壁で区画される油入電気機器の変圧器本体の異常を簡易な方法で診断することができる油入電気機器の異常診断方法を提供すること。
【解決手段】変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油が隔壁で区画された油入電気機器の異常診断方法であって、油入電気機器から変圧器本体絶縁油の試料を採取し、該試料油中のメチルビニルアセチレンの有無を分析することにより、油入電気機器の変圧器本体の異常を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油入電気機器の内部、特にコンサベータを使用している変圧器本体の異常診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油入電気機器に使用されているコンサベータは、大別して、変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油が隔壁ゴム状膜で区画されたタイプと、変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油がゴム状膜以外の隔壁で区画されたタイプがある。前者のコンサベータは、例えば図1に示すように、変圧器本体上部に設置され、負荷変動により変圧器内の本体絶縁油11が膨張、収縮する際にコンサベータ10の内部の隔壁ゴム状膜12が応動することにより絶縁油の体積増減を吸収し、かつ外気と本体絶縁油11の接触による劣化を防止する。また、隔壁ゴム状膜12は、変圧器本体絶縁油11と切換開閉器室油13とを区画する隔壁の役割を果たしている。このため、隔壁ゴム状膜12には、膨張収縮に応動する伸縮性、切換開閉器室油13からガスの透過を防止して本体絶縁油11の清浄性を保つガス不透過性及び耐油性に優れる材料のものが使用されている。
【0003】
後者のコンサベータは、例えば図2に示すように、変圧器本体上部に設置され、負荷変動により変圧器内の本体絶縁油21が膨張、収縮する際にコンサベータ20内にある外気に連通したゴムセル22が応動することにより絶縁油の体積増減を吸収し、かつ外気と本体絶縁油21の接触による劣化を防止する。
【0004】
いずれのコンサベータ10、20においても、切換開閉器室油13、23はタップ切換時に発生するアーク放電のため、使用中に徐々に汚損して絶縁性が低下すると共に、アセチレン、メチルビニルアセチレン、2−メチル−1,3ブタジエンなどのガス成分が増加してくる。一方、変圧器本体絶縁油は、変圧器本体内部において放電又は過熱等の異常が起きた場合、アセチレン、メチルビニルアセチレン、2−メチル−1,3ブタジエンなどのガス成分が増加してくる。また、コンサベータ10、20は、変圧器本体側において、変圧器本体絶縁油11、21内にタップ切換開閉器室が液密に配置されているため、シール不良が生じると、切換開閉器室油13、23に含まれるガス成分が変圧器本体絶縁油21側に移動してくることがある。
【0005】
油入電気機器の保守管理に関する効果的な一手法として、油中ガス分析による保守管理が電力会社他多数のユーザーで採用され、事故防止に役立っている(例えば、非特許文献1)。油中ガス分析による異常診断は、機器を停止することなく絶縁油を採取し、油中に溶存しているガス成分を抽出、分析してガスの量及び種類から放電や過熱などの異常を早期に発見する技術である。
【0006】
油入電気機器の内部異常診断は、当初、絶縁油中に溶存しているエチレンガス、アセチレンガスなど数種類の低沸点ガスを、電気協同研究、第54巻、第5号(1999)に報告されている分析方法(以下、電協研法と称する)を用いて行なっていた。近年では、分析技術の進歩に伴い、メチルビニルアセチレン、2−メチル−1,3ブタジエン等多種類の高沸点微量ガスを高感度で分析する新しい油中分析方法(以下、「高感度油中ガス分析方法」と言う。)が提案されている(特許文献1)。この高感度油中ガス分析方法により油入電気機器の内部異常診断を行なえば、各種絶縁材料の損傷に伴い特徴的に検出される成分及び本体絶縁油の放電、過熱分解時に検出される成分を同定し、損傷材料、損傷部位、異常様相の的確な識別、更には運転継続可否の的確な判定をすることができる(例えば、特許文献2)。
【非特許文献1】電気協同研究、第54巻、第5号(1999)
【特許文献1】特開平9−72892号公報
【特許文献2】特開2002−350426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電協研法による油中ガス分析によりアセチレンガスなどの低沸点ガスを検出し、内部異常の疑いがある場合でも、多面的な追跡調査の結果、機器内部には異常が確認されない場合があった。また、電協研法による油中ガス分析によりアセチレンガスを検出しないにもかかわらず、機器内部に異常が確認される場合があった。また、異常個所は特定できなくとも、継続使用ができるか否かを簡易な方法で判断できる異常診断方法の開示が望まれていた。
【0008】
従って、本発明の目的は、変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油が隔壁で区画される油入電気機器の変圧器本体の異常及び継続使用ができるか否かを簡易な方法で診断することができる油入電気機器の異常診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる実情において、本発明者等は鋭意検討を行った結果、(1)変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油とを区画する隔壁ゴム状膜は、ガス不透過性であるにも拘わらず、アセチレンガスを透過すること、しかしメチルビニルアセチレンガスは透過しないこと、(2)電協研法による油中ガス分析から本体絶縁油中にアセチレンガスが検出された場合、変圧器本体内部から発生した場合と切換開閉器室油からゴム状膜を透過してくる場合の2通りがあり、一概にその発生源が決定できないこと、(3)しかしながら、該アセチレンガスは変圧器本体の銅コイルと反応して銅アセチリドとなるため、アセチレンガスの有無は、変圧器本体内部の放電や過熱などの異常診断の指標には使用できないこと、(4)一方、メチルビニルアセチレンガスは、変圧器本体の銅コイルと反応しないため、メチルビニルアセチレンガスの有無は、変圧器本体内部の放電や過熱などの異常診断の指標に使用できることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油が隔壁で区画された油入電気機器の異常診断方法であって、油入電気機器から変圧器本体絶縁油の試料を採取し、該試料油中のメチルビニルアセチレンの有無を分析することにより、油入電気機器の変圧器本体の異常を判定する油入電気機器の異常診断方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メチルビニルアセチレンを放電や隔壁シール不良の指標とすることができる。このため、機器の解体調査を行なうことなく、簡易な方法で変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油を隔壁で区画するコンサベータを有する油入電気機器の変圧器本体の異常及び継続使用の可否を診断することができる。従来は、変圧器本体絶縁油中に溶存するエチレンガス、アセチレンガス、メチルビニルアセチレンガス及び2−メチル−1,3ブタジエンなど数種類のガス分析を行なっていたが、メチルビニルアセチレンのみの分析でよく、分析の負担とコストを大幅に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の油入電気機器の異常診断方法(以下、単に「異常診断方法」とも言う。)において、変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油を区画する隔壁とは、変圧器本体の上方に位置するコンサベータ内における変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油を区画する隔壁ゴム状膜(以下、単に「ゴム膜」とも言う。)であるか、あるいは、コンサベータの下方に位置する変圧器本体内における変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油を区画するシール部を有する隔壁を言う。シール部で用いられるシール部材としては、例えばNBRなどが挙げられる。
【0013】
変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油をゴム状膜で区画するコンサベータの構造の一例を図1を参照して説明する。図1は油入電気機器のコンサベータの構造を示す簡略図である。図1中、コンサベータ10は、銅コイルを有する変圧器本体上部に設置され、外箱14内には、変圧器本体絶縁油11が充填されたゴムセル121と、負荷時タップ切換器を収容する切換開閉器室油13が充填された切換開閉器室131とを有する。変圧器本体絶縁油11と切換開閉器室油13はゴム膜12で区画され、変圧器本体とゴムセル121は連結管15で連結されている。なお外箱内であって、ゴムセル121外には、水溜め部18に溜まった水を抜く水抜き弁17と、フロート124の位置から液面を表示するダイヤル油面計19とを有している。なお、符号123はブリーザ連結管、16は仕切り板、122は空気抜栓である。このようなコンサベータ10の切換開閉器室油13は、タップ切換時に発生するアーク放電のため、使用中に徐々に汚損して絶縁性が低下すると共に、アセチレン、メチルビニルアセチレン、2−メチル−1,3ブタジエンなどのガス成分が増加してくる。このため、切換開閉器室油13中のガス成分のゴム膜12に対するガス透過現象が生じるか否かが問題となり、また、ゴム膜12に生じたピンホールからの漏洩が問題となる。なお、変圧器本体側(図1では不図示のコンサベータ10の下方部分)において、切換開閉器室23は変圧器本体絶縁油11内にNBRなどのシール部材で液密に配置されており、当該シール部分のシール不良に伴う切換開閉器室油13中のガス成分の変圧器本体絶縁油11への拡散が問題となる。
【0014】
変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油をゴム状膜ではない隔壁で区画するコンサベータの構造の一例を図2を参照して説明する。図2は油入電気機器のコンサベータの他の構造を示す簡略図である。図2中、コンサベータ20は、銅コイルを有する変圧器本体上部に設置され、外箱32内には、変圧器本体絶縁油21が充填された絶縁油封入室33と、負荷時タップ切換器を収容する切換開閉器室油23が充填された切換開閉器室34とを有する。絶縁油封入室33には、ブリーザー30を通した外気が出入りするゴムセル22が設置され、変圧器本体絶縁油21と切換開閉器室油23は隔壁24で区画され、変圧器本体と絶縁油封入室33は連結管25で連結されている。なお、絶縁油封入室33及び切換開閉器室34は、それぞれ、フロートの位置から液面を表示するダイヤル油面計31を有している。なお、符号26は排油弁、27は注油弁である。なお、変圧器本体側(図2では不図示のコンサベータ20の下方部分)において、切換開閉器室34は変圧器本体絶縁油21内にNBRなどのシール部材で液密に配置されており、当該シール部分のシール不良に伴う切換開閉器室油23中のガス成分の変圧器本体絶縁油21への拡散が問題となる。
【0015】
このようなコンサベータ10、20の切換開閉器室油13、23は、タップ切換時に発生するアーク放電のため、使用中に徐々に汚損して絶縁性が低下すると共に、アセチレン、メチルビニルアセチレン、2−メチル−1,3ブタジエンなどのガス成分が増加してくる。このため、コンサベータ10においては、切換開閉器室油13中のガス成分のゴム膜12に対するガス透過現象が生じるか否かが問題となる。また、ゴム膜12にピンホールが生じた場合、切換開閉器室油13中のガス成分が変圧器本体絶縁油11に拡散してくる。また、コンサベータ10、20においては、変圧器本体側のNBRなどのシール部材が不良になると、切換開閉器室油13中のガス成分が変圧器本体絶縁油11に移動してくる。
【0016】
隔壁ゴム状膜としては、特に制限されず、例えば、図3に示すように、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム341を芯材とし、該芯材から両外側に向けて、接着層331、ポリアミド繊維321及びニトリルゴム311をそれぞれ積層した7層構造の膜が挙げられる。また、上記7層構造の膜に対して、芯材と接着層部分をニトリルゴム(NBR)で置き換えた5層構造の膜もある。
【0017】
油入電気機器から変圧器本体絶縁油の試料を採取する方法は、従来と同様の方法で行えばよい。また、油入電気機器から採取された変圧器本体絶縁油の試料油中のメチルビニルアセチレンの分析は、高感度油中ガス分析方法に準拠して行なえばよい。メチルビニルアセチレンはアーク放電により、あるいは絶縁油中の700℃以上の過熱により油中に検出されるガス成分であることは公知であり、変圧器内部の異常を診断する上で有効な指標となるものである。また、高感度分析方法は特開平9−72892号公報に詳細に報告されている。高感度分析方法は、公知ではあっても周知とまでは言わないため、以下に説明する。
【0018】
高感度油中ガス分析方法で用いる装置の構成を図4に示す。図4において、51は試料油を収納する試料油容器、52は試料油容器51の注入口、53は試料油容器51の排出口、54は排出バルブ、55は試料油、56は不活性ガスをキャリアガスとしてバブリングするキャリアガス給気管、57は試料油を加熱するためのヒータ、58はキャリアガスを注入するキャリアガス注入管、59はキャリアガスの流量調節弁、60は二方コック、61はキャリアガス送気管、62はバブリングにより抽出された抽出ガスを取出すガス抽出管、63は抽出ガスをキャリアガスとともに通気する抽出ガス通気管、64は三方コック、65はコールドトラップ容器、65a、65bはコールドトラップ容器65の液体窒素等の冷却媒体の供給口および排出口、66は−130℃程度に冷却することにより分解成分を凝縮捕獲するコールドトラップ、67はコールドトラップ66を加熱するヒータ、68は三方コック、69はキャリアガスを供給するガス給気管、70はヘリウムガス等のキャリアガスが充填されたガスボンベ、71は流量調節弁、72は三方コック、73はガスクロマトグラフ分析器であり、カラム73aと検出器73bとで構成されている。27は冷却媒体容器、75は冷却媒体、76は冷却媒体75を供給するために冷却媒体容器74に圧力を加える加圧管、77は冷却媒体供給管、78は流量調節弁である。
【0019】
次ぎに、この分析装置50を用いた油中ガス分析方法ついて説明する。先ず、二方コック60及び排出バルブ54を開き、キャリアガス送気管61からキャリアガスを流量調節弁59により流量調節して試料油容器51側の流路に流して当該流路の空気をブローアウトする。次ぎに三方コック64及び72をガスクロマトグラフ分析器73側に開いてコールドトラップ66及びガスクロマトグラフ分析器73の部分の空気をブローアウトする。冷却媒体容器74の加圧管76から圧力を加えて冷却媒体(液体窒素)75をコールドトラップ容器65に導き約−130℃に冷却する。注射器等により試料油を数ミリリットル採取し、試料油容器51の注入口52より試料油容器51内に注入する。三方コック64を試料油容器51側に切換え、試料油容器51をヒータ57により、蒸気圧が53Paになる温度で加熱し、二方コック60を開いて圧力調節弁59により流量調節し、バブリング管56にキャリアガスを供給し、数分間バブリングして試料油中に溶解しているガス成分を抽出する。抽出されたガス成分をキャリアガスとともにコールドトラップ容器65内のコールドトラップ66の内径部に導入し、ガス成分をコールドトラップ66に凝縮捕獲する。コールドトラップ66をヒータ67により200℃以上に急速加熱し、凝縮捕獲したガス成分を気化させてキャリアガスを流しながらガスクロマトグラフ分析器73bに導入して分析する。
【0020】
油入電気機器から採取した試料油を上記の分析法で分析すると、抽出されたガス成分はコールドトラップ66で凝縮して捕獲され、200℃以上に急速加熱することにより、蒸発して瞬時にガスクロマトグラフ分析器73に導入されるため、精度よく分析できる。
【0021】
本発明において、油入電気機器から採取された変圧器本体絶縁油の試料油のガス分析を、メチルビニルアセチレンガスだけについて行なってよく、アセチレンガスの分析は不要である。この理由は以下の通りである。変圧器本体内で放電や過熱など異常が発生すると、変圧器本体絶縁油中にアセチレン、メチルビニルアセチレンなどが生成する。そこで、変圧器本体絶縁油中のこれらのガスが変圧器本体内の異常を診断する一指標となり得る。しかし、油入電気機器において、変圧器本体絶縁油は銅コイルと接触しており、アセチレンは銅と反応して消失することから、アセチレンは異常を診断する一指標とはなり得ない。一方、メチルビニルアセチレンは、ゴム膜を透過しないため、タップ切換開閉器室からの混入はあり得ないため、メチルビニルアセチレンは異常を診断する一指標となり得る。また、ゴム膜のピンホール及びシール不良により、タップ切換開閉器室油中のメチルビニルアセチレンは変圧器本体絶縁油中へ拡散するため、メチルビニルアセチレンはゴム膜のピンホール及びシール不良などの異常を診断する一指標となり得る。
【0022】
上記ガス成分の分析において、メチルビニルアセチレンが未検出の場合、油入電気機器の本体内部は正常と判定される。
【0023】
本発明において、油入電気機器の変圧器本体の異常とは、変圧器本体内で起こる放電現象や過熱現象、コンサベータのゴム膜のピンホールの発生、変圧器本体側における変圧器本体絶縁油中のタップ切換開閉器室の液密のシール不良である。従って、本発明の異常診断方法において、上記ガス成分の分析の結果、メチルビニルアセチレンが検出された場合、上記列挙したいずれかの異常であることが判る。なお、異常であれば、継続使用を中止し、更に油入電気機器の分解など多面的な検査により異常個所の特定ができる。また、正常であれば、継続使用が可能である旨の決定ができる。
【0024】
次ぎに、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0025】
参考例1
(各種ガスと銅の反応実験)
図5に示す緩衝用ベローズ43を備えた気密構造の容器40を作製し、下記試験条件下で各種ガスと銅の反応の有無を調べた。容器40は、試料供給配管42と試料採取配管44を備えるものである。符号45は試料油、46は銅板又は紙巻銅板である。その結果を図6に示す。
【0026】
<試験条件>
絶縁破壊電圧試験法(JIS C 2101)に準じて絶縁破壊させたエチレンガス、アセチレンガス、メチルビニルアセチレンガスなどのガスを高濃度で含む絶縁油の中に、変圧器内の巻銅線に見立てた銅板を封入し、所定油温における各種ガスの油中濃度の経時変化を確認した。なお、銅は、裸銅板と紙巻銅板の2種類を使用し、それぞれ行なった。
【0027】
試験開始前の高濃度ガス含有絶縁油中のアセチレン濃度を電協研法で、メチルビニルアセチレン濃度を高感度油中ガス分析方法で測定した。その結果、アセチレン濃度は45ppm、メチルビニルアセチレン濃度は152,000カウント(ピーク面積値)であった。
【0028】
<試験条件>
・ 試験温度;80℃、試験日数;60日
・ 油量;2.2リットル
・ 試料採取間隔;20日毎
・ 最小検出感度;アセチレン0.1ppm、メチルビニルアセチレン100カウント
・ 裸銅板;6.5mm×2.4mm×140mmの銅板を重ね合せて銅板表面積が1060cmとしたものを使用した。
・ 紙巻銅板;上記裸銅に厚さ50μmの紙を2枚素線巻きし、更にその上から厚さ80μmの紙を3枚共通巻きし、更にその上から厚さ85μmの接着紙を最外層として2枚巻きし、合計厚みが425μmのものを使用した。なお、紙は実際変圧器に使用されているものと同じ素材のものを使用した。
【0029】
図6から明かなように、時間が経過するに従い、アセチレンの油中濃度が著しく低下していることが判る。これに対して、メチルビニルアセチレンは60日経過後であっても初期濃度とほぼ同量の油中ガス濃度を示していることが判る。このことから、油温80℃の過酷な条件下においても、メチルビニルアセチレンは銅と反応することなく、油中に残存することが判明した。
【実施例1】
【0030】
図1に示す変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油がゴム膜で区画された構造のコンサベータを有する稼動中の変圧器、及び図2に示す変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油が隔壁で区画された構造のコンサベータを有する稼動中の変圧器について、それぞれ正常な変圧器1台の変圧器本体絶縁油の試料(A、B)を採取した。また、それぞれ異常と判断された変圧器1台の変圧器本体絶縁油の試料(C、D)を採取した。次いで、試料油A〜Dについて、アセチレン及びメチルビニルアセチレンの溶存の有無を調べた。アセチレンは電協研法により、メチルビニルアセチレンは、高感度油中ガス分析方法により分析した。その結果、対象となった変圧器の中、正常な変圧器の絶縁油には、アセチレン、メチルビニルアセチレンのいずれも検出されなかった。また、対象となった変圧器の中、異常な変圧器の絶縁油には、メチルビニルアセチレンが検出されたが、アセチレンは検出されなかった。
【0031】
本発明によれば、メチルビニルアセチレンを放電や隔壁シール不良などの異常の指標とすることができる。このため、機器の解体調査を行なうことなく、継続使用の有無を決定することができる。従来は、変圧器本体絶縁油中に溶存するエチレンガス、アセチレンガス、メチルビニルアセチレンガス及び2−メチル−1,3ブタジエンなど数種類のガス分析を行なっていたため、分析の負担とコストを大幅に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】油入電気機器のコンサベータの構造を示す簡略図である。
【図2】油入電気機器の他のコンサベータの構造を示す簡略図である。
【図3】変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油を区画する隔壁ゴム状膜の構造を示す模式的断面図である。
【図4】高感度ガス分析方法で使用する分析装置のフロー図である。
【図5】各種ガスと銅の反応実験で使用した装置の概略図である。
【図6】各種ガスと銅の反応実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
10、20 コンサベータ
11、21 変圧器本体絶縁油
12 隔壁ゴム状膜
13、23 切換開閉器室油
14 外箱
15 連結管
16 仕切り板
19 ダイヤル油面計
24 隔壁
40 容器
50 分析装置
311 ニトリルゴム
321 ポリアミド繊維
331 接着層
341 ポリビニルアルコール(PVA)フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器本体絶縁油と切換開閉器室油が隔壁で区画された油入電気機器の異常診断方法であって、油入電気機器から変圧器本体絶縁油の試料を採取し、該試料油中のメチルビニルアセチレンの有無を分析することにより、油入電気機器の異常を判定することを特徴とする油入電気機器の異常診断方法。
【請求項2】
メチルビニルアセチレンが未検出の場合、油入電気機器の変圧器本体は正常と判定されることを特徴とする請求項1記載の油入電気機器の異常診断方法。
【請求項3】
メチルビニルアセチレンが検出された場合、油入電気機器の変圧器本体に異常があると判定されることを特徴とする請求項1記載の油入電気機器の異常診断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−249616(P2008−249616A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93782(P2007−93782)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)