説明

油受けおよびその製造方法

【課題】
油受けのフィルター材として、水を透さず、油だけを透す適正な気孔、材質特性を有するシートを選択することが重要である。かくして、かくして、油中の水分を分離して油受けに留め、油分のみを点火部へ流出するとのできるフィルターを備えた油受けおよびこれを安価に製造する方法を提供する。
【解決手段】
有底円筒体の口縁部6と底部フレーム2との間で、側面部に複数条のリブ31が軸方向に架設されるとともに、底面部に複数条のリブ32が架設され、かつ、側面部および底面部に前記リブにより形成される窓枠にフィルター1を覆設してなる油受け15であって、前記フィルター1は、ポリビニルアルコール製で、かつ、撥水処理を施した多孔質シートから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インサート射出成形したプラスチック製の油受けおよびその製造方法に関する。詳しくは、石油ファンヒーターや石油ストーブに使用される油受けであって、フィルター材として、撥水処理を施すことにより水を透さず、油だけを透す多孔質シートを実現させ、プラスチック製の籠状筒体の側面部および底面部に前記の多孔質シートをインサート射出成形により覆設してフィルターを構成させた油受けおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な石油ストーブを図1に示す。図示のように、石油ストーブ11には給油タンク12を備え、そして、この給油ンク12の底部には注油口金キャップ13を備え、かつ、この注油口金キャップ13の内部に流出孔14を備える。この流出孔14は、内部に設けたバネ16によって給油タンク12の油が外部に流れ出ないように注油口金キャップ13の底を閉じている。即ち、流出孔14は、常時バネ16の力で底部へ向けて付勢される逆支弁である。注油口金キャップ13の下方に油受け15が位置する。そして、上方の流出孔14に位置が一致するように油受け15の底部から突き出しピン4が直立する。この突き出しピン4がバネの力に抗して流出孔14を上方へ突き上げるので、注油口金キャップ13の底部に隙間が形成されて油が油受け15へ流出する。
【0003】
従来の油受けの例を図2に、底面側からみた斜視図として示す。油受け15は、樹脂製の円筒体とフィルターエレメントとを一体化させた構成を備えている。図示のように、油受け15は、籠状の有底円筒体に形成されており、口縁部6と底部フレーム2との間にリブ31を円周上に等間隔に架設している。そして、隣り合うリブ31の間は、口縁部6に近い方に殻5が油受け15の側面の一部を形成している。そして、側面部の底部フレーム2の上位置と底面部に窓枠が区画され、ここに、フィルター1が形成される。即ち、口縁部6と底部フレーム2との間のリブから構成される籠状の円筒体と、フィルターである側面セグメント1A、底部セグメント1Bが共にインサート射出成形されることにより油受け15が製造される。ここで、油受け15の側面部の側面セグメント1Aは、それぞれ独立したフィルター片であり、射出成形の際に、金型の所定の箇所にフィルター片を挿入する。同様に、底面部の底部セグメント1Bも、それぞれ独立したフィルター片であり、射出成形の際に、金型の所定の箇所にフィルター片を挿入する。次いで、型締めした後、樹脂を射出することによって、有底円筒体の油受け15が製造される。あるいは、射出成形された籠状の円筒体の窓枠に、フィルターとして側面セグメント1Aと側面セグメント1Bを熱接着することによって油受け15が製造される。
【0004】
このような石油ストーブにあって、フィルターは、油中の水分も油と一緒にフィルターを透過する。
【0005】
また、油受け15を射出成形する際に、側面セグメント1Aと側面セグメント1Bの多数個のフィルター片を狭い金型に個々に挿入する必要がある。あるいは、射出成形された籠状の円筒体の窓枠に、側面セグメント1Aと側面セグメント1Bを個々に熱接着をする必要がある。
【0006】
一方、石油ストーブの給油タンクに関連する発明として、給油に際して手間がかからなく、そして手を汚さずに済むものが先に提案されている(特許文献1)。
【0007】
【特許文献1】特開2000−121038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の油受けには、次のような問題点があった。
【0009】
即ち、油中の水分がフィルターを透過し、固定タンクから点火部へ油と一緒に流出するので、不完全燃焼する。また、透過した水分によって固定タンクの周辺部が錆びる。
【0010】
また、油受けをインサート射出成形する際に、フィルターセグメント片を金型の所定の箇所に個々に挿入する作業に面倒さがある。フィルターセグメントを熱接着して製造する場合でも同様に作業が面倒で時間がかかり、作業工賃が高くなる。
【0011】
そこで、石油ファンヒーターや石油ストーブに使用される従来の油受けの持つ問題点を解決するためになされたもので、フィルター材として、水を透さず、油だけを透す適正な気孔、材質特性を選択することが重要である。かくして、油中の水分を分離して油受けに留め、油分のみを点火部へ流出するとのできるフィルターを備えた油受けおよびこれを安価に製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、有底円筒体の口縁部6と底部フレーム2との間で、側面部に複数条のリブ31が軸方向に架設されるとともに、底面部に複数条のリブ32が架設され、かつ、側面部および底面部に前記リブにより形成される窓枠にフィルター1を覆設してなる油受け15であって、前記フィルター1は、ポリビニルアルコール製で、かつ、撥水処理を施した多孔質シートから構成される。
【0013】
また、請求項2の発明は、一枚の多孔質シートから打ち抜かれたフィルターエレメント100を経て、フィルターアッセンブリィ10へと折り上げられる工程と、凹型Cの空間部にフィルターアッセンブリィ10を挿入、定置させる工程と、凸型Dを前記凹型Cの方向へ可動して閉型作動した後、前記凹型Cと前記凸型Dとで形成されるキャビティに樹脂を射出しすることにより、フィルターアッセンブリィ10を樹脂体で包囲した油受け15が成形される工程と、フィルターアッセンブリィ10部に備える綴じ代104を切り落とす工程とを、含む油受けの製造方法である。
ことを特徴とする。
【0014】
ここで本明細書でいう「多孔質シート」とは、ポリビニルアルコールを原料とした白色の連続多孔質体のシートで、比重は1.2〜1.4、化学名はホルマール化ポリビニルアルコールを意味する。ミクロの目で捕らえるとその容積の90%は全くの中空で、この中空を形成する基質部は、立体網目構造をなし、個々の気孔を完全に連続化している。気孔径は50〜700ミクロンを示す。そして、このような多孔質シートをシリコンを混入したトルエン液に浸潤する撥水処理を施したものである。かくして、フィルター材として、水を透さず、油だけを透す多孔質シートを実現させることができた。
【0015】
また、「窓枠」とは、籠状の円筒体の側面部および底面部に形成される囲いを意味する。円筒体の側面部では、窓枠は、殻5、側リブ31、底部フレーム2とで囲まれた矩形状の複数の囲いを示す。円筒体の底面部では、窓枠は、底部フレーム2と底リブ32とで囲まれた扇型の複数の囲いを示す。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明は、油受けのフィルター材として、撥水処理を施すことにより水を透さず、油だけを透す多孔質シートを実現させることにより、油中の水分を分離して油受けに留め、油分のみを点火系統へ流出することができる。このことにより、油中の水分が固定タンクから点火系統へ流出しないので、不完全燃焼することがない。そして、固定タンクの周辺部が水分により錆ない。
【0017】
また、第2の発明は、一体のフィルターアッセンブッリイをインサート射出成形に使用するので、金型へ挿入する作業が容易であり短時間で済む。従って、作業の工賃を抑えることができ、油受けの製造原価低減に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態を、添付図面に例示した本発明の実施例に基づいて以下に具体的に説明する。
【実施例】
【0019】
先ず、本発明の実施例について、図3〜図8を参照しながら説明する。図3は、油受けのフィルターエレメントの展開図である。図4は、同上、組立図である。図5は、油受けの側面図である。図6は、同上、平面図である。図7は、同上、口縁部側から見た外観斜視図であり、かつ、一部断面図である。図8は、インサート射出成形の説明図である。
【0020】
石油ストーブ11の構成は、背景技術の項で説明した通りで、給油タンク12を設け、この給油ンク12の底面部外面には、注油口金キャップ13を備え、この内部の下部に流出孔14を備え、内部に設けたバネ16により給油タンク12の油が外部に流れ出ないように注油口金キャップ13の底を閉じている。そして、上方の流出孔14に位置が一致するように油受け15の底部から突き出しピン4が直立する。この突き出しピン4がバネの力に抗して流出孔14を上方へ突き出すので、注油口金キャップ13の底部に隙間が形成されて油が油受け15へ流れ、フィルター1により濾過されて油が流出する。
【0021】
図3に油受けを構成するフィルターの素材であるフィルターエレメントを展開した状態を示す。フィルターエレメント100は、幅広の多孔質シートから打ち抜きし、厚さ約1〜3ミリメートルの多孔質シートであって、円形の底部101と矩形の側部102とこれらを繋ぐ接ぎ部103とからなる。底部101の直径は、油受け15の底部フレーム2における内周の直径より僅か小さ目とする。側部102の横辺は、底部フレーム2の内周長さに側面部102の両端部の綴じ代分を加えた長さに相当する。側部102の縦辺は、側面部のフィルター1の縦長さに余裕代を加えた長さに相当する。
【0022】
フィルターエレメント100の側面部102をリング状に曲げ、両端部を綴じる。簡単には、側面部102の両端部綴じ代104をホッチキスで綴じればよい。この状態がインサート材としてのフィルターアッセンブリイ10となり、図4に示す。
【0023】
油受け15は、フィルターアッセンブリイ10をインサート射出成形によって樹脂製の籠状円筒体と一体化した構成を備えている。本実施例の油受け15を図5、6、7に示す。図7に示すように、油受け15は、有底の籠状の円筒体に形成されており、口縁部6と底部フレーム2との間に4条のリブ3を円周上に等間隔に架設した状態を備えている。ここで、籠状の円筒体は、合成樹脂である。そして、隣り合うリブ3の間は、口縁部6に近い方に殻5が油受け15の側面を形成する。そして、側面の底部フレーム2に近い方は、窓枠を形成、ここに、フィルターアッセンブリィ10がインサート射出成形されてフィルター1が形成される。このように、油受け15は有底の籠状の円筒体を、フィルターアッセンブリィ10と共にインサート射出成形によって一体化した構成を備えている。
【0024】
以下に、上記したインサート射出成形による、油受け15の製造方法について説明する。
【0025】
図8にインサート射出成形による、油受け15の製造方法について説明する。図には、射出成形機の固定側に組み込んだ凹型Cと可動側に組み込んだ凸型Dとこれらの間にフィルターアッセンブリィ10を示す。ここで、凹型Cは、油受け円筒体の外郭形状に相当し、凸型Dは、油受け円筒体の内郭形状に相当し、凹型Cへ凸型Dが合体したその閉型状態を凹型Cの内側の二点鎖線で示す。大矢印の如くに凹型Cの方向へ凸型Dを可動し、型締めすると、凹型Cと凸型Dが合体し、両型の隙間に成形キャビティが形成される関係にある。即ち、側部キャビティE、底部キャビティF、口縁部キャビティG等のキャビティが両型によって形成される。先ず、成形工程の第一として、両型の開型状態において、凹型Cの空洞へフィルターアッセンブリィ10を円周方向の位置決めをして小矢印の方向へ挿入、定置する。次いで、大矢印の如く、凹型Cの方向へ凸型Dを可動し、閉型状態に作動して型締めする。この時、フィルターアッセンブリィ10は凸型Dにより押し込まれながらFの位置に定まる。型締め圧が所定圧力に達したら各所のキャビティの中へ、合成樹脂が射出される。側部キャビティEは、油受け15の殻5と四箇所の側リブ31を形成し、底部キャビティFは、底部フレーム2と底リブ32を形成し、口縁部キャビティGは、口縁部6を形成する。射出成形が完了したら、凸型Dが大矢印の反対方向へ戻り、開型状態になる。次いで、フィルターアッセンブリィ10を合成樹脂により包囲した油受け15が凹型Cから離型する。最後に、フィルターアッセンブリィ10の綴じ代104を切り落として油受け15が完成する。なお、本実施例で使用した合成樹脂は耐油性を考慮したものである。なお、合成樹脂として例えば、ナイロンやポリアセタール等を採用する。
【0026】
以上のように構成され、次に作用について説明する。
【0027】
油受けのフィルターとして、上記で定義した多孔質シートを採用したことによる効果を説明する。多孔質シートの有する連続した多孔と相まって、シリコンを混入したトルエン液に多孔質シートを浸潤することにより撥水効果を有するようになる。従って、水分は、多孔質シートのフィルターによってはじかれ、油から分離されて油受け内に留まる。一方、油は、多孔質シートのフィルターを透過する作用がある。もちろん、多孔質シートによるフィルターによって、埃、塵等の比較的大きな固形物も濾過されて油受け内に留まるので、点火系統部品の目詰まり等により石油ガスが噴霧しなくなるようなことが無く、石油ストーブの安定した燃焼を維持できる。
【0028】
また、多孔質シートをインサート射出成形する際に、溶融状態の樹脂の熱により、多孔質シートは溶けて籠状の円筒体の窓枠に熱接着される。従って、フィルターエレメントを後工程で接着する等の手間を必要としない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
実施例では、多孔質シートのシリコンによる撥水効果を持たせるようにしたが、多孔質シートにフッ素を塗布することでも同様な効果がある。
【0030】
なお、フィルターとして水を透さず、油だけを透す多孔質シートを採用した、本発明の油受けの使途は、石油ファンヒーターや石油ストーブに限るものではなく、車両用、農業用、船舶用等のフィルター用途にも拡大可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】石油ストーブにおける油タンクと油受けとの関係を示す説明図である
【図2】従来の油受けの外観斜視図である。
【図3】本発明の実施例に係わる油受けのフィルターエレメントの展開図である。
【図4】同上、組立図である。
【図5】同上、側面図である。
【図6】同上、平面図である。
【図7】同上、外観斜視図であり、かつ、一部断面図である。
【図8】同上、インサート射出成形の説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 フィルター
1A 側面セグメント
1A 側面セグメント
1A 側面セグメント
1A 側面セグメント
1B 底部セグメント
1B 底部セグメント
1B 底部セグメント
1B 底部セグメント
10 フィルターアッセンブリィ
100 フィルターエレメント
101 底部
102 側部
103 接ぎ部
104 綴じ代
2 底部フレーム
3 リブ
31 側リブ
32 底リブ
4 突き出しピン
5 殻
6 口縁部
11 石油ストーブ
12 給油タンク
13 注油口金キャップ
14 流出孔
15 油受け
16 バネ
17 固定タンク
C 凹型
D 凸型
E 側部キャビティ
F 底部キャビティ
G 口縁部キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒体の口縁部6と底部フレーム2との間で、側面部に複数条のリブ31が軸方向に架設されるとともに、底面部に複数条のリブ32が架設され、かつ、側面部および底面部に前記リブにより形成される窓枠にフィルター1を覆設してなる油受け15であって、前記フィルター1は、ポリビニルアルコール製で、かつ、撥水処理を施した多孔質シートから構成されることを特徴とする油受け。
【請求項2】
一枚の多孔質シートから打ち抜かれたフィルターエレメント100を経て、フィルターアッセンブリィ10へと折り上げられる工程と、
凹型Cの空間部に前記フィルターアッセンブリィ10を挿入、定置させる工程と、
凸型Dを前記凹型Cの方向へ可動して閉型作動した後、前記凹型Cと前記凸型Dとで形成されるキャビティに樹脂を射出しすることにより、前記フィルターアッセンブリィ10を樹脂体で包囲した油受け15が成形される工程と、
フィルターアッセンブリィ10部に備える綴じ代104を切り落とす工程とを、
含むことを特徴とする油受けの製造方法。













【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−23050(P2006−23050A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203231(P2004−203231)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(593212426)株式会社日豊製作所 (6)
【Fターム(参考)】