説明

油圧作業機の安全装置

【課題】点検事項がエンジン等の作動部分を作動させた状態でなければ点検、整備ができない事項であっても点検、整備が可能となる油圧作業機の安全装置を提供する。
【解決手段】機械室に設けられた整備用扉が開かれたことを検出するドアスイッチ32を備える。作動油温度およびエンジン冷却水温度をそれぞれ検出する温度センサ41,59を備える。エンジン10を含む油圧パワーユニットの稼動状態を検出する回転センサ42を備える。温度センサ41,59の検出信号と回転センサ42の検出信号から、コントローラ40は高温となっている部分や回転している部分が存在するか否かを判断し、ドアスイッチ32の作動時に、これらの存在を表示するメインコントローラ40の出力信号により、機械室7に備えた整備用ライト33を点滅および/または音響警報器34による音響を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の油圧作業機のエンジンや油圧ポンプあるいはその周辺機器の点検、整備のために機械室内の整備用扉を開いて整備作業者が作業を行なう場合に、整備作業者の注意を促して作業の安全を図る装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の油圧作業機は、下部走行体上に上部旋回体を設置し、上部旋回体にエンジンや油圧ポンプ等からなる油圧パワーユニットを搭載すると共に、バケットを有する多関節フロント等の作業装置を取付けてなる。このような油圧作業機において、エンジンや油圧ポンプを囲む機械室内には、整備作業者の視界確保のために整備用ライトが取付けられている。このような整備用ライトは、一般的には機械室の側面や上面の整備用扉を開くと点灯し、閉めると消灯するようになっている。
【0003】
しかしながら、エンジンルームやポンプルーム等の機械室には、エンジン冷却水配管や排気ガスパイプ、作動油配管等のように、稼動中は高温となる部分が存在する上、エンジンの稼働中には回転している部分が存在する。このような高温となっている部分や回転している部分の存在を考慮して、特許文献1には、整備用扉を開くと、これに連動して、油圧モータや冷却用のファンを停止するものがある。
【0004】
さらに別の従来装置として、エンジンが稼働中の場合には、整備用扉をロックして開閉できないように構成されたものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−176554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の安全装置として、高温となっている部分や回転している部分の存在を考慮して、整備用扉を開くと油圧モータやファンを停止する構成のものにおいては、点検事項が油圧モータ等を作動させた状態でないと確認できないかあるいは調整できない事項であると、点検、整備ができない場合が多々ある。また、従来の別の安全装置として、エンジンが稼働中には整備用扉をロックする構成のものにも同様も問題点がある。また、このように点検、整備ができない場合、整備作業者は必要に迫られて任意に安全装置を解除したりするため、かえって危険な状態を招きかねないという問題点もある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、点検事項が油圧モータ等の作動部分を作動させた状態でなければ点検、整備ができない事項であっても点検、整備が可能となる油圧作業機の安全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の油圧作業機の安全装置は、
機械室に設けられた整備用扉が開かれたことを検出するドアスイッチと、
作動油温度およびエンジン冷却水温度をそれぞれ検出する温度センサと、
エンジンを含む油圧パワーユニットの稼動状態を検出する回転センサと、
前記温度センサの検出信号と前記回転センサの検出信号から、前記機械室内における高温となっている部分や回転している部分の存在を判断するコントローラと、
前記ドアスイッチ作動時に、前記機械室内に高温となっている部分や回転している部分が存在することを表示する前記コントローラの出力信号により、前記機械室に備えた整備用ライトを点滅および/または音響警報器による音響を発生させる警報手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、温度センサにより機械室内の高温となっている部分の存在が検出され、また、エンジンや油圧モータ等が回転中であることは回転センサにより検出され、ドアスイッチ作動時にコントローラにより前記センサの検出信号を参照し、高温となっている部分や回転している部分が存在する場合には整備作業者に警報を発するようにしたので、整備作業者はこの高温となっている部分や回転している部分が存在を認識した状態で作業を行なうことができ、不注意による怪我の発生を防止することができる。また、本発明によれば、エンジンや油圧モータ等を停止させることなく点検、整備を行なうことができるので、点検事項がエンジンや油圧モータ等を作動させた状態でないと確認できないかあるいは調整できない事項であっても、点検、整備が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の安全装置を適用した油圧作業機の本体部の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の安全装置の一実施の形態を示す上部旋回体上の機器配置図である。
【図3】本発明の安全装置の一実施の形態を示す電気油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の安全装置を適用した油圧作業機の本体部の一例を示す斜視図であり、大型油圧ショベルの本体部について示す。この本体部は、下部走行体1上に上部旋回体2を設置し、上部旋回体に油圧パワーユニット3、運転室4およびカウンターウエイト5等を搭載して構成される。
【0012】
図2は安全装置の一実施の形態を示す上部旋回体上の機器配置図である。図2において、6は先端にバケットを取付けた多関節フロント(図示せず)を取付けるブラケットである。7は油圧パワーユニット3を構成する機器を収容した機械室である。この機械室7は、隔壁8によりエンジンルーム7aとポンプルーム7bとに分離されている。
【0013】
エンジンルーム7aには、エンジン10、マフラー11、エアーフィルター12、エンジンラジエータ13、低温アフタークーラーラジエータ(LTAラジエータ14、および冷却水用リザーブタンク15等が収容される。
【0014】
ポンプルーム7bには、エンジン10により駆動される油圧ポンプ16、冷却用ファン17、作動油クーラー18、燃料クーラー19、ポンプ潤滑油クーラー20、濾過器21等が収容される。また、上部旋回体2の機械室7以外の部分には、コントロールバルブ23、作動油タンク24、燃料タンク25、バッテリーユニット26、潤滑油供給装置27等が搭載される。
【0015】
エンジンルーム7aの前後には、開き戸式の整備用扉30と、蛇腹式の整備用扉31とを備える。また、ポンプルーム7bの前後にも開き戸式の整備用扉30を備える。また、これらの整備用扉30,31には、これらが開かれたことを検出するドアスイッチ32が取付けられる。33はエンジンルーム7aおよびポンプルーム7bにそれぞれ取付けられ、各ルーム7a,7b内を照らす整備用ライトである。34はエンジンルーム7aおよびポンプルーム7bにそれぞれ取付けられ、後述のような条件を満たすとき音響を発生する音響警報器である。
【0016】
図3は本発明の安全装置の一実施の形態を示す電気油圧回路図である。図3において、16a〜16dはエンジン10により駆動される油圧ポンプであり、図2に示した油圧ポンプ16に含まれるものである。これらの油圧ポンプのうち、16a,16bは作業機の各種油圧アクチュエータを駆動するための主油圧ポンプである。また、16cはパイロット油圧ポンプ、16dは前記冷却ファン17を駆動する油圧モータに圧油を供給する油圧ポンプである。
【0017】
40はメインコントローラ(MC)であり、油圧ポンプ16a〜16cや油圧バルブ(図示せず)等の制御を行ない、作業機全体の制御を行なうものである。このメインコントローラ40には、前記ドアスイッチ32、整備用ライト33、音響警報器34が接続される。また、メインコントローラ40には、作動油温度センサ41、エンジン等の回転部分、すなわちエンジン10、油圧ポンプ16a〜16cや冷却ファン17等の稼動状態を検出する回転センサ42、エンジンの冷却水の温度センサ59、およびエンジンコントロールダイヤル43が接続される。なお、作動油温度センサ41は作動油タンク24に設けられ、冷却水の温度センサ59は冷却水用リザーブタンク15に設けられる。
【0018】
また、各部アクチュエータの状態を検知するため、メインコントローラ40に圧力信号を入力する圧力センサとして、ブーム上げ用圧力センサ44、ブーム下げ用圧力センサ45、アーム押し用圧力センサ46、アーム引き用圧力センサ47、バケット放土用圧力センサ48、バケット掘削用圧力センサ49、旋回用圧力センサ50、右走行モータ用圧力センサ51、左走行モータ用圧力センサ52が接続される。
【0019】
54,55,56はそれぞれ油圧ポンプ16a,16b,16dの吐出量制御装置であり、これらの制御装置はメインコントローラ40からの制御信号により油圧ポンプ16a,16b,16dの吐出量の制御を行なうものである。この吐出量の制御は、メインコントローラ40により、各圧力センサ44〜52の出力信号を参照し、油圧ポンプ16a〜16dの出力がエンジン10の出力を超えないように吐出量を制御する。
【0020】
58はエンジンコントローラ(ECM)であり、このエンジンコントローラ58にはコントローラ エリア ネットワーク(CAN)通信により、メインコントローラ40からの制御信号を受信する。また、このエンジンコントローラ58はメインコントローラ40からの制御信号により、負荷に対応したエンジン出力が得られるようにエンジンをコントロールするものである。また、このエンジンコントローラ58には冷却水温度センサ59、吸気温度センサ60、ブースト温度センサ61の出力信号が入力され、エンジンコントローラ58は、これらの出力信号を参照してエンジンの燃焼状態の制御を行なう。
【0021】
この構成において、整備作業者が点検、整備のため、エンジンルーム7aの整備用扉30または31を開けるか、あるいはポンプルーム7bの整備用扉30を開けると、ドアスイッチ32が作動する。ドアスイッチ32が作動すると、メインコントローラ40は回転センサ42の出力信号を参照し、この信号がエンジン等の作動を表示するものであれば、そのドアスイッチ32が取付けられたルームの整備用ライト33を点滅させると共に、音響警報器34に音響を発生させて整備作業者に警報を発する。
【0022】
また、メインコントローラ40は、作動油温度センサ41や冷却水温度センサ59により検出される温度を参照し、この温度が所定値(例えば80℃以上)であると作動油や冷却水を通す配管の温度も高温であるので、その作動油や冷却水を通す配管を有するルームの整備用ライト33を点滅させると共に、音響警報器34に音響を発生させて整備作業者に警報を発する。
【0023】
このように、この実施の形態によれば、作動油温度センサ41や冷却水温度センサ59により各流体の温度を検出すると共に、エンジン10等が稼動中であるか否かを回転センサ42により検出し、整備作業者が整備用扉30,31を開いてドアスイッチ32が作動した時には、メインコントローラ40により前記センサの検出信号を参照して機械室7内に高温となっている部分や回転している部分が存在する場合には整備作業者に警報を発するようにしたので、整備作業者はこの高温となっている部分や回転している部分の存在を認識した状態で作業を行なうことができ、不注意による怪我の発生を防止することができる。
【0024】
また、この実施の形態によれば、エンジン10や油圧ポンプ16a〜16dを停止させることなく点検、整備を行なうことができるので、点検事項がエンジン10や油圧ポンプ16a〜16dを作動させた状態でないと確認できないかあるいは調整できない事項であっても、点検、整備が可能となる。
【0025】
以上本発明を実施の形態により説明したが、本発明は、上記実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加が可能である。例えば警報を発する手段として、上記実施の形態においては、整備用ライト33の点滅と音響警報器34による音響警報を発することとしたが、このうちのいずれか一方を設けた構成としてもよい。また、これらの警報は、一定時間継続させた後に停止させる構成としてもよい。また、音響警報器34を設ける代わりに上部旋回体2の前部に設けるホーン70(図1、図2参照)を用いてもよい。また、本発明を適用する作業機は、油圧ショベルに限らず、整備用ライトを内部に設けた機械室を有する他の作業機に適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1:下部走行体、2:上部旋回体、3:油圧パワーユニット、4:運転室、5:カウンターウエイト、6:ブラケット、7:機械室、7a:エンジンルーム、7b:ポンプルーム、8:隔壁、10:エンジン、11:マフラー、12:エアーフィルター、13:エンジンラジエータ、14:低温アフタークーラーラジエータ、15:冷却水用リザーブタンク、16,16a〜16d:油圧ポンプ、17:冷却用ファン、18:作動油クーラー、19:燃料クーラー、20:ポンプ潤滑油クーラー、21:濾過器、23:コントロールバルブ、24:作動油タンク、25:燃料タンク、26:バッテリーユニット、27:潤滑油供給装置、30,31:整備用扉、32:ドアスイッチ、33:整備用ライト、34:音響警報器、40:メインコントローラ(MC)、42:回転センサ、43:エンジンコントロールダイヤル、44:ブーム上げ用圧力センサ、45:ブーム下げ用圧力センサ、46:アーム押し用圧力センサ、47:アーム引き用圧力センサ、48:バケット放土用圧力センサ、49:バケット掘削用圧力センサ、50:旋回用圧力センサ、51:右走行モータ用圧力センサ、52:左走行モータ用圧力センサ、54,55,56:吐出量制御装置、58:エンジンコントローラ(ECM)、59:冷却水温度センサ、60:吸気温度センサ、61:ブースト温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械室に設けられた整備用扉が開かれたことを検出するドアスイッチと、
作動油温度およびエンジン冷却水温度をそれぞれ検出する温度センサと、
エンジンを含む油圧パワーユニットの稼動状態を検出する回転センサと、
前記温度センサの検出信号と前記回転センサの検出信号から、前記機械室内における高温となっている部分や回転している部分の存在を判断するコントローラと、
前記ドアスイッチ作動時に、前記機械室内に高温となっている部分や回転している部分が存在することを表示する前記コントローラの出力信号により、前記機械室に備えた整備用ライトを点滅および/または音響警報器による音響を発生させる警報手段とを備えたことを特徴とする油圧作業機の安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−46948(P2012−46948A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189586(P2010−189586)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】