説明

油圧式トルクレンチ

【課題】放熱効果を高めることによって油圧式トルクレンチの内部温度の上昇を防止できるようにした油圧式トルクレンチを提供すること。
【解決手段】内部に作動油を充填した打撃トルク発生装置3をモータ2により回転駆動するようにした油圧式トルクレンチ1において、打撃トルク発生装置3のライナー31の外表面並びに本体ケーシング4の内表面及び外表面に、赤外線の放射・吸収層31A、4A、4Bを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータにより駆動される油圧式トルクレンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トルクレンチの打撃トルク発生装置として、騒音と振動が小さい内部に作動油を充填した打撃トルク発生装置が、開発され、実用化されるに至っている。
この油圧式トルクレンチは、図3に示すように、高圧空気により回転駆動されるエアーモータ(ロータ)や電動モータ等のモータ2の回転トルクを内部に作動油を充填した打撃トルク発生装置3に伝達し、この打撃トルク発生装置において、回転トルクを打撃トルクに変換するようしている。
そして、モータ2により打撃トルク発生装置3のライナーを回転することにより、ライナーの内周面に形成した複数個のシール面と主軸の外周面に形成したシール面及び羽根とが合致したとき、主軸に打撃トルクを発生させ、主軸の先端に係合したナット等を締め付け又は緩めることができるようにしている。
【0003】
ところで、この種の油圧式トルクレンチは、モータ2として、動力源に高圧空気を用いたエアーモータが汎用されてきたが、動力源に取り扱いの容易な電力を用いて電動モータを回転駆動し、電動モータの回転トルクを、従来の油圧式トルクレンチと同様、内部に作動油を充填した打撃トルク発生装置に伝達し、この打撃トルク発生装置において、回転トルクを打撃トルクに変換するようにしたものが多用されるようになってきた。
【0004】
そして、特に、モータ2として電動モータを用いた油圧式トルクレンチの場合、エアーモータを用いた油圧式トルクレンチのように、動力源の高圧空気による空冷効果を期待できないため、打撃トルク発生装置が発熱することによって、油圧式トルクレンチの内部温度が上昇しやすく、このため、特に、打撃トルク発生装置の内部に充填した作動油の温度が上昇することによって、油圧式トルクレンチの能力が変動し、ナット等の締付力が安定しないという問題があった。
【0005】
このため、油圧式トルクレンチに空冷機構を設ける試みもなされている(特許文献1参照)が、単に油圧式トルクレンチの内部にファンを配設する構造のため、必要とされる空冷効果を得ることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−129675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の油圧式トルクレンチの有する問題点に鑑み、放熱効果を高めることによって油圧式トルクレンチの内部温度の上昇を防止できるようにした油圧式トルクレンチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の油圧式トルクレンチは、内部に作動油を充填した打撃トルク発生装置をモータにより回転駆動するようにした油圧式トルクレンチにおいて、打撃トルク発生装置のライナーの外表面並びに本体ケーシングの内表面及び外表面に、赤外線の放射・吸収層を形成したことを特徴とする。
【0009】
この場合において、赤外線の放射・吸収層を、シート材や塗装層から構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の油圧式トルクレンチによれば、打撃トルク発生装置のライナーの外表面並びに本体ケーシングの内表面及び外表面に、赤外線の放射・吸収層を形成することにより、打撃トルクを発生することによって発熱した打撃トルク発生装置の熱を、打撃トルク発生装置のライナーの外表面に形成した赤外線の放射・吸収層から、空気層を介して、本体ケーシングの内表面に形成した赤外線の放射・吸収層に、本体ケーシングの内表面に形成した赤外線の放射・吸収層から、本体ケーシングを介して、本体ケーシングの外表面に形成した赤外線の放射・吸収層に、順に伝導するようにし、そして、本体ケーシングの外表面に形成した赤外線の放射・吸収層から外気に放散させるようにすることができる。
これによって、放熱効果を高めることができ、油圧式トルクレンチの内部温度の上昇を防止し、打撃トルク発生装置の内部に充填した作動油の温度が上昇することによる油圧式トルクレンチの能力の変動を低減して、ナット等の締付力を安定させることができ、高精度の締付性能を備えた油圧式トルクレンチを提供することができる。
【0011】
また、赤外線の放射・吸収層を、シート材や塗装層から構成することにより、赤外線の放射・吸収層を形成する箇所の表面形状や材質等の性状、必要とされる熱の伝導量等に適応した材料を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の油圧式トルクレンチの一実施例を示す説明図である。
【図2】同油圧式トルクレンチの熱の伝導経路を示す説明図である。
【図3】従来の油圧式トルクレンチを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の油圧式トルクレンチの実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0014】
図1〜図2に、本発明の油圧式トルクレンチの第1実施例を示す。
この油圧式トルクレンチ1は、従来の油圧式トルクレンチ1と同様、電動モータ等のモータ2の回転トルクを内部に作動油を充填した打撃トルク発生装置3に伝達し、この打撃トルク発生装置3において、回転トルクを打撃トルクに変換し、主軸の先端に係合したナット等を締め付け又は緩めるようしている。
【0015】
そして、この油圧式トルクレンチ1は、打撃トルク発生装置3のライナー31の外表面並びに本体ケーシング4の内表面及び外表面に、赤外線の放射・吸収層31A、4A、4Bを形成するようにしている。
この場合、赤外線の放射・吸収層31A、4A、4Bは、打撃トルク発生装置3のライナー31の外表面並びに本体ケーシング4の内表面及び外表面の全面に形成することもできるが、本実施例においては、打撃トルク発生装置3のライナー31の円筒部の外表面並びにこの円筒部の外表面に対面する本体ケーシング4の内表面及び外表面の部位に形成するようにしている。
これにより、打撃トルクを発生することによって発熱した打撃トルク発生装置3の熱を、打撃トルク発生装置3のライナー31の外表面に形成した赤外線の放射・吸収層31Aから、空気層5を介して、本体ケーシング4の内表面に形成した赤外線の放射・吸収層4Aに、この本体ケーシング4の内表面に形成した赤外線の放射・吸収層4Aから、本体ケーシング4を介して、本体ケーシング4の外表面に形成した赤外線の放射・吸収層4Bに、順に伝導するようにし、そして、本体ケーシング4の外表面に形成した赤外線の放射・吸収層4Bから外気に放散させるようにすることができる。
これによって、放熱効果を高めることができ、油圧式トルクレンチの内部温度の上昇を防止し、打撃トルク発生装置3の内部に充填した作動油の温度が上昇することによる油圧式トルクレンチの能力の変動を低減して、ナット等の締付力を安定させることができ、高精度の締付性能を備えた油圧式トルクレンチを提供することができる。
【0016】
この場合において、赤外線の放射・吸収層31A、4A、4Bは、シート材や塗装層から構成することができ、これにより、赤外線の放射・吸収層を形成する箇所の表面形状や材質等の性状、必要とされる熱の伝導量等に適応した材料を選択することができる。
【0017】
赤外線の放射・吸収層を構成するシート材としては、特に限定されるものではないが、表面側から、赤外線の放射・吸収膜、吸熱層、接着層を順に形成した積層構造のものを好適に用いることができる。
【0018】
赤外線の放射・吸収膜は、伝導された熱を赤外線(遠赤外線を含む。)に変換して放射する赤外線の放射効果と、照射された赤外線(遠赤外線を含む。)を熱に変換する赤外線の吸収効果を有するとともに、比較的小さな力で撓ませることができる可撓性を有している。
この赤外線の放射・吸収膜は、粉体状の酸化珪素及び酸化アルミニウムと、バインダとを配合した組成物を吸熱層の表面に塗工し、乾燥させて形成した塗膜によって構成することができる。
この赤外線の放射・吸収膜は、近赤外線(0.75〜1.5μm)から遠赤外線(15〜100μm)のすべての赤外線領域において優れた赤外線の放射・吸収特性を備えている。
なお、同様の赤外線の放射・吸収膜は、粉体状のカオリン、酸化珪素及び酸化アルミニウムと、シリコーン樹脂を含むエマルジョンとを配合した組成物等によっても構成することができるが、赤外線の放射・吸収膜は、赤外線の放射・吸収効果及び可撓性を有する塗膜を形成することができるものであれば、上記の例に限られるものではない。
【0019】
吸熱層は、アルミニウム又はその合金、銅又はその合金、ステンレス鋼等の金属材を用いた熱伝導性を有する薄板であって、比較的小さな力で撓ませることができる可撓性を有している。
【0020】
接着層は、熱伝導性接着剤のテープ又は熱伝導性物質を混合した熱伝導性接着剤を吸熱層の裏面に貼付又は塗布して形成されている。
【0021】
赤外線の放射・吸収層を構成する塗装層としては、伝導された熱を赤外線(遠赤外線を含む。)に変換して放射する赤外線の放射効果と、照射された赤外線(遠赤外線を含む。)を熱に変換する赤外線の吸収効果を有している。
この赤外線の放射・吸収層を構成する塗装層は、特に限定されるものではないが、上記の赤外線の放射・吸収層を構成するシート材の赤外線の放射・吸収膜に用いられるものと同様の、粉体状の酸化珪素及び酸化アルミニウムと、バインダとを配合した組成物を吸熱層の表面に塗工し、乾燥させて形成した塗膜によって構成することができる。
この赤外線の放射・吸収層を構成する塗装層は、近赤外線(0.75〜1.5μm)から遠赤外線(15〜100μm)のすべての赤外線領域において優れた赤外線の放射・吸収特性を備えている。
なお、同様の赤外線の放射・吸収層を構成する塗装層は、粉体状のカオリン、酸化珪素及び酸化アルミニウムと、シリコーン樹脂を含むエマルジョンとを配合した組成物等によっても構成することができるが、赤外線の放射・吸収層を構成する塗装層は、赤外線の放射・吸収効果を形成することができるものであれば、上記の例に限られるものではない。
【0022】
次に、本発明の油圧式トルクレンチのより具体的な実施例の打撃トルク発生装置の温度変化を、赤外線の放射・吸収層を設けない例と比較して、表1に示す。
ここで、赤外線の放射・吸収層を構成するシート材には、沖電気株式会社製の放熱ソリューションソフトタイプを、また、赤外線の放射・吸収層を構成する塗装層には、オキツモ株式会社製放熱用コーティング剤CT−110を、それぞれ使用した。
【0023】
【表1】

【0024】
表1(No.1及び2の実施例)から、打撃トルク発生装置3のライナー31の外表面並びに本体ケーシング4の内表面及び外表面に、赤外線の放射・吸収層31A、4A、4Bを形成することによって、油圧式トルクレンチ1の内部温度の上昇を有効に防止できることを確認した。
【0025】
以上、本発明の油圧式トルクレンチについて、電動モータを用いた油圧式トルクレンチの実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、エアーモータを用いた油圧式トルクレンチにも適用できる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の油圧式トルクレンチは、放熱効果を高めることによって油圧式トルクレンチの内部温度の上昇を防止できるという特性を有していることから、動力源の高圧空気による空冷効果を期待できない電動モータを用いた油圧式トルクレンチや高い締付精度を要求される油圧式トルクレンチの用途に好適に用いることができるほか、例えば、エアーモータを用いた油圧式トルクレンチの用途にも用いることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 油圧式トルクレンチ
2 モータ(電動モータ)
3 打撃トルク発生装置
31 ライナー
31A 赤外線の放射・吸収層
4 本体ケーシング
4A 赤外線の放射・吸収層
4B 赤外線の放射・吸収層
5 空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に作動油を充填した打撃トルク発生装置をモータにより回転駆動するようにした油圧式トルクレンチにおいて、打撃トルク発生装置のライナーの外表面並びに本体ケーシングの内表面及び外表面に、赤外線の放射・吸収層を形成したことを特徴とする油圧式トルクレンチ。
【請求項2】
赤外線の放射・吸収層がシート材からなることを特徴とする請求項1記載の油圧式トルクレンチ。
【請求項3】
赤外線の放射・吸収層が塗装層からなることを特徴とする請求項1記載の油圧式トルクレンチ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−274343(P2010−274343A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127167(P2009−127167)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(591045323)瓜生製作株式会社 (26)