説明

油性ボールペン用インキ

【課題】ペン先を下向きに放置したときにインキ洩れが少なく、かつ、従来に無い軽くて滑らかな書き味の油性ボールペン用インキを提供する。
【解決手段】着色剤と、有機溶剤と、酸無水物基を有する共重合体と、N−アシルアミノ酸、N−アシルタウリン、N−アシルメチルタウリン、N−アシルメチルアラニンから選ばれる1種もしくは2種以上とを少なくとも含有する油性ボールペン用インキ。前記無水物基が無水マレイン酸、もしくは無水コハク酸であり、その他の共重合体成分がオレフィン、スチレン、酢酸ビニルから選ばれる1種もしくは2種以上からなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記部材としてインキを紙面等の被筆記面に転写するボールを先端から一部臨出させて回転自在に抱持するボールペンチップをペン先としたボールペンに収容され、有機溶剤を主媒体とした油性ボールペン用インキに関する。さらに詳しく言えば、極めて軽くて滑らかな書き味で、かつ、ペン先を下向きにして放置した時にインキ洩れの少ないボールペンを提供する、油性ボールペン用インキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の油性ボールペンには、有機溶剤を主溶剤とした1万mPa・s〜3万mPa・s程度の比較的高粘度で流動性の低いインキが使用されているため、筆記時にボールの回転抵抗が大きく、重い書き味になってしまうという問題があった。
軽い書き味を得るためには、油性ボールペン用インキを低粘度にして流動性を高くすることで、ボールの回転に対する抵抗力を小さくする手法が広く知られている。しかし、インキを低粘度とすることで軽い書き味は得られるものの、ボールと受け座間に形成されるインキ膜が力によって容易に移動してしまうので、ボールと受け座が直接当たり易くなり、筆記時にゴリゴリとした感触が手に伝わり滑らかさのない書き味となってしまっていた。さらに、インキの流動性が高くなるため、ペン先を下向きに放置した時にインキ洩れが生じやすいという問題もあった。
【0003】
軽くて滑らかな書き味とインキ洩れ防止を両立させるためには、今までに様々な試みがなされてきた。
特許文献1に記載の発明では、ビニルピロリドン−アクリル酸共重合体をインキ中に添加することで、インキに曳糸性を付与し、潤滑剤を用いることでインキに潤滑性を付与して、軽くて滑らかな書き味とインキ洩れ防止との両立を試みている。
【0004】
また、特許文献2に記載の発明では、セルロース系樹脂を剪断減粘性付与剤として添加することによりインキの粘度特性を擬塑性として、筆記時にはインキに付与されるボールの回転による高剪断力により粘度が下がり、インキの流動性を高くして吐出させるようにする試みもなされている。このような剪断減粘性が付与されたインキは、静置時、インキに力が加わらない状態ではインキの粘度が高く、筆記時、インキに力が加わった状態においてのみインキが低粘度となるため、軽い書き味を損なわずにインキ洩れを防止できることが期待できる。
【0005】
さらに、特許文献3では剪断減粘性付与剤のキサンタンガムと、N−アシルアミノ酸やN−アシルメチルタウリンなどの潤滑剤を併用しており、インキ洩れの防止と軽くて滑らかな書き味との両立を試みている。
【0006】
【特許文献1】特開平07−188601(2頁左欄上から22行目〜2頁右欄上から18行目)
【特許文献2】特開平5−339533(2頁右欄上から37行目〜2頁右欄上から47行目)
【特許文献3】特開2003−192972(5頁右欄上から48行目〜6頁左欄上から33行目)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の発明では、洩れ防止に効果が発揮される程度にビニルピロリドン−アクリル酸共重合体を使用すると、インキ自体の粘度がある程度高くなることが避けられず、潤滑剤の使用によっても満足のいく書き味とはなっていなかった。
【0008】
特許文献2に記載の発明では、インキに剪断減粘性が付与されるので、筆記時の粘度が低くなってボールの回転に対する抵抗力が小さくなるので、軽い書き味とインキ洩れ防止の両立が期待できる。しかしながら、筆記時のインキが低粘度となることで、インキによる衝撃緩和効果も無くなるため、ボールと受け座とが直接強く当たって、ボールがスムーズに回転しなくなり、筆記時にゴリゴリとしたボールの回転が円滑ではないかのような感触が手に伝わり、滑らかさの感じられない書き味となってしまう問題があった。
【0009】
一方、特許文献3の発明に記載された、N−アシルアミノ酸やN−アシルメチルタウリンなどは官能基部分が金属表面に付着して吸着膜を形成するので境界潤滑効果があり、筆記時に剪断力が付与されてインキが低粘度となり、インキによる衝撃緩和効果も無くなったときも、滑らかさを損なわずに筆記できる。しかし、十分に滑らかな筆記感を得るためには大量のN−アシルアミノ酸やN−アシルメチルタウリンを入れる必要があり、これらは浸透力の強い性質を持つため、結局はインキと金属素材との親和性が高くなって、ボールホルダー外面への濡れ性が高くなり、ペン先を下向きにしてペンを放置した際にインキがしみ出し、十分にインキ洩れを防止することは出来ていなかった。
【0010】
そこで本発明は、ペン先を下向きにして放置した時のインキ洩れが少なく、油性ボールペンを用いて筆記したときに極めて軽くて滑らかな書き味の油性ボールペン用インキを得る事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、少なくとも、着色剤と、有機溶剤と、酸無水物基を有する共重合体と、N−アシルアミノ酸、N−アシルタウリン、N−アシルメチルタウリン、N−アシルメチルアラニンから選ばれる1種もしくは2種以上とを含有する油性ボールペン用インキを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の油性ボールペン用インキが、ボールペンに使用して、ペン先を下向きにして放置した時のインキ洩れが少なく、筆記したときに極めて軽くて滑らかな書き味の油性インキ組成物を得る事ができた理由は以下のように考えられる。
酸無水物基を有する共重合体はインキ中でポリマー鎖を広げた形で存在しており、お互いの高分子鎖を部分的に絡めて弱い親和力で引き合っている。また、酸無水物基を有する共重合体の酸無水物基部分の酸素は、インキ中に溶解して存在する、N−アシルアミノ酸、N−アシルタウリン、N−アシルメチルタウリン、N−アシルメチルアラニンから選ばれる1種もしくは2種以上のカルボン酸基の水素と水素結合することによって、電気的な力で引き合っている。さらに、N−アシルアミノ酸、N−アシルタウリン、N−アシルメチルタウリン、N−アシルメチルアラニンから選ばれる1種もしくは2種以上は分子内に窒素とカルボン酸基を含有しているため、お互いに静電的に分子間相互作用をしてインキ中で緩やかなネットワーク構造をとっており、結果、静置状態では構造を保ち少しの力で流動する弱いゲル構造を作る。
【0013】
その結果、インキに剪断減粘性が付与され、筆記時にはボールの回転による剪断力によってインキは低粘度となり、軽い力で筆記することが可能になる。また、筆記時にインキが低粘度となっても、N−アシルアミノ酸、N−アシルタウリン、N−アシルメチルタウリン、N−アシルメチルアラニンから選ばれる1種もしくは2種以上がボールと受け座との間に吸着膜を形成して境界潤滑剤として作用することによって、ボールがスムーズに回転しなくなることによるゴリゴリとした感触は低減されて、滑らかな書き味が得られる。
また、N−アシルアミノ酸、N−アシルタウリン、N−アシルメチルタウリン、N−アシルメチルアラニンから選ばれる1種もしくは2種以上自身が酸無水物基を有する共重合体とインキ中で弱いゲル構造を形成するので、大量に添加しても、静置状態では潤滑剤自身が高粘度のゲル状となっているため、ペン先を下向きにしてペンを放置した際にもインキ洩れが起こりにくい。
以上より、極めて軽くて滑らかな書き味と、インキ洩れ防止を両立することができたものと推測される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に発明を詳細に説明する。
着色剤としては、従来ボールペン用インキに用いられている油溶性の染料及び顔料の全てが使用できる。
油性染料の一例を挙げると、SPILON BLACK GMH SPECIAL、SPILON RED C−GH、SPILON RED C−BH、SPILON BLUE C−RH、SPILON BLUE BPNH、SPILON YELLOW C−2GH、SPILON VIOLET C−RH、S.P.T.ORANGE6、S.P.T.BLUE111(以上、保土ヶ谷化学工業(株)製)などのアイゼンスピロンカラー、アイゼンSOT染料やORIENT SPRIT BLACK AB、VALIFAST BLACK 3804、VALIFAST RED 1320、VALIFAST RED 1360、VALIFAST ORANGE 2210、VALIFAST BLUE 1605、VALIFAST VIOLET 1701、VALIFAST BLUE 1601、VALIFAST BLUE 1603、VALIFAST BLUE 1621、VALIFAST BLUE 2601、VALIFAST YELLOW 1110、VALIFAST YELLOW 3104、VALIFAST YELLOW 3105、VALIFAST YELLOW 1109(以上、オリエント化学工業(株)製)などのバリファストカラー、オリエントオイルカラーやローダミンBベース、ソルダンレッド3R、メチルバイオレット2Bベース、ビクトリアブルーF4R、ニグロシンベースLK等や、ネオスーパーブルーC−555(以上、中央合成化学(株)製)等の従来公知の一般的なものが使用できる。これらはインキ中の溶剤のうち少なくとも一つに可溶でなければならない。
顔料の具体例としては、黄土、バリウム黄、群青、紺青、カドミウムレッド、硫酸バリウム、酸化チタン、弁柄、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、ファーネストブラックやコンタクトブラックやサーマルブラックやアセチレンブラック等のカーボンブラック、コバルトブルー、チタンイエロー、ターコイズ、モリブデートオレンジ、等の無機顔料等、アゾ系顔料、ニトロソ系顔料、ニトロ系顔料、塩基性染料系顔料、酸性染料系顔料、建て染め染料系顔料、媒染染料系顔料、及び天然染料系顔料、C.I.PIGMENTRED2、同3、同5、同17、同22、同38、同41、同48:2、同48:3、同49、同50:1、同53:1、同57:1、同58:2、同60、同63:1、同63:2、同64:1、同88、同112、同122、同123、同144、同146、同149、同166、同168、同170、同176、同177、同178、同179、同180、同185、同190、同194同206、同207、同209、同216、同245、C.I.PIGMENT ORANGE 5、同10、同13、同16、同36、同40、同43、C.I.PIGMENT VIOLET 19、同23、同31、同33、同36、同38、同50、C.I.PIGMENT BLUE 2、同15、同15:1、同15:2、同15:3、同15:4、同15:5、同16、同17、同22、同25、同60、同66、C.I.PIGMENT BROWN 25、同26、C.I.PIGMENT YELLOW 1、同3、同12、同13、同24、同93、同94、同95、同97、同99、同108、同109、同110、同117、同120、同139、同153、同166、同167、同173C.I.PIGMENT GREEN 7、同10、同36等の有機系顔料、アルミニウム粉、金粉、銀粉、銅粉、錫粉、真鍮粉などの金属粉顔料、蛍光顔料、雲母系顔料などを挙げることができる。
これらの着色剤の使用量は全インキ組成物に対し1重量%以上40重量%以下が好適に使用でき、十分な筆跡堅牢性を得るためには3重量%以上20重量%以下がより好ましい。使用量が1重量%より少ないと筆跡が薄すぎて耐光性試験や耐溶剤性試験を行ったときに紙面上に残る着色剤の量が少なくなり筆跡の判読がし難くなる。40重量%より多いと配合時の溶解不足や経時的な沈降による目詰まりによる筆記不能、またはインキ中の固形分の増加により書き味が重くなる不具合を生じやすくなる。また、これらの着色剤は単独で使用しても2種類以上を併用して使用しても良い。
【0015】
また、これらの顔料の他に加工顔料も使用可能である。それらの一例を挙げると、Renol Yellow GG−HW30、同HR−HW30、同Orange RL−HW30、同Red HF2B−HW30、同FGR−HW30、同F5RK−HW30、同Carmine FBB−HW30、同Violet RL−HW30、同Blue B2G−HW30、同CF−HW30、同Green GG−HW30、同Brown HFR−HW30、Black R−HW30(以上、クラリアントジャパン(株)製)、UTCO−001エロー、同012エロー、同021オレンジ、同031レッド、同032レッド、同042バイオレット、同051ブルー、同052ブルー、同061グリーン、同591ブラック、同592ブラック(以上、大日精化工業(株)製)、MICROLITH Yellow 4G−A、同MX−A、同2R−A、Brown 5R−A、Scarlet R−A、Red 2C−A、同3R−A、Magenta 2B−A、Violet B−A、Blue 4G−A、Green G−A(以上、チバ・スペシャリティケミカルズ(株)製)等がある。
【0016】
油性インキ組成物の主媒体となる有機溶剤は、従来油性インキに使用されるものなら特に限定なく使用でき、グリコールエーテル類、グリコール類、アルコール類が特に好ましい。例えば、フェニルグリコール、ベンジルアルコール、ベンジルモノグリコール、ベンジルジグリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、グリコール類、アルコール類を挙げることができる。これらの溶剤は単独あるいは組み合わせて使用でき、その使用量は油性インキ組成物全量に対し10重量%以上90重量%以下が好ましい。
【0017】
酸無水物基を有する共重合体は、使用する溶剤の少なくとも1種以上に溶解性のある必要がある。具体的には、GANTREZ AN−119、同AN139、同AN149、同AN169などのメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体や、STABILEZE 06、STABILEZE QM、STABILEZE QM PLUS(以上、アイエスピー・ジャパン(株)製)などのメチルビニルエーテル−無水マレイン酸クロスポリマーや、イソバン04、イソバン06、イソバン10、イソバン18(以上、クラレ(株)製)などのイソブチレン−無水マレイン酸共重合体や、サイズパインSA−862、同864、同865(以上、荒川化学工業(株)製)などのアルケニル−無水コハク酸共重合体や、DYLARK 232、同238、同250、同332、同378、同480、同FG2500(以上、ノバ・ケミカル(株)製)、SMA1000、同2000、同3000(以上、アトフィナ・ジャパン(株)製)などのスチレン−無水マレイン酸共重合体や、OREVACRT 9309、同9314、同9307Y、同9318、同9304、同9305などのエチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体や、BONDINE LX4110、同HX8210、TX8030、HX8290、HX8140、AX8390などのエチレン−アクリル酸−無水マレイン酸共重合体(以上、アルケマ(株)製)や、ポリボンド3009、同3109などのエチレン−無水マレイン酸共重合体や、ポリボンド3000、同3002、同3035、同3150同3200などのプロピレン−無水マレイン酸共重合体や、ロイヤルタフ498、同485などのエチレン−プロピレン−無水マレイン酸共重合体(以上、白石カルシウム(株))などが挙げられる。
これらの使用量は油性インキ組成物に対し0.01〜10.0重量%使用でき、好ましくは0.02〜5.0重量%使用できる。0.01重量%以下の添加では、インキ洩れを十分防止する事が出来ず、10.0重量%以上の添加では、インキの流動性が低くなって文字掠れが生じたり、インキ中の固形分量が多くなってしまい、他の配合物に制約を与えたりしてしまう。
【0018】
N−アシルアミノ酸、N−アシルメチルタウリン酸、N−アシルメチルアラニンは油性インキ組成物に潤滑性と経時分散安定性を付与するためのものであり、5重量%以上60重量%以下で添加することで、十分な潤滑性、経時安定性を保ちつつ塗布した際に滲みの少ない油性インキ組成物を得ることができる。一例を挙げると、N−オレオイルサルコシン、N−ラウロイルサルコシン、N−ミリストイルサルコシン、N−パルミトイルサルコシン、N−オレオイルタウリン酸、N−ラウロイルタウリン酸、N−ミリストイルタウリン酸、N−パルミトイルタウリン酸、N−オレオイルメチルタウリン酸、N−ラウロイルメチルタウリン酸、N−ミリストイルメチルタウリン酸、N−パルミトイルメチルタウリン酸、N−オレオイルメチルアラニン、N−ラウロイルメチルアラニン、N−ミリストイルメチルアラニン、N−パルミトイルメチルアラニン等が挙げられる。なかでも、N−オレオイルサルコシンまたはN−ラウロイルサルコシンを用いると、有機溶剤への溶解性と顔料との親和性のバランスが良いために、経時的な分散安定性が良好となり好ましい。
【0019】
油性インキ組成物に剪断減粘性を付与する目的で有機及び無機の汎用的に使用されている増粘剤が使用できる。具体的には、水溶性多糖類、脂肪酸アマイド、長鎖脂肪酸エステル重合体、酸化ポリエチレン、シリカ等が挙げられるが、中でも水溶性多糖類が少ない添加量で油性インキ組成物に剪断減粘性を付与するので好ましく、それらは上記の有機溶剤のうち一つに可溶でなければならない。また、水溶性多糖類のなかでも、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒアルロン酸が、溶解特性、粘度特性が良好なので好ましい。
これらの剪断減粘性付与剤は全インキ組成物に対し、0.01〜10.0重量%使用でき、好ましくは0.02〜3.0重量%使用できる。0.01重量%未満の添加では、インキに十分な剪断減粘性と曳糸性を付与する事が出来ず、5.0重量%以上の添加では、他の配合物にもよるが、インキの粘度が高くなりすぎて流動性が悪くなるため、書き味が重くなり、文字掠れも大きくなることがある。
【0020】
顔料の分散性をさらに良好なものとするために、一般的に知られている、アニオン、カチオン、ノニオン、両性の界面活性剤や、高分子樹脂を補助的に使用することができる。具体的には、高級脂肪酸、高級アルコール硫酸エステル塩類、脂肪酸硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸類、リン酸エステル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル類等のアニオン、ノニオン、カチオン性の界面活性剤や、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体樹脂などの顔料分散用の樹脂やオリゴマーなどが挙げられる。
本発明においては、スチレンモノマーと分子内にカルボン酸基を有するモノマーとの共重合体で、ベンジルモノグリコール及び/又はベンジルポリグリコールへの溶解性と、顔料への親和性のバランスが良好なため、特に良好な経時的分散安定性が得られる。
スチレンモノマーと分子内にカルボン酸基を有するモノマーとの共重合体の一例としては、SMA EF30、SMA EF40、SMA1440、SMA17352、SMA2625、SMA3840(以上、川原油化(株)製)等のスチレン−マレイン酸樹脂や、アラスター700(荒川化学工業(株)製)等のスチレン−マレイン酸樹脂半エステル、ジョンクリル67、ジョンクリル678、ジョンクリル586、ジョンクリル611、ジョンクリル680、ジョンクリル682、ジョンクリル683、ジョンクリル690(以上、ジョンソンポリマー(株)製)等のスチレン−アクリル樹脂が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0021】
その他必要に応じてベンゾトリアゾール、金属塩系、燐酸エステル系化合物などの防錆剤や、イソチアゾロン、オキサゾリジン系化合物などの防腐剤や、シリコン系、鉱物油、フッ素系化合物などの消泡剤や、天然樹脂、合成樹脂、アニオン、カチオン、ノニオン、両性界面活性剤などの分散剤や、グリセリン、ソルビタン系、多糖類、尿素、エチレン尿素またはこれらの誘導体などの湿潤剤や、アセチレングリコール、アセチレンアルコールおよびシリコン系界面活性剤などのレベリング性付与剤や、凍結防止剤などの従来公知のインキ用添加剤を併用することも可能である。
【0022】
本発明において顔料を分散するには通常一般的な方法で可能である。例えば、顔料と溶剤と分散剤を混合し、プロペラ撹拌機等で均一に撹拌した後、分散機で顔料を分散する。ロールミル、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ホモジナイザー等の分散機は油性インキ組成物の溶剤量や、顔料濃度によって適宜選択する。
油性インキ組成物を製造するには、上記で分散した顔料と他の成分、例えば粘度調整用樹脂や溶剤、潤滑剤、水溶性多糖類等を混合し、ホモミキサー等の撹拌機にて均一になるまで溶解・混合することで得られるが、場合によって混合した油性インキ組成物をさらに分散機にて分散したり、得られた油性インキ組成物を濾過や遠心分離機に掛けて粗大粒子や不溶解成分を除いたりすることは何ら差し支えない。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例に基づき更に詳細に説明する。尚、各実施例中単に「部」とあるのは「重量部」を表す。
(実施例1)
PERMANENT RED FRR(C.I.Pigment Red 2、クラリアントジャパン(株)製) 15.0部
ベンジルグリコール(日本乳化剤(株)製) 23.85部
フェニルセルソルブ 10.0部
SMA1440(スチレン−マレイン酸共重合体、分子量7000、酸価185、川原油化(株)製) 4.0部
STABILEZE QM(メチルビニルエーテル−無水マレイン酸クロスポリマー、アイエスピー・ジャパン(株)製) 0.05部
KLUCEL H(ヒドロキシプロピルセルロース、三晶(株)製) 0.1部
サルコシネートOH(N−オレオイルサルコシン、日光ケミカルズ(株)製)47.0部
上記成分のうち、SMA1440、ベンジルグリコールの全量を約70℃で加熱攪拌し、均一に溶解させた後PERMANENT RED FRRの全量を加え均一に混合した。これを室温まで放冷してから3本ロールミルで10回通しを行い赤色のペーストを得た。次いで、残りの成分の全量を加え、約70℃に加熱し、プロペラ攪拌機で均一になるまで混合撹拌、溶解するまで2時間攪拌して赤色の油性インキを得た。
【0024】
(実施例2)
プリンテックス35(カーボンブラック、デグサジャパン(株)製) 20.0部
ネオスーパーブルーC−555(C.I.SOLVENT BLUE70、中央合成化学(株)製) 4.0部
SPILON RED C−GH(油性染料、保土谷化学工業(株)製) 1.2部
VALIFAST YELLOW 1151(油性染料、オリエント化学工業(株)製)
1.2部
ベンジルアルコール 31.0部
ベンジルジグリコール(日本乳化剤(株)製) 24.3部
ジョンクリル678(スチレン−アクリル酸共重合体、分子量8500、酸価215、ジ
ョンソンポリマー(株)製) 10.0部
サイズパイン SA865(アルケニル−無水コハク酸共重合体、荒川化学工業(株)製) 0.5部
メトローズ60SH−10000(メチルヒドロキシプロピルセルロース、日新化成(株)製) 0.8部
サルコシネートLH(N−ラウロイルサルコシン、日光ケミカルズ(株)製) 7.0部
上記成分のうち、ジョンクリル678、ベンジルジグリコールの全量を約70℃で加熱攪拌し、均一に溶解させた後プリンテックス35の全量を加え均一に混合した。これを室温まで放冷してから3本ロールミルで10回通しを行い、黒色のペーストを得た。次いで、残りの成分の全量を加え、約70℃に加熱し、プロペラ攪拌機で均一になるまで混合撹拌、溶解するまで2時間攪拌して黒色の油性インキを得た。
【0025】
(実施例3)
hostaperm Blue P−BFS(c.i.pigment BLUE15:4、クラリアントジャパン(株)製) 5.0部
SPILON RED C−GH(前述) 1.2部
VALIFAST BLUE 1603(C.I.DIRECT BLUE 86とC.I.BASIC BLUE 7との造塩染料、オリエント化学工業(株)製) 6.0部
ジプロピレングリコール 7.5部
2−ベンジルオキシエタノール(関東化学(株)製) 30.2部
ジョンクリル682(スチレン−アクリル酸共重合体、分子量1700、酸価238、ジ
ョンソンポリマー(株)製) 3.0部
ジョンクリルHPD671(スチレン−アクリル酸共重合体、分子量17250、酸価214、ジョンソンポリマー(株)製) 3.0部
SMA1000(スチレン−無水マレイン酸共重合体、アトフィナ・ジャパン(株)製) 4.0部
BERMOCOLL EBS481FQ(エチルヒドロキシエチルセルロース、アクゾノーベル(株)製) 0.5部
オレオイルザルコシン221P(N−オレオイルサルコシン、日本油脂(株)製) 39.6部
上記成分のうち、ジョンクリル682、ジョンクリルHPD671、ジプロピレングリコール、2−ベンジルオキシエタノールの全量を約70℃で加熱攪拌し、均一に溶解させた後hostaperm Blue P−BFSの全量を加え均一に混合した。これを室温まで放冷してから3本ロールミルで10回通しを行い青色のペーストを得た。次いで、残りの成分の全量を加え、約70℃に加熱し、プロペラ攪拌機で均一になるまで混合撹拌、溶解するまで2時間攪拌して青色の油性インキを得た。
【0026】
(実施例4)
ネオスーパーブルーC−555(前述) 7.0部
SPILON RED C−GH(前述) 1.0部
OIL BLUE 613(油性染料、オリエント化学工業(株)製) 6.0部
ヘキシルグリコール 32.1部
ベンジルグリコール(前述) 28.7部
OREVACRT 9309(エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、アルケマ(株)製) 2.0部
NATROSOL PLUS330(疎水化ヒドロキシエチルセルロース、三晶(株)製) 2.2部
メトローズSNB−30T(エチルヒドロキシメチルセルロース、信越化学工業(株)製) 2.0部
ラウロイルメチルアラニン(アラニネート LN−30(ラウロイルメチルアラニンナトリウム水溶液、日光ケミカルズ(株)社製)を塩酸にて脱塩化したものを使用) 19.0部
上記成分のうち、ネオスーパーブルーC−555、SPILON RED C−GH、OIL BLUE 613、OREVACRT 9309、NATROSOL PLUS330、メトローズSNB−30T、ヘキシルグリコール、ベンジルジグリコールの全量を約70℃で加熱攪拌し、均一に溶解させた後、ラウロイルメチルアラニンの全量を加え、さらにプロペラ攪拌機で2時間攪拌して青色の油性インキを得た。
【0027】
(実施例5)
ネオスーパーブルーC−555(前述) 7.0部
SPILON RED C−GH(前述) 1.0部
OIL BLUE 613(前述) 6.0部
フェニルグリコール 46.7部
ベンジルジグリコール(前述) 16.0部
ガントレッツAN−169(メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、アイエスピー・ジャパン(株)製) 0.1部
ヒアルロン酸(ムコ多糖類、和光純薬工業(株)製) 0.15部
N−ラウロイルメチルタウリン酸(NIKKOL LMT(N−ラウロイルメチルタウリンナトリウム、日光ケミカルズ(株)社製)を塩酸にて脱塩化したもの) 23.05部
上記成分のうち、ネオスーパーブルーC−555、SPILON RED C−GH、OIL BLUE 613、ガントレッツAN−169、ヒアルロン酸、フェニルグリコール、ベンジルジグリコールの全量を約70℃で加熱攪拌し、均一に溶解させた後、N−ラウロイルメチルタウリン酸の全量を加え、さらにプロペラ攪拌機で2時間攪拌して青色の油性インキを得た。
【0028】
(比較例1)
実施例1において、STABILEZE QMを除して、代わりにルビスコール K−30(ポリビニルピロリドン、アイエスピー・ジャパン(株)製)を添加した以外は同様になして赤色の油性インキ組成物を得た。
【0029】
(比較例2)
実施例1において、サルコシネートOHを除して、代わりにエキストラオレイン(オレイン酸、日本油脂(株)製)を添加した以外は同様になして赤色の油性インキ組成物を得た。
【0030】
(比較例3)
実施例1において、STABILEZE QMを0.001部に減じて、減じた同量のベンジルグリコールを添加した以外は同様になして赤色の油性インキ組成物を得た。
【0031】
(比較例4)
PERMANENT RED FRR(C.I.Pigment Red 2、クラリアントジャパン(株)製) 15.0部
ベンジルグリコール(日本乳化剤(株)製) 11.9部
フェニルセルソルブ 10.0部
SMA1440(スチレン−マレイン酸共重合体、分子量7000、酸価185、川原油化(株)製) 4.0部
STABILEZE QM(メチルビニルエーテル−無水マレイン酸クロスポリマー、アイエスピー・ジャパン(株)製) 12.0部
KLUCEL H(ヒドロキシプロピルセルロース、三晶(株)製) 0.1部
サルコシネートOH(N−オレオイルサルコシン、日光ケミカルズ(株)製)47.0部
上記成分のうち、SMA1440、ベンジルグリコールの全量を約70℃で加熱攪拌し、均一に溶解させた後PERMANENT RED FRRの全量を加え均一に混合した。これを室温まで放冷してから3本ロールミルで10回通しを行い赤色のペーストを得た。次いで、残りの成分の全量を加え、約70℃に加熱し、プロペラ攪拌機で均一になるまで混合撹拌、溶解するまで2時間攪拌して赤色の油性インキを得た。
【0032】
以上、実施例、比較例で得た油性インキ組成物について、下記の試験を行った。結果を表1に示す。
【0033】
(試験用ボールペンの作製)
上記実施例及び比較例で得たボールペン用油性インキを市販の油性ボールペン(.e−ball、製品符号 BK127、ぺんてる(株)製(ボール径φ0.7))と同構造の筆記具に0.3g充填し、遠心機にて遠心力(1000rpm、5分間)を加えてインキ中の気泡を脱気して、試験用ボールペンを作製した。
【0034】
インキ洩れ:上記試験用のボールペンを各実施例、比較例あたり10本ずつ作成し、それぞれ10cm直線筆記をした直後に、ペン先を下向きに室温で3日間静置した。その時のボールホルダーの開口部先端から、インキが付着している部分の、軸心方向の最大長さをインキ洩れ長さとした。試験結果は平均値で評価した。
【0035】
書き味:モニター5人で手書きによる官能試験を行い、書き味を.e−ball(製品符号 BK127、ぺんてる(株)製(ボール径φ0.7))と比較して、.e−ballよりも、重いもしくは滑らかでない(1点)、軽いが滑らかでない、もしくは滑らかだが重い(2点)、軽くて滑らか(3点)、非常に軽くて滑らか(4点)、で評価し、5人の平均値を算出した。
【0036】
【表1】

【0037】
以上、詳細に説明したように、本発明のインキは極めて軽くて滑らかな書き味で、かつペン先を下向きに放置したときにインキ洩れの少ない油性ボールペン用インキに関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、着色剤と、有機溶剤と、酸無水物基を有する共重合体と、N−アシルアミノ酸、N−アシルタウリン、N−アシルメチルタウリン、N−アシルメチルアラニンから選ばれる1種もしくは2種以上とを含有する油性ボールペン用インキ。
【請求項2】
前記酸無水物基を有する共重合体の、酸無水物基が無水マレイン酸、もしくは無水コハク酸であり、その他の共重合体成分がオレフィン、スチレン、酢酸ビニルから選ばれる1種もしくは2種以上とから少なくともなる請求項1記載の油性ボールペン用インキ。