説明

油揚げの製造方法

【課題】 本発明の目的は酸化劣化に対して影響の大きい高温油槽を用いずに、油揚げ生地の表面硬化処理を行うことで、油の消費量を著しく低減させた油揚げの製造方法を提供するものである。
すなわち、本発明の方法によれば、低温での膨化処理工程は従来どおり油槽にて行い、これにより良好な膨化状態(フワフワ感のある食感の油揚げのこと)を安定して得ることができ、一方高温での表面硬化処理工程は過熱水蒸気を用いるため高温油槽は不必要となり、これにより使用する油の消費量を大幅に減らすことができ、同時に油揚げに過剰に含浸された油をそぎ落としてヘルシーな油揚げを得られる。
【解決手段】 油揚げ生地を低温油槽にて膨化処理し、その後に当該生地を過熱水蒸気にて表面硬化処理することを特徴とする油揚げの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油の消費量を抑えた油揚げの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に油揚げは、大豆や大豆蛋白質などから製造した油揚げ生地を、90〜130℃の低温油槽と160〜200℃の高温油槽を用い、各油槽で2段階に分けて加熱することで製造されている。
【0003】
まず低温油槽における加熱では、生地内部に含まれていた水分が水蒸気となり体積が膨張する力を利用して膨化が起こり、膨化した生地は引き続き、連続して高温油槽に移され、そこで加熱されて表面を硬化処理することで、膨化状態を保持するようにしている。
【0004】
前記油槽内の油は使用に伴う劣化によって不快な臭いを発するようになり、さらに変質が進むと毒性を示すようになるため、劣化に応じて適宜交換をする必要がある。劣化の主な原因として、油の酸化や加水分解が挙げられる。
この油の酸化は、油中の不飽和脂肪酸が空気中又は油中に溶存する酸素と反応して不安定な過酸化物を生じ、さらに不飽和の過酸化物を生じることによって起こる。また酸化速度は、油の温度が高いほど速くなることが知られており、油温が10℃上昇するごとに反応速度は2倍になるとも言われている。
さらに油揚げ生地中の水分と油とが接触することで起こる加水分解反応も、油の温度が高くなるほど反応が進みやすいことが知られている。
【0005】
したがって、油揚げの製造においては、油を常に高温状態に保つ状態を維持しているため、劣化した油の交換に伴い、大量の交換油が必要となる。なかでも、硬化処理を目的とした高温油槽内で使用される油は、高温条件下にさらされるため劣化状況が著しく、これにより高温油槽で使用される油の消費量は、油揚げ製造に用いられる油の中で最も大きな割合を占めている。
また、高温油槽内で硬化処理を行うに際しては、膨化工程時に油揚げ生地の内部に発生した空隙に、必然的に多量の油が浸透してしまい、これにより油揚げの表面に油の斑点を発生させ、いわゆる「油くい」と呼ばれる現象を起こし、製品の外観や食味などの製品品質を著しく損なっていた。
【0006】
これらの問題を解決する手段として、油槽を使用せずに過熱水蒸気を使用して油揚げ生地を加熱し、交換油の消費量の大幅な削減と、「油くい」現象の発生を抑える方法が提案されている。
この過熱水蒸気を用いた油揚げの製造方法のひとつとして、油揚げ生地を過熱水蒸気により膨化処理させ、その後油揚げ生地を高温油槽内で加熱し、ついで油揚げ生地にマイクロ波を照射することを特徴とする油揚げの製造方法がある。
また別の方法として、油槽を一切使用せず、油揚げ生地を過熱水蒸気により膨化処理した後、その過熱水蒸気の温度をさらに上昇させて油揚げ様食品を製造する方法がある。
【特許文献1】特開2002−34489
【特許文献2】特開2002−34490
【特許文献3】特開2005−46021
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した特許文献1の油揚げの製造方法によれば、使用油の酸化劣化状況が最も著しくなる高温油槽を必要としているために、劣化に伴う交換油の消費量が従来方法と比べて殆ど同じであるため、実質的な油の消費量削減効果は殆ど得られない。
また、特許文献2,3の油揚げの製造方法によれば、油槽を用いずに膨化処理を行うため、油を用いて得られるような良好な膨化状態を得ることが難しく、均質でやわらかい食感を呈する従来通りの高品質の油揚げを安定して製造することは困難であった。
本発明の目的は酸化劣化に対して影響の大きい高温油槽を用いずに、油揚げ生地の表面硬化処理を行うことで上記の全ての問題点を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題を解決するために、請求項1記載の発明は、油揚げ生地を低温油槽にて膨化処理し、その後に当該生地を過熱水蒸気にて表面硬化処理することを特徴とする油揚げの製造方法である。
【0009】
また請求項2記載の発明は、請求項1において、低温油槽の膨化処理温度を90〜130℃とし、過熱水蒸気の表面硬化処理温度を160〜300℃としたことを特徴とする油揚げの製造方法である。
【0010】
さらに請求項3記載の発明は、請求項1又は2において、低温油槽の膨化処理時間を5分以上20分以下とし、過熱水蒸気の表面硬化処理時間を5分以上20分以下としたことを特徴とする油揚げの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
従来の油揚げの製造方法では、低温での油揚げ生地の膨化処理工程と、高温での表面硬化処理工程のいずれをも油槽にて行っていたため、そこでは多量の油を使用しなくてはならなかったが、本発明の方法によれば、低温での膨化処理工程は従来どおり油槽にて行い、これにより良好な膨化状態(フワフワ感のある食感の油揚げのこと)を安定して得ることができ、一方高温での表面硬化処理工程は過熱水蒸気を用いるため高温油槽は不必要となり、これにより使用する油の消費量を大幅に減らすことができ、同時に油揚げに過剰に含浸された油をそぎ落としてヘルシーな油揚げを得られるという効果がある。
【0012】
加えて、低温油槽内の油は高温にさらされることがないため劣化の進行がゆるやかとなり、頻繁に油交換する必要に迫られず、結果的にランニングコストを削減することができ、さらには高品質な油揚げを安定して供給することができるので、油揚げ製造を有利な条件で進めることができるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で用いられる油揚げ生地は、公知の製造方法で得ることができる油揚げ生地をそのまま用いることができる。すなわち、原料には通常の丸大豆のほか大豆蛋白質を主体とした原料等を用いることができる。
油揚げ生地を製造するために用いられる添加物としては通常の油揚げ生地を製造するために用いられる素材であればいかなるものを用いても良い。また、これらの一連の工程には豆腐や油揚げ製造用として知られる、いずれの器具設備を用いることもでき、特に制限があるものではない。
【0014】
図1は従来の油揚げ製造の工程を示すフローチャートであり、丸大豆1を水に浸漬して浸漬大豆2を得、これを磨砕して生呉3を得、さらに煮沸して煮呉4を得、濾過分離して豆乳5を製造し、この豆乳を凝固させて凝集物6を得、さらに凝集物6を攪拌した後プレスして生地(油揚げ生地)7を製造し、この生地7を低温油槽(低温フライ)により膨化処理して膨化生地8を製造し、さらに高温油槽(高温フライ)により表面硬化処理を行なって最終製品である油揚げ9を完成させている。
【0015】
本発明における油揚げ生地の膨化処理工程は、従来の製造方法通りの低温油槽における加熱で行う。このとき油槽内の油の加熱方法は直接又は循環加熱方式等を用いることができる。油槽内の油の温度は90〜130℃とし、単独又は連続的に油揚げ生地を投入し、その油槽内で膨化処理を行う。
この膨化処理工程では、従来の全ての油揚げ製造方法をそのまま適用することができ、製造設備や製造条件などの大幅な変更を必要とせず、従来通りの方法を採用することができる。
【0016】
次に本発明では、膨化した油揚げ生地の表面を硬化させ、形状を保持させるために、過熱水蒸気で加熱して表面効果処理を行うが、この表面硬化処理における加熱条件は160〜300℃が好ましい。このときの温度が低すぎる(160℃未満)と、「縮み・へたり」などと呼ばれる、収縮現象が起きて製品を膨化した状態に保つことができず、また、温度が高すぎる(300℃を超える)と、硬化が進みすぎて油揚げの表面が硬くなりすぎ、油揚げの表面に焦げが生じたりして、食感や外観上の品質を低下させてしまう。
【0017】
本発明にて用いられる過熱水蒸気とは、水蒸気を二次加熱することによって得ることができるものを指し、水蒸気の二次加熱としては公知のいかなる方法を用いても良く、特に制限はない。
上記の方法によって得られた油揚げは、良好な膨化処理状態を示し、構造が安定で均一化されているため良好な食感を示す。また、従来方法では高温油槽において、膨化して生じた油揚げ内部の空隙に、部分的に多量の油が浸透し、表面に油の斑点を生じる、いわゆる「油くい」現象がおきてしまい、結果的に製品品質を損なっていたが、本発明においてはこの心配も全くなくなった。
【0018】
本発明の製造工程を図2に示す製造工程説明図面で説明する。
まず磨砕装置11、蒸煮装置12、濾過分離装置13を経由して、丸大豆1から豆乳5を製造し、凝固装置14を経て凝集物6を得、プレス装置15を経て生地(油揚げ生地)7を製造し、この生地7をカット装置16で切断して適宜の寸法に調整し、ついで低温油槽17で膨化処理(低温フライ)を行なって膨化生地8を製造し、最後に過熱水蒸気槽18にて表面硬化処理を行なって油揚げ9の完成品を製造する。
【0019】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の趣旨はもとよりこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
常法によって得られた油揚げ生地を低温油槽内(110℃−20L)に入れ、8分加熱して膨化処理させた後、過熱水蒸気方式のオーブン内(200℃)に10分間入れ、油揚げ生地の表面硬化処理を行い、油揚げを得た。
【実施例2】
【0021】
実施例1で行った過熱水蒸気方式のオーブンでの表面硬化処理を、温度条件を170〜250℃とし、時間条件を4〜14分間にそれぞれ変更して油揚げを得た。
【比較例1】
【0022】
実施例1及び2と同様に、常法によって得られた油揚げ生地を、低温油槽内(110℃−20L)に入れて8分間加熱して膨化処理した後、高温油槽内(170℃−20L)に入れて7分間加熱して油揚げを得た。
【品質評価結果】
【0023】
実施例1と比較例1の製品検査結果を図3の表1に示す。また、実施例2で得られた油揚げの外観の比較を図4の表2に示した。
表1に示す結果から判明するように、実施例1の油揚げは比較例1の油揚げと同等以上のサイズとなり、各測定項目がすべて基準内におさまっていた。ここにおいて実施例1で得られた油揚げは、従来の製造方法と比較して同等以上の品質を有していることが確認された。
表2の結果からは、適正な条件であれば油揚げの縮み現象は見られず、その外観は良好な状態を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、油揚げを製造する産業において利用される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来の油揚げ製造の工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明の製造工程説明図面である。
【図3】表1
【図4】表2
【符号の説明】
【0026】
1…丸大豆
2…浸漬大豆
3…生呉
4…煮呉
5…豆乳
6…凝集物
7…油揚げ生地
8…膨化生地
9…油揚げ
11…磨砕装置
12…蒸煮装置
13…濾過分離装置
14…凝固装置
15…プレス装置
16…カット装置
17…低温油槽
18…過熱水蒸気


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油揚げ生地を低温油槽にて膨化処理し、その後に当該生地を過熱水蒸気にて表面硬化処理することを特徴とする油揚げの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、低温油槽の膨化処理温度を90〜130℃とし、過熱水蒸気の表面硬化処理温度を160〜300℃としたことを特徴とする油揚げの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、低温油槽の膨化処理時間を5分以上20分以下とし、過熱水蒸気の表面硬化処理時間を5分以上20分以下としたことを特徴とする油揚げの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−280336(P2006−280336A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108525(P2005−108525)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(591009004)太子食品工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】