説明

油脂組成物

【課題】透明性を保ち外観が良好で、揚げ物の衣の花咲性、風味及び食感が向上し、美味しい揚げ物とする油脂組成物を得る。
【解決手段】ジアシルグリセロールを70質量%以上、ショ糖脂肪酸エステル及びアスコルビン酸脂肪酸エステルを含有し、ショ糖脂肪酸エステル中のモノエステルの含有量が30質量%以上である油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用、さらに加熱調理用、特に、フライ、天ぷらなどの揚げ物用に適した油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から天ぷらやフライ調理用の油脂としては、例えば、コーン油、菜種油、大豆油、綿実油、米油、サフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックひまわり油、ごま油、オリーブ油等の液状油脂が多く用いられている。液状油脂とは、基準油脂分析試験法2.3.8−27による冷却試験を実施した場合、20℃で液状である油脂をいう。
【0003】
しかしながら、上記のような油脂では、天ぷらを揚げた場合に衣の花咲性(散り状態)が良好でない場合がある。天ぷらにおいて花咲性が良好でないと、揚げ調理時に油水交換が十分に行われず、天ぷら特有のカリッとした食感又はサクサクとした食感が得られない場合がある。
【0004】
そのような課題を解決する技術として、各種の食品用乳化剤を配合することにより、花咲性を向上させるものが知られている(特許文献1〜8参照)。また、乳化剤を配合する等により油脂と水との界面張力を低下させ、花咲性を向上させるという技術も知られている(特許文献9参照)。
【0005】
一方、油脂の酸化防止に用いられるL−アスコルビン酸脂肪酸エステルを、レシチン及び中鎖脂肪酸トリグリセライドや、ポリグリセリン脂肪酸エステル等と混合し、L−アスコルビン酸脂肪酸エステルの結晶化を抑制するという技術が知られている(特許文献10、11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−316950号公報
【特許文献2】特開平5−316951号公報
【特許文献3】特開平7−000109号公報
【特許文献4】特開平7−75499号公報
【特許文献5】特開平7−147902号公報
【特許文献6】特開平6−153794号公報
【特許文献7】特開平7−16051号公報
【特許文献8】特開平7−16053号公報
【特許文献9】特開平7−16052号公報
【特許文献10】特開平6−336443号公報
【特許文献11】特開2005−314519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上記のような各種食品用乳化剤を配合した油脂組成物の天ぷら、フライ等の揚げ物用の油脂としての性能を検討した。その結果、従来の油脂に乳化剤を添加する技術はある程度の改善効果を示すものの、乳化剤の油脂への溶解性の点からその配合量には限界があり、揚げ物の食感等の性能もこの配合量に左右されることが判明した。また、更に性能を向上させるために乳化剤を油脂への溶解度の限界近くで配合したり、性能の良い乳化剤でも溶解度が低かったりすると、製造工程中に乳化剤の結晶が生じ、製造効率に影響が生じたり、製品の保存条件によっては乳化剤が結晶化することにより外観が低下したりする場合があることが判明した。
従って、本発明は、揚げ物調理用の油脂として、透明性を保ち外観が良好で、揚げ物の衣の花咲性、風味、食感等の性能を向上させた油脂組成物を効率よく提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記のような好ましい性能を有する加熱調理用、特に揚げ物用の油脂を求めて鋭意研究を行った。その結果、まず、ベースとなる油脂組成物において、ジアシルグリセロール含有量を上げることによって、性能が向上されることを見出した。また、ジアシルグリセロール高含有とした油脂に、従来好ましくないものと認識され、かつ通常の油脂には不溶であったモノエステル高含有のショ糖脂肪酸エステルを配合すればより性能が向上されることを見出した。しかし、モノエステル高含有のショ糖脂肪酸エステル単体では、ジアシルグリセロール高含有とした油脂においても高濃度で溶かすことが困難である。また、例えば、製造の容易性の点から予め乳化剤を高濃度で溶解した油脂を調製し、これを希釈して製造しようとする場合、高濃度で溶解する際に乳化剤が溶けきれず、効率的な製造に影響が出てしまう。
そこで本発明者は、前記モノエステル高含有のショ糖脂肪酸エステルの溶解性についての課題を鋭意研究したところ、さらにこれにアスコルビン酸脂肪酸エステルを組み合わせることで、ショ糖脂肪酸エステルを高い濃度で溶解させても透明性を保ち外観が良好で、かつ揚げ物調理用の油脂としての性能を従来にない高レベルで解決した油脂組成物が得られることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、ジアシルグリセロールを70質量%以上、ショ糖脂肪酸エステル及びアスコルビン酸脂肪酸エステルを含有し、ショ糖脂肪酸エステル中のモノエステルの含有量が30質量%以上である油脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ショ糖脂肪酸モノエステルを高含有しても製造工程中に結晶を生じず、保存時においても透明性を保ち外観が良好な油脂組成物を得ることができる。本発明の油脂組成物を用いて加熱調理、特に揚げ物の調理を行うことにより、揚げ物の衣の花咲性が良好で、風味及び食感が向上し、美味しい揚げ物とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いるショ糖脂肪酸エステルは、モノエステル(以下、「SME」と記載する)を30質量%(以下、単に「%」と記載する)以上含有するものである。ショ糖脂肪酸エステル中のモノエステル含有量は、更に40〜90%、特に50〜85%、殊更55〜80%であることが、揚げ物の衣の花咲性、風味、食感の点から好ましい。また、ショ糖脂肪酸モノエステルとジエステル(以下、「SDE」と記載する)との質量比(SME/SDE)が0.5以上、更に1〜10、特に1.2〜5であることが、揚げ物の衣の花咲性、風味、食感の点から好ましい。
【0012】
更に、ショ糖脂肪酸エステルの平均エステル化度は1〜2.5であることが好ましく、更に1.1〜2、特に1.2〜1.7であることが、揚げ物の衣の花咲性、風味、食感の点から好ましい。ここで、ショ糖脂肪酸エステルのエステル化度とは、ショ糖1分子中の8個の水酸基のうち脂肪酸エステル化されているものの個数をいい、例えば、SMEのエステル化度は1、SDEのエステル化度は2である。また、平均エステル化度とは、次式(1)により定義される値である。
【0013】
【数1】

【0014】
本発明におけるショ糖脂肪酸エステルは、SME、SDE以外にエステル化度が3以上である、ショ糖脂肪酸トリエステル(以下、「STE」と記載する)、その他のショ糖脂肪酸ポリエステル(以下、「SPE」と記載する)が含有されていても良い。
【0015】
本発明におけるショ糖脂肪酸エステルの含有量は、油脂組成物中に0.01〜5%であることが好ましく、更に0.25〜3%、特に0.75〜2%であることが、高含有とする点、揚げ物の衣の花咲性、風味、食感、溶解性の点から好ましい。
【0016】
また、ショ糖脂肪酸エステルのうちSMEの含有量は、油脂組成物中に0.005〜3.75%、更に0.2〜2%、特に0.5〜1.3%、殊更0.5〜1.2%であることが、高含有とする点、揚げ物の衣の花咲性、風味、食感、溶解性の点から好ましい。
【0017】
本発明に用いるショ糖脂肪酸エステルは、エステルを構成する脂肪酸は飽和脂肪酸が0〜50%、更に3〜30%、特に5〜20%であることが、低温(0〜5℃)における保存性の点、油脂への溶解性が良好である点、加熱時の劣化臭、揚げ物調理時の油はね抑制、揚げ物の衣の花咲性等の点から好ましい。なお、この場合残余の構成脂肪酸は当然ながら不飽和脂肪酸であり、炭素数18のオレイン酸、リノール酸、リノレン酸等であることが好ましい。また、ショ糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸は、加熱時の劣化臭や異臭の発生が少ない点から、炭素数14以上のものであることが好ましく、特に、飽和脂肪酸は、炭素数16のパルミチン酸、炭素数18のステアリン酸またはこれらの混合物を主成分とするものであることが好ましい。
【0018】
本発明で使用するショ糖脂肪酸エステルは、既知の合成法を利用して調製することができる。一般に行われる方法は、ショ糖と脂肪酸メチル等の脂肪酸の低級アルコールエステルを用いたエステル交換反応により生成する方法である。また、ショ糖と脂肪酸メチル等を相溶性溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド)に溶解し、炭酸カリウム等のアルカリ触媒を用い、減圧下加熱反応させる方法や、ショ糖と脂肪酸メチルを水と多量の乳化剤とを用い、加熱し、ミクロエマルジョンとした後、これを減圧脱水し、炭酸カリウム等のアルカリを触媒として反応させる方法等が挙げられる(シュガーエステル物語 第一工業製薬(株))。また、炭酸カリウム等のアルカリを触媒として、ショ糖と油脂を直接加熱してエステル交換反応させる方法も利用できる。得られた反応生成物から過剰のショ糖や溶媒を除去後、クロロホルム−メタノールを展開溶媒としたシリカゲルカラムにて分画し、得られた各分画物を目的とする配合に再構成することにより、本発明の油脂組成物に含まれるショ糖脂肪酸エステルを調製することができる。なお、市販のショ糖エステルを用いてもよく、または市販品のショ糖脂肪酸エステルから上記の方法にて分画し、得られた各分画物を本発明に適合するように再構成することによっても得ることができる。更に、市販品のショ糖脂肪酸エステルをヘキサンに溶解後、エタノールと水を添加し、エタノールと水の量比を調節することにより、ヘキサン相にショ糖脂肪酸エステルのジエステル以上の成分を抽出し、それ以外の部分を分取することによって得られたものも利用することができる。
【0019】
また、本発明の態様として、ショ糖脂肪酸エステル以外の乳化剤を添加しても良く、例えば、ソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルグルコシド、エリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0020】
本発明におけるアスコルビン酸脂肪酸エステルは、その構成脂肪酸は炭素数12〜18のものであることが好ましく、中でもパルミチン酸、ステアリン酸であることが、ショ糖脂肪酸エステルの溶解性、油脂組成物の外観の点から好ましい。本発明の油脂組成物中のアスコルビン酸脂肪酸エステルの含有量は0.01〜5%であることが、ショ糖脂肪酸エステルを高含有にできる点、油脂組成物の外観の点から好ましく、更に0.25〜2.5%、特に0.5〜1.5%であることが好ましい。
【0021】
また、本発明の油脂組成物は、アスコルビン酸脂肪酸エステルの含有量とSMEの含有量の関係が、次式(2)を満たすものであることが、ショ糖脂肪酸エステルの溶解性、油脂組成物の外観の点から好ましい。なお、ここでいう「外観」は、油脂組成物を一定条件下で保存することによりショ糖脂肪酸エステルの結晶が生じるか否かの観点をいう。
【0022】
【数2】

【0023】
また、yの値は、更に0.3x−0.23≦y≦1.4x+0.14(式中、xとyは前記と同様。)を満たすものであることが、ショ糖脂肪酸エステルの溶解性、油脂組成物の外観の点から好ましい。
【0024】
本発明の油脂組成物は、ジアシルグリセロールを70%以上含有する。油脂組成物中のジアシルグリセロール含有量は、好ましくは70〜99.99%、更に75〜95%、特に80〜93%であることが、ショ糖脂肪酸エステルの溶解性、揚げ物の衣の花咲性、風味、食感、油脂組成物の工業的生産性の点から好ましい。油脂は、ジアシルグリセロール以外にモノアシルグリセロール及び/又はトリアシルグリセロールを含有していても良い。
【0025】
本発明の油脂組成物は、ジアシルグリセロールを高含有する油脂、もしくはこれに必要に応じて通常の食用油脂を配合し、ジアシルグリセロール70%以上とした油脂をベースとし、当該油脂に前記ショ糖脂肪酸エステル及びアスコルビン酸脂肪酸エステルを混合、溶解することにより製造することが好ましい。また、本発明の油脂組成物は、ジアシルグリセロール70%以上の油脂に、前記ショ糖脂肪酸エステル及びアスコルビン酸脂肪酸エステルを混合、溶解した油脂組成物を予め調製し、その後ジアシルグリセロール70%以上の油脂で希釈することにより製造することが好ましい。この場合、前記予め調製しておく油脂組成物は、ショ糖脂肪酸エステル及びアスコルビン酸脂肪酸エステルを前記範囲内で最終目的物よりも高含有とし、希釈後に前記範囲内となるようにすることが、効率的に製造する点から好ましい。具体的には、希釈前の油脂組成物中の含有量は、ショ糖脂肪酸エステルが0.75〜2%(SME含有量が0.5〜1.2%)、アスコルビン酸脂肪酸エステルが0.5〜1.5%であることが、ショ糖脂肪酸エステルの溶解性、製造効率の点から好ましい。希釈倍率は、製造効率の点から5〜50質量倍、更に10〜40質量倍、特に20〜30質量倍とすることが好ましい。
【0026】
本発明の態様において、モノアシルグリセロールを含む場合は、油脂中に0.1〜5%、更に0.1〜2%、特に0.2〜1%含有するのが風味、外観、発煙、油脂の工業的生産性等の点で好ましい。
【0027】
本発明の態様において、トリアシルグリセロールを含む場合は、油脂中に4.9〜29.9%、更に6.9〜24.9%、特に6.9〜19.9%含有するのが生理効果、油脂の工業的生産性、外観の点で望ましい。
【0028】
また、油脂を構成する脂肪酸は、炭素数が8〜24であることが好ましく、全構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含量は80〜100%であることが好ましく、更に90〜100%、特に93〜98%であることが、生理効果、外観の点で好ましい。ジアシルグリセロールはジ不飽和アシルグリセロールであることが、生理効果、外観の点で好ましい。
【0029】
本発明において、油脂は、不飽和脂肪酸残基の含有量の高い油脂、例えば、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、コーン油、菜種油、大豆油、パーム油、ひまわり油、ごま油、更にラード、牛脂、魚油、乳脂、あるいはそれらの分別油、ランダム化油、硬化油、エステル交換油から選ばれた一種または二種以上の油脂と、グリセリンとの混合物を、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物又はリパーゼ等の脂質分解酵素の存在下でエステル交換反応させるか、またはこれらの油脂を加水分解して得られた脂肪酸とグリセリンとをエステル化反応して得られるジアシルグリセロール含有量の高い油脂を、単独でもしくは上述した原料油脂とを混合することにより得ることができる。反応で生成した過剰のモノアシルグリセロールは分子蒸留法またはクロマトグラフィー法により除去することができる。これらの反応はアルカリ触媒等を用いた化学反応でも行なうことが可能であるが、1,3位選択的リパーゼ等酵素を用い、穏和な条件で反応を行なうのが風味等の点で優れており好ましい。グリセリド混合物中のジアシルグリセロール含有量を高くする別の方法としては、例えば、天然食用油脂の分別油の利用が挙げられる。なお、油脂には、天然の成分としてジアシルグリセロールが含まれるものもあるが、本発明においては、これらを含めて油脂組成物中にジアシルグリセロール含有量が70%以上となるようにする。
【0030】
本発明の油脂組成物には、アスコルビン酸脂肪酸エステルの他に抗酸化剤を添加しても良い。抗酸化剤は、通常、食品に使用されるものであればいずれでもよいが、天然抗酸化剤、トコフェロール、カテキン、リン脂質、BHT、BHA、TBHQから選ばれる1種又は2種以上が好ましく、中でも天然抗酸化剤及びトコフェロールから選ばれる1種又は2種以上が特に好ましい。
【0031】
本発明の油脂組成物は、食用であることが好ましく、さらに加熱調理用、特に、フライ、天ぷらなどの揚げ物の調理用として用いることが、調理品の衣の花咲性、風味、食感、室温における外観等の点から好ましい。
【実施例】
【0032】
〔ショ糖脂肪酸エステルの調製〕
市販のショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ(株)、O−1570)をサンプルAとして用いた。また、サンプルA及び別の市販のショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ(株)、O−170)を、それぞれクロロホルム−メタノールを展開溶媒としたシリカゲルカラムにて分画し、得られた各分画物を再調合することにより、組成及び平均エステル化度の異なるショ糖脂肪酸エステルを調製し、サンプルB〜Eを得た。得られた各ショ糖脂肪酸エステル(以下、「SE」とも記載する)の組成、エステル化度等を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
〔ジアシルグリセロール高含有油脂の製造法〕
ジアシルグリセロール(以下、「DAG」とも記載する)高含有油脂を、次の工程により製造した。大豆脂肪酸をウィンタリングして飽和脂肪酸を低減させたもの455質量部、菜種脂肪酸195質量部及びグリセリン107質量部とを、固定化1,3−位選択リパーゼである市販リパーゼ製剤(商品名:「Lipozyme RM IM」、ノボインダストリーA.S.社)を触媒として、0.07hPa、40℃の条件で、5時間エステル化反応を行った。次いで、リパーゼ製剤を濾過した後、235℃で分子蒸留を行った。水洗した後、235℃で1時間脱臭して、DAG高含有油脂を製造した。分析値を表2に示す。
なお、表中TAGとはトリアシルグリセロール、MAGとはモノアシルグリセロールをいう(以下同じ)。
【0035】
【表2】

【0036】
〔油脂組成物の調製〕
前記DAG高含有油脂、市販のサラダ油(日清オイリオグループ(株)、日清サラダ油)、SEのサンプルA〜E及びL−アスコルビン酸脂肪酸エステルを、表3に示した質量比で配合し、油脂組成物(実施例1〜28及び比較例1〜4)を調製した。
なお、市販のサラダ油のグリセリド組成は、TAG:94.9%、DAG:5.1%、MAG:0.0%であった。
【0037】
〔高温における溶解性評価〕
前記油脂組成物のうち、実施例1〜28、比較例1〜4について、120℃で1時間攪拌した後に、SEの不溶分があるか否かを次に示す基準により評価した。結果を表3に示す。
○:完全に溶解し、油脂組成物が透明であるもの
△:ほぼ溶解しているが微細結晶が分散し、油脂組成物が濁っているもの
×:溶解せず、油脂組成物中に溶け残りがあるもの
【0038】
〔室温における保存性評価〕
前記高温における溶解性評価を行った各油脂組成物を室温(25℃)に1日保存した後の外観、及び1週間保存した後の外観を、次の基準により評価した。結果を表3に示す。
○:透明でまったく霞がかかっていないもの
△:全体に霞がかかり、白く濁っているもの
×:一部結晶が析出しているもの
【0039】
【表3】

【0040】
表3に示された結果から明らかなように、ジアシルグリセロールを高含有する油脂にアスコルビン酸脂肪酸エステルを組み合わせると、モノエステル含有量が高いショ糖脂肪酸エステルが溶解可能で、また、高い保存性を示すことが確認された。一方、ジアシルグリセロール含有量が低い油脂では、アスコルビン酸脂肪酸エステルを組み合わせても、モノエステル含有量が高いショ糖脂肪酸エステルは難溶で、保存性も良くないことが確認された。また、ジアシルグリセロールを高含有する油脂であっても、アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有しない場合はモノエステル含有量が高いショ糖脂肪酸エステルを高濃度溶解するのが困難であることが確認された。
【0041】
〔揚げ物調理の評価〕
前記油脂組成物のうち、実施例19、21及び27を使用し、これを前記DAG高含有油脂で希釈した油脂組成物(実施例29、30及び31)、及び表4に示した質量比で、DAG高含有油脂、市販のサラダ油(日清オイリオグループ(株)、日清サラダ油)、SEのサンプルA、B、D又はE及びL−アスコルビン酸脂肪酸エステルを配合した油脂組成物(実施例32及び比較例5〜9)を調製した。
各油脂組成物を使用し、揚げ物(天ぷら)を行った場合の衣の花咲性、揚げ物の油臭さ、軽さ、風味及び食感について官能評価した。なお、比較例7〜9の油脂組成物はSEのサンプルが溶解しなかったため、評価できなかった。
【0042】
〔天ぷら用生地の調製〕
卵1個及び水150gを混合し、次いで0℃で冷却しながらこれに薄力粉100gを軽く混ぜて調製した。
【0043】
〔衣の花咲性の評価〕
各油脂組成物500gを鉄製の揚げ物用の鍋(直径15cm、高さ8cm)に入れ、180℃まで加熱した。予め調製した天ぷら用生地5gを油脂組成物中に投じ、1分後に取り出し、天ぷらの衣を揚げた。形成された衣の写真を画像解析し、その円周に対する面積比から衣の花咲性を評価した。すなわち、次式で示すように、円形状になった場合には、1に近づき、花咲が進むほど数値が大きくなる。「変形度」を次に示す式(2)のように設定し、以下の基準にて評価した。結果を表4に示す。
変形度=(円周長)2/4π×面積 (2)
5:花咲が非常に良好なもの(変形度5以上)
4:花咲が良好なもの(変形度4以上5未満)
3:花咲が良好とは言えないが、実用上問題ない程度のもの(変形度3以上4未満)
2:花咲が一部に認められるもの(変形度2以上3未満)
1:花咲がほとんど認められないもの(変形度1以上2未満)
【0044】
〔油臭さ、軽さ及び風味の評価〕
揚げ物の風味の評価は、味覚の鋭敏な専門パネル6名により、大葉(紫蘇の葉)について、前記天ぷら用生地を用い、180℃で前記油脂組成物で揚げたものと、サラダ油のみで揚げたものとをブラインドペアテストで行い、油臭さ(加熱による嫌悪感のある臭気)、軽さ(あっさりした感じ)、及び風味(素材の味)について、次に示す基準にて評価し、6人の専門パネルの評点の平均値をその天ぷらの評点とした。結果を表4に示す。
5:本発明の油脂組成物で揚げた天ぷらの方がサラダ油で揚げたものよりも非常に良い
4:本発明の油脂組成物で揚げた天ぷらの方がサラダ油で揚げたものよりもかなり良い
3:本発明の油脂組成物で揚げた天ぷらの方がサラダ油で揚げたものよりも良い。
2:本発明の油脂組成物で揚げた天ぷらの方がサラダ油で揚げたものよりもやや良い
1:本発明の油脂組成物で揚げた天ぷらがサラダ油で揚げたものと同等。
【0045】
〔食感の評価〕
揚げ物の食感の評価は、前記大葉の天ぷらを用い、食感の「カリッ」とした感じについて、前記専門パネル6名により、次に示す基準により評価し、その平均値を評点とした。結果を表4に示す。
5:本発明の油脂組成物の方が衣が非常にカリッとしている。
4:本発明の油脂組成物の方が衣がかなりカリッとしている。
3:本発明の油脂組成物の方が衣がカリッとしている。
2:本発明の油脂組成物の方が衣がややカリッとしている。
1:本発明の油脂組成物の衣がサラダ油で揚げたものと同等。
【0046】
【表4】

【0047】
表4に示された結果から明らかなように、油脂組成物中のDAG含有量が高く、アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有し、モノエステル含有量が30%以上であるショ糖脂肪酸エステルを含む油脂組成物を使用して調理した揚げ物は、花咲性、風味、食感等において良好な性能を示すことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアシルグリセロールを70質量%以上、ショ糖脂肪酸エステル及びアスコルビン酸脂肪酸エステルを含有し、ショ糖脂肪酸エステル中のモノエステルの含有量が30質量%以上である油脂組成物。
【請求項2】
ショ糖脂肪酸エステル中のモノエステル(SME)とジエステル(SDE)の含有質量比(SME/SDE)が0.5以上である請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
次式(1)により定義されるショ糖脂肪酸エステルの平均エステル化度が1〜2.5を満たすものである請求項1又は2記載の油脂組成物。
【数1】

【請求項4】
ショ糖脂肪酸エステルの含有量が、0.01〜5質量%である請求項1〜3のいずれか1項記載の油脂組成物。
【請求項5】
アスコルビン酸脂肪酸エステルの含有量が0.01〜5質量%である請求項1〜4のいずれか1項記載の油脂組成物。
【請求項6】
アスコルビン酸脂肪酸エステルの含有量とショ糖脂肪酸エステル中のモノエステル(SME)の含有量の関係が、次式(2)を満たすものである請求項1〜5のいずれか1項記載の油脂組成物。
【数2】

【請求項7】
食用油脂組成物である請求項1〜6のいずれか1項記載の油脂組成物。
【請求項8】
ジアシルグリセロールを70質量%以上含有する油脂に、モノエステルの含有量が30質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル及びアスコルビン酸脂肪酸エステルを混合、溶解し、その後ジアシルグリセロールを70質量%以上含有する油脂で希釈する油脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記希釈する際の倍率が5〜50質量倍である請求項8記載の油脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−188820(P2011−188820A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58088(P2010−58088)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】