説明

法面保護マット

【課題】凍上を引き起こす原因の一つである降雨、融雪などによる浸透水を排除する排水性に優れ、凍上による土層の緩みを少なくして法面の浸食・崩壊を抑えることができるようにした法面保護マットを提供する。
【解決手段】種子3が含有される植生基盤材4を熱可塑性樹脂材により成形される平板状の三次元網状構造体1内の隙間2に充填した植生基盤層5と、植生基盤層5の上面を覆い植物が芽を出すことのできる隙間を備えた上面被覆シート6と、植生基盤層5の下面を覆い植物の根が貫通できる隙間を備えた下面被覆シート7と、を積層しなり、三次元網状構造体1は、多数本のモノフィラメントをランダムなループ状に堆積して形成され、その厚み部内に排水を円滑に行なうことができる筒状空洞部8が複数列設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒冷地において造成法面や自然傾斜などの法面の特に凍上による侵食・崩壊を有効に防止するようにした法面保護マットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、盛土、切土による造成法面や自然傾斜などの法面をそのまま裸地の状態で放置しておくと、降雨や融雪水などによりその法面が浸食されて最終的に崩壊が起こり、人命を危険に晒したり景観を悪くしてしまうといった事態が起きている。この法面の浸食・崩壊を防止するため、例えばコンクリート製の縦枠と横枠を法面に格子状に施工してなる構成(例えば、特許文献1参照。)、少なくとも一方向に延伸しかつ上部が開口した箱型の法面部材を法面に多数格子状に築造し、法枠の内部には植栽を施すようにした構成(例えば、特許文献2参照。)、又は、網篭に木本を収容して製作した土留材を法面に敷設し、分解した土留材が植生基盤材を兼ねて法面を緑化させるようにした構成(例えば、特許文献3参照。)が採られている。
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3074535号公報(第5−7頁、図1)
【特許文献2】特開平9−88074号公報(第3−4頁、図4)
【特許文献3】特開2001−172977号公報(第2−3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、寒冷地でも前記のように法面保護のための工夫が採られているが、特に寒冷地では法面に浸み込んだ降雨、融雪などによる浸透水が凍ることにより土中で霜柱が発生してその表面の土層を持ち上げ、これを繰り返すことによって土層が緩むいわゆる凍上という危険な現象が起こる。この現象が起こると、特許文献1乃至3の法枠や土留材は下から押し上げられて変形し破壊されるばかりか、春先になると大雨や融雪による浸透水が土層内の空洞部に大量に溜まり、これが原因となって法面の浸食・崩壊が起き、本来の法面保護という目的を達成することが困難となっているのが現状である。
【0005】
そこで、本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、凍上を引き起こす原因の一つである降雨、融雪などによる浸透水を排除する排水性に優れ、凍上による土層の緩みを少なくして法面の浸食・崩壊を抑えることができるようにした法面保護マットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため法面保護マットは、種子が含有される植生基盤材を熱可塑性樹脂材により成形される平板状の三次元網状構造体内の隙間に充填した植生基盤層と、前記植生基盤層の上面を覆い植物が芽を出すことのできる隙間を備えた上面被覆シートと、前記植生基盤層の下面を覆い植物の根が貫通できる隙間を備えた下面被覆シートと、を積層して形成される法面保護マットであって、前記三次元網状構造体は、多数本のモノフィラメントをランダムなループ状に堆積して形成されその厚み部内に排水を円滑に行なうことができる筒状空洞部が複数列設されたことを特徴とする。
【0007】
この際、前記上面被覆シートが藁又はジュート等の天然素材から筵状に形成されていることが好ましい。
【0008】
また、前記下面被覆シートが不織布であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る法面保護マットは、種子が含有される植生基盤材を熱可塑性樹脂材により成形される三次元網状構造体内の隙間に充填した植生基盤層と、その上面を覆い植物が芽を出すことのできる隙間を備えた上面被覆シートと、植生基盤層の下面を覆い植物の根が貫通できる隙間を備えた下面被覆シートと、を積層して形成され、三次元網状構造体の厚み部内に排水を円滑に行なうことができる筒状空洞部を複数列設するようにしたので、降雨による直接の浸食が上面被覆シートにより防止され、また、法面の内部に深く浸透する前に浸透水が筒状空洞部を介して下方へ排出されることになり、法面の凍上現象が抑えられる。これにより、寒冷地の法面であっても浸食・崩壊が起きにくくなり、人命を危険に晒したり景観を悪くするといった事態が解消される。しかも、法面保護マットは、上・下面被覆シートと中間の植生基盤層を積層し一体化した簡単な構成であって、法面に敷設するのみで済むことから、安価に提供できると共に施工が容易であり施工コストも低廉になし得るという効果が有る。
【0010】
また、上面被覆シートが藁又はジュート等の天然素材から筵状に形成されていると、隙間が多く、種子から芽が出た場合にその隙間から若葉が出やすくなってその育成に好適である。
【0011】
更に、下面被覆シートが不織布により形成されていると、種子から根が出た場合に不織布の隙間を介して根が通過しやすく、また、通水性にも優れることからその育成に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る法面保護マットの実施の形態を図面に基いて詳しく説明する。図1は本発明に係る法面保護マットの一部拡大斜視図、図2は同法面保護マットの製造段階を示す一部拡大側面断面図である。法面保護マットAは、平板状の三次元網状構造体1内の隙間2に種子3を含有した植生基盤材4が充填される植生基盤層5と、該植生基盤層5の上面を覆う上面被覆シート6と、前記植生基盤層5の下面を覆う下面被覆シート7と、を積層して形成される。
【0013】
三次元網状構造体1は、例えばポリプロピレンといった熱可塑性樹脂からなり、例えば幅1m、長さ4m、厚み20mm、重量1200g/m、圧縮強度:20%圧縮時49KN/平方メートル、物性特性:耐アルカリ・耐酸性・耐微生物に優る。更に詳しくは、三次元網状構造体1は、図2(イ)に示すように厚み部内にその長手方向に沿って筒状空洞部8が複数本列設して設けられ、これら筒状空洞部8,8…の一側面にループ状のまま潰れた状態で堆積する被覆層9が形成される。熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレンの他にポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートがあるが、安価に得られ耐久性にも優れていることからポリプロピレンが好ましい。
【0014】
次に、三次元網状構造体1の製造方法を図示せずに説明する。平行に二列に並んだ複数のノズルから水槽内に溶融したモノフィラメントを落とし込む。貯水の中に落とし込まれた各モノフィラメントはそれぞれ自然とほぼ同じ大きさの平面略円形状となるように螺旋状に巻かれ、少なくともそれら一部が融着して交絡する。このようにして成形されたモノフィラメントを一対の受けロール間に通す。両受けロール間は一列に列設される筒状空洞部の厚み幅程度の寸法に設定され、両受けロール間を通過すると、前記のように筒状空洞部8,8…の一側面にループ状のまま潰れた状態で堆積する被覆層9が形成されることになる。三次元網状構造体1は通気性、通水性に優れ、各筒状空洞部8は排水を円滑にするためのものである。
【0015】
下面被覆シート7は、三次元網状構造体1と同じ広さを有する不織布から形成される。不織布は天然繊維又は化学繊維のいずれも含まれ、通気性、通水性のいずれにも優れるものが良く、また、植物の根が貫通できる隙間を備えていることが好ましい。これら条件を備えていれば、他に、例えば天然素材、再生天然素材又は合成樹脂材からなる織物、網状物であっても良い。そして、図2(ロ)に示されるように被覆層9の裏面に下面被覆シート7が重ねられ、その適所にステイプラー10を打ち込んで下面被覆シート7が固定される。また、下面被覆シート7は、三次元網状構造体1内に充填される植生基盤材4が無用に零れ落ちないようにする機能も果たしている。
【0016】
植生基盤材4は、土壌改良材と肥料と種子とを混合してなる。土壌改良材は細粒状の有機質系土壌改良材と同じく細粒状の無機質系土壌改良材とからなり、肥料は即効性肥料、緩効性肥料、リン酸肥料からなる。また、種子としてクサヨシ、イワノガリヤス、オオヨモギ、クサフジが使用されるが、通常は施工地域に根付いた自生種が望ましい。これらは、植生基盤材1平方メートル当たり、例えば次の配分による。
有機質系土壌改良材 : 20リットル クサヨシ :1.82g
無機質系土壌改良材 :500g イワノガリヤス :0.45g
即効性肥料 :100g オオヨモギ :0.60g
緩効性肥料 : 60g クサフジ :0.60g
リン酸肥料 : 80g
前記種子、土壌改良材、肥料は適宜混合され、図2(ハ)に示すようにほぼ三次元網状構造体1内の隙間2にその高さまで充填される。このように、三次元網状構造体1内に植生基盤材4を充填することにより植生基盤層5が形成される。
【0017】
上面被覆シート6も三次元網状構造体1と同じ広さを有する。上面被覆シート6は、天然素材である藁により筵状に形成され、他にジュート等の天然素材を筵状に形成したものであっても良い。そして、図2(ニ)に示されるように植生基盤層5の表面に上面被覆シート6が重ねられ、適所にステイプラー10を打ち込んで三次元網状構造体1に上面被覆シート6が固定される。これは、種子が成長して芽を出した場合も、その隙間から若葉が出やすくその育成に好適だからである。また、その土地の気候によっては、上面被覆シート6を合成樹脂材であって、種子3や植生基盤材4が落下せずしかも種子の芽は通過し得るような大きさの網目からなるメッシュ状のシートを使用しても良い。
【0018】
本発明に係る法面保護マットAは上記構成からなり、次に法面に敷設する工法及び敷設した状態を説明する。図3は法面に法面保護マットを敷設した状態の斜視図、図4は同側面断面図、図5は同一部拡大側面断面図である。法面Hの上端部にほぼ水平な平坦部Bが形成され、法面Hの下端部にはその下端部に沿って多くの小石を充填した網状の箱枠いわゆるフトンカゴFが一列に配設されている。そして、上部の平坦面Bに該平坦面Bを覆うようにして1m程度残し、そこから法面保護マットAを法面Hの下方へ向けて敷設する。この際、三次元網状構造体1の各筒状空洞部8は法面Hに沿って上下方向を向く。そして、法面保護マットAの上面から法面Hに複数の固定用杭11を打ち込む。更に、この法面Hでは、その下方に連続してもう一枚の法面保護マットAを敷設する。この作業を繰り返すことにより、法面Hを覆うようにして複数枚の法面保護マットAが敷設される。
【0019】
このようにして形成された法面保護マットAを寒冷地の実際の法面に冬のシーズン中敷設して実験を行なったところ、本発明に係る法面保護マットAにより覆われた法面Hは春先まで浸食・崩壊が起こらず保護されていた。
【0020】
その後は、種子3から芽及び根が出ることになり、芽は上面被覆シート6である藁の筵の隙間から伸びて生長し法面Hの緑化に寄与し、根は下面被覆シート7である不織布を貫通して地層に伸びてその地層に根付き、土層をしっかりと固定させることになる。
【0021】
通常、法面Hの土層は凍上により空洞が多くなり、そこに春先の降雨や融雪水が浸入て大規模な浸食が起きる。しかしながら、本発明に係る法面保護マットAにあっては、降雨、融雪水による直接の浸食を上面被覆シート6により防止し、更に、法面Hの内部に深く浸透する前にその余剰水を各筒状空洞部8を介して下方へ排出する。これにより、法面Hの凍上現象が抑えられることになる。よって、寒冷地の法面Hであっても浸食・崩壊が起きにくくなり、人命を危険に晒したり景観を悪くするといった事態が解消される。また、法面保護マットAは、上・下面被覆シート6,7と中間の植生基盤層5を積層し一体化した簡単な構成であって、しかも、法面Hに敷設するのみで済むことから、安価に提供できるばかりか施工が容易であり施工コストも低廉になし得る。
【0022】
なお、上・下面被覆シート6,7はステイプラー10によってそれぞれ三次元網状構造体1に固定するようにしたが、他に接着剤又はホットメルトによって固定するようにしても良い。また、本発明に係る法面保護マットAは寒冷地でその本領を発揮するものであるが、寒冷地以外でも十分に本来の効果を発揮できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る法面保護マットの一部拡大斜視図。
【図2】(イ)〜(ニ)は同法面保護マットの製造段階を示す一部拡大側面断面図。
【図3】法面に法面保護マットを敷設した状態の斜視図。
【図4】同側面断面図。
【図5】同一部拡大側面断面図。
【符号の説明】
【0024】
1 三次元網状構造体
2 隙間
3 種子
4 植生基盤材
5 植生基盤層
6 上面被覆シート
7 下面被覆シート
8 筒状空洞部
A 法面保護マット
H 法面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種子が含有される植生基盤材を熱可塑性樹脂材により成形される平板状の三次元網状構造体内の隙間に充填した植生基盤層と、前記植生基盤層の上面を覆い植物が芽を出すことのできる隙間を備えた上面被覆シートと、前記植生基盤層の下面を覆い植物の根が貫通できる隙間を備えた下面被覆シートと、を積層して形成される法面保護マットであって、
前記三次元網状構造体は、多数本のモノフィラメントをランダムなループ状に堆積して形成されその厚み部内に排水を円滑に行なうことができる筒状空洞部が複数列設されたことを特徴とする法面保護マット。
【請求項2】
前記上面被覆シートが藁又はジュート等の天然素材から筵状に形成されている請求項1記載の法面保護マット。
【請求項3】
前記下面被覆シートが不織布である請求項1又は2記載の法面保護マット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−208604(P2008−208604A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45869(P2007−45869)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(500372599)株式会社吉原化工 (4)
【Fターム(参考)】