説明

泡除去装置及び泡除去方法

【課題】送液系に容易に組み込める構造の簡便さを保ちながら、送液量を制限することなく、しかも粘度の高い液であっても良好な脱泡効率が得られる泡除去装置を提供する。
【解決手段】回転する円筒状容器の底部にその回転軸と同心の液を該容器内に導き入れるための液入れ口と、該容器の上部にその回転軸と同心の液を該容器の外に出すための液出し口を設け、該液出し口の近傍でかつ該容器の内部に、該容器の内径より小さな円盤を該容器の回転軸と直角に該容器に固定して設けた泡除去装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体からそれに混じり種々の障害を生む泡を除去する装置に関し 詳しくは、構造が簡便で送液系に容易に組み込むことができ、 泡の状況や液の粘度に応じた能力の設定が可能で、しかも確実な泡除去が行える遠心分離式泡除去装置、及びこの泡除去装置を用いる泡除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体から泡を取り除く装置の多くは遠心力を利用して構成されている。中でも特許文献1に記載された遠心分離式泡除去装置は、構造が簡便な上に送液系に容易に組み込むことが可能であり、また条件が合えば脱泡効率もよいことから近年広く使われるようになってきている。
このような泡除去装置は、液の旋回流で遠心力を生じさせるために流速を常にある値以上に保つ必要があり、送液系に組み込んで使用する際に、送液量を自由に設定できないという重大な欠点がある。また、旋回流で得られる遠心力には限界があり、粘度の高い液の場合には、所望の脱泡効果を得難いという欠点も持ち合わせている。
【0003】
そこで、本発明者らは、先に特許文献2において、旋回流で得られる遠心力を利用することのない泡除去装置を提案した。この泡除去装置は、回転する容器の一端面に底部に回転軸と同心の液を該容器内に導き入れるための液入れ管を、他端面に該容器内の液を該容器の外に出すための液出し管をそれぞれ配し、且つ液入れ管の内側に該液入れ管より小径の泡抜き管を容器内部まで延長して配し、さらに該泡抜き管の容器内部に位置する側面に泡流入口を設けた構造を有するものである。
【0004】
この泡除去装置によれば、所望の脱泡効果を得ることができるが、回転容器の回転軸に配した泡抜き管の近傍まで全ての泡を遠心分離で集めないと、泡抜き管から系外に排出できないという制約がある。そのため、回転容器を極高速で回転させなければならず、固体薬剤を分散して成る液の脱泡においては、固体薬剤が遠心沈降で回転容器の側面に固定されてしまい、液の薬剤組成を変化させるという危険がある。
また、それを補うために、回転容器の回転軸に直角に配した複数の円盤を用いて泡が回転中心に集まり易くする方法も考案しているが、円盤がドーナツ盤であるためにその内円の空隙を液の流れに乗って泡が移動し、装置外に排出される危険がある。この危険が液の処理流量が上がるほど増大するという点で改善の余地が残されている。
【0005】
また、特許文献3には、減圧手段接続口と液排出口とを備える減圧容器と、減圧容器内に設けられた回転可能な中空筒状の部材である回転筒と、液状物を該回転筒内に供給する液状物供給管を有し、回転筒の下端部に、回転筒胴部分の内壁とは内側に離間して開口部が設けられ、回転筒の内部に、円盤状もしくは円筒状の部材であって回転筒の回転中心軸に垂直な面の断面外周が円状の部材が設けられた泡除去装置が提案されている。
この泡除去装置によれば、遠心加速度と減圧を組み合わせることで極微細な泡までの取り除くことが可能であるという利点があるが、その反面、液が減圧下に暴露されるので、液の溶媒もしくは分散媒が蒸発し液の組成を変化させてしまうという危険性が残されている。
【0006】
更に、本発明者らは、特許文献4において、回転可能な円筒状容器の上端にその容器内に液を導入するための液入れ管と、円筒状容器の下端に容器内の液を排出するための液出し管とを、前記容器と前記液入れ管と前記液出し管の回転軸とを一致させて配し、前記液入れ管の内側に該液入れ管より小径で前記円筒状容器の回転方向と逆向きに回転する排気管を前記円筒状容器内部まで延長して配すると共に、前記排気管の前記円筒状容器内部に位置した側面に排気管の回転軸と略直角の方向に複数の円盤を設け、前記複数の円盤を排気口に連結して接続した構造の泡除去装置を提供した。
【0007】
この泡除去装置によれば、所望の脱泡効果を得ることができるが、円筒状容器と該容器の中で該容器と逆の回転をする排気管の回転数によっては液の流れを乱す渦を造ることがあり、その渦が回転軸付近に集まった泡を円周方向に散らしてしまう現象が発生する。これを避ける為に液の性状にあわせて液毎に最適な回転数を設定する必要があるという煩わしさがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、送液系に容易に組み込める構造の簡便さを保ちながら、従来技術に記載された遠心分離式泡除去装置の持つ送液量の制限や、粘度の高い液での脱泡効率低下という不具合や、操作上の煩わしさ等が解消できる泡除去装置及び泡除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記課題を達成するために、下記の技術手段が挙げられる。
(1)回転する円筒状容器の底部にその回転軸と同心の液を該容器内に導き入れるための口(以降、液入れ口という)と、該容器の上部にその回転軸と同心の液を該容器の外に出すための口(以降、液出し口という)を設け、該液出し口の近傍でかつ該容器の内部に、該容器の内径より小さく該液出し口の径よりも大きい径を有する円盤を該容器の回転軸と直角に該容器に固定して設けたことを特徴とする泡除去装置。
(2)前記円盤と同形状の円盤が、前記容器の回転軸と直角でかつ前記液入れ口の近傍まで複数設けられていることを特徴とする上記(1)に記載の泡除去装置。
(3)前記円盤の間に、前記容器の回転軸と同心に、円柱部材が設けられていることを特徴とする上記(2)に記載の泡除去装置。
(4)前記複数設けられている円盤のうち前記液入れ口に最も近い位置にある円盤の、該液入れ口側の面に、該円盤とほぼ直角でかつ前記容器の回転軸に対して放射状に複数の突起が設けられていることを特徴とする上記(2)又は(3)に記載の泡除去装置。
(5)前記円筒状容器の側面に、該円筒状容器の内部が観察できる窓部が設けられていることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の泡除去装置。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の泡除去装置を用い、泡を含有する液体を前記円筒状容器の液入れ口から導入し、前記円盤の前記液入れ口側の面、前記円柱部材の表面に泡を付着させ、脱泡された液体を前記液出し口から導出することを特徴とする泡除去方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の泡除去装置の使用によれば、前記円筒状容器を機械的に回転させてその容器内の液体に遠心力をあたえる方法をとることから、液流量での泡除去効果に変動はなく、また液体の粘度や泡の状況に応じ必要な遠心力を発生させることができ、このため、送液系に組み込んでも流量や液性の制約を受けることなく確実な泡除去が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の泡除去装置の一例の概略断面図である。
【図2】本発明の泡除去装置の他の例の概略断面図である。
【図3】本発明の泡除去装置の他の例の概略断面図である。。
【図4】本発明の泡除去装置の他の例の概略断面図であり、図4(A)は液入れ口に最も近い円盤が容器の回転軸と直角に複数の突起を設けており、図4(B)はその突起が容器の回転軸に対して放射状に設けられている様子を説明するための図である。
【図5】本発明の泡除去装置により、回転する筒状容器の液入れ口から導入された泡を有する液体中の泡が円盤、円柱部材に付着し、脱泡された液体が液出し口から導出される様子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は請求項1に記載の泡除去装置の概略断面図である。回転可能な円筒状容器(以降、回転容器という)1の両端(両底)には、回転容器1の回転軸(以降、容器回転軸という)と同心の液を回転容器1内に導き入れるための液入れ口2と、容器回転軸と同心の液を回転容器1外に導き出すための液出し口3が設けられている。回転容器1内で液出し口3の近くには、回転容器1の内径より小さく液出し口3の径よりも大きい径を有する円盤4が容器回転軸と直角になるように、図示されていない接続器具によって回転容器1に固定されている。液入れ口2の径と液出し口3の径とはほぼ等しく、また、液入れ口2の中心と液出し口3の中心はいずれも容器回転軸上に位置している。容器回転軸は垂直であるのが好ましいが、特に垂直に限定されるものではない。
したがって、円盤4は、回転容器1が回転すれば回転し、回転容器1の回転が止まれば止まるようになっている。図中、一点鎖線は容器回転軸を示している。
ここで、液入れ口2及び液出し口3についている液入れ管21及び液出し管31はロータリージョイントと呼ばれるもので、固定(回転しない)配管と繋がっている。
【0013】
また、図中の矢印aは泡を含む液の流れ、矢印bは脱泡された液の流れを示す。矢印aのように、回転容器1の内部であって下方の液入れ口2から上方の円盤4の間に送り込まれた泡を含んだ液体は、回転容器1の回転による遠心力で泡と液に分離される。分離された泡(m)は、回転容器1の容器回転軸付近に集まり、円盤4の表面に分離トラップされて、液出し口3から回転容器1の外に排出されることはない。脱泡された液は、矢印bのように、上方の液出し口3を通して装置下流(液出し口3からその先の図示されていない送液配管)へ送り出される。
円盤4にトラップされた泡が適当量溜まったときは、回転容器1の回転を停止し(同時に円盤4の回転も停止する)、及び液入れ口2からの液体の導入を止め、この状態で回転容器1液入れ口2から水を導入することによって、泡は円盤4の表面から離れ液出し口3から液出し口3に移行させる。円盤4から泡が取り除かれた後は、泡除去装置は再び泡除去の操作に供される。
【0014】
なお、図面では、円盤4は表面が平坦に描かれているが、周縁部が回転容器1の液入れ口2側に彎曲した形状を呈しているものであることが、泡を効率的に捕捉し円盤4に留めおくのに有利であり好ましい。
【0015】
回転容器1、円盤4の材質は泡を含む液体に侵されないものであればよく、例えば金属、樹脂などから選択される。また、回転容器1や円盤4の大きさ、円盤4の数、回転容器1の回転速度などは、被処理液(泡を含む液体)の種類、粘度、その他により異なるため一概に決めることはできないが、例えば、内径がφ150mm、液入れ口2から液出し口3までの距離が250mmである回転容器1が用いられた場合には、円盤4の径はφ110mm〜φ130mm、円盤4の厚さは5〜15mmが適当であり、また、円盤4の数は1〜6が適当であり、円盤4の数が2〜6であるときには、最も近いどうしの円盤の間隔は30〜50mm、更に、液入れ口2とその液入れ口2に最も近い円盤4との距離は15〜40mm、液出し口3とその液出し口3に最も近い円盤4との距離は20〜50mmが適当である。
【0016】
図2は請求項2に記載の泡除去装置の概略断面図である。この例では、回転容器1の内径より小さな円盤4が容器容器1の回転軸と直角に複数配してある。これにより、円盤4の表面に分離トラップできる泡の量を増すことができるし、また、トラップされずに泡が装置下流に排出される危険を低減することが出来る。
【0017】
図3は、請求項3に記載の泡除去装置の概略断面図である。この例では、隣接する円盤4間に回転容器1の回転軸と同心に円柱部材5を設けることで、回転容器1の回転軸付近に集まってきた泡は、円盤4の表面に分離トラップされるだけでなく、円柱部材5の表面に付着・固定されるので、泡が再び液の流れにのって回転容器1の内壁方向へ移動し、装置下流に運ばれる危険を低減することが出来る。
【0018】
図4は、請求項4に記載の泡除去装置の概略断面図である。この例では、複数設けられている円盤4のうち液入れ口2に最も近い位置にある円盤の、液入れ口2側の面に、円盤4と直角にかつ回転容器1の回転軸に対して放射状に複数の突起5が設けられている。突起6が設けられていることにより、回転容器1に導入された液が回転容器1の回転速度と同じ回転速度になる時間を短く出来るので、液に回転力を与えている時間を長く出来、液中の泡の分離する効率をより上げることが可能になる。
複数の突起5は、均等の間隔をもって形成され、突起5の数は3〜6くらいが好ましい。また、突起5の高さは5〜15mmくらい、幅は1〜5mmくらいが適当である。
【0019】
図5は、図4に示す泡除去装置を用いて泡を含む液の脱泡を行った場合の、円盤4の液入れ口2側の面、円柱部材5の表面に泡が付着・固定される様子を模式図として示したものである。
【0020】
本発明の泡除去装置は、その回転容器の側面に回転容器の内部が観察できる窓部が設けられているのが好ましい。この窓部から回転容器の内部をが観察することにより、円盤4上の泡を除去するタイミングを容易に知ることができるようになる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
〔実施例1〕
図1に示す泡除去装置を用い、泡を含み密度が0.76g/ccに下がった液を下記の条件で処理したところ、装置の下流に排出される液の密度は0.82g/ccまで上がった。
(1)装置概要 :回転円筒の内径 φ150mm
;回転円筒の液入れ口2から液出し口3までの距離 250mm
:円盤の径 φ110mm
:円盤の厚さ 10mm
;液出し口3とこれに最も近い円盤との間隔 40mm
:円筒部材径 φ60mm
(2)液 : 7.5wt%PVA水溶液(液粘度 300mPa・s)
(泡を含まない状態での液密度 1.02g/cc)
(3)容器回転数 : 530rpm
(4)液供給量 : 12L/min
【0023】
〔実施例2〕
実施例1において、図2に示すように、円盤をφ110mm×5枚とした(液出し口3とこれに最も近い円盤との間隔:20mm、円盤どうしの間隔:50mm)以外は実施例1と同様にして脱泡処理を行ったところ、装置の下流に排出される液の密度は0.91g/ccまで上がった。
【0024】
〔実施例3〕
実施例1において、図3に示すように、円盤をφ110mm×5枚とし(液出し口3とこれに最も近い円盤との間隔:20mm、円盤どうしの間隔:50mm、)、かつこれら円盤間に円柱部材(φ60mm)を設けた以外は実施例1と同様にして脱泡処理を行ったところ、装置の下流に排出される液の密度は0.96g/ccまで上がった。
【0025】
〔実施例4〕
実施例1において、図4に示すように、円盤をφ110mm×5枚(液出し口3とこれに最も近い円盤との間隔:20mm、円盤どうしの間隔:50mm)、これら円盤間の円柱部材(φ60mm)、円盤のうち液入れ口2に最も近い位置にある円盤の液入れ口側の面に放射状に4つの突起(高さ10mm)を設けた以外は実施例1と同様にして脱泡処理を行ったところ、装置の下流に排出される液の密度は0.98g/ccまで上がった。
【符号の説明】
【0026】
1 回転筒状容器
2 液入れ口(21 液入れ管)
3 液出し口(31 液出し管)
4 円盤
5 円柱部材
6 突起
m 泡
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開2000−176204号公報
【特許文献2】特開2003−001011号公報
【特許文献3】特開2007−253095号公報
【特許文献4】特開2007−289814号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する円筒状容器の底部にその回転軸と同心の液を該容器内に導き入れるための口(以降、液入れ口という)と、該容器の上部にその回転軸と同心の液を該容器の外に出すための口(以降、液出し口という)を設け、該液出し口の近傍でかつ該容器の内部に、該容器の内径より小さく該液出し口の径よりも大きい径を有する円盤を該容器の回転軸と直角に該容器に固定して設けたことを特徴とする泡除去装置。
【請求項2】
前記円盤と同形状の円盤が、前記容器の回転軸と直角でかつ前記液入れ口の近傍まで複数設けられていることを特徴とする請求項1に記載の泡除去装置。
【請求項3】
前記円盤の間に、前記容器の回転軸と同心に、円柱部材が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の泡除去装置。
【請求項4】
前記複数設けられている円盤のうち前記液入れ口に最も近い位置にある円盤の、該液入れ口側の面に、該円盤とほぼ直角でかつ前記容器の回転軸に対して放射状に複数の突起が設けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載の泡除去装置。
【請求項5】
前記円筒容器の側面に、該円筒容器の内部が観察できる窓部が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の泡除去装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の泡除去装置を用い、泡を含有する液体を前記円筒容器の液入れ口から導入し、前記円盤の前記液入れ口側の面、前記円柱部材の表面に泡を付着させ、脱泡された液体を前記液出し口から導出することを特徴とする泡除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−50806(P2011−50806A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199331(P2009−199331)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】