説明

波長分散測定装置及びそれを用いた波長分散測定方法

【課題】装置を小型化することが可能な、光パルスの波長分散の測定を確実かつ高安定に実現する波長分散測定装置等を提供する。
【解決手段】被測定光信号を第1及び第2被測定光信号に分離し、これらの信号間に周波数差を発生する光分岐部と、第1被測定光信号を伝搬する偏波保持光ファイバで構成された第1分岐経路と、第2被測定光信号を伝搬する偏波保持光ファイバで構成された第2分岐経路と、第1及び第2分岐経路の何れかに設けられ、分岐経路を伝搬する信号の位相を0度と90度とに交互に変化する光位相シフタと、位相の変化に同期させ、被測定光信号のcos及びsin成分第1及び第2被測定光信号との干渉による合波被測定光信号を出射する光合波部と、合波被測定光信号の周波数分解を行った干渉成分であるプローブ信号を、固定した周波数の干渉成分である参照信号により差分測定し、差分測定の結果を用いて、波長分散を求める制御部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パルスの波長分散を測定する波長分散測定装置等の技術分野に関し、特に伝送レートが数十Gbit/sの高速光通信システムにおける光ファイバネットワークの光伝送路を伝搬する光パルスの波長分散を測定する波長分散測定装置及びそれを用いた波長分散測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、データ通信は光ファイバを介したものに移行しつつあり、これに伴い、データの伝送速度も従来より飛躍的に高まっている。近い将来、このような光ファイバを介した高速光通信システムにおいて、超短光パルスを用い、現時点での伝送速度より高速な数十Gbit/sもしくはそれ以上の伝送速度で通信を行うことが検討されている。
【0003】
ところで、高速光通信システムにおけるデータ通信を行う場合、常にクロストークや伝送エラーが発生するという問題がある。
しかしながら、データの伝送速度がより高速となるに従い、個々の光パルスの幅と、互いに前後する光パルスの間隔が狭くなり、上述したクロストークや伝送エラーが信頼性の高いデータ通信を行う際、以下に説明するように非常に重要な問題となる。
【0004】
光が物質中を進行する速度は、物質の屈折率で決まり、屈折率が大きいほど光速度は遅くなる。ガラス、半導体、光学結晶等の物質では、屈折率は光の周波数(空気中の波長)によって変化するため、光速度は波長に依存することになる。この、屈折率の波長依存性により、光パルスが物質中を進行する間に光パルスの波形を歪ませ、光パルスの時間幅が広がる要因となることが知られている。さらに、光ファイバに代表される光導波路では、コア及びクラッドの各々の形状・寸法に応じて、光導波路の実効屈折率が決まり、光速度が波長に依存する。したがって、光導波路の構造も光パルスの時間幅が広がる要因となる。このように、光の波長に応じて光速度が異なる、という特性を、以下、波長分散、あるいは単に分散と称する。
【0005】
このように、光ファイバ中を進行する間に、上述した波長分散により光パルスの波形が歪んだり、光パルスの時間幅が広がるが、従来の伝送速度では光パルスの幅も、前後の光パルスの間隔も波長分散に比較して広いため、特に大きな問題とはならない。
しかし、データの伝送速度が数十Gbit/s以上となり高くなると、波長分散が前後の光パルスの間隔より広くなり、前後の光パルス同士が干渉するなどして、クロストークや伝送エラーが生じてしまう。このため、現状の技術のままで単に伝送速度を高めようとしたのでは、より高速度で信頼性の高いデータ通信は実現できない。
【0006】
上述した高速光通信システムにおける波長分散を除去(或いは制御)するためには、まず当該高速通信システムに使用する各種光コンポーネント等の波長分散を測定して、各部材の波長分散の特性を把握する必要がある。
例えば、スペクトル位相の変化から波長分散を求めるため、各種コンポーネントのスペクトル位相を測定する周波数シフタを用いたスペクトルシアリング干渉計を用いた波長分散測定装置がある(例えば、特許文献1参照)。
このスペクトルシアリング干渉計では、スペクトル位相を一義的に計測可能とするため、光パルスのcos成分及びsin成分を各々水平偏光成分及び垂直偏光成分に変換し、偏波分離を行うことによって直交二成分を同時に計測するため、空間光学系を用いて干渉計を構成している。
【0007】
スペクトルシアリング干渉計は、干渉計の一部を構成する光ファイバにおいて、光パルスが直線偏光により伝搬されている。
このスペクトルシアリング干渉計において、cos成分及びsin成分の直交二成分を発生させるためには、直線偏光を円偏光に変換する必要がある。
この円偏光は、縦及び横に直交する水平偏光及び垂直偏光の2つの直交偏光の重ね合わにより形成されている。水平偏光と垂直偏光との間には90°の位相差がある。
したがって、偏光ビームスプリッタを用いて、円偏光を水平偏光と垂直偏光とに空間分離することにより、 cos成分とsin成分との直交二成分を得ることができる。
【0008】
上述したように、波長分散の測定には、複数の波長帯におけるcos成分とsin成分との直交二成分を得る必要がある。
これに対して、光ファイバにおいては、光ファイバの光学長に応じた特定波長の光のみが、円偏光から楕円偏光に変化させずに伝搬され、それ以外の波長の光を円偏光から楕円偏光に変化して伝搬され、直交二成分を安定した状態にて維持することができず、高い精度にて直交二成分を得ることができない。
【0009】
このため、円偏光が楕円偏光に変化しないように、直交二成分の分離に関わる光路に空間光学系を用いることにより、該当する全ての波長の光に対して円偏光を安定に伝搬させ、cos成分とsin成分との直交二成分を高い精度にて発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−85981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の波長分散測定装置は、精度よく光パルスの直交二成分を得ることができるが、空間光学系を用いているため、光ファイバと空間光学系との間における光の入出力により、光損失が発生する。この光損失により、光の強度が低下してしまい、測定感度が低減するという問題がある。
また、特許文献1の波長分散測定装置は、空間光学系を用いているため、装置の構成が複雑となり、かつ空間光学系に必要な部品を配置する必要性から小型化できないという問題がある。
【0012】
そこで、本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、装置を小型化することが可能な、光パルスの波長分散の測定を確実かつ高安定に実現する波長分散測定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、測定対象から入射される被測定光信号を伝搬する、偏波保持特性を有する光ファイバで構成された入射経路(入射光ファイバ1)と、前記入射経路に接続された第1入射端から被測定光信号を入射し、該第1入射端から入射される被測定光信号を第1被測定光信号及び第2被測定光信号の2つに分離し、前記第1被測定光信号を第1出射端から出射し、また前記第1の被測定光信号に対し偏光方向が同一の前記第2被測定光信号を第2出射端から出射し、かつ出射する際に前記第1被測定光信号及び前記第2被測定光信号の間に周波数差を発生させる光分岐部(光分岐部2)と、前記第1出射端に接続され、前記第1被測定光信号を伝搬させ、偏波保持特性を有する光ファイバで構成された第1分岐経路(第1光ファイバ3)と、前記第2出射端に接続され、前記第2被測定光信号を伝搬させ、偏波保持特性を有する光ファイバで構成された第2分岐経路(第2光ファイバ4)と、前記第1分岐経路及び前記第2分岐経路のいずれか一方に設けられ、設けられた分岐経路を伝搬する光測定光信号の位相を0度と90度との2値にて交互に変化させる光位相シフタ(光位相シフト部9)と、前記第1分岐経路に接続された第2入射端から入射される前記第1被測定光信号と、前記第2分岐経路に接続された第3入射端から入射される前記第2被測定光信号とを合波し、前記第1被測定光信号と前記第2被測定光信号との干渉により得られる、前記光位相シフタが自身の設けられた分岐経路の測定光信号及び他方の分岐経路の測定光信号間の位相差を0度とした場合における第1光成分(cos成分)の干渉要素、また前記光位相シフタが自身の設けられた分岐経路の測定光信号及び他方の分岐経路の測定光信号間の位相差を90度とした場合における第2光成分(sin成分)の干渉要素を、第3出射端から第1合波被測定光信号とし、第4出射端から第2合波被測定光信号として、出射する光合波部(光結合部5)と、前記第3出射端に接続され、前記第1合波被測定光信号を伝搬させる光ファイバで構成されたプローブ結合用経路(プローブ経路結合用光ファイバ6)と、前記第4出射端に接続され、前記第2合波被測定光信号を伝搬させる光ファイバで構成された参照結合用経路(参照経路結合用光ファイバ7)と、前記プローブ結合用経路に接続された第4入射端から前記第1合波被測定光信号を入射し、前記第1合波被測定光信号を通過させる周波数範囲を掃引し、前記第1合波被測定光信号から前記周波数範囲のスペクトル成分を抽出する周波数分解を行い、周波数分解の結果を成分被測定光信号として第5出射端から出射する光周波数掃引部(光周波数掃引部10)と、前記参照結合用経路に接続された第5入射端から前記第2合波被測定光信号を入射し、前記第2合波被測定光信号を通過させる周波数範囲を掃引し、前記第2合波被測定光信号から前記周波数範囲内の固定された特定周波数のスペクトル成分を抽出し、抽出した結果を参照光信号として第6出射端から出射する光周波数抽出部(光周波数抽出部13)と、前記第5出射端に接続され、前記成分被測定光信号を伝搬させる光ファイバで構成されたプローブ出射光経路(プローブ出射光ファイバ11)と、前記第6出射端に接続され、前記参照光信号を伝搬させる光ファイバで構成された参照出射光経路(参照出射光ファイバ14)と、前記プローブ出射光経路に接続された第6の入射端から前記成分被測定光信号を入射し、該成分被測定光信号を電気信号に変換し、変換結果をプローブ信号とするプローブ光検出部(プローブ光検出部12)と、前記参照出射光経路に接続された第7の入射端から前記参照光信号を入射し、該参照光信号を電気信号に変換し、変換結果を参照信号とする参照光検出部(参照光検出部15)と、前記光位相シフタの位相の変化に同期させ、前記第1光成分及び前記第2光成分のプローブ信号と、前記第1光成分及び前記第2光成分の参照信号との各々を時系列に取得し、参照信号から求めたスペクトル位相を基準とし、プローブ信号から求めたスペクトル位相を差分測定して波長分散を求める制御部(制御部16)と、を有することを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記第1分岐経路及び前記第2分岐経路のいずれか一方に設けられ、前記第1分岐経路と前記第2分岐経路との光路長差を調節する光遅延部(光遅延部8)をさらに有することを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、前記第1分岐経路及び前記第2分岐経路のいずれか一方に前記光遅延部が設けられ、前記光位相シフタが他方に設けられることを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決するため、請求項4記載の発明は、前記第1分岐経路及び前記第2分岐経路のいずれか一方に、前記光遅延部及び光位相シフタが一体化(光遅延・光位相シフト部47)して設けられていることを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決するため、請求項5記載の発明は、前記制御部が、前記第1光成分の前記プローブ信号及び前記参照信号を受信する第1受信部と、前記第2光成分の前記プローブ信号及び前記参照信号を受信する第2受信部とを有していることを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決するため、請求項6記載の発明は、前記制御部が、測定範囲における測定周波数の掃引毎に、測定単位として前記プローブ信号及び前記参照信号毎に前記第1光成分及び前記第2光成分をデータ対として時系列に取得することを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決するため、請求項7記載の発明は、前記プローブ信号及び前記参照信号毎に前記データ対を構成する前記第1光成分及び前記第2光成分において、先に測定される偏光成分の位相の変化を行う時間を、後に測定される偏光成分へ位相の変化を行う時間に対して短く設定することを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決するため、請求項8記載の発明は、前記制御部が、前記測定範囲における測定周波数の掃引において、一回の掃引において、前記第1光成分または前記第2光成分のいずれか一方のみの前記プローブ信号及び前記参照信号を取得する処理を、前記第1光成分及び前記第2光成分に対して交互に繰り返して行うことを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決するため、請求項9記載の発明は、前記プローブ結合用経路を偏波保持特性を有する光ファイバで構成し、前記プローブ結合用経路の後段に、前記第1合波被測定光信号の偏光方向を制御する第1偏波コントローラを挿入し、前記第1偏波コントローラと前記光周波数掃引部との間を偏波保持特性を有する光ファイバにより接続し、また前記参照結合用経路を偏波保持特性を有する光ファイバで構成し、前記参照結合用経路の後段に、前記第2合波被測定光信号の偏光方向を制御する第2偏波コントローラを挿入し、前記第2偏波コントローラと前記光周波数抽出部との間を偏波保持特性を有する光ファイバにより接続していることを特徴とする。
【0022】
上記課題を解決するため、請求項10記載の発明は、前記請求項1から請求項9のいずれかの波長分散測定装置を用いて、測定対象の波長分散を求める波長分散測定方法であって、
前記測定対象である光伝送路の波長分散を評価する部分に分岐部を設け、偏波制御部が該分岐部より得られる被測定光信号の偏波を直線偏波に制御し、前記波長分散測定装置内を伝搬する偏光軸に揃え、該波長分散測定装置に前記入射経路を介して被測定光信号を入射させ、前記第1光成分及び前記第2光成分の前記参照信号から求めたスペクトル位相の変化分を基準とし、前記第1光成分及び前記第2光成分の前記プローブ信号から求めたスペクトル位相の変化分を差分測定することで被測定光信号のスペクトル位相の変化分を求め、前記測定対象における波長分散を評価することを特徴とする。
【0023】
上記課題を解決するため、請求項11記載の発明は、前記請求項1から請求項9のいずれかの波長分散測定装置を用いて、測定対象の波長分散を求める波長分散測定方法であって、
波長分散を評価する前記測定対象の入射端に対し、偏波制御を行った光信号を入射させ、該測定対象の出射端から出射する被測定光信号の偏波を直線偏波に制御し、前記波長分散測定装置内を伝搬する偏光軸に揃え、該波長分散測定装置に前記入射経路を介して被測定光信号を入射させ、前記第1光成分及び前記第2光成分の前記参照信号から求めたスペクトル位相の変化分を基準とし、前記第1光成分及び前記第2光成分の前記プローブ信号から求めたスペクトル位相の変化分を差分測定することで被測定光信号のスペクトル位相の変化分を求め、前記測定対象における波長分散を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、空間光学系を使用せず、偏波保持特性を有する光ファイバの第1分岐経路及び第2分岐経路によって、波長分散測定装置の干渉計を構成しているため、従来例のように、光ファイバと空間光学系との間における光の入出力による光損失が発生せず、被測定光信号の光の強度を低下させることが無くなる。
また、この発明によれば、偏波保持特性を有する光ファイバによって、被測定光信号の偏波を保持させた状態で装置内を伝搬させ、干渉計を構成する第1分岐経路及び第2分岐経路において、第1分岐経路に伝搬される第1被測定光信号対し、第2分岐経路に伝搬される第2被測定光信号の位相差を時系列に0度と90度に切り替えることにより、安定した同一の偏波状態の第1及び第2被測定光信号から第1光成分(cos成分)及びこの第1光成分に対して90°異なる位相の前記第2光成分(sin成分)の各々の干渉要素を抽出することができ、従来に比較して光パルスの波長分散の測定を、高精度かつ高感度に行うことができる。
また、この発明によれば、空間光学系を用いていないため、装置の構成が簡易となり、かつ空間光学系において必要とされていた部品を配置する必要性がなく、装置を小型化することが可能となる。
また、この発明によれば、周波数掃引にともなうスペクトル位相の変化分の測定と平行して特定の周波数でのスペクトル位相の変化分を測定し、特定の周波数でのスペクトル位相の変化分を基準として、各周波数でのスペクトル位相の変化分を差分測定する構成としているため、光ファイバの光路長のゆらぎによる光ファイバスペクトルシアリング干渉計の位相ゆらぎをさらに低減し、高安定の測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】光パルスからスペクトル位相の変化分Δφ(ν)の測定を説明するための図である。
【図2】第1の実施形態による波長分散測定装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態における、光周波数掃引部10の周波数掃引動作と、これに対応した光位相シフト部8の位相シフトの動作と、制御部16におけるプローブ光検出部12からの電気信号のサンプリングとにおける動作のタイミングを示す波形図である。
【図4】第2の実施形態における、光周波数掃引部10の周波数掃引動作と、これに対応した光位相シフト部9の位相シフトの動作と、制御部16におけるプローブ光検出部12からの電気信号のサンプリングとにおける動作のタイミングを示す波形図である。
【図5】第4の実施形態による波長分散測定装置の構成例を示すブロック図である。
【図6】第5の実施形態における光周波数掃引部10の周波数掃引動作と、これに対応した光位相シフト部9の位相シフトの動作と、制御部16におけるプローブ光検出部12からの電気信号のサンプリングとにおける動作のタイミングを示す波形図である。
【図7】第6の実施形態による光周波数掃引部10または光周波数抽出部13の構成例を示すブロック図である。
【図8】本発明の波長分散測定装置を用いて、光ファイバ伝送路を伝搬する光パルスの分散パラメータを測定する測定方法を説明する図である。
【図9】本発明の波長分散測定装置を用いて、光部品を伝搬する光パルスの分散パラメータを測定する測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、本実施形態は、例えば東京−大阪間の幹線光ファイバ伝送路、都市部でのメトロ光ファイバネットワーク網等、波長多重伝送を併用する光ネットワーク等の光ファイバ伝送路を伝搬する光パルスの波長分散特性を評価するための波長分散測定装置及び当該波長分散測定装置を用いた波長分散測定方法に本発明を適用した場合の実施形態である。
【0027】
[波長分散]
先ず、本実施形態における波長分散測定装置にて測定する波長分散について説明する。
【0028】
本実施形態では、上述したように光ファイバ伝送路を伝搬する光パルスのスペクトル位相を測定し、光ファイバ伝送路にて生じる波長分散の特性評価を行う。特に、本実施形態は10GBit/s〜40GBit/s程度の高速光通信システムにおいて使用する光ファイバ伝送路の波長分散の特性評価を行う場合に好適な実施形態について説明する。
【0029】
光ファイバ伝送路の波長分散を評価するには、周波数−波数の関係、すなわち分散関係が重要となる。この関係より光が光ファイバ伝送路を伝搬する際の速度が求まる。この速度は、光パルスの重心が移動するスピードを指し”群速度”と呼ばれる。群速度の波長(周波数)依存性が波長分散をあらわす。
【0030】
この群速度は、周波数−波数特性曲線の傾き(微分係数)として与えられ、真空や空気中では、周波数−波数特性は直線となり、群速度は周波数によらず一定であるが、ガラス・半導体・金属などの物質中では周波数−波数特性は直線にならず、群速度は周波数に応じて変化する。光パルスが伝搬する光ファイバ伝送路は、主としてガラスで形成されているので、ガラスの特性に応じた波長分散が生じると共に、コア及びクラッドの形状と寸法に応じた波長分散を生じ、光パルスの周波数(波長と言い換えてよい)に応じて群速度は変化することとなる。
【0031】
ここで、光パルスは単一の波長だけでなく、さまざまな波長成分を含んでいるので、群速度が波長に依存すると光ファイバ伝送路中を伝搬するにつれて光パルスの幅が拡がってしまい、光パルスの波形が歪み、前後の光パルスで信号が重なりクロストークを生じ、エラーが発生してしまう。
【0032】
波長分散は、伝搬する光ファイバなどの媒質の長さに比例して増大するため、光ネットワークが普及し、光ファイバや光部品で構成された経路の長さが増加するに従い、光パルスの歪みが大きく広がることになり、深刻な問題となる。
そのため、波長分散を補償することが、光ネットワークを構築して運用する際に重要な課題となる。この波長分散を補償するためには、この波長分散の程度を評価することが必要である。
【0033】
この光ファイバ伝送路の波長分散の特性である分散パラメータ(dispersion parameter)Dは、以下に示す式(1)により表される。分散パラメータの単位は、例えばps/nm/kmである。この式(1)において、Δτは群遅延時間差、Lは光が伝搬する距離、Δλは波長差である。
【0034】
【数1】

【0035】
本実施形態においては、分散パラメータDは、例えば光ファイバ伝送路や光部品の長さである。光が伝搬する距離Lは既知であるため、波長差に対する群遅延時間差が求まれば、分散パラメータDを算出することができる。
上記波長差は、周波数差Δνにより、以下の式(2)として表される。式(2)において、νは周波数であり、cは光の速度である。
【0036】
【数2】

【0037】
式(2)を式(1)に代入することにより、以下に示す式(3)を得る。
【0038】
【数3】

【0039】
ところで、光の周波数は非常に高く、電気的測定により光の電界の振動を測定することは、例えば、波長1500nmの光の周波数は200THz(テラヘルツ)に相当し、現状の技術では不可能である。そこで、光の位相を測定する手段として、干渉計が用いられる。
この干渉計では、入射光はビームスプリッタで2方向に分割され、各々の光は独立の経路を通過した後、再び一つに結合される。分割された光が各々の経路を伝搬することによる位相差を、結合後の干渉光の強度として測定することができる。
【0040】
従って、本実施形態では、光ファイバ伝送路を伝搬している光パルス自身の一部を取り出して、当該取り出した光パルスの一部を周波数シフタ(AOFS:acousto-optic frequency shifter)でΔνだけ周波数シフトさせた光パルスを用いて、元の光パルスと干渉させて得られた干渉フリンジを強度および位相に極座標変換することにより、元の光パルスの位相の周波数微分を求めることができ、群遅延時間を測定することができる。
【0041】
以下、図を用いてより具体的に説明する。
図1(A)は、光ファイバ伝送路を伝搬している光パルスの波形を示す図であり、横軸を時間t、縦軸を信号強度Iで表した光パルスの時間波形である。同図に示す例では、光パルスは25ps(40Gbit/s)毎にON、OFFを繰り返すような光パルスであるものとする。光ファイバ伝送路や光部品を伝搬後のスペクトル位相をφ(ν)とし、Δνの周波数差に対するスペクトル位相の変化分がΔφ(ν)であるとすると、群遅延時間差Δτは以下の式(4)で表される。ここで、スペクトル位相は、一般に光パルスチャープ(pulse chirp)と呼ばれ、周波数の関数として位相がどのように変化していくかを記述するものであり、ここでは光ファイバ伝送路によって生じた位相変化を示すものである。
【0042】
【数4】

【0043】
式(4)を式(3)に代入することにより、以下に示す式(5)で表す関係式が導かれる。
【0044】
【数5】

【0045】
この式(5)式により、光ファイバ伝送路や光部品中を伝搬した光パルスに対して、周波数差Δνに対するスペクトル位相の変化分を求めることにより、光ファイバ伝送路や光部品における分散パラメータDが求まり、波長分散を評価することができる。分散スロープなどの高次の波長分散は分散パラメータの周波数依存性として表われるため、全ての次数の波長分散が式(5)により評価できる。
【0046】
また、図1(B)に光パルスの位相の周波数νの依存特性を示す。測定対象である光ファイバ伝送路の光パルスは二次の分散を有しており、さらに同図に示す如く上に凸形状を有する放物線で示されるように位相が変化する。周波数をΔνだけ微小シフトさせた場合には図中の点線で示すように、このシフトによりスペクトル位相もΔφだけ変化する。このスペクトル位相の変化分Δφの値は、周波数シフトしていない元の光パルス(図中実線)を微分した値と等価となる。従って、スペクトル位相の変化分Δφを周波数のシフト量Δνで除算することにより、式(4)で示すように群遅延時間差Δτを求めることができる。
【0047】
[スペクトルシアリング干渉計]
スペクトルシアリング干渉計においては、干渉計が備える2本の分岐経路により、入力される光パルスを、偏光方向を同一に保持させて2つに分岐し、いずれか一方の分岐経路を伝搬する光パルスに対して周波数シフトを与える。
図1(C)に光パルスの強度スペクトル波形を示す。同図は電界Rに対する周波数νの依存特性を示すものであり、実線で示す如く、周波数シフトしていない元の光パルスは中心周波数νで電界Rが最大(ピーク)となるスペクトルを有することがわかる。一方、周波数をΔνだけ微小シフトさせた場合(点線で図示)には、強度スペクトルのピークはシフトするが、波形は変化しないことがわかる。つまり、周波数を微小シフトさせても電界Rの値は変化がないため、絶対値で示される元の光パルスのパワースペクトルを、周波数をΔνだけ微小シフトさせた光パルスのパワースペクトルにより近似することができる。
【0048】
このため、この周波数シフトにより生じる干渉フリンジのスペクトルを取得し、図1(B)に示される周波数差Δνに対するスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を、すなわち光パルスを微分した値と等価な値として測定することができる。その結果、得られたスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を式(5)に代入することにより分散パラメータを算出し、波長分散を評価することができる。このスペクトルシアリング干渉計の詳細については、参考文献(OPTICS LETTERS Vol.19, No.4, pp.287-289, February 15, 1994,"Analysis of ultrashort pulse-shape measurement using linear interferferometers"), Victor Wong and Ian Walmsley)に示されている。
以下、上記参考文献に示される構成に加えて、直交二成分を検出することにより、一義的な位相の測定を含めた本実施形態によるスペクトルシアリング干渉計による波長分散の評価の基礎原理について説明する。
【0049】
波長分散を評価する対象となる光ファイバ伝送路や光部品を伝搬した光パルスを被測定光信号として、この被測定光信号を光分岐部により、偏光方向を同一に保持させた状態で2つの分岐経路に分離する。これら2つの分岐経路の一方に伝搬する被測定光信号をπ/2位相シフトさせ、2つの分岐経路、例えば第1分岐経路を伝搬する第1被測定光信号と第2分岐経路を伝搬する第2被測定光信号とを合波するよう干渉計を構成する。
第1分岐経路を伝搬する第1被測定光信号の電界の時間波形を以下の式(6)により表す。この式(6)において、tは時間であり、νは被測定信号の中心周波数である。
【0050】
【数6】

【0051】
この式(6)においては、直交二成分を表す第1被測定光信号の時間波形が示され、上段の行が直交二成分の一方の成分であるcos成分、下側の行が直交二成分の他方の成分であるsin成分を示している。また、|Ecos(t)|、|Esin(t)|の各々は電界の包絡線の絶対値を表している。ここで、第1被測定光信号における第1光成分であるcos成分とcos成分に対して位相がπ/2異なる第2の光成分であるsin成分とは偏光方向が同一である。
Ψは時間領域表記での位相であり、波長分散に関係する項を含んでいる。また、式(6)において、信号変調フォーマットに依存する位相成分は省略している。
スペクトル干渉計においては、式(6)の電界の時間波形を分光して、すなわちフーリエ変換を行って、中心周波数νを原点としたスペクトルに変換し、以下の式(7)を得る。
【0052】
【数7】

【0053】
次に、第2分岐経路を伝搬する第2被測定光信号には、中心周波数νに対してΔνの周波数シフトを与える。この周波数シフトΔνは微少であり、ν≫Δνの関係にある。また、第2分岐経路を伝搬する第2被測定光信号の電界の時間波形は、以下の式(8)により表される。第1被測定光信号に対して、第2被測定光信号におけるcos成分の位相差が0度、sin成分の位相差が90度であることに対応し、sin成分には位相差π/2が付加されている。ここで、sin成分による干渉成分(干渉フリンジ)のパワースペクトルを得るため、第2被測定光信号に、π/2の位相差を与え、sin成分としている。また、第2被測定光信号における第1光成分であるcos成分とcos成分に対して位相がπ/2異なる第2の光成分であるsin成分とは偏光方向が同一である。
【0054】
【数8】

【0055】
上記式(8)をフーリエ変換して、中心周波数νを原点としたスペクトルに変換すると、以下の式(9)が得られる。
【0056】
【数9】

【0057】
上述したように、周波数シフトΔνを微少としたことから、式(9)においてはcos成分及びsin成分の各々に対して、以下に示す式(10)の近似式を適用した。
【0058】
【数10】

【0059】
第1分岐経路を伝搬する第1被測定光信号と第2分岐経路を伝搬する第2被測定光信号とを再び結合部により合波し、合波後の合波被測定光信号を光検出部により検出すると、第1測定光信号と第2被測定光信号との干渉によるパワースペクトルが得られる。再結合後のcos成分及びsin成分の干渉成分のパワースペクトルを、それぞれ|Ecos(ν)|、|Esin(ν)|として、式(7)及び式(9)の電界スペクトルにおける偏光方向が同一の第1被測定光信号及び第2被測定光信号の各cos成分、またsin成分同士を重ね合わせて絶対値の自乗を求めることにより、cos成分の干渉成分、sin成分の干渉成分の各々のパワースペクトルが以下の式(11)のように求められる。
【0060】
【数11】

【0061】
上記式(11)において、周波数シフトΔνが式(4)及び式(5)における周波数差Δνに等しいとみなして、以下に示す式(12)のように位相差を表す項が周波数差Δνに対するスペクトル位相の変化分Δφ(ν)に等しいとした。
【0062】
【数12】

【0063】
次に、式(11)を変形して、スペクトル位相の変化分Δφ(ν)に対応するcos成分及びsin成分の項が以下の式(13)に示すように得られる。ここで、上記再結合を行う際、第1被測定光信号と第2被測定光信号との偏光方向が同一であり、第1被測定光信号及び第2被測定光信号におけるcos成分とsin成分との偏光方向も同一である。
【0064】
【数13】

【0065】
第1被測定光信号及び第2被測定光信号におけるcos成分とsin成分との干渉における干渉フリンジ成分は式(13)における|Ecos(ν)|、|Esin(ν)|に含まれている。
また、本実施形態においては、上記式(13)を得るために第1被測定光信号及び第2被測定光信号との再結合を行う際、第1被測定光信号及び第2被測定光信号のいずれか一方を、他方に対して位相を0度と90度とに交互にシフトさせている。この位相のシフトは、光位相シフタである光位相シフト部に対して、位相のシフト量を制御する電圧である位相シフト電圧を時間的に交互に印加して行う。また、この位相のシフトを行った後においても、第1被測定光信号と第2披測定光信号との偏光方向は同一である。
この結果、式(8)の被測定信号におけるcos成分(上段)とsin成分(下段)とを交互に取得する。この光位相シフト部は、本実施形態において、第2分岐経路に設けられ、上述したように、印加される位相シフト電圧により、第1分岐経路を伝搬する第1被測定光信号の位相に対し、第2分岐経路を伝搬する第2被測定光信号の位相差を0度(cos成分取得)と90度(sin成分取得)との2値にて交互に変化させている。この結果、第1被測定光信号及び第2被測定光信号の合波において、cos成分の干渉成分とsin成分の干渉成分とが交互に取得されることになる。そして、交互に取得した一対のcos成分とsin成分との干渉成分のパワースペクトルを、以下の式(14)に代入することにより、周波数差Δνに対するスペクトル位相の変化分Δφ(ν)が、一価関数のtan−1により0から2πの範囲で一義的に求められる。ここで、cos成分とsin成分との一対とは、周波数毎にスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を求める単位である。
【0066】
【数14】

【0067】
式(14)において、最右辺の式を得るために、第1分岐経路を伝搬する第1被測定光信号と、第2分岐経路を伝搬する第2被測定光信号との各々におけるcos成分及びsin成分のパワーを等しいとし、以下の式(15)を適用した。
【0068】
【数15】

【0069】
上記スペクトル位相の変化分Δφ(ν)は、0から2πの範囲において周期的に折りたたまれているため、unwarp処理により展開することで、この位相の折りたたみが解除される。
以上のようにして、スペクトルシアリング干渉計を用いて、周波数差Δνに対するスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を測定し、式(5)に代入することで分散パラメータDを算出し、光ファイバ伝送路における波長分散の特性の評価を行う。
【0070】
一方、スペクトル干渉計による分散パラメータDの測定では、測定したスペクトル位相φ(ν)を周波数微分して群遅延時間を求めることにより、分散パラメータDを算出することができる。ただし、この周波数微分を行うと、スペクトル位相における測定ノイズも同時に微分されてしまい、測定ノイズを微分した鋭いスパイクノイズが群遅延時間に重畳してしまい、分散パラメータを算出する際の精度を低下させることになる。
このように、スペクトル干渉計においては、分散パラメータを精度良く検出できない欠点がある。このため、本願発明においては、スペクトルシアリング干渉計を用いて、周波数差Δνに対するスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を測定することにより、高精度に波長分散を評価している。
【0071】
[第一分岐経路及び第二分岐経路間での位相差のゆらぎの低減]
一般的に、光ファイバは、周囲の温度変化により光路長が変動する。周囲の温度が上昇すると膨張し、一方、周囲の温度が低下すると収縮するため、光ファイバの物理的な長さが変化することになる。また、周囲温度により、光ファイバの実効屈折率も変化し、光学的な光路長差が変化する。
上述した周囲温度の変動により、光ファイバの光路長が変化することにより、スペクトルシアリング干渉計を構成する第一分岐経路と第二分岐経路との光路長の変化の違いにより、光路長差が変動することになる。この結果、第一分岐経路と第二分岐経路との間の位相差が時間的に揺らいでしまい、第1被測定光信号と第2被測定光信号との干渉フリンジを安定に測定できず、スペクトル位相の変化分の測定が高い精度で行えないことになる。
【0072】
上述した周囲の温度変化に対し、スペクトルシアリング干渉計での干渉フリンジの測定を安定化させるため、第一分岐経路及び第二分岐経路間の位相差に生ずる揺らぎ、すなわち光路長差の変動が測定に対して与える影響を、測定精度に対応して低下させる必要がある。
第一分岐経路と第二分岐経路との光路長差の変動をΔlとし、周波数νにおける第一分岐経路と第二分岐経路との間の位相差に生じる揺らぎをΔΨ(ν)とすると、この揺らぎΔΨ(ν)は以下の式(16)により表される。
【0073】
【数16】

【0074】
ここで、第一分岐経路と第二分岐経路との光路長は、予め互いに等しくなるように調整されていることが必要である。第一分岐経路と第二分岐経路との光路長が異なる場合、光路長差の変動が大きくなり、干渉フリンジの測定精度が非常に悪くなり、スペクトル位相の変化分Δφ(ν)が得られなくなる。この光路長差の変動には、すでに述べたように、光ファイバの物理的な長さの変動及び実効屈折率の変動が含まれている。
【0075】
本実施形態においては、測定の周波数範囲における特定の周波数νでのスペクトル位相の変化分を基準とし、各周波数でのスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を差分測定する。この差分測定において表れる位相差に生ずる揺らぎΔΨ(ν)−ΔΨ(ν)は、以下の式(17)により表すことができる。
【0076】
【数17】

【0077】
上述した特定の周波数νとして、測定の周波数範囲の中心周波数νを用い、この測定の周波数範囲を100GHz間隔のITU(International Telecommunication Union)グリッドの一つのチャネルとする。例えば、被測定光信号がCバンドあるいはLバンドにあるとして、中心周波数νの最小値を184THzとする。このとき、ν−νは絶対値にして50Hz以内であるため、以下の式(18)に示す関係式が成立する。
【0078】
【数18】

【0079】
測定の周波数範囲における各周波数でのスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を、中心周波数νでのスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を基準として差分測定することにより、上記式(18)の関係式に示されるように、各周波数でのスペクトル位相の変化分を直接に測定する場合と比較して、位相差の揺らぎを0.027%以下に低減することができる。この結果、スペクトルシアリング干渉計に対して、特に温度変化に対応するような能動的な安定化を行うことなく、スペクトル位相の変化分を差分測定することにより、スペクトル位相の変化分の測定を受動的に安定化することができる。
【0080】
[波長分散測定装置の構成及び機能]
<第1の実施形態>
次に、図2を参照して、本実施形態による波長分散測定装置の構成及び機能を説明する。図2は、本実施形態による波長分散測定装置の構成例を示すブロック図である。
波長分散測定装置は、入射経路としての入射光ファイバ1、光分岐部2、第1光分岐経路としての第1光ファイバ3、第2光分岐経路としての第2光ファイバ4、光結合部5、プローブ経路の結合用経路としてのプローブ経路結合用光ファイバ6、参照経路の結合用経路としての参照経路結合用光ファイバ7、光遅延部8、光位相シフタとしての光位相シフト部9、光周波数掃引部10、プローブ出射光ファイバ11、プローブ光検出部12、光周波数抽出部13、参照光出射光ファイバ14、参照光検出部15、制御部16、位相制御線17、掃引周波数制御線18、参照周波数制御線19、プローブ検出制御線20及び参照検出信号線21を備える。
【0081】
入射光ファイバ1は、一端が波長分散を評価する評価対象である光ファイバ伝送路または光部品から光パルスを入射し、他端が光分岐部2の入射端(第1入射端)に接続されている。ここで、波長分散を評価する評価対象の光ファイバ伝送路または光部品を伝搬した光パルスを、入射光ファイバ1を介して波長分散測定装置に入射し、入射した光パルスを被測定光信号とする。
【0082】
光分岐部2は、入射端から入力される被測定光信号を2方向に分岐させ、一の出射端(第1出射端)に一端が接続されている第1光ファイバ3に対し、一方の光束を第1被測定光信号として導くとともに、他の出射端(第2出射端)に一端が接続されている第2光ファイバ4に対し、他方の光束を第2被測定光信号として導く。ここで、第1被測定光信号は式(6)に示す時間波形であり、式(7)に示す周波数スペクトルを有している。第2被測定光信号は式(8)に示す時間波形であり、式(9)に示す周波数スペクトルを有している。
また、光分岐部2は、一の出射端から第1光ファイバ3へ出射する第1被測定光信号と、他の出射端から第2光ファイバ4へ出射する第2被測定光信号との間に、キャリア周波数差を発生させる。
【0083】
本実施形態においては、キャリア周波数差が発生した結果、例えば、第1光ファイバ3へ出射される第1被測定光信号の周波数と異なる周波数となるように、第2光ファイバ4へ出射される第2被測定光信号に対して、キャリア周波数差として周波数シフトΔνが与えられる。一方、第1光ファイバ3へ出射される第1被測定光信号には、周波数の変化はない。
【0084】
光分岐部2は、例えば、音響光学型周波数シフタを用いている。この音響光学型周波数シフタの0次光出力ポートが第1光ファイバ3の一端と接続され、1次光出力ポートが第2光ファイバ4の一端と接続されている。音響光学型周波数シフタは、周波数Δνの高周波が供給された場合、0次光出力ポートから周波数シフトされない第1被測定光信号を出力し、一方、1次光出力ポートから周波数Δνだけ周波数シフトされた第2被測定光信号を出力する。光分岐部2は、後述する光結合部5において再結合して干渉成分を取得するため、第1被測定光信号と第2被測定光信号との偏光方向を同一として出射する。
【0085】
光結合部5は、一の入射端(第2入射端)が第1光ファイバ3の他端に接続され、他の入力端(第3入射端)が第2光ファイバ4の他端に接続されている。また、光結合部5は、一の出射端(第3出射端)がプローブ経路結合用光ファイバ6に接続され、他の出射端(第4出射端)が参照経路結合用光ファイバ7に接続されている。
光結合部5は、一の入射端から入射される第1被測定光信号と、他の入射端から入力される第2被測定光信号とを合波し、合波された合波被測定光信号を、一の出射端からプローブ経路結合用光ファイバ6に対して出射するとともに、他の出射端から参照経路結合光ファイバ7に対して出射する。
【0086】
また、第1光ファイバ3の経路中には、光遅延部8が介挿されている。この光遅延部8は、第1光ファイバ3と第2光ファイバ4との光路長差を同じにする目的で、他方に対して光路長が短い方の光ファイバに設けられ、光路長差を解消する調整のための遅延を被測定光信号に与えている。
このように、光遅延部8を設けて光路長差を解消することにより、第1光ファイバ3と第2光ファイバ4との間において生ずる光路長の揺らぎを低減することができるため、式(14)におけるスペクトル位相の変化分Δφ(ν)の測定精度を向上させることができる。
なお、第1光ファイバ3と第2光ファイバ4との光路長差が測定精度に対して影響を与えない程度であれば、光遅延部8を設ける必要性はない。
【0087】
また、第2光ファイバ4の経路中には、光位相シフト部9が介挿されている。この光位相シフト部9は、第2光ファイバ4を伝搬する第2被測定光信号の位相を、一定の第1周期において0度と90度とに交互に位相シフトさせる。すなわち、光位相シフト部9は、第1光ファイバ3を伝搬する第1被測定光信号と、第2光ファイバ4を伝搬する第2被測定光信号との間の位相差を、一定の第1周期において0度および90度の間で交互に切替えている。ここで、光位相シフト部9は、第1被測定光信号に対して第2被測定光信号の位相をシフトさせるが、シフト後も第2被測定光信号の偏光方向を、第1被測定光信号と同一として出射する。
【0088】
これにより、第1光ファイバ3を伝搬する第1被測定光信号と第2光ファイバ4を伝搬する第2被測定光信号との間の位相差が0度の場合をcos成分検出モード、90度の場合をsin成分検出モードとすることができる。第1被測定光信号におけるcos成分及びsin成分が式(6)で示される。また、第2被測定光信号を位相差0度としたものをcos成分とし、位相差90度としたものをsin成分とし、それぞれ式(8)の上段と下段とで表している。
ここで、上述したように、光分岐部2から出射される第1被測定光信号と第2被測定光信号との偏光方向は同一であり、かつ第1被測定光信号に対して光位相シフト部9により位相差0度または90度とされた第2被測定光信号との偏光方向も同一である。したがって、光位相シフト部9で発生する位相差を0度および90度の間で切替えることにより、直交二成分におけるcos成分及びsin成分のいずれを検出するかを選択することができる。本実施形態においては、第2被測定光信号を第1被測定光信号に対して0度シフトさせた場合、第1被測定光信号及び第2被測定光信号のcos成分の干渉が起こり、第2被測定光信号を第1被測定光信号に対して90度シフトさせた場合、第1被測定光信号及び第2被測定光信号のsin成分の干渉が起こることになる。すなわち光結合部5は、第2被測定光信号の位相シフト差が0度の場合、第1被測定光信号及び第2被測定光信号のcos成分における干渉成分を合波被測定光信号として出力し、位相シフト差が90度の場合、第1被測定光信号及び第2被測定光信号のsin成分における干渉成分を合波被測定光信号として出力する。
【0089】
この光位相シフト部9には、例えば、電気光学結晶(例えばLiNb0)を用いた位相シフタを用いることができ、印加する位相シフト電圧(後述するV、V90)を変化させることにより、位相のシフト量を0度および90度の間で切替えることができる。
なお、本実施形態においては、光遅延部8が第1光ファイバ3に接続され、また光位相シフト部9が第2光ファイバ4に接続された構成としているが、実際には、第1光ファイバ3及び第2光ファイバ4のうちいずれか光路長の短い光ファイバに光遅延部8を介挿し、他方に光位相シフト部9を接続するようにする。
上述したように、光遅延部8と光位相シフト部9との各々を、それぞれ異なる光ファイバの光路中に挿入することにより、光遅延部8と光位相シフト部9との間を残留反射光が往復することを防止することができる。このため、残留反射光が往復して共振することにより発生するスペクトルリップルを除去することができる。
【0090】
光周波数掃引部10は、入射端(第4入射端)がプローブ経路結合用光ファイバ6の他端に接続され、出射端(第5出射端)がプローブ出射光ファイバ11の一端に接続されている。光周波数掃引部10は、例えば、チューナブルバンドパスフィルタであり、周波数掃引周期(設定された測定周波数の範囲で周波数の掃引を行う周期)の開始を示すトリガ信号により、所定の測定周波数の範囲において周波数を変化させる掃引を行う。ここで、光周波数掃引部10は、通過させるバンドパス周波数幅の中心周波数を上記測定周波数の範囲において時系列に変化させる。また、光周波数掃引部10は、プローブ経路結合用光ファイバ6から入射される合波被測定光信号から、上記バンドパス周波数幅に対応した周波数の干渉要素を取り出す処理、すなわち合波被測定光信号の周波数分解(スペクトル分解)を行う。光周波数掃引部10は、周波数分解後の成分被測定光信号(周波数毎のスペクトル強度を示す信号、プローブ光信号)を出射端から、プローブ出射光ファイバ11に対して出射する。第1被測定光信号及び第2被測定光信号を合波した合波被測定光信号の周波数数分解に用いる周波数は、上記バンドパス周波数幅における中心周波数とする。上記周波数分解により、周波数毎のcos成分またはsin成分の干渉要素(干渉成分)を検出することになる。
【0091】
光周波数抽出部13は、入射端(第5入射端)が参照経路結合用光ファイバ7の他端に接続され、出射端(第6出射端)が参照出射光ファイバ14の一端に接続されている。光周波数抽出部13は、参照経路結合用光ファイバ7から入射される合波被測定光信号から、特定の周波数(本実施形態においては被測定光信号の中心周波数ν)成分の干渉要素を取り出す処理、すなわち合波被測定光信号における特定の周波数νの成分の抽出を行う。
光周波数抽出部13は、光周波数掃引部10がバンドパス周波数幅の中心周波数を上記周波数掃引周期において時系列に変化させる間、すなわち周波数を掃引して各バンドパス周波数幅のスペクトル位相の変化を測定する間、抽出する周波数を特定の周波数νに固定している。光周波数抽出部13は、特定の周波数νで抽出した参照光信号(特定の周波数νのスペクトル強度を示す信号)を出射端から、参照出射光ファイバ14に対して出射する。
また、光周波数抽出部13は、上述したように抽出する周波数を特定の周波数νに固定するが、その抽出する周波数を調整可能な、例えばチューナブルバンドパスフィルタ等を用いても良い。この特定周波数を変更する際、ユーザが特定周波数のデータを入力することにより、制御部16は、光周波数抽出部13に対して、参照周波数制御線19を介して、特定周波数を設定するための制御信号を出力する。そして、光周波数抽出部13は、参照周波数制御線19を介し、制御部16から入力される制御信号により指示される周波数を、特定周波数として設定する。
本実施例では特定の周波数を被測定信号の中心周波数とするが、特定の周波数は被測定信号の他の周波数でもよい。測定条件に応じて最も位相ゆらぎを低減できるように、特定の周波数を選択すればよい。
【0092】
プローブ光検出部12は、入射端(第6入射端)がプローブ出射光ファイバ11の他端と接続されている。プローブ光検出部12は、プローブ出射光ファイバ11から入射される成分被測定光信号を、電気信号に変換して、変換結果を干渉信号であるプローブ信号として制御部16に対して出力する。
ここで、成分被測定光信号は、光位相シフト部9が位相のシフト量を0度としている場合、対応する周波数のcos成分の干渉要素であり、光位相シフト部9が位相のシフト量を90度としている場合、対応する周波数のsin成分の干渉要素である。
【0093】
参照光検出部15は、入射端(第7入射端)が参照出射光ファイバ14の他端と接続されている。参照光検出部15は、参照出射光ファイバ14から入射される参照光信号を、電気信号に変換して、変換結果を干渉信号である参照信号として制御部16に対して出力する。
ここで、参照光信号は、光位相シフト部9が位相のシフト量を0度としている場合、特定の周波数νのcos成分の干渉要素であり、光位相シフト部9が位相のシフト量を90度としている場合、特定の周波数νのsin成分の干渉要素である。
【0094】
また、本実施形態において、入射光ファイバ1、第1光ファイバ3、第2光ファイバ4のそれぞれは、偏波保持特性を有する偏波保持光ファイバ(PMF :Polarization Maintaining Fiber)が用いられている。これら入射光ファイバ1、第1光ファイバ3、第2光ファイバ4のそれぞれの偏光軸はすべて同一方向に揃えられた状態とし、第1被測定光信号及び第2被測定光信号の偏光方向を揃えて同一とし、第1被測定光信号及び第2被測定光信号を合波する光結合部5に入射されるようにしている。したがって、光結合部5にて合波する第1被測定光信号及び第2被測定光信号の偏波方向は同一に揃えられている。このため、被測定光信号は、図示しない偏波コントローラを用い、波長分散を評価する対象の光ファイバ伝送路を伝搬直後の被測定光信号の偏波を直線偏波とし、その偏光軸を入射光ファイバ1の偏光軸(例えば、スロー軸)に揃えた後に、入射光ファイバ1に入射される。また、プローブ経路結合用光ファイバ6、参照経路結合用光ファイバ7、プローブ出射光ファイバ11、参照出射光ファイバ14に対しても、偏波保持光ファイバを用いても良い。
【0095】
制御部16は、光周波数掃引部10から、掃引周波数制御線18を介して入力される周波数掃引周期の開始点を示すトリガ信号に同期し、光位相シフト部9に対して第1周期毎に印加する位相シフト電圧を交互に変化させ、位相シフトを行わせるため、位相制御線17を介して光位相シフト部9へこの位相シフト電圧を供給する。
すなわち、測定周波数がn点である場合、cos成分及びsin成分を1つの周波数に対して一対としているため、周波数掃引周期を2nで除算して得た第1周期毎に交互に電圧を切り換える処理を上記トリガ信号に同期して行う。
また、制御部16は、プローブ検出信号線20を介してプローブ光検出部12から、この第1周期に同期して、cos成分及びsin成分の干渉信号を交互に受信する。そして、制御部16は、この時系列に取得したcos成分及びsin成分の干渉要素を一対として、各周波数における分散パラメータを演算するためのパワースペクトルのデータとして用いる。
また、制御部16は、参照検出信号線21を介して参照光検出部15から、この第1周期に同期して、特定の周波数νのcos成分及びsin成分の干渉信号を交互に受信する。そして、制御部16は、この取得したcos成分及びsin成分の干渉要素を一対として、特定の周波数νにおける分散パラメータを演算するためのパワースペクトルのデータとして用いる。
【0096】
次に、制御部16は、入力される干渉信号であるプローブ信号のレベルをパワースペクトルとし、cos成分のパワースペクトルと、sin成分のパワースペクトルの自乗を求め、式(11)のパワースペクトルを得る。
さらに、制御部16は、式(11)を変形した式(13)により、周波数毎の一対のcos成分及びsin成分のパワースペクトルを得て、式(14)により、周波数毎の位相の変化分Δφ(ν)を得ることができる。。
同様に、制御部16は、入力される干渉信号である参照信号のレベルをパワースペクトルとし、cos成分のパワースペクトルと、sin成分のパワースペクトルの自乗を求め、式(11)のパワースペクトルを得る。
さらに、制御部16は、式(11)を変形した式(13)により、特定の周波数νの一対のcos成分及びsin成分のパワースペクトルを得て、式(14)により、特定の周波数νのスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を得ることができる。
【0097】
そして、制御部16は、各周波数のスペクトル位相の変化分Δφ(ν)から、同一の第1周期にて取得した特定の周波数のスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を減算し、変化分差分Δε(ν)を算出する。
この変化分差分Δε(ν)における位相ゆらぎは、各周波数のスペクトル位相の変化分Δφ(ν)から、同一の第1周期で得られた特定の周波数のスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を減算して求められているので、式(17)及び式(18)に示すように、それぞれの第1周期における位相ゆらぎの成分がキャンセルされて低減されている。
また、周波数νが周波数νの際のスペクトル位相の変化分Δφ(ν)と、同一の第1周期にて測定された特定の周波数νのスペクトル位相の変化分Δφ(ν)とは同一の値となる。このため、周波数νが周波数νの際のスペクトル位相の変化分Δφ(ν)から求めた変化分差分Δε(ν)は「0」となる。
制御部16は、周波数νが周波数νの際の位相の変化分Δφ(ν)における変化分差分Δε(ν)を基準として、この基準に対する相対的な位相の変化分として、各周波数νにおける変化分差分Δδ(ν)を出力する。
そして、制御部16は、この位相の相対的な変化分である変化分差分Δε(ν)を、変化分Δφ(ν)として式(5)に代入することにより、周波数νが周波数νの際のスペクトル位相の変化分Δφ(ν)における変化分差分Δε(ν)を基準とした周波数毎の分散パラメータを算出する。
【0098】
上述したように、本実施形態においては、測定周波数の範囲における周波数の掃引の開始を、光周波数掃引部10から供給されるトリガ信号によって通知するものとする。
【0099】
また、制御部16が第1周期の2n倍を周波数掃引周期とし、この周波数掃引周期の開始を示すトリガ信号を生成し、光周波数掃引部10へトリガ信号を出力し、測定周波数の範囲において、周波数の掃引を制御する構成としても良い。
また、周波数掃引周期を連続させず、周波数掃引周期の開始点及び終了点各々のトリガ信号を用いることにより、開始点と終了点とを同時刻に設定する必要がなく、開始点と終了点との間に周波数を掃引の初期値に戻す時間を設けることができる。このため、終了点と開始点と同一の場合のように、開始点から初期値への変化を行うために、周波数の変化する時間により、周波数掃引周期における最初の第1周期が短くなることが無くなり、測定時間の制御をさらに高精度化することができる。
【0100】
次に、本実施形態における図2に示す波長分散測定装置の被測定光信号を測定する動作を、図3を用いて説明する。図3は、光周波数掃引部10の周波数掃引動作と、これに対応した光位相シフト部9の位相シフトの動作と、制御部16におけるプローブ光検出部12からの干渉信号のサンプリングとにおける動作のタイミングを示す波形図である。ここで、制御部16は、プローブ光検出部12から入力されるプローブ信号と、参照光検出部15から入力される参照信号とを、同一のタイミングで行う。このため、図3において、サンプリングのタイミングチャートは、プローブ信号及び参照信号双方が同様である。
すなわち、図3(a)は、縦軸が電圧であり、横軸が時間であり、光周波数掃引部10の出力するトリガ信号の出力タイミングを示す図である。この図3(a)において、光周波数掃引部10から出力されるトリガ信号のHレベル(V)およびLレベル(V)は、各々TTL制御(TTL(Transistor Transistor Logic)インターフェースを用いた制御)に適合するように設定される。
【0101】
図3(b)は、縦軸が周波数であり、横軸が時間であり、光周波数掃引部10の掃引において出力する共振周波数の時間変化を示している。この図3(b)において、νは掃引開始の周波数(測定周波数の範囲における最低周波数)であり、νは掃引停止の周波数(測定周波数の範囲における最大周波数)である。このため、周波数νから周波数νが測定周波数の範囲、すなわち周波数を掃引する範囲となる。
図3(c)は、縦軸が電圧であり、横軸が時間であり、光位相シフト部9に印加する位相差を第1周期で変化させる位相シフト電圧の波形を示す図である。位相シフト電圧Vは位相差を0度(cos成分)とする際の電圧であり、位相シフト電圧V90は位相差を90度(sin成分)とする際の電圧である。また、cos成分及びsin成分の位相シフト電圧を印加する時間は同一の周期、すなわち第1周期Δtである。
図3(d)は、縦軸が電圧であり、横軸が時間であり、制御部16がプローブ光検出部12からのプローブ信号と、参照光検出部15からの参照信号とを、時系列データとして受信するサンプリング周期のタイミングを示す図である。
図3(c)及び図3(d)については、第1周期を明確に記載するため、図3(a)及び図3(b)の横幅の時間スケールを拡大し、一部の時間範囲のみを示している。
【0102】
光周波数掃引部10は、トリガ信号を発生し時間「Tl+1−T」の周波数掃引周期において、トリガ信号を制御部16に対して出力するとともに、合波被測定光信号の周波数分解を行うために、周波数ν1から周波数ν2までの周波数を線形に増加させる掃引の処理を開始する。ここで、ユーザが実際の測定の前に掃引変化を測定し、時間に対する掃引された周波数の線形性が達成されないことを検出した場合、掃引の周波数の校正を行い、周波数掃引の非線形性を補正する。また、本実施形態において、低周波側から高周波側への周波数の掃引を行っているが、高周波側から低周波側に周波数の掃引を行うよう構成しても良い。また、タイミング制御は、TTL制御に限るものではなく、例えばCMOS(Metal Oxide Semiconductor )インターフェースを用いても良い。
光周波数抽出部15は、「Tl+1−T」の周波数掃引周期において、固定された特定周波数νの成分の抽出を行い、抽出した成分を参照光信号として参照光検出部15に対して出力する。
【0103】
制御部16は、トリガ信号が供給されると、このトリガ信号に同期して、第1周期Δt毎に光位相シフト部9へ位相シフト電圧Vと位相シフト電圧V90とを交互に出力する処理を開始する。本実施形態においては、位相シフト電圧Vから供給しているが、位相シフト電圧V90から供給するように構成しても良い。
この結果、光位相シフト部9は、供給される位相シフト電圧Vと位相シフト電圧V90とにより、第2光ファイバ4を伝搬する第2被測定光信号の位相を0度または90度に変化させる。
光検出部11は、第1周期Δt毎に、各周波数におけるcos成分の干渉要素を有する成分被測定光信号と、sin成分の干渉要素を有する成分被測定光信号とを交互に干渉信号として、制御部16に対して供給する。
プローブ光検出部12は、第1周期Δt毎に、各周波数におけるcos成分の干渉要素を有する成分被測定光信号と、sin成分の干渉要素を有する成分被測定光信号とを交互に干渉信号として、制御部12に対して供給する。
参照光検出部15は、第1周期Δt毎に、特定周波数νにおけるcos成分の干渉要素を有する成分被測定光信号と、sin成分の干渉要素を有する成分被測定光信号とを交互に干渉信号として、制御部16に対して供給する。
【0104】
そして、制御部16は、第1周期Δtに同期して、例えば第1周期Δtの中央部分において上記成分被測定光信号をサンプリングすることにより、交互に各周波数におけるcos成分の干渉要素を有する成分被測定光信号と、sin成分の干渉要素を有する成分被測定光信号との干渉信号を一対として得ることができる。すなわち、第2被測定光信号の位相を0度から90度に変化させることで、一対のcos成分及びsin成分の干渉要素を得ることができる。これにより、測定周波数の範囲内にて、2nの第1周期Δtから、各周波数ν及び特定周波数νの各々のn個のcos成分及びsin成分の干渉要素の対が得られる。
この結果、制御部16は、すでに述べたように、位相の変化分Δφ(ν)と同一の第1周期で測定した特定周波数νの位相の変化分Δ(ν)を求める。そして、制御部16は、このスペクトル位相の変化分Δφ(ν)から、同一の第1周期で測定した特定周波数νのスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を減算し、得られた差分である変化分差分Δδ(ν)を、位相の変化分Δφ(ν)変えて、式(14)に代入することにより分散パラメータの算出を行う。
【0105】
上述したように、制御部16は、図3(d)に示すサンプリング周期により、成分被測定光信号の各周波数におけるスペクトルパワーおよびスペクトル位相の変化分を離散データ、すなわち第1周期Δtに対応したタイミングにて光周波数掃引部10の出力する周波数νにおける成分被測定信号をサンプリングしたプローブ信号と、光周波数抽出部13の出力する周波数ν0における被測定信号をサンプリングした参照信号とを取得する。
このとき、光周波数掃引部10は、位相シフト電圧を切り替える第1周期Δtに対し、周波数の変化量をゆるやかに変化させて掃引するので、cos成分及びsin成分の一対の測定の間に生ずる周波数変化はわずかであり、データ一対間においては周波数一定とみなすことができる。
例えば、cos成分及びsin成分の各々を交互に1000点測定する場合、位相シフト電圧の切り替えにともなう測定周波数の範囲における周波数変化は、周波数掃引の全範囲の1/2000にすぎない。周波数掃引周期Tl+1−Tが1s(秒)であるならば、位相シフト電圧の切替え時間である第1周期Δtは0.5msとなる。
制御部16は、成分被測定光信号のサンプリング周期を、第1周期と同様に0.5msとし、データのサンプリングタイミングは位相シフト電圧の切替えに同期させる。ここで、サンプリングタイミングは、確実に成分被測定光信号をサンプリングできるように、位相シフト電圧の変化タイミングに対して、例えばΔt/2遅延させる。
【0106】
2000点の成分被測定光信号のサンプリングを、交互に1000点ずつcos成分およびsin成分のサンプリングに割り当てることになる。これにより、直交二成分のサンプリングの間隔(サンプリング間隔=第1周期×2)は、周波数掃引の全範囲(周波数の測定範囲)の1/1000となる。サンプリング点数を固定すると、光位相シフト部9の出力する位相シフト電圧と、成分被測定光信号のサンプリング周期は周波数掃引周期に比例する。すなわち、第1周期Δtは、測定する周波数の分解能に対応した周波数の数により周波数掃引周期を除算することにより求められる。
したがって、周波数掃引周期を短縮すると、サンプリング周期はそれに応じて短くなる。なお、スペクトル形状が複雑な場合、サンプリング点数をさらに増化させ、分解能を向上させる必要がある。この分解能を向上させる場合にも、同一の周波数掃引周期の場合にはサンプリング周期は短くなる。
【0107】
また、被測定光信号は100GHz間隔のITUグリッドに従うものとして、周波数掃引範囲ν−νを100GHzとする。例えば、被測定光信号がITUグリッドのCバンド31番チャンネルに割り当てられている場合、周波数νおよび周波数νは各々193.05THzおよび193.15THzとなる。
プローブ信号及び参照信号毎のcos成分及びsin成分の各々を1000点ずつ取得するものとし、直交二成分のサンプリング間隔、すなわち第1周期Δtの2倍の周期として100MHzと設定する。
スペクトル位相の変化分Δφ(ν)の測定精度を向上させるため、各サンプリング点での位相を精度良く求める必要がある。このため、光周波数掃引部10でのバンドパス周波数幅は、上記サンプリング間隔の半分以下の狭さとすることが好ましい。
バンドパス周波数幅が狭いほど、周波数分解の分解能を高くすることができ、周波数に対するスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を、高い精度により測定することができる。
ただし、バンドパス周波数幅を狭くすることにより、プローブ光検出部12に入射する光量が減少し、測定ノイズの影響が強くなる。
【0108】
本実施形態においては、バンドパス周波数幅をサンプリング周波数の1/4、すなわち25MHzとする。このとき、光周波数掃引部10に用いるバンドパス光フィルタのフィネスは、ピーク間隔を透過ピークの半値全幅で割った値、すなわち4000となる。
ヘテロダインスペクトル干渉計を用いで位相ゆらぎを測定すると、干渉計の経路に使用する光ファイバ長が1m程度であると、位相が180度程度ゆらぐのに要する時定数は5s程度である。したがって、周波数掃引周期が1secに設定されている場合、干渉計の位相ゆらぎの影響は少ないと予想される。
測定精度を向上させるために位相ゆらぎをさらに低減する必要がある場合、周波数掃引周期をさらに短くすればよい。例えば、周波数掃引周期を約0.1secにまで短縮することにより、周波数分散における位相ゆらぎの影響を無視することができる。
【0109】
また、本実施形態において、光周波数掃引部10が線形に周波数を掃引するとして説明したが、一対となるcos成分及びsin成分のサンプリングを行う期間、掃引が停止され、直交二成分が測定される期間同一の周波数とするよう、ステップ状に掃引を行うようにしても良い。
この構成であれば、一対のcos成分及びsin成分間において、周波数変動が無く、干渉信号の測定精度を向上させ、スペクトル位相の変化分Δφ(ν)を高い精度にて求めることができる。
【0110】
上述した構成によれば、偏波保持特性を有する光ファイバを用いて干渉計を構成して、直交二成分を安定した状態にて維持するため、従来のように空間光学系を用いて干渉計を構成する必要がないため、空間光学系において必要とされていた部品を空間的に配置する必要性がなく、構造をより簡易化して装置を小型化することができる。
さらに、空間光学系を用いることなく干渉計を構成しているため、光ファイバと空間光学系との間において光の入出力における光損失が発生することがなく、光の強度の低下を抑制し、測定感度を維持して、波長分散を測定することができる。
また、周波数掃引周期における各周波数の位相の変化分Δφ(ν)から、同一の第1周期で測定した特定周波数νの位相の変化分Δφ(ν)を減算し、得られた差分である変化分差分Δδ(ν)により、分散パラメータの算出を行うため、直接に各周波数のスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を測定する場合に比較して位相ゆらぎを低減させ、位相ゆらぎの影響を低減して安定した分散パラメータを求めることができる。
【0111】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態による波長分散測定装置の説明を行う。第2の実施形態は、第1の実施形態と同様の構成であるが、図2の構成において、制御部16に並列に設けた2つの受信ポートにより、cos成分及びsin成分を、並列に受信する構成を有している。
図4は、光周波数掃引部10の周波数掃引動作と、これに対応した光位相シフト部9の位相シフトの動作と、制御部16におけるプローブ光検出部12から出力されるプローブ信号と、参照光検出部15から出力される参照信号とのサンプリングを行う動作のタイミングを示す波形図である。ここで、制御部16は、プローブ光検出部11から入力されるプローブ信号と、参照光検出部15から入力される参照信号とを、同一のタイミングで入力する。このため、図4において、サンプリングのタイミングチャートは、プローブ信号及び参照信号双方が同じになる。
【0112】
図4(a)は、縦軸が電圧であり、横軸が時間であり、光周波数掃引部10の出力するトリガ信号の出力タイミングを示す図である。この図4(a)において、光周波数掃引部10から出力されるトリガ信号のHレベルおよびLレベルは、各々TTL制御に適合するように設定される。
図4(b)は、縦軸が周波数であり、横軸が時間であり、光周波数掃引部10の掃引において出力する共振周波数の時間変化を示している。この図4(b)において、νは掃引開始の周波数(測定周波数の範囲における最低周波数)であり、νは掃引停止の周波数(測定周波数の範囲における最大周波数)である。
図4(c)は、縦軸が電圧であり、横軸が時間であり、光位相シフト部9に印加する位相差を第1周期で変化させる位相シフト電圧の波形を示す図である。位相シフト電圧Vは位相差を0度(cos成分検出モード)とする際の電圧であり、位相シフト電圧V90は位相差を90度(sin成分検出モード)とする際の電圧である。また、cos成分及びsin成分の位相シフト電圧を印加する時間は同一の周期、すなわち第1周期Δtである。
図4(d)は、縦軸が電圧であり、横軸が時間であり、制御部16がプローブ光検出部12から出力されるプローブ信号と光周波数抽出部13から出力される参照信号とを、受信ポートP1、受信ポートP2から並列に時系列データとして受信するサンプリング周期のタイミングを示す図である。本実施形態においては、受信ポートP1がcos成分の成分被測定光信号と、cos成分の特定周波数νの参照信号とを受信し、受信ポートP2がsin成分の成分被測定光信号と、sin成分の特定周波数νの参照信号とを受信する。
図4(c)及び図4(d)については、第1周期を明確に記載するため、図4(a)及び図4(b)の横幅の時間スケールを拡大し、一部の時間範囲のみを示している。
【0113】
制御部16は、プローブ光検出部12から、位相シフト電圧Vを出力しているとき、受信ポートP1によりcos成分の成分被測定光信号と、cos成分の特定周波数νの参照信号とを受信し、位相シフト電圧V90を出力しているとき、受信ポートP2によりsin成分の成分被測定光信号と、sin成分の特定周波数νの参照信号とを受信する。
第2の実施形態も、第1の実施形態と同様に、周波数掃引周期はcos成分及びsin成分の各々を1000点ずつ取得するものとする。周波数掃引周期は、第1の実施形態と同様に1s、位相シフト電圧の切替え時間である第1周期Δtは、0.5msecとなる。受信ポートP1及び受信ポートP2の各々のサンプリング周期は1msecであり、受信ポートP1及び受信ポートP2の間においては、サンプリングタイミングは0.5msecずれることになる。
【0114】
制御部16では、A/D(アナログ/デジタル)変換を行い、プローブ光検出部12から干渉信号であるプローブ信号と、参照光検出部15から干渉信号である参照信号との各々の電圧レベルをデジタルデータとして取得する。制御部16は、プローブ信号をA/D(アナログ/デジタル)変換処理するA/D変換回路と、参照信号をA/D変換処理するA/D変換回路とを独立して有している。
したがって、制御部16におけるプローブ信号用及び参照信号用のA/D換回路それぞれの動作速度が、サンプリング周期を短縮したい場合の制限要因となる可能性がある。しかし、本実施形態では、受信ポートP1及び受信ポートP2の二系統受信を採用することにより、各受信ポートのサンプリング速度が1ポートのみで受信する場合の半分となるため、A/D変換回路の動作速度の制限を2倍に上昇させることができる。この場合、制御部16は、受信ポートP1から入力されるプローブ信号をA/D変換処理するA/D変換回路と、受信ポートP1から入力される参照信号をA/D変換処理するA/D変換回路と、受信ポートP2から入力されるプローブ信号をA/D変換処理するA/D変換回路と、受信ポートP2から入力される参照信号をA/D変換処理するA/D変換回路との4個のA/D変換回路を有している。受信ポートP1及び受信ポートP2は、それぞれプローブ信号及び参照信号との2系統、すなわち2個の受信ポートを有している。
また、1つの受信ポートにおいて、cos成分及びsin成分の各々の測定タイミングを交互に振り分ける必要が無くなるため、データ処理プログラムが簡単になり、データ処理速度を向上させることができる。
【0115】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態による波長分散測定装置の説明を行う。第3の実施形態は、第1の実施形態または第2の実施形態と同様の構成であるが、位相シフト電圧を供給する期間(第1周期)をcos成分を測定する場合と、sin成分とを測定する場合とで異なる長さの時間に設定している。
すなわち、光周波数掃引部10から出力される成分被測定光信号の測定において、プローブ光検出部12から制御部16へ入力されるスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を求める一対となる、参照信号におけるcos成分及びsin成分を、サンプリング周期において同一の時間幅にて測定する必要はない。同様に、参照光検出部15から制御部16へ入力される特定周波数ν0のスペクトル位相の変化分Δφ(ν)を求める一対となるcos成分及びsin成分を、サンプリング周期において同一の時間幅にて測定する必要はない。
【0116】
制御部16がcos成分、sin成分の順番に、直交2成分各々のプローブ信号をプローブ光検出部12から取得し、かつcos成分、sin成分の順番に、直交二成分各々の参照信号を参照光検出部15から取得する場合、第1の実施形態におけるcos成分及びsin成分の一対のサンプリング周期をそのままとし、光位相シフト部9に供給する位相シフト電圧を印加する時間幅を、cos成分の測定時間を短縮し、この短縮した時間をsin成分の測定時間に加える。
これにより、プローブ信号及び参照信号の各々の一対となるcos成分とsin成分との測定間隔を短くし、cos成分及びsin成分の時系列の切り替えに伴う周波数の変化量を低減し、測定の周波数精度を向上させることができる。
したがって、周波数単位において測定するスペクトル位相の変化分Δφ(ν)及び変化分Δφ(ν)の測定精度を向上させ、分散パラメータを高い精度で求めることができる。
【0117】
第1の実施形態における図3(d)及び第2の実施形態における図4(d)の波形図では、プローブ信号及び参照信号の各々の直交二成分の一対となるcos成分とsin成分とを取得するサンプリング周期は2Δtとなる。cos成分測定において、制御部16が光位相シフト部9に対して位相シフト電圧Vを印加する時間をΔt−δとし、位相シフト電圧V90を印加する時間をΔt+δとする。これにより、直交二成分の一対となるcos成分とsin成分とを取得するサンプリング周期は2Δtと、第1の実施形態及び第2の実施形態と同様となる。また、位相シフト電圧を印加した後、制御部16がサンプリングを行うまでの時間、すなわち測定時間の開始から制御部16が干渉信号であるプローブ信号及び参照信号をサンプリングするまでの時間を、cos成分及びsin成分ともに、時間δとする。ここで、Δt−δ、Δt+δ及びδに対して、以下の式(19)に示す関係となる。
【0118】
【数19】

【0119】
したがって、プローブ信号及び参照信号の各々の直交二成分の一対となるcos成分とsin成分とに位相シフト電圧を印加する時間の和は2Δtとなり、直交二成分のサンプリング周期は、第1の実施形態及び第2の実施形態と同様となる。
δ及びδをどのように設定するかについては、周波数分解能をどの程度にするかのサンプリング条件、光位相シフト部9の位相シフト電圧を変化してから位相を実際に変化させるまでの応答時間及びプローブ光検出部12及び参照光検出部15からの電圧信号のサンプリングを行うA/D変換回路の動作周波数によって決定されることになる。
なお、上述したサンプリング条件(周波数掃引周期1S、直交二成分のデータ点数1000)において、cos成分からsin成分への切り替え時間を1/10以下に短縮することは市販の位相シフタと、A/D変換回路を用いて対応することが可能である。
【0120】
<第4の実施形態>
次に、第4の実施形態による波長分散測定装置の説明を行う。図5は第4の実施形態の構成例を示すブロック図である。第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、第1の実施形態と異なる構成について以下に説明する。
第1光ファイバ3と第2光ファイバ4との光路長差を解消する光遅延部8及び被測定光信号の位相をシフトする光位相シフト部9を用いる場合、第1の実施形態の場合には光遅延部8及び光位相シフト部9の各々を異なる光ファイバに接続している。
【0121】
図2に示す第1の実施形態の構成との対比から判るように、光遅延部8及び光位相シフト部9の各々を異なる光ファイバに設ける必要は無いため、第4の実施形態においては、光遅延部8及び光位相シフト部9とを合体させて一体化し、光遅延部8の光の伝搬を遅延させる機能と、光位相シフト部9の光の位相差をシフトさせる機能とを有する光遅延・光位相シフト部47を、第1光ファイバ3または第2光ファイバ4のいずれか一方に設ける構成としている。第1光ファイバ3または第2光ファイバ4のいずれか一方が他方より光路長が短い場合、一方に光遅延・光位相シフト部47設けて、他方に対する光路長差を補正する。これにより、光遅延部8及び光位相シフト部9とを一体化した光遅延・光位相シフト部47を用いて、第1の実施形態に比較して装置をより小型化することができる。
また、光遅延部8及び光位相シフト部9とを合体させて一体化することにより、光遅延部8と光位相シフト部9とを分離して同一の光ファイバに設ける場合に比較して、光ファイバに発生する残留反射光を低減することができる。このため、第1の実施形態において示した残留反射光の共振によるスペクトルリップルを、より低いレベルに抑制することができる。
【0122】
<第5の実施形態>
次に、第5の実施形態による波長分散測定装置の説明を行う。第5の実施形態による波長分散測定装置は、図2に示す第1の実施形態、あるいは図5に示す第4の実施形態のいずれの構成においても実施することが可能であり、以下図2を用いて説明する。
第5の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、第1の実施形態がプローブ光検出部12からの干渉信号であるプローブ信号と、参照光検出部15からの干渉信号である参照信号とのサンプリングを、cos成分及びsin成分の一対を同一の周波数掃引周期において時系列的行うのに対し、第5の実施形態においては、2つの周波数掃引周期を用いて、一方の周波数掃引周期においてcos成分のプローブ信号及び参照信号のサンプリングを行い、他方の周波数掃引周期においてsin成分のプローブ信号及び参照信号の干渉信号のサンプリングを行う構成としたことである。ここで、制御部16は、プローブ光検出部11から入力されるプローブ信号と、参照光検出部15から入力される参照信号とを、同一のタイミングで行う。このため、図6において、サンプリングのタイミングチャートは、プローブ信号及び参照信号双方が同様である。
【0123】
したがって、制御部16は、2つの周波数掃引周期において、光周波数掃引部10の出力するトリガ信号に同期して、cos成分を測定する周波数掃引周期の間、光位相シフト部9に対して位相シフト電圧Vを供給し、sin成分を測定する周波数掃引周期の間、光位相シフト部9に対して位相シフト電圧V90を供給する。ここで、cos成分及びsin成分のプローブ信号及び参照信号を検出する周波数掃引周期の長さは同一である。したがって、制御部12が光位相シフト部8に対し、位相シフト電圧Vを供給する期間と、位相シフト電圧V90を供給する期間とが、第1周期Δtとして同一である。
本実施形態の場合、上述したように、同一の位相シフト電圧が印加される第1周期Δtと、周波数掃引周期とは等しい。すなわち、Tl+1−T=Tl+2−Tl+1=Δtである。
【0124】
図6は、光周波数掃引部9の周波数掃引動作と、これに対応した光位相シフト部9の位相シフトの動作と、制御部16におけるプローブ光検出部12からのプローブ信号及び参照光検出部15からの参照信号のサンプリングとにおける動作のタイミングを示す波形図である。
図6(a)は、縦軸が電圧であり、横軸が時間であり、光周波数掃引部10の出力するトリガ信号の出力タイミングを示す図である。この図6(a)において、光周波数掃引部10から出力されるトリガ信号のHレベルおよびLレベルは、各々TTL制御に適合するように設定される。
【0125】
図6(b)は、縦軸が周波数であり、横軸が時間であり、光周波数掃引部10の掃引において出力する共振周波数の時間変化を示している。この図6(b)において、νは掃引開始の周波数(測定周波数の範囲における最低周波数)であり、νは掃引停止の周波数(測定周波数の範囲における最大周波数)である。
図6(c)は、縦軸が電圧であり、横軸が時間であり、光位相シフト部9に印加する位相差を第1周期で変化させる位相シフト電圧の波形を示す図である。位相シフト電圧Vは位相差を0度(cos成分検出モード)とする際の電圧であり、位相シフト電圧V90は位相差を90度(sin成分検出モード)とする際の電圧である。また、cos成分及びsin成分の位相シフト電圧を印加する時間は同一の周期、すなわち第1周期Δtである。本実施形態においては、周波数掃引周期(Tl+1−T、Tl+2−Tl+1)と、第1周期とが同一の長さとなっている。
【0126】
図6(d)は、縦軸が電圧であり、横軸が時間であり、制御部16が光検出部11からの干渉信号を、制御部16が周波数掃引周期毎に、cos成分及びsin成分のいずれかの干渉信号を受信するサンプリング周期のタイミングを示す図である。本実施形態においては、2つの周波数掃引周期において、cos成分を最初の周波数掃引周期、sin成分を後の周波数掃引周期でサンプリングし、同一周波数の干渉信号を一対の直交二成分のデータとしている。ここで、制御部16は、cos成分の干渉成分の周波数分解を行う周波数掃引周期と、sin成分の干渉成分の周波数分解を行う周波数掃引周期との各々において、同一の測定周波数(周波数分解能に対応させる)となる周期を、予め測定周期(サンプリング周期)として設定し、この設定した測定周期においてcos成分及びsin成分のサンプリングを行う。
図6(c)及び図6(d)については、第1周期を明確に記載するため、図6(a)及び図6(b)の横幅の時間スケールを拡大し、一部の時間範囲のみを示している。
【0127】
本実施形態においては、cos成分及びsin成分のプローブ信号及び参照信号各々を異なる周波数掃引周期において、同一サンプリング周期により測定するため、第1の実施形態のように、光位相シフト部9における位相差の相互切替に伴うことによる周波数変化が発生せず、cos成分及びsin成分の干渉信号を同一の周波数において得られ、測定されるスペクトル位相の変化分Δφ(ν)、Δφ(ν)の測定精度を向上させることができる。
しかしながら、第1光ファイバ3と第2光ファイバ4とが装置の振動に伴った微小伸縮を起こすことにより、周波数掃引毎に第1光ファイバ3と第2光ファイバ4との光路長差が変動し、第1光ファイバ3と第2光ファイバ4との位相差が0度あるいは90度から外れてしまう。この結果、cos成分及びsin成分の直交性が低下し、スペクトル位相の変化分Δφ(ν)、Δφ(ν)の測定精度を低下させることになる。このため、第1光ファイバ3と第2光ファイバ4との光路長が時間的に変化しないように、第1光ファイバ3及び第2光ファイバ4の振動に対する安定度を高める必要がある。
【0128】
<第6の実施形態>
次に、第6の実施形態による波長分散測定装置の説明を行う。第6の実施形態による波長分散測定装置は、第1の実施形態から第5の実施形態のいずれの構成においても実施することが可能であり、以下図2を用いて説明する。
第6の実施形態は、図2における光周波数掃引部10及び光周波数抽出部13に入射される合波被測定光信号の偏光方向を、光周波数掃引部10及び光周波数抽出部13におけるバンドパス光フィルタの偏光軸に一致する制御を行い、スペクトル分解特性を向上させる構成となっている。以下の説明において、第1の実施形態から第5の実施形態と異なる構成のみの説明を行う。
光周波数掃引部10及び光周波数抽出部13には、周波数に対する分解能を向上させるため、バンドパス周波数幅が狭く、フィネスが高いバンドパス光フィルタを用いる。
このバンドパス光フィルタの一例として、光ファイバ中にQ値の高い共振器を設けて構成された光素子がある。
【0129】
このように、バンドパス光フィルタ自身が光ファイバで構成されていると、すでに説明した実施形態1から実施形態5の波長分散測定装置の構成をさらに小型化かつ軽量化するのに有利となる。
一方、バンドパス光フィルタにおいて、偏波保持光ファイバを用いず、偏波非保持光ファイバ(以下、光ファイバ)を用いた場合、固定状態などにより光ファイバに対して歪が印加されると、入射する光の偏光方向に対して屈折率が異なる偏光依存性が発生する。この結果、バンドパス光フィルタにおいて、偏光方向によってバンドパス周波数幅が拡がったり、バンドパス周波数帯が単一でなく偏光方向に依存して複数存在するという問題が発生する。
【0130】
このバンドパス光フィルタに偏光依存性が発生する問題を解決するため、バンドパス光フィルタで構成された光周波数掃引部10及び光周波数抽出部13の前段に偏波コントローラを設け、入射する光の偏光方向がバンドパス光フィルタを構成する光ファイバの特定の偏光軸に一致するように調節し、偏光依存性を解消する構成とすればよい。ここでは、偏波コントローラは、入射される合波被測定光信号の偏光方向を、バンドパス光フィルタに用いる光ファイバのスロー軸に一致させるものとする。
図7に、入射する光の偏光方向がバンドパス光フィルタを構成する光ファイバの単一の偏光軸(例えば、スロー軸)に一致するように調節するための構成例を示す。図7における光ファイバ81は図2のプローブ経路結合用光ファイバ6に対応し、図7における84を光周波数掃引部とした場合は、図2の光周波数掃引部10に対応し、図7における光ファイバ85は偏波非保持光ファイバであり、図2のプローブ出射光ファイバ11に対応している。また、84を光周波数抽出部とした場合は、図2の光周波数抽出部13に対応し、図7における光ファイバ85は偏波非保持光ファイバであり、図2の参照出射光ファイバ14に対応している。
【0131】
本実施形態においては、偏光を制御する目的のため、図7の入射側の光ファイバ81及び接続光ファイバ83は偏波保持光ファイバとする。偏波コントローラ82は、入射端に対して光ファイバ81の出射端が接続され、出射端に接続光ファイバ83の入射端が接続されている。また、偏波コントローラ82は、光ファイバ81を介して入射される合波被測定光信号の偏光方向を光周波数掃引部84におけるバンドパス光フィルタを構成する光ファイバのスロー軸に一致させた後、接続光ファイバ83に対して出射する。
これにより、光周波数掃引部84(あるいは光周波数抽出部)は、接続光ファイバ83を介して、内部のバンドパス光フィルタを構成する光ファイバのスロー軸に偏光特性が一致した合波被測定光信号を光結合部5から入射する。
そして、84が光周波数掃引部の場合、光周波数掃引部84は、測定周波数の範囲においてバンドパス周波数幅を掃引することにより、合波被測定光信号を周波数分解して、成分被測定光信号として、光ファイバ85を介してプローブ光検出部12に対して出射する。
また、84が光周波数抽出部の場合、光周波数抽出部は、測定周波数の範囲においてバンドパス周波数幅を掃引することにより、合波被測定光信号の特定周波数の成分を抽出して、成分被測定光信号として、光ファイバ85を介して参照光検出部15に対して出射する。
【0132】
上述したように、偏波コントローラ82が合波被測定光信号の偏光方向を、光周波数掃引部84(あるいは光周波数抽出部)におけるバンドパス光フィルタを構成する光ファイバの偏光軸に合わせることにより、偏光方向によるスペクトル分解特性の劣化を防止することができ、周波数分解特性の精度を向上させることができる。
【0133】
なお、光周波数掃引部84(あるいは光周波数抽出部)におけるバンドパス光フィルタを構成する光ファイバが偏波保持光ファイバである場合、光ファイバ81を偏波保持光ファイバとすることにより、偏波コントローラ82を省略することができる。すなわち、入射側の光ファイバ81の偏光方向と、光周波数掃引部84(あるいは光周波数抽出部)におけるバンドパス光フィルタを構成する光ファイバとの偏光方向とを揃えて、直接に接続すればよい。
以上により、波長分散測定装置の全ての光の伝送経路を光ファイバベースとする光部品で構成する場合において、光周波数掃引部84(あるいは光周波数抽出部)における周波数分解(スペクトル分解特性)の精度の劣化を防止することができる。
【0134】
<第7の実施形態>
次に、第7の実施形態による波長分散測定装置の説明を行う。図8は、第1の実施形態から第6の実施形態のいずれかによる波長分散測定装置を用いて、光ファイバ伝送路を伝搬する光パルスの分散パラメータを測定する測定方法を説明する図である。この図において、波長分散測定装置66が、第1の実施形態から第6の実施形態のいずれかによる波長分散測定装置である。
モニタ用光分岐部62は、光ファイバ伝送路61の経路中において、波長分散を評価する位置に配置され、光ファイバ伝送路61に伝搬する光パルスを被測定信号として抽出し、モニタ用光ファイバ63を介して偏波コントローラ64へ出射する。
【0135】
このとき、モニタ用光分岐部62は、光ファイバ伝送路61における伝搬に影響を与えてしまう程に減衰させないように、光ファイバ伝送路61において伝搬する光パルスのパワーの一部を抽出する。本実施形態において、モニタ用光分岐部62は、光ファイバ伝送路61に伝搬される光パルスのパワーの一部、例えば10%を被測定光信号として、モニタ用光ファイバ63に分岐させる。すなわち、モニタ用光分岐部62の分岐によって、光ファイバ伝送路61を伝搬する光パルスと、モニタ用光ファイバ63を伝搬する被測定光信号とのパワー分岐比は9:1となる。モニタ用光ファイバ63には、例えば、標準分散の単一モード光ファイバを用いる。
【0136】
偏波コントローラ64は、被測定光信号の偏波状態を直線偏波とし、その偏光軸を入射用光ファイバ65(図2または図5の入射光ファイバ1)の偏光軸(例えば、スロー軸)に揃えた後に、入射用光ファイバ65に被測定光信号を出射する。
入射用光ファイバ65は、偏波保持光ファイバが用いられており、偏光軸が波長分散測定装置66内部の偏波保持光ファイバ(第1光ファイバ3、第2光ファイバ4)との偏光軸に揃える。
【0137】
以上により、本実施形態においては、光ファイバ伝送路61における波長分散を測定する際、実際に光ファイバ伝送路61を伝搬する光パルスを利用して波長分散の測定を行うため、従来のように専用の光源を用意し、この光源から測定用の光パルスを光ファイバ伝送路61の入射端から入射し、光ファイバ伝送路61の出射端から出力される測定用の光パルスを取り出し、この測定用の光パルスを取り出して波長分散の測定を行う必要が無くなる。
光ファイバ伝送路61の全体における波長分散の測定だけでなく、光ファイバ伝送路61の任意の位置にて、その位置までの距離の波長分散を測定することができ、波長分散の測定位置の自由度を向上させることができる。
また、空間光学系を用いていないため、装置自体が小型化でき、装置を携帯して任意の光ファイパ伝送路の任意の個所において、情報を伝送する役割を担って伝搬する光パルスを用い、この光パルスをモニタするため、特に測定用の光源を必要とすることなく、微小周波数シフトに対するスペクトル位相の変化分Δφ(ν)、Δφ(ν)を測定することにより、光ファイバ伝送路61の波長分散を評価することができる。
【0138】
<第8の実施形態>
次に、第8の実施形態による波長分散測定装置の説明を行う。図9は、第1の実施形態から第6の実施形態のいずれかによる波長分散測定装置を用いて、光部品を伝搬する光パルスの分散パラメータを測定する測定方法を説明する図である。この図において、波長分散測定装置78が、第1の実施形態から第6の実施形態のいずれかによる波長分散測定装置である。
本実施形態において、被測定対象の光部品の波長分散を測定する際、測定用の特別な光源を用意するのではなく、通常、情報伝達のために伝送する光パルスを光ファイバ伝送路に出力する光送信機を、光源71として用いる。このように、光源71は光ファイバ伝送路に用いられる光源であり、本実施形態においては、干渉信号を光パルスに変換する光トランシーバを用いる。光源71は、入射用光ファイバ72に対して光パルスを被測定光信号として出射する。
【0139】
入射用光ファイバ72は、被測定対象74としての光部品が配置される光ファイバ伝送路に用いられるのと同様の光ファイバにより構成する。この入射用光ファイバ72には、入射光制御部73が介挿されている。
入射光制御部73は、入射用光ファイバ72を伝搬する被測定光信号のパワー及び偏光状態を制御し、入射用光ファイバ72を介して、制御後の被測定光信号を被測定対象74の入射端に対して出射する。
被測定光信号のパワーを制御することにより、被測定対象74における波長分散のパワー依存性、すなわち波長分散の程度とパワーとの関係を測定して評価することができる。また、被測定光信号の偏光状態を制御することにより、波長分散の偏光状態依存性、すなわち偏光状態と波長分散の程度との関係を測定して評価することができる。
【0140】
被測定対象74は、出射端に出射用光ファイバ75の一端が接続され、入射端から入射された被測定光信号を出射端から出射用光ファイバ75に対して出射する。
出射用光ファイバ75は、被測定対象74としての光部品が配置される光ファイバ伝送路に用いられるのと同様の光ファイバにより構成する。
偏波コントローラ76は、入射端に出射用光ファイバ75の他端が接続され、被測定対象74からの被測定光信号が入射される。また、偏波コントローラ76は、出射端に入射用光ファイバ77の一端が接続されている。この入射用光ファイバ77は、偏波保持光ファイバが用いられており、偏光軸が波長分散測定装置78内部の偏波保持光ファイバ(第1光ファイバ3、第2光ファイバ4)との偏光軸に揃える。
【0141】
偏波コントローラ76は、被測定光信号の偏波状態を直線偏波とし、その偏光軸を入射用光ファイバ77(図2または図5の入射光ファイバ1)の偏光軸(例えば、スロー軸)に揃えた後に、入射用光ファイバ77に被測定光信号を出射する。
また、被測定対象74としては反射型の光部品であっても良い。反射型の光部品である場合、被測定対象74における入射端と出射端とは同一となり、被測定対象74への入射用光ファイバ72と、被測定対象74からの出射用光ファイバ75とはサーキュレータを介して接続することになる。
【0142】
上述のように、空間光学系を使用せずに、装置を小型化することができ、装置を携帯していずれの場所においても、被測定対象とする光部品内を伝搬した光信号を被測定光信号とし、微小周波数シフトに対するスペクトル位相の変化分Δφ(ν)、Δφ(ν)を測定することにより、実際に光部品内を伝搬する光パルスを用いて測定対象とする光部品の波長分散を評価することができる。
【0143】
以上、この発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0144】
1…入射光ファイバ、 2…光分岐部、 3…第1光ファイバ、 4…第2光ファイバ、 5…光結合部、 6…プローブ経路結合用光ファイバ、 7…参照経路結合用光ファイバ、 8…光遅延部、 9…光位相シフト部、 10,84…光周波数掃引部、 11…プローブ出射光ファイバ、 12…プローブ光検出部、 13…光周波数抽出部、 14…参照出射光ファイバ、 15…参照光検出部、 16…制御部、 17…位相制御線、 18…掃引周波数制御線、 19…参照周波数制御線、 20…プローブ検出信号線、 21…参照検出信号線、 47…光遅延・光位相シフト部、 61…光ファイバ伝送路、 62…モニタ用光分岐部、63…モニタ用光ファイバ、 64,76,82…偏波コントローラ、 65,72,77…入射用光ファイバ、 66,78…波長分散測定装置、 71…光源、 73…入射光制御部、 74…被測定対象、 75…出射用光ファイバ、 81,85…光ファイバ、 83…接続光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象から入射される被測定光信号を伝搬する、偏波保持特性を有する光ファイバで構成された入射経路と、
前記入射経路に接続された第1入射端から被測定光信号を入射し、該第1の入射端から入射される被測定光信号を第1被測定光信号及び第2被測定光信号の2つに分離し、前記第1被測定光信号を第1出射端から出射し、また前記第1の被測定光信号に対し偏光方向が同一の前記第2被測定光信号を第2出射端から出射し、かつ出射する際に前記第1被測定光信号及び前記第2被測定光信号の間に周波数差を発生させる光分岐部と、
前記第1出射端に接続され、前記第1被測定光信号を伝搬させ、偏波保持特性を有する光ファイバで構成された第1分岐経路と、
前記第2出射端に接続され、前記第2被測定光信号を伝搬させ、偏波保持特性を有する光ファイバで構成された第2分岐経路と、
前記第1分岐経路及び前記第2分岐経路のいずれか一方に設けられ、設けられた分岐経路を伝搬する光測定光信号の位相を0度と90度との2値にて交互に変化させる光位相シフタと、
前記第1分岐経路に接続された第2入射端から入射される前記第1被測定光信号と、前記第2分岐経路に接続された第3入射端から入射される前記第2被測定光信号とを合波し、前記第1被測定光信号と前記第2被測定光信号との干渉により得られる、前記光位相シフタが自身の設けられた分岐経路の測定光信号及び他方の分岐経路の測定光信号間の位相差を0度とした場合における第1光成分の干渉要素、また前記光位相シフタが自身の設けられた分岐経路の測定光信号及び他方の分岐経路の測定光信号間の位相差を90度とした場合における第2光成分の干渉要素を、第3出射端から第1合波被測定光信号とし、第4出射端から第2合波被測定光信号として、出射する光合波部と、
前記第3出射端に接続され、前記第1合波被測定光信号を伝搬させる光ファイバで構成されたプローブ結合用経路と、
前記第4出射端に接続され、前記第2合波被測定光信号を伝搬させる光ファイバで構成された参照結合用経路と、
前記プローブ結合用経路に接続された第4入射端から前記第1合波被測定光信号を入射し、前記第1合波被測定光信号を通過させる周波数範囲を掃引し、前記第1合波被測定光信号から前記周波数範囲のスペクトル成分を抽出する周波数分解を行い、周波数分解の結果を成分被測定光信号として第5出射端から出射する光周波数掃引部と、
前記参照結合用経路に接続された第5入射端から前記第2合波被測定光信号を入射し、前記第2合波被測定光信号を通過させる周波数範囲を掃引し、前記第2合波被測定光信号から前記周波数範囲内の固定された特定周波数のスペクトル成分を抽出し、抽出した結果を参照光信号として第6出射端から出射する光周波数抽出部と、
前記第5出射端に接続され、前記成分被測定光信号を伝搬させる光ファイバで構成されたプローブ出射光経路と、
前記第6出射端に接続され、前記参照光信号を伝搬させる光ファイバで構成された参照出射光経路と、
前記プローブ出射光経路に接続された第6の入射端から前記成分被測定光信号を入射し、該成分被測定光信号を電気信号に変換し、変換結果をプローブ信号とするプローブ光検出部と、
前記参照出射光経路に接続された第7の入射端から前記参照光信号を入射し、該参照光信号を電気信号に変換し、変換結果を参照信号とする参照光検出部と、
前記光位相シフタの位相の変化に同期させ、前記第1光成分及び前記第2光成分のプローブ信号と、前記第1光成分及び前記第2光成分の参照信号との各々を時系列に取得し、参照信号から求めたスペクトル位相を基準とし、プローブ信号から求めたスペクトル位相を差分測定して波長分散を求める制御部と、
を有することを特徴とする波長分散測定装置。
【請求項2】
前記第1分岐経路及び前記第2分岐経路のいずれか一方に設けられ、前記第1分岐経路と前記第2分岐経路との光路長差を調節する光遅延部をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の波長分散測定装置。
【請求項3】
前記第1分岐経路及び前記第2分岐経路のいずれか一方に前記光遅延部が設けられ、前記光位相シフタが他方に設けられることを特徴とする請求項2に記載の波長分散測定装置。
【請求項4】
前記第1分岐経路及び前記第2分岐経路のいずれか一方に、前記光遅延部及び光位相シフタが一体化して設けられていることを特徴とする請求項2に記載の波長分散測定装置。
【請求項5】
前記制御部が、前記第1光成分の前記プローブ信号及び前記参照信号を受信する第1受信部と、前記第2光成分の前記プローブ信号及び前記参照信号を受信する第2受信部とを有していることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の波長分散測定装置。
【請求項6】
前記制御部が、測定範囲における測定周波数の掃引毎に、測定単位として前記プローブ信号及び前記参照信号毎に前記第1光成分及び前記第2光成分をデータ対として時系列に取得することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の波長分散測定装置。
【請求項7】
前記プローブ信号及び前記参照信号毎に前記データ対を構成する前記第1光成分及び前記第2光成分において、先に測定される偏光成分の位相の変化を行う時間を、後に測定される偏光成分へ位相の変化を行う時間に対して短く設定することを特徴とする請求項6に記載の波長分散測定装置。
【請求項8】
前記制御部が、前記測定範囲における測定周波数の掃引において、一回の掃引において、前記第1光成分または前記第2光成分のいずれか一方のみの前記プローブ信号及び前記参照信号を取得する処理を、前記第1光成分及び前記第2光成分に対して交互に繰り返して行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の波長分散測定装置。
【請求項9】
前記プローブ結合用経路を偏波保持特性を有する光ファイバで構成し、前記プローブ結合用経路の後段に、前記第1合波被測定光信号の偏光方向を制御する第1偏波コントローラを挿入し、前記第1偏波コントローラと前記光周波数掃引部との間を偏波保持特性を有する光ファイバにより接続し、また前記参照結合用経路を偏波保持特性を有する光ファイバで構成し、前記参照結合用経路の後段に、前記第2合波被測定光信号の偏光方向を制御する第2偏波コントローラを挿入し、前記第2偏波コントローラと前記光周波数抽出部との間を偏波保持特性を有する光ファイバにより接続していることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の波長分散測定装置。
【請求項10】
前記請求項1から請求項9のいずれかの波長分散測定装置を用いて、測定対象の波長分散を求める波長分散測定方法であって、
前記測定対象である光伝送路の波長分散を評価する部分に分岐部を設け、偏波制御部が該分岐部より得られる被測定光信号の偏波を直線偏波に制御し、前記波長分散測定装置内を伝搬する偏光軸に揃え、該波長分散測定装置に前記入射経路を介して被測定光信号を入射させ、前記第1光成分及び前記第2光成分の前記参照信号から求めたスペクトル位相の変化分を基準とし、前記第1光成分及び前記第2光成分の前記プローブ信号から求めたスペクトル位相の変化分を差分測定することで被測定光信号のスペクトル位相の変化分を求め、前記測定対象における波長分散を評価することを特徴とする波長分散測定方法。
【請求項11】
前記請求項1から請求項9のいずれかの波長分散測定装置を用いて、測定対象の波長分散を求める波長分散測定方法であって、
波長分散を評価する前記測定対象の入射端に対し、偏波制御を行った光信号を入射させ、該測定対象の出射端から出射する被測定光信号の偏波を直線偏波に制御し、前記波長分散測定装置内を伝搬する偏光軸に揃え、該波長分散測定装置に前記入射経路を介して被測定光信号を入射させ、前記第1光成分及び前記第2光成分の前記参照信号から求めたスペクトル位相の変化分を基準とし、前記第1光成分及び前記第2光成分の前記プローブ信号から求めたスペクトル位相の変化分を差分測定することで被測定光信号のスペクトル位相の変化分を求め、前記測定対象における波長分散を評価することを特徴とする波長分散測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−106984(P2011−106984A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262844(P2009−262844)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)