説明

注射器

【課題】
プランジャーロッドを前記ピストンに螺合させる際に過度の前記螺合を防止することができるプレフィルドタイプの注射器を提供する。
【解決手段】
使用に際してプランジャーロッド11をピストン12に螺合させる注射器であって、ピストン12には、後端面側から、めねじ穴121が穿設されるとともに、プランジャーロッド11の先端円板基台111には、高さがめねじ穴121の深さよりも低いおねじ112が立設されてなり、螺合に際し、ピストン121の後端面側とプランジャーロッド11の先端の円板基台111とが接触したときに、めねじ穴121の底面とおねじ112の先端との間に空隙が形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用に際してプランジャーロッドを前記ピストンに螺合させる注射器に関し、特に、前記プランジャーロッドを前記ピストンに螺合させる際に過度の前記螺合を防止することができる前記注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
図11(A)に示すように、従来、プレフィルドタイプの注射針付注射器9では、シリンジ91内に薬液Mが予め充填されており、当該薬液Mはピストン92により封止されている。ピストン92とプランジャーロッド93とは、別体に構成されており、使用に際して、ピストン92の後端側の穴921に形成されためねじFSに、プランジャーロッド93の先端側の基台931に形成されたおねじMSを螺合させて両者を一体化させる。
【0003】
図11(B)に示すように、おねじMSの高さHは、めねじFSが形成された穴921の深さDよりも大きいか、図11(C)に示すように、おねじMSの高さHは、めねじFSが形成された穴921の深さDと同一である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図11(B)の場合(おねじMSの高さHが、めねじFSが形成された穴921の深さDよりも大きい場合)には、図12(A)に示すように、螺合が完了したとしても(すなわち、おねじMSの先端が穴921の底面に到達したとしても)、基台931の表面とピストン92の後端面との間にすき間Kが生じてしまう。操作者(医師・看護士等)は、このすき間Kがあることから、螺合が完了していないと判断することがあり、プランジャーロッド93を過度にピストン92にねじ込む傾向が強くなる。
【0005】
このねじ込みを過度に行うと、おねじMSのねじ山がめねじFSのねじ山を乗り越えようとし、結果として図12(B)に示すようにピストン92が径方向に膨出しようとする。このため、ピストン92は、シリンジ91の壁面を圧迫する力pにより円滑な動作ができなくなるという問題がある。
【0006】
図11(C)の場合(おねじMSの高さHが、めねじFSが形成された穴921の深さDと同一である場合)には、螺合が完了したときに、基台931の表面とピストン92の後端面との間にすき間は生じない。操作者(医師・看護士等)は、螺号の回転抵抗とすき間の有無により螺合が完了したか否かを判断するので、プランジャーロッド93を過度にピストン92にねじ込む事態は生じにくい。しかし、ゴム製ピストンのような弾性材料よりなる製品を高精度に安定して生産することは一般に困難である。よって、寸法のばらつきにより上記した図11(B)の場合と同様に、螺合完了時にも基台931の表面とピストン92の後端面との間に隙間Kが生じてしまうことがある。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するために提案されたものであって、使用に際してプランジャーロッドをピストンに螺合させる注射器において、当該螺合の際に過度の前記螺合を防止することができる前記注射器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の注射器は、(1)から(3)を要旨とする。
(1) 使用に際してプランジャーロッドをピストンに螺合させる注射器であって、
前記ピストンには、後端面側から、めねじ穴が穿設されるとともに、
前記プランジャーロッドの先端の柱端または円板基台には、高さが前記めねじ穴の深さよりも低いおねじが立設されてなり、
前記螺合に際し、前記ピストンの後端面側と前記プランジャーロッドの先端の柱端または円板基台とが接触したときに、前記めねじ穴の底面と前記おねじの先端との間に空隙が形成される、
ことを特徴とする注射器。
【0009】
本発明では、操作者がプランジャーロッドをピストンに螺合させるに際して、ピストンの後端面側とプランジャーロッドの先端の柱端または円板基台とが接触したときに、最初の操作抵抗を感じる。この時点では、めねじ穴の底面とおねじの先端との間に空隙が生じているが、操作者がさらに螺合を進めると、おねじとめねじ穴のねじ山同士が完全に乗り上げる前に、おねじの先端がめねじ穴の底面に到達し、これにより第2の操作抵抗を感じる。
【0010】
δが小さすぎると、最初の操作抵抗と第2の操作抵抗との抵抗の区別がつかなくなる。
δが大きすぎると、おねじとめねじ穴のねじ山同士が完全に乗り上げた状態となり、この結果シリンジの壁面を圧迫する力が大きくなり、ピストンの摺動抵抗が増す。
δの大きさが適正であれば最初の操作抵抗と第2の操作抵抗との抵抗の区別がつくし、山同士は完全に乗り上げることはないので、ねじ込み操作を止めた時点で、おねじとめねじ穴のねじ山同士の乗り上げ状態は元の状態に近づくように戻る。
【0011】
すなわち、めねじ穴の底面とおねじの先端との間に形成される空隙の大きさの下限は、最初の操作抵抗と第2の操作抵抗との抵抗の区別がつく大きさであり、ねじ山ピッチの1/12ないし1/8であることが好ましい。また、めねじ穴の底面とおねじの先端との間に形成される空隙の大きさの上限は、おねじとめねじ穴のねじ山同士が完全に乗り上げないような大きさであり、ねじ山ピッチの1/2ないし3/8程度である)。
(2) 前記ピストンの後端部の径が、前記柱端の径または前記円板基台の径よりも小さく形成され、前記柱端または前記円板基台が平坦であることを特徴とする(1)に記載の注射器。
【0012】
(3) 前記ピストンの後端部の径が、前記柱端の径または前記円板基台の径よりも小さく形成され、前記柱端または前記円板基台の周囲には、前記ピストンの後端部の径方向への膨出を阻止するための壁が立設されていることを特徴とする(1)に記載の注射器。
【0013】
この壁により、プランジャーロッドを過度にピストンにねじ込もうとした場合において、ピストンの後端部分は圧縮され当該後端部は径方向に膨出しようとしても、当該膨出は抑制されるので、ピストンのめねじをプランジャーロッドのおねじが乗り越えるための抵抗が大きくなり、過度のねじ込みが抑制される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の注射器では、操作者が最初の操作抵抗を感じた時点でこれらの間にすき間が生じていないことを目視できるので、プランジャーロッドをピストンに螺合させる際に過度の螺合を防止することができるし、操作者が最初の操作抵抗に気づかずにさらに螺合を進めた場合でも、第2の操作抵抗が生じるので、過度にねじ込みが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明が適用される注射器の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の第1実施形態を示す説明図であり、(A)は注射器のプランジャーロッドとピストンとを示す説明図、(B)は(A)のA−A断面図である。
【図3】第1実施形態の作用を示す図であり、(A)はプランジャーロッドのおねじの高さと、ピストンのめねじ穴の深さとの関係を示す図であり、(B)はめねじ穴の底面とおねじの先端との間に空隙が形成された様子を示す図、(C)はおねじのねじ山が、めねじのねじ山を乗り越えようとして、ピストンにひずみが生じる様子を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態を示す説明図であり、(A)は注射器のプランジャーロッドとピストンとを示す説明図、(B)は(A)のA−A断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態を示す説明図であり、(A)は注射器のプランジャーロッドとピストンとを示す説明図、(B)は(A)のA−A断面図である。
【図6】第3実施形態で使用される切り欠き部が形成されている壁が立設した円板基台を示す斜視図である。
【図7】第3実施形態の作用を示す図であり、(A)はプランジャーロッドのおねじの高さと、ピストンのめねじ穴の深さとの関係を示す図であり、(B)はめねじ穴の底面とおねじの先端との間に空隙が形成された様子を示す図、(C)はおねじのねじ山が、めねじのねじ山を乗り越えようとして、ピストンにひずみが生じる様子を示す図である。
【図8】本発明の第4実施形態を示す説明図であり、(A)は注射器のプランジャーロッドとピストンとを示す説明図、(B)は(A)のA−A断面図である。
【図9】第4実施形態で使用される壁が立設した円板基台を示す斜視図である。
【図10】第4実施形態の作用を示す図であり、(A)はプランジャーロッドのおねじの高さと、ピストンのめねじ穴の深さとの関係を示す図であり、(B)はめねじ穴の底面とおねじの先端との間に空隙が形成された様子を示す図、(C)はおねじのねじ山が、めねじのねじ山を乗り越えようとして、ピストンにひずみが生じる様子を示す図である。
【図11】(A)は従来のプレフィルドタイプの注射器を示す図、(B)はおねじの高さがめねじが形成された穴の深さよりも大きい場合を示す図、(C)はおねじMSの高さHがめねじが形成された穴の深さと同一の場合を示す図である。
【図12】(A)基台の表面とピストンの後端面との間にすき間が生じる様子を示す図、(B)は過度のねじ込みによりピストンが径方向に膨出しようとし、ピストンがシリンジの壁面を圧迫する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、使用に際し、プランジャーロッドをピストンに螺合させる方式の注射器であって、螺合状態が目視できる注射器に適用される。
【0017】
図1は本発明が適用される注射器の一例を示す説明図であり、プレフィルドタイプの注射器の構成例を示す図である。図1の注射器1では、シリンジ13内に薬液Mがピストン12(以下の実施形態では、ピストン12の後端部はやや後ろすぼみとなっている)により封止されている。シリンジ13先端の注射針取り付け部131にキャップ15が装着されている。使用に際し、キャップ15を取り除き、注射針14を装着するとともに、プランジャーロッド11をピストン12に螺合させる。
【0018】
プランジャーロッド11はポリエチレン、ポリプロピレン、耐放射線性ポリプロピレン等により形成される。また、ピストン12は表面が合成樹脂(フッ素系ポリマー(PTFE,ETFE)等)によりラミネートされた、合成ゴム(もしくは適宜の熱可塑性エラストマー)により成型される。
【0019】
図2(A),(B)は本発明の第1実施形態を示す説明図であり、(A)は注射器のプランジャーロッド11とピストン12とを示す説明図、(B)は(A)のA−A断面図である。
プランジャーロッド11の先端には平坦な円板基台111が形成され、円板基台111には、おねじ112が立設されている。プランジャーロッド11の(長手部113)は、断面が全体で十字をなす4枚の板状リブにより構成されており(図2(B)参照)、プランジャーロッド11の後端には操作フランジ114が形成されている。また、ピストン12には後端面側からめねじ穴121が穿設されている。ピストン12の後端部の径は、円板基台111の径よりも小さく形成されている。
【0020】
図3(A)は、プランジャーロッド11のおねじ112の高さMHと、ピストン12のめねじ穴121の深さFDとの関係を示す図である。おねじ112の高さMHは、ピストン12のめねじ穴121の深さFDよりも低く形成されている。図3(A)では、深さFDと高さMHとの差をδ(=FD−MH)で示してあり、
すなわち、プランジャーロッド11をピストン12にねじ込むと、ピストン12の後端面側とプランジャーロッド11の先端の円板基台とが接触するが、このときに、図3(B)に示すように、めねじ穴121の底面とおねじ112の先端との間に空隙CB(高さδ)が形成される。
【0021】
操作者が、プランジャーロッド11をピストン12にねじ込むと、ピストン12の後端面側とプランジャーロッド11の先端の円板基台とが接触する。このときに、プランジャーロッド11をピストン12にねじ込むときの負荷が急増し、操作者は操作抵抗(以下、「第1次操作抵抗」と言う)を感じる。
操作者は、この時点で、プランジャーロッド11とピストン12との螺合が完了したことを感じることができる。通常、プランジャーロッド11の先端とピストン12の後端との間Sにすき間がないことを目視により確認し、ねじ込み操作を終了する。
ところが、たとえば、注射器が非常に小さい場合や、注射に緊急を要するような場合等、状況によっては、第1次操作抵抗があるにもかかわらず、操作者が第1次操作抵抗を認識できない(実質上、感じることができない)ことがある。
また、操作者は、第1次操作抵抗を感じたとしてもさらなる確認のためにねじ込み操作を継続する場合がある。
【0022】
ねじ込みが進むと、図3(C)に示すように、おねじ112のねじ山が、めねじ122のねじ山を乗り越えようとして、ピストン12にひずみが生じる。本実施形態では、ピストン12に生じるひずみ(変形)は空隙CBに吸収されるので、ピストン12の径方向への膨出を低減(ないし防止)することができ、ピストン12が摺動しにくくなるといった不都合は生じない。多くの場合、操作者は、この時点でねじ込み操作を終了する。
さらに、操作者がねじ込みを継続する場合もある。この場合には、おねじ112の先端がめねじ穴121の底面に到達する。これにより、操作者は操作抵抗(以下、「第2次操作抵抗」と言う)を感じるので、螺合が完了したことを確信し、ねじ込み操作を終了する。
【0023】
δが小さすぎると、第1次操作抵抗と第2次操作抵抗との時間間隔が短くなり、これらの区別がつかなくなる。
δが大きすぎると、おねじMSとめねじFSのねじ山同士が完全に乗り上げた状態となり、この結果シリンジの壁面を圧迫する力が大きくなり、ピストンの摺動抵抗が増す。
δの大きさが適正であれば最初の操作抵抗と第2の操作抵抗との抵抗の区別がつくし、山同士は完全に乗り上げることはないので、ねじ込み操作を止めた時点で、おねじMSとめねじFSのねじ山同士の乗り上げ状態は元の状態に近づくように戻る。
すなわち、δの下限は、最初の操作抵抗と第2の操作抵抗との抵抗の区別がつく大きさであり、ねじ山ピッチpの1/12ないし1/8であることが好ましい。また、δの上限は、おねじとめねじ穴のねじ山同士が完全に乗り上げないような大きさであり、ねじ山ピッチpの1/2ないし3/8程度(具体的には2/5,4/9,3/7,2/5等)である。
なお、めねじ穴121の底面、おねじ112の先端が平坦な場合を説明したが、これらの面を曲面に構成することができる。
【0024】
図4(A),(B)は本発明の第2実施形態を示す説明図であり、(A)は注射器のプランジャーロッド11とピストン12とを示す説明図、(B)は(A)のA−A断面図である。
第2実施形態では、ピストンの後端部の径が、第1実施形態よりも縮径され、同部分がシリンジ内壁との間により大きな空隙を生じている以外は、図2の第1実施形態と構成はほぼ同じである。なお、図4においてはプランジャーロッド11が柱端が平坦な円柱により構成されている例を示したが、プランジャーロッドの形態の他の例を示したものであり、図2の第1実施形態に示したプランジャーロッドと置き換えても本発明の作用効果に影響を与えるものではない。また、第2実施形態では、プランジャーロッド11とピストン12とを螺合させる際の、作用・効果は第1実施形態と同じである。すなわち、操作者はねじ込みにしたがって第1次操作抵抗を感じ、この時点で、プランジャーロッド11の先端とピストン12の後端との間Sにすき間がないことを目視により確認できる。
【0025】
しがたって、過度のねじ込みが生じることはない。また、操作者がねじ込みを継続したために、おねじ112のねじ山が、めねじ122のねじ山を乗り越えようとして、ピストン12にひずみが生じたとしても、このひずみはピストン後端側の縮径により生じたピストンとシリンジ内壁との間の空隙や空隙CBに吸収されるので、ピストン12が摺動しにくくなるといった不都合は生じない。
さらに、ねじ込み操作を継続した場合には、第2次操作抵抗が生じるので、過度のねじ込みを確実に防止することができる。
【0026】
図5(A),(B)は本発明の第3実施形態を示す説明図であり、(A)は注射器のプランジャーロッド11とピストン12とを示す説明図、(B)は(A)のA−A断面図である。
第3実施形態では、後述するように、円板基台(111a)の周囲に切り欠き部CTを有する壁WLaが設けられている以外は、図4の第2実施形態と構成はほぼ同じである。すなわち、図5(A),(B)に参照されるように、プランジャーロッド11の先端には、欠き部CTを有する壁WLaが設けられた円板基台111aが形成され、円板基台111aには、おねじ112が立設されている。プランジャーロッド11の(長手部113)は、断面が全体で十字をなす4枚の板状リブにより構成されており、プランジャーロッド11の後端には操作フランジ114が形成されている。また、ピストン12には後端面側からめねじ穴121が穿設されている。
【0027】
第3実施形態では、プランジャーロッド11の先端には、ピストン21の後端部の径方向への膨出を阻止するための壁WLが立設された円板基台111aが形成されている。この円板基台111aは、図6の斜視図にも示すように、壁WLには4つの切り欠き部CTが形成されている。本実施形態では、切り欠き部CTは中心角45°を持ち、90°間隔で壁WLaの4か所に形成されている。
【0028】
図7(A)に示すように、本実施形態では、ピストン12の後端部の径D2が、円板基台111aの径D1よりも小さく形成されている。また、第1実施形態と同様、おねじ112の高さMHは、ピストン12のめねじ穴121の深さFDよりも低く形成されている。めねじ121の深さFDとおねじ112の高さMHとの差をδ(=FD−MH)で示してある。
【0029】
プランジャーロッド11をピストン12にねじ込むと、ピストン12の後端面側とプランジャーロッド11の先端の円板基台とが接触するが、このときに、第1実施形態の場合と同様、図7(B)に示すように、めねじ穴121の底面とおねじ112の先端との間に空隙(高さδ)が形成される。
【0030】
本実施形態でも、δの下限は、最初の操作抵抗と第2の操作抵抗との抵抗の区別がつく大きさであり、ねじ山ピッチpの1/12ないし1/8であることが好ましい。また、δの上限は、おねじとめねじ穴のねじ山同士が完全に乗り上げないような大きさであり、ねじ山ピッチpの1/2ないし3/8程度(具体的には2/5,4/9,3/7,2/5等)である。操作者が、プランジャーロッド11をピストン12にねじ込むと、ピストン12の後端面側とプランジャーロッド11の先端の円板基台とが接触したときには、操作者は第1次操作抵抗を感じる。そして、操作者は、この時点で、プランジャーロッド11とピストン12との螺合が完了したかもしれないことを感じることができ、通常、プランジャーロッド11の先端とピストン12の後端との間Sにすき間がないことを、壁WLに形成した切り欠き部CTを目視して確認し、ねじ込み操作を終了する。
【0031】
操作者は、第1次操作抵抗を感じたとしてもさらなる確認のためにねじ込み操作を継続した場合、図7(C)に示すように、おねじ112のねじ山が、めねじ122のねじ山を乗り越えようとして、ピストン12にひずみが生じる。本実施形態では、ピストン12に生じるひずみ(変形)が生じても、空隙CBに吸収されるし、ピストン12の後端の径方向への膨出は、壁WLaにより阻止される。したがって、ピストン12が摺動しにくくなるといった不都合は生じない。また、膨出が阻止されることにより、第1次操作抵抗後のねじ込み抵抗が増加し、操作者は第1次操作抵抗を寄り強く感じることともなる。多くの場合、操作者は、この時点でねじ込み操作を終了する。
さらに操作者がねじ込み操作を継続すると、おねじ112の先端がめねじ穴121の底面に到達する。これにより、操作者は第2次操作抵抗を感じるので、螺合が完了したことを確信し、ねじ込み操作を終了する。
【0032】
図8(A),(B)は本発明の第4実施形態を示す説明図であり、(A)は注射器のプランジャーロッド11とピストン12とを示す説明図、(B)は(A)のA−A断面図である。
本実施形態では、第3実施形態の注射器に使用された、切り欠き部CTを有する壁WLaが立設された円板基台111aに代えて、切り欠き部を有さない壁WLbが立設され円板基台111bが使用される。本実施形態で使用される円板基台111bの斜視図を図9に示す。
【0033】
図10(A)に、プランジャーロッド11の先端の円板基台111bに形成されたおねじ112の高さMHと、めねじ122に形成されためねじ穴121との関係を示す。
プランジャーロッド11をピストン12にねじ込むと、ピストン12の後端面側とプランジャーロッド11の先端の円板基台とが接触する。このとき、図10(B)に示すように、めねじ穴121の底面とおねじ112の先端との間に空隙(高さδ)が形成される。
【0034】
本実施形態でも、δの下限は、最初の操作抵抗と第2の操作抵抗との抵抗の区別がつく大きさであり、ねじ山ピッチpの1/12ないし1/8であることが好ましい。また、δの上限は、おねじとめねじ穴のねじ山同士が完全に乗り上げないような大きさであり、ねじ山ピッチpの1/2ないし3/8程度(具体的には2/5,4/9,3/7,2/5等)である。操作者が、プランジャーロッド11をピストン12にねじ込むと、ピストン12の後端面側とプランジャーロッド11の先端の円板基台とが接触したときには、操作者は第1次操作抵抗を感じる。そして、操作者は、この時点で、プランジャーロッド11とピストン12との螺合が完了したであろうことを感じることができる。
【0035】
操作者は、第1次操作抵抗を感じたとしてもさらなる確認のためにねじ込み操作を継続した場合、図10(C)に示すように、おねじ112のねじ山が、めねじ122のねじ山を乗り越えようとして、ピストン12にひずみが生じる。
本実施形態でも、第3実施形態と同様、ピストン12に生じるひずみ(変形)が生じても、空隙CBに吸収されるし、ピストン12の後端の径方向への膨出は、壁WLにより阻止される。したがって、ピストン12が摺動しにくくなるといった不都合は生じない。また、膨出が阻止されることにより、第1次操作抵抗後のねじ込み抵抗が増加し、操作者は第1次操作抵抗を寄り強く感じることともなる。多くの場合、操作者は、この時点でねじ込み操作を終了する。
さらに操作者がねじ込み操作を継続すると、おねじ112の先端がめねじ穴121の底面に到達する。これにより、操作者は第2次操作抵抗を感じるので、螺合が完了したことを確信し、ねじ込み操作を終了する。
【符号の説明】
【0036】
1 注射器
11 プランジャーロッド
12 ピストン
13 シリンジ
14 注射針
15 キャップ
111 円板基台
111a 切り欠き部を有する壁が設けられた円板基台
111b 切り欠き部を有さない壁が設けられた円板基台
112 おねじ
113 長手部
114 操作フランジ
121 めねじ穴
131 注射針取り付け部
CB 空隙
CT 切り欠き部
M 薬液
WLa 切り欠き部を有する壁
WLb 切り欠き部を有さない壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用に際してプランジャーロッドをピストンに螺合させる注射器であって、
前記ピストンには、後端面側から、めねじ穴が穿設されるとともに、
前記プランジャーロッドの先端の柱端または円板基台には、高さが前記めねじ穴の深さよりも低いおねじが立設されてなり、
前記螺合に際し、前記ピストンの後端面側と前記プランジャーロッドの先端の柱端または円板基台とが接触したときに、前記めねじ穴の底面と前記おねじの先端との間に、下限が前記めねじ穴またはおねじのねじ山ピッチpの1/12ないし1/8、上限が最大ねじ山ピッチpの3/7ないし1/2の空隙が形成されている、
ことを特徴とする注射器。
【請求項2】
前記ピストンの後端部の径が、前記柱端の径または前記円板基台の径よりも小さく形成され、シリンジ内壁との間に空隙を有することを特徴とする請求項1に記載の注射器。
【請求項3】
前記ピストンの後端部の径が、前記柱端の径または前記円板基台の径よりも小さく形成され、前記柱端または前記円板基台の周囲には、前記ピストンの後端部の径方向への膨出を阻止するための壁が立設されていることを特徴とする請求項1に記載の注射器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−55851(P2011−55851A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205378(P2009−205378)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000149000)株式会社大協精工 (31)
【Fターム(参考)】