説明

注射用ペプチド含有組成物

【課題】スギ花粉症の予防又は治療剤として有用なエピトープポリペプチドを含む注射用組成物であって、エピトープポリペプチドの安定性に優れ、かつ溶状を向上させた注射用組成物を提供すること。
【解決手段】(1)Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩、(2)糖類および(3)界面活性剤を含有し、当該ポリペプチド又はその塩と当該界面活性剤との重量比が1:0.001〜1:0.2である注射用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射用ペプチド含有組成物、具体的にはスギ花粉症の予防又は治療剤として有用なCryj1又はCryj2由来のエピトープを含有するポリペプチドを含む注射用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スギ花粉症は、スギ花粉をアレルゲンとする即時型アレルギー疾患である。その治療法として、従来からスギ花粉アレルゲン抽出液を繰り返し投与する減感作療法が行なわれているが、さらに近年では、スギ花粉の主要アレルゲンタンパク質Cryj1またはCryj2に由来するT細胞エピトープペプチドの混合物を用いた療法(特許文献1)や、Cryj1またはCryj2に由来する複数のT細胞エピトープペプチドを含有する多重T細胞エピトープポリペプチドを用いる減感作療法(特許文献2)が考案されている。
ところで、一般に、ポリペプチドを含有する注射用組成物においては、安定化剤として種々の糖類を添加することが行なわれている(特許文献3)。
しかしながら、Cryj1又はCryj2由来のエピトープを含有するポリペプチドにおいては、高濃度(例えば、20g/L)のポリペプチドを安定化するに十分な量の糖類を注射用組成物に加えると、注射用組成物の溶状が悪くなる(濁る)という問題があった。
【0003】
従って、安定性に優れかつ溶状を向上させた、Cryj1又はCryj2由来のエピトープを含有するポリペプチドの注射用組成物の開発が望まれている。
【0004】
【特許文献1】国際公開第94/01560号パンフレット
【特許文献2】国際公開第97/32600号パンフレット
【特許文献3】特開2003−95975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安定性に優れかつ溶状を向上させた、Cryj1又はCryj2由来のエピトープを含有するポリペプチド(以下、「(本発明で用いられる)エピトープポリペプチド」又は単に「(本発明で用いられる)ポリペプチド」ということもある)の注射用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、本発明で用いられるエピトープポリペプチドの安定性に優れ、かつ溶状を向上させた注射用組成物を得るべく鋭意検討した。その結果、本発明者らは、エピトープポリペプチド又はその塩および糖類を含有する注射用組成物に界面活性剤を所定量で添加することにより、当該ポリペプチドの安定性および組成物の溶状を改善できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
[1](1)Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩、(2)糖類および(3)界面活性剤を含有し、当該ポリペプチド又はその塩と当該界面活性剤との重量比が1:0.001〜1:0.2である注射用組成物;
[2]前記Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩が、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を有する多重T細胞エピトープポリペプチド又はその塩である上記[1]記載の組成物;
[3]Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩と界面活性剤との重量比が1:0.005〜1:0.04である上記[1]記載の組成物;
[4]界面活性剤が非イオン性界面活性剤である上記[1]記載の組成物;
[5]非イオン性界面活性剤がポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60およびポリソルベート80からなる群から選択される上記[4]記載の組成物;
[6]非イオン性界面活性剤がポリソルベート80である上記[5]記載の組成物;
[7]Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩と糖類との重量比が1:5〜1:1000である上記[1]記載の組成物;
[8]Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩と糖類との重量比が1:10〜1:300である上記[7]記載の組成物;
[9]糖類が二糖類である上記[1]記載の組成物;
[10]二糖類がショ糖である上記[9]記載の組成物;
[11]Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩がその酢酸塩である上記[1]記載の組成物;
[12]さらに酸を含む上記[1]記載の組成物;
[13]酸が酢酸および塩酸である上記[12]記載の組成物;
[14]凍結乾燥剤である上記[1]記載の組成物;
[15]液剤である上記[1]記載の組成物;
[16]注射時のpHが4〜5である上記[14]又は[15]記載の組成物;
[17]注射時のCryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩の濃度が0.05〜60mg/mLである上記[14]又は[15]記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安定性に優れかつ溶状を向上させた、Cryj1又はCryj2由来のエピトープを含有するポリペプチド(以下、「エピトープポリペプチド」又は単に「ポリペプチド」ということもある)の注射用組成物スギ花粉症の予防又は治療剤として有用なCryj1又はCryj2由来のエピトープを含有するポリペプチド(以下、「エピトープポリペプチド」又は単に「ポリペプチド」ということもある)を含む注射用組成物であって、当該エピトープポリペプチドの安定性に優れ、かつ溶状を向上させた注射用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
本明細書中において、エピトープポリペプチド又はその塩の「安定性」とは、エピトープポリペプチド又はその塩を含む注射用組成物中で、当該エピトープポリペプチド又はその塩が、含量(活性)低下や凝集が少なく安定に存在することを示す。
【0010】
また、本明細書中において、「溶状」とは、注射用組成物を目視にて観察したときの溶状を意味する。注射用組成物が澄明に近くなるほど溶状がより良好であると判断し、組成物の濁度が高いほど、溶状がより不良であると判断する。注射用組成物が液剤である場合は、「溶状」は、注射用組成物をそのまま又は用時注射用水あるいは輸液(例えば、生理食塩水、ブドウ糖液等)で希釈した後に観察した溶状を意味し、一方、注射用組成物が凍結乾燥剤である場合は、「溶状」は用時に用時注射用水あるいは輸液(例えば、生理食塩水、ブドウ糖液等)に溶解した後の溶状を意味する。
【0011】
以下、本発明の注射用組成物の各成分について詳細に説明する。
【0012】
(1)Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩
本発明の注射用組成物は、Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩を含有する。
Cryj1およびCryj2は、上記のとおり、公知のスギ花粉のアレルゲンタンパク質である(Sone,T.et al.: Biochem.Biophys.Res.Commun.,199:619-625,1994; Yasuda, H. et al.: J. Allergy Clin. Immunol. 71: 77-86, 1983; Taini, M. et al.: FEBS Letter 239: 329-332, 1998; Sakaguchi, M. et al.: Allergy. 45: 309-132, 1990; WO94/01560; Komiyama, N. et al. : Biochem. Biophys. Res. Commun. 201: 1201, 1994)。
また、それらのエピトープは多くの文献(Tamura, Y. et al.: Clin. Exp. Allergy. 33(2): 211-217, 2003; Sakaguchi, M. et al.: Vet. Immunol. Immunopathol. 78(1):35-43, 2001; Tamura, Y et al.: Int. Arch. Allergy Immunol. 123(3):228-35, 2000; Sone, T. et al: J. Immunol. 161(1):448-457, 1998; Sakaguchi, M. et al.: Immunology. 91(2):161-166, 1997; Hashiguchi, S. et al.: Allergy 51(9):621-632, 1996; Hashiguchi, S. et al.: Nippon Rinsho. 54(8):2233-2242, 1996; WO97/32600など)に記載され、公知である。上記エピトープとしては、例えば、これらに記載されたエピトープが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ここで、エピトープの類似体とは、エピトープ活性を有し、アミノ酸配列において、Cryj1又はCryj2由来のエピトープと70%以上(好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上)の相同性を有するペプチドをいう。アミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。
本発明の注射用組成物に用いられる「Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープを含有するポリペプチド」としては、例えば上記で例示したエピトープまたはその類似体を1又は2以上(好ましくは、5〜7)を含有するポリペプチドが好ましい。当該ポリペプチドとしては、Cryj1由来の1又は2以上のエピトープまたはその誘導体およびCryj2由来の1又は2以上のエピトープまたはその誘導体を含有するポリペプチドが好ましい。
なかでも好ましくは、配列表の配列番号:1で表されるアミノ酸配列を有する多重T細胞エピトープポリペプチドである。
【0013】
上記エピトープポリペプチドは、化学合成あるいは遺伝子組換え技術により生産できる。本発明で用いられるエピトープポリペプチドの化学合成は、市販のペプチド合成機を用いて容易に行うことができる。または、ペプチドの受注合成を利用してもよい。最近では、100個以上のアミノ酸残基からなる長鎖のポリペプチドも化学合成されている。例えば、ヘパリン結合性の成長因子であり121個のアミノ酸残基からなるミッドカイン(midkine)が化学合成された(Inui,T.et al.:J.Peptide Sci.,2:28−39,1996)。従って、本発明で用いられるエピトープポリペプチドも、同様にして化学合成することができる。
【0014】
一方、公知の遺伝子組換え技術、例えば国際公開第97/32600号パンフレットまたは特開2003−95975号公報に記載の方法に従い、本発明で用いられるエピトープポリペプチドを生産することもできる。
【0015】
本発明で用いられるエピトープポリペプチドの塩としては、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)、有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)等との塩が挙げられる。中でも、酢酸との塩が好ましい。
【0016】
上記の方法で生産された、本発明で用いられるエピトープポリペプチドは、フリー体で得られる場合と塩の形で得られる場合があるが、両者は公知の方法で、容易に相互に変換することができる。
例えば、特開2003−95975号公報に記載の方法に従い、本発明で用いられる配列番号:1で表されるアミノ酸配列を有する多重T細胞エピトープポリペプチドを生産した場合、多重T細胞エピトープポリペプチドの酢酸塩と遊離形態の酢酸との混合物が得られる。本発明の注射用組成物には、かかる混合物をそのまま用いてもよい。
【0017】
なお、本発明の注射用組成物には、そのpHを調整するため、さらに酸を添加してもよい。本発明の注射用組成物にさらに添加してもよい酸としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)、有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)等から選択される1種又は複数種の酸が挙げられる。なかでも塩酸が好ましい。これらの酸の量は特に限定されず、注射用組成物のpHを所定範囲に調整し得る量で当該注射用組成物に添加すればよい。
【0018】
1つの実施態様では、本発明の注射用組成物は、酸として酢酸および塩酸を含む。例えば、酢酸を塩および/又は遊離形態で含む精製エピトープポリペプチドと、後述する糖類と、後述する界面活性剤とを水に溶解し、ここにpH調整のために塩酸を適量添加してpHが調整された注射用組成物を調製すると、当該組成物は、精製エピトープポリペプチドに由来する酢酸と添加した塩酸とを共に含むことになる。
【0019】
本発明の注射用組成物のpHは、後述するように、注射時にその溶液のpHが4〜5であればよく、通常時のpHは特に限定されない。しかし、注射用組成物のアルカリ性が強いとエピトープポリペプチド又はその塩が不安定になり、一方、注射用組成物の酸性が強いと、注射時の皮膚刺激を増大する可能性があり好ましくない。従って、注射用組成物の通常時のpHは、通常pH4〜5、好ましくはpH4.5付近である。
【0020】
(2)糖類
本発明の注射用組成物には、主として当該組成物中でのエピトープポリペプチド又はその塩の安定性を向上させるため、糖類を添加する。当該糖類は、本発明の注射用組成物におけるエピトープポリペプチド又はその塩に安定性を与え、かつ溶状に悪影響を及ぼさないものであればいかなるものでもよく、例えば、単糖類(例えば、グルコース、エリトロース、キシルロース、リブロース、セドヘプツロース、リボース、マンノースおよびそれらの糖アルコール(ソルビトール、リビトール、マンニトール等)等)又は二糖類(例えば、麦芽糖、セロビオース、ゲンチオビオース、メリビオース、乳糖、ツラノース、ソロホース、トレハロース、イソトレハロース、ショ糖、イソサッカロース等)が挙げられる。当該糖類は単独で用いてもよいが、2種以上の混合物として用いてもよい。なかでも、ショ糖を用いることが好ましい。
【0021】
上記エピトープポリペプチド又はその塩に対する糖類の重量は、エピトープポリペプチド又はその塩の安定性の観点からは、5倍量以上が好ましく、更に好ましくは10倍量以上である。一方、溶状の観点からは1000倍量以下が好ましく、更に好ましくは300倍量以下、特に好ましくは50倍量以下である。すなわち、上記糖類は、上記エピトープポリペプチド又はその塩と糖類との重量比が、通常1:5〜1:1000、好ましくは1:10〜1:300、更に好ましくは1:10〜1:50となるように、注射用組成物中に添加される。
【0022】
(3)界面活性剤
本発明の注射用組成物には、溶状の改善を目的として、界面活性剤を添加する。界面活性剤を添加することにより、溶状が向上し、注射用組成物においてより多量のエピトープポリペプチド又はその塩を溶解させることが可能となる。同時に、注射用組成物において、安定化剤としての糖類の量を増加させることが可能となるため、注射用組成物中でエピトープポリペプチド又はその塩をさらに安定化させることも可能となる。
【0023】
上記界面活性剤としては、本発明の注射用組成物におけるエピトープポリペプチド又はその塩の安定性および溶状に悪影響を及ぼさないものであればいかなるものも用いることができるが、例えば、カチオン性界面活性剤(塩化ベンゼトニウム等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80等)等が挙げられる。本発明の注射用組成物において、界面活性剤は好ましくはポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60およびポリソルベート80からなる群から選択される非イオン性界面活性剤であり、より好ましくはポリソルベート80である。
【0024】
上記エピトープポリペプチド又はその塩に対する界面活性剤の重量は、溶状の観点からは、0.001倍量以上が好ましく、更に好ましくは0.005倍量以上である。一方、上記エピトープポリペプチド又はその塩の安定性の観点からは0.2倍量以下が好ましく、更に好ましくは0.04倍量以下である。すなわち、上記エピトープポリペプチド又はその塩と当該界面活性剤との重量比が、好ましくは1:0.001〜1:0.2であり、更に好ましくは1:0.005〜1:0.04である。
【0025】
本発明の注射用組成物は、そのまま又は用時注射用水あるいは輸液(例えば、生理食塩水、ブドウ糖液等)で希釈して注射に用いることができる液剤形態のものであってもよいし、あるいは用時に用時注射用水あるいは輸液(例えば、生理食塩水、ブドウ糖液等)に溶解して用いる凍結乾燥剤形態のものであってもよい。しかしながら、長期間にわたってエピトープポリペプチド又はその塩の変質を抑制しかつ安定に保つことができる等の観点から、凍結乾燥剤の形態を有することが好ましい。
【0026】
本発明の注射用組成物は、その形態に応じて、公知の方法で製造することができる。
例えば、上記エピトープポリペプチド、糖類および界面活性剤を水又は適当な水性溶媒(例えば、水とアルコールの混合物)に溶解して水性液を調製し、所望により酸を添加して水性液のpHを調整し、さらに、フィルター(例えば、孔径0.22μmの除菌フィルター)等を用いて除菌濾過することにより、無菌の液剤を得ることができる。
【0027】
本発明の注射用組成物が凍結乾燥剤の剤形である場合、上記液剤を凍結乾燥して固体状とすることにより、凍結乾燥剤を得ることができる。また凍結乾燥剤中の酸化体等の不純物生成を抑制するため、容器内へ窒素ガス等を封入してもよい。
【0028】
上記液剤又は凍結乾燥剤の調製における水性液の調製は、自体公知の方法に従って、エピトープポリペプチド又はその塩、糖類および界面活性剤を水又は水性溶媒(たとえば、水とアルコールの混合物)に溶解し、必要に応じて酸を添加してpHを調整すればよい。エピトープポリペプチド又はその塩、糖類および界面活性剤を溶解させる順序は特に限定されない。
【0029】
さらに、浸透圧を調節するため、上記水性液に等張化剤を配合してもよい。当該等張化剤としては、例えばグルコース等の単糖類、マンニトール等の糖アルコール類、食塩等の塩類等の等張化剤として公知のものが挙げられる。
【0030】
上記液剤又は凍結乾燥剤の調製において、水性液中におけるエピトープポリペプチド又はその塩の濃度は、通常0.01mg/mL〜10mg/mLであり、糖類の濃度は、通常0.05mg/mL〜100mg/mLであり、界面活性剤の濃度は、通常0.0001mg/mL〜2mg/mLである。しかしながら、得られる注射用組成物においてエピトープポリペプチド又はその塩、糖類および界面活性剤の含有量が上記(2)および(3)で述べた範囲を有するならば、上記調製における水性液中での各成分の濃度は上記範囲内に限定されない。
【0031】
本発明の液剤又は凍結乾燥剤は、例えば、皮下注射用組成物をはじめとして、静脈注射用組成物、筋肉注射用組成物、点滴注射用組成物、無針注射用組成物等の種々の注射用組成物として用いることができる。この場合、注射時のエピトープポリペプチド又はその塩の注射用組成物中の濃度(凍結乾燥剤の場合は、再溶解濃度)は、通常約0.05mg/mL〜60mg/mL、好ましくは約0.25mg/mL〜20mg/mLである。
本発明の液剤又は凍結乾燥剤は、界面活性剤を上記(3)で説明した所定量で含むので、エピトープポリペプチド又はその塩を上記範囲の量で含み、かつ上記(2)で説明した当該エピトープポリペプチド又はその塩を安定化させるために必要な量の糖類を含んでいても、濁りが観察されず良好な溶状を示す。
【0032】
本発明の凍結乾燥剤を用時に溶解して注射に用いる場合、公知の、例えば濾過滅菌等の無菌調製法により上記水性液を調製するのが好ましい。また本発明の凍結乾燥剤を調製する前に、糖類および界面活性剤、又は糖類、界面活性剤および必要に応じてその他の添加物との混合物を、予め脱パイロジェン処理等の除菌処理を施してから用いることもできる。
【0033】
本発明の凍結乾燥剤を用時に溶解して注射に用いる際のpH又は本発明の液剤を直接又は希釈して注射に用いる際のpHは、皮膚への刺激を低減するという観点から、中性付近が好ましく、具体的にはpH4〜5であることが好ましい。
【0034】
本発明の注射用組成物は、例えば、凍結乾燥注射剤、溶液注射剤として、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、腹腔内等に成人1回当たり約1ng〜100mgの範囲で選ばれる量を、毎週1〜2回程度約1〜12ヶ月間注射することによって、減感作の目的を達成することができる。
【0035】
さらに、本発明の注射用組成物は、スギ花粉症の予防剤又は治療剤のみならず、ヒノキ花粉症の予防剤又は治療剤としても有利に使用できる。
【0036】
本発明の注射用組成物は、単剤として優れたスギ花粉の予防剤又は治療剤およびヒノキ花粉症の予防剤又は治療剤として有効な作用を示すが、さらに他の医薬成分(以下、併用薬物と略記する)と併用(多剤併用)することもできる。
【0037】
このような併用薬物としては、例えば、ケミカルメディエーター遊離抑制剤(例えば、クロモグリク酸ナトリウム(インタール)、トラニラスト(リザベン)、アンレキサノクス(ソルファ)、ペミロラストカリウム(アレギサール)等)、ケミカルメディエーター受容体拮抗薬(例えば、(1)d−マレイン酸クロルフェニラミン(ポララミン)、フマル酸クレマスチン(タベジール)、フマル酸ケトチフェン(ザジデン)、塩酸アゼラスチン(アゼプチン)、オキサトミド(セルテクト)、メキタジン(ゼスラン、ニポラジン)、フマル酸エメダスチン(ダレン、レミカット)、塩酸セチリジン(ジルテック)、塩酸レボカバスチン(リボスチン)、フェキソフェナジン(アレグラ)、塩酸オロパタジン(アレロック)等の抗ヒスタミン薬、(2)ラマトバン(バイナス)等のトロンボキサンA2拮抗薬、(3)プランルカスト水和物(オノン)等のロイコトリエン拮抗薬等)、Th2サイトカイン抑制薬(例えば、トシル酸スプラタスト(アイピーディー)等)、ステロイド薬(例えば、(1)プロピオン酸ベクロメタゾン(ベコナーゼ、アルデシン、リノコート)、フルニソリド(シナクリン)、プロピオン酸フルチカゾン(フルナーゼ)等の局所ステロイド薬、(2)セレスタミン(マレイン酸クロルフェニラミン配合剤)等の経口ステロイド薬等)、自律神経作用薬(例えば、(1)硝酸ナファゾリン(プリビナ)、硝酸テトラヒドロゾリン(ナーベル)、塩酸オキシメタゾリン(ナシビン)、塩酸トラマゾリン(トーク)等のα刺激薬、(2)臭化イプラトロピウム(アトロベント)、臭化フルトピウム(フルブロン)等の抗コリン薬等)、生物製剤(例えば、ノイロトロピン、アストレメジン、MSアンチゲン等)等が挙げられる。
【0038】
本発明の注射用組成物と併用薬物との併用に際しては、本発明の注射用組成物と併用薬物の投与時期は限定されず、本発明の注射用組成物と併用薬物とを、投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。併用薬物の投与量は、臨床上用いられている投与量に準ずればよく、投与対象、投与ルート、疾患、組み合わせ等により適宜選択することができる。
【0039】
本発明の注射用組成物と併用薬物の投与形態は、特に限定されず、投与時に、本発明の注射用組成物と併用薬物とが組み合わされていればよい。このような投与形態としては、例えば、(1)本発明の注射用組成物と併用薬物とを同時に製剤化して得られる単一の製剤の投与、(2)本発明の注射用組成物と併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、(3)本発明の注射用組成物と併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、(4)本発明の注射用組成物と併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、(5)本発明の注射用組成物と併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与(例えば、本発明の注射用組成物→併用薬物の順序での投与、あるいは逆の順序での投与)等が挙げられる。以下、これらの投与形態をまとめて併用剤と略記する。
【0040】
上記併用剤は毒性が低く、例えば、本発明の注射用組成物および/又は上記併用薬物を自体公知の方法又は上述の方法に従って、注射用の凍結乾燥剤又は液剤に調製し、これを上述の方法で安全に注射することができる。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明を実施例、試験例および実験例により説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
【0042】
実施例1〜4および比較例1〜2において、特開2003−095975号公報に記載の方法に従って製造した配列番号:1で表されるアミノ酸配列を有する多重エピトープポリペプチドの凍結乾燥粉末を用いて、注射用組成物を調製した。エピトープポリペプチドはフリー体換算した。
【0043】
[実施例1]注射用組成物(凍結乾燥剤)の調製
エピトープポリペプチドの凍結乾燥粉末(5mg(フリー体換算))、糖類として精製白糖(25mg)および界面活性剤としてポリソルベート80(0.1mg)を含有する水溶液(化合物濃度:5mg/mL)を調製し、塩酸によりpHを調整したのち、除菌濾過により得られた水溶液1mLをバイアルに分注、ゴム栓を半施栓後、凍結乾燥を行った。凍結乾燥終了後、バイアル空間部を窒素ガスで置換した後、ゴム栓を施栓、キャップで巻締することにより、本発明の注射用組成物(凍結乾燥剤)を作製した。
【0044】
[実施例2]注射用組成物(凍結乾燥剤)の調製
エピトープポリペプチドの凍結乾燥粉末(2mg(フリー体換算))、糖類として精製白糖(20mg)および界面活性剤としてポリソルベート80(0.02mg)を含有する水溶液(化合物濃度:2mg/mL)を調製し、これを実施例1と同様の方法で本発明の注射用組成物(凍結乾燥剤)とした。
【0045】
[実施例3]注射用組成物(凍結乾燥剤)の調製
エピトープポリペプチドの凍結乾燥粉末(0.5mg(フリー体換算))、糖類として精製白糖(20mg)および界面活性剤としてポリソルベート80(0.005mg)を含有する水溶液(化合物濃度:0.5mg/mL)を調製し、これを実施例1と同様の方法で本発明の注射用組成物(凍結乾燥剤)とした。
【0046】
[実施例4]注射用組成物(凍結乾燥剤)の調製
エピトープポリペプチドの凍結乾燥粉末(0.5mg(フリー体換算))、糖類として精製白糖(20mg)および界面活性剤としてポリソルベート80(0.02mg)を含有する水溶液(化合物濃度:0.5mg/mL)を調製し、これを実施例1と同様の方法で本発明の注射用組成物(凍結乾燥剤)とした。
【0047】
[比較例1]注射用組成物(凍結乾燥剤)の調製
エピトープポリペプチドの凍結乾燥粉末(5mg(フリー体換算))および糖類として精製白糖(25mg)を含有する水溶液(化合物濃度:5mg/mL)を調製し、界面活性剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、注射用組成物(凍結乾燥剤)を得た。
【0048】
[比較例2]注射用組成物(凍結乾燥剤)の調製
エピトープポリペプチドの凍結乾燥粉末(0.5mg(フリー体換算))および糖類として精製白糖(20mg)を含有する水溶液(化合物濃度:0.5mg/mL)を調製し、界面活性剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、注射用組成物(凍結乾燥剤)を得た。
【0049】
[試験例1]エピトープポリペプチドを含む注射用組成物の安定性評価
1.安定性保存
各試料(実施例3および4)を40℃で2ヶ月、4ヶ月および6ヶ月保存した。
2.測定条件
2.1.類縁タンパク質
1バイアルに水0.25mLを加え試料溶液とした。
試料溶液50μLにつき、次の条件で液体クロマトグラフ法により試験を行い、面積百分率により類縁物質量を算出した。
[試験条件]
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:215nm)
カラム:CAPCELL PAK18,SG300Å5μm,4.6mmi.d.×15cm(資生堂)
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:A液)水/1mol/Lリン酸・100mmol/L過塩素酸ナトリウム混液(9:1)
B液)アセトニトリル/1mol/Lリン酸・100mmol/L過塩素酸ナトリウム混液(9:1)
グラジェントプログラム(リニア)を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
流量:ポリペプチドの保持時間が約19分付近になるように調整する(通常約1.0mL/min)。
【0052】
2.2.重合体
1バイアルに水0.25mLを加え試料溶液とした。試料溶液20μLにつき、次の条件で液体クロマトグラフ法により試験を行い、面積百分率により総重合体量を求めた。
[試験条件]
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:215nm)
カラム:TSK−GEL G4000SWXL,7.8mmi.d.×30cm
(東ソー社製)
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸混液(600:400:1)
流量:ポリペプチドの保持時間が約18分付近になるように調整する(通常約0.5mL/min)。
【0053】
2.3.含量
2バイアルを水で溶解し10mLに正確に希釈し、試料溶液とした。また、ポリペプチド標準物質1バイアルを水で溶解し50mLに正確に希釈し標準溶液とした。試料溶液および標準溶液50μLにつき、次の条件で液体クロマトグラフ法により試験を行い、次式よりエピトープポリペプチドの含量を算出した。
[計算式]
含量(%)=(At/As)×(Ws/Wt)×10
At:試料溶液のポリペプチドピーク面積値
As:試料溶液のポリペプチドピーク面積値
Ws:ポリペプチド標準物質のポリペプチド含量値(mg/vial)
Wt:試料の成分量(mg)
ポリペプチド含量Ws=Wp×(1−0.01×F)
Wp:ポリペプチド標準物質の総タンパク質含量(mg)
F:ポリペプチド標準物質の総類縁タンパク質含量(%)
[試験条件]
2.1.類縁タンパク質の[試験条件](液体クロマトグラム法)と同じ。
【0054】
[実験例1]注射用組成物の溶状
上記実施例1〜4ならびに比較例1および2で得られた各注射用組成物(凍結乾燥剤)を水に再溶解したときの溶状を、目視にて観察した。ここで、実施例1および比較例1の注射用組成物は0.1mLの5%ブドウ糖注射液に再溶解し、実施例2〜4および比較例2の注射用組成物は0.2mLの5%ブドウ糖注射液に再溶解したときの溶状をそれぞれ判断した。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
[結果]
上記結果より明らかなように、実施例1〜4の注射用組成物の溶状はいずれも澄明であった一方、比較例1および2の注射用組成物では濁りが観察された。特に、実施例1と比較例1との比較では、エピトープポリペプチド酢酸塩1に対して界面活性剤を0.02の重量比で含む実施例1の注射用組成物は優れた溶状(澄明)を示したのに対し、界面活性剤を全く含まない比較例1の注射用組成物では混濁が観察された。また、比較例2と実施例3とを比較すると、エピトープポリペプチド酢酸塩1に対して界面活性剤を0.01の重量比で含む実施例3の注射用組成物では、混濁が観察された比較例2とは逆に、優れた溶状(澄明)が観察された。
以上より、本発明の注射用組成物は優れた溶状を示すことが明らかとなった。
【0057】
[実験例2]安定性試験
上記実施例3および4で得られた各注射用組成物を、40℃で2ヶ月、4ヶ月および6ヶ月保存した。製剤の含量残存率、類縁タンパク質および重合体を上述の試験例1に記載の方法により調べた。また、各保存期間後における注射用組成物の溶状を、実験例1と同様の方法で評価した。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
上記より明らかなように、本発明の注射用組成物は、長期間にわたって保存してもエピトープポリペプチドの安定性を損なうことなく、かつ組成物の優れた溶状を長期間にわたって維持することが可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩、(2)糖類および(3)界面活性剤を含有し、当該ポリペプチド又はその塩と当該界面活性剤との重量比が1:0.001〜1:0.2である注射用組成物。
【請求項2】
前記Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩が、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を有する多重T細胞エピトープポリペプチド又はその塩である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩と界面活性剤との重量比が1:0.005〜1:0.04である請求項1記載の組成物。
【請求項4】
界面活性剤が非イオン性界面活性剤である請求項1記載の組成物。
【請求項5】
非イオン性界面活性剤がポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60およびポリソルベート80からなる群から選択される請求項4記載の組成物。
【請求項6】
非イオン性界面活性剤がポリソルベート80である請求項5記載の組成物。
【請求項7】
Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩と糖類との重量比が1:5〜1:1000である請求項1記載の組成物。
【請求項8】
Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩と糖類との重量比が1:10〜1:300である請求項7記載の組成物。
【請求項9】
糖類が二糖類である請求項1記載の組成物。
【請求項10】
二糖類がショ糖である請求項9記載の組成物。
【請求項11】
Cryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩がその酢酸塩である請求項1記載の組成物。
【請求項12】
さらに酸を含む請求項1記載の組成物。
【請求項13】
酸が酢酸および塩酸である請求項12記載の組成物。
【請求項14】
凍結乾燥剤である請求項1記載の組成物。
【請求項15】
液剤である請求項1記載の組成物。
【請求項16】
注射時のpHが4〜5である請求項14又は15記載の組成物。
【請求項17】
注射時のCryj1又はCryj2由来の1又は2以上のエピトープ又はその類似体を含有するポリペプチド又はその塩の濃度が0.05〜60mg/mLである請求項14又は15記載の組成物。


【公開番号】特開2006−45162(P2006−45162A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231572(P2004−231572)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】