説明

注視安定化システムの機能障害の孤立および定量

被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための方法が提供される。被験体の静的視力を測定して、評価を獲得する。次いで、被験体の頭部が動いており、かつ、表示対象物が固定されている場合の被験体の視力が測定して、第1の動的測定値を獲得する。被験体の頭部が固定され、かつ、表示対象物が動いている場合の被験体の視力をまた測定して、第2の動的測定値を獲得する。次いで、評価、ならびに、第1の動的測定値および第2の動的測定値を用いて、被験体の注視安定化システムの機能障害を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注視安定化(gaze stabilization)、より具体的には、被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量することに関する。
【背景技術】
【0002】
慢性的な平衡障害を有する被験体において、薬物および外科手術に基づいた医学的処置のためのアプローチは、障害を引き起こす病理学的プロセスを安定化させることにおいて有効であり得る。このような被験体において、これらのアプローチは、平衡の問題の根底にある病理学的徴候を、時折安定化させ得るが、完全に解決することはほとんどない。しかし、一旦、根底にある病理学的プロセスが医学的に安定になると、リハビリテーション運動は、頻繁に、慢性的な平衡障害に関連する無能症状(disabling symptom)および機能的な問題の多くを減少させることに有効であることが分かる。従って、慢性的な平衡障害の有効な処置は、代表的に、医学と、リハビリテーション運動の処置との組み合わせを用いる。
【0003】
根底にある病理学的プロセスを最も安定化させる可能性のある医学的処置を選択する際、臨床医は、まず、根底にある病理学的プロセスの位置、性質および程度を決定する。病理学的な決定をなすために、臨床医は、代表的に、診断上の仮説を立てるために、被験体の病歴および理学的検査の結果に依存し、次いで、病巣部位の臨床検査を用いて、その仮説を確実なものとするか、または、あり得ないとする。有効なリハビリテーション運動のプログラムを設計する際、臨床医は、被験体の機能的な障害、および適応応答能力に関するさらなる情報(knowledge)を必要とする。この理由のために、平衡障害に関する機能的な障害を孤立させ、そして、定量する、他覚的な試験が、病巣部位の検査により提供される情報を補完し、そして、有効な処置計画および結果の文書化のために必須の臨床的情報を完成させる。
【0004】
平衡システムの機能的な障害を孤立させ、そして定量するための方法およびデバイスを開発するために、まず、平衡システムの機能的な組織化を理解することが必要である。平衡システムは、別個であるが、相互依存性のシステムに分類され得る多数のプロセスを包含し、このプロセスのうち、あるものは、注視安定化を担い、またあるものは、姿勢安定化を担う。注視安定化システムは、周囲の視覚的標的に対して眼の注視方向を維持する。なぜならば、被験体は、自身の環境内で積極的に動くからである。人間が動く間に、注視の方向を安定化させることにより、積極的な頭部および身体の動きに関与している間、その視力を維持する。注視安定化が損なわれた個体が、自身の動き、および周囲の動く対象物に関する活動に関与している場合、動く対象物はぼやけて見え得るが、静止した対象物もぼやけ、そして、時折動いているように見え得る。
【0005】
注視安定化の詳細な議論は、非特許文献1(第3章 How Does the Vestibulo−ocular Reflex Work?、および第6章 How Does the Visual System Interact with the Vestibulo−ocular Reflex?、これらは共に、本明細書中に参考として援用される)に見られ得る。要約すると、注視安定化システムは、以下の4つの運動部分系統(subsystem)の協働的な相互作用から、周囲の視覚的対象物に向けて眼を方向付ける:
1)前庭眼反射(VOR)システム。VORは、頭部の回転と等しい方向および反対の方向に眼を反射的に回転させるために、前庭のシステム内の角速度センサ(骨半規管と呼ばれる)からの感覚的な入力に頼る、高速に作動するシステムである。これらの眼の運動は、骨半規管のレセプターを眼の筋肉に連結する、比較的直接的な脳幹経路により媒介される。従って、VOR運動は、高速であり、そして、対象物の位置についての視覚的な情報を必要とすることなく、2.0Hzまでの周波数において、頭部の動きを補正し得る。VOR運動は、内耳にある頭部速度センサによって制御されるので、VOR運動は、0.1Hz未満の回転周波数においては無効である。さらに、VORは、横揺れ軸の周りでの頭部の動き(すなわち、水平面における中心の左右への頭部の動き)に対向することにおいて最も正確であり、そして、ピッチ軸の動き(すなわち、垂直面における上下の動き)にはあまり正確ではない。
【0006】
2)円滑追跡眼球運動システム(smooth pursuit eye movement system)。この円滑追跡眼球運動システムは、個体に、そのビジュアルサラウンド(visual surround)内の別個の動く対象物に対して注視するように方向付けさせることが可能である。この注視安定化システムは、選択された対象物からの視覚的な位置情報に依存する。この運動は、VORよりも有意に遅い。なぜならば、視覚的なフィードバック情報は、視覚野内の画像処理に関与する複雑な経路により媒介されるからである。VORとは対照的に、円滑追跡システムは、頭部の動きの最も低い周波数において有効であり、そして、あらゆる方向の動きについて等しく正確である。
【0007】
3)衝動性眼球運動システム(saccadic movement system)。衝動性眼球運動システムは、個体のビジュアルサラウンド内の、任意の所定の注視位置から、選択された別個の対象物の方向へと向けられる、急速な「巻き返しの(catch−up)」眼球運動を生じる。円滑追跡眼球運動と同様に、衝動性眼球運動は、選択された視覚的対象物に対しての視覚的な位置情報を必要とする。円滑追跡眼球運動とは対照的に、衝動性眼球運動はより速く作動するが、これらは、滑らかで連続的な制御された運動ではなく、不連続な方向の変化に限定される。
【0008】
4)視線運動性眼球運動システム(optokinetic movement system)。視線運動性眼球運動システムは、ビジュアルサラウンドの連続的で、広い視野の動きの方向において、滑らかな眼の運動を生じる。より広い視野の動きの方向での滑らかな視線運動性の眼球運動は、注視の方向が元の位置に戻る、簡単な衝動性眼球運動の間に介入させられる。円滑追跡システムとは対照的に、視線運動性の眼球運動は、連続的で、かつ均一なビジュアルサラウンドの動きの広い視野を必要とする。別個の標的が存在しない場合、視線運動性システムは、短時間の間に、広い視野のビジュアルさラウンドにおいて、眼を安定化させ得る。別個の標的およびその周囲にあるバックグランド視野が一緒に動く場合、視線運動性システムは、別個の対象物を追跡する際に、円滑追跡システムを補助し得る。一方、別個の標的およびその広い視野のバックグランドが、別々に動く場合、円滑追跡システムおよび視線運動性システムは、互いに干渉する可能性があり得る。
【0009】
上記4つの眼球運動制御システムに加え、身体に関して頭部を動かすための、反射的で、自動的で、かつ、自発的な運動システムが存在する。これらの運動システムは、周囲にある視覚的対象物に対する注視の安定性を維持する際のさらなる補助を提供する。直立起立状態の間に、自動的な姿勢運動の安定化を伴う自動的かつ代償性の頭部の運動は、注視安定化を保持する、頭部の運動の例である。非特許文献2(本明細書中に参考として援用される)に記載されるように、足首および臀部の周りで前後に身体を揺らす自動的な姿勢の応答は、頭部を対向する方向に動かす、自動的な頭頸部の動きと協働し、それによって、ビジュアルサラウンドに関して、頭部の角位置を維持することを補助する。
【0010】
日常生活の活動の間、VORシステム、円滑追跡眼球運動システム、衝動性眼球運動システム、および視線運動性眼球運動システムの中の協働的な相互作用、ならびに、姿勢の運動システムと頭頸部の運動システムのとの間の協働的な相互作用は、広範な種々の条件下での運動タスクを可能にしつつ、個人がその周囲の選択された視覚的対象物に注視の方向を維持することを可能にする。頭部が動いており、かつ選択された視覚的標的が固定されている場合、VORシステムが、より高速な動きの間に注視の方向を安定化させる一方で、いくつかの条件下で視線運動性システムにより補助される円滑追跡システムは、より遅い頭部の動きに関する、注視の安定性を提供する。頭部が固定されており、かつ、ビジュアルサラウンド内の対象物が移動している場合、ここでもいくつかの条件下で視線運動性システムにより補助される円滑追跡システムは、ゆっくりと動いている対象物への注視を安定化させる。周囲の対象物がより高速に動く場合、円滑追跡システムは、注視の安定性を維持し得ず、そして、「巻き返しの」衝動性眼球運動が、注視を再度安定化させるために使用される。身体が起立時に揺れている場合、上下に動く場合、左右に動く場合、そして/または、移動運動時に前後に傾く場合、姿勢および頭頸部の動きの協働は、ビジュアルサラウンドに関して頭部の角位置を維持することを補助する。
【0011】
個人が、4つの眼球運動システムのうちの1つ以上における病理学的な変化に罹患している場合、上記4つのシステムの間の適応性の相互作用における変化は、結果として得られる注視の問題のいくつかを補正し得、他方で、他の注視安定化の問題は、任意の適応性の変化にもかかわらず存続し得る。例えば、VORシステムにおいて欠損を有するいくつかの被験体は、より遅い頭部の動きに故意にその活動を制限して、そして、固定された対象物に対する注視を安定化させるための円滑追跡眼球運動に取って代わることを試みる。より高速な頭部の動きを行なわせようとする場合、これらの個体は、せいぜい、断続的な注視の安定性を提供するのみである、巻き返しの衝動性(catch−up saccade)を使用し得る。注視の安定性が損なわれた個体に対する一連の処置を効果的に計画する場合、臨床的評価は、以下を提供するはずである:1)注視を安定化させるたtめの機能障害の孤立および定量;2)医学療法および/またはリハビリテーション療法により回復または解消され得る機能障害の同定;ならびに3)被験体のライフスタイルの要求に関して、最良の視力をもたらす、適応性ストラテジーの同定。被験体の間での、病理学的機構と機能的機構との間の関係における広範なバリエーションに起因して、患者の注視制御機能の改善を望む臨床医は、根底にある病理学の情報だけでなく、4つの制御システムおよびその適応性の相互作用に影響を及ぼす機能障害についての情報も必要とする。
【0012】
姿勢および注視の安定性を維持するためのシステムは、方向情報の視覚、前庭、および固有受容性の供給源を共有し、そして、身体および頭頸部を安定化させる運動を制御するためのシステムが協働しているので、姿勢の安定性を維持するためのシステムにおける病理学的な変化を有する被験体はまた、注視の安定性および視力に伴う問題を経験し得る。従って、注視の安定性を損ねた個体に対する一連の処置を効果的に計画するためには、しばしば、姿勢および頭頸部の安定化のためのシステムの間の相互作用に関する、さらなる機能障害の情報を孤立および定量することが必要である。
【0013】
個体の構成要素である注視安定化システムを評価するため、そして、動いている間の個体の視力を検査するための、観察的かつコンピュータ化された客観的検査が、先行技術に存在する。
【0014】
1)VORシステム:複数の企業により製造されているロータリーチェアシステムは、VORシステムの生理学的特徴を定量するための標準的な方法であると考えられる。被験体は、頭部を固定され、そして、室内を暗くされて、椅子に付かされる。コンピュータ制御下で、固定された垂直軸の周りで椅子が回転される。この間、眼の運動応答が、電気的方法もしくは赤外光の方法のいずれかを用いて記録される。コンピュータは、椅子が回転する周波数を制御し、結果として生じる眼の動きを記録し、次いで、周波数のスペクトルに跨る頭部の動きと眼の動きとの間の、増幅率、位相、および方向的に優勢な関係性を決定するために、2つの量を相関させる。VORの回転チェア検査(rotational chair testing)の詳細な説明(さらなる科学的および臨床的な参考を含む)は、非特許文献3の中の、「Rotational Chair Testing」という表題の第6章(本明細書中に参考として援用される)に見られ得る。
【0015】
2)衝動性眼球運動システム。複数の会社(ICS Medical(Shaumberg,Illinois)およびMicromedical Systems(Springfiled Illinois)が挙げられる)により製造される、眼球運動システムは、衝動性眼球運動システムの生理学的特徴を定量する。被験体は、椅子に座り、そして、別個の標的が、コンピュータ制御下で表示されている、ライトバーディスプレイ(light bar display)を見ながら、電気的な方法もしくは赤外線の方法のいずれかを用いて、被験体の眼の動きが測定され、そして、コンピュータにより記録される。被験体は、ライトバーディスプレイ上の1つの位置から別の位置へと突然移動する標的を追跡するように指示される。次いで、コンピュータが、標的の動きのタイミング、方向および振幅に関して、被験体の眼の動きを相関させて、得られる衝動性眼球運動の潜伏時間、速度および精度を定量する。衝動性眼球運動試験の詳細な説明(さらなる科学的かつ臨床的な参考を含む)は、非特許文献3の中の、「Electronystagmography Evaluation」という表題の第4章(本明細書中に参考として援用される)に見られ得る。
【0016】
3)円滑追跡システム。この運動システムは、代表的に、観察的な方法、または、記録された眼の動きのいずれかを用いて試験される。観察的な試験の間に、被験体は、臨床医の指の動きを眼で追い、この間、臨床医が眼の動きを観察する。臨床医は、被験体の眼が、滑らかに、そして、一連の小さな運動と関連して(一緒に)、または、非共同的に動くかどうかを観察する。ギクシャクした、および/または、非共同性の眼の動きは、円滑追跡システムの欠陥の指標である。あるいは、被験体の追跡性眼球運動は、電気的もしくは光学的に記録され得、そして、滑らかさの程度が、円滑追跡の「速度増幅率(velocity gain)」、標的の動きの速度と比較した眼の動きの速度を分析することによって、そして、小さな動きの運動の証拠について、記録された眼の動きの軌跡を視覚的に検査することによって、評価される。円滑追跡眼球運動試験の詳細な説明(さらなる科学的かつ臨床的な参考を含む)は、非特許文献3の中の、「Electronystagmography Evaluation」という表題の第4章(本明細書中に参考として援用される)に見られ得る。
【0017】
4)視線運動性システム。視線運動性システムはまた、観察的に、または、記録された眼の動きを用いて試験され得る。いずれかのタイプの試験の間に、被験体は、コントラストの強く、片の方向に対して垂直な方向に連続して動く、交互性のストライプ柄の広い視野表面を見る。広い視野表面が動く速度(片の動く方向に遅く、そして、反対方向に速い)に対する被験体の視線運動性の眼球運動の強さが、次いで、文書化される。
【0018】
5)動的視力。頭部が固定された被験体の視力と、頭部が動いている被験体の視力との差異は、観察的な方法、または、複数の会社(NeuroCom International,Inc.(Clackamas,Oregon)およびMicromedial(Springfield,Illinois)を含む)により製造されるコンピュータ化されたデバイスを用いて定量され得る。動的視力(DVA)の観察的な試験は、標準的なSnellen視力表に基づく。非特許文献4(本明細書中に参考として援用される)に記載されるように、視力は、まず、頭部が固定された被験体について、そして、第2に、頭部を前後に試験の管理者により指示されたペースで動かしている被験体について、評価される。被験体を観察することにより、試験の管理者は、被験体が、Snellen表を読み取っている間に、頭部を動かし続けることを検証する。DVAの結果は、頭部が固定された条件と比較して、頭部が動いている間に観察される明瞭度の減少のSnellen線の数として報告される。使用され得る視力表の別の形式は、いわゆる「Tumpling E」である。Tumpling Eを用いる試験によれば、被験体は、特定の視力表のサイズおよび方向の文字Eを見て、そして、「E」の方向(上、下、左、右)を正確に識別するように質問される。
【0019】
観察的なDVA試験は、注視の安定性の喪失についての種々の原因を区別する際に、情報の価値を制限する、いくつかの問題を有する:(1 管理者が、被験体の頭部の動く速度を推定するのみであり得るので、結果が概算であること;および(2 ほんの数秒間、頭部の動きをほんの束の間遅くして、表に注視を安定化させるための巻き返しの衝動性眼球運動を用いることによって、VOR安定化システム内の欠陥を補償し得る被験体がいること。
【0020】
動的視力試験のコンピュータ化されたバージョンにおいて、視覚的な画像がコンピュータにより生成および表示され、被験体は、頭部に、頭部の動きの速度を定量するセンサを装着し、そして、コンピュータが、頭部の動きの情報を受信し、そして、視覚的な画像の提示時間を制御する。その結果、これらは、頭部が指示に従って動いている場合にのみ現れる。これらの方法は、被験体が、巻き返しの衝動性眼球運動を補償することを防止し、そしてまた、頭部の動きの速度の正確な詳細および検証を可能にする。コンピュータ化された動的視力試験の説明は、特許文献5(本明細書により参考として援用される)に見られ得る。
【0021】
個体が、手が自由な状態で立っているか、そして/または、歩行している間に、姿勢を安定化させる個体の構成要素を評価するための、観察的な客観的試験およびコンピュータ化された客観的試験がまた存在する:
1)個体の姿勢の安定性を評価するための、1つの一般的に使用されている客観的な臨床試験は、非特許文献6(これもまた、本明細書中に参考として援用される)により記載された。
2)多数の製造業者(NeuroCom International,Inc.(Clackamas,Oregon)およびMicromedical Technologies(Springfield,Illinois)を含む)が、固定された床反力計(force plate)、ならびに、準拠したデバイス上に吊り下げられ、コンピュータに接続された床反力計を利用する単純な姿勢の安定性を評価するデバイスを製造する。これらのデバイスは、静止時、および、体重移動を試みる間の個体の姿勢の揺れを定量する。
【0022】
3)歩行を特徴付けるための、感覚的な一体化および動きの協調の分析シリーズ、装置および方法などに関する以前に発行された特許文献(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、および特許文献6を含む。これらは全て、本明細書中に参考として援用される)において、本発明者らは、支持表面の制御された動きにより生成された揺れに供されている間の、立っている個体および歩いている個体の姿勢の安定性を測定するための方法およびデバイスを記載した。これらの方法およびデバイスのいくつかは、NeuroCom International,Inc.(Clackamas,Oregon)により製造販売されている、EquiTest(登録商標)システム内に組み込まれている。
【0023】
一般に、ロータリーチェア、円滑追跡運動試験、衝動性眼球運動試験、および視線運動性試験、ならびに、前庭およびモーターシステムの生理学的な機能の他の「病巣部位」の耳科学および神経学的な試験により提供される前庭の機能および眼球運動の制御情報は、平衡システムの問題を有する被験体により日常生活の活動の間に経験される症状および機能障害と、十分には相関しないことが理解される。これは、注視および姿勢の安定化システムが高度に順応性であり、そして、類似の病理を有する個体被験体が、異なる症状および機能の問題から異なって生じる、その残りのVOR、円滑追跡運動、衝動性眼球運動、視線運動性運動、および姿勢の安定性の能力を用いるからである。DVA試験は、対照的に、頭部を動かしている間に、被験体が、いかに十分正確に固定された視覚的対象物を認知し得るかを定量する。しかし、上記の理由から、DVA試験のみでは、個体が、以下を見ることを企図する間に、注視安定化に関する機能障害を孤立させも、定量もしない:(1)頭部を動かしている間に、固定された視覚的標的、(2)頭部が固定された状態で、動いている標的、(3)手が空いている立った状態および歩行した状態の平衡を維持している間に、固定された標的もしくは動いている標的、および(4)これらのタスクの協調の組み合わせ。
【0024】
日常生活の活動(例えば、車の運転、または、娯楽の運動活動への参加)の間、個体は、積極的に動く間に、しばしば、静止した視覚的対象物および動いている視覚的対象物を観察することを必要とされる。これらのタイプの日常生活の活動の間の、乏しい注視の安定性および視力に寄与する、種々の機能障害を区別する能力は、有意な臨床的価値を有する。注視の安定性に影響を与える平衡システムの問題を有する被験体の大部分において、疾患のプロセスに対する衝撃を安定化もしくは減少するように設計された、薬理学な処置および外科的な処置は、病理学的な「病巣部位」試験により提供される情報により導かれる。医学上の処置は、時折、根底にある病理−生理学的なプロセスを安定化させ、それによって、疾患の進行を遅延させ得るが、このような処置が、根底にある病理を解決させることも、被験体の機能的な注視および姿勢の安定性の問題を排除させることもめったにない。リハビリテーションの処置は、対照的に、注視および姿勢の安定性の機能を実質的に向上させ得、そして、大半の被験体における有害な症状を減少させ得る。しかし、医学的な処置計画とは対照的に、機能障害の孤立および定量は、被験体の日常生活の活動に大きな負の衝撃を有するこれらの機能障害に対してトレーニング運動の焦点を当てるために必要な情報を提供する。機能障害の情報はまた、客観的な基準を提供し、この基準に対して処置結果が文書化され得る。
【特許文献1】米国特許第号4,738,269明細書
【特許文献2】米国特許第号4,830,024明細書
【特許文献3】米国特許第号5,052,406明細書
【特許文献4】米国特許第号5,303,715明細書
【特許文献5】米国特許第号5,474,087明細書
【特許文献6】米国特許第号5,697,779明細書
【非特許文献1】Robert W.BalohおよびG.Michael Halmagyi編、「Disorders of the Vestibular System」Oxford University Press,New York,1996年
【非特許文献2】Nashner LM,Shupert CL,Horak FB.Pompeiano O,Allum JHJ編,Vestibulospinal Control of Posture and Locomotion,Progress in Brain Research,VoI 76.第21章 Head−trunk movement coordination in the standing posture,Amsderdam Elsevier Science Publishers,1988年、pp.243−251
【非特許文献3】Neil T.ShepardおよびSteven A.Telian、Practical Management of the Balance Disorder Patient,Singular Publishing Group,Inc.San Diego 1996年、pp.221
【非特許文献4】Demer JL,Honrubia V,Baloh RW「Dynamic visual acuity:a test for oscillopsia and vestibule−ocular reflex function」American Journal of Otology 15:1994年、p.340−347
【非特許文献5】Herdman,S,Tusa R,Blatt P,Suzuki A,Venuto PJ,Robert D「Computerized dynamic visual acuity test in the assessment of vestibular deficits」American Journal of Otology 19:1998年、p.790−796
【非特許文献6】Koles ZJ,Castelein RD「The relationship between body sway and foot pressure in normal man」Journal of Medical Engineering and Technology 4:1980年、p.279−285
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の実施形態は、VOR、円滑追跡眼球運動、衝動性眼球運動、視線運動性眼球ン動、姿勢安定化システム、およびその適応性の相互作用の中で、機能の障害を孤立させ、そして、定量するための新規な方法およびデバイスに関する。
【0026】
(発明の要旨)
本発明の第1の実施形態において、被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための方法が提供される。上記方法は、被験体の静的視力を測定して、評価を獲得する工程、被験体の頭部が動いており、かつ、表示対象物が固定されている場合に、被験体の視力を測定して、第1の動的測定値を獲得する工程、および、被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物が動いている場合に、被験体の視力を測定して、第2の動的測定値を獲得する工程を包含する。評価、ならびに、第1の動的測定値および第2の動的測定値を用いて、被験体の注視安定化システムの機能障害を決定する。
【0027】
関連の実施形態によれば、被験体の静的視力を測定して、評価を獲得する工程は、上記評価を用いて、被験体によるタスクの性能のためのパラメータを設定する工程を包含し得る。別の関連する実施形態によれば、上記方法は、さらに、被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物が非連続的に動いている場合に、被験体の視力を測定して、第3の動的測定値を獲得する工程、および、前記評価、ならびに第1の動的測定値、第2の動的測定値および第3の動的測定値を用いて、被験体の注視安定化システムの機能障害を決定する工程を包含し得る。さらなる関連の実施形態によれば、上記方法はまた、被験体の頭部が固定されており、表示対象物が動いており、そして、パターン付けされた広い視野バックグランド(patterned large field background)が動いているばあい に、被験体の視力を測定して、第4の動的測定値を獲得し、そして、被験体の注視安定化システムの機能障害を決定する工程を包含し得る。他の関連の実施形態によれば、被験体の静的視力を評価する工程が、被験体が、複数回の試行の間に同定し得る最小の対象物を決定する工程を包含し得るか、そして/または、被験体の頭部が動いており、かつ、表示対象物が固定されている場合に、被験体の視力を測定する工程が、被験体の静的視力に関する表示対象物のサイズを固定する工程、表示対象物が表示される持続時間を、40ミリ秒と100ミリ秒との間(または、1つの実施形態によれば、約75ミリ秒)に固定する工程、および、被験体が、複数回の試行にわたり、表示対象物を正確に同定し得る、頭部の最大運動速度を決定する工程を包含し得る。さらに、被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物が連続的に動いている場合に、被験体の視力を測定する工程が、被験体の静的視力に関して表示対象物のサイズを固定する工程、表示対象物が表示される持続時間を40ミリ秒と100ミリ秒との間(または、1つの実施形態によれば、約75ミリ秒)に固定する工程、および、被験体が、複数回の試行にわたり、表示対象物を正確に同定し得る、表示対象物の最大運動速度を決定する工程を包含し得る。同様に、被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物が連続的に動いている場合に、被験体の視力を測定する工程が、パターン付けされた広い視野バックグランドを表示させる工程、およびパターン付けされた広い視野バックグランドを動かす工程を包含し得る。
【0028】
なお他の関連する実施形態によれば、被験体の頭部が固定されており、かつ表示対象物が非連続的に動いている場合に、被験体の視力を測定する工程は、被験体の静的視力に関して、表示対象物のサイズを固定する工程、表示対象物が表示される持続時間を約90ミリ秒に固定する工程、40ミリ秒と100ミリ秒との間(または、1つの実施形態によれば、約75ミリ秒)、被験体に、中央のマーカーに向かって注視するよう方向付けさせる工程、表示対象物を、中央のマーカーに対して所定の位置に現れさせる工程、および、被験体が複数回の試行にわたり、表示対象物を正確に同定し得る、中央のマーカーからの最大距離を決定する工程を包含し得る。さらに、表示対象物を、中央のマーカーに対して所定の位置に現れさせる工程は、表示対象物を中央のマーカーから固定された距離に現れさせる工程を包含し得る。さらに、表示対象物を中央のマーカーに対して所定の位置に現れさせる工程は、表示対象物を中央のマーカーから種々の距離に現れさせる工程を包含し得る。さらなる関連の実施形態によれば、被験体の静的視力を測定する工程は、Snellen視力表および/またはTumpling E視力表を用いる工程を包含し得る。
【0029】
なお他の関連する実施形態によれば、上記方法は、被験体の視力が測定されている間に、被験体に、少なくとも1種の手が空いている立った状態の平衡タスク(free standing balance task)を実行するように命令する工程を包含し得る。被験体に、少なくとも1種の手が空いている立った状態の平衡タスクを実行するように命令する工程は、被験体に、表示対象物の表示に対して動いている少なくとも1つの表面上に立つように命令する工程を包含し得る。上記方法はまた、上記表面の運動に対して、パターン付けされた広い視野バックグランドを動かす工程を包含し得る。上記表面は、表示対象物の表示に対して連続的、もしくは非連続的に動き得る。さらに、上記表面は、床反力計もしくはトレッドミルであり得、そして、トレッドミルに関する速度は、一定であり得るか、または、変動させられ得る。さらに、被験体に、少なくとも1種の手が空いている立った状態の平衡タスクを実行するように命令する工程は、被験体に、ビジュアルサラウンドに囲まれている間に、少なくとも1種の手が空いている立った状態の平衡タスクを実行するように命令する工程を包含し得る。
【0030】
本発明の別の実施形態によれば、被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための方法は、被験体の静的視力を評価する工程、被験体の動的視力の少なくとも2つの局面を測定する工程、被験体の静的視力と、該被験体の動的視力の第1の局面との両方に関して、第1の量を計算する工程、第1の量を、注視安定化の機能障害を有さない個体集団から、同じように導き出された、規範値と比較する工程、および第1の量が、規範値から、1標準偏差より大きく変動している場合に、被験体の注視安定化システムの機能障害を決定する工程を包含する。関連する実施形態によれば、被験体の動的視力の複数の局面を測定する工程は、被験体の前庭眼反射システム、被験体の円滑追跡眼球運動システム、被験体の視線運動性の眼球運動システム、および/または被験体の衝動性眼球運動システムのうちの2つ以上に関する、被験体の動的視力の局面を測定する工程を包含し得る。別の関連する実施形態によれば、上記方法はまた、被験体の静的視力および被験体の動的視力の第2の局面に関する第2の量を計算する工程、第2の量を、注視安定化の機能障害を有さない個体集団から同じように導き出された規範値と比較する工程、ならびに、第2の量が、該規範値から、1標準偏差より大きく変動している場合に、被験体の注視安定化システムの第2の機能障害を決定する工程を包含し得る。
【0031】
本発明のさらなる実施形態によれば、被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための方法は、被験体の静的視力を評価する工程、被験体の頭部が動いており、かつ、表示対象物が固定されている場合に、被験体の視力を測定して、被験体の静的視力に対する第1の関係を決定する工程、被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物が連続的に動いている場合に、被験体の視力を測定して、被験体の静的視力に対する第2の関係を決定する工程、被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物が非連続的に動いている場合に、被験体の視力を測定して、被験体の静的視力に対する第3の関係を決定する工程、および/または、被験体の頭部が固定されており、表示対象物が連続的に動いており、かつ、パターン付けされた広い視野バックグランドが連続的に動いている場合に、被験体の視力を測定して、被験体の静的視力に対する第4の関係を決定する工程を決定する工程を包含する。被験体の注視安定化システムの機能障害が、対象物を追跡する能力を減損させる程度は、被験体の、第1の関係、第2の関係、第3の関係、および第4の関係に基づいて決定される。
【0032】
本発明のなお別の実施形態によれば、被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして、定量するための方法は、被験体の静的視力を測定して、評価を獲得する工程、被験体が連続的に動く支持表面上に立っており、被験体の頭部が動いており、かつ、表示対象物が固定されている場合に、被験体の視力を測定して、第1の動的測定値を獲得する工程、および/または、被験体が連続的に動く支持表面上に立っており、被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物が動いている場合に、被験体の視力を測定して、第2の動的測定値を獲得する工程を包含する。上記評価、ならびに、第1の動的測定値および第2の動的測定値を用いて、被験体の注視安定化システムの機能障害を決定する。
【0033】
本発明のなおさらなる実施形態によれば、被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための方法は、被験体の静的視力を測定して、評価を獲得する工程、被験体が非連続的に動いている支持表面上に立っており、被験体の頭部が動いており、かつ、表示対象物が固定されている場合に、被験体の視力を測定して、第1の動的測定値を獲得する工程、および、被験体が非連続的に動いている支持表面上に立っており、被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物が動いている場合に、被験体の視力を測定して、第2の動的測定値を獲得する工程を包含する。上記評価、ならびに、第1の動的測定値および第2の動的測定値を用いて、被験体の注視安定化システムの機能障害を決定する。
【0034】
本発明の上記の特徴は、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明を参照することにより、より容易に理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
(特定の実施形態の詳細な説明)
本発明は、被験体および/または周囲の視覚的対象物が動いている間に、その視覚の方向および精度を維持する被験体の能力に負の影響を及ぼす、注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための新規方法およびデバイスに関する。このことは、3つの試験手順から導かれる評価情報を組み合わせることによって達成される:(1)被験体の静的視力の少なくとも1つの測定値、(2)所定のプロトコールに従って頭部が動いており、かつ、周囲の視覚的対象物が静止している間の、被験体の視力の1回以上の測定値、および(3)頭部が静止しており、かつ、所定のプロトコールに従って周囲の対象物が動いている間の、被験体の視力の1回以上の測定値。本発明のさらなる実施形態は、上記3つの手順のうちの1つ以上を、被験体が、姿勢の安定性または手が空いた状態での歩行に対する摂動の存在下で、手のあいた状態で立っている、さらなる手順と組み合わせる。
【0036】
本発明のさらなる実施形態は、上記の3つの手順から導き出された視力情報を組み合せ、そして、図式的もしくは数値的な形式でこの組み合せた結果を表示することによって、注視安定化システムに影響を与える機能障害を区別および定量する、コンピュータによる方法およびデバイスに関する。上記の3つの手順を、さらなる姿勢の安定性の手順と組み合せる実施形態において、図式的な結果および数値的な結果は、視力および姿勢の安定性の情報を組み合せる。
【0037】
図1は、本発明の1つの実施形態に従って、被験体の注視安定化システムの複数の局面を測定するために使用され得るシステムを例示するブロック図である。このシステムは、専用のマイクロプロセッサ、パーソナルコンピュータ、サーバまたは他の電算デバイスを備え得る、コンピュータ101を備える。ディスプレイ103は、入力デバイス105(例えば、マウス、キーボード、音声作動型入力システム、光作動型入力システム、または、接触作動型入力システム)と同様に、コンピュータ101と接続され得る。
【0038】
システムはまた、プリンタ107、または、コンピュータ101に接続された他の出力デバイスを備え得る。動きセンサ109(例えば、ヘッドバンド上に設置された3軸の積分形ジャイロスコープ(gyro)、または他の動きセンサ)が、被験体の頭部の動きの速度および方向をモニターするために使用され得る。このようなヘッドバンドを備えるシステムの一例は、InVisionTMシステム(NeuroCom International,Inc.(Clackamas,Oregon)製)である。このシステムは、さらに、コンピュータ101に接続された、静置された床反力計、クッション、または、可動性のトレッドミルを備え得る平衡試験環境111を備え得る。床反力計を備えるシステムの例としては、BalanceMaster(登録商標)、VSRTM、PRO BalanceMaster(登録商標)、およびSMART BalanceMaster(登録商標)(全て、NeuroCom International,Inc.(Clackamas,Oregon)製)が挙げられる。このようなシステムとしては、ビジュアルサラウンドまたは他の可動性の環境(例えば、EquiTest(登録商標)システムまたはSMART EquiTest(登録商標)システム(NeuroCom International,Inc.(Clackamas,Oregon)製)内に含まれたビジュアルサラウンド)が挙げられ得る。
【0039】
図2は、本発明の1つの実施形態に従って、被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための方法を例示するフローチャートである。この実施形態によれば、被験体の静的視力が、201において測定され、そして、評価を獲得する。被験体の静的視力は、種々の標準的かつ臨床的に認められた手段(例えば、Snellen視力表、Tumpling E視力表、または、種々の市販の視力表による明瞭度試験(eye chart acuity test)の機械化およびコンピュータ化されたバージョン)のいずれか1つを用いて評価され得る。Micromedical Technologies(Springfield,Illinois)およびNeuroCom International,Inc.(Clackamas,Oregon)は、静的視力を測定するためのコンピュータ化されたシステムを製造する2つの会社である。さらに、被験体の静的視力を測定して、評価を獲得する工程は、以下のより詳細に記載されるように、この評価を用いて、被験体によるタスクの性能のためのパラメータを設定する工程を包含し得る。
【0040】
プロセス202において、被験体の視力は、被験体の頭部が動いており、かつ、表示対象物が固定されている場合に測定されて、第1の動的測定値を獲得する。例えば、動きに関する1つ以上の量を測定し得るセンサ(例えば、センサ109)が、被験体の頭部に取り付けられ得、そして、結果として得られる頭部の動きの量が、ディスプレイデバイス(例えば、ディスプレイ103)に接続され得るコンピュータ(例えば、コンピュータ101)に送信される。コンピュータは、1以上の視覚的な「表示対象物」の、時間、位置、サイズ、形状、方向、および広い視野バックグランドを制御し得る。対象物を表示するためのこの実施形態の手段の2つの例は、CRT/LCDビデオモニター、および反射スクリーン上に投影するフィルム/LCDプロジェクターである。これらの好ましいディスプレイ手段もしくは他のディスプレイ手段のいずれかにより表示される対象物としては、文字または一般的な形状(例えば、円形、四角形、三角形、星形、=、および+記号など)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0041】
プロセス202に従い得る、1つのプロトコールによれば、被験体は、所定の様式で頭部を動かすように指示され、そして、コンピュータが、頭部の動きをモニターし、そして、頭部が「動きの基準(movement criteria)」に従って動いている間の、1もしくは複数の「表示時間間隔」を同定する。動きの基準は、所定の動き平面内での頭部速度の最小角速度であり得る。次いで、コンピュータは、表示対象物が表示される表示時間間隔を、無作為に選択し得る。次いで、被験体は、表示対象物の1以上の属性(attribute)を識別するために質問される。このプロトコールは、複数回にわたり繰り返され得、そして、正確な識別および不正確な識別の数が、コンピュータにより記録され得る。タスクの変更は、正確な識別および不正確な識別の相対数によって開始され得る。このプロトコールはまた、被験体が、5回の連続した試行のうち、最低3回の正確な識別を行なう場合に、より難しくされた試験を繰り返され得るが、この試験は、正確な識別の数が5回の試行のうち3回未満である場合に、終了され得る。この試験はまた、以下の変更のうちの1つ以上を加えることによって、より難しくされ得る:表示対象物のサイズを縮小すること、表示対象物の複雑さを増すこと、表示対象物のコントラストを減らしたり増やしたりすること、動きの基準の速度を増やすこと、動きの基準の軸および/または方向を変えること、広い視野バックグランドの属性を変えること、ならびに、最大表示時間間隔を減らすこと。
【0042】
次いで、203において、第2の動的測定値を獲得するために、被験体の頭部が固定されており、かつ表示対象物が動いている場合に、被験体の視力が測定される。再度、動きの角速度を測定し得るセンサが、被験体の頭部に取り付けられ得、そして、得られた頭部の角速度の測定値が、コンピュータに送信され得る。コンピュータ(ここでも、ディスプレイデバイスと接続され得る)は、被験体に表示される視覚的な表示対象物の時間、位置、サイズ、形状および方向を制御し得る。
【0043】
プロセス203に従い得る、1つのプロトコールによれば、被験体は、頭部を固定した位置に維持するように指示され、そして、コンピュータが、最初の「固定位置」の標的を表示し、そして、コンピュータが、被験体の頭部が特定の量もしくは誤差しか伴わずに特定の「固定位置」内にある間の表示時間間隔を識別する。1つの好ましい実施形態において、固定位置の基準は、被験体が、位置誤差の特定の度数、および、位置誤差の変化の変化速度における1秒あたりの特定の度数未満で、頭部を直接前に向くように位置決めする点である。他の好ましい実施形態において、被験体は、多数の解剖学的に可能な位置(この各々は、特定の位置誤差、および/または、位置誤差の変化速度の最大量を有する)のうちの1つに、頭部が向くように方向付けることを要求され得る。被験体の頭部が、特定の固定位置の基準内にある場合、コンピュータは、表示対象物が、所定の動きの方向および動きの速度に従って保持位置から別の所定の位置へと動くにつれて、表示対象物を提示する、表示時間間隔を無作為に選択し、次いで、消失させる。本発明のいくつかの実施形態によれば、保持位置は、表示領域(スクリーンが挙げられ得る)の中央であり得、そして、表示対象物の動きの方向は、左右もしくは上下のいずれかである。次いで、被験体は、表示対象物の1つ以上の属性を識別するために質問される。このプロセスは、所定の回数繰り返され得、そして、正確な識別および不正確な識別の数が、コンピュータによって記録され得る。タスクの変更は、正確な識別および不正確な識別の相対数によって開始され得る。別の実施形態によれば、このプロトコールはまた、被験体が、5回の連続した試行のうち、最低3回の正確な識別を行なう場合に、より難しくされた試験を繰り返され得るが、この試験は、正確な識別の数が5回の試行のうち3回未満である場合に、終了され得る。この試験はまた、以下の変更のうちの1つ以上を加えることによって、より難しくされ得る:表示対象物のサイズを縮小すること、表示対象物の複雑さを増すこと、表示対象物のコントラストを減らしたり増やしたりすること、表示対象物の運動速度を増やすこと、表示対象物の動きの軸および/または方向を変えること、広い視野バックグランドの属性を変えること、別個の標的と共に、もしくは別個の標的とは独立して、広い視野バックグランドを動かすこと、ならびに、最大表示時間間隔を減らすこと。
【0044】
上記の測定値に加え、さらなる動的測定値を獲得するために、被験体の頭部が固定されており、かつ表示対象物が、別個もしくは非連続的な動きに従って動いている場合に、被験体の視力が測定され得る。もう一度、動きの角速度を測定し得るセンサが、被験体の頭部に取り付けられ得、そして、得られた頭部の角速度の測定値が、コンピュータに送信される。ディスプレイデバイスと接続され得るコンピュータは、被験体に表示される表示対象物の時間、位置、サイズ、形状、広い視野バックグランドおよび方向を制御し得る。
【0045】
例えば、1つのプロトコールによれば、被験体は、頭部を固定位置に維持するように指示され、そして、コンピュータは、最初の保持位置にある標的を表示し、そして、コンピュータは、被験体の頭部が、固定位置の基準を満たす間の表示時間間隔を識別し、そして、コンピュータはまた、ディスプレイ上の所定の位置に、所定の時間間隔で表示対象物を提示する表示時間間隔を、無作為に選択する。次いで、被験体は、表示対象物の1つ以上の属性を識別するために質問される。このプロセスは、所定の回数繰り返され得、そして、正確な識別および不正確な識別の数が、コンピュータによって記録され得る。タスクの変更は、正確な識別および不正確な識別の相対数によって開始され得る。ここでまた、このプロセスが、所定の回数だけ繰り返され得る。被験体が、複数回の試行のうちの特定の最低割合まで表示対象物の属性を正確に識別した場合、表示対象物の特性、表示の基準、またはこの療法が、タスクの難易度を高めるように変更され、そして、上記プロセスが繰り返される。このプロトコールは、被験体が、5回の連続した試行のうち、最低3回の正確な識別を行なう場合に、より難しくされた試験を繰り返され得るが、この試験は、被験体が、最低3回の正確な識別をし損なった場合に、終了され得る。この試験はまた、以下の変更のうちの1つ以上を加えることによって、より難しくされ得る:表示対象物のサイズを縮小すること、表示対象物の複雑さを増すこと、表示対象物のコントラストを減らしたり増やしたりすること、保持位置と表示対象物の位置との間の距離を広げること、保持位置と表示対象物の位置との間の方向を変えること、広い視野バックグランドの属性を変えること、ならびに、最大表示時間間隔を減らすこと。被験体が、所定の表示対象物を、特定の回数正確に識別し損なった場合、試験は終了される。
【0046】
以下の計算は、静的視力の測定値の結果を、動的視力の測定値と関連付けるために実施され得る:
第1の動的測定値(すなわち、被験体の頭部が動いており、かつ、表示対象物が固定されている場合に測定された視力)と、その個体の静的視力との間の関係は、表示対象物のサイズを、被験体の静的視力に関して固定すること、表示対象物が表示される持続時間を、被験体が、対象物を認知するには十分であるが、対象物に対して巻き返しの衝動性眼球運動を行なうには不十分な時間(一般に、40ミリ秒よりは長く、100ミリ秒よりは短い、1つの実施形態によれば、約75ミリ秒)に固定すること、次いで、5回の連続した試行のうち最低3回の間に、被験体が対象物を正確に識別し得る、頭部の最大運動速度を決定することによって決定される。具体例として、表示対象物のサイズは、静的視力検査の間に正確に識別される対象物の最小サイズの2倍である。本発明のいくつかの実施形態によれば、さらなる、頭部が動いており/対象物が固定されている場合の安定化の最大スコアは、種々の次元(dimension)および頭部の動きの方向(例えば、右から左、左から右、上から下、および下から上)について計算され得る。他の実施形態において、頭部の運動速度は固定されており、そして、被験体が、5回の連続した試行のうち最低3回の間、表示対象物を正確に識別することをし損なうまで、表示対象物のサイズが縮小される。
【0047】
第2の動的測定値(被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物が連続的に動いている場合の被験体の視力)と、その個体の静的視力との間の関係は、表示対象物のサイズを、被験体の静的視力に関して固定すること、表示対象物が表示される持続時間を、被験体が、対象物を認知するには十分であるが、対象物に対して巻き返しの衝動性眼球運動を行なうには不十分な時間(一般に、40ミリ秒よりは長く、100ミリ秒よりは短い、1つの実施形態によれば、約75ミリ秒)に固定すること、次いで、5回の連続した試行のうち最低3回の間に、被験体が対象物を正確に識別し得る、頭部の最大運動速度を決定することによって決定される。一例として、表示対象物のサイズは、静的視力検査の間に正確に識別される対象物の最小サイズの2倍である。さらなる、頭部が固定されており/対象物が連続的に動いている場合の安定化の最大スコアは、種々の次元および対象物の動きの方向(例えば、右から左、左から右、上から下、および下から上)について計算され得る。さらに、表示対象物の運動速度は固定され得、そして、被験体が、5回の連続した試行のうち最低3回の間、表示対象物を正確に識別することをし損なうまで、表示対象物のサイズが縮小され得る。
【0048】
第3の動的測定値(被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物が連続的に動いており、かつ、パターン付けされた広い視野バックグランドが、それ自体が固定されているか、もしくは表示対象物の動きに関して動いている場合の被験体の視力)と、その個体の静的視力との間の関係は、表示対象物のサイズを、被験体の静的視力に関して固定すること、広い視野バックグランドのパターンおよび動きの特性を指定すること、表示対象物が表示される持続時間を、被験体が、対象物を認知するには十分であるが、対象物に対して巻き返しの衝動性眼球運動を行なうには不十分な時間(一般に、40ミリ秒よりは長く、100ミリ秒よりは短い、1つの実施形態によれば、約75ミリ秒)に固定すること、次いで、5回の連続した試行のうち最低3回の間に、被験体が対象物を正確に識別し得る、頭部の最大運動速度を決定することによって決定され得る。一例として、表示対象物のサイズは、静的視力検査の間に正確に識別される対象物の最小サイズの2倍であり、広い視野バックグランドは、標的対象物と同調して動く、白色のバックグランド上の一連の黒いストライプ柄である。さらなる、頭部が固定されており/対象物が連続的に動いている場合の安定化の最大スコアは、種々の次元および対象物の動きの方向(例えば、右から左、左から右、上から下、および下から上)について、ならびに、種々の広い視野バックグランドの動き(例えば、固定されたバックグランドパターン、表示対象物と異なる方向に動くバックグランドパターン、および、表示対象物と逆向きに動くパターン付けされたバックグランド)について、計算され得る。さらに、表示対象物の運動速度は固定され得、そして、被験体が、5回の連続した試行のうち最低3回の間、表示対象物を正確に識別することをし損なうまで、表示対象物のサイズが次第に縮小され得る。
【0049】
第4の動的測定値(被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物が非連続的に動いている場合の被験体の視力)と、その個体の静的視力との間の関係は、表示対象物のサイズを、被験体の静的視力に関して固定すること、表示対象物の出現する持続時間を90ミリ秒に固定すること、被験体が対象物を認知するには十分であるが、対象物に対して巻き返しの衝動性眼球運動を行なうには不十分な時間(一般に、40ミリ秒よりは長く、100ミリ秒よりは短い、1つの実施形態によれば、約75ミリ秒)、被験体に、焦点(例えば、中央のマーカー)に向けて注視を方向付けるように指示すること、表示対象物を、中央のマーカーに関する所定の位置に突然出現させること、次いで、5回の連続した試行のうち最低3回の間に、被験体が対象物を正確に識別し得る間の、中央のマーカーからの最大距離を決定することによって決定される。一例として、表示対象物のサイズは、静的視力検査の間に正確に識別される対象物の最小サイズの2倍である。さらなる、最大距離は、中央マーカーから種々の方向(例えば、右、左、上、および下)に配置される表示対象物について計算され得る。本発明の別の実施形態において、中央のマーカーからの対象物の出現距離は、固定されたままに維持され、そして、被験体が、5回の連続した試行のうち最低3回の間、対象物を正確に識別することをし損なうまで、提示の持続時間が減少される。
【0050】
次いで、プロセス204において、静止時の評価と、上記の4つの動的測定値のうちのいずれか2つとを用いて、被験体の注視安定化システムの機能障害が決定される。VOR、円滑追跡システム、衝動性眼球運動システム、および視線運動性システムにおける機能障害の各々が、被験体もしくは表示対象物のいずれかもしくは両方が動いている場合に、表示対象物を正確に認知する被験体の能力を減ずる相対的な程度は、いずれか3つもしくは4つ全ての動的な明瞭度の測定値(例えば、頭部が動いており/対象物が固定されている場合の測定値、頭部が固定されており/対象物が連続的に動いている場合の測定値、頭部が固定されており/対象物が非連続的に動いている場合の測定値、および頭部が固定されており/対象物が連続的に動いており、かつ、パターン付けされた広い視野バックグランドを有する場合の測定値)の間で結果を比較することによって決定される。個々の動的測定値を、静止時の明瞭度の測定値と比較するための1つの方法は、その動的条件につき、動的な明瞭度の測定値と静止時の明瞭度の測定値との間の比を計算することである。第2の方法は、動的測定値と静止時の測定値との間で、明瞭度の差異を計算することである。第3の方法は、2つ以上の動的な明瞭度の測定値の間で、差異または比を計算することである。
【0051】
図3は、本発明のさらなる実施形態に従って、医学上の問題を有さない試験集団を用いて、被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための方法を例示するフローチャートである。プロセス301において、被験体の静的視力は、図2に関して記載されたように評価される。次いで、302において、被験体の動的視力の少なくとも2つの局面(例えば、被験体の頭部が動いており、かつ、表示対象物が固定されている場合の被験体の視力の測定値、被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物が動いている場合の被験体の視力の測定値、被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物が非連続的に動いている場合の被験体の視力のい測定値、または、被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物および/もしくはパターン付けされた広い視野バックグランドが連続的もしくは非連続的に動いている場合の被験体の視力の測定値のうちの2つ)が、測定される。被験体の静的視力と、被験体の動的視力の第1の局面との両方に関する第1の量が、プロセス303において計算され、そして、プロセス304において、第1の量は、注視安定化の機能障害を有さない被験体集団から同じように導き出された規範値と比較される。被験体の注視安定化システムの機能障害は、305において、第1の量が、1標準偏差より大きく規範値から変動している場合に決定される。
【0052】
例えば、頭部が動いており/対象物が固定されている場合、頭部が固定されており/対象物が連続的に動いている場合、頭部が固定されており/対象物が非連続的に動いている場合、ならびに/または、頭部が固定されており/対象物およびパターン付けされた広い視野バックグランドが連続的に動いている場合の上記のプロセスの結果は、その注視安定化を制御するシステムの機能に影響を与える医学上の問題を有さないと決定された個体集団を試験することによって得られ得る。先行技術において記載される統計方法を用いて、年齢によりグループ分けされた被験体についての結果の正常範囲を確立し得る。正常範囲を確立するための統計学的な量としては、年齢でマッチングされた集団の、平均、メジアン、標準偏差、および標準誤差が挙げられ得るがこれらに限定されない。次いで、機能障害が、注視安定化の問題を有すると疑われている個体において、区別および定量され得る。このことは、問題が疑われる被験体の、頭部が動いており/対象物が固定されている場合、頭部が固定されており/対象物が連続的に動いている場合、頭部が固定されており/対象物が非連続的に動いている場合、ならびに、頭部が固定されており/対象物およびパターン付けされた広い視野バックグランドが連続的に動いている場合の結果を得ること、ならびに、この疑われる被験体の結果を、適切に年齢でマッチングされた正常範囲の結果と比較することによって達成される。次いで、1以上の統計学的な量が、被験体の注視安定化の機能障害の程度および特徴を決定するために使用され得る。このような統計学的な比較としては、その量について得られる、年齢でマッチングされた正常範囲の平均から、1標準偏差より大きく異なる、異常であるとみなされる測定値の量が挙げられ得るがこれらに限定されない。
【0053】
同様に、頭部が動いており/対象物が固定されている場合、頭部が固定されており/対象物が連続的に動いている場合、頭部が固定されており/対象物が非連続的に動いている場合、ならびに/または、頭部が固定されており/対象物およびパターン付けされた広い視野バックグランドが連続的に動いている場合の上記のプロセスの結果は、その日常生活における、特定の仕事および運動に関連する活動(このような活動としては、航空機を飛ばすこと、動く機械の重い部品を操作すること、サッカー、バスケットボールもしくはテニスをすることが挙げられるがこれらに限定されない)を首尾よく行なうことが知られている個体集団を試験することによって得られ得る。特定の仕事および運動に関連する活動によりグループ分けされた結果の、最小の動作範囲は、先行技術に記載される統計学的方法を用いて、記載された測定値について確立され得る。統計学的な量としては、集団の平均、メジアン、標準偏差、および標準誤差が挙げられ得るが、これらに限定されない。次いで、注視安定化の制限が、同様の仕事および運動に関連する活動を安全かつ効率的に行なう能力を損なっている可能性のある、注視安定化の問題を有すると疑われる個体において、区別および定量され得る。この目的は、動作の制限が疑われる被験体の、頭部が動いており/対象物が固定されている場合、頭部が固定されており/対象物が連続的に動いている場合、頭部が固定されており/対象物が非連続的に動いている場合、ならびに、頭部が固定されており/対象物およびパターン付けされた広い視野バックグランドが連続的に動いている場合の結果を得ること、ならびに、この被験体の結果を、同様の仕事または運動に関連する活動を安全かつ効率的に行なうことが知られる個体集団から得られた結果と比較することによって達成される。次いで、1以上の統計学的な量が、被験体の注視安定化におけるあらゆる動作の制限の程度および特徴を決定するために使用される。このような統計学的な比較としては、その値が、その量について得られた集団の平均値から1標準偏差より多く異なる場合に、異常であるとみなされる測定値の量が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0054】
さらに、特定の仕事および運動に関連する活動は、頭部および視覚的な対象物の動きの最大速度および方向、ならびに、広い視野バックグランドのタイプおよび動きを決定するために、理論的に分析され得る。この活動は、さらに、最低限の容認可能な視力要件を決定するために分析され得る。これらの理論的な値は、次いで、仕事および運動の活動の各々について、頭部が動いており/対象物が固定されている場合、頭部が固定されており/対象物が連続的に動いている場合、頭部が固定されており/対象物が非連続的に動いている場合、ならびに、頭部が固定されており/対象物およびパターン付けされた広い視野バックグランドが連続的に動いている場合の試験の各々についての最小の動作標準を導くために使用される。
【0055】
上記の方法およびデバイスは、被験体が、特定の手が空いている立った状態の平衡タスクもしくは歩行タスクを同時に行いつつ、1以上の視力検査を行なう、さらなる方法およびデバイスと組み合わされ得る。図4は、本発明の別の実施形態に従って、手が空いている立った状態の平衡タスクを採用する、被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして、定量するための方法を例示する、フローチャートである。この実施形態によれば、被験体の静的視力は、401において、評価を獲得するために測定される。被験体は、402において、被験体の視力を測定する間に、少なくとも1種の手が空いている立った状態の平衡タスクを行なうように命令される。手が空いている立った状態の平衡タスクとしては、表示対象物の表示に関して動いている(一定速度もしくは加速のいずれか)少なくとも1つの表面(例えば、トレッドミル)が挙げられ得る。プロセス403において、被験体の頭部が動いており、かつ、表示対象物が固定されている場合の被験体の視力が測定されて、第1の動的測定値を獲得する。次いで、404において、被験体の頭部が固定されており、かつ、表示対象物が動いている場合の被験体の視力が測定されて、第2の動的測定値を獲得する。
【0056】
プロセス402〜404に関して、採用され得る、他の試験の組み合わせとしては、以下が挙げられる:
1)1以上の注視安定化試験を行なっている間に、被験体は、1以上の支持表面上に立っており、そして/または、コンピュータ制御下で、1つ以上の軸の周りで積極的かつ独立して動かされ得る1以上の表面により囲まれている。検出装置は、立っている被験体の動きに関連する1以上の量を測定し、そして、測定値の量が、コンピュータに送信され、そして、コンピュータは、1以上の支持表面および取り囲む表面を被験体の動きに対して機能的な関係で動かす。1つの実施形態において、1以上の迎合的な要素は、手が空いている立った状態の被験体によって与えられる接触力に応答して、1以上の軸の周りで表面を受動的に動かす。
【0057】
注視安定化と、手が空いている立った状態の平衡タスクとを組み合わせる際、1以上の表面は、表示対象物および広い視野バックグランドの提示に対して時間的な関係で(in temporal relation)、連続的な動きを開始させられ得る。表示対象物の提示より十分に前に、表面の動きを開始させることにより、姿勢と注視の安定化の動きを協調させるための十分な時間を提供する。表面の動き、表示対象物の提示、および広い視野バックグランドの動きを時間的に密接した関係で開始させると、対照的に、姿勢および注視の動きの協調のためにはほとんど時間を提供しない。
【0058】
2)1以上の注視安定化試験を行なう間に、被験体は、コンピュータ制御下で、1つ以上の軸の周りで積極的に動かされ得る1以上の表面上に立つ。1つの実施形態において、支持表面は、標的対象物および広い視野バックグランドの提示に対して、時間的な関係で、突然動かされる。再度、表示対象物の提示より十分に前に、表面の動きを開始させることにより、姿勢と注視の安定化の動きを協調させるための十分な時間を提供する。広い視野バックグランドの動きを伴ってか、もしくは伴わずに、表面の動きおよび表示対象物の提示を時間的に密接した関係で開始させると、対照的に、姿勢および注視の動きの協調のためには、被験体にほとんど時間を提供しない。
【0059】
3)1以上の注視安定化試験を行なう間に、被験体は、トレッドミル上を歩行する。トレッドミルベルトは、一定速度で連続的に動き得るか、または、コンピュータの積極的な制御下にあり得る。1つの実施形態によれば、トレッドミルベルトの動きの速度は、表示対象物の提示時間に対して時間的な関係で突然変化する。表示対象物はまた、動く、広い視野バックグランドを備えていても、備えていなくても良い。突然の変化は、固定されたベルトを動かし始める工程、または、動くベルトの速度を突然変化させるか、または、動きを中断させる工程を包含し得る。表現対象物の提示の十分前に開始されるトレッドミルの動きの変化は、被験体に、歩行および注視の安定化の動きを協調させるための十分な時間を提供する。トレッドミルのベルトの動きの変化と、表示対象物の提示とを、時間的に密接した関係で開始させると、対照的に、歩行および姿勢の動きの協調のためには、被験体にほとんど時間を提供しない。
【0060】
次いで、405において、評価、ならびに、第1の動的測定値および第2の動的測定値が、上記の方法の1つ以上に従って、被験体の注視安定化システムの機能障害を決定するために使用される。
【0061】
本発明は、その特定の実施形態と関連して記載されているが、さらなる改変が可能であることが理解される。本願は、本発明のあらゆるバリエーション、使用、または、適応、ならびに、本開示から出発し、本発明の属する分野において公知、もしくは慣習的な実務の範囲内に含まれるようなものを包含することが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、本発明の1つの実施形態に従う、被験体の注視安定化システムの複数の局面を測定するために使用され得るシステムを例示するブロック図である。
【図2】図2は、本発明の別の実施形態に従う、被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための方法を例示するフローチャートである。
【図3】図3は、本発明のさらなる実施形態に従う、医学上の問題を有さない試験集団を採用して、被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための方法を例示するフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の別の実施形態に従う、手が空いている立った状態の平衡タスクを採用して、被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための方法を例示するフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための方法であって、該方法は、以下:
該被験体の静的視力を測定して評価を獲得する工程;
該被験体の頭部が動いており、かつ、表示対象物が固定されている場合に、該被験体の視力を測定して、第1の動的測定値に獲得する工程;
該被験体の頭部が固定されており、かつ、該表示対象物が動いている場合に、該被験体の視力を測定して、第2の動的測定値に獲得する工程;
該評価ならびに該第1の動的測定値および第2の動的測定値を用いて、該被験体の注視安定化システムの機能障害を決定する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記被験体の静的視力を測定して評価を獲得する工程が、該被験体によるタスクの性能のためのパラメータを設定するために該評価を使用する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、さらに、以下:
前記被験体の頭部が固定されており、かつ、前記表示対象物が非連続的に動いている場合に、該被験体の視力を測定して、第3の動的測定を獲得する工程;および
前記評価ならびに、前記第1の動的測定値、前記第2の動的測定値、および該第3の動的測定を用いて、該被験体の注視安定化システムの機能障害を決定する工程
を包含する、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、さらに、以下:
前記被験体の頭部が固定されており、前記表示対象物が動いており、かつ、パターン付けされた広い視野バックグランドが動いている場合に、該被験体の視力を測定し、第4の動的測定値を獲得して、該被験体の注視安定化システムの機能障害を決定する工程
を包含する、方法。
【請求項5】
前記被験体の静的視力を評価する工程が、該被験体が複数回の試行の間に同定し得る最小対象物を決定する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記被験体の頭部が動いており、かつ、前記表示対象物が固定されている場合に、該被験体の視力を測定する工程が、以下:
該被験体の静的視力に対して、該表示対象物のサイズを固定する工程;
該表示対象物が表示される持続時間を、40ミリ秒と100ミリ秒との間に固定する工程;および
該被験体が、複数回の試行にわたり、該表示対象物を正確に同定し得る、該頭部の最大運動速度を決定する工程
を包含する、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、前記被験体の頭部が固定されており、かつ、前記表示対象物が連続的に動いている場合に、該被験体の視力を測定する工程が、以下:
該被験体の静的視力に対して、該表示対象物のサイズを固定する工程;および
該表示対象物が表示される持続時間を、40ミリ秒と100ミリ秒との間に固定する工程;および
該被験体が、複数回の試行にわたり、該表示対象物を正確に同定し得る、該表示対象物の最大運動速度を決定する工程
を包含する、方法。
【請求項8】
前記表示対象物が、約75ミリ秒間表示される、請求項6または7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記被験体の頭部が固定されており、かつ、前記表示対象物が連続的に動いている場合に、該被験体の視力を測定する工程が、以下:
パターン付けされた広い視野バックグランドを表示する工程;および
該パターン付けされた広い視野バックグランドを動かす工程
を包含する、方法。
【請求項10】
請求項3に記載の方法であって、前記被験体の頭部が固定されており、かつ、前記表示対象物が非連続的に動いている場合に、該被験体の視力を測定する工程が、以下:
該被験体の静的視力に対して、該表示対象物のサイズを固定する工程;
該表示対象物が表示される持続時間を、約90ミリ秒に固定する工程;
40ミリ秒と100ミリ秒との間、該被験体に、中央のマーカーに向かって注視するよう方向付ける工程;
該表示対象物を、該中央のマーカーに対して所定の位置に現れさせる工程;および
該被験体が、複数回の試行にわたり、該表示対象物を正確に同定し得る、該中央のマーカーからの最大距離を決定する工程
を包含する、方法。
【請求項11】
約75ミリ秒にわたって、前記被験体に、中央のマーカーに向かって注視するよう方向付ける、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記表示対象物を前記中央のマーカーに対して所定の位置に現れさせる工程が、該表示対象物を該中央のマーカーから固定された距離に現れさせる工程を包含する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記表示対象物を前記中央のマーカーに対して所定の位置に現れさせる工程が、該表示対象物を該中央のマーカーから種々の距離に現れさせる工程を包含する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記被験体の静的視力を測定する工程が、Snellen視力表を用いる工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記被験体の静的視力を測定する工程が、Tumpling E視力表を用いる工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法であって、さらに、以下:
前記被験体の視力を測定している間に、該被験体に、少なくとも1種の手が空いている立った状態の平衡タスクを実行するように命令する工程
を包含する、方法。
【請求項17】
前記被験体に、少なくとも1種の手が空いている立った状態の平衡タスクを実行するように命令する工程が、該被験体に、前記表示対象物の表示に対して動いている少なくとも1つの表面上に立つように命令する工程を包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、さらに、以下:
前記表面の運動に対して、パターン付けされた広い視野バックグランドを動かす工程
を包含する、方法。
【請求項19】
前記表面が、前記表示対象物の表示に対して非連続的に動いている、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記表面が、床反力計である、請求項16、17または18のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記表面が、トレッドミルである、請求項16、17または18のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記トレッドミルに関する速度が一定である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記トレッドミルに関する速度が、変動させられる、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記被験体に、少なくとも1種の手が空いている立った状態の平衡タスクを実行するように命令する工程が、該被験体に、ビジュアルサラウンドに囲まれている間に、少なくとも1種の手が空いている立った状態の平衡タスクを実行するように命令する工程を包含する、請求項16、17または18に記載の方法。
【請求項25】
被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための方法であって、該方法は、以下:
該被験体の静的視力を評価する工程;
該被験体の動的視力の少なくとも2つの局面を測定する工程;
該被験体の静的視力と、該被験体の動的視力の第1の局面との両方に関して、第1の量を計算する工程;
該第1の量を、注視安定化の機能障害を有さない個体集団から、同じように導き出された、規範値と比較する工程;および
該第1の量が、該規範値から、1標準偏差より大きく変動している場合に、該被験体の注視安定化システムの機能障害を決定する工程
を包含する、方法。
【請求項26】
前記被験体の動的視力の複数の局面を測定する工程が、以下:
該被験体の前庭眼反射システム;
該被験体の円滑追跡眼球運動システム;
該被験体の視線運動性の眼球運動システム;および
該被験体の衝動性眼球運動システム;
のうちの2つ以上に関する、該被験体の動的視力の局面を測定する工程を包含する、請求項14または15のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法であって、さらに、以下:
前記被験体の静的視力および該被験体の動的視力の第2の局面に関する第2の量を計算する工程;
該第2の量を、注視安定化の機能障害を有さない個体集団から同じように導き出された規範値と比較する工程;ならびに
該第2の量が、該規範値から、1標準偏差より大きく変動している場合に、該被験体の注視安定化システムの第2の機能障害を決定する工程
を包含する、方法。
【請求項28】
被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための方法であって、該方法は、以下:
該被験体の静的視力を評価する工程;
該被験体の頭部が動いており、かつ、表示対象物が固定されている場合に、該被験体の視力を測定して、該被験体の静的視力に対する第1の関係を決定する工程;
該被験体の頭部が固定されており、かつ、該表示対象物が連続的に動いている場合に、該被験体の視力を測定して、該被験体の静的視力に対する第2の関係を決定する工程;
該被験体の頭部が固定されており、かつ、該表示対象物が非連続的に動いている場合に、該被験体の視力を測定して、該被験体の静的視力に対する第3の関係を決定する工程;
該被験体の頭部が固定されており、該表示対象物が連続的に動いており、かつ、パターン付けされた広い視野バックグランドが連続的に動いている場合に、該被験体の視力を測定して、該被験体の静的視力に対する第4の関係を決定する工程;および
該被験体の注視安定化システムの機能障害が、対象物を追跡する能力を減損させる程度を、該被験体の、該第1の関係、該第2の関係、該第3の関係、および該第4の関係に基づいて決定する工程
を包含する、方法。
【請求項29】
被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして、定量するための方法であって、該方法は、以下:
該被験体の静的視力を測定して、評価を獲得する工程;
該被験体が連続的に動く支持表面上に立っており、該被験体の頭部が動いており、かつ、表示対象物が固定されている場合に、該被験体の視力を測定して、第1の動的測定値を獲得する工程;
該被験体が連続的に動く支持表面上に立っており、該被験体の頭部が固定されており、かつ、該表示対象物が動いている場合に、該被験体の視力を測定して、第2の動的測定値を獲得する工程;ならびに
該評価、ならびに、該第1の動的測定値および該第2の動的測定値を用いて、該被験体の注視安定化システムの機能障害を決定する工程
を包含する、方法。
【請求項30】
被験体の注視安定化システムの機能障害を孤立させ、そして定量するための方法であって、該方法は、以下:
該被験体の静的視力を測定して、評価を獲得する工程;
該被験体が非連続的に動いている支持表面上に立っており、該被験体の頭部が動いており、かつ、表示対象物が固定されている場合に、該被験体の視力を測定して、第1の動的測定値を獲得する工程;
該被験体が非連続的に動いている支持表面上に立っており、該被験体の頭部が固定されており、かつ、該表示対象物が動いている場合に、該被験体の視力を測定して、第2の動的測定値を獲得する工程;ならびに
該評価、ならびに、該第1の動的測定値および該第2の動的測定値を用いて、該被験体の注視安定化システムの機能障害を決定する工程
を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−535377(P2007−535377A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511005(P2007−511005)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/014797
【国際公開番号】WO2005/104793
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(502252459)ニューロコム インターナショナル インコーポレイテッド (2)