説明

洗濯機

【課題】磁界の漏洩がない磁気回路を形成して磁気粘性流体の粘性変化の安定化を図り、所期の減衰力を発揮できるサスペンションを備えた洗濯機を提供する。
【解決手段】筐体内に水槽を上下方向に防振支持するサスペンションを、コイルばね、シリンダおよび該シリンダ内を往復動するシャフトと、前記シャフト周りに隙間を介して設けた磁場発生装置と、前記隙間に充填された磁気粘性流体と、前記隙間の上下端部を封鎖する封止部材と、前記シャフトを往復動可能に軸支する軸受部材とを備える。前記磁場発生装置は、コイルと該コイルの上下部に配置されたヨークを有する。前記コイルへの通電に伴い該コイル周りのシャフト、ヨーク、シリンダ等の部材を介した磁気回路を形成して前記磁気粘性流体に磁界を印加するとともに、前記磁気回路に隣接する前記封止部材又は軸受部材、或は両部材を非磁性体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水槽をサスペンションにより防振支持した洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばドラム式洗濯機では、内部に回転可能なドラムを備えた水槽は、筐体の底部に複数のサスペンションにより弾性的に支持され、ドラムの回転に伴う振動を低減する減衰機能を発揮するようにしている。そして、サスペンションとしては、例えば磁場の強度によって粘度が変化する磁気粘性流体(MR流体)を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のように磁気粘性流体は、磁界を与えることで該流体の粘度を可変制御可能であることから、最近では洗濯機のサスペンションとして採用され、上記水槽の振動に伴う上下動(往復動)するシャフトに対して、上記磁気粘性流体を接触させ、その粘性によりシャフトの上下動を抑制する抵抗(摩擦力)として機能させることで、水槽の振動振幅を減衰するようにしている。この減衰作用により、運転時における振動を速やかに減衰し、低振動、低騒音の洗濯機を提供しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−57766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述の磁気粘性流体に磁界を与えるべく磁気回路を形成するために、コイルやヨークなどからなる磁場発生装置を設けている。この磁場発生装置から発生する磁界が本来の磁気回路を外れて、その周辺の隣接する部材に漏洩するようなことがあれば、磁気粘性流体の粘性度合が不安定となり適確に制御することが困難となる。その結果として、サスペンションとして所期の減衰力が得られず、洗濯機の異常振動や騒音を招くことになる。そこで、磁界の漏洩がない磁気回路を確保でき、磁気粘性流体の粘性変化を安定化し、所期の減衰力を発揮できるサスペンションを備えた洗濯機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の洗濯機によれば、筐体内に水槽を上下方向に防振支持するサスペンションを、コイルばね、筒状のシリンダおよび該シリンダ内を往復動するシャフトと、前記シャフト周りに隙間を介して設けた磁場発生装置と、前記隙間に充填された磁気粘性流体と、前記隙間の上下端部を封鎖する封止部材と、前記シャフトを往復動可能に軸支する軸受部材とを備える。前記磁場発生装置は、コイルと該コイルの上下部に配置されたヨークを有する。前記コイルへの通電に伴い該コイル周りのシャフト、ヨーク、シリンダ等の部材を介した磁気回路を形成して前記磁気粘性流体に磁界を印加するとともに、前記磁気回路に隣接する前記封止部材又は軸受部材、或は両部材を非磁性体とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】サスペンション単体の一実施形態を示す縦断面図
【図2】サスペンションの一部構成を拡大して示す縦断面図
【図3】ドラム式洗濯機に適用した洗濯機全体構造の概要を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、ドラム式洗濯機に適用した実施形態につき、図1ないし図3を参照して説明する。まず、図3に示すドラム式洗濯機(以下、単に洗濯機という)は、乾燥機能付の洗濯機で、その全体構造につき説明する。外殻を形成する箱状の筐体1の前面部(図示右側)のほぼ中央部には、洗濯物出入口2を形成し、該出入口2を開閉する扉3を設けている。また、筐体1の前面部の上部には、操作パネル4を設けており、その裏側に運転制御用の制御装置5を設けている。
【0009】
筐体1の内部には、水槽6を配設している。この水槽6は、軸方向を前後とする横軸円筒状をなし、筐体1の底板1a上に長手方向を上下方向とした左右一対(一方のみ図示)のサスペンション7(詳細は後述する)によって前上がりの傾斜状態に弾性支持されている。
【0010】
水槽6の背面部には、モータ8を取付けている。このモータ8は、例えば直流のブラシレスモータからなるもので、アウターロータ形であり、そのロータ8aの中心部に取付けた図示しない回転軸を、軸受ブラケット9を介して水槽6の内部に挿通し、後述するドラム10の背面部の中央部に連結している。
【0011】
前記ドラム10は、水槽6内部に配設され洗濯物を収容する洗濯槽として機能し、その軸方向を前後となす横軸円筒状をなすもので、前記した如くモータ8の回転軸と連結されて水槽6と同軸状の前上がりの傾斜状態に支持されている。その結果、ドラム10はモータ8によりダイレクトに駆動されて横軸周りに回転し、該モータ8はドラム10を回転させるドラム駆動装置として機能する。
【0012】
また、ドラム10の周側部(胴部)には、通水および通風可能な小孔11を全域にわたって多数形成しており、これに対し水槽6はほぼ無孔状をなし貯水可能な構成としている。これら、ドラム10および水槽6は、共に前面部に開口部12,13を有しており、そのうちの水槽6の開口部13と前記洗濯物出入口2との間に、環状のベローズ14が装着されている。これにより、洗濯物出入口2は、ベローズ14、水槽6の開口部13、およびドラム10の開口部12を介して、ドラム10の内部に連なる形態としている。なお、貯水可能な水槽6の最低部位には、途中に排水弁15を介して排水管16を接続し、機外に排水可能としている。
【0013】
ここで、前記した乾燥機能の構成について説明すると、この水槽6の背面側から上方および前方にわたって、乾燥ユニット17を設けている。この乾燥ユニット17は、送風装置19、加熱装置20、および図示しない除湿手段等を備えた循環ダクト18から構成され、乾燥運転時に水槽6内から排出された空気中の水分を除湿し、次いで加熱して、所謂乾燥風を生成し、水槽6内に戻すことを繰り返す循環を行ない、回転駆動されたドラム10内の洗濯物を乾燥させるようにしている。
【0014】
そして、前記したサスペンション7の具体構造につき、図1,2も加えて説明する。サスペンション7は、その概略構成として図3に示したように前記筐体1と水槽6との間に連結して設けられ、具体的には筐体1の底板1aが有する取付板21側に取付けた円筒状のシリンダ22と、前記水槽6が有する取付板23側に取付けたシャフト24と、該シャフト24とシリンダ22間に装着されたコイルばね25を備えた構成としている。このように、サスペンション7を筐体1内に取り付けるための具体構造として、図1に示すように鉄製のシリンダ22の下端部にシリンダ連結部22aを被着しており、この連結部22aを図3に示す底板1aの取付板21にゴムなどの弾性座板26等を介してナット27で締結することにより、該シリンダ22を底板1a側の取付板21に取付固定している。
【0015】
一方、シャフト24は、シリンダ22の内部(詳細は後述する)に挿入されるシャフト主部24aと、その上端部に一体的に連結されたシャフト連結部24bとから構成されていて、少なくともシャフト主部24aは鉄製の磁性体としている。しかして、上記連結部24bを水槽6の取付板23に同様の弾性座板28等を介してナット29で締結することにより、該シャフト24を水槽6の振動に追従して一体的に上下方向等に振動する連結構成としている。
【0016】
なお、コイルばね25の取付構造の詳細は後述するとして、ここでは概述すると、図1に示すように下端部がシリンダ22の上端部に支持され、上端部がシャフト22の上部に配置された円板状のばね受け板30に受け止められ、弾発力が蓄積した状態に装着されている。つまり、シャフト24をシリンダ22から上方たる外方に引き出すように付勢した状態に張設されている。
【0017】
次いで、前記シリンダ22の内部構造について、図1,2を参照して述べると、まず概略的に説明すると、シリンダ22内には前記シャフト24を直線的に往復動(上下動)可能に軸支する軸受部材を有する。該軸受部材は、上,下部に離間して配置された軸受手段を固定的に設けた構成にあって、この上,下部の軸受手段に挟まれる中間部位に後述する磁気粘性流体および磁場発生装置として機能するコイルやヨークなどを配置した構成としている。
【0018】
そこで、まず下部の軸受手段を中心に具体構成につき述べると、これは図1に示すようにシリンダ22内の上下方向のほぼ中間部に位置して、環状たる中空筒状をなす下部の軸受保持部材31が収容固定されている。この軸受保持部材31は、例えばアルミニウム製の非磁性体からなり、その外周部には周方向に延びる溝部32が形成されていて、シリンダ22の周壁部のうちの前記溝部32に対応する部分を内方へ突出するようにしてかしめることにより、軸受保持部材31をシリンダ22内に固定している。
【0019】
この軸受保持部材31の中空の内周部には、シャフト24を軸方向でもある上下方向へ往復動可能に直接支持する環状の軸受33が嵌合固定されている。軸受33は、シャフト24と摺接する滑り軸受として機能するとともに、本実施形態では非磁性体である銅系の焼結含油軸受から構成されている。加えて、軸受保持部材31は、軸受33の保持だけでなく、その上面側に詳細は後述する1個のシール材38cを圧入保持していてシール材保持部材としても機能している。なお、シャフト24の下端部にはストップリング34が装着されていて、該リング34が軸受保持部材31の下面に当接することにより、シャフト24の上方への抜け移動を規制している。
【0020】
これに対し、上部の軸受手段側の具体構成について、特に図2の拡大断面図を参照して述べると、シリンダ22の上端部の内部に、環状たる中空筒状をなす上部の軸受保持部材35が収容固定されている。この軸受保持部材35は、下部の軸受保持部材31と同様にアルミニウム製の非磁性体からなり、その外周下部に溝部36が全周にわたって形成されていて、シリンダ22の周壁部のうちの前記溝部36に対応する部分を内方へ突出させてかしめることにより、該軸受保持部材35をシリンダ22の上端部に固定している。このかしめ手段としては、ローリングかしめにより全周に施している。なお、溝部36には弾性的なOリング37が装着されていて、そのOリング37は、軸受保持部材35の溝部35に対するシリンダ22のかしめにより挟まれて密着状態に保持され、確実に固定するとともにシリンダ22内への水の浸入を防いでいる。
【0021】
そして、この上部の軸受保持部材35は、詳細は後述するが中空内部の上下方向の中間位置に軸受39を嵌合保持するとともに、同内下部に例えば2個のシール材38a,38bを圧入保持するシール材保持部材としても機能し、更に外周側部にはコイルばね25を保持するばね保持部材としても機能するものである。なお、軸受39は、前記した下部側の軸受33と同様に銅系の焼結含油軸受からなる非磁性体にて構成されている。
【0022】
以下、具体的に述べると、まず中空筒状の軸受保持部材35の外側面の形状において、下半部が径大で上半部が径小とする筒状の2段形状をなしている。その径大筒部35aの外側面に、前記したかしめ用の溝部36が形成されている。そして、上半部の径小筒部35bと径大筒部35aとの境に段差部35cを形成している。該段差部35cは、前記コイルばね25の下端部を支持し、且つ径小筒部35bの外側面がコイルばね25の下端内径側と近接して側方から保持する作用をなし、以って軸受保持部材35がばね保持部材としても機能するものである。
【0023】
一方、該軸受保持部材35の内部形状も、径寸法が異なる複数段階の形状をなしていて、前記径大筒部35aに対応する位置の径大内部35dには、2個のシール材38a,38bを上下に重ねるようにして圧入保持している。ここで、シール材38a,38bの具体構成につき述べると、該図2から明らかなように、シール用のリップを有するゴム製の本体49に金属環50をインサート成形した、所謂ばねなしのオイルシールに相当するもので、ただ金属環50は通常鉄製であるのに対し、本実施形態では例えばアルミニウム製の非磁性体としている。このシール材38a,38bは、前記した下部の軸受保持部材31に保持され対向配置されたシール材38cと共通のオイルシールを採用している。なお、3個のシール材38a,38b,38cを総称して封止部材38と称して説明する。
【0024】
上記径大内部35dの上部に連続して、これより径小とする径小内部35eを形成しており、該径小内部35eに前記した筒状の軸受39が圧入保持されている。なお、この径小内部35eは、軸受保持部材35のほぼ中間位置にあって該軸受39を上方への抜け止めを兼ねた段差部を形成するように更に径小とする挿通孔35fを形成しており、該挿通孔35fはシャフト24を往復動可能に挿通している。
【0025】
しかして、シリンダ22内に挿通されたシャフト24は、上,下部の軸受保持部材35,31に圧入保持された軸受39,33に軸支され、および封止部材38たる共通の3個のシール材38a,38b,38cに水密に摺接した状態で往復動可能に設けられる。
【0026】
なお、上記の如く前記軸受部材として、上,下部の軸受手段につき述べたように,下部の軸受保持部材35,31と、これら軸受保持部材35,31に保持された軸受39,33とを備えた構成からなるものである。
【0027】
そして、上記した上,下部の軸受手段の間に挟まれるように磁場発生装置40が設けられている。この磁場発生装置40は、詳細は後述するが基本的にはシャフト24周りに巻装され磁場(磁界)を発生するコイル41と、該コイル41の上下部に設けられた鉄製で円筒状のヨーク42とを有した構成にあって、コイル41に通電されると、該コイル41周りに上,下部のヨーク42を介して磁束が通る磁気回路Aを形成するものである。
【0028】
この磁場発生装置40は、本実施形態では図1,2に示すように、コイル41が上下2段に配置され、中空円筒状のボビン43に夫々巻装され、該ボビン43の中心部の中空部に挿通されたシャフト24の外周面との間に筒状の隙間Gを形成するようにしている。すなわち、より具体的に述べると、ボビン43は実質的に同一構成の上,下部に配置されたボビン43a,43bからなり、その上部のボビン43aには上部のコイル41aが巻装され、該コイル41aの上部にヨーク42a、および下部に相当する位置に中間部のヨーク42bを配置した構成としている。
【0029】
下部コイル41b側においても実質的に上記同様の構成にあって、下部ボビン43bに下部コイル41bが巻装され、その上部に前記中間部のヨーク42bが位置し、下部に下部のヨーク42c(図1参照)を配置した構成としている。なお、前記コイル41aと41bとは直列に接続されるとともに、円筒状のヨーク42(総称的には単にヨーク42と称して説明)の中空部は、やはりシャフト24の外周面との間に狭小の隙間(例えば、0.4mm程度)を有し、前記ボビン43(総称的には単にボビン43と称して説明)にて形成された隙間と連通して上下方向に延びる円筒状の隙間Gを構成している。
【0030】
このように、ボビン43に巻装したコイル41(総称的には単にコイル41と称して説明)の上下部(含む中間部)にヨーク42を配置した状態で、例えば熱可塑性樹脂(ナイロン、PBT、PET、PP等)により樹脂モールド(樹脂モールド部44)して一体化構成とし、以って磁場発生装置40を構成している。従って、この磁場発生装置40はシャフト24周りに隙間Gを形成するとともに、磁場発生装置40の上,下端部に配置されたシール材38bおよび38cにより、該隙間Gの上下端部は封鎖される。この場合、最上部のシール材38aは、上記隙間Gの封鎖を2重にして確実にするとともに、上部の軸受39側からの水の浸入を防止する。
【0031】
この隙間Gには、特に図2に明示するように磁気粘性流体45が充填される。この磁気粘性流体45は、電気的エネルギーの印加により粘性が変化する流体で、磁界(磁場)の強度に応じて粘性特性が変化する。なお、磁気粘性流体45は、例えばオイルの中に鉄、カルボニル鉄などの強磁性粒子を分散させたものであり、磁界が印加されると強磁性粒子が鎖状のクラスタを形成することで見かけ上の粘度が上昇する特性を有する。なお、この磁気粘性流体45の充填は、当然ながらシャフト24に上記した磁場発生装置40等の部材が挿入され、隙間Gが形成された状態で、図示しない注入口から注入して封入される。
【0032】
そして、上記構成の磁場発生装置40をシリンダ22内に組み込み固定するには、シャフト主部24aに下部軸受手段を構成し軸受33等を保持する軸受保持部材31、磁場発生装置40、上部軸受手段を構成し軸受39等を有する軸受保持部材35等の部材を順次組み込み、ここで上記した隙間Gに磁気粘性流体45を注入する。この後、これら構成部材をシリンダ22内に挿入する。所定位置まで挿入した状態で、各軸受保持部材31,35に形成された溝部32,36に対し、シリンダ22を内方に突出するかしめ加工を行なうことで、これら部材を一体的に固定することができる。なお、シリンダ22の下部には、連結部材22aで閉鎖された空洞部48が形成され、シャフト24の下方への移動を許容するスペースを確保する。
【0033】
続いて、サスペンション7として組立てるには、次にシリンダ22の上端部である上部の軸受保持部材35の段差部35cにコイルばね25の下端部を支持し、該コイルばね25の上端部をシャフト主部24aの上端部に設けた円板状のばね受け板30にて受け止めるようにして、連結部材24bをシャフト主部24aに連結する。この場合、コイルばね25は圧縮され弾発力が蓄積した状態に装着される。
【0034】
このように構成されたサスペンション7は、前記した如く筐体1の底板1aと水槽6との間において、図3に示すように水槽6側にシャフト24およびコイルばね25が位置し、筐体1側にシリンダ22が位置した状態で、水槽6の左右両側に配置され弾性的に連結支持される。また、上,下部のコイル41a,41bから夫々引出された2本のリード線46は、中間部のヨーク42b部分を利用して引き出され、シリンダ22に被着したブッシュ47を介して外部に導出され、図示しない駆動回路を介して制御装置5に接続され、磁場発生装置40のコイル41への通断電制御を可能としている。
【0035】
なお、図2中に示す破線矢印A1,A2は、コイル41a,41bへの通電に伴い該コイル41a,41b周りに発生する磁気回路を示すとともに、その磁界の流れ方向を示したもので、総称的には磁気回路Aと称して説明する。すなわち、コイル41a側の磁気回路A1は、シャフト24→隙間G→上部のヨーク42a→シリンダ22→中間部のヨーク42b→隙間G→シャフト24に至る経路にて形成される。
【0036】
同様に、コイル41b側の磁気回路A2は、シャフト24→隙間G→下部のヨーク42c→シリンダ22→中間部のヨーク42b→隙間G→シャフト24に至る経路にて形成される。このように、磁気回路Aを構成するシャフト24、ヨーク42、シリンダ22の各部材は、いずれも鉄製の磁性体にて形成されている。
【0037】
次に、上記構成の洗濯機の作用について述べる。
本実施形態の横軸周りのドラム10を備えた洗濯機では、洗い、すすぎ、脱水、および乾燥の各行程において、制御装置5がドラム10を夫々適正な回転速度にて駆動制御することで運転が実行される。そして、ドラム10内に収容された洗濯物による偏荷重などに起因してドラム10が振動し、弾性的に支持された水槽6は上下方向を主体に振動する。この水槽6の上下振動に応動して、サスペンション7では、水槽6に一体的に連結されたシャフト22を介してコイルばね25を伸縮させ、該シャフト24はシリンダ22内を上下方向に振動(往復動)する。上記コイルばね25は、その伸縮作用により振動を吸収して筐体1(底板1a)側への振動伝達を効果的に阻止する。
【0038】
上記振動に対し、磁気粘性流体45および封止部材38がシャフト24と摺接する摩擦力により、速やかに減衰する作用を発揮する。すなわち、隙間Gに充填された磁気粘性流体45は、その粘性によりシャフト24の上下方向の往復動に対する摩擦抵抗として機能し、水槽6の振動振幅を減衰する作用をなす。
【0039】
一方、封止部材38として上部に2個のシール材38a,38b、下部に1個のシール材38cを備え、各シール用のリップがシャフト24の外周面に摺接し、相当の摩擦力が得られることから、これが減衰作用として有効に機能する。この減衰力は、磁気粘性流体45の通電異常による制御不能などの不測の事態が生じても、最低限の摩擦力として固定的に発生し減衰作用が得られるもので、大きな異常振動や異常運転に至るのを回避するのに有効である。
【0040】
しかも、ドラム10を回転駆動する運転時には、磁場発生装置40を構成するコイル41に通電されて磁場が発生する。これにより、上下の2段に配置した各コイル41a,41bの周りに磁気回路A1,A2が形成され、そのうちの特に磁束密度の高い各ヨーク42a,42b,42cとシャフト24との間にあっては、隙間Gを狭小としていることも相俟って、該部位において磁界が与えられた磁気粘性流体45は、その粘度が急速に高められ、シャフト24の上下方向の往復動に対する摩擦抵抗が増大し、結果として水槽6の振動振幅を速やかに減衰する。また、コイル41は、上下の2段にコイル41a,41bを設けたので、磁界を隙間Gの計4箇所で印加することができ、磁気粘性流体45の粘性変化を大きくできることから、それだけ通電制御が容易で確実にできる。
【0041】
殊に、脱水運転ではドラム10を高速回転し、その共振点付近では水槽6の振動も大きくなる傾向にある。そこで、磁気粘性流体45の制御手段として、例えばドラム10が共振回転速度に達するときにコイル41に通電する制御(含む電流値の可変制御)としたり、或は振動検出手段を設け、その検出結果に応じて通電制御するようにすることで、サスペンション7による減衰性能を高めることができる。
【0042】
ところで、磁気回路Aを構成する部材たるシャフト24やヨーク42などに隣接する部材は、いずれも前記したように非磁性体から構成されている。すなわち、本実施形態に言う隣接部材としては、上,下部の軸受保持部材35,31、およびこれら軸受保持部材35,31に保持された上部2個、下部1個のシール材38a,38b,38c(封止部材38)と、軸受部材を構成する軸受39,33が相当する。従って、磁気回路Aを流れる磁界が、該回路Aの周辺における隣接部材を介して不要な部分に漏洩することを防止でき、安定した減衰力のもとに的確な制御を可能としている。
【0043】
以上説明したように上記実施形態の洗濯機によれば、内部に回転ドラム10を有する水槽6を防振支持するサスペンション7にあって、該サスペンション7は、筐体1と水槽6との間に連結して設けられたコイルばね25、シリンダ22および該シリンダ22内を往復動するシャフト24と、シリンダ22内にシャフト24周りに筒状の隙間Gを介して設けた磁場発生装置40と、隙間Gに充填され磁界の印加により粘性が変化する磁気粘性流体45と、該磁気粘性流体45が充填された隙間Gの上下端部を封鎖する封止部材38と、前記磁場発生装置40の上下部に配置され前記シャフト24を往復動可能に軸支する軸受部材とを備え、前記磁場発生装置40は、前記シャフト24周りに巻装されたコイル41と該コイル41の上下部に設けられたヨーク42とを有し、コイル41への通電に伴い該コイル41周りのシャフト24、ヨーク42、シリンダ22等の部材を介した磁気回路Aを形成し、前記隙間に充填された磁気粘性流体に磁界を印加するとともに、前記磁気回路Aに隣接する前記封止部材38又は軸受部材、或は両部材を非磁性体からなる構成とした。
【0044】
上記構成のサスペンション7としたことで、磁気回路Aの経路中の隙間Gに位置する磁気粘性流体45は、磁界の印加を受けて粘性を急速に変化させる(高める)ことができ、該サスペンション7を通して受ける水槽6の振動振幅を速やかに減衰することができる。しかも、周辺の隣接部材である軸受部材および封止部材38の非磁性化を図ることで、本来の磁気回路Aから上記隣接部材へ漏洩する磁束を軽減或は皆無にすることが可能となり、磁気粘性流体45による安定した所期の減衰力が期待でき、それだけ水槽6の振動に対応した的確な制御が可能で、低振動で低騒音の洗濯機を提供できる。
【0045】
なお、前記軸受部材は、本実施形態ではシャフト24と摺接する上部の軸受39と、該軸受39を保持する上部の軸受保持部材35、および下部における軸受33と、該軸受33を保持する下部の軸受保持部材31とから構成したが、そのうち、軸受39,33は銅系の焼結含油軸受を採用し、また軸受保持部材35,31はアルミニウム製とし、いずれも非磁性体からなる構成とした。従って、本実施形態のように軸受部材の構成部材を全てを非磁性体とすることで、磁界(磁束)の漏洩防止に対し最も効果的に機能する。ただし、これに限らず、構成部材の一部を非磁性体としても漏洩防止に有効である。
【0046】
また、前記封止部材38は、本実施形態では隙間Gの上下端部から磁気粘性流体45の漏洩を防止するなどの水密構造として、上部2個のシール材38a,38bと、これらシール材38a,38bを保持するシール材保持部材として機能する上部の軸受保持部材35、および下部のシール材38cと、これを保持するシール材保持部材として機能する下部の軸受保持部材31とから構成した。その全ての封止部材38は、ゴム製本体49にインサートした金属環50をアルミニウム製とする非磁性体からなる構成とした。
【0047】
従って、本実施形態のように封止部材38を構成するシール材38a,38b,38cの全てを非磁性体としたので、磁気回路Aからの磁界(磁束)の漏洩防止に対し最も効果的に機能する。ただし、これに限らず、封止部材38の全数ではなく一部(例えば、2個のシール材38b,38c)を非磁性体とすることでも有効であるとともに、更には上部のシール材38a,38bは、例えば磁気粘性流体を封鎖する1個のシール材を設ける構成としても良い。
【0048】
つまり、封止部材38の個数の増減は、本来の磁気粘性流体45の漏洩防止を主とするとともに、シャフト24との固定的に得られる摩擦抵抗(減衰力)を考慮し、更には上部の軸受39側からの水の浸入を防止するなどを考慮した仕様とすれば良い。その他、封止部材38は、シール用のリップをばね付のオイルシール構成としても良いし、シール材保持部材は軸受保持部材と兼用した構成に限らず、専用のシール材保持部材を設けた構成としても良いなど、シール材や軸受部材などの配置構成に応じて種々変形して実施可能である。
【0049】
なお、上記実施形態では横軸周りのドラムを備えたドラム式洗濯機に適用して述べたが、これに限らず、例えば縦軸周りに回転可能な脱水槽を兼用した洗濯槽を有し、その縦軸状に有底筒状の水槽を備えた、所謂縦型の洗濯機でも適用可能である。
また、磁場発生装置を構成するコイルは2個設けて上下の2段配置としたが、例えば1個のコイル構成としても良く、この場合、当然該コイルの上下部に配置するヨークは2個とする磁場発生装置が構成される。
【0050】
その他、上記実施形態では、筒状のシリンダ内をシャフトが往復動する構成としたが、これに限らず、例えばシリンダ側を水槽側に取り付け、シャフト(コイルばね)側を筐体底部に取り付けた連結構造としても良く、この場合、水槽に応動してシリンダ側が往復動するが、シャフトはシリンダに対し相対的に往復動する構成となり、斯かる構成でも上記実施形態と実質的に同様の作用効果が期待できる。
【0051】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略,置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
図面中、1は筐体、6は水槽、7はサスペンション、10はドラム(洗濯槽)、22はシリンダ、24はシャフト、25はコイルばね、31,35は軸受保持部材(シール材保持部材)、33,39は軸受、38は封止部材、38a,38b,38cはシール材、40は磁場発生装置、41(41a,41b)はコイル、42(42a,42b,42c)はヨーク、および45は磁気粘性流体を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に回転可能な洗濯槽を有する水槽を上下方向に防振支持するサスペンションにあって、
前記サスペンションは、筐体と前記水槽との間に連結して設けられたコイルばね、筒状のシリンダおよび該シリンダ内を往復動するシャフトと、
前記シリンダ内に前記シャフト周りの隙間を介して設けた磁場発生装置と、
前記隙間に充填され磁界の印加により粘性が変化する磁気粘性流体と、
前記磁気粘性流体が充填された隙間の上下端部を封鎖する封止部材と、
前記磁場発生装置に隣接配置され前記シャフトを往復動可能に軸支する軸受部材とを備え、
前記磁場発生装置は、シャフト周りに巻装されたコイルと該コイルの上下部に設けられたヨークとを有し、コイルへの通電に伴い該コイル周りのシャフト、ヨーク、シリンダ、等の部材を介した磁気回路を形成し、前記隙間に充填された磁気粘性流体に磁界を印加するとともに、
前記磁気回路に隣接する前記封止部材又は軸受部材、或は両部材を非磁性体からなる構成としたことを特徴とする洗濯機。
【請求項2】
軸受部材は、シャフトと摺接する軸受と、該軸受を保持する軸受保持部材とから構成し、そのうち軸受保持部材を非磁性体としたことを特徴とする請求項1記載の洗濯機。
【請求項3】
軸受部材は、シャフトと摺接する軸受と、該軸受を保持する軸受保持部材とから構成し、そのうち軸受を非磁性体としたことを特徴とする請求項1又は2記載の洗濯機。
【請求項4】
封止部材は、磁気粘性流体の漏洩を防止するシール材と、該シール材を保持するシール材保持部材とから構成し、そのうちシール材保持部材を非磁性体としたことを特徴とする請求項1記載の洗濯機。
【請求項5】
封止部材は、磁気粘性流体の漏洩を防止するシール材と、該シール材を保持するシール材保持部材とから構成し、そのうちシール材を非磁性体としたことを特徴とする請求項1又は4記載の洗濯機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−50779(P2012−50779A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197697(P2010−197697)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】