説明

活性アルミナ成形体の製造方法

【課題】マクロ細孔の容積が大きい活性アルミナ成形体を、焼成温度を所望の比表面積が得られる温度に任意に設定しながら、安価に得ることができる、活性アルミナ成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の活性アルミナ成形体の製造方法は、バイヤライトを含む再水和活性アルミナ成形体を、150℃以上の飽和水蒸気雰囲気下で保持する飽和水蒸気処理を施した後に焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロ細孔容積が大きい活性アルミナ成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、活性アルミナ成形体は、乾燥剤、吸着剤、触媒、触媒担体などとして利用されているが、その際、高い性能を発揮させるには、細孔半径が0.3μm以上である、いわゆるマクロ細孔の容積が大きい活性アルミナ成形体を用いることが望ましい。
【0003】
そこで、これまでに、マクロ細孔の容積が大きい活性アルミナ成形体の製造方法として、再水和性アルミナ粉末および焼成時に焼失しうる有機起孔剤を水と混練し、賦形し、焼成する方法が開発されており、具体的には、有機起孔剤として、繊維状有機物を用いる方法(特許文献1)や、ポリメタクリル酸エステルなどのビーズを用いた方法(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭49−6006号公報
【特許文献2】特開平8−245281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に記載の方法のように、有機起孔剤を用いる場合には、通常、ある程度高い温度で焼成する必要があった。焼成温度が高くなるにつれて比表面積は小さくなることから、このように焼成温度が制約されると、用途に応じた所望の比表面積に設計することができないという問題が生じる。また、一部の有機起孔剤には、比較的低温で焼成しうるものもあるが、そのような有機起孔剤は一般に高価であり、コストの高騰を招くことになる。
【0006】
そこで、本発明の課題は、マクロ細孔の容積が大きい活性アルミナ成形体を、焼成温度を所望の比表面積が得られる温度に任意に設定しながら、安価に得ることができる、活性アルミナ成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、バイヤライトを含む再水和活性アルミナ成形体を用い、これに150℃以上の飽和水蒸気雰囲気下で保持する飽和水蒸気処理を施すことにより、成形体中のバイヤライトが溶解してベーマイトに再析出することとなり、その結果、容易にマクロ細孔を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の活性アルミナ成形体の製造方法は、バイヤライトを含む再水和活性アルミナ成形体を、150℃以上の飽和水蒸気雰囲気下で保持する飽和水蒸気処理を施した後に焼成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マクロ細孔の容積が大きい活性アルミナ成形体を、焼成温度を所望の比表面積が得られる温度に任意に設定しながら、安価に得ることができる、という効果がある。
なお、本発明においては、細孔半径が0.3μm以上である細孔をマクロ細孔とする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法においては、まず、バイヤライトを含む再水和活性アルミナ成形体に、150℃以上の飽和水蒸気雰囲気下で保持する飽和水蒸気処理を施す。この飽和水蒸気処理によって、成形体中のバイヤライトが溶解してベーマイトに再析出することとなり、その結果、容易にマクロ細孔を形成できるのである。
【0011】
飽和水蒸気処理に供する前記再水和活性アルミナ成形体は、水和し得るアルミナであり、バイヤライト(バイヤライト相の三水酸化アルミニウム)を含むものである。
このような再水和活性アルミナ成形体は、例えば、ギブサイト型水酸化アルミニウム(例えば、バイヤー法により工業的に得られる三水酸化アルミニウム)を瞬間仮焼して再水和性活性アルミナ粉末を得、これを任意の方法で所望の形状に成形した後、得られた成形体を30〜110℃の条件で再水和することにより、得ることができる。その際、バイヤライトを含有させるためには、成形段階でバイヤライト相水酸化アルミニウムを予め混合しておく方法や、例えば転動造粒で成形する場合には、バイヤライト型水酸化アルミニウムを含有する核に粉末状再水和性アルミナを積層させる方法などで得ることができる。好ましくは、後者のバイヤライト型水酸化アルミニウムを含有する核に粉末状再水和性アルミナを積層させる方法がよい。
【0012】
飽和水蒸気処理に供する前記再水和活性アルミナ成形体のバイヤライト含有率は、5〜60質量%であることが好ましい。飽和水蒸気処理に供する成形体のバイヤライト含有率が5質量%未満であると、バイヤライトからベーマイトへの溶解再析出反応が起こりにくく、高マクロ細孔容積の担体が得られなくなるおそれがあり、一方、60質量%を超えると、マクロ細孔容積が多くなりすぎて飽和水蒸気処理後の強度低下を招くおそれがある。
【0013】
飽和水蒸気処理の処理温度は、150℃以上であることが重要であり、好ましくは150〜180℃である。飽和水蒸気処理の処理温度が150℃未満であると、バイヤライトからベーマイトへの溶解再析出反応が起こりにくく、高マクロ細孔容積の担体が得られない。
【0014】
飽和水蒸気処理の処理時間は、特に制限されないが、通常、10分間〜24時間程度、好ましくは1時間〜10時間程度である。なお、前記飽和水蒸気処理を行う際の飽和水蒸気の圧力は、処理温度での蒸気圧に応じて適宜設定すればよい。
飽和水蒸気処理は、例えば、オートクレーブ等の中で前記処理温度の飽和水蒸気を含む空気と接触させることにより行うことができる。
【0015】
飽和水蒸気処理後の前記再水和活性アルミナ成形体のバイヤライト含有率は、通常、10質量%以下、好ましくは4質量%以下である。飽和水蒸気処理後の成形体のバイヤライト含有率が10質量%を超えると、マクロ細孔の形成が不十分となるおそれがある。
【0016】
また、飽和水蒸気処理後の前記再水和活性アルミナ成形体のベーマイト含有率は、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは20〜60質量%である。飽和水蒸気処理後の成形体のベーマイト含有率が10質量%未満であると、マクロ細孔の形成が不十分となるおそれがあり、一方、80質量%を超えると、成形体の強度が低下するおそれがある。
【0017】
本発明の製造方法においては、前記飽和水蒸気処理後に、焼成を行う。
焼成温度は、得ようとする活性アルミナ成形体の比表面積等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、通常、300〜1000℃、好ましくは500〜900℃とするのがよい。焼成時間は、焼成温度などに応じて設定すればよく、特に制限はないが、一般に、10分間〜100時間、好ましくは1時間〜10時間とするのがよい。
【0018】
焼成の方法は、特に制限はなく、例えば、燃焼ガス、電気ヒーター等による間接加熱、遠赤外線加熱等の公知の方法により実施すればよい。なお、焼成に先立って、飽和水蒸気処理で付着した水分を、自然乾燥、熱風乾燥、真空乾燥等の公知の乾燥方法で予め除去しておくこともできる。
【0019】
かくして得られた焼成後の活性アルミナ成形体は、細孔半径が0.3μm以上であるマクロ細孔の容積が0.1cm3/g以上、好ましくは0.15cm3/g以上である。また、その強度は、通常、1.0daN以上、好ましくは3.0daN以上である。
【0020】
本発明の製造方法によって得られた活性アルミナ成形体の使用形態は、特に限定されず、例えば、そのままの形態で乾燥剤や吸着剤として使用することもできる。また、触媒担体としても有用であり、貴金属等の触媒成分を担持させて触媒として使用することもできる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において得た活性アルミナ成形体は、以下の方法で評価した。
【0022】
<ベーマイト含有率およびバイヤライト含有率>
まず、試料の結晶型は、粉末X線回折装置(理学電機社製)により測定したX線回折(XRD)スペクトルから求めた。
ベーマイト含有率(質量%)は、試料およびこれと略同質量の標準試料(ベーマイト相含有率100%の水酸化アルミニウム粉末)のXRDスペクトルをそれぞれ同条件で求め、試料のベーマイト相(020)面のピーク面積(I1)と、標準試料のベーマイト相(020)面のピーク面積(I10)とから、下記式に基づき算出した。
ベーマイト含有率(質量%)=100×I1/I10
バイヤライトの含有率(質量%)は、試料およびこれと略同質量の標準試料(バイヤライト相含有率100%の水酸化アルミニウム粉末)のXRDスペクトルをそれぞれ同条件で求め、試料のバイヤライト相(001)面のピーク面積(I2)と、標準試料のバイヤライト相(001)面のピーク面積(I20)とから、下記式に基づき算出した。
バイヤライト含有率(質量%)=100×I2/I20
<細孔容積およびマクロ細孔容積>
細孔容積は、ポロシメーター(カンタクローム社製「オートスキャン33型」)を用いて水銀圧入法により半径1.8nm〜100μmの細孔分布を測定し、その合計量から求めた。
マクロ細孔容積は、細孔容積のうち、細孔半径が0.3μm以上の細孔容積の合計量から求めた。
<強度>
硬度試験機にて試料10粒の破壊強度(daN)を測定し、その平均値を求めた。
【0023】
(実施例1)
バイヤライトを48.9質量%含む再水和活性アルミナ成形体を、オートクレーブ中で大気圧下に160℃で飽和水蒸気を含む空気と6時間接触させることにより、飽和水蒸気処理を施した。得られた再水和活性アルミナ成形体は、バイヤライトを0.5質量%、ベーマイトを52質量%含むものであった。次いで、これをアルミナ製坩堝に入れ、電気炉にて800℃まで昇温し、同温度で2時間保持することにより焼成して、活性アルミナ成形体を得た。
得られた活性アルミナ成形体の細孔容積は0.65cm3/g、マクロ細孔容積は0.31cm3/g、マクロ細孔半径は0.79μm、強度は1.0daNであった。
【0024】
(実施例2)
バイヤライトを24.0質量%含む再水和活性アルミナ成形体を、オートクレーブ中で大気圧下に150℃で飽和水蒸気を含む空気と4時間接触させることにより、飽和水蒸気処理を施した。得られた再水和活性アルミナ成形体は、バイヤライトを10質量%、ベーマイトを31質量%含むものであった。次いで、これをアルミナ製坩堝に入れ、電気炉にて800℃まで昇温し、同温度で2時間保持することにより焼成して、活性アルミナ成形体を得た。
得られた活性アルミナ成形体の細孔容積は0.61cm3/g、マクロ細孔容積は0.16cm3/g、マクロ細孔半径は0.40μm、強度は3.9daNであった。
【0025】
(比較例1)
実施例1で用いたのと同様の再水和活性アルミナ成形体(バイヤライトを48.9質量%含有)を、飽和水蒸気処理を施すことなく、アルミナ製坩堝に入れ、電気炉にて900℃まで昇温し、同温度で2時間保持することにより焼成して、活性アルミナ成形体を得た。
得られた活性アルミナ成形体の細孔容積は0.62cm3/g、マクロ細孔容積は0.06cm3/g、マクロ細孔半径は0.17μm、強度は1.1daNであった。
【0026】
(比較例2)
実施例1で用いたのと同様の再水和活性アルミナ成形体(バイヤライトを48.9質量%含有)を、オートクレーブ中で大気圧下に110℃で飽和水蒸気を含む空気と6時間接触させることにより、飽和水蒸気処理を施した。得られた再水和活性アルミナ成形体は、バイヤライトを64質量%、ベーマイトを0.5質量%含むものであった。次いで、これをアルミナ製坩堝に入れ、電気炉にて850℃まで昇温し、同温度で2時間保持することにより焼成して、活性アルミナ成形体を得た。
得られた活性アルミナ成形体の細孔容積は0.60cm3/g、マクロ細孔容積は0.05cm3/g、マクロ細孔半径は0.11μm、強度は1.8daNであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイヤライトを含む再水和活性アルミナ成形体を、150℃以上の飽和水蒸気雰囲気下で保持する飽和水蒸気処理を施した後に焼成する、ことを特徴とする活性アルミナ成形体の製造方法。
【請求項2】
飽和水蒸気処理に供する前記再水和活性アルミナ成形体のバイヤライト含有率は、5〜60質量%である、請求項1記載の活性アルミナ成形体の製造方法。
【請求項3】
前記飽和水蒸気処理後の前記再水和活性アルミナ成形体のバイヤライト含有率は、4質量%以下である、請求項1または2記載の活性アルミナ成形体の製造方法。
【請求項4】
前記飽和水蒸気処理後の前記再水和活性アルミナ成形体のベーマイト含有率は、10〜80質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の活性アルミナ成形体の製造方法。
【請求項5】
前記バイヤライトが溶解してベーマイトに再析出することによって、マクロ細孔が形成される、請求項1〜4のいずれかに記載の活性アルミナ成形体の製造方法。
【請求項6】
焼成後の活性アルミナ成形体は、細孔半径が0.3μm以上であるマクロ細孔の容積が0.1cm3/g以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の活性アルミナ成形体の製造方法。

【公開番号】特開2012−116752(P2012−116752A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−16156(P2012−16156)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【分割の表示】特願2008−90194(P2008−90194)の分割
【原出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】