説明

活性剤のためのポリマーデリバリーシステム

(a) 式(I)(式中、Rは炭化水素基であり、場合により、−OH、−SH、−COOH、−NR’、−COOR’、−CONR’、−CHOで置換されていてもよく、R’はHもしくはC1−3アルキルであり、Rは式(I)の繰り返し単位が親水性であるように選択する)の繰り返し単位;および式(II)(式中、Rは炭化水素基であり、場合により、ハロゲン、−OH、−SH、−COOH、−NR”、−COOR”、−CONR”、−CHOで置換されていてもよく、R”はH、アルキルもしくはアルケニルであり、Rは式(II)の繰り返し単位が式(I)の繰り返し単位よりもより疎水性であるように選択する)の繰り返し単位を含む少なくとも一つのコポリマーと;(b) 1種以上の活性剤
とを含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性化合物、特に、疎水性活性化合物を、これらの化合物の可溶化を助けるデリバリーシステムと共に含有する組成物および製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
最も強力な薬物および薬物候補の多くは水溶性でない。水への溶解度がおおよそ1μg/mlLのパクリタキセル(PTX)のような溶解性の低い製剤は、ドラッグデリバリーにおける大きな課題が依然としてある(Huh,K.M.等、J.Controlled Release 126,122−129(2008);Dabholkar,R.D.等、Int.J.Pharm.315,148−157(2006);Yang,T.等、Int.J.Pharm.338,317−326(2007);Torchilin,V.P.,Cell.Mol.Life.Sci 61,2549−2559(2004);Haag,R.,Angew.Chem.Int.Ed. 43,278−282(2004))。PTXの現在の臨床用製剤(Taxol)は、1%w/w未満の活性薬を含有するが、しかし99%w/wの賦形剤は患者に対して少なからぬ副作用をもたらすことが知られている。同様の問題が、プラント保護等のようなその他の技術的領域における活性剤においても出くわす。活性剤を可溶化させるか、または分散させる種々の方法が開発されてきている。伝統的な方法は、典型的には、溶剤、界面活性剤またはキレート剤の使用に基づく。これらの方法には、賦形剤の毒性、水性媒体中の製剤の限られた安定性、特に稀釈時、または困難な製剤手順に関連する一つ以上の欠点がある。
【0003】
さらに、最近、リポゾーム類(Wu,J.等、Int.J.Pharm.316、148−153(2006))、ミクロ粒子およびナノ粒子(Desai,N.P.等、Anti−Cancer Drugs 19,899−909(2008))ならびにポリマーミセル類(Huh,K.M.等、J.Controlled Release 126,122−129(2008);Konno,T.等、J.Biomed.Mat.Res.、Part A、65A,210−215(2002);Kim,S.C.等、J.Controlled Release 72,191−202(2001))を、可溶化/薬物デリバリーシステムとして集中的に研究され、各アプローチは利点および欠点を有する。ポリマーミセル類の一主要制限は添加能力および可溶化できる薬物の総量である。米国特許出願20040185101号明細書は、水性媒体に疎水性薬物を可溶化させる能力を持つポリマー組成物を開示する。しかし、これらの組成物の添加能力は、パクリタキセルについて、例えば、<10%(w/w)、またはシクロスポリンAについて1%(w/w)未満の添加能力に制限される。
【0004】
ポリ(2−オキサゾリン)類は、最近、生物医学応用について相当の注意を引いてきた。特に興味のあるものは、親水性ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン(PMeOx)およびポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)(PEtOx)である。それらは秘匿性(stealth)(Zalipsky,S.等、J.Pharm.Sci,85,133−137(1996);Woodle,M.C.等、Bioconjugate Chem.5,494−496(1994))およびタンパク質反発作用(protein repellent effects)(Konradi,R.等、Langmuir 24,613−616(2008))を示し、ポリ(エチレングリコール)(注射可能な薬物デリバリーシステムについて慣用的に使用されるポリマー)に類似する迅速腎クリアランスを受ける(Gaertner,F.C.等、Controlled Release 119,219−300(2007)ので興味がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、活性剤、特に疎水性活性剤を効率的に可溶化させおよび/または製剤化させるデリバリーシステムを含有する組成物を提供することにある。特に、前記組成物は簡単に製造でき、目的活性剤のために高添加能力を与えるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために、本発明は、
(a) 式(I)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rは炭化水素基であり、場合により、−OH、−SH、−COOH、−NR’、−COOR’、−CONR’、−CHOで置換されていてもよく、R’はHもしくはC1−3アルキルであり、Rは式(I)の繰り返し単位が親水性であるように選択する)の繰り返し単位および式(II)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、Rは炭化水素基であり、場合により、ハロゲン、−OH、−SH、−COOH、−NR”、−COOR”、−CONR”、−CHOで置換されていてもよく、R”はH、アルキルもしくはアルケニルであり、Rは式(II)の繰り返し単位が式(I)の繰り返し単位よりもより疎水性であるように選択する)の繰り返し単位
を含む少なくとも一つのコポリマーと;
(b) 1種以上の活性剤
を含む組成物を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、上記定義した通りの選択したコポリマーを提供する。本発明の組成物は、医薬応用、診断応用(獣医応用を含む)およびプラント保護を含む種々の技術分野に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1−1】図1−1は、25℃における本発明との関連で使用される一定のコポリマーの濃度依存性のピレン溶液の蛍光強度およびI/I比を示す。
【図1−2】図1−2は、25℃における本発明との関連で使用される一定のコポリマーの濃度依存性のピレン溶液の蛍光強度およびI/I比を示す。
【図2−1】図2−1は、薄膜法を使用する両親媒性コポリマーとのPTXの可溶性の結果を示す。
【図2−2】図2−2は、薄膜法を使用する両親媒性コポリマーとのPTXの可溶性の結果を示す。
【図3−1】図3−1は、本発明の組成物により形成された薬物添加ミセルの動的光散乱測定結果を示す。
【図3−2】図3−2は、本発明の組成物により形成された薬物添加ミセルの動的光散乱測定結果を示す。
【図4−1】図4−1は種々の細胞系における本発明との関連で使用されるポリマー類の細胞毒性についてのアッセイ結果を示す。
【図4−2】図4−2は種々の細胞系における本発明との関連で使用されるポリマー類の細胞毒性についてのアッセイ結果を示す。
【図4−3】図4−3は種々の細胞系における本発明との関連で使用されるポリマー類の細胞毒性についてのアッセイ結果を示す。
【図5−1】図5−1は本発明にしたがう組成物の多剤耐性MCF7/ADR細胞のパクリタキセル用量依存生存率を示す。
【図5−2】図5−2は本発明にしたがう組成物の多剤耐性MCF7/ADR細胞のパクリタキセル用量依存生存率を示す。
【図6−1】図6−1は本発明および市販製品にしたがう組成物と陰性対照、処置を比較するマウスにおける相対腫瘍重量(A)および腫瘍抑制率として示す。
【図6−2】図6−2は本発明および市販製品にしたがう組成物と陰性対照、処置を比較するマウスにおける相対腫瘍重量(A)および腫瘍抑制率として示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記したように、式(I)の単位において、Rは炭化水素基であり、場合により、−OH、−SH、−COOH、−NR’、−COOR’、−CONR’、−CHOで置換されていてもよく、R’はHもしくはC1−3アルキルであり、Rは式(I)の繰り返し単位が親水性であるように選択する。
【0014】
好ましくは、Rは、C1−8炭化水素基、好ましくは、C1−6炭化水素基、より好ましくは、C1−3炭化水素基、特に、C1−2炭化水素基であり、その総ては場合により置換できる。好適な炭化水素基はアルキル基である。
【0015】
理解され得るように、上記定義した通りの式(I)の単位の親水性特性は、Rの炭化水素基の大きさに依存する。メチルやエチルのような、小さな炭化水素基を選択する場合、得られるR基(無置換もしくは上記置換基で置換された)は、常に親水性である。大きな炭化水素基を選択する場合、置換基の存在は、式(I)の単位に追加の極性を導入するのに利点があり得る。したがって、好ましくは、各出現に独立して、ハロゲン、−OH、−SH、COOH、−NR’、−COOR’、−CONR’、−CHOで場合により置換されたメチルおよびエチルから選択され、R’はHもしくはC1−3アルキルであり、そして、特に好ましくは、Rはメチルまたはエチルから選択される。
【0016】
式(II)の単位では、Rは炭化水素基であり、場合により、ハロゲン、−OH、−SH、−COOH、−NR”、−COOR”、−CONR”、−CHOで置換されていてもよく、R”はH、アルキルもしくはアルケニルであり、Rは式(II)の繰り返し単位が式(I)の繰り返し単位よりもより疎水性であるように選択する。R”がアルキルまたはアリールである場合、好ましくは、C1−8またはアリール基である。ハロゲン置換基(存在する場合)は、好ましくは、ClおよびFから選択される。
【0017】
好ましくは、Rは、C3−20炭化水素基、好ましくは、C3−12炭化水素基、より好ましくは、C3−6炭化水素基、特に、C4−6炭化水素基から選択され、その総てが任意に置換され得る。しかし、炭化水素基が置換基を有しないほうがさらに好ましい。
【0018】
炭化水素基として好適なものは、アルキル基、アリール基もしくはアルカリール基のような脂肪族基または芳香族基である。プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルもしくはノニルのようなアルキル基がより好ましく、C4−6アルキル基、すなわち、ブチル、ペンチル、ヘキシルがさらに好ましく、ブチル基が特に好ましく、特にn−ブチルが好ましい。
【0019】
本明細書中で使用する「親水性」および「疎水性」という用語は、当業界で良く認識された意味を有する。「親水性」は、水性環境に対して物質または部分の好ましさを指す。すなわち、親水性物質または親水性部分は、炭化水素のような非−極性溶媒よりも水に容易に溶解するか水により容易に湿潤される。「疎水性」は、無極環境に対しての好ましさ、すなわち、疎水性物質または疎水性部分は、水によるよりも、炭化水素のような非極溶媒中により容易に溶解されるか非極溶媒により容易に湿潤される。「両親媒性」という用語は、界面活性剤にしばしば見られるような、一つの化合物中に親水性部分と、それより弱い親水性部分もしくはより強い疎水性部分との同時存在を示す。その程度まで、本発明との関連で使用されるコポリマー類は、当該コポリマー類が親水性部分と、それより低い親水性/より強い疎水性である部分とをそれぞれ有するので、本明細書中では、両親媒性コポリマー類としても称する。
【0020】
必要な場合、すなわち、式(II)の特定の単位が一定の式(I)の単位よりもより疎水性であるRおよびRの化学構造から容易に分からない場合、例えば、各々の単位の比較用ホモポリマーを製造し、同じ条件下でそれらのlogPを決定することにより、明らかにすることができる。慣用的に知られているように、logP値は、水およびn−オクタノール間の種Aに対して観察される分配係数の対数である。特に、種Aの分配係数Pは比P=[A]n-octanol/[A]water として定義される。式中、[A]は各相中のAの濃度を示す。より親水性物質は、水中でより高い濃度を示す。典型的には、水およびオクタノールの量は測定のため等しい。
【0021】
好適な実施態様では、式(I)の単位よりもより疎水性である式(II)の単位を与えるRの正しい選択を、以下に詳細に開示する手順にしたがって、これらの単位を含有するコポリマーの臨界ミセル濃度(CMC)を決定することにより確認することができる。CMCを観察できる場合、式(I)の単位の親水性特性および式(II)の単位のより高い疎水性/より低い親水性特性に関する要件を確実に達成できる。
【0022】
式(I)の単位が親水性であり、式(II)の単位が式(I)の単位よりもより疎水性あるという要件も、その構造から明らかなように、RおよびRの下記の好適な実施態様の可能な組み合わせについて確実に達成され得る。すなわち、Rは、好ましくは、−OH、−SH、−COOH、−NR’、−CONR’、−CHOで場合により置換されても良いメチルおよびエチルから選択され、ここで、R’はHもしくはC1−3アルキルであり、そして、特に、好ましくは、Rはメチルまたはエチルから選択され、そしてRは、無置換C3−20炭化水素基、好ましくは、C3−12炭化水素基、より好ましくは、C3−6炭化水素基、特に、C4−6炭化水素から選択され、ここで、好適な炭化水素基は脂肪族基または芳香族基から選択され、例えば、アルキル基、アリール基もしくはアルカリール基である。より好適なものはアルキル基であり、例えば、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルまたはノニルであり、さらにより好適なものは、C4−6アルキル基であり、すなわち、ブチル、ペンチル、ヘキシルであり、特に好適なものは、ブチルであり、特に、n−ブチルである。
【0023】
本願において水性環境、水性媒体、水性溶液等への言及は、溶媒の総量の50%(v/v)またはそれ以上、好ましくは、70%またはそれ以上、より好ましくは、90%またはそれ以上、そして、特に、実質的に100%が水である、溶媒系を意味する。
【0024】
上記式(I)および(II)の繰り返し単位を含むコポリマーは、2−置換2−オキサゾリン類(または、IUPAC命名法にしたがって、2−置換4,5−ジヒドロオキサゾール類)の開環重合により都合良く製造できる。したがって、本発明との関連で使用されるポリマー類は、ポリ(2−オキサゾリン)類としても称する。
【0025】
本発明のコポリマーは、上記繰り返し単位(I)および(II)に加えてその他の繰り返し単位を含むことができる。しかし、総ての繰り返し単位の主要部分、すなわち、繰り返し単位の総数を基準に、50%を超える、より好ましくは、75%を超える、さらに好ましくは、90%を超える、そして特に好ましくは、100%が、上記定義した式(I)および(II)の繰り返し単位であるのが好適である。コポリマー中に含まれる式(II)の繰り返し単位の総てが、コポリマー中に含まれる式(I)の繰り返し単位のいずれかよりもより疎水性であるということが了解されよう。
【0026】
繰り返し単位数に関して、繰り返し単位(I)対繰り返し単位(II)の比は、典型的には、20:1〜1:2の範囲、好ましくは、10:1〜1:1、そしてより好ましくは、7:1〜3:1の範囲である。
【0027】
上記繰り返し単位(I)および(II)の配置に関して、本発明のコポリマー類はランダムコポリマー類、同じタイプの重合化単位のセグメント(すなわち、式(I)の単位のセグメントおよび/または式(II)の単位のセグメント)を含有するコポリマー類、グラジエントコポリマー類またはブロックコポリマー類であることができる。ブロックコポリマー類が特に好ましい。
【0028】
「ブロックコポリマー」という用語は、本明細書中では、当業界で確立された意味にしたがって使用し、確定されたタイプの繰り返し単位がブロック状で構成された、すなわち、同じタイプの繰り返し単位が互いに順次隣接されて重合化されているものであり、例えば、異なるタイプの繰り返し単位をランダムに配列するのと異なる。言い換えれば、さらに以下で検討するブロックAおよびBのような、ブロックコポリマーのブロックが、同一のまたは一定の共通する特性を有するモノマーの重合により得られる、それ自身ポリマーを表す。
【0029】
本発明で使用するブロックコポリマーは、上記定義した式(I)の繰り返し単位からなる少なくとも一つのポリ(2−オキサゾリン)ブロックA(個々の単位の存在のため、親水性である)、および上記定義した式(II)の繰り返しからなる少なくとも一つのポリ(2−オキサゾリン)ブロックB(個々の単位の存在のため、ブロックAよりも疎水性である)を含む。
【0030】
本発明のブロックコポリマーは、少なくとも一つの親水性部分(ブロックA)および少なくとも一つのそれより低い親水性部分もしくはより疎水性部分(ブロックB)の存在のため両親媒コポリマーと称することができる。
【0031】
好ましくは、ブロックコポリマーの少なくとも一つのブロックA、より好ましくは、多数存在の場合に総てのブロックAが、式(II):
【0032】
【化3】

【0033】
により表され、式中、Rはメチル基またはエチル基、好ましくは、メチル基であり、nはブロックA内の繰り返し単位数を表す。nは、好ましくは、5またはそれ以上の整数、より好ましくは、10またはそれ以上、そして特に20またはそれ以上を表す。nは、一般に、300以下、好ましくは、200以下、より好ましくは、100以下、そして特に50以下である。
【0034】
好ましくは、ブラックコポリマーの少なくとも一つのブロックB、より好ましくは、多数存在の場合に総てのブロックBが、式(III):
【0035】
【化4】

【0036】
により表され、式中、RはC3−20炭化水素基、好ましくは、C3−12炭化水素基、より好ましくは、C3−6炭化水素基、そして、特にC4−5炭化水素基である。炭化水素基として好ましい基は、アルキル基、アリール基またはアルカリール基のような脂肪族基または芳香族基である。より好ましい基は、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルもしくはノニルのようなアルキル基であり、さらにより好ましくは、C4−6アルキル基、すなわち、ブチル、ペンチル、ヘキシルであり、特に好ましい基はブチル基、特に、n−ブチルである。変数nは、好ましくは、5またはそれ以上、より好ましくは10またはそれ以上である。nは、一般に、300以下、好ましくは、200以下、100以下、そしてより好ましくは50以下である。
【0037】
本発明との関連でドラッグデリバリーシステムとして使用されるブロックコポリマーは、上記定義した、少なくとも一つのブロックAおよび少なくとも一つのブロックBを含有する。当該ブロックコポリマーは、AまたはBと異なる1種以上の追加のブロックを含むことができる。しかし、該ブロックコポリマーは、上記定義の分類に入るブロックのみを含有するのが好ましく、上記AおよびBの定義が好ましい。より好ましくは、ブロックコポリマーの総ての繰り返し単位が上記式(I)または(II)の繰り返し単位である。
【0038】
本発明との関連で、使用されるコポリマーのブロックAおよびBの配列に関して、コポリマーの好適な構造は、(AB)もしくは(BA)m(mは1、2または3)として、ABAとして、あるいはBABとして表すことができる。ブロックコポリマーはABもしくはBAジブロックコポリマーまたはABAトリブロックコポリマーがより好適である。
【0039】
したがって、本発明の特に好適な実施態様では、ブロックコポリマーのポリマー実体は、ポリマー化2−メチル−2−オキサゾリンまたは2−エチル−2−オキサゾリン(本明細書中では「ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)ブロック」または「ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)ブロック」とも称する)からなるAブロックおよびポリマー化2−(C4−6アルキル)−2−オキサゾリンからなるBブロックからなる。さらにより好適には、ポリマー化2−メチル−2−オキサゾリンまたはからなる2−エチル−2−オキサゾリンからなるAブロックおよびポリマー化2−ブチル−2−オキサゾリン(「ポリ(2−ブチル−2−オキサゾリン)ブロック」とも称する)からなるBブロックを有するコポリマーのようなものである。さらに、上述構成のABまたはABAジ−もしくはトリ−ブロック−コポリマーが好適である。
【0040】
本発明との関連で使用されるコポリマー類はゲル透過クロマトグラフィーで測定して、好ましくは、3〜30の数平均分子量(Mn)、より好ましくは4〜25、そして特に、60〜20kg/モルの数平均分子量を示す。多分散指数(PDI=Mw/Mn、ここでMwは重量平均分子量である)は、典型的には1.3未満であり、好ましくは、1.25未満、そして1.001程度の低さであることができる。
【0041】
組み合わせ、例えば、2種以上の異なるコポリマーの混合物もしくはブレンドを含む組成物も本発明に包含され、例えば、異なる基RおよびまたはRを含有するコポリマーの組み合わせ、あるいはそれらの繰り返し単位の異なる配列を示すコポリマーの組み合わせ、例えば、ランダムポリマーとブロックコポリマーとの組み合わせである。
【0042】
本発明との関連で使用されるコポリマーは、当業界で公知の重合方法により製造できる。例えば、ポリ(2−オキサゾリン)類をリビングカチオン性開環重合により製造できる。ランダムコポリマー類、グラジエントコポリマー類およびブロックコポリマー類の製造は、R.LuxenhoferおよびR.Jordan,Macromolecules 39,3509−3516(2006),T.Bonne等,Colloid.Polym.Sci.,282,833−843(2004)またはT.Bonne等,Macromol.Chem.Phys.2008,1402−1408,(2007)により詳細に記載されている。
【0043】
本発明では、組成物中に含有されている活性剤(または活性化合物)に関して、当該組成物は、水難溶性活性剤、好ましくは,疎水性活性剤、または水不溶性活性剤の製剤に特に適していることが了解されよう。したがって、活性剤が、水,例えば、イオン交換水中、20℃で、1mg/ml未満、好ましくは、0.1mg/ml未満、またはさらに0.01mg/ml未満の溶解度、そして特に0.001mg/ml未満の溶解度を示すのが好ましい。好ましくは、この制限的溶解度は、pH範囲が4〜10である水に示される。
【0044】
本発明との関連で使用する活性剤(または活性化合物)は、好ましくは、生物活性剤(または生物活性化合物)であり、療法に(すなわち、薬物)、または診断に、殺真菌剤、殺菌剤、殺虫剤もしくは除草剤、植物ホルモンのような植物もしくは作物保護の分野に適する別のいずれかの化合物、または家畜用活性剤を含むが、これらに限定されない。本明細書で使用されている通り、「活性剤」という用語は、薬物または植物保護剤の開発において可能性のある候補としてスクリーニングされている化合物も含む。その程度まで、本発明は関心の目標と,典型的には、生物学的目標、例えば、タンパク質一般、スクリーニング試験における酵素もしくはレセプターと、相互作用する活性化合物の検出法も、本発明の組成物に活性化合物を配合することおよびスクリーニング試験に当該組成物を処理することを含んで、さらに包含する。
【0045】
生物活性剤の特定の例には次に述べるようなカテゴリーがあるが,これらに限定されない。該カテゴリーには、シナプス結合位および神経効果結合位に作用する薬物、中枢神経系に作用する薬物、炎症反応に影響を与える薬物、体液の組成に影響を与える薬物、腎機能および電解質代謝に影響を与える薬物、心臓血管薬、胃腸機能に影響を与える薬物、子宮運動性に影響を与える薬物、過剰増殖性疾病,特に癌のための化学療法剤、寄生虫感染のための化学療法剤、微生物疾病のための化学療法剤、抗新生物剤、免疫抑制剤、死血(die blood)および血液形成器官に影響を与える薬物、ホルモン類およびホルモンアンタゴニスト、皮膚科学薬剤、重金属アンタゴニスト、ビタミン類および栄養剤、ワクチン類、オリゴヌクレオチド類、ならびに遺伝子治療剤等がある。本発明で使用するのに適しているとして挙げることのできる特定の薬物には、アンホテリシンB、ニフェジピン、グリセオフルビン、パクリタキセルおよびドセタクセルを含むタキサン類、ドキソルビシン、ダウノマイシン、インドメタシン、イブプロフェン、エトポシド、シクロスポリンA、ビタミンE、およびテストステロン等があり、特に、パクリタキセル、シクロスポリンAおよびアンホテリシンBがある。上述したように、特定の利用性は、水不溶性と考えられる活性剤について本発明により示される。
【0046】
例えば、二種の薬物のような二種以上の活性剤の混合物またはブレンドのような組み合わせを含む組成物も本発明に包含されることが了解されよう。
【0047】
本発明の組成物において前記コポリマーが凝集体を形成することが一般に好ましく、さらに、この凝集体が、コポリマー凝集体が活性剤を包含するように形成されるのが好ましい。該凝集体の特に好適な形体はミセルである。本明細書中で言及するミセルは、一般に、両親媒コポリマー類の凝集体であり、コポリマーの親水性部分により形成された親水性コロナを与え、ミセルの内部に該両親媒コポリマーの疎水性部分を封鎖する。ミセル形成に特に適しているコポリマー類は、好適な実施態様のコポリマーとして上述したブロックコポリマー類である。本発明のミセルは、三次元で存在する。一般に、ミセルは、水性溶液の構成両親媒分子の濃度が一定値を超えたときに形成される。この、一定値を臨界ミセル濃度(CMC)と称し、ピレンのような蛍光プローブを使用することにより決定することができ、該CMC値を超えて形成されたミセルの疎水性コア中に分配する。より特定的には、本発明のミセルは、例えば、親水性、好ましくは水性溶液中の両親媒ブロックコポリマーの自己凝集により形成する。ミセルの形成時、前記両親媒コポリマーの親水性領域は周囲の溶媒と接触状態であり、一方、疎水性領域はミセルの中心に向いている。本発明との関連で、ミセルの中心は、典型的には疎水性活性剤を組み込む。ミセルは、寸法がナノメーター範囲でありポリマーから構成されているので、「ポリマーナノ粒子」と称することもできる。
【0048】
本発明との関連で使用するコポリマー類、特に、ブロックコポリマー類は、典型的には、250mg/Lよりも小さい低CMCを示す。CMCは、通常、5〜150mg/Lの範囲、さらに、5〜100mg/Lの範囲である。
【0049】
凝集体、特にミセルの変動できる大きさは、使用するコポリマーの分子量、または添加する薬物のような因子に依存して、本発明の医薬組成物により形成できる。通常、好適なものは5〜500nmの寸法範囲内の凝集体またはミセルである。しかし、動的光散乱により決定して、有利に、5〜100もしくは10〜50nm、またはさらに10〜30nmの範囲の寸法の凝集体またはミセルを形成することが可能であり、これらの寸法範囲は静脈内投与に特に適している。有利に、ミセルは、典型的には、狭い粒度分布を有する(PDI≦0.2または≦0.1)。
【0050】
典型的には、凝集体、特にミセルは、水中もしくは水性媒体中で形成する。したがって、本発明の組成物の凝集体、特にミセルは、例えば、薄層溶解法により形成できる。この方法では、コポリマーおよび活性剤を、アセトニトリルやジメチルスルホキシドのような共通の溶媒に溶解させる。溶媒の除去(例えば、不活性ガス流、緩和な加熱および/または減圧の適用)後、コポリマーおよび活性剤により形成したフィルムを、水中もしくは水性溶媒中に容易に溶解することができ、上昇させた温度で調整(tempered)できる。フィルムを溶解させるとき、凝集体、特にミセルが形成する。凝集体の安定性は、得られた溶液を乾燥させ、粉末を形成させて可能となる。例えば、凝集体は、通常、凍結保護物質を用いる必要性なく凍結乾燥でき、添加容量または粒子完全性を妥協することなく水中もしくは水性溶液中で再構成できる。
【0051】
上述したコポリマーの使用の結果として、本発明の組成物は、典型的には、水にもしくは水性溶液に可溶な凝集体を形成し、当該凝集体は室温および高温(elevated temperatures)、特に40℃以下の温度で少なくとも12時間安定であり、概して動物にそして特にヒトに当該組成物の非経口投与が可能である。
【0052】
本発明の組成物における活性剤(単味もしくは複数)対コポリマー(1種もしくは複数)の重量比は、典型的には、1:20もしくはそれより高い、例えば、1:10より高い。好ましくは、該重量比は、少なくとも1:9、より好ましくは、少なくとも2:8、さらにより好ましくは、少なくとも3:7、そして最も好ましく、4:6である。通常、1:1もしくはそれ以下であり、必要な場合、8:10もしくはそれ以下である。
【0053】
本発明の組成物は、有利に、10%またはそれ以上、好ましくは、25%またはそれ以上、より好ましくは、30%、もしくはさらにより好ましくは35%もしくはそれ以上、特に40%もしくはそれ以上の活性剤添加もしくは薬物添加(すなわち、活性剤もしくは薬物対活性剤とブロックコポリマーとの総計の重量比;%表示)を達成できる。特に驚いたことに、充分な水可溶性が、例えば、パクリタキセルのような、10μg/mL未満、さらに5μg/mL未満の溶解度を持つ活性剤でさえ前記のような高薬物添加を有する本発明の組成物について究極的に達成できる。したがって、例えば、本発明の組成物は、水中もしくは水性溶液中7mg/mLを超えるパクリタキセル、特に8mg/mL以上のパクリタキセルの可溶化を可能にする。
【0054】
疎水性活性剤についても高い容量が、本発明の医薬組成物のピレン蛍光分光から得られる通常でない値と同時に起こる。ピレンの蛍光発光スペクトルにおけるIおよびIバンドの比は、ピレンプローブ環境の極性の尺度である(K.Kalayanasundaram,J.K.Thomas,J.Am.Chem.Soc.1977,99,2039−2044)。水性もしくは類似の極性環境では、この比は典型的には1.6〜1.9の間に見出される(K.W.Street,Jr.W.W.Acree,Jr.Analyst 1986,111,1197−1201)。ポリマーミセルの存在では、ピレンに対して低い極性環境が得られ、I/I比は、普通、全蛍光強度の増加に付随して減少する。全く驚いたことに、本明細書中に記載するコポリマー類そして特にブロックコポリマー類に関して、I/I比は2.0を超え、好ましくは、2.1を超え、さらに2.2、例えば、最高2.35の値に上昇するので、逆が観察された。
【0055】
上記したコポリマー類そして特にブロックコポリマー類について観察された高可溶性効率のため、コポリマーん含量が、1mg/mL程度の低さ、好ましくは、2mg/mL濃度から100mg/mL、好ましくは、50mg/mLまたは20mg/mLの濃度までの範囲の場合、通常、水性溶液の形態の本発明の組成物、特に、医薬組成物に充分である。コポリマー類は生物学的適応性、すなわち、非毒性であり、迅速腎クリアランスを受けるので、高濃度は重要でないが、しかし、通常、要求されない。現在、市場にある疎水性薬物の製剤に比べて、これにより、可溶化剤量の顕著な減少を可能にし、対象が薬物を非経口で受け、したがって、健康作用の悪影響の危険性を減少させる。
【0056】
実際のところ、本明細書中に記載するブロックコポリマーは、Cremophor EL/エタノール(CrEL)およびAbraxaneTM、それぞれと比較して、おおよそ100倍および9倍ほど、同量のパクリタキセルを可溶化させるのに必要な賦形剤の量を減少させることができる。
【0057】
さらに、添加効率(すなわち、(可溶化した活性剤の量/最初添加した活性剤の量)*100%)が100%であることができ、通常、本発明の組成物について非常に高い(>80%)。これは、高添加効率が、生産経費の減少のため商業的応用に重要性を有するので、顕著な利点である。
【0058】
上記説明したように、本発明のコポリマー類は、水難溶性である活性剤、好ましくは、疎水性活性剤または水不溶性活性剤の溶解度を増加させるのに使用でき、すなわち、それらはこれらの化合物の可溶化剤として作用することができる。
【0059】
結果として、一実施態様では、本発明の組成物は水をさらに含有し、水性溶液、エマルションまたは懸濁液を形成し、特に好ましくは、当該組成物は活性剤およびコポリマーの水性溶液である。「溶液」という用語は、この特定の関係において、水中ミセルにより形成され得るので、コロイド溶液を含むことが了解されよう。しかし、本発明との関連で使用されるコポリマー類は、該組成物が、活性剤の活性および安定性に妥協することなく、そして凍結保護物質の必要なく凍結乾燥できるので、粉末、特に凍結乾燥粉末は、本発明の組成物の別の好適な実施態様を形成する。これらの粉末は、水中または水性溶液中で都合良く再構成できる。
【0060】
したがって、本明細書中で記載したポリ(2−オキサゾリン)系コポリマー類は、例えば、パクリタキセル、シクロスポリンAおよびアンホテリシンBのような疎水性で構造的に様々な薬物に対しても多様な高容量ドラッグデリバリーシステムとして作用できる。
【0061】
本発明の別の実施態様は下記の項目で概要する。
【0062】
1.医薬組成物であって、
(a)少なくとも一つのブロックAおよび少なくとも一つのブロックBを含む少なくとも一つの生物学的適応性水溶性両親媒ブロックコポリマーであり、Aは親水性ポリ(2−オキサゾリン)類から選択される親水性ポリマーであり、Bは両親媒性もしくは疎水性ポリ(2−オキサゾリン)類から選択される、および
(b)疎水性生物活性化合物
を含み、水中または水性溶液中で可溶性凝集体を形成し、当該凝集体は室温および高温、特に40℃未満の温度で少なくとも12時間安定であり、一般に動物そして特にヒトに前記組成物の非経口投与できる、前記医薬組成物。
【0063】
2. 1に記載の医薬組成物であって、Bが下式(III)
【0064】
【化5】

【0065】
の構造により表され、式中、Rは疎水性側鎖(飽和脂肪族鎖、不飽和脂肪族鎖、飽和脂肪族環もしくは不飽和脂肪族環またはその混合物を含む)であり、nは1〜300から選択される。
【0066】
3. 1または2に記載の医薬組成物であって、疎水性生物活性化合物は、ペプチド類、ペプトイド類、ポリエン類、マクロサイクル類、グリコシド類、テルペン類、テルペノイド類、脂肪族化合物類および芳香族類およびそれらの誘導体類ならびにその他の化合物を含み、4〜10のpH範囲の水中または水性媒体中で、1mg/mL未満、好ましくは、100μg/mL未満、さらにより好ましくは、50μg/mL未満、そして最も好ましくは、10μg/mL未満の溶解度を有する。
【0067】
4. 1〜3のいずれかに記載の医薬組成物であって、疎水性生物活性化合物は、アンホテリシンB、ニフェジピン、グリセオフラビン、パクリタキセル、ドコルビシン、ダウノマイシン、インドメタシン、イブプロフェン、エトポシドおよびシクロスポリンAから選択される。
【0068】
5. 1〜3のいずれかに記載の医薬組成物であって、疎水性生物活性化合物はパクリタキセルである。
【0069】
6. 1〜5のいずれかに記載の医薬組成物であって、ABブロックコポリマーは、安定なもしくは不安定な結合を介して結合し、(AB)として示すことができる化合物を形成し、式中、mは2〜100の範囲であり、例えば、線状もしくは星様ブロックコポリマー類、グラフトブロックコポリマー類、デンドリマー系もしくは超分岐ブロックコポリマー類を形成する。
【0070】
7. 2〜6のいずれかに記載の医薬組成物であって、疎水性側鎖Rは3−6個の炭素原子を含む。
【0071】
8. 1〜7のいずれかに記載の医薬組成物であって、両親媒ブロックコポリマーは、2−ブチル−2−オキサゾリンから誘導される繰り返し単位の部分もしくは全部を構成するブロックを含む。
【0072】
9. 1〜8のいずれかに記載の医薬組成物であって、親水性ポリオキサゾリンは、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)またはポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)から選択される。
【0073】
10. 1〜9のいずれかに記載の医薬組成物であって、水溶性媒体中の凝集体は、5−200nm、好ましくは、10−100nmの範囲の寸法である。
【0074】
11. 1〜10のいずれかに記載の医薬組成物であって、疎水性生物活性化合物および両親媒ブロックコポリマーを、少なくとも1:9、好ましくは、2:8、より好ましくは、3:7、そして、最も好ましくは4.6の重量比で含む。
【0075】
配合しようとする生物活性剤類/化合物類に関して本発明の好適な実施態様を形成する医薬組成物固有の多様性のため、当該組成物は、癌、神経変性疾患、肝胆汁性疾患、循環器疾患または肺疾患のような広範囲の疾患や障害の治療または防止に適していることが了解されよう。本発明は、これらの疾患のいずれかの治療または防止のための医薬組成物の製造に上記定義したブロックコポリマーの使用をも包含する。さらに、本発明の組成物の診断応用にも使用できる。
【0076】
本発明では、「癌」という用語は、細胞の制御できない分化や、侵入により隣接する組織内に直接増殖するか、あるいは転移(癌細胞が血流またはリンパ系により移動する)により距離のある部位に内移植するかのいずれかで拡がるこれらの能力により特徴付けられる疾病や障害の類を指す。
【0077】
本発明では、「神経変性疾患」という用語は、ニューロンが悪化し、ニューロン(少数神経幹細胞を除く)を再生する身体に能力がないため、例えば、脳や脊髄の細胞が適切に再生できない疾患や障害の類を指す。症状は病気に冒された個人の運動失調や認知症を包含する。
【0078】
本発明では、「胃腸疾患および肝胆汁疾患」という用語は、肝臓、胆嚢および胆管に影響を与える疾患や障害に関する。このような疾患または障害には、例えば、肝硬変、肝炎、ウイルス誘発性肝炎、肝腫瘍、脂肪肝、多嚢胞肝、クーロン病、潰瘍性大腸炎、胆管癌等がある。
【0079】
本発明では、「循環器疾患」という用語は、心臓および/または血管に関連する疾患や障害に関する。
【0080】
本発明では、「肺疾患」という用語は、呼吸系に影響を与える疾患に関し、肺の内外の低速度の障害、すなわち妨げや肺の機能容積の制限、すなわち減少症状に分類できる。このような疾患には、例えば、喘息、気管支炎、石綿症、線維症、肺癌、肺炎、肺浮腫および肺高血圧症等がある。
【0081】
本発明の医薬組成物は、任意に1種以上の別の薬学的に許容できる賦形剤、例えば、キャリヤー、稀釈剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、着色剤、顔料、安定化剤、防腐剤、および/または抗酸化剤と共に製剤化できる。
【0082】
医薬組成物は、当業者に公知の技術、例えば、Remington‘s Pharmaceutical Sciences、20版で公開された技術により製剤化できる。該医薬組成物は、経口投与または非経口投与(例えば、筋肉内、静脈内、皮下、皮内、動脈内、直腸内、局所、肺内もしくは膣内)用の剤型に製剤化できる。経口投与用剤型には、再構成のためのコーティング錠剤および非コーティング錠剤、ゼラチン軟カプセル剤、ゼラチン硬カプセル剤、ロゼンジ剤、トローチ剤、溶液剤、エマルション剤、サスペンション剤、シロップ剤、エリキシル剤、粉末剤、および顆粒剤等があり、分散性粉末剤および顆粒剤、薬用ガム剤、チューイング錠剤および発泡錠剤等がある。非経口用剤型には、再構成のための溶液剤、エマルション剤、サスペンション剤、分散剤ならびに粉末剤および顆粒剤等がある。エマルション剤が非経口投与のための好適剤型である。直腸用および膣用投与のための剤型には、坐剤およびオブラ剤(ovula)等がある。肺投与/肺デリバリーのための剤型は、吸入および吹送により投与、例えば、定量用量吸入器により投与できる。局所投与のための剤型には、クリーム剤、ゲル剤、軟膏剤(ointments, salves)、パッチ剤および経皮デリバリーシステム等がある。
【0083】
本発明の医薬組成物は、全身的/末梢的または所望の作用する部位の任意の都合の良い投与経路により対象に投与でき、当該投与経路には、一以上の、経口(例えば、錠剤、カプセル剤、または摂取可能な溶液として)、局所(例えば、経皮剤、経鼻剤、経眼剤、経口腔剤、および舌下剤)、非経口(例えば、注射技術もしくは輸液技術を使用して、そして、例えば、皮下、皮内、筋肉内、静脈内、動脈内、心臓内、くも膜下内、随腔内、包嚢内、被膜内、眼窩内、腹腔内、気管内、表皮下、関節内、くも膜下、または胸骨等に注射により、皮下もしくは筋肉内にデポー剤の移植により)、肺(例、口もしくは鼻を介してエアゾールを使用して吸入もしくは吸い込み療法により)、胃腸、子宮内、眼内、皮下、眼科(硝子体もしくは前房内を含む)、直腸、および膣等があるがこれらに限定されない。経口および非経口、特に、静脈内投与は、本発明の組成物が、疎水性活性剤を使用するときでもこれらの経路に充分な可溶性とバイオアビリティーを与えるので、通常好適である。
【0084】
医薬組成物が非経口的に投与される場合、このような投与の例には、一以上の、静脈内、動脈内、腹腔内、髄腔内、胸骨内、頭蓋内、筋肉内または皮下内に、点滴技術を使用化合物もしくは医薬組成物を投与することおよび/または点滴技術を使用して投与する等がある。非経口投与に対して、化合物は無菌水性溶液の形態で使用するのが最も良く、当該無菌水性溶液はその他の物質、例えば、該溶液を血液と等張させるのに足る塩類またはグルコースを含有することができる。水性溶液は、必要の場合、適切に緩衝化(好ましくは、3〜9のpHに)すべきである。滅菌状態下の適切な非経口製剤の製造は、当業者に周知の標準薬学技術により容易に達成される。
【0085】
医薬組成物は、経口的に、錠剤、カプセル剤、卵型経口剤、エルキシル剤、溶液剤もしくはサスペンション剤の形態で投与することもでき、これらの経口剤は芳香剤もしくは着色剤を、速効、遅延、修正、徐放、パルスもしくは制御放出応用のために含有させることができる。
【0086】
錠剤は、マイクロクリスタリンセルロース、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウムおよびグリシンのような賦形剤、澱粉(好ましくは、コーン、ポテトもしくはタピオカ澱粉)、グリコール酸でん粉ナトリウム、クロスカルメロースナトリウムおよび一定の複合ケイ酸塩のような崩壊剤、ならびにポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、スクロース、ゼラチンおよびアカシアのような顆粒バインダーを含有できる。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリルおよびタルクのような滑沢剤も含有できる。同様な種類の固体組成物はゼラチンカプセル剤中の充填剤として使用することもできる。これに関し、好適な賦形剤にには、ラクトース、澱粉、セルロース、ミルクシュガーまたは高分子量ポリエチレングリコール類等がある。水性サスペンション剤および/またはエリキシル剤について、薬剤を、種々の甘味剤もしくは芳香剤、着色剤または染料と、乳化剤および/または懸濁化剤と、および水、エタノール、プロピレングリコールおよびグリセリンおよびそれらの組み合わせのような稀釈剤と組み合わせることもできる。
【0087】
あるいは、医薬組成物は、坐剤またはペッサリーの形態で投与でき、またはゲル剤、ヒドロゲル剤、ローション剤、溶液剤、クリーム剤、軟膏剤もしくは粉剤の形態で局所的に塗布できる。本発明の組成物は、例えば、皮膚用パッチ剤の使用により、皮膚投与もしくは経皮投与もできる。
【0088】
医薬組成物は、肺経路、直腸経路、または眼経路によっても投与できる。眼科用途について、等張、pH調整、滅菌生理食塩水のマイクロ化サスペンション剤、または、好ましくは、等張、pH調整、滅菌生理食塩水の溶液剤として、場合により、塩化ベンジルコニウムのような防腐剤と組み合わせて医薬組成物を製剤化することができる。あるいは、
医薬組成物は、ペトロラタムのような軟膏に製剤化できる。
【0089】
皮膚に対する局所応用について、医薬組成物は、例えば、1種以上の次の、鉱油、液体ペトロラタム、ホワイトペトロラタム、プロピレングリコール、乳化性ワックスおよび水と混合物中に懸濁もしくは溶解させた活性化合物を含有する適切な軟膏として製剤化できる。あるいは、医薬組成物は、例えば、1種以上の次の、鉱油、ソルビタンモノステアレート、ポリエチレングリコール、液体パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコールおよび水の混合物と混合物中に懸濁もしくは溶解させた活性化合物を含有する適切なローションまたはクリームとして製剤化できる。
【0090】
本発明の組成物により与えられる有利な可溶化効果に鑑み、医薬組成物は、好ましくは、水中の生物活性成分の溶解性を要求する投与形態および/または投与モードで投与されることが了解されよう。
【0091】
典型的には、医師は、個々の対象に最も適した医薬組成物の実際の投与形態を決定し得る。特定の個対象の特定の用量および投与回数は、治療もしくは予防しようとする障害もしくは疾病、使用する特定の生物活性化合物、代謝安定性およびその化合物の作用の長さ、年齢、体重、総体的な健康、性、ダイエット、投与モードおよび時間、排泄速度、薬物組み合わせ、特定症状の重篤度、治療を受ける個対象を含む種々の因子を変動させることができ、これらの因子に依存し得る。
【0092】
ヒト(体重約70kg)に投与するための本発明の組成物の提案される非限定的服用量は、単位服用量当たり活性剤(すなわち、薬物)の重量を基準に0.1μg〜10g、好ましくは、0.1mg〜0.5gである。単位服用量は、例えば、1〜4倍/日投与できる。服用量は投与経路に依存する。服用量は、患者/対象の年齢および体重、ならびに治療しようとする症状の重篤度に依存して用量に日常的変動させる必要性のあることが了解されよう。正確な服用量および投与経路は、関与医師または獣医師の裁量に最終的にまかされる。
【0093】
本発明の組成物が投与される、治療または防止の必要な対象のような対象または患者は一般に哺乳類である。本発明との関連で、経済的または農学的に重要であるヒトの他の哺乳類が治療されるのは特に予測される。農学的に重要な動物の非制限的例は、羊、ウシおよびブタであるが、例えば、猫や犬は経済的に重要な動物であると考えられる。好ましくは、対象/患者はヒトである。
【0094】
本明細書中で使用する「障害または疾病の治療」という用語は当業界で周知である。「障害または疾病の治療」は、障害または疾病が患者/対象の診断をしたことを包含する。障害または疾病を患っていると推測される患者/対象は、典型的には、当業者が特定の病状に容易にあると考えることができる特定の臨床および/または病的症状を示す(すなわち、障害または疾病を診断)。
【0095】
「障害または疾病の治療」は、例えば、障害または疾病の進行の停止(例、症状の悪化なし)か、あるいは障害または疾病の進行の遅延(進行の停止の場合一時的性質のみを有する)をもたらし得る。「障害または疾病の治療」は、障害または疾病を患う対象/患者の部分的反応(例、症状の改善)または完全反応(例、症状の消失)ももたらし得る。障害または疾病の「改善」は、例えば、障害または疾病の進行の停止か、あるいは障害または疾病の進行の遅延をもたらし得る。このような部分または完全反応は、続いて再発であり得る。対象/患者は、治療に対する反応(例、上記本明細書で述べたように典型反応)の広範囲を経験することが了解できよう。障害または疾病の治療は、とりわけ、治癒治療(好ましくは、完全反応をもたらし、究極的に障害または疾病の治癒をもたらす)および緩和治療(症状軽減を含む)を含み得る。
【0096】
本明細書で使用する「障害または疾病の防止」という用語も当業界で周知である。例えば、本明細書中で定義した障害または疾病を患う傾向が推測される患者/対象は、特に、障害または疾病の防止によって利益を受け得る。前記対象/患者は、障害または疾病にかかりやすいか病気に対する素因があり、遺伝性素因を含むがこれに限定されない。かかる素因は、例えば、遺伝子マーカーまたは表現型指標(phenotypic indicators)を使用する標準的アッセイにより決定できる。本発明により防止しようとする障害または疾病は診断されず、または前記患者/対象に診断できない(例えば、前記患者/対象は臨床的もしくは病的症状を全く示さない)ことが了解されよう。したがって、「防止」という用語は、臨床および/または病的症状が診断されもしくは決定されるまたは関与医師により診断もしくは決定される前の、本発明の化合物の使用を含む。
【0097】
本明細書中で、学術論文および特許文献を含む多くの書類を引用する。これらの書類の開示は、本発明の特許性に関連すると考えられないが、その全体を参照として本明細書に含める。さらに詳細には、総ての言及書類は、各個々の書類が参照により含もうとする特定的および個々に表示されると同程度まで本明細書中に参照として含める。
【実施例】
【0098】
下記の実施例では、本発明をさらに詳細に例証する。ここで開示する実施態様は、本発明の範囲の制限として意図していないことは了解されよう。
【0099】
1.一般材料および方法
ポリマー類の製造のための総ての物質は、Aldrich(Steinheim,Germany)およびAcros(Geel,Belgium)から購入し、特記しない限りそのまま使用した。2−ブチル−2−オキサゾリン(BuOx)は、最近記載された通りにして製造した(Huber,SおよびJordan,R.,Colloid Polym.Sci.286,395−402(2008))。ポリマー製造のためのメチルトリフルオロメチルスルホネート(MeOTf)、2−メチル−2−オキサゾリン(MeOx)、2−エチル−2−オキサゾリン(EtOx)、アセトニトリル(ACN)およびその他の溶媒は、乾燥窒素雰囲気下CaH上、還流により乾燥し、続いて使用前に蒸留した。室温で、Bruker Avance III 400、Bruker ARX 300またはBruker AC 250に、NMRスペクトルを記録した。このスペクトルを溶媒信号(CDCl 7.26ppm,DO 4.67ppm)を使用して調節した(calibrated)。ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)をWaters装置(pump.mod.510,RI−検出器 mod.410,予備カラムPLgelおよび2本のPL Resiporeカラム(3μm,300×7.5mm))で、N,N−ジメチルアセタミド(DMAc)(75mmol/L LiBr,80℃、1mL/min)を稀釈剤として用い、PMMA標準に対して調節した。動的光散乱を、Zetasizer Nano−ZS(Malvern Instruments Inc.,Southborough,MA)を使用して室温で行った。
【0100】
2.合成手順
前述した手順にしたがって重合手順および仕上げ手順を行った(Luxenhofer,R.およびJordan,R.,Macromolecules 39,3509−3516(2006);Bonne,T.B.等,Colloid Polym. Sci.282,833−843(2004))。
【0101】
メチル−P[MeOx27−b−BuOx12−b−MeOx27]−ピペリジン(P1)の典型的な製造は次のようにして行った(ここで、「メチル」はポリマーが末端メチル基を有することを示し、「P」はかっこ内の部分がポリマー部分であることを示し、「MeOx」は、2−メチル−2−オキサゾリン誘導ポリマー単位を表し、添え字は個々のポリマーブロック中の単位数を表し、「b」は新しいブロックの開始を表し、「BuOx]は2−ブチル−2−オキサゾリン誘導ポリマー単位を表し、そしてピペリジンはポリマー鎖の他の末端記基である)。
【0102】
乾燥および不活性条件下、32.2mg(0.2ミリモル、1eq)のメチルトリフルオロメチルスルホネート(メチルトリフレート、MeOTf)および440mg(5.17ミリモル、26eq)の2−メチル−2−オキサゾリン(MeOx)を3mL乾燥アセトニトリル中に室温で溶解させた。得られた混合物を15分間マイクロ波照射(150W最大、130℃)に付した。室温に冷却した後、第2ブロック用のモノマー、2−ブチル−2−オキサゾリン(256mg、2.01ミリモル、10eq)を加え、得られた混合物を第1ブロックと同様にして照射した。442mg(5.19ミリモル、26eq)を用いて第3ブロックのために手順を繰り返した。最後に、室温で0.1mLピペリジン(1.01ミリモル、5eq)を添加することによりP1を終了させた。一夜攪拌後、KCOを添加し、得られた混合物を数時間攪拌させた。濾過後、溶媒を除去し、残渣に3mLのクロロホルムを加えた。冷ジエチルエーテル(ポリマー溶液量の約10倍)からの沈殿後、遠心分離により生成物を得た。沈殿を3回行い、水から凍結乾燥後、無色粉末としてポリマーを得た(792mg、67%、Mth=5.8kg/モル)。GPC(DMAc):Mn=8.5kg/モル(PDI 1.2);
【0103】
【数1】

【0104】
メチル−P[MeOx37−b−BuOx23−b−MeOx37]−ピペリジン(P2)の製造
24mgMeOTf(0.146ミリモル、1eq)、333mgMeOx(3.91ミリモル、27eq、第1ブロック)、286mgBuOx(2.25ミリモル、15eq、第2ブロック)および333mgMeOx(3.91ミリモル、27eq、第3ブロック)および末端用試薬として80μLのピペリジンを使用してP2を得た。無色固体として生成物を得た(795mg、83%、Mth=6.6kg/モル)。
【0105】
【数2】

【0106】
メチル−P[MeOx36−b−BuOx30−b−MeOx36]−ピペリジン(P3)の製造
24.7mgメチルトリフレート(0.150ミリモル、1eq)および334mg2−メチル−2−オキサゾリン(3.9ミリモル、26eq、第1ブロック)を使用して、P3を製造した。反応混合物のアリコット136mg(5%w/w)を、NMRおよびGPCを用いて第1ブロックを分析するために取り出した。第2ブロック(364.4mgBuOx;2.87ミリモル、20eq、10%w/w分析した)後、同じ手順を行った。ブロック3(306.9mgMeOx;3.6ミリモル、28eq)を加え、80μLピペリジンを使用して終了させ、無色固体として生成物を得た(598mg、65%、Mth=6.6kg/モル)。
【0107】
【数3】

【0108】
メチル−P[EtOx50−b−BuOx19]−ピペラジン(P4)の製造
10mgMeOTf(61μモル、1eq)、321mg2−エチル−2−オキサゾリン(EtOx、3.24ミリモル、53eq、第1ブロック)および157mgBuOx(1.23ミリモル、20eq、第2ブロック)、そして末端試薬として150mgピペラジンを使用してP4を製造した。沈殿のため、シクロヘキサンおよびジエチルエーテル(50/50、v/v)の溶媒混合物を使用した。無色固体として生成物を得た(収量0.36g、77%、Mth=7.8kg/モル)。
【0109】
【数4】

【0110】
3.ピレン蛍光測定
標準的手順を使用してCMCを決定した。要するに、アセトン(2.5ミリモル)のピレン溶液をバイアルに加え、溶媒を蒸発させた。アッセイバッファ中に適当な濃度のポリマー溶液をバイアルに加え、その結果、5×10−7モルのピレン最終濃度を得た。溶液を25℃でインキュベート(>2時間)し、ピラン蛍光スペクトルをFluorolog3(HoribaJobinYvon)λex=333nm、λem=360〜400nm、スリッド幅(slidwidth)ex=スリッド幅(em)=1nm、ステップ幅0.5nmを使用して記録した。典型的には、各データ点の5スペクトルを平均し(積分時間0.1秒、必要の場合0.2秒積分を用いて10スペクトル)、蛍光強度の急増が観察される場合、CMCが推定される。さらに、Iバンドの蛍光強度をIバンドの強度と比較した。Iバンドは、ピレンプローブ環境の極性の概算を与える。エクシマーバンド形成は観察されなかった。
【0111】
このアプローチを使用して、各々100mg/L(15μM、P1)、20mg/L(2.7μM、P2)、7mg/L(1μM、P3)〜6mg/L(0.7μM、P4)の範囲の低い臨界ミセル濃度(CMC)を見出した(図1参照)。
【0112】
図1は、蛍光強度および25℃で本発明の関連で使用した通りブロックコポリマーの濃度依存性におけるピレン溶液(リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中5×10−7M)のI/Iを示す。
【0113】
4.薬物可溶化研究
4.1 パクリタキセル(PTX)可溶性
薬物−ポリマー溶液を、薄膜法を使用して調製した。適量のポリマーおよびPTX(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO,オーダー番号T7191)(ACNまたはエタノール中のストック溶液5〜8mg/mL)を、交互に最小量のACNまたはエタノール中に溶解させた。完全に溶媒を除去させた後、固体ポリマー−薬物フィルムを、アッセイ緩衝液または脱イオン水に入れた。例えば、手順を以下に示す。
【0114】
穏やかに温めながら空気流中で溶媒を除き、得られたフィルムを少なくとも3時間0.2ミリバールに付し、最終的に存在する残留溶媒を除いた。続いて、200μlのアッセイ緩衝液(122ミリモルNaCl、25ミリモルNaCO、10ミリモルHEPES、10ミリモルグルコース、3ミリモルKCl、1.4ミリモルCaClおよび0.4ミリモルKHPOを含有する水性溶液、pH7.4)を加え、最終ポリマー濃度を得た。50〜60℃で典型的には5〜10分間溶液をインキュベートすることにより、より高い濃度のPTX可溶化を促進させた。HPLCシリンジフィルター(0.45μm細孔サイズ)により澄明溶液を濾過して、HPLC分析に付した(下記参照)。フィルム形成前に共通溶媒として相対的に毒性のACNをより穏和なEtOHと置換しても添加効率を減じなかった。
【0115】
4、7および10mg/mLのPTXを10mg/mLのP2で可溶化を試みた。7mh/mL PTX濃度まで、短時間穏和加熱(約40℃)後、澄明溶液を得た。これらの条件下、PTXの可溶化が完全であり、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により確認された(図2A参照)。
【0116】
10mg/mL PTXのみ、30分60℃加熱した後でも未溶解の透明結晶がいくらか残った。しかし、それでも8.2mg/mLの多量のPTXが可溶化し、水相に見出された。換言すれば、得たれた製剤は少なくとも40重量%PTXからなる。同様の結果が、BuOxブロック中にわずか12単位しか有しないP1を含む他のポリマーで得られた(図2B参照)。
【0117】
2mg/mL程度の低さのポリマー濃度でさえ、卓越した添加効率および約30重量%の総薬物添加を得た(参照図2C、D)。したがって、本発明との関連で使用されるブロックコポリマー類は、Cremophor EL/エタノール(CrEL)およびAbraxaneTMと比較して、それぞれ、約100倍および9倍、PTXを可溶化させるのに必要な賦形剤の量を減らすことができる。
【0118】
図2は、薄膜法を使用して、両親媒ブロックコポリマー類を用いてPTXを可溶化させた結果を示す。異なるポリマーおよび目標PTX濃度を使用し、PTXのA〜Dの溶液濃度(棒)および添加効率(交叉円)であり:A)P2(10mg/mL)およびPTX(4mg/mL、7mg/mLおよび10mg/ml);B)P1〜P4(10mg/mL)およびPTX 4mg/mL;C)P3(2mg/mL)およびPTX(100μg/mL、500μg/mLおよび1mg/mL);D)P1〜P3(2mg/mL)およびPTX(500μg/mL)である。
【0119】
データを平均(n=3、ただし、C:1mg/mL PTXはn=1であり、B:P4はn=2である)±SEMとして示す。
【0120】
4.2 シクロスポリンAの可溶化
薄膜法を使用してシクロスポリンA(Alexis Corporation San Diego,CA、オーダー番号380−002−G001)の可溶化を行った。P2およびシクロスポリンAを使用して、澄明で且つ安定な溶液を得た。
【0121】
4.3 アンホテシリンBの可溶化
透析による溶媒交換を使用して、アンホテシリンBとP2との可溶化を行った。P2(10.2mg)およびアンホテシリンB三水和物(2.1mg、Riedel−de Haen、Seelze、Germany、オーダー番号46006)を250μLジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解させ、澄明で黄色溶液を得た。総計で750μLの脱イオン水を加えたが、100μL後、混合物は濁った。得られた混合物を透析袋(MWCO 3500g/モル)中に移した。溶液を2L脱イオン水に対して透析した(2時間、4時間および22時間で水を交換した)。総計50時間後、懸濁液(4mL)を透析袋から回収した。500μLアリコットを濾過し(0.45μm)、粒子を除き、澄明黄色溶液を凍結乾燥させ、1mgの黄色泡状固体を得た。残渣を200μL DMSO中に溶解させ、アンホテシリンBを、410nmにおける吸光度を使用して、分光光度法で定量した。透析溶液は366μgのアンホテシリンB(P2に関して18%(w/w))を含有した。別の1mLアリコットを凍結乾燥し(2.2mg黄色発泡体)、続いて、100μL脱イオン水に溶解させた。ポリマー−薬物発泡体は迅速且つ完全に溶解し、低粘度の強黄色溶液を得た。したがって、凍結保護物質を必要としないで、3.7mg/mLのアンホテシリンBが、18.3mg/mLのP2のみを使用して可溶化できた。同じプロトコルを使用して、アンホテシリンBの水溶解度を、約0.4μg/mLであると決定した。
【0122】
4.4 薬物可溶化のHPLC分析
HPLC分析を、等張条件下、SCL−10Aシステムコントローラー、SIL−10A自動注入器、SPD−10AV UV検出器、および2基のLC−10ATポンプを含むSimadzu装置を使用して行った。固定相としてNucleosil C18−5μカラムを使用し(250mm×4mm)、移動相としてアセトニトリル/水混合物(55/45(v/v))を適用した。検出は220nmで行った。ポリマー溶液中のPTXの量を、アセトニトリルに溶解した既知量のPTXを用いて得た較正曲線を使用して計算し、分析をした。
【0123】
上述したプロトコルを使用して得たシクロスポリンA溶液のHPLC分析を、移動相としてアセトニトリル/水混合物(90/10(v/v))を70℃で使用して行った。5mg/mLのP2に関して、1.03mg/mLのシクロスポリンAが可溶化できた。これは、82%添加効率および17%添加(w/w)に相当した。したがって、シクロスポリンA溶解度の約120倍増加がP2を使用して達成した。
【0124】
4.5 ミセル特性化
動的光散乱により決定して、薬物添加ミセルは非常に小さいことが見出され(rh=12〜22nm)、狭い寸法分布(PD≒0.04〜0.12)を示す。図3は、P1およびP2(10mg/mL)の薬物添加ミセル(それぞれ、4mg/mL PTX)の動的光散乱の結果を示す。
【0125】
5.細胞毒性アッセイ:MTT
MCF7/ADR(ドキソルビシンを用いた選択による、ヒト乳癌細胞系、MCF7(ATCC HT−B22)から誘導)を、Y.L.Lee(William Beaumont Hospital、Royal Oak、MI)により提供された。10%熱不活性ウシ胎仔血清(FBS)および別記した1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DEEM)中に細胞を維持した。Gibco Life Technologies Inc.(Grand Island,NY)から総ての組織物質培地を得た。
【0126】
96ウエルプレート中にMCF7/ADRを播種し(10細胞/ウエル)、24時間再付着させた。処理溶液を、培地(10%FBS、25ミリモルHEPESおよびペニシリン/ストレプトマイシンで補足した、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DEEM))を用いて適当に稀釈することにより、アッセイ緩衝液(122ミリモルNaCl、25ミリモルNaHCO、10ミリモルグルコース、10ミリモルHEPES、3ミリモルKCl、1.2ミリモルMgSO、1.4ミリモルCaCl、および0.4ミリモルKHPOを含有、pH7.4)中の1mg/mLポリマーストック溶液から調製した。200μLの処理溶液を用いて48時間細胞をインキュベートした。処理溶液を廃棄後、PBSを用いて細胞を3回洗浄した。FBS不含DMEM(100μL/ウエル)ならびにPBS中25μLの3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT、Invitrogen、Eugene、OR、USA)を加え、37℃で2時間細胞をインキュベートした。続いて、培地を廃棄し、100μLの溶媒(水中、25%(v/v)DMF、20%(w/v)SDS)で置換した。一夜かけてパープルホルマザン生成物を溶解させ、570nmの吸光度をプレートリーダー(SpectraMax M5、Molecular Devises)を使用して得た。陽性対照は培地のみで処理した細胞であり;陰性対照は細胞なしのウエルである。4個のウエルで各濃度を繰り返し、結果を平均±SEMとして表現した。
【0127】
図4は、多剤耐性(MCF7/ADR、A)および非−耐性(MCF7、B)ヒトアデノカルチノーマ細胞およびMadin−Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞におけるP1〜P4の、24時間(A)および2時間(B、C)インキュベート後の細胞毒性についてのアッセイ結果を示す。データは平均±SEMとして表現した。P1〜P4単独は20mg/mLまでの濃度で、異なる細胞系を使用する24時間インキュベートで非毒性であることが見出された。
【0128】
通常のポリマー類(plain polymers)と対照的に、ヒトおよびネズミ腫瘍細胞系に関して、PTX−添加ミセルは、顕著な濃度依存性毒性を示した(図5A)。例えば、PTX−添加P2、P3およびP4について24時間インキュベート後、耐性細胞系(MCF7/ADR)を使用して、10μM範囲のIC50値を観察した。市販CrEL−PTX製剤を対照として使用し、匹敵する増殖抑制をもたらした。PTX−添加ミセルは凍結保護物質を必要としないで凍結乾燥でき、薬物添加、粒度またはインビトロ薬物効率を妥協しないで水または生理食塩水中に簡単に再分散できる(図5B)。
【0129】
図5は、多剤耐性MCF7/ADR細胞のパクリタキセル用量依存性生存率を示す。A)P2およびP3製剤化PTXの比較が、24時間インキュベート後キャリヤー物質の依存性の細胞生存率に著しい差がないことを示す。B)凍結乾燥および脱イオン水で再構成後、P4についての例でパクリタキセル活性に変化がないことが観察される。データを平均(n=3)±SEMとして表す。
【0130】
6.動物研究
総ての実験を、雌性C57/BI/6マウス11〜12週齢(Taconic Laboratories,Germantown、NY)を使用して行った。動物を5匹/ケージに入れ、空気フィルターカバー、光(12時間明/暗サイクル)および温度制御(22F18C)環境下に維持した。動物に関する総ての操作を滅菌ラミナーフード下で行った。食餌および水を自由に与えた。国立衛生研究所により示されたPrinceple of Animal Care and Use Committeにしたがって動物を処理し、プロトコルは、University of Nebaraska Medical CenterのInstitutional Animal Careにより承認された。Lewis肺癌細胞(LLC 3T)をT75フラスコ中で増殖させ、HBSSで採集した。細胞懸濁液(1×10/動物)を右脇腹に50μLの量を皮下注射した。腫瘍出現後、腫瘍寸法を記録し(1日)、10mg/kg PTXの用量で、1、4および7日に100μLの量を注射した。
【0131】
PTX−添加ミセルのインビボ抗腫瘍作用を、皮下Lewis肺癌腫瘍を持つC57/BI/6マウスで試験した(図6)。市販(CrEI)および再構成ポリ(2−オキサゾリン)製剤(P2−PTX)双方が、わずか1回の注射後、全身腫瘍組織量を顕著に(p<0.05)減少させた(4日、それぞれ、腫瘍抑制率=72%および63%)。P2−PTX処理動物における腫瘍は、11日〜25日間市販製品で処理した動物よりも顕著に小さいままであった(p<0.05)。この期間のP2−PTXによる腫瘍抑制率が約70%であり、これと比較してCrEI群の腫瘍抑制率が50〜60%であったことを見出した。しかし、28日後、P2−PTX処方動物の全身腫瘍組織量の鋭い増加が観察され、両処理群とも同じ腫瘍抑制率であることが見出された。
【0132】
図6A)は、陰性対照(生理食塩水、P2単独)、POx可溶化PTXで処理(P2−PTX)および同PTX用量(10mg/kg)の市販製品(CrEI)を比較する、C57/BI/6マウスの皮下Lewis肺癌腫瘍の相対腫瘍量を示す。矢印は注射の時を示す。B)P2、P2−PTXおよび市販CrEIの腫瘍抑制率。データは平均±SEM(n=5)として表す。図6Bは、異なる時点での、P2、P2−PTXおよび市販CrEI処理群の計算腫瘍抑制率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 式(I)
【化1】

(式中、Rは炭化水素基であり、場合により、−OH、−SH、−COOH、−NR’、−COOR’、−CONR’、−CHOで置換されていてもよく、R’はHもしくはC1−3アルキルであり、Rは式(I)の繰り返し単位が親水性であるように選択する)の繰り返し単位;および式(II)
【化2】

(式中、Rは炭化水素基であり、場合により、ハロゲン、−OH、−SH、−COOH、−NR”、−COOR”、−CONR”、−CHOで置換されていてもよく、R”はH、アルキルもしくはアルケニルであり、Rは式(II)の繰り返し単位が式(I)の繰り返し単位よりもより疎水性であるように選択する)の繰り返し単位
を含む少なくとも一つのコポリマーと;
(b) 1種以上の活性剤と
を含む組成物。
【請求項2】
は、各出現に独立して、メチルおよびエチルから選択され、場合により、−OH、−SH、COOH、−NR’、−COOR’、−CONR’、−CHOで置換されてもよく、R’はHもしくはC1−3アルキルであり、RはC3−20炭化水素基から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
は、各出現に独立して、メチルおよびエチルから選択され、RはC4−6アルキル基から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
コポリマーが、請求項1〜3のいずれかで定義した式(I)の繰り返し単位からなる少なくとも一つのポリ(2−オキサゾリン)ブロックAおよび請求項1〜3のいずれかで定義した式(II)の繰り返し単位からなる少なくとも一つのポリ(2−オキサゾリン)ブロックBを含むブロックコポリマーである、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも一つのブロックAはポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)またはポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)ブロックであり、少なくとも一つのブロックBはポリ(2−ブチル−2−オキサゾリン)ブロックである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
ブロックコポリマーがABもしくはBAジブロックコポリマーまたはABAもしくはBABトリブロックコポリマーである、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも一つの活性剤が疎水性活性剤である、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも一つのコポリマーが、活性剤を配合するミセルを形成する、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
活性剤(単味もしくは複数種)対コポリマー(単一もしくは複数種)の重量比が1:10〜1:1の範囲である、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
ミセルの寸法が5〜500nmである、請求項8または9に記載の組成物。
【請求項11】
活性剤とブロックコポリマーとの合計重量に対する活性剤もしくは薬物の重量の比率が10%またはそれ以上である、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
活性剤として薬物を含有する医薬組成物または診断用組成物である、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
をメチルおよびエチルから選択する上記定義した通りの式(I)の繰り返し単位およびRがブチルである上記定義した通りの式(II)の繰り返し単位を含むコポリマー。
【請求項14】
ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)またはポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)から選択される少なくとも一つのブロックA、およびポリ(2−(C4−6)アルキル−2−オキサゾリン)から選択される少なくとも一つのブロックBを含むブロックコポリマーである、請求項13に記載のコポリマー。
【請求項15】
プラント保護用組成物として、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項16】
水中または水性溶液中に活性剤を可溶化させるための、請求項1〜6、13または14のいずれかに記載のコポリマーの使用。
【請求項17】
活性化合物の検出方法であって、当該化合物がスクリーニング試験において関心目標と相互作用し、当該方法は、活性化合物を請求項1〜11のいずれかに記載の組成物に配合する工程および得られた組成物を該スクリーニング試験に付す工程を含む、前記検出方法。
【請求項18】
治療または防止の必要な対象に請求項12に記載の医薬組成物を投与することを含む、障害または疾病を治療または防止する方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【公表番号】特表2011−525514(P2011−525514A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515216(P2011−515216)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004655
【国際公開番号】WO2009/156180
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(504150162)テクニシェ ユニバーシタット ミュンヘン (3)
【出願人】(503231664)ユニバーシティ オブ ネブラスカ メディカル センター (1)
【Fターム(参考)】