説明

活性化組織の体積を小刻みに調節するインタフェースの使用

神経刺激システムが、1つ又は2つ以上の電気接点、多相性の波形(例えば、二相性波形)を電気接点に出力することができる出力刺激回路及び多相性刺激波形の中間相を変化させることができる制御回路を有する。制御回路は又、多相性波形の振幅を変化させることも可能である。この場合、制御回路は、多相性刺激エネルギーの振幅を複数の低分解能ステップで別々に変化させることができる場合があり、更に、例えば、多相性刺激エネルギーの中間相を隣り合う1対の低分解能ステップの各々の相互間において複数の高分解能ステップで別々に変化させることによって、かかる中間相を低分解能ステップ相互間で変化させることができる場合がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織刺激システム、特に、活性化される組織の体積を調節するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植え込み型神経刺激システムは、多種多様な病気及び障害において治療効果があることが判明している。ペースメーカ及び植え込み型除細動器(ICD)は、多くの心臓病態(例えば、不整脈)の治療において非常に効果的であることが判明している。脊髄電気刺激(SCS)システムは、慢性疼痛症候群の治療に関して治療様式として長く認められており、組織刺激の利用分野は、追加の利用分野、例えば狭心症や失禁まで広がり始めた。深部脳刺激(DBS)も又、10年間を優に超える期間にわたり不応性慢性疼痛症候群の治療にとって治療効果があるように利用されており、DBSは又、最近、追加の領域、例えば癲癇にも利用されている。さらに、最近の研究では、末梢神経刺激(PNS)システムは、慢性疼痛症候群及び失禁の治療にあたって効果的であることを実証しており、多くの追加の利用分野が、現在研究中である。さらに、機能的電気刺激(FES)システム、例えばニューロコントロール(NeuroControl)社(オハイオ州クリーブランド所在)製のフリーハンド(Freehand)システムが、脊髄損傷患者の麻痺体肢に幾分かの機能性を回復させるよう利用されている。
【0003】
これら植え込み型神経刺激システムの各々は、典型的には、所望の刺激部位のところに植え込まれる1本又は2本以上の電極リードと、刺激部位から見て遠くのところに植え込まれるが、電極リードに直接的にかリード延長部を介して電極リードに間接的にかのいずれかの状態で結合される神経刺激器とを有する。かくして、電気パルスを神経刺激器から刺激電極に送出し、1組の刺激パラメータに従って組織の一体積部を刺激し又は活性化して患者に所望の効果的な治療を施すことができる。最善の刺激パラメータ組は、典型的には、刺激される非標的組織の体積を最小限に抑えながら、治療上の利益(例えば、鎮痛)を提供するために、刺激されなければならない組織の体積部に刺激エネルギーを送出する刺激パラメータ組である。典型的な刺激パラメータ組は、任意所与の時点で刺激パルス並びに刺激パルスの大きさ、持続時間及びレートを出している電極(陽極又はアノード)又はこれらが戻っている電極(陰極又はカソード)を含むのが良い。神経刺激システムは、電気刺激パルスを選択された刺激パラメータに従って発生させるよう神経刺激器に遠隔から命令を出す手持ち形患者プログラマを更に有するのが良い。手持ち形プログラマは、それ自体、患者を受け持っている技術者により例えば臨床医のプログラマステーション(CPS)を用いることによりプログラムされるのが良く、かかるCPSは、典型的には、プログラミングソフトウエアパッケージがインストールされた汎用コンピュータ、例えばラップトップ形コンピュータを含む。
【0004】
典型的には、任意所与の神経刺激用途における活性化される組織の体積は、或る特定の刺激パラメータ、例えば振幅及びパルス幅を調節することにより増減できる。しかしながら、活性化される組織の体積の大きさは、連続方式では加減されず、離散方式で加減され、この場合、漸増又は漸減している刺激エネルギーのステップサイズは、刺激エネルギーを発生させるために用いられているハードウエアによって許容される振幅分解能及びパルス幅分解能によって制約される。分解能が不十分であると、治療と関連した組織及び望ましくない副作用と関連した組織が例えばDBS又はSCSでは互いに並んで位置する用途では問題が生じる。すなわち、刺激ハードウエアの現在の分解能が所与である場合、治療による免荷をもたらす標的組織の刺激を行うと共に副作用を生じさせる標的組織の刺激を生じさせないようにすることは、困難な場合がある。
【0005】
既存の食品薬品局(FDA)により認可された器械を用いてDBSにおいて活性化の体積を増減するために用いられる現行のハードウエア分解能は、大きすぎるという証拠が存在する。例えば、視床下核(STN)刺激にあたり、臨床医は、典型的には、有効範囲の短いほうの端(最小60μs)に近いパルス幅を用いており(これについては、ザ・ディープ‐ブレイン・スティミュレーション・フォー・パーキンソンズ・ディジーズ・スタディ・グループ(The Deep-Brain Stimulation for Parkinson's Disease Study Group),「ディープ‐ブレイン・スティミュレーション・オブ・ザ・サブサラミック・ニュークリアス・オア・ザ・パース・インテルナ・オブ・ザ・グローバス・パリダス・イン・パーキンソンズ・ディジーズ(Deep-Brain Stimulation of the Subthalamic Nucleus or the Pars Interna of the Globus Pallidus in Parkinson's Disease)」,ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(N Engl J Med),第345巻,第13号,2001年9月27日を参照されたい)、短いパルス幅の使用に関して考えられる一対象として、短いパルス幅は、振幅ステップサイズが所与の場合、大きなパルス幅の場合よりも小さな変化を活性化の体積にもたらすことができる(例えば、Kinetra(登録商標)IPGは、0.05Vステップを可能にし、Precision(登録商標)IPGは、100μAステップを可能にする)。これについては、ゴーマン(Gorman),モルティマ(Mortimer)共著,「ジ・エフェクト・オブ・スティミュラス・パラメータース・オン・ザ・リクルートメント・キャラクタリスティックス・オブ・ダイレクト・ナーブ・スティミュレーション(The Effect of Stimulus Parameters on the Recruitment Characteristics of Direct Nerve Stimulation)」,アイイーイーイー・トランザクションズ・オン・バイオメディカル・エンジニアリング(IEEE Transactions on Biomedical Engineering),第BME‐30巻,第7号,1983年7月を参照されたい。
【0006】
図1は、刺激分解能が低すぎるので標的組織Tを適切に刺激することはできずに必ず非標的組織NTを刺激することになることに起因して生じる場合のある問題を単純化した形で示している。図示のように、刺激エネルギーを電極Eに2つの漸増する振幅(A1,A2,A3)で及ぼして3つの漸増する体積の活性化組織(V1,V2,V3)を生じさせる。振幅A2のところで電極Eに及ぼされた刺激エネルギーは、非標的組織を刺激しないが、活性化組織の体積V2内の標的組織全体に及ぶのは不適切であり、それにより、患者に提供される治療を最適化することができない。振幅A3のところで電極Eに及ぼされた刺激は、活性化組織の体積V3内の標的組織T全体に及ぶのに十分であるが、これ又、非標的組織NTを含み、それにより望ましくない副作用が潜在的に生じる。
【0007】
かくして、活性化の体積を分解能の増大により加減する神経刺激方法及びシステムが要望され続けている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ザ・ディープ‐ブレイン・スティミュレーション・フォー・パーキンソンズ・ディジーズ・スタディ・グループ(The Deep-Brain Stimulation for Parkinson's Disease Study Group),「ディープ‐ブレイン・スティミュレーション・オブ・ザ・サブサラミック・ニュークリアス・オア・ザ・パース・インテルナ・オブ・ザ・グローバス・パリダス・イン・パーキンソンズ・ディジーズ(Deep-Brain Stimulation of the Subthalamic Nucleus or the Pars Interna of the Globus Pallidus in Parkinson's Disease)」,ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(N Engl J Med),第345巻,第13号,2001年9月27日
【非特許文献2】ゴーマン(Gorman),モルティマ(Mortimer)共著,「ジ・エフェクト・オブ・スティミュラス・パラメータース・オン・ザ・リクルートメント・キャラクタリスティックス・オブ・ダイレクト・ナーブ・スティミュレーション(The Effect of Stimulus Parameters on the Recruitment Characteristics of Direct Nerve Stimulation)」,アイイーイーイー・トランザクションズ・オン・バイオメディカル・エンジニアリング(IEEE Transactions on Biomedical Engineering),第BME‐30巻,第7号,1983年7月
【発明の概要】
【0009】
本発明の一観点によれば、患者に治療を施す方法が提供される。この方法は、1つ又は2つ以上の電極を患者の組織と接触状態に配置するステップと、多相性(例えば2相性)刺激エネルギーを電極に送出し、それにより組織の一体積部を活性化させるステップと、電極に送出されている多相性刺激エネルギーの中間相を変化させることにより活性化組織の体積を加減するステップとを有する。
【0010】
一方法では、多相性刺激エネルギーは、陰極パルス及び陽極パルスを含み、中間相は、陰極パルスと陽極パルスとの間に位置する。陰極パルスは、陽極パルスに先行するのが良い。別の方法では、多相性刺激エネルギーは、刺激パルス及び再充電パルスを含み、中間相は、刺激パルスと再充電パルスとの間に位置する。さらに別の方法では、多相性刺激エネルギーは、パルス幅が100μm未満の刺激パルスを含み、多相性エネルギーの中間相は、0μs〜100μsの範囲内で変化させられる。
【0011】
オプションとしての方法は、電極に送出されている多相性刺激エネルギーの振幅を変化させて活性化組織の体積を加減するステップを更に有する。この場合、多相性刺激エネルギーの振幅は、複数のステップで離散的に変化させられ、多相性刺激エネルギーの中間相は、複数のステップ相互間で変化させられるのが良い。例えば、振幅変化は、活性化組織の体積を低分解能ステップで加減し、中間相変化は、活性化組織の体積を低分解能ステップ相互間の高分解能ステップで加減するのが良い。
【0012】
本発明の第2の観点によれば、神経刺激システムが提供される。この神経刺激システムは、1つ又は2つ以上の電気接点を有する。一実施形態では、神経刺激システムは、電気接点に電気的に結合された少なくとも1つの電極を支持する刺激リードを更に有する。神経刺激システムは、多相性波形(例えば2相性波形)を電気接点に送出することができる出力刺激回路と、多相性刺激波形の中間相を変化させることができる制御回路とを更に有する。
【0013】
一実施形態では、多相性波形は、陰極パルス及び陽極パルスを含み、中間相は、陰極パルスと陽極パルスとの間に位置する。陰極パルスは、陽極パルスに先行するのが良い。別の実施形態では、多相性波形は、刺激パルス及び再充電パルスを含み、中間相は、刺激パルスと再充電パルスとの間に位置する。さらに別の実施形態では、多相性波形は、パルス幅が100μm未満の刺激パルスを含み、制御回路は、多相性波形の中間相を0μs〜100μsの範囲内で変化させることができる。
【0014】
オプションとしての実施形態では、制御回路は、多相性波形の振幅を変化させることができる。この場合、制御回路は、多相性刺激エネルギーの振幅を複数の低分解能ステップで離散的に変化させることができ、制御回路は更に、例えば中間相を低分解能ステップの各隣接対相互間の複数の高分解能ステップで離散的に変化させることにより、多相性刺激エネルギーの中間相を複数の低分解能ステップ相互間で変化させることができるのが良い。
【0015】
別のオプションとしての実施形態では、神経刺激システムは、1組の刺激パラメータを記録することができるメモリを更に有し、この場合、制御回路は、多相性波形の中間相を刺激パラメータの組に従って変化させることができるのが良い。神経刺激システムは、外部プログラマからの命令をワイヤレスで受信して多相性波形の中間相を変化させることができる遠隔計測回路を更に有するのが良い。神経刺激システムは、植え込み可能な神経刺激器を形成するよう電気接点、出力刺激回路、及び制御回路を収納するケースを更に有するのが良い。
【0016】
本発明の第3の観点によれば、神経刺激器用のプログラマが提供される。このプログラマは、ユーザからの入力を受信することができるユーザインタフェースと、ユーザ入力に応答して多相性波形を定める複数の刺激パラメータ組を発生させることができるプロセッサとを有し、刺激パラメータ組のうちの少なくとも幾つかは、多相性波形に関して変化する中間相値を定める。多相性波形は、上述したのと同一の特徴を有するのが良い。プログラマは、パラメータ組を神経刺激器に送信することができる出力回路を更に有する。
【0017】
オプションとしての実施形態では、刺激パラメータ組のうちの少なくとも幾つかは、多相性波形に関する変化する振幅値を定める。この場合、刺激パラメータ組のうちの少なくとも2つは、互いに異なる振幅値を定め、少なくとも2つの刺激パラメータ組相互間の一連の刺激パラメータ組は、互いに異なる中間相値を定める。別のオプションとしての実施形態では、ユーザインタフェースは、アクチュエータを含み、プロセッサは、アクチュエータの作動に応答して複数の刺激パラメータ組を発生させることができる。例えば、プロセッサは、アクチュエータのたった1回の作動(例えばボタンを押しつづけることによる)に応答して複数の刺激パラメータ組を発生させることができるのが良い。更に別の実施形態では、出力回路は、複数の刺激パラメータ組を神経刺激器にワイヤレスで送信することができる遠隔計測回路であるのか良い。
【0018】
本発明の第4の観点によれば、組織刺激システムを作動させるコンピュータにより読み取り可能な媒体が提供される。この媒体は、媒体は、命令を格納しており、命令は、実行されると、第1の振幅値と関連した第1の一連の状態を有するルックアップテーブルにアクセスする段階を有し、一連の状態は、それぞれ一連の変化する(例えば次第に増大する)中間相値を含む。命令は、実行されると、第1の一連の状態を段階的に進める段階と、段階的に進められた第1の一連の状態のうちの各状態について多相性波を定める1組の刺激パラメータを発生させる段階とを更に有する。各刺激パラメータ組は、各状態のそれぞれの中に含まれる第1の振幅値及び中間相値を含む。各刺激パラメータ組は、刺激パルス振幅、刺激パルスレート、及び刺激パルス幅を含む、多相性波形は、上述したのと同一の特徴を有するのが良い。
【0019】
一実施形態では、ルックアップテーブルは、第1の振幅値とは異なる第2の振幅値と関連した第2の一連の状態を有し、第2の一連の状態は、多相性波についてそれぞれ一連の次第に増大する中間相値を含む。この場合、命令は、実行されると、第2の一連の状態を段階的に進める段階と、段階的に進められた第2の一連の状態のうちの各状態について1組の刺激パラメータを発生させる段階とを更に有し、各刺激パラメータ組は、各状態のそれぞれの中に含まれる第2の振幅値及び中間相値を含む。
【0020】
図面は、本発明の実施形態の設計及び有用性を示しており、図中、同一の要素は、共通の参照符号で示されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】先行技術のSCSシステムにより作られた活性化組織の漸変体積の図である。
【図2】本発明に従って構成された脊髄電気刺激(SCS)システムの一実施形態の平面図である。
【図3】図2のSCSシステムで用いられる植込み型パルス発生器(IPG)の側面図である。
【図4】患者に用いられている状態の図2のSCSシステムの平面図である。
【図5】図3のIPGの内部コンポーネントのブロック図である。
【図6】図5のIPGにより発生させた一連の二相性パルスを示すタイミング図である。
【図7】図5のIPGにより発生させた別の一連の二相性パルスを示すタイミング図である。
【図8】図5のIPGにより双極方式で多数のチャネル上に発生させた一連の二相性パルスを示すタイミング図である。
【図9】図5のIPGにより発生させた更に別の一連の二相性パルスを示すタイミング図である。
【図10】図5のIPGにより発生させた一連の三相性パルスを示すタイミング図である。
【図11】電極点源から神経軸索突起に送出された電気エネルギーの活動電位による作用効果を判定するためにモデル化できる神経軸索突起に隣接した電極点源の平面図である。
【図12】図11に示された点源及び神経軸索突起を用いてモデル化された単相性パルス、中間相の無い二相性パルス及び中間相のある三相性パルスの図である。
【図13】図3のIPGによって発生させた二相性パルスの中間相及び振幅を変化させることにより活性化できる組織の体積の変化を示す図である。
【図14】図2の神経刺激システムで使用できる手持ち形患者プログラマ(HHP)の平面図である。
【図15】図14のHHPの内部コンポーネントのブロック図である。
【図16】刺激パラメータを発生させるためにHHPにより使用できる振幅値及び中間相値を含む例示の一ルックアップテーブルを示す図である。
【図17】刺激パラメータを発生させるためにHHPにより使用できる振幅値及び中間相値を含む例示の別のルックアップテーブルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
先ず最初に、本発明は、植え込み型パルス発生器(IPG)、高周波(RF)送信器又は伝送器又は多種多様な刺激システムのコンポーネントとして使用できる類似の電気刺激器と共に利用できることが注目される。以下の説明は、脊髄電気刺激(SCS)システムに関する。しかしながら、本発明は、SCSにおける分野に向いているが、本発明は、その最も広い観点では、これに限定されることはないことは注目されるべきである。さらに適切に言えば、本発明は、組織を刺激するために用いられる任意形式の植え込み型電気回路と共に利用できる。例えば、本発明は、ペースメーカ、除細動器、蝸牛刺激器、網膜刺激器、調和体肢運動を生じさせるよう構成された刺激器、大脳皮質刺激器、深部脳刺激器、末梢神経刺激器、微小刺激器又は尿失禁、睡眠時無呼吸、肩関節亜脱臼、頭痛等を治療するよう構成された任意他の神経刺激器の一部として利用できる。
【0023】
先ず最初に図2を参照すると、例示のSCSシステム10は、主要構成要素として、1つ又は2つ以上(この場合、2つ)の植込み型刺激リード12と、植込み型パルス発生器(IPG)14(又は変形例として、RF受信器型刺激器)と、外部手持ち形プログラマ(HHP)16と、臨床医のプログラマステーション(CPS)18と、外部試験的刺激器(ETS)20と、外部充電器22とを有している。
【0024】
IPG14は、1本又は2本以上の経皮リード延長部24を介して刺激リード12に物理的に連結されており、刺激リード12は、アレイの状態に配列された複数の電極26を支持している。図示の実施形態では、刺激リード12は、経皮リードであり、この目的のため、電極26は、刺激リード12に沿って、インライン配置されている。図3に示された例示の実施形態では、一方の刺激リード12は、8つの電極26(E1〜E8で表示されている)を有し、他方の刺激リード12は、8つの電極26(E9〜E16で表示されている)を有している。リード及び電極の実際の数及び形状は、当然のことながら、意図した用途に応じて様々であろう。変形例として、刺激リード12に代えて、単一のパドル刺激リードを用いても良い。IPG14は、電子コンポーネント及び他のコンポーネント(以下に詳細に説明する)を収容する外側ケース15と、コネクタ17とを有し、刺激リード12の近位端部は、電極26を外側ケース15内の電子回路に電気的に結合する仕方でコネクタ17内に嵌入している。外側ケース15は、導電性生体適合性の材料、例えばチタンで構成されており、この外側ケースは、内部電子回路を体組織及び体液から保護する気密封止コンパートメントを形成している。場合によっては、外側ケース15は、電極としての役目を果たし、これについては以下に詳細に説明する。
【0025】
以下に詳細に説明するように、IPG14は、パルス発生回路を有し、このパルス発生回路は、電気刺激エネルギーを1組の刺激パラメータに従って電極アレイ26に送出する。かかる刺激パラメータは、陽極又はアノード(正)、陰極又はカソード(負)及びターンオフ(ゼロ)として動作状態にされる電極を定める電極の組み合わせと、パルス振幅(IPG14が一定の電流を電極アレイ26に送るか一定の電圧を電極アレイ26に送るかに応じてミリアンペア又はボルトで測定される)、パルス持続時間(マイクロ秒で測定される)及びパルスレート(毎秒のパルス数で測定される)を定める電気パルスパラメータとを含むのが良い。重要なこととして、以下に更に詳細に説明するように、IPG14により提供される電気刺激エネルギーは、多相性刺激エネルギー、特に二相性刺激エネルギーであり、かかる刺激エネルギーは、調節可能な中間相(即ち、二相性パルスに属するパルス相互間の期間又は周期)を含む。この目的のため、刺激パルスパラメータは、中間相値(マイクロ秒で測定される)を更に含む。
【0026】
SCSシステム10の作動中に提供される刺激パターンに関し、刺激エネルギーを送り又は受け取るよう選択された電極を本明細書では「アクティブな」と形容し、刺激エネルギーを送り又は受け取るようには選択されていない電極を本明細書では「非アクティブな」又は「オフの」と形容する。電気刺激は、2つ(又は3つ以上)のアクティブな電極相互間で生じ、これら電極のうちの一方は、IPGケースであるのが良い。刺激エネルギーを単極又は多極(例えば、二極、三極等)方式で組織に送ることができる。
【0027】
単極刺激は、リード電極26のうちの選択された1つがIPG14のケースと共にアクティブな状態になったときに生じ、その結果、刺激エネルギーが選択された電極26とケースとの間で送られるようになる。二極刺激は、リード電極26のうちの2つが陽極(アノード)及び陰極(カソード)としてアクティブな状態になったときに生じ、その結果、刺激エネルギーが選択された電極26相互間で送られるようになる。例えば第1のリード12上の電極E3を陽極としてアクティブな状態にすることができ、それと同時に、第2のリード14上の電極E11を陰極としてアクティブな状態にする。三極刺激は、リード電極26のうちの3つをアクティブな状態にしたときに生じ、2つの電極が陽極として、残りの1つが陰極としてアクティブな状態にされ、又は、2つの電極が陰極として、残りの1つが陽極としてアクティブな状態にされる。例えば、第1のリード12上の電極E4,E5を陽極としてアクティブな状態にすることができ、それと同時に、第2のリード14上の電極E12を陰極としてアクティブな状態にする。
【0028】
図4を参照すると、刺激リード12は、患者40の脊柱42内に植え込まれている。刺激リード12の好ましい配置場所は、刺激されるべき脊髄領域に隣接したところであり、即ち、かかる脊髄領域の上方の脊髄硬膜外腔内である。刺激リード12が脊柱40から出る場所の近くのスペースが狭いために、IPG14は、一般に、腹部内か臀部の上方かのいずれかの外科的に作られたポケット内に植え込まれる。IPG14は、当然のことながら、患者の体内の別の場所に植え込まれても良い。リード延長部24は、刺激リード12の出口箇所から遠ざかってIPG14を配置するのを助ける。植え込み後、IPG14は、患者の制御下で治療用刺激を提供するために用いられる。
【0029】
図2に戻ってこれを参照すると、ETS20も又、経皮リード延長部28及び外部ケーブル30を介して刺激リード12に物理的に連結されるのが良い。ETS20は、IPG14と同様なパルス発生回路を有しており、このETSも又、電気多相性刺激エネルギーを1組の刺激パラメータに従って電極アレイ26に送出する。ETS20とIPG14の大きな差は、ETS20が、刺激リード12を植え込んだ後であってIPG14の植え込み前に、提供されるべき刺激の応答性を試験するために試験的に用いられる非植込み型器械であるということにある。例示のETSのそれ以上の詳細は、米国特許第6,895,280号明細書に記載されている。
【0030】
HHP16は、双方向RF通信リンク32を介してETS20を遠隔計測的に制御するために使用されるのが良い。IPG14及び刺激リード12をいったん植え込むと、HHP16は、RF通信リンク30を介してIPG14を遠隔計測的に制御するために使用できる。かかる制御により、IPG14をターンオン又はターンオフすることができ、しかも植え込み後にIPG14に種々の刺激プログラムをプログラムすることができる。IPG14をいったんプログラムし、その電源を充電し又は違ったやり方で補充すると、IPG14は、HHP16が存在していない状態でもプログラムされたように機能することができる。
【0031】
CPS18は、手術室内及びフォローアップセッションにおいてIPG14及びETS20をプログラムするための臨床医用の詳細な刺激パラメータを提供する。CPS18は、HHP16を介してIR通信リンク36経由でIPG14又はETS20と間接的に通信することによりこの機能を実行するのが良い。変形例として、CPS18は、RF通信リンク(図示せず)経由でIPG14又はETS20と直接通信しても良い。外部充電器22は、誘導性リンク38経由でIPG14を経皮的に充電するために用いられる携帯型装置である。簡潔にすることを目的として、外部充電器22の細部についてはここでは説明しない。外部充電器の例示の実施形態の細部は、米国特許第6,895,280号明細書に開示されている。
【0032】
次に図5を参照し、以下においてIPG14の例示の一実施形態について説明する。IPG14は、制御論理52の制御下でデータバス54により指定された振幅の電気刺激パルスを個々に発生させることができる刺激出力回路50を有している。以下に詳細に説明するように、刺激出力回路50は、多相性波形、特に二相性波形を出力することができる。IPG14により出力される二相性刺激エネルギーのパルスレート、パルス幅及びパルス中間相は、タイマ論理回路56を用いて制御される。タイマ論理回路56は、適当な分解能、例えば10μsを有するのが良い。二相性刺激エネルギーは、キャパシタC1〜C16を介して、電極E1〜E16及びケース電極に対応した電気接点58に供給される。
図示の実施形態では、刺激出力回路50は、刺激エネルギーを指定された且つ既知のアンペア数で電気接点58に供給することができる複数m個の独立した電流源対60を有している。各対60の一方の電流源62は、正(+)又は陽極電流源として機能し、各対60の他方の電流源64は、負(−)又は陰極電流源として機能する。各対60の陽極電流源62の出力及び陰極電流源64の出力は、共通ノード66に接続されている。刺激出力回路50は、低インピーダンス切り替えマトリックス68を更に有し、各電流源対60の共通ノード66は、この低インピーダンス切り替えマトリックスによりキャパシタC1〜C16を経て電気接点58の任意のものに接続される。変形例として、刺激出力回路50は、低インピーダンス切り替えマトリックス68を使用しなくても良く、これに代えて、電気接点58の各々について双方向電流源を用いる。
【0033】
かくして、例えば、+4mAのパルス(指定されたレートで且つ指定された持続時間にわたり)を生じさせるよう第1の陽極電流源62(+l1)をプログラムすると共に同様に−4mAのパルス(同じレート及びパルス幅で)を生じさせるよう第2の陰極電流源64(−l2)を同期してプログラムし、次に陽極電流源62(+l1)のノード86を電極E3に対応した電気接点58に接続すると共に陰極電流源64(−l2)のノード66を電極E1に対応した電気接点58に接続することが可能である。
【0034】
それ故、理解されるように、プログラム可能な電気接点58の各々をこれが正(出てゆく(ソーシング)電流)、負(入ってゆく(シンキング)電流)又はオフ(電流が流れない)極性を有するようプログラムすることができる。さらに、所与の電気接点58からソーシングされ又はシンキングされている電流パルスの振幅は、数個の別々のレベルのうちの1つに合わせてプログラムされるのが良い。一実施形態では、各電気接点58を通る電流は、IPG14の出力電圧/電流要件の範囲内で100μAのステップで0mAから±10mAに個々に設定できる。加うるに、一実施形態では、一群の電気接点58により出力される全電流は、最高±20mAまで(群に含まれる電極全体に分布される)であるのが良い。さらに、理解されるように、電気接点58の各々は、例えば2つ又は3つ以上の電気接点が同時に電流をソーシング/シンキングするようグループ分けされる多極モードで動作するのが良い。変形例として、電気接点58の各々は、例えば電気接点58が陰極(負)として構成され、IPG14のケースが陽極(正)として構成される単極モードで動作しても良い。
【0035】
理解できるように、電気接点58には振幅が与えられると共に電気接点は可能な限りk個までのグループのうちの任意のものに含まれるのが良く、この場合、kは、チャネルの数に一致した整数であり、図示の実施形態では、4に等しく、各チャネルkは、規定されたパルス幅及びパルスレートを有する。他のチャネルは、同様な仕方で実現できる。かくして、各チャネルは、電流、即ち、これら電気接点の各々のところのパルス振幅、パルス幅及びパルスレートを同期してソーシングし又はシンキングするためにどの電気接点58(及びかくして電極)が選択されるかを特定する。
【0036】
変形実施形態では、制御される独立した電流源を用いるのではなく、指定されると共に既知の電圧の刺激パルスを電気接点58に提供する独立して制御される電圧源を提供しても良い。所定の振幅及び幅の刺激パルスを発生させる同一機能を実行する適当な出力回路の変形実施形態を含むこの出力刺激回路の動作原理は、米国特許第6,516,227号明細書及び同第6,993,384号明細書により詳細に記載されている。
【0037】
IPG14は、IPG14全体の中の種々のノード又は他の箇所72の状態、例えば電源電圧、温度、バッテリ電圧等をモニタするモニタ回路70を更に有している。IPG14は、データバス76により制御論理52を制御し、データバス78によりモニタ回路70から状態データを得るマイクロコントローラ(μC)74の形態の処理回路を更に有している。加うるに、IPG14は、タイマ論理56を制御する。IPG14は、マイクロコントローラ74に結合されたメモリ80及び発信・クロック回路82を更に有している。かくして、マイクロコントローラ74は、メモリ80及び発信・クロック回路82と組み合わさった状態で、メモリ80に格納された適当なプログラムに従ってプログラム機能を実行するマイクロプロセッサシステムを構成している。変形例として、用途によっては、マイクロプロセッサシステムにより提供される機能は、適当な状態器械によって実行されても良い。
【0038】
かくして、マイクロコントローラ74は、マイクロコントローラ74が選択された動作プログラム及び刺激パラメータに従ってIPG14の動作を制御することができるようにするのに必要な制御及び状態信号を発生させる。IPG14の動作を制御する際、刺激出力回路50を制御論理52及びタイマ論理56と組み合わせ状態で用いて刺激パルスを電極26のところに個々に発生させ、それにより各電極26を単極ケース電極を含む他の電極26と対にし又はグループ化することができ、又、極性、振幅、レート、パルス幅、中間相及び電流刺激パルスが提供されるチャネルを制御することができる。
【0039】
IPG14は、HHP16からプログラミングデータ(例えば、動作プログラム及び(又は)刺激パラメータ)を適当な被変調搬送信号で受け取る交流(AC)受け取りコイル84と、AC受け取りコイル84を介して受け取った搬送信号を復調してプログラミングデータを回復するためのチャージング・フォアード遠隔計測回路(charging and forward telemetry circuitry)86とを更に有し、プログラミングデータは次に、メモリ80内に又はIPG14全体を通じて分散して設けられている他のメモリ要素(図示せず)内に記憶させる。
【0040】
IPG14は、逆遠隔計測又はバックテレメトリ回路(back telemetry circuitry)88と、モニタ回路70を介してセンシングされた情報データをHHP16に送る交流(AC)伝送コイル90とを更に有する。また、IPG14の逆遠隔計測特徴により、その状態をチェックすることができる。例えば、刺激パラメータに対して行われた変更は、逆遠隔計測により確認され、それによりかかる変更がIPG14内で正しく受け取られて実施されたかどうかが保証される。さらに、HHP16による問い合わせ時、IPG14内に記憶された全てのプログラム可能設定値をHHP16にアップロードすることができる。
【0041】
IPG14は、動作電力をIPG14に提供する再充電式電源92及び電源回路94を更に有している。再充電式電源92は、例えば、リチウム‐イオン又はリチウム‐イオンポリマー電池から成るのが良い。再充電式電池92は、無調整電圧を電源回路94に提供する。電源回路94は、IPG14内に設けられている種々の回路により必要とされる種々の電圧96を発生し、これら電圧のうちの幾つかは、調整され、これら電圧のうちの幾つかは、調整されない。再充電式電源92は、AC受け取りコイル84により受け取られた整流済みAC電力(又は他の手段、例えば高効率AC‐DC変換器回路(これは、「インバータ回路」とも呼ばれている)を介してAC電力から変換されたDC電力)を用いて再充電される。電源92を再充電するため、AC磁界を発生させる外部充電器(図示せず)が、植え込まれたIPG14の上で患者の皮膚に当てて配置され又は違ったやり方でこれに隣接して配置される。外部充電器により放出されたAC磁界は、AC電流をAC受け取りコイル84中に誘導して生じさせる。チャージング・フォアード遠隔計測回路86は、AC電流を整流してDC電流を生じさせ、かかるDC電流は、電源92を充電するために用いられる。AC受け取りコイル84を通信(例えば、プログラミング及び制御データ)のワイヤレス受信と外部装置からのエネルギーの要求の両方を行うために用いられるものとして説明したが、理解されるべきこととして、AC受け取りコイル84を専用の充電コイル(チャージングコイル)として構成することができ、別のコイル、例えばコイル90を双方向遠隔計測に用いることができる。
【0042】
図5に示されているように、IPG14内に設けられている回路の大部分を単一の特定用途向け集積回路(ASIC)98で実現することができる。これにより、IPG14のサイズ全体を極めて小さくすることができ、それにより適当な気密封止ケース内に容易に収容することができる。変形例として、IPG14内に設けられている回路の大部分を米国特許出願公開第2007−0038250号明細書に記載されているように多数のディジタル及びアナログダイ上に配置しても良い。例えば、内臓ソフトウェアにより処理機能を実行するためにプロセッサチップ、例えば用途向け集積回路(ASIC)を設けるのが良い。IPG14の機能発揮に必要な幾つかの仕事を実行するためにアナログIC(AIC)を設けるのが良く、かかる機能としては、電力調整を行うこと、刺激出力を提供すること、インピーダンス測定及びモニタを行うことが挙げられる。プロセッサICにより入力要求された時にアナログIC内の刺激回路により出力された電流の刺激レベル及びシーケンスを制御したり変更したりすることによりプロセッサICとアナログICとの間の主要インタフェースとして機能するディジタルIC(DigIC)を設けるのが良い。
【0043】
図5の線図は、機能図に過ぎず、本発明を限定するものではないことは注目されるべきである。説明が本明細書に与えられているものと仮定して、指定すると共に説明した機能を実行する多くの形式のIPG回路又は均等回路を容易に構成できるものとする。上述のIPG及び他のIPGに対する追加の詳細は、米国特許第6,516,227号明細書、米国特許出願公開第2003/0139781号明細書及び同第2005−0267546号明細書に見いだされる。注目されるべきこととして、SCSシステム10は、IPGではなく、変形例として、刺激リード12に接続された植え込み型受信器型刺激器(図示せず)を利用することができる。この場合、植え込まれた受信器に電力供給する電源、例えば電池並びに受信器型刺激器に指令を出す制御回路は、電磁リンクを介して受信器型刺激器に誘導結合された外部コントローラ内に納められる。データ/電力信号は、植え込まれた受信器型刺激器上に配置されているケーブル接続状態の伝送コイルから経皮的に結合される。植え込まれた受信器型刺激器は、信号を受け取り、制御信号に従って刺激を発生させる。
【0044】
上記において大まかに説明したように、例示のIPG14(又はETS20)は、図6に示されているように、一連の二相性パルス100を含む二相性波形を発生させ、各二相性パルス100は、第1の位相周期106中に発生した陰極(負)パルス102及び第2の位相周期108中に発生した陽極(正)パルス104を含み、第1の位相周期106と第2の位相周期108との間の中間相周期110中に発生する二相性パルスのうちのパルス又は部分は存在していない。図示のように、陰極パルス102は、方形パルスであり、陽極パルス104は、指数関数的に減衰するパルスである。
【0045】
図示の実施形態では、第1の位相周期106(陰極パルス102のパルス幅)は、10μsステップで10μsから1000μsまでにプログラム可能である。好ましくは、第1の位相周期106は、刺激されるべき組織の制御を極力高めるよう比較的短い。例えば、第1の位相周期106は、200μs未満、好ましくは100μs未満、最も好ましくは50μs未満であるのが良い。第2の位相周期108(陽極パルス104のパルス幅)は、10μsステップで10μsから6000μsまでにプログラム可能である。好ましくは、第2の位相周期108は、第1の位相周期106と同一オーダーで比較的短い。特に、短いパルス幅の使用は、SCS及び他の神経刺激用途にとって有用であるが、短いパルス幅の使用は、本発明の背景技術の項目で説明したようにDBS用途に特に有用である。DBSに関するそれ以上の細部は、米国特許第6,920,359号明細書に記載されている。以下に詳細に説明するように、中間相周期110は、10μsで0μsから100μsまでプログラム可能である。二相性パルス100のパルスレートは、ノーマルレート(Normal Rate)範囲、例えば1ppsステップで2pps〜150ppsに及ぶ範囲かハイレート(High Rate)範囲、例えば10ppsステップで150pps〜350pps、50ppsステップで400pps〜500pps及び100ppsステップで600pps〜1200ppsに及ぶ範囲かのいずれかでプログラム可能であるのが良い。
【0046】
図示の実施形態では、陰極パルス102は、脱分極刺激パルス(即ち、神経組織中に活動電位を生じさせるパルス)として役立ち、陽極パルス104は、神経組織中の正味のDC電荷移送を阻止する「再充電」パルスとして役立つ。すなわち、電荷は、第1の位相周期106中、陰極電流を介して電極‐組織インタフェースを通って送出され、次に、第2の位相周期108中、逆の極性の陽極電流を介して電極‐組織インタフェースから引き戻される。
【0047】
図6に示されている実施形態では、陰極パルス102を発生させる第1の位相周期106は、「能動的」位相周期(即ち、ターンオンされている出力回路50(図5に示されている)の1つ又は2つ以上の電流源60(又は変形例として、電圧源)により電気エネルギーが電極に提供される位相周期)であり、陽極パルス104を発生させる第2の位相周期108は、「受動的」位相周期(即ち、出力回路50の電流源又は電圧源がターンオフされている間、結合キャパシタC1〜C16のうちの任意の1つ又は2つ以上から流れる電荷の再充電又は再分布を介して電気エネルギーが電極に提供される位相周期)である。
【0048】
陽極パルス104を受動的位相周期中に発生させる必要がないことは注目されるべきである。これとは異なり、図7に示されているように、例示の二相性パルス100′は、出力回路50の電流源又は電圧源のうちの1つ又は2つ以上をターンオンすることにより陽極パルス104′を発生させる第2の能動的位相周期108を有する。図示の実施形態では、陽極パルス104は、対称の二相性波形を生じさせるような振幅を有する方形パルスである。この能動的再充電をこのように利用することにより、もしそうでなければ生じる恐れのある電荷のアンバランスを回避しながら、迅速な再充電が可能になる。また、バランスの取れた電荷条件を、必要ならば、二相性パルスのうちの陰極パルスの全電荷が二相性パルスのうちの陽極パルスの全電荷に等しいということを確かめるだけで、対称の二相性パルスを備えていない状態でも得ることができるということも又、注目されるべきである。
【0049】
図8を参照して、対称二相性パルスを多数のチャネルにより双極モードで電極に印加する例示のプロトコルについて説明する。0μsで始まり、電極E1は、第1の位相周期(パルス幅)t1中、+2mAの第1の位相電流(陽極)を生じさせるようプログラムされ、それと同時に、電極E3は、−2mAの第1の位相電流(陰極)を生じさせるようプログラムされている。第1の位相周期t1の終了時に、中間相周期t2が、プログラムされ、その後、第2の位相周期(パルス幅)t3中、電極E1は、−2mAの第2の位相電流(陰極)を生じさせるようプログラムされると同時に電極E3は、+2mAの第2の位相電流(陽極)を生じさせるようプログラムされている。第1の位相周期t1及び第2の位相周期t3は各々、約100μs持続するようプログラムされ、それにより、対称二相性電流パルス及び平衡電荷条件が得られ、中間相周期t2は、約50μs持続するようプログラムされている。
【0050】
550μsで始まり、第1の位相周期t4中、電極E2は、+4mAの第1の位相電流(陽極)を生じさせると同時に電極E3は、−4mAの第1の位相電流(陰極)を生じさせるようプログラムされている。第1の位相周期(パルス幅)t4の終了時に、中間相周期t5が、プログラムされ、その後、第2の位相周期(パルス幅)t6中、電極E1は、−4mAの第2の位相電流(陰極)を生じさせるようプログラムされると同時に電極E3は、+4mAの第2の位相電流(陽極)を生じさせるようプログラムされている。第1の位相周期t4及び第2の位相周期t6は各々、約50μs持続するようプログラムされ、それにより、対称二相性電流パルス及び平衡電荷条件が得られる。中間相周期t5は、約50μs持続するようプログラムされている。
【0051】
上述の実施形態を第1の位相周期中に発生した陰極パルス及び第2の位相周期中に発生した陽極パルスを含む二相性パルスを発生したものとして説明したが、変形実施形態は、図9に示されているように、第1の位相周期106中に発生した陽極パルス102″及び中間相周期110の後の第2の位相周期108中に発生した陰極パルス104″を含む二相性パルス100″を発生しても良く、陽極パルスは、刺激パルスであり、陰極パルスは、条件づけ及び(又は)再充電パルスである。二相性パルスの特定の構成は、究極的には、電極に対する神経組織の向きで決まる場合がある。他の変形実施形態では、三相性パルスを発生しても良い。例えば、図10に示されているように、三相性パルス112は、第1の位相期間120中に発生した条件づけ過分極陽極パルス114、第2の位相周期122中に発生した脱分極陰極刺激パルス116及び中間相周期126後の第3の位相周期124中に発生した条件づけ及び(又は)再充電陽極パルス118を有する。
【0052】
重要なこととして、二相性(又は多相性)パルスの中間相を調節すると、神経が活性化されるしきい値を変更することができる。例えば、単極性点源電極(図11に示されている)から1mmのところに位置する直径が10μmの軸索突起の非線形コンピュータ処理モデルに基づくと共に電気媒体が等方性且つ無限であると仮定すると、60μsの刺激パルス幅を有する陽極単相性パルスが軸索突起を活性化させる(軸索突起中に活動電位を生じさせる)しきい値が−169μAであり、それぞれ60μsの陽極及び陰極パルス幅並びに0μsの中間相を有する対称二相性パルスが軸索突起を活性化させるしきい値が−199μAであることが示された。かくして、中間相を0μsから陰極パルスが軸索突起を条件づけしない特定の値(陽極単相性パルスを効果的にもたらす)まで変化させることができ、それにより図12に示されているように二相性パルスの振幅を変化させないで軸索突起のしきい値を−169μA〜−199μAの範囲内で変化させることができる。
【0053】
このことに基づき、パルス振幅の小刻みな調節相互間で二相性パルスの中間相を変更することにより活性化組織の体積を変更することができ、それにより刺激エネルギーの分解能が効果的に高められ、このことは、もしそのように構成されていなければパルス振幅を調節するだけでは得られない。特に、比較的低分解能ステップで活性化組織の体積を変更するようパルス振幅を漸変させるのが良く、パルス振幅漸変と関連した低分解能ステップ相互間において比較的高い分解能ステップで活性化組織の体積を変更するよう中間相を漸変させるのが良い。
【0054】
例えば、図13を参照すると、電極Eは、活性化組織の互いに異なる体積を生じさせるよう互いに異なる中間相及び振幅の二相性パルスを印加するものとして示されている(実線は、振幅の解像度における(この場合、中間相値が0に等しい)活性化組織の体積を表わし、破線は、振幅の分解能相互間の活性化組織の体積を表わしている)。A0aのパルス振幅及び0μsの中間相t0aでは、活性化組織の体積V0aが作られる。中間相を離散的に増大させると(t0b,t0c,t0d等)、活性化組織の離散的に増大する体積V0b,V0c,V0d等が作られる。A1の増大したパルス振幅及び0μsの中間相t1aでは、活性化組織の増大した体積V1aが作られる。中間相を再び離散的に増大させると(t1b,t1c,t1d等)、活性化組織の離散的に増大する体積V1b,V1c,V1d等が作られる。A2の増大したパルス振幅及び0μsの中間相t2aでは、活性化組織の増大した体積V2aが作られる。このプロセスを繰り返すと、活性化組織のより大きな体積を作ることができる。当然のことながら、二相性パルスのパルス振幅及び(又は)中間相を離散的に減少させると、活性化組織の小さな体積を離散的に作ることができる。
【0055】
図示の実施形態では、パルス振幅を一定のステップで漸変させ、その結果、A1=A0+δ1,A2=A1+δ1等が得られ、この場合、δ1は、一定の値に等しいステップサイズであり、好ましくは、刺激出力回路の最も小さなステップサイズ、例えば100μaに等しい。同様に、中間相を一定のステップで漸変させ、その結果、t0b=t0a+δ2,t0c=t0b+δ2,t0d=t0c+δ2,t1b=t1a+δ2,t1c=t1b+δ2,t1d=t1c+δ2等が得られ、この場合、δ2は、一定の値に等しいステップサイズであり、好ましくは、刺激出力回路の最も小さなステップサイズ、例えば10μaに等しい。しかしながら、注目されるべきこととして、パルス振幅に関する一定のステップサイズ及びパルス中間相漸変の利用が好ましいが、ステップサイズは一定でなくても良いことが考えられる。
【0056】
特に、中間相を調節することにより提供される刺激エネルギーの分解能の増大(即ち、パルス振幅の変化相互間の中間相漸変の数)は、中間相ステップサイズ、究極的にはIPG14中のハードウエアの時間分解能に応じて様々であろう。しかしながら、時間分解能が10μsであり、パルス振幅分解能が100μAであると仮定すると、中間相の調節により、刺激エネルギーの分解能は、パルス振幅のみを調節する場合の分解能の5〜10倍(即ち、パルス振幅の変化相互間の中間相の5〜10回の漸変)になる。
【0057】
注目されるべきこととして、パルス振幅の変化相互間の中間相漸変の回数は、パルス振幅を変化させる度に中間相が0にリセットされる場合、一定でなくても良い。すなわち、或る1つのパルス振幅と関連した活性化組織の体積を次のパルス振幅と関連した活性化組織の体積に増大させるのに必要な中間相漸変の回数が必要であるに過ぎず、中間相漸変回数がどのくらいかは、中間相漸変がどの隣接の対をなすパルス振幅相互間に位置するかに応じて様々であって良い。変形例として、パルス振幅漸変相互間の中間相漸変の回数は、一定であり、この場合、中間相は、各パルス振幅漸変時では0でなくても良い。また、IPG14を多相性エネルギーを発生させるものとして説明したが、ETS34も又、本明細書において説明した仕方と同一の仕方で多相性エネルギーを発生させることができるということは、注目されるべきである。
【0058】
上記において大まかに説明したように、IPG14に記憶された中間相は、他の刺激パラメータと一緒に、HHP16及び(又は)CPS18によって変更でき、それによりIPG14により発生して電極に出力される刺激エネルギーの特性が変更される。図示の実施形態では、これは、刺激パラメータを含む命令をIPG14及び(又は)CPS18からIPG14に遠隔計測的に伝送することによって達成される。変形例として、刺激パラメータが含まれていない命令をHHP16及び(又は)CPS18からIPG14に伝送して、上記とは異なり、IPG14に記憶されている刺激パラメータを変更しても良い。
【0059】
次に図14を参照して、以下にHHP16の例示の一実施形態について説明する。上述したように、HHP16は、IPG14、ETS20又はCPS18と通信することができる。HHP16は、内部コンポーネント類(プリント回路板(PCB)を含む)を収容したケーシング130並びにケーシング130の外部によって支持された照明ディスプレイスクリーン132及びボタンパッド134を有している。図示の実施形態では、ディスプレイスクリーン132は、照明フラットパネルディスプレイスクリーンであり、ボタンパッド134は、フレックス(flex)回路を覆って位置決めされた金属ドームを備えるメンブレンスイッチと、PCBに直接接続されたキーパッドコネクタとから成る。ボタンパッド134は、IPG14をターンオンしたりターンオフしたりすることができ、IPG14内の刺激パラメータの調節又は設定を可能にし、スクリーン相互間の選択を可能にする一連のボタン136,138,140,142を有する。
【0060】
図示の実施形態では、ボタン136は、IPG14をターンオンしたりターンオフしたりするよう作動可能なオン/オフボタンとして役立つ。ボタン138は、HHP16がスクリーンディスプレイ及び(又は)パラメータ相互間で切り換わることができるようにする選択ボタンとして役立つ。ボタン140,142は、IPG14(又はETS20)によって生じた二相性パルスの刺激パラメータのうちの任意のものをインクリメントし又はデクリメントするよう作動できるアップ/ダウンボタンとして役立ち、かかる刺激パラメータとしては、振幅、パルス幅及びパルスレートが挙げられる。例えば、選択ボタン138を作動させてHHP16を二相性パルス振幅をアップ/ダウンボタン140,142によって調節できる「振幅調節モード(Amplitude Adjustment Mode)」、二相性パルス幅をアップ/ダウンボタン140,142によって調節できる「パルス幅調節モード(Pulse Width Adjustment Mode)」及び二相性パルスレートをアップ/ダウンボタン140,142によって調節できる「パルスレート調節モード(Pulse Rate Adjustment Mode)」に配することができる。変形例として、各刺激パラメータについて専用アップ/ダウンボタンを設けても良い。以下に詳細に説明するように「パルス振幅調節モード」中のアップ/ダウンボタン140,142の作動によっても、二相性パルスの中間相がインクリメントし又はデクリメントされることになる。アップ/ダウンボタン140,142の作動中、振幅/中間相、パルス幅及びパルスレートの現在の値をそれぞれの調節モード中、ディスプレイスクリーン132上に表示することができる。変形例として、アップ/ダウンボタンを用いないで、任意他の形式のアクチュエータ、例えばダイヤル、スライダバー又はキーパッドを用いても、二相性パルスの中間相をインクリメントし又はデクリメントすることができる。
【0061】
図15を参照して、以下に例示のHHP16の内部コンポーネントについて説明する。HHP16は、主要構成要素として、プロセッサ144(例えば、マイクロコントローラ)、プロセッサ144により実行可能な動作プログラム並びにルックアップテーブル(後述する)中の刺激パラメータ組を記憶したメモリ146、刺激パラメータをIPG14に出力したりIPG14から状態情報を受け取ったりする入力/出力回路、特に遠隔計測(テレメトリ)回路148及びボタンパッド134から刺激制御信号を受け取ったり状態情報をディスプレイスクリーン132(図14に示されている)に伝送したりする入力/出力回路150を有する。プロセッサ144は、簡潔にする目的で本明細書においては説明しないHHP16の他の機能を制御すると共にボタンパッド134のユーザによる作動に応答して新たな刺激パラメータ組を発生させる。次に、これら新たな刺激パラメータ組は、遠隔計測回路148によりIPG14(又はEPS20)に伝送される。HHP16の機能及び内部コンポーネント類の詳細は、米国特許第6,895,280号明細書に開示されている。
【0062】
パルス幅及びパルスレートの何らかの変更に関し、プロセッサ144は、アップ/ダウンボタン140,142が作動されると、これらパラメータをそれに応じて単にインクリメントし又はデクリメントする。パルス振幅及びパルス中間相に関し、プロセッサ144は、ルックアップテーブル152にアクセスし、その後刺激パラメータ組を発生させる。すなわち、アップ/ダウンボタン140,142の作動に応答してパルス振幅をインクリメント/デクリメントするだけの従来技術とは対照的に、プロセッサ144は、図13に示した仕方と非常に良く似た仕方でパルス振幅の調節相互間においてパルス中間相を調節することにより刺激エネルギーの分解能を高める。
【0063】
この目的のため、図16に示されている例示のルックアップテーブル152は、各々がパルス振幅値及び中間相値を備えた多数の状態を含む。図示のように、状態を幾つかの系列にグループ化するのが良く、各系列は、単一の振幅値及び漸増する中間相値の対応の各系列を含む。すなわち、状態は、パルス振幅の分解能で幾つかの系列にグループ化される。状態のそれぞれの系列と関連した振幅値は、或る1つの系列から次の系列まで次第に増大する。例えば、系列1(状態1〜5)は、100μAの振幅値と関連しており、それぞれ、0μs、10μs、20μs、30μs、40μsの中間相値を含む。系列2(状態6〜12)は、200μAの振幅値と関連しており、それぞれ、0μs、10μs、20μs、30μs、40μs、50μs、60μs、70μsの中間相値を含む。系列3(状態13〜16)は、300μAの振幅値と関連しており、それぞれ、0μs、10μs、20μs、30μsの中間相値を含む。
【0064】
状態の各系列のうちの第1の状態(即ち、振幅分解能で)は、0という中間相値を有するが、これら初期中間相値は、ルックアップテーブルを生成する仕方(以下に詳細に説明する)に応じて0以外の値であっても良い。例えば、図17は、状態の各系列の開始時における中間相値のうちの幾つかがゼロではないことを除き、先のルックアップテーブル152と同一の別の例示のルックアップテーブル154を示している。例えば、系列1(状態1〜5)は、100μAの振幅値と関連しており、それぞれ、0μs、10μs、20μs、30μs、40μs、50μsの中間相値を含む。系列2(状態7〜10)は、200μAの振幅値と関連しており、それぞれ、30μs、40μs、50μs、60μsの中間相値を含む。系列3(状態11〜16)は、300μAの振幅値と関連しており、それぞれ、10μs、20μs、30、40μs、50μs、60μsの中間相値を含む。
【0065】
ルックアップテーブル152,154の各々では、振幅値をハードウエアの最大電流分解能に等しい一定のステップ(例えば、最も小さなステップは、100μAである)でインクリメントし(ルックアップテーブルを下る)、中間相値をハードウエアの最大時間分解能に等しい一定のステップ(例えば、10μsの最も小さなステップ)でインクリメントする(ルックアップテーブルを下る)。しかしながら、変形実施形態では、振幅値及び中間相値のステップサイズは、一定である必要はない。例えば、中間相値は、状態の同一系列内において10μsから30μsにジャンプしても良い。あるいは、振幅値は、中間相値の漸変が、状態の第1系列及び第2系列全体にまたがることができる場合、100μAから300μAにジャンプしても良い。特に、少なくともルックアップテーブル152に関し、各系列内の状態の数は、刺激エネルギーの活動電位発生効果がパルス振幅/中間相の変化にわたって一様ではないので、互いに異なっている。ルックアップテーブル154に関し、各系列中の状態の数は、中間相値が状態の各系列の開始時に0にはリセットされないので、これ又互いに異なっている場合がある。
【0066】
ルックアップテーブルの生成は、神経線維を二相性波形の点電極源(図11に示されている)に関連してモデル化し、神経線維と点源との間の距離を一様に変化させて互いに異なる距離について神経線維内に活動電位を引き起こす二相性波形のパルス振幅及び中間相を求めることによって達成できる。当然のことながら、例えば神経線維、不均質媒質及び有限サイズの電極のより多くの向きを含む他のより複雑精巧なモデルを用いることができる。
【0067】
例えば、振幅値が最小値(100μA)に設定されると共に中間相値が0に設定されている状態で、ルックアップテーブル152中に第1の状態を生じさせるために、点源と神経線維中に活動電位が引き起こされるその神経線維との間の最大距離(「最大活動電位距離」)を求める。次に、中間相値を0に設定した状態で、振幅値を次の大きな値(200μA)にインクリメントし、最大活動電位距離を再び求める。次に、振幅値を先の値(100μA)にリセットして戻し、他方、中間相を繰り返しインクリメントして(10μs毎)最大活動電位距離が次の最も大きい値である振幅値(200μA)に対応した最大活動電位距離よりも大きい中間相値を求める。この知識に基づき、第1の状態からインクリメントされた振幅値まで及ぶのに必要な中間相調節の回数を求め、次に、互いに異なる中間相値を含む状態を互いに異なる振幅を有する状態(0中間相状態)相互間に生じさせる。
【0068】
ルックアップテーブルを生成する別の方法では、中間相値を特定の振幅パルス値において繰り返しインクリメントし、その間、各中間相インクリメントについて最大活動電位距離を求め(点源を動かすことにより)、ついには、二相性刺激に対する影響が生じないようにする(即ち、二相性パルスが効果的に単相性パルスに変わる)のが良い。次に、点源の距離をインクリメントし(単一の中間相漸変と関連した距離について)、次に振幅パルス値をインクリメントし、新たな距離のところに活動電位を生じさせるのに必要な最も低い中間相を求める。次に、中間相値を新たな振幅値について再び繰り返しインクリメントする。このプロセスの実施の結果として、図17に示されているルックアップテーブル154に類似しているように見えるルックアップテーブルが得られる。
【0069】
かくして、上記のことから、HHP16中のプロセッサ144は、アップボタン140の作動に応答してルックアップテーブル152(又はルックアップテーブル154)の状態をステップダウンすることにより活性化組織の体積を次第に増大させることができると共にダウンボタン142の作動に応答してルックアップテーブル152(又はルックアップテーブル154)の状態をステップアップすることにより活性化組織の体積を次第に減少させることができる。ステップスルーした各状態につき、1組の刺激パラメータ(二相性波を定める)を発生させ、かかる刺激パラメータ組は、その状態に関する対応の振幅値及び位相値並びに別のパラメータ(例えば、パルス幅及びパルスレート)を含み、プロセッサは、刺激パラメータ組をIPG14(又はETS20)にワイヤレス送信し、それにより、新たな刺激パラメータに従ってIPG14(又はETS20)により出力された刺激エネルギーを変更する。
【0070】
特に、ルックアップテーブル152,154は、一般に、その製造中にHHP16中にプログラムされるが、変形例として、ルックアップテーブル152,154は、適当なユーザインタフェースを介してHHP16中に手作業でプログラムされても良い。また、ルックアップテーブル152,154をアップ/ダウンボタン140,142を作動させたときに振幅値及び中間相値を順次変化させるようアクセスされるものとして説明したが、変形例として、分析的公式を用いて振幅値及び中間相値を順次変化させても良い。
【0071】
大まかに上述したように、植え込み後にIPG14のプログラム可能メモリ中の刺激パラメータを変更することは、医師又は臨床医が、IPG14と直接通信することができ又はHHP16を介してIPG14と間接的に通信することができるCPS18を用いることによっても実施できる。図2に示されているように、CPS18の外観全体は、ラップトップ形パーソナルコンピュータ(PC)の全体的外観であり、事実、指向性プログラミング装置を含むよう適切に構成されると共に本明細書において説明した機能を実行するようプログラムされたPCを用いて具体化できる。かくして、プログラミング方法論をCPS18内に格納されたソフトウェア命令を実行することによって実施するのが良い。変形例として、かかるプログラミング方法論をファームウエア又はハードウエアの使用により実施しても良い。いずれの場合においても、CPS18は、IPG14(又はETS20)により生じた電気刺激の特性を動的に制御し、それにより最適刺激パラメータを患者からのフィードバックに基づいて求めることができ、次に、最適刺激パラメータでIPG14(又はETS20)をプログラミングすることができる。図16及び図17に示された同一形式のルックアップテーブル152,154をCPS18により記憶したり用いたりすることができ、それによりIPG14(又はETS20)により活性化組織の体積を次第に増減することができる。CPSに関する細部は、米国特許第6,909,917号明細書に開示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に治療を施す方法であって、
1つ又は2つ以上の電極を患者の組織と接触状態に配置するステップと、
多相性刺激エネルギーを前記1つ又は2つ以上の電極に送出し、それにより前記組織の一体積部を活性化させるステップと、
前記1つ又は2つ以上の電極に送出されている前記多相性刺激エネルギーの中間相を変化させることにより前記活性化組織の体積を加減するステップとを有する、方法。
【請求項2】
前記多相性刺激エネルギーは、二相性刺激エネルギーである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記多相性刺激エネルギーは、陰極パルス及び陽極パルスを含み、前記中間相は、前記陰極パルスと前記陽極パルスとの間に位置している、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記陰極パルスは、前記陽極パルスに先行している、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記多相性刺激エネルギーは、刺激パルス及び再充電パルスを含み、前記中間相は、前記刺激パルスと前記再充電パルスとの間に位置している、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記多相性刺激エネルギーは、パルス幅が100μs未満の刺激パルスを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記多相性エネルギーの前記中間相は、0μs〜100μsの範囲内で変化させられる、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記1つ又は2つ以上の電極に送出されている前記多相性刺激エネルギーの振幅を変化させて前記活性化組織の体積を加減するステップを更に有する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記多相性刺激エネルギーの振幅は、複数のステップで離散的に変化させられ、前記多相性刺激エネルギーの前記中間相は、前記複数のステップ相互間で変化させられる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記振幅変化は、前記活性化組織の体積を低分解能ステップで加減し、前記中間相変化は、前記活性化組織の体積を前記低分解能ステップ相互間の高分解能ステップで加減する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
神経刺激システムであって、
1つ又は2つ以上の電気接点と、
多相性波形を前記1つ又は2つ以上の電気接点に送出することができる出力刺激回路と、
前記多相性刺激波形の中間相を変化させることができる制御回路とを有する、神経刺激システム。
【請求項12】
前記1つ又は2つ以上の電気接点に電気的に結合された少なくとも1つの電極を支持する刺激リードを更に有する、請求項11記載の神経刺激システム。
【請求項13】
前記多相性波形は、二相性波形である、請求項11記載の神経刺激システム。
【請求項14】
前記多相性波形は、陰極パルス及び陽極パルスを含み、前記中間相は、前記陰極パルスと前記陽極パルスとの間に位置している、請求項11記載の神経刺激システム。
【請求項15】
前記陰極パルスは、前記陽極パルスに先行している、請求項14記載の神経刺激システム。
【請求項16】
前記多相性波形は、刺激パルス及び再充電パルスを含み、前記中間相は、前記刺激パルスと前記再充電パルスとの間に位置している、請求項11記載の神経刺激システム。
【請求項17】
前記多相性波形は、パルス幅が100μs未満の刺激パルスを含む、請求項11記載の神経刺激システム。
【請求項18】
前記制御回路は、前記多相性波形の前記中間相を0μs〜100μsの範囲内で変化させることができる、請求項11記載の神経刺激システム。
【請求項19】
前記制御回路は、前記多相性波形の振幅を変化させることができる、請求項11記載の神経刺激システム。
【請求項20】
前記制御回路は、前記多相性刺激エネルギーの振幅を複数の低分解能ステップで離散的に変化させることができると共に前記多相性刺激エネルギーの前記中間相を前記複数の低分解能ステップ相互間で変化させることができる、請求項19記載の神経刺激システム。
【請求項21】
前記制御回路は、前記中間相を低分解能ステップの各隣接対相互間の複数の高分解能ステップで離散的に変化させることができる、請求項20記載の神経刺激システム。
【請求項22】
1組の刺激パラメータを記録することができるメモリを更に有し、前記制御回路は、前記多相性波形の前記中間相を前記刺激パラメータの組に従って変化させることができる、請求項11記載の神経刺激システム。
【請求項23】
外部プログラマからの命令をワイヤレスで受信して前記多相性波形の前記中間相を変化させることができる遠隔計測回路を更に有する、請求項11記載の神経刺激システム。
【請求項24】
ケースを更に有し、前記1つ又は2つ以上の電気接点、前記出力刺激回路、及び前記制御回路は、神経刺激器を形成するよう前記ケース内に納められている、請求項11記載の神経刺激システム。
【請求項25】
前記神経刺激器は、植え込み可能である、請求項24記載の神経刺激システム。
【請求項26】
神経刺激器用のプログラマであって、
ユーザからの入力を受信することができるユーザインタフェースを有し、
前記ユーザ入力に応答して多相性波形を定める複数の刺激パラメータ組を発生させることができるプロセッサを有し、前記刺激パラメータ組のうちの少なくとも幾つかは、前記多相性波形に関して変化する中間相値を定め、
前記複数の刺激パラメータ組を神経刺激器に送信することができる出力回路を有する、プログラマ。
【請求項27】
前記多相性波形は、二相性波形である、請求項26記載のプログラマ。
【請求項28】
前記多相性波形は、陰極パルス及び陽極パルスを含み、前記中間相は、前記陰極パルスと前記陽極パルスとの間に位置している、請求項26記載のプログラマ。
【請求項29】
前記陰極パルスは、前記陽極パルスに先行している、請求項28記載のプログラマ。
【請求項30】
前記多相性波形は、刺激パルス及び再充電パルスを含み、前記中間相は、前記刺激パルスと前記再充電パルスとの間に位置している、請求項26記載のプログラマ。
【請求項31】
前記多相性波形は、パルス幅が100μs未満の刺激パルスを含む、請求項26記載のプログラマ。
【請求項32】
前記変化する中間相値は、0μs〜100μsの範囲内にある、請求項26記載のプログラマ。
【請求項33】
前記刺激パラメータ組のうちの少なくとも幾つかは、前記多相性波形に関する変化する振幅値を定める、請求項26記載のプログラマ。
【請求項34】
前記刺激パラメータ組のうちの少なくとも2つは、互いに異なる振幅値を定め、前記少なくとも2つの刺激パラメータ組相互間の一連の刺激パラメータ組は、互いに異なる中間相値を定める、請求項33記載のプログラマ。
【請求項35】
前記ユーザインタフェースは、アクチュエータを含み、前記プロセッサは、前記アクチュエータの作動に応答して前記複数の刺激パラメータ組を発生させることができる、請求項26記載のプログラマ。
【請求項36】
前記プロセッサは、前記アクチュエータのたった1回の作動に応答して前記複数の刺激パラメータ組を発生させることができる、請求項35記載のプログラマ。
【請求項37】
前記出力回路は、前記複数の刺激パラメータ組を前記神経刺激器にワイヤレスで送信することができる遠隔計測回路である、請求項26記載のプログラマ。
【請求項38】
組織刺激システムを作動させるコンピュータにより読み取り可能な媒体であって、前記媒体は、命令を格納しており、前記命令は、実行されると、
第1の振幅値と関連した第1の一連の状態を有するルックアップテーブルにアクセスする段階を有し、前記一連の状態は、それぞれ一連の変化する中間相値を含み、
前記第1の一連の状態を段階的に進める段階を有し、
段階的に進められた前記第1の一連の状態のうちの各状態について多相性波を定める1組の刺激パラメータを発生させる段階を有し、各刺激パラメータ組は、前記各状態のそれぞれの中に含まれる前記第1の振幅値及び前記中間相値を含む、コンピュータにより読み取り可能な媒体。
【請求項39】
前記変化する中間相値は、次第に増大する、請求項38記載のコンピュータにより読み取り可能な媒体。
【請求項40】
前記ルックアップテーブルは、前記第1の振幅値とは異なる第2の振幅値と関連した第2の一連の状態を有し、前記第2の一連の状態は、前記多相性波についてそれぞれ一連の次第に増大する中間相値を含み、前記命令は、実行されると、更に、
前記第2の一連の状態を段階的に進める段階と、
段階的に進められた前記第2の一連の状態のうちの各状態について1組の刺激パラメータを発生させる段階とを有し、各刺激パラメータ組は、前記各状態のそれぞれの中に含まれる前記第2の振幅値及び前記中間相値を含む、請求項38記載のコンピュータにより読み取り可能な媒体。
【請求項41】
前記多相性波形は、二相性波形である、請求項38記載のコンピュータにより読み取り可能な媒体。
【請求項42】
前記多相性波形は、陰極パルス及び陽極パルスを含み、前記中間相は、前記陰極パルスと前記陽極パルスとの間に位置している、請求項38記載のコンピュータにより読み取り可能な媒体。
【請求項43】
前記陰極パルスは、前記陽極パルスに先行している、請求項42記載のコンピュータにより読み取り可能な媒体。
【請求項44】
前記多相性波形は、刺激パルス及び再充電パルスを含み、前記中間相は、前記刺激パルスと前記再充電パルスとの間に位置している、請求項38記載のコンピュータにより読み取り可能な媒体。
【請求項45】
前記多相性波形は、パルス幅が100μs未満の刺激パルスを含む、請求項38記載のコンピュータにより読み取り可能な媒体。
【請求項46】
前記中間相値は、0μs〜100μsの範囲内にある、請求項38記載のコンピュータにより読み取り可能な媒体。
【請求項47】
各刺激パラメータ組は、刺激パルス振幅、刺激パルスレート、及び刺激パルス幅を含む、請求項38記載のコンピュータにより読み取り可能な媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2010−523215(P2010−523215A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502223(P2010−502223)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/058774
【国際公開番号】WO2008/121891
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(507213592)ボストン サイエンティフィック ニューロモデュレイション コーポレイション (34)
【Fターム(参考)】