説明

活性金属ろう材

【課題】Ag−Cu−Ti合金活性金属ろう材の加工性を改善し、従来よりも高い加工率で微小寸法に加工可能な活性金属ろう材を提供する。
【解決手段】本発明は、20〜40重量%のCu、1.0〜3.0重量%のTi、1.2〜6.0重量%のSn、残部がAgのAg−Cu−Ti−Sn合金よりなり、Ag−Cu合金マトリックス中にSn−Ti金属間化合物、又は、Cu−Ti金属間化合物が分散する金属組織を有する活性金属ろう材であって、 TiおよびSnの重量比Sn/Tiが1.2以上であり、更に、前記金属間化合物の粒子径が20μm以下である活性金属ろう材である。この活性金属ろう材は、上記組成のAg−Cu−Ti−Sn合金を溶解鋳造した後に、加工率90%以上の塑性加工を施すことで、金属間化合物を微細化して製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス等の接合に用いられる活性金属ろう材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックス同士、セラミックスと金属との接合に用いられる活性金属ろう材として、Ag−Cu合金に活性金属成分であるTiが添加されたAg−Cu−Ti合金が従来から知られている。この活性金属ろう材は、原料を真空溶解炉で溶解、鋳造し、圧延加工等により薄い板状とし、プレス加工にて所望の形状に打ち抜いて使用されることが多い。
【0003】
この活性金属ろう材の問題として、その加工性が挙げられ、上記の製造・加工工程において、材料に割れ、断線、破断が起こりやすい。これは、Ag−Cu−Ti合金においては、鋳造凝固時にAg−Cu合金素地中に50〜100μmの大きなCuとTiからなる金属間化合物が析出するためである。この金属間化合物は非常に硬く強いために、その後の塑性加工時に分断されず、析出段階からその大きさをほぼ維持する。そのため、その化合物粒子径に近い寸法の形状までの加工を施すと、割れ等を生じさせる。そして、例えば、板形状に加工する場合、その厚みは100μmが限界となり、それ以下の厚みまでの加工が不可能となっている。この点、近年の電子・電気部品の小型化の進行に伴い、使用される活性金属ろう材にも薄型、微細なものが要求されており、これまでのAg−Cu−Ti合金活性金属ろう材は、その市場要求に応えることができていない。
【0004】
ここで、Ag−Cu−Ti合金のAg−Cu合金素地中に析出するCuとTiからなる金属間化合物の粒子径を小さくする方法もないわけではない。例えば、特許文献1では、溶解時にAg−Cu−Ti合金をCuとTiの化合物の融点以上の温度に維持し、鋳造時に急冷することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−16789号公報
【0006】
しかしながら、上記方法の場合、活性成分であるTiが酸化し易いため、溶解は高真空中で行わなければならず、溶解炉真空チャンバー内で急冷するための装置を付加するのは設備が非常に煩雑になり、その上、メンテナンス性も悪く、高額になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであり、Ag−Cu−Ti合金活性金属ろう材の加工性を改善し、市場要求に応えることが可能な寸法に加工可能な活性金属ろう材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは、Ag−Cu−Ti合金活性金属ろう材に第4金属元素であるSnを添加し、急冷凝固させることなく、Ag合金素地に析出する化合物の粒子径を制御することとした。そして、このAg−Cu−Ti−Sn合金活性金属ろう材の組成および製造条件について種々の実験、研究を重ねることによって、次のようなAg−Cu−Ti−Sn合金活性金属ろう材を見出すに至った。
【0009】
即ち、本発明は、20〜40重量%のCu、1.0〜3.0重量%のTi、1.2〜6.0重量%のSn、残部がAgのAg−Cu−Ti−Sn合金よりなり、Ag−Cu合金マトリックス中にSn−Ti金属間化合物、又は、Cu−Ti金属間化合物が分散する金属組織を有する活性金属ろう材であって、 TiおよびSnの重量比Sn/Tiが1.2以上であり、更に、前記金属間化合物の粒子径が20μm以下である活性金属ろう材である。
【0010】
本発明に係る活性金属ろう材は、第4金属元素としてSnを添加するものであるが、これはSnがTi、Cuと結合することにより生成する金属間化合物は、Cu−Ti金属間化合物よりも優先的に生成する傾向に基づくものである。これにより、Cu−Ti金属間化合物の生成が抑制されることとなり、Cu−Ti金属間化合物が全く生成しないわけではないが、粗大なものが生じ難くなっている。
【0011】
また、Sn添加により生成する金属間化合物は、Sn−Ti又はSn−Ti−Cuからなるものであるが(前者の方が存在割合は大きい)、この金属間化合物は比較的微細(100μm以下程度)である。更に、これら金属間化合物(Sn−Ti、Sn−Ti−Cu)は、微細であることに加え、加工により更に微細化することができ、その粒径を20μm以下に微細化することで、加工性を良好にすることができる。尚、本発明における金属間化合物の粒径(20μm以下)の意義は、金属間化合物の最大粒子径である。金属間化合物の形状は、球形のものだけではなく長尺の不定形ものもみられるが、その場合には長軸方向の長さを粒径とする。また、粒径の下限値は、0.1μmが好ましい。
【0012】
以上のように、本発明に係る活性金属ろう材は、Snの添加によりSn−Ti又はSn−Ti−Cuを優先的に析出させて粗大なCu−Ti発生を抑制すると共に、Sn−Ti又はSn−Ti−Cuの金属間化合物を微細化することで加工性を改善するものである。ここで、Ag−Cu−Ti−Sn合金の組成範囲は、上記の通り、20〜40重量%のCu、1.0〜3.0重量%のTi、1.2〜6.0重量%のSn、残部がAgである。第4金属元素であるSnの添加量を1.2〜6.0重量%とする。これは、Snの量が1.2重量%未満である場合、Cu−Ti金属間化合物の成長抑制効果が不十分となり、粗大なCu−Ti金属間化合物が生じるおそれがあるからである。また、6.0重量%を超えると、金属間化合物の量が多くなり加工性が悪化する傾向があるからである。
【0013】
また、本発明では、上記組成において、更に、TiおよびSnの重量比Sn/Tiが1.2以上とする必要がある。この重量比Sn/Tiが1.2より小さい場合、粗大なCu−Ti金属間化合物が析出しやすくなり、加工性を著しく悪化させるからである。また、TiおよびSnの重量比Sn/Tiは、5.0以下であることが好ましく、5.0より大きい場合は、加工性の劣化を招く。
【0014】
以上説明した組成のAg−Cu−Ti−Sn合金からなるろう材の製造は、一般的な溶解鋳造を基にし、溶解鋳造の段階から、粗大な金属間化合物の析出が抑制されている。この金属間化合物は、Sn−Tiからなる金属間化合物が主であり、少なくともこれを含むが、部分的にSn−Ti−Cuからなる金属間化合物も見られる。また、Cu−Ti金属間化合物も一部形成されることがあるが、加工性を劣化させるほどの粗大な化合物は析出しない。
【0015】
但し、この溶解鋳造直後の金属間化合物の粒径は、比較的微細といっても、加工性を最良とするためには多少大きいものである(100〜50μm程度である。)。そこで、本発明では、前記組成のAg−Cu−Ti−Sn合金を溶解鋳造し、これに加工率90%以上の塑性加工を施すことにより、Ag合金素地中に分散している金属間化合物を分断し、その粒子径が20μm以下にしている。本発明で析出する金属間化合物は、主にSn−Ti、Sn−Ti−Cuであるが、これらは、Cu−Ti金属間化合物と異なり、非常に脆いために、溶解鋳造後の圧延等塑性加工により素地中で分断できる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明した、本発明に係るAg−Cu−Ti−Sn合金活性金属ろう材は、Ag合金素地中に分散する金属間化合物の微細化により加工性が改善され、軽薄短小な寸法まで、塑性加工が可能となる。尚、本発明に係るAg−Cu−Ti−Sn合金活性金属ろう材は、ろう付性(接合強度)も十分に備えており、従来のAg−Cu−Ti合金活性金属ろう材同等以上の性能を具備するものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1実施形態:以下、本発明の実施形態について、以下に記載する実施例に基づいて説明する。ここでは、Ag−Cu26.0%−Ti2.0%−Sn5.0%(Sn/Ti比2.5)の活性金属ろう材を溶解鋳造し、その後塑性加工した。この活性金属ろう材は、真空溶解炉を用い、前記組成のAg合金を溶解後、カーボンるつぼに鋳造、徐冷し、幅100mm、長さ150mm、厚さ15mmのインゴットにした。溶解鋳造後、鋳造時に析出したインゴット中の金属間化合物の粒子径を評価するために、断面金属組織を観察し、析出した化合物の構成元素をEDSの面分析で同定した。
【0018】
鋳造後のインゴットには、80μm以下の金属間化合物が析出、分散していた。析出物に関するEDS分析では、金属間化合物は、SnとTiからなり、Cuはほとんど含有されていない金属間化合物であった。
【0019】
次に、インゴットを塑性加工して、金属間化合物の粒径(最大粒径)の変化を検討した。この検討は、加工率を60、70、80、90、98、99.5%に設定して圧延加工を行い。加工後の断面組織から、金属間化合物の粒径を測定した。尚、金属間化合物の最大粒子径測定は、各サンプルの断面を金属顕微鏡1000倍で、0.1mm×1.0mmの範囲を観察し、その中の粒子で最大のものの長軸方向の長さとした。この結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1から、加工率の上昇に伴い、金属間化合物の粒子径が小さくなっていくのが確認できる。そして、90%以上の加工率により20μm以下の粒子径にすることができる。これは、このAg−Cu−Ti−Sn合金においては、金属間化合物が脆く、加工により容易に粒子径の調整ができることによるものである。
【0022】
第2実施形態:ここでは、表2に示す各種組成のAg−Cu−Ti−Sn合金活性金属ろう材を製造した。尚、比較例1〜4は本発明の有効な組成範囲を限定させるための試作組成である。また、従来例は、実施例との比較のための従来使用されているAg−Cu−Ti合金活性金属ろう材である。
【0023】
【表2】

【0024】
上記の活性金属ろう材は、第1実施形態と同様、真空溶解炉を用い、各組成のAg合金を溶解後、カーボンるつぼに鋳造、徐冷し、幅100mm、長さ150mm、厚さ15mmのインゴットにした。その後、各合金インゴットについて加工率90%の圧延加工を行い、加工後の断面組織から、金属間化合物の粒径を測定した。尚、ここでは、溶解鋳造後のインゴットについても金属間化合物の粒径の測定を行った。
この結果を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
各実施例の活性金属ろう材は、鋳造直後は、80μm程度の金属間化合物が析出、分散していた。析出物に関するEDS分析では、実施例1の析出物は、上記からSnとTiからなり、Cuはほとんど含有していない金属間化合物であった。また、実施例2、3の析出物は、Cu、Sn、Tiからなるものであった。このように析出する金属間化合物の組成は、Sn/Ti比により異なる。但し、これらの金属間化合物は加工により微細化され、粒子径(最大粒子径)も20μm以下となっていた。
【0027】
一方、比較例1、2および従来例は、100μm以上の粗大な化合物の析出が観察され、一部には、500μmの析出物も確認された。これらでみられた粗大な析出物は、そのEDS分析から、CuとTiからなる金属間化合物であった。この粗大な金属間化合物は、Sn/Ti比が0.5と小さいために生じたものと考えられる。そして、この金属間化合物は、鋳造後の加工によっても微細化されず粗大なまま残存した。また、比較例3および4は、Sn添加量を多くし、Sn/Ti重量%比を1.2以上にしたものであるが、金属間化合物の粒子径は極めて微細であった。但し、これらは、金属間化合物の割合が高くなっており、材料全体が脆く割れが発生しやすいものであり、加工途中でわれが発生した。
【0028】
次に、加工の段階で割れが発生した比較例3、4を除く各活性金属ろう材の加工性を評価した。上記加工後のろう材(厚さ1.5mm)について圧延と焼鈍を繰り返し、割れ、破断が発生した場合、その時点で加工を終了し、割れ、破断が発生しない場合、厚さ50μmまで加工を施した。この結果を表4に示す。
【0029】
【表4】

【0030】
上記の通り、実施例1〜3のAg−Cu−Ti−Sn合金活性金属ろう材は、厚さ50μmの厚さまでの圧延加工が可能であった。一方、同じAg−Cu−Ti−Sn合金活性金属ろう材であっても、Sn/Ti比が1.2未満の比較例1、2は、加工性が劣り、厚さ1.0mmの段階で割れが発生した。また、Snを添加しない従来のAg−Cu−Ti合金活性金属ろう材も同様であった。これら比較例1、2及び従来例の加工割れは、材料中に残留する粗大な化合物析出に起因するものである。
【0031】
最後に、実施例1、3および従来例の0.1mm厚みの板を用いて、真空雰囲気中、830℃で10mm×10mm×20mmのアルミナ同士および窒化珪素同士をろう付けした後、3mm×4mm×40mmの試験片を切り出し、4点曲げ試験により各10点づつJIS R1601に従い破断強度を測定した。(試験方法はJIS R1601に従った。)その結果を表5に示す。その結果、アルミナおよび窒化珪素のいずれのセラミックス同士の接合においても、実施例1および3は従来例よりも破断強度が高く、実使用上に耐え得るろう付け強度を有することが確認された。
【0032】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係るAg−Cu−Ti−Sn合金活性金属ろう材は、Ag合金素地中に微細な化合物の粒子が分散され、昨今の電子、電機部品の小型化に対応すべく、軽薄短小な寸法まで、塑性加工が可能な良好な加工性を有し、さらに、従来のAg−Cu−Ti合金活性金属ろう材同等のろう付性(接合強度)を具備するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20〜40重量%のCu、1.0〜3.0重量%のTi、1.2〜6.0重量%のSn、残部がAgのAg−Cu−Ti−Sn合金よりなり、Ag−Cu合金マトリックス中にSn−Ti金属間化合物、又は、Sn−Ti−Cu金属間化合物、若しくは、Cu−Ti金属間化合物が分散する金属組織を有する活性金属ろう材であって、
TiおよびSnの重量比Sn/Tiが1.2以上であり、
更に、前記金属間化合物の粒子径が20μm以下である活性金属ろう材。
【請求項2】
請求項1の活性金属ろう材の製造方法であって、
20〜40重量%のCu、1.0〜3.0重量%のTi、1.2〜6.0重量%のSn、残部がAgからなり、TiおよびSnの重量比Sn/Tiが1.2〜3.5のAg−Cu−Ti−Sn合金を溶解鋳造し、
これに加工率90%以上の塑性加工を施すことにより、Ag−Cu−Ti−Sn合金中の金属間化合物を20μm以下に破断させる工程を含む活性金属ろう材の製造方法。