説明

活魚収容用撥水紙及びそれを用いた活魚収容体

【課題】高い通気性を有するとともに、結露等による水の膜が表面に形成され難く、活魚が発生するぬめり成分も付着し難いため、その通気性を維持することができるとともに、機械的強度が高く輸送・荷役時の振動や活魚の衝突等により傷付いたり破れたりすることがなく耐久性に優れるため、活魚を収容し消費地へ向けて荷役し輸送するのに最適な活魚収容用撥水紙を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の活魚収容用撥水紙は、平均長3〜20mmの繊維で形成された紙と、前記繊維の表面に結合した撥水剤分子で形成された撥水被膜と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活魚を収容して輸送するのに最適な活魚収容用撥水紙及びそれを用いた活魚収容体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水を入れた容器内に捕獲した活魚を収容し、消費地へ向けて荷役し輸送していた。活魚を生きたまま輸送するには、容器内に入れた水の溶存酸素量を十分確保する必要があるため、大きな容器に大量の水を収容する必要があった。そのため、容器の重量や嵩が増し、活魚の輸送工数やコストが嵩むという問題を有していた。
そこで、空気は透過するが水は透過しない通気性シートを容器の一部に設けて水と活魚を収容したり、通気性シートで袋を作って水と活魚を収容したりすることで、水量が少なくても溶存酸素量を維持できるようにした通気性シートや容器が提案されている。
従来の技術としては、(特許文献1)に「ポリテトラフルオロエチレン樹脂による延伸処理材を用いて形成した活魚用通気性液体容器」が開示されている。
(特許文献2)には、「ニードルパンチやメルトブロー法で形成された不織布を用いて形成した活魚輸送に適した袋状容器」が開示されている。
【特許文献1】実公平3−47500号公報
【特許文献2】実開平3−95760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)に開示されたポリテトラフルオロエチレン樹脂による延伸処理材は、結露等によって表面に水の膜ができてしまうと、通気性が失われて空気が透過できなくなるため、容器に収容した魚の呼吸によって水中の酸素が次第に減少し、比較的短時間の内に容器に収容された活魚が死亡するという課題を有していた。
(2)ポリテトラフルオロエチレン樹脂による延伸処理材は機械的強度が低いため、輸送・荷役時の振動や活魚の衝突等により延伸処理材が傷付き、延伸処理材が破れて水が漏出したり活魚が逃げ出したりすることがあるという課題を有していた。
(3)(特許文献2)に開示された袋状容器は、ニードルパンチやメルトブロー法による不織布で形成されている。不織布は、機械的に繊維同士を絡ませたり、繊維同士を接着剤で接合したりして製造するため、活魚の保管に耐えうる機械的強度を得るために、ある程度の厚みが必要である。不織布の厚みが増すことにより繊維間を酸素等のガスが透過し難くなるため、ガス透過性やガス交換能が低くなり、収容された活魚が衰弱するという課題を有していた。
(4)収容された活魚は代謝により有機性のぬめり成分を発生する。生じたぬめり成分は不織布との親和性が高いため、不織布の表面に付着して繊維間の空隙を塞ぎ、活魚を輸送している間にガス透過性やガス交換能が経時的に低下し、収容された活魚が死亡するという課題を有していた。
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、高い通気性を有するとともに、結露等による水の膜が表面に形成され難く、活魚が発生するぬめり成分も付着し難いため、その通気性を維持することができるとともに、機械的強度が高く輸送・荷役時の振動や活魚の衝突等により傷付いたり破れたりすることのない耐久性に優れる活魚収容用撥水紙を提供することを目的とする。
また、本発明は、結露等による水の膜が表面に形成され難く通気性を維持することができるため、収容した魚の呼吸により水中の酸素が減少することがなく、収容された活魚を死亡させることなく輸送することができ、さらに機械的強度が高く輸送・荷役時の振動や活魚の衝突等により傷付いたり破れたりすることがなく、輸送時等に水が漏出しないため活魚を確実に輸送できる活魚収容体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記従来の課題を解決するために本発明の活魚収容用撥水紙及びそれを用いた活魚収容体は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の活魚収容用撥水紙は、平均長3〜20mmの繊維で形成された紙と、前記繊維の表面に結合した撥水剤分子で形成された撥水被膜と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)紙の繊維の表面に結合した撥水剤分子で形成された撥水被膜により、結露等によって水の膜が表面に形成され難いので通気性を維持することができる。
(2)平均長3〜20mmの繊維で形成された紙は機械的強度が高いため、輸送・荷役時の振動や活魚の衝突等により傷付いたり破れたりすることがない。
(3)撥水被膜を有しているので、活魚が分泌する有機性のぬめり成分が付着し難いため、活魚を輸送している間にガス透過性やガス交換能が経時的に低下するのを防止できる。
【0006】
ここで、紙の繊維としては、針葉樹等の木材パルプ,靭皮繊維,種毛繊維,葉繊維等の植物天然繊維、ナイロン繊維,ビニロン繊維,ポリエステル繊維,ポリエチレン繊維,ポリプロピレン繊維等の合成繊維、ガラス繊維,アルミナ繊維等の無機繊維、炭素繊維等、及びそれらの混合物を用いることができる。特に、木材パルプや靭皮繊維等の植物天然繊維が望ましい。繊維自体に多くの気孔を有しており、水−ガス界面を大きくできるため、実効のガス交換面積を大きくすることができ、水中の溶存酸素濃度の維持と発生した二酸化炭素の放出を迅速に行うことができるからである。
紙は、繊維を水に分散させた後、薄く平らに濾し分けて脱水・乾燥させて製造できるが、繊維の分散性を向上させるための界面活性剤、カップリング剤等の表面処理剤、繊維成分の結合性を向上させるための変性澱粉,植物ガム,カルボキシメチルセルロース,ポリアクリルアミド,尿素樹脂,メラミン樹脂等の結合剤、その他抄紙に慣用されている着色料等を使用することができる。
【0007】
繊維の平均長としては3〜20mmが好適である。3mmより短くなると繊維同士の絡み合いが少なくなり機械的強度が低下し、20mmより長くなると抄紙に際して分散性が悪くなり、繊維同士の絡み合いが少ない部分が生じ機械的強度の小さい箇所が生じるため、いずれも好ましくない。
【0008】
撥水被膜としては、フッ化炭素基,炭化水素基等の疎水性基を、シロキサン結合等で繊維の表面に結合させた種々の薄膜、シリコーン系薄膜等を用いることができる。
【0009】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の活魚収容用撥水紙であって、前記撥水被膜が、フッ化炭素基と炭化水素基とクロロシリル基を主成分とする物質と、非水系有機溶媒と、を含有する撥水被膜形成剤(a)、又は、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と、非水系有機溶媒と、を含有する撥水被膜形成剤(b)を前記繊維に接触させて形成された構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)フッ化炭素基と炭化水素基とクロロシリル基を主成分とする物質と、非水系有機溶媒と、を含有する撥水被膜形成剤(a)、又は、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と、非水系有機溶媒と、を含有する撥水被膜形成剤(b)を用いて、紙の繊維の表面に形成された撥水被膜は、耐磨耗性及び耐水性に優れているので、輸送・荷役時の振動や活魚の衝突等により撥水被膜が擦れて耐水性が低下することを防止でき、輸送時等に水が漏出するのを防止して活魚を確実に輸送できる。
(2)撥水被膜形成剤(a)や撥水被膜形成剤(b)によって形成される撥水被膜は単分子膜となるため、活魚収容用撥水紙は柔軟で触感は紙と何ら変わりがない。そのため、収容された活魚が活魚収容用撥水紙に接触しても、違和感がなくストレスとなり難いため、ストレスにより身質が劣化するのを防止できる。
【0010】
撥水被膜形成剤(a)において、フッ化炭素基と炭化水素基とクロロシリル基を主成分とする物質としては、CF−(CF−(R)−SiXCl3−p(但し、nは0または16以下の整数、Rはアルキル基、フェニル基、ビニル基、エチニル基、シリコン若しくは酸素原子を含む置換基、mは0又は1、XはH,アルキル基,アルコキシル基,含フッ素アルキル基又は含フッ素アルコキシ基の置換基、pは0、1または2)で示される物質を用いることができる。
具体的には、CFCHO(CH15SiCl、CF(CHSi(CH(CH15SiCl、CF(CHSi(CH(CHSiCl、CFCOO(CH15SiCl、CF(CF−(CH−SiCl、CF(CF−(CH−SiCl、CF(CF−(CH−SiCl、CF(CF−C−SiCl、[CF(CF(CHSiCl、[CF(CF(CHSiCl等が挙げられる。
【0011】
撥水被膜形成剤(a)、撥水被膜形成剤(b)において、非水系有機溶媒としては、水を含まない炭化水素系溶媒、あるいはフッ化炭素系溶媒やシリコーン系溶媒を用いることが可能であるが、特に沸点が50〜300℃のものが使用に適している。
具体的には、石油ナフサ、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、デカリン、ノナン、工業ガソリン、灯油、ジメチルシリコーン、フェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテルシリコーン等を挙げることができる。
フッ化炭素系溶媒としては、フロン系溶媒や、フロリナート(3M社製品)、アフルード(旭ガラス社製品)等が挙げられる。なお、これらは1種単独で用いても良いし、2種以上を混合してもよい。さらに、クロロホルム等有機塩素系の溶媒を添加しても良い。
【0012】
非水系有機溶媒の含水率は、100ppm以下好ましくは50ppm以下が好ましい。クロロシリル基と水分子との反応を抑え、撥水被膜形成剤のポットライフを長期化できるからである。
【0013】
フッ化炭素基と炭化水素基とクロロシリル基を主成分とする物質と、非水系有機溶媒とを含有する撥水被膜形成剤(a)を紙の繊維に接触させると、シリル基を介して繊維の表面と結合する。余分な撥水被膜形成剤をエタノール等の有機溶媒で洗浄除去すると、繊維の表面に撥水被膜を形成することができる。
必要に応じて、撥水被膜形成剤(a)にシラノール縮合触媒を混合することができる。
シラノール縮合触媒としては、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレート類が利用可能である。さらに具体的には、酢酸第1錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクタン酸第1錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄、ジオクチル錫ビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチル錫マレイン酸エステル塩、ジブチル錫マレイン酸塩ポリマー、ジメチル錫メルカプトプロピオン酸塩ポリマー、ジブチル錫ビスアセチルアセテート、ジオクチル錫ビスアセチルラウレート、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネート及びビス(アセチルアセトニル)ジープロピルチタネートを用いることが可能である。
【0014】
撥水被膜形成剤(a)において、フッ化炭素基と炭化水素基とクロロシリル基を主成分とする物質の紙の繊維への吸着密度を向上させ撥水被膜の密度を高めるために、非水系有機溶媒にクロロシリル基を主成分とする物質を混合することができる。これにより、撥水被膜の耐磨耗性をさらに高めることができる。
クロロシリル基を主成分とする物質としては、SiCl、SiHCl、SiHCl、ClSi(−OSiCl−Cl(但し、mは整数)で表される化合物を用いることができる。
【0015】
クロロシリル基を主成分とする物質に代えて、又は、クロロシリル基を主成分とする物質に加えて、アルコキシシリル基を主成分とする物質を非水系有機溶媒に混合することができる。
アルコキシシリル基を主成分とする物質としては、例えば(AO)Si(OSi(OA)(OA)(mは0または整数、Aはアルキル基)で表される物質が挙げられる。
具体的には、Si(OCH、Si(OC、SiH(OCH、SiH(OCH、(CHO)Si(−OSi(OCH−OCH(但し、mは整数)、SiH(OC、SiH(OC、(CO)Si(−OSi(OC−OC(但し、mは整数)を用いることができる。
アルコキシシリル基を主成分とする物質は、脱塩酸反応はしないが、フッ化炭素基と炭化水素基とクロロシリル基を主成分とする物質が反応して発生する塩酸が触媒となり、繊維の表面とシロキサン結合を形成する。
【0016】
特に、クロロシリル基を主成分とする物質としてClSi(OSiClCl(mは0または整数)、アルコキシシリル基を主成分とする物質として(AO)Si(OSi(OA)(OA)(mは0または整数、Aはアルキル基)を用い、フッ化炭素基と炭化水素基とクロロシリル基を主成分とする物質としてCF−(CF−(CH−SiCl、[CF−(CF−(CH−SiCl、又は[CF−(CF−(CH−SiCl(nは0又は16以下の整数)を用いると、さらに耐摩耗性と撥水撥油性に優れた撥水被膜を形成できる作用がある。
なお、フッ化炭素基と炭化水素基とクロロシリル基を主成分とする物質(s)と、クロロシリル基を主成分とする物質またはアルコキシシリル基を主成分とする物質(t)と、の分子比s:tが1:10〜20:1、より好ましくはs:tが1:3〜3:1にすることにより、耐摩耗性と撥水撥油性を高めることができ好適である。
【0017】
撥水被膜形成剤(b)は撥水被膜形成剤(a)に比べて製膜時の塩酸の発生量が少ないため、好ましい。
撥水被膜形成剤(b)において、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質としては、CF−(CF−(R)SiX(OA)3−p(但し、nは0または16以下の整数、Rはアルキル基、フェニル基、ビニル基、エチニル基、シリコン若しくは酸素原子を含む置換基、mは0又は1、XはH,アルキル基,アルコキシ基,含フッ素アルキル基又は含フッ素アルコキシ基の置換基、pは0、1または2、Aは、CH、C、C等のアルキル基)で示される物質を用いることができる。
具体的には、CFCHO(CH15Si(OCH、CF(CHSi(CH(CH15Si(OCH、CF(CHSi(CH(CHSi(OCH、CFCOO(CH15Si(OCH、CF(CF(CHSi(OCH、CF(CF(CHSi(OCH、CF(CFSi(OCH、CFCHO(CH15Si(OC、CF(CHSi(CH(CH15Si(OC、CF(CHSi(CH(CHSi(OC、CFCOO(CH15Si(OC、CF(CF(CHSi(OC、CF(CF(CHSi(OCH、CF(CFSi(OC、[CF(CF(CHSi(OCH、[CF(CF(CHSiOCH、[CF(CF(CHSi(OC、[CF(CF(CHSiOC等が挙げられる。
【0018】
撥水被膜形成剤(b)において、前述のシラノール縮合触媒を混合することで、撥水被膜の形成速度を上げることができる。シラノール縮合触媒の代わりに、クロロシリル基を含む物質を用いることができる。クロロシリル基を含む物質は、雰囲気中の水分で加水分解されて塩酸が発生し、この塩酸が触媒となりシラノール縮合触媒と同様に働く。
クロロシリル基を含む物質としては、SiCl、SiHCl、SiHCl、ClSi(−OSiCl−Cl(但し、mは整数)、CF−(CF−(R)−SiXCl3−p(但し、nは0または16以下の整数、Rはアルキル基、フェニル基、ビニル基、エチニル基、シリコン若しくは酸素原子を含む置換基、mは0又は1、XはH,アルキル基,アルコキシル基,含フッ素アルキル基又は含フッ素アルコキシ基の置換基、pは0、1または2)で示される物質を用いることができる。
【0019】
また、シラノール縮合触媒に代えて、又は、シラノール縮合触媒に加えて、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物の内の1種を混合することもできる。
ケチミン化合物としては、例えば、2,5,8−トリアザ−1,8−ノナジエン、3,11−ジメチル−4,7,10−トリアザ−3,10−トリデカジエン、2,10−ジメチル−3,6,9−トリアザ−2,9−ウンデカジエン、2,4,12,14−テトラメチル−5,8,11−トリアザ−4,11−ペンタデカジエン、2,4,15,17−テトラメチル−5,8,11,14−テトラアザ−4,14−オクタデカジエン、2,4,20,22−テトラメチル−5,12,19−トリアザ−4,19−トリエイコサジエン等を用いることができる。
有機酸としては、例えば、ギ酸、あるいは酢酸、プロピオン酸、ラク酸、マロン酸等を用いることができる。
【0020】
撥水被膜形成剤(b)において、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質に加え、アルコキシシリル基を主成分とする物質を混合することができる。これにより、撥水被膜の耐磨耗性及び耐水性をさらに高めることができる。
アルコキシシリル基を主成分とする物質としては、Si(OA)、SiH(OA)、SiH(OA)、(AO)Si(OSi(OA)OA(但し、mは整数、AはCH、C、C等のアルキル基)で表される化合物が挙げられる。
具体的には、Si(OCH、SiH(OCH、SiH(OCH、(CHO)Si(OSi(OCHOCH、Si(OC、SiH(OC、SiH(OC、(HO)Si(OSi(OCOC等を挙げることができる。
【0021】
特に、アルコキシシリル基を主成分とする物質として、(AO)Si(OSi(OA)OA(但し、mは整数、Aは、CH、C、C等のアルキル基)、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質として、CF−(CF−(CH−Si(OA)、[CF−(CF−(CH−Si(OA)、又は[CF−(CF−(CH−SiOA(nは0又は16以下の整数、Aはアルキル基)が、撥水効果及び耐磨耗性向上の観点から最も好ましい。
【0022】
フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質(u)と、アルコキシシリル基を主成分とする物質(t)と、の分子比u:tは、u:tが1:10〜20:1が好適である。撥水被膜の撥水効果及び耐磨耗性をさらに向上させられるからである。
なお、アルコキシシリル基を主成分とする物質に代えて、前述のクロロシリル基を主成分とする物質を用いることもできる。この場合も、撥水被膜の耐磨耗性及び耐水性を高めることができる。
【0023】
フッ化炭素基と炭化水素基とクロロシリル基を主成分とする物質(s)、又は、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質(u)を0.005〜0.1mol/Lの濃度になるように非水系有機溶媒に溶解して、撥水被膜形成剤(a)又は撥水被膜形成剤(b)を調製することができる。これにより、紙の繊維の表面に薄い撥水被膜を形成することができる。
撥水被膜を形成する際には、撥水被膜形成剤(a)又は撥水被膜形成剤(b)に、乾燥させた紙を1〜2時間浸漬させ、紙の繊維と撥水被膜形成剤とを反応させる。撥水被膜形成剤に浸漬する代わりに、紙に撥水被膜形成剤を塗布したり噴霧したりすることもできる。
次いで、非水系有機溶媒を蒸発させると、フッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質と、シロキサン基を主成分とする物質を含む複合膜を、紙の繊維の表面に形成することができる。
次に、窒素等の不活性ガス中、300〜450℃で30分程度の加熱処理を行うことにより、複合膜中の−SiCl基や−Si(OA)基(但し、AはCH、C、C等のアルキル基)が吸着水と反応して生成された≡SiOH基の大部分が脱水反応して、ポリシロキサン結合を形成し網目状のシリカ膜に変化して、耐磨耗性と耐水性に優れるフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質と、シロキサン基を主成分とする物質からなる撥水被膜を形成することができる。
【0024】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の活魚収容用撥水紙であって、炭粉末が、前記繊維間に分散保持された構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)炭粉末が繊維間に分散保持されているので、収容した活魚からの排泄物に含まれるアンモニア態窒素を炭粉末に吸着させることができ、収容した活魚の排泄物によって水質が悪化するのを防止することができる。また、炭粉末が有害金属イオンも吸着して水中から除去するので、活魚の輸送環境を清浄に維持できる。
【0025】
ここで、炭粉末としては、木炭、竹炭、桃,梅等の果実の種を原料にした種炭、鋸屑,ヤシガラ等を原料にした活性炭等の植物質炭を粉状にしたものが用いられる。なかでも、竹炭が好適に用いられる。竹の稈は繊維が真直ぐに伸びているため、竹炭には木炭よりも径の小さな細孔が多数形成され表面積が大きく吸着性に優れるからである。
【0026】
抄紙の際、繊維及び竹粉末を水に分散させ、薄く平らに濾し分けて脱水・乾燥させることにより、炭粉末が繊維間に分散保持された紙を製造することができる。
粒径を10〜60μmに微細化した炭粉末を用いることで、炭粉末を繊維間に保持させることができる。粒径が10μmより小さいか60μmより大きな炭粉末は、繊維間から脱落し易いためいずれも好ましくない。
【0027】
本発明の請求項4に記載の活魚収容体は、請求項1乃至3の内いずれか1に記載の活魚収容用撥水紙で少なくとも一部が形成された構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)紙の繊維の表面に結合した撥水剤分子で形成された撥水被膜により、結露等による水の膜が表面に形成され難いので通気性を維持することができるため、収容した魚のために水中の酸素が減少することがなく、収容された活魚を死亡させることなく輸送できる。
(2)平均長3〜20mmの繊維で形成された紙は機械的強度が高いため、輸送・荷役時の振動や活魚の衝突等により傷付いたり破れたりすることがなく、輸送時等に水が漏出しないため活魚を確実に輸送できる。
(3)従来は、魚を水槽に入れて輸送していたため、溶存酸素濃度や魚に与えるストレス軽減の観点から、水槽を大量の水で満たす必要があった。そのため、総重量の6%程度の活魚しか輸送できず輸送効率が著しく低かった。しかし、本発明の活魚収容体は、活魚収容用撥水紙の機械的強度が高く、またガス透過性やガス交換能が優れており、さらに軽量で柔軟なため、例えば、活魚収容体に活魚の鰓が浸かる程度の少量の水を入れて一匹ずつ収容し、活魚収容体同士を隣接させた状態で輸送できるため、重い水槽や大量の水を輸送する必要がなく、輸送効率を飛躍的に向上させることができる。また、トラック輸送だけでなく空輸も行うことができ、活魚の小口輸送や個別輸送も行うことができる。
【0028】
ここで、活魚収容体は、活魚収容用撥水紙を折り畳んで袋状に形成したものを用いることができる。活魚収容用撥水紙をゴム系やアクリル系等の耐水性の接着剤で接着して袋状に形成することができる。また、紙をゴム系やアクリル系等の耐水性の接着剤で接着して袋状に形成した後、これを撥水被膜形成剤に浸漬し乾燥させることで、表面に撥水被膜が形成された活魚収容体を得ることもできる。なお、撥水被膜形成剤に浸漬する代わりに、撥水被膜形成剤を塗布、噴霧等することもできる。
袋状に形成した活魚収容体は、袋の開口部にジッパーテープを接着することができる。これにより、活魚収容体に活魚と水を収容した後、ジッパーを閉じて密封することができる。
【0029】
活魚収容体は、ヒラメ、カレイ、エビ、タイ、フグ、アジ、カンパチ、コイ、ウナギ、アユ、ヤマメ、カニ、イカ、タコ等の種々の魚介類を収容して荷役し輸送することができる。
【0030】
本発明の請求項5に記載の活魚収容体は、一方の外周に他方の内周が密嵌された2体の枠体と、前記枠体間に挟装された請求項1乃至3の内いずれか1に記載の活魚収容用撥水紙と、を備えた構成を有している。
この構成により、請求項4で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)2体の枠体を密嵌させ活魚収容用撥水紙を挟装することで活魚収容体を製造できるので生産性に優れる。
(2)枠体で活魚収容用撥水紙を挟装することにより、魚介類を刺激することなくパッキングできるため、魚介類に与えるストレスを減らし身質の劣化を防ぐことができる。
(3)枠体は繰り返し使用できるため、省資源性に優れる。
【0031】
ここで、枠体としては、線材や板材を用い、平面視して円形状や多角形状等の無底のリング状や筒状等に形成されたものが用いられる。なお、2体の枠体のうち一方の枠体は、有底の筒状等に形成することができる。
【0032】
本発明の請求項6に記載の活魚収容体は、底面と側面が耐水性材料で形成された容器と、前記容器の側面の少なくとも一部に形成された開口部と、前記開口部に配設された請求項1乃至3の内いずれか1に記載の活魚収容用撥水紙と、を備えた構成を有している。
この構成により、請求項4で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)底面と側面が耐水性材料で形成された容器と、容器の側面の少なくとも一部に形成された開口部と、開口部に配設された活魚収容用撥水紙と、を備えているので、中型から大型の活魚収容体を形成することができるため、タイ、フグ、アジ、カンパチ等の中層魚を収容して輸送することができる。
(2)中層魚は運動能力が高いため、輸送時のストレスによりストレス蛋白が生成され身質が劣化することがあるが、水温や光度の調整の他、一匹ずつ収容して輸送することで、ストレスを軽減し身質の劣化を防止できる。
【0033】
ここで、容器としては、底面が三角形,四角形,六角形等の多角形状、円形,楕円形等の柱状に形成されたものを用いることができる。
耐水性材料としては、合成樹脂製,ガラス製,金属製等の板材を用いることができる。また、段ボール等の板紙や木材等の板材に撥水被膜を形成した撥水材を用いることもできる。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明の活魚収容用撥水紙及びそれを用いた活魚収容体によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)紙の繊維の表面に結合した撥水剤分子で形成された撥水被膜により、結露等によって水の膜が表面に形成され難いので通気性を維持することができる活魚収容用撥水紙を提供できる。
(2)平均長3〜20mmの繊維で形成された紙は機械的強度が高いため、輸送・荷役時の振動や活魚の衝突等により傷付いたり破れたりすることがない活魚収容用撥水紙を提供できる。
(3)撥水被膜を有しているので、活魚が分泌する有機性のぬめり成分が付着することがなく、ぬめり成分の付着によりガス透過性やガス交換能が経時的に低下するのを防止できる活魚収容用撥水紙を提供できる。
【0035】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)繊維の表面に形成された撥水被膜は耐磨耗性及び耐水性に優れているので、輸送・荷役時の振動や活魚の衝突等により撥水被膜が擦れて耐水性が低下することを防止でき、輸送時等に水が漏出するのを防止して活魚を確実に輸送できる活魚収容用撥水紙を提供できる。
(2)撥水被膜は単分子膜となるため、活魚収容用撥水紙は柔軟で触感は紙と何ら変わりがないので、収容された活魚が活魚収容用撥水紙に接触しても違和感がなくストレスとなり難く、輸送や荷役のストレスによる身質の劣化を防止できる活魚収容用撥水紙を提供できる。
【0036】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)炭粉末が繊維間に分散保持されているので、収容した活魚からの排泄物に含まれるアンモニア態窒素を炭粉末に吸着させることができ、収容した活魚の排泄物によって水質が悪化するのを防止するとともに、有害金属イオンも吸着して水中から除去するので、活魚の輸送環境を清浄に維持できる活魚収容用撥水紙を提供できる。
【0037】
請求項4に記載の発明によれば、
(1)紙の繊維の表面に結合した撥水剤分子で形成された撥水被膜により、結露等による水の膜が表面に形成され難いので通気性を維持することができるため、収容した魚のために水中の酸素が減少することがなく、収容された活魚を死亡させることなく輸送できる活魚収容体を提供できる。
(2)平均長3〜20mmの繊維で形成された紙は機械的強度が高いため、輸送・荷役時の振動や活魚の衝突等により傷付いたり破れたりすることがなく、輸送時等に水が漏出しないため活魚を確実に輸送できる活魚収容体を提供できる。
(3)活魚収容体に活魚の鰓が浸かる程度の少量の水を入れて一匹ずつ収容し、活魚収容体同士を隣接させた状態で輸送できるため、輸送効率を飛躍的に向上させることができ、また、トラック輸送だけでなく空輸、小口輸送や個別輸送も行うことができ輸送手段や流通方法の多様化に応える活魚収容体を提供できる。
【0038】
請求項5に記載の発明によれば、請求項4の効果に加え、
(1)2体の枠体を密嵌させ活魚収容用撥水紙を挟装することで活魚収容体を製造できるので生産性に優れた活魚収容体を提供できる。
(2)魚介類を刺激することなくパッキングできるため、魚介類に与えるストレスを減らし荷役や輸送のストレスによる身質の劣化を防止できる活魚収容体を提供できる。
(3)枠体は繰り返し使用できるため、省資源性に優れた活魚収容体を提供できる。
【0039】
請求項6に記載の発明によれば、請求項4の効果に加え、
(1)底面と側面が耐水性材料で形成された容器と、容器の側面の少なくとも一部に形成された開口部と、開口部に配設された活魚収容用撥水紙と、を備えているので、中型から大型の活魚収容体を形成することができるため、タイ、フグ、アジ、カンパチ等の中層魚を収容して輸送することができる活魚収容体を提供できる。
(2)中層魚は運動能力が高いため、輸送時のストレスによりストレス蛋白が生成され身質が劣化することがあるが、水温や光度の調整の他、一匹ずつ収容して輸送することで、ストレスを軽減し身質の劣化を防止できる活魚収容体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における活魚収容用撥水紙の製造過程を示す要部模式図であり、図2は実施の形態1における活魚収容用撥水紙の要部模式図である。
図中、1は本発明の実施の形態1における活魚収容用撥水紙、2は植物天然繊維,ナイロン繊維等の合成繊維,無機繊維等で形成された平均長3〜20mmの紙の繊維、3は脱アルコール反応や脱塩酸反応により繊維2の表面に形成されたシロキサン結合(Si−O結合)、4は繊維2にシロキサン結合3を介して結合したフッ化炭素基,炭化水素基及びシリル基を主成分とする物質等の撥水剤分子、5は繊維2の表面に結合した撥水剤分子4中に存在する水酸基、6は水酸基5の脱水反応により形成されたポリシロキサン結合による網目状のシリカ膜、7はシリカ膜6と複合化した撥水被膜である。
【0041】
以上のように構成された本発明の実施の形態1における活魚収容用撥水紙について、以下その製造方法を説明する。
フッ化炭素基と炭化水素基とクロロシリル基を主成分とする物質と、非水系有機溶媒とを含有する撥水被膜形成剤(a)、又は、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と、非水系有機溶媒とを含有する撥水被膜形成剤(b)を繊維2に接触させて、繊維2の表面で脱アルコール反応又は脱塩酸反応を生じさせ、繊維2の表面にシロキサン結合3を介してフッ化炭素基,炭化水素基及びシリル基を主成分とする物質等の撥水剤分子を結合させる。
次いで、繊維2の表面に付着した余分な撥水被膜形成剤を洗浄除去すると、厚さが数nmの撥水剤分子4の複合膜を形成できる(図1参照)。
次いで、不活性ガス雰囲気下で300〜450℃、30〜120分程度の条件で加熱処理を行うと、撥水剤分子4中に残っていた水酸基5の脱水反応により、図2に示すように、ポリシロキサン結合による網目状のシリカ膜6が形成され、これにより繊維2の表面にシリカ膜6と複合化した撥水被膜7が形成された活魚収容用撥水紙1を製造することができる。
【0042】
以上のように、本発明の実施の形態1における活魚収容用撥水紙は構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)紙の繊維2の表面に結合した撥水剤分子4で形成された撥水被膜4により、結露等によって水の膜が表面に形成され難いので通気性を維持することができる。
(2)平均長3〜20mmの繊維2で形成された紙は機械的強度が高いため、輸送・荷役時の振動や活魚の衝突等により傷付いたり破れたりすることがない。
(3)フッ化炭素基と炭化水素基とクロロシリル基を主成分とする物質と、非水系有機溶媒と、を含有する撥水被膜形成剤(a)、又は、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と、非水系有機溶媒と、を含有する撥水被膜形成剤(b)を用いて、紙の繊維2の表面に形成された撥水被膜7は、網目状のシリカ膜6により耐磨耗性及び耐水性に優れているので、輸送・荷役時の振動や活魚の衝突等により撥水被膜7が擦れて耐水性が低下することを防止でき、輸送時等に水が漏出するのを防止して活魚を確実に輸送できる。
(4)撥水被膜7が単分子膜で形成されるので、活魚収容用撥水紙1は柔軟で触感は紙と何ら変わりがない。そのため、収容された活魚が活魚収容用撥水紙に接触しても違和感がなくストレスとなり難いため、荷役や輸送のストレスにより身質が劣化するのを防止できる。
【0043】
(実施の形態2)
図3(a)は実施の形態2における活魚収容体の製造方法を示す模式断面図であり、図3(b)は製造された実施の形態2における活魚収容体の模式断面図である。なお、実施の形態1で説明したものと同様のものは、同じ符号を付して説明を省略する。
図中、11は本発明の実施の形態2における活魚収容体、12は平面視して円形状,多角形状等のリング状に形成された下枠体、13は平面視して円形状,多角形状等のリング状に形成され下枠体12の内側に下部が嵌挿される上枠体、14は上枠体13の上縁の外周の複数個所に又はリング状に突出し下枠体12に嵌挿すると下枠体12の上縁に当接して上枠体13を係止する係止部、15は下枠体12の上に敷いた活魚収容用撥水紙1の下枠体12の内側に貯えた海水や真水等の水、16は下枠体12と上枠体13に挟装された活魚収容用撥水紙1,1の間の空間に収容されたヒラメ、カレイ、エビ、コイ、ウナギ等の魚介類である。
【0044】
以上のように構成された本発明の実施の形態2における活魚収容体について、以下その使用方法を説明する。
まず、下枠体12を机や台の上に置き、その上に下枠体12の枠の外径より大きな活魚収容用撥水紙1を敷く。次に、活魚収容用撥水紙1の下枠体12の内側に海水や真水等の水を貯え、ヒラメ、カレイ、エビ、コイ、ウナギ等の魚介類を入れる。別の活魚収容用撥水紙1を被せ、その上に上枠体13を置き、下枠体12と上枠体13の間に2枚の活魚収容用撥水紙1,1を挟装するように下枠体12に上枠体13を嵌挿し、上枠体13の係止部14を下枠体12の上縁に当接させる。以上のようにして、活魚収容体11内に魚介類16を収容することができる。
魚介類16を活魚収容体11から取り出す場合は、下枠体12に嵌合していた上枠体13を下枠体12から取外した後、被せていた活魚収容用撥水紙1を取り除いて、魚介類16を取り出すことができる。
【0045】
以上のように、本発明の実施の形態2における活魚収容体は構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)紙の繊維の表面に結合した撥水剤分子で形成された撥水被膜により、活魚収容用撥水紙1の表面には結露等による水の膜が形成され難いので通気性を維持することができるため、収容した魚介類16のために水中の酸素が減少することがなく、収容された魚介類16を死亡させることなく輸送できる。
(2)平均長3〜20mmの繊維で形成された活魚収容用撥水紙1は機械的強度が高いため、輸送・荷役時の振動や魚介類16の衝突等により傷付いたり破れたりすることがなく、輸送時等に水が漏出しないため魚介類16を確実に輸送できる。
(3)活魚収容用撥水紙1を折り畳んだり接着したりして魚介類16を収容できる袋状に形成しなくても、下枠体12に上枠体13を嵌合させて活魚収容用撥水紙1,1を挟装することで活魚収容体11を製造できるので生産性に優れる。また、魚介類16を刺激することなくパッキングできるため、魚介類16に与えるストレスを減らし、身質の劣化を防ぐことができる。
【0046】
なお、実施の形態2における活魚収容体11は、2枚の活魚収容用撥水紙1,1が下枠体12と上枠体13に挟装されて形成されているが、2枚の活魚収容用撥水紙のうちの一枚を、通気性の無い撥水紙や合成樹脂製フィルム等に代える場合もある。残りの活魚収容用撥水紙1を通してガスが透過されるからである。また、下枠体12、上枠体13のいずれか一方に底を設けて有底にする場合もある。この場合も、下枠体12と上枠体13に挟装された活魚収容用撥水紙を通して、ガスを透過させることができるため、同様の作用が得られる。
また、2体の枠体に活魚収容用撥水紙を挟装する代わりに、活魚収容用撥水紙1を折り畳んだり、重ね合わせた各辺を接着したりして魚介類16を収容できる袋体を形成する場合もある。
また、魚介類16の種類にもよるが、必要に応じて、おが屑等のクッション材を同梱する場合もある。
【0047】
(実施の形態3)
図4は実施の形態3における活魚収容体の斜視図である。なお、実施の形態1で説明したものと同様のものは、同じ符号を付して説明を省略する。
図中、21は本発明の実施の形態3における活魚収容体、22は合成樹脂製,ガラス製,金属製等の板材や、撥水被膜を形成した板紙,木材等の耐水性材料で形成された容器、23は容器22の矩形状に形成された底面、24は底面23の周囲に立設された側面、25は容器22の側面24の複数個所に形成され活魚収容用撥水紙1が配設された矩形状の開口部、26は容器22内に貯えられた海水や真水等の水、27は容器22内に収容されたタイ、フグ、アジ、カンパチ等の魚介類である。
【0048】
以上のように、本発明の実施の形態3における活魚収容体は構成されているので、実施の形態2に記載した作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)底面23と側面24が耐水性材料で形成された容器22と、容器22の側面24の少なくとも一部に形成された開口部25と、開口部25に配設された活魚収容用撥水紙1と、を備えているので、中型から大型の活魚収容体を形成することができるため、タイ、フグ、アジ、カンパチ等の中層魚の魚介類27を収容して容易に輸送することができる。
【0049】
なお、実施の形態3における活魚収容体21を用いて魚介類27を輸送する場合は、容器22に蓋を被装し、容器22内の水26が輸送時の振動や揺動でこぼれないようにする。蓋は通気性を有しているもの、通気性を有していないもの、いずれも用いることができる。側面23に形成された開口部25に通気性を有する活魚収容用撥水紙1が配設されているからである。
【0050】
本実施の形態においては、底面23の全面が耐水性材料で形成された場合について説明したが、底面23を格子状やメッシュ状に形成して開口部を設け、該開口部に活魚収容用撥水紙1を配設する場合もある。底面23に配設された活魚収容用撥水紙1からもガス交換できるようにするためである。
また、活魚収容体21内を複数の空間に隔てる隔壁を設ける場合もある。輸送中に、活魚収容体21内に収容された魚介類27同士が接触して傷が付くのを防止するためである。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
相対湿度35%以下の乾燥空気雰囲気中で、フッ化炭素基と炭化水素基とクロロシリル基を主成分とする物質としてCF−(CF−(CH−SiClと、クロロシリル基を主成分とする物質としてSiClとを、含水率がおよそ50ppmの5%クロロホルム含有ジメチルシリコーン溶液に、それぞれ0.02mol/L、0.01mol/Lの濃度になるように溶解して、実施例1の撥水被膜形成剤を作製した。
平均長が18mmの靭皮繊維で形成された和紙を相対湿度35%以下の乾燥空気雰囲気中に十分放置し乾燥させた後、相対湿度35%以下の乾燥空気雰囲気中で実施例1の撥水被膜形成剤に浸漬し、室温で1〜2時間放置した。
和紙を撥水被膜形成剤から引き上げた後、余分な撥水被膜形成剤を搾り取り、次いで、60〜100℃の大気雰囲気中で溶媒を蒸発させた。
次に、和紙を不活性ガスである窒素ガス中で400℃、30分の条件で加熱して、脱水反応を生じさせ、ポリシロキサン結合による網目状のシリカ膜を形成させ、和紙の繊維の表面に撥水被膜が形成された実施例1の活魚収容用撥水紙を得た。
なお、実施例1の活魚収容用撥水紙の水滴接触角は、略104度(臨界表面エネルギーは12mN/m程度)であり、テフロン(登録商標)コート並み以上の撥水性が付与できた。また、撥水被膜の形成する前の和紙の通気性と、活魚収容用撥水紙の通気性は、変わらなかった。
【0052】
(実施例2)
相対湿度35%以下の乾燥空気雰囲気中で、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質として、CF(CF(CHSi(Si(OCを59.7重量%、アルコキシシリル基を主成分とする物質としてSi(OCを40重量%、シラノール縮合触媒として、ジブチル錫オキサイドを0.3重量%となるようそれぞれ秤量し、含水率が50ppmのヘキサメチルジシロキサン溶媒に総量が0.2重量%程度の濃度になるように溶解させて実施例2の撥水被膜形成剤を作製した。
平均長が10mmのポリエステル繊維で形成された紙を、相対湿度35%以下の乾燥空気雰囲気中に十分放置し乾燥させた後、相対湿度57%の空気中で実施例2の撥水被膜形成剤に浸漬し、室温で1〜2時間放置した。
紙を撥水被膜形成剤から引き上げた後、余分な撥水被膜形成剤を搾り取り、次いで、60〜100℃の大気雰囲気中で溶媒を蒸発させた。
次に、紙を不活性ガスである窒素ガス中で400℃、30分の条件で加熱して、脱水反応を生じさせ、ポリシロキサン結合による網目状のシリカ膜を形成させ、紙の繊維の表面に撥水被膜が形成された実施例2の活魚収容用撥水紙を得た。
なお、実施例2の活魚収容用撥水紙の水滴接触角は、略104度(臨界表面エネルギーは12mN/m程度)であり、テフロン(登録商標)コート並み以上の撥水性が付与できた。また、撥水被膜の形成する前の紙の通気性と、活魚収容用撥水紙の通気性は、変わらなかった。
【0053】
(活魚の収容試験)
実施の形態2で説明した活魚収容体を用いて、収容した活魚が36時間経過後に生存しているかどうかを調べる実験を行った。
(実験例1)
下枠体12を机の上に置き、下枠体12の上に実施例1の活魚収容用撥水紙を敷いた。次に、活魚収容用撥水紙の下枠体12の内側に海水を0.5L注ぎ、活魚(体重約300gのマコガレイ)を1匹入れた。実施例2の活魚収容用撥水紙を被せ、その上に上枠体13を置き、下枠体12と上枠体13の間に2枚の活魚収容用撥水紙を挟装して活魚収容体を組み立て、活魚を収容した。
活魚収容体を机の上に置いたままでは、実施例1の活魚収容用撥水紙の通気性が妨げられるため、活魚収容体を中吊りにして36時間放置した。
36時間経過後、下枠体から上枠体を取外して魚を観察したところ、生存していることが確認された。
同様の実験を別の魚で行ったが、魚の生存が確認された。
【0054】
(実験例2)
活魚収容用撥水紙に代えて、ポリテトラフルオロエチレン樹脂による延伸処理材(通気性かつ非透水性シート)を用いた以外は、実験例1と同様にして、活魚の収容試験を行った。しかし、36時間経過後、魚は死亡していた。同様の実験を別の魚で行ったが、やはり魚は死亡していた。
以上のように本実施例の活魚収容用撥水紙によれば、高い通気性とガス交換能を有していることが確認された。そのため、収容した魚を長時間生かしておくことができ、活魚の輸送に最適であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、活魚を収容して輸送するのに最適な活魚収容用撥水紙及びそれを用いた活魚収容体に関し、高い通気性を有するとともに、結露等による水の膜が表面に形成され難く、活魚が発生するぬめり成分も付着しないため、その通気性を維持することができるとともに、機械的強度が高く輸送・荷役時の振動や活魚の衝突等により傷付いたり破れたりすることのない耐久性に優れる活魚収容用撥水紙を提供でき、また、結露等による水の膜が表面に形成され難く通気性を維持することができるため、収容した魚の呼吸により水中の酸素が減少することがなく、収容された活魚を死亡させることなく輸送することができ、さらに機械的強度が高く輸送・荷役時の振動や活魚の衝突等により傷付いたり破れたりすることがなく、輸送時等に水が漏出しないため活魚を確実に輸送できる活魚収容体を提供することができる。本発明は、活魚の輸送効率を飛躍的に向上させ、さらにトラック輸送だけでなく空輸、小口輸送や個別輸送も行うことができ、輸送手段や流通方法の多様化に応えることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1における活魚収容用撥水紙の製造過程を示す要部模式図
【図2】実施の形態1における活魚収容用撥水紙の要部模式図
【図3】(a)実施の形態2における活魚収容体の製造方法を示す模式断面図 (b)製造された実施の形態2における活魚収容体の模式断面図
【図4】実施の形態3における活魚収容体の斜視図
【符号の説明】
【0057】
1 活魚収容用撥水紙
2 繊維
3 シロキサン結合(Si−O結合)
4 撥水剤分子
5 水酸基
6 撥水被膜
11 活魚収容体
12 下枠体
13 上枠体
14 係止部
15 水
16 魚介類
21 活魚収容体
22 容器
23 底面
24 側面
25 開口部
26 水
27 魚介類

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均長3〜20mmの繊維で形成された紙と、前記繊維の表面に結合した撥水剤分子で形成された撥水被膜と、を備えていることを特徴とする活魚収容用撥水紙。
【請求項2】
前記撥水被膜が、フッ化炭素基と炭化水素基とクロロシリル基を主成分とする物質と、非水系有機溶媒と、を含有する撥水被膜形成剤(a)、又は、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と、非水系有機溶媒と、を含有する撥水被膜形成剤(b)を前記繊維に接触させて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の活魚収容用撥水紙。
【請求項3】
炭粉末が、前記繊維間に分散保持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の活魚収容用撥水紙。
【請求項4】
請求項1乃至3の内いずれか1に記載の活魚収容用撥水紙で少なくとも一部が形成されていることを特徴とする活魚収容体。
【請求項5】
一方の外周に他方の内周が密嵌された2体の枠体と、前記枠体間に挟装された請求項1乃至3の内いずれか1に記載の活魚収容用撥水紙と、を備えていることを特徴とする活魚収容体。
【請求項6】
底面と側面が耐水性材料で形成された容器と、前記容器の側面の少なくとも一部に形成された開口部と、前記開口部に配設された請求項1乃至3の内いずれか1に記載の活魚収容用撥水紙と、を備えていることを特徴とする活魚収容体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−106240(P2009−106240A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284281(P2007−284281)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(307011015)有限会社かがわ学生ベンチャー (7)
【出願人】(507281546)株式会社ディスカバリーSTS−92 (1)
【出願人】(507360276)
【Fターム(参考)】