説明

流体の採取及び分析方法とその装置

内孔を有するハウジングと内孔に摺動可能に固定するランセットとを備えた医療器具が開示されている。ランセットは、容積式ピストンとして作動する。ランセットは、穿刺操作のために、その尖った先端が内孔の前端から露出せしめられる穿刺位置と、流体収容空間をランセット先端の前方の内孔内に規定するように、ランセットが内孔内に沿って後方に変位せしめられる退避位置との間を移動可能である。流体収容空間は、表面張力により流体がそこに保持されることを許容する断面直径を有している。この器具は、ランセットの移動時に、シール手段を通過する流体収容空間からの流体の流れを実質的に防止可能なシールを有する。ランセットの穿刺位置と退避位置との間の移動が、内孔の前端より流体収容空間内へ及びそれに沿っての流体を引き込む吸引力及び/又は内孔の前端を経由した、流体収容空間から流体を吐出するための圧力を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採取(sampling)及び/又は施与(dispensing)方法と、それを実施する装置に関するものである。体液サンプルが、先ず皮膚を穿刺し、そしてその後、血液や間質液(ISF)等の流体、或いはそれに含まれる細胞を採取することによって集められなければならない状況は、数多く存在する。重要な適用例として、例えば血中グルコース、電解質又はコレステロール等の様々な分析のための、血液又は間質液の採取がある。ポイント・オブ・ケア(Point of Care;POC)器械の使用時等、いくつかの適用において、正確に計量された流体のサンプルを器械に供給することが重要である。また、傷をつける前に、皮膚上に流体(例えば消毒剤)を付着させることが出来るという利点がある。
【背景技術】
【0002】
最も一般的に使用されている採血器具は、皮下注射器とランセット(lancet)である。患者/被験者にとっては、どちらの方法であっても、血液サンプルを採られることは痛みを伴い、苦痛となる。特に、一日に何度も血液サンプルを採らなくてはならない糖尿病患者にとっては、苦痛である。このため、採血の量を減らし、より浅く皮膚に挿入される小さな器具を使う傾向にある。血中グルコースを測定するために皮膚を穿刺する器具として、一般的に、使い捨てのランセットが好まれている。
【0003】
血液サンプルの採取は、工程の1つに過ぎない。そして、そのサンプルは分析するためのシステムに移送させられる必要がある。血中グルコースのモニタリングの場合、ランセットは皮膚を穿刺するために使用され、そしてその後引き戻される。それから、血液小滴が皮膚上に形成され、その血液小滴は毛細管又はウィック(wick)によって試験片に移送される。これは、個々の工程においていくつもの器具を要する。多くの試験器具は、医療スタッフよりも、患者自身で扱うことの方が多いので、使用者の最少の処置で、正確に全ての工程が行われることが重要である。また、使用者や、血液が付着した鋭利な物に触れる可能性のある第三者に対する汚染の危険を、最小限にすることも重要である。
【0004】
POC検査では、POC器械はベンチトップ器械(bench-top instrument)であることが多いので、被験者から血液サンプルを採取するために、被験者の所へ持って行くことが出来ない。このような状況では、血液や間質液のサンプルを採取し、器械まで移送させる必要がある。更に、サンプルそれ自体、又はサンプルの投与されたアリコートのどちらかが、正確に測られた分量であることが、検査の結果の正確さを確実にするためには望ましい。
【0005】
採血に関する先行技術では、穿刺と流体の採取とを組み合わせるための器具が説明されている。米国特許第4360016号は、ランセットに隣接し平行である毛細管を開示している。ランセットが皮膚から引き戻されると、血液小滴が、毛管現象により毛細管を満たし得る。国際公開第2004/066822号は、ランセットと血中グルコース試験片との組合せと共に、ランセットの先端に隣接する毛細管を記述している。国際公開第2004/066822号は、毛管現象によって血液を直接グルコース試験片に配達することで、米国特許第4360016号を改良している。
【0006】
国際公開第02/100254号は、毛細管がランセットを含むハウジングに隣接する入り口を備え、その毛細管はランセットと角度をつけて配置される、異なったアプローチを開示している。ランセットに近接した血液小滴は、毛管現象によって毛細管に引き込まれ得る。国際公開第02/056751号は、ランセットとハウジングとの間で、ランセットの周りに同心的な環状の毛細管を形成する、ハウジング内におけるランセットを記述している。国際公開第2004/060163号は、ランセットとハウジングとの間の隙間が、環状の毛細管を形成するように構成された、毛細管部材内におけるランセットを説明している。
【0007】
更に別の毛細管採取の方法は、全体の組立品が毛細管採取管を形成するように、中空の極微針を毛細管と連結して備えている。これは、更に、血中グルコース感知器(血糖値感知器)と統合可能である。先行技術における例は、米国公開第2004/0096959号及び米国公開第2003/0153900号である。
【0008】
米国公開第2004/122339号は、毛細管の寸法と表面エネルギーの制御による、毛細管内の流体流動の改良を提供している。ヨーロッパ特許第1491144号は、間質液採取のシステムを記述している。このシステムは、間質液の器具への流れを促すために、圧縮リングを含んでいる。かかる器具は、毛管現象による採取を採用している。
【0009】
本発明者等は、毛細管を基にした採取システムは多くの場合に上手く機能するが、一度サンプルに毛細管が差し出されると、採取のタイミングや速度の制御が不可能であり;通常液体は小さな直径の毛細管から大きな直径の毛細管又はセンサ・チャンバへは流れず;液体を穿刺前に皮膚上に配達することは不可能であり;殆どの形態ではサンプルを吐出する準備は無く;また、サンプルを吐出、付着、又は再び採取するために逆戻りさせられ得ない;という欠点があることに気がついた。
【0010】
米国公開第2003/0088191号は、隔壁に固着されたランセットを記述している。ダイアフラムの背後の空気圧が、ランセットの先端をオリフィスから押し出して、皮膚を穿刺するために、使用されている。ダイアフラムの背後に部分的に真空を作用させることで、ランセットを引き入れ、またチャンバ内に陰圧を形成して、流体サンプルを引き込むことが提供される。米国公開第2003/0088191号に記載の器具は、目的とする分析のためのサンプルを汚染する空気にサンプルが接触しない方法で、血中ガス分析のための血液を採取するように意図されている。従って、この器具は、皮膚に対してシールするよう設計されている。この器具は、この器具をダイアフラムポンプとして機能させるための2つの機械的駆動バルブを備えており、第一オリフィスを通じて傷口から血液を吸い込み、第二オリフィスを通過して血中ガス測定装置等の外部の器具に配達する。この器具は、血中グルコース測定及びPOCのための採血に使用するには欠点がある。ランセットは、全ての内容物を吐出しようとするために完全に伸びきらなければならないが、それには怪我の危険を伴う。
【0011】
米国公開第2003/0088191号の器具も、また、先ず被験者の皮膚に穿刺して血液小滴が皮膚上に集積することを許容し、そして、その血液小滴を吸引するという手順には適していない。(後述されるように、これは本発明の態様の一つである。)何故なら、ランセットは、吸引を可能とするために、相当量の空気の侵入を許容することなく延出されなければならないからである。この器具は、また、少量の血液サンプルを最初の採取オリフィスを通して戻すことに、特に適してもいない。器具の配位によって、器具がサンプルを投与するために逆戻りさせられた時、チャンバ内の空気が血液を押して通り越し、血液サンプルの代わりに、或いは血液サンプルよりも先に空気が吐出される。空気によって動かされるダイアフラムの使用とエアーヘッドスペースの圧縮性とが、採取と投与の量に細やかな制御を及ぼすことを困難にしている。米国公開第2003/0088191号の器具は、おおよその量の血液を空気の混入なしで吸引し、その量の一部を外部の血液ガス分析器へ移送する目的のために用いるのに、最も適している。その移送される量の正確性は、高いとは考えられない。
【0012】
米国特許第5569287号は、ピストン作用によって針を穿刺位置に押し出すトリガー機構を取り入れた血液採取器具を開示している。血液小滴の採取は、ピストンを円筒に沿って引き入れ、血液小滴の上部のヘッドスペースに部分的な真空を作り、針を取り囲むチューブの中へ血液サンプルを引き込むことによって、成されることとなる。ピストンとサンプルとの分離には、器具に引き込まれた血液の量を正確に測ることが困難又は不可能であるという欠点がある。加えて、トリガー機構では、針の(少なくとも)前方変位は、ピストンの動きに対して固定された関係において惹起されないのである。
【0013】
別の先行技術の器具のグループとして、傷の表面に血液を引き出すために、吸引力を採用している器具がある。これらの器具の目的は、指よりも痛みを伴わないが、血液を採取するのが困難な箇所である、腕や足等の「代替検査箇所」の表面に血液を引き出す助けをすることである。米国特許第4653513号は、プランジャーにランセットが取り付けられたシステムについて記述している。プランジャーには、ピストンシールが備えられており、また平行な内孔内を移動するようになっている。内孔の前端には、押し付けられてしっかりと接触している時に、使用者の皮膚上に対してシールするのためのガスケットが備えられている。ランセット及びプランジャーは、皮膚を穿刺するために共に下方へ駆動させられ、内孔内に部分的な真空を作るために、バネ力によって完全に退避させられる。この器具の目的は、皮膚の表面上に血液小滴を作るために、切られた傷の周りに吸引力を加えることである。血液小滴は皮膚上に残り、吸引器具が取り除かれた時に、別の器具によって採取される。米国特許第4653513の器具は、血液サンプルを吸引することも、収容することも不可能であり、また、そうするための準備も有していない。
【0014】
米国特許第5368047号は、別個のランセットとプランジャーを含む米国特許第4653513号の改良を述べている。発明者は、器具内におけるピストンシールの摩擦が穿刺動作に有害である点を、米国特許第4653513の不利な点として説明している。米国特許第5368047号は、内孔内の如何なる位置でもシールしない低摩擦ランセットと、真空を作るために、器具のもう一方の端に位置した別個の注射器の組立品とを備えることで、この問題を解決している。三つの統合されたバネが、器具を駆動させるために用いられている。もう一度繰り返すと、この器具は、別のシステムが採取するために、固着性の血液小滴を皮膚表面に形成するように設計されていて、そこに記述された器具内に、血液サンプルの吸引又は収容のための何等の準備も有してはいない。このタイプの器具の更なる例は、米国公開第2002/111565号及び国際公開第9955232号に示されている。国際公開第9955232号に記載の図は、真空を創傷部位に適用することによって、どのように吸引器具が血液小滴を皮膚表面に引き出すのを促進し、そしてそれによって別の器具による後の採取を可能とするかを示すのに、特に有用である。
【0015】
本発明者等は、傷がつけられる前に、傷部位に流体を配達することが出来れば望ましい場合があるということに気が付いた。そのような流体としては、例えば、感染を防止するための消毒剤、或いは穿刺の痛みを低減する麻酔剤等がある。これは、血液採取システムにとって有益な機能となる。また、例えばアレルギーを診断するためのアレルギー起因物質(アレルゲン)の使用等、診断に役立つ作用を持った流体が皮膚上に運搬(deliver)されるのは、望ましいこととなる。
【0016】
今日、医院或いは診療所においては、ハウスダスト、カビ、乳製品等の一般的なアレルギー起因物質に対する過敏症のための蕁麻疹等のアレルギー反応を訴える患者に、アレルギー起因物質の一つを含んだ流体一滴を皮膚表面に投与し、投与した流体の小滴を通して皮膚を穿刺して検査をするのが、一般的な診療方法である。血液サンプルを穿刺部位に形成することよりも、皮膚を傷付けてヒスタミン媒介炎症反応を起こさせることが目的であるので、この検査のために皮膚を深くまで穿刺する必要は無い。
【0017】
アレルギー反応が穿刺部位に存在するアレルギー起因物質に対して起こると、これは、穿刺後10分以内に、膨らんで、炎症を起こした皮膚のはっきりとした円形はん点を形成する、穿刺部位における皮膚のヒスタミン誘発の限局性腫脹によって、証明される。10分後に穿刺部位に出来るみみず腫れ若しくは腫れ物の大きさは、アレルギー反応の程度を示す。現行の皮膚プリックアレルギー検査では、負の制御が、蒸留水をアレルゲン溶液の代わりに用いることによってもたらされ、そこでは、評価不可能な腫れ物しか期待できない。正の制御は、通常アレルゲン溶液の代わりに薄めたヒスタミン溶液を用いることでもたらされる。これは、穿刺部位でのかなりの腫れをもたらすこととなる。
【0018】
アレルギー検査では、前腕の皮膚上に、可及的に迅速に傷を並べて付けるのが一般的な慣習であり、そうすることによって、一連の傷の最初と最後との間の時間差が、可及的に短くされる。また、各穿刺部位に隣接する皮膚上に、どの穿刺部位にどのアレルギー起因物質を使ったか記録するために、ラベルを貼る、若しくは印を付けることも、一般的な慣習である。
【0019】
市販のランセット器具は、皮膚の穿刺前にアレルギー起因物質を皮膚上に配達することが可能である。Hollister Steer Laboratories LLPの 「Quintip(商標)」や、Greer Laboratoriesの 「GreerPick(商標)」等が、その例である。これらの器具は、皮膚への移送のために開放型貯留部よりアレルギー起因物質溶液を受動的に取り上げるべく表面張力を採用し、また、皮膚を穿刺するための一体ランセットを用いている。
【0020】
先行技術は,最小限の侵襲性方法によって流体を皮膚下に配達するために、極微針(microneedle)を使用した幾つかの装置を開示している。流体を配達するための極微針及び配列の例は、米国公開第2005/143713号、米国公開第2005/137525号、国際公開第2005/049107号、国際公開第2003/022330号及び中国特許1562402号に見られる。そのような極微針システムでは、傷を通して流体を皮膚下に配達するよう構成されているのであって、傷を付ける前に流体を皮膚上に配達するものではない。極微針は、一般的に、針が中空となるのに十分な直径を有するものでなくてはならないので、ランセットよりも更に侵襲的である。
【0021】
それ故、本発明者等は、流体の配達(delivery)、穿刺、サンプル採取、サンプルの移送及び分析の働きの何れか、又はいくつかの組合せ、或いはその全てを、一つの器具を使用して行うことが出来ることが望ましいと考えた。また、組織のダメージと被験者の痛みが、ランセット又は皮下注射器の直径と関係していることは、公知である。従って、採取器具の皮膚穿刺部品の断面積が、最小化されるのが、望ましいのである。
【0022】
研究室ピペット操作システムの形態における、能率的な液体採取及び付着システムは公知である。米国特許第5413006号及びヨーロッパ特許第0364621号は、独立したピペット先端を有する、空気変位方式ピペットの典型的な例である。ヨーロッパ特許第0078724号は、使い捨ての先端を有する手持ち式の容積式ピペットを示している。ヨーロッパ特許第1212138号は、サブマイクロリットル量の液体を吸引及び分配可能な小型化された容積式ピペットを提示している一方、国際公開第0112330号は、自動ピペット操作のために、そのようなピペットがどのように連続したストリップに取り付けられ得るかを示している。これらの器具は、高い正確性で流体を吸引及び分配可能であるが、皮膚を穿刺したり、分析に影響を及ぼしたりする能力は備えていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、上述された問題の一つ又はそれ以上に取り組み、それを回避し、或いはそれを克服することにある。疑念を避けるために、上記で触れた問題それ自体は先行技術の一部ではないが、本発明者等によって確認された、それらの問題点に対する論議は、読み手の本発明に対する理解を助けるために、本明細書のセクションに含まれるものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
第一の態様において、本発明は、内孔を有するハウジングと、該内孔に摺動可能に嵌め込まれるランセット(lancet)とを備え、該ランセットは、穿刺操作のために、その尖った先端が前記内孔の前端から露出せしめられる穿刺位置と、流体収容空間を該ランセット先端の前方の内孔内に規定するように、該ランセットが該内孔に沿って後方に変位せしめられる退避位置との間を移動可能であり、且つ、該流体収容空間は、表面張力により流体がそこに保持されることを許容するような断面寸法を有している医療器具(medical device)にして、かかる医療器具は、シール手段を備え、更に該シール手段は、前記ランセットの移動時に、該シール手段を通過する前記流体収容空間からの流体の流れを実質的に防止するように動作可能であり、そして、該ランセットの前記穿刺位置と前記退避位置との間の変位が、
(i) 前記内孔の前端より、前記流体収容空間内へ及びそれに沿って流体を引き込む吸引力と、
(ii) 前記内孔の前端を経て、前記流体収容空間から流体を吐出する圧力
のうちの少なくとも一つを与えている医療器具を提供する。
【0025】
このような方法で、本発明は、血液、間質液、又は流体若しくは半流動体の状態(例えば検査用生体組織等の組織サンプル等)の中に存在するその他のサンプルの採取及び/又は移送、及び/又は流体の皮膚への付着を可能としている。
【0026】
好ましくは、流体が器具内で容積式(positive displacement)によって移動せしめられ得るように、かかるランセットは、内孔内においてピストンとして機能する。シールは、ピストンシール又はロッドシールであって良く、或いは締まり嵌め(interference fit)であっても良い。
【0027】
使用時に、ランセット(又はランセットピストン)は、皮膚を通って傷を付けるために内孔の端部から突出せしめられ、そして引っ込められる。傷から血液又は間質液或いは他の流体が流出するのを待った後、血液又は間質液或いは他のサンプルが、ランセットピストンの退避によって内孔に引き込まれて、他の器具や区画への後の吐出のために計量されて収容されるか、或いは内孔それ自体内又は接続チャンネル内での分析のためのセンサ又はチャンバへ移送され得る。この器具は、また、積極的な変位によって穿刺前に流体を皮膚上に配達することも可能である。この器具は、バネ力、液圧力、空気力、電力によって、又は動力化、自動化システムの補助によって、手動的に駆動され得る。
【0028】
本発明は、同じ内孔の採取管を有する同等な皮下注射器針よりも小さな断面積を穿刺部品に対して提供する。例えば、直径300μmの内孔を持つ皮下注射極微針は、500μm程度の外径を有する。本発明において、ランセットピストンは、採取管の内径と同様な外径(300μm)を有している。
【0029】
本発明は、流体採取のための毛細管の利用を越えて、即時の改良を提供している。何故なら、積極的な変位を用いることによって、直径50μm及びそれ以上の実際の毛細管に対する単なる10cmのヘッド(head)に比して、全ての適した内孔直径に対して水の10mの理論的ヘッドを達成することが可能となるからである。本発明のいくつかの具体例では、毛細管流動が停止することとなる採取管の増加した直径(例えば、チャンバ、段差、或いは勾配)に流体が出会う場合においても、サンプルの流れを維持することが可能である。
【0030】
容積式乃至は積極的変位(positive displacement)の原理の使用は、また、固体含有量の多いものを含む粘性のある流体サンプルを、バルク流体(bulk fluid)から含有固体を分離させることなく、吸引及び吐出することも可能とする。サンプル中の微粒子が器具の内孔を防ぐ可能性は、毛細管器具に比べて、かなり低い。固体含有量の多い流体は、細胞含有量の多い血液、部分的血餅、及び細胞懸濁液を含んでいる。
【0031】
この器具は、皮膚を穿刺するために用いられる「先の鋭利なもの」に通常要請されているように、特に使い捨てとされ得る。
【0032】
第二の態様において、本発明は、医療器具の操作(operating)方法であって、かかる医療器具は、内孔を有するハウジングと、該内孔に摺動可能に嵌め込まれるランセットとを具備し、該ランセットは、穿刺操作のために、その尖った先端が前記内孔の前端から露出せしめられる穿刺位置と、流体収容空間を該ランセット先端の前方の内孔内に規定するように、該ランセットが該内孔に添って後方に変位せしめられる退避位置との間を移動可能であり、且つ、該流体収容空間は、表面張力により流体がそこに保持されることを許容するような断面寸法を有しており、更に該医療器具は、シール手段を備え、そして該シール手段は、前記ランセットの移動時に、該シール手段を通過する前記流体収容空間からの流体の流れを実質的に防止するように動作可能であり、そして、前記操作は、
(i) 吸引力による、前記内孔の前端から前記流体収容空間内へ及びそれに沿っての流体の引き込みと、
(ii)前記内孔の前端を経由した、前記流体収容空間からの流体の吐出
のうちの少なくとも一つを行うために、前記穿刺位置と前記退避位置との間で前記ランセットを変位させることを含むことを特徴とする医療器具の操作方法を提供する。
【0033】
第三の態様において、本発明は、外科的処置乃至は治療(therapy)による人間或いは動物に対する処置法、又は人間或いは動物に行われる診断法に使用される、第一の態様に従う器具を提供する。
【0034】
第四の態様において、本発明は、人間或いは動物に対するアレルギー検査に使用される、第一の態様に従う器具を提供する。
【0035】
第五の態様において、本発明は、後の診断のために、人間若しくは動物から血液又は間質液を採取するために使用される、第一の態様に従う器具を提供する。
【0036】
第六の態様において、本発明は、採取した流体に対する診断テストの実施において、第一の態様に従う器具の使用を提供する。
【0037】
好ましくは、サンプル採取の工程は、第六の態様から除外され、その採取された流体は体外(ex vivo)に存在する。
【0038】
第七の態様において、本発明は、人間或いは動物のアレルギー検査を行うための医療器具の製造において、第一の態様に従う使い捨て器具(single use device)の使用を提供するものである。
【0039】
第八の態様において、人間或いは動物の診断テストを行うための医療器具の製造において、第一の態様に従う使い捨て器具の使用を提供する。
【0040】
本発明の、好ましい及び/又は任意の形態が、ここに記述される。文脈が要求しない限り、それらは、単独で、或いは、本発明の何れの態様との組合せにおいて、適用可能である。
【0041】
好ましくは、流体は、単一の液体、液体混合物、及び、単一又は多種の液体と単一又は多種の固体との混合物のうちの一つである。
【0042】
好ましくは、シール手段は、シール面と摺動可能に係合されており、少なくとも前記ランセットの前方変位時に、前記シール手段及び前記シール面のうちの一つが、該ランセットと共に移動可能(好適には、固定されて移動可能)であることが好ましい。かかるシール手段及びシール面のうちの一つは、ランセットの後方への変位時に、該ランセットと固定的に移動可能であっても良い。
【0043】
前記シール手段は、前記ランセットの外面により形成され得、前記シール面は、前記内孔の内面である。かかるランセットの外面が、前記シール手段を囲み突起(surrouding projection)として与えるように形成され得る。例えば、ランセットの外面が環状突起を与え得る。或いは、前記シール手段が前記ランセットの周りに配設されたシール部材であり、前記シール面が前記内孔の内面であり得る。これらの具体例において、シール手段は、依然としてランセットと共に動き得るものである。
【0044】
別の具体例においては、前記シール手段は、前記内孔の内面に配設されたシール部材であり、前記シール面が、前記ランセットの外面である。ここでは、シール手段は、通常ランセットと共に動かない。
【0045】
好ましくは、前記シール手段は、少なくとも前記ランセットが退避位置にある時は、該ランセットの先端に隣接するように配置されている。この利点は、そうすることにより、サンプル(通常は実質的に非圧縮性の流体サンプル)の上方に圧縮性気体の大きなヘッドスペース(head space)を避けることが可能であり、それ故、計量の正確性を改善することが出来る。シール手段は、ランセット先端から20、10又は5つの内孔直径の距離内、好適には2.5若しくは1つの内孔直径或いはそれ以下の距離内に位置せしめられ得る。
【0046】
いくつかの具体例においては、ランセットが退避位置にある時に、ランセット先端は、シール手段の前方に配置され得る。そのような場合において、ランセットは、支持体から突き出るスパイク部材から形成され得、該支持体は内孔の内面に対してシールしている。これらの具体例においては、ランセット先端それ自体が、流体収容空間の中へ突出することが出来る。
【0047】
好ましくは、前記器具は、前記穿刺位置と前記退避位置との間に、前記ランセットの中間の遅滞位置(intermediate delay position)を与える協働手段を有する。この中間の遅滞位置は、皮膚を穿刺した後、ランセット先端の後退を停止させるように作用する。この遅滞は、ランセットの更なる退避による、流体の流体収容空間への引き込み前に、流体を皮膚上に溜めておくことを可能とする。
【0048】
好ましくは、前記器具は、前記ランセットの前方及び/又は後方移動を制限する、少なくとも一つの停止部材を具備する。
【0049】
前記シール手段は、前記穿刺位置で、前記シール面と非接触とされ得、または前記退避位置と比較して低減された圧力でシール面と接触し得、それによって、前記穿刺位置で前記ランセットの動きに対して低い摩擦を与えている。前記穿刺位置から退避する間に、前記シール手段の前記シール面との接触または増大した接触が、上述した中間の遅滞位置を与え得るようになっている。
【0050】
好ましくは、前記内孔は、前記ランセットの穿刺位置に前記シール手段または前記シール面を位置させるために、断面寸法が増加した領域を含んでいる。前記シール手段またはシール面が、前記ランセットの穿刺位置で、前記内孔の前端を越えて配置せしめられ得るようになっている。
【0051】
好ましくは、前記シール手段は、前記ランセットの前方の先端から前記器具の後方において配置されるシール部材(例えば、ピストンシール)であって、前記ランセットの先端と共に移動可能であり、また前記シール面は、前記内孔のシール領域の内面によって形成されている。一般的に、シール部材の典型的な断面寸法(例えば直径)は、前記流体収容空間の断面寸法より大きいが、該流体収容空間の断面寸法の10倍(好適には5倍、更に好適には2倍)に等しいか、或いはそれ以下である。
【0052】
好ましくは、前記ランセットの先端は、該ランセットの非先端領域(non-tip region)の最も小さな断面寸法の4分の1又はそれ以下の曲率半径を、少なくとも一つの寸法において持つように先鋭化されている。かかる曲率半径は、より好適には、ランセット先端以外の領域の最も小さな断面寸法の6分の1以下、8分の1以下、若しくは、最も好まくは10分の1以下である。
【0053】
内孔は、好ましくは5mm若しくはそれ以下の内面の断面寸法を有している。これは、例えば、重力に反する表面張力によって流体収容空間に収容されるように、適切な量の血液を保持するための適切な内面の直径である。かかる内孔は、5mmよりも狭く、例えば、4mm以下、3mm以下、2mm以下、又は1mm以下であっても良い。
【0054】
ランセットは、シール手段を経由して内孔内に収まる寸法に合わせて形成される。ランセットの断面寸法(通常ランセットの非先端領域)は、好適には、0.1mm或いはそれ以上である。この寸法のより好ましい範囲は、0.2mm以上、0.3mm以上、0.5mm以上、又は0.8mm以上である。或いは、ランセットの断面寸法(通常ランセットの非先端領域)は、内孔の寸法として先に特定された範囲内でも良い。
【0055】
流体収容空間の容積は、ランセットが退避位置にある時、0.1マイクロリットル又はそれ以上であり得る。この容積は、好適には、0.2マイクロリットル以上、0.5マイクロリットル以上、1マイクロリットル以上、5マイクロリットル以上、又は10マイクロリットル以上である。この容積は、一般的に、300マイクロリットル若しくはそれ以下である。好ましくは、250マイクロリットル以下、200マイクロリットル以下、又は150マイクロリットル以下である。
【0056】
好適には、前記内孔は、該内孔の前側部と後側部の間に配置され、それら前後側部よりも大きな断面寸法を有するチャンバを含んでいる。かかる内孔の断面寸法は、該内孔の前側部と前記チャンバとの間で、階段状に増大していても良い。
【0057】
前記流体収容空間は、使用時に、該流体収容空間に収容されている前記流体の特性を測定、または分析する手段を、例えばチャンバ部等にて提供し得る。
【0058】
センサチャンバの任意の組入れは、電気化学的又は免疫学的検査を行うために、試験片の化学的性質を統一する手段を提供する。センサは、また、血液の特性を物理的に測定可能にするために組み入れられ得る。本器具と統合され得る検査のタイプの例として、血中グルコース濃度、HbAlc(糖化ヘモグロビン)、コレステロール、トリグリセリド類、血中ケトン、心疾病マーカー(例えば、トロポニンI、ミオグロビン、D-ダイマー、CK-MB、BNP)、骨粗しょう症検査イオン及び電解質類(例えば、pH、Na、K、Ca、Cl)及びプロトロンビン時間(PT)がある。本発明は、上記の具体例の使用に何ら限定されるものではなく、小さなチャンバにおいて行われる血液分析の多くの方法に適用することが出来る。
【0059】
好ましくは、本器具は、前記流体収容空間と連通する、前記内孔からの第二の導管を有する。これは、連結、例えば内孔と試薬貯留部(例えば袋状組織の形態での)との連結を可能とする。或いは、第二の導管は、流体収容空間に収容されたサンプルのための別の吐出口を与え得る。
【0060】
本器具は、前記ランセットの先端の前方に配置され、少なくとも前記流体収容空間の一部をシールする閉鎖部材を具備する。前記閉鎖部材が、器具の操作中に、前記ランセットにより取り除かれ、又は穿刺されるように適合され得る。前記流体収容空間が、器具の操作によって被験者に適用される液体を収容し得る。例えば、その液体は、アレルギー試験液、麻酔液、抗凝固液又は消毒液である。
【0061】
好ましくは、本器具は、前記内孔の前端の前方に配置されたスペーサ部材を含み、該スペーサ部材が、被験者の皮膚との接触のためのものである。かかるスペーサ部材は、患者の皮膚の刺し傷と前記内孔の前端部との間に蓄積空間を与える寸法とされ、前記傷からの流体が、器具の操作によって前記流体収容空間に引き込まれる前に、前記蓄積空間に蓄積され得るようになっている。スペーサ部材は、5mm若しくはそれ以下の横断面寸法であるのが好ましい。スペーサ部材の軸の長さは、10mm若しくはそれ以下であり得る。内孔の前端は、スペーサ部材で囲まれた空間に位置され得る。蓄積空間内の皮膚表面に蓄積した流体小滴は、スペーサ部材の如何なる部位にも接触している必要はない。しかしながら、いくつかの具体例においては、そのような接触が、流体の内孔の前端に向かう流れを促進するのに適している。前記スペーサ部材が、前記ランセットの先端の穿刺位置に向かって内側に突き出す、1つ又はそれ以上の突起を備え得る。それらの突起は、蓄積される流体の前記内孔の前端に向かう流れを高める表面を与え得る。
【0062】
本器具は、前記内孔の前端に、流体の存在または不在を検知するための検知手段を含み得る。この検知手段は、少なくとも2つの電極を有し、そのうちの少なくとも1つの電極は前記内孔の前端に配置され、前記電極間の抵抗を測定することによって、前記内孔の前端において流体の存在または不在を検知する。例えば、前記ランセットが、前記電極の1つを提供しても良い。
【0063】
本器具は、前記流体収容空間の中の流体の存在及び/又は流体の量を検知するための検知手段を含み得る。好ましくは、検知手段は少なくとも2つの電極を有し、そのうちの一つはランセット先端であり得る。もう一つの電極は、内孔の後端の方にあることとなる。この配置では、流体収容空間が導電性ではあるが高い抵抗を有する流体(例えば血液)で満たされている場合、流体はランセット先端と接触しているはずなので、ランセット先端が退避せしめられた時、電極間には高い抵抗(開回路ではない)が存在する。流体はランセット先端と接触しており、内孔の寸法は分かっているので、内孔に対するランセットの位置を(観測によって)知ることで、内孔内の流体の量を知ることが出来る。流体収容空間内のかなりの量の気泡の存在又は同伴(entrainment)も、高い抵抗又は抵抗の急上昇によって示される。
【0064】
好ましくは、本器具の使用において、前記ランセット先端の穿刺操作は、被験者の皮膚を穿刺するものであり、そして、前記流体収容空間に引き込まれる流体が、被験者の血液及び被験者の間質液の内の少なくとも何れか1つである。また、好ましくは、本器具の操作モードは、被験者の皮膚への穿刺後、続く前記流体収容空間の中への引込みの為に、血液または間質液が、被験者の皮膚表面に蓄積するのを許容するように、前記ランセットの引込みを中間の遅滞位置にて遅らせる工程を含む。
【0065】
本器具の好適な使用においては、被験者の皮膚を穿刺する前に、該皮膚の穿刺される場所に、流体を前記流体収容空間から前記被験者の皮膚上に吐出する工程が含まれる。これは、アレルギー検査の適用において特に有用な、穿刺操作前に皮膚上に流体が適用されるという利点を与える。
【0066】
好適な使用においては、本器具は、皮膚の穿刺、血液又は流体の採取と測定のために、独立した個々の器具を使用する必要性を排除することが可能である。本器具の好ましい具体例では、センサ若しくは分析チャンバへの流体サンプルの移送を可能とする。更なる具体例では、穿刺前に流体を皮膚上に配達することが可能である。本器具は、自動制御の下に操作され得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
本発明の実施形態を、添付の図を実施例として参照しつつ、詳細に説明する。
【0068】
【図1】本発明の一実施形態に従う器具の概略断面図であって、穿刺及びサンプル移送の原理を説明する図である。
【図2】本発明の一実施形態に従う器具の概略断面図であって、流体サンプルの分析チャンバ及びセンサへの移送を説明する図である。
【図3】段付ランセットピストンを有する本発明の一実施形態に従う器具の概略断面図であって、段付ランセットピストンは、第一のサンプルに加えて第二のサンプルを分析チャンバに移送するために採用されている。
【図4】電極を組み入れて、かかる器具の操作中にサンプル流体の検知及びモニターを行う、本発明の一実施形態に従う器具の概略断面図である。
【図5】内孔の端を皮膚から離した状態で保持するスペーサ部材を組み入れている、本発明の一実施形態に従う器具を示す概略断面図である。
【図6】内孔の端を皮膚に近接させるが、接触はさせない状態で保持するスタンドオフを組み入れている、本発明の一実施形態に従う器具を示す概略断面図である。
【図7】本発明の実施形態において使用されるランセットピストンの実施例の側面図であって、ランセットピストンはその長手の軸に沿って各種の断面形状を有している。
【図8】穿刺前に皮膚上に流体を配達するのに特に適している、本発明の一実施形態の断面図である。
【図9】本発明の一実施形態に従う器具を駆動させるための装置の断面図である。
【図10】図8の器具と共に図9の装置を使用して、アレルギー検査を行う三つの工程を説明する図である。
【図11】ランセットピストンの摩擦を最小限に抑え、且つピストンシールを備えている本発明の一実施形態を説明する図である。
【図12】図11に示された低摩擦の特性と流体を内孔の端に運搬するために設計されたスタンドオフとを組み合わせた、本発明の一実施形態の端面図及び断面図である。
【図13】ランセットピストンの摩擦を最小限に抑え、且つロッドシールを備えている本発明の一実施形態を説明する図である。
【図14】本発明の一実施形態に従う三層形態の器具の分解断面図(A)及び、組立て断面図(B)である。
【図15】図11に示された特性を取り入れた、本発明の一実施形態に従う三層形態の器具の分解断面図(A)及び、組立て断面図(B)である。
【図16】本発明の形態と共に組み入れて使用するための、採取/吐出/穿刺装置の説明図である。
【図17】ポイント・オブ・ケアメーターシステムと一体化した、本発明の一実施形態を説明する図である。
【図18】実施例1に示されたランセットピストン、内孔及びチャンバからなる、本発明の一実施形態に従う器具の平面断面図である。
【図19】図18に示された器具の横断面端面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0069】
本発明の好ましい実施形態に従う器具(device)の使用は、組織の穿刺、流体の採取及び/又は吐出、任意に行われる流体の処理若しくは分析のために適した方法を提供する。かかる器具では、ランセットが内孔内に収容され、かかる内孔の長さの少なくとも一部に亘ってランセットが該内孔に適合しているか、又は、シールがランセットの一部と内孔壁に対してランセットの一部がピストンを形成する内孔との間に備えられている。内孔に対するランセットピストンの動きが、内孔内への流体の引込み、又は内孔からの流体の吐出を可能とする。この器具は、更に、チャンバ、流体接続(fluid connection)、又はセンサを取り入れ得る。使用時に、ランセットピストンの先端は、皮膚又は組織にランセットピストンの先端を突き刺すために、内孔の端を越えて延出される。その後、ランセットピストンの先端は内孔内に引き戻される。必要があれば、ランセットピストンの後方移動が、流体を蓄積させるために少しの間止められる。その後、ランセットピストンは流体が内孔内に引き込まれるよう、更に内孔内へ引き戻される。
【0070】
内孔内におけるランセットピストンの移動は、流体を接続路、チャンバ又はセンサへ移動させる、乃至は流体を他の容器、又はシステムに吐出するために採用され得る。
【0071】
或いは、穿刺工程は、ランセットピストンの先端を内孔内に保持し、内孔の端を皮膚又は組織に向けて、ランセットピストンの先端を、皮膚又は組織を穿刺するために内孔の先端を越えさせ、そして、ランセットピストンを内孔内へ引き戻すことにより、実施され得る。
【0072】
本発明は、(器具の採取端が浸される)サンプル流体の深さを、器具と一体化された電極によって、測定する工程を更に含み得る。
【0073】
任意で、皮膚の穿刺前に、ランセットピストンが皮膚を穿刺するために突出せしめられる際に、流体が皮膚上に配達されるよう、ランセットピストンが部分的に又は完全に退避させられる際に、ランセットピストン前方の内孔が流体を収容し得る。
【0074】
本発明は、また、穿刺、流体サンプルの採取、及び前記サンプルの処理及び/又は分析のための装置を提供する。かかる装置は、内孔内に収容されたランセットを有し、そこでは、内孔の長さの少なくとも一部に亘ってランセットが内孔に適合しており、若しくは、内孔に関するランセットの移動乃至は動きの少なくとも一部に亘って、ランセットがピストンを内孔内に形成して内孔内への流体の引込み又はそこからの吐出を可能とするように、ランセットの一部若しくは全体と内孔との間にシールが備えられており、またランセットピストンの穿刺端は、内孔の端部とノズルを越えて延出可能となっている。ノズルは内径が0.1mm〜5mm、好適には内径が0.2mm〜3mmの内孔の前端(又は開口端)に備えられている。更に、内孔に対してランセットピストンを移動させる手段と、ランセットピストンの動きを制御する手段とを備えている。
【0075】
内孔は、更にチャンバ、流体接続、又はセンサを組み入れ得る器具内に収容されている。この装置は、更に、少なくとも一方の電極がランセットピストンに取り付けられ、若しくはランセットピストンの一部又は全部を形成する電極を組み入れることが出来る。更に少なくとも一つの電極が、導電性流体の存在(例えば、限定はしないが、血液)を、流体が2つ以上の電極と接触した際に検知し得るように、ランセットピストンを含む器具に取り付けられ、又は器具の一部を形成している。
【0076】
これらの電極は、器具が部分的に浸されている流体が、サンプルの分析が実行可能な充分な深さ又は体積であることを測定するために使用出来るよう配設されている。更に、流体をまたがる電気的接続を維持することによって、ランセットピストンが内孔内で引き上げられるときに、流体が内孔を満たされているかどうかを確かめることが可能である。
【0077】
ランセットピストンは、好ましくは、金属、プラスチック、又はセラミック製であり、又は金属、セラミック、硬質のプラスチック又はその他の適当な硬質材料で作製されたランセット先端(又はスパイク)と、プラスチック又は他の適した材料で作製されたピストンとの組立品から形成されていることが出来る。先行技術のランセットが、一般的に、先端に合わせて形作られ、プラスチック支持体に融着された金属ワイヤで構成されているのと同じように、同一の、又は、異なる素材のいくつもの部品から成り立っているランセットピストンも、単一のランセットピストンと見なされることとなる。ランセットピストンは、また、内孔上にシールするために、弾性シール部材を組み入れ得る。内孔が形成されている部品は、プラスチックか合成樹脂で製造されているのが好ましく、単一の部品又はいくつかの部品の組立品であり得、例えばいくつかの層になっていても良い。
【0078】
ランセットピストンは、好適には円形断面形状のものであるが、これに限定されるものではない。ランセットピストンは、その長さ方向に沿って単一の直径又は厚さを有するものであるか、又は長さ方向に沿って一つ又はそれ以上の直径又は厚さの変化したものでも有り得る。そのような直径又は厚さの増大は、種々の直径のピストンとして機能し、又は完全停止部材(dead stop feature)として機能して、ランセットピストンの移動を制限し、ランセットによる皮膚への穿刺の深さを制限し、又はサンプルを一定量に限定する。ランセットピストンの穿刺部先端は、円錐形、又は尖った先端が流体を吐出するために内孔から突出せしめられる際、内孔に損傷を与えるのを避けるために接触しないことを確かとする、別の形であることが好ましいが、皮膚を穿刺するのに適した如何なる形でもあり得る。
【0079】
ランセット先端は、一般的に、ランセット先端の穿刺が形成されるワイヤの土台(wire stock)のゲージ(gauge)と関連した大きさと説明される。例えば、25ゲージのランセットは、接続端部から先端に亘る数ミリメートルの領域を有する25ゲージ(外径0.455mm)のワイヤから形成されている。本発明のランセットピストンの穿刺領域は0.1mm〜1mm、好ましくは0.2mm〜0.8mmの範囲の直径、又は最小厚さを有する基台(base stock)から形成されており、先端は鋭い先端になるよう形成されている。「最小厚さ」という語は、ランセットピストンが非円形断面を有する場合、ランセットピストンを横断した最小の厚さを表す。ランセットピストン及び対応する内孔が、0.1mm〜5mm、好ましくは0.2mm〜4mmの直径又はその他の特徴的な最小断面寸法を有し得、且つ、上述の範囲内において長さ方向に異なる直径或いは断面を有する、一つ又はそれ以上の切断面を有していても良い。内孔とランセットピストン及びハウジングのストロークは、ランセットピストンが完全に退避せしめられた時、0.1マイクロリットル〜300マイクロリットル、好ましくは0.2マイクロリットル〜150マイクロリットルの範囲の流体サンプルを収容するよう選択され得る。
【0080】
ランセットピストンは、一体化されている、或いは外部の駆動装置によってランセットピストンが掴まれたり、作動させられたりすることを可能にするための、一つの、又は複数の特性を備え得る。この特性は、ランセットピストンの移動を制限するための固定された、或いは調節可能な停止部材を含んでも良い。
【0081】
内孔内でのランセットピストンの動きは、手動操作、バネ力、空気圧、水圧力、自動制御の下に動力化された電気力操作、又は、それらの組み合わせによって行われ、制御され得る。
【0082】
図1は、例示の器具の断面図を、三つの形態A、B、Cで示している。ランセットピストン1は長軸方向に自由に移動可能であり、ハウジング2の内壁が内孔3を形成するように、ランセットピストン1は、ハウジング2内の内孔3内に収められている。ランセットピストンは、ロッドシール6、又は締まり嵌め、或いはピストンシール(図示されず)によって内孔内にシールされる。形態Aにおいては、先端が内孔3の前端4内で保護されるように、ランセットピストンが内孔内に収容されている。形態Bにおいては、皮膚7を穿刺するために、ランセットピストンが内孔の前端から突出している。形態Cにおいては、血液やその他の流体小滴8が形成され、その流体の一部が、ランセットピストンを内孔内へ引き入れる動きによって、内孔内に引き込まれる。ランセットピストンの動きは、サンプルを吐出するために逆にされ得る。ピストンシールがランセットピストンの先端末部に近いと、ピストンシールとサンプル流体との間に空気が全く入らない(又は殆ど入らない)ようにすることが可能である。ロッドシールが使用されるか、ピストンシールがランセットピストンの先端から少し離れたランセットピストン上に位置すると、空気(又は他の流体)がピストン又はロッドシールとサンプルとの間の隙間に存在し得る。しかしながら、内孔3とランセットピストン1との間の隙間は、慣例的に、可及的に小さく選択されており(滑り締まり嵌めが有効)、空気の空間は全く、若しくは僅かしか存在しない。ロッドシールの目的は、主として、内孔3の後端5から内孔へ空気が引き込まれるのを防止すること、又は、内孔の中の流体をランセットピストンが吐出する際に、内孔3の後端5から流体が漏れるのを防止することである。そのような隙間が存在した場合、使用中に、流体が、内孔とピストンとの間のその非常に小さな隙間をシールする働きをする。
【0083】
図1は、内孔の前端(開口端)に制限されたノズルを有してはいない内孔を、図示している。内孔の内径が5mmより小さい、好ましくは0.2mm〜3mmならば、水性液体(血液等)の表面張力が液体を内孔内に保持するのを助け、液体サンプルから内孔の端が取り除かれる際、液体が前端から滴り出ることを回避する。内孔の前端にある小直径の穴を有することは、サンプルを吸引する際に、流体を通過して器具に空気を引き込まないことを確実にするために、同様に重要である。比較的小さな内径の穴を内孔の前端に有することは、内孔の前端に皮膚上の血液小滴に内孔の端を浸すのを可能とするために、更に重要である。前記小滴は、通常たった数ミリメーター程度の幅である。また、流体サンプルは狭い範囲(例えば、試験片や皮膚の狭い部分)に吐出されるので、小さな穴は重要である。慣例的に、内径が3mm以内の穴は、効果的に表面張力によって流体を保持し、配達された小滴を特定の場所に集中させる、内径が0.2mm〜3mmの範囲の穴が内孔の端には好ましい(穴は小さい程良い)。更に、穴は、穴を通過しなければいけないランセットピストンの穿刺端における外径よりも、大きい内径でなくてはいけない。皮膚を穿刺するランセットの軸の実際的な最小限は、外径0.1mm若しくはそれ以上であることが適当である。図1の工程Cに示される内孔内へ引き込まれる流体は、表面張力によって、そして内孔の後端がランセットピストンによってシールされるという事実によって、内孔内で正しい場所に保持されることが理解されるべきである。重力の影響で、吸引したサンプルを内孔の前端から垂らす傾向に対抗するように、このシールされた内孔の後端は、内孔内のシールの前方に真空を作ることとなる。
【0084】
図1は、ランセットピストンのみが皮膚と接触して、皮膚と短い距離をおいた装置を用いて、本発明の操作を図示している。本発明の装置は、皮膚に対して押し当てられても良く、又は皮膚に対して内孔3の前端4を離して、皮膚に接触する態様を組み入れても良い。また、その代わりに、穿刺操作は、皮膚から組立品を離して保持し、内孔の端を越えてランセットピストンの先端を延出せしめ(ランセットピストンは、既にこの位置に組み付けられている)、そして、ランセットピストンの突出している先端が皮膚を穿刺するように、ランセットピストンと内孔の両方を一つの単位として、前進させて行われることも可能である。ランセットピストンを引き戻し、流体サンプルを採取するための選択肢が、いくつかある。例えば、
a) 内孔を皮膚と接触させた状態下において、ランセットピストンだけを退避せしめる 。ランセットピストンを更に内孔内へ引き入れることで、流体が内孔内へ引き込ま れる;
b) ランセットピストンが内孔より突出したままで、ランセットピストンと内孔とが共 に皮膚より引き抜かれる。その後、ランセットピストンの先の先端が、内孔の前端 と一直線になるようにランセットピストンが退避せしめられる。流体小滴が一度形 成されると、内孔が流体と接触せしめられ、ランセットピストンが更に内孔に引き 入れられ、内孔内に流体が引き込まれる;
c) ランセットピストンが内孔より突出したままで、ランセットピストンと内孔とが共 に皮膚より引き抜かれる。そして、少量の流体が、突出しているランセットピスト ンの周りに形成され得る。ランセットピストンと内孔とは、ランセットピストンの 先に少量の流体を残したまま、更に退避せしめられ得る。その後、この流体は、ラ ンセットピストンの更なる退避により内孔内へ引き込まれる;
d) 内孔を皮膚に接触させたまま、ランセットピストンのみが退避せしめられる。その 後、ランセットピストンと内孔とが共に、図1の形態Cに示されるように、隙間を 埋めるために少量の流体に充分に近い位置へと、皮膚から離される。ランセットピ ストンの更なる退避により、流体が内孔内へ引き込まれる;
又は、これらの動作の如何なる組み合わせであっても良い。
【0085】
本発明の形態の装置は、また、流体サンプルの分析のための一つ又はそれ以上のチャンバを組み入れていても良いし、そこにセンサを含んでいても良い。図2は、ハウジング22が内孔23への開口部を有したチャンバ24を含む一態様のための幾つかの形態(A,B及びC)を図示する。このチャンバは、例えば血糖濃度(血中グルコース濃度)を測定するためのセンサ25を含み得る。形態Aは、流体に引き込まれる前のランセットピストン21を示す。形態Bでは、ランセットピストン21が退避するに従って、流体27を内孔23へ引き込む。形態Cでは、ランセットピストン21がチャンバ24を越えて、チャンバ24から空気26を引き抜いて、流体27をチャンバ内へ引き込む。チャンバの設計に対する細かい注意と表面のぬれの特性とが、空気と流体とが交わらない結果をもたらし得る。この操作が、本発明の装置が内孔内の増大した断面積の領域と関連したチャンバとを越えて、流体を移送することを可能とすることを示す。これは現在、血中グルコースに使用される流体の毛細管移動と、他の感知器には通常可能ではない。
【0086】
また、図3に示されるように、ランセットピストンは、異なる直径の部分を含んでいても良い(A、B及びC、三つの形態で再び図示される)。ランセットピストン31は、それに付属する厚い部分、或いは環34を備え、これがピストンシールを形成する。内孔33は、環34が摺動及びシール可能な、対応する領域である増大した断面積部分36を有している。本実施例では、袋状組織(bladder)37(或いは、ベント型チャンバ)が、液体試薬38で満たされている。形態Aは、流体に引き込まれる前のランセットピストン31を示す。形態Bでは、内孔の前端において流体39と、環34の前方の袋状組織37から試薬38とを吸引するためにランセットピストン31が退避している。これによって、試薬38がチャンバ35を通って流れる。もし、ランセットピストンが更に形態Cの位置まで引き込まれると、試薬38は使い果たされ、サンプル流体39がチャンバ35を通って引き込まれる。そのような試薬とサンプルの連続して起こる配達は、サンプルがそこに存在せしめられる前に、例えば、センサを洗浄、又は、濡らすため、或いは血中グルコース濃度測定、又はサンドイッチ免疫測定法等の化学乃至は生化学の分析のための試薬を導入するために役立ち得る。
【0087】
毛細管の代わりにピストンを使用することによって、本発明は、流体の採取のペースと移送のタイミングとを、細かく制御することを可能とする。例えば、操作が何を意図するとしても、十分なサンプルがあると判断されるまで、採取されたサンプルを保留することが出来る。この器具はサンプルと接触状態を保ち、そして、適切な時にサンプルを採取するために進み得る。また、流体サンプルは内孔内の如何なる位置(センシングチャンバを含む)で停止せしめてもよく、ランセットピストン駆動装置によって実現し得るストロークスピードの範囲内の如何なる所望のペースでも、器具の区画を流通するように設計され得る。
【0088】
フィードバック制御を備えるためのセンシングの使用法の例が、図4に示されている(二つの形態A及びB)。ランセットピストン41は、ランセットピストンが電極として機能することが出来るよう、導電性の材料で形成されているか、ランセットピストン内に導電トラックが組み込まれている。この図は、異なる先端が採用され得ることを示すため、軸外(off-axis)先端47を有するランセットピストン41が示されているが、これは本形態に必須のものではない。内孔43のハウジング42は、第二の電極48を組み入れる。電極41及び48は、電極間に流体46が存在しているか又は存在しないかを測定するように、電気又は電子回路(図示されず)に含まれている。例えば、一つの電極から、もう一方の電極へ流れていく電流を測定することで、導電性流体の存在が検知され得る。流体の存在を決定するための固定電極の使用は、液面測定の従来技術においてよく知られている。本発明は、ランセットピストンを可動電極とすることによって、体液採取に関して、価値のある改良を提供する。流体サンプルが内孔を上昇する間、ランセットピストンとの途切れない接触が保たれた時、二つの電極間の導電性パスが維持され得るのみである。そうすることによって、本発明を用いて、サンプル採取工程に入る前に、導管内の流体の存在を検知すること(図4形態A)、更に、全ての採取工程を通して導管内における流体の存在又は不在を探知すること(図4形態B)が可能である。導電性をモニターすることによって、導管が満たされているか(例えば、気泡、又は部分的な真空領域が存在しないか)を判断することが出来、以て、使用者又はシステムが情報を得ることが可能となり、治療処置がとられる。
【0089】
サンプルの分析チャンバへの移送が始まる前に、使用者が、意図された分析のための十分なサンプルの存在を伝える、視覚、聴覚、振動、又はその他のシグナルによって注意を喚起されるように、本発明はシステムの中に組み込まれ得る。更に、サンプルが内孔を上昇していく移送の経過は、継続的にモニター可能であり、更に使用者は、分析チャンバに十分なサンプルが到着したことを知らされ得る。同様なフィードバックとモニタリングシステムとが、使用者の関わる必要性を排除し、確実な吸引と分析チャンバへのサンプルの移送が生じるという信頼を改善する自動フィードバック制御に採用され得る。図4は、また、傷を広げておく、若しくは、例えば成形された端又はスタンドオフ(stand off)49によって、内孔の前端においてハウジングに対して器具を皮膚から離して保持しておくための特性が、器具に組み入れられ得ることを示す。スタンドオフは皮膚表面を凹ますことが出来、それによって、スタンドオフ49に囲まれた空間内に皮膚が膨れあがる。このような場合、ランセットは皮膚を確実に穿刺するために、スタンドオフを越えて延出する必要は無いこととなる。これは、代替箇所検査に関連する先行技術において、よく知られている。
【0090】
本発明は、内孔の前端を皮膚から離して保持するために、スペーサ部材若しくはスタンドオフを組み入れ得る。図5は、スタンドオフ56が取り付けられたハウジング52を備えた、図1の器具を示す。使用中にスタンドオフは、内孔53の前端54を皮膚(図示されず)から離して保持する。ランセットピストン51は皮膚を穿刺するために、スタンドオフの端を越えて延出している。ベントホール57が、内孔53とロッドシール55に対するランセットピストンの動きを通して真空が発生させられることを防止するために、ランセットピストンが後退するに従ってスタンドオフに空気を入れることを可能とするよう備えられている。スタンドオフ56は、ランセットピストン51の後退によりサンプルの内孔内への吸引を許容する前に、血液滴の形成及び皮膚と内孔53の前端54との間に隙間を良好に埋めていくのを使用者が見ることを可能とする透明プラスチック、又はその他の透明な材料によって、形成されている。
【0091】
図5の具体例で不利な点は、内孔の前端と皮膚との間の隙間を埋めるためには比較的大きな血液滴が必要とされ、そしてこれがスタンドオフを血液又はその他の流体で濡らす原因となり得ることである。
【0092】
図6は、図5の具体例の変更を示しており、流体が吸引される前に流体が埋めなければならない距離を限定するために、内孔63の前端64がスタンドオフ66の中に突出している。ベントホール67が、内孔63とロッドシール65に対するランセットピストンの動きを通して真空がスタンドオフ66内に発生させられることを防止するために、ランセットピストンが後退するに従ってスタンドオフに空気を入れることを可能とするよう備えられている。
【0093】
毛細管採取に関する本発明の別の成果は、例えば、内孔内に気泡が発生した際、内孔外へ流体を送り返し、新鮮なサンプルを引き戻す能力である。本発明は、同じ導管で、第二の、若しくは次のサンプルを採取することが出来る。これは、外部の手段によって第一のサンプルを送り出さない限り、毛細管では不可能なことである。本発明は、また、サンプルの全体又は計量された処分すべき部分を吐出し、若しくはサンプルを引き出すための外部の手段(ウィック等)に頼ることなく、別のシステムに吐出することが可能である。
【0094】
毛細管採取は、通常、サンプルが配達される地点まで、毛細管全体が流体で満ちていることを必要とする。本発明の説明された具体例は、サンプル流体の小さな塊を所望の位置へ、導管全体を満たす必要なく配達する能力がある。これは、ランセットピストンが退避するに従って、最初のサンプルの後ろに意図的に空気、又は他の流体を引き入れることにより実現され得る。これは、長い平行内孔導管を有する毛細管には不可能である。以て、本発明は、チャンバが導管の開口部から多少距離があったとしても、導管全体の体積よりも少ない量の最少サンプルが、測定のためにチャンバに配達され得る器具を実現することを可能とする。これは意図された分析が行われるために十分な、可及的最小限の血液、又はその他の体液サンプルが採取されることが望ましい被験者にとって、重要な成果である。
【0095】
図7は、本発明に従うランセットピストン71の四つの例を示している。それらランセットピストンは、選択可能な穿刺先端72、73、74、75と、内孔に対してシール可能な一つ若しくはそれ以上のピストン71、76、77とを与えるように、異なる外輪郭と断面を有している。
【0096】
その上、本発明の記述された具体例の別の利点は、無制限の量の流体を汲み出すようにそれを連続して形成することが出来ることである。ランセットピストン/内孔の組合わせは、ピストンとしてのランセットピストンの作動が往復運動によって流体を汲み上げられ得るように、公知の一方向弁(図示せず)が備えられ得る。この構成では、ランセットピストン/内孔の組み合わせの行程容積量は、所望のサンプル量の僅か一部だけが必要となるのみで、更なる縮小化を許容する。
【0097】
また、本発明を、例えば皮膚への穿刺前に、流体を配達するために使用することも可能である。例えば、麻酔液がランセットピストンの前方の内孔内に収められ得る。ランセットピストンが皮膚を穿刺するために押し出されるに従って、麻酔剤は皮膚上の穿刺部位に押し出される。本発明は、また、ランセットピストンにより既に穿刺された部位に流体を配達するためにも使用され得る。例えば、ランセットピストンは皮膚を穿刺するために押し出され、その後内孔内に退避せしめられる。例えば、抗凝固剤等の流体が、内孔内をランセットピストンの前方に導入され得、この流体がランセットピストンを少なくとも内孔を一部押し下げることによって強制的に傷に挿入される。また、麻酔剤と抗凝固剤とを組み合わせて、皮膚の穿刺前に、これらの混合物を同時に意図した皮膚上の穿刺部位に配達することも可能である。
【0098】
図8は、施与した流体を通じて、皮膚の穿刺前に流体を皮膚に配達することに、特に適している本発明の一具体例を示している。その器具は、ハウジング82内の内孔83に収容されたランセットピストン81からなる。ハウジング82とランセットピストン81との全体は、流体の吸引と施与及び皮膚への穿刺のための使い捨て(一度きりの使用の)器具を表す。ランセットピストン81は、図示のように単一の材料で構成され得、又は、ランセット部分、ピストンシール及びプランジャー(図示されず)からなる組立品であっても、単一部材であっても良い。ランセットピストン81は、その最後端部にソケット810を有し、それはハウジング82内の内孔83内に収容されている。内孔83の前端84は、ランセットピストン81の前方への移動を制限するための端部停止部を与えるために、直径が縮小されている。ハウジングの後端86は、ランセットピストンを駆動させるための装置の前端部88に接続するために、スナップ機構87を組み入れる。ここでは、装置の前端部のみが図示されている。装置全体は、図9に示されている。ハウジング82の後端部86におけるスナップフィットは、同様に圧入フィット、ツイストロック、又はその他の固定でも良い。形態Aは、ランセット前方の内孔が、皮膚へ配達される流体811で満たされている使用前の器具を示す。取外し可能なキャップ812が流体を保持し、好適には、使用前には滅菌状態である。形態Bでは、キャップ812が取り除かれており、装置88内のプッシュロッド89が延出せしめられ、ソケット810にランセットピストン81の後部で係合している。プッシュロッドの更なる延出が、ランセットピストン81を内孔83の下方へ動かし、流体811を吐出する。形態Cは、皮膚を穿刺するために、ランセットピストン81が突出している、内孔83の前端84におけるランセットピストンを示している。この時点で、もしまだそうなっていなかった場合、プッシュロッド89がランセットピストン81のソケット810に押し嵌めされる。プッシュロッド81の退避は、ランセットピストン81を装置88の前端に当たって止まるまで、内孔83の上へと戻らせる。形態Dは、使用者を針刺し負傷から保護するため、ランセットピストン81を安全な位置に放つためのプッシュロッド89の更なる引き戻しを示している。ランセットピストン81を含むハウジング82は、この時、駆動装置の前端88から取り外され、捨てられ得る。
【0099】
図8は、装置と器具との組合せの一具体例を示すよう意図されている。ランセットピストンと装置に嵌め込まれる内孔とを接続するための態様は、例えば、押し込み嵌め、スナップフィット、コレット、機械クラッチ、ツイストロックフィット、又は医療器具や研究室ピペットの技術に見られる多くの接続フィットの、如何なる適した形態のものでもあり得る。
【0100】
また、図8の器具は、流体の吸引が可能であることも理解され得る。これを行うためには、プッシュロッド89が形態Cのように、ランセットピストン81に係合するために完全に延出せしめられる。内孔83の前端84が、それによって液体に浸され、そして、プッシュロッド89がおよそ形態Bの位置まで退避せしめられ得る。この動作が、内孔を液体811で満たす。流体は、プッシュロッド89を流体を吐出するために逆向きに動かすことで、皮膚上に配達され得る。図8の器具は、また、皮膚を穿刺し、血液サンプルを吸引するためにも使用され得る。形態Dから開始すると、ランセットピストン81は、皮膚を穿刺するために、形態Cの位置まで内孔を下って移動せしめられる。この時点で、ランセットピストン81は、ランセットピストン81の穿刺ポイントが内孔83の前端84内側にちょうど入り込むように、少しだけ退避させられ得る(位置は図示されず)。血液小滴が皮膚上に一度形成されると、内孔83の前端84が血液小滴内に浸され、血液サンプルがランセットピストン81を更に引き込むことによって吸引され得る。
【0101】
特定の本実施例において、内孔83の前端84は、停止部材(dead-stop)として機能するよう、縮小された直径を有している。図8の器具が50マイクロリットルを施与するように設計されているとするならば、例えば、内孔83は、有利には直径約2mm、全長約20mmである。ランセットピストン81を内孔の長さに沿って17mmさっと動かすと、約53マイクロリットルの置換容積を与えることとなる。この17mmのストロークは、親指で操作する器具と適合性がある。もし、本具体例がより大きな又は短いストロークのために設計されているならば、内孔83の前端84における減少した直径は,表面張力により流体が内孔内に保持されるようにノズルを備えることとなる。前記せる如く、内孔の前端の穴は、理想的には内径0.1〜5mmの範囲内であるべきであって、好ましくは、使用中に重力の影響下で内孔から液体が漏れることを防止するため、内径0.2〜3mmの範囲である。ランセットピストン81の穿刺先端は、それを通過することが出来るように、内孔83の前端84の内径よりも小さな外径でなくてはならなく、且つ、内孔の前端にシールしたり、又は内孔の前端との接触によって相当の摩擦を発生させることが無いことが好ましい。明らかに、前端停止部材84は、図5及び6に示される如く、血液を採集するためにスタンドオフ態様を提供するように、その外面に配置され得る。
【0102】
図9は、吸引、施与、穿刺の工程を通して、図8の器具を駆動させるための手のひらサイズの装置の断面図を示している。説明を容易にするために、装置の後端部は、図9の上部の方にある。その装置は、圧縮バネ96を含む内側ケーシング92からなる。プッシュロッド93は内側ケーシング92を通って下方に進み、後部ガイド95と前部ガイド94とによって案内される。これら両ガイドは、低摩擦の滑り適合(sliding fit)を与えている。プッシュロッド93の後端部は、親指式ボタン99(thumb button)に嵌め込まれている。スプリングシート78はプッシュロッド93に取り付けられており、内側ケーシング92内を自由に摺動する。親指式ボタン99が押し下げられると、プッシュロッド93の前端89は内側ケーシング92の前端88を越えて突出せしめられ、滑りスプリングシート97は内側ケーシング92に対してバネ96を圧縮する。プッシュロッド93の前方への動きは、前部プッシュロッドガイド94の直径よりも大きいプッシュロッド93の直径におけるステップ98によって制限される。親指式ボタン99にかかる圧力を解放することで、バネ圧の下でプッシュロッド93を後退させることを可能とし、滑りスプリングシート97は、プッシュロッド93の後方への移動を制限するバックストップを与えるために、内側ケーシング92に対して作用している。外側ケーシング910は、装置が容易に握られるようにするために備えられている。
【0103】
この装置は、吸引、施与及び穿刺の工程、又はそれらの工程のいくつか、又はそれら全ての工程を通じて、図8に示されるものの如きランセットピストン/内孔器具を駆動させるように意図されている。図9は、図8に従う器具91を示しており、それはハウジングとランセットピストンとの組合せ品である(図8、態様82と81)。図9の器具91は、ほぼ実際の大きさを示しており、一方、図8の同器具は、明快にするために大きく拡大して示されている。器具91は、内側ケーシング92の前端88にスナップフィット機構87又は他の適した固定の手段によって、取り付けられている。図9の装置において、親指式ボタン99を押し下げ、解放することで、図8に図示される動作の全て及び図8に関連して説明された動作が遂行される。
【0104】
図9の装置には、ランセットピストンの穿刺の深さの調節と吸引/施与容量の調節をするための、調節可能な前部及び後部停止部材とが備え付けれられ得ることが、容易に理解され得る。例えば、プッシュロッド93の前端89の前方への移動の限度を調節することで、ランセットピストンの先端の穿刺の深さが調節されることとなる。プッシュロッド93の前端89の後方への移動の限度を調節することで、器具の掃き出し容積が調節されることとなる。図8に図示される本発明の具体例が、図9の装置と共に、アレルギー検査に適応させられ得ることが、容易に理解され得る。内孔は、製造過程の間(そして内孔内にシールされる)、使用時にアレルゲンを含むバルクコンテナ若しくはボトルから、又は使用時にアレルゲンのボトルから試験液若しくは懸濁液の少量で予め満たされた移行位置或いは窪みから、吸引することによって、アレルゲン、又はキャリア流体、コントロール流体若しくはサスペンション中のアレルゲン粒子の懸濁液で満たされ得る。
【0105】
どのようにして本発明がアレルギー検査に使用され得るかの例が、図10に示されている。器具91は、図8のものと同様なものである。図示を容易にするために、それは被験者の腕の大きさに対して同じ縮尺では無い。それは、図9の装置によって取り付けられ、操作される。図示を容易にするために、図9の装置の前方部分88のみが示されている。操作は次の通りである:
器具91の内孔は、前述した方法によって、アレルゲン102で満たされてい
る。或いは、図8の形態Aのように、器具91がアレルゲン溶液によって予め満 たされていたら、態様812として図8に示されるエンドキャップを取り除く;
図10の順序A:器具91の前端を、ランセットピストン81が皮膚表面10
1に対して略垂直に保たれるように皮膚101に隣接して配置し;
図10の順序B:アレルゲンサンプル102を、皮膚101上に、図9におい
て態様99として示される装置上の親指式ボタンを押すことによって施与し;
図10の順序C:親指式ボタンの更なる前方への移動を続けて、ランセットピ
ストン81の先端103が、施与されたアレルゲンサンプル102を通過して、 皮膚101を穿刺するように、ランセットピストン81を内孔器具91の端部を
越えて延出させる;
この連鎖は、装置上の親指の圧力(図9の態様99)を解放し、ランセットピ
ストン先端103が内孔内に安全に再収容されるように、ランセットピストン8
1を引き戻し、そしてアレルゲンサンプル102を皮膚表面の穿刺部位(図示せ
ず)に残すように皮膚表面101から、器具91全体を取り去ることで、完了さ
れる。
【0106】
この装置は、皮膚表面から少し離して内孔の端を一定の間隔に置くために、図5及び6に示されるようにスタンドオフを内孔の前端に組み入れ得、施与されたアレルゲンが皮膚表面上に液滴を形成することを許容し、その液滴はアレルゲンの存在下でその下にある皮膚を傷つけるために、所定深さまで穿刺される。このようなプリックテスト(prick test)のためには、穿刺傷から血液が自然と滲み出るようにすれば十分であり、深く穿刺する必要はない。この目的は、単に、アレルゲンの存在下で皮膚表面の無傷の箇所を傷つけることである。
【0107】
本具体例は、内孔に含まれるアレルゲンサンプルを施与するために、エンドキャップ、栓又は他のシールがランセットピストン先端によって穿刺され、若しくはランセットピストンが内孔の端から突出する前のピストンの最初の動きによって惹起される流体における水圧によって、破裂又は引き離されるように適合され得、かくしてシールを取り除くための別個の操作の必要性が排除される。このエンドキャップ又はシールは、また、器具の保管の間には無菌の障壁として機能する。
【0108】
本発明は、容積式の原理のおかげで正確な量の流体が吸引及び施与され得るので、先行技術のアレルギー検査器具の改良を提供している。また、本発明は、皮膚に配達される前に、シールされた内孔内に流体を、移送及び保管のために、予め収容する手段をも提供する。本発明は、図9に図示されるような、再利用可能な手持ち式の穿刺/ピペット操作駆動システムによって駆動させられる、使い捨てのランセットピストン器具として設計されたと理解される。
【0109】
先行技術のマイクロニードル器具は、皮膚下に流体を配達することは出来るが、アレルギー検査等での適用時に、穿刺前に流体を皮膚に配達するようには設計されていない。マイクロニードルは皮膚表面に流体を配達するためには採用され得るが、そのような適用時には、マイクロニードルは対応するランセットピストンよりも大きな外径を要する。マイクロニードルは、また、流体施与の間露出されなければならないが、一方、本発明では、ランセットピストンの先端は最後の穿刺段階においてのみ露出され、その後安全に収容される。
【0110】
従来のランセットは、一般的に高速に加速され、それによって、皮膚への十分な穿刺と使用者の少ない苦痛を、確かなものとする。高速操作は、皮膚の粘弾性の変形を抑制する補助をし、傷を付けるための時間を最小限にする。多くの市販用の穿刺器具は、衝突時の打撲傷又は他の怪我を防止するために、適度の力で迅速に加速されるのを可能とするために、ランセットの質量を制限するよう努めている。図11は、ランセットピストン111がピストンシールを形成する増大した直径の領域115を有する、本発明の一具体例を示している。これは、内孔の前端に向かって、内孔113の増大した直径領域114内に収められる。この最初の位置では、大きな摩擦がなく、またシールが内孔内の如何なる位置でも起こることなく、ランセットピストン111が内孔113内でゆるく案内される。ランセットピストン111は、ランセットピストンの尖端が皮膚を切開(lance)又は穿刺(puncture)するために、内孔の前端を越えてすばやく延出するように、外へ向けて加速され得る。この穿刺操作の間、ランセットピストン111は、内孔113,114をシールしない。これは、ランセットピストンと内孔との間に極めて低い摩擦を与える。なお、ランセットピストンの質量は小さいので、それは、ランセット尖端が皮膚を穿刺する際に、高速の衝突速度を発生させるために、バネ、電気機械式アクチュエータ、或いは、その他の適した公知の駆動機構等の、従来の方法で駆動させられることも可能である。その後、ランセットピストンの移動は、ランセットピストン上の増大した直径の領域115が内孔の増大した直径の領域114を通過して引き込まれ、更に内孔113の狭い部分の中へ引き込まれるように、逆にされる。この時点で、ランセットピストン上の増大した直径の領域115は、流体の内孔内への引込みを助けるために、ピストンシールを内孔113内に形成する。かくして、本具体例は、穿刺操作のための低質量及び低摩擦による利点と、続いて流体吸引と施与のための良好なシール(と高い摩擦)とを得る。内孔114の増大した直径の領域は、例えば、図9に示された種類の穿刺器具、又は同様な駆動器具に取り付けられた時、ランセットピストンを静止した状態で収容する役目をする。ランセットピストンは、また、ランセットピストン上の増大した直径の領域115が、内孔113の狭い部分へ少しの距離引き入れられるように、内孔内へ更に引き入れられ得る。これは、ランセットピストン/内孔の組立品が、穿刺器具に接続されていない場合(例えば、使用前の梱包された時)、ランセットピストンを適切な位置に保持する働きをする。この図は、内孔114の前端を皮膚から所定の少しの距離離して保持するために、任意のスタンドオフ116を有している。
【0111】
本具体例の重要な特性は、ランセットピストン上の増大した直径の領域である。この領域が内孔の増大された直径の領域114の中にある時、ランセットピストンは低摩擦で動くことが出来る。本具体例の変形は、内孔内の増大した直径の領域114を完全に省略し、且つ、ピストンの増大した直径の領域が、穿刺操作の間に内孔の端を越えて突出するのを可能とすることとなる。
【0112】
この原理は、また、図12の端面図(A)乃至は断面図(B)(Aにおける中心線Z−Zに沿った)に示されるように、内孔の前端へ血液を引き込むよう設計されたスタンドオフの提供と適合性がある。ランセットピストン121の増大した直径の領域124は、スタンドオフ125に接触すること無く内孔123の前端を越えて延出することが出来、また使用者に不意に鋭いもので怪我を負わせる危険に対して、スタンドオフによって保護されている。スタンドオフ125は、内孔123の周りに放射状に配置された内側に突出する四つのフィン127とスロット126とを含み(分かりやすくするために、一つのフィンと一つのスロットのみ、符号で示されている)、それらは、次に穿刺操作の行われる皮膚上に集まる流体サンプルが、スタンドオフ内の空間と近接するランセットを満たし、内孔の前端と接触することを確実にすることにおいて補助する。スタンドオフ内のフィン127の目的は、重力の影響に対して、サンプルが内孔の前端に移送されるのを容易にするために、スタンドオフ内の毛管空間を細分化することである。また、スロットは、ランセットピストンの更なる後方への動きによって内孔123内へサンプルを移送する吸引ストロークの間、スタンドオフ内に真空が形成されるのを防止するための通気を与える。
【0113】
図13は、別の低摩擦器具を示している。ランセットピストン131は、ハウジング132内の内孔133に収容されている。内孔133の後端には、ロッドシール134が備えられている。ランセットピストン131は、小さな直径の領域135をランセットピストンの後端に備える。形態Aでは、ロッドシールはランセットピストン131の大部分に対して作用し、内孔133内でシールする。形態Bでは、ランセットピストン131の穿刺先端が内孔133の前端を越えて延出するように、ランセットピストン131が、前方に動かされる。ランセットピストンの減少された直径の領域135は、ロッドシール134に対してシールすることが出来ない。ランセットピストン131及び内孔133の寸法は、位置Bにおいて自由な滑り固定を確実にするよう選択されている。本具体例では、ランセットピストンは、形態Aにおいては内孔に対してシールされるが(比較的高摩擦)、しかし、穿刺操作のためにシールされることはなく、低摩擦で動かされる(形態B)。
【0114】
本発明のこれらの具体例の器具は、血中グルコース及びその他の試験片及びポイント・オブ・ケア器械と容易に一体化され得る。図14は、本発明が試験片と一体化され得る一つの方法の分解図(A)と組立て図(B)とを示している。内孔143は、貫通孔144(器具が組み立てられた時にチャンバ149を形成するため)が備えられているハウジング142の一部(切断面で示される)を形成する。器具の底と最上部とには、カバー或いはラミネート145で蓋がされる。これらのラミネートの一つ又は両方は、センサ148や電極又は化学的或いは生物学的試験を、貫通孔144やそのようなチャンバ149の領域に組み入れ得る。そのようなセンサ又は電極又は化学的試験は、ラミネート上に有効に印刷、又は塗付させられ得る。貫通孔は、また、光学読み取り経路をも形成する。ロッドシール146は、ランセットピストン141を組立品内でシールする。三つの層は組み合わされて、ランセットピストン141と一体化されて、試験片を形成する。ランセットピストンは、駆動機構によってランセットピストンがしっかりと掴まれるように、態様(feature)147を備えている。使用中に、流体サンプルは内孔143へ、更にセンサチャンバ149の中へ、分析のため引き込まれていく。本具体例は、一体化された穿刺及び容積式流体操作の利点を提供する一方、グルコース試験片とその他の検体試験片の製造法と適合性がある。
【0115】
図15は、本発明が試験片とどのように一体化され得るか、又は図11に示される低摩擦の穿刺のための態様をどのように含み得るかを、別の例で示している。ランセットピストン151は、ピストンシールを与えるために、内孔156の前端に増大した直径の領域を有する。ハウジング152内の内孔153は、ランセットピストンシール156が内孔の前端158においてゆるい嵌め(loose fit)になるように、増大した直径の領域を有しており、その位置でランセットピストンは、穿刺操作が始まる直前まで内孔内に位置する。ランセットピストン151は、駆動機構によってランセットピストンがしっかりと掴まれるように、態様157を備えている。貫通孔154は、最上部層と底部層155が加えられることによって組立てが完成された時、チャンバ1510になる(図15B)。図14の組立品に説明されているように、センサ159又は試験要素は、ラミネート155の一つ又はそれ以上に組み入れられ得る。本具体例では、ピストンシール156は、ピストンシール156が内孔153の狭い部分に入るようにランセットピストンが引き込まれた時に、内孔153とランセットピストン151との間にシールを与える。使用中に、流体サンプルは内孔153の中へ、更にはセンサチャンバの領域1510へ分析のために引き込まれ得る。本具体例は、一体化された穿刺及び容積式流体操作の利点を提供する一方、グルコース検査片とその他の検体検査片の製造法と適合性がある。
【0116】
本発明は、単に、流体サンプルを皮膚から採取し、そのサンプルの一部乃至は全体を容器又は外部のシステムへ分析のために移送する目的のためだけに設計され得る。図16は、穿刺/ピペット器具163と組み合わされた内孔を含むハウジング162内のランセットピストン161で構成された、本発明に従う手持ち式の装置を示している(前記ランセットピストン/ハウジング組立品は断面図で示されている)。穿刺/ピペット器具163は、本発明の穿刺とピペット操作機能の両方共を実行する、ランセットピストン/内孔の組立品を駆動させる。この装置163は、電動、バネ、手動、空気、水圧、又はその他の駆動機構を、皮膚を穿刺するためにランセットピストンを加速させるため、及び、流体の吸引或いは施与のためにランセットピストンを内孔内で前後方向に動かすため、両方のために組み入れ得る。
【0117】
この装置は、穿刺機構をぴんと立てる(cock)及び/又はピペット操作機能を制御する(例えば、親指の圧力による)ための押し/引きボタン165、及び/又はランセット機構を発動し、或いは電子制御システムがそれを実行するようにさせるトリガーボタン166を組み入れ得る。このような装置には、停止部材の調節にて内孔内でのランセットピストンの動く程度を制御することによって、又はピペット操作に関する先行技術においてよく知られている動力化或いは電磁気化アクチュエータを制御することによって、所望の吸引/施与容量を定めるために、親指式コントローラ164又はその他のシステムが設けられ得る。この容量設定システムは、手動でも、電子制御であっても良い。また、例えば、ランセット先端のストロークを制限する内側の停止部材を調節する公知の方法によって、及び/又はランセット先端に対するスタンドオフの突出を調節することによって、皮膚に対するランセット先端の穿刺深さを制限する態様を組み入れても良い。この装置は、又、ランセットピストンにかかる力も制御し得る。明確化のために、単に、これら可能な制御に対応する二つの数字のみが示されている。この装置は、電子ピペットと電子穿刺器具とに関する先行技術によく知られているように、特定の採取操作のために使用者が最適な設定を選択するのを許容するように、プログラムを設定し作動させるための電子表示と制御装置とを備え付けられ得る。
【0118】
ランセットピストン/内孔の組立品は、好ましくは、使い捨てであって、ピペットの使い捨てピペット先端と同じように、半機械的に取り上げられ、取り除かれる。図5、6、11及び12に示されるような、皮膚に接触するスタンドオフの部品も、また、好ましくは使い捨てであり、また好ましくは(しかし必然ではない)製造過程においてハウジングと内孔と一体的に形成される。
【0119】
図17は、図2、3、14、15及び18に示されるものと同様な本発明に係る試験片が一体化された具体例が、血中グルコースモニター等のポイント・オブ・ケア試験器具とどのように一体化され得るかを示している。試験片172は、内孔173とランセットピストン171とチャンバ174とを備えている。チャンバは、例えば血中グルコース濃度を測るための分析化学若しくは方法を組み入れている。POCメーター176は、穿刺と採取の両方のモードでランセットピストンを駆動させるための手動、バネ動力、空気動力、水圧動力、又は電気動力機構、及び試験片での検査を読み取る手段を含む。全体が、皮膚を穿刺し、血液又はその他の流体サンプル175をチャンバ174へ吸引し、試験片の結果を読み取り、そして使用者に診断値を報告する能力を持つ、一つの一体化されたシステムを形成している。
【0120】
一つの見地から、本発明の具体例は、穿刺とピペット操作の態様を組み合わせている。公知のピペット器具は、単に、流体の吸引及び施与のみを意図している。公知の採血器は、サンプルを取得することを意図し、そして、多分、その入手したサンプルと測定のための何らかの形態と一体化するよう意図されている。
【0121】
本発明の好ましい具体例は、特に皮膚を穿刺するためのランセット先端、穿刺操作(ピペット機能に加えて)を駆動するための方法と機構、穿刺工程の間、低質量と低摩擦とを確実にする態様、及び一体化された分析のためのチャンバ又は試験片化学(test-strip chemistry)を組み入れる。
【0122】
本発明の好ましい具体例は、公知の毛細管ベースの採取器具よりも利点を与える。何故なら、ランセットがピストンとして機能するので、それによって、毛細管を用いて可能となるよりも、更に高い圧力の差異を流体を動かすために発生させることが出来るのである。更に、好ましい具体例は、また、次の利点を提供する:
内孔に対するランセットピストンの変位と速度を制御することで、内孔内での流
体サンプルの移送を詳細に制御し;
流体サンプルは、採取管又は内孔の様々な断面を容易に横断して移送され得;
流体収容空間に収容されている流体は、要求によって吐出され得;
採取管又は内孔内の気泡は、検知され、収容及び/又は吐出され得;
同じ採取管、又は内孔を用いて、採取を繰り返すことが可能であり;
試料容量のフィードバック制御と信頼性(integrity)とが提供される。
【0123】
さらに、本発明の好ましい具体例は、センサ、分析チャンバ、関連した自動操作及び/又はシステム制御、並びに使用者へのフィードバックと、スムーズに一体化され得る。
【0124】
マイクロニードルは、採取管と同じ直径のために、本発明のランセットピストンよりも大きな外径のものでなければならないので、傷を付けるためにランセットピストンを使用することは、中空マイクロニードルを採用する公知の器具よりも有利である。これは、採取管がマイクロニードルの中心を上昇するからであり、それ故マイクロニードルは採取管の内径よりも大きな外径を有し、一方、本発明のランセットピストンは、採取管の中を進み、そして導管の内径と等しい外径を有している。
【0125】
本発明の好ましい具体例は、また、ランセットを動かし、サンプルを採取するために、ダイアフラムの後ろに空気圧を採用する公知の器具よりも利点を与える。例えば米国公開第2003/0088191号は、ピストンシール、長手の採取管、又は分析チャンバを組み入れていない。本発明の好ましい具体例に使用される容積式の原理と比較すると、空気によって駆動されるダイアフラムの使用と空気のヘッドスペースの圧縮性は、採取と吐出容量に対して密接した制御を及ぼすことを極めて困難と為し得る。
【0126】
本発明の好ましい具体例は、傷の表面に血液を引き出すために吸引力を採用している公知の器具よりも、有利である。そのような器具は、血液サンプルを吸引することが出来ず、又、そうするための何等の準備もない。それらは、また、血液小滴と器具との間の接触を避けるという好ましい目的と共に、内孔の端が皮膚上の血液小滴を囲むために十分な内径を有するということもよく知られている。サンプルを吸引するために、本発明の好ましい具体例の器具は、流体サンプルによって穴の円周全体が湿らされるよう、液体サンプルによって完全に埋められるのに十分に小さな直径の内孔の穴又はノズルを有していなくてはならない。一般的に、内孔が流体から引き戻された時に、内孔内の流体が表面張力で保持されることを確実にするために、十分に小さな直径(好ましくは上述の範囲内)を有する内孔に対して、穴を採用することも、又必要である。吸引タイプの公知の器具は、流体サンプルと内孔周囲との間の接触を許容することが必要となる直径よりも、内孔へ通じる意図的に大きな直径の穴を有するので、サンプルを吸引することが出来ない。更に、それらは、流体を施与するための何等の手段も、サンプルを分析するための何等の一体化チャンバも有してはいない。
【0127】
多くの吸引器具は、また、血液サンプルが皮膚上に集まる前にピストンが完全に後退させられ、システムが皮膚に対してシールされるという点で、本発明の好ましい具体例とは異なっている。その場合、血液サンプルは部分的な真空によって囲まれ、そして大気に接してはいない。これは、サンプルが脱ガスされ得るという不利な点がある。小滴への接近を許容するために、皮膚から器具が取り除かれた時、吸引力は失われるのである。
【0128】
本発明の具体例は以下に、完成された実施例を参照して、更に説明される:
【0129】
実施例1
本発明の一具体例に従う器具は、Cambridge Product Development Ltd(ハンティンドン、ケンブリッジ、英国)により、製造された。
【0130】
図18(平面図)を参照すると、この器具は、直径が0.67mmの内孔183を設けた長さ:2cm、幅:5mmのハウジング182からなる。直径:2mm×高さ:0.5mm(程度)のチャンバは、内孔に接続されている。このチャンバの位置は、内孔の前端から3mm程度である。このチャンバが内孔の前端に位置されていたら、内孔の如何なる部分よりも先に、流体がチャンバ内に引き込まれることとなることが理解され得る。外径:0.67mm、全長:32mmのランセットピストン181は、器具のチャンバの端に対してランセット先端を向け、この内孔内に挿入される。ランセットピストンは、より容易にランセットピストンが握られ得るように、態様186を備えている。内孔の容積は、長さ:1mmあたり約0.35マイクロリットルであり、チャンバの容積は約1.6マイクロリットルである(市販の入手可能な血中グルコース試験片におけるセンサチャンバ用寸法の範囲内)。ランセットピストン181を、チャンバ184を越えて5mm程度引き込むことは、論理上はチャンバから全ての空気を退去させ、チャンバを流体で満たすのに十分である。
【0131】
図19は、器具の右側正面の断面図を示す(正確な縮尺ではない)。ランセットピストン181が、チャンバ184を備えた内孔183内に、収められている。
【0132】
かかる器具は、プラスチックボディー(この場合は、低密度ポリエチレン)内に、内孔を形成するために、取外し可能な形成道具を使用する従来の工程により構成され得る。かかるプラスチックボディー内には、形成道具が取り除かれた後に、ピストン(この場合はランセットピストン)が挿入される。本発明の一具体例は、国際公開第01/12329号の方法を取り入れることにより有利に組み立てられ得、その内容全体が参照することによってここに組み込まれる。その中のプランジャーは、ランセットピストンに置き換えられ得、取外し可能な道具の代わりにランセットピストン自体の周りに内孔が形成される。これは、取外し可能な道具と、形成道具を取り外すためのランセットピストンの配置と挿入が不要となるいう点で、商業上の利点となる。
【0133】
本実施例の器具は、初めに、水性インクで試された。この器具は透明であり、その中の液体と空気の動きとが直接観察されることを許容する。予想された通り、液体サンプルが吸引される前にランセットピストンが内孔内に完全に戻されると、液体はランセットピストンの先端を濡らすことができた。ランセットピストンがチャンバを越えて引き込まれた時、予想した通り、液体は後ろに引き込まれ、終始ランセットピストンと接触し続けた。液体は、初めは、チャンバを満たさなかったが、チャンバの中心を内孔と一列に繋ぐ代わりに、二つの気泡をチャンバ内の中心線両側に形成した。これは、水性液体により濡らすために理想的ではない、ポリエチレンの低い表面エネルギーのためである。これは、この器具の操作モードを変化させることによって克服される。
【0134】
この第一の方法の変形では、液体はチャンバを越えて引き込まれ、そして内孔の前端が液体から取り除かれた。ランセットピストンは、ランセットピストンから最も遠い液体の充填端におけるメニスカスがチャンバ内に存在するまで、液体の後ろに空気が引き込まれるように、更に引き入れられる。ランセットピストンの逆の移動が、液体を内孔内で逆に押し、液体の前方の空気がチャンバから押し出されると、チャンバが液体で完全に満たされた。この工程は何回も繰り返され、それぞれ同じ結果をもたらした。
【0135】
図18A及び18Bに図示される第二の方法では、ランセットピストン181は、内孔の前端が液体に提供される前に、先端がチャンバ184内に位置するまで引き入れられた(図16A)。そして、ランセットピストン181は、液体185を吸引するために更に引き入れられた(図18B)。ランセットピストンの先端と接触する液体185が存在しない事実のため、空気はチャンバ184から引き出され、チャンバは液体185で完全に満たされた。
【0136】
もし必要ならば、チャンバの浸潤は、ランセットピストン、チャンバ、若しくは両方の表面エネルギーを、材料又は表面処理の選択によって変えることにより高めるられ得るのである。
【0137】
全ての場合において、液体の全て又は所望するアリコートが、ランセットピストンを内孔の前端に向けて戻す動きにより、器具から吐出される。
【0138】
そして、二つの同一の器具が、ボランティアでテストされた。ランセットピストンは、内孔の端を約5mm越えて位置するランセット先端を有する器具内に挿入される前に、火炎滅菌された。ランセットピストンの先端は、それから、小さな傷を付けるために、指内に押し込まれた。上記の第二の操作方法に従うランセットピストンの内孔内への引き入れにより、血液が器具内へ引き込まれた。血液の器具内での挙動は、水性インクの観察と比して、何らの違いも観察されなかった。血液は、実験の短い所要時間の中では凝固しなかった。
【0139】
本実施例は、穿刺、サンプル採取、サンプル吐出、チャンバからの空気の引き抜き、液体でのチャンバの充満、液体、空気、又は両方の動き、並びに使用後のランセットピストンの先端の安全な収容を含む、本具体例の有利な態様の多くを示している。
【0140】
分離した「スラグ(slug)」としての液体の小さなアリコートは、内孔内に引き込まれて、自由に前後に動き得ることが、観察された。これらのアリコートは、空気(又は他の流体)によって各端において結合され得、若しくは一つの端においてランセットピストンと、もう一方の端で空気(又は他の流体)と接触し得る。かくして、小さなアリコートは内孔内に引き込まれ得、それに沿う如何なる部分にも配達され得るのである。これは、内孔がテーパとされたり、階段状とされているか、又は表面エネルギー勾配が導入されるように処理されていない限り、毛細管を用いては不可能であり、両方の方法は実際的な使用に限られ、外部の力の適用なしでは逆にされることは不可能である。
【0141】
また、ランセットピストンの位置は、十分に小さな直径(本実施例のような)の内孔内の毛管現象を制御するために使用され得ることも観察された。ランセットピストンは、先ず、内孔が外気に開かれた状態下において、内孔の前端からある程度の距離内孔内へ引き入れられている。もし、内孔の前端がこの時点で液体に浸されており、そして、もし流体が内孔を濡らすことが出来るのなら、相当な液体が毛管力により内孔に入ることとなろう。内孔内のランセットピストンと液体との間の空気は、シールされている。毛細管が備えられた器具なので、ベントは存在しないこととなる。もし内孔の表面が血液又は検査されるその他の体液で湿らされることが出来たら、内孔内に閉じこめられた空気の圧力が液体を動かす毛管圧力と釣り合うまで、液体は内孔に入るのみであろう。これは、どれだけ、そして何時、液体が毛管現象(液体が内孔に沿って動く距離)の下で内孔内に入るのか、正確に制御するために使用され得る。もしランセットピストンが続いて動かされると、サンプルの引込み又は吐出が可能となる。これは、器具内の少ない体積を制御するためにも用いられ得る。
【0142】
本例示は、また、オレフィンプラスチックス等、商業的に入手可能な低い表面エネルギーを有する材料を本発明において有効に使用することが出来ることを証明している。
【0143】
実施例2
本発明の一具体例に従う器具は、次の方法で製造され得る。
【0144】
1mlの容量の使い捨て注射器(Becton Dickinson Plastipak)は、先ず、プランジャロッドを完全に引き込み、そしてプランジャロッドの前端からラバーピストンを取り除くことによって、適合される。直径:1mm、深さ:6mmの反対の内孔が、ランセット先端を受け入れるべく、プランジャロッドの前端の中心に穴を開けて、設けられる。
【0145】
研磨されたランセット先端を備えた、直径:0.75mm、長さ:25mmのランセットを再生利用するために、使い捨て「ソフトクリックス(softclix)」ランセット(Boehringer Mannheim)からプラスチックを切り離すことにより、ランセット先端が用意される。ランセットは、プランジャロッドの前端に用意された穴の中に接着されている。ラバーピストンは、ランセットにより中心を穿刺され、プランジャロッドの端に固定される前に、ランセットに沿って突き通されている。これは、ピストンシールを備えた複合ランセットピストンの組立てという結果になる。この組立品は、ランセットピストン器具を形成するために、注射器の内孔内へ挿入される。
【0146】
ランセットとプランジャーとピストンとがランセットピストンを形成し、単一の組立品となり得、また、望むのであれば、そのピストン/プランジャーの組合せ品が単一の組立品に組み入れられ得ることも、容易に理解される。注射器の筒は内孔を形成し、ルアー端部に狭い内孔ノズルを与える。このノズルは、内径約2.15mmであり、器具がその端部を外気に開放した状態下において取り扱われている時、流体を表面張力により保持する助けとなる。ノズルは、又、テスト流体を小さな範囲に施与する補助をする。前記せる如く、直径約2〜5mm(例えば実施例1)よりも小さな内孔を有する好ましい具体例に従う器具は、ノズルを必要としないこととなる。プランジャーが完全に元の位置に押し戻された時、ランセットの7mmが注射器のルアーフィッティング(luer fitting)を越えて突出するよう、ランセットの長さとカウンター内孔の深さが選択されている。注射器は、麻酔剤、消毒液、又はアレルゲン等の配達されるべき流体を代表する流体(水性インク)で満たされ得る。キャップは、使用前に流体を保持するために備えられている。これは、等しく、水圧によって押し出される締まり嵌めプラグ(interference-fit plug)であっても、又は、使用前或いは使用中に破裂され若しくは引き離される溶着された薄い膜シールであっても良い。
【0147】
この器具は、水性インクで満たされ、そしてオレンジの表面(皮膚の代わり)から1mm程度離した状態で保持される。ランセットピストンの先端がオレンジの皮を穿刺する前に、プランジャーを下に押すと、インクがオレンジの表面に配達される。本実施例は、一回の操作で、流体をある部位に配達し、それから流体を通してその部位を穿刺するという、本発明の能力を証明している。この器具自体が、スタンドオフを備え得ることは容易に理解され、スタンドオフ56の例は、図5に図示されている。
【0148】
この器具が、それ自体が皮膚に対してスタンドオフを与える穿刺駆動システムに搭載され得ることも予想される。
【0149】
本実施例の形態は、特に、この器具が、本実施例2から、実施例1の器具及び図8乃至10に図示される器具の寸法及び縮尺に近づくまで縮小された場合には、アレルギーの診断及び処置に対して重要な適合性を有している。そのような器具は、1〜50マイクロリットルの範囲の量のアレルゲン溶液を、理論的に配達することとなる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
内孔を有するハウジングと、該内孔に摺動可能に嵌め込まれるランセットとを備え、該ランセットは、穿刺操作のために、その尖った先端が前記内孔の前端から露出せしめられる穿刺位置と、流体収容空間を該ランセット先端の前方の内孔内に規定するように、該ランセットが該内孔に沿って後方に変位せしめられる退避位置との間を移動可能であり、且つ、該流体収容空間は、表面張力により流体がそこに保持されることを許容するような断面寸法を有している医療器具にして、
かかる医療器具は、シール手段を備え、そして該シール手段は、前記ランセットの移動時に、該シール手段を通過する前記流体収容空間からの流体の流れを実質的に防止するように動作可能であり、更に、該シール手段は、シール面と摺動係合されていて、該ランセットの少なくとも前方移動時に、該シール手段と該シール面のうちの一つは、該ランセットと共に固定的に移動可能であり、そして、該ランセットの前記穿刺位置と前記退避位置との間の変位が、
(i) 前記内孔の前端より、前記流体収容空間内へ及びそれに沿って流体を引き込む吸引 力と、
(ii) 前記内孔の前端を経て、前記流体収容空間から流体を吐出する圧力
のうちの少なくとも一つを与えていることを特徴とする医療器具。
【請求項2】
前記流体が、単一の液体、液体混合物、及び液体と固体の混合物のうちの一つであることを特徴とする請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記シール手段と前記シール面のうちの一つが、前記ランセットの後方移動時に、該ランセットと共に固定的に移動可能である請求項1又は請求項2に記載の器具。
【請求項4】
前記シール手段が前記ランセットの外面により形成され、前記シール面が前記内孔の内面である請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項5】
前記ランセットの外面が、前記シール手段を囲み突起として与えるように形成されている請求項4に記載の器具。
【請求項6】
前記シール手段が前記ランセットの周りに配設されたシール部材であり、前記シール面が前記内孔の内面である請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項7】
前記シール手段が前記内孔の内面に配設されたシール部材であり、前記シール面が前記ランセットの外面である請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項8】
前記シール手段が、少なくとも前記ランセットが退避位置にある時は、該ランセットの先端に隣接するように配置されている請求項1乃至請求項7のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項9】
前記穿刺位置と前記退避位置との間に、前記ランセットの中間の遅滞位置を与える協働手段を有する請求項1乃至請求項8のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項10】
前記ランセットの前方及び/又は後方移動を制限する、少なくとも一つの停止部材を具備する請求項1乃至請求項9のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項11】
前記シール手段は、前記穿刺位置で、前記シール面と非接触か、または前記退避位置と比較して低減された圧力でシール面と接触し、それによって前記穿刺位置で、前記ランセットの動きに対して低い摩擦を与えている請求項1乃至請求項10のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項12】
前記穿刺位置から退避する間に、前記シール手段の前記シール面との接触、または増大した接触が、前記中間の遅滞位置を与えている請求項9に従属した請求項11に記載の器具。
【請求項13】
前記内孔が、前記ランセットの前記穿刺位置に前記シール手段または前記シール面を位置させるために、断面寸法が増加した領域を含んでいる請求項11又は請求項12に記載の器具。
【請求項14】
前記シール手段またはシール面が、前記ランセットの前記穿刺位置で、前記内孔の前端を越えて配置される請求項11又は請求項12に記載の器具。
【請求項15】
前記シール手段は、前記ランセットの前方の先端から前記器具の後方に向かって配置されるシール部材であって、前記ランセットの先端と共に移動可能であり、前記シール面は、前記内孔のシール領域の内面によって形成される請求項1乃至請求項14のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項16】
前記シール部材の断面寸法が、前記流体収容空間の断面寸法より大きいが、前記流体収容空間の断面寸法の10倍若しくはそれ以下である請求項15に記載の器具。
【請求項17】
前記ランセットの先端が、該ランセットの非先端領域の最も小さな断面寸法の4分の1又はそれ以下の曲率半径を少なくとも一つの寸法において持つように先鋭化されている請求項1乃至請求項16のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項18】
前記内孔が、該内孔の前側部と後側部の間に配置され、それら前後側部よりも大きな断面寸法を有するチャンバを含んでいる請求項1乃至請求項17のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項19】
前記内孔の前記断面寸法が、該内孔の前側部と前記チャンバとの間で階段状に増大する請求項18に記載の器具。
【請求項20】
前記流体収容空間が、使用時に、該流体収容空間に収容されている前記流体の特性を測定、または分析する手段を提供する請求項1乃至請求項19のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項21】
前記流体収容空間と連通する、前記内孔からの第二の導管を有する請求項1乃至請求項20のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項22】
前記ランセットの先端の前方に配置され、少なくとも前記流体収容空間の一部をシールする閉鎖部材を具備する請求項1乃至請求項21のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項23】
前記閉鎖部材が、器具の操作中に、前記ランセットにより取り除かれ、又は穿刺されるよう適合されている請求項22に記載の器具。
【請求項24】
前記流体収容空間の少なくとも一部が、器具の操作によって被験者に適用される液体を含んでいる請求項23に記載の器具。
【請求項25】
前記内孔の前端の前方に配置されたスペーサ部材を含み、該スペーサ部材が、被験者の皮膚との接触用であり、該スペーサ部材が被験者の皮膚の刺し傷と前記内孔の前端部との間に蓄積空間を与える寸法とされ、前記傷からの流体が、器具の操作によって前記流体収容空間に引き入れられる前に、前記蓄積空間に蓄積され得るようになっている請求項1乃至請求項24のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項26】
前記スペーサ部材が、前記ランセットの先端の穿刺位置に向かって内側に突き出す1つ又はそれ以上の突起を備え、該突起が、蓄積される流体の前記内孔の前端に向かう流れを高める表面を与えている請求項25に記載の器具。
【請求項27】
前記内孔の前端に、流体の存在または不在を検知するための検知手段を有している請求項1乃至請求項26のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項28】
前記検知手段が、少なくとも2つの電極を有し、少なくとも1つの電極は前記内孔の前端に配置され、前記電極間の抵抗を測定することによって、前記内孔の前端において流体の存在または不在を検知する請求項27に記載の器具。
【請求項29】
前記ランセットが、前記電極の1つを提供する請求項28に記載の器具。
【請求項30】
前記流体収容空間の中の流体の存在及び/又は流体の量を検知するための検知手段を有する請求項1乃至請求項29のうちの何れか1項に記載の器具。
【請求項31】
医療器具の操作方法であって、該医療器具は、内孔を有するハウジングと、該内孔に摺動可能に嵌め込まれるランセットとを具備し、該ランセットは、穿刺操作のために、その尖った先端が前記内孔の前端から露出せしめられる穿刺位置と、流体収容空間を該ランセット先端の前方の内孔内に規定するように、該ランセットが該内孔に添って後方に変位せしめられる退避位置との間を移動可能であり、且つ、該流体収容空間は、表面張力により流体がそこに保持されることを許容する断面寸法を有しており、更に該医療器具は、シール手段を備え、そして該シール手段は、前記ランセットの移動時に、該シール手段を通過する前記流体収容空間からの流体の流れを実質的に防止するように動作可能であり、また、該シール手段は、シール面と摺動係合されていて、該ランセットの少なくとも前方移動時に、該シール手段と該シール面のうちの一つは、該ランセットと共に固定的に移動可能であり、そして、前記操作は、
(i) 吸引力による、前記内孔の前端から前記流体収容空間内へ及びそれに沿っての流体の引き込みと、
(ii)前記内孔の前端を経由した、前記流体収容空間からの流体の吐出
のうちの少なくとも一つを行うために、前記穿刺位置と前記退避位置との間で前記ランセットを変位させることを含むことを特徴とする医療器具の操作方法。
【請求項32】
前記ランセット先端の穿刺操作によって、被験者の皮膚に穿刺した後、前記流体収容空間に引き込まれる流体が、前記被験者の血液及び前記被験者の間質液の内の少なくとも何れか1つである請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記被験者の皮膚への穿刺後、続く前記流体収容空間の中への引き込みの為に、血液または間質液を、前記被験者の皮膚上に蓄積させる為に前記ランセットの引き込みを遅らせる工程を含む請求項31又は請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記被験者の皮膚への穿刺後、前記ランセット全体を引き抜く前に、前記ランセットを部分的に中間の遅滞位置まで引き込む工程を含む請求項33に記載の方法。
【請求項35】
被験者の皮膚への穿刺前に、該皮膚の穿刺される場所に、流体を前記流体収容空間から前記被験者の皮膚上に吐出する工程を含む請求項31乃至請求項34のうちの何れか1つに記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2008−512164(P2008−512164A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530775(P2007−530775)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003534
【国際公開番号】WO2006/030201
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(507077684)マイクロサンプル リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】MICROSAMPLE LTD.
【住所又は居所原語表記】The Old Vineyard,Thicket Road,Houghton,Huntingdon,Cambridgeshire PE28 2BQ,United Kingdom
【Fターム(参考)】