説明

流体ポンプの検査装置および検査方法

【課題】1つの装置で、複数の検査に要求されるシールクランプ条件を満足させ、検査工程の短縮と設備の簡略化によるコスト低減が可能な流体ポンプの検査装置および検査方法を実現する。
【解決手段】試験流体の吸入口21および吐出口22を有するポンプ部23と駆動部24を備える燃料ポンプ2を、検査治具1にて試験流体槽3内に弾性支持する。検査冶具1は、吐出口21に一端側が接続され、他端側が吐出圧調整部6を備える流体流路4に接続される接続管路5を有し、接続管路5を主管路51内に可動管路52を摺動可能に配設した構成とする。可動管路52は、主管路51から突出位置する端部を、主管路内の流体圧を受けて吐出口22方向に押圧され吐出口22を液密保持するシールクランプ部55とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される燃料ポンプ等の流体ポンプの検査装置および検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両内燃機関に燃料を供給する燃料ポンプの製品検査には、ポンプ流量性能を計測する性能検査の他、ポンプ作動時の振動を計測する振動検査がある。このうち、ポンプ性能の検査については、例えば、特許文献1、2に記載されている。特許文献1は、燃料噴射ポンプに直結した燃料噴射弁からの燃料噴射量を測定するものであり、ダイヤフラム式の燃料容積検出部に燃料噴射弁を接続し、燃料噴射時の容積変化量と検出した吐出燃料量から実際の燃料噴射量を応答性よく測定可能としている。
【0003】
また、特許文献2には、燃料ポンプ燃料入口側に試験流体槽を配置し、燃料出口側に槽カバーを取り付けて、燃料出口と槽カバーの間をシール部材で密閉した状態で、燃料ポンプを作動させて検査を実施する検査装置が開示されている。燃料出口は、吐出される流体の計測通路を備える計測部に接続されている。
【0004】
一方で、燃料ポンプの振動に基づいて構成部材の加工や組付けの不具合を調査する振動検査が実施されている。これら検査は、計測条件となる吐出圧が異なることから、通常は、別々の計測ユニットを用いて別工程で検査を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−188912号公報
【特許文献2】特開2004−19547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
検査工程の簡略化のために、これら複数の検査設備を統合することが期待される。ただし、検査の信頼性を確保させるためには、適正なシールクランプ力でポンプ吐出口を保持することが前提条件となっている。例えば、振動検査では、発生する振動を抑制せず振動傾向を正確に測定する必要があり、このためにはシールクランプ力が大きすぎても小さすぎてもいけない。これに対して、性能検査は、さらに大きな吐出圧に耐え得るシールクランプ力が求められる。
【0007】
このように、性能検査と振動検査は、双方のクランプ条件が異なるために、クランプ構造をそれぞれ最適となるように設定した装置を用いる必要がある。そこで、本願発明は、1つの装置で、双方のクランプ条件を満足させることが可能な構成とし、これら検査を一連の工程にて実施することで、検査工程の短縮と設備の簡略化によるコスト低減が可能な流体ポンプの検査装置および検査方法を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願請求項1に記載の発明は、流体の吸入口および吐出口を有するポンプ部と、該ポンプ部を駆動する駆動部を備える流体ポンプの検査装置であって、
流体ポンプを支持する検査冶具に、上記吐出口に一端側が接続され、他端側が吐出圧調整手段を備える流体流路に接続される接続管路を設け、
上記接続管路は、上記他端側となる主管路内に上記一端側となる可動管路を摺動可能に配設してなり、上記主管路から突出位置させた上記可動管路の端部に、上記主管路内の流体圧を受けて上記吐出口に押圧され上記吐出口を液密的に保持するシールクランプ部を設けたことを特徴とする。
【0009】
本願請求項2に記載の発明において、上記シールクランプ部は、上記可動管路と上記吐出口との間に介在する弾性シール部材を備える。
【0010】
本願請求項3に記載の発明において、上記主管路から上記流体流路への接続端部は、上記主管路径より小径であり、上記主管路内に上記可動管路を上記吐出口の方向に付勢するばね部材を備える。
【0011】
本願請求項4に記載の発明において、上記検査治具は、上記接続管路を支持するとともに、上記吸入口側の上記流体ポンプ端部を試験流体槽内に弾性支持する支持基体を備える。
【0012】
本願請求項5に記載の発明において、上記流体ポンプは、上記駆動部に給電するためのターミナル部を備え、上記検査持治具は、上記ターミナル部を外部電源に接続する通電手段を備える。
【0013】
本願請求項6に記載の発明において、上記検査治具は、上記接続管路部および上記通電手段を、上記吐出口および上記ターミナル部への接続方向に対して進退可能に保持する保持部材を備える。
【0014】
本願請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の検査装置を用いた流体ポンプの検査方法であり、
上記吐出圧調整手段を備える流体流路に流量検出手段を設置するとともに、上記流体ポンプの外壁に振動検出手段を有し、
上記吐出圧調整手段により第1の吐出圧に調整して、上記振動検出手段により上記流体ポンプの振動検査を行う第1の検査工程と、
上記吐出圧調整手段により上記第1の吐出圧より高い第2の吐出圧に調整して、上記流量検出手段により上記流体ポンプの性能検査を行う第2の検査工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1の検査装置は、流体ポンプの吐出口に接続する接続管路を、シールクランプ部を備える可動管路と主管路とで構成して、主管路内の流体圧を可動管路に作用させ、その端部のシールクランプ部が吐出口を押圧することによりシールする。このシールクランプ力は吐出圧に応じて変化し、吐出圧が小さい条件では、シールクランプ力を小さくし、吐出圧が大きい条件では、シールクランプ力を大きくすることができる。
【0016】
したがって、自身の吐出圧を利用し吐出圧に応じてシールクランプ力を任意に変えることができるので、吐出圧調整手段で吐出圧を調整することにより複数の吐出圧条件が異なる検査、例えば、振動検査と性能検査を1つの検査装置で行うことができる。よって、信頼性に優れ、検査工程と設備の簡略化によるコスト低減が可能な流体ポンプの検査装置を実現することができる。
【0017】
本願請求項2に記載の発明のように、具体的には、シールクランプ部の端部に弾性変形可能なシール部材を設けることで、確実に液密保持し、吐出圧の変化に応じて弾性シール部材の押圧力を可変とすることで、適切なシールクランプ力を作用させることができる。
【0018】
本願請求項3に記載の発明のように、具体的には、主管路内から流体流路への導出口において流体が絞られ抵抗を受ける構成とする。この流体の抵抗力とばね力により可動管路が吐出口に押し当てられ、吐出圧に応じたシールクランプ力を容易に発揮することができる。
【0019】
本願請求項4に記載の発明のように、具体的には、流体ポンプの吐出口側と吸入口側の端部を支持する支持基体を設ける。吐出口側は、シールクランプ部が適切なシールクランプ力で支持し、試験流体槽に収容される吸入口側は弾性支持されるので、振動計測等を妨げることなく良好な検査が実施できる。
【0020】
本願請求項5に記載の発明のように、具体的には、検査治具に通電手段を設けることで、流体ポンプのターミナル部を介して駆動部に給電しポンプ部を回転駆動することができる。
【0021】
本願請求項6に記載の発明のように、具体的には、シールクランプ部と通電手段の保持手段を可動とし、流体ポンプの吐出口とターミナル部に対して後退位置とした状態で、検査治具に流体ポンプを装着する。次いで、保持手段とともにシールクランプ部と通電手段を前進させることで、吐出口とターミナル部と容易に接続することができ、検査工程を効率よく実施できる。
【0022】
本願請求項7に記載の流体ポンプの検査方法によれば、流体ポンプの作動を開始後、まず、第1の吐出圧まで上昇させ、第1の検査工程として振動検出手段により流体ポンプの振動検査を行う。この時、検査治具のシールクランプ部は、吐出圧に対応する比較的低いシールクランプ力で吐出口に押圧されるので、振動の発生を妨げることなく精度よい計測が実施される。次いで、より高い第2の吐出圧まで上昇させ、第2の検査工程として流量検出手段により流体ポンプの性能検査を行う。この時、検査治具のシールクランプ部は、吐出圧に対応する比較的高いシールクランプ力で吐出口に押圧されるので、吐出圧が上昇しても確実に押圧保持して精度よい計測が実施される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態であり、流体ポンプの検査装置の全体構成を示すシステム概略図である。
【図2】検査装置の主要部を構成する検査治具の詳細構成を示す斜視図である。
【図3】(a)、(b)は、それぞれ検査治具の詳細構成を示す側面図および正面図である。
【図4】本発明の流体ポンプの検査装置を用いた検査方法を説明するための工程図である。
【図5】本発明の流体ポンプの検査装置を用いた検査工程において、検査装置への燃料ポンプの装着手順を説明するための検査治具の側面図である。
【図6】本発明の流体ポンプの検査装置を用いた検査工程において、検査装置に装着した燃料ポンプの検査手順を説明するための検査治具の側面図である。
【図7】吐出圧とシール力の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明を適用した実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態であり、流体ポンプの検査装置の全体構成を示すシステム概略図である。図2は、検査装置の主要部を構成する検査治具1の斜視図であり、図3にその詳細構成を示す。本発明の検査装置は、各種分野に使用される流体ポンプの製品検査に適しており、ここでは、車両内燃機関用の燃料ポンプ2への適用例として説明する。
【0025】
図1において、検査装置は、燃料ポンプ2が装着される検査治具1と、燃料ポンプ2に試験流体を供給する試験流体槽としての試験油槽3と、燃料ポンプ2から吐出された試験油が流通する流体流路としての検査流路4を有している。燃料ポンプ2と検査流路4は、検査治具1に設けた接続管路5を介して接続しており、検査流路4には、吐出圧調整手段となる吐出圧調整部6と、性能検査用の流量計41が配設されている。また、燃料ポンプ2の外側壁には、振動検査用の振動センサ42が取り付けられる。
【0026】
検査治具1は、概略L字状の支持基体11を備え、試験油槽3内に配置されるL字の水平面上に、燃料ポンプ2を、クッション部材12を介して弾性支持している。燃料ポンプ2の直上には、接続管路5が、図の上下方向を軸方向として配設される。支持基体11のL字の立壁は、燃料ポンプ2の側面に沿って上方へ延び、接続管路5の側部を支持している。
【0027】
燃料ポンプ2は、ポンプ下面に吸入口21が突出開口するとともに、ポンプ上面に吐出口22が突出開口し、内蔵するポンプ部23を駆動部であるモータ部24が回転駆動する。ポンプ部23は、図示しないインペラを有する公知の構成で、モータ部24によってインペラが回転するのに伴い燃料を吸い上げ、吐出口22から接続管路5に吐出するようになっている。ポンプ上面には、モータ部24へ給電するためのターミナル部25が設けられる。
【0028】
試験油槽3は、燃料と同等性状の試験油で満たされており、検査治具1に支持された燃料ポンプ2の吸入口21を含む下面側が浸漬するように収容される。検査治具1は、図2に示すように、支持基体11の底面を貫通する試験油の供給口13を備え、燃料ポンプ2の吸入口21に試験油を供給する。また、支持基体11の上端部には、フランジ状の支持部14が、接続管路5の上端部外周を取り巻くように設けられ、その上方に導出口53が突出位置している。
【0029】
図1において、接続管路5は、本発明の特徴部分であり、燃料ポンプ2の吐出口22に一端側(図の下端側)が接続し、他端側(図の上端側)が検査流路4に接続している。接続管路5は、主管路51とその内部に摺動可能に配設される可動管路52を有し、可動管路52は、ここでは、ピストン状に形成されている。ピストン状の可動管路52は、大径の上端部が主管路51の内壁面に対して摺動し、その下方に延びる小径のロッド部が、主管路51の下端側に設けた軸受54に摺動自在に支持されている。
【0030】
軸受54の下方に突出位置する可動管路52の一端(図の下端)は、シールクランプ部55を構成し、先端に配置した弾性材料よりなる筒状の弾性シール部材55aを介して燃料ポンプ2の吐出口22を、押圧保持している。可動管路52の管内は、大径の上端部および小径のロッド部を貫通する吐出流路56となっており、吐出口22と主管路51内空間を連通している。主管路51は、上端の導出口53に至る管路端51aを管内径より小径に設定してあり、主管路51内空間の試験流体が管路端で絞られて抵抗を受けることで、試験油圧が、可動管路52を吐出口22に押圧する方向に作用するようにしている。また、主管路51内空間には、ばね部材57が配設されて、可動管路52を吐出口22方向(図の下方)に付勢し、常時、シールクランプ部55を吐出口22に押し当てるようにしている。
【0031】
この時、可動管路52は主管路51内を摺動可能であり、主管路51内空間の試験油圧に応じてシールクランプ部55が吐出口22を保持する力を可変とすることができる。すなわち、燃料ポンプ2からの吐出圧を調整することで、シールクランプ部55による吐出口22のシールクランプ力を変更することができ、主管路51内空間の試験油圧が上昇するほど、可動管路52を吐出口22に押し付ける力が増加する。なお、図1のシールクランプ部55構成は、模式的なものであり、詳細構成例は後述する。また、ばね部材57は、可動管路52の動作を補助するために必要に応じて配置されるもので、比較的小さな付勢力に設定され、場合によっては省略することも可能である。
【0032】
可動管路52の側方には、通電手段として通電プローブ31が、図の上下方向に平行に配設されている。通電プローブ31が、燃料ポンプ2のターミナル部25に接続されて、外部に設けた電源32から燃料ポンプ2のモータ部24へ通電可能となっている。ここでは、通電プローブ31は、可動管路52を支持する軸受54と一体的に設けた支持部材33に保持されている。
【0033】
これにより、燃料ポンプ2のモータ部24へ電極を供給してポンプ部23を回転駆動し、接続管路5の導出口53を経由して検査流路4へ試験油を吐出可能となる。検査流路4には、吐出圧調整部6として、パイロット背圧弁61と圧力計62および電空レギュレータ63が設けられる。パイロット背圧弁61は、弁体の作動に吐出油圧を利用するパイロット式の背圧弁で、圧力計62の検出値に基づいて電空レギュレータ63がパイロット背圧弁61を制御することにより、所望の吐出圧に調節可能となる。また、燃料ポンプ2からの吐出流量は、ポンプ回転数により増減するので、各検査の吐出圧条件に応じてモータ部24への印加電圧を調整することが望ましい。
【0034】
検査流路4には、性能検査のための流量検出手段として流量計41が配設されている。したがって、所定の吐出圧における試験油の流量を計測することで、燃料ポンプ2の吐出流量性能を検査することができる。検査流路4は、検査後の試験油を排出するためのドレン流路に接続される。
【0035】
一方、燃料ポンプ2の外側壁には、振動検査のための振動検出手段として振動センサ42が配設されている。振動センサ42としては、例えば、加速度センサ等を使用することができ、検出結果をアナライザ43へ出力してFFT振動解析を行なうことで、燃料ポンプ2を構成する部品の加工や組付等に起因する不具合の有無を検査することができる。
【0036】
ここで、製品検査時の計測条件、特に吐出圧が異なる複数の検査を行なう場合には、吐出圧に応じた適切なシールクランプ力で、燃料ポンプ2の吐出口22を保持することが要求される。つまり、振動計測時には、振動の発生を抑制しないように、吐出口22を押さえすぎず、かつ油漏れを防止できる程度のシールクランプ力が必要である。一方、流量計測時には、吐出口22をより大きなシールクランプ力で確実に保持することが必要となる。また、振動検査に際しては、発生する振動を精度よく計測するために、燃料ポンプ2本体の振動を規制しない支持構造が要求される。
【0037】
そこで、本発明では、図1、2に示す検査治具1の支持基体11にて、燃料ポンプ2の底面を弾性的に支持し、燃料ポンプ2側面と支持基体11の間には間隙を設けるとともに、燃料ポンプ2上部の吐出口22を保持するシールクランプ部55のシールクランプ力を可変とする。シールクランプ部55が設けられる接続管部5は、支持基体11の立壁とその上端部のフランジ状の支持部14にて安定的に支持され、かつ燃料ポンプ2本体の振動検査を妨げることがない。
【0038】
図3(a)、(b)に、シールクランプ部55を含む接続管路5の詳細構造例を示す。ここでは、接続管路5を、フランジ状の支持部14に支持される主管路51の下端開口内に、ロッド状の可動管路52を摺動可能に挿通した構成としている。主管路51の下端開口内には、可動管路52を摺動させる軸受け54がシール部材を介して装着される。また、主管路51の上端開口内には、導出口53に続く管路が装着され、主管路51より小径の管路端と可動管路52との間にばね部材57が収容されている。このように可動管路52の形状は、ピストン状、可動ロッド状等、任意に変更することができる。
【0039】
シールクランプ部55は、可動管路52の先端(図の右端)をやや薄肉として、先端開口内に筒状の弾性シール部材55aを嵌着して構成される。弾性シール部材55aは、例えばウレタン系の弾性シール材料からなり、一端側に設けたフランジ部が可動管路52の先端面を覆い、他端側の筒状部が可動管路52内に挿通される。したがって、シールクランプ部55を、燃料ポンプ2の吐出口22に覆着すると、弾性シール部材55aが吐出口22の周囲を覆って液密シールする。
【0040】
このシール力は、主管路51の管路端で絞られる流体が受ける抵抗力とばね部材57の付勢力で、可動管路52が吐出口22方向へ押圧されることにより生じ、主管路51内空間の試験油圧によって変化する。すなわち、吐出圧が比較的小さい時には、可動管路52に作用する力も小さい。吐出圧が上昇すると、可動管路52に作用する力が増加して、シールクランプ部55が吐出口22に押し付けられる方向に摺動し、シールクランプ力が増加する。この時、可動管路52に作用する力は、主管路51内空間に面する可動管路52の環状端面の面積(受圧面積S1)に比例する。ただし、シールクランプ部55の先端側の端面(受圧面積S2)には、主管路51内空間の試験油圧が逆向きに作用するので、この逆向きの受圧面積S2が受圧面積S1より小さくなるようにし、受圧面積S1を規定する可動管路52の内外径を適宜設定することで、所望のシール力とすることができる。
【0041】
このようにして、本発明の検査装置は、検査冶具1のシールクランプ部55が、計測条件に応じてセルフシールすることで、吐出圧条件の異なる複数の検査に対応し、検査工程を短縮できる。この時、検査開始に先立って、検査冶具1への燃料ポンプ2の設置および通電プローブ31の接続作業が必要となることから、図2、3に示す検査冶具1では、シールクランプ部55と通電プローブ31を、一体に昇降可能とする昇降部7を設けて、ポンプ着脱時の作業性を向上させる。
【0042】
昇降部7は、シールクランプ部55と通電プローブ31の外周を一体的に保持する保持部材71と、支持基体11上端のフランジ部14に固定されるレール部材72と、レール部材72に案内されて昇降可能なスライド部材73を備える。レール部材72は、接続管部5の側面に沿って上下方向に延び、保持部材71の上方に一体に設けたスライド部材73が、レール部材72に案内されて昇降する。これに伴い、シールクランプ部55と通電プローブ31を保持する保持部材71が、燃料ポンプ2の供給口21およびターミナル部25との接続方向に進退可能とすることができる。好適には、通電プローブ31の外周と保持部材71の間に、弾性材を介在させて弾性支持することで、燃料ポンプ2の振動検査を妨げることなく、ターミナル部25との接続を確保することができる。
【0043】
次に、上記構成の検査装置を用いて、燃料ポンプ2の振動検査と性能検査を行なう場合の検査方法について、図4〜7により説明する。図4は、一連の検査工程を示すフローチャートであり、これに先立って、まず、図5、6により燃料ポンプ2を検査冶具1にセットする。図5に示す(1)、(2)工程は、検査冶具1に製品がセットされていない状態から、昇降部7のスライド部材73を、レール部材72に沿って上方へスライドさせた状態を示している。これにより、スライド部材73と一体の保持部材71とともに、シールクランプ部55および通電プローブ31が引き上げられ、燃料ポンプ2(図中、点線)を装着する十分な空間が形成される。この時、シールクランプ部55に続く可動管路52は、保持部材71に追従して主管路51内を上昇する。
【0044】
燃料ポンプ2を所定位置へセットした後、図6に示す(3)工程のように、昇降部7のスライド部材73および保持部材71を下方へスライドさせ、保持部材71に保持されるシールクランプ部55を、燃料ポンプ2の吐出口22に装着する。同時に、保持部材71に保持される通電プローブ3をターミナル部25と電気的に接続する。このように、検査冶具1に昇降部7を設けたことで、燃料ポンプ2のセットが容易になり、検査に先立つ作業を簡素化することができる。
【0045】
次いで、図6に示す(4)工程において、燃料ポンプ2と検査冶具1の下部が試験油槽3に浸漬するように配置し、計測を開始する。図1の電源32から通電プローブ31を介して、燃料ポンプ2のターミナル部25に給電すると、駆動部24がポンプ部23を回転駆動し、試験油を吸入口21から吸い上げて吐出口22から接続管路5へ吐出する。吐出量はポンプ部23の回転数によって増減するので、駆動部24への印加電圧と、接続管路5に接続する検査流路4の吐出圧調整部6の設定圧を調整することで、所定の吐出圧に設定することができる。
【0046】
したがって、図4の検査工程では、まずステップ1において、駆動部24に低電圧を印加して、ポンプ部23を低圧駆動する。吐出圧調整部6の圧力計62で監視される吐出圧が、振動検査の条件である0.35MPaとなったら、続くステップ2において、振動測定を開始する。振動測定は、比較的低吐出圧の条件で行なわれ、燃料ポンプ2に取り付けた振動センサ42を用いて、回転方向および径方向の測定を行い、振動波形をFFT解析した結果を正常品と比較することで、異常品を判別することができる。
【0047】
この振動検査に際しては、燃料ポンプ2の振動を発生させることが必要であり、検査冶具1への取り付けは、クランプ力が極力小さくなるように行なわれる。特に、燃料ポンプ2の吐出口22は押さえすぎないように、接続管路5との間のシール力を確保する最小限のクランプ力であればよい。このために、本発明では、セルフシール機能を有するシールクランプ部55を設けており、低吐出圧の条件では、接続管路5の主管路51内の試験油が可動管路52を押圧する力も小さい。つまり、図7に示すように、吐出圧Pに比例してシール力Fが増加するので、これを利用して、適正なシールプランプ力で、振動検査を妨げることなく、良好な測定ができる。
【0048】
一方、流量検査(性能検査)は、より大きな吐出圧条件で実施される。このため、ステップ3において、駆動部24に高電圧を印加し、ポンプ部23を高圧駆動して吐出圧を上昇させる。吐出圧が、性能検査の条件である1.0MPaとなったら、続くステップ4において、流量測定を開始する。流量測定は、検査流路4に設けた流量計41を用いて測定を行い、所定の流量特性が得られるかどうかを判定する。
【0049】
この性能検査に際しては、比較的高吐出圧であるために、燃料ポンプ2の吐出口22からの油漏れを確実に防止することが必要であり、より大きなシールクランプ力で押さえ込むことが要求される。ここで、本発明の検査冶具1に設けたシールクランプ部55は、図7のように、吐出圧Pに比例してシール力Fが増加するので、自身の吐出圧の上昇によってシールクランプ力を増大させ、これを利用して、適正なシールプランプ力で油漏れを防止しながら、良好な流量測定ができる。
【0050】
以上のように、本発明によれば、吐出圧条件の異なる複数の検査を、同一の検査装置で一連の工程にて実施することができる。しかも、吐出圧を利用してシールクランプ力を可変する検査冶具を用い、振動検査と性能検査とで異なる燃料ポンプの吐出口のクランプ条件を、それぞれ満足させることができるので、高精度な検査を効率よく低コストで実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、車両内燃機関用の燃料ポンプの他、各種流体ポンプの検査装置に応用することができる。また、振動検査や流量検査に限らず、吐出圧やクランプ条件の異なる検査工程であれば、計測ユニットを共通化し、複数の検査を連続して行なうことで、検査工程を簡素化する同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0052】
1 検査冶具
11 支持基体
12 クッション部材
13 供給口
14 支持部
2 燃料ポンプ(流体ポンプ)
21 吸入口
22 吐出口
23 ポンプ部
24 駆動部
25 ターミナル部
3 試験油槽(試験流体槽)
31 通電プローブ(通電手段)
32 電源(外部電源)
33 支持部材
4 検査流路
41 流量計(流量検出手段)
42 振動センサ(振動検出手段)
43 アナライザ
5 接続管路
51 主管路
52 可動管路
53 導出口
54 軸受
55 シールクランプ部
55a 弾性シール部材
6 吐出圧調整部(吐出圧調整手段)
61 圧力計
62 パイロット背圧弁
63 電空レギュレータ
7 昇降部
71 保持部材
72 スライド部材
73 レール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の吸入口および吐出口を有するポンプ部と、該ポンプ部を駆動する駆動部を備える流体ポンプの検査装置であって、
上記流体ポンプを支持する検査冶具に、上記吐出口に一端側が接続され、他端側が吐出圧調整手段を備える流体流路に接続される接続管路を設け、
上記接続管路は、上記他端側となる主管路内に上記一端側となる可動管路を摺動可能に配設してなり、上記主管路から突出位置させた上記可動管路の端部に、上記主管路内の流体圧を受けて上記吐出口に押圧され上記吐出口を液密的に保持するシールクランプ部を設けたことを特徴とする流体ポンプの検査装置。
【請求項2】
上記シールクランプ部は、上記可動管路と上記吐出口との間に介在する弾性シール部材を備える請求項1記載の流体ポンプの検査装置。
【請求項3】
上記主管路から上記流体流路への接続端部を、上記主管路径より小径とし、上記主管路内に上記可動管路を上記吐出口の方向に付勢するばね部材を備える請求項1または2記載の流体ポンプの検査装置。
【請求項4】
上記検査冶具は、上記接続管路を支持するとともに、上記吸入口側の上記流体ポンプ端部を試験流体槽内に弾性支持する支持基体を備える請求項1ないし3のいずれか1項に記載の流体ポンプの検査装置。
【請求項5】
上記流体ポンプは、上記駆動部に給電するためのターミナル部を備え、上記検査冶具は、上記ターミナル部を外部電源に接続する通電手段を備える請求項1ないし4のいずれか1項に記載の流体ポンプの検査装置。
【請求項6】
上記検査冶具は、上記シールクランプ部および上記通電手段を、上記吐出口および上記ターミナル部への接続方向に対して進退可能に保持する保持部材を備える請求項5記載の流体ポンプの検査装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の検査装置を用いた流体ポンプの検査方法であり、
上記吐出圧調整部を備える流体流路に流量検出手段を設置するとともに、上記流体ポンプの外壁に振動検出手段を有し、
上記吐出圧調整手段により第1の吐出圧に調整して、上記振動検出手段により上記流体ポンプの振動検査を行う第1の検査工程と、
上記吐出圧調整手段により上記第1の吐出圧より高い第2の吐出圧に調整して、上記流量検出手段により上記流体ポンプの性能検査を行う第2の検査工程と、を有することを特徴とする流体ポンプの検査方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−113112(P2013−113112A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257073(P2011−257073)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】