説明

流体レートジャイロ

【課題】従来の流体レートジャイロは、ガス流3を用いて角速度の検出を行う構造であるので、大口径のバイモルフ構造が必要となり、設置スペースに制限がある場合等に適用が難しかった。
【解決手段】本発明による流体レートジャイロは、空間部1a内に電界共役流体31を封入し、センシング流路25内の電極部27により電界共役流体31に電圧が印加されることで流体ジェット40を発生させる。センシング流路25の下流に検出部を配置し、ケーシングに角速度が加えられた際の流体ジェット40の偏向により発生する検出部の出力変化に基づいて、角速度を求めるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体レートジャイロに関し、特に、電極部により電界共役流体に電圧が印加されることで流体ジェットが発生し、ケーシングに角速度が加えられた際の流体ジェットの偏向により発生する検出部の出力変化に基づいて、角速度を求めるようにすることで、ジャイロ全体を小形化でき、適用範囲を広げることができるようにするための新規な改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来用いられていたこの種の流体レートジャイロとしては、例えば、特許文献1及び非特許文献1等に開示された構成を挙げることができる。図21は従来の流体レートジャイロを示す構成図である。図において、ケーシング1の内部には、ガスが密封されているとともに空間部1aが設けられており、このガスは気体ポンプ2によって空間部1aにガス流3として供給される。前記空間部1aの一端には、ノズル板4が取り付けられており、該ノズル板4には、ガス流3を空間部1aに案内するノズル孔4aが設けられている。前記空間部1aの内部には、前記ノズル板4に対向して電極ホルダ5が配置されており、該電極ホルダ5には、ケーシング1に加えられる角速度を検出するための検出部6が設けられている。
【0003】
次に、図22は、図21の検出部6を拡大して示す斜視図である。図において、検出部6は、電極ホルダ5上に各々独立して植設されたピン状の第1〜第4電極11〜14と、第1及び第2電極11,12間に張設され該各電極11,12に溶接等で一体接続された第1ホットワイヤH1と、第3及び第4電極13,14間に張設され該各電極13,14に溶接等で一体接続された第2ホットワイヤH2とから構成されている。尚、各電極11〜14は、ガス流3の中心(ノズル孔4aの中心領域に対向する位置)から所定距離離れた位置に配置されている。図示はしないが、第1及び第2ホットワイヤH1,H2は、第1及び第2抵抗R1,R2を含むブリッジ回路に組み込まれている。
【0004】
次に、動作について説明する。各ホットワイヤH1,H2に電流が流された状態下で、空間部1a内にガス流3が供給される。このとき、ケーシング1に角速度が加えられると該ガス流3が偏向し、このガス流3の偏向によって各ホットワイヤH1,H2間に温度差が生じる。この温度差の状態が、各ホットワイヤH1,H2の抵抗値変化としてブリッジ回路によって検出され、この出力変化に基づいて前記角速度が求められる。
【0005】
【特許文献1】特開平1−167671号公報
【非特許文献1】ジャイロ活用技術入門(多摩川精機株式会社編、平成14年工業調査会発行)の56頁の2、2、4(1)のガスレートセンサ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来の流体レートジャイロでは、ガス流3を用いて角速度の検出を行うので、気体ポンプ2として円板状の圧電素子で作られたバイモルフ構造を採用する必要がある。このバイモルフ構造を用いてセンシングに利用可能な活発なガス流3を発生させるためには、広い面積で気体にバイモルフ構造を接触させる必要があり、大口径のバイモルフ構造が必要となる。このため、大口径のバイモルフ構造が流体レートジャイロの小形化の制限となり、設置スペースに制限がある場合等に適用が難しかった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ジャイロ全体を小形化でき、適用範囲を広げることができる流体レートジャイロを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る流体レートジャイロは、内部に空間部を有するケーシングと、前記空間部内に設けられ、互いに離間されてセンシング流路を形成する一対の第1及び第2壁部からなる流路壁と、前記空間部内に形成され、前記流路壁と前記空間部を形成する空間内壁との間で輪状をなす戻り流路と、前記センシング流路の上流側に配置された電極部と、前記センシング流路の下流側に配置された検出部と、前記空間部内に封入された電界共役流体とを備え、前記電極部により前記電界共役流体に電圧が印加されることで流体ジェットが発生し、前記ケーシングに角速度が加えられた際の前記流体ジェットの偏向により発生する前記検出部の出力変化に基づいて、前記角速度を求めるように構成されている。
また、前記電極部は、少なくとも1組の針電極及びリング電極からなり、前記針電極は、前記ケーシングに取り付けられるとともに、少なくとも1つのスリット孔が設けられた針電極支持板と、前記針電極支持板に設けられた針電極本体とを有し、前記リング電極は、前記ケーシングに取り付けられるとともに、貫通孔が設けられたリング電極本体を有し、前記針電極本体と前記貫通孔とが互いに対向するように前記針電極及び前記リング電極が配置され、前記針電極本体及び前記リング電極本体間に電圧が印加されることで、前記スリット孔及び前記貫通孔を通過する前記流体ジェットが発生する。
さらに、前記ケーシングは、前記空間部が設けられた基部と、該基部に取り付けられる蓋部とからなり、前記基部には、前記空間部の外周側に輪状の封止部材が取り付けられている。
さらにまた、前記検出部は、前記センシング流路の下流側で、前記センシング流路の長手方向に沿う前記電極部の軸線を中心として、対となるように配置された第1及び第2ホットワイヤを有する。
また、前記センシング流路内で前記電極部と前記検出部との間に配置され、前記空間部の深さ方向に沿って互いに間隔をおいて配置された一対の対向電極からなる第1方向制御電極対と、前記センシング流路内で前記電極部と前記検出部との間に配置され、前記第1及び第2壁部が離間する左右方向に沿って互いに間隔をおいて配置された一対の対向電極からなる第2方向制御電極対とをさらに備え、前記第1及び第2方向制御電極対に印加される電圧により、前記深さ方向及び前記左右方向に沿う前記流体ジェットの方向が調整可能とされている。
さらに、前記検出部と前記第1及び第2方向制御電極対とに接続された電圧制御手段をさらに備え、前記電圧制御手段は、所定の調整タイミング時に、前記検出部の出力がゼロとなるように、前記第1及び第2方向制御電極対に印加する電圧の値を決定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の流体レートジャイロによれば、空間部内に封入された電界共役流体に電極部により電圧を印加することで流体ジェットを発生させ、前記ケーシングに角速度が加えられた際の前記流体ジェットの偏向により発生する前記検出部の出力変化に基づいて、前記角速度を求めるので、圧電素子を用いる気体ポンプを採用する場合と比べてジャイロ全体を小形化でき、適用範囲を広げることができる。また、圧電素子を用いる気体ポンプを採用する場合と異なり、機械的な可動部分を無くすことができ、耐久性を向上できる。さらに、前記気体ポンプを採用する場合に比べて、低コスト化及び軽量化を実現できる。
また、前記電極部は、少なくとも1組の針電極及びリング電極からなり、針電極本体及びリング電極本体間に電圧が印加されることで、スリット孔及び貫通孔を通過する前記流体ジェットを発生させるので、センシングに利用可能な流体ジェットをより確実に発生させることができ、より確実にジャイロ全体の小形化を実現できる。
さらに、ケーシングは、空間部が設けられた基部と、基部に取り付けられる蓋部とからなり、基部には、空間部の外周側に輪状の封止部材が取り付けられているので、製造を容易にすることができるとともに、電界共役流体をより確実に封入できる。
さらにまた、前記検出部は、前記センシング流路の下流側で、前記センシング流路の長手方向に沿う前記電極部の軸線を中心として、対となるように配置された第1及び第2ホットワイヤを有しているので、より確実に前記流体ジェットの偏向を検出でき、前記角速度をより確実に求めることができる。
また、前記第1及び第2方向制御電極対に印加される電圧により、前記深さ方向及び前記左右方向に沿う前記流体ジェットの方向が調整可能とされているので、電極部と検出部との間の電位差に伴う非一様な電界分布によって発生する前記流体ジェットの偏流を解消でき、この偏流が角速度検出に影響を及ぼす可能性を低減できる。
さらに、前記電圧制御手段が、所定の調整タイミング時に、前記検出部の出力がゼロとなるように、前記第1及び第2方向制御電極対に印加する電圧の値を決定するので、前記流体ジェットの偏流を調整タイミング時に解消でき、偏流が角速度検出に影響を及ぼす可能性をより確実に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による流体レートジャイロを示す平面図であり、基部20に蓋部21が取り付けられた状態を示している。図2は、図1の流体レートジャイロの断面図である。図3は、図1の基部20から蓋部21が取り外された状態を示す平面図である。なお、従来の流体レートジャイロと同一又は同等部分については同一の符号を用いて説明する。
図2において、箱形のケーシング1は、基部20と、蓋部21とから構成されている。図3に示すように、基部20には、空間内壁22、流路壁23、及び溝24が設けられている。空間内壁22は、内側に凹状の空間部1aを形成する円環状の壁であり、前記流路壁23は、前記空間部1a内で前記基部20と一体に立設された第1及び第2壁部23a,23bにより構成されている。これら第1及び第2壁部23a,23bは、互いに離間されて配置されており、前記空間部1a内の中央にセンシング流路25を形成している。また、第1及び第2壁部23a,23bと前記空間内壁22との間には、前記センシング流路25を囲む輪状の戻り流路26が形成されている。また、前記センシング流路25の上流側25aには、電極部27が設けられている。後に詳しく説明するが、電極部27は、2組の針電極28及びリング電極29がセンシング流路25内で直列に配置されたものである。
【0011】
図1及び図2に示すように、前記センシング流路25の下流側25bには、検出部6が配置されている。この検出部6は、従来のガスレートセンサと同様に、第1及び第2ホットワイヤH1,H2を有している。すなわち、前記蓋部21の下流側25bには、第1〜第4電極11〜14が取り付けられており、前記第1及び第2電極11,12の先端間に第1ホットワイヤH1が張設され、前記第3及び第4電極13,14の先端間に第2ホットワイヤH2が張設されている。後に図面を用いて説明するが、これら第1及び第2ホットワイヤH1,H2は、ブリッジ回路45(図10参照)に組み込まれている。
【0012】
第1及び第2ホットワイヤH1,H2は、前記下流側25bで、センシング流路25の長手方向Aに沿う電極部27の軸線27aを中心として、互いに対称に離間されて配置されている。また、図2に示すように、第1電極11よりも下流側25bに位置する第2電極12は、前記第1電極11よりも前記空間部1aの深さ方向Bに突出しており、前記長手方向Aに沿って見たときに前記第1ホットワイヤH1は前記深さ方向Bに沿って延在されている。図示はしないが、この第1ホットワイヤH1と同様に、前記長手方向Aに沿って見たときに前記第2ホットワイヤH2も前記深さ方向Bに沿って延在されている。
【0013】
また、図2に示すように、前記基部20の溝24には、例えばOリング等の環状の封止部材30が取り付けられている。すなわち、前記溝24に封止部材30が取り付けられた状態で、図1のように前記基部20に前記蓋部21が取り付けられることで、前記空間部1aは密封される。この空間部1a内には、例えば特開平10−88174号公報や特開2000−239683号公報等に記載された周知の電界共役流体31が封入されている。電界共役流体31は、特開平10−88174号公報や特開2000−239683号公報等に記載されたものの単品でも混合物でもよい。
【0014】
次に、図4は図3の針電極28を拡大して示す正面図であり、図5は図4の針電極28を示す平面図である。図において、針電極28は、板状の針電極支持板35と、針電極本体36とを有している。針電極支持板35には、一対のスリット孔35aが互いに離間されて設けられている。針電極本体36は、針電極支持板35とは別体に設けられており、針電極支持板35の前記スリット孔35a間に取り付けられている。図1のように基部20に蓋部21が取り付けられた状態のセンシング流路25には、互いに離間されて溝(図示せず)が設けられており、この溝に針電極支持板35が取り付けられることで、針電極28がセンシング流路25内に固定される。
【0015】
次に、図6は図3のリング電極29を拡大して示す正面図であり、図7は図6のリング電極29を示す平面図である。図において、リング電極29は、中心に円形の貫通孔37aが設けられたリング電極本体37を有している。このリング電極本体37は、前記センシング流路25内の溝にリング電極本体37が取り付けられることで、リング電極29がセンシング流路25内に固定される。
【0016】
図8は図4の針電極28と図6のリング電極29とを用いての流体ジェット発生の概念を示す説明図であり、図9は図8の流体ジェットを示す平面図である。図において、前記針電極28及び前記リング電極29、具体的には針電極本体36及びリング電極本体37間には、高電圧の直流電圧39が印加されている。例えば特許第3157804号等に示されているように、特定の絶縁性液体である電界共役流体31に電圧を印加することにより、印加電圧に対応した絶縁性液体の移動流、すなわち流体ジェット40を発生させることができる。なおこの場合、針電極本体36とリング電極本体37へ印加する電圧は各極性が反対であれば極性は不問である。
【0017】
図9に示すように、前記針電極28及び前記リング電極29は、前記針電極本体36と前記貫通孔37aとが互いに対向するように配置されている。電極部27の軸線27aは、これら針電極本体36及び貫通孔37aを結ぶ直線である。この状態で、前記針電極本体36と前記リング電極本体37との間に高電圧の直流電圧39が印加されることで、前記各スリット孔35a及び貫通孔37aを通過する前記流体ジェット40が発生する。
【0018】
図1〜図3に示すように、センシング流路25内には、2組の前記針電極28及び前記リング電極29が直列に配置されており、これによって、より活発な流体ジェット40を発生できるように構成している。この流体ジェット40は、図1及び図3に示す軸線27aに沿ってセンシング流路25の下流側25bに進む。前記センシング流路25の下流側25bに位置する前記空間内壁22の第1内壁部22aには、前記センシング流路25を抜けた前記流体ジェット40の戻り流40aを、前記戻り流路26に沿うように、すなわちセンシング流路25の両脇に案内する突部41が設けられている。
【0019】
次に、図10は、図1の検出部6の回路構成を示す構成図である。図において、前記第1及び第2ホットワイヤH1,H2は、該第1及び第2ホットワイヤH1,H2と第1及び第2抵抗R1,R2とからなるブリッジ回路45に組み込まれている。このブリッジ回路45には、定電流源46が接続されており、第1及び第2ホットワイヤH1,H2が常に熱せられている。
【0020】
周知のように、軸線27aに直交する軸回りの角速度ωがケーシング1に加えられると、コリオリの力により流体ジェット40が偏向する。この流体ジェット40の偏向が発生すると、流体ジェット40による各ホットワイヤH1,H2の冷却に偏りが生じ、各ホットワイヤH1,H2の抵抗値に変化が生じる。このとき、ブリッジ回路45の出力電圧V1−V2に変化が生じて、検出部6の出力変化、すなわち出力電圧V1−V2の変化に基づいて、前記角速度ωが検出される。すなわち、この実施の形態の流体レートジャイロは、周知のホットワイヤアネモメトリを利用して角速度ωを検出している。
【0021】
このような流体レートジャイロによれば、電極部27により電界共役流体31に電圧が印加されることで流体ジェット40が発生し、ケーシング1に角速度ωが加えられた際の流体ジェット40の偏向により発生する検出部6の出力変化に基づいて、角速度ωを求めるので、ガス流を用いる従来構成に比べて、ジャイロ全体を小形化でき、適用範囲を広げることができる。また、圧電素子を用いる気体ポンプを採用する場合と異なり、機械的な可動部分を無くすことができ、耐久性を向上できる。さらに、気体ポンプを採用する場合に比べて、低コスト化及び軽量化を実現できる。
【0022】
また、電極部27は、直列に配置された2組の針電極28及びリング電極29からなり、針電極本体36及びリング電極本体37間に電圧が印加されることで、スリット孔35a及び貫通孔37aを通過する前記流体ジェット40が発生するので、センシングに利用可能な流体ジェットをより確実に発生させることができるとともに、より確実にジャイロ全体の小形化を実現できる。
【0023】
さらに、センシング流路25の下流側25bに位置する前記空間内壁22の第1内壁部22aには、前記センシング流路25を抜けた前記流体ジェット40をセンシング流路25の両脇に案内する突部41が設けられているので、戻り流40aを円滑に案内でき、すなわち電界共役流体31の循環を円滑にでき、角速度検出の精度を向上できる。
【0024】
さらにまた、ケーシング1は、空間部1aが設けられた基部20と、基部20に取り付けられる蓋部21とからなり、基部20には、空間部1aの外周側に輪状の封止部材30が取り付けられているので、製造を容易にすることができるとともに、電界共役流体31をより確実に封入できる。
【0025】
また、前記検出部6は、前記センシング流路25の下流側で、前記センシング流路25の長手方向Aに沿う前記電極部27の軸線27aを中心として、対となるように配置された第1及び第2ホットワイヤH1,H2を有しているので、より確実に前記流体ジェット40の偏向を検出でき、前記角速度ωをより確実に求めることができる。
【0026】
なお、実施の形態1では、2組の針電極28及びリング電極29が設けられていると説明したが、針電極及びリング電極の組数は、1つ又は3つ以上でもよい。また、膜状の平板電極により電極部27を構成してもよい。
【0027】
実施の形態2.
図11は本発明の実施の形態2による流体レートジャイロの針電極28を示す正面図であり、図12は図11の針電極28を示す平面図である。実施の形態1では、針電極本体36は針電極支持板35と別体に形成されていると説明したが、図11及び図12に示すように一体に設けられてもよい。
【0028】
このように、針電極支持板35及び針電極本体36を一体に設けることで、部品数を低減でき、管理コストや製造コストを抑えることができる。
【0029】
実施の形態3.
図13は本発明の実施の形態3による流体レートジャイロを示す平面図であり、図14は図13の流体レートジャイロを示す断面図である。実施の形態1では、軸線27aを中心として互いに対称に第1及び第2ホットワイヤH1,H2を離間させると説明したが、第2電極12を軸線27a上に配置し、この第2電極12を共通電極として、第1及び第2電極11,12間に第1ホットワイヤH1を張設し、第2及び第3電極12,13間に第2ホットワイヤH2を張設してもよい。この実施の形態3では、第2電極12を第1及び第3電極11,13よりも下流側25bに配置して、流体ジェット40に対して凹型のV字状に第1及び第2ホットワイヤH1,H2を配置している。また、前記空間部1aの深さ方向Bに沿う各電極11〜13の突出量は揃えられており、第1及び第2ホットワイヤH1,H2は軸線27aと同じ高さに配置されている。
【0030】
このように、軸線27a上に配置された第2電極12を共通電極として、軸線27aを中心に互いに対称に第1及び第2ホットワイヤH1,H2を配置することで、より細い流体ジェット40にも対応できる。
【0031】
実施の形態4.
図15は本発明の実施の形態4による流体レートジャイロを示す平面図であり、図16は図15の流体レートジャイロを示す断面図である。実施の形態3では、第2電極12を第1及び第3電極11,13よりも下流側25bに配置して、流体ジェット40に対して凹型のV字状に第1及び第2ホットワイヤH1,H2を配置すると説明したが、図15,図16に示すように、第1及び第3電極11,13を第2電極12よりも下流側25bに配置して、流体ジェット40に対して凸型のV字状に第1及び第2ホットワイヤH1,H2を配置してもよい。
【0032】
実施の形態5.
図17は本発明の実施の形態5による流体レートジャイロを示す平面図であり、図18は図17の流体レートジャイロを示す断面図である。実施の形態3,4では、V字状に第1及び第2ホットワイヤH1,H2を配置すると説明したが、図17,図18に示すように、軸線27aに直交する直線上に第1〜第3電極11〜13を配置して、直線状に第1及び第2ホットワイヤH1,H2を配置してもよい。
【0033】
なお、実施の形態1〜5では、検出部6として、ホットワイヤH1,H2を有する構成を説明したが、検出部としては、流体ジェットの偏向を検出できればよく、例えば特許願2007−061838で開示した構成、すなわち開口を有する基板と、前記開口を横断するように基板に設けられた接続部と、前記接続部上に蒸着形成された金属薄膜からなるセンシング用抵抗体とを備えた構成等でもよい。
【0034】
実施の形態6.
図19は本発明の実施の形態6による流体レートジャイロを示す平面図であり、図20は図19の流体レートジャイロを示す断面図である。この実施の形態6の構成は、実施の形態3の構成(図13,14)の構成に、第1及び第2方向制御電極対50,51と電圧制御手段52(図20参照)が追加された構成である。図19及び図20において、前記センシング流路25内の前記電極部27と前記検出部6との間には、第1及び第2方向制御電極対50,51が配置されている。前記第1方向制御電極対50は、前記空間部1aの深さ方向Bに沿って互いに間隔をおいて配置された一対の平板状の対向電極50a,50bにより構成され、前記第2方向制御電極対51は、前記第1及び第2壁部23a,23bが離間する左右方向Cに沿って互いに間隔をおいて配置された一対の棒状の対向電極51a,51bにより構成されている。すなわち、前記第1方向制御電極対50は前記流体ジェット40を上下方向に挟み、前記第2方向制御電極対51は前記流体ジェット40を左右方向に挟むものである。前記電圧制御手段52は、前記第1及び第2方向制御電極対50,51と前記検出部6とに接続されており、前記第1及び第2方向制御電極対50,51に印加する電圧を前記検出部6の出力に基づいて決定するものである。
【0035】
次に、前記第1及び第2方向制御電極対50,51と前記電圧制御手段52との動作について説明する。まず、前記電極部27及び前記検出部6が前記センシング流路25内にまとめて配置されているため、電極部27と検出部6との間の電位差に伴う非一様な電界分布によって前記流体ジェット40に偏流が生じ、角速度ωの検出に影響を及ぼしてしまう可能性が考えられる。具体的には、時計回りの角速度に対する感度と反時計回りの角速度に対する感度とが異なる可能性が考えられる。
【0036】
この実施の形態では、非一様な電界分布による前記流体ジェット40の偏流を解消するために、前記第1及び第2方向制御電極対50,51に印加する電圧により、前記深さ方向B及び前記左右方向Cに沿う前記流体ジェット40の方向が調整可能とされている。具体的には、前記第1方向制御電極対50に印加される電圧の大きさ及び向き(極性)が調整されることで、前記深さ方向Bに沿う前記流体ジェット40の方向が調整され、前記第2方向制御電極対51に印加される電圧の大きさ及び向き(極性)が調整されることで、前記左右方向Cに沿う前記流体ジェット40の方向が調整される。
【0037】
ところで、非一様な電界分布による前記流体ジェット40の偏流は、電極部27と検出部6との組み合わせによる固有の誤差と考えられるので、製造時にテストを行い、偏流を解消できる電圧の大きさ及び向きを手動で決定することも可能である。しかしながら、この実施の形態では、前記電圧制御手段52が、所定の調整タイミング時に、前記検出部6の出力がゼロとなるように、前記第1及び第2方向制御電極対50,51に印加する電圧の値を決定する。調整タイミングとは、例えばジャイロの電源が投入されたとき、又は調整指令信号が外部から入力されたとき等であり、このタイミング時にホットワイヤH1,H2に均等に流体ジェット40が供給されるように流体ジェット40の向きが調整される。
【0038】
このような流体レートジャイロでは、前記第1及び第2方向制御電極対50,51に印加される電圧により、前記深さ方向B及び前記左右方向Cに沿う前記流体ジェット40の方向が調整可能とされているので、電極部27と検出部6との間の電位分布によって発生する前記流体ジェット40の偏流を解消でき、この偏流が角速度検出に影響を及ぼす可能性を低減できる。
【0039】
また、前記電圧制御手段52が、所定の調整タイミング時に、前記検出部6の出力がゼロとなるように、前記第1及び第2方向制御電極対50,51に印加する電圧の値を決定するので、前記流体ジェット40の偏流を調整タイミング時に解消でき、偏流が角速度検出に影響を及ぼす可能性をより確実に低減できる。
角速度入力による偏流が零となるように制御電極に電圧印加が可能とするように前記電圧制御手段を設定することにより、零サーボを行うための手段ともなりうる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態1による流体レートジャイロを示す平面図である。
【図2】図1の流体レートジャイロの断面図である。
【図3】図1の基部から蓋部が取り外された状態を示す平面図である。
【図4】図3の針電極を拡大して示す正面図である。
【図5】図4の針電極を示す平面図である。
【図6】図3のリング電極を拡大して示す正面図である。
【図7】図6のリング電極を示す平面図である。
【図8】図4の針電極と図6のリング電極とを用いての流体ジェット発生の概念を示す説明図である。
【図9】図8の流体ジェットを示す平面図である。
【図10】図1の検出部6の回路構成を示す構成図である。
【図11】本発明の実施の形態2による流体レートジャイロの針電極を示す正面図である。
【図12】図11の針電極を示す平面図である。
【図13】本発明の実施の形態3による流体レートジャイロを示す平面図である。
【図14】図13の流体レートジャイロを示す断面図である。
【図15】本発明の実施の形態4による流体レートジャイロを示す平面図である。
【図16】図15の流体レートジャイロを示す断面図である。
【図17】本発明の実施の形態5による流体レートジャイロを示す平面図である。
【図18】図17の流体レートジャイロを示す断面図である。
【図19】本発明の実施の形態6による流体レートジャイロを示す平面図である。
【図20】図19の流体レートジャイロを示す断面図である。
【図21】従来の流体レートジャイロを示す構成図である。
【図22】図21の検出部を拡大して示す斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
1 ケーシング
1a 空間部
6 検出部
20 基部
21 蓋部
22 空間内壁
22a 内壁部
23 流路壁
23a,23b 第1及び第2壁部
25 センシング流路
25a 上流側
25b 下流側
26 戻り流路
27 電極部
27a 軸線
28 針電極
29 リング電極
30 封止部材
31 電界共役流体
35 針電極支持板
35a スリット孔
36 針電極本体
37 リング電極本体
37a 貫通孔
40 流体ジェット
41 突部
50,51 第1及び第2方向制御電極対
52 電圧制御手段
A 長手方向
B 深さ方向
C 左右方向
H1,H2 第1及び第2ホットワイヤ
ω 角速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空間部(1a)を有するケーシング(1)と、
前記空間部(1a)内に設けられ、互いに離間されてセンシング流路(25)を形成する一対の第1及び第2壁部(23a,23b)からなる流路壁(23)と、
前記空間部(1a)内に形成され、前記流路壁(23)と前記空間部(1a)を形成する空間内壁(22)との間で輪状をなす戻り流路(26)と、
前記センシング流路(25)の上流側(25a)に配置された電極部(27)と、
前記センシング流路(25)の下流側(25b)に配置された検出部(6)と、
前記空間部(1a)内に封入された電界共役流体(31)と
を備え、
前記電極部(27)により前記電界共役流体(31)に電圧が印加されることで流体ジェット(40)が発生し、前記ケーシング(1)に角速度(ω)が加えられた際の前記流体ジェット(40)の偏向により発生する前記検出部(6)の出力変化に基づいて、前記角速度(ω)を求めるように構成されたことを特徴とする流体レートジャイロ。
【請求項2】
前記電極部(27)は、少なくとも1組の針電極(28)及びリング電極(29)からなり、
前記針電極(28)は、前記ケーシング(1)に取り付けられるとともに少なくとも1つのスリット孔(35a)が設けられた針電極支持板(35)と、前記針電極支持板(35)に設けられた針電極本体(36)とを有し、
前記リング電極(29)は、前記ケーシング(1)に取り付けられるとともに貫通孔(37a)が設けられたリング電極本体(37)を有し、
前記針電極本体(36)と前記貫通孔(37a)とが互いに対向するように前記針電極(28)及び前記リング電極(29)が配置され、前記針電極本体(36)及び前記リング電極本体(37)間に電圧が印加されることで、前記スリット孔(35a)及び前記貫通孔(37a)を通過する前記流体ジェット(40)が発生することを特徴とする請求項1記載の流体レートジャイロ。
【請求項3】
前記ケーシング(1)は、
前記空間部(1a)が設けられた基部(20)と、
該基部(20)に取り付けられる蓋部(21)とからなり、
前記基部(20)には、前記空間部(1a)の外周側に輪状の封止部材(30)が取り付けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の流体レートジャイロ。
【請求項4】
前記検出部(6)は、前記センシング流路(25)の下流側(25b)で、前記センシング流路(25)の長手方向(A)に沿う前記電極部(27)の軸線(27a)を中心として、対となるように配置された第1及び第2ホットワイヤ(H1,H2)を有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の流体レートジャイロ。
【請求項5】
前記センシング流路(25)内で前記電極部(27)と前記検出部(6)との間に配置され、前記空間部(1a)の深さ方向(B)に沿って互いに間隔をおいて配置された一対の対向電極(50a,50b)からなる第1方向制御電極対(50)と、
前記センシング流路(25)内で前記電極部(27)と前記検出部(6)との間に配置され、前記第1及び第2壁部(23a,23b)が離間する左右方向(C)に沿って互いに間隔をおいて配置された一対の対向電極(51a,51b)からなる第2方向制御電極対(51)と
をさらに備え、
前記第1及び第2方向制御電極対(50,51)に印加される電圧により、前記深さ方向(B)及び前記左右方向(C)に沿う前記流体ジェット(40)の方向が調整可能とされていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の流体レートジャイロ。
【請求項6】
前記検出部(6)と前記第1及び第2方向制御電極対(50,51)とに接続された電圧制御手段(52)をさらに備え、
前記電圧制御手段(52)は、所定の調整タイミング時に、前記検出部(6)の出力がゼロとなるように、前記第1及び第2方向制御電極対(50,51)に印加する電圧の値を決定することを特徴とする請求項5記載の流体レートジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−145317(P2009−145317A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138134(P2008−138134)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、「電界共役流体を用いた新型レートジャイロの研究」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000203634)多摩川精機株式会社 (669)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)