説明

流体噴射装置

【課題】噴射した流体を吸引によって回収する流体噴射装置において、構造や制御の複雑化を招くことなく、吸引口に吸い付いた生物組織を解放可能とする。
【解決手段】吸引管の側面の少なくとも一部を弾性部材によって形成し、弾性部材には、
吸引管の負圧によって弾性部材が変形すると開口して、吸引管内の負圧を開放する負圧開放部を形成しておく。こうすると、対象物が吸引口に吸い付いたときに、吸引管の内部の負圧で弾性部材が変形することによって負圧開放部が開口する。このため、吸引管の内部の負圧が開放されることによって、吸い付けた対象物を吸引口から離すことができる。また、負圧開放部は、吸引口に対象物が吸い付くと自動的に開口するので、負圧開放部を開閉するための制御を行う必要がない。加えて、圧力センサーなどは不要であり、構造が複雑化することもない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから流体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水や整理食塩水などの流体を加圧して、ノズルから術部に向けて噴射することにより、生物組織を切除する流体噴射装置が開発されている。このような流体噴射装置を用いた手術では、神経や血管などを傷つけることなく臓器などの組織を選択的に切除することができるので、患者への負担を小さくすることが可能である。
【0003】
また、ノズルから噴射した流体が術部に溜まると、術部が見えにくくなって生物組織を所望の位置で切除することが困難となったり、あるいは噴射した流体の勢いが術部の流体によって弱められて、切除力が低下するなどの弊害が生ずる。そこで、流体噴射装置に吸引装置を設けておき、術部に噴射した流体を吸引装置の吸引口から吸引することにより、こうした弊害が生ずることを回避する技術が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、術部の流体を吸引する際には、生物組織が吸引口に吸い付くことで、切除の際に邪魔となってしまう場合がある。そこで、吸引口に接続された吸引流路内に圧力センサーを設けておき、圧力センサーでの検出値が所定値よりも大きくなった場合に吸引量を小さくすることで、吸い付いた生物組織を解放する技術も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−90957号公報
【特許文献2】特開2007−229010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来技術によって生物組織を解放しようとすると、吸引流路に圧力センサーを設ける必要があり、更に圧力センサーでの検出結果に基づいて吸引量を調節するための制御が必要となるため、流体噴射装置の構造や制御が複雑となってしまうという問題があった。
【0007】
この発明は、上述した従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、噴射した流体を吸引によって回収する流体噴射装置において、構造や制御の複雑化を招くことなく、吸引口に吸い付いた生物組織を解放可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の流体噴射装置は次の構成を採用した。すなわち、
対象物に向けて流体を噴射するノズルと、該対象物に噴射された流体を吸引する吸引口とを有する流体噴射装置であって、
前記吸引口が先端に設けられた吸引管と、
前記吸引管の内部を負圧にすることによって、前記吸引口から前記流体を吸引する吸引手段と
を備え、
前記吸引管は、側面の少なくとも一部が弾性部材によって形成されており、
前記弾性部材には、前記吸引管の負圧によって該弾性部材が変形すると開口して、該負圧を開放する負圧開放部が形成されていることを要旨とする。
【0009】
このような本発明の流体噴射装置では、流体を吸引中に対象物が吸引口に吸い付くと、吸引管の内部の負圧で弾性部材が変形することによって、弾性部材に形成された負圧開放部が開口する。尚、負圧開放部は、例えば弾性部材を貫通するスリットを弾性部材に設けることによって、負圧開放部を形成することとしてもよい。また、スリットを弾性部材に設けるのではなく、吸引管の側面の一部に設けた弾性部材と吸引管との境目の部分をスリットとすることよって、負圧開放部を形成することとしてもよい。こうして負圧開放部が開口すると、吸引管内の負圧が負圧開放部から開放される。
【0010】
こうすれば、吸引管の内部の負圧を開放することによって、吸い付けた対象物を吸引口から離すことができる。また、負圧開放部は、吸引口に対象物が吸い付くと自動的に開口するので、負圧開放部を開閉するための制御を行う必要がない。加えて、圧力センサーなどは不要であり、構造が複雑化することもない。
【0011】
また、本発明の流体噴射装置では、吸引管の先端に筒形状の弾性部材を取り付けるとともに、弾性部材の側面を貫通するスリットを形成し、このスリットを負圧開放部とすることとしてもよい。尚、吸引管の先端の弾性部材は筒形状であればよく、従って完全な円筒形状に限られず、例えば断面が多角形の筒形状であってもよい。
【0012】
こうすれば、弾性部材を吸引管の先端に取り付けるだけで、簡単に吸引管の側面の一部を弾性部材によって形成することができる。また、吸引管の先端にスリットが設けられているので、対象物に噴射した流体を吸引する際には、このスリットからも流体を吸引することが可能となる。更に、弾性部材のように比較的軟らかい部材で吸引管の先端を形成しておけば、対象物を吸い付けたときの当たりを弱くすることができるので、対象物を傷つけることを抑制できる。
【0013】
また、本発明の流体噴射装置は、ノズルから生物組織に向けて流体を噴射することによって、神経や血管などを傷つけることなく臓器などの生物組織を選択的に切除することができ、しかも噴射した流体を吸引する際には、吸引口が生物組織を吸い付け続けてしまうことを回避できる。従って、生物組織の切除を行う医療機器として好適に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施例の流体噴射装置の構造を示した説明図である。
【図2】本実施例の流体噴射装置の吸引口に生物組織が吸い付いた場合に、生物組織が切除の邪魔となることを回避可能な理由を示した説明図である。
【図3】第1変形例の先端部材のスリットの配置を示した説明図である
【図4】第1変形例の先端部材のスリットの配置とすることのメリットを示した説明図である。
【図5】第2変形例の流体噴射装置の吸引管の先端部の構造を示した説明図である。
【図6】第3変形例の流体噴射装置の吸引管の先端部の構造を示した説明図である。
【図7】円筒形状とは異なる形状によって先端部材を設ける様子を例示した説明図である。
【図8】流体噴射装置が流体を噴射する方法の別例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.流体噴射装置の構造:
B.流体噴射装置の動作:
C.変形例:
C−1.第1変形例:
C−2.第2変形例:
C−3.第3変形例:
【0016】
A.流体噴射装置の構造 :
図1は、本実施例の流体噴射装置100の構造を示した説明図である。図1(a)には、流体噴射装置100の断面図が示されており、図1(b)には、流体が噴射される流体噴射装置100の先端部分の外観図が示されている。図1(a)に示されているように、本実施例の流体噴射装置100は、おおまかには、第1ケース110、第2ケース120、および第2ケース120から立設された流体噴射管130や吸引管140などから構成されている。
【0017】
第1ケース110には、前方(図面左側)に開口部が設けられており、この開口部を塞ぐようにして金属製の薄いダイアフラム112が設けられ、ダイアフラム112の周縁部が第1ケース110に接着されている。また、ダイアフラム112によって塞がれた第1ケース110の内部には、圧電素子114が収納されている。そして、圧電素子114の後面(図面右側の面)は第1ケース110の後側の内壁に接着され、圧電素子114の前面(図面左側の面)とダイアフラム112との間には、圧電素子114とダイアフラム112との隙間に相当する厚みの補強板116が設けられている。
【0018】
第2ケース120は、ネジ止めなどによって第1ケース110の前面(ダイアフラム112が設けられた面)に取り付けられる。第2ケース120の後面(第1ケース110と合わさる側の面)には円形の浅い凹部が設けられており、第2ケース120を第1ケース110に取り付けると、凹部とダイアフラム112とによって流体室122が形成される。また、第2ケース120には、第2ケース120の側方から流体室122に流体を供給するための入口流路120iが設けられている。入口流路120iは、噴射しようとする流体が貯められた流体タンク(図示せず)にチューブを介して接続されており、供給ポンプ(図示せず)を駆動して流体タンクの流体を吸い上げることにより、流体室122に流体が供給されるようになっている。更に、第2ケース120の凹部の中央の位置には、流体室122で加圧された流体が通過する出口流路120oが設けられている。
【0019】
流体噴射管130は、細い管状に形成された金属製の部材であり、先端にノズル132が設けられている。第2ケース120の前面には、円柱形状の凸部が設けられており、この凸部の中心位置に、流体噴射管130を取り付けるための取付孔が設けられている。そして、取付孔に流体噴射管130の後端を挿入すると、第2ケース120の出口流路120oと流体噴射管130の内部の流路(噴射流路134)とが接続されることにより、流体室122が、出口流路120o、噴射流路134と経て、ノズル132に接続されるようになっている。
【0020】
吸引管140は、流体噴射管130よりも一回り大きな径の管状部材であり、第2ケース120の凸部に対して吸引管140の内径部分が挿着される。この状態で、吸引管140は流体噴射管130の同心円上に配置されて、吸引管140の内側と、流体噴射管130の外側との間に隙間(吸引流路144)が形成される。また、吸引流路144は、チューブを介して吸引ポンプ150(吸引手段)に接続されている。詳細には後述するが、本実施例の流体噴射装置100では、流体を噴射中に吸引ポンプ150を駆動しておくことにより、噴射した流体が、吸引管140の先端(吸引口142)から回収されるようになっている。
【0021】
また、本実施例の吸引管140は、先端部分がゴム製の別部材(先端部材146)によって構成されている。尚、本実施例の先端部材146は、吸引管140の他の部分の材料よりも軟らかい材料であればよい。従ってゴムに限られず、例えば樹脂などによって先端部材146を形成することとしてもよい。
【0022】
また、図1(b)に示されているように、先端部材146には、外周から先端部材146の内壁まで達する複数の切り込み(スリット146s)が設けられている。これらのスリット146sは、吸引管140の軸方向と平行な直線状をしており、スリット146sどうしを等間隔に配置した状態で先端部材146の外周を一周するように設けられる。尚、本実施例のスリット146sは直線状であるが、スリット146sは完全な直線でなくてもよく、例えばスリット146sを波形状に設けることも可能である。
【0023】
B.流体噴射装置の動作 :
図1に示した本実施例の流体噴射装置100は、次のように動作する。先ず、供給ポンプ(図示せず)を駆動することによって、流体室122内を流体で満たしておく。続いて、正電圧を印加して圧電素子114を伸長させ、ダイアフラム112を変形させることによって、流体室122の容積を減少させる。その結果、流体室122の流体が加圧され、出口流路120oおよび噴射流路134を介してノズル132から噴射される。
【0024】
流体を噴射したら、圧電素子114に印加した電圧を取り除く。すると、圧電素子114が元の長さに復元し、それに伴って流体室122の容積が元の容積に復元する。その動きと共に、供給ポンプから流体室122に流体が供給される結果、圧電素子114を駆動する前の状態に復帰する。そして、この状態から再び圧電素子114に正電圧を印加すると、圧電素子114が変形して、流体室122から押し出された分の流体がノズル132から噴射される。このように、本実施例の流体噴射装置100では、圧電素子114に正電圧を印加する度に、ノズル132からパルス状の流体が噴射される。従って、噴射された流体の圧力によって生物組織を切除することができる。
【0025】
また、流体を噴射して生物組織の切除を行っている間は、チューブを介して吸引管140に接続された吸引ポンプ150を駆動しておく。こうすると、吸引管140の内部(吸引流路144)が負圧となるので、ノズル132から生物組織に向けて噴射された流体や切除した生物組織が、吸引口142から吸い込まれる。その結果、ノズル132から噴射した流体などが溜まって術部の視野が悪くなったり、あるいは噴射した流体の勢いが術部の流体などによって弱められて、切除力が低下したりすることを回避できる。
【0026】
ここで、吸引管140の内部は負圧となっているので、吸引口142が生物組織に近づきすぎた状態で流体噴射装置100が使用されると、吸引口142に生物組織が吸い付けられることがある。しかし、本実施例の流体噴射装置100では、生物組織が吸引口142に吸い付けられたとしても、この生物組織が切除の邪魔になることが無い。以下ではこの点について説明する。
【0027】
図2は、本実施例の流体噴射装置100の吸引口142に生物組織が吸い付いた場合に、生物組織が切除の邪魔となることを回避可能な理由を示した説明図である。前述したように、流体を噴射して生物組織を切除中は、噴射した流体を吸引するために吸引管140の吸引流路144内が負圧となっているので、吸引口142が生物組織に近づきすぎると、図2(a)に示されるように、吸引口142に生物組織が吸い付けられる。
【0028】
このように生物組織が吸い付くと、生物組織によって吸引口142が密閉された状態で吸引ポンプ150が駆動し続けることによって、吸引管140の内部の負圧が大きくなる。ここで、本実施例の吸引管140は、先端部分がゴム製の先端部材146で構成されている。このため、吸引管140内の負圧が所定の値よりも大きくなると、この負圧に引き寄せられて、吸引管140の内側に向かうように先端部材146が変形する。その結果、図2(b)に示されるように、スリット146sが開口して吸引管140内に大気が導入されるので、吸引管140内の負圧が小さくなる。このため、図2(c)に示されるように、生物組織が吸引口142から離れる。また、吸引口142の密閉状態が解除されると、先端部材146が元の形状に復帰する。
【0029】
このように本実施例の流体噴射装置では、吸引口142に生物組織が吸い付けられて吸引管140の内部の負圧が所定値まで上昇すると、その負圧によって先端部材146が変形してスリット146sが開口することにより、吸引管140内の負圧を小さくすることができる。従って、吸引管140内の負圧が大きくなることが防止することができるので、吸引口142に吸い付いた生物組織が切除の邪魔になることを回避することが可能である。
【0030】
また、本実施例の流体噴射装置100によれば、スリット146sを設けた先端部材146によって吸引管140の先端部分を構成しておくだけで、吸引管140の内部の負圧が所定値よりも大きくなったときに負圧を自動的に下げることができる。従って、吸い付いた生物組織が切除の邪魔になることを回避することが可能でありながら、流体噴射装置100の制御が複雑となってしまうことを回避することができる。
【0031】
さらに、本実施例の流体噴射装置100は、吸引管140の先端部分(先端部材146)が、軟らかい材料(本実施例ではゴム)によって形成されている。従って、吸い付いた生物組織が先端部材146から離れるまでの間に、先端部材146が当たることによって生物組織が傷められることも抑制することができる。加えて、吸引管140の先端部分にスリット146sが設けられていることにより、スリット146sからも術部の流体を吸引することが可能である。
【0032】
さらに加えて、本実施例の流体噴射装置100では、吸引管140の内側に流体噴射管130が設けられており、流体噴射管130が吸引口142の付近まで延びている。従って、吸引口142に吸い付いた生物組織が吸引管140の奥の方まで入り込もうとしても、流体噴射管130が障害となって入り込むことを防止できる。
【0033】
C.変形例 :
上述した実施例には、いくつかの変形例が考えられる。以下では、これらの変形例について簡単に説明する。尚、以下に説明する変形例において、上述した実施例と同様の構成部分については、実施例と同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0034】
C−1.第1変形例 :
上述した実施例では、流体噴射管130は、吸引管140の中心位置に設けられており、且つ先端部材146の複数のスリット146sは、先端部材146の外周を一周して等間隔に設けるものと説明した。ここで、流体噴射管130は、吸引管140の中心位置に対して偏心して設けられる場合がある。この場合には、先端部材146のスリット146sを次のように配置することとしてもよい。
【0035】
図3は、第1変形例の先端部材146のスリット146sの配置を示した説明図である。図3には、流体が噴射される側から先端部材146を見た様子が示されている。図示されているように第1変形例の流体噴射装置100では、流体噴射管130が、吸引管140の中心位置に対して少し上方に偏心して設けられおり、これにより流体噴射管130の下側の吸引流路144の断面積が大きくなっている。従って、切除した生物組織が比較的大きな場合でも、組織を吸引流路144に詰らせることなく吸引可能である。こうした流体噴射装置100の先端部材146では、流体噴射管130が吸引管140に対して偏心している側で、スリット146sの間隔が疎(スリット146sの数が少ない状態)となっており、逆に流体噴射管130が偏心している側と反対側では、スリット146sの間隔が密(スリット146sの数が多い状態)となっている。
【0036】
図4は、第1変形例の先端部材146のスリット146sの配置とすることのメリットを示した説明図である。尚、図4(a)には、第1変形例の流体噴射装置100が生物組織を吸い付けたときに、先端部材146が変形する様子が示されており、図4(b)には、参考として、流体噴射管130が吸引管140に対して偏心して設けられた流体噴射装置100において、先端部材146のスリット146sが等間隔に設けられた場合の先端部材146が変形する様子が示されている。
【0037】
図4(a)に示した第1変形例の先端部材146は、生物組織を吸い付けた場合、流体噴射管130が吸引管140に偏心している側では先端部材146の変形量が小さくなり、流体噴射管130が偏心している側と反対側では変形量が大きくなる。これは次のような理由による。すなわち、スリット146sの数が少ない側では、スリット146sとスリット146sとの間隔が広く、スリット146sの数が多い側では、スリット146sとスリット146sとの間隔が狭くなる。当然ながら、間隔が広い方が狭い方よりも変形しにくい。このため、吸引口142に生物組織が吸い付いた場合に、流体噴射管130が偏心している側よりも、流体噴射管130が偏心している側とは反対側のほうが大きく変形するのである。
【0038】
このような第1変形例の流体噴射装置100では、流体噴射管130が偏心している側の先端部材146の変形量を小さくすることで、先端部材146によって、流体噴射管130が偏心する側とは反対側に流体噴射管130が押されることを抑制することができる。また、流体噴射管130が偏心している側とは反対側の先端部材146の変形量を大きくすることで、偏心する側の反対側から、先端部材146によって流体噴射管130を支えることができる。従って、先端部材146のスリット146sを等間隔に設けた場合(図4(b)を参照)のように、流体噴射管130が偏心している側と、その反対側とで先端部材146の変形量が同じとならない。その結果、流体噴射管130を吸引管140に対して偏心して設けても、先端部材146に押されて流体噴射管130が曲がってしまうことを回避することが可能である。
【0039】
C−2.第2変形例 :
上述した実施例および第1変形例では、先端部材146のスリット146sは、吸引管140の軸方向と平行に設けられるものと説明した。しかし、スリット146sはどのような方向に設けられていてもよく、従って、例えば図5(a)に示されるように、吸引管140の軸方向に対して垂直な方向にスリット146sを設けることとしてもよい。このようにスリット146sを設けた場合でも、吸引管140内の負圧が大きくなると、図5(b)に示されるように、先端部材146が変形してスリット146sが大きく開口することにより、吸引管140内の負圧を小さくすることができる。従って、上述した実施例および変形例の流体噴射装置100と同様に、吸い付けた生物組織が切除の邪魔になることを回避することが可能である。
【0040】
C−3.第3変形例 :
上述した第2変形例では、吸引管140の軸方向と垂直な方向に先端部材146のスリット146sを設けるものと説明した。ここで、この方向にスリット146sを設ける場合、先端部材146の前端に、硬質の保持部材を設けることとしてもよい。
【0041】
図6は、第3変形例の流体噴射装置100の吸引管140の先端部分の構造を示した説明図である。図6(a)に示されるように、第3変形例の流体噴射装置100では、吸引管140の軸方向と垂直な方向にスリット146sが設けられるとともに、先端部材146の前端に、先端部材146の径とほぼ同じ径のリング状の保持部材148が取り付けられている。尚、第3変形例の保持部材148は、金属によって形成されているものとして説明するが、保持部材148は、先端部材146よりも硬い材料で形成されていればよく、従って例えば硬質の樹脂などによって形成することとしてもよい。
【0042】
このように保持部材148を先端部材146に設けておくと、先端部材146の前端が保持部材148の位置に保持される。従って、先端部材146が吸引管140内の負圧によって変形する際、先端部材146が、吸引管140の軸方向に縮むように変形することを抑制することができる。その結果、図6(b)に示されるように、スリット146sの前後の先端部材146のズレ量を大きくすることができるので、こうした保持部材148を設けない場合(図6(c)を参照)と比較して、先端部材146の前端部近くのスリット146sがより大きく開口させることができる。これにより、開口からより多くの大気を取り入れて、吸引管140内の負圧を速やかに小さくすることができるので、吸引口142に吸い付いた生物組織を速やかに解放することが可能となる
【0043】
以上、本実施例の液体噴射装置について説明したが、本発明は上記すべての実施例および変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。例えば、上述した実施例および変形例では、先端部材146は円筒形状に形成されるものと説明した。しかし、先端部材146は、吸引管140内の負圧によって変形してスリット146sが開口するものであれば、必ずしも円筒形状でなくてよい。従って、例えば図7(a)に示されるように、吸引管140の側面の一部を、スリットが形成された先端部材146によって構成することとしてもよい。また、スリット146sは、先端部材146が変形することによって開口可能であればよい。従って、図7(a)に示されているように、先端部材146に対してスリット146sが設けられることに限らず、図7(b)に示されるように、吸引管140の側面の一部を先端部材146で構成し、先端部材146と吸引管140との境目の一部(図面上では、先端部材146の上側と下側)にスリット146sを形成することも可能である。
【0044】
また、上述した実施例および変形例では、圧電素子114を駆動して流体室122の容積を増減させることによって、ノズル132から流体を噴射するものと説明したが、流体の噴射はどのような方法によって行うこととしてもよい。従って、例えば図8(a)に示されるように、レーザー発振器250に接続された光ファイバー252を流体噴射管230の内部に挿入しておき、光ファイバー252の先端付近の流体にレーザーを照射して流体を気化させたときの圧力上昇によってノズル232から流体を噴射することとしてもよい。また、図8(b)に示されるように、流体噴射管330のへの流路の途中に、電源350に接続された電熱ヒーター354を設けておき、電熱ヒーター354によって流路内の流体を気化させることによってノズル232から流体を噴射することとしてもよい。更に、図8(c)に示されるように、流体噴射管430の先端付近の側面の一部をダイアフラム412によって構成しておき、このダイアフラム412を、流体噴射管430の外側から圧電素子414を用いて変形させることによって流体噴射管430内の流体を加圧して、ノズル432から噴射することとしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
100…流体噴射装置、 110…第1ケース、 112…ダイアフラム、
114…圧電素子、 116…補強板、 120…第2ケース、
120i…入口流路、 120o…出口流路、 122…流体室、
130…流体噴射管、 132…ノズル、 134…噴射流路、
140…吸引管、 142…吸引口、 144…吸引流路、
146…先端部材、 146s…スリット、 148…保持部材、
150…吸引ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に向けて流体を噴射するノズルと、該対象物に噴射された流体を吸引する吸引口とを有する流体噴射装置であって、
前記吸引口が先端に設けられた吸引管と、
前記吸引管の内部を負圧にすることによって、前記吸引口から前記流体を吸引する吸引手段と
を備え、
前記吸引管は、側面の少なくとも一部が弾性部材によって形成されており、
前記弾性部材には、前記吸引管の負圧によって該弾性部材が変形すると開口して該負圧を開放する負圧開放部が形成されている流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射装置であって、
前記弾性部材は、前記吸引管の先端に取り付けられた筒形状の部材であり、
前記負圧開放部は、前記筒形状の側面を貫通して形成されたスリットである流体噴射装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の流体噴射装置を用いた医療器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−85596(P2013−85596A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226543(P2011−226543)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】