説明

流体輸送装置

【課題】実験動物等の被埋込体に埋め込んで用いる、薬液等の流体をプログラムされた設定条件に従って投与する流体輸送装置において、外部装置と通信するための通信電力と、流体輸送機構を駆動する駆動電力とには、その要求される性質が大きく異なり、一つの電源で賄うのは困難である。
【解決手段】体内に埋め込まれて用いられる流体輸送装置は、流体を収容するリザーバから流体を外部へ吐出させるための流体輸送機構と、流体輸送機構に電力を供給する第1電源部と、流体輸送機構の制御に関する設定条件を変更するための信号を外部装置である設定装置から受信する受信部と、受信部に電力を供給する第2電源部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体輸送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、体内に埋め込んで用いられる、薬液を定期的に吐出する装置が知られている。特に、ラット、モルモット等の小動物の皮下に埋め込み、薬液を定期的に小動物の体内に供給する流体輸送装置としての薬液供給装置が知られている。このような装置を埋め込んだ実験動物により、薬液の効力が検証されている(特許文献1)。また、人体内に埋め込んでインスリンを患者に供給する人工膵臓装置も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−275548号公報
【特許文献2】特開2001−286555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
薬液等の流体を貯蔵部から装置外へ吐出させる場合、プログラムされた設定条件に従って、マイクロメカニズム等の流体輸送機構を駆動する。設定条件は、装置が体内へ埋め込まれる前に、外部装置であるPC等からの指示により、通信手段を介して書き換えられる。また、薬液投与等終了後ポンプ内部から注入に伴うログ情報の読み出し時に使用される。したがって、流体輸送装置に要求される電力としては、少なくとも流体輸送機構を駆動する駆動電力と、PC等からの指示に伴うデータの送受信のための通信電力が挙げられる。
【0005】
しかしながら、これらに要求される電力には、その性質に大きな違いがある。通信手段は設定条件を変更するために用いられるのであるから、主に流体輸送装置が体内に埋め込まれる直前と投与終了後のデータ読み込み時のごく僅かな期間のみに用いられるに過ぎない。そして、この通信のための電力供給には、高い電圧が要求されるのが一般的である。一方、流体輸送機構の駆動は、流体輸送装置が体内に埋め込まれた後に行われるものであり、設定条件に従って周期的、継続的に行われる。その電圧は比較的小さくて済むものの、体内に埋め込まれてしまった後の正常動作確認は困難であるので、自立的な安定動作が求められる。このように、要求される仕様が異なる電力を、一つの電源で賄うのは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、体内に埋め込まれて用いられる流体輸送装置であって、流体を収容するリザーバから流体を外部へ吐出させるための流体輸送機構と、流体輸送機構に電力を供給する第1電源部と、流体輸送機構の制御に関する設定条件を変更するための信号を外部装置である設定装置から受信する受信部と、受信部に電力を供給する第2電源部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施形態に係る流体輸送装置100の利用形態の一例を示す図である。
【図2】流体輸送装置100の上面図である。
【図3】流体輸送装置100の左側面図である。
【図4】流体輸送装置100の正面図である。
【図5】流体輸送装置100の下面図である。
【図6】流体輸送装置100の要部断面図である。
【図7】流体輸送装置100が密封パッケージ300に収納された状態を示す図である。
【図8】流体輸送装置100の設定条件を変更する通信システムの概略図である。
【図9】流体輸送装置100の要部回路図である。
【図10】PCにおける設定条件の変更画面の一例である。
【図11】PCにおけるインターフェイス画面の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1は、本実施形態に係る流体輸送装置100の利用形態の一例を示す図である。例えば、流体輸送装置100は、実験用ラット20の背中付近の皮下に埋め込まれて用いられる。流体輸送装置100は、予め設定された条件に従って、薬液等の流体をマイクロポンプによりラットの体内へ吐出する。設定条件は、マイクロポンプの駆動開始時刻、駆動スピード、駆動時間、駆動間隔等の条件としてプログラム化され、マイクロポンプはプログラムによって流体を吐出するように制御される。
【0010】
流体としては、例えば薬液、栄養液などの液体に限らず、吐出させたい成分を含んだゲル、ガスなどであっても良い。また、流体輸送装置100は、実験用ラット20に埋め込むことができる程度の大きさであるので、埋め込む対象は実験動物に限らず、人体へも応用できる。人体の皮下に埋め込むことにより、例えば、血管、筋肉等に対して定期的に薬液を投与することができる。
【0011】
次に、流体輸送装置100について説明する。図2は、流体輸送装置100の上面図である。筐体としての外装ケース101は、マイクロポンプ102等から構成される流体輸送機構、これを制御する制御基板等を密閉して格納しており、流体輸送装置100が体内に装着されたときに、体液、血液等が筐体内に進入することを防いで、安定した吐出動作を実現する。
【0012】
薬液等の流体を貯蔵するリザーバー110は、流体が充填されているときには膨らみ、送出されたときにはその容積が縮小するように袋状に形成されている。リザーバー110は、流体が充填されているときには、中央部分の厚みが大きくかつ周縁に向かって小さくなる形状を有する。また、リザーバー110は、外装ケース101の傾斜部109に設けられた開口部130にリザーバー枠120を介して保持されており、流体注入栓108を備える注液ポート107に接続する流体注入口部111と、チューブ105に接続する流体排出口部112とを有している。なお、外装ケース101外のリザーバー110と外装ケース101内のチューブ105の接続は、接続部材113を介して行い、外装ケース101内の密封性を確保している。
【0013】
マイクロポンプ102は、第1カム103、第2カム104、チューブ105、フィンガー106等から構成される。同一軸に軸止された第1カム103及び第2カム104は、平面外形形状が樽型の小型ムーブメントのステップモータにより輪列を介して駆動される。
【0014】
チューブ105は弾性を有し、耐薬品性能に優れ・水分等の揮発、蒸発を極力抑えることのできるオレフィン系チューブから構成されている。そして、チューブ105は案内溝に沿って、その一部が第1カム103及び第2カム104の回転中心を中心とする同心円状に倣うように配置されている。
【0015】
複数のフィンガー106は、回転中心から放射状かつ等間隔であって、チューブ105と第1カム103及び第2カム104の間に設けられたフィンガー案内溝上に配列されている。フィンガー106は、フィンガー案内溝内において放射方向に移動可能に配列されており、第1カム103及び第2カム104によって押圧されてチューブ105を閉塞する。
【0016】
具体的には、第1カム103及び第2カム104を図2において時計回りに回転させると、そのカム面が複数のフィンガー106を時計回りの順に押していく。これにより、これらのフィンガー106は、チューブ105の側面を外側から押圧して閉塞することになり、流体を上流側から下流側へ移動させる。そして、さらに第1カム103及び第2カム104を回転させると、カム面はフィンガー106から乖離する方向へ移動するので、チューブ105の弾性力により、それぞれのフィンガー106は、同じく時計回りに順次チューブ105を開放する方向へ移動する。この動作を繰り返すことにより、チューブ105は閉塞と開放を繰り返して、流体を上流側から下流側へ蠕動運動させ、吐出口114に向かって流動させる。なお、吐出口114は、チューブ105の一端に接続され、流体輸送装置100の外部に延在されている。そして、必要に応じて、流体を体内の適当な箇所まで導く、生体整合性のあるオレフィン系チューブに接続される。なお、これらマイクロポンプ102の各構成要素は、体内に埋め込む前であれば、外装ケース101の一部を構成する窓部121を通して観察することができる。
【0017】
外装ケース101は、取付部132を有している。この取付部132を利用して、例えば糸等により被埋込体の皮下の体内に縫いつけて、流体輸送装置100を固定する。
【0018】
図3は、流体輸送装置100の左側面図である。図からもわかるように、注液ポート107は、外装ケース101に対して若干突出している。これは、流体輸送装置100を皮下に埋め込んだときに、この部分が皮膚を押し上げて隆起するので触診等による、流体補充箇所の目印になるからである。
【0019】
皮下への埋め込み後に薬液等の流体を補充する方法について説明する。リザーバー110への流体の補充には、注射器を用いる。補充する流体を充填した注射器の注射針を、流体注入栓108に刺挿して注入する。注入された流体は、流体注入口部111を経由してリザーバー110に貯蔵される。流体注入栓108は、弾性を有する素材で形成されているので、注射針を抜脱しても自己閉塞する。したがって、流体の補充はこの方法により、十分な回数にわたって繰り返し行うことができる。
【0020】
図4は、流体輸送装置100の正面図である。図示するように、外装ケース101の一部は傾斜部109が形成されており、リザーバー110もこの傾斜に沿うように保持されている。このように構成することで、流体輸送装置100を被埋込体の皮下に埋め込んだときに、皮膚の引張りを押さえることができる。
【0021】
図5は、流体輸送装置100の下面図である。流体輸送装置100の下面内側の近傍には、外部機器と赤外線通信を行う、送信部としての赤外LED202と、受信部としての赤外PD203が設けられている。赤外LED202は、赤外線発光ダイオードであり、赤外PDは、赤外線フォトダイオードである。赤外LED202と赤外PD203が配置されたそれぞれの位置に対応する外装ケース101の位置には、送信口122と受信口123が設けられている。ここで、送信口122及び受信口123は、外装ケース101に貫通孔として設けられているのではなく、その肉厚が他の部分に比べて若干薄く形成されるものであって、外装ケース101内の密封性を保っている。同時に、赤外線通信における信号の送受信を容易にしている。
【0022】
図6は、流体輸送装置100の要部断面図である。特に特徴的な構成要素が示されるように切断した断面であり、特定のラインに沿って切断した図ではない。また、すべての構成要素を示すものではない。
【0023】
上述のように、リザーバー110は、開口部130にリザーバー枠120を介して保持されており、注液ポート107に接続する流体注入口部111が接続されている。そして、リザーバー110の流体排出口部112に接続されているチューブ105は、複数のフィンガー106に押圧されるように配置されている。複数のフィンガー106は、フィンガー案内溝に沿って配置されているが、フィンガー案内溝は溝プレート115の上面に一括して形成されている。図示するように、チューブ105は、フィンガー106、第1カム103及び第2カム104と共に略同一平面上に配設されているので、流れ抵抗を減少させることができ、流体のスムースな吐出を実現している。
【0024】
複数のフィンガー106は、第1カム103及び第2カム104によって押されてフィンガー案内溝上を移動するが、第1カム103及び第2カム104は、ステップモータであるモータ207により、輪列116を介して回転させられる。そして、モータ207は、CPU201の制御により駆動される。具体的には後述する。
【0025】
モータ207及びCPU201へは、マイクロポンプ用電池208により電力が供給される。CPU201、マイクロポンプ用電池208は、制御基板としての基板117上に実装される。また、基板117のうち流体輸送装置100の下面に対向する面には、赤外LED202、赤外PD203、磁気スイッチ206、通信用電池204等が実装されている。特に、外装ケース101のうち赤外LED202及び赤外PD203に対向する部分は、それぞれ送信口122及び受信口123として、他の部分より若干厚みが小さく形成されている。具体的には、外装ケース101の外側に凹部が形成されており、内側は平坦である。これは、赤外LED202及び赤外PD203が平坦面と対向する方が、赤外光の拡散の観点から有利であることに依る。
【0026】
ここで、流体輸送装置100の滅菌処理について説明する。この滅菌処理は、流体輸送装置100が被埋込体の体内、皮下に挿入配置されることから、細菌汚染から被埋込体を防止するために菌を減少させるか滅亡させるかの処理であり、極めて重要な処理である。
【0027】
まず、流体導通経路を構成する部材に、滅菌処理を施す。上述のように流体導通経路を構成する部材は、流体注入栓108、流体注入口部111、リザーバー110、流体排出口部112、チューブ105及び吐出口114である。これらが組み立てられた後に滅菌処理を施す場合、エチレンオキサイドガスを用いたガス滅菌処理が好ましい。具体的には、流体注入栓108にエチレンオキサイドガス注入具を刺挿して、エチレンオキサイドガスを注入して循環させて、吐出口114の先端から排出する。このようにして、流体導通経路の全体がエチレンオキサイドガスにより滅菌される。その後、吐出口114の先端を封止して流体導通経路の滅菌状態を保つ。
【0028】
次に、流体輸送装置100全体に滅菌処理を施すが、この滅菌処理は図7に示す密封パッケージ300に流体輸送装置100を収納した状態で行う。図7は、流体輸送装置100が密封パッケージ300に収納された状態を示す図である。
【0029】
密封パッケージ300は、ブリスターパック形式が用いられる。ブリスターパックは、流体輸送装置100の形状に合わせてPET等を用いて成型された透明カバー301と、特殊素材を用いた台紙302を、周辺部で重ね合わせて熱圧着されて密封状態を形成している。ただし、台紙302は、エチレンオキサイドガスなどの滅菌ガスを通すが細菌は透過させない特殊素材を利用した滅菌紙である。滅菌紙の素材は、用いる滅菌ガスの種類に応じて適宜選択される。
【0030】
このように、密封パッケージ300に流体輸送装置100が収納された状態で、ガス環境下に置かれ、滅菌処理が行われる。流体輸送装置100は密封パッケージ300に収納されて、ユーザに提供されるので、ユーザが密封パッケージ300の台紙302を剥がすまでは、流体輸送装置100の滅菌状態を維持することができる。
【0031】
図8は、流体輸送装置100の設定条件を変更する通信システムの概略図である。ユーザは、流体輸送装置100を被埋込体に埋め込む前に、流体を吐出させる開始時刻、吐出スピード、吐出量、吐出間隔、繰り返し回数等の設定条件を、PC440のソフトウェアを用いて入力する。入力された設定条件は、所定のコマンドに変換されて、USBケーブル430を介して流体輸送装置100へ伝送される。
【0032】
流体輸送装置100は、PC440からのコマンドを受信するために、設定装置400のトレイ部402に載置される。設定装置400は、回路基板等が収納されたベース部401と、ヒンジ部410を介して開閉自在に接続されている蓋部411により構成されている。上述のように、PC440とは、USBケーブル430により接続されている。トレイ部402は、ベース部401の上面に設けられた窪みである。トレイ部402の内部には、流体輸送装置100が載置されたときに、上述の送信口122と受信口123がおよそ位置する部分の対向位置にそれぞれ、設定側受信口422と設定側送信口423が設けられている。
【0033】
ベース部401に収納された回路基板には、流体輸送装置100と赤外線通信を行う赤外LEDと赤外PDが実装されている。PC440から送信されてくるコマンドを変換して赤外LEDを発光させ、また、流体輸送装置100の赤外LED202による発光を赤外PDで検出して信号をPC440へ返す。したがって、これら赤外PDと赤外LEDは、設定側受信口422と設定側送信口423の直下に位置するように回路基板上に実装される。
【0034】
また、蓋部411には、透明カバー301の凸形状に対応するように、凹部412が設けられている。これにより、密封パッケージ300がトレイ部402に載置されて蓋部411が閉じられたときに、送信口122と受信口123が、設定側受信口422と設定側送信口423とそれぞれ対向するように、位置合わせが自ずとなされる。
【0035】
このように、設定装置400と流体輸送装置100の通信は、台紙302を挟んで無線で行われる。したがって、ユーザは密封パッケージ300から流体輸送装置100を取り出すことなく、流体輸送装置100の設定条件を変更することができるので、設定条件の変更時には密封パッケージ300の滅菌状態を破壊することがない。これにより、ユーザは、流体輸送装置100を被埋込体の皮下へ埋め込む直前まで、流体輸送装置100の滅菌状態を維持することができ、流体輸送装置100の設定条件を変更する作業を、通常環境下で急ぐことなく行うことができる。
【0036】
図9は、流体輸送装置100の要部回路図である。流体輸送装置100は、CPU201の制御に基づいて動作する。
【0037】
赤外LED202、赤外PD203、コンデンサ205及び磁気スイッチ206は通信部を構成し、これらは通信用電池204によって駆動される。モータ207は、上述のステップモータであり、CPU201の制御信号に従い、マイクロポンプ用電池208によって駆動される。
【0038】
密封パッケージ300がトレイ部402に載置されると、磁気スイッチ206は、ベース部401に埋め込まれたマグネットに反応してON状態に切り替わる。磁気スイッチ206がON状態に切り替わると、通信用電池204による電力の供給が開始されて、設定装置400との間で赤外線通信が行える状態になる。具体的には、赤外PD203は、設定装置400から送信されてくる赤外光の信号を受信し、これにより、CPU201は受信信号をデジタル変換して設定条件を変更する。上述のようにユーザは、流体を吐出させる開始時刻、吐出スピード、吐出量、吐出間隔、繰り返し回数等の設定条件をPC440のソフトウェアを用いて入力するが、この入力された設定条件が送信信号に変換されてCPU201へ送られてくる。CPU201は、この信号を受信すると、マイクロポンプ102の駆動開始時刻、駆動スピード、駆動時間、駆動間隔等の条件に変換して、プログラム化する。
【0039】
CPU201が設定条件を変更すると、設定変更完了信号を設定装置400側へ送信する。送信信号は、赤外LED202を用いて送信される。ここで、通信用電池204は、赤外線通信の規格に合わせた電圧を出力できる電池が用いられるが、例えば3.0Vの出力電圧を備える電池が用いられる。ただし、赤外LEDの発光には、瞬間的な立ち上がり特性を有する出力電圧が要求されるので、補助的にコンデンサ205が赤外LEDと並列に設けられており、コンデンサ205は、赤外LEDの発光に寄与する。PC440は、設定装置400を介して受信する設定変更完了信号を受け取り、その結果を表示する。これにより、ユーザは指示通りの設定が完了したかを確認することができる。なお、流体輸送装置100からPC440への信号は設定変更完了信号に限らず、現在の設定条件を表す設定条件信号、通信用電池204及びマイクロポンプ用電池208の残容量を表す電池容量信号、マイクロポンプ102の正常動作を表す動作信号等を送信するように構成しても良い。
【0040】
また、赤外線通信は、送受信の通信レートを異ならせても良い。例えば、設定条件を流体輸送装置100が受け取る場合には、安定性を重視して受信レートを遅く設定し、逆に、設定変更完了信号を送る場合には、省電力を考慮して短時間で送信するように送信レートを受信レートより高速に設定しても良い。
【0041】
ユーザが密封パッケージ300を設定装置400から取り出すと、磁気スイッチ206は再びOFF状態となり、通信用電池204による電力の供給は停止される。したがって、通信用電池204は、密封パッケージ300が設定装置400に載置されている場合にのみ電力を供給するように構成されているので、無駄な電力を消費することが無い。
【0042】
CPU201により設定条件のプログラム化が完了すると、流体輸送装置100は被埋込体への埋め込みの準備が完了する。ユーザは、処置室において密封パッケージ300から流体輸送装置100を取り出し、被埋込体への埋め込みを施術する。埋め込まれた流体輸送装置100は、プログラム化された設定条件に従って被埋込体内で動作を開始する。
【0043】
モータ207は、マイクロポンプ用電池208から電力の供給を受け、CPU201からの指令に従って駆動する。CPU201からモータ207への指令は、プログラム化された設定条件に従って出力される。モータ207が駆動されることにより、マイクロポンプ102は流体を吐出するように動作する。
【0044】
また、マイクロポンプ用電池208は、CPU201への電力も供給している。一旦プログラムが動作を開始すると、CPU201は、マイクロポンプ102の駆動停止時においても計時動作、準備動作等の制御を継続しているので、マイクロポンプ用電池208は、設定された条件による流体吐出終了時まで、電力を供給する。
【0045】
流体輸送装置100は、一旦被埋込体の体内に埋め込まれると設定装置400を用いてPC440と通信することができなくなる、つまり、正常動作確認が困難となるので、マイクロポンプ102のには、正常かつ継続的に動作する高い安定性が求められる。この動作を保証すべくマイクロポンプ用電池208には、大容量かつ安定出力であることが求められる。ただし、赤外線通信を行う電圧に比較すれば、モータ207に要求される電圧は小さくて良い。マイクロポンプ用電池208の出力電圧は、例えば1.55Vである。
【0046】
また、電力容量の観点からは、通信用電池204については、設定条件を変更するために用いられるのであるから、主に流体輸送装置100が体内に埋め込まれる直前と摘出後のデータログ確認のごく僅かな期間に用いられるに過ぎないので、電力容量は比較的小さくても良い。一方、マイクロポンプ用電池208については、長期間にわたって継続的にマイクロポンプ102を駆動することが求められる。特に、流体輸送装置100は、皮下への埋め込み後に薬液等の流体を補充することができるので、設定条件についても長期間に亘る吐出を受け付けるように構成されている。つまり、マイクロポンプ用電池208の電力容量が大きければ、それだけ長期の吐出プログラムを受け付けることができる。したがって、マイクロポンプ用電池208は、通信用電池204の電力容量に比較して相当大きな電力容量を備える電池が選択される。
【0047】
また、ラット、モルモットなどの小動物に流体輸送装置100を使用する場合を考えると、これら小動物の正常な行動を維持するためには、流体輸送装置100の重量は極力小さいことが好ましい。また、長期に亘って生体内に埋め込むことを考慮すると、強力な防水性能も求められる。このような観点からも、求められる性質に応じた電池を利用することで、電池全体の重量を抑えることができ、また、電池配置のレイアウトの自由度から、全体の大きさを抑えることができる。また、通信時の電力消費がマイクロポンプ102の駆動時間に影響を与えることも無い。更に、無線通信を採用することにより、密閉性能を高めることができ、より強力な防水構造を実現することができる。
【0048】
なお、本実施形態においては、さまざまな電池を用いることができる。例えば、酸化銀電池、リチウム電池等の一次電池、ニッケル水素、リチウムイオン電池等の二次電池を用いることができる。また、電池に限らず様々な電源を電源部として適用することもできる。上述のような性質を持つものであれば、被埋込体の振動を電力に変換する素子を用いることもできるし、被埋込体の熱を電力に変換する素子を応用することもできる。また、これらの素子と電池を組み合わせて充電システムを構成することもできる。
【0049】
上記においては、通信用電池204による電力供給の開始に磁気スイッチ206を用いたが、スイッチはこれに限らない。密封パッケージ300がトレイ部402に載置されたことを検知するスイッチであれば良い。
【0050】
図10は、PC440における設定条件の変更画面の一例である。設定条件の変更は、PC440のディスプレイに表示されるウィンドウ500に、ユーザがキーボード等の入力機器を用いて数値等を入力して行う。設定できる条件は複数種類用意されているが、ここでは吐出量および吐出時間間隔等を任意に指定できる可変吐出モードについて説明する。
【0051】
これから流体輸送装置100を埋め込む予定である動物にはIDが与えられ、予め入力されている体重情報等が表示されている。設定に用いる単位時間は選択でき、例えば1分単位、1時間単位が選択され得る。
【0052】
ユーザが設定できる項目は、吐出レート、時間間隔、ステップN0.、繰り返し回数、開始時刻、及び終了時刻である。図示するところの設定では、まず、1時間あたり10.0μlの吐出レートで連続して1.0時間(プログラム1)、次に1時間あたり1.0μlの吐出レートで連続して7.0時間(プログラム2)行う。そして順にプログラム1と同じ条件のプログラム3、プログラム2と同じプログラム4、プログラム1と同じ条件のプログラム5、プログラム2と同じプログラム6を行う。これらのプログラム1から6には、共通のステップNo.である「1」が付与されており、プログラム1から6は繰り返し回数の設定に従って30回繰り返される。この一連の開始時刻は、2009年2月26日12:00に設定されている。なお、この場合には終了時刻が計算されて自動的に表示される。そして、プログラム7では、ステップNo.「2」が付与されており、1時間あたり15.0μlの吐出レートで連続して24.0時間行う。他にステップNo.「2」は付与されておらず、繰り返し回数も1回であるので、プログラム7は1度のみ実行される。プログラム8、9もプログラム7と同様の動作を行う。なお、PC440と流体輸送装置100が通信可能な状態にあれば、図示するようにマイクロポンプ用電池208の残容量が時間で表示される。
【0053】
PC440は、ユーザからの設定入力を受け付けると、設定された条件に従って対象とする動物に流体がどのように与えられるかを、視覚的に表示する。図11は、PCにおけるインターフェイス画面の一例である。設定画面であるウィンドウ500が閉じられると、引き続きウィンドウ600が表れる。各ステップNo.における吐出レートと時間間隔はグラフ化されてウィンドウ601に表示される。また、全てのプログラムを実行した場合における、対象動物への積算吐出量は、グラフ化されてウィンドウ602に表示される。
【0054】
このように構成した本システムにおいては、特に、小動物用慢性埋め込みマイクロポンプとして、薬液投与プログラムのリピート機能を実現できる。これにより、薬効評価で重要な体内薬液濃度の周期リズムを作り出すことができるようになる。
【0055】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0056】
20 実験用ラット、100 流体輸送装置、101 外装ケース、102 マイクロポンプ、103 第1カム、104 第2カム、105 チューブ、106 フィンガー、107 注液ポート、108 流体注入栓、109 傾斜部、110 リザーバー、111 流体注入口部、112 流体排出口部、113 接続部材、114 吐出口、115 溝プレート、116 輪列、120 リザーバー枠、121 窓部、122 送信口、123 受信口、130 開口部、132 取付部、201 CPU、202 赤外LED、203 赤外PD、204 通信用電池、205 コンデンサ、206 磁気スイッチ、207 モータ、208 マイクロポンプ用電池、300 密封パッケージ、301 透明カバー、302 台紙、400 設定装置、401 ベース部、402 トレイ部、410 ヒンジ部、411 蓋部、412 凹部、422 設定側受信口、423 設定側送信口、430 USBケーブル、440 PC、500、600、601、602 ウィンドウ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内に埋め込まれて用いられる流体輸送装置であって、
流体を収容するリザーバから前記流体を外部へ吐出させるための流体輸送機構と、
前記流体輸送機構に電力を供給する第1電源部と、
前記流体輸送機構の制御に関する設定条件を変更するための信号を外部装置である設定装置から受信する受信部と、
前記受信部に電力を供給する第2電源部とを備える流体輸送装置。
【請求項2】
少なくとも前記設定条件が変更された旨の信号を含む信号を前記設定装置へ送信するための送信部を更に備え、
前記第2電源部は、前記送信部にも電力を供給する請求項1に記載の流体輸送装置。
【請求項3】
前記受信部が受信する信号の受信レートよりも、前記送信部が送信する送信レートの方が高速である請求項2に記載の流体輸送装置。
【請求項4】
前記受信部と前記送信部は、前記設定装置との間で赤外線通信を行い、
前記送信部の赤外線発光ダイオードを発光させるためのコンデンサを更に備える請求項2または3に記載の流体輸送装置。
【請求項5】
前記流体輸送装置の筐体のうち、前記受信部と前記送信部に対応する部分の厚さは、他の部分に比べて薄い請求項2から4のいずれか1項に記載の流体輸送装置。
【請求項6】
前記流体輸送装置は、少なくとも一部が滅菌紙によって構成されるパッケージに滅菌処理して収納されており、
前記受信部は、前記滅菌紙を挟んで前記設定装置から信号を受信する請求項1から5のいずれか1項に記載の流体輸送装置。
【請求項7】
前記パッケージが前記設定装置に載置されたことを検知するスイッチを備え、
前記検知に伴って前記第2電源部による前記受信部への電力供給を開始する請求項6に記載の流体輸送装置。
【請求項8】
前記スイッチは、磁気スイッチである請求項7に記載の流体輸送装置。
【請求項9】
前記流体輸送装置は、前記設定条件が変更された後に、前記パッケージから取り出されて実験動物の体内に埋め込まれる請求項6から8のいずれか1項に記載の流体輸送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−246856(P2010−246856A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102487(P2009−102487)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【特許番号】特許第4571219号(P4571219)
【特許公報発行日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(500362442)プライムテック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】