説明

流体静力学式のピストン機械に用いられる流れ最適化されたシリンダドラム

本発明は、流体静力学式のピストン機械に用いられるシリンダドラム(1’)であって、少なくとも1つの制御キドニポート/シリンダ孔移行部(5’,5’’,5’’’)が設けられており、該制御キドニポート/シリンダ孔移行部(5’,5’’,5’’’)が、軸方向に摺動可能なピストンを収容するためのシリンダ孔(2,2’a)に開口している形式のものに関する。本発明によれば、制御キドニポート/シリンダ孔移行部(5’,5’’,5’’’)が、流れ方向に対して垂直に段部および縁部なしに形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体静力学式のピストン機械に用いられるシリンダドラムであって、少なくとも1つの制御キドニポート/シリンダ孔移行部が設けられており、該制御キドニポート/シリンダ孔移行部が、軸方向に摺動可能なピストンを収容するためのシリンダ孔に開口している形式のものに関する。
【0002】
ドイツ連邦共和国特許第4341846号明細書に基づき、流体静力学式のピストン機械が公知である。この公知のピストン機械はシリンダドラムを有している。このシリンダドラムには、少なくとも1つのシリンダ孔が形成されている。このシリンダ孔内では、ピストンが昇降運動可能である。このピストンの運動は斜板を介して制御される。この斜板には、ピストンが滑動シューによって支持されている。シリンダドラムは、ピストンが突出しない端面側に接触面を有している。この接触面でシリンダドラムは制御板に接触している。この制御板には、2つの制御キドニポート、つまり、腎臓形の制御開口が形成されている。一方の制御キドニポートが流入開口として形成されているのに対して、他方の制御キドニポートは流出開口として形成されている。シリンダドラム内では、シリンダ孔と、シリンダドラムの、ピストンが突出しない端面側に設けられた接触面との間にキドニポート/シリンダ孔移行部が形成されている。シリンダドラムがその回転軸線を中心として回転する場合には、シリンダドラムの接触面が、制御板の、向かい合って位置する接触面にわたって滑動する。この場合、キドニポート/シリンダ孔移行部がシリンダ孔を、ポンプの事例で吸込み接続部に接続された流入開口と、同じくポンプの事例で吐出し接続部に接続された流出開口とに交互に接続する。シリンダ孔内でのピストンの下降運動時には、ハイドロリック液がキドニポート/シリンダ孔移行部を介してシリンダ孔の内部に圧送される。これに対して、上昇運動の間には、ハイドロリック液がシリンダ孔からキドニポート/シリンダ孔移行部を介してシリンダ孔の外部に圧送される。開示されたシリンダドラムは、シリンダ孔内でのピストンの1回の下降運動時に比較的少ないハイドロリック液しかシリンダ孔内に圧送されないという欠点を有している。したがって、斜板に付与された旋回角では、シリンダドラム1回転あたり、比較的少ないハイドロリック液しか一方の制御キドニポートから他方の制御キドニポートに圧送することができない。
【0003】
したがって、本発明の課題は、流体静力学式のピストン機械に用いられるシリンダドラムを改良して、より高い容積効率が得られるようにすることである。
【0004】
この課題を解決するために本発明に係るシリンダドラムでは、制御キドニポート/シリンダ孔移行部が、流れ方向に対して垂直に段部および縁部なしに形成されているようにした。
【0005】
本発明に係るシリンダドラムの有利な態様によれば、シリンダドラムが焼結されている。
【0006】
本発明に係るシリンダドラムの有利な態様によれば、制御キドニポート/シリンダ孔移行部と、シリンダ孔軸線を含む平面との第1の交線および第2の交線が、それぞれ第1の曲率半径と第2の曲率半径とを有しており、両曲率半径の中心点が、交線の互いに異なる側に形成されており、両曲率半径の移行部が、それぞれ反転点を形成している。
【0007】
本発明に係るシリンダドラムの有利な態様によれば、それぞれ1つの交線の第1の曲率半径と第2の曲率半径とが、同じ大きさに設定されている。
【0008】
本発明に係るシリンダドラムの有利な態様によれば、交線が、シリンダドラムの端面に近い方に位置する曲率半径に続いて、該曲率半径に対する、シリンダ孔軸線に対して平行に延びる接線として延びている。
【0009】
本発明に係るシリンダドラムの有利な態様によれば、交線の接線が、腎臓形の開口区分によって形成されており、該腎臓形の開口区分が、シリンダドラム軸線を中心とした1つの周円に沿って延びており、該周円の方向における開口区分の長さが、該開口区分の端部において曲率半径が無限であるように寸法設定されている。
【0010】
本発明に係るシリンダドラムの有利な態様によれば、制御キドニポート/シリンダ孔移行部が、種々異なるジオメトリの複数の区分から成っている。
【0011】
本発明に係るシリンダドラムの有利な態様によれば、少なくとも1つの区分が、円錐区分として形成されている。
【0012】
本発明に係るシリンダドラムの有利な態様によれば、少なくとも1つの区分が、楕円面区分として形成されている。
【0013】
本発明に係るシリンダドラムの有利な態様によれば、少なくとも1つの区分が、球区分として形成されている。
【0014】
本発明に係るシリンダドラムの有利な態様によれば、少なくとも1つの区分が、放物面区分として形成されている。
【0015】
本発明に係るシリンダドラムの有利な態様によれば、少なくとも1つの区分が、双曲面区分として形成されている。
【0016】
流体静力学式のピストン機械に用いられる本発明に係るシリンダドラムは、少なくとも1つのキドニポート/シリンダ孔移行部を有している。このキドニポート/シリンダ孔移行部は、軸方向に摺動可能なピストンを収容するためのシリンダ孔に開口している。本発明に係るシリンダドラムでは、キドニポート/シリンダ孔移行部が、流れ方向に対して垂直に段部および縁部なしに形成されている。これによって、キドニポート/シリンダ孔移行部の流れ抵抗が特に僅かとなる。これにより流れ最適化されたキドニポート/シリンダ孔移行部によって、このキドニポート/シリンダ孔移行部での一層迅速なかつエネルギをほとんど消費しない一層有利なハイドロリック液通流もしくは圧力媒体通流が可能となる。圧力媒体搬送時の減少させられたエネルギ消費によって、本発明に係るシリンダドラムを使用する流体静力学式のピストン機械のエネルギ効率が高められている。これによって、流れ最適化されたキドニポート/シリンダ孔移行部を介したシリンダ孔への圧力媒体搬送もしくはシリンダ孔からの圧力媒体搬送が容易になっている。こうして、特にシリンダ孔内への圧力媒体の充填時、たとえば吸込み時に、より高い充填度が達成される。これによって、シリンダ孔の充填プロセスの容積効率もしくは本発明に係るシリンダドラムを使用する流体静力学式のピストン機械の容積効率が有利に高められている。
【0017】
従属請求項には、本発明に係るシリンダドラムの有利な態様が記載してある。
【0018】
有利には、シリンダドラムが焼結されている。この焼結によって、たとえば製造後の高い圧力の再度の使用を通じて、高い寸法安定性または、たとえば技術的な公差もしくは形状公差の維持が可能となる。これによって、流れ最適化された制御キドニポート/シリンダ孔移行部の高い品質および特に有利な幾何学的な形状を簡単に得ることができる。この場合、シリンダ孔から流入開口/流出開口への移行部の領域での切削加工は省略することができる。
【0019】
制御キドニポート/シリンダ孔移行部のジオメトリは、有利には、仕切り面の曲率が最小になるように選択されている。特に平らな面領域は存在していない。このためには、制御キドニポート/シリンダ孔移行部と、シリンダ孔軸線を含む平面との第1の交線および第2の交線が、それぞれ第1の曲率半径と第2の曲率半径とを有しているようにジオメトリが選択されている。両曲率半径の中心点は、各交線の互いに異なる側に形成されている。さらに、この場合、両曲率半径が直接的に互いに移行し合っている。すなわち、両曲率半径の間に交線の直線的な線分が存在しておらず、第1の曲率半径から第2の曲率半径への移行部が交線の反転点を形成している。また、特に有利には、1つの交線の両曲率半径が、それぞれ同じ大きさに設定されている。この構成によって、面の曲率を最小にして、特にシリンダドラムが焼結されている場合には、製作を簡略化することができるだけでなく、流れ抵抗を減少させることもできる。
【0020】
シリンダドラムの、制御プレートに向かって方向付けられた一方の端面に向かって、各交線の、この端面の近くに方向付けられた曲率半径が、この曲率半径に対する、シリンダ孔軸線に対して平行に延びる接線に移行している。すなわち、曲率半径が、シリンダドラムの、制御プレートに当て付けられた端面から幾分間隔を置いて始まっている。このような真っ直ぐな区分は、シリンダドラムの開口と制御プレートの制御キドニポートとの間の流れ移行部を改善する。
【0021】
この場合、シリンダドラムに設けられた開口が同じく腎臓形であり、ひいては、シリンダ孔と制御プレートの制御キドニポートとの間でシリンダドラムに腎臓形の開口区分が形成されると特に有利である。この腎臓形の開口区分は、シリンダドラム軸線を中心とした、有利にはシリンダ孔が配置された周円と同一である周円に沿って延びている。したがって、半径方向では、腎臓形の開口区分がシリンダ孔に対してほぼ中心に配置されている。周円の周方向では、腎臓形の開口区分の延在長さが、ここでは、開口区分とシリンダ孔との間に直線的な移行部が形成されているように選択されている。したがって、この領域では、第1の半径と第2の半径とが無限となっている。
【0022】
有利には、キドニポート/シリンダ孔移行部は、軸方向でそれぞれ異なるジオメトリの複数の区分から成っている。各区分は、それぞれキドニポート/シリンダ孔移行部の流れ最適化のために幾何学的に有利に形成することができる。区分は、有利には流れ最適化のために互いに調和される。
【0023】
有利には、少なくとも1つの区分が、円錐区分または楕円面区分または特に球区分または放物面区分または双曲面区分として形成されている。区分の提案した幾何学的な形状によって、流れ最適化のために、区分の構成に多種多様な有利な可能性が与えられている。このような特に流れ最適化された複数の区分の組合せによって、流れ横断面を徐々に適合させて、特に流れ最適化されたキドニポート/シリンダ孔移行部を得ることができる。たとえば、1つの区分および/またはキドニポート/シリンダ孔移行部全体の正確な幾何学的な形状は、流入開口もしくは流出開口の形状に適合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】公知先行技術に基づくシリンダドラムの横断面図である。
【図2】公知先行技術に基づくシリンダドラムの斜視図である。
【図3】本発明に係るシリンダドラムの横断面図である。
【図4】本発明に係るシリンダドラムの斜視図である。
【図5】充填流れの粒子軌跡を描いた公知先行技術に基づくシリンダドラムの所定の領域の横断面図である。
【図6】充填流れの粒子軌跡を描いた公知先行技術に基づく別のシリンダドラムの所定の領域の横断面図である。
【図7】充填流れの粒子軌跡を描いた本発明に係るシリンダドラムの所定の領域の横断面図である。
【図8】充填流れの粒子軌跡を描いた本発明に係る別のシリンダドラムの所定の領域の横断面図である。
【図9】本発明に係る別のシリンダドラムの領域の別の横断面図を斜視的に示す図である。
【図10】開口区分のジオメトリを明示するためのシリンダドラムの、制御プレートに向けられた端面を示す図である。
【0025】
流体静力学式のピストン機械に用いられる本発明に係るシリンダドラムの有利な実施の形態を図面に示し、以下に詳しく説明する。
【0026】
図1には、公知先行技術に基づくシリンダドラム1の横断面図が示してある。図示の公知のシリンダドラム1は、ベースボディ10と、ネック9と、このネック9をベースボディ10に接続するネック/ベースボディ移行部11とを有している。駆動軸(図示せず)を収容するためには、ベースボディ10に回転対称的な中心の切欠き6が形成されていて、ネック9にハブ7が形成されている。切欠き6とハブ7とは、共通のシリンダドラム軸線8に沿って同軸的にかつ相前後して配置されている。さらに、ベースボディ10には、腎臓形に形成されていてよい開口区分4と、第2の区分50と、シリンダ孔2とが、共通のシリンダ孔軸線3に沿って同軸的にかつ列挙した順序で連続して配置されている。この場合、シリンダ孔軸線3とシリンダドラム軸線8とは平行に配置されている。
【0027】
キドニポート/シリンダ孔移行部5が、キドニポート、つまり、腎臓形の開口区分4をシリンダ孔2に接続している。この場合、このシリンダ孔2の横断面は開口区分4の横断面よりも大きく設定されている。シリンダ孔2はピストン(図示せず)を収容するために働く。このピストンはシリンダ孔2内でシリンダ孔軸線3に沿って軸方向に摺動可能である。この場合、ピストンは滑動シュー(図示せず)に支持されている。さらに、この滑動シューは斜板(図示せず)に滑動可能に支持されている。シリンダ孔2内でのピストンの軸方向の運動時には、このピストンの軸方向の運動の向きに応じて、圧力媒体が第1の区分4とキドニポート/シリンダ孔移行部5とを通ってシリンダ孔2の内部に圧送されるかまたはシリンダ孔2の外部に圧送される。開口区分4と第2の区分50との間だけでなく、この第2の区分50とシリンダ孔2との間にも、それぞれ流れ方向に対して垂直に段部もしくは縁部が形成されている。縁部として、この明細書では、折り目もしくは0または少なくとも極めて0に近い曲率半径を備えた面領域が考えられる。段部と縁部とは、鋳造されたシリンダドラム中間製品の切削加工の結果、形成される。
【0028】
図示の公知のシリンダドラム1は、キドニポート/シリンダ孔移行部5が流れ最適化されていないという欠点を有している。すなわち、キドニポート/シリンダ孔移行部5での圧力媒体通流時の流れ状況が、段部と縁部とを備えた幾何学的な構成に基づき不利となる。キドニポート/シリンダ孔移行部5は、特に流れ方向に対して垂直に延びる段部に基づき不利な絞り特性を有している。段部もしくは縁部によって、図示の形態では、キドニポート/シリンダ孔移行部5とシリンダ孔2との間に急激な移行部が形成される。流入した圧力媒体は、シリンダ孔2が圧力媒体で完全にかつ均一に充填されるように拡張することができない。圧力媒体で充填されていない第1の真空容積14が残される(図5参照)。したがって、シリンダ孔2の充填度が圧力媒体流入の終了後に比較的僅かとなる。シリンダ孔2の排出時には、キドニポート/シリンダ孔移行部5での急激な移行によって圧力媒体に特別な障害が与えられている。この障害はキドニポート/シリンダ孔移行部5の絞り抵抗に繋がる。さらに、このキドニポート/シリンダ孔移行部5の絞り作用によって、相応の発熱が生じる。したがって、シリンダ孔2の充填プロセスの容積効率だけでなく、圧力媒体変換プロセスのエネルギ効率にも、全体的にまだ改善の余地が残されている。
【0029】
便宜上、それぞれ1つのシリンダ孔2および相応の移行部5しか説明していない。しかし、当然ながら、公知先行技術によるシリンダドラム1だけでなく、本発明に係るシリンダドラム1にも、1つの周円に沿って全周にわたって分配された複数のこのような配置形態が設けられている。
【0030】
図2には、公知先行技術に基づくシリンダドラム1の斜視図が示してある。図示のシリンダドラム1は、図1に示した公知のシリンダドラム1に相当している。図2には、ベースボディ10と、ネック9と、このネック9内に形成されたハブ7と、シリンダ孔2の出口とを特に良好に認めることができる。ネック/ベースボディ移行部11も同じく明確に認めることができる。
【0031】
図3には、本発明に係るシリンダドラム1’の横断面図が示してある。この本発明に係るシリンダドラム1’は基本的に公知のシリンダドラム1に類似して形成されている。本発明に係るシリンダドラム1’は、本発明におけるベースボディ10’と、同じく、このベースボディ10’に、改善されたネック/ベースボディ移行部11’を介して接続されたネック9とを有している。本発明におけるベースボディ10’には、たとえば腎臓形の開口区分4’と、本発明により流れ最適化された第2の区分50’と、第1のシリンダ孔区分2’aおよび第2のシリンダ孔区分2’bを有するシリンダ孔2’とが、共通の軸線3に沿って同軸的にかつ列挙した順序で配置されている。第1のシリンダ孔区分2’aと第2のシリンダ孔区分2’bとは切削により形成される。特にこの第2のシリンダ孔区分2’bには、高価値の表面が形成される。なぜならば、この表面がピストンと密に協働するからである。まず、シリンダドラム中間製品が焼結され、その後、このシリンダドラム中間製品が切削加工される。
【0032】
本発明に係るシリンダドラム1’にも、本発明におけるベースボディ10’に設けられた回転対称的な中心の切欠き6と、ネック9に設けられた、駆動軸(図示せず)を収容するためのハブ7とが形成されていて、シリンダ孔軸線3に対して平行に配置された共通のシリンダドラム軸線8に沿って同軸的に配置されている。シリンダ孔2’はピストン(図示せず)を収容するために働く。このピストンはシリンダ孔2’内でシリンダ孔軸線3に沿って軸方向に摺動可能である。圧力媒体を収容するために提供されるシリンダ孔2’内の容積は、ピストンの運動によって変化させられる。ピストンは滑動シュー(図示せず)を介して斜板(図示せず)に支持されている。シリンダ孔2’内でのピストンの軸方向の摺動時には、軸方向の運動の向きに相応して、圧力媒体が、本発明における流れ最適化されたキドニポート/シリンダ孔移行部5’を介してシリンダ孔2’の内部に圧送されるかまたはシリンダ孔2’の外部に圧送される。本発明におけるキドニポート/シリンダ孔移行部5’は腎臓形の開口区分4’を、流れ最適化されたキドニポート/シリンダ孔移行部5’を介して第1のシリンダ孔区分2’aに接続している。腎臓形の開口区分4と、流れ最適化されたキドニポート/シリンダ孔移行部5’と、第1のシリンダ孔区分2’aとは、シリンダ孔軸線3に沿って同軸的にこの順序で配置されている。腎臓形の開口区分4’は半径方向においてシリンダ孔2’の第1のシリンダ孔区分2’aよりも小さな延在長さを有している。流れ最適化されたキドニポート/シリンダ孔移行部5’は、このキドニポート/シリンダ孔移行部5’がその幾何学的な構成に基づきキドニポート/シリンダ孔移行部5’での圧力媒体通流時に有利な流れ状況を確保するという利点を有している。渦流形成に繋がる、段部もしくは縁部による急激な移行部は形成されていない。したがって、公知のシリンダドラム1に対して説明した欠点は生じない。改善されたジオメトリによって、1つには、シリンダ孔2’内への圧力媒体の流入時のシリンダ孔2’の高められた充填度が達成され、もう1つには、より僅かな絞り抵抗によるキドニポート/シリンダ孔移行部5’でのより僅かな発熱が達成される。こうして、本発明に係るシリンダドラム1’の運転時の容積効率だけでなく、圧力媒体変換プロセスのエネルギ効率も高められる。これによって、本発明に係るシリンダドラム1’を使用する流体静力学式のピストン機械の総効率が全体的に高められている。
【0033】
図4には、本発明に係るシリンダドラム1’の斜視図が示してある。図4に示した本発明に係るシリンダドラム1’は、図3に示した本発明に係るシリンダドラム1’に相当している。図4には、本発明におけるベースボディ10’が示してある。このベースボディ10’には、ネック9が形成されている。このネック9には、ハブ7が形成されている。この場合、択一的なネック/ベースボディ移行部11’が形成されており、このネック/ベースボディ移行部11’をシリンダ孔2’が貫通しないようになっている。このためには、択一的なネック/ベースボディ移行部11’に切欠き110が形成されている。この切欠き110によって、シリンダ孔2’が、シリンダ孔軸線3に対して垂直に延びる平らな面に開口している。このことは、あとで図9に相俟って詳しく説明する。
【0034】
図5には、充填流れの粒子軌跡を描いた公知先行技術に基づくシリンダドラム1の所定の領域の横断面図が示してある。図示の領域は、公知のシリンダドラム1のキドニポート/シリンダ孔移行部5に相当している。粒子軌跡12につき、シリンダ孔2内への圧力媒体の流入時に生じる第1の圧力媒体流れ13の様子が図示してある。開口区分4と第2の区分50との幾何学的な構成もしくは開口区分4と第2の区分50とにより形成された、第1の開口区分4からシリンダ孔2への流れ方向に対して垂直な縁部と段部とを備えた急激な移行部によって、シリンダ孔2内への圧力媒体の流入時に第2の区分50のシリンダ孔側の端部において第1の圧力媒体流れ13に狭幅の圧力媒体噴流しか形成されない。シリンダ孔2内に流入した狭幅の圧力媒体噴流はシリンダ孔2の内部において、流体静力学式のピストン機械の通常運転中に生じるような高い圧力媒体速度の場合に緩速にしか拡張しない。すなわち、第1の圧力媒体流れ13の著しい拡張はシリンダ孔2内の深いところで初めて生じる。これによって、シリンダ孔2内に第1の真空容積14が形成される。この第1の真空容積14は、シリンダ孔2内への圧力媒体の流入後にも存在している。これによって、シリンダ孔2が部分的にしか圧力媒体で充填されていない。これによって、シリンダ孔2の充填度だけでなく、シリンダ孔2の充填プロセスの容積効率も比較的僅かとなる。特に流れ方向に対して垂直に形成された段部もしくは縁部によって生じる絞り効果は、すでに図1に対して説明してある。
【0035】
図6には、充填流れの粒子軌跡を描いた公知先行技術に基づく別のシリンダドラム1の所定の領域の横断面図が示してある。図示の領域は、シリンダドラム1の周方向に細長い開口区分4’を有している。この開口区分4’は、制御プレートに設けられた制御キドニポートのジオメトリに適合されている。非回転対称的な第2の区分50’’が、別のキドニポート/シリンダ孔移行部5’’において、細長い開口区分4’をシリンダ孔2’’に接続している。細長い開口区分4’と非回転対称的な第2の区分50’’との幾何学的な構成によって、流入した圧力媒体が第2の圧力媒体流れ13’に狭幅にひいては迅速に保たれる。ここでも、圧力媒体噴流が相応に高い速度でピストン(図示せず)に到達する。ここでも、無視することができない第2の真空容積14’が形成される。この第2の真空容積14’は、僅かな充填度と、僅かな容積効率とに繋がる。別のキドニポート/シリンダ孔移行部5’’の絞り作用は、この別のキドニポート/シリンダ孔移行部5’’の形態でも、高い発熱ひいては圧力媒体変換プロセス時の僅かなエネルギ効率に繋がる。
【0036】
図7には、充填流れの粒子軌跡を描いた本発明に係るシリンダドラム1’の所定の領域の横断面図が示してある。本発明に係るシリンダドラム1’の図示のキドニポート/シリンダ孔移行部5’は流れ最適化されて形成されている。このためには、第2の区分50’が段部および縁部なしに形成されている。シリンダ孔2’内への圧力媒体の流入時に、本発明におけるキドニポート/中空シリンダ移行部5’の、段部および縁部なしの流れ最適化された幾何学的な構成に基づき形成される最適化された第3の圧力媒体流れ13’’が、粒子軌跡12につき図示してある。第2の区分50’の流れ最適化された構成によって、腎臓形の開口区分4から本発明における第2の区分50’と、次いで、シリンダ孔2’とに流入した圧力媒体が、図5に示した事例よりも迅速に拡張することができる。これによって、シリンダ孔2’内に極めて小さな第3の真空容積14’’しか形成されない。これによって、シリンダ孔2’が少なくともほぼ完全に圧力媒体で充填されている。したがって、シリンダ孔2’の充填度が特に高くなり、これによって、シリンダ孔2’の充填プロセスの容積効率も同じく相応に高められている。噴流が迅速に拡張するので、第3の圧力媒体流れ13’’の広幅の領域における圧力媒体速度も低下する。これによって、圧力媒体が、より僅かな速度でピストン(図示せず)に衝突する。流れ最適化された本発明におけるキドニポート/シリンダ孔移行部5’の絞り作用は全体的に低下させられていて、したがって、より有利となる。この利点に基づき、発熱ひいてはエネルギ損失が減少させられる。これによって、エネルギ効率が高められている。
【0037】
図8には、充填流れの粒子軌跡を描いた本発明に係る別のシリンダドラム1’の所定の領域の横断面図が示してある。図8に示した領域は、細長い開口区分4’と、この細長い開口区分4’をシリンダ孔2’に接続する非回転対称的な第2の区分50’’’とを有している。この場合、細長い開口区分4’と非回転対称的な第2の区分50’’’とは、流入した圧力媒体噴流が第4の圧力媒体流れ13’’’で迅速に拡張するように成形されている。このことは、この第4の圧力媒体流れ13’’’における圧力媒体の緩速化に繋がる。これによって、図7に対して説明した利点がここでも得られる。
【0038】
図9には、図8に示した本発明に係る別のシリンダドラム1’の領域の別の横断面図が示してある。この場合、切断平面はシリンダドラム軸線8とシリンダ孔軸線3とを通って延びている。腎臓形の開口区分4’と、この腎臓形の開口区分4’をシリンダ孔2’に接続する非回転対称的な第2の区分50’’’とを特に良好に認めることができる。腎臓形の開口区分4’は、非回転対称的な第2の区分50’’’への段部および縁部なしの移行部を形成している。さらに、非回転対称的な第2の区分50’’’はシリンダ孔2’への段部および縁部なしの移行部を形成している。シリンダ孔2’の第1のシリンダ孔区分2’aと第2のシリンダ孔区分2’bとは、図示の形態では、この第2のシリンダ孔区分2’bの切削加工後、ほぼ同一の半径を有している。段部および縁部なしの移行部によって、流入した圧力媒体噴流の迅速な拡張が可能となる。この拡張は、図7および図8において説明した利点に繋がる。
【0039】
有利には、本発明におけるキドニポート/シリンダ孔移行部は、シリンダ孔軸線3に関して軸方向に連続した、種々異なるジオメトリの1つまたはそれ以上の区分から成っている。
【0040】
円筒状の開口区分の事例では、個々の区分が、特に丸み付けられた区分が両側に続く円錐区分、楕円面区分、放物面区分または双曲面区分として形成されていることによって、流れ最適化のために、有利に形成された多種多様な区分または区分列を得ることができる。
【0041】
有利には、図9に示したように、軸方向に連続した少なくとも2つの区分が形成される。これらの区分は、シリンダ孔2’の長手方向における断面図において、第1の交線20および第2の交線21によって形成されていて、互いに逆方向に湾曲させられた円弧区分を形成している。シリンダ孔2’の壁と、制御キドニポートに向かう開口区分4’の壁とは、有利には接線方向でこの湾曲部に移行している。したがって、第1の交線20および第2の交線21はその各曲率半径に対する接線T;Tを有している。この接線T;Tは、腎臓形の開口区分4’の仕切りによって形成される。交線20,21は、シリンダドラム1’と1つの平面との交差によって形成される。この場合、この平面は、図示の断面図では、シリンダドラム軸線8とシリンダ孔軸線3とを含んでいる。
【0042】
第2の交線21に対して、この第2の交線21が、主として、曲率半径R,Rを備えた2つの円弧区分によって形成されることが明瞭に図示してある。両円弧区分には、それぞれ接線方向で接線Tもしくはシリンダ孔2’が続いている。この構成は、シリンダドラム1’の焼結された図示の中間製品に適用される。切削加工後、すでに説明したように、シリンダ孔2’に第1のシリンダ孔区分2’aと第2のシリンダ孔区分2’bとが形成される。
【0043】
第2の交線21の互いに移行し合う曲率半径R,Rの中心点は、第2の交線21のそれぞれ異なる側に位置している。第1の曲率半径Rから第2の曲率半径Rへの移行時には、第2の交線21の反転点が形成されている。両曲率半径R,Rは、有利には、例示したように、同じ大きさに設定されていて、たとえばシリンダドラム1’の典型的なジオメトリに対して3ミリメートルであってよい。
【0044】
符号22,23で示した両線は縁部を成すものではなく、単に腎臓形の開口区分4’への第1の曲率半径Rの移行部もしくはシリンダ孔2’への第2の曲率半径Rの移行部、つまり、各曲率半径への各接線の接触点の位置を図示するために使用したものである。両線の間には、反転点の位置が破線で図示してある。
【0045】
すでに説明したように、腎臓形の開口区分4’からシリンダ孔2’への移行部の図示の構成では、平らな面状エレメントが存在していない。特に曲率半径R,Rを備えた両湾曲部の直接的な移行によって、可能な限り大きな曲率半径の構成が可能となる。図示の交線20,21を形成する平面がシリンダ孔軸線3を中心として回動させられる場合には、容易に明らかであるように、曲率半径R,Rが変化させられる。しかし、この場合、両曲率半径R,Rが、有利には同じ大きさに設定されていることは変わらない。図9に示した腎臓形の開口区分4’の、線22,23が接触する後方の領域では、曲率半径R,Rが無限となり、これによって、ここで、腎臓形の開口区分4’の端部からシリンダ孔2’への直線的な移行が行われる。
【0046】
シリンダ孔2’の、腎臓形の開口区分4’と反対の側の端部には、平らな面25が形成されている。この平らな面25は切削加工によってシリンダ孔2’を取り囲んで形成されている。平らな面25は、シリンダ孔軸線に対して垂直に延びる平面に位置している。平らな面25は、シリンダ孔2’をさらに切削加工するために使用される工具に対する当付け面として働く。
【0047】
図10には、腎臓形の開口区分4’の位置が明示してある。図面をより見やすくするため、ただ1つの腎臓形の開口区分4’にしか符号を付していない。この腎臓形の開口区分4’が1つの周円26に沿って延びていることを認めることができる。この周円26は、シリンダ孔2’が配置された周円と同一である。周方向での腎臓形の開口区分4’の細長い形状に基づき、図9に示したように、前述した非回転対称的なジオメトリが得られる。その結果、端部27,28の領域での移行が直線的となる。半径方向における腎臓形の開口区分4’の、この腎臓形の開口区分4’の幅に相当する延在長さは、シリンダ孔2’の直径よりも小さく設定されている。
【0048】
本発明は、図示の実施の形態に限定されていない。むしろ、これらの実施の形態の個々の特徴を、有利には互いに組み合わせることもできる。
【符号の説明】
【0049】
1,1’ シリンダドラム
2,2’,2’’ シリンダ孔
2’a 第1のシリンダ孔区分
2’b 第2のシリンダ孔区分
3 シリンダ孔軸線
4,4’ 開口区分
5,5’,5’’ キドニポート/シリンダ孔移行部
6 切欠き
7 ハブ
8 シリンダドラム軸線
9 ネック
10,10’ ベースボディ
11,11’ ネック/ベースボディ移行部
12 粒子軌跡
13,13’,13’’,13’’’ 圧力媒体流れ
14,14’,14’’ 真空容積
20 第1の交線
21 第2の交線
22 線
23 線
25 平らな面
26 周円
27 端部
28 端部
50,50’,50’’,50’’’ 第2の区分
110 切欠き
,R 曲率半径
,T 接線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体静力学式のピストン機械に用いられるシリンダドラム(1’)であって、少なくとも1つの制御キドニポート/シリンダ孔移行部(5’,5’’,5’’’)が設けられており、該制御キドニポート/シリンダ孔移行部(5’,5’’,5’’’)が、軸方向に摺動可能なピストンを収容するためのシリンダ孔(2,2’a)に開口している形式のものにおいて、制御キドニポート/シリンダ孔移行部(5’,5’’,5’’’)が、流れ方向に対して垂直に段部および縁部なしに形成されていることを特徴とする、流体静力学式のピストン機械に用いられるシリンダドラム。
【請求項2】
シリンダドラム(1’)が焼結されている、請求項1記載のシリンダドラム。
【請求項3】
制御キドニポート/シリンダ孔移行部(5’,5’’,5’’’)と、シリンダ孔軸線(3)を含む平面との第1の交線(20)および第2の交線(21)が、それぞれ第1の曲率半径(R)と第2の曲率半径(R)とを有しており、両曲率半径(R,R)の中心点が、交線(20,21)の互いに異なる側に形成されており、両曲率半径(R,R)の移行部が、それぞれ反転点を形成している、請求項1または2記載のシリンダドラム。
【請求項4】
それぞれ1つの交線(20,21)の第1の曲率半径(R)と第2の曲率半径(R)とが、同じ大きさに設定されている、請求項3記載のシリンダドラム。
【請求項5】
交線(20,21)が、シリンダドラム(1’)の端面に近い方に位置する曲率半径(R)に続いて、該曲率半径(R)に対する、シリンダ孔軸線(3)に対して平行に延びる接線(T,T)として延びている、請求項3または4記載のシリンダドラム。
【請求項6】
交線(20,21)の接線(T,T)が、腎臓形の開口区分(4’)によって形成されており、該腎臓形の開口区分(4’)が、シリンダドラム軸線(8)を中心とした1つの周円(26)に沿って延びており、該周円(26)の方向における開口区分(4’)の長さが、該開口区分(4’)の端部(27,28)において曲率半径(R,R)が無限であるように寸法設定されている、請求項5記載のシリンダドラム。
【請求項7】
制御キドニポート/シリンダ孔移行部(5’,5’’,5’’’)が、種々異なるジオメトリの複数の区分(4,4’,50,50’)から成っている、請求項1または2記載のシリンダドラム。
【請求項8】
少なくとも1つの区分が、円錐区分として形成されている、請求項7記載のシリンダドラム。
【請求項9】
少なくとも1つの区分が、楕円面区分として形成されている、請求項7または8記載のシリンダドラム。
【請求項10】
少なくとも1つの区分が、球区分として形成されている、請求項7から9までのいずれか1項記載のシリンダドラム。
【請求項11】
少なくとも1つの区分が、放物面区分として形成されている、請求項7から10までのいずれか1項記載のシリンダドラム。
【請求項12】
少なくとも1つの区分が、双曲面区分として形成されている、請求項7から11までのいずれか1項記載のシリンダドラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−516783(P2011−516783A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503379(P2011−503379)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002604
【国際公開番号】WO2009/124745
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】