説明

流木捕捉構造物

【課題】流木の捕捉効果に優れ、且つ、施工が容易な流木捕捉構造物を提供する。
【解決手段】流木捕捉構造物1は、河床2に対して上端11が下流側に傾斜した上流側支柱10と、上流側支柱10に上端21において接合され、河床2に対して上端21が上流側に傾斜した下流側支柱20と、を具備する支柱ユニット3を、接合梁5を用いて河床2の幅方向に所定の間隔を空けて複数台配置してなる。このとき、上流側支柱10の上端11と下端13との、河床2に垂直方向の距離(H1)と河床2に平行方向の距離(B1)との比(B1/H1)が、0.5(勾配が1:0.5)から1.0(勾配が1:1)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流木捕捉構造物、特に山間部の沢や谷に設置され、流水によって運ばれた流木を捕捉する流木捕捉構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河川を横断するように設置され、流木や土石流を堰き止めるためのスリットダムやコームダム(comb:櫛)が知られている。例えば、コームダムは、流れ方向と平行に河床に鉛直に立設された複数本の杭と、該杭を連結する連結桿と、からなるユニットを、河幅方向に間隔を設けて配置するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−200933号公報(第3−4頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された発明は、河床に鉛直に立設された杭によって流木を捕捉しようとするものであるため、以下の問題があった。
(あ)杭が鉛直に立設されているため、集合しないまま数本単位で流れて来る流木に対しては、最初の数本が引っ掛かるまでに流出する流木も多い。
(い)また、一旦、捕捉された後も、後続の流木が沈み込むようにして流れ出す。
(う)さらに、杭の下部が地中(河床に同じ)に埋没するように立設するものであるから、通常、河床には礫や岩が堆積しているため、地中への杭の打ち込み作業が困難であって、山間部への当該作業のための重機の搬入も困難である。
(え)流水、洪水あるいは土石流によって杭根元部に洗掘(深掘)が発生する。
【0005】
本発明は、前記問題を解決するものであって、流木の捕捉効果に優れ、且つ、施工が容易な流木捕捉構造物を提供することを目的とする。なお、本発明において「流木」とは通常の流水や洪水、あるいは土石流等によって運ばれる、樹木や竹の全体(根、幹および枝等が一体になったもの)および一部(幹のみ、枝のみ等に分離したもの)の総称である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る流木捕捉構造物は、河床に対して上端が下流側に傾斜した上流側支柱と、該上流側支柱に対し上端において接合され、かつ、河床に対してその上端が上流側に傾斜した下流側支柱と、を具備する支柱ユニットを、河床の幅方向に所定の間隔を空けて複数台配置してなる、流水によって運ばれる流木を捕捉するための流木捕捉構造物であって、
前記上流側支柱の上端と前記上流側支柱の下端との、河床に垂直方向の距離(H1)と河床に平行方向の距離(B1)との比(B1/H1)が、0.5から1.0であることを特徴とする。
なお、前記「流水」とは、通常の流水、洪水、あるいは土石流等を総称するものである。以下、表現の簡略化の為、単に「流水」と称す。
【0007】
(2)前記(1)において、前記支柱ユニットの下流側支柱は、前記上流側支柱に対し上端において接合されるのに代えて、前記上流側支柱に対し上端から所定距離だけ離れた側面において接合されることを特徴とする。
【0008】
(3)前記(1)において、前記支柱ユニットの上流側支柱の上端に、上流側に向かって突出する庇部材が設置されていることを特徴とする。
(4)前記(2)において、前記支柱ユニットの下流側支柱の上端に、上流側に向かって突出する庇部材が設置されていることを特徴とする。
【0009】
(5)前記(1)乃至(4)の何れかにおいて、前記所定の間隔を空けて隣接する支柱ユニット同士が、それぞれの上端においてのみ互いに連結されることを特徴とする。
【0010】
(6)前記(1)乃至(5)の何れかにおいて、前記上流側支柱および前記下流側支柱が、何れも管体によって形成され、
前記下流側支柱を形成する管体の上端寄りの範囲の肉厚が前記上流側支柱を形成する管体の肉厚よりも薄く、
前記下流側支柱を形成する管体の下端寄りの範囲の肉厚が、上端寄りの範囲の肉厚より厚いことを特徴とする。
【0011】
(7)前記(1)乃至(5)の何れかにおいて、前記上流側支柱および前記下流側支柱が、何れも管体によって形成され、
前記下流側支柱を形成する管体の肉厚が前記上流側支柱を形成する管体の肉厚よりも薄く、
前記下流側支柱を形成する管体の下端寄りの範囲が、内部に充填された充填物によって補強されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る流木捕捉構造物は以上であるから、次の効果を奏する。
(i)上流側支柱が、上端と下端との垂直距離(H1)と平行距離(B1)との比(B1/H1)が、0.5から1.0の勾配で傾斜しているから、流木の捕捉効果に優れている(これについては、詳細に後記する)。
【0013】
(ii)下流側支柱の上端から所定距離が上流側に傾斜しているから、上流側支柱の上端に向かって斜め下流方向に押し上げられた流木(捕捉されている)は、斜め上流方向に押し戻されるため、捕捉された流木は上流側支柱を乗り越え難くなる。
【0014】
(iii)上流側支柱の上端に上流側に向かって突出する庇部材が設置されているから、上流側支柱の上端に向かって押し上げられた流木(捕捉されている)は、庇部材に当接するため、捕捉された流木は上流側支柱を乗り越え難くなる。
(iv)下流側支柱の上端に上流側に向かって突出する庇部材が設置されているから、下流側支柱の上端に向かって押し上げられた流木(捕捉されている)は、庇部材に当接するため、捕捉された流木は下流側支柱を乗り越え難くなる。
【0015】
(v)隣接する支柱ユニット同士がそれぞれの上端においてのみ互いに連結されるから、流木の捕捉に特化した構造物になる。すなわち、支柱ユニット同士は河床に近い範囲では互いに連結されていないから、河床に近い範囲を流れる土石流及び洪水で流下する礫は捕捉されないまま下流側に流出することになる。
【0016】
(vi)下流側支柱を形成する管体は、上端寄りの範囲の肉厚が上流側支柱を形成する管体の肉厚よりも薄く、下端寄りの範囲が上端寄りの範囲より厚いから、河床に近い範囲を流れる土石流及び洪水で流下する岩や礫等の衝突による損傷を最少にすることができる。その結果、流木捕捉の信頼性が高くなり、かつ、部材の余計な重量増加を抑えることができる。
(vii)下流側支柱を形成する管体は、上端寄りの範囲の肉厚が上流側支柱を形成する管体の肉厚よりも薄く、下端寄りの範囲が充填物によって補強されるから、河床に近い範囲を流れる土石流及び洪水で流下する岩や礫等の衝突による損傷を最少にすることができる。その結果、流木捕捉の信頼性が高くなり、かつ、部材の余計な重量増加を抑えることができる。なお、充填物とはコンクリートや砂等、あるいは内面に嵌入された環状体や棒体等である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[実施形態1]
図1〜図4は本発明の実施形態1に係る流木捕捉構造物を説明するものであって、図1の(a)は側面図、図1の(b)は平面図、図2の(a)は上流側から見た正面図、図2の(b)は下流側から見た背面図、図3および図4は部分を示す拡大側面図である。
なお、図1において、紙面の右側を「上流側」および紙面の左側を「下流側」としている。また、構成を明瞭にするため、図2の(b)において下流側に配置された構成部材のみを記載して、上流側に配置された構成部材の記載を省略し、図3の(b)において構成部材の一部の記載を省略している。そして、以下の各図において同じ部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0018】
図1〜図4において、流木捕捉構造物1は、河床2に設置されるものであって、河床2の幅方向(流方向に略垂直方向に同じ)に所定の間隔を空けて配置された複数の支柱ユニット3と、複数の支柱ユニット3を固定する基礎4と、複数の支柱ユニット3のうち互いに隣接するもの同士を接続する接続梁5と、を有している。
通常、基礎4は、河床2を基礎4の厚さに略相当する深さだけ掘り下げて形成された床掘り底面2aに設置され、基礎4の上平面のレベルと河床2のレベルとが略同一になるように、河床2に埋設されている。
なお、本発明において河床2とは、常時、水が流れている場所や、水が貯まっている場所の他に、通常時には流水がなく、雨水等が流れ込んだ際に初めて水や土石流が流れるような場所も含むものである。
【0019】
(支柱ユニット)
支柱ユニット3は、河床2に対して上端11が下流側に傾斜(例えば、1:0.5)した上流側支柱10と、上流側支柱10の上端11の近くで、その上端21において接合され、河床2に対して上端21が上流側に傾斜(例えば、1:0.2)した下流側支柱20と、上流側支柱10の長手方向の略中央部12と下流側支柱20の長手方向の略中央部22とを連結する補強梁30と、上流側支柱10の長手方向の略中央部12で、その上端41において接合され、河床2に対して上端41が上流側に傾斜(例えば、1:0.2)した補強支柱40と、を有している。
【0020】
上流側支柱10、下流側支柱20と、補強梁30および補強支柱40は、何れも所定長さの鋼管を接続(例えば、ボルトによる機械的な接続)したものであって、例えば、河床2が2mだけ掘り下げられて床掘り底面2aが形成され、上流側支柱10の河床2からの垂直高さが8.5m、床掘り底面2aからの垂直高さが10.5m、である。
そして、例えば、何れも外径508mmであって、上流側支柱10は上流側支柱部材10aと、上流側支柱部材10bおよび上流側支柱部材10c(何れも肉厚16mm)とから形成されている。
また、下流側支柱20は下流側支柱部材20aと、下流側支柱部材20b(肉厚9.5mm)および下流側支柱部材20c(肉厚16mm)とから形成されている。
【0021】
また、補強梁30は補強梁部材30aおよび補強梁部材30b(肉厚9.5mm)から形成されている。
さらに、補強支柱40は補強支柱部材40aおよび補強支柱部材40b(肉厚16mm)から形成されている。
なお、前記寸法は一例であって、本発明はこれに限定するものではない。また、下流側支柱部材20cの内部に充填物(例えば、コンクリートや砂等)を充填して 流水に混じって衝突する礫等による損傷を低減してもよい。あるいは、下流側支柱部材20cの肉厚を上流側支柱部材10cの肉厚に等しく、すなわち、下流側支柱部材20aおよび下流側支柱部材20bの肉厚より厚くして、剛性向上と、衝突する礫等による損傷の低減と、を図ってもよい。
【0022】
(接続梁)
接続梁5は、上流側支柱10の上端11同士を接続(例えば、ボルトによる機械的な接続)するものであって、上流側支柱10に直接接合される接続梁部材50aと、一方の上流側支柱10に直接接合される接続梁部材50aと、これに対向する他方の上流側支柱10に直接接合される接続梁部材50aとを接続する接続梁部材50bと、を有している。接続梁部材50aおよび接続梁部材50bは、何れも所定長さの鋼管であって、例えば、何れも外径508mmであって、接続梁部材50aは肉厚16mmである。
【0023】
このとき、支柱ユニット3同士の純間隔が、例えば1992mmであるとき、それぞれの支柱ユニット3を形成する上流側支柱10の軸心同士の距離は2.5m(1992mm+508mm=2500mm)、下流側支柱20の軸心同士の距離は2.5mである。
なお、前記寸法は一例であって、本発明はこれに限定するものではない。また、各構成部材は、製造工場における溶接接合と、施工現場における接合(例えば、ボルトによる機械的な接合)と、の便を考慮して図示するように分割されているが、本発明はこれに限定するものではなく、より大きなブロックにしたり、より小さなブロックにしたりしてもよい。
【0024】
(基礎)
基礎4は、河床2を基礎4の厚さに略相当する深さ(例えば、2m)だけ掘り下げて形成された床掘り底面2aに設置されるものであって、下方に打設された所定厚さの第1次打設コンクリート43aと、その上に打設された所定厚さの第2次打設コンクリート43bとから形成されている。すなわち、基礎4の厚さは、第1次打設コンクリート43aの厚さと第2次打設コンクリート43bの厚さを合計した厚さであって、例えば、2mである。
第1次打設コンクリート43aには、第2次打設コンクリート43bが打設される前に、後施工アンカー(アンカーボルトに同じ)41が埋設され、後施工アンカー41によってアンカープレート42が支持されている。
【0025】
一方、上流側支柱部材10cの下端13には、リブプレート10dに補強されて、河床2に略平行の上流側ベースプレート10eが設けられ、下流側支柱部材20cの下端23には、リブプレート20dに補強されて、河床2に略平行の下流側ベースプレート20eが設けられている。
【0026】
そして、第2次打設コンクリート43bが打設される前に、上流側ベースプレート10eおよび下流側ベースプレート20eは、それぞれアンカープレート42に載置され、後施工アンカー41に螺合するナット44(座金45が設置されている)によって相互に一体的に固定され、その後で、第2次打設コンクリート43b内に埋め込まれている。
すなわち、前記のように、基礎4は例えば2mの厚さであるから、上流側支柱部材10cの下端13に近い範囲(例えば、略1mの範囲)および下流側支柱部材20cの下端23に近い範囲(例えば、略1mの範囲)は、何れも第2次打設コンクリート43b内に埋まっている。
なお、補強支柱40の補強支柱部材40bは下流側支柱部材20cと同様である。
【0027】
(流木捕捉効果)
流木捕捉構造物1は、これを形成する支柱ユニット3の上流側支柱10が、河床2に対して上端11が下流側に傾斜(例えば、1:0.5)していることを特徴とするものである。以下に、上流側支柱10が傾斜することの効果を、上流側支柱10が直立するものとの対比によって説明する。
図5および図6は本発明の実施形態1に係る流木捕捉構造物の流木捕捉効果を説明する実験結果であって、何れも縦軸は、所定時間に渡って上流に供給した流木の供給本数(給木量)に対する、この間に捕捉された流木の本数である「流木捕捉率」であり、図5の横軸は給木量、図6の横軸は供給開始からの時間である。なお、各図において(a)は、上流で、毎秒1本づつ流木を流水に供給した場合、(b)は上流で、毎秒10本づつ流木を流水に供給した場合であって、図中の黒丸は流側支柱が傾斜するもの(以下、「勾配型」と称す)、白丸は上流側支柱が直立するもの(以下、「直立型」と称す)である。
【0028】
図5の(a)および図6の(a)において、毎秒1本づつ供給する場合、勾配型は良好な流木捕捉率を示している。ただし、供給開始初期は、流木の捕捉状況が不安定な為、流木捕捉率が低下している。しかしながら、その後は、勾配型および直立型とも流木捕捉率が増加、すなわち、捕捉量が増加している。そして、この間、勾配型は直立型よりも高い流木捕捉率を示している。
【0029】
図5の(b)および図6の(b)において、毎秒10本づつ供給する場合、供給開始直後(5秒後)において、勾配型の流木捕捉率が直立型よりも低下しているものの、その後は、勾配型の流木捕捉率の方が、直立型の流木捕捉率より高い値を示している。
【0030】
図7は、図5および図6に示す実験結果を説明するものであって、(a)は直立型の流木捕捉機構を説明する側面視の模式図、(b)は勾配型の流木捕捉機構を説明する側面視の模式図である。すなわち、上流側支柱100が直立の場合(図7の(a)参照)と緩勾配を設けた勾配型(図7の(b)参照)とでは、流木の捕捉状況は異なる。
【0031】
図7の(a)において、直立型の場合は、上流側支柱100同士の間で、水面を浮かぶようにして流れついた流木は、横向きに張り付いて水面付近から下方向に閉塞面を形成しながら堆積する(捕捉される)。このとき、捕捉された流木は、流水の上流に向かって堆積すると共に、流水に引かれて河床側に引きずり込まれるように捕捉される。
そうすると、流水は水面に近い範囲を通過することが出来ないため、河床に近い範囲を通過することになるものの、水面に近い範囲は捕捉された流木によって除々に狭めらるから、河床に近い範囲を通過する流水の速さは除々に速くなることになる。このような状況において、後続の流木が流下してくると、流木は増速した流水によって、河床方向に強い力で引きずり込まれ、通過し易い(捕捉され難い)状況となる。
【0032】
図7の(b)において、緩勾配の場合は、上流側支柱10に、下流側に傾斜した緩勾配を設けているため、上流側支柱10に当接して流木に作用する力は、上流側支柱10の側面に垂直の力と、上流側支柱10の側面に平行な力と、に分けられる。すなわち、上流側支柱10の側面に平行な力は、流木を上流側支柱10の斜め上向きの力に押し上げる力となる。
したがって、流下してきた流木は、上流側支柱10に当接すると、上へ上へと押し上げられて水面付近で溜まって、上流に向かって堆積する(捕捉される)から、河床方向の流れが生じ難くなる。そうすると、流水は水面に近い範囲を通過することが出来るため、水深の広い範囲(河床から水面に近い範囲)を通過することになるから、河床に向かう速い流れが生じることもない。このような状況において、後続の流木が流下してくると、流木は水面の上方向に堆積するから、河床方向に引きずり込まれることがなく、捕捉されることになる。
【0033】
(上流側支柱の勾配)
図8は、本発明の実施形態1に係る流木捕捉構造物における上流側支柱および下流側支柱の勾配を説明するための側面視の模式図である。以下、図8に基づいて説明する。
本発明において、上流側支柱10の上端11と下端13との、河床2に垂直方向の距離(H1)と河床に平行方向の距離(B1)との比(B1/H1)が、0.5(勾配が1:0.5)から1.0(勾配が1:1)であることを特徴とする理由は、以下である。
すなわち、前記比(B1/H1)が0.5(勾配が1:0.5)未満である場合には、前記直立型の状況が発生して、流木捕捉効果が期待できないためである。一方、前記比(B1/H1)が1.0(勾配が1:1)を超える場合には、上流側支柱10の長さが増し、素材コストの上昇、および基礎4が流れ方向に延長され、基礎4の製造コストが上昇するためである。
【0034】
(下流側支柱の勾配)
また、本発明において、下流側支柱20の上端21と下端23との、河床2に垂直方向の距離(H2)と河床に平行方向の距離(B2)との比(B2/H2)が、0.0(直立)から0.2(勾配が1:0.2)であることを特徴とする理由は、以下である。
下流側支柱20の上端21が下流側になるように傾斜したのでは、上流側支柱10の支持力が低下して補強機能を奏することができない。一方、比(B2/H2)が、0.2(勾配が1:0.2)を越える程に傾斜したのでは、下流側支柱20の長さの延長や基礎4のスペースの拡大により製造コストが上昇すると共に、上流側支柱10の上端11を越えて流木が落下した際、下流側支柱20に衝突してこれを損傷するおそれが増すためである。
【0035】
[その他の実施形態]
図9〜図14は、それぞれ本発明の実施形態2〜7に係る流木捕捉構造物を説明するものであって、支柱ユニットの側面図である。なお、実施の形態1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0036】
[実施形態2]
図9において、実施形態2に係る支柱ユニット203は、支柱ユニット3(実施の形態1)における補強梁30の設置を省略したものである。したがって、支柱ユニット203の高さが比較的低い場合などに好適であって、部材点数を減少した簡素な構造によって、所定の剛性を確保すると共に、支柱ユニット3と同様に優れた流木捕捉効果を奏するものである。
【0037】
[実施形態3]
図10において、実施形態3に係る支柱ユニット303は、支柱ユニット3(実施の形態1)における補強支柱40の設置を省略したものである。したがって、支柱ユニット203の高さが比較的低い場合などに好適であって、部材点数を減少した簡素な構造によって、所定の剛性を確保すると共に、支柱ユニット3(実施の形態1)と同様に優れた流木捕捉効果を奏するものである。
【0038】
[実施形態4]
図11において、実施形態4に係る支柱ユニット403は、支柱ユニット3(実施の形態1)における補強梁30および補強支柱40の設置を省略したものである。高さが低いものであって、比較的大きな剛性が要求されない立地条件(例えば、軽量の流木が流れる緩斜面等)の場合などに好適であって、部材点数を減少した簡素な構造によって、支柱ユニット3(実施の形態1)と同様に優れた流木捕捉効果を奏するものである。
【0039】
[実施形態5]
図12において、実施形態5に係る支柱ユニット503は、支柱ユニット3(実施の形態1)に第2補強支柱70を追加したものに相当する。すなわち、支柱ユニット503は、上流側支柱60と、下流側支柱20と、上流側支柱60を支持する補強支柱40および第2補強支柱70と、を有している。
上流側支柱60は、相互に接合された上流側支柱部材60aと上流側支柱部材60bとから構成されている。上側の上流側支柱部材60aの上端61の近くには、下流側支柱20を構成する下流側支柱部材20aの上端21が接合され、下端寄りの側面62には、第2補強支柱70を構成する第2補強支柱部材70aが接合されている。一方、下側の上流側支柱部材60bの上端寄りの側面63には、補強支柱40を構成する補強支柱部材40aと、補強梁30を構成する補強梁部材30aとが接合されている。
【0040】
第2補強支柱70は、略十字状の第2補強支柱部材70bと、上端が上流側支柱60に接合される第2補強支柱部材70aと、下端が基礎4に埋め込まれる第2補強支柱部材70cと、から構成され、これらが互いに接続(例えば、ボルトによる機械的な接続)され、これらが河床2に対して上流側に傾斜(例えば、1:0.2)した補強支柱を形成している。
また、略十字状の第2補強支柱部材70bは、河床2に対して略平行な方向では、上流側支柱60に接合された補強梁部材30aと、下流側支柱20に接合された補強梁部材30bと、それぞれ接続(例えば、ボルトによる機械的な接続)され、これらが補強梁を形成している。
【0041】
したがって、支柱ユニット503は極めて堅固に補強され、大きな構成を具備するから、大重量の流木が高速で流れるような設置条件や、流水量が多く(水嵩が高い)て背を高くしたい場合等に好適である。
なお、各構成部材は、製造工場における溶接接合と、施工現場における接合(例えば、ボルトによる機械的な接合)と、の便を考慮して図示するように分割されているが、本発明はこれに限定するものではなく、より大きなブロックにしたり、より小さなブロックにしたりしてもよい。
【0042】
[実施形態6]
図13において、実施形態6に係る支柱ユニット603は、支柱ユニット3(実施の形態1)に上流側支柱10の上端11に、上流側に突出する庇部材80が設置されている。
したがって、上流側支柱10に捕捉され流木が、上端11に向かって押し上げられても、庇部材80によって上昇を止められるから、流水が上端11を乗り越えても(越流が生じても)流木が上端11を乗り越えることがなくなる。
なお、図中、庇部材80は河床2に略平行に設置されているが、本発明はこれに限定するものではなく、斜め上方に向かい、上流側支柱10と庇部材80とによって側面視において略く字状を呈するようにしてもよい。また、支柱ユニット203〜503(実施の形態2〜5)の上流側支柱10または上流側支柱60に庇部材80を設置しても、同様の効果が得られる。
【0043】
[実施形態7]
図14において、実施形態7に係る支柱ユニット703は、上流側支柱10の上端11が、下流側支柱20の上端21から少し離れた側面に接合されている。したがって、上流側支柱10に捕捉され流木が上端11に向かって押し上げられ、上端11を越えたとしても、かかる流木は下流側支柱20によって引き続き捕捉されるから、支柱ユニット703を乗り越えることが防止される。
なお、支柱ユニット703の補強形態は図示するものに限定するものではなく、補強梁30または補強支柱40の一方または両方の設置を省略したり、あるいは第2補強支柱を設置したりしてもよい(実施の形態2〜7参照)。
さらに、支柱ユニット703において、下流側支柱20の上端21に、上流側に突出する庇部材80を設置してもよい(実施の形態6参照)。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、流木捕捉効果に優れるから、様々な地形に対応可能な流木捕捉構造物として、広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態1に係る流木捕捉構造物を説明する側面図と平面図。
【図2】図1に示す流木捕捉構造物の正面図と背面図。
【図3】図1に示す流木捕捉構造物の部分を示す拡大側面図。
【図4】図1に示す流木捕捉構造物の部分を示す拡大側面図。
【図5】図1に示す流木捕捉構造物の流木捕捉効果を説明する実験結果。
【図6】図1に示す流木捕捉構造物の流木捕捉効果を説明する実験結果。
【図7】図5および図6に示す実験結果を説明する側面視の模式図。
【図8】本発明の実施形態1に係る流木捕捉構造物における上流側支柱および下流側支柱の勾配を説明するための側面視の模式図。
【図9】本発明の実施形態2に係る流木捕捉構造物の支柱ユニットの側面図。
【図10】本発明の実施形態3に係る流木捕捉構造物の支柱ユニットの側面図。
【図11】本発明の実施形態4に係る流木捕捉構造物の支柱ユニットの側面図。
【図12】本発明の実施形態5に係る流木捕捉構造物の支柱ユニットの側面図。
【図13】本発明の実施形態6に係る流木捕捉構造物の支柱ユニットの側面図。
【図14】本発明の実施形態7に係る流木捕捉構造物の支柱ユニットの側面図。
【符号の説明】
【0046】
1 流木捕捉構造物
2 河床
2a 床掘り底面
3 支柱ユニット
4 基礎
5 接続梁
10 上流側支柱
10a 上流側支柱部材
10b 上流側支柱部材
10c 上流側支柱部材
10d リブプレート
10e 上流側ベースプレート
11 上端
12 略中央部
13 下端
20 下流側支柱
20a 下流側支柱部材
20b 下流側支柱部材
20c 下流側支柱部材
20d リブプレート
20e 下流側ベースプレート
21 上端
22 略中央部
23 下端
30 補強梁
30a 補強梁部材
30b 補強梁部材
40 補強支柱
40a 補強支柱部材
40b 補強支柱部材
40c 上端
41 後施工アンカー
42 アンカープレート
43a 第1次打設コンクリート
43b 第2次打設コンクリート
44 ナット
45 座金
50a 接続梁部材
50b 接続梁部材
60 上流側支柱(実施の形態5)
60a 上流側支柱部材
60b 上流側支柱部材
61 上端
62 側面
63 側面
70 補強支柱(実施の形態5)
70a 補強支柱部材
70b 補強支柱部材
70c 補強支柱部材
80 庇部材(実施の形態6)
203 支柱ユニット(実施の形態2)
303 支柱ユニット(実施の形態3)
403 支柱ユニット(実施の形態4)
503 支柱ユニット(実施の形態5)
603 支柱ユニット(実施の形態6)
703 支柱ユニット(実施の形態7)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
河床に対して上端が下流側に傾斜した上流側支柱と、該上流側支柱に対し上端において接合され、かつ、河床に対してその上端が上流側に傾斜した下流側支柱と、を具備する支柱ユニットを、河床の幅方向に所定の間隔を空けて複数台配置してなる、流水によって運ばれる流木を捕捉するための流木捕捉構造物であって、
前記上流側支柱の上端と前記上流側支柱の下端との、河床に垂直方向の距離(H1)と河床に平行方向の距離(B1)との比(B1/H1)が、0.5から1.0であることを特徴とする流木捕捉構造物。
【請求項2】
前記支柱ユニットの下流側支柱は、前記上流側支柱に対し上端において接合されるのに代えて、前記上流側支柱に対し上端から所定距離だけ離れた側面において接合されることを特徴とする請求項1記載の流木捕捉構造物。
【請求項3】
前記支柱ユニットの上流側支柱の上端に、上流側に向かって突出する庇部材が設置されていることを特徴とする請求項1記載の流木捕捉構造物。
【請求項4】
前記支柱ユニットの下流側支柱の上端に、上流側に向かって突出する庇部材が設置されていることを特徴とする請求項2記載の流木捕捉構造物。
【請求項5】
前記所定の間隔を空けて隣接する支柱ユニット同士が、それぞれの上端においてのみ互いに連結されることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の流木捕捉構造物。
【請求項6】
前記上流側支柱および前記下流側支柱が、何れも管体によって形成され、
前記下流側支柱を形成する管体の上端寄りの範囲の肉厚が前記上流側支柱を形成する管体の肉厚よりも薄く、
前記下流側支柱を形成する管体の下端寄りの範囲の肉厚が、上端寄りの範囲の肉厚より厚いことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の流木捕捉構造物。
【請求項7】
前記上流側支柱および前記下流側支柱が、何れも管体によって形成され、
前記下流側支柱を形成する管体の肉厚が前記上流側支柱を形成する管体の肉厚よりも薄く、
前記下流側支柱を形成する管体の下端寄りの範囲が、内部に充填された充填物によって補強されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の流木捕捉構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−127280(P2009−127280A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302993(P2007−302993)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000231110)JFE建材株式会社 (150)