説明

流水中における土砂濃度計測方法及び装置

【課題】掃流砂の濃度をリアルタイムに計測できる計測方法の提供。
【解決手段】送信アンテナ21と受信アンテナ22を水中に配置し、掃流砂で反射した送信アンテナ21から送信したレーダ波を受信アンテナ22で受信し、受信アンテナ22で受信した受信データを処理して得られたレーダ波形振幅量に基づいて、掃流砂の土砂濃度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳地河川における土砂濃度を計測する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洪水時や中小出水時に掃流砂を計測する方法として、一定時間毎にバケツ等の容器に採取し、その容積中に含まれている土砂の量と質を計測したり、バケツの代わりに流れ込んだ掃流砂を複数の選別網体により粒径に応じて段階分けしながら捕獲する掃流砂採取器が用いられている(特許文献1)。
【0003】
また、砂防ダムの水通し天端の全面部に取り付け掃流砂捕獲装置(特許文献2)を用いて計測する方法が用いられている。
【0004】
これらに対し、川床又はスリット砂防えん堤のスリット部に設置した金属管に流砂が衝撃した際に発する音響パルス数から流砂量を間接的に推測する方法(非特許文献1)が提案されている。
【特許文献1】特開2003-3442号公報
【特許文献2】特開2002-294670号公報
【非特許文献1】「ハイドロフォンによる流砂量計測の水理模型実験へ の適用」砂防学会誌vol.58 No.2,p.15-25,2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術によると、前記した特許文献1、特許文献2は、主に河の下流で直接採取により行われており、時間的な流砂量変化が激しい場合や計測が長時間にわたる場合は多大な労力が必要である。前述した非特許文献1は、使用する金属管の寸法により検知信号の収集性が決まるため、その適用範囲が狭く普遍性に欠ける。また、水中で浮遊して移動する礫に対しては金属管と接触しないため、信号が得られない場合が想定される。
【0006】
本発明は、この問題を解決するためになされたもので、人が直接掃流砂を採取することなく長時間に渡り川床又は砂防えん堤の適所における掃流砂の状況を観測可能とし、掃流砂との接触・非接触に限らずその存在を捕え、流水中におけるその土砂濃度を計測する方法及び装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を実現する流水中における土砂濃度計測方法は、請求項1に記載のように、掃流砂で反射した送信手段から送信したレーダ波を受信手段により受信し、該受信手段により受信した受信データを処理して得られたレーダ波形振幅量に基づいて、掃流砂の土砂濃度を求めることを特徴とする。
【0008】
上記の流水中における土砂濃度計測方法において、レーダ波形振幅量と土砂濃度との関係を示す特性線を予め用意し、得られたレーダ波形振幅量に基づいて該特性線より掃流砂の土砂濃度を求めることを特徴とする。
【0009】
本発明の目的を実現する流水中における土砂濃度計測装置は、請求項3に記載のように、水中に配置され、水中を流れる掃流砂に向けてレーダ波を送信し、該掃流砂で反射したレーダ波を受信アンテナで受信するアンテナ装置と、前記アンテナ装置の受信アンテナで受信した受信データを処理してレーダ波形振幅量を求め、該レーダ波形振幅量に基づいて土砂濃度を演算する処理手段、を有することを特徴とする。
【0010】
上記した構成の流水中における土砂濃度計測装置において、前記処理手段には、レーダ波形振幅量と土砂濃度との関係を示す特性線が予め記憶され、求めたレーダ波形振幅量に基づいて該特性線より掃流砂の土砂濃度を求めることを特徴とする。
【0011】
上記したいずれかの構成の流水中における土砂濃度計測装置において、水力、風力発電器、太陽電池等の自己発電機能を備えた発電手段と、これを補うための二次電池と、を備えた電源部により電源が供給されることを特徴とする。
【0012】
具体的には、防水型アンテナを複数個河床に設置した状態で、地上に設置した送受信機、信号処理機及び電源部と組み合わせたレーダーシステムを構成する。レーダーシステムはインパルス方式(またはFMCW方式でも良い)とし、掃流砂がアンテナの視野内で通過する際に得られる掃流砂のデータを信号処理し、事前に取得した掃流砂の土砂濃度と信号処理されたデータであるレーダ波形振幅量との関係から、計測時の土砂濃度を計測する。
【0013】
そして、その電源供給は、電力供給の無い地域、例えば山間地帯において長時間にわたる計測に耐えるために、水力、風力発電器、太陽電池等の自己発電機能と、これを補うための二次電池を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水中に照射されたレーダ波が掃流砂に反応して取得したデータから掃流砂の有無をモニタし、信号処理することにより掃流砂の土砂濃度をリアルタイムに計測することができる。
【0015】
また、本発明によれば、観測者が直接掃流砂を採取することなく長時間に渡り河床又は砂防えん堤の適所における状況を観測可能とし、掃流砂との接触・非接触に限らずその土砂濃度を計測することができる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0017】
図1、図2は本発明の実施形態を示し、図1はインパルスレーダーシステムのブロック図、図2は図1の演算部33による信号処理を示すフローチャートである。
【0018】
図1において、送受信部1を構成するコントローラー11は、インパルス発生器12にインパルス波を発生させるための送信トリガとなるパルスを繰り返し(例えば1μs間隔にて)送信する。このインパルス発生器12は、コントローラー11より繰り返しトリガを受け、最大電力は約30dBmであり、パルス幅は0.5n秒から1n秒のインパルス波をアンテナ装置2の防水構造の送信アンテナ21に対して繰り返し送信する。
【0019】
アンテナ装置2を構成する送信アンテナ21は、インパルス発生器12よりインパルス波を受け、この電気信号を電波に変換し、電磁波を水中で放射する。アンテナ装置2は、送信アンテナ21より放射された電波から直接カップリングする電波の他、水中を流れる掃流砂5、例えば、石や砂等から反射された複合波をアンテナ装置を構成する防水型の受信アンテナ22で受信し、これを電気信号に変換した後、送受信部1を構成する増幅器13を介してサンプルホールド回路14に送信する。この場合、水面における波が複合波に干渉する恐れがあり、これを軽減するために送信アンテナ21及び受信アンテナ22には波よけ用導体23が設けられている。
【0020】
サンプルホールド回路14は、入力される信号のうちの1波の一部を瞬間的、例えば128p秒の間に捉える機能を有し、送受信部1を構成するコントローラー11によって制御される移相器15により、繰り返し入力される信号を遅延時間調整、例えば128p秒の間隔で時間遅延した後に検波し、低域通過フィルタ(LPF)16を介してA/D変換器17に送信する。
【0021】
A/D変換器17は、LPF16より受信する電気信号を繰り返しA/D変換し、コントローラー11に送信する。
【0022】
コントロー11は、A/D変換器17より受信したディジタルデータを内部に設けられた内部メモリ(不図示)に格納する。前記内部メモリには、2のべき乗分のデータ量(本実施形態では256検波分であり、検波分の単位を以降、BINと称する)×複数分のデータが格納される。
【0023】
ここで、「2のべき乗分のデータ量」とは、これらを結合させることにより、受信アンテナ22が出力する電気信号をディジタル的に復元できる仕組みになっていることを意味する。また、「複数分」とは、S/N比(SNR)向上のためにデータを積算する量を意味し、本実施形態では100としている。
【0024】
コントロー11は、前記内部メモリに格納されたデータを一定間隔(例えば、0.1sec毎)で吸上げ、インターフェイス(I/F)18を介してレベル変換した後に、信号処理部3を構成するインターフェイス(I/F)31に送信する。
【0025】
信号処理部3のインターフェイス(I/F)31は、送受信部1のインターフェイス(I/F)18から送信されたデータをレベル変換した後に演算部33へ送信する。
【0026】
演算部33はDSP(Digital Signal Processor)や汎用PCなどから構成され、図3に示すフローチャートに従った信号処理を実施し、1次元(Aモード:横軸を時間軸とし縦軸を振幅とするモード)もしくは2次元(Bモード:例えば横軸を計測件数もしくは計測時間とし縦軸を送信アンテナから受信アンテナへ伝搬される電波の遅延時間とするモード)のデータ表示を表示器34にて行うとともに、内蔵される記録媒体(不図示)に格納する。
【0027】
なお、送受信部1のコントローラー11は本システムを制御するソフトウエアが搭載されており、計測開始及び停止等計測の操作を行う機能を有する。
【0028】
また、送受信部1、信号処理部3に対して電力を供給する電源部4は、アンテナの設置場所が商用電源の使用できない山奥等であることを考慮し、例えば水力発電機41、風力発電機42、太陽電池43、二次電池44等により構成することができる。
【0029】
図1に示す演算部33の動作を図2に示すフローチャートに従って以下に説明する。
【0030】
図2に示すフローチャートにおいて、ステップ(Sと略す)1は、Aモードのデータを取得し、内蔵されるメモリに蓄積する。
【0031】
S2では、Aモードのデータを縦軸方向に並べてBモードのデータを作成するにあたり、設定点数mに達するまでメモリに蓄積する。この場合、Aモードのデータ点数はメモリには256BINであるので、メモリには256BIN×m点のデータが蓄積されていることになる。
【0032】
S3では、下記の式(1)に示されるように蓄積されたAモードデータ列A(i,y)に絶対値処理を行い、50BINから150BINまでの平均値B(y)を算出する。ここでyは最大値をmとするデータ件数を示す。
【0033】
【数1】

【0034】
S4では、後記する図7で示すレーダ波形振幅量と土砂濃度の関係から、これを基に信号処理部3内の演算部33の内蔵メモリ(不図示)に参照テーブルを予め求めて記録しておき、計測時のレーダ波形振幅量を土砂濃度の値に換算する。
【0035】
S5では、データを更新するため、最も古いAモードのデータをメモリから消去する。そして、これらS1〜S5までの処理を計測が終了するまで実行する(S6)。
【0036】
図2に示すフローチャートにおけるS2で説明する演算部33の内蔵メモリ内(不図示)に蓄積されるBモードの画像化された生データについて図3を参照して説明する。
【0037】
横軸は計測時間(時分秒)を示し、縦軸は送信アンテナと受信アンテナ間の電波伝搬における遅延量(BIN)を示す。計測開始を行ってから計測時間T1に至るまでは掃流砂の存在は無く、本装置のノイズもしくは計測環境による背景データを説明している。
【0038】
計測時間T1から計測時間T2に至るまでは、掃流砂が存在することから濃淡表示が明瞭に変化しており、前記した背景データに対して変化が見られる様子を説明している。
【0039】
計測時間T2からは掃流砂が通過した後を示し、前記した計測開始を行ってから計測時間T1に至るまでの背景データと同様のデータになることを説明している。
【実施例】
【0040】
図4に示す可変勾配開水路6を用いて、土砂濃度を計測するための事前データ取得を行った。
【0041】
この可変勾配開水路6は、幅0.3m、高さ0.3m、長さ15mで、勾配(θ):1/50とした。そして傾斜下端部付近に、アンテナ装置2を構成する送信アンテナ21と受信アンテナ22を傾斜上流側に向けて開いた前方散乱型に設置し、上流側から粒径別の土砂を水と共に流し、送信アンテナ21と受信アンテナ22との間を通過する粒径毎の土砂データを計測した。本実施例における装置の設定条件を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
また、上述の受信データの収集と同時に、従来の方法の一つである土砂採集用バケツ7を用いて直接に土砂を採取する直接土砂採取法を水路下流端にて行い、下記の式(2)に準じて土砂濃度を計測した。試験の条件設定は表2に示す通りであり、その信頼度を高めるために各々5回ずつ計測を行っている。
【0044】
ここで、土砂濃度は、
土砂濃度=[採取した土砂(容積)/{採取した土砂(容積)+水(容積)}]×100 (2)
で与えられる。
【0045】
【表2】



【0046】
本実施例では河床底部を流れる様々な粒径の土砂量計測が目的であることから、検出信号のS/Nを大きくするために、図4に示すように、アンテナ装置2を構成する送信アンテナ21及び受信アンテナ22を前述のように前方散乱型に配置した。
【0047】
また、送信アンテナ21と受信アンテナ22の間を通過する掃流砂の関係において、その土砂濃度の粒径を変化させると図5に示すデータが取得された。図5では、掃流砂の粒径を0.80mm,2.00mm,4.75mm,6.00mm,9.00mm,12mm,18mmとし、これら各粒径の掃流砂をそれぞれ可変勾配開水路6の上端から水と共に流した。そして、可変勾配開水路6を流れ落ちる掃流砂が送受信アンテナ21,22に達すると、受信アンテナ22から掃流砂を検知した。
【0048】
図5において、縦軸は遅延時間(Sampling Number[Bin])で目盛りは下から上へ250、200、150,100,50としており、横軸は計測時間(Data Acquisition Time[1/10sec])で目盛りは左から右へ100,200,300,400,500,600としている。
【0049】
図5において、粒径が小さいと遅延時間(Sampling Number[Bin])が少なく、粒径が大きくなるに従って遅延時間(Sampling Number[Bin])が大きくなる傾向にあることを表示画面の濃淡の度合がより明瞭になることで確認できた。
【0050】
このデータは図2で説明した信号処理フローチャートのうちS3、もしくは前記した式(1)の信号処理を行うことによって、図6で説明するデータに置き換えられる。この置き換えは、計測時間に対する土砂濃度を定量的な数値で表現するために実施している。
【0051】
図6は、図5に示すデータについて、横軸を計測時間のままとし、縦軸をレーダ波形振幅量に変換した波形図である。
【0052】
図6により、掃流砂を検知した際のレーダ波形振幅量が掃流砂の粒径が大きくなるに従って大きくなる傾向にあることが認識できた。
【0053】
図7(a)は、レーダによる図5のデータ取得と同時に、バケツ7を用いた従来の土砂濃度測定方法の一つである直接土砂採取法により水路下流端にて行い土砂濃度を計測した場合の粒径に対する土砂濃度の関係を示す図であり、図7(b)は図7(a)で示したデータの最大値(ここではレーダー波形振幅値と称する)と土砂濃度に対する関係を示す図である。
【0054】
そして、図7(b)からは、レーダ波形振幅量の上昇とともに土砂濃度も高くなる傾向があることが示されている。
【0055】
したがって、レーダ波形振幅量を得ることにより、図7(b)に示すレーダ波形振幅量と土砂濃度との関係を示す特性線を信号処理部3の演算部33のメモリに予め記憶させ、得られたレーダ波形振幅量から土砂濃度を計測することができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】システムブロック図
【図2】信号処理フローチャート
【図3】信号処理前の掃流砂の存在有無を説明する図
【図4】土砂濃度を計測するための事前データ取得形態を説明する図
【図5】信号処理前の土砂の粒径による信号の差異を説明する図
【図6】信号処理後の土砂の粒径による信号の差異を説明する図
【図7】粒径に対する土砂濃度の傾向を従来の方法と比較し説明するための図
【符号の説明】
【0057】
1:送受信部
11:コントローラー
12:インパルス発生器
13:増幅器
14:サンプルホールド回路
15:移相器
16:低域通過フィルタ(LPF)
17:A/D変換器
18:レベル変換器(I/F)
2:アンテナ装置
21:送信アンテナ
22:受信アンテナ
23:波よけ用導体
3:信号処理部
31:レベル変換器(I/F)
32:コントローラー
33:演算部
34:表示部
4:電源部
41:水力発電機
42:風力発電機
43:太陽電池
44:二次電池
5:掃流砂
6:可変勾配開水路
7:土砂採取用バケツ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掃流砂で反射した送信手段から送信したレーダ波を受信手段により受信し、該受信手段により受信した受信データを処理して得られたレーダ波形振幅量に基づいて、掃流砂の土砂濃度を求めることを特徴とする流水中における土砂濃度計測方法。
【請求項2】
レーダ波形振幅量と土砂濃度との関係を示す特性線を予め用意し、得られたレーダ波形振幅量に基づいて該特性線より掃流砂の土砂濃度を求めることを特徴とする請求項1に記載の流水中における土砂濃度計測方法。
【請求項3】
水中に配置され、水中を流れる掃流砂に向けてレーダ波を送信し、該掃流砂で反射したレーダ波を受信アンテナで受信するアンテナ装置と、
前記アンテナ装置の受信アンテナで受信した受信データを処理してレーダ波形振幅量を求め、該レーダ波形振幅量に基づいて土砂濃度を演算する処理手段、を有することを特徴とする流水中における土砂濃度計測装置。
【請求項4】
前記処理手段には、レーダ波形振幅量と土砂濃度との関係を示す特性線が予め記憶され、求めたレーダ波形振幅量に基づいて該特性線より掃流砂の土砂濃度を求めることを特徴とする請求項3に記載の流水中における土砂濃度計測装置。
【請求項5】
水力、風力発電器、太陽電池等の自己発電機能を備えた発電手段と、これを補うための二次電池と、を備えた電源部により電源が供給されることを特徴とする請求項3または4に記載の流水中における土砂濃度計測装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−128844(P2008−128844A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314764(P2006−314764)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者 社団法人 砂防学会 刊行物名 平成18年度砂防学会研究発表会概要集(第45巻) 発行日 2006年5月22日
【出願人】(000244110)明星電気株式会社 (22)