説明

流路デバイス

【課題】バルブやプランジャー等の特殊な装置を必要としない簡単でかつ安価な試薬貯蔵型流路デバイスを提供すること。
【解決手段】カセットと本体から構成される流路デバイスであって、カセットはインレット及びアウトレットを具備する試薬貯蔵部を2つ以上有し、本体はカセット側インレットと対応し接続可能なインレット、カセット側アウトレットに対応し接続可能なアウトレット、少なくとも一つの本体側インレットと流路を通じて連通される注入口、及び少なくとも一つの本体側アウトレットと流路を通じて連通される排出口を具備し、カセットと本体を接続した際に注入口から圧力を加えることによって試薬貯蔵部に貯蔵された試薬を排出口の方向へ流すことが可能である流路デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な流路、試薬が貯蔵された試薬貯蔵部、などの構造が形成された流路デバイスに関する。詳しくは、化学、生化学などに広く利用される微小反応デバイス(マイクロリアクター)として有用な流路デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
最近はマイクロリアクターやマイクロトータルアナリシスシステム(μTAS)と呼ばれる微細加工技術を利用した化学反応や分離システムの微小化の研究が盛んになっており、マイクロチャネル(微細流路)を持つマイクロチップ上で行う核酸、タンパク質、糖鎖などの分析や合成、微量化学物質の迅速分析、医薬品・薬物のハイスループットスクリーニングへの応用が期待されている。
【0003】
このようなシステムのマイクロ化の利点としては、(1)化学反応や抗原抗体反応で使用するサンプルや試薬の使用量、廃棄量を低減できる、(2)プロセスに必要な動力源の低減ができる、(3)体積に対する表面積の比率が向上することにより、熱移動・物質移動の高速化が実現でき、その結果、反応や分離の精密な制御、高速・高効率化、副反応の抑制が期待される、(4)同一基板上で多くのサンプルを同時に取り扱うことができる、(5)サンプリングから検出までを同一基板上で実施できる、等のことが挙げられ省スペースで持ち運び可能な安価なシステムの実現が考えられている。
一方、デメリットとしては(1)検出面積が小さくなるが故に検出感度が低下するケースが多い、(2)マイクロスケールの流体流れでは乱流を発生させることが難しく、試薬等を混合させる場合に拡散混合となり時間を要す、(3)気泡等が発生した場合に表面張力の影響が大きく除去することは難しく測定系に大きな影響を及ぼすことが多い、ことが挙げられる。
【0004】
このようなメリット、デメリットがある中でマイクロフルイディクス技術は検討され、自動車産業分野では加速センサーや圧力センサー、位置センサー(ジャイロスコープ)等、電気通信業界分野では光導波路、光スイッチ、ミラー、レンズ等、ライフサイエンス産業分野では血液分析、DNA分析、化学犯罪捜査用途等として我々の日常生活で見られる形となっている。その他、食品分野、環境試験分野、軍需分野にもその用途を展開している。
【0005】
現在開発されているマイクロフルイディクス技術としては、センサー用途が多く、酵素もしくは抗原抗体反応、イオン感応電界効果(ISFET)、マイクロ電極、マイクロカンチレバー、音響波、共鳴を利用したマイクロセンサーが報告されている。用途してはマイクロ電気泳動チップ、マイクロPCR(Plymerase Chain Reaction)チップ、マイクロガスクロマトグラフィチップ、マイクロ液クロマトグラフィチップ、DNA分離チップ等が多く報告されている。また、サンプリングから分析までを同一チップ上で実施するLab−on−a−Chipの開発も報告されており、炭疽菌や大腸菌に特異な核酸や抗体を用いた多機能バイオチップやグルコースやラクトース等をモニタリングする携帯可能な測定器、抗原抗体反応を用いた臨床検査チップ等が挙げられる。
【0006】
上記のような流路デバイスにおいて、予め必要な試薬または検体をデバイス内部に貯蔵し、必要時に目的のチャンバーに供給する試薬貯蔵タイプのデバイスがある。
【0007】
例えば、特許文献1では、質量分析用マイクロデバイスおよびこれを用いた質量分析装置が記載されている。この方法では、質量分析用マイクロデバイス内の複数個の試薬貯蔵部に、分析試料をそれぞれ一時貯蔵し、測定時に必要最小限の試料のみを装置内のイオン化部に供給する技術が記載されている。しかしながら、この方法であると、各試薬貯蔵部にそれぞれ開閉バルブが必要であり、デバイスを製造することが困難である。また、測定ごとにバルブを開閉が必要であるため、操作が猥雑になるなどの不都合があった。
【0008】
また、特許文献2では、分析用カートリッジ、分析用チップユニット、並びに分析用カートリッジを用いた分析装置の技術が記載されている。しかしながら、この方法であると、分析用チップ内に試薬を供給する際に複数の試薬貯蔵部それぞれをデバイス内にセットする必要があり、操作に時間を要す。また、試薬貯蔵部内試料の輸送にプランジャーが必要であることから、装置全体が複雑かつ高価となる、などの不都合があった。
【0009】
【特許文献1】特開2005−147957号公報
【特許文献2】特開2005−221435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、バルブやプランジャー等の特殊な装置を必要としない簡単でかつ安価な試薬貯蔵型流路デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記の通りである。
(1)カセットと本体から構成される流路デバイスであって、前記カセットはカセット側インレット及びカセット側アウトレットを具備する試薬貯蔵部を2つ以上有し、前記本体は前記カセット側インレットと対応し接続可能な本体側インレット、前記カセット側アウトレットに対応し接続可能な本体側アウトレット、少なくとも一つの本体側インレットと流路を通じて連通される注入口、及び少なくとも一つの本体側アウトレットと流路を通じて連通される排出口を具備し、前記カセットと前記本体を接続した際に注入口から圧力を加えることによって試薬貯蔵部に貯蔵された試薬を排出口の方向へ流すことが可能であることを特徴とする流路デバイス。
(2)前記カセットが第1〜第N試薬貯蔵部のNケ(Nは2以上の整数)の試薬貯蔵部をこの順に有し、前記本体において、第1試薬貯蔵部のカセット側インレットに対応する本体側インレットが注入口と流路を通じて連通され、第N貯蔵部のカセット側アウトレットに対応する本体側アウトレットが排水口と流路を通じて連通され、第(X−1)試薬貯蔵部(Xは2〜Nの整数)のカセット側アウトレットに対応する本体側アウトレットが第X試薬貯蔵部のカセット側インレットに対応する本体側インレットと流路によって連通され、前記カセットと前記本体を接続した際に、第X試薬貯蔵部のカセット側インレットと対応する本体側インレットが接続され、かつ第X試薬貯蔵部のカセット側アウトレットと対応する本体側アウトレットが接続され、注入口から圧力を加えることによって本体排出口側に第N貯蔵部から第1貯蔵部までの試薬を順次輸送することが可能である(1)記載の流路デバイス。
(3)前記カセットが第1〜第N試薬貯蔵部のNケ(Nは2以上の整数)の試薬貯蔵部をこの順に有し、前記本体において、第X試薬貯蔵部(Xは1〜Nの整数)のカセット側インレットに対応する全ての本体側インレットが注入口と流路を通じて連通され、第X試薬貯蔵部のカセット側アウトレットに対応する全ての本体側アウトレットが排水口と流路を通じて連通され、前記カセットと前記本体を接続した際に、第X試薬貯蔵部のカセット側インレットと対応する本体側インレットが接続され、かつ第X試薬貯蔵部のカセット側アウトレットと対応する本体側アウトレットが接続され、注入口から圧力を加えることによって本体排出口側に第N貯蔵部から第1貯蔵部までの試薬貯蔵部の試薬を合流させて同時に輸送することが可能である(1)記載の流路デバイス。
(4)前記本体に本体側アウトレットと排出口との間に反応部及び/又は検出部を具備する(1)〜(3)いずれか記載の流路デバイス。
(5)前記本体に本体側アウトレットと排出口との間に廃液貯蔵部を具備する(1)〜(4)いずれか記載の流路デバイス。
(6)前記カセットと前記本体を接続するために金属針またはプラスチックチューブを使用する(1)〜(5)いずれか記載の流路デバイス。
(7)前記試薬貯蔵部に貯蔵できる試薬の容積が100μL以下である(1)〜(6)いずれか記載の流路デバイス。
(8)前記カセット及び/又は前記本体の母材がプラスチック材料から構成されるものである(1)〜(7)いずれか記載の流路デバイス。
(9)プラスチック材料がポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、環状ポリオレフィン、ポリメチルメタアクリレート、ポリカーボネート、及びナイロンから選ばれる少なくとも1種である(8)記載の流路デバイス。
(10)(1)〜(9)いずれか記載の流路デバイスの使用方法であって、前記カセットと前記本体を接続して本体注入口から気体を媒体として圧力を加えることによって本体排出口側に試薬を輸送する流路デバイスの使用方法。
(11)(1)〜(9)いずれか記載の流路デバイスの使用方法であって、前記カセットと前記本体を接続して本体注入口から液体を媒体として圧力を加えることによって本体排出口側に試薬を輸送する流路デバイスの使用方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図を用いて説明する。
図1に本発明の流路デバイスにおけるカセットの一例の概要平面図を示す。図1に示す流路デバイスのカセットは、2つの試薬貯蔵部3、各試薬貯蔵部において微細流路で連結されたインレットA’(10)とアウトレットB’(20)、インレットC’(30)とアウトレットD’(40)から形成されている。インレット及びアウトレットは、カセットの片側面に開口している。
【0013】
本発明における試薬貯蔵部に貯蔵する試薬の容積は100μl以下であることが好ましい。上限値を超えると、流路サイズが大きくなり、それに伴ない、カセット全体の容積が大きくなるため好ましくない。
【0014】
また、試薬貯蔵部に貯蔵された試薬の流出を防ぐために、カセットのインレット、アウトレット側にシールをすることができる。シールの材質としては、アルミ箔、シリコーンゴム、ウレタンゴム、プラスチックシートなどが好ましく、金属針やプラスチックチューブで突き破ることが簡単なアルミ箔、ポリエステルシートであることがより好ましい。
【0015】
図2は、本発明の流路デバイスにおける本体の第一の実施形態の概要平面図である。
図2に示す流路デバイスの本体は、注入口4、排出口5、インレットA(11)、インレットC(31)、アウトレットB(21)、アウトレットD(41)から構成され、微細流路によって排出口5とアウトレットD(41)、注入口4とインレットA(11)が連結され、アウトレットB(21)とインレットC(31)とが連結されている。注入口、排出口、インレット、及びアウトレットは本体の片側面に開口している。
【0016】
図2に示す本体と図1に示すカセットは接続することができ、カセット側インレットA’(10)と本体側インレットA(11)、およびカセット側インレットC’(30)と本体側インレットC(31)はそれぞれ接続可能で、注入口からの圧力を本体からカセットに供給することができる。また、カセット側アウトレットB’(20)と本体側アウトレットB(21)およびカセット側アウトレットD’(40)と本体側アウトレットD(41)はそれぞれ接続可能で、カセット側の圧力を本体に供給することができる。図2における本体と、試薬貯蔵部に試薬を貯蔵した図2のカセットを接続し、本体の注入口から圧力を加えることで、本体排出口側に試薬貯蔵部の試薬を順次輸送することができる。
【0017】
3つ以上の試薬貯蔵部を有するカセットの場合、試薬貯蔵部がNケ(Nは2以上の整数)であるとし、それぞれ第1、第2、・・・第N貯蔵部とする。第1貯蔵部のインレットを1C、アウトレットを1Co、第N貯蔵部のインレットをNC、アウトレットをNCo、としそれぞれ対応する本体のインレットを1B、NBi、アウトレットを1Bo、NBとする。本体において、アウトレット1Bとインレット2Bi、アウトレット2BNとインレット3B、・・・アウトレット(N−1)BとインレットNBを微細流路によって連結する。又、微細流路によって排出口とアウトレットNB、注入口とインレット1Bを連結する。これによって試薬貯蔵部に試薬を貯蔵したカセットを接続し場合、本体の注入口から圧力を加えることで、本体排出口側に試薬貯蔵部の試薬を第N貯蔵部から第1貯蔵部まで順次輸送することができる。
【0018】
図3は、本発明の流路デバイスにおける本体の第二の実施形態の概要平面図である。
図3に示す流路デバイスの本体は、注入口4、排出口5、インレットA(11)、インレットC(31)、アウトレットB(21)、アウトレットD(41)から構成され、微細流路によって排出口5とアウトレットB(21)およびアウトレットD(41)、注入口4とインレットA(11)およびインレットC(31)が連結されている。注入口、排出口、インレット、及びアウトレットは本体の片側面に開口している。
図3に示す本体と、試薬貯蔵部に試薬を貯蔵した図2のカセットを接続し、本体の注入口から圧力を加えることで、排出口に到達する前に試薬を合流させることができる。
【0019】
3つ以上の試薬貯蔵部を有するカセットを使用する場合、試薬貯蔵部がNケ(Nは2以上の整数)であるとし、それぞれ第1、第2、・・・第N貯蔵部とする。カセットにおける第1貯蔵部のインレットを1C、アウトレットを1Co、第N貯蔵部のインレットをNC、アウトレットをNCとしそれぞれ対応する本体のインレットを1B、NBi、アウトレットを1Bo、NBとする。本体において、注入口と全てのインレット、1Bi、2B、・・・NBを微細流路によって連結し、排出口と全てのアウトレット、1Bo、2B、・・・NBを微細流路によって連結する。これによって試薬貯蔵部に試薬を貯蔵したカセットを接続し場合、本体の注入口から圧力を加えることで、排出口に到達する前に全ての試薬を合流させることができる。
【0020】
また、本発明における流路デバイス本体では、本体側アウトレットと排出口の間に反応部及び/又は検出部を具備することもできる。さらに、本体側排出口と反応部及び/又は検出部の間に廃液貯蔵部を具備することもできる。例えば、図4に示す流路デバイスの本体では、アウトレットD(41)と排出口5の間に、順に、反応部6、廃液貯蔵部7が具備されている。
【0021】
反応部の形状としては、どのような形状であっても良く、反応部内に複雑な微細構造を施すこともできる。反応部内に流路デバイスのマイクロチャネルの一部に生理活性物質を固定化することができる。生理活性物質としては、核酸、タンパク質、糖鎖、糖タンパク等が挙げられるが検出対象物の特性により適宜、最適な生理活性物質を選択することができる。また、同一チャネル上に複数の生理活性物質を固定化してもよく、同じ流路デバイスに違うマイクロチャネルを作製し別々に生理活性物質を固定しても良い。生理活性物質を流路デバイスのマイクロチャネル表面に固定化するためにプラスチック表面に表面改質、例えば官能基の導入、機能材料の固定化、親水性の付与、および疎水性の付与等を実施したりすることも可能である。
【0022】
検出部における検出方法としては、蛍光、吸光、電気化学法、化学発光、赤外分光法、光熱変換分光法、エバネッセント法、水晶発振法、などが挙げられ、使用用途に応じて、適宜に使用することができる。
【0023】
また、廃液貯蔵部を設けることによって、流路デバイス外に廃液を出さないことが可能になり、環境、安全面に適した流路デバイスを提供することができる。
【0024】
本発明では、カセットと本体を接続する際、すなわち、カセット側インレットと本体側インレット、およびカセット側アウトレットと本体側アウトレットを接続する際に、インレットおよびアウトレットに管を装着することで、圧力が漏れることなく、送液を円滑に進めることができるため好ましい。管の装着については、本体側またはカセット側どちらに装着させていてもよいが、操作性の面から、本体側に予め装着されていることが好ましい。
【0025】
管の形状としては、穴が貫通している管であればどのような形状であっても良いが、カセット側のインレットおよびアウトレットに装着されているアルミ箔などのシールを突き破ることができることから、先端が尖っていることが好ましい。また、先端が尖っている管でアルミ箔などのシールを突き破った場合、先端にアルミ箔などのシールが残ってしまい、送液を阻害することが考えられるため、穴は菅の尖った先端に開けられているのではなく、菅の横側に開けられていることが好ましい。
【0026】
管の材質としては、鋼鉄、ステンレス、真鍮、銅、アルミ等の金属、ナイロン、ポリエチレン、フッ素、シクロオレフィン、PEEK、PES、PP、フロロカーボン、PI、PE等のプラスチック、ガラス等が挙げられるが、加工性、操作性の面から、金属針またはプラスチックチューブが好ましい。また、針またはチューブで接続する際に、パッキンを入れることで、圧力漏れをより防ぐこともできる。
【0027】
本発明における注入口から圧力を加える媒体としては、気体または液体を媒体として加える媒体が挙げられる。気体や液体としては、特に限定はないが、気体としては空気圧、液体としては、緩衝液であることが好ましい。圧力を加える手段としては、特に限定はないが、シリンジポンプ、ダイヤフラム型マイクロポンプであることが好ましい。
【0028】
本発明におけるカセットおよび本体の母材は、プラスチック材料から構成されていることが好ましい。プラスチックの材質としては、種々のプラスチック材料を選択することが可能であり、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアセテート、ビニル−アセテート共重合体、スチレン−メチルメタアクリレート共重合体、アクリルニトリル−スチレン共重合体、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ナイロン、ポリメチルペンテン、シリコン樹脂、アミノ樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、ポリイミド等が挙げられるが、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状ポリオレフィン、ポリメチルメタアクリレート、ポリカーボネート、ナイロンが好ましい。
【0029】
さらに、用途、処理、使用する溶媒、生理活性物質、検出方法の特性に合わせて、成形性、耐熱性、耐薬品性、吸着性等を考慮し適宜に選択される。例えば、検出法が光学検出である場合は、自己蛍光の少なく、FDAから生体適応材料(血液に接触しても問題が無い)材料として認知されている環状ポリオレフィン(COC)が最も好ましい。また、有機溶剤を用いる場合は、耐溶剤性のあるポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテンが好ましい。また、これらのプラスチック材料に、顔料、染料、酸化防止剤、難燃剤等の添加物を適宜混合してもよい。
【0030】
本発明のカセット、本体において、注入口、排出口、インレット、アウトレット、微細流路等が母材に加工されているが、加工方法としては任意であり、切削加工、射出成形、溶剤キャスト法、フォトリソグラフィー、レーザーアブレーション、ホットエンボス法などの方法を利用できる。
【0031】
本発明のカセット、本体において、各種加工した母材を張り合わせて形成することができる。張り合わせ方法としては、熱圧着、レーザー接着、超音波接着、接着剤や感圧接着剤、UV硬化剤など中間層を用いた接合、など適宜に選ばれる。プラズマ、エキシマ等の表面処理を施した後に上記の張り合わせを行なう方法も挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
実施例として、本発明の流路デバイスを用いてのオリゴDNAのハイブリダイゼーション反応を挙げる。
図5に示すように、25mm×75mm、厚さ0.75mmの寸法の基板で、1mmφの3つのインレット1、1mmφの3つのアウトレット2、1mmφの注入口4、1mmφの排出口5、幅100μm、深さ100μmのマイクロチャネル(微細流路)、幅300μm、深さ300μmの反応部6を持つ本体を飽和環状ポリオレフィン樹脂で切削加工した。各インレット、各アウトレット、注入口、及び排出口は基板に貫通して形成した。第1インレットと注入口、第3アウトレットと反応部及び排出口がマイクロチャネルで連結され、第1アウトレットと第2インレット、第2アウトレットと第3インレットがマイクロチャネルで連結されている。
反応部に、活性エステル処理を施し、アミノ化したオリゴDNA(atagaagttt gtccatttgt aaactcccgg attgcgctcc ctcccgcctt)を固定化した。そして、25mm×75mm、厚さ0.75mmの寸法で、飽和環状ポリオレフィン樹脂で成形した加工していない蓋基板を、熱圧着により接着した。その後、各インレット、各アウトレットに1mmφ、長さ1.5mmの先端が尖った針を針先端部が開口部側になるように装着し、シリコーンゴムにより針周辺を覆った。
図6に示すように、25mm×40mm、厚さ0.75mmの寸法で、1mmφの3つのインレット100、1mmφの3つのアウトレット200、幅100μm、深さ100μmのマイクロチャネル、幅300μm、深さ300μmの3つの試薬貯蔵部(301,302,303)を持つカセットを飽和環状ポリオレフィン樹脂で切削加工した。各インレット、各アウトレットは基板に貫通して形成した。
25mm×40mm、厚さ0.75mmの寸法で、飽和環状ポリオレフィン樹脂で成形した加工していない基板を蓋基板とした。上記2つの基板を熱圧着にて接着した後、図6における第1試薬貯蔵部301に0.2×SSC(クエン酸ナトリウム)を5μL、第2試薬貯蔵部302に2×SSC(クエン酸ナトリウム)、0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を5μL、第3試薬貯蔵部303には、5’末端にCy3を導入した鎖長50bpのオリゴDNA(aaggcgggag ggagcgcaat ccgggagttt acaaatggac aaacttctat)を5×SSC,0.3%SDSの緩衝液に溶かしたハイブリダイゼーション溶液5μL、をシリンジにより注入した。その後、低粘着タイプのポリエステルシールを各インレット、アウトレットに貼った。
上記カセットを上記本体に差込むことにより、本体のインレット及びアウトレットに装着された針先端部がカセットの対応するインレット及びアウトレットのポリエステルシールを突き破り導通した。次いでシリンジを用いて空気を本体注入口4から注入すると、本体排出口5から、試薬貯蔵部303のハイブリダイゼーション溶液、試薬貯蔵部302の2×SSC、0.1%SDS、試薬貯蔵部301の0.2×SSCの順に流出することが確認され、マイクロ流体デバイスとしての役割を果たした。
送液の完了した上記本体の反応部を蛍光顕微鏡で観察したところ、Cy3波長(552nm、570nm)で蛍光を発していることが確認できた。すなわち、ハイブリダイゼーション反応が進んでいることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明を利用することにより、バルブなど特殊な装備を必要とせず、試薬貯蔵部の複数回の取り付けが不要な、簡便でかつ安価なマイクロデバイスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の流路デバイスにおけるカセットの一例の概要平面図。
【図2】本発明の流路デバイスにおける本体の第一の実施形態の概要平面図。
【図3】本発明の流路デバイスにおける本体の第二の実施形態の概要平面図。
【図4】本発明の流路デバイスにおける本体の第三の実施形態の概要平面図。
【図5】実施例1の流路デバイスにおける本体の加工基板の概要平面図。
【図6】実施例1の流路デバイスにおけるカセットの加工基板の概要平面図。
【符号の説明】
【0035】
1 本体側インレット
2 本体側アウトレット
3、301、302、303 試薬貯蔵部
4 注入口
5 排出口
6 反応部
7 廃液貯蔵部
10 カセット側インレットA’
11 本体側インレットA
20 カセット側アウトレットB’
21 本体側アウトレットB
30 カセット側インレットC’
31 本体側インレットC
40 カセット側アウトレットD’
41 本体側アウトレットD
100 カセット側インレット
200 カセット側アウトレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カセットと本体から構成される流路デバイスであって、前記カセットはカセット側インレット及びカセット側アウトレットを具備する試薬貯蔵部を2つ以上有し、前記本体は前記カセット側インレットと対応し接続可能な本体側インレット、前記カセット側アウトレットに対応し接続可能な本体側アウトレット、少なくとも一つの本体側インレットと流路を通じて連通される注入口、及び少なくとも一つの本体側アウトレットと流路を通じて連通される排出口を具備し、前記カセットと前記本体を接続した際に注入口から圧力を加えることによって試薬貯蔵部に貯蔵された試薬を排出口の方向へ流すことが可能であることを特徴とする流路デバイス。
【請求項2】
前記カセットが第1〜第N試薬貯蔵部のNケ(Nは2以上の整数)の試薬貯蔵部をこの順に有し、前記本体において、第1試薬貯蔵部のカセット側インレットに対応する本体側インレットが注入口と流路を通じて連通され、第N貯蔵部のカセット側アウトレットに対応する本体側アウトレットが排水口と流路を通じて連通され、第(X−1)試薬貯蔵部(Xは2〜Nの整数)のカセット側アウトレットに対応する本体側アウトレットが第X試薬貯蔵部のカセット側インレットに対応する本体側インレットと流路によって連通され、前記カセットと前記本体を接続した際に、第X試薬貯蔵部のカセット側インレットと対応する本体側インレットが接続され、かつ第X試薬貯蔵部のカセット側アウトレットと対応する本体側アウトレットが接続され、注入口から圧力を加えることによって本体排出口側に第N貯蔵部から第1貯蔵部までの試薬を順次輸送することが可能である請求項1記載の流路デバイス。
【請求項3】
前記カセットが第1〜第N試薬貯蔵部のNケ(Nは2以上の整数)の試薬貯蔵部をこの順に有し、前記本体において、第X試薬貯蔵部(Xは1〜Nの整数)のカセット側インレットに対応する全ての本体側インレットが注入口と流路を通じて連通され、第X試薬貯蔵部のカセット側アウトレットに対応する全ての本体側アウトレットが排水口と流路を通じて連通され、前記カセットと前記本体を接続した際に、第X試薬貯蔵部のカセット側インレットと対応する本体側インレットが接続され、かつ第X試薬貯蔵部のカセット側アウトレットと対応する本体側アウトレットが接続され、注入口から圧力を加えることによって本体排出口側に第N貯蔵部から第1貯蔵部までの試薬貯蔵部の試薬を合流させて同時に輸送することが可能である請求項1記載の流路デバイス。
【請求項4】
前記本体に本体側アウトレットと排出口との間に反応部及び/又は検出部を具備する請求項1〜3いずれか記載の流路デバイス。
【請求項5】
前記本体に本体側アウトレットと排出口との間に廃液貯蔵部を具備する請求項1〜4いずれか記載の流路デバイス。
【請求項6】
前記カセットと前記本体を接続するために金属針またはプラスチックチューブを使用する請求項1〜5いずれか記載の流路デバイス。
【請求項7】
前記試薬貯蔵部に貯蔵できる試薬の容積が100μL以下である請求項1〜6いずれか記載の流路デバイス。
【請求項8】
前記カセット及び/又は前記本体の母材がプラスチック材料から構成されるものである請求項1〜7いずれか記載の流路デバイス。
【請求項9】
プラスチック材料がポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、環状ポリオレフィン、ポリメチルメタアクリレート、ポリカーボネート、及びナイロンから選ばれる少なくとも1種である請求項8記載の流路デバイス。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか記載の流路デバイスの使用方法であって、前記カセットと前記本体を接続して本体注入口から気体を媒体として圧力を加えることによって本体排出口側に試薬を輸送する流路デバイスの使用方法。
【請求項11】
請求項1〜9いずれか記載の流路デバイスの使用方法であって、前記カセットと前記本体を接続して本体注入口から液体を媒体として圧力を加えることによって本体排出口側に試薬を輸送する流路デバイスの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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