説明

浄化システム及び浄化方法

【課題】汚染物質の拡散を効果的に防止できる浄化システム及び浄化方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、汚染された土壌を含む汚染領域を通過した地下水が到達する下流側領域において浄化用の薬剤を地中に供給して汚染拡大を防止する浄化システム20であって、下流側領域に掘削された掘削孔3と、掘削孔3内に設置され、掘削孔3の底部から開口部まで延在するパイプ6と、パイプ6の上部に形成されており、当該パイプ6の外面6Fから内面に向けて貫通する複数の貫通孔6aと、パイプ6の貫通孔6aが形成されていない区間において、上下方向に移動自在に設けられた摺動部材7と、摺動部材7を上下方向に移動させる駆動手段21と、摺動部材7よりも下方のパイプ6内にガスを供給するガス供給手段23とを備える浄化システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染した土壌又は地下水を浄化する浄化システム及び浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機塩素化合物(トリクロロエチレン等)や揮発性有機化合物(VOC)によって土壌又は地下水が汚染された場合、従来、遮水壁による拡散防止や揚水による浄化処理といった対応策が行われてきた。しかし、これらの方法では土壌に吸着した汚染物質の除去が不十分であったり、コストの面で採算が合わないなどの問題があった。そこで、バイオスティミュレーションと呼ばれる浄化法が検討されている(特許文献1〜3参照)。この方法は、土壌に生息する微生物を活性化させて汚染物質の分解を行うものである。
【0003】
特許文献1,2に記載の浄化法は、汚染領域全体に微生物活性剤等の薬剤を供給して浄化を行うものである。一方、特許文献3に記載の浄化法は、汚染領域の近傍であって地下水の流れの下流側に掘削した複数の井戸から微生物活性剤を注入し、当該箇所にバリア層(バイオバリア)を形成するものである。汚染領域を通過した地下水がバイオバリアに到達し、ここで微生物による汚染物質の分解がなされることで、汚染物質が下流側に流出するのを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−279392号公報
【特許文献2】特開2002−360240号公報
【特許文献3】特許第3724287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のバイオバリアによる浄化法にあっては、バイオバリアの機能を維持するために所定の頻度(例えば、1年に1回)で地中に微生物活性剤を地中に注入する作業を行う。この作業の頻度を低くするには、微生物活性剤として、その効果が比較的長期にわたって持続するタイプのものを使用することが好ましい。微生物活性剤は、含有する有効成分の平均分子量の大小によって高分子タイプと低分子タイプに分類され、高分子タイプの方が低分子タイプよりも効果が長期にわたって持続する。
【0006】
しかし、高分子タイプの微生物活性剤を使用した浄化法は、活性剤の供給作業の頻度を低くできる点で作業性に優れる反面、即効性の点において改善の余地があった。すなわち、高分子タイプの微生物活性剤は、低分子タイプのものと比較して効果が発現するまでに時間を要するため、その間に汚染物質が拡散し、汚染範囲が拡大するおそれがある。
【0007】
また、汚染領域の下流側に漏れのないバリア層を形成することは必ずしも容易ではない。例えば、複数の井戸から地中に薬剤を供給したとしても、井戸の間隔が広すぎたり、薬剤の供給量が少なければ、地下水に含まれる汚染物質が薬剤と接触することなく下流側に流出する可能性がある。なお、複数の井戸から所定の圧力で薬剤を圧入すれば、地中において薬剤が拡散して広範囲にわたるバリア層を形成できる。しかし、この場合、薬剤の圧入によって当該領域の圧力が上昇したのでは、バリア層を迂回するように地下水が流れてしまって汚染が拡散するおそれがある。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、汚染物質の拡散を効果的に防止できる浄化システム及び浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、汚染された土壌を含む汚染領域を通過した地下水が到達する下流側領域において浄化用の薬剤を地中に供給して汚染拡大を防止する浄化システムであって、下流側領域に掘削された掘削孔と、掘削孔内に設置され、掘削孔の底部から開口部まで延在するパイプと、パイプの上部に形成されており、当該パイプの外面から内面に向けて貫通する複数の貫通孔と、パイプの貫通孔が形成されていない区間において、上下方向に移動自在に設けられた摺動部材と、摺動部材を上下方向に移動させる駆動手段と、摺動部材よりも下方のパイプ内にガスを供給するガス供給手段とを備えることを特徴とする浄化システムを提供する。
【0010】
上記浄化システムは、漏れのないバリア層を地中に形成するのに有用である。すなわち、井戸内に薬剤を添加して地下水の流れのみで地中に薬剤を拡散させようとした場合、薬剤は主に地下水の流れ方向に拡散し、これと垂直な方向に拡散せず、隣接する井戸との間に薬剤が存在しない領域が形成されやすい(図1(a)参照)。これに対し、上記浄化システムによれば、摺動部材を上方に移動させることで、パイプ内の液面を自然水位よりも高くすることができる。薬剤の液の水頭圧を高くすることで、地下水の流れ方向以外の方向にも薬剤を拡散させることができる(図1(b)参照)。これにより、比較的少ない本数の井戸で十分な機能を有するバリア層を形成できる。
【0011】
本発明は、土壌に生息する微生物を活性化させ、汚染した土壌又は地下水を浄化する微生物浄化方法であって、汚染した土壌を含む領域又はその近傍に掘削孔を形成する掘削工程と、微生物を活性化させる第1の活性剤を掘削孔から地中に供給する第1活性剤供給工程と、第1活性剤供給工程後、微生物を活性化させる第2の活性剤を掘削孔から地中に供給する第2活性剤供給工程とを備え、第1の活性剤に含まれる微生物活性化成分は、第2の活性剤に含まれる微生物活性化成分よりも平均分子量が小さいことを特徴とする浄化方法を提供する。
【0012】
上記浄化方法は、土壌汚染の発生後、早期に浄化処理を行って汚染拡大を防止する場合に特に有用である。すなわち、微生物による汚染物質分解は、微生物活性剤から発生する水素が関与する。第1の活性剤(低分子タイプ)は、多量の水素が短時間のうちに発生するため、生じた水素の一部が地盤に含まれる硫酸イオンの分解などに消費されても、過剰に発生した水素によって微生物が汚染物質を分解することができる。
【0013】
第1の活性剤を用いて第1活性化剤供給工程を実施した後、第2の活性剤(高分子タイプ)を用いて第2活性化剤供給工程を実施する。高分子タイプは、低分子タイプと比較すると少ない量の水素が持続的に発生するという特長を有する。第1活性剤供給工程後にあっては、地盤に含まれる硫酸イオンなどの成分が既に十分に分解された状態とすることができる。この状態となった段階で第2活性化剤供給工程を実施することで、第2の活性剤から生じた水素が微生物による汚染物質の分解に効率的に消費される。上記の通り、高分子タイプは、効果が持続するという特長を有するため、微生物活性剤の供給作業の頻度を低くできる。
【0014】
上記浄化方法は、本発明に係る上記浄化システムを用いて実施することができる。この場合、上記浄化システムの摺動部材よりも上方のパイプ内に活性剤を配置し、摺動部材を上下方向に移動させながら、第1又は第2の活性剤供給工程を実施することが好ましい。活性剤を含む液の水頭圧を高くすることで、地下水の流れ方向以外の方向にも活性剤を拡散させることができ、優れた機能のバリア層を地中に形成できる。特に第2の活性材をパイプ内に配置することによって、長期にわたって十分量の水素を地中に供給できる。
【0015】
第1又は第2の活性剤供給工程において、摺動部材を上方に移動させる速度を下方に移動させる速度よりも高くすることが好ましい。摺動部材を上昇させる速度を高くすることでパイプ内の液の水頭圧を速やかに高くでき、摺動部材を下降させる速度を低くすることで井戸の外側に広がった薬剤がパイプ内へ戻ろうとする流れを抑制できる。
【0016】
上記浄化方法においては、摺動部材を上方に移動させる際、ガス供給手段によって摺動部材よりも下方のパイプ内に窒素ガスを供給するとともに、摺動部材を下方に移動させる際、供給した窒素ガスを回収することが好ましい。窒素ガスを回収して再利用することにより、運転コストを削減できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、汚染物質の拡散を効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】井戸から薬剤が拡散する様子を示す模式図であり、(a)は自然地下水流れのみで薬剤を拡散させた場合の一例を示し、(b)は本発明に係る浄化システムを利用して薬剤を拡散させた場合の一例を示す。
【図2】本発明に係る浄化システムの好適な実施形態を示す模式断面図である。
【図3】図2に示す浄化システムの摺動部材が上方に移動している様子を示す模式断面図である。
【図4】地中にバリア層を形成するのに好適な浄化システムの一例を示す模式断面図である。
【図5】薬剤を含有するスラリーを地中に噴射して薬剤と土壌とを混合する様子を示す模式断面図である。
【図6】微生物活性剤の注入に使用する井戸の一例を示す模式断面図である。
【図7】微生物活性剤の注入に使用する井戸の他の例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、汚染領域の近傍にバイオバリアを形成して汚染物質の分解処理及び拡散防止を図るものである。
【0020】
<浄化システム>
図2に示す浄化システム20は、井戸10の底を上下に移動させる機構を有し、漏れのないバリア層を地中に安定的に形成するためのものである。浄化システム20は、汚染領域の地下水流れの下流側に掘削された掘削孔3と、掘削孔3内に設置され、掘削孔3の底部から開口部まで延在するパイプ6と、パイプ6の上部に形成されており、パイプ6の外面から内面に向けて貫通する複数の貫通孔6aと、パイプ6の貫通孔6aが形成されていない区間において、上下方向に移動自在に設けられた摺動部材7と、摺動部材7を上下方向に移動させる駆動手段21と、摺動部材7よりも下方のパイプ6内にガスを供給するガス供給手段23とを備える。摺動部材7は、棒状部材24を介して駆動手段21と接続されており、上下方向に移動する。
【0021】
井戸10は次のようにして形成することができる。まず、汚染領域の近傍であって地下水の流れの下流側に所定の深度(例えば、10〜20m)の掘削孔3を形成する。掘削孔3内にパイプ6を挿入する。パイプ6は、多数の貫通孔6aを有し、これらはパイプ6の内面から外面6Fにかけて貫通するように設けられている。掘削孔3の内面3Fとパイプ6の外面6Fとの間に砂を充填して井戸10が完成する。パイプ6内には、貫通孔6aを通じて外側から地下水が流入し、パイプ6内に地下水が溜まる(図2参照)。なるべく少ない本数の井戸でバイオバリアを形成するには、汚染領域の地下水の流れ方向と直角方向に所定の間隔で並ぶように複数の井戸10を配置することが好ましい。井戸10は、土壌に生息する微生物を活性化させる微生物活性剤(薬剤)を地中に注入するために使用される。
【0022】
摺動部材7は、パイプ6の内面を摺動できるように配置される。駆動手段21は、摺動部材7が取り付けられた棒状部材24を上下に移動させる動力源である。摺動部材7上には、固体又は高粘度の微生物活性剤18を載置できるようになっている。摺動部材7上の微生物活性剤18は徐々に地下水に溶解する。なお、微生物活性剤18は、不織布やネット等に収容した状態でパイプ6内に設置してもよい。
【0023】
図3に示すように、摺動部材7を上方に移動させることで、パイプ6内の液面Lを自然水位Wよりも高くすることができる。微生物活性剤を含む液17の水頭圧を高くすることで、地下水流れ方向Fと垂直方向にも動水勾配が発生し、地下水の流れ方向F以外の方向にもパイプ6の貫通孔6aから微生物活性剤を拡散させることができる(図1(b)参照)。摺動部材7は、例えば数メートル上昇させ、微生物活性剤が溶解した液17をバイプ6の外側へ放出させた後、パイプ6内の液17の液面Lが低下したところで、再度数メートル上昇させるように段階的に上方へ移動させることができる。あるいは、液面Lを所定の高さに維持しながら、摺動部材7を連続的に上方へ移動させてもよい。
【0024】
摺動部材7を上下動させない場合、パイプ6内の液17は、主に地下水の流れ方向Fに主に拡散し、これと垂直な方向に拡散せず、隣接する井戸10との間に薬剤が存在しない領域が形成されやすい(図1(a)参照)。特に、微生物活性剤が高分子タイプである場合には、微生物活性剤は少しずつ地下水に溶解する。地下水の流れのみで地中に微生物活性剤を拡散させようとした場合、微生物活性剤が到達しない領域が形成されやすい。これに対し、浄化システム20によれば、十分な機能を有するバリア層を形成でき、比較的少ない本数の井戸でバリア層を形成することができる。
【0025】
自然地下水流れの動水勾配が1cm/m程度である場合、摺動部材7を数m上昇させることで、自然地下水流れより大きな勾配が生じ、地下水の流れ方向と垂直方向に薬剤を流すことができる(図3参照)。井戸10内の液17が減少した場合には、摺動部材7を下げることで、地下水上流側から井戸10内に水が流入する。摺動部材7の上記のような上下動を連続的又は一定時間ごとに実施することで、持続的に自然地下水流れに対して横方向への流れを、局所的に生じさせることができる。
【0026】
なお、複数の井戸から所定の圧力で薬剤を圧入し続ければ、地中において薬剤が拡散して広範囲にわたるバリア層を形成できる。しかし、この場合、薬剤の持続的な圧入によって当該領域の圧力が上昇したのでは、バリア層を迂回するように地下水が流れてしまって汚染が拡散するおそれがある。これに対し、浄化システム20を用いた方法では、地盤に新たに注水しないので、汚染地下水がバリア層を迂回して流れることはない。また、地下水を汲み上げたりしないので水処理の必要性もない。
【0027】
摺動部材7を上方に移動させる速度を下方に移動させる速度よりも高くすることが好ましい。摺動部材7を上昇させる速度を高くすることでパイプ6内の液の水頭圧を速やかに高くできる。一方、摺動部材7を下降させる速度を低くすることで、摺動部材7を上昇させたことによって井戸10の外側に広がった微生物活性剤がパイプ6内へ急激に戻る流れを抑制できる。これに加え、井戸10の上流側から流れてくる地下水をパイプ6内に流入させることができ、井戸10内の液面Lを回復(上昇)させることができる。
【0028】
ガス供給手段23は、井戸10の開口部付近の地上に設置されている。ガス供給手段23は、摺動部材7を上方に移動させる際、ガス供給手段23によって摺動部材7よりも下方のパイプ6内に窒素ガスを供給するとともに、摺動部材7を下方に移動させる際、供給した窒素ガスを回収することが好ましい。パイプ6内にガスを供給することにより、パイプ6内が負圧になるのを防止できる。また、窒素ガスを回収して再利用することにより、運転コストを削減できる。なお、活性化すべき微生物が嫌気性菌である場合には酸素を含まないガス(例えば、窒素ガス)を使用することが好ましいが、好気性菌である場合には酸素を含むガス(例えば、空気)を使用してもよい。
【0029】
<浄化方法>
浄化システム20を用いて実施される浄化方法について説明する。本実施形態に係る浄化方法は、低分子タイプの微生物活性剤(第1の活性剤)と高分子タイプの微生物活性剤(第2の活性剤)とを併用する。まず、低分子タイプの微生物活性剤をパイプ6内に添加し、これを含む液を貫通孔6aから地中に供給する(第1活性剤供給工程)。その後、高分子タイプの微生物活性剤をパイプ6内に添加し、これを含む液を貫通孔6aから地中に供給する(第2活性剤供給工程)。このように2種の微生物活性剤を併用する方法は、土壌汚染の発生後、早期に浄化処理を行って汚染拡大を防止する場合に特に有用である。
【0030】
微生物による汚染物質の分解は、微生物活性剤から発生する水素が関与する。低分子タイプの微生物活性剤は、多量の水素が短時間のうちに発生するため、生じた水素の一部が地盤に含まれる硫酸イオンの分解などに消費されても、過剰に発生した水素によって微生物が汚染物質を分解することができる。高分子タイプの微生物活性剤を使用するに先立って、低分子タイプの微生物活性剤を使用することで、高分子タイプの微生物活性剤から生じた水素が微生物による汚染物質の分解に効率的に消費される。高分子タイプの微生物活性剤は、効果が持続するという特長を有するため、微生物活性剤の供給作業の頻度を低くできるという利点がある。
【0031】
低分子タイプの微生物活性剤の具体例としては、乳酸、グルコース、エタノール、グリセロール、酢酸、酪酸、プロピオン酸、蟻酸、ソルビトール、オリゴ乳酸、シュークロースなどの成分を1種又は2種以上含有するものが挙げられる。高分子タイプの微生物活性剤の具体例としては、ポリ乳酸、植物油、エマルジョン油、高級脂肪酸などの成分を1種又は2種以上含有するものが挙げられる。
【0032】
第2活性剤供給工程は、浄化システム20の摺動部材7よりも上方のパイプ6内に高分子タイプの微生物活性剤を配置し、摺動部材7を上下方向に移動させることによって実施することが好ましい。高分子タイプの微生物活性剤を含む液の水頭圧を高くすることで、地下水の流れ方向以外の方向にも微生物活性剤を拡散させることができ、優れた機能のバリア層を地中に形成できる。
【0033】
次に、微生物による浄化処理に適した浄化システムの他の例について説明する。なお、以下の浄化システムの1種又は2種以上の構成を上述の浄化システム20に適用し、かかる構成を具備した浄化システムを用いて浄化処理を実施してもよい。
【0034】
図4に示す浄化システム30は、汚染領域の近傍であって地下水の流れの下流側に掘削された複数の井戸10と、複数の井戸10がそれぞれ互いに連通するように設けられた流路15と、流路15と配管12で連通しており微生物活性剤を含む液を収容するタンク11とを備える。流路15は、井戸10と井戸10の間の表層部Gに透水性を有する材料を配置し、この中を流体が流れる構造とすることによって形成することができる。
【0035】
流路15は、透水性を有する材料によって構築してもよいが、これの他に、暗渠、配管又は溝を用いて構築してもよい。流路の構造的安定性を維持するため、例えば、溝の中には砕石等を敷詰めることが好ましい。
【0036】
浄化システム30によれば、流路15によって互いに連通した複数の井戸10を通じて微生物活性剤を地中に供給することで、各井戸10から供給すべき微生物活性剤の量を個別に制御しなくても、優れた性能を有するバリア層を安定的に形成することができる。バリア層が形成された領域において、土壌に生息する微生物が活性化されるため、汚染領域を通過した地下水に含まれる汚染物質をバリア層で十分に分解処理することができる。
【0037】
図5〜7を参照しながら、pH低下によって微生物の活動が阻害されるのを十分に抑制し、汚染領域の土壌及び地下水を安定的に浄化するのに有用な浄化システムについて説明する。微生物活性剤は、微生物の栄養源となる有機酸を生じるが、地中において微生物活性剤から過剰の有機酸が生じると、pHが低下して微生物の活動が阻害される。このようなpHの低下を抑制するため、掘削孔3を形成する前にその領域の土壌とpH緩衝材との混合する混合工程を実施してもよい。
【0038】
図5に示す混合装置50は、土壌と固体のpH緩衝材とを混合するための装置である。固体のpH緩衝材を含有するスラリーを収容するタンク51と、このスラリーを昇圧するポンプ53と、昇圧されたスラリーを地中に噴射するための噴射管55とを備える。噴射管55の先端部にはスラリージェットJsを形成するためのノズルが設けられている。噴射管55を所定の深さにまで挿入した後、噴射管55を回転させるとともにスラリーを噴射しながら、噴射管55を一定の速度で引き上げる。これにより、所定の領域の土壌とpH緩衝材とを混合できる。図6に示す井戸60は上記混合工程が実施された領域に形成されたものである。
【0039】
固体のpH緩衝材としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどを例示できる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。固体のpH緩衝材を使用することにより、液体のものを使用した場合と比較してその効果が長期にわたって持続するという利点がある。なお、低コストで十分な効果が得られる点から、pH緩衝材として炭酸カルシウムを使用することが好ましい。また、炭酸カルシウムは、過剰にアルカリ性にならない観点からも好ましい。土壌の体積1mに対するpH緩衝材の配合量は3〜140kgであることが好ましく、10〜100kgであることがより好ましい。
【0040】
混合工程後、pH緩衝材と土壌とを混合した領域に掘削孔53を形成する。その後、図6に示す通り、多数の貫通孔65aを有するパイプ65を掘削孔63内に挿入するとともに、掘削孔63の内面63Fとパイプ65の外面65Fとの間に、砂を充填し、充填部8を形成する。
【0041】
上記のように、井戸60の外側に固体のpH緩衝材を配置することにより、活性剤に含まれる酸や微生物による分解によって生じた酸が中和されてpHが過度に低下することを防止できる。かかる構成は、微生物の活動が阻害されるのを十分に抑制し、汚染領域の土壌及び地下水を安定的に浄化するのに有用である。
【0042】
図7に示す浄化システム70は、掘削孔3の内面3Fとパイプ5の外面5Fとの間に固体のpH緩衝材が配置されている。充填部8は、砂と上述の固体のpH緩衝材との混合物を充填することによって形成されている。
【0043】
充填部8の形成に使用する混合物を調製するにあたり、砂と固体のpH緩衝材と混合比率は、汚染物質の種類、汚染の程度及び使用するpH緩衝材の種類等に応じて適宜設定すればよい。例えば、砂の体積1mに対するpH緩衝材の配合量は3〜140kgであることが好ましく、10〜100kgであることがより好ましい。パイプ5の外側に固体のpH緩衝材を配置することにより、活性剤に含まれる酸や微生物による分解によって生じた酸が中和されてpHが過度に低下することを防止できる。かかる構成は、微生物の活動が阻害されるのを十分に抑制し、汚染領域の土壌及び地下水を安定的に浄化するのに有用である。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、バイオバリアを形成して汚染物質の分解処理及び拡散防止を行う場合を例示したが、バリア層はバイオバリアに限定されるものではない。例えば、酸性物質で汚染された土壌を中性化するためのバリア層を中和剤によって形成してもよい。
【0045】
また、上記実施形態においては、本発明に係る浄化方法を浄化システム20を用いて実施する場合を例示したが、本発明に係る浄化方法は通常の構成を有する注入用井戸から第1及び第2の活性剤を順次供給することによって実施してもよい。
【符号の説明】
【0046】
3、63…掘削孔、5、65…パイプ、3F、63F…掘削孔の内面、5F、6F、65F…パイプの外面、6…パイプ、6a…貫通孔、7…摺動部材、8…充填部、10…井戸、11…タンク、17…薬剤を含む液、18…薬剤(微生物活性剤)、20…浄化システム、21…駆動手段、23…ガス供給手段、24…棒状部材、L…液面、W…自然水位、G…表層部、F…地下水の流れ方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染された土壌を含む汚染領域を通過した地下水が到達する下流側領域において浄化用の薬剤を地中に供給して汚染拡大を防止する浄化システムであって、
前記下流側領域に掘削された掘削孔と、
前記掘削孔内に設置され、前記掘削孔の底部から開口部まで延在するパイプと、
前記パイプの上部に形成されており、当該パイプの外面から内面に向けて貫通する複数の貫通孔と、
前記パイプの前記貫通孔が形成されていない区間において、上下方向に移動自在に設けられた摺動部材と、
前記摺動部材を上下方向に移動させる駆動手段と、
前記摺動部材よりも下方の前記パイプ内にガスを供給するガス供給手段と、
を備えることを特徴とする浄化システム。
【請求項2】
土壌に生息する微生物を活性化させ、汚染した土壌又は地下水を浄化する微生物浄化方法であって、
汚染した土壌を含む領域又はその近傍に掘削孔を形成する掘削工程と、
前記微生物を活性化させる第1の活性剤を前記掘削孔から地中に供給する第1活性剤供給工程と、
前記第1活性剤供給工程後、前記微生物を活性化させる第2の活性剤を前記掘削孔から地中に供給する第2活性剤供給工程と、
を備え、
前記第1の活性剤に含まれる微生物活性化成分は、第2の活性剤に含まれる微生物活性化成分よりも平均分子量が小さいことを特徴とする浄化方法。
【請求項3】
請求項1に記載の浄化システムを用いた浄化方法であって、前記摺動部材よりも上方の前記パイプ内に前記第2の活性剤を配置し、前記摺動部材を上下方向に移動させながら、前記第2活性剤供給工程を実施することを特徴とする請求項2に記載の浄化方法。
【請求項4】
前記第2活性剤供給工程において、前記摺動部材を上方に移動させる速度を下方に移動させる速度よりも高くすることを特徴とする請求項3に記載の浄化方法。
【請求項5】
前記摺動部材を上方に移動させる際、前記ガス供給手段によって前記摺動部材よりも下方の前記パイプ内に窒素ガスを供給するとともに、前記摺動部材を下方に移動させる際、供給した窒素ガスを回収することを特徴とする請求項3又は4に記載の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−31185(P2011−31185A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180597(P2009−180597)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】