説明

浄水システム

【課題】被災者等が、緊急時の当面の措置として、比較的少量程度の飲料可能な水を飲めるようにする。
【解決手段】ホース3の一端部3EPがその内部に挿入されており且つ重りをその内部に有するスポンジより成るフィルタ6を、汚水8内に沈める。力Fを加えた状態から手を離すと、吸引力が圧力ポンプ2内に生じる。この吸引力の作用により、フィルタ6内に浸入して泥等が濾過された汚水8の一部が、一端部3EPに設けられた複数の貫通穴を介してホース3内に吸引されて圧力ポンプ3内に流入する。人手で力Fを加えて圧力ポンプ2内に押圧を生成する。この押圧で、圧力ポンプ2内の濾過後の水は浄水器4へと排出され、浄水器4は流入水に対して浄水処理を施して、少量ではあるが、飲料水を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、緊急対策用に適した浄水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震等の自然災害に被災したが無事であった被災者らは、当該被災者らが一時的に避難している場所に救急物資として飲料水が届くまでの期間中は、喉の渇きを抑えるために水が飲みたくても飲料水を飲めないのが現実である。
【0003】
或いは、海上での災害又は事故により、乗船していた船舶から逃れて救急用の数人乗りのボートに乗り移った人々も、海上での漂流中に、救助されるまでの期間中に喉が渇いて水が飲みたくても飲料水が飲めないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−100123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
被災者等は、飲料水が届くまでの期間或いは救助されて飲料水が飲める様になるまでの期間中に、一時的にせよ、緊急措置として比較的少量の水が飲めるならば、喉を潤して精神的に多少なりとも落ち着くことが出来る。
【0006】
しかし、現実には、その様な緊急時の要求に対応し得る装置が無いのが現実である。
【0007】
本願に係る発明は、斯かる現状認識を踏まえて成されたものであり、当該現状を適切に克服し得る装置の提供を、その主目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主題に係る浄水システムは、押す力が上方より加わると内部に押圧力を発生させ、前記押す力が加わらなくなると前記内部に吸引力を発生させると共に、前記吸引力により開く一方で前記押圧力により閉まる第1弁を有する吸水口と、前記押圧力により開く一方で前記吸引力により閉まる第2弁を有する排水口とを備える圧力ポンプと、一端部と、前記圧力ポンプの前記吸水口に接合された他端部とを有するホースと、汚水又は海水の何れかの原水内に浸された際にその内部に浸入する前記原水を濾過し得るフィルタ部材より成り、前記ホースの前記一端部が前記内部に挿入されていると共に、前記原水に対する前記フィルタ部材及び前記ホースの各々の浮力に優る荷重を有する重りを前記内部に有するフィルタと、浄水器と、前記圧力ポンプの前記排水口と前記浄水器の吸水口とを互いに接続する接続部とを備えており、前記ホースの前記一端部は、前記フィルタ内に浸入して濾過された前記原水を前記ホースの内部に通す複数の開口部を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の主題によれば、自然災害等に被災した被災者等が、通常時に一日に人間が飲む水量と比較すると少量ではあるけれども、一時的に、被災者等の喉を潤すことを可能とし、以って精神的にも多少なりとも被災者等を落ち着かせることが出来る緊急対策用の浄水システムを提供することが出来る。特に、その際、電気がなくとも、人力のみによって、原水から飲料可能な水を生成して提供することが出来る。そして、浄水器のサイズが小型化する程に、本発明の主題に係る浄水システムを小型化して、携帯可能(ポータブル)な浄水システムへと発展させることが出来る。
【0010】
本願の請求項2に係る発明によれば、フィルタ内に浸入してきた汚水又は海水に対して汚物又はプランクトン等を確実に濾過することが出来る。
【0011】
本願の請求項3に係る発明によれば、確実にフィルタ及びホースの一部を原水内に沈めることが出来、しかも、原水が海水である場合には、重りの腐食を防止することが出来る。
【0012】
本願の請求項4に係る発明によれば、ホースを細く軽くして非使用時にホースが場所を取る事を防止することが出来、しかも、原水が海水の場合には耐塩性に富んだホースを実現することが出来る。
【0013】
以下、本発明の様々な具体化を、添付図面を基に、その効果・利点と共に、詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1に係る浄水システムの構成を模式的に示す図である。
【図2】フィルタの内部構成例を模式的に示す正面図である。
【図3】フィルタの内部構成例を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施の形態1)
<浄水システムの構成>
【0016】
図1は、本実施の形態に係る浄水システム1の構成を模式的に示す図である。図1に於いて、圧力ポンプ2は、人間が同ポンプ2の最上部2Bに対して力Fにより押すときには、当該同ポンプ2のジャバラ部2Cが縮んで、その内部に押圧力を発生させる。その結果、圧力ポンプ2の吸水口2A内にある第1弁(図示せず。)は、押圧力により閉まる一方、排水口2E内にある第2弁(図示せず。)は、押圧力により開く。他方、人間が力Fにより押す動作を止めるときには、当該ポンプ2のジャバラ部2Cが伸張して、圧力ポンプ2は、その内部に吸引力を発生させる。その結果、上記第1弁は開く一方、上記第2弁は閉まる。
【0017】
又、ホース3の他端部は、圧力ポンプ2の吸水口2Aに接合されている。他方、ホース3の一端部3EPは、ホース3の先端部を成す。
【0018】
そして、ホース3の材料としては、ポリエチレン又はゴムが挙げられる。特に、ホース3は、後述する接続部5と比較して長いため、一般的に軽くて細い部材であるゴムが、ホース3の部材としては適している。特に、ゴムは一般的に弾性の高い材料であるため、ホース3の部材としてゴムを用いるときには、非使用時に於いては、ホース3自体を圧力ポンプ2の外形に巻き付けておくことが出来るので、長いホース3が邪魔とはならない。しかも、ホース3の先端部を海水中に沈めるときには、ゴムは耐塩性に富んでいるため、ホース3がゴムより成る場合には、ホース3の先端部の腐食を回避することも出来る。
【0019】
又、浄水器4は、その吸水口4Bより取り入れた非飲料水に対して既知の浄水作用を施すことで飲料可能な水を生成し、生成後の飲料水を排出部4Aより排出する。
【0020】
又、接続部5は、圧力ポンプ2の排水口2Eと浄水器4の吸水口4Bとを互いに接続する部分である。
【0021】
再び、ホース3の先端部を成す一端部3EPの構造について記載すると、一端部3EPは全体的にフィルタ6内に挿入・配設されている。そして、一端部3EPは、フィルタ6ごと、バケツ7内に蓄えられた汚水8内に浸漬されている。図1に示す本実施の形態の一例では、浄水処理対象の原水は、汚水8である。この汚水8は、例えば、池から、プールから、汚れた川から、泥沼から、或いは、大きな水溜りから採取した水であり、微生物、植物の毛又は泥若しくは砂利等で汚れている水である。
【0022】
ここで、図2は、フィルタ6の内部構成を模式的に表示するために描画された正面図である。本例では、フィルタ6は、海綿状のスポンジ(フィルタ部材に該当。)により構成されているものであって、汚水8を濾過するものである。即ち、フィルタ6は、フィルタ6内に浸入してきた汚水8より、微生物等或いは泥・砂利等の固形成分をフィルタ6内に留める濾過作用を行う。
【0023】
図2に示す通り、ホース3の先端部である一端部3EPの全体が、フィルタ6のほぼ中央部内に挿入されて固設されている。この一端部3EP全体は、スポンジのフィルタ6により圧着されて成る。そして、ホース3の内で一端部3EPにのみ、同部3EPの全体的に亘って、複数の貫通穴3PHが、開口部として、形成されている。そのため、フィルタ6内に浸入してきた汚水8は、フィルタ6の部材を成すスポンジの上記作用により濾過されつつ、その一部が、一端部3EPの各貫通穴3PHを介して、ホース3の内部に浸入することとなる。
【0024】
又、図2に於いて、図示の便宜上、重り10にはハッチングが施されている。そして、フィルタ6は、その内部に、重り10を有する。即ち、重り10は、その周囲全体に亘って、スポンジのフィルタ部材で囲まれて、同部材に固着されている。この重り10は、汚水(原水)8に対する上記フィルタ部材の浮力及びホース3の浮力に優る荷重を有している。この重り10をフィルタ6がその内部に有することにより、フィルタ6は全体的に汚水8内に確実に沈み込む。ここで、重り10を成す材料として、例えば、鉛が用いられる。鉛は、ゴム及びスポンジよりもその比重が重いものであり、しかも、原水が海水の場合に当該海水により腐食されて錆びる材料では無い。その意味で、鉛は、重り10の材料として好適な一例であると、言える。尚、重り10の全体が、スポンジのフィルタ部材で囲まれていても良い。その点は、後述する図3でも同様である。
【0025】
又、図3は、図2の変形例を模式的に示す正面図である。図3の例では、ホース3の一端部3EPは、複数の貫通穴3PHに代えて、第1切込み口3PA及び同口3PAに対向する第2切込み口3PBを、複数の開口部として、有する。第1及び第2切込み口3PA,3PBは、ホース3の一端部3EPを対称的に切込むことにより生成される。この場合にも、各切込み口3PA,3PBは、フィルタ6内に浸入しフィルタ部材を成すスポンジの上記作用により濾過された原水を、開口部として、そのホース3の内部に通す。
【0026】
<浄水システムの浄水処理方法>
以下では、図1及び図2を参照しつつ、本浄水システム1を利用した汚水8の浄水処理方法について記載する。
【0027】
先ず、被災者等は、バケツ7を持ち歩いて出かけ、周囲の池又はプール等から汚水8を汲みあげて汚水8をバケツ7内に入れた上で、同バケツ7を避難先等へ持ち帰る。その上で、被災者等は、図1の浄水システム1に於けるホース3の一端部3EPが挿入されているフィルタ6と、フィルタ6の上面から突出したホース3の一部とを、汚水8内に沈める。この際、フィルタ6は既述した通りの重り10を有するので、フィルタ6等は確実に汚水8内に沈み込む。
【0028】
次に、被災者等は、一端、手で圧力ポンプ2の最上部2Bに力Fを加えて同ポンプ2のジャバラ部2Cを縮めることで圧力ポンプ2内に押圧を発生させる。このとき、圧力ポンプ2の吸水口2Aの第1弁(図示せず。)は閉まっており、他方、排水口2Eの第2弁(図示せず。)は開くが、圧力ポンプ2内の容器内には水が溜まっていないため、排水口2Eからは水が排出されることはない。
【0029】
その後、被災者等は、手で最上部2Bに対して力Fを加えることを止めて手を最上部2Bから離すと、縮んでいた圧力ポンプ2のジャバラ部2Cは上方へ向けて伸張し出すため、圧力ポンプ2内に吸引力が発生する。この吸引力により、上記第2弁は閉まるが、上記第1弁は開くため、上記の吸引力がホース3内にその一端部3EPに向けて作用する。その結果、フィルタ6内に浸入して泥又は/及び微生物等の汚物が濾過された汚水8の一部が、フィルタ6内のホース3の一端部3EPに設けられた各貫通穴3PHを通じてホース3内に入り込むと共に、上記吸引力に引かれてホース3内をその上方部へ向けて流れていき、吸水口2Aから圧力ポンプ2内の容器内に流れ込んで溜められる。
【0030】
その上で、被災者等は、再度、手で圧力ポンプ2の最上部2Bに力Fを加えて圧力ポンプ2内に押圧を発生させる。この押圧により、第1弁は閉じられるが、第2弁は開くので、圧力ポンプ2内の容器内に溜められていた濾過後の水が、上記押圧により排水口2Eより流出し、接続部5内を流れて浄水器4の吸水口4Bより浄水器4へ流入する。そして、浄水器4は、流入した非飲料水に対して既知の浄水処理を施すことで飲料水を生成し、生成後の飲料水4を排出部4Aより排出する。この飲料水を、被災者等は、紙コップ9で受け止めれば、紙コップ9内に少量の飲料水が蓄えられる。
【0031】
被災者等は、これらの一連した動作を人力で行い続けることにより、相当程度の飲料水を紙コップ9内に蓄えることが出来て、その飲料水を飲んで喉の渇きを抑えることが出来る。この様な人力の動作のみを断続的に行うことにより、電気を必要とすることなく、被災者等は、一日当りで数リットル程度の飲料水を、当面の緊急対策として、生成することが出来る。
【0032】
又、汚水8に代えて原水として海水を考える場合にも、海上事故等で緊急時的に船舶よりボートに乗り込んだ人も、本浄水システム1をボート上で上記の通りに使用することにより、海水内に沈んだフィルタ6により海水内のプランクトン等を濾過して成る海水を、ホース3を介して、圧力ポンプ2内の容器内に蓄えて、更に浄水器4により塩分等を除去した浄水を、救助されるまでの当面の飲料水として、飲むことが可能となる。
【0033】
尚、浄水器4のサイズが小型化されるにつれて、本システム1も携帯可能なサイズへと小型化されることになる。
【0034】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を詳細に開示し記述したが、以上の記述は本発明の適用可能な局面を例示したものであって、本発明はこれに限定されるものではない。即ち、記述した局面に対する様々な修正及び/又は変形例を、この発明の範囲から逸脱することの無い範囲内で考えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る浄水システムは、災害等の被災者等が一時的に飲料水を飲める浄水装置に適用して好適である。
【符号の説明】
【0036】
1 浄水システム
2 圧力ポンプ
3 ホース
3EP 一端部(先端部)
3PH 貫通穴(開口部)
3PA 第1切込み口(開口部)
3PB 第2切込み口(開口部)
4 浄水器
5 接続部
6 フィルタ
8 汚水
10 重り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押す力が上方より加わると内部に押圧力を発生させ、前記押す力が加わらなくなると前記内部に吸引力を発生させると共に、前記吸引力により開く一方で前記押圧力により閉まる第1弁を有する吸水口と、前記押圧力により開く一方で前記吸引力により閉まる第2弁を有する排水口とを備える圧力ポンプと、
一端部と、前記圧力ポンプの前記吸水口に接合された他端部とを有するホースと、
汚水又は海水の何れかの原水内に浸された際にその内部に浸入する前記原水を濾過し得るフィルタ部材より成り、前記ホースの前記一端部が前記内部に挿入されていると共に、前記原水に対する前記フィルタ部材及び前記ホースの各々の浮力に優る荷重を有する重りを前記内部に有するフィルタと、
浄水器と、
前記圧力ポンプの前記排水口と前記浄水器の吸水口とを互いに接続する接続部と
を備えており、
前記ホースの前記一端部は、前記フィルタ内に浸入して濾過された前記原水を前記ホースの内部に通す複数の開口部を有する
ことを特徴とする浄水システム。
【請求項2】
請求項1に記載の浄水システムであって、
前記フィルタ部材はスポンジから成る
ことを特徴とする浄水システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の浄水システムであって、
前記重りは鉛から成る
ことを特徴とする浄水システム。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の浄水システムであって、
前記ホースはゴムより成る
ことを特徴とする浄水システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−223679(P2012−223679A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91622(P2011−91622)
【出願日】平成23年4月17日(2011.4.17)
【特許番号】特許第4824138号(P4824138)
【特許公報発行日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(511097201)
【Fターム(参考)】