説明

浚渫土ペレット

【課題】 微生物等の住居として有用な、また、微生物活性を促進するに有用な担体となり得る、乾燥や焼成等の工程を採用する必要のない、環境に優しい、有効な浚渫土ペレットを提供すること。
【解決手段】 浚渫作業によって揚上された浚渫土に対して、製紙スラッジ焼却灰を主成分とする凝集固化剤を混合して反応せしめることにより、形成されたフロックを、脱水して得られる固形物を用い、この固形物に、その100重量部に対して0.1〜10重量部の割合のポリビニルアルコールを混合して、造粒することにより、多孔質状の浚渫土ペレットを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浚渫土ペレットに係り、特に、高含水率の浚渫土(浚渫泥)を利用して得られる、海洋微生物や微細藻類の担体乃至は基盤等として、海域での再利用に有効なペレットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、閉鎖性の内湾にあっては、周辺からの負荷や魚介類、養殖業等による負荷に伴ない、海底に多量の有機物が沈降し、堆積していることは、よく知られているところである。また、港湾における海底においても、河川や湖沼等の水底においても、黒色汚濁質の堆積物が堆積していることは、同様である。そして、そのような堆積物、所謂「ヘドロ」は、高含水率であることに加えて、高い有機物含有量を有するものであるところから、それによる海域や水域の汚染が重大な問題となってきている。例えば、近年問題となっている水域環境での富栄養化、赤潮或いは青潮等の原因の一つとして、それら堆積物からの栄養塩類の溶出や、溶存酸素の消費が指摘されている。このため、底質改善対策が急務とされ、全国各地において、浚渫事業が展開されてきているのである。
【0003】
そして、そのような浚渫事業によって揚上された浚渫土は、高含水率のものであるところから、そのままでは、本来的に、埋め立て材料等としては不適当なものであり、加えて、悪臭が強いために、そのまま放置することも出来ず、その処理に大きな問題を内在するものであった。
【0004】
尤も、そのような高含水率の浚渫土(泥)を脱水処理するべく、従来においては、揚上された浚渫土を、陸上にて長期間をかけて自然乾燥させたり、浚渫土に凝集剤を添加した後、大型の機械脱水プラントを用いて、脱水したりする手法が採用されてきているが、それらのうち、自然乾燥方式では、脱水に時間がかかり、効率的でないことに加えて、広い処理スペースが必要となる等の問題があり、また、機械脱水方式にあっては、高い処理コストや広い作業スペースの問題に加えて、高含水率の浚渫泥を、取り扱いの容易な固形物とするのが容易ではない等の問題を内在していることに加えて、本質的に、そのようにして処理された浚渫土を有効利用し得るものではなかったのである。
【0005】
このために、特許文献1においては、浚渫土である底泥の有効な一つの利用の形態として、乾燥された底泥を焼成して、多孔質状にした底泥ペレットが明らかにされているのであるが、そこでは、そのような底泥ペレットを得るべく、底泥を乾燥させる必要があるところ、その乾燥作業には、前述せる如き困難な問題が、内在しているのである、しかも、その得られた乾燥底泥には、更に焼成処理が必要とされているところから、高エネルギーコストを招く結果となることに加えて、環境に優しい有効利用形態ということが出来ないものであり、また、その製造方式から、多量の浚渫泥の処理・有効利用には、不向きなものであった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−146800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かくの如き事情を背景にして為されたものであって、微生物等の住居として有用な、また微生物活性を促進するに有用な担体となり得る、乾燥や焼成等の工程を採用する必要のない、環境に優しい、海域での再利用に有効な浚渫土ペレットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明にあっては、かかる課題の解決のために、浚渫作業によって揚上された浚渫土に対して、製紙スラッジ焼却灰を主成分とする凝集固化剤を混合して反応せしめることにより、形成されたフロックを、脱水して得られる固形物を用い、この固形物に、その100重量部に対して0.1〜10重量部の割合のポリビニルアルコールを混合して、造粒した多孔質状のものからなることを特徴とする浚渫土ペレットを、その要旨とするものである。
【0009】
なお、かかる本発明に従う浚渫土ペレットの望ましい態様の一つによれば、前記ポリビニルアルコールは、製紙スラッジ焼却灰を主成分とする凝集固化剤との配合物の形態において、前記固形物に対して混合せしめられる構成が、有利に採用されることとなる。
【0010】
また、本発明の他の望ましい態様に従えば、前記ポリビニルアルコールは、前記凝集固化剤の100重量部に対して1〜20重量部の割合において、前記配合物中に配合されている。
【0011】
さらに、本発明にあっては、前記固形物は、一般に、50〜70%の含水率を有しているものである。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明に従う浚渫土ペレットにあっては、基本的に、その表面において、またその内部においても、多孔質となっているところから、微生物等の住居として有効な担体となり得るものであり、また、材料が浚渫土とされているところから、微生物にとって有効な有機栄養分を多く含んでおり、そのため、微生物活性を促進する有効な担体となり得るものであり、更に、底生微生物の作用により、海底面上へと沈降堆積してくる新生有機物を効率よく分解・回帰させることで、底質への新たな有機物負荷を軽減させることが出来るのであって、これらの特徴により、本発明に従う浚渫土ペレットは、再度、海底面上に戻されて、海洋微生物や微細藻類等の担体として、有利に用いられることとなるのである。
【0013】
また、本発明に従う浚渫土ペレットにあっては、高含水率の浚渫土を原料として、そのフロックを固液分離して得られる固形物を用い、それにポリビニルアルコールを加えて、造粒することによって得られるものであるところから、エネルギーコストの高い焼成処理を避けて、常温にてのペレット成形が可能となるものであり、更に、その造粒して得られたペレットは、乾燥等する必要はなく、自然養生で成形できることから、コスト的にも安価であり、現場において実現可能な技術ということが出来ると共に、そのような造粒ペレットは、アマモ造成場の基盤の如く、海洋微生物や微細藻類の海底の担体として、利用することが出来ることによって、自然の材料を自然に戻すという、リサイクルを兼ねた、環境に優しいものであるという特徴を発揮する。
【0014】
さらに、本発明にあっては、目的とする浚渫土ペレットが、ポリビニルアルコールと共に、凝集固化剤を用い、それらの配合物を、浚渫土から得られた固形物に対して混合せしめて、造粒することにより、形成せしめられるようにすれば、ペレット自体の形状安定性を効果的に高め得て、造粒後における屋外養生においても、その形状を有利に保ち、その取扱性を効果的に向上せしめ得ると共に、造粒ペレットの各種用途への展開を有利に図ることが可能となるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
先ず、本発明において、目的とする浚渫土ペレットを得るために用いられる浚渫土は、内湾、港湾、河川、湖沼等の海底乃至は水底に堆積した堆積物である底質を、浚渫作業によって、一旦、陸上に揚上して得られる高含水率のものであって、浚渫泥とも称されるものである。そして、そのような浚渫土に対して、製紙スラッジ焼却灰を主成分とする凝集固化剤が混合されて、反応せしめられることにより、フロックが形成され、更に、このフロックを固液分離して、脱水することにより、水分量の低減された固形物が得られるのであるが、本発明にあっては、このようにして得られた固形物を用いて、造粒操作が施されるのである。
【0016】
ここで、そのような浚渫土に混合・反応せしめられる、製紙スラッジ焼却灰を主成分とする凝集固化剤は、従来から、固化剤としてよく知られているものであって、例えば、特許第3274376号公報に明らかにされているように、製紙スラッジ焼却灰を主成分とし、これに、石膏、シリカヒューム、アルミナ・珪酸塩を主体とする天然鉱物、アルカリ金属炭酸塩及び陰イオン界面活性剤を均一に混合して、Si成分がSiO2 換算量で45〜55重量%、Al成分がAl23 換算量で20〜30重量%、Ca成分がCaO換算量で5〜15重量%、及びMg成分がMgO換算量で5〜15重量%含有されているものを挙げることが出来る。
【0017】
また、特開2002−363560号公報に明らかにされている如き、製紙スラッジの焼却灰100重量部に対して、ポルトランドセメント7〜30重量部、硫酸バンド3〜10重量部、無水石膏0.7〜10重量部、メタクリル酸エステル0.3〜5重量部、リグニンスルホン酸塩類0.08〜0.53重量部、ステアリン酸塩類0.07〜0.40重量部、トリポリリン酸ソーダ0.04〜0.27重量部、水酸化ナトリウム0.01〜0.068重量部を混合してなるもの、更には、本発明者等が特願2003−372824号において提案した、製紙スラッジの焼却灰:粉状のポルトランドセメント;並びにpH調節剤、凝集剤、界面活性剤、吸水性強化剤及び分散剤から選択される少なくとも1種の機能性剤からなる粉状の中性無機固化剤とポリビニルアルコール系樹脂とを有効成分とする固化用組成物等を挙げることも出来る。そして、そのような凝集固化剤は、「アクアリファイン」(株式会社片山化学工業研究所)等の商品名において、市販されており、本発明にあっては、そのような凝集固化剤が、何れも、採用可能である。
【0018】
また、上記した浚渫土に対して凝集固化剤を反応させ、そして、その形成されたフロックを固液分離して、脱水された固形物を得るに際しても、公知の手段が適宜に採用され、また、公知の単位操作を適宜に組み合わせてなる装置を用いて、目的とする固形物を得ることが出来るが、本発明にあっては、図1〜図3に示される如き処理装置が、好適に用いられることとなる。
【0019】
具体的には、それらの図に示される装置においては、原泥貯留槽2と濾過液槽4とが互いに独立した形態において、併設されており、そして、濾過液槽4上には、楕円形状の回転板の多数を用いた固液分離装置6が設置されているのである。また、かかる固液分離装置6に対して、原泥から生じた反応処理物を交互に供給する2基の反応槽8、8が設けられ、更に、それぞれの反応槽8に凝集固化剤の所定量を供給する凝集固化剤供給機10が、それぞれ設けられているのである。
【0020】
このような装置において、原泥貯留槽2には、海底等から揚上される高含水率の浚渫土(浚渫泥)が、高濃度の浚渫泥にも対応し得るチューブポンプ等からなる供給ポンプ12によって供給されて、貯留されるようになっている。そして、この原泥貯留槽2においては、原泥撹拌機14が設けられており、この原泥撹拌機14の撹拌作用によって、供給された浚渫土が均一化されるようになっている一方、所定の凝集固化剤との有効な反応のために、その含水率が一定の、高含水率となるように、調整されるようになっているのであり、また、その調整された原泥は、モノフレックスポンプ等からなる原泥送出ポンプ16によって、何れかの反応槽8に送出せしめられるようになっている。
【0021】
そして、かかる原泥貯留槽2において、そのような原泥の含水率が、有利には、85〜95%、特に87〜93%となるように調整されることとなる。ここで、原泥中の水分量が多くなり過ぎると、反応槽8内において形成されるフロックが小さくなり過ぎて、固液分離装置6における固液分離が困難となるからであり、また、原泥中の水分量が余りにも少なくなると、反応槽8において、凝集固化剤を加えたときに、全体的に軟らかなフロックとなったり、フロックが成長しない等のフロックの形成状況が悪く、この場合においても、固液分離装置6でのフロックの分離を有効に行ない得なくなる問題を惹起する。
【0022】
このように、原泥貯留槽2においては、供給ポンプ12によって供給された浚渫土の含水率が、反応槽8においてフロックが最適な大きさにおいて形成されるように、調整されることとなるのであり、そのために、例示の装置においては、濾過液槽4内に返送ポンプ18を設けて、固液分離装置6にて分離された液相成分である濾過液が、返送ポンプ18によって、原泥貯留槽2内に供給されるようになっているのである。そして、このように、供給ポンプ12によって供給された浚渫土に対して、濾過液を混合せしめるようにすることにより、目的とする高含水率の原泥が、効果的に調整されることとなるのである。特に、この原泥の調整に、濾過液槽4内の濾過液を利用することによって、かかる濾過液槽4から放流される濾過液の最終的な排水量が、有利に削減され得るようになっている。
【0023】
また、原泥送出ポンプ16によって原泥貯留槽2から送出された原泥は、バルブの切換えによって、二基の反応槽8、8の何れかに導かれる一方、それぞれの反応槽8には、それぞれに対応する凝集固化剤供給機10から、目的とする凝集固化剤の所定量が、それぞれ供給され、そして反応槽8に設けた撹拌機20による撹拌作用によって、均一に混合されて、原泥と凝集固化剤とが反応せしめられ、以て、固液分離に有効な大きさのフロックが、形成されることとなるのである。
【0024】
さらに、本発明に従う所定の凝集固化剤を、凝集固化剤供給機10によって反応槽8内に供給するに際して、その供給量は、原泥貯留槽2から供給される原泥の供給量に応じて、適宜に決定されることとなるが、一般に、原泥の1リットル当り、5〜50g、好ましくは10〜30g程度が、反応槽8に供給されることとなる。なお、この特定の凝集固化剤の供給量が、少なくなり過ぎると、フロックの形成が充分に行なわれ難くなる問題があり、また、その供給量が多くなり過ぎると、薬剤コストがかかり過ぎることに加えて、逆にフロックが形成され難くなる等の問題も内在するのである。
【0025】
そして、二基の反応槽8、8を用いて、それぞれ、含水率の調節された原泥と所定の凝集固化剤とが撹拌機20によって均一に混合されて、反応せしめられることによって形成される、固液分離に適したフロックが、それぞれの反応槽8の下部に設けられたストップバルブ22の切換えによって、流量調整弁24を通じて、固液分離装置6に供給されるようになっている。なお、反応槽8内における原泥と凝集固化剤との反応に基づくところのフロックの形成は、一般に、数分以内において達成され、そのため、二基の反応槽8、8を用いて、それら反応槽8内に形成されたフロックを連続的に固液分離装置6に供給することが可能となるようになっている。
【0026】
ところで、かかる反応槽8から供給されるフロック(固相)と水分(液相)とからなる反応処理物を固液分離する固液分離装置6は、互いに平行に配置された複数の回転軸にそれぞれ軸装された多数の楕円形状の回転板26上に、反応処理物を供給して、かかる回転板26の回転方向に従って順次搬送しつつ、その固液分離を行ない、実質的にフロックからなる、含水率の低減された固形物を外部に取り出すようにする一方、そのようなフロックから分離された水分は、回転板26の間隙から下方に落下させて、濾過液槽4内に収容せしめ、必要に応じて、外部に放流されるようになっている。
【0027】
より詳細には、固液分離装置6は、図2及び図3に示されているように、装置本体のフレーム28に対して、複数の回転軸30を水平面内において互いに平行に配列して、回転自在に軸支する一方、かかる回転軸30には、多数の楕円形状の回転板26が、所定間隔を隔てて軸装されていると共に、隣接する回転板26、26間には、図2において左右方向となるガイド面としての上面を有する案内部材32が、配置されてなる構造とされている。そして、それぞれの回転軸30を同一方向に回転させることにより、各軸に取り付けた回転板26の上部周面によって形成される送り面側に投入された固液混在状態の反応処理物は、各列の回転板26の周面に下方から持ち上げられながら、案内部材32の上面に沿って、図2において右方向に搬送されることとなる。そして、反応処理物は、案内部材32及び回転板26の上面を移動する過程で、回転板26、26間の間隙内の回転板26と案内部材32との間の隙間及び隣接する回転板26同士の周面間の間隙から、水、その他の液体成分を、下方に流出濾過せしめて、濾過液槽4内に導くようにする一方、案内部材32上に補修される固形成分は、回転板26の周面にて送られながら、順次濾過脱水されて、含水率の減少された固形物として、固液分離装置6から取り出され得るようになっているのである。
【0028】
なお、このような固液分離装置6において、案内部材32は、その上面が平滑なガイド面となるように構成されている一方、回転板26の楕円の位相が、隣接する軸ごとに、順次90度ずつずらして配置されており(図2参照)、これによって、回転板26の回転中に、隣接する回転板26の送り面が回転中に順次波形を形成しながら、送り方向に変動するように構成されている。また、装置本体のケーシングの上部には、先端にウェイト34が取り付けられたアーム36が、軸38により、上下揺動可能に軸支されてなる構造の圧搾装置40が設けられており、この圧搾装置40が回転板26周面の上下方向への運動に追従して揺動せしめられ、以て、搬送される固形のフロック集合物を押圧して、更なる脱水を行い得るようになっている。
【0029】
かくして、固液分離装置6から取り出された、実質的にフロックからなる固形物は、含水率が70%以下、50%程度まで低減されたものとなるのであり、また、その取り扱いも容易であって、本発明に従う浚渫土ペレットを得る上において、好適な固形物となるものである。特に、そのような固形物を与える浚渫土は、通常15〜16%程度の有機物を含むものであるところから、かかる得られた固形物は、海洋微生物に好適な培地として、また、藻等の植物に適した基盤として、有利に用いられ得るものである。
【0030】
このように、本発明にあっては、浚渫土ペレットを形成するための固形物を有利に得るべく、(a)浚渫作業によって揚上された浚渫土を貯留して、所定含水率の原泥として調整する一方、その調整された原泥を、ポンプによって送出し得るように構成した原泥調整装置と、(b)かかる原泥との反応のために、所定の凝集固化剤を、所定量において供給する凝集固化剤供給装置と、(c)前記原泥調整装置から送出される原泥と前記凝集固化剤供給装置から供給される凝集固化剤とを混合して反応せしめ、フロックを形成させる反応槽と、(d)該反応槽内の反応処理物を、該反応槽より取り出し、互いに平行に配置された複数の回転軸にそれぞれ軸装された多数の楕円形状の回転板上に供給して、かかる回転板の回転方向に従って、順次搬送しつつ、固液分離を行ない、実質的に前記フロックからなる、含水率の低減された固形物を取り出す固液分離装置とを備えた処理装置が、好適に用いられるのである。
【0031】
そして、本発明にあっては、このようにして得られた浚渫土の固形物を用い、この固形物に、その100重量部に対して0.1〜10重量部の割合のポリビニルアルコールを混合せしめ、更にその混合物を、従来と同様な造粒機を適宜に選定して用いて、造粒(ペレット化)することにより、目的とする多孔質状の造粒物からなる浚渫土ペレットが、容易に且つ有利に形成されるのである。
【0032】
要するに、本発明に従う浚渫土ペレットは、前述せるように、浚渫土から得られる固形物を用い、それに、ポリビニルアルコールの所定量を混合して、通常の造粒操作を加えるだけで、目的とする多孔質状の浚渫土ペレットとして、得ることが出来るものであるところから、常温下において、ペレット成形が可能であり、高いエネルギーコストが必要な、焼成処理を採用するものではなく、また、造粒したペレットは、乾燥等する必要はなく、自然養生にて成形することが出来るところから、コスト的に安価となることは勿論、浚渫現場においても、実現可能な技術であって、自然に優しい技術と言うことが出来るものである。
【0033】
なお、造粒に際して、固形物に混合せしめられるポリビニルアルコールの混合量が少なくなり過ぎると、その配合効果を充分に発揮し得ず、また、配合量が多くなり過ぎた場合には、粘性が高くなる等の問題を惹起するようになるところから、本発明にあっては、固形物の100重量部に対して、ポリビニルアルコールは0.1〜10重量部の割合において用いられ、特に有利には、3重量部以下の割合において用いられることとなる。
【0034】
また、本発明にあっては、上述の如きポリビニルアルコールは、前記した固形物の形成に際して用いられた凝集固化剤との配合物の形態において、固形物に対して混合せしめられることが、望ましいのである。このような凝集固化剤は、固形物の含水率を更に低下させる助剤として機能するものと考えられており、そのような凝集固化剤を、ポリビニルアルコールと共に、造粒材料たる固形物に混合せしめて、造粒することにより、得られる浚渫土ペレットの形状安定性が有利に高められ得て、造粒成形後における屋外養生においても、その形状を保ち、再分散等の状態となることも、有利に回避され得るものとなるのである。
【0035】
なお、その場合において、ポリビニルアルコールと共に、凝集固化剤の使用による効果を有利に発揮させる上において、ポリビニルアルコールは、凝集固化剤の100重量部に対して1〜20重量部の割合において用いられ、本発明にて対象とする固形物に配合せしめられることとなる。
【0036】
また、本発明に従う浚渫土ペレットの造粒に際しては、上記したポリビニルアルコールや凝集固化剤の他にも、適宜に、添加剤や助剤等を固形物に混合して、造粒せしめることが出来、例えば、製紙スラッジ焼却灰そのものを配合せしめることも可能であり、これによって、有用な浚渫土ペレットの提供と同時に、製紙工場において産業廃棄物として取り扱われている製紙スラッジ焼却灰の有効利用を図り得るという一石二鳥の利点を享受することが出来ることとなる。
【0037】
また、かくの如き造粒操作によって得られる浚渫土ペレットは、その表面において、また、その内部においても、多孔質となり、微生物等の住居として有効な担体となり得ることに加えて、微生物にとって有効な有機栄養分を多く含んだ浚渫土からの固形物を用いたものであるところから、微生物活性を促進するに有効な担体ともなり得るものであり、更に、底生微生物の作用によって、海底面上へと沈降堆積する新生有機物を効率的に分解回帰させることで、底質への新たな有機物負荷を軽減させることが出来るという利点をも有しているのである。そして、そのようなペレットの表面と内面の環境特性を利用することにより、好気的環境と嫌気的環境を使い分けることが出来、底質汚泥中に存在する窒素等の有機物を水中へと回帰させる可能性も期待することが出来るのである。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0039】
実施例 1
三重県英虞湾の立神浦において浚渫された浚渫土を採取し、これに、図1に示される処理装置を用いて、製紙スラッジ焼却灰を主成分とする凝集固化剤(株式会社片山化学工業研究所製、アクアリファイン)を反応せしめ、そしてそれによって生じたフロックを固液分離して、脱水することにより、含水比が900%の浚渫泥水から含水比が150%の固形物を得た。なお、凝集固化剤は、泥水体積に対して、外掛けにて1.5%の割合において混合せしめて、反応させた。
【0040】
次いで、かかる得られた固形物を用い、その100重量部に対して、1重量部となる割合のポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製)を混合して、通常の造粒機を用い、ペレット状に加工することにより、直径1cm×長さ2〜3cmのサイズのペレットを得た。
【0041】
かくして得られた浚渫土ペレットは、充分な固体強度を有し、形状の保持性にも優れたものであって、海域における基盤材料として、また、藻類や海洋微生物の培土乃至は培地として有用であることを認めた。
【0042】
実施例 2
実施例1において得られた浚渫土の固形物を用いて、それに、下記表1に示される各種の配合剤を配合せしめて、均一に混合せしめた後、造粒機としての調餌機を用いて、ペレットの成形を行なった。そして、その得られた成形ペレットについて、以下の判断基準に従って、それぞれ、評価した。
×:調餌機から出てくるが、軟弱で、排出されると同時に潰れてしまい、安定しな いもの
△:調餌機から出てきた後、軟弱ではあるが、自然に潰れることはなく、手を加え ない限り、形を保っているもの
○:調餌機から出てきた後、手を加えて養生操作が出来るもの
【0043】
【表1】

【0044】
かかる表1の結果から明らかなように、浚渫土の固形物をそのまま用いたり(試料番号6)、単なるペーパースラッジ焼却灰を配合せしめたり(試料番号1、2)した場合にあっては、安定ペレットを得ることが出来なかったが、凝集固化剤(アクアリファイン)にポリビニルアルコールを配合してなるもの(ARP−PVA5)を混合せしめた場合にあっては、良好な安定性を有していることが認められた。
【0045】
また、かかるペレット成形操作の後、自然放置(屋外放置)による養生を行なったところ、ARP−PVA5混合物を配合して成形されたペレットにあっては、その養生期間中に降雨があっても、全てにおいて形状を保っており、再分散等の状況は認められず、その効果は、実験番号4の成形ペレットにおいて、顕著であった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に従う浚渫土ペレットを与える浚渫土の固形物を有利に製造し得る浚渫土の処理装置の一例を示す概略説明図である。
【図2】図1に用いられている固液分離装置の概略説明図である。
【図3】図2におけるA−A断面説明図である。
【符号の説明】
【0047】
2 原泥貯留槽 4 濾過液槽
6 固液分離装置 8 反応槽
10 凝集固化剤供給機 12 供給ポンプ
14 原泥撹拌機 16 原泥送出ポンプ
18 返送ポンプ 20 撹拌機
22 ストップバルブ 24 流量調整弁
26 回転板 28 フレーム
30 回転軸 32 案内部材
34 ウェイト 36 アーム
38 軸 40 圧搾装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
浚渫作業によって揚上された浚渫土に対して、製紙スラッジ焼却灰を主成分とする凝集固化剤を混合して反応せしめることにより、形成されたフロックを、脱水して得られる固形物を用い、この固形物に、その100重量部に対して0.1〜10重量部の割合のポリビニルアルコールを混合して、造粒した多孔質状のものからなることを特徴とする浚渫土ペレット。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールが、製紙スラッジ焼却灰を主成分とする凝集固化剤との配合物の形態において、前記固形物に対して混合せしめられる請求項1に記載の浚渫土ペレット。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールが、前記凝集固化剤の100重量部に対して1〜20重量部の割合において、前記配合物中に配合されている請求項2に記載の浚渫土ペレット。
【請求項4】
前記固形物が、50〜70%の含水率を有している請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の浚渫土ペレット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−7587(P2007−7587A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193233(P2005−193233)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名: 平成17年度日本水産工学会学術講演会 主催者名 : 日本水産工学会 開催日 : 平成17年5月28日〜平成17年5月30日
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【出願人】(594146788)日本酢ビ・ポバール株式会社 (18)
【Fターム(参考)】