浮き型地下ダムの構造
【課題】島全体の淡水貯留量を大きく確保することが可能な、浮き型地下ダムの構構造を提供すること。
【解決手段】地中の淡水レンズのうち少なくとも一部を平面的に閉合するように遮水壁を地中に構築してなる浮き型地下ダムの構造であって、陸地の外側にある遮水壁の深度を、陸地の内側にある遮水壁の深度よりも浅くすることにより、湧昇流の発生箇所を元来淡水レンズの厚さが薄い海側に限定した。
【解決手段】地中の淡水レンズのうち少なくとも一部を平面的に閉合するように遮水壁を地中に構築してなる浮き型地下ダムの構造であって、陸地の外側にある遮水壁の深度を、陸地の内側にある遮水壁の深度よりも浅くすることにより、湧昇流の発生箇所を元来淡水レンズの厚さが薄い海側に限定した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、淡水レンズを取水源とする浮き型地下ダムの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
環礁島などの地下では、島の地下に侵入した海水の上に、淡水がレンズ状に浮かんだ状態で存在している(いわゆる「淡水レンズ」)。淡水レンズは島の中央で最も層厚が大きく、海岸へ近づくにつれて薄くなっている(図8)。
また、海に近い地域の地下では、海水が楔状に地下水中に入り込んでいる。
【0003】
なお、淡水レンズからの取水施設としては、以下の特許文献1に記載の施設や、浮き型地下ダムなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−118298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
「浮き型地下ダム」とは、環礁島などの地下において、淡水貯留量を増大させる技術である。
図9に示す従来の浮き型地下ダムは、島の地下に、遮水壁を平面的に閉合するように設けることで、閉合した遮水壁の内側において淡水レンズから海へ向かう流れを遮断するものである。その結果、遮水壁の内側の浸透水は、遮水壁の内側の地中の塩水上に浮かぶように貯留されることとなる。
【0006】
このような浮き型地下ダムにあっては、ダムの内部が淡水で満たされると、淡水が遮水壁の下端に回り込んでダムの外側に流出し、遮水壁に沿った湧昇流が発生する場合がある(図10)。
湧昇流が発生すると、ダム外側の既存の淡水レンズの厚さが減少したり、塩水が混入するおそれがあるため(図11)、浮き型地下ダムの建設位置や形状によっては、島全体の淡水貯留量の増加が実現できない場合があった。
【0007】
したがって、浮き型地下ダムの構築に際し、湧昇流による淡水レンズの厚さの減少を極力低減したり、あるいはその影響を小さくすることで、最終的に島全体の淡水貯留量を大きく確保することが可能な技術の提供が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、地中の淡水レンズのうち少なくとも一部を平面的に閉合するように、遮水壁を地中に構築してなる浮き型地下ダムの構造であって、陸地の外側にある遮水壁の深度を、陸地の内側にある遮水壁の深度よりも浅くしてあることを特徴とするものである。
また、本願の第2発明は、前記発明において、前記遮水壁が、平面視して、陸地の外側から内側を経由して再度外側に折り返すように連続する一つ以上の辺からなる第一遮水壁と、前記第一遮水壁の両端を繋ぐ第二遮水壁と、からなり、前記第二遮水壁の深度を、前記第一遮水壁の深度よりも浅くしてあることを特徴とするものである。
また、本願の第3発明は、前記第1又は第2発明において、前記遮水壁が、平面視して略扇形状又は略三角形状を呈することを特徴とするものである。
また、本願の第4発明は、前記第1又は第2発明において、前記遮水壁が、平面視して略矩形形状を呈することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以下の効果のうち、少なくとも一つを得ることができる。
(1)浮き型地下ダムの構築後において、湧昇流の発生箇所を、元来淡水レンズの厚さが薄い海側に限定することができる。
(2)構築後の遮水壁が、島の浸透水の流線を阻害するおそれを低減する。
(3)(1)(2)により、既存の淡水レンズの厚さを極力維持することができ、効率的な淡水貯留が可能な浮き型地下ダムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の浮き型地下ダムの平面図。
【図2】図1に係る浮き型地下ダムの基本構成を示す断面図。
【図3】浮き型地下ダムの構築前の状態を示すシミュレーション図。
【図4】遮水壁の深度を同一とした従来の浮き型地下ダムを島の中央に構築した場合の状態を示す図。
【図5】従来の浮き型地下ダムを島の外側に構築した場合の状態を示す図。
【図6】本発明の浮き型地下ダム(矩形形状)を島の外側に構築した場合の状態を示す図。
【図7】本発明の浮き型地下ダム(三角形状)を島の外側に構築した場合の状態を示す図。
【図8】環礁島における淡水レンズの概要を示す図。
【図9】従来の浮き型地下ダムの概略平面図。
【図10】従来の浮き型地下ダムの概略断面図。
【図11】従来の浮き型地下ダムの構築前後の比較図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、各図面を参照しながら、本発明に係る浮き型地下ダムの構造の実施例について説明する。
【実施例】
【0012】
<1>全体構成
図1、2を参照する。
本発明に係る浮き型地下ダムAは、地中の淡水レンズのうち少なくとも一部を平面的に閉合するように設けた遮水壁からなる。
そして、前記遮水壁のうち、平面視して陸地Bの外側(海側)にある遮水壁の深度を、陸地Bの内側にある遮水壁の深度よりも浅くして構成することを必須とするものである。
【0013】
[遮水壁の構築方法]
遮水壁は、薬液注入工法、その他の公知の方法で構築する。
【0014】
[遮水壁の分類]
前記の遮水壁のうち「陸地の内側にある遮水壁」を「第一遮水壁1」、「陸地の外側にある遮水壁の深度」を「第二遮水壁2」と定義して、詳細を説明する。
【0015】
<2>第一遮水壁
第一遮水壁1は、平面視して、陸地の外側から内側を経由して再度外側に折り返すように連続する一つ以上の辺からなる遮水壁を指す。
【0016】
[形状例]
図1に示す第一遮水壁1は、平面視して略Λ字形状を呈するタイプである。より詳細に説明すると、陸地Bの内側のある一点から、角度を設けて外側に放射状に延伸した二辺の遮水壁11,12で構成し、各遮水壁の一端を解放したタイプである。
【0017】
なお、第一遮水壁1を構成する各辺が、地下の流線B1を遮らないような軌跡であることが望ましい。
図1に示すように、地下の流線は、平面視して陸地Bの内側(中央側)から外側(海側)へと放射状に延伸していることが一般的であるため、島の中央近傍から外側へと拡がるように第一遮水壁1を構築する態様が、流線B1を阻害しにくい点で有益である。
【0018】
[形状例]
その他、第一遮水壁1は、平面視して略コ字形状を呈するように構築しても良い。より詳細に説明すると、陸地Bの内側に設けた一辺の遮水壁と、当該一辺の遮水壁の両端から外側に延伸した二辺の遮水壁とで構成し、該二辺の遮水壁の一端を解放するよう構成することができる。なお、前記一辺の遮水壁と、二辺の遮水壁の各辺との間の角度は必ずしも直角である必要は無く、地下の流線B1の遮断が過剰にならない程度に拡縮することができる。
その他、第一遮水壁1は、四辺以上の多辺形状を呈するタイプや、円弧を描くタイプであってもよい。
【0019】
<3>第二遮水壁
第二遮水壁2は、前記第一遮水壁1の両端間を繋ぐ遮水壁を指す。
【0020】
[形状例]
前記第一遮水壁1の両端間を繋ぐ方法としては、直線状に繋いでも良いし、曲線で繋いでも良いし、それらの組合せで繋いでも良い。
【0021】
[深度]
図2に示すように、第二遮水壁2は、第一遮水壁1よりも深度を浅く構築する。
これは、湧昇流Cの発生を第二遮水壁2の近傍に誘導し、第一遮水壁1の近傍での湧昇流Cの発生を抑制するためである。
【0022】
なお、本発明は、第二遮水壁2のうち一部の深度を前記第一遮水壁1より浅くした構成であってもよい。
また、第二遮水壁2の深度が一定であることを必須とするものでもない。
【0023】
<4>シミュレーション結果
従来の浮き型地下ダム、並びに、本発明の構造を呈する浮き型地下ダムによる、淡水レンズの態様をシミュレーションした結果を以下に示す。
本実験は三次元数値シミュレーション(解析CODE:TOUGH2−EOS7)を用い、一定期間経過後の塩淡境界(塩水混入率:50%)を示すものである。
【0024】
<4−1>従来の浮き型地下ダム
図3は、浮き型地下ダムの構築前の状態を示す図である。
図4は、遮水壁の深度を均一とした従来の浮き型地下ダムを島の中央に構築した場合の状態を示す図である。
図5は、前記した従来の浮き型地下ダムを島の外側に構築した場合の状態を示す図である。
図3と比較した場合、図4,5ともに、遮水壁の全周で湧昇流が発生することにより、既存の淡水レンズの厚さが大きく減少する結果となった。
【0025】
<4−2>本発明の浮き型地下ダム(矩形形状)
図6は、本発明の浮き型地下ダム(矩形形状)を島の外側に構築した場合の状態を示す図である。
この場合、湧昇流の発生は、島の外側(第二遮水壁2側)に限定されたため、島中央側の淡水レンズの厚さは、構築前の状態(図3)をほぼ維持できている。
【0026】
<4−3>本発明の浮き型地下ダム(三角形状)
図7は、本発明の浮き型地下ダム(三角形状)を島の外側に構築した場合の状態を示す図である。
この場合も、島の外側(第二遮水壁2側)に限定されるため、島中央側の淡水レンズの厚さは、構築前の状態(図3)をほぼ維持できている。
さらに、図6に係る矩形形状の浮き型地下ダムと比較した場合、中央から外側に沿った第一遮水壁1の近傍でも、淡水レンズの厚さは、さらに構築前の状態(図3)を維持する結果となった。
【0027】
以上説明した通り、島の外側の遮水壁をその他の遮水壁よりも深度を浅くすることにより、従来の深度が均一な遮水壁で構成した浮き型地下ダムよりも、淡水レンズの厚さに悪影響を与えずに、淡水貯水量を増大させることが確認できた。
また、浮き型地下ダムを構成する遮水壁の平面形状を、島の内側から外側に向けて順次拡げたような形状(略三角形状又は略扇型形状)とした場合、島の地下の流線を遮るおそれが低減するため、より淡水貯水量の増大・確保が期待できることが確認できた。
【符号の説明】
【0028】
A 浮き型地下ダム
1 第一遮水壁
2 第二遮水壁
B 陸地
B1 流線
C 湧昇流
【技術分野】
【0001】
本発明は、淡水レンズを取水源とする浮き型地下ダムの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
環礁島などの地下では、島の地下に侵入した海水の上に、淡水がレンズ状に浮かんだ状態で存在している(いわゆる「淡水レンズ」)。淡水レンズは島の中央で最も層厚が大きく、海岸へ近づくにつれて薄くなっている(図8)。
また、海に近い地域の地下では、海水が楔状に地下水中に入り込んでいる。
【0003】
なお、淡水レンズからの取水施設としては、以下の特許文献1に記載の施設や、浮き型地下ダムなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−118298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
「浮き型地下ダム」とは、環礁島などの地下において、淡水貯留量を増大させる技術である。
図9に示す従来の浮き型地下ダムは、島の地下に、遮水壁を平面的に閉合するように設けることで、閉合した遮水壁の内側において淡水レンズから海へ向かう流れを遮断するものである。その結果、遮水壁の内側の浸透水は、遮水壁の内側の地中の塩水上に浮かぶように貯留されることとなる。
【0006】
このような浮き型地下ダムにあっては、ダムの内部が淡水で満たされると、淡水が遮水壁の下端に回り込んでダムの外側に流出し、遮水壁に沿った湧昇流が発生する場合がある(図10)。
湧昇流が発生すると、ダム外側の既存の淡水レンズの厚さが減少したり、塩水が混入するおそれがあるため(図11)、浮き型地下ダムの建設位置や形状によっては、島全体の淡水貯留量の増加が実現できない場合があった。
【0007】
したがって、浮き型地下ダムの構築に際し、湧昇流による淡水レンズの厚さの減少を極力低減したり、あるいはその影響を小さくすることで、最終的に島全体の淡水貯留量を大きく確保することが可能な技術の提供が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、地中の淡水レンズのうち少なくとも一部を平面的に閉合するように、遮水壁を地中に構築してなる浮き型地下ダムの構造であって、陸地の外側にある遮水壁の深度を、陸地の内側にある遮水壁の深度よりも浅くしてあることを特徴とするものである。
また、本願の第2発明は、前記発明において、前記遮水壁が、平面視して、陸地の外側から内側を経由して再度外側に折り返すように連続する一つ以上の辺からなる第一遮水壁と、前記第一遮水壁の両端を繋ぐ第二遮水壁と、からなり、前記第二遮水壁の深度を、前記第一遮水壁の深度よりも浅くしてあることを特徴とするものである。
また、本願の第3発明は、前記第1又は第2発明において、前記遮水壁が、平面視して略扇形状又は略三角形状を呈することを特徴とするものである。
また、本願の第4発明は、前記第1又は第2発明において、前記遮水壁が、平面視して略矩形形状を呈することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以下の効果のうち、少なくとも一つを得ることができる。
(1)浮き型地下ダムの構築後において、湧昇流の発生箇所を、元来淡水レンズの厚さが薄い海側に限定することができる。
(2)構築後の遮水壁が、島の浸透水の流線を阻害するおそれを低減する。
(3)(1)(2)により、既存の淡水レンズの厚さを極力維持することができ、効率的な淡水貯留が可能な浮き型地下ダムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の浮き型地下ダムの平面図。
【図2】図1に係る浮き型地下ダムの基本構成を示す断面図。
【図3】浮き型地下ダムの構築前の状態を示すシミュレーション図。
【図4】遮水壁の深度を同一とした従来の浮き型地下ダムを島の中央に構築した場合の状態を示す図。
【図5】従来の浮き型地下ダムを島の外側に構築した場合の状態を示す図。
【図6】本発明の浮き型地下ダム(矩形形状)を島の外側に構築した場合の状態を示す図。
【図7】本発明の浮き型地下ダム(三角形状)を島の外側に構築した場合の状態を示す図。
【図8】環礁島における淡水レンズの概要を示す図。
【図9】従来の浮き型地下ダムの概略平面図。
【図10】従来の浮き型地下ダムの概略断面図。
【図11】従来の浮き型地下ダムの構築前後の比較図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、各図面を参照しながら、本発明に係る浮き型地下ダムの構造の実施例について説明する。
【実施例】
【0012】
<1>全体構成
図1、2を参照する。
本発明に係る浮き型地下ダムAは、地中の淡水レンズのうち少なくとも一部を平面的に閉合するように設けた遮水壁からなる。
そして、前記遮水壁のうち、平面視して陸地Bの外側(海側)にある遮水壁の深度を、陸地Bの内側にある遮水壁の深度よりも浅くして構成することを必須とするものである。
【0013】
[遮水壁の構築方法]
遮水壁は、薬液注入工法、その他の公知の方法で構築する。
【0014】
[遮水壁の分類]
前記の遮水壁のうち「陸地の内側にある遮水壁」を「第一遮水壁1」、「陸地の外側にある遮水壁の深度」を「第二遮水壁2」と定義して、詳細を説明する。
【0015】
<2>第一遮水壁
第一遮水壁1は、平面視して、陸地の外側から内側を経由して再度外側に折り返すように連続する一つ以上の辺からなる遮水壁を指す。
【0016】
[形状例]
図1に示す第一遮水壁1は、平面視して略Λ字形状を呈するタイプである。より詳細に説明すると、陸地Bの内側のある一点から、角度を設けて外側に放射状に延伸した二辺の遮水壁11,12で構成し、各遮水壁の一端を解放したタイプである。
【0017】
なお、第一遮水壁1を構成する各辺が、地下の流線B1を遮らないような軌跡であることが望ましい。
図1に示すように、地下の流線は、平面視して陸地Bの内側(中央側)から外側(海側)へと放射状に延伸していることが一般的であるため、島の中央近傍から外側へと拡がるように第一遮水壁1を構築する態様が、流線B1を阻害しにくい点で有益である。
【0018】
[形状例]
その他、第一遮水壁1は、平面視して略コ字形状を呈するように構築しても良い。より詳細に説明すると、陸地Bの内側に設けた一辺の遮水壁と、当該一辺の遮水壁の両端から外側に延伸した二辺の遮水壁とで構成し、該二辺の遮水壁の一端を解放するよう構成することができる。なお、前記一辺の遮水壁と、二辺の遮水壁の各辺との間の角度は必ずしも直角である必要は無く、地下の流線B1の遮断が過剰にならない程度に拡縮することができる。
その他、第一遮水壁1は、四辺以上の多辺形状を呈するタイプや、円弧を描くタイプであってもよい。
【0019】
<3>第二遮水壁
第二遮水壁2は、前記第一遮水壁1の両端間を繋ぐ遮水壁を指す。
【0020】
[形状例]
前記第一遮水壁1の両端間を繋ぐ方法としては、直線状に繋いでも良いし、曲線で繋いでも良いし、それらの組合せで繋いでも良い。
【0021】
[深度]
図2に示すように、第二遮水壁2は、第一遮水壁1よりも深度を浅く構築する。
これは、湧昇流Cの発生を第二遮水壁2の近傍に誘導し、第一遮水壁1の近傍での湧昇流Cの発生を抑制するためである。
【0022】
なお、本発明は、第二遮水壁2のうち一部の深度を前記第一遮水壁1より浅くした構成であってもよい。
また、第二遮水壁2の深度が一定であることを必須とするものでもない。
【0023】
<4>シミュレーション結果
従来の浮き型地下ダム、並びに、本発明の構造を呈する浮き型地下ダムによる、淡水レンズの態様をシミュレーションした結果を以下に示す。
本実験は三次元数値シミュレーション(解析CODE:TOUGH2−EOS7)を用い、一定期間経過後の塩淡境界(塩水混入率:50%)を示すものである。
【0024】
<4−1>従来の浮き型地下ダム
図3は、浮き型地下ダムの構築前の状態を示す図である。
図4は、遮水壁の深度を均一とした従来の浮き型地下ダムを島の中央に構築した場合の状態を示す図である。
図5は、前記した従来の浮き型地下ダムを島の外側に構築した場合の状態を示す図である。
図3と比較した場合、図4,5ともに、遮水壁の全周で湧昇流が発生することにより、既存の淡水レンズの厚さが大きく減少する結果となった。
【0025】
<4−2>本発明の浮き型地下ダム(矩形形状)
図6は、本発明の浮き型地下ダム(矩形形状)を島の外側に構築した場合の状態を示す図である。
この場合、湧昇流の発生は、島の外側(第二遮水壁2側)に限定されたため、島中央側の淡水レンズの厚さは、構築前の状態(図3)をほぼ維持できている。
【0026】
<4−3>本発明の浮き型地下ダム(三角形状)
図7は、本発明の浮き型地下ダム(三角形状)を島の外側に構築した場合の状態を示す図である。
この場合も、島の外側(第二遮水壁2側)に限定されるため、島中央側の淡水レンズの厚さは、構築前の状態(図3)をほぼ維持できている。
さらに、図6に係る矩形形状の浮き型地下ダムと比較した場合、中央から外側に沿った第一遮水壁1の近傍でも、淡水レンズの厚さは、さらに構築前の状態(図3)を維持する結果となった。
【0027】
以上説明した通り、島の外側の遮水壁をその他の遮水壁よりも深度を浅くすることにより、従来の深度が均一な遮水壁で構成した浮き型地下ダムよりも、淡水レンズの厚さに悪影響を与えずに、淡水貯水量を増大させることが確認できた。
また、浮き型地下ダムを構成する遮水壁の平面形状を、島の内側から外側に向けて順次拡げたような形状(略三角形状又は略扇型形状)とした場合、島の地下の流線を遮るおそれが低減するため、より淡水貯水量の増大・確保が期待できることが確認できた。
【符号の説明】
【0028】
A 浮き型地下ダム
1 第一遮水壁
2 第二遮水壁
B 陸地
B1 流線
C 湧昇流
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中の淡水レンズのうち少なくとも一部を平面的に閉合するように、遮水壁を地中に構築してなる浮き型地下ダムの構造であって、
陸地の外側にある遮水壁の深度を、陸地の内側にある遮水壁の深度よりも浅くしてあることを特徴とする、
浮き型地下ダムの構造。
【請求項2】
前記遮水壁が、平面視して、
陸地の外側から内側を経由して再度外側に折り返すように連続する一つ以上の辺からなる第一遮水壁と、
前記第一遮水壁の両端を繋ぐ第二遮水壁と、からなり、
前記第二遮水壁の深度を、前記第一遮水壁の深度よりも浅くしてあることを特徴とする、請求項1に記載の浮き型地下ダムの構造。
【請求項3】
前記遮水壁が、平面視して略扇形状又は略三角形状を呈することを特徴とする、請求項1又は2に記載の浮き型地下ダムの構造。
【請求項4】
前記遮水壁が、平面視して略矩形形状を呈することを特徴とする、請求項1又は2に記載の浮き型地下ダムの構造。
【請求項1】
地中の淡水レンズのうち少なくとも一部を平面的に閉合するように、遮水壁を地中に構築してなる浮き型地下ダムの構造であって、
陸地の外側にある遮水壁の深度を、陸地の内側にある遮水壁の深度よりも浅くしてあることを特徴とする、
浮き型地下ダムの構造。
【請求項2】
前記遮水壁が、平面視して、
陸地の外側から内側を経由して再度外側に折り返すように連続する一つ以上の辺からなる第一遮水壁と、
前記第一遮水壁の両端を繋ぐ第二遮水壁と、からなり、
前記第二遮水壁の深度を、前記第一遮水壁の深度よりも浅くしてあることを特徴とする、請求項1に記載の浮き型地下ダムの構造。
【請求項3】
前記遮水壁が、平面視して略扇形状又は略三角形状を呈することを特徴とする、請求項1又は2に記載の浮き型地下ダムの構造。
【請求項4】
前記遮水壁が、平面視して略矩形形状を呈することを特徴とする、請求項1又は2に記載の浮き型地下ダムの構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−72230(P2013−72230A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212605(P2011−212605)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
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