浮遊ウイルス除去ユニット
【課題】エンベロープの有無に関係なく捕集したウイルスを速やかに不活化し、さらに抗ウイルス性を高く維持することの出来る浮遊ウイルス除去ユニットを提供するものである。
【解決手段】ガスに含まれるウイルスを除去するウイルス除去ユニットであって、少なくとも第1の電極と第2の電極と誘電体とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極の間に電圧を印加して放電を発生させることによりプラズマを発生させるプラズマ発生部と、前記プラズマ発生部によって発生したプラズマが存在する空間内に配置される、抗ウイルス性を有する粒子を含むウイルス不活化部と、を備えることを特徴とするウイルス除去ユニット。
【解決手段】ガスに含まれるウイルスを除去するウイルス除去ユニットであって、少なくとも第1の電極と第2の電極と誘電体とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極の間に電圧を印加して放電を発生させることによりプラズマを発生させるプラズマ発生部と、前記プラズマ発生部によって発生したプラズマが存在する空間内に配置される、抗ウイルス性を有する粒子を含むウイルス不活化部と、を備えることを特徴とするウイルス除去ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性を有するナノ粒子を担持した抗ウイルス性フィルタとプラズマを組み合わせて、空間中に浮遊している様々な菌やウイルスなどの微生物を不活化する浮遊ウイルス除去ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、SARS(重症急性呼吸器症候群)やノロウイルス、鳥インフルエンザなどウイルス感染による死者が報告されている。さらに、交通の発達やウイルスの突然変異によって、世界中にウイルス感染が広がる「パンデミック(感染爆発)」の危機に直面し、特に2009年には口蹄疫などのウイルスによる大きな被害も出てきており、緊急の対策が必要である。
【0003】
このような事態に対応するために、ワクチンによる抗ウイルス剤の開発も急がれているが、ワクチンの場合、その特異性により、感染を防ぐことができるのは特定のウイルスに限定される。さらにノロウイルスにおいてはワクチンができていないなど課題がある。
【0004】
また病院や診療所においては、保菌者あるいは感染者によって院内へ持ち込まれたMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や抗生剤投与によって黄色ブドウ球菌からMRSAへと変異した株が、患者から直接、あるいは医療従事者、または白衣やパジャマ、シーツなどの使用物品、壁やエアコンなどの設備を含む環境を介して、患者・医療従事者に接触感染を生じる院内感染が社会的にも大きな問題になってきている。したがって、様々なウイルスやバクテリアに有効な、殺菌、抗ウイルス効果を発揮することができる抗ウイルス性を有する部材や、感染を防ぐ環境が強く望まれている。
【0005】
ここでウイルスは、脂質を含むエンベロープと呼ばれている膜で包まれているウイルスと、エンベロープを持たないウイルスに分類できる。エンベロープはその大部分が脂質からなるため、エタノール、有機溶媒、石けんなど消毒剤で処理すると容易に破壊することができる。このため一般にエンベロープを持つウイルスはこれら消毒剤での不活化(ウイルスの感染力低下ないし失活)が容易である。これに対し、エンベロープをもたないウイルスは上記の消毒剤への抵抗性が強いと言われている。またこれらに有効とされている次亜塩素酸ナトリウムは消毒薬としては利用できるが、部材などへ応用はできない。なお、本明細書において、ウイルス不活化性と抗ウイルス性とは、同一の作用を称している。
【0006】
これらの問題を解決する手段として、フィルタ上に担持した酵素によって、捕捉した微生物やウイルスを不活性化する酵素フィルタ(特許文献1)などが開発されている。また、プラズマにより生成する活性種を利用し、微生物や有害物質を除去するための空気清浄機として、電極間に強誘電体のフィルタを配置し、電圧を印加することで発生するプラズマを生成させる空気浄化装置や(特許文献2)、針状の放電電極から対向電極に向かってストリーマ放電を行うことにより、有害物質の除去を行う空気清浄機(特許文献3)、大気中放電により起る電離現象により生成する正イオンと負イオンを放出する空気清浄機がある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−212824
【特許文献2】特許第3632579号
【特許文献3】特許第4200667号
【特許文献4】特許第3680121号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示すようなフィルタでは、長時間使用した場合に微生物やウイルスの死骸が残留するために、抗ウイルス性能の低下が考えられる。また、特許文献2の空気浄化装置では、プラズマを安定的に発生させるために特殊な強誘電体フィルタを用いなければならず、特許文献3、4の空気清浄機においては、プラズマによって生成する活性種が空気中に放出されるため、その効果が希薄になってしまうという欠点がある。
【0009】
また、空気中での放電では、オゾンや窒素酸化物などが発生することが知られている。オゾンや窒素酸化物は有害であり、空気清浄機においては、ウイルスを不活化するだけでなく、これらを発生させない事も重要である。
【0010】
そこで本発明は、エンベロープの有無に関係なく捕集したウイルスを速やかに不活化し、さらに抗ウイルス性を高く維持することができ、且つオゾンや窒素酸化物などの有害ガスの発生量を抑えた浮遊ウイルス除去ユニットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち第1の発明は、ガスに含まれるウイルスを除去するウイルス除去ユニットであって、少なくとも第1の電極と第2の電極と誘電体とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極の間に電圧を印加して放電を発生させることによりプラズマを発生させるプラズマ発生部と、前記プラズマ発生部によって発生したプラズマが存在する空間内に配置される、抗ウイルス性を有する粒子を含むウイルス不活化部と、を備えることを特徴とするウイルス除去ユニット。
【0012】
第2の発明は、前記ウイルス不活化部は、前記抗ウイルス性を有する粒子が接触する無機物質部をさらに有することを特徴とする第1の発明に記載のウイルス除去ユニット。
【0013】
第3の発明は、ウイルスを除去する処理対象のガスを供給するガス供給部をさらに備え、前記プラズマ発生部は、前記第1の電極と、前記第2の電極と、前記誘電体と前記ウイルス不活化部が、前記ガス供給部から供給される処理対象のガスの流れ方向に並べて配置され、それぞれ前記ガスの流れ方向に通気性を有し、前記ウイルス不活化部は、前記ガスの流れ方向に通気性を有するとともに、前記放電の放電空間内、および、前記放電空間に対して前記ガスの流れ方向における下流側の位置の少なくともいずれか一方に配置されることを特徴とする第1または第2の発明に記載のウイルス除去ユニット。
【0014】
第4の発明は、ウイルスを除去する処理対象のガスを供給するガス供給部をさらに備え、前記プラズマ発生部は、前記第1の電極と、前記第2の電極と前記誘電体と、前記ウイルス不活化部が、前記ガス供給部から供給される処理対象のガスの流れ方向に直交する方向に並べて配置されることを特徴とする第1または第2の発明に記載のウイルス除去ユニット。
【0015】
第5の発明は、前記ウイルス不活化部は、前記抗ウイルス性を有する粒子を固定する基材をさらに備え、前記基材は、少なくとも前記抗ウイルス性を有する粒子が固定される部分が無機材料であることを特徴とする第1から第4の発明のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【0016】
第6の発明は、前記ウイルス不活化部は、
無機材料で形成され、前記抗ウイルス性を有する粒子が表面に固定される無機粒子と、
前記無機粒子を固定する基材と、をさらに備えることを特徴とする第1から第4の発明のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【0017】
第7の発明は、前記ウイルス不活化部は、無機粒子の表面に前記抗ウイルス性を有する粒子が固定された複合粒子が充填されたものであることを特徴とする第1から第4の発明のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【0018】
第8の発明は、前記ウイルス不活化部は、前記第1の電極、前記第2の電極および前記誘電体の少なくともいずれかの表面に形成されることを特徴とする第1から第7の発明のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【0019】
第9の発明は、前記プラズマが、沿面放電、あるいは無声放電の少なくともいずれかによって生成されることを特徴とする第1から第8の発明のいずれか1つに記載の浮遊ウイルス除去ユニット。
【0020】
第10の発明は、前記抗ウイルス性を有する粒子が、金、白金、パラジウム、セリウム、または、これらの酸化物の少なくとも一種類以上からなることを特徴とする第1から第9の発明のいずれか1つに記載の浮遊ウイルス除去ユニット。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エンベロープの有無に関係なく捕集したウイルスを速やかに不活化し、さらに抗ウイルス性を高く維持することができ、且つオゾンや窒素酸化物などの有害ガスの発生量を抑えた浮遊ウイルス除去ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態の浮遊ウイルス除去ユニットの断面模式図である。
【図2】実施形態に係る抗ウイルス性フィルタの断面模式図である。
【図3】他の実施形態に係る抗ウイルス性フィルタの断面図である。
【図4】他の実施形態に係る抗ウイルス性フィルタの断面図である。
【図5】他の実施形態に係る抗ウイルス性フィルタの断面図である。
【図6】他の実施形態に係る抗ウイルス性フィルタの断面図である。
【図7】他の実施形態に係る浮遊ウイルス除去ユニットの構成を示す模式図である。
【図8】他の実施形態に係る浮遊ウイルス除去ユニットの構成を示す模式図である。
【図9】他の実施形態に係る浮遊ウイルス除去ユニットの構成を示す模式図である。
【図10】他の実施形態に係る浮遊ウイルス除去ユニットの構成を示す模式図である。
【図11】他の実施形態に係る浮遊ウイルス除去ユニットの構成を示す模式図である。
【図12】他の実施形態に係る浮遊ウイルス除去ユニットの構成を示す模式図である。
【図13】他の実施形態に係る浮遊ウイルス除去ユニットの構成を示す模式図である。
【図14】実施例および比較例の抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフである。
【図15】実施例5における電源の周波数と発生したオゾン濃度との関係を示すグラフである。
【図16】実施例6における電源の周波数と発生したオゾン濃度との関係を示すグラフである。
【図17】実施例7における電源の周波数と発生したオゾン濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の浮遊ウイルス除去ユニットの実施形態について、図面に基づき説明する。
【0024】
(第1実施形態)
第1実施形態を説明する。図1は、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット200の断面の模式図である。浮遊ウイルス除去ユニット200は、ウイルス不活化部としての抗ウイルス性フィルタ100と、印加電極11と、接地電極12と、誘電体13と、電源14と、を備える。印加電極11と接地電極12と誘電体13と電源14は、プラズマを発生させるプラズマ発生部として機能する。この本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット200は、詳細は後述するが、まず浮遊ウイルス除去ユニット200に流通させたガスなどの気体中に含まれるウイルスを抗ウイルス性フィルタ100によって捕捉し、不活化する。そして、プラズマ発生部によって発生されるプラズマにより、抗ウイルス性フィルタ100において不活化されたウイルスを、分解除去することができる。なお、印加電極11と接地電極12のいずれか一方が第1の電極であり、他方が第2の電極である。また、他の実施形態において印加電極11と接地電極12がそれぞれ複数組み合わせられる場合にも、いずれか一方の種類の複数の電極それぞれが第1の電極であり、他方の種類の複数の電極それぞれが第2の電極である。
【0025】
浮遊ウイルス除去ユニット200においては、図1に示すように、図面左側から、印加電極11、抗ウイルス性フィルタ100、誘電体13、接地電極12の順に密着して積層された構成となっている。プラズマを発生させるために、誘電体13と接地電極12を密着して積層する必要があるが、印加電極11と抗ウイルス性フィルタ100と誘電体13は、それぞれ互いに密着させて積層してもよいし、隙間を開けて配置してもよい。
【0026】
なお、抗ウイルス性フィルタ100と誘電体13の位置を入れ替えてもよく(つまり、誘電体13を印加電極11に密着させてもよい。)、その場合は印加電極11と誘電体13が密着して積層していれば、誘電体13と抗ウイルス性フィルタ100と接地電極12は、密着して積層してもよいし、隙間を開けて配置してもよい。つまり、誘電体13が一つの電極と密着して積層していれば、他の構成要素は密着しても、隙間を開けて配置してもよい。また、誘電体13は、印加電極11と接地電極12の両方に隣り合うように(誘電体を2つ)配置してもよい。
【0027】
以下、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット200の各構成を説明する。なお、浮游ウイルス除去ユニット200は、気体中に浮遊するウイルスであれば除去できるが、以下の説明においては、ガス中に浮游するウイルスを除去するものとして説明する。
【0028】
まず、抗ウイルス性フィルタ100の構成について説明する。図2は、抗ウイルス性フィルタ100の断面模式図である。本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、基材であるフィルタ部1と、フィルタ部1の表面に固定された抗ウイルス性粒子2と、を含む。この抗ウイルス性フィルタ100は、流通するガス中に含まれるウイルスを捕捉するとともに、捕捉したウイルスを不活化する機能を有する。
【0029】
そして、本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、上述のように、不活化されたウイルスをプラズマ発生部が生成したプラズマにより分解除去する必要がある。そのため、抗ウイルス性フィルタ100は、少なくともプラズマが存在する範囲に配置される必要がある。具体的には、図1に示すように、印加電圧11と誘電体13の間に配置されることが好ましい。なお、本実施形態の印加電極11や接地電極12や誘電体13は、後述するように通気性を有する構造であるため、印加電極11と誘電体13の間だけでなく、印加電極11や接地電極12の外側にも一部プラズマが存在する。従って、抗ウイルス性フィルタ100は、プラズマが存在することにより不活化されたウイルスが除去される位置であれば、接地電極12や印加電極11の外側(印加電極11と接地電極12で挟まれる空間の外側)に配置されてもよい。なお、外側に抗ウイルス性フィルタ100を配置する場合には、浮遊ウイルス除去ユニット200において流通するガスの流れの下流側に配置されることが好ましい。例えば、印加電極側から接地電極側にガスを流す場合には、抗ウイルス性フィルタ100は、放電空間に対してガスの流れ方向下流側の接地電極12の外側であって、プラズマが存在する範囲に配置したほうがよい。
【0030】
抗ウイルス性フィルタ100の各構成を説明する。まず、フィルタ部1は、ガス中のウイルスを捕捉するフィルタ機能を有する。フィルタ部1は、ガスが通過できるように、通気性を有するとともに、ガス中のウイルスを捕捉可能な構造となっている。具体的には、繊維状、布状、メッシュ状で、織物、網物、不織布、ハニカム形状、格子状、簾状、パンチング加工などによる多孔状やエキスパンドメッシュ状という構造である。
【0031】
フィルタ部1は、少なくとも抗ウイルス性粒子2が固定される部分(抗ウイルス性粒子2が接触する部分)が無機材料で形成されていることが好ましい。これは、正確なメカニズムは不明であるが、抗ウイルス性粒子として金属の粒子を用いた場合、金属粒子が無機材料に固定されている場合に、非常に高い酸化触媒能を持つようになるため、接触したウイルスの表面がダメージを受け、非常に高いウイルスの不活化作用が得られると推測される。なお、少なくとも抗ウイルス性粒子2が固定される部分が無機材料であればよいため、フィルタ部1全体が無機材料で形成されていてもよいし、抗ウイルス性粒子2を固定する表層部分だけに無機材料が存在していてもよい。また、耐プラズマ性を考えると、フィルタ部1は無機材料が好ましい。フィルタ部1は、プラズマが存在する領域に配置されるため、耐プラズマ性を有することで、フィルタ部1のウイルス捕捉機能と、抗ウイルス機能を長期間維持できるためである。なお、耐プラズマ性とは、プラズマ雰囲気中での耐久性であり、プラズマによる侵食のされにくさである。
【0032】
さらに、フィルタ部1は、耐熱性を有する材料で形成されることが好ましい。これは、抗ウイルス性フィルタ100は、プラズマが発生する空間に配置されるため、周囲の温度が高温になる場合もあるためである。
【0033】
フィルタ部1を構成する材料としては、セラミックス、金属、合金、無機酸化物あるいはこれらの複合体を用いることができる。
【0034】
セラミックスとしては、陶磁器、コンクリート、ガラスなどを用いることができる。セラミックスの具体的な組成としては、元素系、酸化物系、水酸化物系、炭化物系、炭酸塩系、窒化物系、ハロゲン化物系、及びリン酸塩系、あるいはそれらの複合物が挙げられる。また、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ニューカーボン、ニューガラスなどや、高強度セラミックス、機能性セラミックス、超伝導セラミックス、非線形光学セラミックス、抗菌性セラミックス、生分解性セラミックス、及びバイオセラミックスなどのファインセラミックスを用いてもよい。ガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、クリスタルガラス、石英ガラス、カルコゲンガラス、有機ガラス、ウランガラス、アクリルガラス、水ガラス、偏光ガラス、強化ガラス、合わせガラス、耐熱ガラス・硼珪酸ガラス、防弾ガラス、ガラス繊維、ダイクロ、ゴールドストーン(茶金石・砂金石・紫金石)、ガラスセラミックス、低融点ガラス、金属ガラス、及びサフィレットなどが挙げられる。
【0035】
金属としては、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、TZM、W-Reなどの高融点金属や、銀、ルテニウムなどの貴金属及びそれらの合金、チタン、ニッケル、ジルコニウム、クロム、インコネル、ハステロイなどの特殊金属、アルミニウム及びその合金、銅及びその合金、鉄、ステンレス鋼などの鉄の合金、亜鉛及びその合金、マグネシウム及びその合金、などの汎用金属、ハフニウム、タングステン、ビスマス、アンチモン、マンガン、コバルト、錫などが挙げられる。
【0036】
無機酸化物としては、チタニアや、ジルコニア、アルミナ、セリア(酸化セリウム)、ゼオライト、アパタイト、シリカ、活性炭、珪藻土などが挙げられる。
【0037】
また、フィルタ部1の抗ウイルス性粒子2を固定する表面部分だけに無機材料が存在する構成とする場合には、基材の表面部分に上述した無機材料層を設ければよい。基材は、上述したような無機材料を用いてもよいし、樹脂などの有機材料を用いてもよい。
【0038】
基材として利用できる樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、EVA樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ベクトラン(登録商標)、PTFE(poly tetra fluoro ethylene)などの熱可塑性樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、修飾でんぷん樹脂、ポリカプロラクト樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂などの生分解性樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ケイ素樹脂、アクリルウレタン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレンエラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマーおよび漆などが挙げられる。
【0039】
また、上述のように、抗ウイルス性フィルタ100は耐熱性を有する方が好ましいため、基材に樹脂を用いる場合には耐熱性を有する樹脂を用いることが好ましい。耐熱性樹脂としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネートポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、超高分子ポリエチレンなどのエンジニアプラスチックや、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイドポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ETFEやPTFEなどのフッ素樹脂などのスーパーエンジニアリングプラスチックや、ポリフェノール、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などの耐熱性熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0040】
なお、表面部分にだけ無機材料層を形成する場合には、各種めっき法、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法などの方法で無機材料層を形成することができる。
【0041】
また、無機材料として金属酸化物を用いる場合には、公知の方法により化学的に金属の表面に酸化皮膜を形成したり、陽極酸化処理などの公知の電気化学的な方法により金属の表面に酸化皮膜を形成したものでもよい。
【0042】
次に、抗ウイルス性粒子2の構成について説明する。抗ウイルス性粒子2は、抗ウイルス性を有する材料で形成される微粒子である。フィルタ部1に付着したウイルスは、抗ウイルス性粒子2の抗ウイルス性作用により、不活化される。
【0043】
抗ウイルス性粒子2としては、金、銀、銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、白金、パラジウム、ニッケル、ビスマス、セリウムあるいはこれらの酸化物を用いることができる。このうち、金、白金、パラジウム、セリウムあるいはこれらの酸化物を用いることが好ましい。なお、上記した金属あるいはその酸化物を組み合わせたものでもよい。さらに、金、白金、パラジウム、セリウムあるいはその酸化物については、銀、銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、ビスマス、マンガンなどの1種または2種以上との合金の微粒子でもよい。また、金、白金、パラジウム、セリウムあるいはその酸化物の少なくともいずれかの微粒子と、銀、銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、ビスマス、マンガンなどから選択した少なくともいずれかの微粒子とを混合した混合粒子でもよい。
【0044】
抗ウイルス性粒子2は、粒径が1nm以上50nm以下であることが好ましい。粒径が50nmより大きくなると、抗ウイルス性粒子2が安定となり、酸化還元作用が起こりにくくなり、接触したウイルスの細胞膜表面にダメージを与えてウイルスを不活化する作用が低くなるためである。粒径が1nmより小さいものは物質として非常に不安定となりフィルタ部1上に確実に固定することが難しい。
【0045】
抗ウイルス性粒子2がフィルタ部(部材本体)1表面に固着される形態については特に限定されず、当業者が適宜選択できる。例えば、抗ウイルス性ナノ粒子2が部材本体1表面において散在していてもよい。また、抗ウイルス性ナノ粒子2が平面状または3次元状に並ぶ微粒子集合体の形態で固着されるようにしてもよい。すなわち、点状、島状、薄膜状等の形状で固着することができる。なお、抗ウイルス性粒子2は、フィルタ部1の通気性が維持される程度に固定されていることが好ましい。
【0046】
抗ウイルス性粒子2をフィルタ部1の表面に固定する方法は、特に限定されはないが、たとえば、抗ウイルス性粒子2が金(Au)である場合には、共沈法、析出沈殿法、ゾル−ゲル法、含浸法、滴下中和沈殿法、還元剤添加法、pH制御中和沈殿法、カルボン酸金属塩添加法等を用いることができる。また、抗ウイルス性粒子2がパラジウムである場合には、パラジウムイオンを含む水溶液にフィルタ部1を浸漬するかパラジウムイオンを含む水溶液をフィルタ部1に塗布してフィルタ部1にパラジウムイオンを吸着させた後、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、塩化スズ、水素化ホウ素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムなどの還元剤を含む水溶液に浸漬する、あるいは、水素還元雰囲気中で還元処理する、あるいは、耐熱性が高い樹脂であれば、大気中で加熱して金属パラジウムを担持するなどの方法が挙げられる。また、抗ウイルス性粒子2が酸化セリウムである場合には、酸化セリウムを含むメタノール分散溶液に、フィルタ部を含浸し、50〜150℃にて加熱乾燥して担持させる方法などがある。これらの方法は担体の種類により適宜使い分けることができる。
【0047】
抗ウイルス性粒子2をフィルタ部1に固定する量は、フィルタ部1に対して0.1質量%以上20質量%以下とするのが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下である。20質量%より多いと抗ウイルス性粒子2同士が凝集し、抗ウイルス効果が弱くなるからである。0.1質量%より少ないと、ウイルス不活化効果が少ない。0.5質量%以上10質量%以下であれば、抗ウイルス性粒子2の凝集がより防止されるとともに、ウイルス不活化効果もより得られる。
【0048】
ここで、抗ウイルス性フィルタ100の製造方法について説明する。製造方法の一例として、抗ウイルス性粒子2のコロイド溶液を用いた製造方法を説明する。
【0049】
まず、抗ウイルス性粒子2として金を用いる場合には、金コロイド溶液を生成する。金コロイド溶液は、HAuCl4・4H2Oのような金化合物水溶液にクエン酸ナトリウムのような還元剤を入れることで生成される。抗ウイルス性粒子2としてパラジウムを用いる場合には、パラジウムコロイド水溶液を生成する。具体的には、塩化パラジウムを含む水溶液にステアリルトリメチルアンモニムクロライドや、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムやポリエチレングリコールモノ−p−ノリルフェニルエーテルなどの界面活性剤を添加し、水素化ホウ素ナトリウム水溶液を激しく攪拌しながら滴下してPdゾル(パラジウムコロイド溶液)が生成される。抗ウイルス性粒子2として白金を用いる場合には、白金コロイド溶液を生成する。具体的には、ヘキサクロロ白金酸水溶液のような白金化合物水溶液に、ポリアクリル酸ナトリウムのような保護材を加え攪拌した後、エタノールを加え、窒素雰囲気下で還流することで、白金コロイド溶液を生成することができる。なお、コロイドの分散媒としては、水、アセトン、メタノール、エタノールなどを用いることができる。
【0050】
このように製造された抗ウイルス性粒子2のコロイド溶液を、フィルタ部1にスプレーなどで塗布し、窒素雰囲気下にて100℃で乾燥させることで、抗ウイルス性粒子2がフィルタ部1に固定された抗ウイルス性フィルタ100を生成することができる。なお、コロイド溶液中の抗ウイルス性粒子2は、表面を界面活性剤などの保護剤で被覆されていてもよい。
【0051】
次に、抗ウイルス性フィルタ100の別の製造方法として、析出沈殿法により抗ウイルス性粒子2をフィルタ部1に固定して抗ウイルス性フィルタ100を製造する方法を説明する。
【0052】
まず、金化合物、パラジウム化合物、または白金化合物を含む水溶液を20〜90℃、好ましくは50〜70℃に加温、攪拌しながら、pH3〜10、好ましくはpH5〜8になるようにアルカリ溶液にて調整する。そしてフィルタ部1を、調整した溶液に含浸する。溶液にフィルタ部1を含浸した後、イオン交換水でよく洗浄する。そして洗浄したフィルタ部1を100〜200℃にて加熱乾燥する。
【0053】
金化合物水溶液に含まれる金化合物としては、例えば、HAuCl4・4H2Oや、NH4AuCl4や、KAuCl4・nH2Oや、KAu(CN)4や、Na2AuCl4や、KAuBr4・2H2Oや、NaAuBr4などが挙げられる。これらの金化合物水溶液の濃度は1×10−2〜1×10−5mol/Lとするのが好ましい。
【0054】
パラジウム化合物としては、水に溶解する化合物であれば特に限定されず、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、水酸化パラジウム、テトラクロロパラジウム(II)酸塩、テトラアンミンパラジウム(II)塩、ジクロロエチレンジアミンパラジウム(II)、テトラニトロパラジウム(II)酸塩、テトラシアノパラジウム(II)酸塩、テトラブロモパラジウム(IV)酸塩などが挙げられ、パラジウム化合物水溶液の濃度は、飽和濃度〜1×10−5mol/Lとするのが好ましい。
【0055】
白金化合物としては、白金塩であるジニトロジアミン白金、ヘキサヒドロキソ白金、ヘキサアンミン白金水酸塩、ヘキサクロロ白金酸塩など水に溶解する化合物を用いることができる。白金化合物水溶液の濃度は、飽和濃度〜1×10−5mol/Lとするのが好ましい。
【0056】
以上が、抗ウイルス性フィルタ100の構成および製造方法である。
【0057】
本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係わらず、様々なウイルスを不活化することができる。例えば、ライノウイルス、ポリオウイルス、口蹄疫ウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、エンテロウイルス、ヘパトウイルス、アストロウイルス、サポウイルス、E型肝炎ウイルス、A型、B型、C型インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス(おたふくかぜ)、麻疹ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、ニパウイルス、ヘンドラウイルス、黄熱ウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、B型、C型肝炎ウイルス、東部および西部馬脳炎ウイルス、オニョンニョンウイルス、風疹ウイルス、ラッサウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルス、グアナリトウイルス、サビアウイルス、クリミアコンゴ出血熱ウイルス、スナバエ熱、ハンタウイルス、シンノンブレウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、マーブルグウイルス、コウモリリッサウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、ヒトポルボウイルス、ポリオーマウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、水痘、帯状発疹ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、天然痘ウイルス、サル痘ウイルス、牛痘ウイルス、モラシポックスウイルス、パラポックスウイルスなどを挙げることができる。
【0058】
なお、抗ウイルス性フィルタ100は、細菌についても、グラム染色の有無や、ゲノムの種類などに係ることなく様々な細菌を殺菌することができる。例えば、プロテオバクテリア、アクイフェックス、クラミジア、バクテロイデス、クロロビウム、フィブロバクター、スピロヘータ、シアノバクテリア、クロロフレクサス、ディノコッカス−サーマス、サーモトーガ、放線菌、ファーミキューテスなどを挙げることができる。
【0059】
次に、プラズマ発生部の構成について説明する。プラズマ発生部は、印加電極11に電源14によって所定の電圧が印加されることで、印加電極11と誘電体13の間においてプラズマを発生させることができる。これら印加電極11と接地電極12と誘電体13は、抗ウイルス性フィルタ100と同様に、通気性を有する構造であることが好ましい。具体的には、通気性を有していれば特に限定されないが、メッシュ状の構造や、板状の部材にパンチング加工などの穿孔処理により多数の孔が形成された構造などが挙げられる。なお、印加電極11と接地電極12と誘電体13は、それぞれ通気性を有する構造であれば、同じ構造でなくてもよい。以下、各構成を説明する。
【0060】
まず、印加電極11は、電源14によって電圧が印加される電極である。印加電極11は、電極として機能する材料で形成されればよい。例えば、Cu、Ag、Au、Ni、Cr、Fe、Al、Ti、W、Ta、Mo、Coなどの金属やその合金、あるいはそれらの酸化物を用いればよい。
【0061】
接地電極12は、接地配線12aに接続されて接地される電極である。接地電極12は、印加電極と同様に電極として機能すればよく、Cu、Ag、Au、Ni、Cr、Fe、Al、Ti、W、Ta、Mo、Coなどの金属やその合金、あるいはそれらの酸化物で形成されればよい。
【0062】
誘電体13は、絶縁体となる性質を有していればよい。誘電体13は、無機材料や高分子材料で形成することができるが、耐プラズマ性や耐熱性を考慮すると無機材料を用いることが好ましい。無機材料としては、ZrO2、γ-Al2O3、α-Al2O3、θ-Al2O3、η-Al2O3、アモルファスのAl2O3、アルミナナイトライド、ムライト、ステアライト、フォルステライト、コーディエライト、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、SiC、Si3N4、Si-SiC、マイカ、ガラスなどが挙げられる。高分子材料としては、ポリイミド、液晶ポリマー、PTFE、ETFE、PVF(poly vinyl fluoride)、PVDF(poly vinylidene difluoride)、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどが挙げられる。なお、抗ウイルス性フィルタ100が誘電体としての性能を有する絶縁体で形成され、かつ、印加電極11と接地電極12の間に配置されて誘電体として機能する場合には、抗ウイルス性フィルタ100に誘電体としての機能も持たせてもよい。
【0063】
電源14は、印加電極11に電圧を印加する。電源14は、AC高電圧、パルス高電圧、DC高電圧、DCバイアスにACあるいはパルスを重畳させたもの、マイクロウェーブなどの高電圧電源を用いることができる。この電源14により、印加電極11と誘電体13との間のプラズマ発生空間にプラズマが発生するように、印加電極11と接地電極12に所定の電位を印加すればよい。電源14による印加電圧は、処理対象とするガス中の浮遊ウイルス量(濃度)などにより変動するが、通常、1〜20kV、好ましくは2〜10kVである。なお、プラズマを発生させるために電源14から供給される電力により発生させる放電の種類としては、プラズマを発生させることができれば特に限定されないが、たとえば無声放電や沿面放電やコロナ放電やパルス放電などであればよい。また、これらの放電が2種類以上組み合わされて発生してプラズマを発生させてもよい。
【0064】
また、電源14が交流(パルスも含む)など、周期的に電圧が変化する電源である場合には、その電源の出力周波数は高周波数が好ましく、具体的には、用いる抗ウイルス性金属の種類にもよるが、1kHz以上がよく、より好ましくは1kHz以上20kHz以下がよく、より好ましくは1kHz以上10kHz以下がよい。周波数が1kHzよりも小さいと中間生成物やオゾンの生成量が増え、20kHzよりも大きいとウイルスの不活化効果が低下する。
【0065】
以上が、プラズマ発生部の構成である。
【0066】
次に、以上に説明した浮遊ウイルス除去ユニット200による、ガス中のウイルスの除去処理について説明する。まず電源14が印加電極11に対して上述したような電圧を印加し、印加電極11と誘電体13との間に放電を発生させてプラズマを発生させる。その状態で、浮遊ウイルス除去ユニット200に処理対象のガスを流通させる。例えば、図1において、印加電極11から接地電極12の方向にガスを流通させる。
【0067】
そうすると、まず、ガス中にウイルスが含まれる場合、ウイルスが、フィルタ部1の機能により抗ウイルス性フィルタ100に補足される。そして、抗ウイルス性フィルタ100に固定されている抗ウイルス性粒子2が、補足されたウイルスを不活化する。
【0068】
なお、抗ウイルス性粒子2がウイルスを不活化する機構については上述のように必ずしも明らかではないが、抗ウイルス性粒子2が金属微粒子(あるいは遷移金属)の場合、金属微粒子を無機材料、好ましくは無機酸化物に担持することで、金属粒子が非常に高い酸化触媒能を持つようになり、接触したウイルスの表面がダメージを受け、不活化すると推測される。また、抗ウイルス性粒子2が金属酸化物のように高い酸化触媒能を持つ場合は、抗ウイルス性粒子2に接触したウイルスの表面にダメージを与え、不活化すると推測される。
【0069】
そして、次に、抗ウイルス性フィルタ100の表面に残った不活化されたウイルスが、プラズマ発生部によって発生されたプラズマによって、分解され、抗ウイルス性フィルタ100から除去される。つまり、抗ウイルス性粒子2の抗ウイルス性によって、浮遊ウイルスや微生物を不活性化することができるが、さらにプラズマを併用することにより生成される活性種の作用によって、抗ウイルス性粒子2の表面に付着している不活性化されたウイルスを分解することができる。抗ウイルス性粒子2の表面に不活化されたウイルスが付着したままであると、その抗ウイルス性粒子2のウイルス不活化作用は低下してしまう。しかし、このように、プラズマによってウイルスが除去されてクリーニングされることで、再び抗ウイルス性粒子2が露出し、短時間でウイルス不活化作用が復活する。従って、プラズマを発生させている限り、抗ウイルス性粒子2とウイルスが接触可能な面積は大きい状態を維持しているので、短時間でも強力なウイルス不活化効果が得られる。一方、プラズマが無い場合では、クリーニング効果がないので抗ウイルス性粒子2とウイルスが接触した部分はウイルス不活化効果が低下する。このことから、フィルタ100とプラズマの相乗効果により、短時間で強力なウイルス不活化効果が得られる。また、クリーニング効果により、長期間にわたりウイルス不活化機能は維持される。
【0070】
なお、プラズマ発生部によって発生されたプラズマは、抗ウイルス性粒子2が殺菌作用も有する場合に、殺菌した細菌を分解除去することもできる。従って、抗ウイルス性フィルタ100に死滅した細菌が付着することにより、ウイルス不活化作用が低下しても、プラズマによって細菌が分解除去されるため、ウイルス不活化作用が維持される。
【0071】
以上説明した本実施形態によれば、抗ウイルス性フィルタ100によってウイルスを不活化することができると共に、プラズマによって不活化されたウイルスを除去することで、抗ウイルス性フィルタ100の高いウイルス不活化作用を維持することができる。従って、長期間ウイルス不活化作用を維持することができる浮遊ウイルス除去ユニット200を提供することができる。
【0072】
すなわち本実施形態では、ウイルスや微生物によって汚染されているガスを本ユニットに流通させることで、浮遊しているウイルスや微生物を捕集した後、抗ウイルス性ナノ粒子の抗ウイルス性とプラズマによって、それらを不活性化することができる。さらにプラズマを併用することによって生成される活性種の作用により、抗ウイルスナノ粒子表面に付着している不活性化されたウイルスや微生物を短時間で分解するので、抗ウイルス性ナノ粒子表面がクリーニングされる。このため、短時間で抗ウイルス性粒子表面に、より多くのウイルスが接触可能となるので、プラズマとの相乗効果によって、強力なウイルス不活化効果(抗ウイルス性)が得られる浮遊ウイルス除去ユニットを提供することが出来る。
【0073】
また、プラズマによって抗ウイルス性粒子の表面はクリーニングされているので、長期間ウイルス除去処理を行っても、その抗ウイルス性を維持することができる。
【0074】
また、本実施形態においては、抗ウイルス性フィルタ100に、抗ウイルス性粒子2だけを固定するとして説明したが、これに限られない。抗ウイルス性フィルタ100に所望の機能を付与するために、抗ウイルス性粒子2以外の機能を有する機能性材料を固定してもよい。当該機能性材料としては、他の抗ウイルス剤、抗菌剤、防黴剤、抗アレルゲン剤、および触媒などを挙げることができる。なお、これら機能性材料は、例えば、バインダーを介してフィルタ部1や抗ウイルス性粒子2に結合して固定することができる。バインダーとしては、一般的な樹脂や、シランモノマーまたはそのオリゴマーなどの化学結合を利用して機能性材料をフィルタ部1あるいはフィルタ部1に固定された抗ウイルス性粒子2に固定することができる。さらに機能性材料の固定を強化するために、ハードコート剤などの補強材をさらに加えてもよい。また、化学結合以外にも、ファンデルワールス力や物理的吸着など公知の固定方法を用いてもよい。
【0075】
また、本実施形態においては、ウイルス不活化部として抗ウイルス性フィルタ100を備えるとして説明したが、これに限られない。抗ウイルス性粒子2を印加電極11や接地電極12や誘電体13に固定してもよい。ただし、この場合には、抗ウイルス性粒子2は、プラズマが存在する範囲に固定されている必要がある。
【0076】
(第2実施形態)
次に第2実施形態を説明する。第2実施形態は、第1実施形態で説明した抗ウイルス性フィルタ100の変形例である。
【0077】
図3は、本実施形態に係る抗ウイルス性フィルタ100の断面図である。なお、第1実施形態と共通する構成については同じ符号を付して説明を省略する。本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、フィルタ部1’と、複合抗ウイルス性粒子30とを含む。
【0078】
まず、複合抗ウイルス性粒子30は、第1実施形態で説明した抗ウイルス性粒子2が、無機微粒子3の表面に担持されたものである。複合抗ウイルス性粒子30は、フィルタ部1’の表面に固定される。
【0079】
抗ウイルス性粒子2は、第1実施形態で説明したものと同様である。
【0080】
無機微粒子3は、第1実施形態でのフィルタ部1における無機材料層に相当する機能を有するものである。すなわち、上述したように、抗ウイルス性粒子2として金属の粒子を用いた場合、金属粒子が無機材料に固定されている場合に、非常に高いウイルスの不活化作用が得られるためである。従って、無機材料で形成された無機微粒子3に、金属の抗ウイルス性粒子2を担持させることにより、同様に、抗ウイルス性粒子2は、高いウイルス不活化作用を発揮することができる。また、耐プラズマ性を考えると、フィルタ部1は無機材料が好ましい。
【0081】
無機微粒子3としては、第1実施形態でフィルタ部1の材料として挙げたセラミックス、金属、合金、無機酸化物を用いることができる。また、樹脂などからなる微粒子の表面にスパッタやめっきなどで無機酸化物や金属酸化物などの無機材料の皮膜を形成させたものを用いてもよい。
【0082】
また無機微粒子3の粒径については、抗ウイルス性粒子2の粒径などに応じて適宜設定可能であるが、フィルタ部1’への結合強度を考慮すると100nm以下であることが好ましく、さらに20nm以下であることが一層好ましい。
【0083】
無機微粒子3に抗ウイルス性を有する抗ウイルス性粒子2を担持させる方法としては、共沈法、析出沈殿法、ゾル−ゲル法、含浸法、滴下中和沈殿法、還元剤添加法、pH制御中和沈殿法、カルボン酸金属塩添加法等の方法が挙げられ、これらの方法は担体の種類により適宜使い分けることができる。
【0084】
次に、フィルタ部1’は、第1実施形態と同様に、複合抗ウイルス性粒子30を固定する基材であるとともに、ウイルスを捕捉する機能を有する。フィルタ部1’は、第1実施形態と同じ構成でもよいが、本実施形態では、抗ウイルス性粒子2が無機微粒子3に固定されているため、無機材料でなくてもよい。これは、上述のように、抗ウイルス性粒子2が金属粒子の場合は、無機微粒子3に固定されているため、フィルタ部1’が無機材料でなくても、非常に高いウイルスの不活化作用が得られるためである。従って、本実施形態においては、フィルタ部1’として、合成樹脂や天然樹脂などの高分子材料を用いたメッシュ状や織物状のあるいは不織布などの一般的なフィルタを、無機材料のスパッタなどの表面処理をすることなくそのまま用いることもできる。
【0085】
本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の製造方法は、第1実施形態と同様である。すなわち、ゾルゲル法による、ディップコーティングやスピンコーティング、水熱合成法などで、フィルタ部1’表面に複合抗ウイルス粒子30を塗布したのち、150℃以上にて焼成すればよい。そのため、フィルタ部1’の材料は耐熱性があることが望ましい。
【0086】
第2実施形態において、複合抗ウイルス粒子30がフィルタ部1’表面に固定される形態については特に限定されず、当業者が適宜選択できる。例えば、複合抗ウイルス粒子30は、フィルタ部1’表面において散在していてもよい。また複合抗ウイルス粒子30が平面状または3次元状に並ぶ無機微粒子集合体の形態で固定されるようにしてもよい。すなわち、点状、島状、薄膜状等の形状で固定することができる。
【0087】
浮遊ウイルス除去ユニット200の抗ウイルス性フィルタ100以外の構成については、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0088】
以上の本実施形態によれば、抗ウイルス性粒子2を無機微粒子3に固定して複合抗ウイルス性粒子30とした構成によっても、同様に抗ウイルス性フィルタ100によってウイルスを不活化することができると共に、プラズマによって不活化されたウイルスを除去することが可能な、長期間ウイルス不活化作用を維持することができる浮遊ウイルス除去ユニット200を提供することができる。
【0089】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態を説明する。第3実施形態は、抗ウイルス性フィルタ100の変形例である。図4は、本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の断面図である。なお、上述した実施形態と共通する構成については同じ符号を付して説明を省略する。本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、抗ウイルス性粒子2が担持された無機粒子4が、図1に示した浮游ウイルス除去ユニット200の印加電極11と誘電体13の間のプラズマ発生空間に充填されて構成されるものである。つまり、無機粒子4同士の隙間がフィルタとして機能し、無機粒子4の隙間を通るガス中のウイルスを、無機粒子4の表面の抗ウイルス性粒子2によって不活化する。従って、抗ウイルス性粒子2が、フィルタ部1などの基材に固定されていない点が、上述した実施形態と異なる。
【0090】
この無機粒子4は、第2実施形態の無機微粒子3と同様の物質を用いることができる。ただし無機粒子4の大きさは、充填した場合にガスを通過させることができる隙間が形成されるように、無機微粒子3よりも大きいほうがよい。具体的には、無機粒子4の平均粒子径は、好ましくは100μm以上5000μm以下、より好ましくは100以上1000μm以下である。また、無機粒子は1種類の材料だけで構成してもよいし、2種類以上の材料の無機粒子を混合してもよい。
【0091】
抗ウイルス性粒子2の担持量は無機粒子4に対して、0.5〜40質量%、好ましくは0.5〜20質量%、さらに0.5〜10質量%とするのがより好ましい。この理由としては、40質量%以上担持させると抗ウイルス性粒子2同士が凝集し、抗ウイルス効果が弱くなるからである。0.5質量%以下では十分な抗ウイルス効果が得られないので好ましくない
抗ウイルス性粒子2は、第1実施形態と同様であり説明を省略する。
【0092】
本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の製造方法は、無機粒子4と抗ウイルス性粒子2とを複合化できれば特に限定されないが、例えば、乳鉢などで無機粒子4と抗ウイルス性粒子2とを混ぜ合わせることで抗ウイルス性粒子2が無機粒子4に埋め込まれた複合粒子を形成することができる。また、その他に例えば、無機粒子4と抗ウイルス性粒子2を衝突させるなどして機械的に無機粒子4と抗ウイルス性粒子2を結合させる高速気流衝撃法や、無機粒子4と抗ウイルス性粒子2に強い圧力を加えることにより生じるエネルギーによって無機粒子4と抗ウイルス性粒子2とを結合させる表面融合法などのメカノケミカル法によっても形成することができる。
【0093】
これらの製造方法を実施できる装置としては、汎用的なボールミルの他、回転翼式では株式会社カワタのスーパーミキサー、震蕩式では浅田鉄工株式会社のペイントシェーカーなどが例示でき、この他にも株式会社奈良機械製作所製のハイブリダイゼーションシステム(登録商標)やホソカワミクロン株式会社のメカノフュージョン(登録商標)、媒体流動乾燥機などが例示されるが、特にこれらの装置には限定されない。
【0094】
なお、これらの装置における複合化処理では、無機粒子4に対する抗ウイルス性粒子2の割合が、0.5質量%以上40質量%未満となるように、上述した複合装置に投入する。また、上述の装置による複合化処理において、攪拌時間などを調整することで、表面が平滑な抗ウイルス剤の複合微粒子を形成することができる。つまり、複合化処理において、無機粒子4に抗ウイルス性粒子2が埋め込まれた後、さらにその複合微粒子が互いに衝突することにより、抗ウイルス性粒子2が無機粒子4により深く埋め込まれるため、抗ウイルス性粒子2が無機粒子4の表面から突出していない滑らかな表面が形成される。
【0095】
また、上述した方法以外にも、第2実施形態と同様に、無機粒子4に抗ウイルス性粒子2を担持させる方法として、共沈法、析出沈殿法、ゾル−ゲル法、含浸法、滴下中和沈殿法、還元剤添加法、pH制御中和沈殿法、カルボン酸金属塩添加法等の方法を用いてもよく、これらの方法は担体の種類により適宜使い分けることができる。
【0096】
第3実施形態で使用する場合、プラズマ放電空間内に充填するようにして、無機粒子4が飛散しないように無機粒子4よりも小さな開口が多数形成された通気性のあるシートや、フィルムなどで覆うようにしてもよいし、ガスの通気方向に通気性を有するように、ガスの通気面に無機粒子4よりも小さい開口が多数形成された容器などに充填して、プラズマ放電空間内に配置してもよい。あるいは、無機粒子4よりも小さな開口を持つシートやフィルムなどで袋状にして無機粒子を充填すれば、プラズマ放電空間に対してガスの流れ方向における下流側であって放電空間に隣接する位置に設置してもよい。
【0097】
以上の本実施形態によれば、抗ウイルス性フィルタ100として、基材のフィルタに抗ウイルス性粒子2を固定する代わりに、無機粒子の表面に抗ウイルス性粒子2を固定した複合粒子を多数充填して抗ウイルス性フィルタ100を構成したものでも、同様に浮游ウイルス除去ユニット200を提供することができる。特に、粒径が大きく飛散しにくく抗ウイルス性が持続するという効果が得られる。
【0098】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態を説明する。図5は、本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の断面図である。なお、上述した実施形態と共通する構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0099】
本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、フィルタ部1と、無機微粒子3の表面に抗ウイルス性粒子2を担持した複合抗ウイルス性粒子30とからなる。そして、複合抗ウイルス粒子30は、フィルタ部1の表面に、不飽和結合部を有するシランモノマーあるいはシランモノマー重合体であるオリゴマーであるシラン化合物5を介して、化学結合6により強固に固定されている。
【0100】
シラン化合物5であるシランモノマーとしては、X−Si(OR)n(nは1〜3の整数)の一般式で示されるシランモノマーが挙げられる。尚、Xは例えば有機物と反応する官能基でビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、ポリスルフィド基、アミノ基、メルカプト基、クロル基などである。また、ORは加水分解可能なメトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基であり、シランモノマーに係る3つの当該官能基は同一でも異なっていてもよい。これらのメトキシ基やエトキシ基からなるアルコキシ基は加水分解してシラノール基を生ずる。このシラノール基やビニル基やエポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、また不飽和結合などを有する官能基は反応性が高いことが知られている。すなわち、第4実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、このような反応性に優れたシランモノマーを介して複合抗ウイルス性粒子30を化学結合6により部材本体1表面に強固に固定している。
【0101】
以上の一般式で表されるシランモノマーの一例としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、特殊アミノシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、加水分解性基含有シロキサン、フロロアルキル基含有オリゴマー、メチルハイドロジェンシロキサン、シリコーン第四級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0102】
また、シラン系オリゴマーとしては、市販されている信越化学工業株式会社製のKC−89S、KR−500、X−40−9225、KR−217、KR−9218、KR−213、KR−510などが挙げられ、これらのシラン系オリゴマーは単独、或いは2種類以上混合して用いられ、さらに、前述のシランモノマーの1種または2種以上と混合して用いられる。
【0103】
このように、本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100においては、複合抗ウイルス性粒子30が、不飽和結合を有するシラン化合物5により、その表面の少なくとも一部を露出した状態でフィルタ部1に強固に固定されている。よって、本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100によれば、抗ウイルス性粒子2が無機微粒子3を介してフィルタ部1により強固に固定されつつ、抗ウイルス性粒子2が表面に露出しているため、上述した実施形態と同様のウイルス不活化機能を維持することができる。一方、一般的な樹脂の場合には、抗ウイルス性粒子2を強固に固定することはできるが、抗ウイルス性粒子2が樹脂によっておおわれてしまうため、抗ウイルス性粒子2の外部に露出する面積が大幅に低下し、ウイルス不活化機能も低下してしまう。
【0104】
なお、用いるシランモノマーの種類によっては、化学結合6ではなく、縮合反応やアミド結合、水素結合、イオン結合、或いはファンデルワールス力や物理的吸着などにより複合抗ウイルス微粒子30が固定される。
【0105】
このように、複合抗ウイルス性粒子30が三次元形状の集合体として、フィルタ部1表面上に固定されるため、フィルタ部1表面により多くの微細な凹凸が形成され、当該凹凸によってフィルタ部1への塵埃などの付着が抑制され、抗ウイルス性フィルタ100のウイルス不活化作用を一層長く維持することができる。
【0106】
次に、本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の製造方法の一例を具体的に説明する。まず、無機微粒子3の表面に、不飽和結合を有するシラン化合物5であるシランモノマーを脱水縮合により結合させたのち、水、メタノールやエタノール、MEK、アセトン、キシレン、トルエンなどの分散媒に分散させる。なお、無機微粒子3と不飽和結合を有するシランモノマーとの化学結合は通常の方法により形成させることができ、例えば、分散液に、シランモノマーを加え、その後、還流下で加熱させながら、無機微粒子3の表面にシランモノマーを脱水縮合反応により結合させてシランモノマーからなる薄膜を形成する方法や、無機微粒子3を分散させた分散液にシランモノマーを加えた後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマーを複合抗ウイルス微粒子30の表面に脱水縮合反応により結合させ、次いで、粉砕・解砕して再分散する方法が挙げられる。
【0107】
ここで、還流下、または、粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランモノマーを加えた後、或いは、シランモノマーを加えて粉砕により微粒子化した後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマーを無機微粒子3の表面に脱水縮合反応により結合させる場合、シランモノマーの量は、無機微粒子3の平均粒子径および材質にもよるが、無機微粒子3の質量に対して3質量%から30質量%であれば無機微粒子3同士、および無機微粒子3と本発明の抗ウイルス性フィルタ100を形成する部材本体1との結合強度は実用上問題ない。
【0108】
以上のようにして作製したスラリーをフィルタ部1の表面に、浸漬法、スプレー法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの方法で塗布する。このとき、必要に応じて、加熱乾燥などで溶剤を除去する。続いて、再加熱によるグラフト重合や、赤外線、紫外線、電子線、γ線などの放射線照射によるグラフト重合により、フィルタ部1の表面の官能基と、フィルタ部1表面と対向する無機微粒子3表面に結合したシランモノマーとを化学結合させる(化学結合6の形成)。併せて、無機微粒子3の表面のシランモノマー同士を化学結合6させることによりオリゴマーを形成させる。
【0109】
その後、第1実施形態と同様の手法で、本体1表面にシランモノマーを介して結合した無機微粒子3に、金属ナノ粒子を担持することができる。金属ナノ粒子2の担持量としては、部材本体1に対して0.5〜20質量%とするのが好ましく、さらに0.5〜10質量%とするのがより好ましい。この理由としては、20質量%以上担持させると金属ナノ粒子2が凝集し、抗ウイルス効果が弱くなるからである。
【0110】
第4実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、無機物からなる無機微粒子3表面に、マンガンやコバルトなどの酸化物微粒子をさらに接合させてもよい。これはこれらの酸化物微粒子が金属ナノ粒子2に有害物質が付着するのを抑制するので、ウイルスとの接触可能な面積を確保できるため、速やかにウイルスを不活化する効果を持続できるからである。特に、有機物はプラズマによって除去することができるが、無機物は除去できないため、これらの酸化物微粒子が存在することで、プラズマでは除去できないような無機物質の有害物質の付着の抑制に効果がある。
【0111】
以上の第4実施形態によれば、本実施形態に係る無機微粒子3がシラン化合物で固定された抗ウイルス性フィルタ100を用いても、速やかにウイルスを不活化する機能が維持される浮游ウイルス除去ユニット200を提供することができる。特に本実施形態では、抗ウイルス性フィルタ100の表面に微細な凹凸が形成され、埃の付着が抑制されるため、さらに耐久性の高い浮遊ウイルス除去ユニット200を実現することができる。
【0112】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態を説明する。図6は、本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の断面図である。なお、上述した実施形態と共通する構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0113】
本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、第4実施形態の構成に加え、フィルタ部1表面の水酸基との縮合反応にて結合したカップリング剤7を含む。例えば、フィルタ部1表面が金属や無機酸化物の無機材料である場合、無機基体表面の水酸基に、カップリング剤7のシラノール基が縮合反応にて結合し、さらに、カップリング剤7と複合抗ウイルス剤30の表面に固定した不飽和結合を有するシランモノマーまたはそのオリゴマーであるシラン化合物5、及び、複合抗ウイルス剤30表面に結合したシランモノマー(シラン化合物5)同士を共有結合させることができる。
【0114】
第5実施形態のフィルタ部1の材料としては、第1〜第4実施形態と同様であるが、特にフィルタ部1の表面が金属の場合、通常その表面は酸化被膜が形成されていることから、カップリング剤7との脱水縮合反応による共有結合により、複合抗ウイルス性粒子30を部材本体1の表面に強固に固定することが可能となる。
【0115】
ただし、上述した金属及びその合金表面に存在する自然酸化被膜を利用するためには、予め、通常の公知の方法により付着している油分や汚れを除去することが、安定に、且つ、均一に複合抗ウイルス剤30を固定するためには好ましい。
【0116】
続いて、本発明の第5実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の製造方法について、より具体的に説明する。
【0117】
まず、洗浄により水酸基を露出した無機材料のフィルタ部1の表面にカップリング剤7を塗布し脱水縮合する(カップリング層70)。カップリング層70は、カップリング剤7がフィルタ部1の表面上に配列して固定することにより構成される。第5実施形態のカップリング層70を構成するカップリング剤7としては、ビニル基や、エポキシ基や、スチリル基や、メタクリロ基や、アクリロキシ基や、イソシアネート基、チオール基などを有するシランカップリング剤が主に用いられる。
【0118】
次に、シラン化合物5が固定された複合抗ウイルス性粒子30が分散した溶液を、カップリング剤7が共有結合したフィルタ部1の表面に塗布し、溶剤を加熱乾燥により除去する。これにより、複合抗ウイルス性粒子30表面上のシラン化合物5と無機材料のフィルタ部1の表面のシランカップリング剤7とをグラフト重合させると同時に複合抗ウイルス性粒子30を結合させる、いわゆる同時照射グラフト重合により製造される。
【0119】
具体的なカップリング剤7及び複合抗ウイルス性粒子30の分散液の塗布方法としては、一般に行われているスピンコート法や、ディップコート法や、スプレーコート法や、キャストコート法や、バーコート法や、マイクログラビアコート法や、グラビアコート法や、または部分的に塗布する方法として、スクリーン印刷法や、パッド印刷法や、オフセット印刷法や、ドライオフセット印刷法や、フレキソ印刷法や、インクジェット印刷法などの様々な方法が用いられ、目的に合った塗布ができれば特に限定されない。
【0120】
以上説明した本実施形態によれば、無機微粒子3がフィルタ部1の表面に塗布されたシランカップリング層70と無機微粒子3表面のシラン化合物との結合により固定された抗ウイルス性フィルタ100を用いても、速やかにウイルスを不活化する機能が維持される浮游ウイルス除去ユニット200を提供することができる。特に本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の場合には、フィルタ部1に結合した無機微粒子3はシラン化合物5により強固にフィルタ部1で保持されるので、剥がれなどを抑制する効果が得られる。
【0121】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態を説明する。本実施形態は、第1実施形態で説明した浮遊ウイルス除去ユニットの変形例である。図7は、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット300の構成を示す模式図である。図7では、電極(11や12)や抗ウイルス性フィルタ100などの積層状態をわかりやすく示すために、浮遊ウイルス除去ユニット300を分解斜視図で示している。
【0122】
本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット300の具体的な構成は、印加電極11と、誘電体13が印加電極11側の面に固定された接地電極12とを交互に設置して構成される、電圧印加によりプラズマを発生する低温プラズマ反応層8と、両電極の間に配置される抗ウイルス性フィルタ100とを備えるものである。また、印加電極11には、印加電極11と接地電極12の間に高電圧を印加することができる電源14が接続される。なお、印加電極11、抗ウイルス性フィルタ100、誘電体13および接地電極12の一組が、第1実施形態で説明した浮遊ウイルス除去ユニット200に相当する。
【0123】
この浮遊ウイルス除去ユニット300に、例えば、図7に示すように、一端側から矢印aの方向でガスを流して、他端側から排出(矢印b)することで、ガスが複数の抗ウイルス性フィルタ100を通過することになる。従って、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット300によれば、より確実にウイルスを除去することができる。また、各抗ウイルス性フィルタ100は、電極と誘電体で形成されるプラズマ反応層8内にそれぞれ配置されるため、不活化したウイルスが抗ウイルス性フィルタ100上から除去されてウイルス不活化機能が再生されるため、速やかにウイルスを不活化する作用を発揮することができる。
【0124】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態を説明する。図8は、本実施形態の一例である浮遊ウイルス除去ユニット400の断面の一部を模式的に表した図である。本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット400は、無声放電によりプラズマを発生させる。
【0125】
浮遊ウイルス除去ユニット400は、高電圧電源14を用い電圧を印加してプラズマを発生させる印加電極11と接地電極12と誘電体13を設置した低温プラズマ反応層において、両電極の間に抗ウイルス性フィルタ100が設置される。本実施形態では、電極(11や12)と誘電体13は、通気性がなくても良い。これらの電極と誘電体13と抗ウイルス性フィルタ100とは互いに密着して積層されている。図8では、印加電極11と接地電極12の両方に対して誘電体13がそれぞれ密着して積層されているが、誘電体13はいずれか一つだけでもよい。
【0126】
また、抗ウイルス性フィルタ100は誘電体13に密着していてもよいし、密着していなくてもよい。両方の誘電体に密着させる場合、抗ウイルス性フィルタ100は通気性が必要であるが、少なくとも一方の誘電体13に密着させない場合は、抗ウイルス性フィルタ100は通気性がなくても良い。本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット400の場合は、図8の矢印a方向からガスを流入させ、他方の端部側から矢印b方向にガスを排出させることで、浮遊ウイルスの除去を行う。浮遊ウイルス除去ユニット400は、多層構造とすることで、多量の浮遊ウイルスを効率よく除去でき、浮遊ウイルス量や、流速などの使用条件に応じて、ウイルスを効率よく除去できるように設置される。抗ウイルス性フィルタ100は単層でも複数層に分けてもどちらでもよく、任意に設定できる。
【0127】
(第8実施形態)
次に、第8実施形態を説明する。本実施形態は、浮遊ウイルス除去ユニットの変形例である。図9は、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット500の構成を示す模式図である。図10は、図9に示した浮游ウイルス除去ユニット500の断面図である。なお、図9は、構造をわかりやすく示すために、浮游ウイルス除去ユニット500を分解した分解斜視図を示している。浮遊ウイルス除去ユニット500は、プレートまたはシート状の誘電体13の片面に印加電極11、反対の片面に接地電極12が設置され、誘電体13の両面で放電する特徴をもっている。
【0128】
本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット500は、印加電極11および接地電極12が、それぞれ所定の方向に延びる多数の電極から構成される櫛歯型の電極である。そして、この櫛歯型の電極の櫛歯の間にガスを流通させて、抗ウイルス性フィルタ100上の抗ウイルス粒子2によってガス中のウイルスを不活化する。そして、櫛歯型の電極11,12と、誘電体13との間で沿面放電を発生させ、それによって発生するプラズマによって、抗ウイルス粒子2をクリーニングすることができる。抗ウイルス性フィルタ100とプラズマ存在領域9が重複するためには、印加電極11と接地電極12の厚さは、薄い方が好ましい。
【0129】
本実施形態によれば、両電極に接するように抗ウイルス性フィルタを備えているため、ウイルス除去効果が大きく、多量のガスを処理することができる。
【0130】
(第9実施形態)
次に、第9実施形態を説明する。本実施形態は、浮遊ウイルス除去ユニットの変形例である。図11は、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット600の構成を示す模式図である。本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット600は、第8実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット500を複数積層したものである。浮遊ウイルス除去ユニット500が複数積層されているため、ウイルス除去効果が大きく、多量のガスを処理することができる。
【0131】
(第10実施形態)
次に、第10実施形態を説明する。本実施形態は、浮遊ウイルス除去ユニットの変形例である。図12は、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット700の構成を示す図である。
【0132】
浮遊ウイルス除去ユニット700は、筒型の印加電極11と接地電極12と抗ウイルス性フィルタ100が、年輪状に径方向外側に積層して構成される円筒状の構造である。高電圧電源14を用い電圧を印加してプラズマを発生する印加電極11の内径部と接地電極12の外径部にそれぞれ誘電体13を設置した低温プラズマ反応層8に、両誘電体の間に抗ウイルス性フィルタ100が設置される。図では、印加電極11と接地電極12ともに誘電体13が密着して積層されているが、誘電体13は一つだけでもよい。抗ウイルス性フィルタ100は、通気性を有する構成であり、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット700においては、この抗ウイルス性フィルタ100部分にガスを流すことができる。従って、この浮遊ウイルス除去ユニット700の場合は、円形の両端面の一方からガスを流入させ、抗ウイルス性フィルタ100を通って他方の端面側から排出させることで、ガス中のウイルスの不活化処理を行う。浮遊ウイルス除去ユニット700のプラズマ反応層8は、年輪状の多層構造となっており、浮遊ウイルス除去ユニット300または600の多層構造の場合と同様に、多量の浮遊ウイルスを効率よく分解できる。浮遊ウイルス量や、流速などの使用条件に応じて、浮遊ウイルスを効率よく分解できるように、プラズマ反応層8に設置される、抗ウイルス性フィルタ100の筒型年輪状の枚数は複数でも一枚でも任意に設定できる。
【0133】
なお、本実施形態の年輪状の浮游ウイルス除去ユニット700を複数個組み合わせて、ウイルス除去ユニットを構成してもよい。図13は、浮遊ウイルス除去ユニット800の構成を示す模式図である。この浮遊ウイルス除去ユニット800は、4つの浮遊ウイルス除去ユニット700を縦横2列で配列して構成したものである。このような構成によれば、さらに多量の浮遊ウイルスを効率よく分解できる。なお、浮遊ウイルス除去ユニット800の組み合わせ方は図13に示したものに限られず、浮遊ウイルス除去ユニット800を設置する場所の形状などに合わせて、適宜配列することができる。例えば、縦や横に1列に並べてもよいし、浮遊ウイルス除去ユニット800の断面が長方形、台形、三角形などの各種多角形あるいは、円形になるように、複数の浮遊ウイルス除去ユニット800を配列してもよい。
【実施例】
【0134】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施
例のみに限定されるものではない。
【0135】
(抗ウイルス性金属粒子担持フィルタの作成)
(実施例1)
無機微粒子として、不飽和結合部を有するシランモノマーであるメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-503)を通常の方法により脱水縮合させ表面に共有結合させた酸化ジルコニウム粒子(日本電工株式会社製、PCS)100gを、900gのエタノールにプレ分散後、ビーズミルにて解砕・分散し、粒子分散液を得た。得られた粒子分散液の平均粒子径は105nmであった。なお、本明細書でいう平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。得られた粒子分散液は固形分濃度が1質量%になるようにエタノールを加えて調整した。
【0136】
続いて、上記塗布液にアルミナ繊維織物(株式会社ニチビ製、80 g/m2)を、含浸・乾燥させることで、無機微粒子固定シートを得た。
【0137】
0.5mmolのHAuCl4・4H2Oを100mlの水に溶解(5mmol/l)させ、70℃に加温してNaOH水溶液でpH4.8に調製した。その水溶液にシート本体として上記無機微粒子固定シート(10cm×10cm)を加えて1時間攪拌した。その後、蒸留水で洗浄し、窒素雰囲気下、100℃で4時間乾燥し、抗ウイルス性粒子として金ナノ粒子を表面に担持した無機微粒子を固定した抗ウイルス性金属粒子担持フィルタを得た。得られたフィルタの表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡にて観察したところ、平均粒子径4.4nmの金が担持されてあった。
【0138】
(実施例2)
1.0mmφの多数の孔が形成されたパンチングアルミニウム板(JISH1050材)を50℃に加温した5質量%水酸化ナトリウム水溶液に30秒間浸漬した後、流水中で水洗し、余剰分のアルカリを3質量%硝酸水溶液に浸漬して除去した。次に、炭酸ナトリウム200g/lとフッ化ナトリウム10g/lを含む20℃の水溶液に浸漬し、対極にカーボン電極を用いて150Vの直流電圧を印加することでアルミニウム板表面にγ−アルミナ被膜を形成した。その後、10mmol/lのHAuCl4・4H2Oの水溶液にγ−アルミナ被覆アルミニウム板を浸漬し、γ−アルミナ被膜にHAuCl4を吸着させた。次に、HAuCl4を吸着させたγ−アルミナ被膜形成アルミニウム板を水素化ホウ素ナトリウム3質量%含む水溶液に浸漬することで、抗ウイルス性粒子として金ナノ粒子を表面に担持した無機微粒子を固定した抗ウイルス性金属粒子担持フィルタを得た。得られたフィルタの表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡で観察したところ、平均粒子径5.8nmの金が担持されてあった。
【0139】
(実施例3)
38μmのチタン線材(トーホーテック株式会社製)で織った200メッシュのスクリーンを炭酸ナトリウム200g/l含む20℃の水溶液に浸漬し、対極にカーボン電極を用いて170Vの直流電圧を印加することで、ルチル型とアナターゼ型の混晶体からなる白色の酸化被膜を形成した。次に、市販の金コロイド溶液(田中貴金属工業株式会社製、Auコロイド溶液SC)をスプレーにて酸化被膜を形成したチタニウムメッシュに塗布し、120℃、30分間加熱乾燥することで、抗ウイルス性粒子として金ナノ粒子を表面に担持した無機微粒子を固定した抗ウイルス性金属粒子担持フィルタを得た。得られたフィルタの表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡で観察したところ、平均粒子径40.0nmの金が担持されてあった。
【0140】
(実施例4)
ジルコニア粉末0.7gと、酢酸パラジウム粉末1.4mgを乳鉢で混合した後、メタノール70g中に加えた。さらにそこに塩酸14μLを加え、ホモジナイザーにて20,000rpm、5分間攪拌することで、パラジウム担持用溶液を作製した。この溶液にアルミナ織物を浸漬し、浸漬したアルミナ織物に対して70℃で20分間、前乾燥を行った。その後、前乾燥を行ったアルミナ織物を酸素雰囲気下で210℃にて4時間熱処理を行い、抗ウイルス性粒子として酸化パラジウム粒子を表面に担持した無機微粒子を固定した抗ウイルス性粒子担持フィルタを得た。得られたフィルタの表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡で観察したところ、平均粒子径32.0nmの酸化パラジウムが担持されてあった。
【0141】
(抗ウイルス性粒子担持フィルタへのプラズマ照射装置の作製)
印加電極と対向電極で挟まれた試験空間(10 cm×10 cm×1 mm)に上記の抗ウイルス性粒子担持フィルタを挿入した。なお、印加電極と接地電極(対向電極)は試験空間側がマイカで覆われている。印加電極には交流電源、対向電極はアースに接続し、電圧を付与することで抗ウイルス性粒子担持フィルタにプラズマを照射する装置として、図1の浮遊ウイルス除去ユニットを用いた。
【0142】
(抗ウイルス性能評価方法)
浮遊ウイルス除去ユニットの抗ウイルス性能の評価は、MDCK細胞を用いて培養したインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))を用いた。
【0143】
抗ウイルス性金属粒子担持フィルタの中央部(4 cm×4 cm)を切り取り、試験片とした。ウイルス液 0.1 mlを滴下し、60分間風乾した。その後、ウイルス液を付着させた試験片を抗ウイルス性金属粒子担持フィルタの元の位置に戻し、浮遊ウイルス除去ユニットに設置した。放電出力は1Wとし、周波数は50Hzとして、プラズマを発生させた。プラズマ照射後、試験片を取り出して界面活性剤入りの20mg/mlのブイヨン蛋白液により、試験片に付着しているウイルスを洗い出した。その後、各洗い出し液をMEMにて10倍段階希釈し、シャーレに培養したMDCK細胞に希釈液100μlを接種した。60分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラック数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出した。
【0144】
(比較例1)
実施例1と同様だが、プラズマを照射しない場合を比較例1とした。すなわち、抗ウイルス粒子によるウイルス不活化作用だけを評価する比較例である。
【0145】
(比較例2)
実施例1で用いた抗ウイルス性金属粒子担持フィルタにおいて、金ナノ粒子を担持しない(つまり、抗ウイルス粒子がない状態のもの)こと以外は、実施例1と同様の条件で作成し、プラズマを照射し比較例2とした。
【0146】
(比較例3)
比較例2と同様に、金属ナノ粒子担持フィルタに金ナノ粒子を担持せず(抗ウイルス粒子がない状態のもの)、プラズマを照射しない場合を比較例3とした。
【0147】
(比較例4)
実施例4と同様だが、プラズマを照射しない場合を比較例4とした。すなわち、抗ウイルス性粒子によるウイルス不活化作用だけを評価する比較例である。
【0148】
実施例1から3と比較例1から3の条件を表1に示す。コントロールは、フィルタ(試験片)を入れずにウイルス液を加え、プラズマも照射しない場合の値である。
【0149】
【表1】
【0150】
実施例1から3と比較例1から3の抗ウイルス性能評価の結果を表2に示す。
【0151】
【表2】
【0152】
以上の試験の結果より、本発明の抗ウイルス性金属粒子にプラズマを併用する(実施例1から3)ことで、金ナノ粒子担持フィルタ(比較例1)、及びプラズマ(比較例2)をそれぞれ単体で使用したときと比べて、高いウイルス不活化作用が認められた。抗ウイルス性粒子に金属酸化物である酸化パラジウムを用いた場合(実施例4と比較例4の比較)も、同様である。比較例2と比較例3の感染価の差は3.0であるが、この差はプラズマ照射の有無の差である。比較例1の感染価の値6.2から、前記プラズマ照射の有無の差で3.0を差し引くと3.2となる。この値は、金ナノ粒子とプラズマの併用による感染価の予想値であるが、実際の感染価である実施例1の結果は1.3以下(検出限界以下)である。その効果は、抗ウイルス性ナノ粒子表面のウイルスがプラズマによってクリーニングされ、常に抗ウイルス性ナノ粒子とウイルスの接触可能な面積が初期の状態を維持しているため、接触可能なウイルスの数が増え、短時間(60分)でより多くのウイルスを不活化できると考えられる。
【0153】
(実施例5)
(抗ウイルス性粒子担持フィルタの作成)
無機微粒子として、酸化ジルコニウム粒子(日本電工株式会社製、PCS)100gを、900gのエタノールにプレ分散後、ビーズミルにて解砕・分散し、粒子分散液を得た。得られた粒子分散液の平均粒子径は105nmであった。なお、本明細書でいう平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。得られた粒子分散液は固形分濃度が3質量%になるようにエタノールを加えて調整した。
【0154】
続いて、上記塗布液にアルミナ繊維織物(株式会社ニチビ製、265 g/m2)を、含浸・乾燥させることで、無機微粒子固定シートを得た。
【0155】
HAuCl4水溶液を水で3000ppmに希釈し、60℃に加温してNaOH水溶液でpH7に調製した。その水溶液に上記無機微粒子固定シートを30分間、浸漬した後、蒸留水で洗浄した。その後、酢酸マンガン水溶液(2500ppm)に室温で30分間浸漬し、再び蒸留水で洗浄した。その後、大気中、300℃にて2時間加熱し、金ナノ粒子を表面に担持した無機微粒子を固定した抗ウイルス性粒子担持フィルタを得た。得られたフィルタの表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡にて観察したところ、平均粒子径4.4nmの金が担持されてあった。
【0156】
(抗ウイルス性能評価方法)
浮遊ウイルス除去ユニットの抗ウイルス性能の評価は、MDCK細胞を用いて培養したインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))を用いた。
【0157】
抗ウイルス性粒子担持フィルタ(10 cm×10 cm)を試験片とした。ウイルス液 0.4 mlを滴下し、ウイルス液を付着させた試験片を図8の浮遊ウイルス除去ユニットに設置した。電圧を付与し、プラズマを発生させた。このとき、放電出力は1.0Wとして、印加する交流電圧の周波数を0.05〜10kHzにして行った。プラズマ照射後、試験片を取り出して界面活性剤入りの20mg/mlのブイヨン蛋白液により、試験片に付着しているウイルスを洗い出した。その後、各洗い出し液をMEMにて10倍段階希釈し、シャーレに培養したMDCK細胞に希釈液100μlを接種した。60分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラック数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出した。
【0158】
(実施例6)
実施例5と同様だが、抗ウイルス性粒子担持フィルタに抗ウイルス性粒子である金ナノ粒子ではなく、白金ナノ粒子を担持したものを実施例とした。白金ナノ粒子を固定した抗ウイルス性粒子担持フィルタの作成は以下のように行った。
上記、アルミナ繊維織物を、アルミナゾル水溶液(日産化学工業)を希釈して作製した2%水溶液に浸漬し、乾燥を行ったものを大気中1200℃で2時間焼成した。次に、その織物に対して、ジニトロジアミン白金溶液をスプレーした。このとき、織物重量に対して、白金が1.5質量%となるように溶液濃度を調整した。スプレー後、110℃で予備乾燥した後、450℃で4時間焼成することで、白金粒子を固定した抗ウイルス性粒子担持フィルタを得た。得られたフィルタの表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡で観察したところ、平均粒子径3.1nmの白金が担持されてあった。
【0159】
(実施例7)
実施例5と同様だが、抗ウイルス性粒子担持フィルタに金粒子ではなく、酸化セリウム粒子を無機微粒子としての酸化ジルコニウム粒子には担持せず、直接アルミナ繊維織物に固定したものを実施例7とした。酸化セリウムを固定した抗ウイルス性ナノ粒子担持フィルタの作成は以下のように行った。
【0160】
酸化セリウムを5質量%含むメタノール溶液をボールミルで24時間分散した。その溶液にアルミナ繊維織物を浸漬し、乾燥することにより、酸化セリウム粒子を固定した抗ウイルス性粒子担持フィルタを得た。得られたフィルタの表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡で観察したところ、平均粒子径45.0nmの酸化セリウムが担持されてあった。
【0161】
(比較例5)
実施例5と同様だが、プラズマを照射しない場合を比較例5とした。すなわち、抗ウイルス粒子によるウイルス不活化作用だけを評価する比較例である。
【0162】
(比較例6)
実施例6と同様だが、プラズマを照射しない場合を比較例6とした。
【0163】
(比較例7)
実施例7と同様だが、プラズマを照射しない場合を比較例7とした。
【0164】
実施例5から7と比較例5から7の条件を表3に示す。コントロールは、フィルタ(試験片)を入れずにウイルス液を加え、プラズマも照射しない場合の値である。
【0165】
【表3】
【0166】
図14に、実施例5から7、比較例5から7の抗ウイルス性能評価の結果を示す。この結果より、本発明の抗ウイルス性ナノ粒子にプラズマを併用することで、抗ウイルス性粒子担持フィルタを単体で使用したときと比べて、高いウイルス不活化作用が認められた。さらに、周波数を0.05kHz以上にした場合でも、ウイルス不活性化作用が認められ、0.5kHz以上にすると効果が高まることが確認された。
【0167】
次に実施例5における抗ウイルス性能評価の試験の際、プラズマの放電出力は1.0Wとして、印加する交流電圧の周波数を0.05、1、3、5、6、7、10kHzとして、そのときのオゾンの発生濃度を測定した。その結果を図15に示す。
【0168】
1kHzと3kHzでは差が見られないものの、概ね周波数を高くするとオゾン発生濃度が減少傾向にあるといえる。特に5kHz以上になると急激にオゾンの発生濃度が減少する。
【0169】
続いて、実施例6における抗ウイルス性能評価の試験の際、プラズマの放電出力は1.0Wとして、印加する交流電圧の周波数を0.05、0.5、0.75、1、1.5、2、3、5、10kHzとして、そのときのオゾンの発生濃度を測定した。その結果を図16に示す。
【0170】
周波数を高くするとオゾン発生濃度は減少傾向にあり、1kHz以上になると、オゾンがほとんど発生しなくなる。
【0171】
続いて、実施例7における抗ウイルス性能評価の試験の際、プラズマの放電出力は1.0Wとして、印加する交流電圧の周波数を0.05、1、2、3、4、5、6、10kHzとして、そのときのオゾンの発生濃度を測定した。その結果を図17に示す。
【0172】
周波数を高くするとオゾン発生濃度は減少傾向にあるといえる。
【0173】
周波数が高くなると、オゾン発生濃度は低くなり、今回の結果からは、1kHz以上になると減少傾向にあることが認められた。1kHz以上では抗ウイルス効果の結果も良好である。10kHzまでは、ウイルス不活化作用も認められ、オゾンの発生濃度も低いことが確認された。
【符号の説明】
【0174】
100 抗ウイルス性フィルタ
200 浮遊ウイルス除去ユニット
300 他の実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット
400 他の実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット
500 他の実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット
600 他の実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット
700 他の実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット
1 抗ウイルス性フィルタ本体
2 抗ウイルス性を有するナノ粒子
3 無機微粒子
4 無機粒子
5 シランモノマーまたはそのオリゴマー
6 化学結合
7 シランカップリング剤
8 放電空間
11 印加電極
12 接地電極
13 誘電体
14 電源
30 複合抗ウイルス微粒子
70 カップリング層
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性を有するナノ粒子を担持した抗ウイルス性フィルタとプラズマを組み合わせて、空間中に浮遊している様々な菌やウイルスなどの微生物を不活化する浮遊ウイルス除去ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、SARS(重症急性呼吸器症候群)やノロウイルス、鳥インフルエンザなどウイルス感染による死者が報告されている。さらに、交通の発達やウイルスの突然変異によって、世界中にウイルス感染が広がる「パンデミック(感染爆発)」の危機に直面し、特に2009年には口蹄疫などのウイルスによる大きな被害も出てきており、緊急の対策が必要である。
【0003】
このような事態に対応するために、ワクチンによる抗ウイルス剤の開発も急がれているが、ワクチンの場合、その特異性により、感染を防ぐことができるのは特定のウイルスに限定される。さらにノロウイルスにおいてはワクチンができていないなど課題がある。
【0004】
また病院や診療所においては、保菌者あるいは感染者によって院内へ持ち込まれたMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や抗生剤投与によって黄色ブドウ球菌からMRSAへと変異した株が、患者から直接、あるいは医療従事者、または白衣やパジャマ、シーツなどの使用物品、壁やエアコンなどの設備を含む環境を介して、患者・医療従事者に接触感染を生じる院内感染が社会的にも大きな問題になってきている。したがって、様々なウイルスやバクテリアに有効な、殺菌、抗ウイルス効果を発揮することができる抗ウイルス性を有する部材や、感染を防ぐ環境が強く望まれている。
【0005】
ここでウイルスは、脂質を含むエンベロープと呼ばれている膜で包まれているウイルスと、エンベロープを持たないウイルスに分類できる。エンベロープはその大部分が脂質からなるため、エタノール、有機溶媒、石けんなど消毒剤で処理すると容易に破壊することができる。このため一般にエンベロープを持つウイルスはこれら消毒剤での不活化(ウイルスの感染力低下ないし失活)が容易である。これに対し、エンベロープをもたないウイルスは上記の消毒剤への抵抗性が強いと言われている。またこれらに有効とされている次亜塩素酸ナトリウムは消毒薬としては利用できるが、部材などへ応用はできない。なお、本明細書において、ウイルス不活化性と抗ウイルス性とは、同一の作用を称している。
【0006】
これらの問題を解決する手段として、フィルタ上に担持した酵素によって、捕捉した微生物やウイルスを不活性化する酵素フィルタ(特許文献1)などが開発されている。また、プラズマにより生成する活性種を利用し、微生物や有害物質を除去するための空気清浄機として、電極間に強誘電体のフィルタを配置し、電圧を印加することで発生するプラズマを生成させる空気浄化装置や(特許文献2)、針状の放電電極から対向電極に向かってストリーマ放電を行うことにより、有害物質の除去を行う空気清浄機(特許文献3)、大気中放電により起る電離現象により生成する正イオンと負イオンを放出する空気清浄機がある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−212824
【特許文献2】特許第3632579号
【特許文献3】特許第4200667号
【特許文献4】特許第3680121号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示すようなフィルタでは、長時間使用した場合に微生物やウイルスの死骸が残留するために、抗ウイルス性能の低下が考えられる。また、特許文献2の空気浄化装置では、プラズマを安定的に発生させるために特殊な強誘電体フィルタを用いなければならず、特許文献3、4の空気清浄機においては、プラズマによって生成する活性種が空気中に放出されるため、その効果が希薄になってしまうという欠点がある。
【0009】
また、空気中での放電では、オゾンや窒素酸化物などが発生することが知られている。オゾンや窒素酸化物は有害であり、空気清浄機においては、ウイルスを不活化するだけでなく、これらを発生させない事も重要である。
【0010】
そこで本発明は、エンベロープの有無に関係なく捕集したウイルスを速やかに不活化し、さらに抗ウイルス性を高く維持することができ、且つオゾンや窒素酸化物などの有害ガスの発生量を抑えた浮遊ウイルス除去ユニットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち第1の発明は、ガスに含まれるウイルスを除去するウイルス除去ユニットであって、少なくとも第1の電極と第2の電極と誘電体とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極の間に電圧を印加して放電を発生させることによりプラズマを発生させるプラズマ発生部と、前記プラズマ発生部によって発生したプラズマが存在する空間内に配置される、抗ウイルス性を有する粒子を含むウイルス不活化部と、を備えることを特徴とするウイルス除去ユニット。
【0012】
第2の発明は、前記ウイルス不活化部は、前記抗ウイルス性を有する粒子が接触する無機物質部をさらに有することを特徴とする第1の発明に記載のウイルス除去ユニット。
【0013】
第3の発明は、ウイルスを除去する処理対象のガスを供給するガス供給部をさらに備え、前記プラズマ発生部は、前記第1の電極と、前記第2の電極と、前記誘電体と前記ウイルス不活化部が、前記ガス供給部から供給される処理対象のガスの流れ方向に並べて配置され、それぞれ前記ガスの流れ方向に通気性を有し、前記ウイルス不活化部は、前記ガスの流れ方向に通気性を有するとともに、前記放電の放電空間内、および、前記放電空間に対して前記ガスの流れ方向における下流側の位置の少なくともいずれか一方に配置されることを特徴とする第1または第2の発明に記載のウイルス除去ユニット。
【0014】
第4の発明は、ウイルスを除去する処理対象のガスを供給するガス供給部をさらに備え、前記プラズマ発生部は、前記第1の電極と、前記第2の電極と前記誘電体と、前記ウイルス不活化部が、前記ガス供給部から供給される処理対象のガスの流れ方向に直交する方向に並べて配置されることを特徴とする第1または第2の発明に記載のウイルス除去ユニット。
【0015】
第5の発明は、前記ウイルス不活化部は、前記抗ウイルス性を有する粒子を固定する基材をさらに備え、前記基材は、少なくとも前記抗ウイルス性を有する粒子が固定される部分が無機材料であることを特徴とする第1から第4の発明のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【0016】
第6の発明は、前記ウイルス不活化部は、
無機材料で形成され、前記抗ウイルス性を有する粒子が表面に固定される無機粒子と、
前記無機粒子を固定する基材と、をさらに備えることを特徴とする第1から第4の発明のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【0017】
第7の発明は、前記ウイルス不活化部は、無機粒子の表面に前記抗ウイルス性を有する粒子が固定された複合粒子が充填されたものであることを特徴とする第1から第4の発明のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【0018】
第8の発明は、前記ウイルス不活化部は、前記第1の電極、前記第2の電極および前記誘電体の少なくともいずれかの表面に形成されることを特徴とする第1から第7の発明のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【0019】
第9の発明は、前記プラズマが、沿面放電、あるいは無声放電の少なくともいずれかによって生成されることを特徴とする第1から第8の発明のいずれか1つに記載の浮遊ウイルス除去ユニット。
【0020】
第10の発明は、前記抗ウイルス性を有する粒子が、金、白金、パラジウム、セリウム、または、これらの酸化物の少なくとも一種類以上からなることを特徴とする第1から第9の発明のいずれか1つに記載の浮遊ウイルス除去ユニット。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エンベロープの有無に関係なく捕集したウイルスを速やかに不活化し、さらに抗ウイルス性を高く維持することができ、且つオゾンや窒素酸化物などの有害ガスの発生量を抑えた浮遊ウイルス除去ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態の浮遊ウイルス除去ユニットの断面模式図である。
【図2】実施形態に係る抗ウイルス性フィルタの断面模式図である。
【図3】他の実施形態に係る抗ウイルス性フィルタの断面図である。
【図4】他の実施形態に係る抗ウイルス性フィルタの断面図である。
【図5】他の実施形態に係る抗ウイルス性フィルタの断面図である。
【図6】他の実施形態に係る抗ウイルス性フィルタの断面図である。
【図7】他の実施形態に係る浮遊ウイルス除去ユニットの構成を示す模式図である。
【図8】他の実施形態に係る浮遊ウイルス除去ユニットの構成を示す模式図である。
【図9】他の実施形態に係る浮遊ウイルス除去ユニットの構成を示す模式図である。
【図10】他の実施形態に係る浮遊ウイルス除去ユニットの構成を示す模式図である。
【図11】他の実施形態に係る浮遊ウイルス除去ユニットの構成を示す模式図である。
【図12】他の実施形態に係る浮遊ウイルス除去ユニットの構成を示す模式図である。
【図13】他の実施形態に係る浮遊ウイルス除去ユニットの構成を示す模式図である。
【図14】実施例および比較例の抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフである。
【図15】実施例5における電源の周波数と発生したオゾン濃度との関係を示すグラフである。
【図16】実施例6における電源の周波数と発生したオゾン濃度との関係を示すグラフである。
【図17】実施例7における電源の周波数と発生したオゾン濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の浮遊ウイルス除去ユニットの実施形態について、図面に基づき説明する。
【0024】
(第1実施形態)
第1実施形態を説明する。図1は、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット200の断面の模式図である。浮遊ウイルス除去ユニット200は、ウイルス不活化部としての抗ウイルス性フィルタ100と、印加電極11と、接地電極12と、誘電体13と、電源14と、を備える。印加電極11と接地電極12と誘電体13と電源14は、プラズマを発生させるプラズマ発生部として機能する。この本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット200は、詳細は後述するが、まず浮遊ウイルス除去ユニット200に流通させたガスなどの気体中に含まれるウイルスを抗ウイルス性フィルタ100によって捕捉し、不活化する。そして、プラズマ発生部によって発生されるプラズマにより、抗ウイルス性フィルタ100において不活化されたウイルスを、分解除去することができる。なお、印加電極11と接地電極12のいずれか一方が第1の電極であり、他方が第2の電極である。また、他の実施形態において印加電極11と接地電極12がそれぞれ複数組み合わせられる場合にも、いずれか一方の種類の複数の電極それぞれが第1の電極であり、他方の種類の複数の電極それぞれが第2の電極である。
【0025】
浮遊ウイルス除去ユニット200においては、図1に示すように、図面左側から、印加電極11、抗ウイルス性フィルタ100、誘電体13、接地電極12の順に密着して積層された構成となっている。プラズマを発生させるために、誘電体13と接地電極12を密着して積層する必要があるが、印加電極11と抗ウイルス性フィルタ100と誘電体13は、それぞれ互いに密着させて積層してもよいし、隙間を開けて配置してもよい。
【0026】
なお、抗ウイルス性フィルタ100と誘電体13の位置を入れ替えてもよく(つまり、誘電体13を印加電極11に密着させてもよい。)、その場合は印加電極11と誘電体13が密着して積層していれば、誘電体13と抗ウイルス性フィルタ100と接地電極12は、密着して積層してもよいし、隙間を開けて配置してもよい。つまり、誘電体13が一つの電極と密着して積層していれば、他の構成要素は密着しても、隙間を開けて配置してもよい。また、誘電体13は、印加電極11と接地電極12の両方に隣り合うように(誘電体を2つ)配置してもよい。
【0027】
以下、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット200の各構成を説明する。なお、浮游ウイルス除去ユニット200は、気体中に浮遊するウイルスであれば除去できるが、以下の説明においては、ガス中に浮游するウイルスを除去するものとして説明する。
【0028】
まず、抗ウイルス性フィルタ100の構成について説明する。図2は、抗ウイルス性フィルタ100の断面模式図である。本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、基材であるフィルタ部1と、フィルタ部1の表面に固定された抗ウイルス性粒子2と、を含む。この抗ウイルス性フィルタ100は、流通するガス中に含まれるウイルスを捕捉するとともに、捕捉したウイルスを不活化する機能を有する。
【0029】
そして、本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、上述のように、不活化されたウイルスをプラズマ発生部が生成したプラズマにより分解除去する必要がある。そのため、抗ウイルス性フィルタ100は、少なくともプラズマが存在する範囲に配置される必要がある。具体的には、図1に示すように、印加電圧11と誘電体13の間に配置されることが好ましい。なお、本実施形態の印加電極11や接地電極12や誘電体13は、後述するように通気性を有する構造であるため、印加電極11と誘電体13の間だけでなく、印加電極11や接地電極12の外側にも一部プラズマが存在する。従って、抗ウイルス性フィルタ100は、プラズマが存在することにより不活化されたウイルスが除去される位置であれば、接地電極12や印加電極11の外側(印加電極11と接地電極12で挟まれる空間の外側)に配置されてもよい。なお、外側に抗ウイルス性フィルタ100を配置する場合には、浮遊ウイルス除去ユニット200において流通するガスの流れの下流側に配置されることが好ましい。例えば、印加電極側から接地電極側にガスを流す場合には、抗ウイルス性フィルタ100は、放電空間に対してガスの流れ方向下流側の接地電極12の外側であって、プラズマが存在する範囲に配置したほうがよい。
【0030】
抗ウイルス性フィルタ100の各構成を説明する。まず、フィルタ部1は、ガス中のウイルスを捕捉するフィルタ機能を有する。フィルタ部1は、ガスが通過できるように、通気性を有するとともに、ガス中のウイルスを捕捉可能な構造となっている。具体的には、繊維状、布状、メッシュ状で、織物、網物、不織布、ハニカム形状、格子状、簾状、パンチング加工などによる多孔状やエキスパンドメッシュ状という構造である。
【0031】
フィルタ部1は、少なくとも抗ウイルス性粒子2が固定される部分(抗ウイルス性粒子2が接触する部分)が無機材料で形成されていることが好ましい。これは、正確なメカニズムは不明であるが、抗ウイルス性粒子として金属の粒子を用いた場合、金属粒子が無機材料に固定されている場合に、非常に高い酸化触媒能を持つようになるため、接触したウイルスの表面がダメージを受け、非常に高いウイルスの不活化作用が得られると推測される。なお、少なくとも抗ウイルス性粒子2が固定される部分が無機材料であればよいため、フィルタ部1全体が無機材料で形成されていてもよいし、抗ウイルス性粒子2を固定する表層部分だけに無機材料が存在していてもよい。また、耐プラズマ性を考えると、フィルタ部1は無機材料が好ましい。フィルタ部1は、プラズマが存在する領域に配置されるため、耐プラズマ性を有することで、フィルタ部1のウイルス捕捉機能と、抗ウイルス機能を長期間維持できるためである。なお、耐プラズマ性とは、プラズマ雰囲気中での耐久性であり、プラズマによる侵食のされにくさである。
【0032】
さらに、フィルタ部1は、耐熱性を有する材料で形成されることが好ましい。これは、抗ウイルス性フィルタ100は、プラズマが発生する空間に配置されるため、周囲の温度が高温になる場合もあるためである。
【0033】
フィルタ部1を構成する材料としては、セラミックス、金属、合金、無機酸化物あるいはこれらの複合体を用いることができる。
【0034】
セラミックスとしては、陶磁器、コンクリート、ガラスなどを用いることができる。セラミックスの具体的な組成としては、元素系、酸化物系、水酸化物系、炭化物系、炭酸塩系、窒化物系、ハロゲン化物系、及びリン酸塩系、あるいはそれらの複合物が挙げられる。また、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ニューカーボン、ニューガラスなどや、高強度セラミックス、機能性セラミックス、超伝導セラミックス、非線形光学セラミックス、抗菌性セラミックス、生分解性セラミックス、及びバイオセラミックスなどのファインセラミックスを用いてもよい。ガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、クリスタルガラス、石英ガラス、カルコゲンガラス、有機ガラス、ウランガラス、アクリルガラス、水ガラス、偏光ガラス、強化ガラス、合わせガラス、耐熱ガラス・硼珪酸ガラス、防弾ガラス、ガラス繊維、ダイクロ、ゴールドストーン(茶金石・砂金石・紫金石)、ガラスセラミックス、低融点ガラス、金属ガラス、及びサフィレットなどが挙げられる。
【0035】
金属としては、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、TZM、W-Reなどの高融点金属や、銀、ルテニウムなどの貴金属及びそれらの合金、チタン、ニッケル、ジルコニウム、クロム、インコネル、ハステロイなどの特殊金属、アルミニウム及びその合金、銅及びその合金、鉄、ステンレス鋼などの鉄の合金、亜鉛及びその合金、マグネシウム及びその合金、などの汎用金属、ハフニウム、タングステン、ビスマス、アンチモン、マンガン、コバルト、錫などが挙げられる。
【0036】
無機酸化物としては、チタニアや、ジルコニア、アルミナ、セリア(酸化セリウム)、ゼオライト、アパタイト、シリカ、活性炭、珪藻土などが挙げられる。
【0037】
また、フィルタ部1の抗ウイルス性粒子2を固定する表面部分だけに無機材料が存在する構成とする場合には、基材の表面部分に上述した無機材料層を設ければよい。基材は、上述したような無機材料を用いてもよいし、樹脂などの有機材料を用いてもよい。
【0038】
基材として利用できる樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、EVA樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ベクトラン(登録商標)、PTFE(poly tetra fluoro ethylene)などの熱可塑性樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、修飾でんぷん樹脂、ポリカプロラクト樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂などの生分解性樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ケイ素樹脂、アクリルウレタン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレンエラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマーおよび漆などが挙げられる。
【0039】
また、上述のように、抗ウイルス性フィルタ100は耐熱性を有する方が好ましいため、基材に樹脂を用いる場合には耐熱性を有する樹脂を用いることが好ましい。耐熱性樹脂としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネートポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、超高分子ポリエチレンなどのエンジニアプラスチックや、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイドポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ETFEやPTFEなどのフッ素樹脂などのスーパーエンジニアリングプラスチックや、ポリフェノール、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などの耐熱性熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0040】
なお、表面部分にだけ無機材料層を形成する場合には、各種めっき法、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法などの方法で無機材料層を形成することができる。
【0041】
また、無機材料として金属酸化物を用いる場合には、公知の方法により化学的に金属の表面に酸化皮膜を形成したり、陽極酸化処理などの公知の電気化学的な方法により金属の表面に酸化皮膜を形成したものでもよい。
【0042】
次に、抗ウイルス性粒子2の構成について説明する。抗ウイルス性粒子2は、抗ウイルス性を有する材料で形成される微粒子である。フィルタ部1に付着したウイルスは、抗ウイルス性粒子2の抗ウイルス性作用により、不活化される。
【0043】
抗ウイルス性粒子2としては、金、銀、銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、白金、パラジウム、ニッケル、ビスマス、セリウムあるいはこれらの酸化物を用いることができる。このうち、金、白金、パラジウム、セリウムあるいはこれらの酸化物を用いることが好ましい。なお、上記した金属あるいはその酸化物を組み合わせたものでもよい。さらに、金、白金、パラジウム、セリウムあるいはその酸化物については、銀、銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、ビスマス、マンガンなどの1種または2種以上との合金の微粒子でもよい。また、金、白金、パラジウム、セリウムあるいはその酸化物の少なくともいずれかの微粒子と、銀、銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、ビスマス、マンガンなどから選択した少なくともいずれかの微粒子とを混合した混合粒子でもよい。
【0044】
抗ウイルス性粒子2は、粒径が1nm以上50nm以下であることが好ましい。粒径が50nmより大きくなると、抗ウイルス性粒子2が安定となり、酸化還元作用が起こりにくくなり、接触したウイルスの細胞膜表面にダメージを与えてウイルスを不活化する作用が低くなるためである。粒径が1nmより小さいものは物質として非常に不安定となりフィルタ部1上に確実に固定することが難しい。
【0045】
抗ウイルス性粒子2がフィルタ部(部材本体)1表面に固着される形態については特に限定されず、当業者が適宜選択できる。例えば、抗ウイルス性ナノ粒子2が部材本体1表面において散在していてもよい。また、抗ウイルス性ナノ粒子2が平面状または3次元状に並ぶ微粒子集合体の形態で固着されるようにしてもよい。すなわち、点状、島状、薄膜状等の形状で固着することができる。なお、抗ウイルス性粒子2は、フィルタ部1の通気性が維持される程度に固定されていることが好ましい。
【0046】
抗ウイルス性粒子2をフィルタ部1の表面に固定する方法は、特に限定されはないが、たとえば、抗ウイルス性粒子2が金(Au)である場合には、共沈法、析出沈殿法、ゾル−ゲル法、含浸法、滴下中和沈殿法、還元剤添加法、pH制御中和沈殿法、カルボン酸金属塩添加法等を用いることができる。また、抗ウイルス性粒子2がパラジウムである場合には、パラジウムイオンを含む水溶液にフィルタ部1を浸漬するかパラジウムイオンを含む水溶液をフィルタ部1に塗布してフィルタ部1にパラジウムイオンを吸着させた後、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、塩化スズ、水素化ホウ素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムなどの還元剤を含む水溶液に浸漬する、あるいは、水素還元雰囲気中で還元処理する、あるいは、耐熱性が高い樹脂であれば、大気中で加熱して金属パラジウムを担持するなどの方法が挙げられる。また、抗ウイルス性粒子2が酸化セリウムである場合には、酸化セリウムを含むメタノール分散溶液に、フィルタ部を含浸し、50〜150℃にて加熱乾燥して担持させる方法などがある。これらの方法は担体の種類により適宜使い分けることができる。
【0047】
抗ウイルス性粒子2をフィルタ部1に固定する量は、フィルタ部1に対して0.1質量%以上20質量%以下とするのが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下である。20質量%より多いと抗ウイルス性粒子2同士が凝集し、抗ウイルス効果が弱くなるからである。0.1質量%より少ないと、ウイルス不活化効果が少ない。0.5質量%以上10質量%以下であれば、抗ウイルス性粒子2の凝集がより防止されるとともに、ウイルス不活化効果もより得られる。
【0048】
ここで、抗ウイルス性フィルタ100の製造方法について説明する。製造方法の一例として、抗ウイルス性粒子2のコロイド溶液を用いた製造方法を説明する。
【0049】
まず、抗ウイルス性粒子2として金を用いる場合には、金コロイド溶液を生成する。金コロイド溶液は、HAuCl4・4H2Oのような金化合物水溶液にクエン酸ナトリウムのような還元剤を入れることで生成される。抗ウイルス性粒子2としてパラジウムを用いる場合には、パラジウムコロイド水溶液を生成する。具体的には、塩化パラジウムを含む水溶液にステアリルトリメチルアンモニムクロライドや、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムやポリエチレングリコールモノ−p−ノリルフェニルエーテルなどの界面活性剤を添加し、水素化ホウ素ナトリウム水溶液を激しく攪拌しながら滴下してPdゾル(パラジウムコロイド溶液)が生成される。抗ウイルス性粒子2として白金を用いる場合には、白金コロイド溶液を生成する。具体的には、ヘキサクロロ白金酸水溶液のような白金化合物水溶液に、ポリアクリル酸ナトリウムのような保護材を加え攪拌した後、エタノールを加え、窒素雰囲気下で還流することで、白金コロイド溶液を生成することができる。なお、コロイドの分散媒としては、水、アセトン、メタノール、エタノールなどを用いることができる。
【0050】
このように製造された抗ウイルス性粒子2のコロイド溶液を、フィルタ部1にスプレーなどで塗布し、窒素雰囲気下にて100℃で乾燥させることで、抗ウイルス性粒子2がフィルタ部1に固定された抗ウイルス性フィルタ100を生成することができる。なお、コロイド溶液中の抗ウイルス性粒子2は、表面を界面活性剤などの保護剤で被覆されていてもよい。
【0051】
次に、抗ウイルス性フィルタ100の別の製造方法として、析出沈殿法により抗ウイルス性粒子2をフィルタ部1に固定して抗ウイルス性フィルタ100を製造する方法を説明する。
【0052】
まず、金化合物、パラジウム化合物、または白金化合物を含む水溶液を20〜90℃、好ましくは50〜70℃に加温、攪拌しながら、pH3〜10、好ましくはpH5〜8になるようにアルカリ溶液にて調整する。そしてフィルタ部1を、調整した溶液に含浸する。溶液にフィルタ部1を含浸した後、イオン交換水でよく洗浄する。そして洗浄したフィルタ部1を100〜200℃にて加熱乾燥する。
【0053】
金化合物水溶液に含まれる金化合物としては、例えば、HAuCl4・4H2Oや、NH4AuCl4や、KAuCl4・nH2Oや、KAu(CN)4や、Na2AuCl4や、KAuBr4・2H2Oや、NaAuBr4などが挙げられる。これらの金化合物水溶液の濃度は1×10−2〜1×10−5mol/Lとするのが好ましい。
【0054】
パラジウム化合物としては、水に溶解する化合物であれば特に限定されず、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、水酸化パラジウム、テトラクロロパラジウム(II)酸塩、テトラアンミンパラジウム(II)塩、ジクロロエチレンジアミンパラジウム(II)、テトラニトロパラジウム(II)酸塩、テトラシアノパラジウム(II)酸塩、テトラブロモパラジウム(IV)酸塩などが挙げられ、パラジウム化合物水溶液の濃度は、飽和濃度〜1×10−5mol/Lとするのが好ましい。
【0055】
白金化合物としては、白金塩であるジニトロジアミン白金、ヘキサヒドロキソ白金、ヘキサアンミン白金水酸塩、ヘキサクロロ白金酸塩など水に溶解する化合物を用いることができる。白金化合物水溶液の濃度は、飽和濃度〜1×10−5mol/Lとするのが好ましい。
【0056】
以上が、抗ウイルス性フィルタ100の構成および製造方法である。
【0057】
本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係わらず、様々なウイルスを不活化することができる。例えば、ライノウイルス、ポリオウイルス、口蹄疫ウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、エンテロウイルス、ヘパトウイルス、アストロウイルス、サポウイルス、E型肝炎ウイルス、A型、B型、C型インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス(おたふくかぜ)、麻疹ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、ニパウイルス、ヘンドラウイルス、黄熱ウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、B型、C型肝炎ウイルス、東部および西部馬脳炎ウイルス、オニョンニョンウイルス、風疹ウイルス、ラッサウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルス、グアナリトウイルス、サビアウイルス、クリミアコンゴ出血熱ウイルス、スナバエ熱、ハンタウイルス、シンノンブレウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、マーブルグウイルス、コウモリリッサウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、ヒトポルボウイルス、ポリオーマウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、水痘、帯状発疹ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、天然痘ウイルス、サル痘ウイルス、牛痘ウイルス、モラシポックスウイルス、パラポックスウイルスなどを挙げることができる。
【0058】
なお、抗ウイルス性フィルタ100は、細菌についても、グラム染色の有無や、ゲノムの種類などに係ることなく様々な細菌を殺菌することができる。例えば、プロテオバクテリア、アクイフェックス、クラミジア、バクテロイデス、クロロビウム、フィブロバクター、スピロヘータ、シアノバクテリア、クロロフレクサス、ディノコッカス−サーマス、サーモトーガ、放線菌、ファーミキューテスなどを挙げることができる。
【0059】
次に、プラズマ発生部の構成について説明する。プラズマ発生部は、印加電極11に電源14によって所定の電圧が印加されることで、印加電極11と誘電体13の間においてプラズマを発生させることができる。これら印加電極11と接地電極12と誘電体13は、抗ウイルス性フィルタ100と同様に、通気性を有する構造であることが好ましい。具体的には、通気性を有していれば特に限定されないが、メッシュ状の構造や、板状の部材にパンチング加工などの穿孔処理により多数の孔が形成された構造などが挙げられる。なお、印加電極11と接地電極12と誘電体13は、それぞれ通気性を有する構造であれば、同じ構造でなくてもよい。以下、各構成を説明する。
【0060】
まず、印加電極11は、電源14によって電圧が印加される電極である。印加電極11は、電極として機能する材料で形成されればよい。例えば、Cu、Ag、Au、Ni、Cr、Fe、Al、Ti、W、Ta、Mo、Coなどの金属やその合金、あるいはそれらの酸化物を用いればよい。
【0061】
接地電極12は、接地配線12aに接続されて接地される電極である。接地電極12は、印加電極と同様に電極として機能すればよく、Cu、Ag、Au、Ni、Cr、Fe、Al、Ti、W、Ta、Mo、Coなどの金属やその合金、あるいはそれらの酸化物で形成されればよい。
【0062】
誘電体13は、絶縁体となる性質を有していればよい。誘電体13は、無機材料や高分子材料で形成することができるが、耐プラズマ性や耐熱性を考慮すると無機材料を用いることが好ましい。無機材料としては、ZrO2、γ-Al2O3、α-Al2O3、θ-Al2O3、η-Al2O3、アモルファスのAl2O3、アルミナナイトライド、ムライト、ステアライト、フォルステライト、コーディエライト、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、SiC、Si3N4、Si-SiC、マイカ、ガラスなどが挙げられる。高分子材料としては、ポリイミド、液晶ポリマー、PTFE、ETFE、PVF(poly vinyl fluoride)、PVDF(poly vinylidene difluoride)、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどが挙げられる。なお、抗ウイルス性フィルタ100が誘電体としての性能を有する絶縁体で形成され、かつ、印加電極11と接地電極12の間に配置されて誘電体として機能する場合には、抗ウイルス性フィルタ100に誘電体としての機能も持たせてもよい。
【0063】
電源14は、印加電極11に電圧を印加する。電源14は、AC高電圧、パルス高電圧、DC高電圧、DCバイアスにACあるいはパルスを重畳させたもの、マイクロウェーブなどの高電圧電源を用いることができる。この電源14により、印加電極11と誘電体13との間のプラズマ発生空間にプラズマが発生するように、印加電極11と接地電極12に所定の電位を印加すればよい。電源14による印加電圧は、処理対象とするガス中の浮遊ウイルス量(濃度)などにより変動するが、通常、1〜20kV、好ましくは2〜10kVである。なお、プラズマを発生させるために電源14から供給される電力により発生させる放電の種類としては、プラズマを発生させることができれば特に限定されないが、たとえば無声放電や沿面放電やコロナ放電やパルス放電などであればよい。また、これらの放電が2種類以上組み合わされて発生してプラズマを発生させてもよい。
【0064】
また、電源14が交流(パルスも含む)など、周期的に電圧が変化する電源である場合には、その電源の出力周波数は高周波数が好ましく、具体的には、用いる抗ウイルス性金属の種類にもよるが、1kHz以上がよく、より好ましくは1kHz以上20kHz以下がよく、より好ましくは1kHz以上10kHz以下がよい。周波数が1kHzよりも小さいと中間生成物やオゾンの生成量が増え、20kHzよりも大きいとウイルスの不活化効果が低下する。
【0065】
以上が、プラズマ発生部の構成である。
【0066】
次に、以上に説明した浮遊ウイルス除去ユニット200による、ガス中のウイルスの除去処理について説明する。まず電源14が印加電極11に対して上述したような電圧を印加し、印加電極11と誘電体13との間に放電を発生させてプラズマを発生させる。その状態で、浮遊ウイルス除去ユニット200に処理対象のガスを流通させる。例えば、図1において、印加電極11から接地電極12の方向にガスを流通させる。
【0067】
そうすると、まず、ガス中にウイルスが含まれる場合、ウイルスが、フィルタ部1の機能により抗ウイルス性フィルタ100に補足される。そして、抗ウイルス性フィルタ100に固定されている抗ウイルス性粒子2が、補足されたウイルスを不活化する。
【0068】
なお、抗ウイルス性粒子2がウイルスを不活化する機構については上述のように必ずしも明らかではないが、抗ウイルス性粒子2が金属微粒子(あるいは遷移金属)の場合、金属微粒子を無機材料、好ましくは無機酸化物に担持することで、金属粒子が非常に高い酸化触媒能を持つようになり、接触したウイルスの表面がダメージを受け、不活化すると推測される。また、抗ウイルス性粒子2が金属酸化物のように高い酸化触媒能を持つ場合は、抗ウイルス性粒子2に接触したウイルスの表面にダメージを与え、不活化すると推測される。
【0069】
そして、次に、抗ウイルス性フィルタ100の表面に残った不活化されたウイルスが、プラズマ発生部によって発生されたプラズマによって、分解され、抗ウイルス性フィルタ100から除去される。つまり、抗ウイルス性粒子2の抗ウイルス性によって、浮遊ウイルスや微生物を不活性化することができるが、さらにプラズマを併用することにより生成される活性種の作用によって、抗ウイルス性粒子2の表面に付着している不活性化されたウイルスを分解することができる。抗ウイルス性粒子2の表面に不活化されたウイルスが付着したままであると、その抗ウイルス性粒子2のウイルス不活化作用は低下してしまう。しかし、このように、プラズマによってウイルスが除去されてクリーニングされることで、再び抗ウイルス性粒子2が露出し、短時間でウイルス不活化作用が復活する。従って、プラズマを発生させている限り、抗ウイルス性粒子2とウイルスが接触可能な面積は大きい状態を維持しているので、短時間でも強力なウイルス不活化効果が得られる。一方、プラズマが無い場合では、クリーニング効果がないので抗ウイルス性粒子2とウイルスが接触した部分はウイルス不活化効果が低下する。このことから、フィルタ100とプラズマの相乗効果により、短時間で強力なウイルス不活化効果が得られる。また、クリーニング効果により、長期間にわたりウイルス不活化機能は維持される。
【0070】
なお、プラズマ発生部によって発生されたプラズマは、抗ウイルス性粒子2が殺菌作用も有する場合に、殺菌した細菌を分解除去することもできる。従って、抗ウイルス性フィルタ100に死滅した細菌が付着することにより、ウイルス不活化作用が低下しても、プラズマによって細菌が分解除去されるため、ウイルス不活化作用が維持される。
【0071】
以上説明した本実施形態によれば、抗ウイルス性フィルタ100によってウイルスを不活化することができると共に、プラズマによって不活化されたウイルスを除去することで、抗ウイルス性フィルタ100の高いウイルス不活化作用を維持することができる。従って、長期間ウイルス不活化作用を維持することができる浮遊ウイルス除去ユニット200を提供することができる。
【0072】
すなわち本実施形態では、ウイルスや微生物によって汚染されているガスを本ユニットに流通させることで、浮遊しているウイルスや微生物を捕集した後、抗ウイルス性ナノ粒子の抗ウイルス性とプラズマによって、それらを不活性化することができる。さらにプラズマを併用することによって生成される活性種の作用により、抗ウイルスナノ粒子表面に付着している不活性化されたウイルスや微生物を短時間で分解するので、抗ウイルス性ナノ粒子表面がクリーニングされる。このため、短時間で抗ウイルス性粒子表面に、より多くのウイルスが接触可能となるので、プラズマとの相乗効果によって、強力なウイルス不活化効果(抗ウイルス性)が得られる浮遊ウイルス除去ユニットを提供することが出来る。
【0073】
また、プラズマによって抗ウイルス性粒子の表面はクリーニングされているので、長期間ウイルス除去処理を行っても、その抗ウイルス性を維持することができる。
【0074】
また、本実施形態においては、抗ウイルス性フィルタ100に、抗ウイルス性粒子2だけを固定するとして説明したが、これに限られない。抗ウイルス性フィルタ100に所望の機能を付与するために、抗ウイルス性粒子2以外の機能を有する機能性材料を固定してもよい。当該機能性材料としては、他の抗ウイルス剤、抗菌剤、防黴剤、抗アレルゲン剤、および触媒などを挙げることができる。なお、これら機能性材料は、例えば、バインダーを介してフィルタ部1や抗ウイルス性粒子2に結合して固定することができる。バインダーとしては、一般的な樹脂や、シランモノマーまたはそのオリゴマーなどの化学結合を利用して機能性材料をフィルタ部1あるいはフィルタ部1に固定された抗ウイルス性粒子2に固定することができる。さらに機能性材料の固定を強化するために、ハードコート剤などの補強材をさらに加えてもよい。また、化学結合以外にも、ファンデルワールス力や物理的吸着など公知の固定方法を用いてもよい。
【0075】
また、本実施形態においては、ウイルス不活化部として抗ウイルス性フィルタ100を備えるとして説明したが、これに限られない。抗ウイルス性粒子2を印加電極11や接地電極12や誘電体13に固定してもよい。ただし、この場合には、抗ウイルス性粒子2は、プラズマが存在する範囲に固定されている必要がある。
【0076】
(第2実施形態)
次に第2実施形態を説明する。第2実施形態は、第1実施形態で説明した抗ウイルス性フィルタ100の変形例である。
【0077】
図3は、本実施形態に係る抗ウイルス性フィルタ100の断面図である。なお、第1実施形態と共通する構成については同じ符号を付して説明を省略する。本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、フィルタ部1’と、複合抗ウイルス性粒子30とを含む。
【0078】
まず、複合抗ウイルス性粒子30は、第1実施形態で説明した抗ウイルス性粒子2が、無機微粒子3の表面に担持されたものである。複合抗ウイルス性粒子30は、フィルタ部1’の表面に固定される。
【0079】
抗ウイルス性粒子2は、第1実施形態で説明したものと同様である。
【0080】
無機微粒子3は、第1実施形態でのフィルタ部1における無機材料層に相当する機能を有するものである。すなわち、上述したように、抗ウイルス性粒子2として金属の粒子を用いた場合、金属粒子が無機材料に固定されている場合に、非常に高いウイルスの不活化作用が得られるためである。従って、無機材料で形成された無機微粒子3に、金属の抗ウイルス性粒子2を担持させることにより、同様に、抗ウイルス性粒子2は、高いウイルス不活化作用を発揮することができる。また、耐プラズマ性を考えると、フィルタ部1は無機材料が好ましい。
【0081】
無機微粒子3としては、第1実施形態でフィルタ部1の材料として挙げたセラミックス、金属、合金、無機酸化物を用いることができる。また、樹脂などからなる微粒子の表面にスパッタやめっきなどで無機酸化物や金属酸化物などの無機材料の皮膜を形成させたものを用いてもよい。
【0082】
また無機微粒子3の粒径については、抗ウイルス性粒子2の粒径などに応じて適宜設定可能であるが、フィルタ部1’への結合強度を考慮すると100nm以下であることが好ましく、さらに20nm以下であることが一層好ましい。
【0083】
無機微粒子3に抗ウイルス性を有する抗ウイルス性粒子2を担持させる方法としては、共沈法、析出沈殿法、ゾル−ゲル法、含浸法、滴下中和沈殿法、還元剤添加法、pH制御中和沈殿法、カルボン酸金属塩添加法等の方法が挙げられ、これらの方法は担体の種類により適宜使い分けることができる。
【0084】
次に、フィルタ部1’は、第1実施形態と同様に、複合抗ウイルス性粒子30を固定する基材であるとともに、ウイルスを捕捉する機能を有する。フィルタ部1’は、第1実施形態と同じ構成でもよいが、本実施形態では、抗ウイルス性粒子2が無機微粒子3に固定されているため、無機材料でなくてもよい。これは、上述のように、抗ウイルス性粒子2が金属粒子の場合は、無機微粒子3に固定されているため、フィルタ部1’が無機材料でなくても、非常に高いウイルスの不活化作用が得られるためである。従って、本実施形態においては、フィルタ部1’として、合成樹脂や天然樹脂などの高分子材料を用いたメッシュ状や織物状のあるいは不織布などの一般的なフィルタを、無機材料のスパッタなどの表面処理をすることなくそのまま用いることもできる。
【0085】
本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の製造方法は、第1実施形態と同様である。すなわち、ゾルゲル法による、ディップコーティングやスピンコーティング、水熱合成法などで、フィルタ部1’表面に複合抗ウイルス粒子30を塗布したのち、150℃以上にて焼成すればよい。そのため、フィルタ部1’の材料は耐熱性があることが望ましい。
【0086】
第2実施形態において、複合抗ウイルス粒子30がフィルタ部1’表面に固定される形態については特に限定されず、当業者が適宜選択できる。例えば、複合抗ウイルス粒子30は、フィルタ部1’表面において散在していてもよい。また複合抗ウイルス粒子30が平面状または3次元状に並ぶ無機微粒子集合体の形態で固定されるようにしてもよい。すなわち、点状、島状、薄膜状等の形状で固定することができる。
【0087】
浮遊ウイルス除去ユニット200の抗ウイルス性フィルタ100以外の構成については、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0088】
以上の本実施形態によれば、抗ウイルス性粒子2を無機微粒子3に固定して複合抗ウイルス性粒子30とした構成によっても、同様に抗ウイルス性フィルタ100によってウイルスを不活化することができると共に、プラズマによって不活化されたウイルスを除去することが可能な、長期間ウイルス不活化作用を維持することができる浮遊ウイルス除去ユニット200を提供することができる。
【0089】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態を説明する。第3実施形態は、抗ウイルス性フィルタ100の変形例である。図4は、本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の断面図である。なお、上述した実施形態と共通する構成については同じ符号を付して説明を省略する。本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、抗ウイルス性粒子2が担持された無機粒子4が、図1に示した浮游ウイルス除去ユニット200の印加電極11と誘電体13の間のプラズマ発生空間に充填されて構成されるものである。つまり、無機粒子4同士の隙間がフィルタとして機能し、無機粒子4の隙間を通るガス中のウイルスを、無機粒子4の表面の抗ウイルス性粒子2によって不活化する。従って、抗ウイルス性粒子2が、フィルタ部1などの基材に固定されていない点が、上述した実施形態と異なる。
【0090】
この無機粒子4は、第2実施形態の無機微粒子3と同様の物質を用いることができる。ただし無機粒子4の大きさは、充填した場合にガスを通過させることができる隙間が形成されるように、無機微粒子3よりも大きいほうがよい。具体的には、無機粒子4の平均粒子径は、好ましくは100μm以上5000μm以下、より好ましくは100以上1000μm以下である。また、無機粒子は1種類の材料だけで構成してもよいし、2種類以上の材料の無機粒子を混合してもよい。
【0091】
抗ウイルス性粒子2の担持量は無機粒子4に対して、0.5〜40質量%、好ましくは0.5〜20質量%、さらに0.5〜10質量%とするのがより好ましい。この理由としては、40質量%以上担持させると抗ウイルス性粒子2同士が凝集し、抗ウイルス効果が弱くなるからである。0.5質量%以下では十分な抗ウイルス効果が得られないので好ましくない
抗ウイルス性粒子2は、第1実施形態と同様であり説明を省略する。
【0092】
本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の製造方法は、無機粒子4と抗ウイルス性粒子2とを複合化できれば特に限定されないが、例えば、乳鉢などで無機粒子4と抗ウイルス性粒子2とを混ぜ合わせることで抗ウイルス性粒子2が無機粒子4に埋め込まれた複合粒子を形成することができる。また、その他に例えば、無機粒子4と抗ウイルス性粒子2を衝突させるなどして機械的に無機粒子4と抗ウイルス性粒子2を結合させる高速気流衝撃法や、無機粒子4と抗ウイルス性粒子2に強い圧力を加えることにより生じるエネルギーによって無機粒子4と抗ウイルス性粒子2とを結合させる表面融合法などのメカノケミカル法によっても形成することができる。
【0093】
これらの製造方法を実施できる装置としては、汎用的なボールミルの他、回転翼式では株式会社カワタのスーパーミキサー、震蕩式では浅田鉄工株式会社のペイントシェーカーなどが例示でき、この他にも株式会社奈良機械製作所製のハイブリダイゼーションシステム(登録商標)やホソカワミクロン株式会社のメカノフュージョン(登録商標)、媒体流動乾燥機などが例示されるが、特にこれらの装置には限定されない。
【0094】
なお、これらの装置における複合化処理では、無機粒子4に対する抗ウイルス性粒子2の割合が、0.5質量%以上40質量%未満となるように、上述した複合装置に投入する。また、上述の装置による複合化処理において、攪拌時間などを調整することで、表面が平滑な抗ウイルス剤の複合微粒子を形成することができる。つまり、複合化処理において、無機粒子4に抗ウイルス性粒子2が埋め込まれた後、さらにその複合微粒子が互いに衝突することにより、抗ウイルス性粒子2が無機粒子4により深く埋め込まれるため、抗ウイルス性粒子2が無機粒子4の表面から突出していない滑らかな表面が形成される。
【0095】
また、上述した方法以外にも、第2実施形態と同様に、無機粒子4に抗ウイルス性粒子2を担持させる方法として、共沈法、析出沈殿法、ゾル−ゲル法、含浸法、滴下中和沈殿法、還元剤添加法、pH制御中和沈殿法、カルボン酸金属塩添加法等の方法を用いてもよく、これらの方法は担体の種類により適宜使い分けることができる。
【0096】
第3実施形態で使用する場合、プラズマ放電空間内に充填するようにして、無機粒子4が飛散しないように無機粒子4よりも小さな開口が多数形成された通気性のあるシートや、フィルムなどで覆うようにしてもよいし、ガスの通気方向に通気性を有するように、ガスの通気面に無機粒子4よりも小さい開口が多数形成された容器などに充填して、プラズマ放電空間内に配置してもよい。あるいは、無機粒子4よりも小さな開口を持つシートやフィルムなどで袋状にして無機粒子を充填すれば、プラズマ放電空間に対してガスの流れ方向における下流側であって放電空間に隣接する位置に設置してもよい。
【0097】
以上の本実施形態によれば、抗ウイルス性フィルタ100として、基材のフィルタに抗ウイルス性粒子2を固定する代わりに、無機粒子の表面に抗ウイルス性粒子2を固定した複合粒子を多数充填して抗ウイルス性フィルタ100を構成したものでも、同様に浮游ウイルス除去ユニット200を提供することができる。特に、粒径が大きく飛散しにくく抗ウイルス性が持続するという効果が得られる。
【0098】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態を説明する。図5は、本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の断面図である。なお、上述した実施形態と共通する構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0099】
本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、フィルタ部1と、無機微粒子3の表面に抗ウイルス性粒子2を担持した複合抗ウイルス性粒子30とからなる。そして、複合抗ウイルス粒子30は、フィルタ部1の表面に、不飽和結合部を有するシランモノマーあるいはシランモノマー重合体であるオリゴマーであるシラン化合物5を介して、化学結合6により強固に固定されている。
【0100】
シラン化合物5であるシランモノマーとしては、X−Si(OR)n(nは1〜3の整数)の一般式で示されるシランモノマーが挙げられる。尚、Xは例えば有機物と反応する官能基でビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、ポリスルフィド基、アミノ基、メルカプト基、クロル基などである。また、ORは加水分解可能なメトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基であり、シランモノマーに係る3つの当該官能基は同一でも異なっていてもよい。これらのメトキシ基やエトキシ基からなるアルコキシ基は加水分解してシラノール基を生ずる。このシラノール基やビニル基やエポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、また不飽和結合などを有する官能基は反応性が高いことが知られている。すなわち、第4実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、このような反応性に優れたシランモノマーを介して複合抗ウイルス性粒子30を化学結合6により部材本体1表面に強固に固定している。
【0101】
以上の一般式で表されるシランモノマーの一例としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、特殊アミノシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、加水分解性基含有シロキサン、フロロアルキル基含有オリゴマー、メチルハイドロジェンシロキサン、シリコーン第四級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0102】
また、シラン系オリゴマーとしては、市販されている信越化学工業株式会社製のKC−89S、KR−500、X−40−9225、KR−217、KR−9218、KR−213、KR−510などが挙げられ、これらのシラン系オリゴマーは単独、或いは2種類以上混合して用いられ、さらに、前述のシランモノマーの1種または2種以上と混合して用いられる。
【0103】
このように、本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100においては、複合抗ウイルス性粒子30が、不飽和結合を有するシラン化合物5により、その表面の少なくとも一部を露出した状態でフィルタ部1に強固に固定されている。よって、本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100によれば、抗ウイルス性粒子2が無機微粒子3を介してフィルタ部1により強固に固定されつつ、抗ウイルス性粒子2が表面に露出しているため、上述した実施形態と同様のウイルス不活化機能を維持することができる。一方、一般的な樹脂の場合には、抗ウイルス性粒子2を強固に固定することはできるが、抗ウイルス性粒子2が樹脂によっておおわれてしまうため、抗ウイルス性粒子2の外部に露出する面積が大幅に低下し、ウイルス不活化機能も低下してしまう。
【0104】
なお、用いるシランモノマーの種類によっては、化学結合6ではなく、縮合反応やアミド結合、水素結合、イオン結合、或いはファンデルワールス力や物理的吸着などにより複合抗ウイルス微粒子30が固定される。
【0105】
このように、複合抗ウイルス性粒子30が三次元形状の集合体として、フィルタ部1表面上に固定されるため、フィルタ部1表面により多くの微細な凹凸が形成され、当該凹凸によってフィルタ部1への塵埃などの付着が抑制され、抗ウイルス性フィルタ100のウイルス不活化作用を一層長く維持することができる。
【0106】
次に、本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の製造方法の一例を具体的に説明する。まず、無機微粒子3の表面に、不飽和結合を有するシラン化合物5であるシランモノマーを脱水縮合により結合させたのち、水、メタノールやエタノール、MEK、アセトン、キシレン、トルエンなどの分散媒に分散させる。なお、無機微粒子3と不飽和結合を有するシランモノマーとの化学結合は通常の方法により形成させることができ、例えば、分散液に、シランモノマーを加え、その後、還流下で加熱させながら、無機微粒子3の表面にシランモノマーを脱水縮合反応により結合させてシランモノマーからなる薄膜を形成する方法や、無機微粒子3を分散させた分散液にシランモノマーを加えた後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマーを複合抗ウイルス微粒子30の表面に脱水縮合反応により結合させ、次いで、粉砕・解砕して再分散する方法が挙げられる。
【0107】
ここで、還流下、または、粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランモノマーを加えた後、或いは、シランモノマーを加えて粉砕により微粒子化した後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマーを無機微粒子3の表面に脱水縮合反応により結合させる場合、シランモノマーの量は、無機微粒子3の平均粒子径および材質にもよるが、無機微粒子3の質量に対して3質量%から30質量%であれば無機微粒子3同士、および無機微粒子3と本発明の抗ウイルス性フィルタ100を形成する部材本体1との結合強度は実用上問題ない。
【0108】
以上のようにして作製したスラリーをフィルタ部1の表面に、浸漬法、スプレー法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの方法で塗布する。このとき、必要に応じて、加熱乾燥などで溶剤を除去する。続いて、再加熱によるグラフト重合や、赤外線、紫外線、電子線、γ線などの放射線照射によるグラフト重合により、フィルタ部1の表面の官能基と、フィルタ部1表面と対向する無機微粒子3表面に結合したシランモノマーとを化学結合させる(化学結合6の形成)。併せて、無機微粒子3の表面のシランモノマー同士を化学結合6させることによりオリゴマーを形成させる。
【0109】
その後、第1実施形態と同様の手法で、本体1表面にシランモノマーを介して結合した無機微粒子3に、金属ナノ粒子を担持することができる。金属ナノ粒子2の担持量としては、部材本体1に対して0.5〜20質量%とするのが好ましく、さらに0.5〜10質量%とするのがより好ましい。この理由としては、20質量%以上担持させると金属ナノ粒子2が凝集し、抗ウイルス効果が弱くなるからである。
【0110】
第4実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、無機物からなる無機微粒子3表面に、マンガンやコバルトなどの酸化物微粒子をさらに接合させてもよい。これはこれらの酸化物微粒子が金属ナノ粒子2に有害物質が付着するのを抑制するので、ウイルスとの接触可能な面積を確保できるため、速やかにウイルスを不活化する効果を持続できるからである。特に、有機物はプラズマによって除去することができるが、無機物は除去できないため、これらの酸化物微粒子が存在することで、プラズマでは除去できないような無機物質の有害物質の付着の抑制に効果がある。
【0111】
以上の第4実施形態によれば、本実施形態に係る無機微粒子3がシラン化合物で固定された抗ウイルス性フィルタ100を用いても、速やかにウイルスを不活化する機能が維持される浮游ウイルス除去ユニット200を提供することができる。特に本実施形態では、抗ウイルス性フィルタ100の表面に微細な凹凸が形成され、埃の付着が抑制されるため、さらに耐久性の高い浮遊ウイルス除去ユニット200を実現することができる。
【0112】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態を説明する。図6は、本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の断面図である。なお、上述した実施形態と共通する構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0113】
本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100は、第4実施形態の構成に加え、フィルタ部1表面の水酸基との縮合反応にて結合したカップリング剤7を含む。例えば、フィルタ部1表面が金属や無機酸化物の無機材料である場合、無機基体表面の水酸基に、カップリング剤7のシラノール基が縮合反応にて結合し、さらに、カップリング剤7と複合抗ウイルス剤30の表面に固定した不飽和結合を有するシランモノマーまたはそのオリゴマーであるシラン化合物5、及び、複合抗ウイルス剤30表面に結合したシランモノマー(シラン化合物5)同士を共有結合させることができる。
【0114】
第5実施形態のフィルタ部1の材料としては、第1〜第4実施形態と同様であるが、特にフィルタ部1の表面が金属の場合、通常その表面は酸化被膜が形成されていることから、カップリング剤7との脱水縮合反応による共有結合により、複合抗ウイルス性粒子30を部材本体1の表面に強固に固定することが可能となる。
【0115】
ただし、上述した金属及びその合金表面に存在する自然酸化被膜を利用するためには、予め、通常の公知の方法により付着している油分や汚れを除去することが、安定に、且つ、均一に複合抗ウイルス剤30を固定するためには好ましい。
【0116】
続いて、本発明の第5実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の製造方法について、より具体的に説明する。
【0117】
まず、洗浄により水酸基を露出した無機材料のフィルタ部1の表面にカップリング剤7を塗布し脱水縮合する(カップリング層70)。カップリング層70は、カップリング剤7がフィルタ部1の表面上に配列して固定することにより構成される。第5実施形態のカップリング層70を構成するカップリング剤7としては、ビニル基や、エポキシ基や、スチリル基や、メタクリロ基や、アクリロキシ基や、イソシアネート基、チオール基などを有するシランカップリング剤が主に用いられる。
【0118】
次に、シラン化合物5が固定された複合抗ウイルス性粒子30が分散した溶液を、カップリング剤7が共有結合したフィルタ部1の表面に塗布し、溶剤を加熱乾燥により除去する。これにより、複合抗ウイルス性粒子30表面上のシラン化合物5と無機材料のフィルタ部1の表面のシランカップリング剤7とをグラフト重合させると同時に複合抗ウイルス性粒子30を結合させる、いわゆる同時照射グラフト重合により製造される。
【0119】
具体的なカップリング剤7及び複合抗ウイルス性粒子30の分散液の塗布方法としては、一般に行われているスピンコート法や、ディップコート法や、スプレーコート法や、キャストコート法や、バーコート法や、マイクログラビアコート法や、グラビアコート法や、または部分的に塗布する方法として、スクリーン印刷法や、パッド印刷法や、オフセット印刷法や、ドライオフセット印刷法や、フレキソ印刷法や、インクジェット印刷法などの様々な方法が用いられ、目的に合った塗布ができれば特に限定されない。
【0120】
以上説明した本実施形態によれば、無機微粒子3がフィルタ部1の表面に塗布されたシランカップリング層70と無機微粒子3表面のシラン化合物との結合により固定された抗ウイルス性フィルタ100を用いても、速やかにウイルスを不活化する機能が維持される浮游ウイルス除去ユニット200を提供することができる。特に本実施形態の抗ウイルス性フィルタ100の場合には、フィルタ部1に結合した無機微粒子3はシラン化合物5により強固にフィルタ部1で保持されるので、剥がれなどを抑制する効果が得られる。
【0121】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態を説明する。本実施形態は、第1実施形態で説明した浮遊ウイルス除去ユニットの変形例である。図7は、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット300の構成を示す模式図である。図7では、電極(11や12)や抗ウイルス性フィルタ100などの積層状態をわかりやすく示すために、浮遊ウイルス除去ユニット300を分解斜視図で示している。
【0122】
本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット300の具体的な構成は、印加電極11と、誘電体13が印加電極11側の面に固定された接地電極12とを交互に設置して構成される、電圧印加によりプラズマを発生する低温プラズマ反応層8と、両電極の間に配置される抗ウイルス性フィルタ100とを備えるものである。また、印加電極11には、印加電極11と接地電極12の間に高電圧を印加することができる電源14が接続される。なお、印加電極11、抗ウイルス性フィルタ100、誘電体13および接地電極12の一組が、第1実施形態で説明した浮遊ウイルス除去ユニット200に相当する。
【0123】
この浮遊ウイルス除去ユニット300に、例えば、図7に示すように、一端側から矢印aの方向でガスを流して、他端側から排出(矢印b)することで、ガスが複数の抗ウイルス性フィルタ100を通過することになる。従って、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット300によれば、より確実にウイルスを除去することができる。また、各抗ウイルス性フィルタ100は、電極と誘電体で形成されるプラズマ反応層8内にそれぞれ配置されるため、不活化したウイルスが抗ウイルス性フィルタ100上から除去されてウイルス不活化機能が再生されるため、速やかにウイルスを不活化する作用を発揮することができる。
【0124】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態を説明する。図8は、本実施形態の一例である浮遊ウイルス除去ユニット400の断面の一部を模式的に表した図である。本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット400は、無声放電によりプラズマを発生させる。
【0125】
浮遊ウイルス除去ユニット400は、高電圧電源14を用い電圧を印加してプラズマを発生させる印加電極11と接地電極12と誘電体13を設置した低温プラズマ反応層において、両電極の間に抗ウイルス性フィルタ100が設置される。本実施形態では、電極(11や12)と誘電体13は、通気性がなくても良い。これらの電極と誘電体13と抗ウイルス性フィルタ100とは互いに密着して積層されている。図8では、印加電極11と接地電極12の両方に対して誘電体13がそれぞれ密着して積層されているが、誘電体13はいずれか一つだけでもよい。
【0126】
また、抗ウイルス性フィルタ100は誘電体13に密着していてもよいし、密着していなくてもよい。両方の誘電体に密着させる場合、抗ウイルス性フィルタ100は通気性が必要であるが、少なくとも一方の誘電体13に密着させない場合は、抗ウイルス性フィルタ100は通気性がなくても良い。本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット400の場合は、図8の矢印a方向からガスを流入させ、他方の端部側から矢印b方向にガスを排出させることで、浮遊ウイルスの除去を行う。浮遊ウイルス除去ユニット400は、多層構造とすることで、多量の浮遊ウイルスを効率よく除去でき、浮遊ウイルス量や、流速などの使用条件に応じて、ウイルスを効率よく除去できるように設置される。抗ウイルス性フィルタ100は単層でも複数層に分けてもどちらでもよく、任意に設定できる。
【0127】
(第8実施形態)
次に、第8実施形態を説明する。本実施形態は、浮遊ウイルス除去ユニットの変形例である。図9は、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット500の構成を示す模式図である。図10は、図9に示した浮游ウイルス除去ユニット500の断面図である。なお、図9は、構造をわかりやすく示すために、浮游ウイルス除去ユニット500を分解した分解斜視図を示している。浮遊ウイルス除去ユニット500は、プレートまたはシート状の誘電体13の片面に印加電極11、反対の片面に接地電極12が設置され、誘電体13の両面で放電する特徴をもっている。
【0128】
本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット500は、印加電極11および接地電極12が、それぞれ所定の方向に延びる多数の電極から構成される櫛歯型の電極である。そして、この櫛歯型の電極の櫛歯の間にガスを流通させて、抗ウイルス性フィルタ100上の抗ウイルス粒子2によってガス中のウイルスを不活化する。そして、櫛歯型の電極11,12と、誘電体13との間で沿面放電を発生させ、それによって発生するプラズマによって、抗ウイルス粒子2をクリーニングすることができる。抗ウイルス性フィルタ100とプラズマ存在領域9が重複するためには、印加電極11と接地電極12の厚さは、薄い方が好ましい。
【0129】
本実施形態によれば、両電極に接するように抗ウイルス性フィルタを備えているため、ウイルス除去効果が大きく、多量のガスを処理することができる。
【0130】
(第9実施形態)
次に、第9実施形態を説明する。本実施形態は、浮遊ウイルス除去ユニットの変形例である。図11は、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット600の構成を示す模式図である。本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット600は、第8実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット500を複数積層したものである。浮遊ウイルス除去ユニット500が複数積層されているため、ウイルス除去効果が大きく、多量のガスを処理することができる。
【0131】
(第10実施形態)
次に、第10実施形態を説明する。本実施形態は、浮遊ウイルス除去ユニットの変形例である。図12は、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット700の構成を示す図である。
【0132】
浮遊ウイルス除去ユニット700は、筒型の印加電極11と接地電極12と抗ウイルス性フィルタ100が、年輪状に径方向外側に積層して構成される円筒状の構造である。高電圧電源14を用い電圧を印加してプラズマを発生する印加電極11の内径部と接地電極12の外径部にそれぞれ誘電体13を設置した低温プラズマ反応層8に、両誘電体の間に抗ウイルス性フィルタ100が設置される。図では、印加電極11と接地電極12ともに誘電体13が密着して積層されているが、誘電体13は一つだけでもよい。抗ウイルス性フィルタ100は、通気性を有する構成であり、本実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット700においては、この抗ウイルス性フィルタ100部分にガスを流すことができる。従って、この浮遊ウイルス除去ユニット700の場合は、円形の両端面の一方からガスを流入させ、抗ウイルス性フィルタ100を通って他方の端面側から排出させることで、ガス中のウイルスの不活化処理を行う。浮遊ウイルス除去ユニット700のプラズマ反応層8は、年輪状の多層構造となっており、浮遊ウイルス除去ユニット300または600の多層構造の場合と同様に、多量の浮遊ウイルスを効率よく分解できる。浮遊ウイルス量や、流速などの使用条件に応じて、浮遊ウイルスを効率よく分解できるように、プラズマ反応層8に設置される、抗ウイルス性フィルタ100の筒型年輪状の枚数は複数でも一枚でも任意に設定できる。
【0133】
なお、本実施形態の年輪状の浮游ウイルス除去ユニット700を複数個組み合わせて、ウイルス除去ユニットを構成してもよい。図13は、浮遊ウイルス除去ユニット800の構成を示す模式図である。この浮遊ウイルス除去ユニット800は、4つの浮遊ウイルス除去ユニット700を縦横2列で配列して構成したものである。このような構成によれば、さらに多量の浮遊ウイルスを効率よく分解できる。なお、浮遊ウイルス除去ユニット800の組み合わせ方は図13に示したものに限られず、浮遊ウイルス除去ユニット800を設置する場所の形状などに合わせて、適宜配列することができる。例えば、縦や横に1列に並べてもよいし、浮遊ウイルス除去ユニット800の断面が長方形、台形、三角形などの各種多角形あるいは、円形になるように、複数の浮遊ウイルス除去ユニット800を配列してもよい。
【実施例】
【0134】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施
例のみに限定されるものではない。
【0135】
(抗ウイルス性金属粒子担持フィルタの作成)
(実施例1)
無機微粒子として、不飽和結合部を有するシランモノマーであるメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-503)を通常の方法により脱水縮合させ表面に共有結合させた酸化ジルコニウム粒子(日本電工株式会社製、PCS)100gを、900gのエタノールにプレ分散後、ビーズミルにて解砕・分散し、粒子分散液を得た。得られた粒子分散液の平均粒子径は105nmであった。なお、本明細書でいう平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。得られた粒子分散液は固形分濃度が1質量%になるようにエタノールを加えて調整した。
【0136】
続いて、上記塗布液にアルミナ繊維織物(株式会社ニチビ製、80 g/m2)を、含浸・乾燥させることで、無機微粒子固定シートを得た。
【0137】
0.5mmolのHAuCl4・4H2Oを100mlの水に溶解(5mmol/l)させ、70℃に加温してNaOH水溶液でpH4.8に調製した。その水溶液にシート本体として上記無機微粒子固定シート(10cm×10cm)を加えて1時間攪拌した。その後、蒸留水で洗浄し、窒素雰囲気下、100℃で4時間乾燥し、抗ウイルス性粒子として金ナノ粒子を表面に担持した無機微粒子を固定した抗ウイルス性金属粒子担持フィルタを得た。得られたフィルタの表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡にて観察したところ、平均粒子径4.4nmの金が担持されてあった。
【0138】
(実施例2)
1.0mmφの多数の孔が形成されたパンチングアルミニウム板(JISH1050材)を50℃に加温した5質量%水酸化ナトリウム水溶液に30秒間浸漬した後、流水中で水洗し、余剰分のアルカリを3質量%硝酸水溶液に浸漬して除去した。次に、炭酸ナトリウム200g/lとフッ化ナトリウム10g/lを含む20℃の水溶液に浸漬し、対極にカーボン電極を用いて150Vの直流電圧を印加することでアルミニウム板表面にγ−アルミナ被膜を形成した。その後、10mmol/lのHAuCl4・4H2Oの水溶液にγ−アルミナ被覆アルミニウム板を浸漬し、γ−アルミナ被膜にHAuCl4を吸着させた。次に、HAuCl4を吸着させたγ−アルミナ被膜形成アルミニウム板を水素化ホウ素ナトリウム3質量%含む水溶液に浸漬することで、抗ウイルス性粒子として金ナノ粒子を表面に担持した無機微粒子を固定した抗ウイルス性金属粒子担持フィルタを得た。得られたフィルタの表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡で観察したところ、平均粒子径5.8nmの金が担持されてあった。
【0139】
(実施例3)
38μmのチタン線材(トーホーテック株式会社製)で織った200メッシュのスクリーンを炭酸ナトリウム200g/l含む20℃の水溶液に浸漬し、対極にカーボン電極を用いて170Vの直流電圧を印加することで、ルチル型とアナターゼ型の混晶体からなる白色の酸化被膜を形成した。次に、市販の金コロイド溶液(田中貴金属工業株式会社製、Auコロイド溶液SC)をスプレーにて酸化被膜を形成したチタニウムメッシュに塗布し、120℃、30分間加熱乾燥することで、抗ウイルス性粒子として金ナノ粒子を表面に担持した無機微粒子を固定した抗ウイルス性金属粒子担持フィルタを得た。得られたフィルタの表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡で観察したところ、平均粒子径40.0nmの金が担持されてあった。
【0140】
(実施例4)
ジルコニア粉末0.7gと、酢酸パラジウム粉末1.4mgを乳鉢で混合した後、メタノール70g中に加えた。さらにそこに塩酸14μLを加え、ホモジナイザーにて20,000rpm、5分間攪拌することで、パラジウム担持用溶液を作製した。この溶液にアルミナ織物を浸漬し、浸漬したアルミナ織物に対して70℃で20分間、前乾燥を行った。その後、前乾燥を行ったアルミナ織物を酸素雰囲気下で210℃にて4時間熱処理を行い、抗ウイルス性粒子として酸化パラジウム粒子を表面に担持した無機微粒子を固定した抗ウイルス性粒子担持フィルタを得た。得られたフィルタの表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡で観察したところ、平均粒子径32.0nmの酸化パラジウムが担持されてあった。
【0141】
(抗ウイルス性粒子担持フィルタへのプラズマ照射装置の作製)
印加電極と対向電極で挟まれた試験空間(10 cm×10 cm×1 mm)に上記の抗ウイルス性粒子担持フィルタを挿入した。なお、印加電極と接地電極(対向電極)は試験空間側がマイカで覆われている。印加電極には交流電源、対向電極はアースに接続し、電圧を付与することで抗ウイルス性粒子担持フィルタにプラズマを照射する装置として、図1の浮遊ウイルス除去ユニットを用いた。
【0142】
(抗ウイルス性能評価方法)
浮遊ウイルス除去ユニットの抗ウイルス性能の評価は、MDCK細胞を用いて培養したインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))を用いた。
【0143】
抗ウイルス性金属粒子担持フィルタの中央部(4 cm×4 cm)を切り取り、試験片とした。ウイルス液 0.1 mlを滴下し、60分間風乾した。その後、ウイルス液を付着させた試験片を抗ウイルス性金属粒子担持フィルタの元の位置に戻し、浮遊ウイルス除去ユニットに設置した。放電出力は1Wとし、周波数は50Hzとして、プラズマを発生させた。プラズマ照射後、試験片を取り出して界面活性剤入りの20mg/mlのブイヨン蛋白液により、試験片に付着しているウイルスを洗い出した。その後、各洗い出し液をMEMにて10倍段階希釈し、シャーレに培養したMDCK細胞に希釈液100μlを接種した。60分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラック数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出した。
【0144】
(比較例1)
実施例1と同様だが、プラズマを照射しない場合を比較例1とした。すなわち、抗ウイルス粒子によるウイルス不活化作用だけを評価する比較例である。
【0145】
(比較例2)
実施例1で用いた抗ウイルス性金属粒子担持フィルタにおいて、金ナノ粒子を担持しない(つまり、抗ウイルス粒子がない状態のもの)こと以外は、実施例1と同様の条件で作成し、プラズマを照射し比較例2とした。
【0146】
(比較例3)
比較例2と同様に、金属ナノ粒子担持フィルタに金ナノ粒子を担持せず(抗ウイルス粒子がない状態のもの)、プラズマを照射しない場合を比較例3とした。
【0147】
(比較例4)
実施例4と同様だが、プラズマを照射しない場合を比較例4とした。すなわち、抗ウイルス性粒子によるウイルス不活化作用だけを評価する比較例である。
【0148】
実施例1から3と比較例1から3の条件を表1に示す。コントロールは、フィルタ(試験片)を入れずにウイルス液を加え、プラズマも照射しない場合の値である。
【0149】
【表1】
【0150】
実施例1から3と比較例1から3の抗ウイルス性能評価の結果を表2に示す。
【0151】
【表2】
【0152】
以上の試験の結果より、本発明の抗ウイルス性金属粒子にプラズマを併用する(実施例1から3)ことで、金ナノ粒子担持フィルタ(比較例1)、及びプラズマ(比較例2)をそれぞれ単体で使用したときと比べて、高いウイルス不活化作用が認められた。抗ウイルス性粒子に金属酸化物である酸化パラジウムを用いた場合(実施例4と比較例4の比較)も、同様である。比較例2と比較例3の感染価の差は3.0であるが、この差はプラズマ照射の有無の差である。比較例1の感染価の値6.2から、前記プラズマ照射の有無の差で3.0を差し引くと3.2となる。この値は、金ナノ粒子とプラズマの併用による感染価の予想値であるが、実際の感染価である実施例1の結果は1.3以下(検出限界以下)である。その効果は、抗ウイルス性ナノ粒子表面のウイルスがプラズマによってクリーニングされ、常に抗ウイルス性ナノ粒子とウイルスの接触可能な面積が初期の状態を維持しているため、接触可能なウイルスの数が増え、短時間(60分)でより多くのウイルスを不活化できると考えられる。
【0153】
(実施例5)
(抗ウイルス性粒子担持フィルタの作成)
無機微粒子として、酸化ジルコニウム粒子(日本電工株式会社製、PCS)100gを、900gのエタノールにプレ分散後、ビーズミルにて解砕・分散し、粒子分散液を得た。得られた粒子分散液の平均粒子径は105nmであった。なお、本明細書でいう平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。得られた粒子分散液は固形分濃度が3質量%になるようにエタノールを加えて調整した。
【0154】
続いて、上記塗布液にアルミナ繊維織物(株式会社ニチビ製、265 g/m2)を、含浸・乾燥させることで、無機微粒子固定シートを得た。
【0155】
HAuCl4水溶液を水で3000ppmに希釈し、60℃に加温してNaOH水溶液でpH7に調製した。その水溶液に上記無機微粒子固定シートを30分間、浸漬した後、蒸留水で洗浄した。その後、酢酸マンガン水溶液(2500ppm)に室温で30分間浸漬し、再び蒸留水で洗浄した。その後、大気中、300℃にて2時間加熱し、金ナノ粒子を表面に担持した無機微粒子を固定した抗ウイルス性粒子担持フィルタを得た。得られたフィルタの表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡にて観察したところ、平均粒子径4.4nmの金が担持されてあった。
【0156】
(抗ウイルス性能評価方法)
浮遊ウイルス除去ユニットの抗ウイルス性能の評価は、MDCK細胞を用いて培養したインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))を用いた。
【0157】
抗ウイルス性粒子担持フィルタ(10 cm×10 cm)を試験片とした。ウイルス液 0.4 mlを滴下し、ウイルス液を付着させた試験片を図8の浮遊ウイルス除去ユニットに設置した。電圧を付与し、プラズマを発生させた。このとき、放電出力は1.0Wとして、印加する交流電圧の周波数を0.05〜10kHzにして行った。プラズマ照射後、試験片を取り出して界面活性剤入りの20mg/mlのブイヨン蛋白液により、試験片に付着しているウイルスを洗い出した。その後、各洗い出し液をMEMにて10倍段階希釈し、シャーレに培養したMDCK細胞に希釈液100μlを接種した。60分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラック数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出した。
【0158】
(実施例6)
実施例5と同様だが、抗ウイルス性粒子担持フィルタに抗ウイルス性粒子である金ナノ粒子ではなく、白金ナノ粒子を担持したものを実施例とした。白金ナノ粒子を固定した抗ウイルス性粒子担持フィルタの作成は以下のように行った。
上記、アルミナ繊維織物を、アルミナゾル水溶液(日産化学工業)を希釈して作製した2%水溶液に浸漬し、乾燥を行ったものを大気中1200℃で2時間焼成した。次に、その織物に対して、ジニトロジアミン白金溶液をスプレーした。このとき、織物重量に対して、白金が1.5質量%となるように溶液濃度を調整した。スプレー後、110℃で予備乾燥した後、450℃で4時間焼成することで、白金粒子を固定した抗ウイルス性粒子担持フィルタを得た。得られたフィルタの表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡で観察したところ、平均粒子径3.1nmの白金が担持されてあった。
【0159】
(実施例7)
実施例5と同様だが、抗ウイルス性粒子担持フィルタに金粒子ではなく、酸化セリウム粒子を無機微粒子としての酸化ジルコニウム粒子には担持せず、直接アルミナ繊維織物に固定したものを実施例7とした。酸化セリウムを固定した抗ウイルス性ナノ粒子担持フィルタの作成は以下のように行った。
【0160】
酸化セリウムを5質量%含むメタノール溶液をボールミルで24時間分散した。その溶液にアルミナ繊維織物を浸漬し、乾燥することにより、酸化セリウム粒子を固定した抗ウイルス性粒子担持フィルタを得た。得られたフィルタの表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡で観察したところ、平均粒子径45.0nmの酸化セリウムが担持されてあった。
【0161】
(比較例5)
実施例5と同様だが、プラズマを照射しない場合を比較例5とした。すなわち、抗ウイルス粒子によるウイルス不活化作用だけを評価する比較例である。
【0162】
(比較例6)
実施例6と同様だが、プラズマを照射しない場合を比較例6とした。
【0163】
(比較例7)
実施例7と同様だが、プラズマを照射しない場合を比較例7とした。
【0164】
実施例5から7と比較例5から7の条件を表3に示す。コントロールは、フィルタ(試験片)を入れずにウイルス液を加え、プラズマも照射しない場合の値である。
【0165】
【表3】
【0166】
図14に、実施例5から7、比較例5から7の抗ウイルス性能評価の結果を示す。この結果より、本発明の抗ウイルス性ナノ粒子にプラズマを併用することで、抗ウイルス性粒子担持フィルタを単体で使用したときと比べて、高いウイルス不活化作用が認められた。さらに、周波数を0.05kHz以上にした場合でも、ウイルス不活性化作用が認められ、0.5kHz以上にすると効果が高まることが確認された。
【0167】
次に実施例5における抗ウイルス性能評価の試験の際、プラズマの放電出力は1.0Wとして、印加する交流電圧の周波数を0.05、1、3、5、6、7、10kHzとして、そのときのオゾンの発生濃度を測定した。その結果を図15に示す。
【0168】
1kHzと3kHzでは差が見られないものの、概ね周波数を高くするとオゾン発生濃度が減少傾向にあるといえる。特に5kHz以上になると急激にオゾンの発生濃度が減少する。
【0169】
続いて、実施例6における抗ウイルス性能評価の試験の際、プラズマの放電出力は1.0Wとして、印加する交流電圧の周波数を0.05、0.5、0.75、1、1.5、2、3、5、10kHzとして、そのときのオゾンの発生濃度を測定した。その結果を図16に示す。
【0170】
周波数を高くするとオゾン発生濃度は減少傾向にあり、1kHz以上になると、オゾンがほとんど発生しなくなる。
【0171】
続いて、実施例7における抗ウイルス性能評価の試験の際、プラズマの放電出力は1.0Wとして、印加する交流電圧の周波数を0.05、1、2、3、4、5、6、10kHzとして、そのときのオゾンの発生濃度を測定した。その結果を図17に示す。
【0172】
周波数を高くするとオゾン発生濃度は減少傾向にあるといえる。
【0173】
周波数が高くなると、オゾン発生濃度は低くなり、今回の結果からは、1kHz以上になると減少傾向にあることが認められた。1kHz以上では抗ウイルス効果の結果も良好である。10kHzまでは、ウイルス不活化作用も認められ、オゾンの発生濃度も低いことが確認された。
【符号の説明】
【0174】
100 抗ウイルス性フィルタ
200 浮遊ウイルス除去ユニット
300 他の実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット
400 他の実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット
500 他の実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット
600 他の実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット
700 他の実施形態の浮遊ウイルス除去ユニット
1 抗ウイルス性フィルタ本体
2 抗ウイルス性を有するナノ粒子
3 無機微粒子
4 無機粒子
5 シランモノマーまたはそのオリゴマー
6 化学結合
7 シランカップリング剤
8 放電空間
11 印加電極
12 接地電極
13 誘電体
14 電源
30 複合抗ウイルス微粒子
70 カップリング層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスに含まれるウイルスを除去するウイルス除去ユニットであって、
少なくとも第1の電極と第2の電極と誘電体とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極の間に電圧を印加して放電を発生させることによりプラズマを発生させるプラズマ発生部と、
前記プラズマ発生部によって発生したプラズマが存在する空間内に配置される、抗ウイルス性を有する粒子を含むウイルス不活化部と、
を備えることを特徴とするウイルス除去ユニット。
【請求項2】
前記ウイルス不活化部は、前記抗ウイルス性を有する粒子が接触する無機物質部をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のウイルス除去ユニット。
【請求項3】
ウイルスを除去する処理対象のガスを供給するガス供給部をさらに備え、
前記プラズマ発生部は、前記第1の電極と、前記第2の電極と、前記誘電体と前記ウイルス不活化部が、前記ガス供給部から供給される処理対象のガスの流れ方向に並べて配置され、それぞれ前記ガスの流れ方向に通気性を有し、
前記ウイルス不活化部は、前記ガスの流れ方向に通気性を有するとともに、前記放電の放電空間内、および、前記放電空間に対して前記ガスの流れ方向における下流側の位置の少なくともいずれか一方に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載のウイルス除去ユニット。
【請求項4】
ウイルスを除去する処理対象のガスを供給するガス供給部をさらに備え、
前記プラズマ発生部は、前記第1の電極と、前記第2の電極と前記誘電体と、前記ウイルス不活化部が、前記ガス供給部から供給される処理対象のガスの流れ方向に直交する方向に並べて配置されることを特徴とする請求項1または2に記載のウイルス除去ユニット。
【請求項5】
前記ウイルス不活化部は、前記抗ウイルス性を有する粒子を固定する基材をさらに備え、
前記基材は、少なくとも前記抗ウイルス性を有する粒子が固定される部分が無機材料であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【請求項6】
前記ウイルス不活化部は、
無機材料で形成され、前記抗ウイルス性を有する粒子が表面に固定される無機粒子と、
前記無機粒子を固定する基材と、をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【請求項7】
前記ウイルス不活化部は、無機粒子の表面に前記抗ウイルス性を有する粒子が固定された複合粒子が充填されたものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【請求項8】
前記ウイルス不活化部は、前記第1の電極、前記第2の電極および前記誘電体の少なくともいずれかの表面に形成されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【請求項9】
前記プラズマが、沿面放電、あるいは無声放電の少なくともいずれかによって生成されることを特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載の浮遊ウイルス除去ユニット。
【請求項10】
前記抗ウイルス性を有する粒子が、金、白金、パラジウム、セリウム、または、これらの酸化物の少なくとも一種類以上からなることを特徴とする請求項1から9のいずれか1つに記載の浮遊ウイルス除去ユニット。
【請求項1】
ガスに含まれるウイルスを除去するウイルス除去ユニットであって、
少なくとも第1の電極と第2の電極と誘電体とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極の間に電圧を印加して放電を発生させることによりプラズマを発生させるプラズマ発生部と、
前記プラズマ発生部によって発生したプラズマが存在する空間内に配置される、抗ウイルス性を有する粒子を含むウイルス不活化部と、
を備えることを特徴とするウイルス除去ユニット。
【請求項2】
前記ウイルス不活化部は、前記抗ウイルス性を有する粒子が接触する無機物質部をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のウイルス除去ユニット。
【請求項3】
ウイルスを除去する処理対象のガスを供給するガス供給部をさらに備え、
前記プラズマ発生部は、前記第1の電極と、前記第2の電極と、前記誘電体と前記ウイルス不活化部が、前記ガス供給部から供給される処理対象のガスの流れ方向に並べて配置され、それぞれ前記ガスの流れ方向に通気性を有し、
前記ウイルス不活化部は、前記ガスの流れ方向に通気性を有するとともに、前記放電の放電空間内、および、前記放電空間に対して前記ガスの流れ方向における下流側の位置の少なくともいずれか一方に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載のウイルス除去ユニット。
【請求項4】
ウイルスを除去する処理対象のガスを供給するガス供給部をさらに備え、
前記プラズマ発生部は、前記第1の電極と、前記第2の電極と前記誘電体と、前記ウイルス不活化部が、前記ガス供給部から供給される処理対象のガスの流れ方向に直交する方向に並べて配置されることを特徴とする請求項1または2に記載のウイルス除去ユニット。
【請求項5】
前記ウイルス不活化部は、前記抗ウイルス性を有する粒子を固定する基材をさらに備え、
前記基材は、少なくとも前記抗ウイルス性を有する粒子が固定される部分が無機材料であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【請求項6】
前記ウイルス不活化部は、
無機材料で形成され、前記抗ウイルス性を有する粒子が表面に固定される無機粒子と、
前記無機粒子を固定する基材と、をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【請求項7】
前記ウイルス不活化部は、無機粒子の表面に前記抗ウイルス性を有する粒子が固定された複合粒子が充填されたものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【請求項8】
前記ウイルス不活化部は、前記第1の電極、前記第2の電極および前記誘電体の少なくともいずれかの表面に形成されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載のウイルス除去ユニット。
【請求項9】
前記プラズマが、沿面放電、あるいは無声放電の少なくともいずれかによって生成されることを特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載の浮遊ウイルス除去ユニット。
【請求項10】
前記抗ウイルス性を有する粒子が、金、白金、パラジウム、セリウム、または、これらの酸化物の少なくとも一種類以上からなることを特徴とする請求項1から9のいずれか1つに記載の浮遊ウイルス除去ユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−78573(P2013−78573A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−208956(P2012−208956)
【出願日】平成24年9月21日(2012.9.21)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年9月21日(2012.9.21)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】
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