説明

浴室内マッサージ方法および浴室内マッサージ装置

【課題】 a)水または湯を身体に当てるという簡単な構成を有しながら、b)振動によって強いマッサージ効果をもたらし、c)“ツボ”を含む任意の部位に容易に適用できる――などの利点を有する浴室内マッサージの手段を提供する。
【解決手段】 水または湯の噴流に振動を与え、その噴流を、向きおよび位置の変更が可能なノズルを通して身体に当てる。上記の振動は、水もしくは湯の噴流をスリットを通してエッジに当てることにより、または、水もしくは湯の噴流を、傾斜壁で仕切られた分岐経路の各壁面に交互に付着させることにより行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、適切な“ツボ”(東洋医学用語では“経穴”)などを入浴中に直接マッサージすることを可能にする、浴室内マッサージ方法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人が最も安らげる場所の一つである浴室内において一人で手軽に自らの身体をマッサージすることができるなら、心身をリフレッシュする効果はきわめて大きいはずである。しかし、従来、十分な効能があって取扱いも容易な、好ましい浴室内マッサージ手段はなかった。
【0003】
たとえば、電気刺激を与える低周波治療器やその原理を応用するマッサージ器は、通常の室内では使用可能であるものの、浴室内で、つまり水や湯に濡れた状態で使用するには適していない。また、浴槽の一部から空気をジェット噴流にして噴出させるジェットバスやその応用である気泡水流発生装置では、いわゆる“ツボ”の部分を含む任意の局部を刺激することは簡単には行えない。
【0004】
下記の各特許文献には、上のような観点から、浴室内で使用する各種のマッサージ器が提案されている。
【特許文献1】特開2001−79052号公報
【特許文献2】特開2003−24401号公報
【特許文献3】特開2004−160187号公報
【特許文献4】特開2005−102813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1および2に記載されているマッサージ器は、動作機械であるマッサージ器本体を浴槽内に漬け、その一部を身体に接触させて機械的刺激を与えるものである。そのため、マッサージ器本体として、機構的に複雑な大がかりなものが不可欠となり、コストが高いうえ浴槽内で大きなスペースを占めがちである。また、機械部分に対するメンテナンス上の負担も軽微ではない。
【0006】
また特許文献3のものは、身体に近づけるノズルの先から水を吐出または吸引することにより、身体表面に刺激を与えるものである。しかし、吐出または吸引する水は滑らかに流れるだけであって振動等をともなうものではないため、刺激が及ぶ範囲が浅いなど、マッサージの効果は高くないと予想される。
特許文献4は、シャワー配管に接続するヘッド内に旋回流を生じさせ、旋回流と負圧部によるマッサージ効果を期待したものであるが、噴流の振動をともなうものでなく、やはりその効果は高くないと想定される。
【0007】
以上のように、従来は、a)動作機械ではなく単なる水または湯を身体に当てるという簡単な構成を有しながら、b)水または湯を振動させることにより強いマッサージ効果をもたらし、c)“ツボ”を含む任意の部位に容易に適用できる――などの利点を有する浴室内マッサージの手段は存在しなかったといえる。
請求項に係る発明は、そのような好ましい浴室内マッサージの方法と装置とを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項に係る発明の浴室内マッサージ方法は、水または湯の噴流に振動を与え、その噴流を、向きおよび位置の変更が可能なノズルを通して(浴槽内または洗い場等で)身体に当てることを特徴とする。
この方法では、a)水または湯の噴流を身体に当てることから、動作機械のような複雑な機構は不要でありメンテナンス負担も軽微である。b)上記噴流に振動を与えたうえで身体にその噴流を当てるのであるから、押下だけでなく、揉んだり振るわしたり叩いたりする動作に匹敵する刺激をももたらすことができる。また、c)上記の噴流を、向きおよび位置の変更が可能なノズルを通して身体に当てるのであるから、背中部位等の“ツボ”を含む任意の部分に、一人で手軽に刺激を与えてマッサージ効果を得ることができる。
【0009】
水または湯の噴流に上記のように振動を与えることは、
i) 水もしくは湯の噴流を、スリットを通してエッジ(楔形物体における鋭角の端部)に当てることにより上記の振動を自励的に発生させ、または、
ii) 水もしくは湯の噴流(主噴流)を、傾斜壁で仕切られた複数の分岐経路の各壁面に交互に付着させることにより上記の振動を強制的に発生させるのがよい。
【0010】
上記i)のようにする場合には、噴流がエッジに衝突し、噴流の上下運動(横波振動、Transverse Oscillation)が発生する。この現象は、空気中では、フルートやパイプオルガンの音波(縦波)の発生機構であるエッジトーン現象として知られている。噴流がエッジに当たり、その不安定性に対し、圧力のフィードバックにより、噴流の横波現象が自励振動として維持され、その横波による圧力変動が空気の圧縮性を通して縦波に変換され、エッジ音となる。その周波数は、噴流の流速とスリット−エッジ間の距離との二つのパラメータで変化する。一方、上記の現象は液体中でも観測されており、水中や油中での現象が観察され、かつ、周波数変更パラメータも空気中と同一であることが報告されている。かかるエッジトーン現象については下記の参考文献1・2に記載がある。
参考文献1: M. Yonemochi and T. Nakamura: “Edge-Tone Oscillator as a Flowmeter”, Sixth Cranfield Fluidics Conference, 26th-28th March, 1974, Cambridge.
参考文献2: 村中洋子、野々村拓、藤井孝蔵:“エッジトーン周波数特性の数値シミュレーション”、日本計算工学会論文NO. 20050026(2005).
空気中では噴流のエネルギーは大半が音場エネルギーに変換されるが、非圧縮性流体である液体(水または湯)中では、噴流動力の音場変換による動力ロスは少なく、噴流のエネルギーが効果的にマッサージに使用される。
【0011】
上記ii)のようにする場合には、噴流(主噴流)が上記各壁面に交互に付着するよう切り換わることによって、噴流に振動が形成される。
二つの傾斜壁で仕切られた空間に噴流を放出すると、噴流は、その自己不安定性のために、さらにまた周囲の渦の影響により、いずれか片方の壁面に付着して進む。この現象はコアンダ効果または壁面付着効果と呼ばれ、これによる付着噴流を利用した、フリップフロップ素子の発振現象も知られている。コアンダ効果とそれを利用する発信現象については、下記の参考文献3に記載がある。
参考文献3: 花田桂一:“フィードバック形流体発振器の研究”、精密機械33巻6号(1967)
コアンダ効果と上記の切り換えにより水または湯で適当な周波数の振動噴流を得れば、それを浴室内でのマッサージに利用できることになる。
なお、噴流(主噴流)を各壁面に交互に付着させるためには、たとえば、主噴流の各出力先に容量(容積空間)と抵抗(流路抵抗)とを接続し、容量の内圧が高まるとその側の付着流れが維持されないようにしたり、または、主噴流の一部をフィードバックさせて二つの向きの副噴流を発生させ、それを交互に主噴流に当てるようにしたりするとよい。
【0012】
上記i)のように水または湯の噴流をスリットを通してエッジに当てることにより振動を発生させる場合、噴流の速度またはスリットからエッジまでの距離を変更することにより、周波数が不連続に変わる跳躍(ジャンプ)現象を起こさせて上記振動の周波数を変更すると好ましい。
噴流の速度またはスリット−エッジ間の距離を変更するとき、エッジトーン現象で生じる振動の周波数が変わることは前述のとおりである。浴室内マッサージに最も適した周波数はまだ明らかではなく、また、好ましい周波数には個人差やマッサージ部位別の最適値があるとも予想される。そのため、効果的なマッサージを行うには、噴流の速度や上記の距離を変更することにより振動の周波数を変更することが好ましい。エッジトーン現象による場合、上記のように流速等を変化させることにより、0.1Hzから20Hz程度まで第一段階周波数域で変化させることができる。
エッジトーン現象によって噴流に振動を与えるとともに噴流の速度や上記の距離を変更するとき、ある変動範囲では周波数が不連続に第二段階周波数に切り換わり、かつ、ヒステリシスをともなって第一段階周波数に戻ってくる。この点は跳躍現象等と呼ばれ、前記の参考文献1・2にも記載されているが、整理すると図5・図6のように表される。上記のように周波数を変更するとき、このような跳躍現象をも発生させるようにすれば、効果や感覚の異なるマッサージを利用者が選択しやすく、とくに有利である。
【0013】
上記ii)のように、水または湯の噴流を、傾斜壁で仕切られた分岐経路の各壁面に交互に付着させることにより振動を与える場合、分岐経路の手前で上記噴流と交差するよう交互に向きを切り換えてたとえば副噴流を流し、その切り換えの頻度を変更することにより上記振動の周波数を変更するのが有効な方法である。
上記ii)のように壁面付着効果を利用して噴流に振動を与える場合にも、効果的なマッサージのためにはその周波数を変更できることが望ましい。上記のように副噴流を流すこととしてその切り換え頻度を変更して主噴流の振動周波数を変更するなら、壁面付着効果を利用する場合にも上記周波数を簡単に変更することが可能になる。
なお、上記ii)の場合に噴流に振動を与えるためには、副噴流を切り換える方法以外にも、分岐経路の数に等しい開口をノズルの先端に設けておき、いずれかの開口を順次に人肌に押し当てて閉じることを繰り返す方法(たとえば図12、図13(a)のもの)や、別途設けた制御ポートの開閉を切り換える方法(たとえば図13(b)のもの)を採用することも可能である。
【0014】
請求項に係る発明の浴室内マッサージ装置は、水または湯の噴流発生源(図1・図7に示すポンプなど個別のものでも、図11・図12の例で接続するシャワー配管や蛇口等でもよい)と、それによって生じた噴流に振動を与える発振器と、発振器を経た噴流を噴出させるノズルとを含めて構成し、少なくともノズルはその向きおよび位置の変更が可能なものとすることを特徴とする。ノズルのみでなく、ノズルと発振器とを組み合わせたもの、またはノズルと発振器とポンプを組み合わせたものを携帯式ないし可搬式として、それぞれノズル等の向きおよび位置の変更を可能にするのもよい。ノズルを交換式とし、口径や長さ、噴射向きなどを適宜に変更(交換)して使用できるようにするのも好ましい。
上のように構成した装置によれば、前述した浴室内マッサージ方法を円滑に実施することができる。すなわち、上記噴流発生源で発生させた水または湯の噴流に、上記発振器によって振動を与え、その噴流を、向きおよび位置の変更が可能なノズルを通して身体の任意の部位に当てることが可能である。そしてそれにより、a)動作機械のような複雑な機構が不要でメンテナンス負担が軽微である、b)振動に基づいて、揉んだり振るわしたりするのに相当する刺激がもたらされる、c)上記ノズルによって、任意の部分に一人で手軽にマッサージを施すことができる――といった好ましい作用効果が得られる。振動をともなう噴流の作用で、身体の任意の局部を洗浄することにも使用できる。
【0015】
浴室内マッサージ装置における上記の発振器は、噴流を出すスリットの先にエッジを有するものとし、さらに、上記の噴流発生源について上記噴流の速度を変更可能なものとするか、または上記発振器について上記スリットから上記エッジまでの距離を変更可能にするか、いずれかまたは両方の構成を付加すると有利である。
そうすれば、水または湯の噴流を上記スリットを通して上記エッジに当てるとき、エッジトーン現象によって噴流に振動を生じさせることができる。そしてさらに、噴流発生源によって噴流の速度を変更するか、発振器のスリットからエッジまでの距離を変更するかによって、当該振動の周波数を変更することができ、好ましいマッサージが行える。上記の速度や距離の変更幅を一定以上にとっておけば、前述の跳躍現象をも発生させてさらに効果的なマッサージを実現することができる。なお、ポンプ等の噴流発生源によって噴流の速度を変更する場合(シャワー配管のカランの開閉によって速度変更する場合を含む)には、身体に当てる噴流の圧力をも変更できる。
【0016】
浴室内マッサージ装置における上記の発振器については、噴流の経路の先に、コアンダ効果によっていずれか一方の経路の壁面に噴流が付着するよう形成された分岐経路を有するものとし、当該分岐経路の手前で上記噴流と交差するよう交互に向きを換えて副噴流を流す副噴流路と、当該副噴流の向きの切り換え頻度を変更するための制御手段とを付設するとよい。
そうすれば、水または湯の噴流を上記分岐経路の各壁面に交互に切り換えながら付着させることにより、当該噴流に振動を発生させることができる。上記した副噴流路と制御手段とを使用して副噴流の向きの切り換え頻度を変更すると、上記振動の周波数を変更することができ、個人差やマッサージ部位等に応じた効果的なマッサージを実現できる。
なお、コアンダ効果を利用するこの装置では、発振器中に上記切り換えのための特別な制御手段を設けるのでなく、分岐経路の数に等しい開口をノズルの先端に設けておき、装置の使用者がいずれかの開口を順次に人肌に押し当てて閉じることによって噴流の付着壁面を切り換えるようにすることも可能である(図12、図13(a)の例を参照)。その場合、使用者が自らの意思によって振動の周波数を変更できる。また、分岐経路の手前で上記噴流の側方に制御口を設けておき、各制御口に交互に負圧を生成することによって噴流の付着壁面を切り換えることもできる(図13(b)の例を参照)。
【発明の効果】
【0017】
発明の浴室内マッサージ方法およびマッサージ装置は、a)水または湯の噴流を身体に当てることによるものであるため、動作機械のような複雑な機構が不要でメンテナンス負担も軽微である、b)振動の作用により、揉んだり振るわしたりするのに相当する刺激がもたらされるなど、効果的なマッサージが行える、c)“ツボ”を含む任意の部分に一人で簡単にマッサージを施すことができる――といった効果をもたらす。そのような点から、発明の方法および装置は、種々の環境からくるストレスや肩こり、腰痛等を、浴室内の温熱効果と併せて軽減し、利用者のQOLの向上に資し、ライフサイクルの改善に貢献するものといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
発明の実施に関する第一の形態を図1〜図6に示す。図1は、浴室内マッサージ装置1の可搬部2を示す縦断面図、図2および図3は、図1の装置1に多少の改変を加えた例を示すもので、各図(a)は可搬部2Aまたは2Bの縦断面図、各図(b)は装置の使用状態図である。図4(a)〜(d)は、装置1に交換可能に接続して使用するノズル30等を示す縦断面図。また図5および図6は、装置1から出る噴流の振動周波数の変化を示す線図である。
【0019】
図1に示すマッサージ装置1は、湯の噴流を発生させるためのポンプ10と、発生した噴流に振動を与えるための発振器20と、発振器20を経た噴流を出すためのノズル30とを主要部として構成したものである。ポンプ10には、回転羽根11とモータ、電池12、制御用基板13などを含めている。また発振器20には、ポンプ10からの噴流を出すスリット21とその正面に配置した楔体22、楔体22の移動のための操作筒23とネジ部24、および楔体22の下流側に仕切り板26とともに設けた吐出口25を設けている。楔体22は、その先端(スリット21に面した側)に角度が20°前後の鋭いエッジ22eを有する、たとえば金属製の板である。
【0020】
図1の例では、そのようなポンプ10と発振器20とを、片手で持てる大きさの一体のケーシング内に組み込んで可搬部2とし、発振器20の吐出口25にノズル30を接続している。可搬部2のケーシングの外側には、ポンプ10を操作するための操作パネル(図示省略)を設けてもいる。ノズル30は、流路が90°に屈曲したエルボ型のもので、吐出口25の仕切り壁26に連続する仕切り壁31により流路が二分されていて、先端部に噴出口32を有するものである。
【0021】
このマッサージ装置1は、浴室内でつぎのように使用され機能する。すなわち、
1) 使用者が可搬部2を浴槽の湯に漬けたうえ、操作パネルを操作してポンプ10のモータを起動すると羽根11が回転し、ケーシングの側壁にある吸入口14から湯が吸い込まれて、羽根11の前方に噴流が形成される。
2) ポンプ10で形成されスリット21から出る噴流は、楔体22のエッジ22eに当たってその両側へ流れるが、このとき、エッジトーン現象により振動をともなって流れ、吐出口25から出て行く。ポンプ10の回転数を変えて噴流の流速を変更し、または操作筒23を手で回すことによりネジ部24の作用で楔体22の位置を変更する(つまりスリット21とエッジ22eとの間の距離を変更する)と、上記振動の周波数は、図5または図6の線図にしたがい、跳躍現象をともないながら0.1Hz〜20Hz程度の範囲で変更される。
3) 振動をともなう湯の噴流は、図1の吐出口25に続くノズル30を経てその先端の噴出口32から噴出するので、使用者は、可搬部2を手に持ってノズル30の噴出口32を自らの肩や腰、その他のツボ等に当ててマッサージ効果を得る。その際、操作パネルによりポンプ10の回転数を調節して、体に当たる湯の圧力を1〜5kgf前後にし、またはさらに上記周波数を適宜に調節するとよい。
【0022】
浴室内マッサージ装置1は、全体の基本構成を変更することなく、可搬部2に組み込む機器を変更することが可能である。たとえば図2(a)は、可搬部2Aの中にはポンプ10(モータや回転羽根を含む)を組み込まないこととし、スリットとエッジとを含む発振器20A(およびポンプ10等を遠隔操作するための基板やパネル、電源部等)等のみを可搬部2Aに含めた例である。発振器20Aの先には、図1の例と同様にノズルを取り付ける。
図2(a)に示す可搬部2Aは、図2(b)のようにホース18Aなどによってポンプ10Aに接続し、ポンプ10Aを浴槽Tの湯に漬けて(または図3(b)のように浴槽Tの内側と接続して)使用する。可搬部2Aを手で持ってツボなど任意の箇所にノズルの先を向け、図1の例と同様に使用する。
【0023】
あるいは図3(a)のように、可搬部2Bを、スリットとエッジ等のみを組み込んで構成することもできる。その場合、図3(b)のように、ポンプ10Bと操作パネル15Bとは別に構成して浴槽Tの付近に設置する。ポンプ10Bが浴槽Tの湯を吸い込んで噴流を起こし、ホース18Bを介して可搬部2の発振器20Bに噴流を送って振動を加える。使用者は、その可搬部2Bを手に持ち、任意の部位にノズルを向けるとともに操作パネル15Bを適宜操作して自らマッサージを行う。
【0024】
発振器20・20A・20Bの先に接続するノズルとしては、図4(a)〜(d)に例示のものなど各種を交換して使用することができる。図4(a)は図1の例で使用した屈曲型のノズル30だが、同(b)のノズル30Aは、やはり90°の屈曲型でありながらノズル30よりも口径の大きなものである。同(c)のノズル30Bは流路が真っ直ぐな直線型のもの、同(d)のノズル30Cは流路が真っ直ぐだが口径の小さなものである。マッサージをしたい部位等に応じて、これらのノズル30・30A・30B・30C等のうちから適切なものを選択し、たとえば図1の可搬部2における発振器20の吐出口25の先に接続して使用するとよい。流路内に仕切り壁を有しないノズルを使用することもできる。
【0025】
図11に、発振器20C中にスリット21Cと楔体(エッジ)22C等を有するマッサージ装置(可搬部2C)についての他の構成例を示す。図11(a)は縦断面図、同(b)は同(a)におけるb−b断面図、同(c)は同(a)のc−c矢視図である。この装置では、可搬部2C内にもその他の部分にもポンプを使用せず、噴流発生源としてシャワー配管を利用する。すなわち、可搬部2Cの一部に設けた継手19Cにシャワー配管を接続して水や湯の噴流を得るとともに、その流速や圧力はカラン(蛇口)の開閉によりコントロールする。エッジ22Ceによってその噴流に振動を生起させたうえノズル30Cからその噴流を出すことは、前述の例と同様である。噴流発生や制御のための電気品等が不要であることから、構造が簡単であるうえ使用者に安心感を与えられる。
【0026】
図7〜図10には発明に関する別の実施形態を示す。図7は、浴室内マッサージ装置5の可搬部6を示す縦断面図、図8および図9は、図7の装置5に改変を加えた例を示すもので、各図(a)は可搬部6Aまたは6Bの縦断面図、各図(b)は使用状態図である。また図10は、装置5(発振器50・50A・50B)において使用する電磁開閉弁54a・54bの開閉タイミングを示す線図である。
【0027】
図7に示すマッサージ装置1は、湯の噴流(主噴流)を発生させるポンプ40と、発生した主噴流に振動を与えるための発振器50と、発振器50を経た主噴流を出すためのノズル60とを主要部とするものである。ポンプ40は回転羽根41とモータ、電池42、制御用基板43などから構成している。また発振器50には、ポンプ10からの主噴流を出す開口51と、その前方で、約30〜40°の先端角を有する楔形の板状仕切り部材52等にて形成する分岐経路52c・52d、それら分岐経路から取り出す副噴流を開口51の直後の部分に戻すフィードバック流路53a・53b、各フィードバック流路内に設けた電磁開閉弁54a・54b、さらには、分岐経路の下流側に仕切り板56とともに設けた吐出口55を含めている。仕切り部材52とそれに対向する各壁面52a・52bとは、開口51を通る主噴流の中心線に関して対称に形成しているので、分岐経路52c・52dのそれぞれに対する主噴流の流れ込み方は同等であり差異がない。
【0028】
図7の例では、そのようなポンプ40と発振器50とを可搬部6とし、やはり片手で持てる大きさの一体のケーシング内に組み込み、その吐出口55にノズル60を接続している。可搬部6のケーシングの外側には、ポンプ40等を操作するための操作パネル(図示省略)を設けている。ノズル60は、流路が90°屈曲するエルボ型のもので、吐出口55の仕切り壁56に連続する仕切り壁61により流路が二分され、先端部に噴出口62を有している。このノズル60も、図4に示すものなど各種のノズルに交換して使用することができる。
【0029】
図7のマッサージ装置5は、浴室内でつぎのように使用され機能する。すなわち、
1) 使用者が可搬部6を浴槽の湯に漬けたうえ、操作パネルを操作してポンプ40のモータを起動すると、羽根41が回転し、ケーシングの側壁にある吸入口44から湯が吸い込まれて、羽根41の前方に主噴流が形成される。
2) 上記のように形成されて開口51から出る主噴流は、コアンダ効果により、仕切り部材52の傾斜壁で仕切られた分岐経路52c・52dの各壁面52a・52bのうちいずれか一方に付着して流れる。ただし、フィードバック流路53a・53bから戻される副噴流の向きを電磁開閉弁54a・54bの開閉にて切り換えると、主噴流が付着する壁面を交互に切り換えることができる。電磁開閉弁54a・54bの切り換え頻度をたとえば0.1Hz〜20Hz程度とすると、付着壁面を切り換えられる主噴流に同程度の周波数の振動を付与することができる。周波数を適宜に調節し、また、体に当てる湯の圧力も1〜5kgf程度を中心に適宜に調節するとよい。
3) 振動を付与された湯の主噴流は、図7の吐出口55に続くノズル60を経て噴出口62から噴出する。使用者は、可搬部6を手に持ってその噴出口62を自身の身体各部(ツボ等)に当ててマッサージ効果を得る。
【0030】
上記2)において主噴流の付着壁面を交互に切り換えるためには、図7の電磁開閉弁54a・54bを図10のように開閉制御するのがよい。すなわち、図7のように主噴流が図示上側の壁面52aに付着している状態を想定すると、
2-1) まず、図10のタイミング(1)で、反付着側の電磁開閉弁54bを閉じる。その結果、主噴流の流速がもたらすエジェクタ効果により、反付着側のフィードバック流路53bが負圧となり、主噴流が反付着側に引き寄せられる。そのエジェクタ効果を、図示の期間(2)にわたって主噴流に作用させる。
2-2) 図示のタイミング(3)において、付着側の電磁開閉弁54aを開き、主噴流の分岐経路52cを通る主噴流の一部をフィードバック流路53aに導入し、その動圧によって、主噴流を壁面52bに付着させるよう切り換える。
2-3) 以上の繰り返しにより、主噴流は、別途制御基板43上に設定する電磁開閉弁54a・54bの開閉周期にて付着壁面の切り換えを起こし、振動をともなう流れとなる。
【0031】
図7のマッサージ装置5も、基本構成を変更することなく、可搬部6に組み込む機器を変更することができる。たとえば図8(a)は、可搬部6Aの中にポンプ(モータや回転羽根を含む)を組み込まないこととし、開口や仕切り部材、電磁開閉弁等を含む発振器50A(およびポンプ等を遠隔操作するための基板やパネル、電源部等)のみを可搬部6Aに含める例である。発振器50Aの先には、図1の例と同様にノズルを取り付ける。
図8(a)の可搬部6Aは、図8(b)のようにホース48A等によってポンプ40Aに接続し、ポンプ40Aは浴槽Tの湯に漬ける(または図9(b)のように浴槽Tの内側と接続して)。可搬部6Aを手で持ってツボなど任意の箇所にノズルの先を向け、図7の例と同様に使用する。
【0032】
マッサージ装置5については図9(a)のように、可搬部6Bを、開口や仕切り部材、電磁開閉弁等からなる発振器50Bのみを組み込んで構成することもできる。その場合、図9(b)のように、ポンプ40Bや操作パネル45Bを別に構成して浴槽Tの付近に設置する。ポンプ40Bが浴槽Tの湯を吸い込み、ホース48Bを通して湯の噴流を可搬部6Bの発振器50Bに送ると、発振器50Bが噴流に振動を加えてノズルから出す。使用者は、その可搬部6Bを手に持ち、任意の部位にノズルを向けるとともに操作パネル15Bを適宜に操作すれば、自身の各部をマッサージすることができる。
【0033】
図12に、主噴流の付着壁面を切り換える方式のマッサージ装置に関する他の構成例を示す。図12(a)は縦断面図、同(b)は同(a)におけるb−b断面図、同(c)は同(a)におけるc−c矢視図である。この装置には次のような特徴がある。すなわち、1)図11の例と同じくポンプ等を使用せず、可搬部6Cの一部に設けた継手49Cにシャワー配管を接続して同配管を噴流発生源とし、カラン(蛇口)の開閉により流速や圧力を制御する、2)仕切り部材52Cで三つに分けられた分岐経路を有し(図(b)を参照)、それら三つの壁面のいずれかに水または湯の噴流を付着させる、3)ノズル60Cの内部および先端は、仕切り壁61Cによって分岐経路の数に等しく三つに分割開口しており(図(c)を参照)、その先端の各開口を順次に肌に当てて塞いでいくことにより、噴流の付着壁面を切り換えて振動を生起させる。この例では、特別な制御機器が不要であるため構造が簡単で、故障等の心配がないという利点がある。
【0034】
なお、振動発生のために主噴流の付着壁面を切り換える手段として、図13に示すものが考えられる。図13(a)に示す可搬部6Dは、図12のものと共通する部分を有していて、ノズル60Dの先端の複数の開口を一つずつ肌Xに当てて塞ぐ(または抵抗を高める)ことにより、発振器50Dにおける噴流の付着壁面を切り換えて振動を生起させる例である。噴流の振動周波数は、肌Xに当てて塞ぐノズル60Dの先端開口の切り換え頻度に応じて決まる。
また図13(b)に示す可搬部6Eは、発振器50E内の分岐経路の手前で主噴流の側方に制御口57a・57bを設けておき、各制御口57a・57bに通じる主噴流から遠い側の端部を、モータ58に取り付けた傾斜円盤58pによって交互に閉じる例である。主噴流によるエジェクター効果と傾斜円盤58pによる閉塞効果とによって各制御口57a・57bに交互に負圧を生成し、その負圧を利用して主噴流の付着壁面を切り換えるのである。主噴流の振動周波数は、モータ58の回転数によって決められる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】浴室内マッサージ装置1の可搬部2を示す縦断面図である。
【図2】図1の装置1に改変を加えた例を示すもので、図2(a)は可搬部2Aの縦断面図、図2(b)はその装置の使用状態図である。
【図3】図1の装置1に他の改変を加えた例を示し、図3(a)は可搬部2Bの縦断面図、図3(b)はその装置の使用状態図である。
【図4】図4(a)〜(d)のそれぞれは、装置1に交換可能に接続して使用するノズル30等を示す縦断面図である。
【図5】装置1から出る噴流について、速度(流速)と振動周波数との関係を示す線図である。
【図6】装置1から出る噴流について、ノズル(スリット)−エッジ間の距離と振動周波数との関係を示す線図である。
【図7】浴室内マッサージ装置5の可搬部6を示す縦断面図である。
【図8】図7の装置5に改変を加えた例を示すもので、図8(a)は可搬部6Aの縦断面図、図8(b)は装置の使用状態図である。
【図9】図7の装置5に他の改変を加えた例を示し、図9(a)は可搬部6Bの縦断面図、図9(b)は装置の使用状態図である。
【図10】マッサージ装置5(発振器50・50A・50B)において使用する電磁開閉弁54a・54bの開閉タイミングを示す線図である。
【図11】他の形式のマッサージ装置を示す図であり、図11(a)は縦断面図、同(b)は同(a)におけるb−b断面図、同(c)は同(a)におけるc−c矢視図である。
【図12】さらに他の形式のマッサージ装置を示す図であって、図12(a)は縦断面図、同(b)は同(a)におけるb−b断面図、同(c)は同(a)におけるc−c矢視図である。
【図13】図13(a)・(b)のそれぞれは、主噴流の付着壁面を切り換えて振動を発生する手段を例示する、可搬部の縦断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1・5 浴室内マッサージ装置
2・6 可搬部
10・40 ポンプ
20・50 発振器
21 スリット
22e エッジ
51 開口
52 仕切り部材
52a・52b 壁面
52c・52d 分岐経路
53a・53b フィードバック流路
54a・54b 電磁開閉弁
30・60 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水または湯の噴流に振動を与え、その噴流を、向きおよび位置の変更が可能なノズルを通して身体に当てることを特徴とする浴室内マッサージ方法。
【請求項2】
水もしくは湯の噴流をスリットを通してエッジに当てることにより上記の振動を自励的に発生させ、または、水もしくは湯の噴流を傾斜壁で仕切られた複数の分岐経路の各壁面に交互に付着させることにより上記の振動を強制的に発生させることを特徴とする請求項1に記載の浴室内マッサージ方法。
【請求項3】
水または湯の噴流をスリットに通してエッジに当てることにより振動を発生させる場合、噴流の速度またはスリットからエッジまでの距離を変更することにより、周波数が不連続に変わる跳躍現象を起こさせて上記振動の周波数を変更することを特徴とする請求項2に記載の浴室内マッサージ方法。
【請求項4】
水または湯の噴流を、傾斜壁で仕切られた分岐経路の各壁面に交互に付着させることにより振動を与える場合、分岐経路の手前で上記噴流と交差するよう交互に向きを切り換えて副噴流を流し、その切り換えの頻度を変更することによって上記振動の周波数を変更することを特徴とする請求項2に記載の浴室内マッサージ方法。
【請求項5】
水または湯の噴流発生源と、それによって生じた噴流に振動を与える発振器と、発振器を経た噴流を噴出させるノズルとを有し、少なくともノズルはその向きおよび位置の変更が可能であることを特徴とする浴室内マッサージ装置。
【請求項6】
上記の発振器が、噴流を出すスリットの先にエッジを有するものであること、
および、上記の噴流発生源が上記噴流の速度を変更可能であり、または上記の発振器が上記スリットから上記エッジまでの距離を変更可能であること
を特徴とする請求項5に記載の浴室内マッサージ装置。
【請求項7】
上記の発振器が、噴流の経路の先に、コアンダ効果によって複数の経路の壁面の一つに噴流が付着するよう形成された分岐経路を有するものであり、当該分岐経路の手前で上記噴流と交差するよう交互に向きを換えて副噴流を流す副噴流路と、当該副噴流の向きの切り換え頻度を変更するための制御手段とを有すること
を特徴とする請求項5に記載の浴室内マッサージ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−106648(P2009−106648A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283877(P2007−283877)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(598149219)中西電機工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】