説明

海中生物の死滅処理方法、及び、海中生物の死滅処理設備

【課題】 小規模な設備でありながら、海中生物を確実に死滅処理することのできる海中生物の死滅処理方法、及び、海中生物の死滅処理設備を提供することを課題とする。
【解決手段】 流体を流通させる第一流路と第二流路とを備えた熱交換器の第一流路に水源から海水を供給し、第一流路から流出した海水に対し、該海水が第二流路を流通する際に第一流路内の海水の温度を海水中の生物が死滅する死滅温度以上に上昇させ得る熱量を与え、該熱量が与えられた海水を第二流路に供給し、第一流路内の海水と第二流路内の海水との間で熱交換させる死滅処理工程を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のバラストに用いられる又は用いられた海水を温度上昇させることで、該海水中の生物を死滅させる海中生物の死滅処理方法、及び、海中生物の死滅処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶のバラストに用いられる又は用いられた海水には、生物(プランクトン等の微生物やヒトデ等の小動物、或いは細菌など)が混入している。斯かる海水は、船舶と共に異なる海域間を移動し、移動した先の海域で船舶から排出される。この際、海水に混入していた生物(以下、海中生物とも記す)も移動先の海域に排出される。このため、海水の排出先である海域に生息していなかった生物(外来種の生物)が他の海域から侵入する虞がある。このような外来種の生物は、侵入した先の海域で繁殖して生態系を乱す虞がある。
【0003】
このような外来種の生物の問題を解決する方法としては、船舶のバラストとして用いられる又は用いられた海水の温度を上昇させることで、海中生物を死滅させて処理する方法が提案されている。
【0004】
具体的には、所定温度にまで予備加熱された海水を高温維持タンク内に保持し、該高温維持タンク内で海水を所定の温度にまで加熱して所定時間(海中生物が死滅するまで)維持する方法が提案されている。これにより、海中生物は、高温維持タンク内で所定時間かけて死滅処理される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−110276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような方法では、高温維持タンクで海中生物が死滅するまで所定温度で海水を保持する必要があるため、容量の大きな高温維持タンク(貯留設備)が必要となる。このため、海中生物の死滅処理を行う設備(以下、死滅処理設備とも記す)が大規模なものとなり、これに伴い、斯かる死滅処理設備を設置するスペースも大規模になってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、小規模な設備でありながら、海中生物を確実に死滅処理することのできる海中生物の死滅処理方法、及び、海中生物の死滅処理設備を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る海中生物の死滅処理方法は、船舶のバラストに用いられる又は用いられた海水を温度上昇させることで、該海水中の生物を死滅させて処理する海中生物の死滅処理方法であって、流体を流通させる第一流路と第二流路とを備え、該第一流路内の流体と第二流路内の流体との間で熱交換を行う熱交換器の第一流路に水源から海水を供給すると共に、第一流路から流出した海水に対し、該海水が第二流路を流通する際に第一流路内の海水の温度を海水中の生物が死滅する温度以上に上昇させ得る熱量を与え、該熱量が与えられた海水を第二流路に供給し、第一流路内の海水と第二流路内の海水との間で熱交換させる死滅処理工程を備えることを特徴とする。
【0009】
熱交換器における第一流路内の流体と第二流路内の流体との間の熱交換率は、100%ではなく、通常、熱損失が生じる。従って、第一流路から流出した流体を第二流路に直接供給すると、熱損失が経時的に累積し、第一流路内の流体を必要温度にまで連続的に加熱できなくなってしまう。しかしながら、上記方法によれば、第一流路から流出した海水に上記の熱量を与えるため、第二流路を流通する海水との熱交換で損失した熱量が第一流路から流出した海水に対して補填される。そして、熱量の補填された海水が第二流路に供給されることで、第一流路に対して水源から連続的に供給される海水を熱交換によって海中生物が死滅する温度(以下、死滅温度とも記す)以上に温度上昇させる。これにより、熱交換器内で海中生物を連続的に死滅させることができるため、従来のように、海中生物が死滅するまで海水を加熱しつつ貯留するような設備(例えば、高温維持タンクや当該タンク内の海水を加熱するヒーター等)を用いる必要がない。このため、海中生物の死滅処理を行う装置の構成を小規模なものにすることができる。
【0010】
また、第一流路内を連続的に流通する流体と第二流路内を連続的に流通する流体との間で熱交換を行う熱交換器を用いることで、海中生物が死滅処理されるまでの海水の流路に海水が滞留することがない。このため、海中生物が死滅処理されるまでの海水の流路に沈殿物が堆積するのを抑制することができる。これにより、海中生物の死滅処理を停止して海水の流路に堆積した沈殿物を除去する作業を行う頻度を減らすことができる。このため、海中生物の死滅処理を効率的に行うことができる。
【0011】
水源からの海水を熱交換器に供給して第一流路及び第二流路を海水で満たした状態で、水源からの海水の供給を停止し、第一流路から流出する海水に所定の熱量を与えて第二流路に供給すると共に、第二流路から流出する海水を第一流路に供給し、第一流路及び第二流路内の海水を死滅温度以上にする循環工程を更に備え、前記死滅処理工程は、循環工程後に行われることが好ましい。
【0012】
上記方法によれば、第一流路から流出した海水に所定の熱量が与えられて第二流路に供給され、第二流路から流出した海水が再び第一流路に供給される。つまり、熱交換器の第一流路及び第二流路に満たされた海水が一系統内で熱量を与えられつつ循環する。これにより、熱交換器内の海水の温度差が経時的に小さくなる。具体的には、第一流路に供給された海水は、供給された時の温度よりも高い温度で第二流路から流出することになる。このため、循環工程を行って第二流路から流出した海水を第一流路に供給することで、第一流路内の海水と第二流路内の海水との温度差が小さくなる。これにより、第二流路内の海水から第一流路内の海水に移動する熱量が少なくなり、第二流路から流出する海水の温度が経時的に上昇することになる。このため、第一流路内の海水と第二流路内の海水との温度差が経時的に小さくなり、一系統内の海水を上記の熱量を有する温度にまで効率的に上昇させることができる。従って、循環工程後の死滅処理工程において、水源から第一流路に新たに海水が供給された際にも、該海水が死滅温度以上となるように熱交換を行うことができる。
【0013】
前記死滅処理工程を行った後、水源から熱交換器の第一流路への海水の供給を停止し、第二流路から流出する海水を第一流路に供給すると共に、海水の流路を形成する部材を洗浄する洗浄剤を海水の流路内に供給する洗浄工程を更に備えることが好ましい。
【0014】
上記方法によれば、洗浄工程において、洗浄剤が添加された海水が第一流路及び第二流路を含む一系統内で循環する。従って、海水の流路(循環流路)を形成する部材全体(具体的には、配管系や熱交換器内の部材)の洗浄(例えば、付着するスケールなどの除去)が効果的に行われる。
【0015】
海水が流通する流路内に海水の水質を調整する水質調整剤を供給する水質調整工程を更に備えることが好ましい。
【0016】
上記方法によれば、水質調整工程において、海水に水質調整剤を添加することができるため、所望する水質で死滅処理工程、循環工程、又は、洗浄工程を行うことができる。また、各工程を行うことによって海水の水質が変化(悪化)した場合であっても、水質調整剤を海水に添加することで、海水を元の水質に戻した上で排出先へ排出することができる。
【0017】
前記熱交換器は、積層された複数枚の伝熱プレート間に各伝熱プレートを境にして前記第一流路と前記第二流路とが交互に複数形成され、各伝熱プレートに形成された貫通穴が連なって流体を第一流路に流出入させる第一流入路及び第一流出路が形成されると共に、第一流路に供給される流体よりも高温の流体を第二流路に流出入させる第二流入路及び第二流出路が形成されたプレート式熱交換器であることが好ましい。
【0018】
上記方法によれば、プレート式熱交換器を用いて海水の熱交換を行うため、熱交換率が高く、第一流路内の海水を迅速に死滅温度以上にまで温度上昇させることができ、効率的に海中生物の死滅処理を行うことができる。
【0019】
本発明に係る海中生物の死滅処理設備は、船舶のバラストに用いられる又は用いられた海水を温度上昇させることで、該海水中の生物を死滅させる海中生物の死滅処理設備において、それぞれ流通する流体同士の間で熱交換可能に配置された第一流路及び第二流路を備えた熱交換器と、該熱交換器の第一流路の入口と前記海水の水源とを流体的に連結する第一配管系と、熱交換器の第一流路の出口と第二流路の入口とを流体的に連結する第二配管系と、熱交換器の第二流路の出口と海水の排出先とを流体的に連結する第三配管系とを備え、前記第二配管系は、第一流路から流出した海水に対し、該海水が第二流路を流通する際に第一流路内の海水の温度を海水中の生物が死滅する温度以上に上昇させ得る熱量を与える熱量供与部を備えることを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、第一配管系を介して水源からの海水が熱交換器の第一流路に供給される。また、第一流路を流通して第一流路の出口から流出する海水が第二配管系を介して第二流路に供給される。この際、第二配管系の熱量供与部において第一流路から流出した海水に上記の熱量が与えられる。
【0021】
ここで、熱交換器における第一流路内の流体と第二流路内の流体との間の熱交換率は、100%ではなく、通常、熱損失が生じる。従って、第一流路から流出した流体が第二流路に直接供給されると、熱損失が経時的に累積し、第一流路内の流体を必要温度にまで連続的に加熱できなくなってしまう。しかしながら、上記構成によれば、第一流路から流出した海水に上記の熱量が与えられるため、第二流路を流通する海水との熱交換によって損失した熱量が第一流路から流出した海水に対して補填される。そして、熱量の補填された海水が第二流路に供給されることで、第一流路に対して水源から連続的に供給される海水を熱交換によって死滅温度以上に温度上昇させる。これにより、熱交換器内で連続的に海中生物を死滅させることができるため、従来のように、海中生物が死滅するまで海水を加熱しつつ貯留するような設備(例えば、高温維持タンクや当該タンク内の海水を加熱するヒーター等)を用いる必要がない。このため、海中生物の死滅処理を行う設備の構成を小規模なものにすることができる。
【0022】
そして、第二流路の出口から流出した海水が第三配管系を介して排出先に排出される。排出される海水は、上記のような熱交換によって生物が死滅した状態となっているため、海水の排出先である海域やバラストタンクに生きた外来種の生物が侵入するのを防止することができる。
【0023】
第二流路の出口と第一流路の入口とを流体的に連結する第四配管系をさらに備え、第一配管系、第三配管系、及び、第四配管系は、海水の流路を開閉可能に構成されていることが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、第一配管系乃至第四配管系の海水の流路、第一流路、及び、第二流路を水源からの海水で満たした状態で、第一配管系及び第三配管系における海水の流路を閉鎖すると共に、第四配管系における海水の流路を開放することで、第一流路及び第二流路と、第二配管系における海水の流路と、第四配管系における海水の流路とが連なった循環流路が形成される。そして、該循環流路に満たされた海水は、循環流路内で上記の熱量を与えられつつ循環する。これにより、熱交換器内の海水の温度差が経時的に小さくなると共に、斯かる海水の温度を上記の熱量を有する温度にまで効率的に上昇させることができる。具体的には、循環流路を海水が循環することで、第一流路に供給された海水は、第一流路から流出して第二配管系で昇温され、その後、第二流路に流入して第一流路の海水と熱交換を行い、供給されたときの温度よりも高い温度で第二流路から流出して再び第一流路に供給される。これにより、循環流路内の海水の温度が経時的に上昇するため、熱交換器内の海水の温度差が経時的に小さくなると共に、斯かる海水の温度を上記の熱量を有する温度にまで効率的に上昇させることができる。従って、水源から第一流路に新たに海水を供給して上記のように海中生物の死滅処理を開始する際にも、該海水が死滅温度以上となるように熱交換を行うことができる。
【0025】
海水の流路を形成する部材を洗浄する洗浄剤を該流路内に供給する洗浄剤供給手段が第一配管系、第二配管系、又は、第三配管系の少なくとも一つに連結されていることが好ましい。或いは、洗浄剤供給手段が第一配管系、第二配管系、第三配管系、又は、第四配管系の少なくとも一つに連結されていることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、洗浄剤供給手段から各配管系における海水の流路に洗浄剤を供給することで、海水の流路を形成する部材の洗浄(例えば、付着するスケールの除去)を行うことができる。
【0027】
また、海水が流通する流路内に海水の水質を調整する水質調整剤を供給する水質調整剤供給手段が第一配管系、第二配管系、又は、第三配管系の少なくとも一つに連結されていることが好ましい。或いは、水質調整剤供給手段が第一配管系、第二配管系、第三配管系、又は、第四配管系の少なくとも一つに連結されていることが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、水質調整剤供給手段から水質調整剤を海水の流路内に供給することで、海水を所望する水質に調整することができる。これにより、所望する水質で、海中生物の死滅処理を行ったり、海水の流路を形成する部材の洗浄処理を行ったりすることができる。また、各処理を行うことによって海水の水質が変化(悪化)した場合であっても、水質調整剤を海水の流路内に供給することで、海水を元の水質に戻した上で排出先へ排出することができる。
【0029】
前記熱交換器は、積層された複数枚の伝熱プレート間に各伝熱プレートを境にして前記第一流路と前記第二流路とが交互に複数形成され、各伝熱プレートに形成された貫通穴が連なって流体を第一流路に流出入させる第一流入路及び第一流出路が形成されると共に、第一流路に供給される流体よりも高温の流体を第二流路に流出入させる第二流入路及び第二流出路が形成されたプレート式熱交換器であることが好ましい。
【0030】
上記構成によれば、プレート式熱交換器を用いて海水の熱交換を行うため、熱交換効率が高く、第一流路内の海水を迅速に死滅温度以上にまで温度上昇させることができ、効率的に海中生物の死滅処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明によれば、小規模な設備でありながら、海中生物を確実に死滅処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る海中生物の死滅処理方法の流れ、及び、海中生物の死滅処理設備を示すブロック図であって、(a)は、海水導入工程を行う際のブロック図、(b)は、循環工程を行う際のブロック図、(c)は、死滅処理工程を行う際のブロック図。
【図2】本発明の他の実施形態に係る海中生物の死滅処理方法の流れ、及び、海中生物の死滅処理設備を示すブロック図であって、(a)は、洗浄工程を行う際のブロック図、(b)は、水質調整工程を行う際のブロック図。
【図3】本発明の他の実施形態に係る海中生物の死滅処理方法の流れ、及び、海中生物の死滅処理設備を示すブロック図であって、バラストタンク内の海水中の生物の死滅処理を行う際のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図1を参照しながら説明する。
【0034】
本実施形態に係る海中生物の死滅処理方法(以下、死滅処理方法とも記す)、及び、海中生物の死滅処理設備(以下、死滅処理設備とも記す)は、船舶のバラストとして用いられる又は用いられた海水中の生物(以下、海中生物とも記す)を死滅処理する際に用いられるものである。本実施形態の死滅処理方法では、図1に示すように、バラストとして用いられる海水を水源SI(具体的には、海中)から熱交換器Aへ供給して熱交換させることで、海水の温度を上昇させて海中生物を死滅処理させるように構成された死滅処理設備が用いられる。
【0035】
前記死滅処理設備は、それぞれ流通する流体同士の間で熱交換可能に配置された第一流路A1及び第二流路A2を含む熱交換器Aと、該熱交換器Aの第一流路A1の入口A11と前記海水の水源SI(本実施形態では、海中)とを流体的に連結する第一配管系R1と、熱交換器Aの第一流路A1の出口A12と第二流路A2の入口A21とを流体的に連結する第二配管系R2と、熱交換器Aの第二流路A2の出口A22と海水の排出先(バラストタンクT)とを流体的に連結する第三配管系R3とを備え、更に、第二流路A2の出口A22と第一流路A1の入口A11とを流体的に連結する第四配管系R4を備える。
【0036】
熱交換器Aは、第一流路A1内の流体と第二流路A2内の流体との間で、熱交換可能に構成されている。本実施形態では、熱交換器Aとして、第一流路A1及び第二流路A2をそれぞれ複数備えたものが用いられる。具体的には、熱交換器Aとしては、積層された複数枚の伝熱プレートを備え、各伝熱プレート間に各伝熱プレートを境にして第一流路A1と第二流路A2とが交互に複数形成されたプレート式熱交換器を用いることができる。
【0037】
該プレート式熱交換器は、各伝熱プレート間にガスケットが介装されている。該ガスケットは、伝熱プレートの外周に沿うように環状に形成されており、伝熱プレート間に介装されたガスケットと該ガスケットを挟み込む一対の伝熱プレートの対向面とによって画定される空間に第一流路A1、又は、第二流路A2が形成される。また、斯かるプレート式熱交換器は、ガスケットが介装された複数の伝熱プレートが一対の板状のフレーム部材によって厚み方向から挟み込まれた状態で、一対のフレーム部材が締付手段(具体的には、ボルト部材及びナット部材)によって締付けられることで一体的に形成されている。
【0038】
本実施形態のプレート式熱交換器は、各伝熱プレートに貫通穴が形成されており、該貫通穴が連なって流体を第一流路A1に流出入させる第一流入路及び第一流出路が形成されると共に、第一流路A1に供給される流体よりも高温の流体を第二流路A2に流出入させる第二流入路及び第二流出路が形成されている。
【0039】
また、前記プレート式熱交換器は、流体の流れ方向が同一である複数の第一流路A1と、流体の流れ方向が第一流路と逆になる複数の第二流路A2とから構成された熱交換領域を複数備えている。つまり、各熱交換領域は、複数の第一流路A1と複数の第二流路A2とから構成されている。
【0040】
また、前記プレート式熱交換器は、一つの熱交換領域で熱交換された流体が他の熱交換領域で再度熱交換されるよう構成されている。つまり、該プレート式熱交換器は、熱交換を多段的に行うように構成されている。また、該プレート式熱交換器は、隣接する二つの熱交換領域のうち、一方の熱交換領域における流体の流れ方向と、他方の熱交換領域における流体の流れ方向とが逆方向となるように構成されている。つまり、該プレート式熱交換器は、熱交換領域毎に流体が逆方向に向かって流通しつつ熱交換されるように構成されている。
【0041】
例えば、隣接する2つの熱交換領域のうち、一方の熱交換領域においては、第一流路A1内を流体が下方から上方に向かって流れると共に、第二流路A2内を流体が上方から下方に向かって流れることで熱交換が行われ、他方の熱交換領域においては、第一流路A1内を流体が上方から下方に向かって流れると共に、第二流路A2内を流体が下方から上方に向かって流れることで熱交換が行われるように構成されている。そして、各熱交換領域における第一流路A1同士は、流体的に連結されており、第二流路A2同士も流体的に連結されている。このように構成されたプレート式熱交換器は、一つの熱交換領域で熱交換された流体が他の熱交換領域に順次流入することで、熱交換領域毎の第一流路A1内の流体の流れ方向がそれぞれ逆方向となると共に、熱交換領域毎の第二流路A2内の流体の流れ方向がそれぞれ逆方向となる。
【0042】
上記のように構成されたプレート式熱交換器は、一般的に多パス(多段)式熱交換器として知られており、単パス式(熱交換する領域が1つ)の熱交換器よりも小規模でありながら、熱交換を行う流路を長く設定することができ、熱交換率が高いため、効果的に熱交換を行うことが可能となる。
【0043】
前記第一配管系R1は、熱交換器A(具体的には、第一流路A1の入口A11)に連結されて、水源SIからの海水を第一流路A1に供給可能に構成されている。具体的には、第一配管系R1は、水源SIからの海水を熱交換器Aへ流通させる配管L1と、該配管L1内に水源SIから海水を吸引すると共に熱交換器Aへ圧送する第一ポンプP1と、配管L1内を流通する海水Sを濾過するフィルターFと、配管L1内の海水の流路を開閉する第一バルブV1とを備えている。
【0044】
第二配管系R2は、熱交換器A(具体的には、第一流路A1の出口A12と第二流路A2の入口A21)に連結されて、第一流路A1から流出した海水を第二流路A2に供給可能に構成されている。具体的には、第二配管系R2は、第一流路A1から流出した海水を第二流路A2へ流通させる配管L2と、第一流路A1から流出した海水を第二流路A2へ圧送するための第二ポンプP2と、海水の流路内に存在するガス(空気など)を流路外に放出させる第二バルブV2とを備えている。また、本実施形態では、第二ポンプP2は、第一ポンプP1によって圧送されて第一流路A1を流通した海水の圧力損失を補い、海水を第二流路A2及び第三配管系R3に流通させてバラストタンクTへ圧送するように構成されている。
【0045】
また、第二配管系R2では、第一流路A1から流出した海水に対して、所定の熱量が与えられる。具体的には、第二配管系R2は、第一流路A1から流出した海水に所定の熱量を与える熱量供与部R21を備えている。該熱量供与部R21で第一流路A1から流出した海水に対して与えられる熱量としては、第一流路A1から流出した海水が第二流路を流通する際に第一流路A1内の海水の温度を海中生物が死滅する温度(以下、死滅温度とも記す)以上に上昇させ得る熱量(以下、交換熱量とも記す)である。熱量供与部R21では、配管L2内の海水が加熱されることによって前記交換熱量を有する。本実施形態では、熱量供与部R21は、高温の水蒸気を配管L2内に供給可能に構成されており、該水蒸気と海水とが接触することで、海水が前記交換熱量を有するように加熱される。
【0046】
前記第三配管系R3は、熱交換器A(具体的には、第二流路A2の出口A22)に連結されると共に、バラストタンクTに連結されている。そして、第三配管系R3は、第二流路A2から流出した海水をバラストタンクTに供給可能に構成されている。具体的には、第三配管系R3は、第二流路A2から流出した海水をバラストタンクTへ流通させる配管L3と、該配管L3内の海水の流路を開閉する第三バルブV3とを備えている。また、本実施形態では、第一ポンプP1及び第二ポンプP2の作用によって第二流路A2から流出した海水が配管L3内をバラストタンクTへ向かって圧送される。
【0047】
前記第四配管系R4は、第一配管系R1(具体的には、配管L1)と第三配管系R3(具体的には、配管L3)とに連結されて、第二流路A2から流出した海水を第一流路A1へ供給可能に構成されている。具体的には、第四配管系R4は、第二流路A2から流出した海水を第三配管系R3から第一配管系R1へ流通させる配管L4と、配管L4内の海水の流路を開閉する第四バルブV4とを備えている。また、第四配管系R4は、第一配管系R1及び第三配管系R3における配管L1,L3の第一バルブV1及び第三バルブV3よりも熱交換器A側に連結されている。これにより、第一バルブV1及び第三バルブV3を閉じて第一配管系R1及び第三配管系R3の海水の流路を閉鎖した際に、第一流路A1の入口A11から第二流路A2の出口A22までの海水の流路(第一流路A1及び第二流路A2と第二配管系R2の海水の流路)と、第二流路A2の出口A22から第一流路A1の入口A11までの海水の流路(第四配管系R4の海水の流路)とが連なった循環流路が形成される。
【0048】
本実施形態の死滅処理方法では、上記のような構成の死滅処理設備を用いて、海中生物の死滅処理が行われる。具体的には、該死滅処理方法は、熱交換器A内に水源SIからの海水を導入する海水導入工程と、第一流路A1から流出する海水に所定の熱量を与えて第二流路A2に供給すると共に、第二流路A2から流出する海水を第一流路A1に供給する循環工程と、熱交換器A内での熱交換によって水源SIから供給される海水を温度上昇させて海中生物の死滅処理を行う死滅処理工程とを備えるものである。
【0049】
<海水導入工程>
まず始めに、図1(a)に示すように、第一バルブV1、第二バルブV2、第四バルブV4を開いて第一配管系R1、第二配管系R2、第四配管系R4の海水の流路を開放すると共に、第三バルブV3を閉じて第三配管系R3の海水の流路を閉鎖する。そして、第一配管系R1を通じて熱交換器A側に海水を供給し、第四配管系R4よりも熱交換器A側の海水の流路及び第四配管系R4の海水の流路を海水で満す。この際、第二バルブV2が開放されていることで、各流路内に存在していたガス(空気など)が流路外へ放出される。
【0050】
そして、図1(b)に示すように、第四配管系R4よりも熱交換器A側の海水の流路及び第四配管系R4の海水の流路が海水で満された状態で、第一バルブV1及び第二バルブV2を閉じる。これにより、第一流路A1の入口A11から第二流路A2の出口A22までの海水の流路(第一流路A1及び第二流路A2と第二配管系R2の海水の流路)と、第二流路A2の出口A22から第一流路A1の入口A11までの海水の流路(第四配管系R4の海水の流路)とが連なった循環流路が形成され、該循環流路が海水で満された状態になる。
【0051】
<循環工程>
次に、第二ポンプP2を駆動させて循環流路内で海水を循環させる。この際、第一流路A1から流出した海水が第二配管系R2の熱量供与部R21を通過する(本実施形態では、水蒸気と接触する)ことで、第一流路A1から流出した海水に対して、該海水が第二流路A2を流通した際に、熱交換によって第一流路A1内の海水を死滅温度以上に温度上昇させるような熱量(交換熱量)が与えられる。
【0052】
上記のように、循環流路に海水を循環させつつ加熱すること(循環工程を行うこと)で、循環流路内における海水の温度差が経時的に小さくなる。具体的には、循環工程を行うことで、循環流路内の全体の海水の温度が所定の温度(上記の熱量を有する温度)にまで効率的に上昇する。循環工程を行うことによる循環流路内の海水の温度としては、熱交換器A内に新たに流入する海水を死滅温度以上に温度上昇させ得る熱量(交換熱量)を有する温度(即ち、死滅温度を超える温度)であり、具体的には、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。
【0053】
また、循環工程を行うことで、循環流路内の海水のみが加熱されるため、循環流路全体の海水が前記交換熱量を有する温度(即ち、死滅温度を超える温度)にまで迅速に上昇する。これにより、後の死滅処理工程で新たに第一流路A1に海水が供給された際にも、新たに供給された海水を熱交換によって死滅温度以上に温度上昇させることができる。つまり、循環工程を行うことで、死滅処理工程を行うことが可能な状態に熱交換器A内の海水が予備加熱される。
【0054】
<死滅処理工程>
上記の循環工程を行った後、図1(c)に示すように、第一バルブV1及び第三バルブV3を開いて第一配管系R1及び第三配管系R3の海水の流路を開放し、第四バルブV4を閉じて第四配管系R4の海水の流路を閉鎖する。そして、水源SIから第一配管系R1を介して新たな海水を熱交換器A内(具体的には、第一流路A1)に供給する。
【0055】
第一流路A1に供給された新たな海水は、第一流路A1の入口A11から出口A12に向かって第一流路A1を流通する。第一流路A1内の海水は、第二流路A2内の海水との熱交換によって死滅温度以上に温度上昇すると共に、第二流路A2内の海水の温度を低下させる。第一流路A1に供給された新たな海水が第一流路A1内で死滅温度以上に温度上昇することで、第一流路A1の出口A12では、海水に混入していた海中生物が死滅した状態となる。第一流路A1における熱交換後の海水の温度としては、第一流路A1の出口A12において90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。
【0056】
そして、第一流路A1から流出した海水が熱量供与部R21を通過することで、斯かる海水に対して上記の熱量(交換熱量)が与えられる。具体的には、第一流路A1から流出した海水が熱量供与部R21を通過することで、前記交換熱量を有する温度(所定の死滅温度を超える温度)にまで加熱される。言い換えれば、熱量供与部R21では、第二流路A2内を流通する海水との熱交換によって損失した熱量が第一流路A1から流出した海水に対して補われる。また、第一流路A1から流出した海水は、第二配管系R2を流通することで前記交換熱量を有するように(死滅温度を超える温度となるように)制御される。例えば、第一流路A1の入口A11又は出口A12での海水の温度を測定し、測定結果に基づいて熱量供与部R21で海水に加える熱量を調整し(具体的には、水蒸気の温度やその供給量を調整し)、第一流路A1から流出した海水が第二流路A2に供給される前に前記交換熱量を有する温度となるように制御されることが好ましい。第二配管系R2を流通した海水の温度としては、90℃を超える温度であることが好ましく、100℃を超える温度であることがより好ましい。
【0057】
そして、第一流路A1から流出して上記の熱量(交換熱量)が与えられた海水は、熱交換器Aの第二流路A2に供給される。そして、前記交換熱量が与えられて第二流路A2に供給された海水は、第二流路A2の入口A21から出口A22に向かって第二流路A2を流通する。第二流路A2内を流通する海水は、第一流路A1内を流通する海水との熱交換によって、第一流路A1内の海水を死滅温度以上(好ましくは、90℃以上、より好ましくは、100℃以上)に温度上昇させると共に、自身の温度が低下する。第二流路A2内を流通する海水は、熱交換によって第二流路A2の出口A22で、40℃以下となることが好ましく、35℃以下となることがより好ましい。
【0058】
第二流路A2から流出した海水は、第三配管系R3に供給される。そして、第三配管系R3を流通した海水は、バラストタンクTに排出され、バラストとして利用される。このようにしてバラストタンクTに排出された海水は、上述のように熱交換器A(具体的には、第一流路A1)で死滅温度以上に温度上昇されているため、海中生物が死滅した状態となっており、船舶と共に異なる海域間を移動し、移動先の海域で放流されたとしても、移動先の海域に生きた外来種の生物が排出されることがない。
【0059】
以上のように、本発明に係る海中生物の死滅処理方法、及び、海中生物の死滅処理設備によれば、小規模な設備でありながら、海中生物を確実に死滅処理することができる。
【0060】
即ち、熱交換器Aにおける第一流路A1内の流体と第二流路A2内の流体との間の熱交換率は、100%ではなく、通常、熱損失が生じる。従って、第一流路A1から流出した流体を第二流路A2に直接供給すると、熱損失が経時的に累積し、第一流路A1内の流体を必要温度にまで連続的に加熱できなくなってしまう。しかしながら、上記方法によれば、第一流路A1から流出した海水に上記の熱量を与えるため、第二流路A2を流通する海水との熱交換で損失した熱量が第一流路A1から流出した海水に対して補填される。そして、熱量の補填された海水が第二流路A2に供給されることで、第一流路A1に対して水源SIから連続的に供給される海水を熱交換によって死滅温度以上に温度上昇させる。これにより、熱交換器A内で海中生物を連続的に死滅させることができため、従来のように、海中生物が死滅するまで海水を加熱しつつ貯留するような設備(例えば、高温維持タンクや当該タンク内の海水を加熱するヒーター等)を用いる必要がない。このため、海中生物の死滅処理を行う装置の構成を小規模なものにすることができる。また、熱交換による温度上昇によって海中生物を死滅させることができるため、海中生物を死滅させる薬品を用いる必要がない。このため、海中生物の死滅処理を行うことによる水質の変化を抑制することができる。
【0061】
また、第一流路A1内を連続的に流通する流体と第二流路A2内を連続的に流通する流体との間で熱交換を行う熱交換器Aを用いることで、海中生物が死滅処理されるまでの海水の流路に海水が滞留することがない。このため、海中生物が死滅処理されるまでの海水の流路に沈殿物が堆積するのを抑制することができる。これにより、海中生物の死滅処理を停止して海水の流路に堆積した沈殿物を除去する作業を行う頻度を減らすことができる。これにより、海中生物の死滅処理を効率的に行うことができる。
【0062】
また、循環工程を備えることで、第一流路A1から流出した海水に所定の熱量が与えられて第二流路A2に供給され、第二流路A2から流出した海水が再び第一流路A1に供給される。つまり、熱交換器Aの第一流路A1及び第二流路A2に満たされた海水が一系統内で熱量を与えられつつ循環する。これにより、熱交換器A内の海水の温度差が経時的に小さくなる。具体的には、第一流路A1に供給された海水は、供給された時の温度よりも高い温度で第二流路A2から流出することになる。このため、循環工程を行って第二流路A2から流出した海水を第一流路A1に供給することで、第一流路A1内の海水と第二流路A2内の海水との温度差が小さくなる。これにより、第二流路A2内の海水から第一流路A1内の海水に移動する熱量が少なくなり、第二流路A2から流出する海水の温度が経時的に上昇することになる。このため、第一流路A1内の海水と第二流路A2内の海水との温度差が経時的に小さくなり、一系統内の海水の温度を上記の熱量を有する温度にまで効率的に上昇させることができる。従って、循環工程後の死滅処理工程において、水源SIから第一流路A1に新たに海水が供給された際にも、該海水が死滅温度以上となるように熱交換を行うことができる。
【0063】
熱交換器Aとしてプレート式熱交換器を用いることで、熱交換率が高く、第一流路A1内の海水を迅速に死滅温度以上にまで温度上昇させることができ、効率的に海中生物の死滅処理を行うことができる。
【0064】
なお、本発明に係る海中生物の死滅処理方法、及び、海中生物の死滅処理設備は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0065】
例えば、上記実施形態における死滅処理方法において、前記死滅処理工程を行った後、海水の流路を形成する部材を洗浄する洗浄工程を更に備えてもよい。該洗浄工程は、海水の流路を形成する部材を洗浄する洗浄剤を海水に添加することによって行われる。また、海水の水質を調整する水質調整剤を海水に添加する水質調整工程を更に備えてもよい。このような洗浄工程及び水質調整工程を行う場合には、図2(a)に示すように、海水の流路内に洗浄剤を供給する洗浄剤供給手段Bと、海水の流路内に水質調整剤を供給する水質調整剤供給手段Cとを備えた死滅処理設備を用いることができる。
【0066】
該死滅処理設備は、第一配管系R1と第四配管系R4との連結位置よりも熱交換器A側の位置に洗浄剤供給手段Bを備えている。本実施形態では、洗浄剤供給手段Bは、配管B1を介して第一配管系R1に連結されている。該配管B1は、洗浄剤が流通する流路を第五バルブV5によって開閉可能に構成されている。また、該死滅処理設備は、第三配管系R3と第四配管系R4との連結位置よりも熱交換器A側の位置に水質調整剤供給手段Cを備えている。本実施形態では、水質調整剤供給手段Cは、配管C1を介して第三配管系R3に連結されている。該配管C1は、水質調整剤が流通する流路を第六バルブV6によって開閉可能に構成されている。なお、洗浄剤供給手段B及び水質調整剤供給手段Cは、第一配管系R1、第二配管系R2、第三配管系R3、又は、第四配管系R4の少なくとも一つに連結されるように構成されてもよい。
【0067】
上記のように洗浄剤供給手段B及び水質調整剤供給手段Cを備えた死滅処理設備を用いることで、以下のようにして洗浄工程及び水質調整工程が行われる。具体的には、死滅処理工程を行った後、まず始めに、図2(a)に示すように、第一バルブV1及び第三V3を閉じて第一配管系R1及び第三配管系R3の海水の流路を閉鎖した状態にすると共に、第四バルブV4を開いて第四配管系R4の海水の流路を開放した状態にする。これにより、循環流路を形成して海水を循環させる。
【0068】
そして、第五バルブV5を開いて配管B1における洗浄剤の流路を開放し、洗浄剤供給手段Bから循環流路に洗浄剤を供給することで、海水に洗浄剤を添加する。この際、第二バルブV2を一時的に開いて洗浄剤の供給量に相当する量の海水を循環流路から排出する。上記のようにして洗浄剤が供給されることで、洗浄剤が添加された海水が循環流路を循環する。このため、海水の流路(循環流路)を形成する部材全体(具体的には、各配管系や熱交換器内の部材)の洗浄(例えば、付着するスケールなどの除去)を効果的に行うことができる。このような洗浄工程は、CIP洗浄といわれるものである。
【0069】
次に、上記のように洗浄工程を行った後、図2(b)に示すように、第一バルブV1及び第三バルブV3を開いて第一配管系R1及び第三配管系R3の海水の流路を開放し、第四バルブV4を閉じて第四配管系R4の海水の流路を閉鎖する。そして、水源SIから第一配管系R1を介して新たな海水を熱交換器A内(具体的には、第一流路A1)に供給する。
【0070】
加えて、第五バルブV5を閉じて配管B1における洗浄剤の流路を閉鎖すると共に、第六バルブV6を開いて配管C1における水質調整剤の流路を開放し、第三配管系R3の海水の流路に水質調整剤供給手段Cから水質調整剤を供給する。これにより、第二流路A2から流出する海水に水質調整剤が添加されて水質調整工程が行われる。水質調整工程を行うことで、所望する水質の海水をバラストタンクTに排出することができる。例えば、死滅処理工程等を行うことで、海水の水質が変化(悪化)した場合(pH等が変化した場合)には、水質調整工程を行うことで、海水を元の水質に戻した上でバラストタンクTへ排出することができる。
【0071】
なお、洗浄工程又は水質調整工程は、何れか一方のみが行われるようにしてもよい。斯かる場合には、洗浄剤供給手段B又は水質調整剤供給手段Cの何れか一方のみを備えた死滅処理設備を用いることができる。また、水質調整工程は、上記のような循環流路を形成した状態で行っても良い。循環流路を形成した状態で水質調整工程を行うことで、循環流路内の海水全体を所望する水質に調整した上で、第三配管系R3を介して排出することができる。このため、海水の排出先であるバラストタンクTに所望する水質の海水を確実に供給することができる。
【0072】
また、上記では、循環流路を形成した状態で、洗浄材供給手段Bから洗浄剤が海水の流路に供給されているが、これに限定されるものではなく、循環流路を形成せずに洗浄材供給手段Bから海水の流路に洗浄剤を添加してもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、海中を水源SIとし、海中からの海水を熱交換器Aで熱交換させて死滅温度以上に温度上昇させているが、これに限定されるものではなく、バラストとして用いられる又は用いられた海水を提供可能な水源であればよい。例えば、図3に示すように、バラストタンクTを水源SIIとし、バラストタンクT内(水源SII)の海水を熱交換器Aで熱交換させて海中生物の死滅処理を行った後、該海水をバラストタンクTへ返送するようにしてもよい。この場合、第一配管系R1’は、バラストタンクT(水源SII)と熱交換器A(具体的には、第一流路A1の入口A11)とを流体的に連結している。また、該第一配管系R1’は、上記実施形態の配管L1と、第一バルブV1と、第一ポンプP1とから構成されている。
【0074】
バラストタンクT内(水源SII)の海水は、バラストタンクTに連結された第五配管系R5を介して海中(水源SI)からバラストタンクT内に供給される。第五配管系R5は、海中(水源SI)からの海水をバラストタンクTへ流通させる配管L5と、該配管L5内に海中(水源SI)から海水を吸引すると共にバラストタンクTへ海水を圧送する第三ポンプP3と、配管L5を流通する海水を濾過するフィルターFとを備えている。
【0075】
そして、バラストタンクT内(水源SII)の海水に対して、上述したような海水導入工程、循環工程、及び、死滅処理工程を行うことで、バラストとして用いられた海水が熱交換器A(具体的には、第一流路A1)で死滅温度以上に温度上昇される。このため、バラストタンクTへ返送される海水は、海中生物が死滅した状態となっている。これにより、バラストタンクT内の海水中に存在する生きた生物の量を経時的に減少させることができる。言い換えれば、バラストタンクT内の海水中の生きた生物の濃度を希釈することができる。
【0076】
また、上述のように、バラストタンクT内(水源SII)の海中生物を死滅処理する場合には、死滅処理工程において第二流路A2から流出する海水を元のバラストタンクTへ返送せずに、死滅処理後の海水のみを貯留する他のバラストタンクへ供給したり、海中に排出したりしてもよい。
【0077】
このように、バラストとして用いられた海水(バラスト水)中の生物の死滅処理を、従来のように、海水の貯留設備を用いることなく行うことができるため、死滅処理設備を小規模なものにすることができる。このため、船舶内に死滅処理設備を設置することが容易になり、航行中にバラスト水中の生物の死滅処理を行い易くなる。
【0078】
また、上記実施形態では、第二配管系R2を流通する海水が熱量供与部R21で水蒸気と接触することで加熱されるが、これに限定されるものではなく、第二配管系R2を形成する配管L2がヒーター等の加熱手段で加熱されることで、間接的に第二配管系R2内の海水が加熱されてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、第一流路A1で熱交換された海水が熱交換器Aから流出して第二配管系R2へ供給され、該第二配管系R2から熱交換器Aへ海水が再度供給されているが、これに限定されるものではなく、第一流路A1から流出した海水が熱交換器A内で第二流路A2に供給されるようにしてもよい。
【0080】
また、上記実施形態の循環工程では、第二流路A2を流通した海水が熱交換器Aから流出して第三配管系R3に供給され、その後、第四配管系R4に供給されているが、これに限定されるものではなく、第二流路A2から流出した海水が熱交換器A内で第一流路A1へ供給されるようにしてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、死滅処理工程に先立ち、海水導入工程及び循環工程を行っているが、これに限定されるものではなく、水源SI,SIIからの海水を熱量供与部R21で上記の熱量(交換熱量)を有する温度にまで海水を加熱することが可能な場合には、循環工程を行うことなく、海水導入工程と死滅処理工程とを連続して行ってもよい。例えば、水源SIからの海水の供給量を少なくすることで、熱量供与部R21を通過する海水量を低減し、熱量供与部R21において海水が加熱され易くなり、前記交換熱量を有する温度にまで海水を加熱し易くなる。これにより、第一バルブV1及び第三バルブV3を開いた状態にすると共に、第二バルブV2及び第四バルブV4を閉じた状態にし、水源SIから熱交換器Aに海水を導入する海水導入工程を行うと共に、該海水導入工程に連続して死滅処理工程を行うことができる。
【符号の説明】
【0082】
A…熱交換器、A1…第一流路、A2…第二流路、F…フィルター、P1…第一ポンプ、P2…第二ポンプ、R1…第一配管系、R2…第二配管系、R21…熱量供与部、R3…第三配管系、R4…第四配管系、SI,SII…水源、T…バラストタンク、V1…第一バルブ、V2…第二バルブ、V3…第三バルブ、V4…第四バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶のバラストに用いられる又は用いられた海水を温度上昇させることで、該海水中の生物を死滅させて処理する海中生物の死滅処理方法であって、
流体を流通させる第一流路と第二流路とを備え、該第一流路内の流体と第二流路内の流体との間で熱交換を行う熱交換器の第一流路に水源から海水を供給すると共に、第一流路から流出した海水に対し、該海水が第二流路を流通する際に第一流路内の海水の温度を海水中の生物が死滅する温度以上に上昇させ得る熱量を与え、該熱量が与えられた海水を第二流路に供給し、第一流路内の海水と第二流路内の海水との間で熱交換させる死滅処理工程を備えることを特徴とする海中生物の死滅処理方法。
【請求項2】
水源からの海水を熱交換器に供給して第一流路及び第二流路を海水で満たした状態で、水源からの海水の供給を停止し、第一流路から流出する海水に所定の熱量を与えて第二流路に供給すると共に、第二流路から流出する海水を第一流路に供給し、第一流路及び第二流路内の海水を死滅温度以上にする循環工程を更に備え、前記死滅処理工程は、循環工程後に行われることを特徴とする請求項1に記載の海中生物の死滅処理方法。
【請求項3】
前記死滅処理工程を行った後、水源から熱交換器の第一流路への海水の供給を停止し、第二流路から流出する海水を第一流路に供給すると共に、海水の流路を形成する部材を洗浄する洗浄剤を海水の流路内に供給する洗浄工程を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の海中生物の死滅処理方法。
【請求項4】
海水が流通する流路内に海水の水質を調整する水質調整剤を供給する水質調整工程を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の海中生物の死滅処理方法。
【請求項5】
前記熱交換器は、積層された複数枚の伝熱プレート間に各伝熱プレートを境にして前記第一流路と前記第二流路とが交互に複数形成され、各伝熱プレートに形成された貫通穴が連なって流体を第一流路に流出入させる第一流入路及び第一流出路が形成されると共に、第一流路に供給される流体よりも高温の流体を第二流路に流出入させる第二流入路及び第二流出路が形成されたプレート式熱交換器であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の海中生物の死滅処理方法。
【請求項6】
船舶のバラストに用いられる又は用いられた海水を温度上昇させることで、該海水中の生物を死滅させる海中生物の死滅処理設備において、
それぞれ流通する流体同士の間で熱交換可能に配置された第一流路及び第二流路を備えた熱交換器と、該熱交換器の第一流路の入口と前記海水の水源とを流体的に連結する第一配管系と、熱交換器の第一流路の出口と第二流路の入口とを流体的に連結する第二配管系と、熱交換器の第二流路の出口と海水の排出先とを流体的に連結する第三配管系とを備え、前記第二配管系は、第一流路から流出した海水に対し、該海水が第二流路を流通する際に第一流路内の海水の温度を海水中の生物が死滅する温度以上に上昇させ得る熱量を与える熱量供与部を備えることを特徴とする海中生物の死滅処理設備。
【請求項7】
第二流路の出口と第一流路の入口とを流体的に連結する第四配管系をさらに備え、第一配管系、第三配管系、及び、第四配管系は、海水の流路を開閉可能に構成されていることを特徴とする請求項6に記載の海中生物の死滅処理設備。
【請求項8】
海水の流路を形成する部材を洗浄する洗浄剤を該流路内に供給する洗浄剤供給手段が第一配管系、第二配管系、又は、第三配管系の少なくとも一つに連結されていることを特徴とする請求項6に記載の海中生物の死滅処理設備。
【請求項9】
海水の流路を形成する部材を洗浄する洗浄剤を該流路内に供給する洗浄剤供給手段が第一配管系、第二配管系、第三配管系、又は、第四配管系の少なくとも一つに連結されていることを特徴とする請求項7に記載の海中生物の死滅処理設備。
【請求項10】
海水が流通する流路内に海水の水質を調整する水質調整剤を供給する水質調整剤供給手段が第一配管系、第二配管系、又は、第三配管系の少なくとも一つに連結されていることを特徴とする請求項6又は8に記載の海中生物の死滅処理設備。
【請求項11】
海水が流通する流路内に海水の水質を調整する水質調整剤を供給する水質調整剤供給手段が第一配管系、第二配管系、第三配管系、又は、第四配管系の少なくとも一つに連結されていることを特徴とする請求項7又は9に記載の海中生物の死滅処理設備。
【請求項12】
前記熱交換器は、積層された複数枚の伝熱プレート間に各伝熱プレートを境にして前記第一流路と前記第二流路とが交互に複数形成され、各伝熱プレートに形成された貫通穴が連なって流体を第一流路に流出入させる第一流入路及び第一流出路が形成されると共に、第一流路に供給される流体よりも高温の流体を第二流路に流出入させる第二流入路及び第二流出路が形成されたプレート式熱交換器であることを特徴とする請求項6乃至11の何れか一項に記載の海中生物の死滅処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−111516(P2013−111516A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259109(P2011−259109)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000152480)株式会社日阪製作所 (60)
【Fターム(参考)】