海底地盤の波浪に対する安定性を測定する方法
【課題】
海底地盤の包括的な対波浪安定性を測定することは、海洋建築物の津波等による被害を軽減することにつながる。しかし、従来技術のほとんどが、理論的なものであり、実用的な海底地盤の安定性測定方法ではないという問題を抱えていた。また、
実用的な測定方法であっても、測定に必要な地盤の性質の調査が難しいことから汎用的に使える技術ではなかった。
【解決手段】
本発明は、容易に測定できる海底地盤内の間隙水圧を用いて、その測定した間隙水圧の卓越成分を用いて海底地盤の対波浪応答パラメータとなる水理圧密定数を計算し、計算された水理圧密定数と測定した間隙水圧の卓越成分から一次元間隙水圧係数を導出し、一次元間隙水圧係数より海底地盤の不安定化深さを算定し、波浪時の海底地盤内の安定性を予測することを特徴とする方法である。
海底地盤の包括的な対波浪安定性を測定することは、海洋建築物の津波等による被害を軽減することにつながる。しかし、従来技術のほとんどが、理論的なものであり、実用的な海底地盤の安定性測定方法ではないという問題を抱えていた。また、
実用的な測定方法であっても、測定に必要な地盤の性質の調査が難しいことから汎用的に使える技術ではなかった。
【解決手段】
本発明は、容易に測定できる海底地盤内の間隙水圧を用いて、その測定した間隙水圧の卓越成分を用いて海底地盤の対波浪応答パラメータとなる水理圧密定数を計算し、計算された水理圧密定数と測定した間隙水圧の卓越成分から一次元間隙水圧係数を導出し、一次元間隙水圧係数より海底地盤の不安定化深さを算定し、波浪時の海底地盤内の安定性を予測することを特徴とする方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は沖合・沿岸構造物における海底基礎地盤の波浪に対する安定性を調査する方法で、これは土木工学、海岸工学分野、基礎地盤工学に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
台風などによる荒天時に沿岸・海洋域において防波堤や護岸などの種々の構造物が被害を受けることがある。波浪によって生じる過大な水圧が構造物に作用し、これが構造物の損傷・破壊させる直接的な原因となっている。図1には典型的なコンクリート製のケーソンを本体とする重力式防波堤の典型的な断面を示す。波浪による水圧の変動は防波堤の外洋側に直接作用するため、その合力を主要な変動外力として安定性を評価する段階で適切に考慮する必要がある。一般のこの形式の防波堤では、この波浪による衝撃力を低減するために、防波堤の外洋側にコンクリート製の消波ブロックを積み上げて配置している。
【0003】
この構造物に直接作用する変動水圧は構造物の不安定化においては最も重要な要素であるが、同時に変動水圧は構造物のみならず海底地盤にも作用する。これにより海底地盤が不安定化し、構造物(防波堤ケーソン)に対する地盤の基礎としての耐力が低下して構造物の機能が著しく損なわれる事例も少なくないことが非特許文献1に記載してある。
【0004】
海岸工学分野では海水の流速に応じて海底の地盤材料が浮遊あるいは移動することに着目した「海底地盤の洗掘現象」として防波堤の被災のメカニズムを検討するのが普通である。しかし、これまでに明らかになっている被災例においては、波浪による海底地盤の不安定化が明らかに海底面下数メートル程度にまで及んでいる例も見られることから、地盤工学的見地から海底地盤について深さを有する三次元連続体として扱い、海底地盤表面における水圧変動のへの地盤の応答を評価する必要があることが非特許文献2などによって示された。それ以降、地盤工学的な検討が活発に行われて、この分野における研究成果が蓄積されてきている。このことを力学的な面からとらえると、構造物−地盤−波浪が形成する複合的な力学系を固体−多孔質体−流体が形成する複合的なシステムとしてとらえ、力学的性質が本質的に異なる三者間の相互作用を適切に評価する必要があるということを意味している。構造物−地盤(固体−多孔質体)の相互作用は、陸上においては地下水の影響を考慮した従来の地盤工学分野において検討され、構造物に対する地盤の支持力問題として研究の蓄積がある。
【0005】
これに対して、地盤−波浪(多孔質体−流体)の相互作用は比較的新しい問題であり、この相互作用を考慮したメカニズムによって沿岸・海洋構造物の不安定化現象が明らかにされつつあり、解析手法についても研究が進められている。
【0006】
海底地盤と波浪の相互作用は力学的には多孔質体と流体の相互作用であり、海底地盤の多孔質体としてのモデル化および定式化が必要である。多孔質体のモデル化と定式化に関わる力学的な研究は非特許文献3によって始められた。その後、海底地盤を連続体として固体と流体の二相系材料としてモデル化して波浪との相互作用に適用することで、海底地盤の挙動をある程度計算できることが明らかになってきている(非特許文献4―6)。
【0007】
発明者らは非特許文献7で海底地盤と波浪の相互作用の解析における海底地盤の定式化、解析次元、動的・静的解析条件の最適化について検討した。その結果、波浪のような比較的周期の長い作用に対しては固体、流体ともに加速度の影響が無視できるほど小さいので、地盤をu−p モデルで定式化し、擬似動的な解析を行えば充分な精度で相互作用を考慮した挙動の解析が可能であることを示した。また、対象とする海底地盤の深度が波長に比べて十分に小さい場合には、地表面近くの数メートルの範囲では一次元解析で十分な精度の応答が得られることを示した。さらに、三浦らの研究を通じて明らかなったことは、地盤と海洋との相互作用における地盤物性の重要性である。数式解と数値解の比較検討から、種々の地盤物性の鋭敏性について検証し、その中でも特に地盤の飽和度と透水性は地盤内の応力変動に及ぼす影響が大きいことが明らかになった。
【0008】
これに関して非特許文献8では、弾性波探査のひとつの発展形として、弾性波の周波数依存性に着目した地盤物性の調査法を提案している。
【非特許文献1】Oka、 F.、 Yashima、 A.、 Miura、 K.、 Ohmaki、 S. and Kamata. A. (1995): Settlement of Breakwater on Submarine Soil Due to Wave−Induced Liquefaction、 5th International Symposium on Offshore and Polar Engineeing Conference、 Vol.2、 pp.237−242.
【非特許文献2】Yamamoto、T. (1977):Wave Induced Instability in Seabed、 Proc. Coastal Sediments、 ASCE、 pp.898−913.
【非特許文献3】Biot、 M. A. (1941): General Theory of Three−Dimentional Consolidation、” Journal of Applied Physics、 Vol.12、 pp.155−164.
【非特許文献4】Putnam、 J. A. (1949): Loss of Wave Energy due to Percolation in a Permeable Sea Bottom、 American Geophysical Union、 Vol.30、 No. 3、 pp.349−356.
【非特許文献5】Madsen、 O. S. (1978): Wave Induced Pore Pressures and Effective Stresses in a Porous Bed、 Geotechnique、 Vol.28、 No.4、 pp.377−393.
【非特許文献6】Yamamoto、 T. Koning、 H. S. H. L. K. and Van Hijum、 E. (1978): Wave Induced Instability in Seabed、 Proc. Coastal Sediments、 ASCE、 pp.898−913.
【非特許文献7】三浦均也、浅原信吾、大塚夏彦、上野勝利(2004): 波浪に対する海底地盤応答の連成解析のための地盤の定式化、 第49回地盤工学シンポジウム、pp.233−240
【非特許文献8】Miura, K.、 Yoshida、 N. and Kim、 Y. S.(2001):Frequency Dependent Property of Waves in Saturated Soil 、 SOILS AND FOUNDATIONS、Vol.41、No.2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1は実際の被災事例を調査したものである。これは特定の被災事例に特定の解析手法を適用したのみであり、海底地盤の包括的な対波浪安定性の評価方法には言及していない。
【0010】
また、地盤−波浪(多孔質体−流体)の相互作用を考慮する方法である非特許文献2−8までの従来技術は、あくまで理論的なものであり、実用的な海底地盤の安定性測定方法ではない。
【0011】
例えば、非特許文献2−6をより詳細に検討したものである非特許文献7においては、地盤の飽和度や透水性を明らかにする必要がある。しかし、それらを室内試験や原位置試験によって測定することは非常に難しいのが現状である。たとえば、透水係数や飽和度を保持した状態での土の不撹乱試料を得ることは今後もかなり難しいであろうし、原位置の海底地盤においてこれらの性質を直接測定する技術にも限界があるのが現状である。
【0012】
また、非特許文献8においては、しかしこの調査法はかなり高周波な領域での調査になるため、現在の測定技術では実施するのは困難である。また、この地盤の物性を調査することの困難さからも、沿岸・港湾構造物の設計に際して基礎地盤の波浪に対する安定性は充分に研究されず、経験的にしか検討されてこなかった。
【0013】
そこで、本発明では、測定が容易な地盤内の間隙水圧をパラメータとして用いることで、実用的に海底地盤の安定性を計測できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の課題を解決するため、本発明者は鋭意検討を重ねた結果、次の発明を完成させるに至った。
【0015】
第一の発明は、海底地盤内の間隙水圧を測定し、測定した間隙水圧の卓越成分を用いて海底地盤の対波浪応答パラメータとなる水理圧密定数を計算し、計算された水理圧密定数と測定した間隙水圧の卓越成分から一次元間隙水圧係数を導出し、一次元間隙水圧係数より海底地盤の不安定化深さを算定し、波浪時の海底地盤内の安定性を予測することを特徴とする方法。
【0016】
第二の発明は、海底地盤内の間隙水圧は、地盤内の三点で測定されたものを用いることを特徴とする第一の発明に記載の方法である。
【発明の効果】
【0017】
これまでに推定するのが困難であった海底地盤の対波浪パラメータを推定することにより、これまで検討されてこなかった港湾・沿岸構造物の海底基礎地盤の対波浪安定性を簡便に推定することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
土粒子とその間隙を満たす流体の状態を表すためにはテンソル表記が用いられる。固体相の変位増分、応力増分、ひずみ増分はそれぞれΔusi、 Δσsij、 Δεsij、また、流体相の変位増分、応力増分、ひずみ増分はそれぞれΔufi、 Δσfij、 Δεfij、と表される。添え字s、f はそれぞれ固体相、流体相を表している。土骨格によって伝わる応力σsij は有効応力と呼ばれる。一方で流体相の応力は、間隙流体においてせん断抵抗が無い場合、
【0019】
【数1】
である。ここで、Δp は間隙水圧増分、δij はKronecker のデルタを表している。
【0020】
固体層の構成則は線形弾性理論から以下のように表される。
【0021】
【数2】
【0022】
さらに、変位勾配
【0023】
【数3】
により変位と応力の関係は以下のようになる。
【0024】
【数4】
【0025】
ここで、Gs はせん断定数、λ s はLame の定数であり、剛性テンソルDijkl は以下のようである。
【0026】
【数5】
【0027】
また、流体相の構成則は次のように表される。
【0028】
【数6】
【0029】
ここで、Kf は体積圧縮係数を表していて、この式は流体の体積ひずみ増分Δεfii と間隙水圧増分Δpが比例関係にあることを表している。間隙流体が気体と間隙水によって構成されている場合、気体相と液体相を間隙流体の飽和度によって平均化した流体相として表すことが出来る。
【0030】
【数7】
【0031】
間隙水の変化は体積変化をもたらすが、それは次式によって表される。
【0032】
【数8】
【0033】
ここで、n は間隙率、Ks は土粒子の体積圧縮係数である。Skempton によるとKs >>Kf であるので、
(1−n)/ Ks の項は無視できる。ここで、Bf は流体の平均体積圧縮係数である。
【0034】
【数9】
【0035】
また、Δξは単位体積、単位時間当たりの浸透量(間隙水の増加量)である。新しく出てきたベクトル変数Δwi は固体層と液体層の見かけの相対変位を表す。ここで、ベクトル変数Δwi は多孔性体を通過する単位面積あたりの浸透流の量に等しく、ダルシーの流れに当てはまる。Δwi は以下のように与えられる。
【0036】
【数10】
【0037】
固体相と流体相、全体における平衡条件は以下のように導き出される。
【0038】
【数11】
【0039】
ここで、Δbi は単位物体力ベクトルで、物体に重力が作用するとき{0、0、g}となる。ρ
s、ρfはそれぞれ土粒子、間隙流体の密度を表している。数4を用いて整理すると、
【0040】
【数12】
【0041】
また、 ρt は全密度を表す。
【0042】
【数13】
【0043】
流体相の平衡条件はダルシーの法則から以下のように表される。
【0044】
【数14】
【0045】
ここでh は水頭、kij はDarcy の透水性をテンソル表記したもので、rij はkij の逆数のテンソルを表している。通常、等方性材料では透水性テンソルは方向に依存しない一定値を持つ対角テンソルとして表される。
【0046】
【数15】
ここで、k は通常用いられているダルシーの透水係数である。
加速度の項を考慮すると、数11は以下のように修正される。
【0047】
【数16】
【0048】
支配方程式は連立変微分方程式で定式化され、以下に示す4 つのタイプの支配方程式を動的、擬似動的、静的において検討している。動的解析では固体相と流体相の加速度の項をすべて考慮するが、擬似動的解析では加速度の項を無視し、静的解析では固体相の変位と流体相の速度の項のみを考慮する。
動的解析(dynamic):すべて考慮
擬似動的解析(quasi−dynamic): Δus = Δw = 0
静的解析(static): Δus= Δus= Δw = 0
まず最も厳密な定式化は数8、数12、数16から以下のように表現される。ここで、簡易のためΔus≡Δu としている。
【0049】
【数17】
[u−w−p] formulation(完全相互作用モデル)
【0050】
この定式化は扱う問題によって、適切な仮定を考慮し、しばしば簡略化される。次の定式化[u−p]formulation は、流体相の相対加速度を無視する。すなわち、流体相の加速度が固体相のそれと同等に取り扱われる。
【0051】
【数18】
[u−p] formulation;Δw = 0 (不完全相互作用モデル)
【0052】
誘導過程で流体相の相対速度は排除され、支配方程式は3次元条件においては4つの偏微分方程式から構成される。この定式化は定式化が簡易で、地震中では流体相の相対加速度が極めて小さいことから、地震中の振動解析に通常使われているものである。ここで、
【0053】
【数19】
【0054】
高い周波数領域の粘土地盤や対象とする時間が短い問題で、間隙水の影響を無視すると、支配方程式から浸透流を無視することが出来、非排水条件が仮定される。このケースでの定式化を[u]formulation として、流体の相対速度を相対加速度と同様に無視する。
【0055】
【数20】
[u] formulation;Δw = Δw = 0 (弾性−非排水モデル)
【0056】
[u−w−p] formulation の3番目の偏微分方程式においてΔp とΔu の関係を求め、1番目の偏微分方程式からΔp を消去した。支配方程式は3次元条件下においては3変数を含み、3つの偏微分方程式で構成される。
【0057】
【数21】
【0058】
間隙水圧と間隙水のみを考慮し固体相の変位を解析から取り除くと、定式化は簡略化され固体相を剛体であるとみなすことが出来る。この[w−p] formulation と名づけた定式化は粗い砂や礫のような高い透水性の材料に効果的である。
【0059】
【数22】
[w−p] formulation;Δu= Δu = Δu= 0 (剛体−浸透流モデル)
【0060】
[u−w−p]formulation の2番目と3番目の偏微分方程式においてΔu をゼロとすることによって誘導した。支配方程式は3次元条件下においては4変数を含み、4つの偏微分方程式で構成される。
以上、定式化と解析条件をまとめると図15として表される。
【0061】
本発明で取り上げる海底地盤は物性の異なるいくつかの相が水平方向に堆積しているものである。ここでは、海底地盤表面、層と層、層と岩盤、無限深さの4つの境界条件をそれぞれ一次元、二次元条件に関して示す。
図1、図2にはこの研究で取り上げる境界条件を図示している。図1においての波形は、波浪の複素関数における実数部を位相角θ(ωt+κx)によって表している。
【0062】
海底面には波浪のみが作用しているので、海底面 (z=0)における境界条件は次のように表される。
【0063】
【数23】
一次元 :
【0064】
【数24】
二次元 :
p0:海底面の変動水圧振幅(Δp0=ρwgH/cosh(κh))
ρw:海水の密度
h:水深
ω:角振動数(=2π/T)
κ:波数(=2π/L)
H:波高
【0065】
堆積層と堆積層の境界については、2つの層の境界では、水圧、応力、固体相の変位、動水勾配の連続性が保たれなければならない。
【0066】
【数25】
一次元 :
二次元 :
【0067】
【数26】
【0068】
以下、堆積層と岩盤の境界について述べる。層と、剛で不透水性の岩盤との境界においては、鉛直方向の透水が許されない、つまり鉛直方向の動水勾配がゼロにならなければならない。また、固体相の変位も許されない。
【0069】
【数27】
一次元 :
【0070】
【数28】
二次元 :
【0071】
無限深さ(z=∞)については、以下の通りである。海底面下の無限深さに置いて、固体相の変位と水圧はゼロにならなければならない。
【0072】
【数29】
一次元 :
【0073】
【数30】
二次元 :
【0074】
ここでは厳密解の誘導の一例として、擬似動的条件における[u−p] formulation の一次元応答に対する解を導く。擬似動的解析では、支配方程式は式(17)から加速度の項を無視したもので表される。なお、ここでは物体力ベクトル増分i Δb は考慮していない。
【0075】
【数31】
【0076】
【数32】
【0077】
これらの連立微分方程式は線形であるので、解の基本形は、
【0078】
【数33】
【0079】
式(32)を支配方程式(31)に代入し、マトリクス表示すると以下のように表される。
【0080】
【数34】
【0081】
右辺が0であるので、この連立方程式が有意な解を持つには変数が互いに従属していなければならない。この従属性は左辺のマトリクスの行列値がゼロになることを意味している。
【0082】
【数35】
【0083】
この解は以下に示す可能性がある。
【0084】
【数36】
【0085】
【数37】
【0086】
ここで、cv はTerzaghi の一次元の圧密理論における圧密定数に相当する。解の可能性から、一般解を次のように書き表す。
【0087】
【数38】
【0088】
【数39】
【0089】
【数40】
【0090】
この解には8(4x2)個の未知定数が含まれていることがわかる。式(37)を支配方程式に代入すると、未知定数に以下に示す4個の相関関係が見つかる。
【0091】
【数41】
【0092】
独立した4つの未定定数は境界条件により決定される。ここでは例として境界条件数23と数27により、有限深さで不透水性の岩盤が存在する地盤に対する解を求める(図3)。数23と数27により式が4(2x2)本で、未知数が4個であるから解が必ず求まる。これらの四元連立方程式を解くと、未知定数が以下のように決定される。
【0093】
【数42】
【0094】
ここで、Dは海底地盤の岩盤までの深さである。
【0095】
波浪荷重による海底地盤の応答は、緩い砂、正規圧密粘土そして礫の3種類に対して計算した。
設定した土の物質的、力学的な特性は図15に取りまとめた。波浪については波高H=10m、周期T=13sec、水深h=20m、波長L=167.6m、海底面での水圧変動振幅po=37.9kN/m2 とした。鉛直方向の境界として、地表面では水圧のみが作用(B.C.1)しているとして、解析領域の下端では不透水性の岩盤(B.C.3)を想定している。
標準的なケースとして、鉛直有効応力と地表面に作用した波浪の振幅で正規化した過剰間隙水圧の深さ方向分布を、緩い砂、正規圧密粘土、礫に対して、[u−p] formulation、擬似動的条件、二次元の下で厳密解により計算した(図4、図5)。ここでは、海底地盤表面に波浪が作用したとき、地盤内の鉛直有効応力の鉛直方向分布を、8つの位相角に対応してあらわしている。図4では海底地盤表面の水圧が急激に下がる過程において鉛直応力が低下して土が不安定化していることが分かる。特に緩い砂の応答では鉛直有効応力が深さ4m弱までの範囲で、位相角の進行に伴って繰り返し負になり液状化状態に至ることを示唆している。応答には透水性の影響も大きいが、透水性については中間的な緩い砂で鉛直有効応力の変動が大きくなっている。その理由は、飽和度が低いために小さな値となっている間隙水圧係数B’値の影響である。海底地盤の飽和度は99%以上になることが通常ではあるが、空気の体積圧縮係数は水の体積圧縮係数よりもはるかに小さいために結果的に0.1%の飽和度の違いが間隙水圧の応答に与える影響は大きい。特に緩い砂地盤では他の地盤と比較して飽和度が小さいために水圧の深さ方向の減衰が大きく、地盤内で動水勾配が発達していることがわかる(図5)。図6では緩い砂地盤に対して、地表面z = 0m と深さz =1m における過剰間隙水圧の変相角に対応した変動を示している。圧力の減衰や、伝播の位相差が見られ、結果的に位相が3/4π〜πを中心に地盤内で上向き浸透流が発生し、地盤が不安定化している。一方で、正規圧密粘土では地表面近くで大きく変動しているが、それ以深では非排水状態の挙動を示している。礫ではその高い透水性のため地表面に作用した圧力が地盤内において減衰しにくいため、動水勾配が発達せず、地盤内の鉛直有効応力はほとんど変動していない。
【0096】
海底地盤の応答の問題では加速度の影響が小さいため、この問題では加速度を無視した[u−p] formulation、擬似動的解析で十分再現でき、また十分長い波長に対する応答では一次元応答で十分再現できることが既往の研究により示されている。ここでは、[u−p] formulation、擬似動的解析条件において、一次元、有限深さの地盤の境界条件を与えて解いた式について検討する。圧力の応答の式は数39、数41、数42から以下のようである。
【0097】
【数43】
【0098】
ここで、
【0099】
【数44】
【0100】
Skempton のB値に対応する一次元変形における間隙水圧係数B’は間隙水の圧縮性(飽和度)に強く依存している。また、hv を「水理圧密定数(圧密係数Cv を間隙水の圧縮性を考慮して修正した値の逆数)」と呼ぶことにする。このhv は地盤の物性のみによって決定されるもので、波浪を受ける海底地盤内の応力、圧力変動の大きさを左右する係数である。これらの係数を数39に代入すると、
【0101】
【数45】
数45における項e−2ζD を無視すると、層の厚さDが無限の場合に相当する以下の式が得られる(近似(1);海底地盤の不安定化が問題になる代表的な砂の場合hv は通常1から5程度で(図15参照)、この近似は層厚Dが2m以上であれば誤差は数パーセント以下と考えられる)。
【0102】
【数46】
【0103】
海底地盤表面に作用した水圧変動は減衰しながら深さ方向へ伝播するので、等間隔dp の深さ3点における間隙水圧の変動は次のようになる(図7)。
【0104】
【数47】
【0105】
近接する2点での間隙水圧の差分は、
【0106】
【数48】
【0107】
絶対値を取ることによって得られる振幅は、
【0108】
【数49】
【0109】
したがって、二つの振幅からhv を以下のように算定できる。
【0110】
【数50】
【0111】
間隙水圧の数式46において深さ方向に生じる位相差(ζの虚数部)を無視すると、振幅は以下のように得られる(近似(2);条件によってはかなりの程度の誤差を生じる可能があり、後で検証する。)。
【0112】
【数51】
【0113】
よって、隣接するに点に関してそれぞれB’が算定でき、その平均値を用いることにする。この計算方法はd0 の測定誤差を排除するためである。
【0114】
【数52】
【0115】
海底地盤内における深さが異なる3点における間隙水圧の測定は、予め間隙水圧計を取り付けたロッドを海底地盤に挿入することによって可能であろうし、実際には波の不規則性を排除するために、測定値のスペクトル解析によって卓越周期を求め、その卓越成分に対してここで説明したパラメータの算定法を適用することになる。
【0116】
海底地盤の不安定化の判定方法として、ここでは繰り返して生じる液状化現象に着目した「計算上海底地盤内の鉛直有効応力が負になる」こと条件としている。先に説明した厳密解に基づき地盤内の鉛直有効応力を以下のように算定する。
【0117】
【数53】
【0118】
この振幅は、
【0119】
【数54】
【0120】
この振幅が地盤の静水圧状態での鉛直有効応力( ( ) ) zo t f Δσ = ρ -ρ gz を上回ると地盤内の有効応力が一時的に負になり液状化状態に至ることになる。
【0121】
【数55】
【0122】
したがって、この極限の深さ(液状化深さ)zl について解くことにより、地盤の液状化深さを求めることができる。
【0123】
【数56】
【0124】
ここで、
【0125】
【数57】
【0126】
このポテンシャル高さに相当するHp は海底面に作用する水圧や地盤材料の密度および間隙水圧係数B’から決まる値である。数56から、液状化深さzl と水理圧密定数hv の関係をHp をパラメータとして得たのが図8である。この図を用いることによって「3ゲージ法」による地盤内の物理定数の測定法と併せて、測定値から推定したパラメータから海底地盤の波浪に対する安定性を評価することができる。図9は海底地盤の対波浪安定性評価のための一連の手順を表したフローチャートを表している。
【実施例】
【0127】
一連の海底地盤におけるパラメータの推定方法および液状化範囲推定方法では数46、数51において2つの近似を行った。以下、一連の土におけるパラメータの推定方法および液状化範囲推定方法に関する海底地盤の挙動が波浪や地盤のパラメータによってどのように影響を受けるか検討する。
【0128】
近似(1);数46で無視した成分による誤差で、以下の項に依存する。
【0129】
【数58】
【0130】
近似(2);図10は代表的な条件の下で計算した間隙水圧の深さ方向の分布を8つの位相で表している。また図中の青い線は数51から計算した近似包絡線(数59)で、緑の線は数45の振幅(数60)を示した包絡線を表している。
【0131】
【数59】
【0132】
【数60】
【0133】
ここで、
【0134】
【数61】
【0135】
であるため、数51で計算した青い線の近似包絡線は、常に数45で計算した緑の線の包絡線の外側に存在する。したがって近似曲線によって算定されたB値は実際のB値をほとんどの場合で過小評価し、結果として数56、数57から推定される液状化深さを過大評価ことが予想される。これらの近似の妥当性を検証するために、ここでは以下の手順により計算で入力したB値:B’、水理圧密定数:hv および厳密解による液状化深さ:zl と、パラメータ推定法により得られたそれらを比較した。
【0136】
(1) 厳密解により、深さが異なる3点における過剰間隙水圧の時刻暦を計算する。
(2) 時刻歴の振幅や時刻歴の差分の振幅から一次元間隙水圧係数B’と水理圧密定数hv を算定する。
(3) 図2に示す関係から液状化深さを算定し、厳密解から得られる液状化深さと比較する。
図11〜14には海底面に作用する波浪による圧力:p0、波浪の周期:T、海底地盤のB値:B’、透水係数:kを変化させたときの液状化深さの比較を示している。これらの図では海底地盤の不透水層までの深さ:Dを4m、5m、6m、100mと変化させているが、このDによるばらつきは近似(1)によるばらつきと解釈でき、Dを十分大きくしたとき(D=100m)に残留している誤差は近似(2)による誤差と解釈できる。標準的な条件は緩い砂として基本となる波の性質は海底面に作用する波浪による圧力:p0=40(kN)、波浪の周期:T=8(s)としている。またパラメータの推定では3点の深さにおける間隙水圧の応答が必要になるが、この検討では深さ0.5m、1.0m、1.5mを対象としている。
【0137】
図11には海底面に作用する波浪の圧力をp0=2.0(kN)、p0=3.0(kN)、p0=4.0(kN)と変化させたときのB値:B’、水理圧密定数:hv および厳密解による液状化深さ:zl と、パラメータ推定法により得られたそれらを比較して示している。海底地盤の不透水層までの深さDを変化させたときのばらつきは小さいため、この条件では近似(1)による誤差は無視できるほど小さいと考えられる。
【0138】
また、近似(2)はhv の推定には影響を及ぼさないため、推定したhv は入力した値に極めて近い値を示している。B値の推定ではp0 によって変化はなく推定したB値は0.26と過小評価しており、結果として液状化深さは0.5〜0.7(m)程度過大評価している。
【0139】
図12には海底面に作用する波浪の周期をT=3.0(s)、T=8.0(s)、T=13.0(s)と変化させたときのB値:B’、水理圧密定数:hv および厳密解による液状化深さ:zl を比較して示している。波浪の周期Tが大きくなり、海底地盤の不透水層までの深さDが小さい場合は推定値のばらつきもわずかに大きくなっているように見えるが、無視できる程度の変動である。また近似(2)の波浪の周期による変動は小さく液状化深さは0.6〜0.7(m)程度過大評価している。
【0140】
図13には海底地盤のB値をB’=0.4、B’=0.5、B’=0.6と変化させたときのB値:B’、水理圧密定数:hv および厳密解による液状化深さ:zl を比較して示している。ここでもDの変化によるばらつきは軽微であり、液状化深さはほぼ一様に0.6m〜0.7m程度過大評価している。
【0141】
図14には海底地盤の透水係数をk=1.0*10−5(m/s)、k=1.0*10−4(m/s)、k=1.0*10−3(m/s)と変化させたときのB値:B’、水理圧密定数:hv および厳密解による液状化深さ:zl を比較して示している。k=1.0*10−5(m/s)やk=1.0*10−4(m/s)の場合ではDの変化による推定値のばらつきはほとんど見られないが、k=1.0*10−3(m/s)のような比較的透水性の良い地盤の場合では推定値にばらつきが見られる。このような透水性の高い地盤の場合では海底地盤の不透水層までの深さが小さい場合において、液状化深さの推定値が厳密な計算結果を下回る可能性がある。透水性の高い地盤で地表面近くに不透水層がある場合を除いて、液状化深さの推定値と厳密な計算結果は大きくは離れておらず、推定値は厳密な計算結果を上回っている。
【0142】
現在では透水係数や飽和度を保持した状態での土の不撹乱試料を得ることは難しく、原位置の海底地盤においてこれらを測定する技術にも限界があるのが現状である。また、この地盤の物性の調査の困難さからも、沿岸・港湾構造物の設計に際して基礎地盤の波浪に対する安定性は検討されていない。これに対して提案する「3ゲージ法による地盤の物理定数の調査方法」は、海底地盤内の3点で間隙水圧変動を測定するだけで、「水理液状化定数」はじめ海底地盤の安定性に影響を与える地盤の物性を簡易に測定することができる。また、この方法は特に海底地盤の応力変動が大きい緩い砂地盤に有効であるので、「液状化深さの推定方法」と併せて、沿岸および沖合における構造物の基礎地盤の対波浪安定性の検証への活用が大いに期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は沖合・沿岸構造物の設計に関して、基礎地盤の波浪に対する安定性の検討に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】解析条件
【図2】成層地盤に対する境界条件
【図3】境界条件
【図4】鉛直有効応力の深さ方向の変動
【図5】正規化した過剰間隙水圧の深さ方向の変動
【図6】間隙水圧変動の減衰と鉛直有効応力の変動
【図7】間隙水圧の測定
【図8】海底地盤の液状化深さの推定
【図9】海底地盤の対波浪安定性評価フローチャート
【図10】間隙水圧変動の近似曲線
【図11】波浪の圧力の検討
【図12】波浪の周期の検討
【図13】B値の検討
【図14】透水係数の検討
【図15】解析で用いた代表的な土質の物理的・力学的性質
【技術分野】
【0001】
本発明は沖合・沿岸構造物における海底基礎地盤の波浪に対する安定性を調査する方法で、これは土木工学、海岸工学分野、基礎地盤工学に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
台風などによる荒天時に沿岸・海洋域において防波堤や護岸などの種々の構造物が被害を受けることがある。波浪によって生じる過大な水圧が構造物に作用し、これが構造物の損傷・破壊させる直接的な原因となっている。図1には典型的なコンクリート製のケーソンを本体とする重力式防波堤の典型的な断面を示す。波浪による水圧の変動は防波堤の外洋側に直接作用するため、その合力を主要な変動外力として安定性を評価する段階で適切に考慮する必要がある。一般のこの形式の防波堤では、この波浪による衝撃力を低減するために、防波堤の外洋側にコンクリート製の消波ブロックを積み上げて配置している。
【0003】
この構造物に直接作用する変動水圧は構造物の不安定化においては最も重要な要素であるが、同時に変動水圧は構造物のみならず海底地盤にも作用する。これにより海底地盤が不安定化し、構造物(防波堤ケーソン)に対する地盤の基礎としての耐力が低下して構造物の機能が著しく損なわれる事例も少なくないことが非特許文献1に記載してある。
【0004】
海岸工学分野では海水の流速に応じて海底の地盤材料が浮遊あるいは移動することに着目した「海底地盤の洗掘現象」として防波堤の被災のメカニズムを検討するのが普通である。しかし、これまでに明らかになっている被災例においては、波浪による海底地盤の不安定化が明らかに海底面下数メートル程度にまで及んでいる例も見られることから、地盤工学的見地から海底地盤について深さを有する三次元連続体として扱い、海底地盤表面における水圧変動のへの地盤の応答を評価する必要があることが非特許文献2などによって示された。それ以降、地盤工学的な検討が活発に行われて、この分野における研究成果が蓄積されてきている。このことを力学的な面からとらえると、構造物−地盤−波浪が形成する複合的な力学系を固体−多孔質体−流体が形成する複合的なシステムとしてとらえ、力学的性質が本質的に異なる三者間の相互作用を適切に評価する必要があるということを意味している。構造物−地盤(固体−多孔質体)の相互作用は、陸上においては地下水の影響を考慮した従来の地盤工学分野において検討され、構造物に対する地盤の支持力問題として研究の蓄積がある。
【0005】
これに対して、地盤−波浪(多孔質体−流体)の相互作用は比較的新しい問題であり、この相互作用を考慮したメカニズムによって沿岸・海洋構造物の不安定化現象が明らかにされつつあり、解析手法についても研究が進められている。
【0006】
海底地盤と波浪の相互作用は力学的には多孔質体と流体の相互作用であり、海底地盤の多孔質体としてのモデル化および定式化が必要である。多孔質体のモデル化と定式化に関わる力学的な研究は非特許文献3によって始められた。その後、海底地盤を連続体として固体と流体の二相系材料としてモデル化して波浪との相互作用に適用することで、海底地盤の挙動をある程度計算できることが明らかになってきている(非特許文献4―6)。
【0007】
発明者らは非特許文献7で海底地盤と波浪の相互作用の解析における海底地盤の定式化、解析次元、動的・静的解析条件の最適化について検討した。その結果、波浪のような比較的周期の長い作用に対しては固体、流体ともに加速度の影響が無視できるほど小さいので、地盤をu−p モデルで定式化し、擬似動的な解析を行えば充分な精度で相互作用を考慮した挙動の解析が可能であることを示した。また、対象とする海底地盤の深度が波長に比べて十分に小さい場合には、地表面近くの数メートルの範囲では一次元解析で十分な精度の応答が得られることを示した。さらに、三浦らの研究を通じて明らかなったことは、地盤と海洋との相互作用における地盤物性の重要性である。数式解と数値解の比較検討から、種々の地盤物性の鋭敏性について検証し、その中でも特に地盤の飽和度と透水性は地盤内の応力変動に及ぼす影響が大きいことが明らかになった。
【0008】
これに関して非特許文献8では、弾性波探査のひとつの発展形として、弾性波の周波数依存性に着目した地盤物性の調査法を提案している。
【非特許文献1】Oka、 F.、 Yashima、 A.、 Miura、 K.、 Ohmaki、 S. and Kamata. A. (1995): Settlement of Breakwater on Submarine Soil Due to Wave−Induced Liquefaction、 5th International Symposium on Offshore and Polar Engineeing Conference、 Vol.2、 pp.237−242.
【非特許文献2】Yamamoto、T. (1977):Wave Induced Instability in Seabed、 Proc. Coastal Sediments、 ASCE、 pp.898−913.
【非特許文献3】Biot、 M. A. (1941): General Theory of Three−Dimentional Consolidation、” Journal of Applied Physics、 Vol.12、 pp.155−164.
【非特許文献4】Putnam、 J. A. (1949): Loss of Wave Energy due to Percolation in a Permeable Sea Bottom、 American Geophysical Union、 Vol.30、 No. 3、 pp.349−356.
【非特許文献5】Madsen、 O. S. (1978): Wave Induced Pore Pressures and Effective Stresses in a Porous Bed、 Geotechnique、 Vol.28、 No.4、 pp.377−393.
【非特許文献6】Yamamoto、 T. Koning、 H. S. H. L. K. and Van Hijum、 E. (1978): Wave Induced Instability in Seabed、 Proc. Coastal Sediments、 ASCE、 pp.898−913.
【非特許文献7】三浦均也、浅原信吾、大塚夏彦、上野勝利(2004): 波浪に対する海底地盤応答の連成解析のための地盤の定式化、 第49回地盤工学シンポジウム、pp.233−240
【非特許文献8】Miura, K.、 Yoshida、 N. and Kim、 Y. S.(2001):Frequency Dependent Property of Waves in Saturated Soil 、 SOILS AND FOUNDATIONS、Vol.41、No.2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1は実際の被災事例を調査したものである。これは特定の被災事例に特定の解析手法を適用したのみであり、海底地盤の包括的な対波浪安定性の評価方法には言及していない。
【0010】
また、地盤−波浪(多孔質体−流体)の相互作用を考慮する方法である非特許文献2−8までの従来技術は、あくまで理論的なものであり、実用的な海底地盤の安定性測定方法ではない。
【0011】
例えば、非特許文献2−6をより詳細に検討したものである非特許文献7においては、地盤の飽和度や透水性を明らかにする必要がある。しかし、それらを室内試験や原位置試験によって測定することは非常に難しいのが現状である。たとえば、透水係数や飽和度を保持した状態での土の不撹乱試料を得ることは今後もかなり難しいであろうし、原位置の海底地盤においてこれらの性質を直接測定する技術にも限界があるのが現状である。
【0012】
また、非特許文献8においては、しかしこの調査法はかなり高周波な領域での調査になるため、現在の測定技術では実施するのは困難である。また、この地盤の物性を調査することの困難さからも、沿岸・港湾構造物の設計に際して基礎地盤の波浪に対する安定性は充分に研究されず、経験的にしか検討されてこなかった。
【0013】
そこで、本発明では、測定が容易な地盤内の間隙水圧をパラメータとして用いることで、実用的に海底地盤の安定性を計測できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の課題を解決するため、本発明者は鋭意検討を重ねた結果、次の発明を完成させるに至った。
【0015】
第一の発明は、海底地盤内の間隙水圧を測定し、測定した間隙水圧の卓越成分を用いて海底地盤の対波浪応答パラメータとなる水理圧密定数を計算し、計算された水理圧密定数と測定した間隙水圧の卓越成分から一次元間隙水圧係数を導出し、一次元間隙水圧係数より海底地盤の不安定化深さを算定し、波浪時の海底地盤内の安定性を予測することを特徴とする方法。
【0016】
第二の発明は、海底地盤内の間隙水圧は、地盤内の三点で測定されたものを用いることを特徴とする第一の発明に記載の方法である。
【発明の効果】
【0017】
これまでに推定するのが困難であった海底地盤の対波浪パラメータを推定することにより、これまで検討されてこなかった港湾・沿岸構造物の海底基礎地盤の対波浪安定性を簡便に推定することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
土粒子とその間隙を満たす流体の状態を表すためにはテンソル表記が用いられる。固体相の変位増分、応力増分、ひずみ増分はそれぞれΔusi、 Δσsij、 Δεsij、また、流体相の変位増分、応力増分、ひずみ増分はそれぞれΔufi、 Δσfij、 Δεfij、と表される。添え字s、f はそれぞれ固体相、流体相を表している。土骨格によって伝わる応力σsij は有効応力と呼ばれる。一方で流体相の応力は、間隙流体においてせん断抵抗が無い場合、
【0019】
【数1】
である。ここで、Δp は間隙水圧増分、δij はKronecker のデルタを表している。
【0020】
固体層の構成則は線形弾性理論から以下のように表される。
【0021】
【数2】
【0022】
さらに、変位勾配
【0023】
【数3】
により変位と応力の関係は以下のようになる。
【0024】
【数4】
【0025】
ここで、Gs はせん断定数、λ s はLame の定数であり、剛性テンソルDijkl は以下のようである。
【0026】
【数5】
【0027】
また、流体相の構成則は次のように表される。
【0028】
【数6】
【0029】
ここで、Kf は体積圧縮係数を表していて、この式は流体の体積ひずみ増分Δεfii と間隙水圧増分Δpが比例関係にあることを表している。間隙流体が気体と間隙水によって構成されている場合、気体相と液体相を間隙流体の飽和度によって平均化した流体相として表すことが出来る。
【0030】
【数7】
【0031】
間隙水の変化は体積変化をもたらすが、それは次式によって表される。
【0032】
【数8】
【0033】
ここで、n は間隙率、Ks は土粒子の体積圧縮係数である。Skempton によるとKs >>Kf であるので、
(1−n)/ Ks の項は無視できる。ここで、Bf は流体の平均体積圧縮係数である。
【0034】
【数9】
【0035】
また、Δξは単位体積、単位時間当たりの浸透量(間隙水の増加量)である。新しく出てきたベクトル変数Δwi は固体層と液体層の見かけの相対変位を表す。ここで、ベクトル変数Δwi は多孔性体を通過する単位面積あたりの浸透流の量に等しく、ダルシーの流れに当てはまる。Δwi は以下のように与えられる。
【0036】
【数10】
【0037】
固体相と流体相、全体における平衡条件は以下のように導き出される。
【0038】
【数11】
【0039】
ここで、Δbi は単位物体力ベクトルで、物体に重力が作用するとき{0、0、g}となる。ρ
s、ρfはそれぞれ土粒子、間隙流体の密度を表している。数4を用いて整理すると、
【0040】
【数12】
【0041】
また、 ρt は全密度を表す。
【0042】
【数13】
【0043】
流体相の平衡条件はダルシーの法則から以下のように表される。
【0044】
【数14】
【0045】
ここでh は水頭、kij はDarcy の透水性をテンソル表記したもので、rij はkij の逆数のテンソルを表している。通常、等方性材料では透水性テンソルは方向に依存しない一定値を持つ対角テンソルとして表される。
【0046】
【数15】
ここで、k は通常用いられているダルシーの透水係数である。
加速度の項を考慮すると、数11は以下のように修正される。
【0047】
【数16】
【0048】
支配方程式は連立変微分方程式で定式化され、以下に示す4 つのタイプの支配方程式を動的、擬似動的、静的において検討している。動的解析では固体相と流体相の加速度の項をすべて考慮するが、擬似動的解析では加速度の項を無視し、静的解析では固体相の変位と流体相の速度の項のみを考慮する。
動的解析(dynamic):すべて考慮
擬似動的解析(quasi−dynamic): Δus = Δw = 0
静的解析(static): Δus= Δus= Δw = 0
まず最も厳密な定式化は数8、数12、数16から以下のように表現される。ここで、簡易のためΔus≡Δu としている。
【0049】
【数17】
[u−w−p] formulation(完全相互作用モデル)
【0050】
この定式化は扱う問題によって、適切な仮定を考慮し、しばしば簡略化される。次の定式化[u−p]formulation は、流体相の相対加速度を無視する。すなわち、流体相の加速度が固体相のそれと同等に取り扱われる。
【0051】
【数18】
[u−p] formulation;Δw = 0 (不完全相互作用モデル)
【0052】
誘導過程で流体相の相対速度は排除され、支配方程式は3次元条件においては4つの偏微分方程式から構成される。この定式化は定式化が簡易で、地震中では流体相の相対加速度が極めて小さいことから、地震中の振動解析に通常使われているものである。ここで、
【0053】
【数19】
【0054】
高い周波数領域の粘土地盤や対象とする時間が短い問題で、間隙水の影響を無視すると、支配方程式から浸透流を無視することが出来、非排水条件が仮定される。このケースでの定式化を[u]formulation として、流体の相対速度を相対加速度と同様に無視する。
【0055】
【数20】
[u] formulation;Δw = Δw = 0 (弾性−非排水モデル)
【0056】
[u−w−p] formulation の3番目の偏微分方程式においてΔp とΔu の関係を求め、1番目の偏微分方程式からΔp を消去した。支配方程式は3次元条件下においては3変数を含み、3つの偏微分方程式で構成される。
【0057】
【数21】
【0058】
間隙水圧と間隙水のみを考慮し固体相の変位を解析から取り除くと、定式化は簡略化され固体相を剛体であるとみなすことが出来る。この[w−p] formulation と名づけた定式化は粗い砂や礫のような高い透水性の材料に効果的である。
【0059】
【数22】
[w−p] formulation;Δu= Δu = Δu= 0 (剛体−浸透流モデル)
【0060】
[u−w−p]formulation の2番目と3番目の偏微分方程式においてΔu をゼロとすることによって誘導した。支配方程式は3次元条件下においては4変数を含み、4つの偏微分方程式で構成される。
以上、定式化と解析条件をまとめると図15として表される。
【0061】
本発明で取り上げる海底地盤は物性の異なるいくつかの相が水平方向に堆積しているものである。ここでは、海底地盤表面、層と層、層と岩盤、無限深さの4つの境界条件をそれぞれ一次元、二次元条件に関して示す。
図1、図2にはこの研究で取り上げる境界条件を図示している。図1においての波形は、波浪の複素関数における実数部を位相角θ(ωt+κx)によって表している。
【0062】
海底面には波浪のみが作用しているので、海底面 (z=0)における境界条件は次のように表される。
【0063】
【数23】
一次元 :
【0064】
【数24】
二次元 :
p0:海底面の変動水圧振幅(Δp0=ρwgH/cosh(κh))
ρw:海水の密度
h:水深
ω:角振動数(=2π/T)
κ:波数(=2π/L)
H:波高
【0065】
堆積層と堆積層の境界については、2つの層の境界では、水圧、応力、固体相の変位、動水勾配の連続性が保たれなければならない。
【0066】
【数25】
一次元 :
二次元 :
【0067】
【数26】
【0068】
以下、堆積層と岩盤の境界について述べる。層と、剛で不透水性の岩盤との境界においては、鉛直方向の透水が許されない、つまり鉛直方向の動水勾配がゼロにならなければならない。また、固体相の変位も許されない。
【0069】
【数27】
一次元 :
【0070】
【数28】
二次元 :
【0071】
無限深さ(z=∞)については、以下の通りである。海底面下の無限深さに置いて、固体相の変位と水圧はゼロにならなければならない。
【0072】
【数29】
一次元 :
【0073】
【数30】
二次元 :
【0074】
ここでは厳密解の誘導の一例として、擬似動的条件における[u−p] formulation の一次元応答に対する解を導く。擬似動的解析では、支配方程式は式(17)から加速度の項を無視したもので表される。なお、ここでは物体力ベクトル増分i Δb は考慮していない。
【0075】
【数31】
【0076】
【数32】
【0077】
これらの連立微分方程式は線形であるので、解の基本形は、
【0078】
【数33】
【0079】
式(32)を支配方程式(31)に代入し、マトリクス表示すると以下のように表される。
【0080】
【数34】
【0081】
右辺が0であるので、この連立方程式が有意な解を持つには変数が互いに従属していなければならない。この従属性は左辺のマトリクスの行列値がゼロになることを意味している。
【0082】
【数35】
【0083】
この解は以下に示す可能性がある。
【0084】
【数36】
【0085】
【数37】
【0086】
ここで、cv はTerzaghi の一次元の圧密理論における圧密定数に相当する。解の可能性から、一般解を次のように書き表す。
【0087】
【数38】
【0088】
【数39】
【0089】
【数40】
【0090】
この解には8(4x2)個の未知定数が含まれていることがわかる。式(37)を支配方程式に代入すると、未知定数に以下に示す4個の相関関係が見つかる。
【0091】
【数41】
【0092】
独立した4つの未定定数は境界条件により決定される。ここでは例として境界条件数23と数27により、有限深さで不透水性の岩盤が存在する地盤に対する解を求める(図3)。数23と数27により式が4(2x2)本で、未知数が4個であるから解が必ず求まる。これらの四元連立方程式を解くと、未知定数が以下のように決定される。
【0093】
【数42】
【0094】
ここで、Dは海底地盤の岩盤までの深さである。
【0095】
波浪荷重による海底地盤の応答は、緩い砂、正規圧密粘土そして礫の3種類に対して計算した。
設定した土の物質的、力学的な特性は図15に取りまとめた。波浪については波高H=10m、周期T=13sec、水深h=20m、波長L=167.6m、海底面での水圧変動振幅po=37.9kN/m2 とした。鉛直方向の境界として、地表面では水圧のみが作用(B.C.1)しているとして、解析領域の下端では不透水性の岩盤(B.C.3)を想定している。
標準的なケースとして、鉛直有効応力と地表面に作用した波浪の振幅で正規化した過剰間隙水圧の深さ方向分布を、緩い砂、正規圧密粘土、礫に対して、[u−p] formulation、擬似動的条件、二次元の下で厳密解により計算した(図4、図5)。ここでは、海底地盤表面に波浪が作用したとき、地盤内の鉛直有効応力の鉛直方向分布を、8つの位相角に対応してあらわしている。図4では海底地盤表面の水圧が急激に下がる過程において鉛直応力が低下して土が不安定化していることが分かる。特に緩い砂の応答では鉛直有効応力が深さ4m弱までの範囲で、位相角の進行に伴って繰り返し負になり液状化状態に至ることを示唆している。応答には透水性の影響も大きいが、透水性については中間的な緩い砂で鉛直有効応力の変動が大きくなっている。その理由は、飽和度が低いために小さな値となっている間隙水圧係数B’値の影響である。海底地盤の飽和度は99%以上になることが通常ではあるが、空気の体積圧縮係数は水の体積圧縮係数よりもはるかに小さいために結果的に0.1%の飽和度の違いが間隙水圧の応答に与える影響は大きい。特に緩い砂地盤では他の地盤と比較して飽和度が小さいために水圧の深さ方向の減衰が大きく、地盤内で動水勾配が発達していることがわかる(図5)。図6では緩い砂地盤に対して、地表面z = 0m と深さz =1m における過剰間隙水圧の変相角に対応した変動を示している。圧力の減衰や、伝播の位相差が見られ、結果的に位相が3/4π〜πを中心に地盤内で上向き浸透流が発生し、地盤が不安定化している。一方で、正規圧密粘土では地表面近くで大きく変動しているが、それ以深では非排水状態の挙動を示している。礫ではその高い透水性のため地表面に作用した圧力が地盤内において減衰しにくいため、動水勾配が発達せず、地盤内の鉛直有効応力はほとんど変動していない。
【0096】
海底地盤の応答の問題では加速度の影響が小さいため、この問題では加速度を無視した[u−p] formulation、擬似動的解析で十分再現でき、また十分長い波長に対する応答では一次元応答で十分再現できることが既往の研究により示されている。ここでは、[u−p] formulation、擬似動的解析条件において、一次元、有限深さの地盤の境界条件を与えて解いた式について検討する。圧力の応答の式は数39、数41、数42から以下のようである。
【0097】
【数43】
【0098】
ここで、
【0099】
【数44】
【0100】
Skempton のB値に対応する一次元変形における間隙水圧係数B’は間隙水の圧縮性(飽和度)に強く依存している。また、hv を「水理圧密定数(圧密係数Cv を間隙水の圧縮性を考慮して修正した値の逆数)」と呼ぶことにする。このhv は地盤の物性のみによって決定されるもので、波浪を受ける海底地盤内の応力、圧力変動の大きさを左右する係数である。これらの係数を数39に代入すると、
【0101】
【数45】
数45における項e−2ζD を無視すると、層の厚さDが無限の場合に相当する以下の式が得られる(近似(1);海底地盤の不安定化が問題になる代表的な砂の場合hv は通常1から5程度で(図15参照)、この近似は層厚Dが2m以上であれば誤差は数パーセント以下と考えられる)。
【0102】
【数46】
【0103】
海底地盤表面に作用した水圧変動は減衰しながら深さ方向へ伝播するので、等間隔dp の深さ3点における間隙水圧の変動は次のようになる(図7)。
【0104】
【数47】
【0105】
近接する2点での間隙水圧の差分は、
【0106】
【数48】
【0107】
絶対値を取ることによって得られる振幅は、
【0108】
【数49】
【0109】
したがって、二つの振幅からhv を以下のように算定できる。
【0110】
【数50】
【0111】
間隙水圧の数式46において深さ方向に生じる位相差(ζの虚数部)を無視すると、振幅は以下のように得られる(近似(2);条件によってはかなりの程度の誤差を生じる可能があり、後で検証する。)。
【0112】
【数51】
【0113】
よって、隣接するに点に関してそれぞれB’が算定でき、その平均値を用いることにする。この計算方法はd0 の測定誤差を排除するためである。
【0114】
【数52】
【0115】
海底地盤内における深さが異なる3点における間隙水圧の測定は、予め間隙水圧計を取り付けたロッドを海底地盤に挿入することによって可能であろうし、実際には波の不規則性を排除するために、測定値のスペクトル解析によって卓越周期を求め、その卓越成分に対してここで説明したパラメータの算定法を適用することになる。
【0116】
海底地盤の不安定化の判定方法として、ここでは繰り返して生じる液状化現象に着目した「計算上海底地盤内の鉛直有効応力が負になる」こと条件としている。先に説明した厳密解に基づき地盤内の鉛直有効応力を以下のように算定する。
【0117】
【数53】
【0118】
この振幅は、
【0119】
【数54】
【0120】
この振幅が地盤の静水圧状態での鉛直有効応力( ( ) ) zo t f Δσ = ρ -ρ gz を上回ると地盤内の有効応力が一時的に負になり液状化状態に至ることになる。
【0121】
【数55】
【0122】
したがって、この極限の深さ(液状化深さ)zl について解くことにより、地盤の液状化深さを求めることができる。
【0123】
【数56】
【0124】
ここで、
【0125】
【数57】
【0126】
このポテンシャル高さに相当するHp は海底面に作用する水圧や地盤材料の密度および間隙水圧係数B’から決まる値である。数56から、液状化深さzl と水理圧密定数hv の関係をHp をパラメータとして得たのが図8である。この図を用いることによって「3ゲージ法」による地盤内の物理定数の測定法と併せて、測定値から推定したパラメータから海底地盤の波浪に対する安定性を評価することができる。図9は海底地盤の対波浪安定性評価のための一連の手順を表したフローチャートを表している。
【実施例】
【0127】
一連の海底地盤におけるパラメータの推定方法および液状化範囲推定方法では数46、数51において2つの近似を行った。以下、一連の土におけるパラメータの推定方法および液状化範囲推定方法に関する海底地盤の挙動が波浪や地盤のパラメータによってどのように影響を受けるか検討する。
【0128】
近似(1);数46で無視した成分による誤差で、以下の項に依存する。
【0129】
【数58】
【0130】
近似(2);図10は代表的な条件の下で計算した間隙水圧の深さ方向の分布を8つの位相で表している。また図中の青い線は数51から計算した近似包絡線(数59)で、緑の線は数45の振幅(数60)を示した包絡線を表している。
【0131】
【数59】
【0132】
【数60】
【0133】
ここで、
【0134】
【数61】
【0135】
であるため、数51で計算した青い線の近似包絡線は、常に数45で計算した緑の線の包絡線の外側に存在する。したがって近似曲線によって算定されたB値は実際のB値をほとんどの場合で過小評価し、結果として数56、数57から推定される液状化深さを過大評価ことが予想される。これらの近似の妥当性を検証するために、ここでは以下の手順により計算で入力したB値:B’、水理圧密定数:hv および厳密解による液状化深さ:zl と、パラメータ推定法により得られたそれらを比較した。
【0136】
(1) 厳密解により、深さが異なる3点における過剰間隙水圧の時刻暦を計算する。
(2) 時刻歴の振幅や時刻歴の差分の振幅から一次元間隙水圧係数B’と水理圧密定数hv を算定する。
(3) 図2に示す関係から液状化深さを算定し、厳密解から得られる液状化深さと比較する。
図11〜14には海底面に作用する波浪による圧力:p0、波浪の周期:T、海底地盤のB値:B’、透水係数:kを変化させたときの液状化深さの比較を示している。これらの図では海底地盤の不透水層までの深さ:Dを4m、5m、6m、100mと変化させているが、このDによるばらつきは近似(1)によるばらつきと解釈でき、Dを十分大きくしたとき(D=100m)に残留している誤差は近似(2)による誤差と解釈できる。標準的な条件は緩い砂として基本となる波の性質は海底面に作用する波浪による圧力:p0=40(kN)、波浪の周期:T=8(s)としている。またパラメータの推定では3点の深さにおける間隙水圧の応答が必要になるが、この検討では深さ0.5m、1.0m、1.5mを対象としている。
【0137】
図11には海底面に作用する波浪の圧力をp0=2.0(kN)、p0=3.0(kN)、p0=4.0(kN)と変化させたときのB値:B’、水理圧密定数:hv および厳密解による液状化深さ:zl と、パラメータ推定法により得られたそれらを比較して示している。海底地盤の不透水層までの深さDを変化させたときのばらつきは小さいため、この条件では近似(1)による誤差は無視できるほど小さいと考えられる。
【0138】
また、近似(2)はhv の推定には影響を及ぼさないため、推定したhv は入力した値に極めて近い値を示している。B値の推定ではp0 によって変化はなく推定したB値は0.26と過小評価しており、結果として液状化深さは0.5〜0.7(m)程度過大評価している。
【0139】
図12には海底面に作用する波浪の周期をT=3.0(s)、T=8.0(s)、T=13.0(s)と変化させたときのB値:B’、水理圧密定数:hv および厳密解による液状化深さ:zl を比較して示している。波浪の周期Tが大きくなり、海底地盤の不透水層までの深さDが小さい場合は推定値のばらつきもわずかに大きくなっているように見えるが、無視できる程度の変動である。また近似(2)の波浪の周期による変動は小さく液状化深さは0.6〜0.7(m)程度過大評価している。
【0140】
図13には海底地盤のB値をB’=0.4、B’=0.5、B’=0.6と変化させたときのB値:B’、水理圧密定数:hv および厳密解による液状化深さ:zl を比較して示している。ここでもDの変化によるばらつきは軽微であり、液状化深さはほぼ一様に0.6m〜0.7m程度過大評価している。
【0141】
図14には海底地盤の透水係数をk=1.0*10−5(m/s)、k=1.0*10−4(m/s)、k=1.0*10−3(m/s)と変化させたときのB値:B’、水理圧密定数:hv および厳密解による液状化深さ:zl を比較して示している。k=1.0*10−5(m/s)やk=1.0*10−4(m/s)の場合ではDの変化による推定値のばらつきはほとんど見られないが、k=1.0*10−3(m/s)のような比較的透水性の良い地盤の場合では推定値にばらつきが見られる。このような透水性の高い地盤の場合では海底地盤の不透水層までの深さが小さい場合において、液状化深さの推定値が厳密な計算結果を下回る可能性がある。透水性の高い地盤で地表面近くに不透水層がある場合を除いて、液状化深さの推定値と厳密な計算結果は大きくは離れておらず、推定値は厳密な計算結果を上回っている。
【0142】
現在では透水係数や飽和度を保持した状態での土の不撹乱試料を得ることは難しく、原位置の海底地盤においてこれらを測定する技術にも限界があるのが現状である。また、この地盤の物性の調査の困難さからも、沿岸・港湾構造物の設計に際して基礎地盤の波浪に対する安定性は検討されていない。これに対して提案する「3ゲージ法による地盤の物理定数の調査方法」は、海底地盤内の3点で間隙水圧変動を測定するだけで、「水理液状化定数」はじめ海底地盤の安定性に影響を与える地盤の物性を簡易に測定することができる。また、この方法は特に海底地盤の応力変動が大きい緩い砂地盤に有効であるので、「液状化深さの推定方法」と併せて、沿岸および沖合における構造物の基礎地盤の対波浪安定性の検証への活用が大いに期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は沖合・沿岸構造物の設計に関して、基礎地盤の波浪に対する安定性の検討に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】解析条件
【図2】成層地盤に対する境界条件
【図3】境界条件
【図4】鉛直有効応力の深さ方向の変動
【図5】正規化した過剰間隙水圧の深さ方向の変動
【図6】間隙水圧変動の減衰と鉛直有効応力の変動
【図7】間隙水圧の測定
【図8】海底地盤の液状化深さの推定
【図9】海底地盤の対波浪安定性評価フローチャート
【図10】間隙水圧変動の近似曲線
【図11】波浪の圧力の検討
【図12】波浪の周期の検討
【図13】B値の検討
【図14】透水係数の検討
【図15】解析で用いた代表的な土質の物理的・力学的性質
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底地盤内の間隙水圧を測定し、測定した間隙水圧の卓越成分を用いて海底地盤の対波浪応答パラメータとなる水理圧密定数を計算し、計算された水理圧密定数と測定した間隙水圧の卓越成分から一次元間隙水圧係数を導出し、一次元間隙水圧係数と水理圧密定数により海底地盤の不安定化深さを算定し、波浪時の海底地盤内の安定性を測定することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記、海底地盤内の間隙水圧は、地盤内の三点で測定されたものを用いることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項1】
海底地盤内の間隙水圧を測定し、測定した間隙水圧の卓越成分を用いて海底地盤の対波浪応答パラメータとなる水理圧密定数を計算し、計算された水理圧密定数と測定した間隙水圧の卓越成分から一次元間隙水圧係数を導出し、一次元間隙水圧係数と水理圧密定数により海底地盤の不安定化深さを算定し、波浪時の海底地盤内の安定性を測定することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記、海底地盤内の間隙水圧は、地盤内の三点で測定されたものを用いることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−2020(P2009−2020A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162698(P2007−162698)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(398071451)北日本港湾コンサルタント株式会社 (4)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(398071451)北日本港湾コンサルタント株式会社 (4)
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