説明

海底耕起による海底土質改良方法及びそれに用いる装置。

【課題】 底棲生物の棲息する環境を維持するために、海底に投入された高炉水砕スラグの覆砂層が長時間経過して固結化したものを、元に近い状態に復元するための海底耕起による海底土質の改良方法及びそれに用いる装置を提供する。
【解決手段】 高炉水砕スラグの覆砂による海底の土質改良であって、固結化した覆砂層が耕起具の耕起用爪により耕起され、かつ、砕壊されて粒状化することを特徴とし、また、該耕起具として、複数の耕起用爪を回転ロールの周方向及び幅方向に、かつ、列状又は千鳥状に突設した耕起機であって、該耕起機が船上から吊り下げクレーンにより上下移動可能に吊り下げて設けられている重力式回転耕起機を用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底、湖沼底、河川底(以下、海底と称す)の土質改良のために投入された高炉水砕スラグの覆砂層が長時間経過して固結化したものを掘り起こして砕壊して粒状化する、いわゆる海底耕起による海底土質の改良方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海の底棲生物は、シジミ、アサリ等の貝類、エビ、カニ等の甲殻類、ゴカイ等の軟体類やハゼ、オコゼ等の幼魚など多くの動物群を含んでいる。海底の堆積物の中にすむもの、海底の堆積物の表面にすむもの、海底の岩、石、貝類などの表面に固着してすむものなどが存在する。この生物の種類数は浅い海底ほど多く、水深0〜20mに大部分の種類が集中している。この底棲生物が棲むのに好ましい海底の地質は、砂地、砂礫地又は岩礁或いはこれらが入り組んだ地質である。とくに、シジミ、アサリ等の貝類は海水と真水とが混ざる汽水域の水底に棲息しているものである。また、海草や海藻などが海底に生育すると複雑な海底ができるので、より多くの底棲生物にすみかを提供することになり種類数が増加する。
【0003】
しかし、大都市圏を背後に控える浅海や湾などにおいては、河川の土砂に加え、シルトや粘土類や長年に亘る生活廃水中の沈殿物等により海底の状況が泥状又はへどろ状の堆積物より成っているので、底棲生物にとっては好ましい生態環境ではなくなってきた。こうした環境の海底を改善して底棲生物が棲みやすくするための方法の一つが、天然砂又は砕砂の海底への投入であって、泥状又はへどろ状の海底をこれらの砂で覆う覆砂による改善である。この覆砂の層厚は10〜60cmあれば、底棲生物が棲む環境が改善される。また、覆砂層により潮流又は波浪による浅海の海底の泥又はへどろが巻き上げられることを防いで、海水とくに海底における海水の汚濁化を防止することができる。
【0004】
しかし、最近になって、天然砂や砕砂の入手先及び入手量において多くの制約が生じる事情があって、これを改善するために入手先及び入手量に制約の少ない鉄鋼業の高炉水砕スラグが着目された。そして、該高炉水砕スラグの適用により海砂と同等もしくはそれ以上の底棲生物の棲息に適した環境を整えることが実証され、さらに、PH8.5程度の弱アルカリに保つことで硫酸還元菌の活動を抑制して硫化水素の発生を抑制することが可能ということから、環境の改善に優れた効果を発揮する高炉水砕スラグを用いた覆砂方法が注目を浴びつつある。
【0005】
しかしながら、この高炉水砕スラグを用いた覆砂を行う幾度の実証工事の結果、高炉水砕スラグは、溶融スラグを水で急冷して製造されるから活性エネルギを内部に保持しているため水硬性を有し、水中に長期間放置しておくと固結化する問題が生じてきた。この覆砂層の固結化する問題は、底棲生物が住めない環境になることから自然の生態系の破壊にも通じ、また、漁業産業に損害をもたらす問題でもあった。一方、天然の海底土質を改善するために海底を耕耘する技術が開示されている。(参考文献1)
【0006】
【特許文献1】特開2004−68355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の高炉水砕スラグの覆砂層は早ければ3ヶ月から一年もすれば固結化が進み、底棲生物が棲息できない環境になることから、この覆砂層を砕壊して初めの状態に戻す必要が生じてきた。本発明は、かかる問題を解決するために為したものであって、海底の土質改良のために投入された高炉水砕スラグの覆砂層が長時間経過して固結化したものを掘り起こして砕壊して粒状化する、いわゆる海底耕起による海底土質の改良方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、請求項1の発明は、海底耕起による海底土質改良方法において、高炉水砕スラグの覆砂による海底の土質改良であって、固結化した覆砂層が耕起具の耕起用爪に耕起され、かつ、砕壊されて粒状化することを特徴とする。
【0009】
前記高炉水砕スラグは、天然砂、砕砂に比し、単位体積重量が13〜15KN/mと20%程小さく、気孔が多く、かつ、粒度が0.15〜5mmの範囲に90〜100%入るなど粒度が揃っており、しかも粒子が角張っている。また、主成分はCaO,SiO,Al,MgOの4成分系の化合物であって弱アルカリ性であり、覆砂により被覆土質の硫酸還元菌の活動を抑制して硫化水素の発生を抑制する効果も認められている。したがって、高炉水砕スラグを用いた厚さ10〜60cmの覆砂層によれば、砂地として、底棲生物が棲みやすく、移動もしやすい。また、海水が浸透しやすいから層中に栄養分、酸素分の補給も十分であるので、底棲生物にとって好ましい環境を提供していた。また、この高炉水砕スラグの覆砂層による海底土質の改良方法は、海底のみならず湖沼、河川等の海水と真水の混ざる汽水域の水底においても実施されている。
【0010】
しかし、高炉水砕スラグは水硬性を有するため、この覆砂層は設置状況にもよるが3ヶ月〜1年を経過すると固結化が進み、底棲生物の移動が困難であったり、また、海水の出入りが困難となったりして、底棲生物の棲む環境に適さない状態が出現した。これを防止するために、固結化した、又は固結化する前に、覆砂層が耕起具の耕起用爪を用いて掘り起こすこと、即ち耕起により、固結化した覆砂層を砕くと共に壊して粒状化して元の状態に近い覆砂層に復元することを特徴とするのが請求項1による海底耕起による海底土質改良方法である。
【0011】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の海底耕起による海底土質改良方法において耕起具として、複数の耕起用爪を回転ロールの周方向及び幅方向に、かつ、列状又は千鳥状に突設した耕起機であって、該耕起機が船上から吊り下げクレーンにより上下移動可能に吊り下げて設けられている重力式回転耕起機を用いることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3の発明は、請求項1に記載の海底耕起による海底土質改良方法において、耕起具として、複数の耕起用爪を回転駆動ロールの周方向及び幅方向に、かつ、列状又は千鳥状に突設した耕起機であって、該耕起機が船上からの伸縮、傾動及び回動可能の作動腕の先端部に設けられている回転耕起機を用いることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4の発明は、請求項1に記載の海底耕起による海底土質改良方法において、耕起具として、複数の耕起用爪を機枠からほぼ垂直下方に、かつ、平面的に列状又は千鳥状に突設した耕起機であって、該耕起機を船上から吊り下げクレーンにより吊り上げた後、自由落下させる重力落下式耕起機を用いることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5の発明は、請求項1に記載の海底耕起による海底土質改良方法において、耕起具が複数の耕起用爪を機枠から斜め下に又はほぼ垂直下方に、かつ、平面的に列状又は千鳥状に突設した耕起機であって、該耕起機が船上からの伸縮、傾動及び回動可能の作動腕の先端部に設けられているバックホウ式耕起機を用いることを特徴とする。
【0015】
また、請求項6の発明は、請求項1に記載の海底耕起による海底土質改良方法において、耕起具として、複数の耕起用爪を機枠から斜め下に又はほぼ垂直下方に、かつ、平面的に列状又は千鳥状に突設した耕起機であって、該耕起機が船上から吊り下げクレーンにより上下移動可能に吊り下げられると共に、船から牽引移動可能に設けられた吊下げ移動式耕起機を用いることを特徴とする。
【0016】
また、請求項7の発明は、請求項1に記載の海底耕起による海底土質改良方法において、耕起具として、複数の耕起用爪を機枠から斜め下に又はほぼ垂直下方に、かつ、平面的に列状又は千鳥状に突設した耕起機であって、該耕起機が船上から五節リンク状腕により上下移動可能に吊り下げられると共に、船から牽引移動可能に設けられた吊下げリンク移動式耕起機を用いることを特徴とする。
【0017】
また、請求項8の発明は、請求項1に記載の海底耕起による海底土質改良方法において、耕起具として、複数の耕起用爪を掴み部の先端部に設けた掴みバケットであって、該掴みバケットが船上から吊り下げクレーンにより上下移動及び開閉可能に吊り下げて設けられている掴みバケットを用いることを特徴とする。
【0018】
請求項2〜8に記載の耕起具は、いずれも複数の耕起用爪を覆砂層に突き立てて、かつ移動させることにより、又は覆砂層に突き立てて抜き去ることを繰り返すことにより、固結化した覆砂層を砕壊して元の粒状の覆砂層に戻す作用を行う。
【0019】
回転ロールに突設した耕起用爪を覆砂層に重力で潜り込ませ、かつ回転ロールを牽引して水平方向に移動することにより水車の如く掘り起こすのが請求項2の耕起具であり、回転駆動されるロールに突設した耕起用爪を覆砂層に潜り込ませて、水車の如く掘り起こすのが請求項3の耕起具である。
【0020】
また、機枠からほぼ垂直下方に、かつ、平面的に列状又は千鳥状に突設した複数の耕起用爪を自由落下させることにより、耕起用爪が覆砂層に突き刺さり、かつ抜き去ることを繰り返すことで覆砂層を壊して粒状化させるのが請求項4の耕起具であり、前述の機枠を上下移動させると共にハンマリングを加えて、さらに、水平方向への回動移動を付加したのが請求項5の耕起具である。
【0021】
また、機枠から斜め下に又はほぼ垂直下方に、かつ、平面的に列状又は千鳥状に突設した複数の耕起用爪を下に移動して覆砂層に突き刺し、かつ機枠を牽引して水平移動させることで、畝を耕すように覆砂層を掘り起こして粒状化するのが請求項6,7の耕起具である。
【0022】
また、掴みバケットの掴み部の先端に設けた複数の耕起用爪がバケットを開いて下ろすことにより覆砂層に潜り込み、次いで、バケットを閉じることにより覆砂層を掘り起こしてバケット内に取り込んで砕壊し、次いで、バケットを開くことにより砕壊された覆砂層を元の位置に戻して覆砂層を耕起するのが請求項8の耕起具である。
【発明の効果】
【0023】
底棲生物の棲息する環境を悪化させる泥状、へどろ状等の海底土質を覆砂層で覆うことで環境改善を行った場合に、覆砂に用いられる高炉水砕スラグは密度、粒度分布及びアルカリ性である点で、砕砂などの天然砂に比べ覆砂に最適であるが、この高炉水砕スラグの覆砂層は時間経過と共に固結化し、底棲生物の棲む環境を劣化さすが、本発明に係わる請求項1の海底耕起による海底土質改良方法によれば、固結化する覆砂層を耕起具により砕壊して元の状態に近い覆砂層に復元することができる。
【0024】
また、本発明に係わる請求項2から8の海底耕起による海底土質改良方法によれば、これらの耕起具は、海底土質改良方法の実施において、海域の水深、広さ、潮流の大小、底棲生物の棲息状況等を勘案して、最適に実施できる耕起具を提供することができる。また、実施に当たっては、設備費、工事費、工事の難易度等を勘案した最適の耕起具を選択することができる。この結果、海底の良好な環境の維持が図られ、即ち、底棲生物の良好な棲息環境の維持、海底及び海底水の汚濁防止が図られ、漁業の発展と環境保全に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基いて説明する。図1は、本発明の最良の実施形態である海底耕起による海底土質改良方法の説明図であって、海底耕起の模式図で、(a)は耕起前の海底覆砂の状態、(b)は耕起後の海底覆砂の状態、(c)耕起具による耕起状態の一例である。図2は、本発明の最良の実施形態である海底耕起による海底土質改良方法に用いる耕起具の説明図であって、重力式回転耕起機を備えた船による海底耕起の模式図で、(a)は平面状態図、(b)は側面状態図である。図3は、重力落下式耕起機を備えた船による海底耕起の模式図で、(a)は平面状態図、(b)は側面状態図である。図4は、吊下げ移動式耕起機を備えた船による海底耕起の側面状態の模式図である。図5は、バックホウ式耕起機を備えた船による海底耕起の側面状態の模式図である。図6は、吊下げリンク移動式耕起機を備えた船による海底耕起の側面状態の模式図である。図7は、本発明の最良の実施形態である海底耕起による海底土質改良方法に用いる耕起具の説明図であって、回転耕起機の模式的斜視図である。図8は、重力落下式耕起機の模式的斜視図である。図9は、吊下げ移動式耕起機の模式的斜視図である。図10は、掴みバケットによる海底耕起の説明図である。
【0026】
本発明の実施形態を図1に基いて説明する。覆砂に用いられる高炉水砕スラグは、高炉から排出されるCaO,SiO,Al,MgOの4成分系の溶融スラグを圧力水流中で急冷と同時に細粒化して製造される。この高炉水砕スラグの代表的性状は粒子密度27KN/m,単位体積重量13〜15KN/m、粒度分布0.15〜5mm範囲内に90〜100%、形状は多孔質で角張っている。また、化学成分はCaO40〜42%,SiO32〜35%,Al13〜15%,MgO4〜7%であって、水に触れると硬化する水硬性を有し、水中では弱アルカリ性を呈する。
【0027】
本発明に係わる海底土質改良方法は、高炉水砕スラグを台船からクレーン用バケット又はバックホウを用いて投下又は撒布により海中に投入して、水深2〜20mの範囲にある海底へ沈積させ、図1aに示すように厚み10〜60cm範囲の覆砂層1を形成する。この覆砂層1は従来の海底4の泥又は「へどろ」(以下泥層3と称す)上に沈積されるので、海砂と同等若しくはそれ以上の底棲生物の棲息に適した環境に整えることが実証されつつある。また、高炉水砕スラグによる覆砂層1は、PH8.5程度の弱アルカリ性を保つから硫酸還元菌の活動を抑制して硫化水素の発生を抑えることが可能ということで、海底土質の環境改善に優れた効果を発揮する覆砂材となる。因みに、この高炉水砕スラグの覆砂層による海底土質の改良方法は海のみならず、湖沼、河川等の汽水域においても実施されている。
【0028】
しかしながら、高炉水砕スラグによる覆砂層1は、海中に長期間(3ヶ月〜1年間)放置しておくと、高炉水砕スラグが元々水硬性を持っているので固結化する。この固結化した覆砂層1の固結の程度は、ハンドスコップ又は移植ゴテで掘れる位だが、堀跡は崩れないようなものである。したがって、底棲生物である魚貝類が砂に潜れず、或いは砂に産卵することができない等底棲生物が棲息できない環境になることから、この改善のために固結化した覆砂層1をほぐして細粒化する、言い換えると砕壊して粒状化する工法が本発明に係わる海底耕起による海底土質改良方法である。
【0029】
この方法は、図1cに示すように固結化した覆砂層1を耕起具5に突設された耕起用爪6を用いて耕すように砕壊して、図1bに示す砕壊された覆砂層2にするものである。この砕壊する仕方は、大きく分けて3通りあって、一つ目は覆砂層2を耕起用爪6で掘り起こす方法、二つ目は覆砂層2に耕起用爪6を突き刺して破壊する方法、三つ目は覆砂層2を耕起用爪6で鋤いて壊す方法があり、これらを総称して耕起と称している。よって、耕起用爪6の形状は、鍬型や鶴嘴型や鋤型があり、材質は耐磨耗の点から合金鋼、耐磨耗材を肉盛り又はクラッドした鋼材、耐磨耗セラミック等が用いられる。また、耕起具5は、前述したことから、耕起用爪6を回転させる形式や、耕起用爪6を突き刺す形式や、耕起用爪6を水平方向に移動させる形式に分けられる。砕壊する深さは目的によって多少異なるが概ね40cm以内の深さまでほぐす工法である。また、固結した覆砂と既存の海底土を砕壊しながら混合するのも本海底土質改良方法に含まれる。これによれば覆砂層1が再固結化に到る期間を延ばすことができる。また、耕起具5の採用にあたっては、覆砂層1の砕壊による汚濁の発生や棲息生物の死滅を防止することが肝要である。
【0030】
重力式回転耕起機11(請求項2)について、図2、図7を用いて説明すると、重力式回転耕起機11は複数の耕起用爪6を千鳥状に回転ロール8の周方向及び幅方向に突設して、該回転ロール8を本例では3列の機枠7間に4個配設したものである。この重力式回転耕起機11は、その機枠7の吊り環7aに船20の吊下げ用クレーン21の吊りワイヤ21aを結び付け、上下に移動できると共に、船20からの牽引用ワイヤ20aを機枠7に結び付けて牽引して移動できる。また、船20の海面30上での移動は、船20から四方向に沈埋した4つのアンカー22それぞれにアンカー用ワイヤ22aが船20と繋がれ、船上のウインチ(図示しない)で4本のアンカー用ワイヤ22aを引き込み又は繰り出すことにより行うことができる。この船20の移動により、牽引用ワイヤ20aに繋がれた重力式回転耕起機11を海底において移動させることができる。また、重力式回転耕起機11の自重により覆砂層を耕起するから、自重は大きいほどよく、耕起用爪6の形状も貫入し易い円錐形状がよい。
【0031】
この重力式回転耕起機11の耕起作用を説明すると、重力式回転耕起機11は船20の吊下げ用クレーン21により海底に下ろされ、自重により回転ロール8に突設してある耕起用爪6が固結化した覆砂層1に貫入し、次いで、船20がアンカー用ワイヤ22aを使って移動すると共に、牽引用ワイヤ20aにより重力式回転耕起機11が海底を移動するから、それに伴って回転ロール8は回転し、複数ある耕起用爪6が回転し、覆砂層1を掘り起こして砕壊し、元の状態に近い砕壊覆砂層2に耕起する。この際、耕起用爪6は千鳥状に配列してあるから掘り起こしもれを防ぐことができる。また、船20の移動は、前述のアンカー用ワイヤ22aによる移動の他に、曳き船により移動することも可能である。また、吊下げ用クレーン21により重力式回転耕起機11を設置する水深は自由に設定ができ、比較的深い水深、即ち10−20mでも可能である。また、本法は現有の作業船20を用いて、重力式回転耕起機11の製作だけで耕起を実施できる手軽さがある。
【0032】
回転耕起機(請求項3)について、図5、図7に基づいて、また前述の説明と異なる部分について説明すると、回転耕起機は基本的に図7の重力式回転耕起機11と似ており、回転ロール8がロール軸端の油圧モータ等により強制回転駆動されること、耕起用爪6が円錐形でもよいが、回転力があるので鍬形状でも適用できること、機枠の形状が船上からの伸縮、傾動及び回動可能の作動腕の先端部と係合するもので2列である点で異なる。この回転ロールの駆動用に油圧モータを適用することは、低速で回転トルクが大きいから耕起用途として大きな砕壊力が得られて最適である。また、船上からの伸縮、傾動及び回動可能の作動腕には、バックホウが適用できる。この場合、比較的水深の浅い5〜10m程度の河川などの耕起に適用できる。
【0033】
この回転耕起機の耕起作用を説明すると、回転耕起機は船20からのバックホウ腕14aにより海底に下ろされ、油圧モータにより回転駆動ロール8に突設してある複数の耕起用爪6が回転して、覆砂層1を掘り起こして砕壊し、元の状態に近い砕壊覆砂層2に耕起する。また、バックホウ腕14aは伸縮、傾動及び回動可能の作動腕であるから、腕14aの先端部に係合している回転耕起機はある範囲は自由に移動して耕起できる。また、回転耕起機を大きく移動させるには、船20がアンカー用ワイヤ22aを使って移動させるか、曳き船により移動させるかが必要である。
【0034】
重力落下式耕起機13(請求項4)について、図3、図8を用いて説明すると、重力落下式耕起機13は複数の耕起用爪6を格子状の機枠7からほぼ垂直下方に、かつ、千鳥状又は列状に突設して、配設したものである。この重力落下式耕起機13は、その機枠7の吊り環7aに船20の吊下げ用クレーン21の吊りワイヤ21aを結び付け、上下に移動できると共に、耕起する時には吊下げ用クレーン21の吊りワイヤ21aをフリーにして重力落下させる。また、重力落下式耕起機13の自重により覆砂層を耕起するから、自重は大きいほどよく、耕起用爪6の形状も貫入し易い円錐形状で、抜き去り時に砕壊できる返りが付いたものがよい。しかも、重力落下式耕起機13の機枠7は、海中を抵抗が少なく、かつ、真直ぐ降下するために格子状がよく、枠桁も抵抗の小さい形状がよい。また、船20の海面30上での移動は、船20から四方向に沈埋した4つのアンカー22それぞれにアンカー用ワイヤ22aが船20と繋がれ、船上のウインチ(図示しない)で4本のアンカー用ワイヤ22aを引き込み又は繰り出すことにより行うことができる。また、船20の移動は、前述のアンカー用ワイヤ22aによる移動の他に、曳き船により移動することも可能である。
【0035】
この重力落下式耕起機13の耕起作用を説明すると、重力落下式耕起機13は船20の吊下げ用クレーン21により吊り上げてから、吊りワイヤ21aをフリーにして海底に重力落下され、機枠7に突設してある耕起用爪6が固結化した覆砂層1に貫入し、次いで、吊りワイヤ21aを使って引き上げると、耕起用爪6の返りが覆砂層1を掘り起こして砕壊し元の状態に近い砕壊覆砂層2に耕起する。また、吊下げ用クレーン21により重力落下式耕起機13を設置する水深は自由に設定ができ、比較的深い水深、10−20mでも可能である。また、本法は現有の作業船20を用いて、重力落下式耕起機13の製作だけで耕起を実施できる手軽さがある。
【0036】
バックホウ式耕起機14(請求項5)について、図5、図8を用いて説明すると、バックホウ式耕起機14は複数の耕起用爪6を格子状の機枠7からほぼ垂直下方に、かつ、千鳥状又は列状に突設して、配設したものである。また、その機枠7の形状が、船20上からの伸縮、傾動及び回動可能の作動腕、いわゆるバックホウ腕の先端部と係合可能とするものである。また、該バックホウ腕は、先端部に連続してハンマリングする機構が付属するから、このハンマリングにより耕起用爪6が覆砂層を耕起する。したがって、耕起用爪6の形状も貫入し易い円錐形状で、返りが付いたものがよい。また、該バックホウ腕の長さには制約があるので、比較的水深の浅い5〜10m程度の河川などの耕起に適用できる。また、船20の海面30上での移動は、船20から四方向に沈埋した4つのアンカー22それぞれにアンカー用ワイヤ22aが船20と繋がれ、船上のウインチ(図示しない)で4本のアンカー用ワイヤ22aを引き込み又は繰り出すことにより行うことができる。また、船20の移動は、前述のアンカー用ワイヤ22aによる移動の他に、曳き船により移動することも可能である。
【0037】
このバックホウ式耕起機14の耕起作用を説明すると、バックホウ式耕起機14は船20からのバックホウ腕14aにより海底に下ろされ、バックホウ腕14aにより機枠7に突設してある複数の耕起用爪6がハンマリングされて、覆砂層1を砕壊し、元の状態に近い砕壊覆砂層2に耕起する。また、バックホウ腕14aは伸縮、傾動及び回動可能の作動腕であるから、腕14aの先端部に係合している機枠7はある範囲は自由にバックホウ腕14aの動作のみで耕起できる。また、バックホウ式耕起機14を大きく移動させるには、船20がアンカー用ワイヤ22aを使って移動させるか、曳き船により移動させるかが必要である。
【0038】
吊下げ移動式耕起機15(請求項6)について、図4、図9を用いて説明すると、吊下げ移動式耕起機15は、複数の耕起用爪6を格子状の機枠7から斜め下に又はほぼ垂直下方に、かつ、千鳥状又は列状に突設して、配設したものである。この吊下げ移動式耕起機15は、その機枠7の吊り環7aに船20の吊下げ用クレーン21の吊りワイヤ21aを結び付け、上下に移動できると共に、船20からの牽引用ワイヤ20aを機枠7に結び付けて牽引される。この機枠7の前方を舟形にすることで、海底面に沿って耕起することができる。また、船20の海面30上での移動は、船20から四方向に沈埋した4つのアンカー22それぞれにアンカー用ワイヤ22aが船20と繋がれ、船上のウインチ(図示しない)で4本のアンカー用ワイヤ22aを引き込み又は繰り出すことにより行うことができる。この船20の移動により、牽引用ワイヤ20aに繋がれた吊下げ移動式耕起機15を海底において移動させることができる。また、吊下げ移動式耕起機15の移動により覆砂層を耕起するから、耕起用爪6の形状も貫入し、鋤易い先鋭部のある円筒形状がよい。
【0039】
この吊下げ移動式耕起機15の耕起作用を説明すると、吊下げ移動式耕起機15は船20の吊下げ用クレーン21により海底に下ろされ、自重により機枠7に突設してある耕起用爪6が固結化した覆砂層1に貫入し、次いで、船20がアンカー用ワイヤ22aを使って移動すると共に、牽引用ワイヤ20aにより吊下げ移動式耕起機15が海底を移動するから、それに伴って複数の耕起用爪6が移動して、覆砂層1を鋤き起こして砕壊し、元の状態に近い砕壊覆砂層2に耕起する。この際、耕起用爪6は千鳥状に配列してあると掘り起こしもれを防ぐことができる。また、船20の移動は、前述のアンカー用ワイヤ22aによる移動の他に、曳き船により移動することも可能である。また、吊下げ用クレーン21により吊下げ移動式耕起機15を設置する水深は自由に設定ができ、比較的深い水深、即ち10−20mでも可能である。また、本法は現有の作業船20を用いて、吊下げ移動式耕起機15の製作だけで耕起を実施できる手軽さがある。
【0040】
吊下げリンク移動式耕起機16(請求項7)について、図6、図9を用いて説明すると、吊下げリンク移動式耕起機16は、複数の耕起用爪6を格子状の機枠7から斜め後方に千鳥状又は列状に突設して、配設したものである。この吊下げリンク移動式耕起機16は、その機枠7に五節リンク状腕16aを結び付け、上下に移動できると共に、船20に五節リンク状腕16aが固定されているから、船の移動と共に移動する。また、船20の海面30上での移動は、船20から四方向に沈埋した4つのアンカー22それぞれにアンカー用ワイヤ22aが船20と繋がれ、船上のウインチ(図示しない)で4本のアンカー用ワイヤ22aを引き込み又は繰り出すことにより行うことができる。この船20の移動により、一端を船20に固定された吊下げリンク移動式耕起機16を海底において移動させることができる。また、吊下げリンク移動式耕起機16の移動により覆砂層を耕起するから、耕起用爪6の形状も貫入し、鋤易い先鋭部のある円筒形状がよい。
【0041】
この吊下げリンク移動式耕起機16の耕起作用を説明すると、吊下げ移動式耕起機15は船20の五節リンク状腕16aにより船20に固定されているために、海底まで下ろすことなく一定深度の維持が可能で、機枠7に突設してある耕起用爪6を固結化した覆砂層1に貫入し、次いで、船20がアンカー用ワイヤ22aを使って移動すると共に、牽引用ワイヤ20aにより吊下げリンク移動式耕起機16が海底を移動するから、それに伴って複数ある耕起用爪6が移動して、覆砂層1を鋤き起こして砕壊し、元の状態に近い砕壊覆砂層2に耕起する。この際、耕起用爪6は千鳥状に配列してあると掘り起こしもれを防ぐことができる。また、該耕起用爪6は後方を向いているので、ゴミなどの絡み付きを防止し、一定深度の維持が可能だから底面のみを掘り起こすことで汚濁の拡散を防止できる。また、船20の移動は、前述のアンカー用ワイヤ22aによる移動の他に、曳き船により移動することも可能である。また、五節リンク状腕16aにより吊下げリンク移動式耕起機16を設置する水深は自由に設定ができ、比較的深い水深、10mでも可能である。
【0042】
また、耕起具として掴みバケット17(請求項8)について、図3、図10に基づいて説明すると、複数の耕起用爪を掴み部の先端部に設けた掴みバケット17であって、該掴みバケット17が船20上から吊り下げクレーン21により上下移動用吊りワイヤ21a及び開閉用ワイヤ21bにて吊り下げて設けられている。また、掴みバケット17をマス目状の専用バケットにすることで、掴み込まれた固結化覆砂層1はマス目を介して外に排出する時にほぐすこともできる。また、船20の移動は、前述のアンカー用ワイヤ22aによる移動の他に、曳き船により移動することも可能である。
【0043】
耕起具として掴みバケット17による耕起作用を説明すると、船20上から吊り下げクレーン21により掴みバケット17を開いて下ろすことで、掴み部の先端に設けた複数の耕起用爪が覆砂層1に潜り込み、次いで、掴みバケット17を閉じることにより覆砂層1を掘り起こして掴みバケット17内に取り込んで砕壊し、次いで、掴みバケット17を開閉用ワイヤ21bにより開くことで砕壊された覆砂を元の位置に戻して、覆砂層1を耕起する。また、掴みバケットの水平掘り機能を持たせることで一定深さの掘り起こしも可能である。また、掴みバケット17をマス目状の専用バケットにすることで、掴み込まれた固結化覆砂層1はマス目を介して外に排出する時にほぐすこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
鉄鋼業の銑鉄製造時の副産物である高炉水砕スラグを覆砂層に活用して浅海の海底のみならず、湖沼や河川の汽水域における底土の土質の改良及びその維持を行い、底棲生物の棲息環境の改善に貢献するから、養魚、養貝の分野について広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の最良の実施形態である海底耕起による海底土質改良方法の説明図であって、海底耕起の模式図で、(a)は耕起前の海底覆砂の状態、(b)は耕起後の海底覆砂の状態、(c)耕起具による耕起状態の一例である。
【図2】本発明の最良の実施形態である海底耕起による海底土質改良方法に用いる耕起具の説明図であって、重力式回転耕起機を備えた船による海底耕起の模式図で、(a)は平面状態図、(b)は側面状態図である。
【図3】本発明の最良の実施形態である海底耕起による海底土質改良方法に用いる耕起具の説明図であって、重力落下式耕起機を備えた船による海底耕起の模式図で、(a)は平面状態図、(b)は側面状態図である。
【図4】本発明の最良の実施形態である海底耕起による海底土質改良方法に用いる耕起具の説明図であって、吊下げ移動式耕起機を備えた船による海底耕起の側面状態の模式図である。
【図5】本発明の最良の実施形態である海底耕起による海底土質改良方法に用いる耕起具の説明図であって、バックホウ式耕起機を備えた船による海底耕起の側面状態の模式図である。
【図6】本発明の最良の実施形態である海底耕起による海底土質改良方法に用いる耕起具の説明図であって、吊下げリンク移動式耕起機を備えた船による海底耕起の側面状態の模式図である。
【図7】本発明の最良の実施形態である海底耕起による海底土質改良方法に用いる耕起具の説明図であって、回転耕起機の模式的斜視図である。
【図8】本発明の最良の実施形態である海底耕起による海底土質改良方法に用いる耕起具の説明図であって、重力落下式耕起機の模式的斜視図である。
【図9】本発明の最良の実施形態である海底耕起による海底土質改良方法に用いる耕起具の説明図であって、吊下げ移動式耕起機の模式的斜視図である。
【図10】本発明の最良の実施形態である海底耕起による海底土質改良方法に用いる耕起具の説明図であって、掴みバケットによる海底耕起の説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1:覆砂層 2:砕壊覆砂層 3:泥層 4:海底 5;耕起具 6:耕起用爪 7:機枠 7a:吊り環 8:回転ロール
11:重力式回転耕起機 12:回転耕起機 13:重力落下式耕起機 14:バックホウ式耕起機 14a:バックホウ作動腕 15:吊下げ移動式耕起機
16:吊下げリンク移動式耕起機 16a:リンク腕 17:掴みバケット
20:船 20a:牽引用ワイヤ 21:吊下げ用クレーン
21a:吊りワイヤ 21b:開閉用ワイヤ 22:アンカー
22a:アンカー用ワイヤ 30:海面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉水砕スラグの覆砂による海底の土質改良であって、固結化した覆砂層が耕起具の耕起用爪により耕起され、かつ、砕壊されて粒状化することを特徴とする海底耕起による海底土質改良方法。
【請求項2】
請求項1に記載の海底耕起による海底土質改良方法において、耕起具として、複数の耕起用爪を回転ロールの周方向及び幅方向に、かつ、列状又は千鳥状に突設した耕起機であって、該耕起機が船上から吊り下げクレーンにより上下移動可能に吊り下げて設けられている重力式回転耕起機を用いることを特徴とする海底耕起による海底土質改良方法に用いる装置。
【請求項3】
請求項1に記載の海底耕起による海底土質改良方法において、耕起具として、複数の耕起用爪を回転駆動ロールの周方向及び幅方向に、かつ、列状又は千鳥状に突設した耕起機であって、該耕起機が船上からの伸縮、傾動及び回動可能な作動腕の先端部に設けられている回転耕起機を用いることを特徴とする海底耕起による海底土質改良方法に用いる装置。
【請求項4】
請求項1に記載の海底耕起による海底土質改良方法において、耕起具として、複数の耕起用爪を機枠からほぼ垂直下方に、かつ、平面的に列状又は千鳥状に突設した耕起機であって、該耕起機を船上から吊り下げクレーンにより吊り上げた後、自由落下させる重力落下式耕起機を用いることを特徴とする海底耕起による海底土質改良方法に用いる装置。
【請求項5】
請求項1に記載の海底耕起による海底土質改良方法において、耕起具として、複数の耕起用爪を機枠からほぼ垂直下方に、かつ、平面的に列状又は千鳥状に突設した耕起機であって、該耕起機が船上からの伸縮、傾動及び回動可能の作動腕の先端部に設けられているバックホウ式耕起機を用いることを特徴とする海底耕起による海底土質改良方法に用いる装置。
【請求項6】
請求項1に記載の海底耕起による海底土質改良方法において、耕起具として、複数の耕起用爪を機枠から斜め下に又はほぼ垂直下方に、かつ、平面的に列状又は千鳥状に突設した耕起機であって、該耕起機が船上から吊り下げクレーンにより上下移動可能に吊り下げられると共に、船から牽引移動可能に設けられた吊下げ移動式耕起機を用いることを特徴とする海底耕起による海底土質改良方法に用いる装置。
【請求項7】
請求項1に記載の海底耕起による海底土質改良方法において、耕起具として、複数の耕起用爪を機枠から斜め下に又はほぼ垂直下方に、かつ、平面的に列状又は千鳥状に突設した耕起機であって、該耕起機が船上から五節リンク状腕により上下移動可能に吊り下げられると共に、船から牽引移動可能に設けられた吊下げリンク移動式耕起機を用いることを特徴とする海底耕起による海底土質改良方法に用いる装置。
【請求項8】
請求項1に記載の海底耕起による海底土質改良方法において、耕起具として、複数の耕起用爪を掴み部の先端部に設けた掴みバケットであって、該掴みバケットが船上から吊り下げクレーンにより上下移動及び開閉可能に吊り下げて設けられている掴みバケットを用いることを特徴とする海底耕起による海底土質改良方法に用いる装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−333780(P2006−333780A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−162442(P2005−162442)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(505124867)神鋼スラグ製品株式会社 (3)
【出願人】(599027312)株式会社 吉田組 (5)
【Fターム(参考)】