説明

海底鉱物処理システム

【課題】 海底に存在する金属鉱物資源開発の経済性の向上、ならびに、脈石処分の問題を解決するために、海底において採取された鉱石を、海底において粉砕、分離し、精鉱のみを海上又は陸上まで移送し、脈石を海上に揚鉱することなく海底において処分することができる海底鉱物処理システムを提供する。
【解決手段】 海底1に存在する熱水鉱床2の鉱物資源を採鉱する海底に設けた採鉱機10と、採鉱機10で採鉱した鉱物資源を粉砕する海底1に設けた粉砕手段20と、粉砕手段20で粉砕した鉱物資源から精鉱と脈石を選別する海底1に設けた海底鉱物処理用カラム浮選機40と、精鉱を海上の母船70に揚鉱する精鉱揚鉱手段60を備えており、海底鉱物処理用カラム浮選機40は、脈石を海底1に排出する排出口を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用金属鉱物以外の不要な岩石すなわち脈石を海上に揚鉱することなく海底において処分することにより、海底に存在する金属鉱物の経済的な資源開発を可能とする海底鉱物処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
深海底には、鉄、モリブデン、コバルト、ニッケル、マンガン、銅などの有用金属鉱物が存在している。これら有用金属鉱物を採取するための採取方法や装置が種々提案されている(特許文献1〜4)。
【0003】
特許文献1には、深海底で集鉱した鉱物団塊を集鉱直後に細粒に粉砕し、その細粒を可撓性の輸送ホースを介して海上の船舶に揚鉱して採取する海底鉱物資源の採取方法が記載されている。
しかし、この採取方法は、海底において集鉱した鉱物資源をそのまま揚鉱するものである。このため、細粒中に多量に含まれている不要な岩石(脈石)をも海底から採取することになる。したがって、鉱石中に含まれている有用な鉱物(精鉱)と共に脈石も海上に揚鉱し、陸上まで輸送するためのエネルギーが必要となる。このことは、鉱物の資源としての経済性を損なう原因となる。
【0004】
特許文献2には、深海底の団塊状海底資源の採鉱を効率良く経済的に行うために、噴射ポンプを用いて、吸込用高圧水流管の先端に備えたジェットノズルから高速度で海水を噴射して、揚鉱の際に大量の粘土塊を団塊状海底資源と共に引き上げることを防ぐことにより、エネルギー損失を防止する採鉱装置が記載されている。
しかし、この採鉱装置は団塊状海底資源を対象としており、破砕して採取される鉱物資源に用いられるものではない。
【0005】
特許文献3には、海底に堆積、埋設、あるいは鉱脈として存在する有用金属等を海水との混合水として吸い込んで母船内に持ち上げ、水と有用金属等を分別した後、残余の混合水を再び海中に戻す海底資源の採取方法が記載されている。
しかし、この海底資源の採取方法は、母船内に吸い上げた後に水と有用金属等とを分別するものである。このため、有用金属等以外の不要物を母船内に吸い上げるためのエネルギーが必要となり、このことは有用金属等の資源としての経済性を損なう原因となる。また、この採取方法も団塊状海底資源を対象としており、破砕して採取される鉱物資源に用いられるものではない。また、混合水を再び海中に戻す方法であるため、混合水は海水中で容易に拡散し、混合水中の固形物も非常に広範囲に散逸するものである。
【0006】
特許文献4には、深海地層からの鉱物採取において、鉱物採取量及び効率を向上させること並びに海面のうねりや悪天候などの影響を避けることを目的として、母船、水中ステーション、リレーブロック及び採取車の間を採集鉱輸送管とエネルギー供給ケーブルで結んだ採鉱施設が記載されている。この採鉱施設は、リレーブロックの有するふるい格子付きのサイロにおいて、採取車から採鉱輸送管を介して汲み上げた汲み上げ混合物を選鉱及び洗鉱するものである。
しかし、この採鉱施設も所定の大きさの団塊状海底資源を対象としており、破砕して採取される鉱物資源に用いられるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−141175号公報
【特許文献2】特開平2−27515号公報
【特許文献3】特開2000−248874号公報
【特許文献4】米国特許第4,685,742号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したとおり、特許文献1に記載の鉱物団塊を採取する方法は、鉱物団塊を粉砕するが、精鉱と共に脈石をも海上に揚鉱し、陸上まで輸送するものであるから、このことが鉱物の資源としての経済性を損なう原因となる。また、特許文献2〜4に記載のものは、いずれも団塊状海底資源そのものを対象としており、破砕して採取される鉱物資源に用いられるものではない。このように、従来の採鉱装置、採鉱施設及び海底資源採取方法は、経済性を損なうことなく、破砕して採取される鉱物資源を海底から採取するものではない。
また、特許文献1に記載の鉱物団塊を採取する方法のように、精鉱と脈石とを選別することなく揚鉱し陸上に輸送した場合、鉱石を粉砕、分離して精鉱を回収した後に残った脈石が不要な重金属等を含んでいることがある。このため、環境への負荷が少ない方法を用いて廃棄する等、脈石を適正に処分しなければならない。この脈石の処分に要するコストも資源開発における経済的な負担となる。
そこで、本発明は、海底に存在する金属鉱物資源開発の経済性の向上、ならびに、脈石処分の問題を解決するために、海底において採取された鉱物団塊を含めた鉱石を、海底において粉砕、分離し、精鉱のみを海上又は陸上まで移送し、脈石を海上に揚鉱することなく海底において処分することができる海底鉱物処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の本発明の海底鉱物処理システムは、海底に存在する鉱物資源を採鉱する海底に設けた採鉱手段と、前記採鉱手段で採鉱した前記鉱物資源を粉砕する海底に設けた粉砕手段と、前記粉砕手段で粉砕した前記鉱物資源から精鉱と脈石を選別する海底に設けた海底分離手段と、前記精鉱を海上あるいは地上に揚鉱する精鉱揚鉱手段と、前記脈石を海底に処分する脈石処分手段を備えたことを特徴とする。
上記の構成によれば、海底で採鉱手段により採鉱された鉱物資源を破砕し、破砕した鉱物資源を海底で精鉱と脈石に分離した後に、精鉱を揚鉱し、脈石を海底に処分することができる。ここで、「海底」には、海底面のみではなく、海底部における海中すなわち海底面から所定高さの範囲内の領域、より具体的には海面から海底面の間の中間点から海底側の領域及び海底面よりも下側の領域も含まれる。また、「地上」には、陸地に近い浅い海において海面又は海面から所定の高さに設けられた構造物なども含まれる
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の海底鉱物処理システムにおいて、前記海底分離手段が、前記鉱物資源の性質に基づいて前記精鉱と前記脈石を選別するものであることを特徴とする。
上記の構成によれば、前記鉱物資源の種類に応じた種々の性質に応じて、海底分離手段により精鉱と脈石とを分離することができる。ここで、「鉱物資源の性質」とは、鉱物資源そのものが有する性質をいい、例えば、比重や磁性のような物性、親水性、疎水性、水中で受ける浮力のようなものが挙げられる。
請求項3に記載の本発明は、請求項2に記載の海底鉱物処理システムにおいて、前記海底分離手段が、空気又はガスを循環させた浮遊選鉱手段であることを特徴とする。
上記の構成によれば、浮遊選鉱手段中に空気又はガスを圧入させることにより、精鉱のみを浮遊させることができるため、破砕した鉱物資源中の精鉱と脈石とを分離することができる。一般に精鉱は脈石よりも親水性が低いため、浮遊選鉱手段中で海水中を空気又はガスを圧入させることにより、泡の周囲に付着した状態の精鉱を浮遊選鉱手段の上部に集めることができる。また、浮遊選鉱手段において空気又はガスを循環させることにより、これらを再利用することができる。
請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の海底鉱物処理システムにおいて、前記空気又は前記ガスを、海上あるいは地上に設けた送気手段から供給したことを特徴とする。
上記の構成によれば、浮遊選鉱手段中を循環させるために十分な量の空気又はガスを地上から供給することができる。
請求項5に記載の本発明は、請求項1から4のうちの1項に記載の海底鉱物処理システムにおいて、前記粉砕手段及び/又は前記海底分離手段が、水平調節手段を有していることを特徴とする。
上記の構成によれば、粉砕手段及び/又は海底分離手段を水平に保ち、傾斜を防ぐことが可能となる。
【0010】
請求項6に記載の本発明の海底鉱物処理システムは、海底に存在する鉱物資源を採鉱する海底に設けた採鉱手段と、前記採鉱手段で採鉱した前記鉱物資源を粉砕する海底に設けた粉砕手段と、前記粉砕手段で粉砕した前記鉱物資源を海上に揚鉱する揚鉱手段と、前記揚鉱手段で揚鉱された前記鉱物資源から精鉱と脈石を海上で分離する海上分離手段と、前記脈石を海底に処分する脈石処分手段を備えたことを特徴とする。
上記の構成によれば、採鉱手段により採鉱された鉱物資源を破砕し、破砕した鉱物資源を精鉱と脈石に分離し、精鉱を揚鉱し、脈石を海底に処分することができる。
【0011】
請求項7に記載の本発明は、請求項1から請求項6のうちの1項に記載の海底鉱物処理システムにおいて、前記粉砕手段が、海上あるいは地上に設けた送気手段から空気又はガスの補給を受け、空気又はガスを介在させた中で機械的な力により前記鉱物資源を粉砕することを特徴とする。
上記の構成によれば、粉砕手段による粉砕が海水中ではなく空気又はガスを介在させた中で行われるから、海水の抵抗がなく機械的な力を鉱物資源に効率よく伝えることができる。
請求項8に記載の本発明は、請求項7に記載の海底鉱物処理システムにおいて、前記粉砕手段が、ボールミルを含んでいることを特徴とする
上記の構成によれば、鉱物資源を微細に粉砕することができる。なお、粉砕手段は、ボールミル単独で構成することとしても、粗砕用のジョークラッシャーなどと組み合わせて用いることとしてもよい。
請求項9に記載の本発明は、請求項1から請求項8のうちの1項に記載の海底鉱物処理システムにおいて、少なくとも前記採鉱手段と前記粉砕手段が、ユニット体として海底に設けられていることを特徴とする。
上記の構成によれば、採鉱手段と粉砕手段との位置関係を固定することができる。
請求項10に記載の本発明は、請求項1から請求項9のうちの1項に記載の海底鉱物処理システムにおいて、前記脈石処分手段が、前記脈石を前記採鉱手段で採鉱した同一場所あるいはその近傍の海底に処分するものであることを特徴とする。
上記の構成によれば、不要な脈石をもとの場所に戻すことができる。ここで「その近傍」とは、脈石が採鉱された場所から、海底環境に影響しない範囲内の領域をいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、不要な脈石を揚鉱することなく海底で処分して海底から精鉱のみを揚鉱することができるから、脈石の揚鉱に要するコストを削減し、海底に存在する金属鉱物資源開発の経済性を向上させることができる。また、海底において、鉱物資源の粉砕及び分離が実施されるため、騒音や粉塵の発生等、処理に伴う周囲の人間社会への影響が軽減できる。さらに、鉱物が採取された海底で脈石を処分することができるから、海水中への拡散や逸散を防ぎ、脈石処分による環境問題を解決することができる。
また、海底分離手段を鉱物資源の性質に基づいて精鉱と脈石とを選別する構成とすれば、鉱物資源の種々の性質に応じて適切に精鉱と脈石とを分離する手段を選ぶことが可能となり、例えばふるい格子のように海水中での選鉱が水による抵抗の影響を受け、選鉱時間が非常にかかるようなことが防止できる。
また、前記海底分離手段を空気又はガスを循環させた浮遊選鉱手段により構成すれば、浮遊選鉱手段に用いられる空気又はガスを海底で再利用することができるから、大量の空気又はガスを浮遊選鉱中に常時、海上あるいは陸上から供給するためのエネルギーが不要となり、金属鉱物資源開発の経済性を向上させることができる。
また、粉砕手段及び/又は海底分離手段が、水平調節手段を有している構成とすれば、粉砕手段及び/又は海底分離手段を水平に保つことが可能となるから、傾斜による効率の低下や機能が損なわれるといった事態を防止して、これらを効率良くかつ確実に機能させることができる。
また、粉砕手段が、空気又はガスを介在させた中で機械的な力により鉱物資源を粉砕する構成とすれば、水による抵抗を受けず鉱物資源の粉砕を空気又はガス中で効率良く行うことができる。
また、粉砕手段が、ボールミルを含んでいる構成とすれば、鉱物資源を微粉砕することができるから、海底分離手段による精鉱と脈石の分離効率を向上させることができる。
また、採鉱手段と粉砕手段がユニット体として海底に設けられている構成とすれば、これら手段の取り扱いが容易になる。例えば、採鉱手段と粉砕手段を海上からつり下げて降ろす場合に、両者の位置関係を固定して一体のものとして取り扱うことができるから、海底への設置及び海底からの引き上げが容易になる。
また、脈石処分手段により前記脈石を前記採鉱手段で採鉱した同一場所あるいはその近傍の海底に処分する構成とすれば、不要な脈石を採鉱したもとの場所に戻すことができるから、海水中への拡散や散逸を防ぎ、脈石処分による環境への影響を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1の海底鉱物処理システムの概略構成を模式的に示す模式図
【図2】(a)従来の処理プロセスを示すプロセスチャート(b)本発明の海底鉱物処理システムの処理プロセスを示すプロセスチャート
【図3】海底鉱物処理用ボールミルの概略構成を示す断面図
【図4】海底鉱物処理用カラム浮選機の概略構成を示す断面図
【図5】水平調節装置の概略構成を示す正面図
【図6】本発明の実施の形態2の海底鉱物処理システムの概略構成を模式的に示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1につき、図面を参照しつつ以下に説明する。
図1は本発明の海底鉱物処理システム100の概略構成を模式的に示す概略図である。同図に示すように、本発明の海底鉱物処理システム100は、海底1の熱水鉱床2等に存在する鉱物資源を採鉱する採鉱機(採鉱手段)10と、採鉱機10で採鉱した鉱物資源を粉砕する海底に設けた粉砕手段20と、粉砕手段20で粉砕した鉱物資源から精鉱と脈石を選別する海底に設けた海底鉱物処理用カラム浮選機(海底分離手段)40と、精鉱を海上の海面3に位置する母船(送気手段)70に揚鉱する精鉱揚鉱手段60とを備えている。なお、本実施の形態の海底鉱物処理システム100では、後に説明するように海底鉱物処理用カラム浮選機40の排出口54(図4参照)が脈石処分手段として機能する。
【0015】
図2(a)は従来の処理プロセスを示すプロセスチャートであり、図2(b)は本発明の海底鉱物処理システムの処理プロセスを示すプロセスチャートである。図2(b)のプロセスチャートに示すとおり、海底鉱物処理システム100は、海底1において、採鉱機10が採鉱した鉱物資源の鉱石(以下、適宜「原鉱」という。)を粉砕し、不要な脈石の分離及び処分を行った後に、精鉱を揚鉱、輸送して製錬するものである。
このように、海底鉱物処理システム100は、不要な脈石が取り除かれた精鉱を揚鉱及び輸送の対象としているから、脈石を揚鉱し輸送するためのエネルギーが不要となる。したがって、海底鉱物処理システム100を用いることにより、海底1に存在する金属鉱物資源開発の経済性を向上させることができる。
【0016】
さらに、図2(a)に示すように、従来の処理プロセスは、揚鉱後に騒音を伴う粉砕及び分離を行うものであるから、騒音等の問題も生じる。対して、図2(b)に示すように、本実施の形態の海底鉱物処理システム100は、粉砕及び分離を海底1付近において行い、元々存在していた海底1に脈石を戻すものである。このため、海底鉱物処理システム100によれば、海上に揚鉱し、地上に輸送した後に脈石を処分する場合に生じる騒音や海水中への拡散や散逸といった環境への問題を解決することができる。
なお、図1に示した海底鉱物処理システム100は、通常、海面3からの深さが1000メートル以上の深海底において用いられるものであるが、深い湖沼底で鉱物が発見された場合等には湖沼で用いることも可能である。
【0017】
以下に、海底鉱物処理システム100の構成について説明する。
採鉱機10は、深海底の熱水鉱床2に存在する有用金属鉱物などの鉱物資源を採取するものである。本実施の形態では、採鉱機10の前方に設けられている切削機11により鉱物資源を採取するが、切削機11の代わりに、例えば、鉱物資源を吸引して採取する吸引手段などを用いることもできる。また、海底1において任意の方向に移動する手段として、採鉱機10はその両側にクローラー12を備えている。なお、図1には示していないが、採鉱機10は深海において視界が不良な状況下での作業を可能とするための検知手段や撮像手段等を備えている。
【0018】
粉砕手段20は、連結管13を介して海底1で採鉱機10により採取された原鉱を受け入れ、海底鉱物処理用カラム浮選機40による分離及び精鉱揚鉱手段60による揚鉱に充分なサイズにまで粉砕するものである。
海底鉱物処理システム100では、海底鉱物処理用カラム浮選機40を用いて精鉱と脈石とに分離する。精鉱は、海底鉱物処理システム100により海面3の母船70に移送され、最終的には製錬所で製錬される。脈石は海底の処分区画55等に排出されて、処分される(図2(b)参照)。なお、海底鉱物処理用カラム浮選機40により分離された精鉱は、熱水鉱床2が陸の近傍に存在する場合などには、母船70ではなく陸に直接移送することもできる。
【0019】
粉砕手段20は、粗砕機(図示せず)と微粉砕機を備えている。そして、粉砕手段20による原鉱の粉砕プロセスでは、粗砕機を用いて原鉱を数mm〜数cmのサイズにまで粗砕し、さらに微粉砕機を用いて数十μm〜百数十μm程度にまで微粉砕する。粗砕機としては、例えば、ジョークラッシャーやジャイレトリークラッシャーを使用することができる。微粉砕機としては、例えば、ボールミルを使用することができる。ボールミルとは、回転する容器と、その内部に封入された鋼球との間に砕料(粉砕される物質)が挟まれ、荷重や衝撃力を与えられることによって、物質を粉砕する装置である。
地上で用いられているボールミルを海中で使用する場合、開口部からその内部に水が流入する。このため、海水の作用により物質を粉砕する際における鋼球の抵抗が増加して、鋼球の粉砕力が低下する。したがって、地上で用いられているボールミルを海底で使用するには、上述した抵抗の増加を防止するための構成を採用する必要がある。
【0020】
図3は、海底鉱物処理用ボールミル21の概略構成を示す断面図である。海底鉱物処理用ボールミル21では、連結管13(図1参照)を介して採鉱機10に連結されている投入管22が挿入されている開口部23が封止部材29で覆われている。また、処理部24内に空気又はガス(以下、適宜「空気等」という。)を圧入するための圧縮空気圧入用ホース26が開口部23の封止部材29を貫通するように設けられている。この圧縮空気圧入用ホース26から、処理部24内に圧縮空気等を供給することにより、処理部24内に海水が流入することを防止し、処理部24内に充分な量の空気等を確保できる。これにより、海水の作用により鋼球25の抵抗が増加し、鋼球25の粉砕力が低下することを防止できる。この結果として、海底鉱物処理用ボールミル21は、海底において十分な粉砕能力を発揮することが可能となる。なお、海底鉱物処理システム100においては、圧縮空気圧入用ホース26への空気等の供給は、後述する連結管61と併行に設けられている空気供給管71を介して行われる(図1参照)。
このように、その内部の処理部24に空気等を供給する圧縮空気圧入用ホース26を備えている海底鉱物処理用ボールミル21を使用することにより、次の分離プロセスに投入するのに充分な程度にまで原鉱を微粉砕することが可能になる。
海底鉱物処理用ボールミル21において微粉砕された原鉱は、処理部24内に連結された吸引管27からポンプ28を用いて吸引されて、海底鉱物処理用カラム浮選機40(図1参照)へと供給される。
なお、海底鉱物処理用ボールミル21は、上記構成の他に、モータ、減速器、ベアリング、給電設備などを備えている。
また、処理部24内に圧入される空気以外のガスとしては、例えば窒素ガス等が用いられる。なお、機械的な力により鉱物資源を粉砕する手段として空気やガスが介在する中で粉砕することに利点がある手段は、ボールミルの他、ロッドミルやハンマークラッシャ等がある。
【0021】
分離プロセスでは、微粉砕された原鉱を精鉱と脈石に分離する。陸上での分離装置としては様々な型式のものが知られているが、海底のように人為的なアクセスが困難な環境に設置する装置としては、機構が単純で故障の生じにくいものが適している。このような理由により、本実施の形態の海底鉱物処理システム100は、浮遊選鉱(浮選)と呼ばれる分離方式に基づく、カラム浮選機と呼ばれる装置形式である海底鉱物処理用カラム浮選機40を用いている。
図4に海底鉱物処理用カラム浮選機40の概略構成を示す断面図を示す。同図に示すように、海底鉱物処理用カラム浮選機40では、微粉砕された粒子と水を充填したカラム状の構造物であるカラム41内下部に設けられている気泡発生ノズル42から空気等を圧入し、気泡B(図では白抜きの丸で示す。)を発生させて、カラム41内に下から上への気泡Bの流れを形成する。そして、気泡発生ノズル42より上から精鉱粒子M(図では黒塗り三角で示す。)と脈石粒子S(図では白抜きの四角で示す。)と水との混在物であるパルプPをカラム41内に投入することにより、精鉱粒子Mのみを気泡Bの表面に付着させて(B+M)上昇させ、脈石粒子Sを沈降させることができる。このようにして、カラム41内にパルプPを投入することにより、精鉱粒子Mと脈石粒子Sとを分離することができる。
【0022】
海中で海底鉱物処理用カラム浮選機40を使用する場合、まず、気泡Bの発生に必要な空気等を供給する必要があるが、この空気等は海上又は陸上から供給することとすればよい。そして、一旦気泡Bとしてカラム41内を上昇した後にカラム上端部(オーバーフロー部)43に滞留した気泡Bは、海底鉱物処理用カラム浮選機40内から除去され、海中に放出されたのち、海面3(図1参照)まで達した後に大気中に放出される。
しかし、空気等を海中に放出し空気等を海上又は陸上から新たに供給することにより、精鉱粒子Mと脈石粒子Sとを分離することは経済的ではない。なぜなら、深海底での海底鉱物処理用カラム浮選機40による選別において、海上又は陸上から海底鉱物処理用カラム浮選機40に空気等を供給するためには、海底での水圧が相当高くなることから(水深1000メートルで100気圧)、非常に大きなエネルギーを要するからである。
そこで、海底鉱物処理システム100は、海底鉱物処理用カラム浮選機40に供給された空気等を再利用し、所定量の空気等が供給された後は、再利用における漏洩や海水中への溶解により不足した場合に、不足分の空気等を追加する構成としている。このように、気泡発生ノズル42からカラム41内に圧入された空気等をカラム上端部43から回収し、気泡発生ノズル42からの気泡発生に繰り返し使用すること、すなわち空気等を再循環させることにより、気泡Bの発生に要するエネルギー効率を向上させて、効率的、経済的な精鉱Mと脈石Sとの分離を実現している。
【0023】
海底鉱物処理用カラム浮選機40は、気泡発生ノズル42から圧入した空気等を再利用するために、カラム41とともに、気泡B発生用の空気等を一時的に貯留するアキュムレータ44、空気等を再循環させて圧入するためのポンプ45、海上又は陸上から空気等を供給するためのホース46、これらを接続するための配管47・48、バルブ49を備えている。
より具体的には、アキュムレータ44は、ホース46、配管47・48と連通されている。そして、母船70(図1参照)内に設けられている送気手段(図示せず)から供給された空気等は、後述する連結管61と併行に設けられている空気供給管71を介して、ホース46からアキュムレータ44内に供給され、配管47を介してカラム41内下部の気泡発生ノズル42に供給される。そして、アキュムレータ44は、カラム上端部43の空間50に連通されている配管48を介してカラム41から空気等を回収する。当該回収は、配管48の備えているポンプ45及びバルブ49を制御することにより行う。
なお、カラム41、アキュムレータ44、ホース46、配管47・48、バルブ49等は密閉容器ではないため、耐圧性を備えたものにより構成することは必要ではない。また、海底鉱物処理システム100では、空気供給管71を、ホース46と粉砕手段20の圧縮空気圧入用ホース26(図3参照)に共通の空気等の供給手段として用いているが、各々別のものにより構成することとしても良い。
なお、海底での選鉱に当たり、空気あるいはガスを循環させて選鉱を行う方法は、海底鉱物処理用カラム浮選機40のような浮遊選鉱手段以外にも、静電選鉱、磁気選鉱、比重選鉱、空気選鉱といったおよそ海水が介在することにより、地上とは選鉱条件が異なり不具合を生じるあらゆる選鉱手段に思想的に適用できるものである。
【0024】
気泡Bがカラム上端部43に溜まった泡沫51とともに流出した精鉱Mは、ポンプ52を備えた配管53を介して精鉱揚鉱手段60(図1参照)へと送られて、海面3の母船70へと揚鉱される。
精鉱揚鉱手段60は、連結管53を介して海底鉱物処理用カラム浮選機40に連結されており、連結管61を介して海面3の母船70に連結されており、海底鉱物処理用カラム浮選機40により脈石が分離された精鉱を母船70に揚鉱するものである。
海底鉱物処理システム100では、精鉱を母船70に揚鉱した後、陸地に輸送して製錬することとしているが、陸地の近くにおいて海底鉱物処理システム100が用いられる場合は、母船70に揚鉱せずに、精鉱を陸地に直接揚鉱することとしても良い。また、揚鉱は母船70にして、空気は陸上に設けた送気手段から供給することもできる。
【0025】
海底鉱物処理用カラム浮選機40において分離された脈石は、カラム41下部において開口している排出口54から排出される。海底鉱物処理用カラム浮選機40の設置前に処分区画55(図1参照)に脈石処分穴等を用意しておき、その脈石処分穴に脈石を処分することにより、脈石が海中に流出して環境に対して悪影響を及ぼすことを防止して、脈石を適切に処分することが可能となる。
【0026】
海底鉱物処理システム100の粉砕手段20と海底鉱物処理用カラム浮選機40とは、ユニットとして構成することとしても良い。両者をユニットとして構成すれば、これらを海底1に設置する際及び海底1から引き上げる際の作業工程を少なくすることができる。
【0027】
図5は水平調節装置(水平調節手段)80の概略構成を示す正面図である。同図に示すように、水平調節装置80は、架台81、支柱82、アクチュエータ83及び傾斜計84を備えている。架台81は、その上に粉砕手段20及び/又は海底鉱物処理用カラム浮選機40(図1参照)を載置するものである。架台81はその四隅に設けられている支柱82よって海底1上に設けられている。そして架台81の海底1側に設けられている傾斜計84の測定結果に基づいた信号を受けて、各支柱82の海底1側に設けられているアクチュエータ83により支柱82を伸縮させることで、架台81を水平に保つことができる。これにより、粉砕手段20や海底鉱物処理用カラム浮選機40が傾斜して、これらの効率が落ちたり、機能が損なわれたりすることを防止して、海底鉱物処理システム100による粉砕及び分離を効率良く行うことができる。
特に、海底鉱物処理システム100は、海底鉱物処理用カラム浮選機40を用いているから、水平調節装置80により水平に設置された状態を確保することが、精鉱と脈鉱との分離を効率良く行うために有効である。
なお、水平調節装置80は架台81の水平を保つためのものであるから、4つの支柱82の全てにアクチュエータ83が設けられていることは必ずしも必要ではなく、支柱82のうち水平調節に必要なものにのみアクチュエータ83を設けることとしても良い。
【0028】
(実施の形態2)
本発明を母船70上に備えられた海底鉱物処理用カラム浮選機(海上分離手段)40を用いて実施した海底鉱物処理システム200について、図6を参照しつつ以下に説明する。なお、実施の形態1において説明したものについては、同じ番号を付して本実施の形態では説明を省略する。
海底鉱物処理システム200は、採鉱機10、粉砕手段20と、海底鉱物処理用カラム浮選機40及び精鉱揚鉱手段60を備えている点において、海底鉱物処理システム100と同じであるが、海底鉱物処理用カラム浮選機40が、海底1ではなく、海面3の母船70上に設けられている点において、海底鉱物処理システム100と相違している。
このため、本実施形態の海底鉱物処理システム200では、吸引管27により粉砕手段20と精鉱揚鉱手段60とが連結されており、精鉱と脈石とが分離される前の状態で、精鉱揚鉱手段60により海面3まで揚鉱される。そして、母船70上の海底鉱物処理用カラム浮選機40により精鉱と脈石とを分離して、不要な脈石を海底1に処分(廃棄)する。
したがって、製錬のための輸送の後に精鉱と脈石とを分離する従来の海底鉱物処理システム(図2(a)参照)と比較して、脈石を輸送しない分だけ輸送効率が向上し、また、脈石の処分を容易に行うことができる。
海底鉱物処理システム200では、海底鉱物処理用カラム浮選機40の排出口54から排出された脈石は、連結管61と併行して設けられている排出管62及びその先端に設置された排出ノズル63を介して、処分区画55にて処分される。を介して、海底1に廃棄される。これにより、脈石をもともと存在していた海底に戻し、環境への影響を小さくすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、海底において採取された鉱石を、海底において粉砕、分離し、精鉱のみを海上まで移送し、脈石を海上に揚鉱することなく海底において処分することができる海底鉱物処理システムとして利用することができる。
また、海底で採鉱、粉砕を行った原鉱を揚鉱した後、海上で分離を行って脈石を海底に処分し、精鉱のみを陸上に輸送する海底鉱物処理システムとして利用することもできる。
なお、本発明が陸地に近い位置に利用される場合、海底で分離された精鉱を直接陸上に揚鉱することとしてもよい。
【符号の説明】
【0030】
10 採鉱機(採鉱手段)
20 粉砕手段
21 海底鉱物処理用ボールミル(粉砕手段)
40 海底鉱物処理用カラム浮選機(海底分離手段、浮遊選鉱手段、海上分離手段)
54 排出口(脈石処分手段)
60 精鉱揚鉱手段
62 排出管(脈石処分手段)
63 排出ノズル(脈石処分手段)
70 母船(送気手段)
80 水平調節装置(水平調節手段)
100、200 海底鉱物処理システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に存在する鉱物資源を採鉱する海底に設けた採鉱手段と、
前記採鉱手段で採鉱した前記鉱物資源を粉砕する海底に設けた粉砕手段と、
前記粉砕手段で粉砕した前記鉱物資源から精鉱と脈石を選別する海底に設けた海底分離手段と、
前記精鉱を海上あるいは地上に揚鉱する精鉱揚鉱手段と、
前記脈石を海底に処分する脈石処分手段を備えたことを特徴とする海底鉱物処理システム。
【請求項2】
前記海底分離手段が、前記鉱物資源の性質に基づいて前記精鉱と前記脈石を選別するものであることを特徴とする請求項1に記載の海底鉱物処理システム。
【請求項3】
前記海底分離手段が、空気又はガスを循環させた浮遊選鉱手段であることを特徴とする請求項2に記載の海底鉱物処理システム。
【請求項4】
前記空気又は前記ガスを、海上あるいは地上に設けた送気手段から供給したことを特徴とする請求項3に記載の海底鉱物処理システム。
【請求項5】
前記粉砕手段及び/又は前記海底分離手段が、水平調節手段を有していることを特徴とする請求項1から4のうちの1項に記載の海底鉱物処理システム。
【請求項6】
海底に存在する鉱物資源を採鉱する海底に設けた採鉱手段と、
前記採鉱手段で採鉱した前記鉱物資源を粉砕する海底に設けた粉砕手段と、
前記粉砕手段で粉砕した前記鉱物資源を海上に揚鉱する揚鉱手段と、
前記揚鉱手段で揚鉱された前記鉱物資源から精鉱と脈石を海上で分離する海上分離手段と、
前記脈石を海底に処分する脈石処分手段を備えたことを特徴とする海底鉱物処理システム。
【請求項7】
前記粉砕手段が、海上あるいは地上に設けた送気手段から空気又はガスの補給を受け、空気又はガスを介在させた中で機械的な力により前記鉱物資源を粉砕することを特徴とする請求項1から請求項6のうちの1項に記載の海底鉱物処理システム。
【請求項8】
前記粉砕手段が、ボールミルを含んでいることを特徴とする請求項7に記載の海底鉱物処理システム。
【請求項9】
少なくとも前記採鉱手段と前記粉砕手段が、ユニット体として海底に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項8のうちの1項に記載の海底鉱物処理システム。
【請求項10】
前記脈石処分手段が、前記脈石を前記採鉱手段で採鉱した同一場所あるいはその近傍の海底に処分するものであることを特徴とするに記載の本発明は、請求項1から請求項9のうちの1項に記載の海底鉱物処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−57350(P2012−57350A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201166(P2010−201166)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【Fターム(参考)】