説明

海水浄化構造物

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
この発明は、半閉鎖性海域の干潟に設けられ、前記半閉鎖性海域の海水を効果的かつ低コストで浄化することができる海水浄化構造物に関するものである。
[従来の技術]
近年、特に大都市圏における干潟、海浜等を有する半閉鎖性海域では社会的ニーズの高まりにより埋め立てが急速に進み、これらの水辺には人工的に護岸や堤防が形成されてきた。これに対し、最近では、上記の半閉鎖性海域の自然を取り戻し生活に潤いを与えるために、これらの海域内の海水の水質を人が水に触れることができる程度まで向上させ、自然環境を取り戻すことが望まれている。
例えば、干潟は粘土、シルト、砂等から構成されるものであるからある程度の透水性を有し、透水係数は10-5cm/secの程度である。この干潟に海水の浄化効果があることはよく知られており、その理由は、干潟の構成要素である粘土、シルト、砂等の粒子間隙及び表面に棲息する微生物や底生生物が海水に含まれる有機物や汚濁物質等を分解し海水を浄化するためと、粘土、シルト、砂等の粒子には濾過効果があるので、これらの粒子が海水に含まれる不溶性物質を除去し海水を浄化するためである。勿論、海水溶解性の汚染物質は水質の組成により分解速度がかなり異なるのではあるが、干潟では、交換海水中の懸濁性物質(SS分)は殆ど除去され浄化されるので、懸濁性物質に起因するCODやT−C等も同時に除去され浄化される。
[発明が解決しようとする課題]
ところで、一般の干潟における交換水量は、第3図に示すように半閉鎖性海域1の干潮面(LWL)を起点とする干潟2内の日最低水頭線(L)と、満潮面(HWL)を起点とする干潟2内の日最高水頭線(H)とで囲まれる斜線部領域Sにより表される。干潟2の構成要素である粘土、シルト、砂等の粒子径は砂浜の砂等の粒子径と比べて小さいために海水が干潟2内に浸透し難くなり、したがって、日最高水頭線(H)が急勾配になり易く、干潟2の実質交換水量が低下してしまうという欠点があった。この場合、干潟2の透水量が極めて少ないので、1日の浄化量はCODで0.3g/m2/g−SS/日 程度と言われており、砂浜の4分の1程度の浄化量しかないこととなる。これより、干潟2において海水交換量を大きくとることが出来れば、干潟2の浄化能力は著しく増加することになる。
この発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、半閉鎖性海域の海水を浄化する際に、従来の干潟と比較して海水交換量を大きくとることができ、かつ浄化能力を著しく増加させることができ、自然のエネルギーである潮汐による潮位差を利用して効率的かつ低コストで海水の水質の浄化を行うことができる海水浄化構造物を提供することにある。
[課題を解決するための手段]
上記課題を解決するために、この発明は次の様な海水浄化構造物を採用した。すなわち、半閉鎖性海域の干潟に設けられ、前記半閉鎖性海域の海水を前記干潟内を透過させることによりこの海水の水質を浄化する海水浄化構造物であって、前記干潟の底面の位置が潮間帯の中等水位以下となる池を設け、前記干潟にこの干潟の周辺海域から前記池の内部に海水を進入させるための透水性の導入路を設け、当該導水路の前記周辺海域側に天端の位置が潮間帯の中等水位以上の潜堤を設け、前記干潟内にこの干潟に海水を透過させるために前記池から前記周辺海域に向って延びる複数の配水路を設けてなることを特徴としている。
[作用]
この発明に係る海水浄化構造物は、自然のエネルギーである潮汐による潮位差を有効に用いて、半閉鎖性海域の海水を低コストで効率よく浄化する。すなわち、上記海水浄化構造物において、周辺海域の海面が低水位(干潮位)から高水位(満潮位)に上昇していく際には、上記周辺海域の海面と上記海水浄化構造物の池の水面との間に水位差が生じる。水位が高い上記周辺海域の海水は、上記海水浄化構造物の潜堤を越えて導水路に進入し池の中に貯留される。このようにして上記周辺海域が高水位になった時に上記池の水位も同一水位まで周辺海域より少し遅れて上昇することとなる。池内に貯留される海水の水面は干潟内の海水の水頭より高いため、配水路を経由して干潟の水位全域へ放出される。この際、海水に含まれる有機物や汚濁物物質等は上記導水路や配水路や干潟内を透過する間に微生物や低生生物により分解され効果的に浄化される。
また、上記周辺海域の海面が高水位から低水位にかけて下降していく際には、上記周辺海域の海面と上記池の水面との間に水位差が生じ、その水位差による位置エネルギーにより、水位が高い上記池から複数の配水路及び干潟内を透過し水位が低い上記周辺海域へ向かう海水の流れが生じる。池内に貯留される海水は配水路を経由して干潟の水位全域へ放出され、これは池の水面が干潮位に近ずくまで続く。この際、上記池に貯留された海水は複数の配水路及び干潟内を透過する間に微生物や底生生物により不溶物質や懸濁物質が取り除かれ浄化され上記周辺海域に流出することとなる。
[実施例]
第1図及び第2図はこの発明の一実施例を示す図である。図において、符号11はこの発明に係る海水浄化構造物である。
海水浄化構造物11は、半閉鎖性海域12の干潟13に設けられたもので、半閉鎖性海域12の潮間帯に位置し、この半閉鎖性海域12の海水の水質の浄化を目的とするものである。ここで、半閉鎖性海域12は、潮汐による潮位差により海水の一部が外海の海水と絶えず交換されている湾や入り江等である。また、干潟13は、満潮時においても全体が冠水することがないように、半閉鎖性海域12の中に天然に、もしくは粘土、シルト、砂等の造成材を用いて人工的に造成されたものである。
海水浄化構造物11は、池21、導水路22、潜堤23、複数の配水路24,24,…とから構成されている。
池21は、半閉鎖性海域12から進入した海水を貯留するためのもので、干潟13の中央部に構築され、その底面の位置が潮間帯の中等水位以下となるものである。池21の底面の位置は、好適には干潮位以上であることが望ましい。ここでは、この池21に貯留された海水の水位は半閉鎖性海域12の水位とほぼ等しくなっている。この池21の周囲の一端には導水路22が接続されている。
導水路22は、砕石31等を充填したもので、干潟13の周辺海域25から池21内に海水を容易に透過させるためのものである。この導水路22は、全体が干潟13の中に埋設されて水平方向に延在しており、その位置が潮間帯の中等水位付近以上となるように造成されたものである。この導水路22の一端部22aは池21に接続され、他端部22bには潜堤23が取り付けられている。
潜堤23は、断面台形状、かつ、その天端が半閉鎖性海域12の潮間帯の中等水位以上となるように形成され、海底に固定されている。
配水路24は、礫32等を充填したもので、池21から周辺海域25へ向って海水を容易に透過させるためのものである。これらの配水路24,24,…は、池21から周辺海域25へ向って放射状に配置されており、個々の配水路24は全体が干潟13の中に埋設され、池21から周辺海域25に向ってやや下降するように樹状に延びており、その位置が潮間帯の中等水位付近以下となるように造成されたものである。
上記の様に構成された海水浄化構造物11の作用等について説明する。
周辺海域25の海面が低水位(干潮)LWLから高水位(満潮)HWLにかけて上昇していく際には、周辺海域25の海面と池21の水面との間に水位差が生じ、海水は水位が高い周辺海域25から水位が低い池21に潜堤23の天端を越えて進入し貯留される。この際、砕石31等の表面に付着する微生物やこれらの間隙に棲息する底生生物により海水が浄化される。このようにして周辺海域25が高水位HWLになった時に、池21の水位もほぼ同一水位まで上昇することとなる。この池21内に貯留される海水の水面は干潟13内の海水の水頭より高いため、配水路24から干潟13の水位全域へ放出される。この際、礫32等や干潟13を構成する粘土、シルト、砂等の表面に付着する微生物やこれらの間隙に棲息する底生生物により海水が浄化される。
また、周辺海域25の海面が高水位HWLから低水位LWLにかけて下降していく際には、周辺海域25の水面と池21の水面との間に水位差が生じ、その水位差による位置エネルギーにより水位が高い池21から水位が低い周辺海域25へ向かう水の流れが生じる。したがって、池21に貯留された海水は、配水路24を経由して干潟13の内部へ浸透し周辺海域25へ流出することとなる。このようにして周辺海域25が低水位LWLになった時に池21の水位も同一水位まで下降することとなり、配水路24内に空隙が生じ、微生物や底生生物の浄化作用に必要な酸素の供給が行なわれることとなる。この際、礫32等や干潟13を構成する粘土、シルト、砂等の表面に付着する微生物やこれらの間隙に棲息する底生生物により海水が浄化される。
以上詳細に説明したように、この海水浄化構造物11においては、干潟13に底面の位置が潮間帯の中等水位以下となる池21を設け、この干潟13の内部に干潟13の周辺海域25から池21の内部に海水を進入させるための透水性の導水路22を設け、導水路22の周辺海域25側に天端の位置が潮間帯の中等水位以上の潜堤23を設け、干潟13の内部にこの干潟13に海水を透過させるために他21から周辺海域25に向って樹状に延びる複数の配水路24を設けたので、下記の優れた効果を奏することができる。
(イ) 導入路22及び配水路24の透水性は干潟13と比較して1000〜10000倍程度大きくなり、導水路22及び配水路24の圧損は干潟13と比較して著しく小さくなり、干潟13全域を好気性の有効浄化領域とすることができる。したがって、干潟13において海水交換量を大きくとることができ、干潟13の浄化能力を著しく増加させることができる。
(ロ) 周辺海域25の自然エネルギーである潮汐力を利用することにより効率的かつ低コストで海水の水質の浄化を行うことができる。
(ハ) 砕石31等や礫32等や干潟13を構成する粘土、シルト、砂等の表面には微生物が膜状に付着しており、これらの間隙には底生生物が棲息しているので、海水に含まれる有機物や汚濁物質等がこれらの間を透過する間に微生物により分解され効果的に浄化され、高度な海水の浄化が可能となる。また、底生生物の作用により懸濁物質や増殖した微生物が補食され、目詰りが軽減される。
(ニ) 潜堤23を設けたことにより、導水路22が干潮位付近までの流路断面を有していても、池21内の海水が導水路22から周辺海域25へ逆流することがなく、浄化に寄与する導水路22が増加する。
(ホ) 干潟13の中に水と親しめる安全な水域を確保することができ、周囲の景観を高め、好適なレクリェーションを施設とすることができる。
なお、上記の実施例においては、海水浄化構造物11を干潟13に設けた構成としたが、この構成は、半閉鎖性海域12の海水を浄化することができる構成であればよく、例えば、海水浄化構造物11を海浜等に設けた構造とした場合でも、上記と同様に海浜の浄化効率を著しく増加させることが可能になる。
[発明の効果]
以上詳細に説明した様に、この発明によれば、半閉鎖性海域の干潟に設けられ、前記半閉鎖性海域の海水を前記干潟内を透過させることによりこの海水の水質を浄化する海水浄化構造物であって、前記干潟に底面の位置が潮間帯の中等水位以下となる池を設け、前記干潟にこの干潟の周辺海域から前記池の内部に海水を進入させるための透水性の導入路を設け、当該導水路の前記周辺海域側に天端の位置が潮間帯の中等水位以上の潜堤を設け、前記干潟にこの干潟に海水を透過させるために前記池から前記周辺海域に向って延びる複数の配水路を設けたので、下記の優れた効果を奏することができる。
(イ) 導水路及び配水路の透水性は干潟と比較して非常に大きくなり、導水路及び配水路の圧損は干潟と比較して著しく小さくなり、干潟全域を有効浄化領域とすることができる。したがって、干潟において海水交換量を大きくすることができ、干潟の浄化能力を著しく増加させることができる。
(ロ) 周辺海域の自然エネルギーである潮汐力を利用することにより効率的かつ低コストで海水の水質の浄化を行うことができる。
(ハ) 砕石等や礫等や干潟を構成する粘土、シルト、砂等の表面には微生物が膜状に付着しており、これらの間隙には底生生物が棲息しているので、海水に含まれる有機物や汚濁物質等がこれらの間を透過する間に微生物により捕捉・分解され、効果的に浄化され、高度な海水の浄化が可能となる。また、底生生物の作用により懸濁物質や増殖した微生物が補食され、目詰りが軽減される。
(ニ) 潜堤を設けたことにより、導水路が干潮位付近までの流路断面を有していても、池内の海水が導水路から周辺海域へ逆流することがなく、浄化に寄与する導水路が増加する。
(ホ) 干潟の中に水と親しめる安全な水域を確保することができ、周囲の景観を高め、好適なレクリェーション施設とすることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図及び第2図はこの発明の一実施例を示す図であって、第1図は海水浄化構造物の概略平面図、第2図は第1図1図のII−II線に沿う横断面図、第3図は一般の干潟の干満による海水交換を説明するための説明図である。
11……海水浄化構造物、
12……半閉鎖性海域、
13……干潟、
21……池、22……導水路、
23……潜堤、24……配水路、
25……周辺海域、
31……砕石、32……礫。

【特許請求の範囲】
【請求項1】半閉鎖性海域の干潟に設けられ、前記半閉鎖性海域の海水を前記干潟内を透過させることによりこの海水の水質を浄化する海水浄化構造物であって、前記干潟に底面の位置が潮間帯の中等水位以下となる池を設け、前記干潟にこの干潟の周辺海域から前記池の内部に海水を進入させるための透水性の導水路を設け、当該導水路の前記周辺海域側に天端の位置が潮間帯の中等水位以上の潜堤を設け、前記干潟内にこの干潟に海水を透過させるために前記池から前記周辺海域に向って延びる複数の配水路を設けてなることを特徴とする海水浄水構造物。

【第1図】
image rotate


【第3図】
image rotate


【第2図】
image rotate


【特許番号】第2961278号
【登録日】平成11年(1999)8月6日
【発行日】平成11年(1999)10月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−171925
【出願日】平成2年(1990)6月29日
【公開番号】特開平4−62212
【公開日】平成4年(1992)2月27日
【審査請求日】平成9年(1997)4月10日
【出願人】(999999999)清水建設株式会社
【出願人】(999999999)株式会社熊谷組
【出願人】(999999999)栗田工業株式会社
【出願人】(999999999)五洋建設株式会社
【出願人】(999999999)三洋水路測量株式会社
【出願人】(999999999)株式会社竹中土木
【出願人】(999999999)株式会社本間組
【出願人】(999999999)三井不動産建設株式会社
【出願人】(999999999)りんかい建設株式会社