説明

海産魚類における仔稚魚の抗病的飼育方法

【課題】 この発明は、魚類種苗生産の安定と薬剤を軽減することにより、消費者に安心感を与える海産魚類における仔稚魚の抗病方法を開発・提供することにある。
【解決手段】 この発明は、人工種苗法により海産魚類の仔稚魚を飼育する際に、飼育水に、真水を添加することによる低塩分処理を行い、一定期間低塩分を維持した後、全海水に復帰させることを特徴とする飼育方法であり、即ち、人工種苗生産法により海産魚類の仔稚魚を飼育するに当たり、飼育水に、希釈海水処理(低塩分処理)を施し、一定期間経過後、全海水に復帰させることを特徴とする海産魚類における仔稚魚の抗病的飼育方法からなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、海産魚類における仔稚魚の抗病的飼育方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、人工種苗生産法により海産魚類の仔稚魚の飼育において生ずる疾病の防除手段としては、薬剤の経口投与が一般的であった。しかし、人工飼料給餌以前の仔魚に対しては、この方法で疾病防除をするのは困難であった。
【0003】
また、仔稚魚期の死亡は、特定の病原生物(寄生虫、細菌)に起因するものの他に、不特定の細菌の数の増加によると考えられる表皮細胞の損傷によるものが多い。そのため、飼育水槽内の細菌数抑制のために、薬剤による薬浴処理が行われている。例えば、特許文献1のように。
【特許文献1】特開平8−9821号公報
【0004】
しかし、薬事法改正により、水産用医薬品の使用規制がなされ、この方法は利用出来なくなった。このため、薬剤に代わる疾病防除として、仔稚魚の抗病性を向上させる必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明は、魚類種苗生産の安定と薬剤を軽減することにより、消費者に安心感を与える海産魚類における仔稚魚の抗病方法を開発・提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
飼育水の塩分濃度を調整することにより、表皮細胞の損傷によって生じる浸透圧調節機能の低下を補償することと、浸透圧調節によるエネルギー消費を押さえ、生理機能の維持を図ることにより抗病性の向上が図れる海産魚類における仔稚魚の抗病的飼育方法である。
【0007】
しかも、この発明は、薬剤に代わる疾病防除であって、安全であり、しかも、周囲の環境も保護できる海産魚類における仔稚魚の抗病的飼育方法を開発・提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によると、飼育水の塩分濃度を調節することにより、表皮細胞の損傷によって生じる浸透圧調整機能低下を補償することと、浸透圧調整によるエネルギー消費を押さえ、生理機能の維持を図ることで抗病性を向上させることができる等極めて有益なる効果を奏する。
【0009】
また、この発明を実施することにより、図1に示すように、死魚数が極めて少なくなり、薬剤を軽減することが可能となる。このことにより、魚類種苗生産が安定し、生産者の利益と、消費者に安心感を与える等の効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
そこで、この発明は、人工種苗生産法により海産魚類の仔稚魚を飼育するに当たり、飼育水に、希釈海水処理(低塩分処理)を施し、一定期間経過後、全海水に復帰させることを特徴とする海産魚類における仔稚魚の抗病的飼育方法からなるものである。
【実施例】
【0011】
そして、この発明の一実施例により具体的に説明するが、この発明は、これに限定されるものではない。
表1に基づいて説明すると、試験区に瀕死状態のオニオコゼ稚魚について、希釈海水処理を施す実験を行った。
試験開始後の観察時間は、28時間後である。
飼育水に全部海水を用いた場合、40尾中38尾が死に、死亡率は95%であった。
飼育水に2/3海水を用いた場合、40尾中5尾が死に、死亡率は12.5%であった。
飼育水に1/3海水を用いた場合、40尾中1尾が死に、死亡率は2.5%であった。
【0012】
【表1】

【0013】
次に、対照区として、塩分処理の影響を健康魚へ希釈海水処理を施す実験を行った。
表2に示すように、試験開始後の観察時間は、24時間後である。
飼育水に全部海水を用いた場合、40尾中5尾が死に、死亡率は5%であった。
飼育水に2/3海水を用いた場合、40尾中3尾が死に、死亡率は7.5%であった。 飼育水に1/3海水を用いた場合、40尾中0尾が死に、死亡率は0%であった。
【0014】
【表2】

【0015】
このように、1/3海水に塩分濃度を調整した場合のオニオコゼ稚魚のへい死軽減となったものである。
【0016】
つぎに、表3に示すように、一時に所定塩分濃度の海水に置換した際の実験をした。試験開始後の観察時間は14時間後である。そして、次の結果を得た。
飼育水に全部海水を用いた場合、40尾中30尾が死に、死亡率は75%であった。
飼育水に1/3海水を用いた場合、40尾中5尾が死に、死亡率は12.5%であった。
【0017】
【表3】

【0018】
さらに、表4に示すように、所定塩分濃度の海水に2時間かけて調整した際の実験をした。試験開始後の観察時間は24時間後である。そして、次の結果を得た。
飼育水に海水を1/3から3/3に置換した場合、40尾中0尾であり、死亡率は0%であった。
飼育水に1/3海水を用いた場合、40尾中0尾であり、死亡率は0%であった。
【0019】
【表4】

【0020】
オニオコゼ稚魚の低塩分処理(1/3海水)後、全海水へ復帰した。
【産業上の利用可能性】
【0021】
この発明は、これら疾病防除の技術を確立し、この技術に基づいて魚類養殖方法を確立し、かつ寄与する点で、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の一実施例を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工種苗生産法により海産魚類の仔稚魚を飼育する際に、飼育水に真水を添加することによる低塩分処理を行い、一定の期間低塩分を維持した後、全海水に復帰させることを特徴とする飼育方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−288234(P2006−288234A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110987(P2005−110987)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【Fターム(参考)】