説明

海苔の分解物を含む、抗酸化剤および抗変異剤

【課題】海苔の有する優れた生理活性を増強し、その増強された生理活性を用いた抗酸化剤、抗変異剤、食品組成物、機能性食品および食品キットを提供する。
【解決手段】海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含む、抗酸化剤、抗酸化剤、抗変異剤、食品組成物、機能性食品および食品キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海苔の分解物を含む、抗酸化剤、抗変異剤、食品組成物、機能性食品および食品キットに関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では古くから、多くの海藻を食料資源や工業原料として利用してきた歴史があり、最近では、ワカメやコンブなどの海藻類の持つ機能性が注目されてきている。海藻類には、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンK、葉酸、食物繊維、カリウム、カルシウム、鉄分、マグネシウムとミネラルが含まれており、その中でも、コンブに含まれるカリウム、マグネシウム、アルギン酸はともに血圧を下げる効果があると言われているだけでなく、中性脂肪吸収抑制効果及び抗肥満作用があることも報告されている(非特許文献1)。さらに、緑藻類であるイチイヅタ(Caulerpa taxifolia)には、膵リパーゼ活性阻害作用があることが報告されている(特許文献1)。
【0003】
また、海苔の持つ栄養効果も注目されてきている。海苔には多くの食物繊維が含まれており、40%近くが食物繊維である。食物繊維には、コレステロールの代謝を正常化し、血中のコレステロールの上昇を防ぐ効果があることが知られている。さらに、海苔の細胞壁の主成分は、硫酸ガラクトース系多糖類であるポルフィランと称される水溶性食物繊維であり、自然免疫活性を向上させることが知られている(特許文献2)。また、海苔には、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンB12などのビタミン類も多く含まれている。さらに、エイコサペンタエン酸(EPA)も多く含まれており、海苔の脂肪酸の約50%がEPAである。EPAは血栓症の予防に効果や中性脂肪を減少させる効果があると言われている。さらにまた、海苔にはタウリンが1〜2%と高濃度で含まれており、海苔一枚当たり30〜36mg含有している。タウリンにはコレステロールを低下させ、動脈硬化症、血管障害による脳卒中、心筋梗塞などに効果があると言われている。また、カルシウムやヨードなどのミネラル、タンパク質、鉄分なども豊富に含んでいる(非特許文献2)。
【0004】
さらに、油脂類を全体量の40重量%以上含有するようにすることで、海苔に含まれる
β‐カロテンの吸収率を向上させる技術(特許文献3)や、海苔を20μm以下の大きさ
に粉砕し粉末化することにより、海苔が本来持っている自然免疫活性及び抗酸化作用を増
強する技術が開示されている(特許文献4)。
【0005】
また、海苔をペプシン分解して得られるペプチド混合物については、血圧降下作用、抗酸化効果、抗変異原性などがあることが開示されている(特許文献5、特許文献6および非特許文献3)。一方、アサクサノリおよびマフノリから抽出されたメタノール画分には、抗変異原性が認められることが開示されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−203974号公報
【特許文献2】特開2004−339161号公報
【特許文献3】特開2002−300865号公報
【特許文献4】特開2003−319757号公報
【特許文献5】特開平10−175997号公報
【特許文献6】特開2000−157226号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】https://www.fujicco.co.jp/corp/press/pr_20060818_2.pdf
【非特許文献2】http://www8.ocn.ne.jp/~isekan/newpage25.html
【非特許文献3】坂口守彦 平田孝 監修、「水産資源の先進的有効利用法 ゼロエミッションを目指して」、2005年7月30日、株式会社NTS発行、第10節 海苔成分の機能性の開発、第3章 海苔タンパク質の利用、第170〜175頁
【非特許文献4】山田信夫 著、「海藻利用の科学(改訂版)」、平成13年5月28日、株式会社成山堂書店発行、表8.16 抗癌活性が認められている食用海藻と実験系、第210〜211頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
【0009】
第一に、特許文献5、特許文献6、非特許文献3では、海苔をペプシン分解して得られるペプチド混合物については、幾つかの生理活性があることが開示されているが、海苔をペプシン分解して得られるペプチド混合物を実際の健康食品、医薬品、療養食などに応用する上では、さらにこれらの生理活性を高める余地があった。
【0010】
第二に、特許文献4では、海苔を20μm以下の大きさに粉砕し粉末化することにより幾つかの生理活性が増強されることが開示されているが、海苔の微粉末を実際の健康食品、医薬品、療養食などに応用する上では、さらにこれらの生理活性を高める余地があった。
【0011】
第三に、非特許文献4では、アサクサノリおよびマフノリから抽出されたメタノール画分には、抗変異原性が認められることが開示されているが、海苔の微粉末を実際の健康食品、医薬品、療養食などに応用する上では、さらにこれらの生理活性を高める余地があった。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、海苔の有する優れた生理活性を増強するための技術を提供することを目的とする。また、本発明の別の目的は、その増強された生理活性を用いた抗酸化剤、抗変異剤、食品組成物、機能性食品および食品キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含む、抗酸化剤が提供される。
【0014】
この組成によれば、後述するように海苔の麹菌由来酵素による酵素分解物には優れた抗酸化作用があるため、この酵素分解物を含む抗酸化剤も優れた抗酸化作用を示す。
【0015】
また、本発明によれば、海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含み、哺乳動物細胞の変異を抑制する、抗変異剤が提供される。
【0016】
この組成によれば、後述するように海苔の麹菌由来酵素による酵素分解物には優れた抗変異作用があるため、この酵素分解物を含む抗変異剤も優れた抗変異作用を示す。
【0017】
また、本発明によれば、海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含む、食品組成物が提供される。
【0018】
この組成によれば、後述するように海苔の麹菌由来酵素による酵素分解物には優れた抗酸化作用または抗変異作用があるため、この酵素分解物を含む食品組成物も優れた抗酸化作用または抗変異作用を示す。
【0019】
また、本発明によれば、海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含む、機能性食品が提供される。
【0020】
この組成によれば、後述するように海苔の麹菌由来酵素による酵素分解物には優れた抗酸化作用または抗変異作用があるため、この酵素分解物を含む機能性食品も優れた抗酸化作用または抗変異作用を示す。
【0021】
また、本発明によれば、海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含む、医療または介護用途の食品キットが提供される。
【0022】
この組成によれば、後述するように海苔の麹菌由来酵素による酵素分解物には優れた抗酸化作用または抗変異作用があるため、この酵素分解物を含む食品キットも優れた抗酸化作用または抗変異作用を示す。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含むため、優れた抗酸化作用または抗変異作用が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】β−カロテン退色法による水抽出液の抗酸化能の評価結果を示したグラフである。
【図2】β−カロテン退色法によるエタノール抽出液の抗酸化能の評価結果を示したグラフである。
【図3】IQに対する抗変異原性試験(S9mix+)の他社酵素分解品との比較の結果を示したグラフである。
【図4】Trp−P2に対する抗変異原性試験(S9mix+)の他社酵素分解品との比較の結果を示したグラフである。
【図5】2−ニトロフルオレンに対する抗変異原性試験(S9mix−)の他社酵素分解品との比較の結果を示したグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
<発明の経緯>
本発明者は、当初、海藻成分の食品や医薬品への有効利用を目的として実験を行った。特に、非特許文献4においてアサクサノリおよびマフノリから抽出されたメタノール画分には、抗変異原性が認められることが開示されていること、および特許文献5、特許文献6、非特許文献3によれば、海苔をペプシン分解して得られるペプチド混合物については、幾つかの生理活性があることに着目して、海苔をペプシン分解して得られる海苔分解物から抽出されたメタノール画分について、in vitroの実験系を用いて各種生理活性が増強されるかどうかを検討してきた。
【0026】
その過程で、本発明者らは、後述の実施例に示すように、海苔をペプシンで分解して得られる海苔分解物を用いて試験したところ、予想に反し、十分な抗酸化性および抗変異原性を認めることができなかった。そこで、本発明者らは、海苔分解物の抗酸化性および抗変異原性をさらに増強するための方法について試行錯誤を行う過程で、海苔を麹菌由来酵素で分解して得られる海苔分解物を用いて試験したところ、著しく抗酸化性および抗変異原性が上昇するという結果が得られた。その結果、本発明者らは、海苔を麹菌由来酵素で分解して得られる海苔分解物を、抗酸化剤、抗変異剤、食品組成物、機能性食品および食品キットとして応用できると考えた。
【0027】
<用語の説明>
(i)海苔
本明細書において、「海苔」とは、紅藻類・藍藻類・緑藻類の食用とする海藻の総称である。海苔をさらに分類すると、板海苔や岩海苔と称される乾燥状態で赤黒い海藻類(アサクサノリなど原始紅藻亜綱ウシケノリ科アマノリ属の海藻)、佃煮やフリカケの原料となる青海苔と称される緑色の海藻類(緑藻類アオサ科アオサ属又はアオノリ属の海藻)、及びカワノリ、藍藻類のスイゼンジノリ等がある。
【0028】
本明細書において、「海苔」とは、特に乾燥されたものをいう。乾燥された海苔には、乾海苔、焼き海苔、味付け海苔、バラ干海苔、丸干海苔等がある。乾海苔とは、海から上げた海苔を刻んで水洗いした後、水分を約10%程度まで乾燥したものをいうが、その製造プロセスは、摘採、異物除去、細断と洗浄、調合と抄製、脱水、乾燥、剥離の順で行われる。焼き海苔は、乾海苔をさらに加熱し、水分を4%程度まで減少させ焼き上げたものをいう。バラ干し海苔・丸干海苔は上記乾海苔の製造法のうち摘採、異物除去、洗浄、脱水、乾燥をしたものである。
【0029】
乾海苔は、色が黒く、独特の磯の香りがある。また、焼き海苔は、乾海苔よりも風味が強く、歯切れがよい。ただし、色落ち海苔を用いて製造した乾海苔や焼き海苔は、通常の海苔の乾海苔や焼き海苔と色や香りが異なる場合がある。ここで、色落ち海苔とは、通常の海苔と比べ色が薄いものをいう。
【0030】
(ii)麹菌
本明細書において、「麹菌」とは、麹をつくる時に、「たね」として蒸米に加える「種麹」に含まれる微生物を意味する。 種麹は、通常米を原料に麹菌を培養し、胞子を十分に着生させた後、乾燥させたものである。みそ、醤油、清酒、焼酎、みりんなど醸造食品と呼ばれる食品の製造には必ず、麹が使用される。
【0031】
種麹には、大変多くの種類が存在し、普通は用途別に清酒用、味噌用、醤油用などと分類されている。さらに清酒用であれば、吟醸用、本醸造用などのように、清酒の種類に適した種麹が開発されている。同じように、全国各地の特色のある味噌には、各々その味噌の製造に適した種麹が製造販売されている。また、めざしている商品、外気温や使用原料の品種の違いなどを考慮して、醸造メーカーごとに調製した種麹もある。本明細書において用いる麹菌は、特に種類を限定せず、これらのいずれの種麹由来の麹菌であっても好適に使用可能である。
【0032】
市販の種麹には2つの形態がある。ひとつは麹菌培養終了後、乾燥したままで、出荷される種麹であり、これを通常、粒状品(粒状種麹)という。もうひとつは乾燥したものをフルイにかけ胞子のみを回収し、それにα化デンプンなどを加えて製品とする種麹で、これを粉状品(粉状種麹)と呼ぶ。粒状品は昔から使われているタイプだが、現在は麹作成時の機械化が進んだことや仕込が大型化したことなどにより、使用される種麹のほとんどが粉状品となっている。しかし、散布方法に麹作成の秘訣があるとされる吟醸酒用の種麹では、今でもその多くに粒状品が使用されている。なお、本明細書において用いる麹菌は、特に形態を限定せず、これらのいずれの種麹由来の麹菌であっても好適に使用可能である。
【0033】
また、生物分類学的には、種麹に使用されるカビ(すなわち麹製造に使用されるカビ)を総称して、麹菌と呼ぶ。すなわち、麹菌は、分類上異なるいくつかの菌種により構成されている。最も多く使用されている代表的な種類が、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)と呼ばれる菌種であり、これは清酒、味噌、醤油、みりん、焼酎など大変広い用途に使用されている。それ以外に、醤油用の菌種として、アスペルギルス・ソーヤ、焼酎用の菌種としてアスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・アワモリ、などが使用されている。なお、本明細書において用いる麹菌は、特に種を限定せず、アスペルギルス属のうち種麹として使用可能な種であれば好適に使用可能である。
【0034】
(iii)酵素
本明細書において、「酵素」とは、生体でおこる化学反応を触媒する分子を意味する。酵素は生物が物質を消化する段階から吸収・輸送・代謝・排泄に至るまでのあらゆる過程に関与しており、生体が物質を変化させて利用するのに欠かせない。多くの酵素は生体内で作り出されるタンパク質をもとにして構成されている。そのため、生体内での生成や分布の特性、あるいは熱やpHにより変性し活性を失うといった特性などは、他のタンパク質と同様である。
【0035】
麹菌は酵素の宝庫と呼ばれ、きわめてたくさんの酵素を生産する。例えば、麹菌の分泌液から取得できる麹菌由来酵素としては、でんぷんを分解する主な酵素として、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼが含まれ、タンパク質を分解する主な酵素として、プロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼなどが含まれる。また、麹菌由来酵素としては、それら以外に脂質を分解する酵素、セルロースを分解する酵素なども含まれる。
【0036】
なお、それら酵素の強弱のバランスは、麹菌の菌株によって異なる。その中から、目的にあった菌が選択される。例えば、清酒用ならば、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼが強い菌、醤油用ならばプロテアーゼやペプチダーゼが強い菌といったような特性がある。なお、本明細書において用いる麹菌由来酵素は、特に麹菌の種類を限定せず、これらのいずれの麹菌由来の酵素であっても好適に使用可能である。
【0037】
(iv)抗酸化性
本明細書において、「抗酸化性」とは、生体内の酸化ストレスを抑制することができる性質を意味する。ここで、酸化ストレスとは、「酸化力が抗酸化力を上まわった状況」を意味する。なお、酸化とは分子が電子を放出する反応、還元とは電子を受け取る反応を意味する。このような酸化ストレスは、生体内の活性酸素生成系の亢進や、または消去系(抗酸化システム)の低下により引き起こされると考えられている。
【0038】
このような酸化ストレスの原因物質として、最も重要なのは、我々が呼吸する大気中の酸素よりも活性化された酸素およびその関連分子を総称する「活性酸素種」である。この活性酸素種の中には、ラジカルとそうでないものが含まれる。例えば、フリーラジカルとしては、ヒドロキシルラジカル、ヒドロペルオキシルラジカル、ペルオキシルラジカル、アルコキシルラジカル、一酸化窒素(NO)などが含まれ、ラジカルでない活性酸素種としては、一重項酸素、過酸化水素、脂質ヒドロペルオキシド(過酸化脂質)などが含まれる。なお、本明細書において抗酸化性とは、特に活性酸素種の種類を限定せず、これらのいずれの活性酸素種による酸化ストレスを抑制するものであってもよい。
【0039】
(v)変異原
本明細書において、「変異原」とは、生物の遺伝情報(DNAあるいは染色体)に変化をひき起こす作用を有する物質または物理的作用(放射線など)をいう。変異原としての性質あるいは作用の強さを変異原性もしくは遺伝子毒性と呼ぶ。また遺伝毒性を持つ物質の一部はその原因として変異原性を有する。つまり変異原性を原因とする遺伝形質の変化(発がん、催奇形性)は毒性としてとして認識されれば遺伝毒性と呼ばれる。また、変異原性を原因とする形質の変化が生殖機能に影響する場合や次世代の形質転換に及ぶ場合は生殖毒性と呼ばれる。特に、発がんにおけるイニシエーターのほとんどは変異原性物質でもあることが実験的に知られている。
【0040】
日本国においては、医薬品(薬事法)、食品添加物(食品衛生法)、農薬(農薬取締法),新規化学物質(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)および労働環境検査(労働安全衛生法)についてはサンプルの変異原性試験が求められている。また、主要な物質については変異原性試験と併せて遺伝毒性や生殖毒性の評価も行われる。なお、本明細書において、変異原とは、特に法上の定義に限定されず、これらのいずれの意味の変異原の定義も包含するものとする。
【0041】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
<実施形態1:抗酸化剤>
本実施形態に係る抗酸化剤は、海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含む、抗酸化剤である。この組成によれば、後述するように海苔の麹菌由来酵素による酵素分解物には優れた抗酸化作用があるため、この酵素分解物を含む抗酸化剤も優れた抗酸化作用を示す。
【0042】
この海苔を麹菌由来酵素で分解する際には、例えば麹菌から得られる酵素液を用いて海苔の粉末を処理してやればよい。このとき、麹菌から得られる酵素液は、例えば麹菌を水中に懸濁してやり、振とうして抽出される酵素液を好適に用いることができる。
【0043】
このようにして得られる酵素液は、一般的には、一種類の酵素のみを含む酵素液ではなく、でんぷんを分解する主な酵素として、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼが含まれ、タンパク質を分解する主な酵素として、プロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼなどが含まれ、それら以外に脂質を分解する酵素、セルロースを分解する酵素なども含まれることが多い。
【0044】
ここで、本実施形態に係る抗酸化剤において、上記の酵素分解物は、特に限定されるものではないが、脂質酸化に対して抗酸化能を示すことが好ましい。なぜなら、特に脂質酸化に起因する疾患について最近注目が高まっているからである。すなわち、ヒトの血液、臓器、細胞を構成する脂質は過酸化反応を受けると、生じた過酸化脂質は細胞障害の原因になり疾病の増悪化に関わることが最近明らかになりつつある。
【0045】
具体的には、DNAとの相互作用による発癌との関連、活性酸素産生亢進などを介した発癌との関連、動脈硬化に関連する心筋梗塞や脳血管障害等の病態との関連、糖尿病、肝疾患等との関連などが最近提唱されている(宮澤陽夫(東北大学機能分子解析学分野教授)、 食品の機能性と健康増進、日本統合医療学会誌、 1(1)、84−90 (2008))。そのため、脂質酸化に対して抗酸化能を示す酵素分解物は、抗酸化剤のみならず、これらの疾患の予防に有効な食品組成物、機能性食品および医療または介護用途の食品キットなどとして活用できると考えられる。
【0046】
また、本実施形態に係る抗酸化剤において、上記麹菌は、特に限定されるものではないが、例えば、アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・ソヤまたはアスペルギルス・アワモリであることが好ましい。多くの種類の麹菌の中でも、アスペルギルス・オリゼーは、甘酒、日本酒、米酢、味醂、味噌、醤油、焼酎の醸造に利用される、アミラーゼ活性の強い黄麹菌の一種である。アスペルギルス・オリゼーの中でも特にアミラーゼ活性の強いものは主に酒造用として、またプロテアーゼ活性が強いものは主に味噌、醤油用に使われている。また、アスペルギルス・カワチは焼酎の醸造に利用される白麹菌の一種であり、アスペルギルス・ソヤはプロテアーゼ活性が強く、アスペルギルス・アワモリは酸産菌である点に特徴がある。これらのアスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・ソヤまたはアスペルギルス・アワモリは、一般的に入手が容易であり、培養方法も確立しており、さらに各種酵素の分泌能力が高いため、本実施形態において好適に用いられる。
【0047】
また、本実施形態に係る抗酸化剤において、上記麹菌由来酵素は、単独の酵素であってもよいが、麹菌の複数種類の分泌酵素の混合物であることが好ましい。なぜなら、麹菌由来の酵素液は、そもそも、一般的には、麹菌由来の複数種類の様々な酵素を含む酵素液であることが多いからである。そして、本実施形態では、このように麹菌由来の複数種類の様々な酵素を含む酵素液を用いているために、一種類の酵素のみでは困難な複雑な化学反応を行うことができ、一種類の酵素のみで分解した場合には得られない絶妙なバランスの組成から成る酵素分解物が得られるのであると想定される。その結果、このような絶妙なバランスの組成から成る酵素分解物に含まれる様々な海苔由来の成分がお互いに相乗効果を奏することによって、海苔を麹菌由来酵素で分解して得られる海苔分解物を用いると、著しく抗酸化性および抗変異原性が上昇するのであると考えられる。
【0048】
また、本実施形態に係る抗酸化剤において、上記酵素分解物は、特に限定されるものではないが、海苔粉末および麹菌由来酵素の混合懸濁液を、特定の温度条件で特定の反応時間、酵素反応処理させて得られるものであることが好ましい。例えば、この温度条件としては、35℃以上であれば、麹菌由来酵素による海苔粉末の分解活性が高まるため好ましく、50℃以上であれば、雑菌による汚染を抑制することができるため特に好ましい。一方、この温度条件としては、80℃以下であれば、高温による麹菌由来酵素の失活を抑制することができるので好ましく、60℃以下であれば食品業界において工業的に実績のある温度条件であるために特に好ましい。
【0049】
また、例えば、この反応時間としては、30分以上であれば、麹菌由来酵素による海苔粉末の分解がある程度進行するため好ましく、12時間以上であれば、上記酵素分解物の抗変異原性または抗酸化性が高まるため特に好ましい。一方、この反応時間としては、48時間以下であれば、雑菌による汚染を抑制することができることにくわえ、時間が経ちすぎて望ましい生理活性を有するペプチド等の分解を抑制できるため好ましい。
【0050】
また、上記のとおり、麹菌由来酵素で分解する前に、海苔をあらかじめ粉砕して海苔粉末にしておくことが好ましい。ここで、「粉末」とは、平均粒径100μm以下に粉砕されたものをいい、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下に粉砕されたものである。以下の実施例では、石臼方式製粉機を用いて粉末化を行った。粉末の原料としては乾海苔を用いてもよいが、好ましくは焼き海苔を使用する。焼き海苔を用いた場合、細胞壁が破壊されやすくなるため、破砕処理の生産性が高くなるという利点があるだけでなく、海苔の栄養素が溶出しやすくなり、栄養素の効率的な摂取や体内での吸収性の向上が図れることとなる。
【0051】
一般に、海苔の細胞の大きさは20〜30μmであるため、100μm以下に粉砕することにより、一部の海苔細胞の細胞壁が破壊される。また、50μm以下に粉砕すれば、多くの海苔細胞の細胞壁が破壊される。さらに、20μm以下に粉砕すれば全ての細胞壁が破壊されることになる。これにより、海苔の細胞質や核質に含まれる各種成分が、後述するように、麹菌由来酵素で分解されやすくなると考えられる。
【0052】
本実施形態の抗酸化剤の剤形は、散剤、丸剤、錠剤、カプセル剤、内用液剤、エキス剤、坐剤、注射剤であってもよい。好ましくは、この剤形は散剤、錠剤、カプセル剤であって、さらに好ましくは、カプセル剤である。カプセル剤には、硬カプセル剤と軟カプセル剤があり、携帯が容易で飲みやすいという特徴がある。散剤の具体例としては、散剤、顆粒剤、細粒剤等がある。錠剤の具体例としては、錠剤、裸錠、糖衣錠等がある。
【0053】
<実施形態2:抗変異剤>
本実施形態に係る抗変異剤は、基本的には、上記の実施形態1に係る抗酸化剤と同様の構成を有するが、その作用が抗酸化作用ではなく、抗変異作用である点において異なっている。そのため、実施形態1と同様の構成・作用効果については説明を省略する。
【0054】
本実施形態に係る抗変異剤は、海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含む、抗変異剤である。この組成によれば、後述するように海苔の麹菌由来酵素による酵素分解物には優れた抗変異作用があるため、この酵素分解物を含む抗変異剤も優れた抗変異作用を示す。
【0055】
ここで、本実施形態に係る抗変異剤において、上記の酵素分解物は、任意の変異原に対して抗変異作用を有するものであり、特に限定するものではないが、IQ、Trp−P2および2―ニトロフルオレンからなる群から選ばれる1種以上の変異原に対して抗変異原性を示すものであることが好ましい。なぜなら、IQ(魚の焼け焦げ中にある変異原物質)、Trp−P2(アミノ酸のトリプトファンの加熱分解物である変異原物質)および2―ニトロフルオレン(自動車排気ガスなどから排出される変異原物質)に対しては、後述する実施例で抗変異原性が実証されているからである。
【0056】
なお、重要であるため繰り返しを恐れず説明するが、本実施形態でも、上記麹菌由来酵素は、単独の酵素であってもよいが、麹菌の複数種類の分泌酵素の混合物であることが好ましい。なぜなら、麹菌由来の酵素液は、そもそも、一般的には、麹菌由来の複数種類の様々な酵素を含む酵素液であることが多いからである。そして、本実施形態では、このように麹菌由来の複数種類の様々な酵素を含む酵素液を用いているために、一種類の酵素のみでは困難な複雑な化学反応を行うことができ、一種類の酵素のみで分解した場合には得られない絶妙なバランスの組成から成る酵素分解物が得られるのであると想定される。その結果、このような絶妙なバランスの組成から成る酵素分解物に含まれる様々な海苔由来の成分がお互いに相乗効果を奏することによって、海苔を麹菌由来酵素で分解して得られる海苔分解物を用いると、著しく抗酸化性および抗変異原性が上昇するのであると考えられる。
【0057】
<実施形態3:食品組成物>
本実施形態に係る食品組成物は、基本的には、上記の実施形態1に係る抗酸化剤または実施形態2に係る抗変異剤と同様の構成を有するが、その形態が食品組成物である点において異なっている。そのため、実施形態1または実施形態2と同様の構成・作用効果については説明を省略する。
【0058】
本実施形態に係る食品組成物は、海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含む。この組成によれば、後述するように海苔の麹菌由来酵素による酵素分解物には優れた抗酸化作用または抗変異作用があるため、この酵素分解物を含む食品組成物も優れた抗酸化作用または抗変異作用を示す。
【0059】
本実施形態の食品組成物の形態は、特に限定されないが、例えば、スティック状やビスケット状等の形状にした菓子類、流動食に混入したもの、甘味料等を加えドリンク剤としたもの、療養食、介護食等の特別用途食品に混入したもの等であってもよい。好ましくは、療養食や介護食などに用いるための食品組成物である。
【0060】
<実施形態4:機能性食品>
本実施形態に係る機能性食品は、基本的には、上記の実施形態1に係る抗酸化剤または実施形態2に係る抗変異剤と同様の構成を有するが、その形態が機能性食品である点において異なっている。そのため、実施形態1または実施形態2と同様の構成・作用効果については説明を省略する。
【0061】
本実施形態に係る機能性食品は、海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含む。この組成によれば、後述するように海苔の麹菌由来酵素による酵素分解物には優れた抗酸化作用または抗変異作用があるため、この酵素分解物を含む機能性食品も優れた抗酸化作用または抗変異作用を示す。
【0062】
本実施形態の機能性食品の形態は、特に限定されないが、例えば、スティック状やビスケット状等の形状にした菓子類、流動食に混入したもの、甘味料等を加えドリンク剤としたもの、療養食、介護食等の特別用途食品に混入したもの等であってもよい。
【0063】
本実施形態に係る食品組成物は、好ましくは、厚生労働省の認可を受けた特定保健用食品または厚生労働省の定める要件を満たした栄養機能食品である。特定保健用食品は、個々の製品ごとに厚生労働省から許可を受けており、保健の効果(許可表示内容)を表示することのできる食品である。他の食品と違うのは、からだの生理学的機能などに影響を与える成分を含んでいて、特定の保健の効果が科学的に証明されている(国に科学的根拠を示して、有効性や安全性の審査を受けている)ものである。
【0064】
一方、栄養機能食品は、特定保健用食品と同じ「保健機能食品」という制度に位置づけられているが、特定保健用食品とは違い、個別に厚生労働省の許可を受けている食品ではない。国が定めた栄養成分の規格基準に一つでも適合していれば製造業者等が各々の責任で「栄養機能食品」と表示し、その栄養成分の機能の表示することができるものである。
【0065】
いずれの場合にも、現行のルールまたは将来改訂されるルールにおいて、厚生労働省が認める形で「海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含むため、抗酸化作用または抗変異作用によって、健康の維持に役立ちます」などの表示を付しているものであることが好ましい。なぜなら、このような表示によって、消費者の購買意欲が喚起され、適切な機能性食品の摂取を促して消費者の健康の維持に役立つからである。
【0066】
<実施形態5:医療または介護用途の食品キット>
本実施形態に係る食品組成物は、基本的には、上記の実施形態4に係る食品組成物または実施形態5に係る機能性食品と同様の構成を有するが、その目的が医療または介護用途である点において異なっている。そのため、実施形態3または実施形態4と同様の構成・作用効果については説明を省略する。
【0067】
本実施形態に係る医療または介護用途の食品キットは、海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含む。この組成によれば、後述するように海苔の麹菌由来酵素による酵素分解物には優れた抗酸化作用または抗変異作用があるため、この酵素分解物を含む医療または介護用途の食品キットも優れた抗酸化作用または抗変異作用を示す。
【0068】
本実施形態の医療用途の食品キット(療養食)は、特に限定はされないが、患者が罹っている病に応じて栄養量を調節して、病気の進行を防いだり、改善を目指すための食事であって、DNAとの相互作用による発癌、活性酸素産生亢進などを介した発癌、動脈硬化に関連する心筋梗塞や脳血管障害等の病態、糖尿病、肝疾患などに罹患して入院している患者のための療養食であってもよい。この療養食の具体例としては、一般的な療養食に海苔が添加されたものや、主食もしくは副食に海苔が添加されているもの等が挙げられる。
【0069】
本実施形態の介護用途の食品キット(介護食)は、特に限定はされないが、摂食・嚥下機能が低下した人に対応できるように食べやすく加工した食事であって、通常の形態では食物を摂取することができない人や摂取した食物から十分に栄養を吸収することができない高齢者等のために、摂取・嚥下しやすく加工され、栄養吸収を促進させることを目指すための食事であってもよい。この介護食の具体例としては、一般的な介護食に海苔が添加されたものや、主食もしくは副食に海苔が添加されたものであって、通常のものよりも含有する水分量を増加し、軟らかく加工したもの、海苔成分によりまとまりがよくなったもの等が挙げられる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
<研究の目的>
以下の実施例では、海苔を利用した新規商品開発として、麹菌より抽出した酵素を利用して微粉末化した海苔を酵素分解することで、海苔そのものを摂取するより機能性が高い商品や新しい機能性を持った商品を開発することを目的として研究を行った。麹菌はタンパク質や糖類などを分解する多種類の酵素を産生するため、海苔の成分が多種多様に分解され、酵素分解した海苔は様々な機能性を持つことが考えられるためである。すなわち、海苔を麹菌が産生する酵素を用いて分解することにより、海苔が本来持つ機能性である抗酸化能や抗変異原性が強化された機能性食品を開発することを目的として研究を行った。
【0073】
<実験材料>
(1)海苔酵素分解物および酵素液の調製方法
板海苔を250℃で数秒間処理した焼海苔をミル(松下電工、臼式ミル)で平均粒径20μm以下に微粉末化した。酵素液には、焼酎麹30gに滅菌水を270ml添加し、振とう機で抽出(30min,110rpm)後、滅菌した濾紙(ADVANTEC FILTER PAPER No.2)を用いて濾過したろ液を用いた。120℃で10分間オートクレーブ処理した海苔微粉末25gに、酵素液を175ml添加し、窒素を容器内に充填して密栓後よく攪拌して懸濁液とした。懸濁液を50℃で24時間インキュベートし酵素分解物を得た。酵素分解後は、氷水中で保存した。比較試験として酵素液の代わりに滅菌水を用い、同様に処理したものを調製した。(以下コントロールとする。)
【0074】
(2)水抽出液の調製
海苔酵素分解物およびコントロール1gに蒸留水を4ml添加してよく攪拌後、5000rpm,20minで遠心分離した上澄みをさらに40倍希釈して水抽出液(乾燥減量より算出した水抽出液の濃度:0.348mg/ml)とした。
【0075】
(3)エタノール抽出液およびDMSO抽出液の調製
酵素分解物およびコントロールを凍結乾燥し、凍結乾燥による減量分をすべて水とみなして減量分と等量のエタノールを添加後撹拌して30分間静置し、5倍希釈してよく攪拌後、5000rpm,20minで遠心分離した上澄みをさらに40倍希釈してエタノール抽出液を調製した。DMSO抽出液には酵素分解物1gを凍結乾燥し、DMSOを11.597ml添加してエタノール抽出液と同様に操作して得られたもの(乾燥減量より算出したDMSO抽出液の濃度:23mg/ml)を用いた。
【0076】
(4)海苔微粉末および焼海苔(5mm角)の抽出液の調製
海苔微粉末には、120℃で10分間加熱処理を行ったものと、加熱処理を行わないものを用いた。海苔微粉末および5mm角に裁断した焼海苔1gに蒸留水またはエタノールを19ml添加し窒素添加して密封後、10分間よく混合した。混合液を5000rpm,20minで遠心分離した上澄みを抽出液とし、さらに蒸留水またはエタノールを添加し、酵素分解物と同じ海苔含有量に希釈した。
【0077】
(5)野菜ジュースおよび酵素液の試料液調製
野菜ジュースには市販品 KAGOME「野菜一日これ一本」を用いた。野菜ジュースを5000rpmで20分間遠心分離した上澄みに蒸留水を等量添加し、2倍希釈液とした。酵素液は、蒸留水を添加し、酵素分解物と同じ酵素液含有量に希釈した。
【0078】
<実施例1:β−カロテン退色法による抗酸化能試験>
(1)実験方法
海苔酵素分解物を津志田らの方法(津志田 藤二郎、鈴木 雅博、黒木 柾吉、各種野菜類の抗酸化性の評価および数種の抗酸化成分の同定,日本食品工業学会誌、41、611−618(1994))によるβ−カロテン退色法を改良した農林水産研究情報総合センターホームページ記載の熊本食品加工研究所の方法により測定し、コントロール、海苔微粉末、市販野菜ジュースの抗酸化能と比較した。
【0079】
β−カロテン溶液(10mg/10ml クロロホルム)0.5ml、リノール酸溶液(1g/10mlクロロホルム)0.2ml、ツィーン40溶液(2g/10mlクロロホルム)1.0mlを三角フラスコに入れ、窒素ガスにてクロロホルムを飛ばした後、蒸留水100ml、リン酸緩衝液8.9mlを添加し溶解してリノール酸−β−カロテン溶液を調製した。あらかじめ試料を0.1ml 入れた試験管にリノール酸−β−カロテン溶液を4.9ml添加し攪拌後直ちに分光光度計にて470nmの吸光度を測定した。50℃の恒温槽中に入れ、5〜10分毎に60分間470nmの吸光度を測定し、15分〜45分後の30分間における470nmの吸光度の低下量を算出した。
【0080】
また、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)を標準試料として同時に測定を行い、15分〜45分後の30分間における470nmの吸光度の低下量に相当するBHT濃度として抗酸化能を換算して表した。算出された値ではBHT濃度が高いほど抗酸化能が高いことを示している。
【0081】
(2)実験結果
海苔酵素分解物、ペプチド混合物、酵素液の代わりに滅菌水を使用したコントロール、海苔微粉末の水抽出液及び市販ジュースの抗酸化能測定結果を図1に示した。
【0082】
その結果、図1をみればわかるように、水抽出液では酵素分解物、ペプチド混合物、コントロール、海苔微粉末(加熱処理なし)、5mm角に裁断した焼海苔および市販野菜ジュースはいずれも抗酸化能を持ち、そのなかでも酵素分解物が他の試料より著しく高い抗酸化能を持っていた。海苔酵素分解物の原料である海苔微粉末(加熱処理あり)と酵素液は抗酸化能が低く、検出できなかった。
【0083】
また、海苔酵素分解物、ペプチド混合物、コントロール、海苔微粉末のエタノール抽出液の抗酸化能を測定した結果を図2に示した。エタノール抽出液では、海苔酵素分解物、コントロールは抗酸化能を持っていたが、いずれも水抽出液より低い値であった。ペプチド混合物はエタノールに溶解しないため測定できず、海苔微粉末は抗酸化能が低く検出できなかった。
【0084】
この結果より、リノール酸の自動酸化に対する海苔の抗酸化能は、エタノール抽出液より水抽出液のほうが高く、海苔を酵素分解することにより、水抽出液の抗酸化能はさらに高められることが明らかとなった。
【0085】
そこで、このように優れた抗酸化能を示す、本実施例の海苔を麹菌由来酵素で分解してなる酵素分解物が、海苔をペプシンで分解してなるペプチド混合物と比較して、どちらの抗酸化能が優れているかを検討した。なお、その際、海苔をペプシンで分解してなるペプチド混合物については、他社の製法で調製した酵素分解物(特開2000−157226)を用い、両者をともに0.348mg/mlの同じ濃度同士で比較した。
【0086】
その結果、図1に示すように、海苔を麹菌由来酵素で分解してなる酵素分解物が、海苔をペプシンで分解してなるペプチド混合物に比べて、著しく抗酸化作用が高まっていることが明らかになった。その理由は、本実施例では、麹菌由来酵素のように麹菌由来の複数種類の様々な酵素を含む酵素液を用いているために、一種類の酵素のみでは困難な複雑な化学反応を行うことができ、一種類の酵素のみで分解した場合には得られない絶妙なバランスの組成から成る酵素分解物が得られるのであると想定される。その結果、このような絶妙なバランスの組成から成る酵素分解物に含まれる様々な海苔由来の成分がお互いに相乗効果を奏することによって、海苔を麹菌由来酵素で分解して得られる海苔分解物を用いると、著しく抗酸化性が上昇するのであると考えられる。
【0087】
<実施例2:抗変異原性試験>
(1)概要
本実施例における抗変異原性試験では、一般的に用いられているサルモネラ菌を用いたAmes test法のプレインキュベーション法(篠原和毅、鈴木建夫、上野川修一、食品機能研究法、光琳(2000)、早津彦哉、変異原物質試験法、廣川書店(1990))により変異原を抑制する効果として測定した。菌株には、ヒスチジン合成酵素遺伝子にフレームシフト型の変異が起こった株であるSalmonella typhimurium TA98株を独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門より分譲を受けて用い、凍結保存菌の調製時にアンピシリン耐性、膜変異(rfa)、変異原性感度の有無について確認を行った。
【0088】
変異原にはIQ、Trp−P2、2−ニトロフルオレンを用い、IQおよびTrp−P2にはS9mixを添加し、代謝活性化した。測定試料には、本実施例の酵素分解物のDMSO抽出液および他社の製法で調製した同濃度の酵素分解物(特開2000−157226)の水溶液を用いた。
【0089】
(2)培地およびS9mixの組成
(2−1) トップアガー
寒天粉末 0.75g
塩化ナトリウム 0.54g
脱イオン水 100ml
高圧蒸気滅菌し、完全に溶解させた後、50℃に冷えたらビオチン‐ヒスチジン溶液(ビオチン30.9g ヒスチジン24.6mgを脱イオン水250mlに溶解し、高圧蒸気滅菌したもの)を10ml添加し、45〜50℃に保温。
【0090】
(2−2)最少グルコース寒天平板培地
寒天粉末 15g
脱イオン水 800ml
20%グルコース水溶液 100ml
10倍濃度Vogel−Bonner塩溶液 100ml(組成は下記)
【0091】
(2−3)10倍濃度Vogel−Bonner塩溶液 1000mlあたり
HPO 100g
クエン酸1水和物 20g
リン酸水素ナトリウムアンモニウム 35g
硫酸マグネシウム7水和物 2g
【0092】
(2−4)S−9mix
オリエンタル酵母製 S−9mixを使用し、コファクター:S9=9:1で調整した。
【0093】
(2−5)Oxoid Nutrient Broth培地
Oxoid Nutrient Broth No.2 5gを蒸留水に溶解し、200mlとした。
【0094】
(2−6)リン酸緩衝液
0.1Mリン酸Buffer(pH7.0)を用いた。
【0095】
(3)TA98株 前培養
Oxoid Nutrient Broth No.2をL型試験管に10ml入れ、シリコ栓をして滅菌後、保存菌株からTA98 株を1白金耳移し、37℃で14時間振とう培養した。
【0096】
(4)本試験
エームス管に100μlの変異原物質IQ(0.1μg/ml)、Trp−P2(0.5μg/ml)、2−ニトロフルオレン(0.04μg/ml)(いずれもDMSOに溶解)をそれぞれ分注(コントロールはDMSO)した。つぎに試料を水抽出液では100μl添加し、600μlのリン酸緩衝液を分注してよく撹拌した。試料添加量は、プレート中の培地に対して0.01〜0.05mg/mlとした。さらにS−9mixを100μl、TA98株培養液を100μl添加し、よく混合して37℃で20分インキュベートした。トップアガーを2ml添加し、最少グルコースアガープレートにまき、シャーレを動かして一様に広げた。
【0097】
光の影響が出ないように寒天が固まったプレートは、すぐに37℃の恒温機に入れ、48時間培養した後、増殖したヒスチジン非要求性コロニー数をカウントした。
【0098】
試料がDMSO抽出液の場合は、DMSO量が1プレートあたり100μl以下となるよう変異原物質IQ、Trp−P2、2−ニトロフルオレンの濃度をそれぞれ2倍の濃度として50μl添加し、試料を50μl添加し、滅菌水を100μl加えた。
【0099】
計算方法(IQの場合)
抗変異原性(%)=(1−(A−B)/(C−D))×100
A 試料とIQ添加時のコロニー数
B 試料のみ添加時のコロニー数
C IQ添加時のコロニー数
D 添加物なしのコロニー数(自然復帰)
なお、Trp−P2、2−ニトロフルオレンの場合も同様に計算できる。
【0100】
(5)実験結果
変異原性物質としてIQ、Trp−P2、2−ニトロフルオレンを用い、発明した酵素分解物のDMSO抽出液および他社の海苔酵素分解物の水抽出液の抗変異原性について測定を行った結果を、それぞれ図3、図4、図5に示した。
【0101】
本実施例の酵素分解物のDMSO抽出液は、他社の製法で調製した酵素分解物(特開2000−157226)より、IQ、Trp−P2、2−ニトロフルオレンに対する抗変異原性がいずれも高いことが確認された。
【0102】
このように、図3、図4、図5に示すように、海苔を麹菌由来酵素で分解してなる酵素分解物が、海苔をペプシンで分解してなるペプチド混合物に比べて、著しく抗変異原性が高まっていることが明らかになった。その理由は、本実施例では、麹菌由来酵素のように麹菌由来の複数種類の様々な酵素を含む酵素液を用いているために、一種類の酵素のみでは困難な複雑な化学反応を行うことができ、一種類の酵素のみで分解した場合には得られない絶妙なバランスの組成から成る酵素分解物が得られるのであると想定される。その結果、このような絶妙なバランスの組成から成る酵素分解物に含まれる様々な海苔由来の成分がお互いに相乗効果を奏することによって、海苔を麹菌由来酵素で分解して得られる海苔分解物を用いると、著しく抗変異原性が上昇するのであると考えられる。
【0103】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0104】
例えば、上記実施例では、変異原物質としてIQ、Trp−P2、2−ニトロフルオレンを用いたが、食品、医薬品、生化学分野の研究者であれば、上記実施例の海苔を麹菌由来酵素で分解した酵素分解物は、当然ながら他の変異原物質に対しても、抗変異作用を示すと考えることが明らかである。
【0105】
例えば、医薬品(薬事法)、食品添加物(食品衛生法)、農薬(農薬取締法),新規化学物質(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)および労働環境検査(労働安全衛生法)において変異原性物質として指定されている任意の変異原性物質に対して、上記実施例の海苔を麹菌由来酵素で分解した酵素分解物は、抗変異作用を示すと想定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含む、抗酸化剤。
【請求項2】
請求項1記載の抗酸化剤において、
前記酵素分解物が、脂質酸化に対して抗酸化能を示す、
抗酸化剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の抗酸化剤において、
前記麹菌が、アスペルギルス属である、
抗酸化剤。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載の抗酸化剤において、
前記麹菌由来酵素が、麹菌の複数種類の分泌酵素の混合物である、
抗酸化剤。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載の抗酸化剤において、
前記酵素分解物が、海苔粉末および麹菌由来酵素の混合懸濁液を、35℃以上80℃以下の温度条件で、30分以上48時間以下の間、酵素反応処理させて得られる、
抗酸化剤。
【請求項6】
海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含み、哺乳動物細胞の変異を抑制する、抗変異剤。
【請求項7】
請求項6記載の抗変異剤において、
前記酵素分解物が、IQ、Trp−P2および2―ニトロフルオレンからなる群から選ばれる1種以上の変異原に対して抗変異原性を示す、
抗変異剤。
【請求項8】
海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含む、食品組成物。
【請求項9】
海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含む、機能性食品。
【請求項10】
海苔を麹菌由来酵素を用いて分解して得られる酵素分解物を含む、医療または介護用途の食品キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−265218(P2010−265218A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118096(P2009−118096)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(398005157)通宝海苔株式会社 (4)
【Fターム(参考)】