説明

海草類の着生基盤の改質又は造成方法

【課題】 水底を海草類の着生基盤として好適な状態に改質し又は造成することができる方法を提供する。
【解決手段】 海草類が着生する底質に酸素を供給し、さらに好ましくは珪素含有物を供給する。底質への酸素の供給により、海草類の根からの酸素の取り込みが促進されて根の成長性が高まり、海草類を安定して生育・繁殖させることができる。さらに、珪素含有物の供給によって珪素が海草類に取り込まれて成体が強化され、光合成が活発化することで葉からの根への酸素の供給も増大し、根の成長がより促進される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アマモなどの海草類の着生基盤となる水底を、海草類の生育に好適な状態に改質し又は造成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水中で生育する植物は、維管束をもたない海藻類(ホンダワラ類、コンブ類など)と、陸上植物と同様に維管束をもつ海草類(アマモ類など)に大別され、前者は岩礁に根を張って生育し、後者は砂質又は砂泥質中に地下茎を延ばして生育する。
海草類が群生している場所は海草藻場(通称、アマモ場)と呼ばれる。このような海草藻場は沿岸海域における海中動植物の生産場であり、有用魚介類の生息場、魚介類の産卵場、稚仔魚の生育場、餌場などとして不可欠な場所であると言える。
【0003】
しかし、近年、沿岸海域における海草藻場は、海砂の流失、沿岸の埋め立て、底質のヘドロ化、水質汚染などの影響により急速な消失、衰退が続いている。このため水底に海草藻場を回復させることができる方法を早急に確立することが求められている。
従来、衰退または消失したアマモ場を回復するために、人工栽培したアマモや他の天然アマモ場から採取したアマモを移植することが行われており、その際にアマモを植え付ける方法として、アマモを固定するマットを用いる方法(例えば、特許文献1,2)、アマモの根を粘土で包み固定する方法(例えば、特許文献3)などが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−171852号公報
【特許文献2】特開平2−109923号公報
【特許文献3】特公平7−2063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような従来技術を利用してアマモを移植しても、その過程でアマモの活性が低下しやすく、移植したアマモを根付かせることは容易ではない。また、底質のヘドロ化などにより環境が悪化した水底や水質汚濁が進んだ水域では、その環境の故にアマモ場が失われつつあるため、そのような水底にアマモを移植したとしても、アマモの生育を期待することは殆どできない。
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、水底を海草類の着生基盤として好適な状態に改質し又は造成することができる方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、水底でアマモなどの海草類(以下、「アマモ」を例に説明する)を生育・繁殖させるには、アマモの生理的性質に応じた底質の改善技術やアマモ自体の活性を高める技術の適用が不可欠であるとの見地から、近年アマモが減少しつつある原因とその対策について検討を行った。その結果、アマモ減少の原因の一つが、生育環境の悪化によって、アマモの根の成長にとって不可欠な酸素が根に十分に供給されなくなり、アマモの根が十分に成長できなくなる点にあることを突き止めた。すなわち、底質のヘドロ化によって底質(底質の間隙水)中の酸素が欠乏すること、また水質汚濁によってアマモの光合成が不十分となることなどにより、根からの酸素の直接的な取り込みや葉から根への酸素の供給が不十分になり、このためにアマモの根が十分に成長できず、アマモが底質中にしっかりと根を張ることができなくなる。この結果、アマモが十分に繁茂した状態まで成長できず、また波浪や潮流などの力で容易に引き抜かれてしまう。そして、このような原因の解明に基づいてさらに検討を進めた結果、アマモを水底で安定して生育させるには、アマモが着生する底質に酸素を供給し、根からの酸素の取り込みを促進させることが非常に有効であることを見出した。また、このような底質への酸素の供給とともに、珪素含有物を水底に供給することによりアマモの活性が高められ、葉からの根への酸素の供給も増大し、根の成長がより促進されることも判った。
【0007】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その特徴は以下のとおりである。
[1] 海草類が着生した若しくは海草類を着生させるべき水底において、下記(a)又は/及び(b)により底質に酸素を供給することを特徴とする海草類の着生基盤の改質又は造成方法。
(a) 底質中に酸素ガスを供給する。
(b) 底質上又は/及び底質中に、分解して酸素ガスを発生させる物質を供給する。
[2] 上記[1]の方法において、さらに、底質上又は/及び底質中に珪素含有物を供給することを特徴とする海草類の着生基盤の改質又は造成方法。
[3] 上記[2]の方法において、珪素含有物が高炉水砕スラグであることを特徴とする海草類の着生基盤の改質又は造成方法。
【0008】
[4] 上記[3]の方法において、高炉水砕スラグを海草類の着生基盤の少なくとも一部として水底に敷設することを特徴とする海草類の着生基盤の改質又は造成方法。
[5] 上記[4]の方法において、水底に敷設される高炉水砕スラグに有機物を混合することを特徴とする海草類の着生基盤の改質又は造成方法。
[6] 海草類が着生した若しくは海草類を着生させるべき水底に、底質中に酸素ガス又は分解して酸素ガスを発生させる物質を供給することができる供給手段を埋設配置したことを特徴とする海草類着生基盤用の水底造成物。
[7] 上記[6]の水底造成物において、供給手段を埋設配置した水底に、さらに、珪素含有物を敷設したことを特徴とする海草類の着生基盤用の水底造成物。
【発明の効果】
【0009】
水底の底質に酸素を供給することにより、海草類の根からの酸素の取り込みが促進されて根の成長性が高まり、この結果、海草類が底質中にしっかりと根を張り、安定して生育・繁殖させることができる。
さらに、底質に珪素含有物を供給した場合には、水中に溶出した珪素や珪酸が海草類に取り込まれ、海草類の葉や茎が強化されることによって太陽光を捉えやすくなるとともに、細胞からの二酸化炭素取り込みが促進されることにより光合成が活発化する。このため葉からの根への酸素の供給も増大して根の成長がより促進され、海草類をより安定的に生育・繁殖させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
海草類は、水底の底質(天然の海草藻場であれば砂質又は砂泥質)中に地下茎を張り巡らせ、この地下茎から底質中に根を張って生育・繁殖するものである。海草類の代表的なものとしてアマモ類があり、アマモ類としては、例えば、アマモ、コアマモ、オオアマモ、リュウキュウスガモなどがある。
【0011】
海草類(以下、「アマモ」を例に説明する)の根の成長には酸素が不可欠であり、水底で生育するアマモは、光合成により生じた酸素を葉から根に送り込むだけでなく、根からも直接酸素を取り込んで成長に利用する。しかし、水底がヘドロ化すると底質中(底質の間隙水)で酸素の欠乏が生じ、アマモが根から十分な量の酸素を取り込めなくなる。また、水質汚濁などが進むとアマモに太陽光が十分に当たらないため、光合成が十分に行われず、その結果、葉から根への酸素の供給も不足する。すでに述べたように、本発明者らは、近年アマモが減少し、アマモ場が衰退・消失しつつある原因が、このようなアマモの根の酸素不足によるものであることを突き止めた。そこで本発明では、アマモが着生した又はアマモを着生させるべき底質に対して、下記(a)又は/及び(b)の方法により酸素を供給するものである。
(a) 底質中に酸素ガスを供給する。
(b) 底質上又は/及び底質中に、分解して酸素ガスを発生させる物質を供給する。
ここで、水底に現に着生した又は着生させるべきアマモとは、その水底で天然に成育しているアマモ、他所で採取し又は人工栽培したものを移植したアマモ、その水底で種子を播種して発芽・成育させたアマモなどのいずれでもよい。
【0012】
このように底質に酸素を供給することにより、底質中の間隙水或いは底質面近傍の水の溶存酸素濃度が高まり、この酸素をアマモが根から効率的に吸収することができ、このため根の成長が促進されることで根の定着を強固なもの(底質中に根がよく張った状態)にすることができる。また、根細胞への酸素の供給が容易になり、根の呼吸効率が高まることでエネルギー生成能力が高まり、アマモ草体全体の活性を高めることができる。以上の結果として、アマモの生育・繁殖を効果的に促進させることができる。
【0013】
底質に酸素を供給する方法としては、酸素ガスを底質中に直接供給(吹き込み)してもよいし、分解して酸素ガスを発生させる物質を底質上又は/及び底質中に供給してもよい。また、両方法を併用してもよい。
酸素ガスを底質中に直接供給(吹き込み)する場合、酸素ガスとしては高純度の酸素ガスを用いることもできるが、通常は空気を底質中に吹き込み、空気中の酸素を底質中に供給する。また、空気以外の酸素含有ガス(例えば、酸素富化空気)を用いてもよい。
【0014】
酸素ガスを底質中に供給する方法としては、例えば、アマモが根を張るような深さ又はそれよりも少し深い底質中に、長手方向で間隔的にガス放出孔を設けたガス供給管(剛性管又はホース)を埋設し、このガス供給管のガス放出孔から空気を底質中に吹き込む方法などを採ることができる。また、ガス供給管以外の供給手段を用いてもよい。
酸素ガスの供給期間は、水底でのアマモの成育状況に応じて適宜選択される。例えば、数ヶ月若しくはそれ以上の期間中、連続的又は間欠的に酸素ガスを供給するようにしてもよいし、アマモの成育状況に応じて不定期に酸素ガスを供給するようにしてもよい。また、アマモの成育状況に応じて酸素ガス供給量が適宜選択される。
【0015】
また、分解して酸素ガスを発生させる物質を底質上又は/及び底質中に供給する場合、その物質の種類に特別な制限はないが、特定の酸化物、具体的には、過酸化水素、過酸化マグネシウム、過酸化カリウム、過酸化ナトリウム、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウム、過酸化バリウムなどの中から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
これらの酸化物は、底質上又は/及び底質中に供給された後、水と反応して分解することで酸素ガスを発生させる。上記酸化物のうち過酸化水素は液体であるため、その水溶液を底質中に配置された供給管などを通じて底質中に供給することができる。例えば、アマモが根を張るような深さ又はそれよりも少し深い底質中に、長手方向で間隔的に液吐出孔を設けた液供給管を埋設し、この液吐出孔から少しずつ底質中に供給するなどの方法を採ることができる。また、液供給管以外の供給手段を用いてもよい。
【0016】
また、過酸化マグネシウム、過酸化カリウム、過酸化ナトリウム、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウム、過酸化バリウムなどは固体であるため、例えば、ダイバーが潜水して底質中に混ぜ込む、船上から底質上に散布する等の方法で底質に供給することができる。
酸素ガスを発生させる上記物質の供給期間も、水底でのアマモの成育状況に応じて適宜選択される。例えば、水溶液などの液体で供給するものについては、数ヶ月若しくはそれ以上の期間中、連続的又は間欠的に液体を供給するようにしてもよいし、アマモの成育状況に応じて不定期に液体を供給するようにしてもよい。また、固体で供給するものについても、定期的(例えば、1ヶ月毎)又は不定期に上記方法で供給すればよい。また、アマモの成育状況に応じて物質の供給量が適宜選択される。
【0017】
さらに、底質に珪素含有物を供給することにより、根に対する酸素の供給がより促進され、アマモをより安定的に生育・繁殖させることができる。
陸上植物の生育にとって土壌中への珪素含有物の供給が有効であることは知られているが、アマモなどの海草類の生育・繁殖にとっても、珪素含有物が重要な役割を果すことが判明した。すなわち、底質に供給された珪素含有物からは珪素や珪酸が溶出してアマモに取り込まれ、その作用により茎や葉の強度が高くなって太陽光が捉えやすくなり、さらに、細胞からの二酸化炭素取り込みが促進される作用が得られ、これらによりアマモの光合成が促進される。この結果、根への酸素供給も増大して根の成長も促進され、アマモの生育・繁殖を促進させることができる。また、このようにアマモの光合成が活発化することにより、余剰の酸素が根を通じて底質に供給されるため、底質中の酸素濃度が高められる効果も得られる。
【0018】
珪素含有物とは、珪素や珪素化合物(例えば、珪酸など)を含有する物質であり、その種類は問わないが、例えば、シリカゲル、珪酸カルシウム、鉄鋼製造プロセスで発生するスラグなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。鋼製造プロセスで発生するスラグとしては、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ等の高炉系スラグ、予備処理、転炉、鋳造等の工程で発生する脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、鋳造スラグ等の製鋼スラグ、鉱石還元スラグ、電気炉スラグ等を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、また2種以上のスラグを混合して用いることもできる。また、これらのスラグは、水和処理、炭酸化処理、エージング、水和硬化、炭酸化硬化等を経たものを用いてもよい。
珪素含有物としては、コスト・機能面から鉄鋼製造プロセスで発生するスラグが好ましく、そのなかでも特に高炉水砕スラグが好ましい。
【0019】
高炉水砕スラグは高温の溶融状態にある高炉スラグ(溶融スラグ)を噴流水で急冷して得られるものであり、この急冷する過程でスラグ中に溶け込んでいる窒素や水分などによってスラグが発泡するため、得られるスラグ粒子(海砂よりもやや粗めの粒子)は無数の内部気孔を有する多孔質組織となり、しかもその粒子は角張った形状(表面に多数の尖った部分を有する形状)を有している。
このような高炉水砕スラグを珪素含有物として底質に供給した場合、特にアマモが根を張る着生基盤の少なくとも一部として水底に敷設した場合には、スラグ粒子が多孔質であることからガスを保持しやすく、このため底質中に酸素ガスを供給した際(或いは底質に供給した物質から酸素ガスが発生した際)にその酸素ガスを保持(捕捉)し、この保持した酸素ガスを間隙水中に徐々に供給する能力を持つ。また、上述したスラグ粒子の形状のために充填間隙が大きいため、底質がヘドロ化した水底でも酸素ガスの流通がよく、根に酸素ガスが供給されやすくなる。
【0020】
また、高炉水砕スラグは、海中での安定性が海砂よりも格段に大きいため、波浪などによる流出が海砂などよりも非常に少なく、しかも、せん断抵抗性が高いために波浪などに対するアマモの拘束力が強く、且つアマモの地下茎や根が絡みやすいという特質がある。また、高炉水砕スラグは鉄鋼製造プロセスで大量に発生するものであるため、安価に且つ大量に入手することができる。このため、基盤そのものが波浪などによって流失しにくく、しかも、波浪などによる強い水流が作用してもアマモが抜けにくい着生基盤を低コストに造成することができる。高炉水砕スラグをアマモの着生基盤の少なくとも一部として水底に敷設する場合の敷設厚(形成される基盤厚さ)は、アマモの地下茎の深さなどに応じて適宜決めればよいが、一般には20cm以上の厚さとするのがよい。
【0021】
珪素含有物を底質に供給する形態としては、必ずしも底質中に混入させるような形態でなくてもよく、例えば、底質上に敷設し、或いは散布するような形態でもよい。また、底質に層状に埋め込んでもよい。但し、アマモの根から珪酸等を効率的に吸収させるという観点からは、底質中に混入させる方が好ましい。また、珪素含有物として高炉水砕スラグを用いる場合には、上述したように、高炉水砕スラグをアマモの着生基盤の少なくとも一部として水底に敷設することが好ましい。
高炉水砕スラグをアマモの着生基盤の少なくとも一部として水底に敷設する場合、アマモの生育性の面からには基盤中にある程度の量の有機物が存在した方がよいので、高炉水砕スラグ中に有機物を混合することが好ましい。高炉水砕スラグに有機物を混合するには、例えば、周囲又は他の水底から採取した天然砂、底泥、浚渫土(通常、これらは有機物を相当量含んでいる)などの有機物含有材(土砂、泥)を混合すればよい。この有機物含有材としては、強熱減量が5〜30mass%程度、好ましくは10〜20mass%程度のもの(例えば、海砂、浚渫土など)が適当であり、この有機物含有材の割合が1〜40体積%、好ましくは10〜30体積%程度となるように高炉水砕スラグに混合し、水底への敷設材として用いることが好ましい。
【0022】
ここで、底質に酸素及び珪素含有物を供給する場合における本発明の作用効果(アマモの根の成長促進効果)は、(1)底質への酸素の供給により、根からの酸素の取り込みが促進される結果、根の成長が促進される、(2)底質への珪素含有物の供給により、光合成が促進されることを通じて根への酸素供給が増大する結果、根の成長が促進される、という2つの作用を通じて根の成長が促進されることである。ここで、上記(1)の作用は底質への酸素供給により得られる即効的な作用であり、一方、上記(2)の作用はアマモの活性化を通じて得られる遅効的な作用である。したがって、本発明の好ましい実施形態では、初期過程においては、底質への酸素供給による上記(1)の作用により根の成長が促進され、この初期過程以降は、アマモ草体自体の活性化による上記(2)の作用により根の成長が促進されることになるので、初期過程以降においては底質中への酸素の強制的な供給は必要なくなることになる。
【0023】
本発明が適用される対象となる水域は、一般に、アマモの生育に適した水深が10m以浅の水底(既存のアマモ場を含む)であり、沿岸海域などの海水域だけでなく汽水域なども含まれる。また、本発明により新規にアマモ場を造成する場合、造成場所として選定される海底としては、特に海底に光が十分に届く比較的水深の浅い海底、具体的には、海水の透明度がある程度高い水深2〜10m程度の海底であって、望ましくは光量年平均が3.0E/m/day以上の海底であることが好ましい。また、他の好ましい条件としては、潮流が穏やかであること、波浪が少ないこと、水温が10〜25℃程度であること、海底面の傾斜が小さいこと、などが挙げられる。
本発明において水底に着生させるアマモとしては、既存のアマモ場を構成しているもの、移植したもの、その場所に種子を播いて発芽・生長させたもの、など任意である。
【0024】
底質中に酸素ガスを供給する本発明方法を実施する場合、アマモが着生した若しくはアマモを着生させるべき水底に、底質中に酸素ガス又は分解して酸素ガスを発生させる物質を供給することができる供給手段を埋設配置した海草類着生基盤用の水底造成物が形成され、さらに好ましくは、前記供給手段を埋設配置した水底に、珪素含有物が敷設される。
前記供給手段としては、先に述べたようなガス放出孔を有するガス供給管や、液吐出孔を有する液供給管を用いることができ、これらを底質中に埋設配置する。
以上、本発明の詳細と好ましい実施形態をアマモを例に説明したが、他の海草類についても同様である。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
沿岸海域において、底質が還元的になった水底(水深約5m)にアマモを移植する試験を行った。各々1m×1mの広さの試験区A〜Cを、互いに1mずつ離れた場所に設け、各試験区を下記のような試験条件とした上で、アマモを40本ずつ移植した。
・試験区A:何も処置をせず、元からある底質にアマモを移植した。
・試験区B:アマモを移植する前に、試験区中央位置の底質中に複数のガス放出孔を有するガス供給管を埋設し、このガス供給管を通じて、アマモ移植の直後から底質中の溶存酸素量が1mg/L以上になるように底質中に空気を供給した。この空気供給はアマモを移植した後、2ヶ月間続けた。
・試験区C:試験区Bと同様の形態でガス供給管を埋設し、アマモ移植の直後から底質中の溶存酸素量が1mg/L以上になるように底質中に空気を供給した。この空気供給はアマモを移植した後、2ヶ月間続けた。また、アマモ移植部及びその周辺に幅20cm、深さ30cmで高炉水砕スラグを埋め込んだ。
【0026】
アマモを移植してから1ヶ月後、2ヶ月後及び3ヶ月後におけるアマモの生存・繁殖状態を調べた結果を表1に示す。
これによれば、底質中への酸素(空気)の供給によりアマモの生育・増殖が効果的に促進されることが判る。但し、酸素(空気)の供給だけを行った試験区Bでは、一定期間後(移植してから2ヶ月後)に酸素(空気)の供給を停止したため、3ヵ月後ではアマモの減少傾向が見られる。これに対して、珪素含有物である高炉水砕スラグを試験区内に埋設した試験区Cの場合には、一定期間後(移植してから2ヶ月後)に酸素(空気)の供給を停止しても、アマモの生育・繁殖は順調に進んでいる。
【0027】
【表1】

【0028】
[実施例2]
沿岸海域において、底質が還元的になった水底(水深約5m)にアマモを移植する試験を行った。各々1m×1mの広さの試験区A〜Cを、互いに1mずつ離れた場所に設け、各試験区を下記のような試験条件とした上で、アマモを40本ずつ移植した。
・試験区A:何も処置をせず、元からある底質にアマモを移植した。
・試験区B:アマモを移植する前に、試験区中央位置の底質中に複数の液吐出孔を有する液供給管を埋設し、この液供給管を通じて、アマモ移植の直後から底質中の溶存酸素量が1mg/L以上になるように底質中に過酸化水素の0.1%水溶液を供給した。この水溶液の供給はアマモを移植した後、2ヶ月間続けた。
・試験区C:試験区Bと同様の形態で液供給管を埋設し、アマモ移植の直後から底質中の溶存酸素量が1mg/L以上になるように底質中に過酸化水素の0.1%水溶液を供給した。この水溶液の供給はアマモを移植した後、2ヶ月間続けた。また、アマモ移植部及びその周辺に幅20cm、深さ30cmでシリカゲルを埋め込んだ。
【0029】
アマモを移植してから1ヶ月後、2ヶ月後及び3ヶ月後におけるアマモの生存・繁殖状態を調べた結果を表2に示す。
これによれば、底質中への過酸化水素水溶液の供給によりアマモの生育・増殖が効果的に促進されることが判る。但し、過酸化水素水溶液の供給だけを行った試験区Bでは、一定期間後(移植してから2ヶ月後)に過酸化水素水溶液の供給を停止したため、3ヵ月後ではアマモの減少傾向が見られる。これに対して、珪素含有物であるシリカゲルを試験区内に埋設した試験区Cの場合には、一定期間後(移植してから2ヶ月後)に過酸化水素水溶液の供給を停止しても、アマモの生育・繁殖は順調に進んでいる。
【0030】
【表2】

【0031】
[実施例3]
沿岸海域において、底質が還元的になった水底(水深約5m)にアマモを移植する試験を行った。各々1m×1mの広さの試験区A〜Cを、互いに1mずつ離れた場所に設け、各試験区を下記のような試験条件とした上で、アマモを40本ずつ移植した。
・試験区A:何も処置をせず、元からある底質にアマモを移植した。
・試験区B:アマモを移植する前に、ダイバーが潜って底質中の溶存酸素量が1mg/L以上になるように底質中に過酸化マグネシウムを混入させた。
・試験区C:試験区Bと同様の形態で底質中に過酸化マグネシウムを混入させた。また、アマモ移植部及びその周辺に幅20cm、深さ30cmで珪酸カルシウムを埋め込んだ。
アマモを移植してから1ヶ月後、2ヶ月後及び3ヶ月後におけるアマモの生存・繁殖状態を調べた結果を表3に示す。
これによれば、底質中に過酸化マグネシウムを供給した試験区Bでは、アマモの生育・増殖が効果的に促進されている。さらに、珪素含有物である珪酸カルシウムを試験区内に埋設した試験区Cの場合には、アマモの生育・繁殖はさらに順調に進んでいる。
【0032】
【表3】

【0033】
[実施例4]
海水の透明度の悪化によりアマモの数が減少しつつある、沿岸海域の天然アマモ場において、アマモを増殖する試験を行った。アマモ場内において各々1m×1mの広さの試験区A〜Cを、互いに1mずつ離れた場所に設け、各試験区を下記のような試験条件とした。
・試験区A:何も処置をせず。
・試験区B:1ヶ月に1度の割合で、過酸化マグネシウムを底質中の溶存酸素量が1mg/L以上になるように底質中に混入した。
・試験区C:1ヶ月に1度の割合で、過酸化マグネシウムを底質中の溶存酸素量が1mg/L以上になるように底質中に混入するとともに、高炉水砕スラグを底質面に50L撒いた。
試験を開始してから1ヶ月後、2ヶ月後及び3ヶ月後におけるアマモの生存・繁殖状態を調べた結果を表4に示す。
これによれば、底質中に過酸化マグネシウムを供給した試験区Bでは、アマモの生育・増殖が効果的に促進されている。さらに、珪素含有物である高炉水砕スラグを試験区内に埋設した試験区Cの場合には、アマモの生育・繁殖はさらに順調に進んでいる。
【0034】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
海草類が着生した若しくは海草類を着生させるべき水底において、下記(a)又は/及び(b)により底質に酸素を供給することを特徴とする海草類の着生基盤の改質又は造成方法。
(a) 底質中に酸素ガスを供給する。
(b) 底質上又は/及び底質中に、分解して酸素ガスを発生させる物質を供給する。
【請求項2】
さらに、底質上又は/及び底質中に珪素含有物を供給することを特徴とする請求項1に記載の海草類の着生基盤の改質又は造成方法。
【請求項3】
珪素含有物が高炉水砕スラグであることを特徴とする請求項2に記載の海草類の着生基盤の改質又は造成方法。
【請求項4】
高炉水砕スラグを海草類の着生基盤の少なくとも一部として水底に敷設することを特徴とする請求項3に記載の海草類の着生基盤の改質又は造成方法。
【請求項5】
水底に敷設される高炉水砕スラグに有機物を混合することを特徴とする請求項4に記載の海草類の着生基盤の改質又は造成方法。
【請求項6】
海草類が着生した若しくは海草類を着生させるべき水底に、底質中に酸素ガス又は分解して酸素ガスを発生させる物質を供給することができる供給手段を埋設配置したことを特徴とする海草類着生基盤用の水底造成物。
【請求項7】
供給手段を埋設配置した水底に、さらに、珪素含有物を敷設したことを特徴とする請求項6に記載の海草類の着生基盤用の水底造成物。