説明

浸水防止用人工地盤

【課題】洪水時に確実かつ迅速に浮体を浮かせ、洪水時以外の降雨時などに誤動作せず、一般住宅地でも建設が容易な浸水防止用人工地盤を提供する。
【解決手段】槽体15内に昇降可能な浮体13Aが配置され、この浮体13Aの上部に建物12が建造される。浮体13Aは発泡部材16を核としてその周囲をコンクリートなどの面材17で包囲して形成され、槽体の底部15bは浮体底面13cに対向する位置に1以上の深部18を備え、この底部は深部に向かって下る傾斜面であり、深部には排水口19が形成され、槽体内で水22を深部へ向かって流す流水路21が浮体と槽体との間に1以上形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸水防止用人工地盤に関し、さらに詳細には洪水時に建物への床下浸水や床上浸水の発生を防ぐ浸水防止用人工地盤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化や環境変化などにより単位時間における降水量が以前に比較して非常に多くなっていると考えられており、現実に、整備された河川などでも氾濫による水害の発生事例が見られるようになっている。水害による一般住民の直接的被害は、住宅の床下浸水や床上浸水である。とりわけ、床上浸水は家財道具の損壊に留まらず、住宅の流失や崩壊まで発展することから甚大な被害となる。
【0003】
特許文献1には、河川の氾濫などにより洪水が発生した場合、建物が出水面より高い位置に自動的に持ち上がるようにした浮体建築物が開示されている。特許文献1に開示されている浮体建築物は、台船型浮体の上面に建物を建造し、洪水や高潮が発生して出水したときに台船型浮体が浮き上がって建物を持ち上げ、該建物への浸水を防止するようにしたものである。
【0004】
特許文献1に記載された浮体建築物において、一般住宅を浸水被害から守るという観点から多少現実的であるといえる実施例は、プール型基礎(上部開放の容器)をその上部開放面と地面(GL)とがほぼ同位置になるように地中に設置し、このプール型基礎の内部に台船型浮体を垂直方向にのみ昇降可能に設置することで、洪水のときプール型基礎内に貯留した水により台船型浮体を浮遊させて建物を出水面より持ち上げる例である。
【特許文献1】実用新案登録第3110611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された考案において、台船型浮体は鉄鋼板により密閉中空状に形成されており、文字通り「台船」である。一般住宅が建築される地域でこのような鉄鋼板製の密閉中空体を建造することは現実には非常に難しく、また該密閉中空体それ自体の重量がかなり重くなることから一般住宅を持ち上げるだけの浮力を発生させるためには、かなり大きな容積を必要とする、という問題があった。ところで、日本国における年間の降雨状態を調べると、季節によっては、洪水までには至らないにしても台風や梅雨前線の影響でかなりの量の降雨がある(例えば、集中豪雨といわれる降雨など)。そのような場合、プール型基礎内に流れ込んで貯留する雨水は、数日間でかなりの量となり、洪水が発生してもいないのに台船型浮体が浮上してしまうことが考えられる。
【0006】
特許文献1には、そのような場合の対策としてプール型基礎の底部に深部を形成して雨水溜とし、該雨水溜に溜まった水を排水ポンプにより自動的に外部下水口に排水する実施例も記載されている。しかしながら、台風や発達した低気圧などの影響で、電力の供給に障害が発生し、送電が停止(停電)してしまった場合には、排水ポンプを運転することはできず、洪水でもないのにプール型基礎内に雨水が溜まって台船型浮体が浮き上がってしまう、という問題がある。
【0007】
以上のことから明らかなことは、建物を持ち上げて浸水被害から守る技術では、建物を支持する浮体が、一般住宅地でも容易に建設できること、洪水時にのみ確実かつ迅速に浮体の上昇が起こることが最小限必要であり、特に、洪水時以外には浮体の浮き上がりを起こさない、という動作信頼度は、この種の浮体建築物の実施にとって極めて重要である。
【0008】
この発明の目的は、かかる従来の問題点を解決するためになされたもので、洪水時にのみ確実かつ迅速に浮体を浮かせ、洪水時以外の降雨時に誤動作することがなく、しかも一般住宅地でも建設が容易な浸水防止用人工地盤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、浮力により昇降可能な浮体と、前記浮体が昇降するとき該浮体の横方向移動を規制するガイド手段と、前記浮体を納める上部開放の貯水可能な槽体とを備え、前記浮体の上部に建物を建造する浸水防止用人工地盤であり、前述した技術的課題を解決するために以下のように構成されている。すなわち、本発明の浸水防止用人工地盤の特徴は、前記浮体が、発泡部材の周囲を剛性のある面材で包囲して形成され、前記槽体が、前記浮体の底面に対向する底部に形成された少なくとも1つの深部を備え、該槽体の前記底部が外周側から前記深部に向かって水を流す下り傾斜面で形成されていると共に前記深部には排水口が形成され、前記浮体の前記底面と前記槽体の前記底部との間には、前記槽体内に進入した水が前記浮体の外周部から前記槽体の前記深部へ向かって流れる流水路が少なくとも1つ形成され、前記建物付近で洪水が発生したとき、前記槽体内に入り始めた水は、排水不能となった排水口から流出することなく前記槽体内に貯留し、前記浮体をその浮力により上昇させて前記建物を出水面より持ち上げることにある。
【0010】
本発明の浸水防止用人工地盤は、前述した必須の構成要素からなるが、その構成要素が具体的に以下のような場合であっても成立する。その具体的構成要素とは、前記浮体の前記底面が凹状に形成され、前記槽体内に貯留し始めた水が前記凹状の部分に入ることで空気溜まりとなり、該空気溜まりが前記浮体の自己浮力と相まって前記浮体に大きな浮力を発生させることである。
【0011】
また、本発明の浸水防止用人工地盤では、前記浮体の前記底面において前記槽体の前記深部に対向する位置に開口部を備え、該開口部が前記浮体の内部に形成された空気抜き通路を介して前記浮体の喫水より上部位置で大気に連通し、前記槽体内に入り始めた水が前記槽体の前記深部に向かって流れ込むとき、前記流水路内の空気を前記空気抜き通路を介して大気へ逃がし、前記深部への水の迅速な流れ込みを確保するようにしてもよい。
【0012】
さらに、本発明の浸水防止用人工地盤では、前記浮体の前記発泡部材を発泡スチロールブロックで形成することが好ましく、また、前記浮体の前記面材を前記発泡スチロールブロックの外周面を包囲するように配置されたコンクリート製被覆部材とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の浸水防止用人工地盤によると、浮体が、発泡部材の周囲を剛性のある面材で包囲して形成され、槽体が、浮体の底面に対向する底部に形成された少なくとも1つの深部を備え、該槽体の底部が外周側から前記深部に向かって水を流す下り傾斜面で形成されていると共にその深部には排水口が形成され、建物付近で洪水となったとき、槽体内に入り込む水は排水口からの排水が不能となった槽体に貯留し、浮体がその浮力により上昇して建物を出水面より持ち上げ、建物を浸水から守ることができる。このような浸水防止用人工地盤において、浮体は、一般住宅地でも形成が容易で、しかも浮力が大きく、一般的な住宅であればその浮力により十分に持ち上げることができる。また、槽体内に流れ込んだ雨水は、洪水時以外の通常時には排水口から流出することになるので如何なる量の雨が降っても下流側での排水処理能力以下であれば浮体が不用意に浮き上がることはない。
【0014】
ここで、「洪水」とは、河川が氾濫したりして地面が水没した状態が継続することであり、その時の水面の高さにより建物への浸水被害が発生する。このような洪水は、一般的には、下流側での排水処理能力を越えた量の水が上流側から流れ込むか、下流側での排水処理がまったく不能に陥るか、によって発生する。従って、槽体の底部に排水口を形成して、通常はこの排水口から排水するようにしていても、洪水という状態では、当然に排水口からの有効な排水が起こらないことを意味し、その結果、槽体内に水が充満し始めることになる。そのため、槽体の底部に排水口が形成されていても洪水時には槽体内に水が溜まり、浮体が上昇してその上の建物への浸水を防止する。
【0015】
また、本発明の浸水防止用人工地盤によると、浮体の底面を凹状に形成し、槽体に貯留し始めた水がこの凹状の部分に入ることで空気溜まりを形成し、該空気溜まりが浮体の自己浮力と相まって浮体に大きな浮力を発生させることから、浮体の容積の浮力を大きくでき、比較的に小さな浮体でもその上の建物を持ち上げることができる。
【0016】
さらに、本発明の浸水防止用人工地盤によると、浮体の底面における槽体の深部に対向する位置に開口部を形成し、この開口部を浮体の内部に形成された空気抜き通路により浮体の喫水より上部位置で大気に連通させたので、槽体内に入り始めた水が槽体の深部に向かって流れ込むとき、流水路内の空気を空気抜き通路を介して大気へ逃がすことができ、槽体の深部へ水を迅速に流れ込ませることができる。これにより、槽体内に水が急激に流れ込んでも水は浮体の底面下に大きな抵抗もなく進入し、洪水の発生とほぼ同時に浮体を浮かせ始めることができる。
【0017】
また、本発明の浸水防止用人工地盤では、浮体を構成している発泡部材を発泡スチロールブロックで形成すると、発泡スチロールブロックが非常に軽量であるため浮体の製造作業が容易で、施工時間も掛からず、建造コストを安価にできる。また、発泡スチロールブロックの外周面を包囲するコンクリート製被覆部材を面材とすることにより、該浮体の上部への建物の建造が非常に容易となり、しかもこのような浮体をヤードや工場などで製造しても施工現場までの搬送が非常に容易であるなど、極めて実用的な浮体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の浸水防止用人工地盤を添付の図に示された好適な実施形態についてさらに説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る浸水防止用人工地盤を概略的に示す縦断面図、図2は、図1の浸水防止用人工地盤における浮体を概略的に示す上面図、図3は、図2に示す浮体の斜視図である。この浸水防止用人工地盤10は、浮力により昇降可能な浮体13Aと、この浮体13Aが昇降するとき該浮体13Aの横方向移動を規制するガイド手段14と、浮体13Aを納める上部開放の貯水可能な槽体15Aとを備え、建物12は浮体13Aの上部に建造されている。
【0019】
浮体13Aは、発泡部材16を核としてその周囲を剛性のある面材17で包囲して形成されている。面材17は、コンクリート、モルタル、或いは鉄板などから構成することができる。しかし、発泡部材16の上面側を覆っている面材17、即ち浮体13Aの上面13a側における面材部分17aは、該面材部分17a上に建物12の基礎部12aを形成するのでコンクリートで形成することが好ましい。浮体13Aの上面13aは、その上に建物12を建造することから建物12の床面積より広い面積を持ち、また浮体13Aは、その核である発泡部材16が建物12と浮体13A自体を持ち上げ可能な浮力を発生させるほどの容積となるように設計されている。
【0020】
他方、槽体15Aは、その内部に浮体13Aを収納して該槽体15A内に流れ込んだ水により浮かせる上部開放の囲い容器であり、その内周部と底部とは貯水可能なようにコンクリートで形成されている。この槽体15Aの内周部は、浮体13Aの外側面13bに対向する内側壁15aで形成されている。そのため、浮体13Aの平面形状が図2に示されるように四角形状であれば、槽体15A内の平面形状も四角形である。図2では、建物12の図示が省略され、建物12の基礎部分12aのみが二点鎖線で示されている。槽体15Aの底部15bは、1つの深部18を備え、該槽体15Aの底部15bは内側壁15a側から深部18に向かって水を流す下り傾斜面で形成されている。深部18には排水口19が形成され、該排水口19は排水管20により下水施設或いは河川などに排水可能に接続されている。深部18は、図2に示されるように槽体15Aにおける底部15bの中央部に形成されているが、深部18の形成位置は底部15bの中央部に限定されるものではなく、また深部18を2つ以上形成してもよい。
【0021】
図1に示される浸水防止用人工地盤10では、浮体13Aの底面13cが、槽体15Aの底部15bに対応した形状で形成されているので、浮体13Aが槽体15A内において非浮遊状態にあるときにはその底面13cが槽体15Aの底部15bにほぼ密着している。そのため、槽体15A内に水が流れ込んだとき、その水を浮体13Aの底面13c下に導くため槽体15Aの底部15bと浮体13Aの底面13cとの間には、槽体15Aの内側壁15a側から深部18へ向かって流れる流水路21が少なくとも1つ形成されている。この流水路21は、槽体15Aの内側壁15a側から深部18へ延びるように形成した直線状の溝部であり、この溝部は図1に示されるように槽体15Aの底部15bに形成されるか、或いは浮体13Aの外側面15b下端から槽体15Aの深部18直上の底面部位へ延びるように該浮体13Aの底面13cを構成している面材17に形成されていてもよい。
【0022】
槽体15A内に配置された浮体13Aが槽体15A内に溜まる水により浮き上がるとき、該浮体13Aの横方向移動を規制するガイド手段14は、浮体13Aを上下方向に貫通するパイプ14aとこのパイプ14aに摺動可能かつ緊密に嵌合されたロッド14bとから構成されている。パイプ14aの両端は、それぞれ浮体13Aの上面13aおよび底面13c、即ち面材17の表面と同位置にあり、該面材17としっかりと連結されている。このような連結を容易にする上から、パイプ14aと面材17とを同じ材料で形成することが好ましい。すなわち、面材17aをコンクリートで形成した場合には、パイプ14aもコンクリートで形成され、面材17aを鉄板で形成した場合には、パイプ14aも鉄板で形成される。
【0023】
ロッド14bは、コンクリート製でも鉄製でもよく、いずれの場合であっても下端は槽体15Aの底部15bに固定されている。槽体15Aがコンクリート製である場合には、ロッド14bもコンクリート製とすれば槽体15Aとロッド14bとを一体に形成することができ、施工が容易である。このようなガイド手段14は、図2から明らかなように平面で見て四角形の浮体13Aの四隅に設けられている。このガイド手段14は、浮体13Aが槽体15A内で浮き上がるときに横方向への平行移動を規制するだけでなく、浮体13Aの傾斜を防止する。「浮体13Aの傾斜を防止する」とは、例えば、図1の縦断面図で見て浮体13に掛かる建物12の荷重分布が左右いずれかに偏っている場合、浮体13Aは大きな荷重が掛かる側に沈み込む傾向が出るので、これを防止する意味である。すなわち、浮体13Aに浮力が発生するとき、垂直上方へのみ平行移動する。そのために、ガイド手段14は間隔をあけた位置に少なくとも2つは必要であり、好ましくは相互に間隔をあけた位置に3つ以上設けることがよい。
【0024】
この浸水防止用人工地盤10によると、河川の氾濫などが起こらない日常の雨量である場合は、槽体15A内に流れ込んだ水は流水路21を通って深部18に流れ、排水口19から排水管20を介して下流側の排水設備に流れ出るので水が槽体15Aに溜まることはなく、従って浮体13Aが浮き上がることもない。しかし、河川の氾濫や集中豪雨などにより下流側の排水処理能力を超える量の水が建物12の付近に流れ込んできて、いわゆる洪水となった場合、槽体15A内に流れ込む水22は、排水口19から排水不能となる。
【0025】
すなわち、本来、建物12付近で洪水が起こるということは、下流側での排水処理能力を超える量の水22が建物12付近に流れてくることである。そのため、槽体15A内に流れ込んだ水22が、排水口19から排水管20を通って下流に流れようとしても、下流側では既に排水処理能力を超えているので排水不能となって次第に槽体15A内に溜まって行く。
【0026】
その後、槽体15A内の貯水量が、浮体13Aの喫水を越えると、浮体13Aに浮力が発生し、図4に示されるように槽体15A内において上昇しその上の建物12を持ち上げる。その際、浮体13Aは、ガイド手段14を構成しているロッド14bが浮体13Aに取り付けられたパイプ14a内を相対的に摺動するので正確に垂直方向へのみ上昇することになり、しかも建物12による浮体13Aへの荷重が偏っていても浮体13Aが傾いてしまうこともない。これにより、人工地盤10を構成している浮体13Aの上に建造された建物12への浸水を防止することが可能となる。
【0027】
下流側排水処理能力の回復、天候の回復、或いは河川などからの出水の終息などにより建物12の付近に流れ込む水22の量が下流側の排水処理能力を下回ると、槽体15A内の排水が進んで次第に水位が低下し、これに伴って浮体13Aも次第に下降し始め、最終的には浮体13Aの底面13cが槽体15Aの底部15bに当接して元の状態に復帰する。
【0028】
なお、建物12内に引き込まれているライフライン、即ちガス管、水道管、および下水管などについては、建物12の最大上昇高さを見込んで、それに対応した十分な余裕部分を持った蛇腹ホースやゴムホースなどの可撓性ホースにより地中に埋設された本管部分と屋内側配管とが接続されている。また、電線についても、電柱から屋内に引き込まれる引き込み線部分に十分な余裕部分を設けることにより建物の昇降に対応することができる。その結果、建物12が浮体13Aにより上がり下がりしても、ライフラインに障害が出ることはない。
【0029】
図5は、この発明の他の実施形態に係る浸水防止用人工地盤を示す図4と同様な縦断面図である。図5に示される浸水防止用人工地盤10は、図1に示される浸水防止用人工地盤10の浮体13Aと相違した浮体13Bを備えている。この浮体13Bでは、槽体15Aの底部15bにおける深部18の上方に位置する浮体13Bの底面13cが、半球状の凹状(以下、凹部13dという)に形成されている。この浮体13Bでは、その底面13cが凹状に形成されていること以外は、図1に示される浮体13Aと同様に構成されている。
【0030】
この凹部13dは、図5に示されるように槽体15Aに貯留し始めた水がこの凹部13dに入ると該凹部13dに残った空気が溜まって空気溜まり23となり、該空気溜まり23が浮体13Bの自己浮力と相まって浮体13Bを上昇させる力を発生させる。したがって、このような浮体13Bを用いることにより重量のある建物12を上昇させることができる。
【0031】
図6は、この発明の他の実施形態に係る浸水防止用人工地盤を示す図1と同様な縦断面図である。図6に示される浸水防止用人工地盤10は、図1に示される浸水防止用人工地盤10の浮体13Aと相違した浮体13Cを備えている。この浮体13Cは、槽体15Aの深部18に対向する位置に開口部13eを備え、該開口部13eが浮体13Cの内部に形成された空気抜き通路13fを介して浮体13Cの喫水より上部位置で大気に連通している。これにより、槽体15A内に比較的に大量の水が入り始め、その水が槽体15Aの深部18に向かって急激に流れ込むとき、流水路21内の空気を空気抜き通路13fを介して大気へ逃がし、深部18への水の迅速な流れ込みを確保することができる。この浮体13Cでも、開口部13eや空気抜き通路13fを備えること以外は、図1に示される浮体13Aと同様に構成されている。
【0032】
図7は、この発明の他の実施形態に係る浸水防止用人工地盤の浮体13Dを示す図2と同様な平面図である。図7に示される浮体13Dは、平面的に見たときの中央部に該浮体13Dを縦方向に貫通する開口域13gが設けられている。浮体13Dは、その上部に建造される建物12を浮力により持ち上げることができればよいので、浮体13Cの縦方向寸法を大きくとるか、或いは面積を大きくするなどして建物12の重量に見合った容積を確保して浮力を得るようにすれば、かかる浮体13Dでも実施可能である。このような浮体13Dを利用すると、例えば、屋内側下水配管に接続された蛇腹ホースなどの可撓性ホース(図示せず)を浮体13Dの開口域13gを通して地中の下水本管部分に接続することができる。この浮体13Dでも、開口域13gを備えること以外は、図1に示される浮体13Aと同様に構成されている。
【0033】
なお、図1に示される実施形態における槽体15Aでは、浮体13Dの底面13cに対向する位置に1つの深部18が形成され、その深部18に排水口19が形成されていた。しかし、図7に示される浮体13Dを用いる場合には、図1に示される槽体15Aとは異なる槽体15Bが用いられる。すなわち、図7に示される浮体13Dは平面的に見て矩形の環状を呈しているので、浮体13Dを構成する各片部分の直下に深部18が形成されている。図7には、槽体15Bの底部15bに4つの排水口19が点線で示されており、これら排水口19の形成位置が槽体15Bにおける底部15cの深部18である。
【0034】
図8は、この発明のさらに別の実施形態に係る浸水防止用人工地盤の槽体15Cを示す部分的な縦断面図である。図8に示される槽体15Cでは、その内側壁15aに凹所15cが形成され、その凹所15c内に水位センサー24が設置されている。槽体底部15bからの水位センサー24の設置高さは、浮体13A,13B,13Cの喫水より低い位置であることが好ましい。水位センサー24を設置する意義は次の通りである。もし、槽体15Cの底部15bにおける排水口19やそれに接続された排水管20(図1,図4〜図6を参照)がゴミなどにより詰まって排水不能となっていたりした場合には、洪水でもないのに槽体15C内に雨水などが溜まり、浮体13A,13B,13Cが浮き上がってしまうことになる。
【0035】
しかし、浮体13A,13B,13Cの喫水位置より下方に水位センサー24が設けられていれば、浮体13A,13B,13Cに浮力が発生する前に水位センサー24が槽体15C内に水が溜まってきたことを検知できる。この水位センサー24は無線や有線で建物12内に設置された警報表示器(図示せず)に電気的に接続されている。これにより、建物12に居住する人が警報表示器(警報音や警報ランプ)で槽体15C内に水が溜まってきたことを知ることができ、周囲の天候状態や河川などの増水情報などを参考にして槽体15C内への貯水が正常な事態か否かを判断できる。そして、槽体15C内への貯水が正常な事態ではないと考えられる場合には、電動ポンプ(図示せず)などを用いて直ちに槽体15B内の水を排出して浮体13A,13B,13Cの不測の浮き上がりを未然に防止することができる。
【0036】
また、図8に示されるように槽体15Cにおける上方開放部の内側壁上端の一部もしくは大部分を、面取りするように内方に下り傾斜する斜面15dとし、その直上、即ち槽体15Cの周縁部上端をグレーチング25で蓋をしておくことにより、建物12の周囲に流れ込む水を槽体15C内に迅速に導入することもできる。
【0037】
浮体13A,13B,13Cにおける発泡部材16は、合成樹脂からなる発泡スチロールブロックを使用することができる。発泡スチロールの浮力は、900Kg/mを持ち上げることが可能であるので、一般的な住宅を浮力により持ち上げることのできる容積の浮体13A,13B,13Cを敷地面積の範囲内に建設した槽体15A,15B,15C内に収納することは容易である。しかし、本発明の浸水防止用人工地盤10は、浮体13A,13B,13Cの発泡部材16を発泡スチロールブロックで形成することに限定されるものではなく、大きな浮力を発揮しかつ圧縮荷重に対して大きな抵抗力を有する材料であれば他のいかなる材料を用いても実施可能である。
【0038】
また、図9に示されるように浮体13A,13B,13Cを複数の独立したブロック130に分割して形成し、それらを施工現場で相互に連結して一体化してもよい。その際、各ブロック130において組み立て時に相互に当接する面には面材を形成せず、これら各ブロック130を相互に連結するときに当接部の面材どうしを接続するようにしてもよい。
【0039】
すなわち、例えば、面材17がコンクリート製であるならば、各ブロック130の当接部で面材17どうしを同じコンクリートで接続し、或いは面材17が鉄板で構成されていれば当接部で面材17どうしを溶接して接続する。もちろん、各ブロック130において組み立て時に相互に当接する面にも面材を形成しておき、これら各ブロック130を相互に連結するときに継ぎ手(例えば、ボルト止め)などの手段を用いて接続してもよい。
【0040】
このように複数の独立したブロック130を連結して構成される浮体13Eによれば、各ブロック130の運搬が極めて容易となるので、各ブロック130を予め工場やヤードで形成し、それらを施工現場に運搬して組み立てることができ、浮体13Eの施工が非常に容易となって、この種の浸水防止用人工地盤の建造に要する施工期間の短縮化やコストの低減化を図ることができる。
【0041】
また、本発明の浸水防止用人工地盤では、それ自体が優れた浮力性能を有すると共に一般住宅などの建物を支持可能な圧縮強度も備えている発泡スチロールブロックの周囲を剛性のある面材により覆って浮体を形成しているので、浮体を製造する際や、その後の運搬及び施工などにおいて該浮体の取り扱いが極めて容易である。
【0042】
さらに、建物を新築する際に該建物を水害から守るために地盤を本発明の浸水防止用人工地盤にすることはもちろんのこと、ゼロメートル地帯と言われている海抜より低い低地帯に既に建築されている建物をジャッキなどで持ち上げておき、その下の地盤を本発明の浸水防止用人工地盤に改良することで実質的に嵩上げ基礎とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係る浸水防止用人工地盤を概略的に示す縦断面図である。
【図2】図1の2−2線で切断して槽体と該槽体内に収納された浮体を上方から見た平面図である。
【図3】図1に示される実施形態の浸水防止用人工地盤における浮体を示す斜視図である。
【図4】図1に示される実施形態の浸水防止用人工地盤において洪水の発生により浮体が浮力により上昇し、建物が持ち上げられた状態を示す図1と同様な縦断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る浸水防止用人工地盤を概略的に示す縦断面図である。
【図6】本発明のさらに他の実施形態に係る浸水防止用人工地盤を概略的に示す縦断面図である。
【図7】本発明のさらに他の実施形態に係る浸水防止用人工地盤における浮体を概略的に示す図2と同様な平面図である。
【図8】本発明のさらに他の実施形態に係る浸水防止用人工地盤における槽体を部分的に示す概略的な縦断面図である。
【図9】本発明のさらに別な実施形態に係る浸水防止用人工地盤における浮体を概略的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
10 浸水防止用人工地盤
12 建物
12a 基礎部
13A,13B,13C,13D,13E 浮体
13a 上面
13b 外側面
13c 底面
13d 凹部
13e 開口部
13f 空気抜き通路
14 ガイド手段
14a パイプ
14b ロッド
15A,15B,15C 槽体
15a 内側壁
15b 底部
16 発泡部材
17 面材
18 深部
19 排水口
20 排水管
21 流水路
22 水
23 空気溜まり
24 水位センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮力により昇降可能な浮体と、前記浮体が昇降するとき該浮体の横方向移動を規制するガイド手段と、前記浮体を納める上部開放の貯水可能な槽体とを備え、前記浮体の上部に建物を建造する浸水防止用人工地盤において、
前記浮体が、発泡部材の周囲を剛性のある面材で包囲して形成され、
前記槽体が、前記浮体の底面に対向する底部に形成された少なくとも1つの深部を備え、該槽体の前記底部が外周側から前記深部に向かって水を流す下り傾斜面で形成されていると共に前記深部には排水口が形成され、
前記浮体の前記底面と前記槽体の前記底部との間には、前記槽体内に進入した水が前記浮体の外周部から前記槽体の前記深部へ向かって流れる流水路が少なくとも1つ形成され、
前記建物付近で洪水が発生したとき、前記槽体内に入り始めた水は、排水不能となった前記排水口から流出することなく前記槽体内に貯留し、前記浮体をその浮力により上昇させて前記建物を出水面より持ち上げることを特徴とする前記浸水防止用人工地盤。
【請求項2】
前記浮体の前記底面が凹状に形成され、前記槽体内に貯留し始めた水が前記凹状の部分に入ることで空気溜まりとなり、該空気溜まりが前記浮体の自己浮力と相まって前記浮体に大きな浮力を発生させる請求項1に記載の浸水防止用人工地盤。
【請求項3】
前記浮体の前記底面には、前記槽体の前記深部に対向する位置に開口部が形成され、該開口部が前記浮体の内部に形成された空気抜き通路を介して前記浮体の喫水より上部位置で大気に連通し、
前記槽体内に入り始めた水が前記槽体の前記深部に向かって流れ込むとき、前記流水路内の空気を前記空気抜き通路を介して大気へ逃がし、前記深部への水の迅速な流れ込みを確保する請求項1に記載の浸水防止用人工地盤。
【請求項4】
前記浮体の前記発泡部材が、発泡スチロールブロックである請求項1〜3のいずれかに記載の浸水防止用人工地盤。
【請求項5】
前記浮体の前記面材が、前記発泡スチロールブロックの外周面を包囲するように配置されたコンクリート製被覆部材である請求項4に記載の浸水防止用人工地盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−120012(P2007−120012A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309600(P2005−309600)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(500506574)
【Fターム(参考)】