説明

浸透印の製造方法

【課題】 本発明は、待機電力が全く不要であり、かつ、温度管理も容易な凹凸発熱ゴム体、及び、その凹凸発熱ゴム体を用いた浸透印の製造方法を提供するものである。
【解決手段】 連続気泡を有する熱可塑性樹脂製多孔質材に、凹凸発熱ゴム体を接触させた後、前記凹凸発熱ゴム体に通電して発熱させ、前記多孔質材の接触部分を溶融固化させて非多孔質保護被膜とし、その残余部分をインキの透過を許容する印字部としたことを特徴とする浸透印の製造方法。また、前記凹凸発熱ゴム体が、カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレンから選択されるカーボン系導電体を耐熱性ゴムに分散させ、前記カーボン系導電体分散耐熱性ゴムに電極を設けてなる凹凸発熱ゴム体であることを特徴とする浸透印の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続気泡を有する多孔質印材を使用する浸透印の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質の熱可塑性樹脂体を印材とし、当該多孔質印材の表面をインキが滲み出し不能な非多孔質保護被膜と印字部となるインキが滲み出し可能な残余部分とをもって印面を形成するスタンプは広く知られており、その印面作成方法としては、特開昭50−155323号や特開昭60−193686号のように金型を用いる方法、実開平6−45753号や特開平7−251558号のようにサーマルヘッドプリンターによる方法、特開昭50−031908号や特開平8−72376号のように赤外線照射熱を利用する方法、など様々な方法が知られている。
前記熱可塑性樹脂多孔質体の非印字部分を非多孔質保護被膜とするには、多孔質体の所要部分を熱可塑性樹脂の融点を上回る温度で一定時間加熱し、溶融した熱可塑性樹脂が冷却固化して非多孔質体となって形成される。その際、必要以上に多孔質体が溶融すると輪郭がぼけてしまい鮮明な印影を得ることができない。ひどい場合は印字体部分が痩せてしまって、非常に不適なスタンプが出来てしまうことがある。そこで、加熱体の温度と過熱時間の制御は重要な課題となっていた。
特開昭50−155323号や特開昭60−193686号は、熱可塑性樹脂多孔質体に凹凸状に彫刻を施した金型を加熱して押し当て、印面を作成したものであるが、あらかじめ金型を適正温度に予備過熱しておく必要があり、かつ、適正温度に到達安定するまで少なくとも数十分程度かかっていた。また、連続してスタンプを製造する際は、適正温度を保持するためのセンサー装置も必要であり、装置全体が大きく高価なものとなっていた。このように金型を用いるスタンプの製造機器は、温度管理が困難であって、かつ、多量の待機電力が必要であり環境負荷が大きかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭50−155323号公報
【特許文献2】特開昭60−193686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、待機電力が全く不要であり、かつ、温度管理も容易な凹凸発熱ゴム体、及び、その凹凸発熱ゴム体を用いた浸透印の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
連続気泡を有する熱可塑性樹脂製多孔質材に、凹凸発熱ゴム体を接触させた後、前記凹凸発熱ゴム体に通電して発熱させ、前記多孔質材の接触部分を溶融固化させて非多孔質保護被膜とし、その残余部分をインキの透過を許容する印字部としたことを特徴とする浸透印の製造方法。また、前記凹凸発熱ゴム体が、カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレンから選択されるカーボン系導電体を耐熱性ゴムに分散させ、前記カーボン系導電体分散耐熱性ゴムに電極を設けてなる凹凸発熱ゴム体であることを特徴とする浸透印の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
カーボン系導電体を分散させた耐熱性ゴムからなる凹凸発熱ゴム体は、薄く加工することが容易なので成形性に優れ、また、薄く成形しても強度を高く保ち、耐久性にも優れている。また、体積抵抗値が低く熱効率が非常に良いので、少ない電力で必要な温度まで発熱させることができ、電池などを電源としたハンディタイプのスタンプ様とすることが可能である。
そして、本発明の凹凸発熱ゴム体は、常温の状態で熱可塑性樹脂からなる多孔質材に接触させた後に通電して必要温度まで発熱させるため、加熱金型の様に温度管理に慎重になる必要がなく、また、瞬時に加熱・冷却するので、浸透印を連続して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の説明図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の浸透印の製造方法を詳細に説明する。
はじめに、熱可塑性樹脂を素材とする連続気泡を有する多孔質からなる印材に、後述する凹凸発熱ゴム体を接触させた後(実際は発熱ゴム体の凸部分のみが接触する)、凹凸発熱ゴム体に通電して熱可塑性樹脂の融点まで発熱させる。
つぎに、このまま通電したまま数秒ホールドし、通電を停止する。
そうすると、多孔質材と発熱ゴム体の凸部分が接触する部分が、溶融固化して多孔質を潰して非多孔質保護被膜となる。また、多孔質材と接触しない部分(発熱ゴム体の凹部分)が多孔質のまま残り、残余部分としてインキの透過を許容する印字部となる。
本発明では、加熱金型のように予め熱可塑性樹脂の融点まで温度を上げておく必要がなく、また、温度を上げすぎて多孔質材を必要以上に溶融してしまうこともない。
【0009】
次に、凹凸発熱ゴム体を説明する。
本発明の凹凸発熱ゴム体は、導電体を耐熱性ゴムに分散させた導電体分散耐熱性ゴムに電極を設けてなるものである。特に、前記導電体としては、カーボン・カーボンナノチューブ・カーボンナノホーン・フラーレンを用いることを特徴とする。耐熱性ゴムとしては、シリコーンゴム、フッ素ゴム、水添加ニトリルゴム、EPM、EPDMなどが用いられる。
本発明の発熱ゴム体は凹凸状に作成される。こうすることで、多孔質材と接触する部分は凸部分に限られ、非多孔質保護被膜を選択的に作成することができる。
また、前記導電体分散耐熱性ゴムの下層に導電体を含有しない耐熱性ゴムのみからなるゴムを配して一体化するとクッション材と機能するので特に好ましい。
【0010】
以下、凹凸発熱ゴム体の作成方法について説明する。
本発明の凹凸発熱ゴム体は、未架橋耐熱性ゴム、導電体、架橋剤、その他必要に応じて添加剤を加え、均一に分散した混合物を架橋させて製造される。
ここで、本発明に使用できる未架橋耐熱性ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、水添加ニトリルゴム、EPM、EPDMが用いられ、東芝シリコーン(株)社製TSE221−5U・TSE221−6U・TSE2122−6U・TSE270−6U・TSE260−5U・TSE261−5U・TSE2323−5U等や、信越化学工業(株)社製KE941−U・KE951−U・KE9611−U・KE765−U・KE540−U・KE552−U等や、東レダウコーニングシリコーン(株)社製SH745U・SH35U・SH52U・SH841U・SH851U・SH852U・SE1120U・SE1602U・SE4706U等を例示することができる。
導電体としては、特にカーボン系導電体が用いられ、粒径0.01〜0.3μmのカーボン、直径0.4〜35nmのカーボンナノチューブ、直径0.4〜35nmのカーボンナノホーン、直径0.4〜35nmのフラーレンなどが好ましく用いられる。当該カーボン系導電体は、前記耐熱性ゴム100重量部に対して、20〜80重量部の割合(20〜80phr)で配合される。配合量が少なすぎると十分に発熱しないし、配合量が多すぎると割れたり脆くなったり柔軟性が無くなったり物性が劣るので好ましくない。
架橋剤は、公知のパーオキサイドが使用でき、例えばベンゾイルパーオキサイド、2,4ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、2,5ジメチル2,5ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ターシャリーブチルクミルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーベンゾエートなどを用いることができ、前記前記耐熱性ゴム100重量部に対して、1〜5重量部程度(1〜5phr)配合できる。
【0011】
本発明の発熱ゴム体は、未架橋耐熱性ゴム、導電体、架橋剤、その他必要に応じて添加剤を加え、これを均一に分散した混合物をシート状に成形して、凹状の文字等を彫った金型に充填して、一定の圧力下で加熱して架橋させて得る方法が一般的である。または、未架橋耐熱性ゴム、導電体、架橋剤、その他必要に応じて添加剤を加え、これを均一に分散した混合物をシート状に成形し、一定の圧力下で加熱して架橋させた後、彫刻機やレーザ加工機などで文字等を彫刻してもよい。架橋時の圧力は100〜200kg/cm2、温度は150〜200℃、加熱時間は5〜20分が適当である。厚みは、0.1〜5.0mmにすることができるが、成形性、耐久性、導電性といった特性を最も発揮できる範囲として、1.0〜1.5mm程度が好ましい。
また、前記導電体分散耐熱性ゴムには電極を取り付けて一体化し、凹凸発熱ゴム体とする。電極は、導電性のものであれば何でもよいが、特に導電率の高い銅が好ましく用いられる。また、接触抵抗を下げるために発熱印字体との接地面積を大きくすることが好ましい。発熱印字体と電極は、クリップ等による挟着、導電性接着剤等による接着、発熱印字体への電極の埋め込み、電極の蒸着などの方法により取り付けられる。
クッション材として前記導電体分散耐熱性ゴムの下層に耐熱性ゴムのみからなるゴムを配して一体化することもできる。クッション材は、絶縁性、断熱性、耐熱性のある材質のものが用いられる。特に、ガラス、セラミックス、フッ素ゴム、シリコーンゴム、EPDM等が好ましく用いられる。また、ガラス繊維、アラミド繊維等からなる耐熱布も用いることができ、使用温度が100℃前後、使用時間が30〜60秒/回程度ならば綿布でも実用上問題なく使用できる。クッション材は導電性発熱ゴム体の強度を補って、耐屈曲性・耐久性を向上させることができ、バッククッション効果が生じるので、押印性向上に寄与するものとなる。発熱ゴム体とクッション材は、接着剤等による接着による方法、クリップ等による挟着による方法などの方法で一体化することにより得られる。また、発熱ゴム体と同時に架橋(又は加硫)成形すれば、直接一体不可分となったものを得ることができる。また、発熱ゴム体とクッション材の間に電極を挟み込んで同時に加圧加熱すれば、一度に三者を一体化することもできる。
【0012】
熱可塑性樹脂を素材とする連続気泡を有する多孔質からなる印材に、前記凹凸発熱ゴム体を接触させた後、凹凸発熱ゴム体に通電して熱可塑性樹脂の融点の約80℃まで発熱させる。つぎに、このまま通電したまま2〜3秒ホールドした後、通電を停止する。
凹凸発熱ゴム体を印材から離すと、発熱ゴム体の凸部分が接触する部分の印材が、溶融固化して多孔質を潰して非多孔質保護被膜となっていた。また、多孔質材と接触しない発熱ゴム体の凹部分は多孔質のまま残っていた。
このようにして非多孔質保護被膜と多孔質残余部分とで形成された印面をもつ印材にインキを含浸させたところ、鮮明な輪郭を有する浸透印を作成することができた。
本発明では、加熱金型のように予め熱可塑性樹脂の融点まで温度を上げておく必要がないし、また、温度を上げすぎて多孔質材を必要以上に溶融してしまうこともなかった。
【符号の説明】
【0013】
1 印材
2 凹凸発熱ゴム体
3 クッション材
4 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続気泡を有する熱可塑性樹脂製多孔質材に、凹凸発熱ゴム体を接触させた後、前記凹凸発熱ゴム体に通電して発熱させ、前記多孔質材の接触部分を溶融固化させて非多孔質保護被膜とし、その残余部分をインキの透過を許容する印字部としたことを特徴とする浸透印の製造方法。
【請求項2】
前記凹凸発熱ゴム体が、カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレンから選択されるカーボン系導電体を耐熱性ゴムに分散させ、前記カーボン系導電体分散耐熱性ゴムに電極を設けてなる凹凸発熱ゴム体であることを特徴とする請求項1に記載の浸透印の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−228409(P2010−228409A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81004(P2009−81004)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(390017891)シヤチハタ株式会社 (162)